説明

車両の駆動装置

【課題】ロータ軸の軸線方向の寸法増大及び軸受数の増加を抑えつつ衝撃荷重を緩和できる車両の駆動装置を提供する。
【解決手段】駆動装置2は駆動ギア15が一体回転可能に設けられた駆動ギア軸14と、モータジェネレータ4のロータ12が外周に装着され、かつ駆動ギア軸14が軸線Axの方向に挿入され得る貫通孔13aが形成されたロータ軸13と、駆動ギア軸14を回転自在に支持できる一対の軸受21、22と、を備え、駆動ギア軸14とロータ軸13とは、駆動ギア軸14とロータ軸13との間を伝達する衝撃荷重を緩和できるスプライン結合部25を介在させた状態で、一対の軸受21、22の間にロータ軸13が位置するようにして同軸かつ一体回転可能に組み合わされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源として設けられた回転電機の動力を車両の駆動輪に出力できる車両の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機やモータジェネレータ等の回転電機が駆動源として設けられた車両は周知である。例えば、電動機のみを駆動源として搭載した電気自動車やモータジェネレータの他に内燃機関を駆動源として搭載したハイブリッド自動車等がある。このような車両には回転電機の動力を車両の駆動輪に出力するために回転電機から駆動輪までの動力伝達経路にギア列を含んだ駆動装置が設けられている。
【0003】
ところで、こうした車両がギャップを超える際に一瞬路面から離れた駆動輪が再度接地する場合、平地を走行中の車両が急坂を登坂する走行に切り替わる場合、あるいはパーキングロック状態で坂路に停車した車両のパーキングロックを解除する場合等に、駆動輪側から回転電機側へ向かう衝撃荷重が駆動装置に発生することがある。そのような衝撃荷重は駆動装置内の回転要素の回転軸線と交差するラジアル成分及びその軸線方向のスラスト成分の他に、その軸線回りの回転成分も含む。そのため衝撃荷重が発生すると回転電機のロータの慣性によりそのロータが装着されるロータ軸、ロータ軸の回転を伝達する駆動ギア及びロータ軸を支持する軸受等の各部材に負荷がかかる。
【0004】
そのような衝撃荷重の発生に伴う各部材の負荷を低減するため、ロータ及びロータ軸の少なくとも一方をマグネシウム又はマグネシウム合金を基材として構成した回転電機(特許文献1)を用いることが可能である。また、駆動ギアが設けられた駆動ギア軸とロータ軸とを別部品で構成し、ロータ軸の延長上に駆動ギア軸をスプライン結合した駆動装置も知られている(特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−274968号公報
【特許文献2】特開平10−278603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の回転電機を用いる場合は、ロータやロータ軸をマグネシウム又はマグネシウム合金を基材として構成することによりロータ及びロータ軸が軽量化されるのでロータの慣性が低下する。そのため衝撃荷重に伴う駆動装置の各部材の負荷を低減できる。しかし、マグネシウム又はマグネシウム合金は強度が鉄よりも劣るため、ロータ及びロータ軸を鉄で構成した場合と同等の強度を確保するためには体格を大きくする必要がある。従って、効率的にロータの慣性を低下させることが難しい。また、特許文献2の駆動装置は、駆動ギア軸がロータ軸の延長上に結合されているため軸線方向の寸法が増大する。そのうえ、スプライン結合された部位は曲げモーメントを十分に受けることができないので、ロータ軸の延長上に位置するスプライン結合された部位を軸受で支持することが必要になる。その結果、駆動ギア軸とロータ軸とを組み合わせた状態で、その組み合わせ軸の両端部及びスプライン結合された部位の少なくとも3箇所を軸受で支持することになって軸受数が増加する。
【0007】
そこで、本発明は、ロータ軸の軸線方向の寸法増大及び軸受数の増加を抑えつつ衝撃荷重を緩和できる車両の駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の駆動装置は、駆動源として設けられた回転電機の動力を車両の駆動輪に出力できる車両の駆動装置であって、前記回転電機から前記駆動輪までの動力伝達経路内に配置された駆動ギアが一体回転可能に設けられた駆動ギア軸と、前記回転電機のロータが外周に装着され、かつ前記駆動ギア軸が軸線の方向に挿入され得る貫通孔が形成されたロータ軸と、前記駆動ギア軸を回転自在に支持することができ、かつ前記駆動ギア軸の軸線の方向に所定間隔を開けて配置された一対の軸受と、を備え、前記駆動ギア軸と前記ロータ軸とは、前記駆動ギア軸と前記ロータ軸との間を伝達する衝撃荷重を緩和できる低剛性結合手段を介在させた状態で、前記駆動ギア軸を支持する前記一対の軸受間に前記ロータ軸が位置するようにして同軸かつ一体回転可能に組み合わされていることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0009】
この駆動装置によれば、駆動ギア軸を支持する一対の軸受間にロータ軸が位置し、ロータ軸と駆動ギア軸とが同軸かつ一体回転可能に組み合わされる。そのため、ロータ軸と駆動ギア軸との両者を一対の軸受で支持できる。一対の軸受でロータ軸と駆動ギア軸との組み合わせを支持できるため軸受数を最少限に抑えることができる。更に、一対の軸受間にロータ軸が配置されるので、軸線方向の寸法増大を最小限に抑えることができる。ロータ軸と駆動ギア軸とはこれらの軸間を伝達する衝撃荷重を緩和できる低剛性結合手段を介在させた状態で組み合わされるので、何らかの原因で駆動ギアに衝撃荷重が入力された場合でもその結合手段の働きにより、物体の剛性を考慮した慣性が低減するため衝撃荷重が緩和される。また、ロータ軸と駆動ギア軸とは別体であるので、これらの軸が一体の場合に比べてロータ軸の制約を受けずに駆動ギアを容易に加工できる。そのため、例えば駆動ギアの歯面を回転砥石を備えた研削装置にて研磨する際にロータ軸と砥石との干渉を考慮する必要がなく、研削装置を用いて駆動ギア15の歯面を研磨することに支障がない。従って、工数の増大を招かずに駆動ギアの加工精度を容易に高めることができる。更に、これらの軸が一体であるとロータの外径が最も大きくなるので一対の軸受を互いに反対方向から組み付けることになるが、これらの軸が別体であることにより、駆動ギア軸、ロータ軸及び軸受の組付けの方向を一方向に統一することが容易になるので組み付け手順を簡素化できる。
【0010】
低剛性結合手段は種々の態様でよいが、例えば、前記低剛性結合手段として、前記駆動ギア軸の外周に形成されて前記軸線の方向に歯すじが延びる外歯が前記駆動ギア軸の周方向に並ぶ外歯列と、前記ロータ軸の内周に形成されて前記軸線の方向に歯すじが延びる内歯が前記ロータ軸の周方向に並び、かつ前記外歯列と噛み合うことができる内歯列とを有し、前記外歯列と前記内歯列とを相互に噛み合わせることにより前記駆動ギア軸と前記ロータ軸とを同軸かつ一体回転可能に組み合わせることができるスプライン結合部が設けられていてもよい(請求項2)。この態様によれば、駆動ギア軸に衝撃荷重が入力されると相互に噛み合う外歯及び内歯の弾性変形が起こるので衝撃荷重が緩和される。
【0011】
また、前記低剛性結合手段として、前記駆動ギア軸の外周に形成されて前記軸線の方向に延びる外溝と、前記ロータ軸の内周に形成されて前記軸線の方向に延びる内溝と、互いに対向した状態の前記外溝及び前記内溝のそれぞれに嵌り、かつ前記駆動ギア軸の構成材料よりも剛性の低い低剛性材料にて構成された介在部材とを有し、前記介在部材を前記外溝及び前記内溝のそれぞれに嵌るようにして前記前記駆動ギア軸と前記ロータ軸との間に介在させることにより前記駆動ギア軸と前記ロータ軸とを同軸かつ一体回転可能に組み合わせることができる低剛性結合部が設けられていてもよい(請求項3)。この態様によれば、駆動ギア軸に衝撃荷重が入力されると介在部材の弾性変形が起こるので衝撃荷重が緩和される。
【0012】
低剛性結合部は、前記外溝が前記駆動ギア軸の周方向に並ぶ外溝列と、前記内溝が前記ロータ軸の周方向に並ぶ内溝列とを更に有し、前記介在部材は、互いに対向した状態の前記外溝列の各外溝と前記内溝列の各内溝とに嵌る複数の嵌合部を備えてもよい(請求項4)。この場合、複数の嵌合部により介在部材に入力される負荷が一点に集中せずに周方向に分散されるため、効果的に衝撃荷重を緩和できる。複数の嵌合部はそれぞれ別体でもよいが、介在部材は前記複数の嵌合部を互いに接続する接続部を更に備えてもよい(請求項5)。この場合には、複数の嵌合部が接続部を介して相互に接続されるため、それぞれ独立した複数の嵌合部をひとつずつ互いに対向した状態の各外溝と各内溝とに嵌め込む場合と比べて組み付けが容易になる利点がある。
【0013】
本発明の一態様においては、前記駆動ギアから前記駆動輪までの間の前記動力伝達経路内に配置されたパーキングギアと、前記パーキングギアに噛み合って前記パーキングギアを回転不能に拘束する係合位置と前記パーキングギアから離れて前記パーキングギアの回転を開放する開放位置との間で移動できるパーキングポールとを有するパーキングロック機構を更に備えてもよい(請求項6)。車両が斜面に停車した状態で、パーキングギアにパーキングポールが噛み合う係合位置になると動力伝達経路内のギア等の回転要素がロックされるとともに、車両の重量により駆動輪側からトルクが入力されるためパーキングギアから駆動輪までの各要素が捻られる。この状態でパーキングポールがパーキングギアから離れる開放位置に移動してロックが解除されると、その捻りが開放されることにより動力伝達経路内で衝撃荷重が発生する。この態様によれば、そのような状況で発生した衝撃荷重をロータ軸及び駆動ギア軸間に介在する低剛性結合手段によって効果的に緩和することができる。
【0014】
パーキングギアは動力伝達経路内のいずれの位置に設けられてもよいが、例えば、前記駆動ギアと噛み合うドリブンギアが一体回転可能に設けられたドリブンギア軸を更に備え、前記パーキングギアが前記ドリブンギア軸に一体回転可能に設けられてもよい(請求項7)。この場合には、上述したようにパーキングロックが解除されて捻りが開放されると、ドリブンギアが駆動ギアに衝突して衝撃荷重が発生する。一対の軸受に入力される負荷は駆動ギアに近い側の軸受と駆動ギアとの距離が離れるほど力の釣り合いの関係から大きくなる。上述したように本発明に係る駆動ギアはロータ軸と駆動ギア軸とが別体のためその加工に制約を受けないから、駆動ギアに近い側の軸受と駆動ギアとを限界まで接近させることができる。この態様によれば、ロータ軸と駆動ギア軸とが一体化されて駆動ギアの加工のために駆動ギアに近い側の軸受と駆動ギアとの距離を確保せざるを得ない態様に比べて、その軸受と駆動ギアとの距離を近づけることに制約がないので軸線の方向に関する寸法増大を抑えつつ一対の軸受に入力される負荷を容易に低減できる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、ロータ軸が駆動ギア軸を支持する一対の軸受間に位置し、ロータ軸と駆動ギア軸とが同軸かつ一体回転可能に組み合わされる。そのため、ロータ軸と駆動ギア軸との両者を一対の軸受で支持できる。一対の軸受でロータ軸と駆動ギア軸との組み合わせを支持できるため軸受数を最少限に抑えることができる。更に、一対の軸受間にロータ軸が配置されるので、軸線方向の寸法増大を最小限に抑えることができる。ロータ軸と駆動ギア軸とはこれらの軸間を伝達する衝撃荷重を緩和できる低剛性結合手段を介在させた状態で組み合わされるので、何らかの原因で駆動ギアに衝撃荷重が入力された場合でもその結合手段の働きで駆動ギア軸とロータ軸とのトータルの慣性力が低減するため衝撃荷重が緩和される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(第1の形態)
図1は本発明の一形態に係る駆動装置が組み込まれた車両の全体構成を模式的に示している。車両1はいわゆるハイブリッド車両として構成されている。周知のようにハイブリッド車両は内燃機関を走行用の駆動源として備えるとともに、モータジェネレータ等の回転電機を他の走行用の駆動源として備えた車両であり、内燃機関をできるだけ効率の良い状態で運転する一方で、駆動力やエンジンブレーキ力の過不足を他の駆動源にて補い、かつ車両減速時等にエネルギの回生を行うことにより、内燃機関のエミッション悪化の防止と燃費性能の向上とを実現できるように構成されている。
【0017】
車両1にはその走行のために駆動装置2が設けられている。駆動装置2は走行用の駆動源として内燃機関3と2つの(図では一つのみ図示した)モータジェネレータ4とを備えるとともに、内燃機関3及びモータジェネレータ4のそれぞれの動力(出力トルク)を合成してプロペラシャフト5に出力し、プロペラシャフト5のトルクを差動装置6を介して左右の駆動輪7に出力するように構成されている。内燃機関3及びモータジェネレータ4の各出力トルクの合成又は分離は遊星歯車機構で構成された周知の動力分配機構(不図示)にて行われる。なお、内燃機関3又はモータジェネレータ4から駆動輪7までの動力伝達経路には変速機構を構成するギア列やクラッチ等の種々の回転要素が設けられているが、図1では本発明の要旨と関連性が高い構成のみを図示し、図示が省略された構成に関わる動力伝達経路を破線で示した。
【0018】
モータジェネレータ4は電動機としての機能と発電機としての機能とを生じるように構成されている。モータジェネレータ4には不図示のインバータを介して不図示のバッテリが電気的に接続されていて、そのインバータを制御することによりモータジェネレータ4の出力トルク又は回生トルクが適宜設定される。モータジェネレータ4は車両1に取り付けられたケーシング10に回転不能に固定されたステータ11と、そのステータ11の内周側に同軸に配置されたロータ12とを有している。ロータ12はロータ軸13の外周に装着されていて、そのロータ軸13は駆動ギア軸14に同軸かつ一体回転可能に組み合わされている。駆動ギア軸14にはその端部に駆動ギア15が一体回転可能に設けられている。駆動ギア15ははす歯歯車として構成されていて、モータジェネレータ4から駆動輪7までの動力伝達経路内に配置される。駆動ギア15はドリブンギア16と噛み合っており、そのドリブンギア16は駆動ギア軸14に対して平行に延びているドリブンギア軸17に一体回転可能に設けられている。
【0019】
図2はモータジェネレータ4の周辺に関連する駆動装置2の要部を示している。図示するように、駆動装置2は駆動ギア軸14を回転自在に支持でき、かつ駆動ギア軸14の軸線Axの方向に所定間隔を開けて配置された一対の軸受21、22を有している。各軸受21、22は内外輪間に鋼球が介在する玉軸受として構成されていて、外輪がケーシング10に、内輪が駆動ギア軸14の外周に形成されたジャーナル部14aにそれぞれ接している。一対の軸受21、22の間にはロータ軸13が配置されている。ロータ軸13には駆動ギア軸14が軸線Axの方向に挿入され得る貫通孔13aが形成されており、その貫通孔13aには駆動ギア軸14が挿入されている。ロータ軸13と駆動ギア軸14とはスプライン結合部25を介在させた状態で同軸かつ一体回転可能に組み合わされている。このように、一対の軸受21、22でロータ軸21と駆動ギア軸22との組み合わせを支持できるため軸受数を最少限に抑えることができる。しかも、一対の軸受21、22の間にロータ軸13が配置されるので、軸線Axの方向の寸法増大を最小限に抑えることができる。
【0020】
図3はスプライン結合部25の一部を軸線Axの方向から見た状態を拡大して示している。スプライン結合部25は、駆動ギア軸14の外周に形成された外歯26aが駆動ギア軸14の周方向に並ぶ外歯列26と、ロータ軸13の内周に形成され内歯27aがロータ軸13の周方向に並び、かつ外歯列26と噛み合うことができる内歯列27とを有している。外歯26a及び内歯27aのそれぞれの歯すじはロータ軸13の略全長に亘って軸線Axの方向に延びている。スプライン結合部25は外歯列26と内歯列27とを相互に噛み合わせることにより駆動ギア軸14とロータ軸13とを同軸かつ一体回転可能に組み合わせることができる。ロータ軸13と駆動ギア軸14とがスプライン結合部25を介して組み合わされているので、ロータ軸13及び駆動ギア軸14のいずれか一方に過剰なトルクが入力した場合にはスプライン結合部25の外歯列26及び内歯列27がそれぞれ弾性変形することにより、ロータ軸13及び駆動ギア軸14間を伝達する過剰なトルクを緩和できる。
【0021】
図1に示すように、モータジェネレータ4から駆動輪7までの動力伝達経路には車両1の停車時に駆動装置2をロックするためのパーキングロック機構30が設けられている。パーキングロック機構30はドリブンギア軸17に一体回転可能に設けられたパーキングギア31と、パーキングギア31に噛み合ってパーキングギア31を拘束できるパーキングポール32とを備えている。図4はパーキングロック機構30をドリブンギア軸17の軸線方向から見た状態を示している。図示するように、パーキングギア31にはその周方向に等間隔で並ぶ複数の凹部31aが形成されている。パーキングポール32は支持軸32aによってケーシング10に対して回転可能に支持されている。パーキングポール32にはパーキングギア31の凹部31aに嵌る凸部32bが形成されている。パーキングポール32は実線で示す係合位置と想像線で示す開放位置との間で回転移動できる。パーキングポール32が係合位置に位置すると、凸部32bがパーキングギア31の凹部31aに嵌ることによりパーキングギア31に噛み合ってパーキングギア31を回転不能に拘束する。一方、パーキングポール32が開放位置に位置すると、凸部32bが凹部31aから抜けることによりパーキングギア31から離れてパーキングギア31の回転を開放する。なお、パーキングポール32の係合位置と開放位置との間の移動は不図示の駆動機構にて行われている。
【0022】
図1から明らかなように、パーキングロック機構30にて駆動装置2がロックされた状態で車両1が坂路に停車しているときには、車両1の重量により駆動輪7側からトルクが入力されるためパーキングギア31から駆動輪7までの動力伝達経路内の各要素が捻られる。この状態でパーキングポール32がパーキングギア31から離れてロックが解除されると、その捻りが開放されることによりドリブンギア16が駆動ギア15に衝突して衝撃荷重が発生する。その衝撃荷重の回転成分はスプライン結合部25の働きによって緩和される。つまり、スプライン結合部25は本発明に係る低剛性結合手段として機能する。その他の成分は図5示すように駆動ギア軸14を支持する一対の軸受21、22が負担する。図5は衝撃荷重の作用を説明する説明図である。図示するように、駆動ギア15に作用する衝撃荷重Fは、駆動ギア15がはす歯歯車として構成されているので軸線Axの方向のスラスト成分Fsと半径方向のラジアル成分Frとに分けられる。そのため、各軸受21、22には軸線Axの方向のスラスト成分Fsが負荷されるとともに、軸線Axと交差する半径方向のラジアル成分Frの反力であるF1r及びF2rがそれぞれ負荷される。F1r及びF2rは、駆動ギア15とこれに近い側の軸受21との距離をL1、各軸受21、22の間隔をL2とした場合、力の釣り合いの関係から以下の式1、2でそれぞれ示される。
【0023】
F1r=(L1+L2)/L2×Fr ………………1
F2r=L1/L2×Fr ………………2
【0024】
これらの式から明らかなように、各軸受21、22の間隔L2を一定とした場合、駆動ギア15と軸受21との距離L1が離れるほど各軸受21、22の負荷が大きくなる。ところで、駆動ギア15はロータ軸13と駆動ギア軸14とが別体のためその加工に制約を受けないから、駆動ギア15に近い側の軸受21と駆動ギア15とを限界まで接近させることができる。つまり、ロータ軸13と駆動ギア軸14とが一体化された形態の場合には駆動ギア15の加工のために軸受21と駆動ギア15との距離L1をある程度確保せざるを得ないが、本形態の場合にはギア加工上の制約を受けずに距離L1を短くできる。従って、軸受21と駆動ギア15との距離L1を近づけることに制約がないので、軸線Axの方向に関する寸法増大を抑えつつ一対の軸受21、22に入力される負荷F1r、F2rを容易に低減できる。
【0025】
また、ロータ軸13と駆動ギア軸14とが別体であることにより、これらを組み合わせる前であれば、ロータ軸13の制約を受けずに駆動ギア15を容易に加工できる。例えば駆動ギア15の歯面を回転砥石を備えた研削装置にて研磨する際にロータ軸13と砥石との干渉を考慮する必要がなく、研削装置を用いて駆動ギア15の歯面を研磨することに支障がない。従って、工数の増大を招かずに駆動ギア15の加工精度を容易に高めることができる。更に、これらの軸13、14が一体であるとロータ12の外径が最も大きくなるので一対の軸受21、22を互いに反対方向から組み付けることになる。しかし、図示の形態はこれらの軸13、14が別体であることにより、駆動ギア軸14、ロータ軸13、及び軸受21、22の組付けの方向を一方向(図2の右方向)に統一できるので組み付け手順を簡素化できる。
【0026】
(第2の形態)
次に、本発明の第2の形態を説明する。第2の形態は上記第1の形態の変形例に相当しロータ軸と駆動ギア軸との結合形態を除いて第1の形態と共通する。従って、第1の形態と共通の構成に対しては図6及び図7に同一符号を付して説明を省略し、他の構成に関しては図1及び図4が適宜参照される。
【0027】
図6は第2の形態に係る駆動装置2の要部を示している。この形態では、ロータ軸13と駆動ギア軸14とが低剛性結合部35を介在させた状態で同軸かつ一体回転可能に組み合わされている。図7は低剛性結合部35の一部を軸線Axの方向から見た状態を拡大して示している。低剛性結合部35は駆動ギア軸14の外周に形成された外溝36aが駆動ギア軸14の周方向に並ぶ外溝列36と、ロータ軸13の内周に形成された内溝37aがロータ軸13の周方向に並ぶ内溝列37と、これらの溝列36、37のそれぞれの溝36a、37aに嵌る介在部材38とを有している。外溝36a及び内溝37aのそれぞれはロータ軸13の略全長に亘って軸線Axの方向に延びている。
【0028】
介在部材38は駆動ギア軸14の構成材料よりも剛性の低い低剛性材料にて構成されている。低剛性材料としては、例えば駆動ギア軸14を鉄又は鉄合金で構成した場合、これよりも剛性の低いマグネシウム、アルミニウム、それらの合金等の金属材料を選択できる。また、低剛性材料は必ずしも金属材料でなくてもよく、例えばゴム等の非金属材料を低剛性材料として選択することもできる。なお、駆動ギア軸14とロータ軸13とを異種材料で構成した場合には、ロータ軸13の構成材料の剛性と同一又は低い剛性を持つ材料を低剛性材料として選択してもよい。介在部材38は互いに対向した状態の外溝36a及び内溝37aのそれぞれに嵌る複数の嵌合部38aと、これら複数の嵌合部38aを互いに接続する接続部38bとを備えている。接続部38bは円筒状になっておりロータ軸13と駆動ギア軸14との間に挿入される。
【0029】
この形態によれば、駆動ギア軸14に衝撃荷重が入力されると介在部材38の弾性変形が起こるので衝撃荷重が緩和される。つまり、低剛性結合部35は本発明に係る低剛性結合手段として機能する。また、図示の形態は介在部材38が複数の嵌合部38aを備えているので、介在部材38に入力される負荷が一点に集中せずに周方向に分散される。このため、効果的に衝撃荷重を緩和できる。更に、複数の嵌合部38aは接続部38bにて相互に接続されるため、それぞれ独立した複数の嵌合部38aをひとつずつ互いに対向した状態の各外溝36aと各内溝37aとに嵌め込む場合と比べて組み付けが容易になる利点がある。
【0030】
本発明は上記各形態に限定されず本発明の要旨の範囲内で種々の形態にて実施できる。駆動装置に生じる衝撃荷重の発生原因は上述したようにパーキングロックの解除によるものに限定されない。例えば、車両1がギャップを超える際に一瞬路面から離れた駆動輪7が再度接地する場合や平地を走行中の車両1が急坂を登坂する走行に切り替わる場合にも衝撃荷重が発生し得る。本発明に係る駆動装置はこれらの原因で発生した衝撃荷重も緩和することができる。なお、パーキングロック機構の搭載箇所は、駆動ギア軸から駆動輪までの動力伝達経路内であればどこに設定されていても構わない。
【0031】
駆動源として回転電機が搭載された車両であれば本発明を適用することができる。従って、上述したハイブリッド車両に限らず、内燃機関を走行用の駆動源として搭載せずに回転電機としての電動機を駆動源として搭載した電気自動車に本発明を適用することもできる。回転電機はモータジェネレータに限らず、電動機としてのみ機能するものであってもよい。
【0032】
第1の形態のスプライン結合部25の形態は一例であって、歯列の形状等は適宜変更できる。例えば、図示のようないわゆる角スプラインの形状の他、インボリュートスプライン、セレーション等の形状の歯列を形成してもよい。
【0033】
第2の形態の低剛性結合部35の形態は一例にすぎない。例えば、駆動ギア軸に単一の外溝とロータ軸に単一の内溝をそれぞれ形成し、互いに対向した状態のそれらの溝に単一の介在部材を嵌め込む形態を排除するものではない。また、図示のように、複数の嵌合部を相互に接続することに制限されず、それぞれ独立した複数の嵌合部をひとつずつ互いに対向した状態の各外溝と各内溝とに嵌め込む形態で実施することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一形態に係る駆動装置が組み込まれた車両の全体構成を模式的に示した図。
【図2】モータジェネレータの周辺に関連する駆動装置の要部を示した図。
【図3】スプライン結合部の一部を軸線の方向から見た状態を拡大して示した図。
【図4】パーキングロック機構30をドリブンギア軸17の軸線方向から見た状態を示した図。
【図5】衝撃荷重の作用を説明する説明図。
【図6】第2の形態に係る駆動装置の要部を示した図。
【図7】低剛性結合部の一部を軸線の方向から見た状態を拡大して示した図。
【符号の説明】
【0035】
1 車両
2 駆動装置
4 モータジェネレータ(回転電機)
7 駆動輪
12 ロータ
13 ロータ軸
13a 貫通孔
14 駆動ギア軸
15 駆動ギア
16 ドリブンギア
17 ドリブンギア軸
21、22 軸受
25 スプライン結合部(低剛性結合手段)
26 外歯列
26a 外歯
27 内歯列
27a 内歯
30 パーキングロック機構
31 パーキングギア
32 パーキングポール
35 低剛性結合部(低剛性結合手段)
36 外溝列
36a 外溝
37 内溝列
37a 内溝
38 介在部材
38a 嵌合部
38b 接続部
Ax 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源として設けられた回転電機の動力を車両の駆動輪に出力できる車両の駆動装置であって、
前記回転電機から前記駆動輪までの動力伝達経路内に配置された駆動ギアが一体回転可能に設けられた駆動ギア軸と、前記回転電機のロータが外周に装着され、かつ前記駆動ギア軸が軸線の方向に挿入され得る貫通孔が形成されたロータ軸と、前記駆動ギア軸を回転自在に支持することができ、かつ前記駆動ギア軸の軸線の方向に所定間隔を開けて配置された一対の軸受と、を備え、
前記駆動ギア軸と前記ロータ軸とは、前記駆動ギア軸と前記ロータ軸との間を伝達する衝撃荷重を緩和できる低剛性結合手段を介在させた状態で、前記駆動ギア軸を支持する前記一対の軸受間に前記ロータ軸が位置するようにして同軸かつ一体回転可能に組み合わされていることを特徴とする車両の駆動装置。
【請求項2】
前記低剛性結合手段として、前記駆動ギア軸の外周に形成されて前記軸線の方向に歯すじが延びる外歯が前記駆動ギア軸の周方向に並ぶ外歯列と、前記ロータ軸の内周に形成されて前記軸線の方向に歯すじが延びる内歯が前記ロータ軸の周方向に並び、かつ前記外歯列と噛み合うことができる内歯列とを有し、前記外歯列と前記内歯列とを相互に噛み合わせることにより前記駆動ギア軸と前記ロータ軸とを同軸かつ一体回転可能に組み合わせることができるスプライン結合部が設けられている請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記低剛性結合手段として、前記駆動ギア軸の外周に形成されて前記軸線の方向に延びる外溝と、前記ロータ軸の内周に形成されて前記軸線の方向に延びる内溝と、互いに対向した状態の前記外溝及び前記内溝のそれぞれに嵌り、かつ前記駆動ギア軸の構成材料よりも剛性の低い低剛性材料にて構成された介在部材とを有し、前記介在部材を前記外溝及び前記内溝のそれぞれに嵌るようにして前記前記駆動ギア軸と前記ロータ軸との間に介在させることにより前記駆動ギア軸と前記ロータ軸とを同軸かつ一体回転可能に組み合わせることができる低剛性結合部が設けられている請求項1に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記低剛性結合部は、前記外溝が前記駆動ギア軸の周方向に並ぶ外溝列と、前記内溝が前記ロータ軸の周方向に並ぶ内溝列とを更に有し、
前記介在部材は、互いに対向した状態の前記外溝列の各外溝と前記内溝列の各内溝とに嵌る複数の嵌合部を備える請求項3に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記介在部材は、前記複数の嵌合部を互いに接続する接続部を更に備える請求項4に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記駆動ギアから前記駆動輪までの間の前記動力伝達経路内に配置されたパーキングギアと、前記パーキングギアに噛み合って前記パーキングギアを回転不能に拘束する係合位置と前記パーキングギアから離れて前記パーキングギアの回転を開放する開放位置との間で移動できるパーキングポールとを有するパーキングロック機構を更に備える請求項1〜5のいずれか一項に記載の駆動装置。
【請求項7】
前記駆動ギアと噛み合うドリブンギアが一体回転可能に設けられたドリブンギア軸を更に備え、前記パーキングギアが前記ドリブンギア軸に一体回転可能に設けられている請求項6に記載の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−174629(P2009−174629A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−13608(P2008−13608)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】