説明

車両の障害物検知装置

【課題】急なカーブで障害物検知手段(レーダ装置)が対向車Qをいきなり検知したときであっても、その対向車Qの進行方向を正確に推定して、自車両Wの対向車Qへの衝突可能性を正確に予知する。
【解決手段】対向車Qについて検出された複数(A点〜E点)の相対位置(対向車Qの自車両Wに対する相対位置)に基づいて、該対向車Qの前面が自車両Wに対して向いている方向を推定し、この推定された対向車前面の向きに基づいて、該対向車の進行方向を推定し、自車両Wの進行路と、上記推定された対向車の進行方向と、該対向車について検出された相対位置及び相対速度ベクトルの大きさとに基づいて、自車両Wの該対向車Qへの衝突の可能性を予知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両前方の障害物を検知するレーダ装置等の障害物検知手段を備えた車両の障害物検知装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーダ装置を用いて自車両前方の障害物を検知するようにした障害物検知装置はよく知られている。この種の障害物検知装置の中には、自車両のヨーレートを検出するヨーレート検出センサや、自車両のステアリングホイールの操舵角を検出する舵角センサ等の検出値に基づいて自車両の旋回半径を検出して、この検出された旋回半径に基づいて進行路(進行路中心線の曲率半径)を推定するものがある(例えば、特許文献1、2参照)。そして、上記検知した障害物が、上記推定された進行路上に位置して、自車両の該障害物への衝突の可能性が高いと予知されるときには、自車両のブレーキや警報装置等の作動機器を作動させるようにしている。
【特許文献1】特開平7−215147号公報
【特許文献2】特開平8−161697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記障害物が対向車である場合には、その対向車が或る瞬間に上記推定された進行路上に位置していても、自車両を避ける方向に移動する可能性が高いため、対向車の進行方向を考慮しないと、自車両の対向車への衝突の可能性を正確に予知することは困難である。
【0004】
そこで、対向車の進行方向を、該対向車について現時点までに検出されてきた相対速度ベクトルの向きの変化から推定するようにすることが考えられる。しかし、自車両及び対向車が直線路又は緩やかなカーブを走行している場合には、対向車を、自車両から比較的離れた地点から検知し続けることで、相対速度ベクトルの向きの変化が分かるが、自車両及び対向車が、曲率半径が小さい急なカーブを走行している場合には、対向車を自車両の近くでいきなり検知するために、現時点での相対速度ベクトルしか分からず、対向車の進行方向を正確に推定することができないという問題がある。このような場合、自車両の対向車への衝突可能性を誤って予知して、自車両のブレーキや警報装置等を不必要に作動させてしまう。
【0005】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、急なカーブで障害物検知手段が対向車をいきなり検知したときであっても、その対向車の進行方向を正確に推定して、自車両の対向車への衝突可能性を正確に予知しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明では、対向車について検出された複数の相対位置(対向車の自車両に対する相対位置)に基づいて、該対向車前面が自車両に対して向いている方向を推定し、この推定された対向車前面の向きに基づいて、該対向車の進行方向を推定し、自車両の進行路と、上記推定された対向車の進行方向と、該対向車について検出された相対位置及び相対速度ベクトルの大きさとに基づいて、自車両の該対向車への衝突の可能性を予知するようにした。
【0007】
具体的には、請求項1の発明では、自車両前方の障害物を検知して、該障害物の自車両に対する相対位置及び相対速度ベクトルを検出する障害物検知手段と、該障害物検知手段からの障害物検知情報を受けて自車両の作動機器を制御する作動機器制御手段とを備えた車両の障害物検知装置を対象とする。
【0008】
そして、自車両の進行路を推定する進行路推定手段と、上記障害物検知手段により検知された障害物が、自車両の側に向かって走行する対向車であるか否かを判定する対向車判定手段と、上記対向車判定手段により上記障害物が対向車であると判定された場合に、該対向車について検出された複数の上記相対位置に基づいて、該対向車前面が自車両に対して向いている方向を推定する対向車向き推定手段と、上記対向車向き推定手段により推定された対向車前面の向きに基づいて、該対向車の進行方向を推定する進行方向推定手段とを備え、上記作動機器制御手段は、上記対向車判定手段により上記障害物が対向車であると判定された場合に、上記進行路推定手段により推定された自車両の進行路と、上記進行方向推定手段により推定された上記対向車の進行方向と、該対向車について検出された上記相対位置及び相対速度ベクトルの大きさとに基づいて、自車両の該対向車への衝突の可能性を予知する衝突予知手段を有していて、該衝突予知手段による上記衝突可能性の予知結果に基づいて上記作動機器を制御するように構成されているものとする。
【0009】
上記の構成により、障害物検知手段により障害物が検知されて該障害物の自車両に対する相対位置及び相対速度ベクトルが検出されると、その相対速度ベクトルと自車両の走行速度ベクトルとの関係等から、その障害物が対向車であるか否かが判定され、対向車である場合には、該対向車について検出された複数の上記相対位置に基づいて、該対向車前面が自車両に対して向いている方向が推定され、この推定された対向車前面の向きに基づいて、該対向車の進行方向が推定される。すなわち、対向車について上記相対位置が検出される部分は、基本的に、対向車の前面及び左右いずれか一方の側面であり、それら相対位置を繋げることで、対向車の自車両に対する姿勢、つまり対向車前面が自車両に対してどの方向を向いているかが分かり、この対向車前面が向いている方向が対向車の進行方向であると推定することができる。
【0010】
そして、作動機器制御手段は、上記障害物が対向車である場合に、進行路推定手段により推定された自車両の進行路と、上記推定された上記対向車の進行方向と、該対向車について検出された上記相対位置及び相対速度ベクトルの大きさとに基づいて、自車両の対向車への衝突の可能性を予知する。具体的には、上記推定された上記対向車の進行方向に相対速度ベクトルが向いているとし、その相対速度ベクトルの大きさを、例えば、検出された相対速度ベクトルの大きさと同じにして、対向車の基準時間後の相対位置を求め、この相対位置が自車両の進行路上でかつ自車両から所定距離以内であれば、衝突の可能性が高いと予知する。こうして作動機器制御手段は、衝突の可能性が高いと予知したときには、自車両のブレーキや警報装置等を作動させる。
【0011】
したがって、対向車について検出された複数の相対位置に基づいて、該対向車前面が自車両に対して向いている方向を推定し、この推定された対向車前面の向きに基づいて、該対向車の進行方向を推定するので、急なカーブで障害物検知手段が対向車をいきなり検知したときであっても、その対向車の進行方向を正確に推定することができる。よって、この推定された対向車の進行方向に基づいて、自車両の該対向車への衝突の可能性を正確に予知することができて、自車両のブレーキや警報装置等を不必要に作動させるようなことがない。
【0012】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、上記進行方向推定手段は、上記障害物検知手段により上記対向車について現時点から予め設定された設定時間以内の過去に上記相対位置及び相対速度ベクトルが検出されていた場合には、上記対向車向き推定手段により推定された対向車前面の向きと、上記障害物検知手段により上記対向車について現時点及び上記過去に検出された上記相対速度ベクトルの向きとに基づいて、該対向車の進行方向を推定するように構成されているものとする。
【0013】
このことにより、自車両及び対向車が直線路又は緩やかなカーブを走行している場合のように、対向車を自車両から比較的離れた地点から検知し続けている場合には、その対向車の進行方向の推定に際して、対向車前面の向きに加えて、該対向車について現時点までに検出されてきた相対速度ベクトルの向きの変化を加味することで、対向車の進行方向をより一層正確に推定することができる。
【0014】
請求項3の発明では、請求項1又は2の発明において、上記作動機器は、自車両の乗員に警報を行う警報装置であるものとする。
【0015】
請求項4の発明では、請求項1又は2の発明において、上記作動機器は、自車両のブレーキを作動させるブレーキ作動手段であるものとする。
【0016】
請求項5の発明では、請求項1又は2の発明において、上記作動機器は、自車両の乗員が着用しているシートベルトを巻き取って該シートベルトに所定張力を付与することで該乗員を拘束するシートベルトプリテンショナであるものとする。
【0017】
これら請求項3〜5の発明により、警報装置やブレーキ作動手段、シートベルトプリテンショナが誤って作動するのを防止しつつ、乗員の安全性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の車両の障害物検知装置によると、対向車について検出された複数の相対位置に基づいて、該対向車前面が自車両に対して向いている方向を推定し、この推定された対向車前面の向きに基づいて、該対向車の進行方向を推定し、自車両の進行路と、上記推定された対向車の進行方向と、該対向車について検出された相対位置及び相対速度ベクトルの大きさとに基づいて、自車両の該対向車への衝突の可能性を予知するようにしたことにより、急なカーブで障害物検知手段が対向車をいきなり検知したときであっても、その対向車の進行方向を正確に推定して、自車両の対向車への衝突可能性を正確に予知することができ、この結果、自車両のブレーキや警報装置等を不必要に作動させるようなことがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る障害物検知装置を搭載した車両W(自車両に相当)を示し、この車両Wの前端部に、車両Wの前方に存在する障害物を検知する障害物検知手段としてのレーダ装置1が設けられている。このレーダ装置1は、ミリ波レーダ装置であって、ミリ波を前方に向けて略水平方向に所定角度範囲を走査しながら発信する発信部と、そのミリ波が車両Wの前方の障害物に当たって反射してきた反射波を受信する受信部とを有している。そして、レーダ装置1は、その受信部で受信(検知)した障害物の車両Wとの距離、車両Wに対する方位(上記走査範囲の中心線(車両Wの前後方向に延びるレーダ検知軸)からの角度θで規定)及び相対速度ベクトル(車両Cの前後方向に対する方向及び大きさ)を検出して、その検出データを障害物検知情報としてコントロールユニット11に送信するようになっている。上記障害物の車両Wとの距離及び車両Wに対する方位は、障害物の車両Wに対する相対位置に相当するものである。
【0021】
上記コントロールユニット11は、上記レーダ装置1からの障害物検知情報を受けて車両Wの作動機器を制御する作動機器制御手段を構成している。上記作動機器としては、本実施形態では、図2に示すように、警報装置20、ブレーキ作動手段21及びシートベルトプリテンショナ22であるが、これらに限るものではない。
【0022】
また、上記車両には、図2に示すように、車両Wの車速を検出する車速センサ12と、車両Wに生じるヨーレートを検出するヨーレートセンサ13と、車両Wの障害物への衝突を検出するGセンサ14とが設けられており、これら各センサ12〜14からの検出情報が上記コントロールユニット11に入力されるようになっている。
【0023】
上記警報装置20は、後述の如く車両Wの障害物への衝突の可能性が高い場合に車両Wの乗員に対して警報を行うためのものであって、ブザーや表示装置で構成される。また、上記ブレーキ作動手段21は、車両Wのブレーキを作動させて各車輪31に制動力を付与するものである。さらに、シートベルトプリテンショナ22は、車両Wのシート41に着座している乗員が着用しているシートベルト51を巻き取って該シートベルト51に所定張力を付与することで、該乗員を拘束するものである。
【0024】
ここで、車両Wに搭載されているシートベルト装置について説明する。このシートベルト装置は、図1に示すように、上記シートベルト51を巻き取るリトラクタ部53と、このリトラクタ部53から引き出されたシートベルト51の先端部が取り付けられたラップアンカー部54と、シートベルト51の長さ方向中間部に配設されたタング52が着脱可能に係合するバックル部55とを有する3点式に構成されている。上記バックル部55は、シート41の車幅方向内側で車体に固定されている一方、リトラクタ部53及びラップアンカー部54は、シート41を挟んでバックル部55とは反対側である車幅方向外側で車体に固定されている。上記リトラクタ部53から引き出されたシートベルト51は、シート41の車幅方向外側の上方位置に設けられたスリップガイド57により、その引き出し方向が上向きから下向きに変換されて、その先端部が上記ラップアンカー部54に取り付けられている。上記タング52は、上記スリップガイド57とラップアンカー部54との間でシートベルト51に対して摺動可能に設けられており、このタング52が上記バックル部55に係合されることで、シートベルト51の着用状態となる。
【0025】
上記シートベルト装置のリトラクタ部53内に、上記シートベルトプリテンショナ22が設けられている。本実施形態では、シートベルトプリテンショナ22は、図2に示すように、電動モータ等により上記シートベルト51を巻き取る第1プリテンショナ機構22aと、インフレータで発生するガスにより上記シートベルト51を巻き取る第2プリテンショナ機構22bとからなっており、上記コントロールユニット11が上記レーダ装置1からの障害物検知情報に基づいて、車両Wの障害物への衝突の可能性が高いと予知したとき(例えば、車両Wが障害物に衝突するまでの予測時間が、予め決めた基準時間よりも短いとき)には、第1プリテンショナ機構22aを作動させることで、シートベルト51に所定張力を付与する一方、コントロールユニット11がGセンサ14により車両Wの障害物への衝突を検出したときには、第2プリテンショナ機構22bを作動させることで、上記第1プリテンショナ機構22aを作動させたときよりも大きな張力をシートベルト51に付与するようになっている。
【0026】
上記コントロールユニット11は、車速センサ12及びヨーレート検出センサ13の検出値に基づいて車両Wの旋回半径、つまり車両Wの進行路の曲率半径を推定するように構成されている。このことで、コントロールユニット11、車速センサ12及びヨーレート検出センサ13は、車両Wの進行路を推定する進行路推定手段を構成する。尚、車両Wの横加速度を検出する横加速度検出センサ、又は車両Wのステアリングホイールの操舵角を検出する舵角センサを設けて、この横加速度検出センサ又は舵角センサの検出値を、上記ヨーレート検出センサ13の検出値の代わりに用いて車両Wの旋回半径(車両Wの進行路の曲率半径)を求めるようにしてもよい。
【0027】
また、上記コントロールユニット11は、上記レーダ装置1からの障害物検知情報を受けて、検知された障害物の相対速度ベクトル及び車両Wの車速(車両Wの前方に向かうベクトル)に基づいて、該障害物が、車両Wの側に向かって走行する対向車であるか否かを判定する。このことで、コントロールユニット11は、検知された障害物が対向車であるか否かを判定する対向車判定手段を構成することになる。
【0028】
そして、コントロールユニット11は、障害物が対向車であると判定した場合には、該対向車について検出された複数の上記相対位置に基づいて、該対向車前面が車両Wに対して向いている方向を推定する。この推定方法について具体的に説明する。例えば図3に示すように、車両Wがカーブを走行中に対向車Qを検知したとする。尚、車両Wの重心位置を基準に車両Wの車幅方向をx座標とし、車両Wの前後方向をy座標とする。
【0029】
上記対向車Qについて検知された相対位置は、本例では、A〜E点の5つであり、上記推定した車両Wの進行路から左カーブであることが分かっているので、例えば、上記5点のうち車両Wから見て左側において略直線上に並ぶA〜C点が対向車Qの右側面であると判断して、該3点の相対位置から最小二乗法で直線Lを求めて、対向車Qの前面が、この直線Lの方向を向いていると推定する。或いは、上記5点のうち車両Wから見て右側に並ぶD点及びE点が対向車Qの前面であると判断して、該2点の相対位置を結ぶ直線を求めて、対向車Qの前面が、この直線と垂直な方向を向いていると推定してもよい。また、対向車Qについて2つの相対位置しか検出されなったときには、対向車Qの前面の2点の相対位置が検出されたとして、該2点の相対位置を結ぶ直線を求めて、対向車Qの前面が、この直線と垂直な方向を向いているとすればよい。
【0030】
尚、上記検出された複数の相対位置が、同じ対向車Qのものかどうかは、以下のようにして行う。すなわち、検知された各点の車両Wに対する方位同士及び相対速度ベクトル同士を比較して、それらの差が所定以下であるものを、同じ対向車Qのものとする。
【0031】
続いて、上記相対位置に基づいて対向車Qの重心位置Pを求めるとともに、対向車Qの進行方向(車両Wの前後方向に対する角度で規定する)が上記直線Lに沿った方向であると推定する。すなわち、重心位置Pの車両Wに対する相対速度ベクトルをVaとすると、この相対速度ベクトルVaは、上記直線Lに沿った方向に向いており、その大きさは、上記相対位置と共に検出された5つの相対速度ベクトルの大きさの平均とする。この相対速度ベクトルVaをx方向とy方向とにそれぞれ分解し、相対速度ベクトルVaのx方向成分Vax及びy方向成分Vayを求める。
【0032】
ここで、対向車Qの前面の向き(上記相対速度ベクトルVaの向き)が、対向車Qの進行方向であると推定してもよいが、本実施形態では、対向車Qについて現時点から予め設定された設定時間(レーダ装置1におけるミリ波の走査時間に所定回数(例えば3回)掛けた時間、つまり対向車Qを所定回数検知可能な時間)以内の過去に相対位置及び相対速度ベクトルが検出されていた場合(上記所定回数連続して検出されている場合が好ましい)には、対向車Qの前面の向きに加えて、対向車Qについて現時点及び上記過去に検出された相対速度ベクトルの向きも考慮して、対向車Qの進行方向を推定し、上記過去に相対位置及び相対速度ベクトルが検出されていなかった場合には、対向車Qの前面の向きが対向車Qの進行方向であると推定する。
【0033】
上記のように過去に検出された相対速度ベクトルの向きを考慮する場合には、例えば以下のように対向車Qの進行方向を推定する。すなわち、現時点で検出された上記5点での相対速度ベクトルのx方向成分及びy方向成分のそれぞれの平均をとることで、重心位置Pの相対速度ベクトルVbを求める。過去においても、同様に重心位置Pの相対速度ベクトルVbが求まっている。これら現時点及び過去の相対速度ベクトルVbのx方向成分Vbx及びy方向成分Vbyを過去から順にそれぞれフィルタ演算処理することで、新たなx方向成分Vbx及びy方向成分Vby(新たな相対速度ベクトルVb)を求めていく。そして、対向車Qの前面の向きが対向車Qの進行方向であると推定した場合における重心位置Pの相対速度ベクトルVaのx方向成分Vaxと上記フィルタ演算処理して求めた最新の相対速度ベクトルVbのx方向成分Vbxとの平均を相対速度ベクトルVのx方向成分とし、上記相対速度ベクトルVaのy方向成分Vayと上記最新の相対速度ベクトルVbのy方向成分Vbyとの平均を相対速度ベクトルVのy方向成分として、こうして求まる相対速度ベクトルVの方向が対向車Qの進行方向であると推定する。すなわち、対向車Qの進行方向の推定に際して、対向車Qの前面の向きに加えて、該対向車Qについて現時点までに検出されてきた相対速度ベクトルの向きの変化を加味する。このことで、コントロールユニット11は、対向車Qの前面の向き(並びに対向車Qについて現時点及び過去に検出された相対速度ベクトルの向き)に基づいて、該対向車Qの進行方向を推定する進行方向推定手段を構成することになる。尚、必ずしもVaxとVbxとの平均を相対速度ベクトルVのx方向成分とする必要はなく、いずれか一方の重み付けを大きくしたものを相対速度ベクトルVのx方向成分としてもよい(相対速度ベクトルVのy方向成分についても同様)。
【0034】
次いで、上記対向車が、上記相対速度ベクトルVで車両Wに対して進行するとして、上記対向車の、予め決めた基準時間経過後の相対位置を予測し、この予測位置が車両Wの進行路上でかつ車両Wから所定距離以内であれば、衝突の可能性が高いと予知する。したがって、コントロールユニット11は、車両Wの進行路と、対向車の進行方向と、対向車について検出された相対位置及び相対速度ベクトルの大きさとに基づいて、車両Wの該対向車への衝突の可能性を予知する衝突予知手段を構成することになる。
【0035】
尚、今回検知した対向車が、前回検知した対向車と同じであるかどうかは、以下のようにして判断する。すなわち、前回の検知時に、対向車の所定時間(レーダ装置1におけるミリ波の走査時間に対応する時間)経過後の相対位置を予測し、該相対位置を基準にしてその周囲に所定の大きさのエリアを設定しておき、その検知から所定時間経過後(つまり今回)に検知した対向車の重心位置が上記エリア内に存在するときに、今回検知した対向車が、上記相対位置を予測した対向車と同じであると判断する一方、エリア外に存在するときには、新規な対向車(或いは障害物)であると判断する。
【0036】
上記コントロールユニット11は、上記の如く衝突の可能性が高いと予知したときには、警報装置20を作動させることで乗員に対して警報を行うとともに、ブレーキ作動手段21を作動させることで各車輪31のブレーキを作動させ、かつ、シートベルトプリテンショナ22の第1プリテンショナ機構22aを作動させることでシートベルト51に所定張力を付与する。
【0037】
次に、上記コントロールユニット11における処理動作について、図4のフローチャートを参照しながら説明する。この処理動作は、上記所定時間毎に繰り返し行われる。
【0038】
先ず、最初のステップS1で、車速センサ12及びヨーレートセンサ13の各検出値である車速及びヨーレートを入力し、次のステップS2で、その車速Vw及びヨーレートφに基づいて車両Wの旋回半径(進行路の曲率半径)Rを、
R=Vw/φ
により求めて、車両Wの進行路(車両Wと同じか僅かに大きい幅を有するものとする)を推定する。
【0039】
次のステップS3では、レーダ装置1より障害物検知情報を入力し、次のステップS4で、検知した障害物への車両Wの衝突可能性を判定する衝突可能性判定処理を行う。そして、次のステップS5では、その衝突可能性判定処理において衝突可能性が高いと判定されたか否かを判定し、このステップS5の判定がNOであるときには、そのままリターンする一方、ステップS5の判定がYESであるときには、ステップS6に進んで、警報装置20、ブレーキ作動手段21及びシートベルトプリテンショナ22の第1プリテンショナ機構22aを作動させる。
【0040】
そして、次のステップS7で、Gセンサ14からの情報に基づいて車両Wの障害物への衝突があったか否かを判定し、このステップS7の判定がNOであるときには、そのままリターンする一方、ステップS7の判定がYESであるときには、ステップS8に進んで、シートベルトプリテンショナ22の第2プリテンショナ機構22bを作動させることで、シートベルト51に更に大きな張力を付与し、しかる後にリターンする。
【0041】
上記ステップS4における衝突可能性判定処理において障害物が対向車である場合の処理の詳細について、図5のフローチャートを参照しながら説明する。
【0042】
すなわち、ステップS21で、車両Wの進行路上に対向車が存在するか否かを判定し、このステップS21の判定がNOであるときには、ステップS30に進む一方、ステップS21の判定がYESであるときには、ステップS22に進んで、上述の如く、対向車について検出された複数の相対位置に基づいて、対向車前面の向きを推定するとともに、対向車前面の向きが対向車の進行方向であると推定した場合における重心位置Pの相対速度ベクトルVa(x方向成分Vax及びy方向成分Vay)を求める。
【0043】
次のステップS23では、その対向車を上記設定時間以内の過去に検知して、該対向車について相対位置及び相対速度ベクトルを検出していたか否かを判定し、このステップS23の判定がYESであるときには、ステップS24に進んで、現時点(今回)及び過去(前回)の相対速度ベクトルVbのx方向成分Vbx及びy方向成分Vbyをそれぞれフィルタ演算処理して、新たな相対速度ベクトルVbのx方向成分Vbx及びy方向成分Vbyを求める。すなわち、前回に求まったVbxにβ(1よりも小さいフィルタ定数であり、例えば1/2とされる)を掛けたものと、今回の相対速度ベクトルVbのx方向成分であるVbxnewに(1−β)を掛けたものとを足し合わせて新たなVbxとし、前回に求まったVbyにβを掛けたものと、今回の相対速度ベクトルVbのy方向成分であるVbynewに(1−β)を掛けたものとを足し合わせて新たなVbyとする。
【0044】
次のステップS25では、上記相対速度ベクトルVaのx方向成分Vaxと上記フィルタ演算処理して求めた最新のx方向成分Vbxとの平均を相対速度ベクトルVのx方向成分Vxとし、上記相対速度ベクトルVaのy方向成分Vayと上記最新の相対速度ベクトルVbのy方向成分Vbyとの平均を相対速度ベクトルVのy方向成分Vyとして、この相対速度ベクトルVの方向が対向車の進行方向であると推定し、しかる後にステップS27に進む。
【0045】
一方、上記ステップS23の判定がNOであるときには、ステップS26に進んで、上記相対速度ベクトルVaのx方向成分Vaxをそのまま相対速度ベクトルVのx方向成分Vxとし、相対速度ベクトルVaのy方向成分Vayをそのまま相対速度ベクトルVのy方向成分Vyとし、しかる後にステップS27に進む。すなわち、対向車の前面の向き(相対速度ベクトルVaの向き)が、対向車Qの進行方向であると推定する。
【0046】
上記ステップS27では、上記対向車の基準時間経過後の相対位置を予測する。つまり、現時点の相対位置の座標を(X1,Y1)とし、予測位置の座標を(X2,Y2)とし、基準時間をtとして、
X2=X1+Vx×t
Y2=Y1+Vy×t
より予測位置を求める。
【0047】
次のステップS28では、上記予測位置が車両Wの進行路上でかつ車両Wから所定距離以内であるか否かを判定し、このステップS28の判定がYESであるときには、ステップS29に進んで、衝突可能性が高いと判定し、ステップS28の判定がNOであるときには、ステップS30に進んで、衝突可能性が低いと判定する。こうして衝突可能性が高いと判定した場合には、図4のフローチャートのステップS5でYESと判定され、衝突可能性が低いと判定した場合には、ステップS5でNOと判定されることになる。
【0048】
したがって、本実施形態では、対向車について検出された複数の相対位置に基づいて、該対向車前面が車両Wに対して向いている方向を推定し、この推定された対向車前面の向きに基づいて、該対向車の進行方向を推定し、車両Wの進行路と、上記推定された対向車の進行方向と、該対向車について検出された相対位置及び相対速度ベクトルの大きさとに基づいて、車両Wの該対向車への衝突の可能性を予知するようにしたので、急なカーブでレーダ装置1が対向車をいきなり検知したときであっても、その対向車の進行方向を正確に推定することができ、車両の該対向車への衝突の可能性を正確に予知することができる。よって、車両Wの乗員の安全性を向上させつつ、車両Wの警報装置20、ブレーキ作動手段21及びシートベルトプリテンショナ22が不必要に作動するのを防止することができる。
【0049】
また、その対向車について現時点から予め設定された設定時間以内の過去に相対位置及び相対速度ベクトルが検出されていた場合には、上記推定した対向車前面の向きと、該対向車について現時点及び上記過去に検出された相対速度ベクトルの向きとに基づいて、該対向車の進行方向を推定するようにしたので、車両W及び対向車が直線路又は緩やかなカーブを走行している場合のように、対向車を車両Wから比較的離れた地点から検知し続けている場合に、その対向車について現時点までに検出されてきた相対速度ベクトルの向きの変化を加味することで、対向車の進行方向をより一層正確に推定することができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、自車両前方の障害物を検知するレーダ装置等の障害物検知手段を備えた車両の障害物検知装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態に係る障害物検知装置を搭載した車両前側の構成図である。
【図2】上記障害物検知装置の構成を示すブロック図である。
【図3】自車両がカーブを走行中に対向車を検知した場合の例を示す図である。
【図4】コントロールユニットにおける処理動作を示すフローチャートである。
【図5】障害物が対向車である場合の衝突可能性判定処理の詳細を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
W 車両(自車両)
1 レーダ装置(障害物検知手段)
11 コントロールユニット(作動機器制御手段)(進行路推定手段)
(対向車判定手段)(対向車向き推定手段)
(進行方向推定手段)(衝突予知手段)
12 車速センサ(進行路推定手段)
13 ヨーレート検出センサ(進行路推定手段)
20 警報装置(作動機器)
21 ブレーキ作動手段(作動機器)
22 シートベルトプリテンショナ(作動機器)
51 シートベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両前方の障害物を検知して、該障害物の自車両に対する相対位置及び相対速度ベクトルを検出する障害物検知手段と、該障害物検知手段からの障害物検知情報を受けて自車両の作動機器を制御する作動機器制御手段とを備えた車両の障害物検知装置であって、
自車両の進行路を推定する進行路推定手段と、
上記障害物検知手段により検知された障害物が、自車両の側に向かって走行する対向車であるか否かを判定する対向車判定手段と、
上記対向車判定手段により上記障害物が対向車であると判定された場合に、該対向車について検出された複数の上記相対位置に基づいて、該対向車前面が自車両に対して向いている方向を推定する対向車向き推定手段と、
上記対向車向き推定手段により推定された対向車前面の向きに基づいて、該対向車の進行方向を推定する進行方向推定手段とを備え、
上記作動機器制御手段は、上記対向車判定手段により上記障害物が対向車であると判定された場合に、上記進行路推定手段により推定された自車両の進行路と、上記進行方向推定手段により推定された上記対向車の進行方向と、該対向車について検出された上記相対位置及び相対速度ベクトルの大きさとに基づいて、自車両の該対向車への衝突の可能性を予知する衝突予知手段を有していて、該衝突予知手段による上記衝突可能性の予知結果に基づいて上記作動機器を制御するように構成されていることを特徴とする車両の障害物検知装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両の障害物検知装置において、
上記進行方向推定手段は、上記障害物検知手段により上記対向車について現時点から予め設定された設定時間以内の過去に上記相対位置及び相対速度ベクトルが検出されていた場合には、上記対向車向き推定手段により推定された対向車前面の向きと、上記障害物検知手段により上記対向車について現時点及び上記過去に検出された上記相対速度ベクトルの向きとに基づいて、該対向車の進行方向を推定するように構成されていることを特徴とする車両の障害物検知装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車両の障害物検知装置において、
上記作動機器は、自車両の乗員に警報を行う警報装置であることを特徴とする車両の障害物検知装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の車両の障害物検知装置において、
上記作動機器は、自車両のブレーキを作動させるブレーキ作動手段であることを特徴とする車両の障害物検知装置。
【請求項5】
請求項1又は2記載の車両の障害物検知装置において、
上記作動機器は、自車両の乗員が着用しているシートベルトを巻き取って該シートベルトに所定張力を付与することで該乗員を拘束するシートベルトプリテンショナであることを特徴とする車両の障害物検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−137396(P2008−137396A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−322427(P2006−322427)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】