車両の駆動力制御装置
【課題】マニュアル変速モードにおいて、ドライバの選択した変速段を所定に維持しつつ、必要に応じてドライバの意思に合致した違和感のない自動変速を行うことができる車両の駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】T/M_ECU20は、プライマリ回転数Npがキックダウン許可回転数Nth以下であり、且つ、アクセルペダル踏込量θaccがキックダウン許可踏込量θaccth以上である場合には、マニュアル変速モードの選択時においても、ドライバのアクセル操作から加速意思を判断して変速段を低速段側にキックダウンさせる。この場合において、駆動力特性のモードM毎にキックダウン許可回転数Nthを異ならせ、プライマリ回転数Npに基づいてキックダウンの自動実行を許可する回転数領域を、アクセル操作に対する応答性が高いモードMであるほど狭い領域に設定する。
【解決手段】T/M_ECU20は、プライマリ回転数Npがキックダウン許可回転数Nth以下であり、且つ、アクセルペダル踏込量θaccがキックダウン許可踏込量θaccth以上である場合には、マニュアル変速モードの選択時においても、ドライバのアクセル操作から加速意思を判断して変速段を低速段側にキックダウンさせる。この場合において、駆動力特性のモードM毎にキックダウン許可回転数Nthを異ならせ、プライマリ回転数Npに基づいてキックダウンの自動実行を許可する回転数領域を、アクセル操作に対する応答性が高いモードMであるほど狭い領域に設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の制御モードとして、予め設定された複数の変速段の何れかを手動によって選択可能なマニュアル変速モードを備えた車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両に搭載されるパワートレインにおいては、ドライバのアクセル操作に対して発生させる駆動力特性が異なる複数のモードを備え、これらのモードを選択的に切り換えることにより、燃費向上を重視した走行やスポーツ性を重視した走行等を実現する技術が数多く開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、駆動力特性として、アクセル開度に対して出力トルクが略リニアに変化するノーマルモードと、エンジントルクをセーブしてイージードライブ性と低燃費性との双方を両立させるセーブモードと、エンジンの低回転域から高回転域までレスポンスに優れる出力特性を実現したパワー重視のパワーモードとを設定し、センターコンソールに設けられているシャトルスイッチからの操作入力に応じて、ドライバの好みに応じた運転モードを選択可能とした技術が開示されている。
【0004】
ところで、この種のパワートレインを構成する自動変速機として、例えば無段変速機においては、変速モードとして、予め設定された変速特性に従って変速比を自動で制御する自動変速モードに加え、予め設定された複数の変速段の何れかを手動で選択することによって所定の固定変速比に変速可能なマニュアル変速モードを備えたものが広く知られている。この場合、マニュアル変速モードにおける変速比は、基本的には、ドライバが選択した変速段の固定変速比で保持されるが、エンジン保護等の観点から、無段変速機の入力回転数が予め設定された一定の自動アップシフト/ダウンシフト回転数を超えた場合等には、変速段が強制的にアップシフト或いはダウンシフトされる(。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3872507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような自動変速機を備えた駆動力制御装置においては、マニュアル変速モード選択時は、予め設定された自動アップシフト/ダウンシフト回転数の範囲内においてはドライバが選択した変速段が維持される。
【0007】
そのため、上記回転数の範囲内においては、ドライバがアクセルを踏み込み、キックダウンスイッチがオンされても、所定のダウンシフトがされないため、ドライバの意図に沿わない変速動作が行われるという問題があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、マニュアル変速モードにおいて、ドライバの選択した変速段を所定に維持しつつ、必要に応じてドライバの意思に合致した違和感のない自動変速を行うことができる車両の駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
パワートレインを構成する自動変速機の制御モードとして、予め設定された変速特性に従って変速比又は変速段を自動で制御する自動変速モードと、予め設定された複数の変速段の何れかを手動で選択可能なマニュアル変速モードと、を備えた車両の駆動力制御装置であって、前記マニュアル変速モードの選択時に、前記自動変速機の入力回転数が予め設定されたキックダウン許可回転数以下であり、且つ、ドライバによるアクセルペダル踏込量が予め設定されたキックダウン許可踏込量以上であるとき、変速段を現在の変速段よりも低速側の変速段に自動変速させる自動ダウンシフト制御手段を備え、前記自動ダウンシフト制御手段には、前記キックダウン許可回転数として、前記駆動力特性のモード毎に異なる回転数が設定されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両の駆動力制御装置によれば、マニュアル変速モードにおいて、ドライバの選択した変速段を所定に維持しつつ、必要に応じてドライバの意思に合致した違和感のない自動変速を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】車両に搭載されるパワートレインの概略構成図
【図2】エンジンのノーマルモードマップ、セーブモードマップ、及び、パワーモードマップをそれぞれ示す概念図
【図3】エンジンのスロットル制御ルーチンを示すフローチャート
【図4】自動変速用マップを示す概念図
【図5】手動変速用マップを示す概念図
【図6】無段変速機の変速制御ルーチンを示すフローチャート
【図7】駆動力特性のモードとしてノーマルモード、セーブモード、及び、パワーモードが選択された各マニュアル変速モード時におけるキックダウン許可回転数を示す説明図
【図8】キックダウン制御サブルーチンを示すフローチャート
【図9】駆動力特性のモードとしてノーマルモード、セーブモード、及び、パワーモードが選択された各マニュアル変速モード時における変速比の推移の一例を示す説明図
【図10】駆動力特性のモードとしてノーマルモード、セーブモード、及び、パワーモードが選択された各マニュアル変速モード時における変速比の推移の一例を示す説明図
【図11】駆動力特性の各モードが選択されたマニュアル変速モード時においてアクセル踏込操作に対する車速の推移の一例を示す説明図
【図12】駆動力特性のモードとしてノーマルモード、セーブモード、及び、パワーモードが選択された各マニュアル変速モード時におけるキックダウン許可回転数の変形例を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、図1は車両に搭載されるパワートレインの概略構成図、図2(a)〜(c)はエンジンのノーマルモードマップ、セーブモードマップ、及び、パワーモードマップをそれぞれ示す概念図、図3はエンジンのスロットル制御ルーチンを示すフローチャート、図4は自動変速用マップを示す概念図、図5は手動変速用マップを示す概念図、図6は無段変速機の変速制御ルーチンを示すフローチャート、図7(a)〜(c)は駆動力特性のモードとしてノーマルモード、セーブモード、及び、パワーモードが選択された各マニュアル変速モード時におけるキックダウン許可回転数を示す説明図、図8はキックダウン制御サブルーチンを示すフローチャート、図9(a)〜(c)は駆動力特性のモードとしてノーマルモード、セーブモード、及び、パワーモードが選択された各マニュアル変速モード時における変速比の推移の一例を示す説明図、図10(a)〜(c)は駆動力特性のモードとしてノーマルモード、セーブモード、及び、パワーモードが選択された各マニュアル変速モード時における変速比の推移の一例を示す説明図、図11は駆動力特性の各モードが選択されたマニュアル変速モード時においてアクセル踏込操作に対する車速の推移の一例を示す説明図、図12(a)〜(c)は駆動力特性のモードとしてノーマルモード、セーブモード、及び、パワーモードが選択された各マニュアル変速モード時におけるキックダウン許可回転数の変形例を示す説明図である。
【0013】
図1において符号1はエンジンを示し、このエンジン1は、電磁クラッチ或いはトルクコンバータ等の発進クラッチ2を介して無段変速機3に連設されることにより、自動車等の車両のパワートレイン10の要部を構成する。
【0014】
無段変速機3は、発進クラッチ2に連設する前後進切換装置4を有し、この前後進切換装置4から延出するプーリ入力軸5bにはプライマリプーリ5aが軸支されている。また、プーリ入力軸5bに対して平行に配置されたプーリ出力軸5cにはセカンダリプーリ5dが軸支され、これらプライマリプーリ5aとセカンダリプーリ5dとの間には、駆動ベルト5eが巻装されている。さらに、プーリ出力軸5cには、終減速装置6の減速歯車群6aを介してディファレンシャル装置6bが連設され、このディファレンシャル装置6bには、前輪或いは後輪の駆動輪7aを軸着する駆動軸7が連設されている。なお、本実施形態において、前後進切換装置4の前進時における変速比は「1」に設定されており、発進クラッチ2が締結された前進時のエンジン回転数Neとプライマリ回転数Npとは1:1で対応する。
【0015】
プライマリプーリ5aにはプライマリ油圧室5fが併設され、このプライマリ油圧室5fに油圧制御回路8から供給されるプライマリ油圧により、プライマリプーリ5aの溝幅が調整される。一方、セカンダリプーリ5dにはセカンダリ油圧室5gが併設され、このセカンダリ油圧室5gに油圧制御回路8から供給されるセカンダリ油圧により、トルク伝達に必要な張力が駆動ベルト5eに付与される。油圧制御回路8は後述するトランスミッション制御装置(T/M_ECU)20において制御され、この油圧制御を通じて両プーリ5a,5dの溝幅が互いに反比例状態に制御されることにより、無段変速機3は所望の変速比を実現する。
【0016】
T/M_ECU20は、CAN(Controller Area Network)通信等の車内通信回線23を通じて、エンジン制御装置(E/G_ECU)21、及び、統合制御装置(統合_ECU)22等の各種制御装置と相互通信可能に接続されている。各ECU20〜22は、マイクロコンピュータ等を主体に構成され、周知のCPU、ROM、RAM及びEEPROM等の不揮発性記憶手段等を有している。
【0017】
T/M_ECU20の入力側には、例えば、プライマリプーリ5aの回転数(プライマリ回転数Np)を検出するプライマリ回転数センサ38、セカンダリプーリ5dの回転数(セカンダリ回転数Ns)を検出するセカンダリ回転数センサ39、セレクト操作部36で選択されたレンジを検出するインヒビタスイッチ37等が接続されている。また、T/M_ECU20の出力側には、油圧制御回路8等のアクチュエータ類が接続されている。
【0018】
ここで、本実施形態において、セレクト操作部36は、例えば、パーキング(P)レンジ、リバース(R)レンジ、ニュートラル(N)レンジ、及び、ドライブ(D)レンジが設定されたメインゲート36aと、マニュアル(M)レンジが設定されたサブゲート36bとを有する。これら各ゲート36a,36b上の各レンジはセレクトレバー36cを通じて選択可能となっており、選択されたレンジはインヒビタスイッチ37で検出される。また、サブゲート36bには、マニュアルレンジを挟んだ両側に、アップシフト(+)位置とダウンシフト(−)位置とが設定され、さらに、これらアップシフト位置及びダウンシフト位置には、後述するマニュアルスイッチ40が併設されている。そして、マニュアルレンジの選択中にセレクトレバー36cがアップシフト位置或いはダウンシフト位置に操作されると、アニュアルスイッチ40は、アップシフト信号或いはダウンシフト信号を出力する。
【0019】
E/G_ECU21の入力側には、例えば、クランク軸の回転からエンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ30、エアクリーナの直下流等に配設されて吸入空気量Qを検出する吸入空気量センサ31、アクセルペダルの踏込量から実アクセル開度θaccを検出するアクセル開度センサ32、吸気通路15に介装された電子制御式のスロットル弁16の開度θthを検出するスロットル開度センサ33等が接続されている。また、E/G_ECU21の出力側には、例えば、所定に計量された燃料を噴射するインジェクタ17、スロットル弁16に設けられているスロットルアクチュエータ16a等のエンジン駆動を制御する各種アクチュエータ類が接続されている。
【0020】
統合_ECU22の入力側には、例えば、アクセル操作に対してパワートレイン10が発生させる駆動力特性の制御モードを選択的に切り換えるためのモード選択スイッチ35、上述のマニュアルスイッチ40、ステアリング41に配設されたテンポラリマニュアルスイッチ42等が接続されている。
【0021】
ここで、本実施形態において、パワートレイン10の駆動力特性のモードとしては、例えば、ノーマルモードM1、セーブモードM2、及び、パワーモードM3からなる3つのモードMが設定されており、統合_ECU22は、モード選択スイッチ35を通じてドライバにより選択された何れかのモード情報を、車内通信回線23を介してT/M_ECU20及びE/G_ECU21等に出力する。
【0022】
また、テンポラリマニュアルスイッチ42は、例えば、一対の操作部42a,42bを有して構成され、ステアリング41の右側に配設された操作部42aが操作される毎にアップシフト信号を出力し、左側に配設された操作部42bが操作される毎にダウンシフト信号を出力する。
【0023】
E/G_ECU21のメモリ内には、例えば、エンジン出力特性を示すマップとして、3種類のモードマップMpe1,Mpe2,Mpe3が予め設定されて格納されている。図2(a)〜(c)に示すように、各モードマップは、アクセル開度θaccとエンジン回転数Neとを格子軸とし、各格子点にエンジン出力指示値(目標トルク)を格納する3次元マップで構成されている。
【0024】
これらの各モードマップMpe1,Mpe2,Mpe3は、基本的には、ドライバによるモード選択スイッチ35の操作によって選択される。すなわち、E/G_ECU21は、モード選択スイッチ35にてノーマルモードM1が選択されている場合にノーマルモードマップMpe1を選択し、セーブモードM2が選択されている場合にセーブモードマップMpe2を選択し、パワーモードM3が選択されている場合にパワーモードマップMpe3を選択する。
【0025】
そして、E/G_ECU21は、選択したモードマップMpeと各センサ類からの検出信号等に基づき、インジェクタ17に対する燃料噴射タイミング、及び燃料噴射パルス幅(パルス時間)を設定する。さらに、E/G_ECU21は、スロットルアクチュエータ16aに対してスロットル開度信号を出力し、スロットル弁16の開度を制御する。
【0026】
ここで、図2(a)に示すノーマルモードマップMpe1は、アクセル開度θaccが比較的小さい領域で目標トルクがリニアに変化する特性に設定されており、スロットル弁16の開度θthが全開付近で最大目標トルクとなるように設定されている。
【0027】
また、図2(b)に示すセーブモードマップMpe2は、ノーマルモードマップMpe1に比し、目標トルクの上昇が抑えられており、アクセルペダルを全踏しても、スロットル弁16は全開せず、相対的にアクセルペダルの踏み込みに対し、スロットル弁16の開度変化がノーマルモードよりも小さくなる。従って、ノーマルモードと同じアクセルペダルの踏み込み量であっても、スロットル開度θeが小さく、出力トルクの上昇が抑制される。その結果、セーブモードマップMpe2に基づき出力トルクを抑制した走行を行うことで、アクセルペダルを思い切り踏み込む等のアクセルワークを楽しむことができる。さらに、目標トルクの上昇が抑えられているため、イージードライブ性と低燃費性との双方をバランス良く両立させることができ、例えば、3リッタエンジンを搭載する車両であっても、2リッタエンジン相当の十分な出力を確保しながらスムーズな出力特性とし、特に街中等の実用領域における扱いやすさを重視した目標トルクが設定される。
【0028】
また、図2(c)に示すパワーモードマップMpe3は、略全運転領域でアクセル開度θaccの変化に対する目標トルクの変化率が大きく設定されている。従って、例えば、3リッタエンジンを搭載する車両であれば、3リッタエンジンの有するポテンシャルを最大限に発揮できるような目標トルクが設定される。
【0029】
T/M_ECU20のメモリ内には、例えば、上述のモードマップMpe1〜Mpe3にそれぞれ適合した変速特性にて無段変速機3の変速比を自動制御するための自動変速用マップMpt1〜Mpt3(図4参照)と、無段変速機3の変速比を予め設定された変速段(例えば、1〜6速の変速段)の固定変速比に制御するための手動変速用マップMptm(図5参照)とが予め設定されて格納されている。そして、T/M_ECU20は、選択した変速用マップMptと各センサ類からの検出信号等に基づき、油圧制御回路8から各油圧室5f,5gに供給する各油圧の制御を通じて無段変速機3の変速比を制御する。
【0030】
これらのマップのうち、自動変速用マップMpt1〜Mpt3は、基本的には、セレクト操作部36でドライブレンジが選択されて無段変速機3に対する制御モードが自動変速制モードとなっているとき、モード選択スイッチ35で選択されたモードMに応じて選択的に用いられる。すなわち、T/M_ECU20は、エンジン1の各モードマップMpeに対応すべく、モード選択スイッチ35においてノーマルモードM1が選択されているとき自動変速用マップMpt1選択し、セーブモードM2が選択されているとき自動変速用マップMpt2を選択し、パワーモードM3が選択されているとき自動変速用マップMpt3を選択する。そして、T/M_ECU20は、例えば、選択した自動変速用マップMptを参照して現在の車速V及びアクセル開度θaccに基づく目標プライマリ回転数Nptを設定し、プライマリ回転数Npが目標プライマリ回転数Nptに収束するよう変速比を制御する。
【0031】
ここで、例えば、図4に示すように、各自動変速用マップMpt1〜Mpt3は、最大変速比であるLowから最小変速比であるオーバードライブ(OB)の間に、車速Vと目標プライマリ回転数Nptとの関係を示す変速特性ラインがアクセル開度θacc毎に設定されたマップで構成されている。この場合、各自動変速用マップMpt1〜Mpt3上の各変速特性ラインは、上述したエンジン出力特性のモードマップMpe1〜Mpe3にそれぞれ適合すべく、基本的には、車速V及びアクセル開度θaccが同一条件である場合に、モードM2での変速特性ラインがモードM1での変速特性ラインよりも相対的に低い目標プライマリ回転数Npを演算し、モードM3での変速特性ラインがモードM2での変速特性ラインよりも相対的に高い目標プライマリ回転数Npを演算するよう設定されている。
【0032】
これにより、セレクト操作部36でドライブレンジが選択された自動変速モードでの制御時には、エンジン1の出力特性に応じた適切な変速制御が行われ、モード選択スイッチ35で選択されたモード毎にそれぞれ特徴的な特性の駆動力をパワートレイン10で発生させることが可能となっている。
【0033】
一方、セレクト操作部36のレンジがドライブレンジからマニュアルレンジに変更されて無段変速機3の制御モードが自動変速モードからマニュアル変速モードに変更されると、T/M_ECU20は、変速制御用のマップとして手動変速用マップMptmを選択する。
【0034】
そして、T/M_ECU20は、基本的には、統合_ECU22を介してマニュアルスイッチ40或いはテンポラリマニュアルスイッチ42からのアップシフト信号が入力される毎に、無段変速機3の変速比を現在の変速比よりも高速段側の固定変速比へと順次アップシフトさせる。或いは、T/M_ECU20は、統合_ECU22を介してマニュアルスイッチ40或いはテンポラリマニュアルスイッチ42からのダウンシフト信号が入力される毎に、無段変速機3の変速比を現在の変速比よりも低速段側の固定変速比へと順次ダウンシフトさせる。
【0035】
加えて、T/M_ECU20は、セレクト操作部36でドライブレンジが選択されている場合であっても、統合_ECU22を介してテンポラリマニュアルスイッチ42からのアップシフト信号(或いはダウンシフト信号)が入力された場合には、予め設定された所定の復帰条件を充足するまでの間(例えば、設定時間経過するまでの間等)、一時的なマニュアル変速モードへと移行する。そして、T/M_ECU20は、無段変速機3の変速比を、テンポラリマニュアルスイッチ42を通じて選択された変速段の固定変速比に変速させる。
【0036】
このように、本実施形態のT/M_ECU20には、マニュアル変速モードとして、ドライバによってセレクト操作部36のレンジがマニュアルレンジに変更された後に再びドライブレンジへと変更されるまでの間維持される定常的なマニュアル変速モードと、セレクト操作部36による選択はドライブレンジのままでテンポラリマニュアルスイッチ42の操作を通じて切り換えられ、予め設定された復帰条件が成立したとき自動変速モードへと自動復帰する一時的な(テンポラリ)マニュアル変速モードと、が設定されている。
【0037】
ここで、マニュアル変速モードにおけるエンジン1の過回転防止等を目的として、T/M_ECU20は、無段変速機3の入力回転数Npが予め設定された自動アップシフト回転数Nuを越えたとき、変速比を高速段側の固定変速比へと強制的に自動で変速させる。また、所定の加速性能を確保してドライバビリティを向上すること等を目的として、T/M_ECU20は、プライマリ回転数Npは予め設定された自動ダウンシフト回転数Ndを下回ったとき、変速比を低速段側の固定変速比へと強制的に自動で変速させる。
【0038】
なお、本実施形態において、自動アップシフト回転数Nuは、駆動力特性のモードM毎にそれぞれ異なる回転数に設定されている。具体的には、本実施形態の自動アップシフト回転数Nuは、例えば、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど高い回転数に設定され、パワーモードM3に対応する回転数が最も高く、次いで、ノーマルモードM1、セーブモードM2の順に低くなるよう設定されている。例えば、過回転防止等を目的としてエンジン1に許容された最大回転数が7000[rpm]であり且つ発進クラッチ2が締結された前進時のエンジン回転数Neとプライマリ回転数Npとが1:1で対応している場合において、各モードMに対応する自動アップシフト回転数Nuは、パワーモードM3に対応する自動アップシフト回転数Nu(M=M3)が7000[rpm]、ノーマルモードM1に対応する自動アップシフト回転数Nu(M=M1)が6000[rpm]、セーブモードM2に対応する自動アップシフト回転数Nu(M=M2)が5000[rpm]にそれぞれ設定されている。一方、本実施形態の自動ダウンシフト回転数Ndは、各モードM1〜M3とも同一の値が設定されており、例えば、1000[rpm]に設定されている。
【0039】
さらに、T/M_ECU20は、マニュアル変速モードの選択時に、無段変速機3の入力回転数(プライマリ回転数Np)が予め設定されたキックダウン許可回転数Nth以下であり、且つ、ドライバによるアクセルペダル踏込量θaccが予め設定されたキックダウン許可踏込量θaccth以上であるとき、変速段を現在の変速段よりも低速側の変速段に自動で変速させる自動ダウンシフト制御(所謂、キックダウン制御)を行う。
【0040】
ここで、T/M_ECU20には、キックダウン許可回転数Nthとして、駆動力特性のモード毎に異なる回転数が設定されている。具体的には、本実施形態のキックダウン許可回転数Nthは、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど低い回転数に設定され、パワーモードM3に対応する回転数Nthが最も低く、次いで、ノーマルモードM1、セーブモードM2の順に高くなるよう設定されている。すなわち、例えば、図7に示すように、各モードMに対応するキックダウン許可回転数Nthは、パワーモードM3に対応するキックダウン許可回転数Nth(M=M3)が2000[rpm]、ノーマルモードM1に対応するキックダウン許可回転数Nth(M=M1)が2500[rpm]、セーブモードM2に対応するキックダウン許可回転数Nth(M=M2)が3000[rpm]にそれぞれ設定されている。
【0041】
また、キックダウン許可踏込量θaccthについてもモードM毎に異なる値が設定されていることが好ましく、T/M_ECU20には、例えば、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど、キックダウン許可踏込量θaccthは大きな値に設定されている。具体的には、各モードMに対応するキックダウン許可踏込量θaccthは、例えば、パワーモードM3に対応するキックダウン許可踏込量θaccth(M=M3)が80[%]、ノーマルモードM1に対応するキックダウン許可踏込量θaccthが70[%]、セーブモードM1に対応するキックダウン許可踏込量θaccthが60[%]にそれぞれ設定されている。
【0042】
ここで、不要なキックダウン制御の実行を適切に防止すべく、プライマリ回転数Np及びアクセルペダル踏込量θaccが上述の要件を満たしている場合でも、キックダウン許可踏込量θaccth以上のアクセルペダル踏込量θaccに至る前のアクセルペダル踏込速度ωが、予め設定されたキックダウン許可踏込速度ωth以下である場合には、キックダウン制御を禁止することが好ましい。この場合、キックダウン許可踏込速度ωthについてもモードM毎に異なる値が設定されていることが好ましく、本実施形態のT/M_ECU20には、例えば、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど、キックダウン許可踏込速度ωthは大きな値に設定されている。具体的には、各モードMに対応するキックダウン許可踏込速度ωthは、例えば、パワーモードM3に対応するキックダウン許可踏込速度ωth(M=M3)が200[%/sec]、ノーマルモードM1に対応するキックダウン許可踏込速度ωth(M=M1)が150[%/sec]、セーブモードM2に対応するキックダウン許可踏込速度ωth(M=M2)が100[%/sec]にそれぞれ設定されている。
【0043】
そして、このように自動ダウンシフト制御(キックダウン制御)についての各条件をモードM毎に異ならせることにより、例えば、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど(よりスポーティなモードであるほど)、マニュアル変速モードを選択時のキックダウンの実施は、ドライバの積極的な操作入力に委ねられる。なお、最もスポーティな駆動力特性のモード(すなわち、本実施形態のパワーモードM3)においては、キックダウンを完全にドライバの変速操作に委ねるべく、キックダウン許可回転数Nthを0[rpm]に設定することも可能である。
【0044】
このように本実施形態において、T/M_ECU20は、自動ダウンシフト制御手段としての機能を実現する。
【0045】
次に、E/G_ECU21で実行されるエンジンのスロットル制御について、図3に示すスロットル制御ルーチンのフローチャートに従って説明する。このルーチンは設定時間毎に実行されるもので、ルーチンがスタートすると、E/G_ECU21は、先ず、ステップS101において、現在設定されているモードMを読み込んだ後、ステップS102に進む。
【0046】
ステップS101からステップS102に進むと、E/G_ECU21は、モード選択スイッチ35がON操作されたか否かを調べ、操作されていないと判定した場合、ステップS107に進む。
【0047】
一方、ステップ102において、モード選択スイッチ35がON操作されたと判定した場合、E/G_ECU21は、ステップS103に進み、ドライバが何れのモードを選択したか否かを判別する。
【0048】
そして、ステップS103において、ドライバによりノーマルモードM1が選択されたと判断したとき、E/G_ECU21は、ステップS104に進み、モードMをノーマルモードM1にセットした後(M←M1)、ステップS107に進む。
【0049】
また、ステップS103において、ドライバによりセーブモードM2が選択されたと判断したとき、E/G_ECU21は、ステップS105に進み、モードMをセーブモードM2にセットした後(M←M2)、ステップS107に進む。
【0050】
また、ステップS103において、ドライバによりパワーモードM3が選択されたと判断したとき、E/G_ECU21は、ステップS106に進み、モードMをパワーモードM3にセットした後(M←M3)ステップS107に進む。
【0051】
ステップS102、ステップS104、ステップS105、或いは、ステップS106からステップS107に進むと、E/G_ECU21は、現在選択されているモードMに対応するモードマップMpeを読み込み、現在のエンジン回転数Neとアクセル開度θaccとに基づきモードマップMpeを補間計算付きで参照して目標トルクτeを決定する。
【0052】
ステップS107からステップS108に進むと、E/G_ECU21は、目標トルクτeに対応する目標スロットル開度θeを求め、続くステップS109において、スロットル開度θthが目標スロットル開度θeに収束するようにスロットルアクチュエータ16aをフィードバック制御した後、ルーチンを抜ける。
【0053】
その結果、ドライバがアクセルペダルを操作すると、アクセル開度θaccとエンジン回転数Neとをパラメータとして、ドライバが選択したモードMに従ってスロットル弁16が開閉動作し、モードM毎に異なる出力特性でエンジン1が駆動される。
【0054】
次に、T/M_ECU20で実行される無段変速機の変速制御について、図6に示す変速制御ルーチンのフローチャートに従って説明する。このルーチンは設定時間毎に実行されるもので、ルーチンがスタートすると、T/M_ECU20は、先ず、ステップS201において、現在セレクト操作部36で選択されているレンジが走行レンジ(すなわち、ドライブレンジ或いはマニュアルレンジ)であるか否かを調べる。
【0055】
そして、ステップS201において、現在のレンジが走行レンジ以外であると判定した場合、T/M_ECU20は、そのまま、ルーチンを抜ける。
【0056】
一方、ステップS201において現在のレンジが走行レンジであると判定した場合、T/M_ECU20は、ステップS202に進み、現在の無段変速機3の制御のモードとして自動変速モードが選択されているか否かを調べる。
【0057】
そして、ステップS202において、現在の制御モードとして自動変速モードが選択されていると判定した場合、T/M_ECU20は、ステップS203に進み、自動変速用マップに基づく自動変速制御を行った後、ルーチンを抜ける。すなわち、ステップS203において、T/M_ECU20は、自動変速用マップMpt1〜Mpt3の中から、モード選択スイッチ35によって現在選択されているモードMに対応する自動変速用マップMptを選択する。そして、T/M_ECU20は、選択した自動変速用マップMptを参照して車速Vとアクセル開度θaccとに基づく目標プライマリ回転数Nptを算出し、油圧制御回路8から各油圧室5f,5gに供給する各油圧の制御を通じて、プライマリ回転数Npを目標プライマリ回転数Nptに収束させる自動変速制御を行う。
【0058】
一方、ステップS202において、現在の制御モードとしてマニュアル変速モードが選択されていると判定した場合、T/M_ECU20は、ステップ204に進み、手動変速用マップMptmとともに、モード選択スイッチ35によって現在選択されているモードMに対応する各閾値を読み込む。すなわち、ステップS204において、T/M_ECU20は、現在のモードMに対応する、自動アップシフト回転数Nu、自動ダウンシフト回転数Nd、キックダウン許可回転数Nth、キックダウン許可踏込量θaccth、キックダウン許可踏込速度ωth等の各閾値を読み込む。
【0059】
そして、ステップS204からステップS205に進むと、T/M_ECU20は、マニュアルスイッチ40或いはテンポラリマニュアルスイッチ42からの信号に基づき、ドライバによるアップシフト操作が行われたか否かを調べ、アップシフト操作が行われたと判定した場合にはステップS206に進み、アップシフト操作が行われていないと判定した場合にはステップS207に進む。
【0060】
ステップS205からステップS206に進むと、T/M_ECU20は、手動変速用マップMptm上に現在の変速段よりも高速段側に変速段が存在するか否かを調べ、高速段側に変速段が存在する場合、油圧制御回路8から各油圧室5f,5gに供給する各油圧の制御を通じて、無段変速機3の変速比を現在よりも1段高速段側の変速段の固定変速比へとアップシフトさせた後、ステップS207に進む。
【0061】
一方、ステップS205或いはステップS206からステップS207に進むと、T/M_ECU20は、マニュアルスイッチ40或いはテンポラリマニュアルスイッチ42からの信号に基づき、ドライバによるダウンシフト操作が行われたか否かを調べる。
【0062】
そして、T/M_ECU20は、ステップS207において、ダウンシフト操作が行われたと判定した場合にはステップS208に進み、ダウンシフト操作が行われていないと判定した場合にはステップS209に進む。
【0063】
ステップS207からステップS208に進むと、T/M_ECU20は、手動変速用マップMptm上に現在の変速段よりも低速段側に変速段が存在するか否かを調べ、低速段側に変速段が存在する場合、油圧制御回路8から各油圧室5f,5gに供給する各油圧の制御を通じて、無段変速機3の変速比を現在よりも1段低速段側の変速段の固定変速比へとダウンシフトさせた後、ステップS209に進む。
【0064】
ステップS207或いはステップS208からステップS209に進むと、T/M_ECU20は、プライマリ回転数Npが現在選択されている自動アップシフト回転数Nu以上であるか否かを調べ、プライマリ回転数Npが自動アップシフト回転数Nu以上であると判定した場合にはステップS210に進み、プライマリ回転数Npが自動アップシフト回転数未満であると判定した場合にはステップS211に進む。
【0065】
ステップS209からステップS210に進むと、T/M_ECU20は、手動変速用マップMptm上に現在の変速段よりも高速段側の変速段が存在するか否かを調べ、高速段側に変速段が存在する場合、油圧制御回路8から各油圧室5f,5gに供給する各油圧の制御を通じて、無段変速機3の変速比を現在よりも1段高速段側の変速段の固定変速比へとアップシフトさせた後、ステップS211に進む。
【0066】
ステップS209或いはステップS210からステップS211に進むと、T/M_ECU20は、プライマリ回転数Npが現在選択されている自動ダウンシフト回転数Nd以下であるか否かを調べ、プライマリ回転数Npが現在選択されている自動ダウンシフト回転数Nd以下であると判定した場合にはステップS212に進み、自動ダウンシフト回転数Ndよりも高いと判定した場合にはステップS213に進む。
【0067】
ステップS211からステップS212に進むと、T/M_ECU20は、手動変速用マップMptm上に現在の変速段よりも低速段側の変速段が存在するか否かを調べ、低速段側に変速段が存在する場合、油圧制御回路8から各油圧室5f,5gに供給する各油圧の制御を通じて、無段変速機3の変速比を現在よりも1段低速段側の変速段の固定変速比へとダウンシフトさせた後、ルーチンを抜ける。
【0068】
一方、ステップS211からステップS213に進むと、T/M_ECU20は、キックダウン制御(ドライバのアクセル操作に応じた低速段側への自動変速制御)を行った後、ルーチンを抜ける。
【0069】
ステップS213におけるキックダウン制御は、例えば、図8に示すキックダウン制御サブルーチンのフローチャートに従って実行されるもので、このサブルーチンがスタートすると、T/M_ECU20は、先ず、ステップS301において、キックダウンの実行条件が既に成立したことを示すキックダウンフラグFが「1」にセットされているか否かを調べる。
【0070】
そして、T/M_ECU20は、ステップS301において、キックダウンフラグFが「1」にセットされていると判定した場合にはステップS308に進み、「0」にリセットされていると判定した場合にはステップS302に進む。
【0071】
ステップS301からステップS302に進むと、T/M_ECU20は、無段変速機3の入力回転数Npがキックダウン許可回転数Nth以下であるか否かを調べる。
【0072】
そして、T/M_ECU20は、ステップS302において、入力回転数Npがキックダウン許可回転数Nth以下であると判定した場合にはステップS303に進み、入力回転数Npがキックダウン許可回転数Nthよりも高いと判定した場合にはそのままサブルーチンを抜ける。
【0073】
ステップS302からステップS303に進むと、T/M_ECU20は、ドライバによるアクセル踏込量θaccがキックダウン許可踏込量θaccth以上であるか否かを調べる。
【0074】
そして、T/M_ECU20は、ステップS303において、アクセル踏込量θaccがキックダウン許可踏込量θaccth以上であると判定した場合にはステップS304に進み、アクセル踏込量θaccがキックダウン許可踏込量θaccth未満であると判定した場合にはそのままサブルーチンを抜ける。
【0075】
ステップS303からステップS304に進むと、T/M_ECU20は、例えば、アクセル踏込量θaccがキックダウン許可踏込量θaccthに至る前の設定サイクルでのアクセル踏込量θaccの変化量に基づき、ドライバによるアクセルペダル踏込速度ωがキックダウン許可踏込速度ωth以上であるか否かを調べる。
【0076】
そして、T/M_ECU20は、ステップ304において、アクセル踏込速度ωがキックダウン許可踏込速度ωth以上であると判定した場合にはステップS305に進み、アクセル踏込速度ωがキックダウン許可踏込速度未満であると判定した場合にはそのままサブルーチンを抜ける。
【0077】
ステップS304からステップS305に進むと、T/M_ECU20は、キックダウンフラグFを「1」にセットし、続くステップS306において、例えば、エンジン1の許容回転数(プライマリ回転数Np)の範囲内でダウンシフト可能な変速段が存在するか否かを調べる。
【0078】
そして、ステップS306において、ダウンシフト可能な変速段が存在しないと判定した場合、T/M_ECU20は、そのままサブルーチンを抜ける。
【0079】
一方、ステップS306において、ダウンシフト可能な変速段が存在すると判定した場合、T/M_ECU20は、ステップS307に進み、無段変速機3の変速比を、現在許容される最も低速側の変速段へとダウンシフト(キックダウン)させた後、サブルーチンを抜ける。
【0080】
また、ステップS301からステップS308に進むと、T/M_ECU20は、アクセル踏込量θaccがキックダウン許可踏込量θaccth未満であるか否かを調べ、アクセル踏込量θaccが自動ダウンシフト踏込量θaccth以上であると判定した場合には、そのままサブルーチンを抜ける。
【0081】
一方、ステップS308においてアクセル踏込量θaccが自動ダウンシフト踏込量θaccth未満であると判定した場合、T/M_ECU20は、ステップS309に進み、ダウンシフトフラグFを「0」にリセットした後、サブルーチンを抜ける。
【0082】
このような実施形態によれば、駆動力特性のモードMを複数備えたパワートレイン10において、当該パワートレイン10を構成する無段変速機3の制御モードとしてマニュアル変速モードが選択されているときの自動アップシフト回転数Nuを、パワートレイン10が発生させる駆動力特性のモードM毎に異なる値に設定することにより、基本的には変速についてドライバの意思を尊重するマニュアル変速モードにおいても、各モードMにおける駆動力特性の特徴(本実施形態においてはエンジン1の出力特性の相違をベースとする駆動力特性の特徴)を明確に差異付けることができる。
【0083】
具体的には、例えば、過回転防止のために許容されるエンジン1の最大回転数Nemaxに対応するプライマリ回転数Npmax以下の範囲内において、自動アップシフト回転数Nuを、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードMであるほど高く設定することにより、マニュアル変速モードの選択時においても、ドライバのフィーリング等に合致させつつ、駆動力特性の各モードMによる特徴を明確に差異付けることができる。すなわち、例えば、駆動力特性のモードMとしてノーマルモードM1、セーブモードM2、及び、パワーモードM3の3つのモードMを備えている場合において、パワーモードM3に対応する自動アップシフト回転数Nuが最も高く、次いで、ノーマルモードM1、セーブモードM2の順に自動アップシフト回転数Nuが低くなるよう設定することにより、マニュアル変速モードの選択時においても、モードM毎に異なるエンジン1の出力特性と相俟って、ドライバのフィーリングに合致した駆動力特性での走行を実現することができる。例えば、図9(a)〜(c)中に太実線で示すように、マニュアル変速モードの選択時において、ドライバが同一の走行状態からアクセルペダルを踏み込んだ場合にも、セーブモードM2の選択時(図9(b)参照)にはノーマルモードM1の選択時(図9(a)参照)よりも相対的に早いタイミングで自動アップシフトが順次行われ、パワーモードM3の選択時(図9(c)参照)にはノーマルモードM1の選択時よりも相対的に遅いタイミングで自動アップシフトが順次行われる。これにより、例えば、図11(a)に示すように、マニュアル変速モードの選択時においても、駆動力特性のモードM毎に明確に異なる加速性能を実現することができる。なお、図9(a)〜(c)中の太破線は、例えば、マニュアル変速モードによるコースト走行時等における自動ダウンシフトについて示すものである。
【0084】
また、プライマリ回転数Npがキックダウン許可回転数Nth以下であり、且つ、アクセルペダル踏込量θaccがキックダウン許可踏込量θaccth以上である場合には、マニュアル変速モードの選択時においても、ドライバのアクセル操作から加速意思を判断して変速段を低速段側にキックダウンさせることにより、ドライバにより選択された変速段を尊重しつつ、ドライバの意思に合致した自動変速を実現することができる。その際、駆動力特性のモードM毎にキックダウン許可回転数Nthを異ならせ、プライマリ回転数Npに基づいてキックダウンの自動実行を許可する回転数領域を、アクセル操作に対する応答性が高いモードMであるほど狭い領域に設定することにより、ドライバのフィーリングに合致したキックダウン制御を実現することができる。すなわち、例えば、スポーツ仕様の車両では、マニュアル変速モードでの走行中において、ドライバは、よりスポーティなモードMを選択しているときほど、キックダウンの自動実行を不要な介入であると感じることが想定される。そこで、アクセル操作に対する応答性が高いモードMであるほどキックダウン許可回転数Nthを低く設定することにより、ドライバの意思に合致した違和感のない変速介入を実現することができる。
【0085】
また、駆動力特性のモードM毎にキックダウン許可踏込量θaccthを異ならせ、アクセルペダル踏込量θaccに対してキックダウンの自動実行を判定する閾値を、アクセル操作に対する応答性が高いモードMであるほど大きく設定することにより、ドライバのフィーリングにより合致したキックダウン制御を実現することができる。
【0086】
加えて、プライマリ回転数Np及びアクセルペダル踏込量θaccが上述の要件を満たしている場合でも、キックダウン許可踏込量θaccth以上のアクセルペダル踏込量θaccに至る前のアクセルペダル踏込速度ωが、予め設定されたキックダウン許可踏込速度ωth以下である場合には、キックダウン制御を禁止することにより、ドライバの意図に反する不要なキックダウンの実行を適切に防止することができる。この場合においても、キックダウン許可踏込速度ωthについてもモードM毎に異なる値を設定し、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードMであるほど、キックダウン許可踏込速度ωthは大きな値に設定することにより、ドライバのフィーリングに合致したキックダウン制御を実現することができる。
【0087】
ここで、各モードによる同様の走行状態(プライマリ回転数Np、車速V)での走行中において、ドライバによって同様のアクセルペダルの踏み込みがされた際のキックダウン制御の一例について図10(a)〜(c)を参照して説明する。
【0088】
図10(b)は、セーブモードM2が選択されているときの一例について示すものであり、点Pの走行状態は、キックダウン許可回転数Nth以下の回転数領域に属する。また、セーブモードM2ではキックダウン許可踏込量θaccth及びキックダウン許可踏込速度ωthが3つのモードM中最も低く設定されており、ドライバによる比較的浅めのアクセルペダルの踏込操作によっても容易にキックダウンの実行が判断される。従って、図10(b)に示す例では、点Pの走行状態におけるドライバのアクセルペダルの踏込操作に対して、変速段が5速から3速へとキックダウンされている。
【0089】
図10(a)は、ノーマルモードM1が選択されているときの一例について示すものであり、点Pの走行状態は、キックダウン許可回転数Nth以下の回転数領域に属する。しかし、ノーマルモードM1では、キックダウン許可踏込量θaccth及び自動ダウンシフト許可踏込速度ωthがセーブモードM2よりも相対的に高く設定されている。従って、図10(a)に示す例では、点Pの走行状態におけるドライバのアクセルペダルの踏込操作に対して、キックダウンが実行されることなく、ドライバが選択した5速の変速段が維持されている。
【0090】
図10(c)は、パワーモードM3が選択されているときの一例について示すものであり、点Pの走行状態は、キックダウン許可回転数Nthよりも高い回転数領域に属する。従って、図10(c)に示す例では、点Pの走行状態におけるドライバのアクセルペダルの踏込操作に対して、キックダウンが実行されることなく、ドライバが選択した5速の変速段が維持されている。また、仮に、点Pの走行状態がキックダウン許可回転数Nth以下の回転数領域に属する場合であっても、パワーモードM3では、キックダウン許可踏込量θaccth及び自動ダウンし負値許可踏込速度ωthが3つのモードMの中で最も高く設定されている。従って、ドライバのアクセルペダルの踏込操作に対して容易にキックダウンが実行されることがなく、ドライバが選択した変速段が最も尊重される。
【0091】
これにより、例えば、図11(b)に示すように、マニュアル変速モードの選択時において、アクセルペダルが踏み込まれた際にはモードM毎に異なる態様でのキックダウンが実行され、当該キックダウンの実行の態様の相違によってモードM毎に異なる加速性能が実現される。
【0092】
ところで、スポーティな走行よりもイージードライブ性や快適性を追求した車両に対しては、マニュアル変速モードによる走行中に、仮にパワーモードM3が選択されている場合であっても、ドライバの手動による変速操作が頻繁に行うことは考えにくい。従って、このような車両においては、上述のようなドライバによる変速操作を織り込んだ上でのキックダウン制御とは逆に、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど容易にキックダウンが実行されるよう制御することが望ましい。
【0093】
すなわち、この種の車両においては、例えば、キックダウン許可回転数Nthは、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど高い回転数に設定され、パワーモードM3に対応する回転数Nthが最も高く、次いで、ノーマルモードM1、セーブモードM2の順に低くなるよう設定されている。すなわち、例えば、図12に示すように、各モードMに対応するキックダウン許可回転数Nthは、パワーモードM3に対応するキックダウン許可回転数Nth(M=M3)が3000[rpm]、ノーマルモードM1に対応するキックダウン許可回転数Nth(M=M1)が2500[rpm]、セーブモードM2に対応するキックダウン許可回転数Nth(M=M2)が2000[rpm]にそれぞれ設定されている。
【0094】
また、キックダウン許可踏込量θaccthについてもモードM毎に異なる値が設定されていることが好ましく、T/M_ECU20には、例えば、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど、キックダウン許可踏込量θaccthは小さな値に設定されている。具体的には、各モードMに対応するキックダウン許可踏込量θaccthは、例えば、パワーモードM3に対応するキックダウン許可踏込量θaccth(M=M3)が60[%]、ノーマルモードM1に対応するキックダウン許可踏込量θaccthが70[%]、セーブモードM1に対応するキックダウン許可踏込量θaccthが80[%]にそれぞれ設定されている。
【0095】
また、不要なキックダウン制御の実行を適切に防止すべく、プライマリ回転数Np及びアクセルペダル踏込量θaccが上述の要件を満たしている場合でも、キックダウン許可踏込量θaccth以上のアクセルペダル踏込量θaccに至る前のアクセルペダル踏込速度ωが、予め設定されたキックダウン許可踏込速度ωth以下である場合には、キックダウン制御を禁止することが好ましい。この場合、キックダウン許可踏込速度ωthについてもモードM毎に異なる値が設定されていることが好ましく、T/M_ECU20には、例えば、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど、キックダウン許可踏込速度ωthは小さな値に設定されている。具体的には、各モードMに対応するキックダウン許可踏込速度ωthは、例えば、パワーモードM3に対応するキックダウン許可踏込速度ωth(M=M3)が100[%/sec]、ノーマルモードM1に対応するキックダウン許可踏込速度ωth(M=M1)が150[%/sec]、セーブモードM2に対応するキックダウン許可踏込速度ωth(M=M2)が200[%/sec]にそれぞれ設定されている。
【0096】
そして、このように自動ダウンシフト制御(キックダウン制御)についての各条件をモードM毎に異ならせることにより、例えば、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど(よりスポーティなモードであるほど)、マニュアル変速モードを選択時のキックダウンは、積極的に自動実施される。なお、アクセル操作に対する応答性が最も低い駆動力特性のモードM(すなわち、本実施形態のセーブモードM2)においては、キックダウン許可回転数Nthを0[rpm]に設定することも可能である。
【0097】
このような設定によっても、車両のキャラクターによっては、ドライバの選択した変速段を所定に維持しつつ、必要に応じてドライバの意思に合致した違和感のない自動変速を行うことができる。
【0098】
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲内である。
【0099】
例えば、駆動特性として、3種類のモードを有する例について説明したが、2種類のモード、或いは、4種類以上のモードを有する場合についても本発明が適用できる。そのような場合、キックダウン許可回転数等も2種類或は4種類以上に設定することができる。
【0100】
また、自動変速機として、無段変速機が適用された例について説明したが、多段変速機についても適用できる。そのような場合、変速比は変速段と読み換えて適用する。
【符号の説明】
【0101】
1 … エンジン
2 … 発進クラッチ
3 … 無段変速機(自動変速機)
4 … 前後進切換装置
5a … プライマリプーリ
5b … プーリ入力軸
5c … プーリ出力軸
5d … セカンダリプーリ
5e … 駆動ベルト
5f … プライマリ油圧室
5g … セカンダリ油圧室
6 … 終減速装置
6a … 減速歯車群
6b … ディファレンシャル装置
7 … 駆動軸
7a … 駆動輪
8 … 油圧制御回路
10 … パワートレイン
15 … 吸気通路
16 … スロットル弁
16a … スロットルアクチュエータ
17 … インジェクタ
20 … トランスミッション制御装置(自動ダウンシフト制御手段)
21 … エンジン制御装置
22 … 統合制御装置
23 … 車内通信回線
30 … エンジン回転数センサ
31 … 吸入空気量センサ
32 … アクセル開度センサ
33 … スロットル開度センサ
35 … モード選択スイッチ
36 … セレクト操作部
36a … メインゲート
36b … サブゲート
36c … セレクトレバー
37 … インヒビタスイッチ
38 … プライマリ回転数センサ
39 … セカンダリ回転数センサ
40 … マニュアルスイッチ
42 … テンポラリマニュアルスイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の制御モードとして、予め設定された複数の変速段の何れかを手動によって選択可能なマニュアル変速モードを備えた車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両に搭載されるパワートレインにおいては、ドライバのアクセル操作に対して発生させる駆動力特性が異なる複数のモードを備え、これらのモードを選択的に切り換えることにより、燃費向上を重視した走行やスポーツ性を重視した走行等を実現する技術が数多く開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、駆動力特性として、アクセル開度に対して出力トルクが略リニアに変化するノーマルモードと、エンジントルクをセーブしてイージードライブ性と低燃費性との双方を両立させるセーブモードと、エンジンの低回転域から高回転域までレスポンスに優れる出力特性を実現したパワー重視のパワーモードとを設定し、センターコンソールに設けられているシャトルスイッチからの操作入力に応じて、ドライバの好みに応じた運転モードを選択可能とした技術が開示されている。
【0004】
ところで、この種のパワートレインを構成する自動変速機として、例えば無段変速機においては、変速モードとして、予め設定された変速特性に従って変速比を自動で制御する自動変速モードに加え、予め設定された複数の変速段の何れかを手動で選択することによって所定の固定変速比に変速可能なマニュアル変速モードを備えたものが広く知られている。この場合、マニュアル変速モードにおける変速比は、基本的には、ドライバが選択した変速段の固定変速比で保持されるが、エンジン保護等の観点から、無段変速機の入力回転数が予め設定された一定の自動アップシフト/ダウンシフト回転数を超えた場合等には、変速段が強制的にアップシフト或いはダウンシフトされる(。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3872507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような自動変速機を備えた駆動力制御装置においては、マニュアル変速モード選択時は、予め設定された自動アップシフト/ダウンシフト回転数の範囲内においてはドライバが選択した変速段が維持される。
【0007】
そのため、上記回転数の範囲内においては、ドライバがアクセルを踏み込み、キックダウンスイッチがオンされても、所定のダウンシフトがされないため、ドライバの意図に沿わない変速動作が行われるという問題があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、マニュアル変速モードにおいて、ドライバの選択した変速段を所定に維持しつつ、必要に応じてドライバの意思に合致した違和感のない自動変速を行うことができる車両の駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
パワートレインを構成する自動変速機の制御モードとして、予め設定された変速特性に従って変速比又は変速段を自動で制御する自動変速モードと、予め設定された複数の変速段の何れかを手動で選択可能なマニュアル変速モードと、を備えた車両の駆動力制御装置であって、前記マニュアル変速モードの選択時に、前記自動変速機の入力回転数が予め設定されたキックダウン許可回転数以下であり、且つ、ドライバによるアクセルペダル踏込量が予め設定されたキックダウン許可踏込量以上であるとき、変速段を現在の変速段よりも低速側の変速段に自動変速させる自動ダウンシフト制御手段を備え、前記自動ダウンシフト制御手段には、前記キックダウン許可回転数として、前記駆動力特性のモード毎に異なる回転数が設定されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両の駆動力制御装置によれば、マニュアル変速モードにおいて、ドライバの選択した変速段を所定に維持しつつ、必要に応じてドライバの意思に合致した違和感のない自動変速を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】車両に搭載されるパワートレインの概略構成図
【図2】エンジンのノーマルモードマップ、セーブモードマップ、及び、パワーモードマップをそれぞれ示す概念図
【図3】エンジンのスロットル制御ルーチンを示すフローチャート
【図4】自動変速用マップを示す概念図
【図5】手動変速用マップを示す概念図
【図6】無段変速機の変速制御ルーチンを示すフローチャート
【図7】駆動力特性のモードとしてノーマルモード、セーブモード、及び、パワーモードが選択された各マニュアル変速モード時におけるキックダウン許可回転数を示す説明図
【図8】キックダウン制御サブルーチンを示すフローチャート
【図9】駆動力特性のモードとしてノーマルモード、セーブモード、及び、パワーモードが選択された各マニュアル変速モード時における変速比の推移の一例を示す説明図
【図10】駆動力特性のモードとしてノーマルモード、セーブモード、及び、パワーモードが選択された各マニュアル変速モード時における変速比の推移の一例を示す説明図
【図11】駆動力特性の各モードが選択されたマニュアル変速モード時においてアクセル踏込操作に対する車速の推移の一例を示す説明図
【図12】駆動力特性のモードとしてノーマルモード、セーブモード、及び、パワーモードが選択された各マニュアル変速モード時におけるキックダウン許可回転数の変形例を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、図1は車両に搭載されるパワートレインの概略構成図、図2(a)〜(c)はエンジンのノーマルモードマップ、セーブモードマップ、及び、パワーモードマップをそれぞれ示す概念図、図3はエンジンのスロットル制御ルーチンを示すフローチャート、図4は自動変速用マップを示す概念図、図5は手動変速用マップを示す概念図、図6は無段変速機の変速制御ルーチンを示すフローチャート、図7(a)〜(c)は駆動力特性のモードとしてノーマルモード、セーブモード、及び、パワーモードが選択された各マニュアル変速モード時におけるキックダウン許可回転数を示す説明図、図8はキックダウン制御サブルーチンを示すフローチャート、図9(a)〜(c)は駆動力特性のモードとしてノーマルモード、セーブモード、及び、パワーモードが選択された各マニュアル変速モード時における変速比の推移の一例を示す説明図、図10(a)〜(c)は駆動力特性のモードとしてノーマルモード、セーブモード、及び、パワーモードが選択された各マニュアル変速モード時における変速比の推移の一例を示す説明図、図11は駆動力特性の各モードが選択されたマニュアル変速モード時においてアクセル踏込操作に対する車速の推移の一例を示す説明図、図12(a)〜(c)は駆動力特性のモードとしてノーマルモード、セーブモード、及び、パワーモードが選択された各マニュアル変速モード時におけるキックダウン許可回転数の変形例を示す説明図である。
【0013】
図1において符号1はエンジンを示し、このエンジン1は、電磁クラッチ或いはトルクコンバータ等の発進クラッチ2を介して無段変速機3に連設されることにより、自動車等の車両のパワートレイン10の要部を構成する。
【0014】
無段変速機3は、発進クラッチ2に連設する前後進切換装置4を有し、この前後進切換装置4から延出するプーリ入力軸5bにはプライマリプーリ5aが軸支されている。また、プーリ入力軸5bに対して平行に配置されたプーリ出力軸5cにはセカンダリプーリ5dが軸支され、これらプライマリプーリ5aとセカンダリプーリ5dとの間には、駆動ベルト5eが巻装されている。さらに、プーリ出力軸5cには、終減速装置6の減速歯車群6aを介してディファレンシャル装置6bが連設され、このディファレンシャル装置6bには、前輪或いは後輪の駆動輪7aを軸着する駆動軸7が連設されている。なお、本実施形態において、前後進切換装置4の前進時における変速比は「1」に設定されており、発進クラッチ2が締結された前進時のエンジン回転数Neとプライマリ回転数Npとは1:1で対応する。
【0015】
プライマリプーリ5aにはプライマリ油圧室5fが併設され、このプライマリ油圧室5fに油圧制御回路8から供給されるプライマリ油圧により、プライマリプーリ5aの溝幅が調整される。一方、セカンダリプーリ5dにはセカンダリ油圧室5gが併設され、このセカンダリ油圧室5gに油圧制御回路8から供給されるセカンダリ油圧により、トルク伝達に必要な張力が駆動ベルト5eに付与される。油圧制御回路8は後述するトランスミッション制御装置(T/M_ECU)20において制御され、この油圧制御を通じて両プーリ5a,5dの溝幅が互いに反比例状態に制御されることにより、無段変速機3は所望の変速比を実現する。
【0016】
T/M_ECU20は、CAN(Controller Area Network)通信等の車内通信回線23を通じて、エンジン制御装置(E/G_ECU)21、及び、統合制御装置(統合_ECU)22等の各種制御装置と相互通信可能に接続されている。各ECU20〜22は、マイクロコンピュータ等を主体に構成され、周知のCPU、ROM、RAM及びEEPROM等の不揮発性記憶手段等を有している。
【0017】
T/M_ECU20の入力側には、例えば、プライマリプーリ5aの回転数(プライマリ回転数Np)を検出するプライマリ回転数センサ38、セカンダリプーリ5dの回転数(セカンダリ回転数Ns)を検出するセカンダリ回転数センサ39、セレクト操作部36で選択されたレンジを検出するインヒビタスイッチ37等が接続されている。また、T/M_ECU20の出力側には、油圧制御回路8等のアクチュエータ類が接続されている。
【0018】
ここで、本実施形態において、セレクト操作部36は、例えば、パーキング(P)レンジ、リバース(R)レンジ、ニュートラル(N)レンジ、及び、ドライブ(D)レンジが設定されたメインゲート36aと、マニュアル(M)レンジが設定されたサブゲート36bとを有する。これら各ゲート36a,36b上の各レンジはセレクトレバー36cを通じて選択可能となっており、選択されたレンジはインヒビタスイッチ37で検出される。また、サブゲート36bには、マニュアルレンジを挟んだ両側に、アップシフト(+)位置とダウンシフト(−)位置とが設定され、さらに、これらアップシフト位置及びダウンシフト位置には、後述するマニュアルスイッチ40が併設されている。そして、マニュアルレンジの選択中にセレクトレバー36cがアップシフト位置或いはダウンシフト位置に操作されると、アニュアルスイッチ40は、アップシフト信号或いはダウンシフト信号を出力する。
【0019】
E/G_ECU21の入力側には、例えば、クランク軸の回転からエンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ30、エアクリーナの直下流等に配設されて吸入空気量Qを検出する吸入空気量センサ31、アクセルペダルの踏込量から実アクセル開度θaccを検出するアクセル開度センサ32、吸気通路15に介装された電子制御式のスロットル弁16の開度θthを検出するスロットル開度センサ33等が接続されている。また、E/G_ECU21の出力側には、例えば、所定に計量された燃料を噴射するインジェクタ17、スロットル弁16に設けられているスロットルアクチュエータ16a等のエンジン駆動を制御する各種アクチュエータ類が接続されている。
【0020】
統合_ECU22の入力側には、例えば、アクセル操作に対してパワートレイン10が発生させる駆動力特性の制御モードを選択的に切り換えるためのモード選択スイッチ35、上述のマニュアルスイッチ40、ステアリング41に配設されたテンポラリマニュアルスイッチ42等が接続されている。
【0021】
ここで、本実施形態において、パワートレイン10の駆動力特性のモードとしては、例えば、ノーマルモードM1、セーブモードM2、及び、パワーモードM3からなる3つのモードMが設定されており、統合_ECU22は、モード選択スイッチ35を通じてドライバにより選択された何れかのモード情報を、車内通信回線23を介してT/M_ECU20及びE/G_ECU21等に出力する。
【0022】
また、テンポラリマニュアルスイッチ42は、例えば、一対の操作部42a,42bを有して構成され、ステアリング41の右側に配設された操作部42aが操作される毎にアップシフト信号を出力し、左側に配設された操作部42bが操作される毎にダウンシフト信号を出力する。
【0023】
E/G_ECU21のメモリ内には、例えば、エンジン出力特性を示すマップとして、3種類のモードマップMpe1,Mpe2,Mpe3が予め設定されて格納されている。図2(a)〜(c)に示すように、各モードマップは、アクセル開度θaccとエンジン回転数Neとを格子軸とし、各格子点にエンジン出力指示値(目標トルク)を格納する3次元マップで構成されている。
【0024】
これらの各モードマップMpe1,Mpe2,Mpe3は、基本的には、ドライバによるモード選択スイッチ35の操作によって選択される。すなわち、E/G_ECU21は、モード選択スイッチ35にてノーマルモードM1が選択されている場合にノーマルモードマップMpe1を選択し、セーブモードM2が選択されている場合にセーブモードマップMpe2を選択し、パワーモードM3が選択されている場合にパワーモードマップMpe3を選択する。
【0025】
そして、E/G_ECU21は、選択したモードマップMpeと各センサ類からの検出信号等に基づき、インジェクタ17に対する燃料噴射タイミング、及び燃料噴射パルス幅(パルス時間)を設定する。さらに、E/G_ECU21は、スロットルアクチュエータ16aに対してスロットル開度信号を出力し、スロットル弁16の開度を制御する。
【0026】
ここで、図2(a)に示すノーマルモードマップMpe1は、アクセル開度θaccが比較的小さい領域で目標トルクがリニアに変化する特性に設定されており、スロットル弁16の開度θthが全開付近で最大目標トルクとなるように設定されている。
【0027】
また、図2(b)に示すセーブモードマップMpe2は、ノーマルモードマップMpe1に比し、目標トルクの上昇が抑えられており、アクセルペダルを全踏しても、スロットル弁16は全開せず、相対的にアクセルペダルの踏み込みに対し、スロットル弁16の開度変化がノーマルモードよりも小さくなる。従って、ノーマルモードと同じアクセルペダルの踏み込み量であっても、スロットル開度θeが小さく、出力トルクの上昇が抑制される。その結果、セーブモードマップMpe2に基づき出力トルクを抑制した走行を行うことで、アクセルペダルを思い切り踏み込む等のアクセルワークを楽しむことができる。さらに、目標トルクの上昇が抑えられているため、イージードライブ性と低燃費性との双方をバランス良く両立させることができ、例えば、3リッタエンジンを搭載する車両であっても、2リッタエンジン相当の十分な出力を確保しながらスムーズな出力特性とし、特に街中等の実用領域における扱いやすさを重視した目標トルクが設定される。
【0028】
また、図2(c)に示すパワーモードマップMpe3は、略全運転領域でアクセル開度θaccの変化に対する目標トルクの変化率が大きく設定されている。従って、例えば、3リッタエンジンを搭載する車両であれば、3リッタエンジンの有するポテンシャルを最大限に発揮できるような目標トルクが設定される。
【0029】
T/M_ECU20のメモリ内には、例えば、上述のモードマップMpe1〜Mpe3にそれぞれ適合した変速特性にて無段変速機3の変速比を自動制御するための自動変速用マップMpt1〜Mpt3(図4参照)と、無段変速機3の変速比を予め設定された変速段(例えば、1〜6速の変速段)の固定変速比に制御するための手動変速用マップMptm(図5参照)とが予め設定されて格納されている。そして、T/M_ECU20は、選択した変速用マップMptと各センサ類からの検出信号等に基づき、油圧制御回路8から各油圧室5f,5gに供給する各油圧の制御を通じて無段変速機3の変速比を制御する。
【0030】
これらのマップのうち、自動変速用マップMpt1〜Mpt3は、基本的には、セレクト操作部36でドライブレンジが選択されて無段変速機3に対する制御モードが自動変速制モードとなっているとき、モード選択スイッチ35で選択されたモードMに応じて選択的に用いられる。すなわち、T/M_ECU20は、エンジン1の各モードマップMpeに対応すべく、モード選択スイッチ35においてノーマルモードM1が選択されているとき自動変速用マップMpt1選択し、セーブモードM2が選択されているとき自動変速用マップMpt2を選択し、パワーモードM3が選択されているとき自動変速用マップMpt3を選択する。そして、T/M_ECU20は、例えば、選択した自動変速用マップMptを参照して現在の車速V及びアクセル開度θaccに基づく目標プライマリ回転数Nptを設定し、プライマリ回転数Npが目標プライマリ回転数Nptに収束するよう変速比を制御する。
【0031】
ここで、例えば、図4に示すように、各自動変速用マップMpt1〜Mpt3は、最大変速比であるLowから最小変速比であるオーバードライブ(OB)の間に、車速Vと目標プライマリ回転数Nptとの関係を示す変速特性ラインがアクセル開度θacc毎に設定されたマップで構成されている。この場合、各自動変速用マップMpt1〜Mpt3上の各変速特性ラインは、上述したエンジン出力特性のモードマップMpe1〜Mpe3にそれぞれ適合すべく、基本的には、車速V及びアクセル開度θaccが同一条件である場合に、モードM2での変速特性ラインがモードM1での変速特性ラインよりも相対的に低い目標プライマリ回転数Npを演算し、モードM3での変速特性ラインがモードM2での変速特性ラインよりも相対的に高い目標プライマリ回転数Npを演算するよう設定されている。
【0032】
これにより、セレクト操作部36でドライブレンジが選択された自動変速モードでの制御時には、エンジン1の出力特性に応じた適切な変速制御が行われ、モード選択スイッチ35で選択されたモード毎にそれぞれ特徴的な特性の駆動力をパワートレイン10で発生させることが可能となっている。
【0033】
一方、セレクト操作部36のレンジがドライブレンジからマニュアルレンジに変更されて無段変速機3の制御モードが自動変速モードからマニュアル変速モードに変更されると、T/M_ECU20は、変速制御用のマップとして手動変速用マップMptmを選択する。
【0034】
そして、T/M_ECU20は、基本的には、統合_ECU22を介してマニュアルスイッチ40或いはテンポラリマニュアルスイッチ42からのアップシフト信号が入力される毎に、無段変速機3の変速比を現在の変速比よりも高速段側の固定変速比へと順次アップシフトさせる。或いは、T/M_ECU20は、統合_ECU22を介してマニュアルスイッチ40或いはテンポラリマニュアルスイッチ42からのダウンシフト信号が入力される毎に、無段変速機3の変速比を現在の変速比よりも低速段側の固定変速比へと順次ダウンシフトさせる。
【0035】
加えて、T/M_ECU20は、セレクト操作部36でドライブレンジが選択されている場合であっても、統合_ECU22を介してテンポラリマニュアルスイッチ42からのアップシフト信号(或いはダウンシフト信号)が入力された場合には、予め設定された所定の復帰条件を充足するまでの間(例えば、設定時間経過するまでの間等)、一時的なマニュアル変速モードへと移行する。そして、T/M_ECU20は、無段変速機3の変速比を、テンポラリマニュアルスイッチ42を通じて選択された変速段の固定変速比に変速させる。
【0036】
このように、本実施形態のT/M_ECU20には、マニュアル変速モードとして、ドライバによってセレクト操作部36のレンジがマニュアルレンジに変更された後に再びドライブレンジへと変更されるまでの間維持される定常的なマニュアル変速モードと、セレクト操作部36による選択はドライブレンジのままでテンポラリマニュアルスイッチ42の操作を通じて切り換えられ、予め設定された復帰条件が成立したとき自動変速モードへと自動復帰する一時的な(テンポラリ)マニュアル変速モードと、が設定されている。
【0037】
ここで、マニュアル変速モードにおけるエンジン1の過回転防止等を目的として、T/M_ECU20は、無段変速機3の入力回転数Npが予め設定された自動アップシフト回転数Nuを越えたとき、変速比を高速段側の固定変速比へと強制的に自動で変速させる。また、所定の加速性能を確保してドライバビリティを向上すること等を目的として、T/M_ECU20は、プライマリ回転数Npは予め設定された自動ダウンシフト回転数Ndを下回ったとき、変速比を低速段側の固定変速比へと強制的に自動で変速させる。
【0038】
なお、本実施形態において、自動アップシフト回転数Nuは、駆動力特性のモードM毎にそれぞれ異なる回転数に設定されている。具体的には、本実施形態の自動アップシフト回転数Nuは、例えば、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど高い回転数に設定され、パワーモードM3に対応する回転数が最も高く、次いで、ノーマルモードM1、セーブモードM2の順に低くなるよう設定されている。例えば、過回転防止等を目的としてエンジン1に許容された最大回転数が7000[rpm]であり且つ発進クラッチ2が締結された前進時のエンジン回転数Neとプライマリ回転数Npとが1:1で対応している場合において、各モードMに対応する自動アップシフト回転数Nuは、パワーモードM3に対応する自動アップシフト回転数Nu(M=M3)が7000[rpm]、ノーマルモードM1に対応する自動アップシフト回転数Nu(M=M1)が6000[rpm]、セーブモードM2に対応する自動アップシフト回転数Nu(M=M2)が5000[rpm]にそれぞれ設定されている。一方、本実施形態の自動ダウンシフト回転数Ndは、各モードM1〜M3とも同一の値が設定されており、例えば、1000[rpm]に設定されている。
【0039】
さらに、T/M_ECU20は、マニュアル変速モードの選択時に、無段変速機3の入力回転数(プライマリ回転数Np)が予め設定されたキックダウン許可回転数Nth以下であり、且つ、ドライバによるアクセルペダル踏込量θaccが予め設定されたキックダウン許可踏込量θaccth以上であるとき、変速段を現在の変速段よりも低速側の変速段に自動で変速させる自動ダウンシフト制御(所謂、キックダウン制御)を行う。
【0040】
ここで、T/M_ECU20には、キックダウン許可回転数Nthとして、駆動力特性のモード毎に異なる回転数が設定されている。具体的には、本実施形態のキックダウン許可回転数Nthは、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど低い回転数に設定され、パワーモードM3に対応する回転数Nthが最も低く、次いで、ノーマルモードM1、セーブモードM2の順に高くなるよう設定されている。すなわち、例えば、図7に示すように、各モードMに対応するキックダウン許可回転数Nthは、パワーモードM3に対応するキックダウン許可回転数Nth(M=M3)が2000[rpm]、ノーマルモードM1に対応するキックダウン許可回転数Nth(M=M1)が2500[rpm]、セーブモードM2に対応するキックダウン許可回転数Nth(M=M2)が3000[rpm]にそれぞれ設定されている。
【0041】
また、キックダウン許可踏込量θaccthについてもモードM毎に異なる値が設定されていることが好ましく、T/M_ECU20には、例えば、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど、キックダウン許可踏込量θaccthは大きな値に設定されている。具体的には、各モードMに対応するキックダウン許可踏込量θaccthは、例えば、パワーモードM3に対応するキックダウン許可踏込量θaccth(M=M3)が80[%]、ノーマルモードM1に対応するキックダウン許可踏込量θaccthが70[%]、セーブモードM1に対応するキックダウン許可踏込量θaccthが60[%]にそれぞれ設定されている。
【0042】
ここで、不要なキックダウン制御の実行を適切に防止すべく、プライマリ回転数Np及びアクセルペダル踏込量θaccが上述の要件を満たしている場合でも、キックダウン許可踏込量θaccth以上のアクセルペダル踏込量θaccに至る前のアクセルペダル踏込速度ωが、予め設定されたキックダウン許可踏込速度ωth以下である場合には、キックダウン制御を禁止することが好ましい。この場合、キックダウン許可踏込速度ωthについてもモードM毎に異なる値が設定されていることが好ましく、本実施形態のT/M_ECU20には、例えば、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど、キックダウン許可踏込速度ωthは大きな値に設定されている。具体的には、各モードMに対応するキックダウン許可踏込速度ωthは、例えば、パワーモードM3に対応するキックダウン許可踏込速度ωth(M=M3)が200[%/sec]、ノーマルモードM1に対応するキックダウン許可踏込速度ωth(M=M1)が150[%/sec]、セーブモードM2に対応するキックダウン許可踏込速度ωth(M=M2)が100[%/sec]にそれぞれ設定されている。
【0043】
そして、このように自動ダウンシフト制御(キックダウン制御)についての各条件をモードM毎に異ならせることにより、例えば、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど(よりスポーティなモードであるほど)、マニュアル変速モードを選択時のキックダウンの実施は、ドライバの積極的な操作入力に委ねられる。なお、最もスポーティな駆動力特性のモード(すなわち、本実施形態のパワーモードM3)においては、キックダウンを完全にドライバの変速操作に委ねるべく、キックダウン許可回転数Nthを0[rpm]に設定することも可能である。
【0044】
このように本実施形態において、T/M_ECU20は、自動ダウンシフト制御手段としての機能を実現する。
【0045】
次に、E/G_ECU21で実行されるエンジンのスロットル制御について、図3に示すスロットル制御ルーチンのフローチャートに従って説明する。このルーチンは設定時間毎に実行されるもので、ルーチンがスタートすると、E/G_ECU21は、先ず、ステップS101において、現在設定されているモードMを読み込んだ後、ステップS102に進む。
【0046】
ステップS101からステップS102に進むと、E/G_ECU21は、モード選択スイッチ35がON操作されたか否かを調べ、操作されていないと判定した場合、ステップS107に進む。
【0047】
一方、ステップ102において、モード選択スイッチ35がON操作されたと判定した場合、E/G_ECU21は、ステップS103に進み、ドライバが何れのモードを選択したか否かを判別する。
【0048】
そして、ステップS103において、ドライバによりノーマルモードM1が選択されたと判断したとき、E/G_ECU21は、ステップS104に進み、モードMをノーマルモードM1にセットした後(M←M1)、ステップS107に進む。
【0049】
また、ステップS103において、ドライバによりセーブモードM2が選択されたと判断したとき、E/G_ECU21は、ステップS105に進み、モードMをセーブモードM2にセットした後(M←M2)、ステップS107に進む。
【0050】
また、ステップS103において、ドライバによりパワーモードM3が選択されたと判断したとき、E/G_ECU21は、ステップS106に進み、モードMをパワーモードM3にセットした後(M←M3)ステップS107に進む。
【0051】
ステップS102、ステップS104、ステップS105、或いは、ステップS106からステップS107に進むと、E/G_ECU21は、現在選択されているモードMに対応するモードマップMpeを読み込み、現在のエンジン回転数Neとアクセル開度θaccとに基づきモードマップMpeを補間計算付きで参照して目標トルクτeを決定する。
【0052】
ステップS107からステップS108に進むと、E/G_ECU21は、目標トルクτeに対応する目標スロットル開度θeを求め、続くステップS109において、スロットル開度θthが目標スロットル開度θeに収束するようにスロットルアクチュエータ16aをフィードバック制御した後、ルーチンを抜ける。
【0053】
その結果、ドライバがアクセルペダルを操作すると、アクセル開度θaccとエンジン回転数Neとをパラメータとして、ドライバが選択したモードMに従ってスロットル弁16が開閉動作し、モードM毎に異なる出力特性でエンジン1が駆動される。
【0054】
次に、T/M_ECU20で実行される無段変速機の変速制御について、図6に示す変速制御ルーチンのフローチャートに従って説明する。このルーチンは設定時間毎に実行されるもので、ルーチンがスタートすると、T/M_ECU20は、先ず、ステップS201において、現在セレクト操作部36で選択されているレンジが走行レンジ(すなわち、ドライブレンジ或いはマニュアルレンジ)であるか否かを調べる。
【0055】
そして、ステップS201において、現在のレンジが走行レンジ以外であると判定した場合、T/M_ECU20は、そのまま、ルーチンを抜ける。
【0056】
一方、ステップS201において現在のレンジが走行レンジであると判定した場合、T/M_ECU20は、ステップS202に進み、現在の無段変速機3の制御のモードとして自動変速モードが選択されているか否かを調べる。
【0057】
そして、ステップS202において、現在の制御モードとして自動変速モードが選択されていると判定した場合、T/M_ECU20は、ステップS203に進み、自動変速用マップに基づく自動変速制御を行った後、ルーチンを抜ける。すなわち、ステップS203において、T/M_ECU20は、自動変速用マップMpt1〜Mpt3の中から、モード選択スイッチ35によって現在選択されているモードMに対応する自動変速用マップMptを選択する。そして、T/M_ECU20は、選択した自動変速用マップMptを参照して車速Vとアクセル開度θaccとに基づく目標プライマリ回転数Nptを算出し、油圧制御回路8から各油圧室5f,5gに供給する各油圧の制御を通じて、プライマリ回転数Npを目標プライマリ回転数Nptに収束させる自動変速制御を行う。
【0058】
一方、ステップS202において、現在の制御モードとしてマニュアル変速モードが選択されていると判定した場合、T/M_ECU20は、ステップ204に進み、手動変速用マップMptmとともに、モード選択スイッチ35によって現在選択されているモードMに対応する各閾値を読み込む。すなわち、ステップS204において、T/M_ECU20は、現在のモードMに対応する、自動アップシフト回転数Nu、自動ダウンシフト回転数Nd、キックダウン許可回転数Nth、キックダウン許可踏込量θaccth、キックダウン許可踏込速度ωth等の各閾値を読み込む。
【0059】
そして、ステップS204からステップS205に進むと、T/M_ECU20は、マニュアルスイッチ40或いはテンポラリマニュアルスイッチ42からの信号に基づき、ドライバによるアップシフト操作が行われたか否かを調べ、アップシフト操作が行われたと判定した場合にはステップS206に進み、アップシフト操作が行われていないと判定した場合にはステップS207に進む。
【0060】
ステップS205からステップS206に進むと、T/M_ECU20は、手動変速用マップMptm上に現在の変速段よりも高速段側に変速段が存在するか否かを調べ、高速段側に変速段が存在する場合、油圧制御回路8から各油圧室5f,5gに供給する各油圧の制御を通じて、無段変速機3の変速比を現在よりも1段高速段側の変速段の固定変速比へとアップシフトさせた後、ステップS207に進む。
【0061】
一方、ステップS205或いはステップS206からステップS207に進むと、T/M_ECU20は、マニュアルスイッチ40或いはテンポラリマニュアルスイッチ42からの信号に基づき、ドライバによるダウンシフト操作が行われたか否かを調べる。
【0062】
そして、T/M_ECU20は、ステップS207において、ダウンシフト操作が行われたと判定した場合にはステップS208に進み、ダウンシフト操作が行われていないと判定した場合にはステップS209に進む。
【0063】
ステップS207からステップS208に進むと、T/M_ECU20は、手動変速用マップMptm上に現在の変速段よりも低速段側に変速段が存在するか否かを調べ、低速段側に変速段が存在する場合、油圧制御回路8から各油圧室5f,5gに供給する各油圧の制御を通じて、無段変速機3の変速比を現在よりも1段低速段側の変速段の固定変速比へとダウンシフトさせた後、ステップS209に進む。
【0064】
ステップS207或いはステップS208からステップS209に進むと、T/M_ECU20は、プライマリ回転数Npが現在選択されている自動アップシフト回転数Nu以上であるか否かを調べ、プライマリ回転数Npが自動アップシフト回転数Nu以上であると判定した場合にはステップS210に進み、プライマリ回転数Npが自動アップシフト回転数未満であると判定した場合にはステップS211に進む。
【0065】
ステップS209からステップS210に進むと、T/M_ECU20は、手動変速用マップMptm上に現在の変速段よりも高速段側の変速段が存在するか否かを調べ、高速段側に変速段が存在する場合、油圧制御回路8から各油圧室5f,5gに供給する各油圧の制御を通じて、無段変速機3の変速比を現在よりも1段高速段側の変速段の固定変速比へとアップシフトさせた後、ステップS211に進む。
【0066】
ステップS209或いはステップS210からステップS211に進むと、T/M_ECU20は、プライマリ回転数Npが現在選択されている自動ダウンシフト回転数Nd以下であるか否かを調べ、プライマリ回転数Npが現在選択されている自動ダウンシフト回転数Nd以下であると判定した場合にはステップS212に進み、自動ダウンシフト回転数Ndよりも高いと判定した場合にはステップS213に進む。
【0067】
ステップS211からステップS212に進むと、T/M_ECU20は、手動変速用マップMptm上に現在の変速段よりも低速段側の変速段が存在するか否かを調べ、低速段側に変速段が存在する場合、油圧制御回路8から各油圧室5f,5gに供給する各油圧の制御を通じて、無段変速機3の変速比を現在よりも1段低速段側の変速段の固定変速比へとダウンシフトさせた後、ルーチンを抜ける。
【0068】
一方、ステップS211からステップS213に進むと、T/M_ECU20は、キックダウン制御(ドライバのアクセル操作に応じた低速段側への自動変速制御)を行った後、ルーチンを抜ける。
【0069】
ステップS213におけるキックダウン制御は、例えば、図8に示すキックダウン制御サブルーチンのフローチャートに従って実行されるもので、このサブルーチンがスタートすると、T/M_ECU20は、先ず、ステップS301において、キックダウンの実行条件が既に成立したことを示すキックダウンフラグFが「1」にセットされているか否かを調べる。
【0070】
そして、T/M_ECU20は、ステップS301において、キックダウンフラグFが「1」にセットされていると判定した場合にはステップS308に進み、「0」にリセットされていると判定した場合にはステップS302に進む。
【0071】
ステップS301からステップS302に進むと、T/M_ECU20は、無段変速機3の入力回転数Npがキックダウン許可回転数Nth以下であるか否かを調べる。
【0072】
そして、T/M_ECU20は、ステップS302において、入力回転数Npがキックダウン許可回転数Nth以下であると判定した場合にはステップS303に進み、入力回転数Npがキックダウン許可回転数Nthよりも高いと判定した場合にはそのままサブルーチンを抜ける。
【0073】
ステップS302からステップS303に進むと、T/M_ECU20は、ドライバによるアクセル踏込量θaccがキックダウン許可踏込量θaccth以上であるか否かを調べる。
【0074】
そして、T/M_ECU20は、ステップS303において、アクセル踏込量θaccがキックダウン許可踏込量θaccth以上であると判定した場合にはステップS304に進み、アクセル踏込量θaccがキックダウン許可踏込量θaccth未満であると判定した場合にはそのままサブルーチンを抜ける。
【0075】
ステップS303からステップS304に進むと、T/M_ECU20は、例えば、アクセル踏込量θaccがキックダウン許可踏込量θaccthに至る前の設定サイクルでのアクセル踏込量θaccの変化量に基づき、ドライバによるアクセルペダル踏込速度ωがキックダウン許可踏込速度ωth以上であるか否かを調べる。
【0076】
そして、T/M_ECU20は、ステップ304において、アクセル踏込速度ωがキックダウン許可踏込速度ωth以上であると判定した場合にはステップS305に進み、アクセル踏込速度ωがキックダウン許可踏込速度未満であると判定した場合にはそのままサブルーチンを抜ける。
【0077】
ステップS304からステップS305に進むと、T/M_ECU20は、キックダウンフラグFを「1」にセットし、続くステップS306において、例えば、エンジン1の許容回転数(プライマリ回転数Np)の範囲内でダウンシフト可能な変速段が存在するか否かを調べる。
【0078】
そして、ステップS306において、ダウンシフト可能な変速段が存在しないと判定した場合、T/M_ECU20は、そのままサブルーチンを抜ける。
【0079】
一方、ステップS306において、ダウンシフト可能な変速段が存在すると判定した場合、T/M_ECU20は、ステップS307に進み、無段変速機3の変速比を、現在許容される最も低速側の変速段へとダウンシフト(キックダウン)させた後、サブルーチンを抜ける。
【0080】
また、ステップS301からステップS308に進むと、T/M_ECU20は、アクセル踏込量θaccがキックダウン許可踏込量θaccth未満であるか否かを調べ、アクセル踏込量θaccが自動ダウンシフト踏込量θaccth以上であると判定した場合には、そのままサブルーチンを抜ける。
【0081】
一方、ステップS308においてアクセル踏込量θaccが自動ダウンシフト踏込量θaccth未満であると判定した場合、T/M_ECU20は、ステップS309に進み、ダウンシフトフラグFを「0」にリセットした後、サブルーチンを抜ける。
【0082】
このような実施形態によれば、駆動力特性のモードMを複数備えたパワートレイン10において、当該パワートレイン10を構成する無段変速機3の制御モードとしてマニュアル変速モードが選択されているときの自動アップシフト回転数Nuを、パワートレイン10が発生させる駆動力特性のモードM毎に異なる値に設定することにより、基本的には変速についてドライバの意思を尊重するマニュアル変速モードにおいても、各モードMにおける駆動力特性の特徴(本実施形態においてはエンジン1の出力特性の相違をベースとする駆動力特性の特徴)を明確に差異付けることができる。
【0083】
具体的には、例えば、過回転防止のために許容されるエンジン1の最大回転数Nemaxに対応するプライマリ回転数Npmax以下の範囲内において、自動アップシフト回転数Nuを、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードMであるほど高く設定することにより、マニュアル変速モードの選択時においても、ドライバのフィーリング等に合致させつつ、駆動力特性の各モードMによる特徴を明確に差異付けることができる。すなわち、例えば、駆動力特性のモードMとしてノーマルモードM1、セーブモードM2、及び、パワーモードM3の3つのモードMを備えている場合において、パワーモードM3に対応する自動アップシフト回転数Nuが最も高く、次いで、ノーマルモードM1、セーブモードM2の順に自動アップシフト回転数Nuが低くなるよう設定することにより、マニュアル変速モードの選択時においても、モードM毎に異なるエンジン1の出力特性と相俟って、ドライバのフィーリングに合致した駆動力特性での走行を実現することができる。例えば、図9(a)〜(c)中に太実線で示すように、マニュアル変速モードの選択時において、ドライバが同一の走行状態からアクセルペダルを踏み込んだ場合にも、セーブモードM2の選択時(図9(b)参照)にはノーマルモードM1の選択時(図9(a)参照)よりも相対的に早いタイミングで自動アップシフトが順次行われ、パワーモードM3の選択時(図9(c)参照)にはノーマルモードM1の選択時よりも相対的に遅いタイミングで自動アップシフトが順次行われる。これにより、例えば、図11(a)に示すように、マニュアル変速モードの選択時においても、駆動力特性のモードM毎に明確に異なる加速性能を実現することができる。なお、図9(a)〜(c)中の太破線は、例えば、マニュアル変速モードによるコースト走行時等における自動ダウンシフトについて示すものである。
【0084】
また、プライマリ回転数Npがキックダウン許可回転数Nth以下であり、且つ、アクセルペダル踏込量θaccがキックダウン許可踏込量θaccth以上である場合には、マニュアル変速モードの選択時においても、ドライバのアクセル操作から加速意思を判断して変速段を低速段側にキックダウンさせることにより、ドライバにより選択された変速段を尊重しつつ、ドライバの意思に合致した自動変速を実現することができる。その際、駆動力特性のモードM毎にキックダウン許可回転数Nthを異ならせ、プライマリ回転数Npに基づいてキックダウンの自動実行を許可する回転数領域を、アクセル操作に対する応答性が高いモードMであるほど狭い領域に設定することにより、ドライバのフィーリングに合致したキックダウン制御を実現することができる。すなわち、例えば、スポーツ仕様の車両では、マニュアル変速モードでの走行中において、ドライバは、よりスポーティなモードMを選択しているときほど、キックダウンの自動実行を不要な介入であると感じることが想定される。そこで、アクセル操作に対する応答性が高いモードMであるほどキックダウン許可回転数Nthを低く設定することにより、ドライバの意思に合致した違和感のない変速介入を実現することができる。
【0085】
また、駆動力特性のモードM毎にキックダウン許可踏込量θaccthを異ならせ、アクセルペダル踏込量θaccに対してキックダウンの自動実行を判定する閾値を、アクセル操作に対する応答性が高いモードMであるほど大きく設定することにより、ドライバのフィーリングにより合致したキックダウン制御を実現することができる。
【0086】
加えて、プライマリ回転数Np及びアクセルペダル踏込量θaccが上述の要件を満たしている場合でも、キックダウン許可踏込量θaccth以上のアクセルペダル踏込量θaccに至る前のアクセルペダル踏込速度ωが、予め設定されたキックダウン許可踏込速度ωth以下である場合には、キックダウン制御を禁止することにより、ドライバの意図に反する不要なキックダウンの実行を適切に防止することができる。この場合においても、キックダウン許可踏込速度ωthについてもモードM毎に異なる値を設定し、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードMであるほど、キックダウン許可踏込速度ωthは大きな値に設定することにより、ドライバのフィーリングに合致したキックダウン制御を実現することができる。
【0087】
ここで、各モードによる同様の走行状態(プライマリ回転数Np、車速V)での走行中において、ドライバによって同様のアクセルペダルの踏み込みがされた際のキックダウン制御の一例について図10(a)〜(c)を参照して説明する。
【0088】
図10(b)は、セーブモードM2が選択されているときの一例について示すものであり、点Pの走行状態は、キックダウン許可回転数Nth以下の回転数領域に属する。また、セーブモードM2ではキックダウン許可踏込量θaccth及びキックダウン許可踏込速度ωthが3つのモードM中最も低く設定されており、ドライバによる比較的浅めのアクセルペダルの踏込操作によっても容易にキックダウンの実行が判断される。従って、図10(b)に示す例では、点Pの走行状態におけるドライバのアクセルペダルの踏込操作に対して、変速段が5速から3速へとキックダウンされている。
【0089】
図10(a)は、ノーマルモードM1が選択されているときの一例について示すものであり、点Pの走行状態は、キックダウン許可回転数Nth以下の回転数領域に属する。しかし、ノーマルモードM1では、キックダウン許可踏込量θaccth及び自動ダウンシフト許可踏込速度ωthがセーブモードM2よりも相対的に高く設定されている。従って、図10(a)に示す例では、点Pの走行状態におけるドライバのアクセルペダルの踏込操作に対して、キックダウンが実行されることなく、ドライバが選択した5速の変速段が維持されている。
【0090】
図10(c)は、パワーモードM3が選択されているときの一例について示すものであり、点Pの走行状態は、キックダウン許可回転数Nthよりも高い回転数領域に属する。従って、図10(c)に示す例では、点Pの走行状態におけるドライバのアクセルペダルの踏込操作に対して、キックダウンが実行されることなく、ドライバが選択した5速の変速段が維持されている。また、仮に、点Pの走行状態がキックダウン許可回転数Nth以下の回転数領域に属する場合であっても、パワーモードM3では、キックダウン許可踏込量θaccth及び自動ダウンし負値許可踏込速度ωthが3つのモードMの中で最も高く設定されている。従って、ドライバのアクセルペダルの踏込操作に対して容易にキックダウンが実行されることがなく、ドライバが選択した変速段が最も尊重される。
【0091】
これにより、例えば、図11(b)に示すように、マニュアル変速モードの選択時において、アクセルペダルが踏み込まれた際にはモードM毎に異なる態様でのキックダウンが実行され、当該キックダウンの実行の態様の相違によってモードM毎に異なる加速性能が実現される。
【0092】
ところで、スポーティな走行よりもイージードライブ性や快適性を追求した車両に対しては、マニュアル変速モードによる走行中に、仮にパワーモードM3が選択されている場合であっても、ドライバの手動による変速操作が頻繁に行うことは考えにくい。従って、このような車両においては、上述のようなドライバによる変速操作を織り込んだ上でのキックダウン制御とは逆に、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど容易にキックダウンが実行されるよう制御することが望ましい。
【0093】
すなわち、この種の車両においては、例えば、キックダウン許可回転数Nthは、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど高い回転数に設定され、パワーモードM3に対応する回転数Nthが最も高く、次いで、ノーマルモードM1、セーブモードM2の順に低くなるよう設定されている。すなわち、例えば、図12に示すように、各モードMに対応するキックダウン許可回転数Nthは、パワーモードM3に対応するキックダウン許可回転数Nth(M=M3)が3000[rpm]、ノーマルモードM1に対応するキックダウン許可回転数Nth(M=M1)が2500[rpm]、セーブモードM2に対応するキックダウン許可回転数Nth(M=M2)が2000[rpm]にそれぞれ設定されている。
【0094】
また、キックダウン許可踏込量θaccthについてもモードM毎に異なる値が設定されていることが好ましく、T/M_ECU20には、例えば、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど、キックダウン許可踏込量θaccthは小さな値に設定されている。具体的には、各モードMに対応するキックダウン許可踏込量θaccthは、例えば、パワーモードM3に対応するキックダウン許可踏込量θaccth(M=M3)が60[%]、ノーマルモードM1に対応するキックダウン許可踏込量θaccthが70[%]、セーブモードM1に対応するキックダウン許可踏込量θaccthが80[%]にそれぞれ設定されている。
【0095】
また、不要なキックダウン制御の実行を適切に防止すべく、プライマリ回転数Np及びアクセルペダル踏込量θaccが上述の要件を満たしている場合でも、キックダウン許可踏込量θaccth以上のアクセルペダル踏込量θaccに至る前のアクセルペダル踏込速度ωが、予め設定されたキックダウン許可踏込速度ωth以下である場合には、キックダウン制御を禁止することが好ましい。この場合、キックダウン許可踏込速度ωthについてもモードM毎に異なる値が設定されていることが好ましく、T/M_ECU20には、例えば、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど、キックダウン許可踏込速度ωthは小さな値に設定されている。具体的には、各モードMに対応するキックダウン許可踏込速度ωthは、例えば、パワーモードM3に対応するキックダウン許可踏込速度ωth(M=M3)が100[%/sec]、ノーマルモードM1に対応するキックダウン許可踏込速度ωth(M=M1)が150[%/sec]、セーブモードM2に対応するキックダウン許可踏込速度ωth(M=M2)が200[%/sec]にそれぞれ設定されている。
【0096】
そして、このように自動ダウンシフト制御(キックダウン制御)についての各条件をモードM毎に異ならせることにより、例えば、アクセル操作に対する応答性が高い駆動力特性のモードであるほど(よりスポーティなモードであるほど)、マニュアル変速モードを選択時のキックダウンは、積極的に自動実施される。なお、アクセル操作に対する応答性が最も低い駆動力特性のモードM(すなわち、本実施形態のセーブモードM2)においては、キックダウン許可回転数Nthを0[rpm]に設定することも可能である。
【0097】
このような設定によっても、車両のキャラクターによっては、ドライバの選択した変速段を所定に維持しつつ、必要に応じてドライバの意思に合致した違和感のない自動変速を行うことができる。
【0098】
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲内である。
【0099】
例えば、駆動特性として、3種類のモードを有する例について説明したが、2種類のモード、或いは、4種類以上のモードを有する場合についても本発明が適用できる。そのような場合、キックダウン許可回転数等も2種類或は4種類以上に設定することができる。
【0100】
また、自動変速機として、無段変速機が適用された例について説明したが、多段変速機についても適用できる。そのような場合、変速比は変速段と読み換えて適用する。
【符号の説明】
【0101】
1 … エンジン
2 … 発進クラッチ
3 … 無段変速機(自動変速機)
4 … 前後進切換装置
5a … プライマリプーリ
5b … プーリ入力軸
5c … プーリ出力軸
5d … セカンダリプーリ
5e … 駆動ベルト
5f … プライマリ油圧室
5g … セカンダリ油圧室
6 … 終減速装置
6a … 減速歯車群
6b … ディファレンシャル装置
7 … 駆動軸
7a … 駆動輪
8 … 油圧制御回路
10 … パワートレイン
15 … 吸気通路
16 … スロットル弁
16a … スロットルアクチュエータ
17 … インジェクタ
20 … トランスミッション制御装置(自動ダウンシフト制御手段)
21 … エンジン制御装置
22 … 統合制御装置
23 … 車内通信回線
30 … エンジン回転数センサ
31 … 吸入空気量センサ
32 … アクセル開度センサ
33 … スロットル開度センサ
35 … モード選択スイッチ
36 … セレクト操作部
36a … メインゲート
36b … サブゲート
36c … セレクトレバー
37 … インヒビタスイッチ
38 … プライマリ回転数センサ
39 … セカンダリ回転数センサ
40 … マニュアルスイッチ
42 … テンポラリマニュアルスイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワートレインを構成する自動変速機の制御モードとして、予め設定された変速特性に従って変速比又は変速段を自動で制御する自動変速モードと、予め設定された複数の変速段の何れかを手動で選択可能なマニュアル変速モードと、を備えた車両の駆動力制御装置であって、
前記マニュアル変速モードの選択時に、前記自動変速機の入力回転数が予め設定されたキックダウン許可回転数以下であり、且つ、ドライバによるアクセルペダル踏込量が予め設定されたキックダウン許可踏込量以上であるとき、変速段を現在の変速段よりも低速側の変速段に自動変速させる自動ダウンシフト制御手段を備え
ることを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記車両の駆動力制御装置はアクセル操作に対して前記パワーとレインが発生させる駆動力特性として複数のモードを備え、前記自動ダウンシフト制御手段には、前記キックダウン許可回転数として、前記駆動力特性のモード毎に異なる回転数が設定されていることを特徴とする請求項1記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記キックダウン許可回転数は、前記アクセル操作に対する応答性が高い前記駆動力特性のモードであるほど低く設定されていることを特徴とする請求項2記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記アクセル操作に対する応答性が最も高い前記駆動力特性のモードに対応する前記キックダウン許可回転数は零に設定されていることを特徴とする請求項2又は3記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記自動ダウンシフト制御手段には、前記キックダウン許可踏込量として、前記駆動力特性のモード毎に異なる踏込量が設定され、
前記キックダウン許可踏込量は、前記アクセル操作に対する応答性が高い前記駆動力特性のモードであるほど大きく設定されていることを特徴とする請求項2乃至請求項4の何れか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項6】
前記自動ダウンシフト制御手段は、前記自動変速機の入力回転数が前記キックダウン許可回転数以下であり、且つ、前記アクセルペダル踏込量が前記キックダウン許可踏込量以上であっても、前記アクセルペダル踏込量が前記キックダウン許可踏込量に至る前のドライバによるアクセルペダル踏込速度が予め設定されたキックダウン許可踏込速度以下である場合には、前記自動変速を禁止することを特徴とする請求項2乃至請求項5の何れか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項7】
前記キックダウン許可踏込速度は、前記アクセル操作に対する応答性が高い前記駆動力特性のモードであるほど速く設定されていることを特徴とする請求項6記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項8】
前記キックダウン許可回転数は、前記アクセル操作に対する応答性が高い前記駆動力特性のモードであるほど高く設定されていることを特徴とする請求項2記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項9】
前記アクセル操作に対する応答性が最も低い前記駆動力特性のモードに対応する前記キックダウン許可回転数は零に設定されていることを特徴とする請求項2又は8記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項10】
前記自動ダウンシフト制御手段には、前記キックダウン許可踏込量として、前記駆動力特性のモード毎に異なる踏込量が設定され、
前記キックダウン許可踏込量は、前記アクセル操作に対する応答性が高い前記駆動力特性のモードであるほど小さく設定されていることを特徴とする請求項2、8、9の何れか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項11】
前記自動ダウンシフト制御手段は、前記自動変速機の入力回転数が前記キックダウン許可回転数以下であり、且つ、前記アクセルペダル踏込量が前記キックダウン許可踏込量以上であっても、前記アクセルペダル踏込量が前記キックダウン許可踏込量に至る前のドライバによるアクセルペダル踏込速度が予め設定されたキックダウン許可踏込速度以下である場合には、前記自動変速を禁止することを特徴とする請求項2または請求項8乃至請求項10の何れか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項12】
前記キックダウン許可踏込速度は、前記アクセル操作に対する応答性が高い前記駆動力特性のモードであるほど遅く設定されていることを特徴とする請求項11記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項13】
前記マニュアル変速モードは、ドライバによる当該マニュアル変速モードへの切換操作後、ドライバによる前記自動変速モードへの切換操作が行われるまでの間維持される定常的なマニュアル変速モードであることを特徴とする請求項1乃至請求項12の何れか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項14】
前記マニュアル変速モードは、ドライバによる当該マニュアル変速モードへの切換操作後に予め設定された復帰条件が成立したとき、前記自動変速モードへと自動復帰する一時的なマニュアル変速モードであることを特徴とする請求項1乃至請求項12の何れか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項1】
パワートレインを構成する自動変速機の制御モードとして、予め設定された変速特性に従って変速比又は変速段を自動で制御する自動変速モードと、予め設定された複数の変速段の何れかを手動で選択可能なマニュアル変速モードと、を備えた車両の駆動力制御装置であって、
前記マニュアル変速モードの選択時に、前記自動変速機の入力回転数が予め設定されたキックダウン許可回転数以下であり、且つ、ドライバによるアクセルペダル踏込量が予め設定されたキックダウン許可踏込量以上であるとき、変速段を現在の変速段よりも低速側の変速段に自動変速させる自動ダウンシフト制御手段を備え
ることを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記車両の駆動力制御装置はアクセル操作に対して前記パワーとレインが発生させる駆動力特性として複数のモードを備え、前記自動ダウンシフト制御手段には、前記キックダウン許可回転数として、前記駆動力特性のモード毎に異なる回転数が設定されていることを特徴とする請求項1記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記キックダウン許可回転数は、前記アクセル操作に対する応答性が高い前記駆動力特性のモードであるほど低く設定されていることを特徴とする請求項2記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記アクセル操作に対する応答性が最も高い前記駆動力特性のモードに対応する前記キックダウン許可回転数は零に設定されていることを特徴とする請求項2又は3記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記自動ダウンシフト制御手段には、前記キックダウン許可踏込量として、前記駆動力特性のモード毎に異なる踏込量が設定され、
前記キックダウン許可踏込量は、前記アクセル操作に対する応答性が高い前記駆動力特性のモードであるほど大きく設定されていることを特徴とする請求項2乃至請求項4の何れか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項6】
前記自動ダウンシフト制御手段は、前記自動変速機の入力回転数が前記キックダウン許可回転数以下であり、且つ、前記アクセルペダル踏込量が前記キックダウン許可踏込量以上であっても、前記アクセルペダル踏込量が前記キックダウン許可踏込量に至る前のドライバによるアクセルペダル踏込速度が予め設定されたキックダウン許可踏込速度以下である場合には、前記自動変速を禁止することを特徴とする請求項2乃至請求項5の何れか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項7】
前記キックダウン許可踏込速度は、前記アクセル操作に対する応答性が高い前記駆動力特性のモードであるほど速く設定されていることを特徴とする請求項6記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項8】
前記キックダウン許可回転数は、前記アクセル操作に対する応答性が高い前記駆動力特性のモードであるほど高く設定されていることを特徴とする請求項2記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項9】
前記アクセル操作に対する応答性が最も低い前記駆動力特性のモードに対応する前記キックダウン許可回転数は零に設定されていることを特徴とする請求項2又は8記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項10】
前記自動ダウンシフト制御手段には、前記キックダウン許可踏込量として、前記駆動力特性のモード毎に異なる踏込量が設定され、
前記キックダウン許可踏込量は、前記アクセル操作に対する応答性が高い前記駆動力特性のモードであるほど小さく設定されていることを特徴とする請求項2、8、9の何れか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項11】
前記自動ダウンシフト制御手段は、前記自動変速機の入力回転数が前記キックダウン許可回転数以下であり、且つ、前記アクセルペダル踏込量が前記キックダウン許可踏込量以上であっても、前記アクセルペダル踏込量が前記キックダウン許可踏込量に至る前のドライバによるアクセルペダル踏込速度が予め設定されたキックダウン許可踏込速度以下である場合には、前記自動変速を禁止することを特徴とする請求項2または請求項8乃至請求項10の何れか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項12】
前記キックダウン許可踏込速度は、前記アクセル操作に対する応答性が高い前記駆動力特性のモードであるほど遅く設定されていることを特徴とする請求項11記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項13】
前記マニュアル変速モードは、ドライバによる当該マニュアル変速モードへの切換操作後、ドライバによる前記自動変速モードへの切換操作が行われるまでの間維持される定常的なマニュアル変速モードであることを特徴とする請求項1乃至請求項12の何れか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項14】
前記マニュアル変速モードは、ドライバによる当該マニュアル変速モードへの切換操作後に予め設定された復帰条件が成立したとき、前記自動変速モードへと自動復帰する一時的なマニュアル変速モードであることを特徴とする請求項1乃至請求項12の何れか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−137118(P2012−137118A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288321(P2010−288321)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
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