説明

車両シート装置及び乗員保護方法

本発明は、
車両シートと、
車両シートに配置された少なくとも一つの膨張要素(3)と、
車両と物体との衝突が差し迫っていることを知らせる制御信号に応じて膨張要素(3)を膨張させるための膨張要素の膨張手段とを備え、
膨張要素(3)は、制御信号に応じて膨張しつつ、物体に衝突しそうな車両の衝突部分から乗員を遠ざける力を乗員に作用させるように構成されている車両用車両シート装置に関する。
さらに、本発明は、乗員を保護する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用車両シート装置、及び、乗員を保護するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突時にエアバッグを展開させ、車両構造体に対する乗員の衝撃を減衰させるエアバッグモジュールを車両のシートに組み込むことは公知である。しかし、特に、側面衝突の場合、乗員と衝突箇所との距離が短いために、しばしば、十分な保護効果が得られないことがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、車両用シート装置、及び、車両の衝突事故の際の乗員の保護効果を向上させることが可能な乗員を保護するための方法を提示することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題は、請求項1に記載の特徴を有する車両シート装置、請求項40に記載の特徴を有する車両シート装置、ならびに、請求項44に記載の特徴を有する方法によって解決される。本発明の有利な変更例は、従属項に記載される。
【0005】
本発明によれば、
車両シートと、
車両シートに配置された少なくとも一つの膨張要素と、
車両と物体との衝突、又は、車両と物体との衝突が差し迫っていることを知らせる制御信号に応じて膨張要素を膨張させる手段とを備え、
当該膨張要素は、制御信号に応じて膨張しながら、物体と衝突すると判断された車両の衝突部分から乗員を離間させる力を、車両シートに着座する乗員に作用させるように構成されている車両用車両シート装置が提供される。
【0006】
本発明は、膨張要素の膨張とともに、特に、衝突予知信号に応じて、すなわち車両が実際に物体と衝突する前に、乗員を衝突箇所から遠ざけることを可能とする。乗員は、膨張する膨張要素によって、着座位置から、車両の衝突部分(衝突箇所)から遠ざかる方向に移動し、これにより、乗員と衝突箇所との間に更に間隔ができる。この間隔が、新たな吸収経路となり、乗員に対する衝突の影響が軽減される。特に、この間隔がエアバッグに利用されると、エアバッグは、実際に衝突した際に生じる間隙の中へ展開することによって、エアバッグの保護効果を高める更なる有効厚を備える。さらに、乗員を遠ざけることによって、衝突によって車両内部空間に向かって侵入する車両構造体と乗員との間の相対速度を低減させることができる。
【0007】
当然、数個の膨張要素を車両シートに設けることも可能である。また、事故発生時には、最適な膨張要素又は数個の好適な膨張要素が膨張する。好適な膨張要素とは、出来る限り効率的に、すなわち、出来るだけ速く、かつ遠くに乗員を衝突箇所から離間させる(遠ざける)ことのできるように乗員に対して配置された要素である。膨張する膨張要素の力によって、乗員は、車両に対して(すなわち、車両シートの一部に対して)相対移動を行うが、車両シート自体は移動しない。
【0008】
好適な膨張要素の決定は、特に、衝突予知システムによって行なうことが可能である。しかし、膨張要素(又は複数の膨張要素)の膨張は、必ずしも衝突予知手段の枠内で行われる必要はなく、車両の衝突が既に始まった後に、例えば、車両の他の保護装置(例えば、サイドエアバッグ)をサポートするために行われてもよい。
【0009】
本発明の一態様においては、乗員の体全体ではなく、実質的に乗員の体の一部だけが、膨張要素によって乗員に作用する力で移動するように構成されている。例えば、乗員の上半身だけ、又は乗員の上半身の一部領域(例えば、胸部領域)だけを移動させることが可能である。例えば、乗員は、実質的に車両シートの着座位置に座ったままで、上半身又は上半身の一部が衝突箇所から遠ざかる方向に移動する。例えば、上半身が、衝突箇所から遠ざかる方向に「傾動動作」する。
【0010】
膨張要素から乗員に力を伝達するために、膨張要素は、膨張しながら、例えば、車両シートの形状を変えることが可能である。この場合、シート(又は、シートの一部領域)の形状変化によって乗員に力が作用する。
【0011】
特に、車両の衝突部分(すなわち、物体に衝突しそうな車両部分、又は既に衝突している車両部分)が、車両シートに最も近い車両前後方向側面を含んでいる場合(「ニアサイド側面衝突」とも称呼)、膨張要素は、車両中央部の方に乗員を移動させることが可能である。一方、衝突部分が、車両シートに最も近い車両前後方向側面に対向する車両前後方向側面を含んでいる場合(「ファーサイド側面衝突」とも称呼)、膨張要素は、乗員を車両シートに最も近い車両前後方向側面の方に移動させることができる。
【0012】
一般的に、膨張要素又は複数の膨張要素は、乗員にとって好ましい場合には、衝突位置に居る乗員を移動させることができる。それによって、乗員は、例えば、異常な着座位置、すなわち非定常的な着座状態(OOP状態:「Out of Position状態」)とも称呼)から車両シートに対して正常な着座位置へ移動できる。すなわち、乗員は、OOP位置から「正常な」着座位置へ戻され、車両の衝突部分から遠ざけられる。
【0013】
本発明に係る車両シート装置の一変更例においては、車両シートは、中央部と、横方向において中央部を規定する少なくとも一つの側壁部とによって構成される。膨張要素は、膨張要素を膨張させることによって、側壁部の形状が変化し、それによって乗員に力が作用するように側壁部に配置される。特に、数個の膨張要素を、車両シートの対向する側壁部の一方又は両方に設けることも可能である。
【0014】
側壁部は、例えば、膨張要素が乗員の上半身の領域に配置されるように、背もたれシートの中央部を規定することもできる。しかし、それに加えて、あるいは、その代わり、乗員の下半身を車両の衝突部分から遠ざけることもできるように、車両シートの着座領域の中央部が、側壁部によって規定され、少なくとも一つの膨張要素を備えるように構成することも可能である。
【0015】
膨張要素を膨張させるための手段を、例えば、車両シートの中に組み入れることも可能である。特に、膨張させる手段は、衝突が差し迫ると膨張要素を素早く膨張させるように膨張要素に対して構成されており、実際に衝突(すなわち、車両と物体とが接触)する前に乗員を遠ざける動作が既に始まっているように構成されている。これは、例えば、実際の衝突が始まる約25ミリ秒から500ミリ秒前に開始可能である。
【0016】
さらに、膨張手段は、車両シートを乗員の外形に合わせるために、すなわち、保護機能の他にさらに快適機能も実現するために、衝突を知らせる制御信号とは無関係に膨張要素を膨張させるように構成することも可能である。
【0017】
膨張要素を膨張させるための手段は、さらに少なくとも一つの圧力タンクを備えていてもよい。当該圧力タンクは、ガスを膨張要素に一気に供給するように構成されている。例えば、圧力タンクは、車両シートに組み込むこともできるし、また車両シートの外側に配置することもでき、加圧状態のガス(あるいは、例えば、液体ガス)を充填することによって実現される。
【0018】
本発明に係る別の変更例においては、膨張要素(又は複数の膨張要素)を膨張させるために車両シートに組み込まれた少なくとも一つの圧力タンクと、圧力タンクを充填するために、例えば車両シートの外側に配置された少なくとも一つの圧力タンクが設けられる構成である。車両シート(車両の中央部の)の外側に配置された側の圧力タンクは圧力発生装置として規定される、例えば、コンプレッサに接続することが可能であり、コンプレッサによって加圧空気などを充填可能である。別の態様では、局所圧力タンク(シートに組み込まれた)は、圧力発生装置によって直接充填される。さらに、一つの圧力発生装置だけが車両シートの外側に設けられ、膨張要素が接続管路を介して接続されるように、すなわち、車両シート内に中継圧力タンクを設けずに、直接充填されるように構成することも可能である。
【0019】
膨張要素を充填するための(局所又は中央)圧力タンクが設けられる本発明の一態様は、特に、膨張要素を繰り返し充填するのに好適である。圧力タンクの代わりに、例えば、ガスを火工的に発生させるガス発生装置を、膨張要素を膨張させるために用いることもできる。勿論、例えば、ハイブリッドガス又は冷却ガス発生装置などの他種のガス発生装置を用いることも可能である。しかし、一般的に、ガス発生装置では、膨張要素は一度しか充填することができない。
【0020】
起動時に膨張要素へ出来る限り多くのガスが流れ、そのガス流で出来る限り速く膨張要素を充填できるように、膨張要素を膨張させるための圧力タンクと膨張要素との間には、出来る限り大きな断面を有する流路が設けられる。さらに、制御信号に応じて開口されて流路を開放する高速スイッチングバルブを、圧力タンクと膨張要素との間に配置することができる。
【0021】
特に、第1流路は、車両シートに組み込まれた局所圧力タンクと膨張要素との間に設けられ、第2流路は、車両シートの外部に配置された中央圧力タンクと局所圧力タンクの間に設けることができる。本発明の一態様においては、第2流路の流動断面は、第1流路の流動断面より小さく設定される。例えば、第2流路の流動断面を部分的に小さくする構造、例えば、中央圧力タンクと、車両シートに局所的に配置された圧力タンクとの間にゲートなどを設けるこができる。それによって、特に、圧力タンクを充填するために使用されるコンプレッサの過負荷を回避できる。中央圧力タンクの代わりに、第2流路によっても、圧力発生装置(例えば、コンプレッサ)を局所圧力タンクに接続させることが可能である。
【0022】
本発明の別の変更例においては、膨張要素を膨張させるための手段と相互に作用し、膨張要素が膨張する際の充填速度を調整することが可能な手段(例えば、制御バルブ)が設けられる。特に、この調整手段は、連続的な調整を可能にする。しかし、調整手段によって、第1及び第2充填速度の調整も可能とされる。この場合、第2充填速度による充填量より第1充填速度による充填量のほうが大きく設定される(2段階調整)。これによって、より大きな充填速度が設定された場合には、事故時における膨張要素の高速充填を可能にし、より小さな充填速度が設定される場合には、快適性を得るための膨張要素の充填を可能にする。
【0023】
2段階調整が可能である構成に代えて、勿論、一般的には多段階調整が可能である構成もある。調整手段は、例えば、断面が調整可能である制御バルブから成る。別の例では、異なる断面を有する少なくとも2つのバルブが設けられ、既に2つのバルブによって、3つの異なる充填速度を実現することが可能とされている(2つのバルブのうちの一方又は双方を介した充填)。
【0024】
特に、充填速度(及び/又は、充填圧力)は、調整手段を介して、予想される衝突の程度に応じて設定可能とされる。例えば、衝突予知システム(例えば、レーダ装置)のデータを用いて、予想される衝突の程度を算定することができる。
【0025】
本発明の別の実施の形態においては、膨張要素は復元可能であるように構成されている。すなわち、膨張要素は、膨張及び排気後、膨張前の状態(形状及び位置)に戻る。このためには、膨張要素は、十分な固有の弾性を有する材料で形成され、これによって膨張要素は膨張及び排気後に元の形状に復元される。このような材料としては、例えば、ゴム製又はシリコン処理された(すなわち、シリコンでコーティングされた)エアバッグ繊維がある。
【0026】
さらに、膨張要素は、ほぼ気密状に構成されたチャンバによって構成することが可能である。そのような気密状チャンバを形成するために、従来のエアバッグ繊維としては、例えば、シリコン処理などによって気密にされたナイロン織物が考えられる。この点で、膨張要素は、単一のチャンバから成っていなくても、必要に応じて異なった圧力で膨張可能な(全てが気密状である必要はない)数個の膨張可能なチャンバによって構成されていてもよい。基本的には、気密状に構成されていない単一チャンバを有する膨張要素を使用することも可能である。例えば、エアバッグ拘束装置に使用される通常のエアバッグを用いることができるが、この場合、縫目領域からの漏出は容認される。
【0027】
上記のように、車両シート装置は、車両シートに組み込まれた数個の膨張要素によって構成されていてもよい。特に、それぞれ乗員に同じ力(又は、少なくとも同方向の力)を作用させることができるように(例えば、互いに当接するように)配置される2つ(又は2つ以上)の膨張要素を設けることも可能である。膨張時に膨張要素が乗員に作用させる力は、ほぼ倍加される。例えば、膨張要素は、平面カット材(例えば、外周で互いに接続された2つの材料層)で構成することができ、一方の膨張要素が、他方の膨張要素にほぼ完全に重なるように配置することができる。したがって当該態様では、膨張要素は、互いに重なり合うように配置されている。
【0028】
さらに、膨張要素は、特に、適応式に膨張可能である、すなわち、乗員の体格パラメータに合わせて膨張可能である。このため、乗員の体重や横幅などを測定する感知装置を、例えば、車両シートに組み込むことができる。
【0029】
さらに、本発明では、膨張要素は、保護装置として(又は、さらに、車両シートの形状を乗員の体の外形に合わせる快適要素として)使用される以外に、乗員に対して体で感じられる警告を発するために使用される。衝突が差し迫っている場合、又は一般的に危険な状態にある場合、危険な状態に対する乗員の喚起を促すために、膨張要素によって乗員が(僅かに)押されるように膨張要素を膨張させることが可能である。
【0030】
本発明の別の態様では、膨張要素は、カバーによって少なくとも一部が被覆され、この場合、当該カバーは、例えば、車両シートのシートカバーによって構成される。さらに、車両シート装置は、膨張要素の領域においてカバーに復元力を作用させるための手段(例えば、バネ又は弾性バンド)を備えることができるため、カバーは、膨張要素が膨張及び排気された後に膨張要素が膨張する前の状態に戻ろうとする。したがって、膨張要素の充填及び排気は復元可能に行われ、例えば、膨張要素が快適性を得る目的で起動される場合や、膨張要素が衝突予知信号によって膨張する場合には、衝突は、まだ発生してはいない。
【0031】
特に、カバーは、膨張要素の領域が弾性を有し、膨張要素の膨張時に伸張し、かつ、膨張要素の排気後は元の状態に戻ろうとするように構成されている。例えば、カバーは、膨張要素の膨張時に損傷しないように伸張可能な弾性繊維布で形成されている。
【0032】
一変更例では、車両シートは、シートカバーによって少なくとも一部が被覆されたシート緩衝材を備え、膨張要素は、少なくとも一部がシート緩衝材とシートカバーとの間に配置される。すなわち、シートカバーの一部がカバーを構成する。
【0033】
勿論、膨張要素の取付位置としては、例えば、緩衝材の内側面(シートカバーと反対側)など、他の取付位置も考えることができる。膨張要素は、膨張状態においてシートカバーから離れないように配置可能である。
【0034】
更なる実施の形態では、膨張要素は、少なくとも一部がケーシング内に延在すし、膨張していない状態では、少なくともその一部が、例えば、車両シートの外形に倣う、すなわち、車両シートの外側に当接している。膨張要素が膨張すると、その一部は車両シートから遠ざかる方向に移動する。
【0035】
一態様では、ケーシングは、ケーシングの部分が、膨張要素の膨張時に開放されるように膨張前は車両シートに開放可能に接続されているようにする手段を備えている。当該手段は、例えば、固着テープ式又は押しボタン式ファスナの構造を備えている。さらに、膨張要素の展開及び排気後にケーシングを元の位置に戻す、例えば弾性要素などの手段を設けることができる。
【0036】
制御信号は、衝突予知システムによって発せられるだけでなく、制御信号として、例えば、電子安定制御(ESC)装置(「ESP装置」)の信号も使用可能である。あるいは、制御信号を、衝突が実際に起きたことを判断する衝突感知システムによって発生させ、膨張要素が、衝突前ではなく、衝突時に起動されるようにすることも可能である。
【0037】
衝突予知制御信号は、例えば、予想される衝突の0〜1000ミリ秒前に発せられる。特に、1つ又は数個の膨張要素が協働して乗員を秒速0.1〜1.5mで移動させることができる。また、膨張要素を、例えば、5〜500キロパスカル(kPa)の内圧によって膨張させることができる。これらの値は、例示にすぎず、本発明では、勿論、その他の態様、例えば、膨張要素の内圧がそれより低い態様や高い態様も包含される。
【0038】
さらに、本発明の別のアスペクトは、膨張要素と、膨張状態の膨張要素に対する車両シートに着座している乗員の衝撃を減衰させるための手段とを有する車両シート装置に関する。当該手段によって衝撃エネルギーを吸収し、乗員が充填された膨張要素に衝突する際に負傷する危険性を軽減することができる。特に、このような膨張要素は、車両シートと車両前後方向側面との間に配置されたサイドエアバッグに加えて、または、これに代えて設けることが可能である。
【0039】
一態様では、膨張要素からのガスの流出を可能にする手段は、少なくとも一つの排気口(通気孔)によって構成される。特に、膨張要素の内圧を最小限に維持するために、排気口は、例えば、膨張要素が所定の内圧に達した時に開口するかあるいは時間に応じて開口し、開口状態を維持可能であるかあるいは一定時間経過後に閉口可能な(例えば、切替可能な)バルブとして実現することができる。
【0040】
さらに、本発明は、
車両シートに配置された少なくとも一つの膨張要素を有する車両シートを提供するステップと、
車両と物体との衝突が差し迫っていることを知らせる制御信号を発生するステップと、
制御信号に応じて膨張要素を膨張させ、膨張要素が、制御信号に応じて膨張しつつ、車両シートに着座している乗員に、物体に衝突しそうな車両の衝突部分から乗員を遠ざける力を作用させるステップとから成る乗員を保護する方法に関する。
【0041】
例えば、膨張要素は、特定の衝突事故に好適な制御信号によって一部分だけを膨張させることができる。この態様においては、膨張要素は、例えば、乗員を出来る限り遠くへ押し離すように充填されるのではなく、乗員を車両シートに対して中央位置へ(例えば、OOP位置外へ)移動させるように充填される。これは、車両がサイドスリップした場合、衝突側面を判断することは難しいため、特に有利である。制御信号として、例えば、電子安定制御(ESC)装置の信号を使用することが可能である。
【0042】
当該方法の変更例では、
第1制御信号が第1時点で発生され、第2制御信号が第2時点で発生され、
膨張要素は、制御信号に応じて第1充填速度で充填され、第2制御信号に応じて、第1充填速度と異なる第2充填速度で充填される。
【0043】
特に、第2充填速度は、第1充填速度よりも高速とされている。すなわち、膨張要素は、最初は比較的低速(すなわち少流量)で充填され、その後の段階でより高速で充填される。このような構成は、予測される衝突の時間が近くなればなるほど、衝突予知装置の予測の安全性が高まるため、合理的である。これによって、予測される衝突の検知の比較的早い段階、例えば、衝突300ミリ秒前に、乗員を刺激しないように膨張要素にゆっくりガスを充填することができる。例えば、(レーダなどによって)監視するのに適した場所における危険な状態は、予測される衝突が起こるかなり前に登録できるため、それを膨張要素の事前充填に利用することが可能となる。
【0044】
衝突の可能性があると判断され、且つ/又は、予測される衝突の程度に関する正確な情報がある場合、少し後の時点(例えば、算出された衝突時点の約100ミリ秒前)に、充填速度を(例えば、最大値に)上げることが可能である。上記したように、例えば、連続制御可能なバルブ、又は、断面積の異なる複数のバルブを介して、異なる充填速度を得ることが可能である。
【0045】
衝突が起こらないか、または、より軽い衝突であろうことが第2時点で明らかになることもあり、その場合には、充填が中断されるか又は低速で継続される。
【0046】
当該方法の別の実施の形態においては、車両シートは、2つの対向する膨張要素を備え、予測される衝突箇所に面する膨張要素だけが膨張する構成である。衝突箇所から離れている方の膨張要素が膨張状態にある場合には、他方の膨張要素が膨張する間に排気可能とされる。これによって、乗員を押し離す動作が、衝突箇所と反対側の膨張要素によって妨害されることはない。
【0047】
一態様においては、車両シートは、同一方向に作用する複数の膨張要素を備え、制御信号によって、これら膨張要素の全てが膨張する(保護機能)、あるいは、これら膨張要素の一つだけ又は数個だけが膨張する(例えば、快適性を得る目的で膨張要素を使用する場合)。また、膨張要素は、シート緩衝材とシートに着座している乗員との間に重なり合って延在するように配置することも可能である。
【0048】
以下に、本発明の更なる詳細が、図を参照して実施の形態に基づいて記述される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
図1aには、本発明に係る車両シート装置の一態様による車両シートの背もたれ(シートバック)1の概略断面図が示されている。図1b及び図1cには、それぞれ背もたれ1の正面図と側面図が示されている。
【0050】
車両シート(完全には図示されていない)には、乗員2が背中を背もたれ1につけて着座している。背もたれ1は、側壁部12によって横方向に規定される中央部分11から形成されている。図1aには、背もたれ1の半分ほどしか示されておらず、一方の側壁部しか図示されていない。図1bからは、中央部分11が、側壁部12によって両側で限定されていることが分かる。側壁部12は、乗員2の側部21に沿って延在し、乗員2が側壁部12によって横方向に支持される。
【0051】
膨張要素3が、側壁部12それぞれに組み込まれている。各膨張要素3は、ガス(例えば、加圧空気)を充填可能な膨張チャンバ31によって構成される。膨張要素3の一方を膨張させることによって、側壁部12の形状が変化し、乗員2に力が作用する。膨張要素は、制御信号、例えば、車両の衝突が差し迫っていることを知らせる衝突予知システムの信号に応じて膨張する。膨張要素3は、制御信号に応じて膨張する際に乗員2に加える力で乗員の上体を元の位置から遠ざけるように、乗員2に対して配置構成されている。
【0052】
ここで、2つの膨張要素3のうちの一方が膨張し、物体と衝突しそうな車両の衝突部分と反対の方向に向かう力、すなわち、乗員の少なくとも一部(上体)を衝突部分から遠ざける力を乗員に作用させる。このようにして、例えば、側面衝突の際には、衝突の影響を受けると思われる車体前後方向側面に対向する側壁部の膨張要素が起動して、乗員を車体の影響を受ける側から遠ざけるようにする。
【0053】
乗員2を遠ざける様子が図2に示されている。乗員2は、方向Cに沿って元の位置(破線)から新たな位置(実線)へ移動する。この例では、乗員の下半身はほぼ元の着座位置に維持される一方、上体が衝突箇所から離れる(傾く)。しかし、少なくとももう1つの膨張要素を車両シートの着座領域に配置し、乗員の下半身(骨盤領域)も動かすことによって、乗員の体全体を動かすように構成することも可能である。
【0054】
膨張要素3は、シート緩衝材4(シートカバー5によって乗員側がカバーされている)の内側面41に配置されているため、膨張後、側壁部12の内側、すなわち、車両シート内部に延在する。膨張要素3の膨張によって、側壁部(特に、シート緩衝材4)の形状が変化し、乗員2に力が作用する。
【0055】
乗員を衝突箇所から離すことによって、衝突経路と乗員との間に、乗員に対する衝突の影響を軽減する新たな吸収経路ができる。また、衝突時に別に展開するエアバッグ(例えば、サイドエアバッグ)との間に新たに生じる間隔を利用できるため、エアバッグの有効厚がさらに増加する。図1a及び図2に示されているように、膨張要素3の他に、サイドエアバッグモジュール6が側壁部12に配置され、衝突事故時に膨張して乗員と車体前後方向側面との間に延伸するエアバッグを有している。サイドエアバッグモジュール6は、エアバッグの他に、エアバッグを膨張させるためのガス発生装置を有する通常のエアバッグモジュールである。
【0056】
膨張させるために、膨張要素3は、膨張させる手段(図示省略)に接続される。膨張手段は、車両シート、例えば、背もたれ1に組み込むことも可能であるし、車両シート外部に配置することも可能である。
【0057】
また、各側壁部12は、膨張要素3を支持する支持構造体7を有している。支持構造体は、部分75が背もたれ1のフレーム8に接続されている。更に、各支持構造体7は、膨張要素3の、乗員2(すなわち、背もたれ1の背もたれ面13)に面する側とは反対側の面32に沿って延在する部分71を形成する。支持部分71によって、膨張要素3が、膨張時に、乗員2と反対の方向にではなく、乗員2に向かって拡張する。そのため、最大限の力が乗員に作用し、膨張後には乗員と衝突箇所との間の間隔が最大限になる。
【0058】
1つの側壁部に数個の膨張要素を設けることも当然可能である。例えば、数個の向きの異なる膨張要素を設け、膨張要素が、膨張状態で様々な方向に延在するように構成することが可能である。これによって、膨張させる膨張要素の選択に応じて、乗員を異なる方向に移動させることが可能となる。どの膨張要素、または、どのグループの要素を膨張させるかは、特に、衝突箇所の位置に応じて選択される。乗員をOOP位置から「正常な」着座位置の方に移す更なる要素を起動させることが可能である。
【0059】
また、本発明に係る車両シート装置の車両シートは、左右対称に形成されている必要はなく、例えば、一方の側壁部にのみ、膨張要素または膨張手段を備えていてもよい。
【0060】
図3は、本発明に係る車両シート装置(図示省略)用の膨張要素3を膨張(充填)させる装置を概略的に示している。この装置は、車両シート装置の車両シートに組み込まれる局所圧力タンク9を備える、膨張要素3を膨張させる手段によって構成されている。圧力タンク9は、ほぼ気密状に構成された容器であり、ガス、特に、加圧空気や液体ガスを充填可能であり、流路10を介して膨張要素3と流体連通している。
【0061】
流路10は、断面が大きく、制御信号(例えば、衝突予知システムからの)に応じて、高速スイッチングバルブ111によって急速に解除される。それによって、ガスは、圧力タンク9から膨張要素内に一気に排出され、膨張要素が急速に充填される。特に、流路10とバルブ111は、圧力タンク9から膨張要素3内に流入するガス流が、衝突予知システムによって検知された衝突が実際に起こる前に膨張要素を膨張させるだけの十分な流量となるように構成されている。
【0062】
局所圧力タンク9を充填するために、中央圧力タンク90が、車両シートの外部に配置され、別の流路100を介して局所圧力タンク9に流体連通されるように構成されている。中央圧力タンク90は、やはり車両シートの外部に配置されるコンプレッサ95(圧力発生装置)によって圧力が供給される。当該コンプレッサ95は、加圧空気を発生させるとともに、流路110を介して加圧空気を中央圧力タンク90へ供給する。中央圧力タンク90は、例えば、異なる車両シートにも配置可能な数個の局所圧力タンクに圧力を供給するように構成することも可能である。図3には、局所領域(車両シート)と中央領域の区分が破線によって示されている。
【0063】
図4の概略図は、着座領域14と、2つの対向する側壁部12によって規定される中央部11を有する背もたれ1とを備えた車両シートを上方から見た図である。
【0064】
2つの側壁部12には、2つの膨張要素3a,3bがそれぞれ1つずつ配置され、当該膨張要素を介して着座している乗員(図示省略)に力が作用するように構成されている。膨張要素3a,3bは、側壁部3の着座している乗員に面する側に配置され、側壁部3と乗員との間に重なって延在している。右側の側壁部の膨張要素は膨張し、左側の側壁部の膨張要素は膨張しない構成である。
【0065】
膨張要素を、車両シートのカバー5の下側、すなわち、シートカバー5と、例えばシート緩衝材などのシートコアとの間に配置することも可能である。特に、両膨張要素3a,3bは、膨張状態でシートカバー5の下側に延在可能なように、すなわち、シートカバー5によって被覆されるように構成配置することが可能とされる。
【0066】
図5は、本発明に係る車両シート装置の更なる態様に関する。前図のように、背もたれ1は、図5にその一方だけが示された側壁部12によって横方向に限定された中央部11を備えている。また、背もたれ1は、側壁部12及び中央部分11のコアを連続的に構成するコア材であるシート緩衝材4を備えている。さらに、側壁部を安定させるように、側壁部12の内側に支持体122が設けられている。シート緩衝材4は、シートカバー5によって被覆されている。
【0067】
側壁部12においては、2つの膨張要素3a,3bが、互いに一部分が重なり合うように、緩衝材4とカバー5との間に配置されている。この場合、カバー5は、膨張要素3a,3bの領域において膨張要素のカバーを構成している。膨張要素3a,3bは、側壁部12の車両シートに着座している乗員に面する領域121に、それぞれ一部分が延在しているが、緩衝材4に沿ってオフセット配置されている。
【0068】
膨張要素3a,3bは、それぞれ、固定部である回転軸190に対してバンド33を介して端部34a,34bで回動可能に固定されているため、膨張時に、膨張要素3a,3bは、ともに保護対象乗員の方に、回転軸190を中心に、すなわち、ほぼ円軌道上を移動する。膨張要素3a,3bがオフセット配置されているため、保護対象乗員に近い方の膨張要素3bは、一部領域が内側の膨張要素3aより(車両進行方向の)前方に位置し、特に、乗員の胸部領域に力を作用させる。
【0069】
さらに、車両シートは、カバー5に復元力を作用させるための手段として、側壁部12に配置されたバネ85を備えている。バネ85は、カバー5の端部51に接続され、各膨張要素3a,3b(又はその一方)が展開する際に、カバー5の膨張を許容し、展開する膨張要素3a,3bによってカバー5が破壊されないように構成されている。他方、バネ85は、(膨張要素3a,3bによって膨張した)カバー5に復元力を作用させ、膨張要素3a,3bが排気されて空になると、カバー5が元の位置に戻る、すなわち、コア材4にほぼ当接するように構成されている。
【0070】
図6は、本発明の更なる態様に関し、シート構造の構成は図5と同じである。しかし、ここでは、膨張要素3a,3bは、別々の袋状のケーシング55a,55bに包み込まれており、当該ケーシング55a,55bは、カバー5に接続されるか、あるいはカバー5と一体状に形成されている。着座する乗員(図示省略)に面する外側の膨張要素3bのケーシング55bの端部551は、固定手段である磁気接続部57を介して側壁部12に解除可能に固定されている(再固定可能である)。ここで、例えば、面ファスナなどの他の固定手段を用いることも可能である。他の態様においては、ケーシング55a,55bは、車両シートに固定するための手段を備えていないが、車両シートに接続されずに、少なくともその一部が車両シートの形状に沿うように構成されている。
【0071】
図5に示すように、膨張要素は、その端部34a,34bとバンド33を介して回転軸に回動可能に固定されている。膨張要素3a,3bの膨張時に、端部551が外側のケーシング55bから切り離されることによって、膨張要素3a,3bは、回転軸190を中心にして回動するが、図5の態様に比べて、より自由に展開することが可能となる。例えば、膨張要素3a,3bは、容積をより大きくでき、保護対象乗員により近接して延在可能となる。
【0072】
外側のケーシング55bは、図6の例では、2つの部分片によって構成され、当該部分片は、端部551で縫目552によって接続されている。ケーシング55a,55bは、一体に構成することも可能である。さらに、分離したケーシング55a,55bの代わりに、両膨張要素3a,3bを一緒に包む共通のケーシングを用いることも可能である。
【0073】
図7は、膨張要素3a,3bが膨張した後の図6の構成を示している。最初は側壁部12に固定されていた外側のケーシング55bの端部551は、固定が解除され、それによって、膨張要素3a,3bは、自由に展開して保護対象乗員(図示省略)に向かって移動可能となった。ケーシング55a,55bは、膨張要素3a,3bが排気されて空になると、膨張要素3a,3bが膨張する前の元の位置に戻り、それによって接続部57(構成要素57a,57bを有する)が再度閉鎖するように構成することが可能である。
【0074】
図8は、乗員2が着座する車両シートの横断面を示している。シートは、対向する両側に乗員2に隣接する側壁部12を備えている。2つの側壁部のうち車両前後方向側面150に近い方の側壁部には、膨張状態が図示されている2つの膨張要素3a,3bが配置されている。
【0075】
図5から図7に示されるように、膨張要素3a,3bは、オフセット配置され、一部分が重なり合い、乗員2に近い方の膨張要素3bは、一部領域が(内側の)膨張要素3aの前方にある。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1a】本発明に係る車両シート装置の第1の実施形態を示す図である。
【図1b】本発明に係る車両シート装置の第1の実施形態を示す図である。
【図1c】本発明に係る車両シート装置の第1の実施形態を示す図である。
【図2】膨張要素が膨張した後の、図1a〜1cの車両シート装置を示す図である。
【図3】膨張要素を膨張させるための装置を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る車両シート装置の概略平面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る車両シート装置の詳細図である。
【図6】本発明の第4の実施形態に係る車両シート装置の詳細図である。
【図7】膨張要素が膨張状態の図6の装置である。
【図8】本発明に係る車両シートの概略断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 背もたれ
11 中央部
12 側壁部
121 領域
122 支持体
13 背もたれ面
14 着座領域
2 乗員
21 側部
3,3a,3b 膨張要素
31 チャンバ
32 面
33 バンド
34a,34b 端部
4 緩衝材
5 シートカバー
51 端部
55a,55b ケーシング
551 端部
552 縫目
57 磁気接続部
6 サイドエアバッグモジュール
7 支持構造体
71 部分
8 フレーム
85 バネ
9 局所圧力タンク
90 中央圧力タンク
95 コンプレッサ
10,100,110 流路
111 バルブ
150 車両前後方向側面
190 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両シートと、
前記車両シートに着座する乗員(2)を保護するために膨張可能な、前記車両シートに配置された少なくとも一つの膨張要素(3,3a,3b)と、
車両と物体との衝突を知らせる制御信号、または車両と物体との衝突が差し迫っていることを知らせる制御信号に応じて、前記膨張要素(3,3a,3b)を膨張させるための膨張要素の膨張手段とを備え、
前記膨張要素(3,3a,3b)は、前記制御信号に応じて膨張しつつ、物体と衝突する車両衝突部分、または衝突しようとする車両衝突部分から、前記乗員を離間させる力を乗員に作用させるように構成されていることを特徴とする車両用車両シート装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両シート装置であって、前記乗員は、体の一部だけが衝突部分から離間するように移動されることを特徴とする車両シート装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両シート装置であって、前記力によって、前記乗員(2)のほぼ上半身のみ、または前記乗員(2)の上半身の一部分のみが移動することを特徴とする車両シート装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記衝突部分が前記車両シートに最も近い前記車両の前後方向側面を含む場合、前記膨張要素(3,3a,3b)は、前記乗員(2)を前記車両の中央に向かって移動させる力を作用させることを特徴とする車両シート装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記衝突部分が前記車両シートに最も近い前記車両の前後方向側面と対向した車両前後方向側面(150)を含む場合、前記膨張要素(3,3a,3b)は、前記乗員(2)を前記車両シートに最も近い前記車両前後方向側面に向かって移動させる力を作用させることを特徴とする車両シート装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記膨張要素(3,3a,3b)によって前記乗員に力が作用することで、前記乗員は、前記車両シートに対する非定常着座位置から前記車両シートに対する通常の着座位置に向かって移動されることを特徴とする車両シート装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記車両シートの形状が、前記膨張要素(3,3a,3b)の膨張によって変化し、それによって前記乗員(2)に前記力が作用することを特徴とする車両シート装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記車両シートは、中央部と、前記中央部を横方向に規定する少なくとも1つの側壁部(12)によって構成され、前記膨張要素(3,3a,3b)は、前記側壁部(12)に配置され、前記膨張要素(3,3a,3b)を膨張させることによって前記側壁部(12)の形状が変化し、乗員(2)に前記力が作用するように構成されることを特徴とする車両シート装置。
【請求項9】
請求項8に記載の車両シート装置であって、前記側壁部(12)が背もたれ(1)の中央部(11)を規定することを特徴とする車両シート装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記膨張要素(3,3a,3b)を膨張させるための前記手段は、前記車両シートに組み込まれていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記膨張要素(3,3a,3b)を膨張させるための前記手段は、前記車両シートの外部に配置され、前記膨張要素(3,3a,3b)を充填させることのできる圧力発生装置を備えていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記膨張要素(3,3a,3b)を膨張させるための前記手段は、衝突が差し迫ると前記膨張要素(3,3a,3b)を直ちに膨張させるように構成され、衝突する前に乗員(2)を離間させる動作が開始するように構成されていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記膨張要素(3,3a,3b)を膨張させるための前記手段は、さらに、前記車両シートを乗員(2)の外形に合わせるために、前記制御信号とは無関係に、前記膨張要素(3,3a,3b)を膨張させるように構成されていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記膨張要素(3,3a,3b)を膨張させるための前記手段は、ガスを前記膨張要素(3,3a,3b)に一気に供給するように構成された少なくとも一つの圧力タンク(9)を備えていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項15】
請求項14に記載の車両シート装置であって、前記圧力タンク(9)が前記車両シートに組み込まれていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項16】
請求項15に記載の車両シート装置であって、前記圧力タンク(9)に充填するための圧力発生装置(95)を備えていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の車両シート装置であって、前記圧力タンク(9)に充填するために前記車両シートの外部に配置された少なくとも一つの圧力タンク(90)を備えていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項18】
請求項17に記載の車両シート装置であって、前記車両シートの外部に配置された前記圧力タンク(90)に充填するための圧力発生装置(95)を備えていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項19】
請求項14に記載の車両シート装置であって、前記圧力タンク(9)は、前記車両シートの外部に配置されることを特徴とする車両シート装置。
【請求項20】
請求項17又は18に記載の車両シート装置であって、前記圧力タンク(9)と前記膨張要素(3,3a,3b)との間に少なくとも一つの第1流路(10)を備え、前記圧力タンク(9)と前記圧力タンク(90)との間に少なくとも一つの第2流路(110)を備え、前記第2流路(110)の流動断面が、部分的に前記第1流路(10)の流動断面より小さいことを特徴とする車両シート装置。
【請求項21】
請求項20に記載の車両シート装置であって、前記第2流路(110)の流動断面を部分的に減少させる構造を有することを特徴とする車両シート装置。
【請求項22】
請求項14から21のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記圧力タンク(9)は、ガス又は液体ガスが充填される収容体であることを特徴とする車両シート装置。
【請求項23】
請求項1から22のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記膨張要素(3,3a,3b)を膨張させるための前記手段と相互に作用し、前記膨張要素(3,3a,3b)が膨張する充填速度を調整することの可能な調整手段を備えていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項24】
請求項23に記載の車両シート装置であって、前記調整手段は、前記充填速度の連続的な調整を可能にすることを特徴とする車両シート装置。
【請求項25】
請求項23に記載の車両シート装置であって、前記調整手段によって、第1及び第2充填速度は調整可能とされ、前記第1充填速度による充填量は、前記第2充填速度による充填量より大きいことを特徴とする車両シート装置。
【請求項26】
請求項1から25のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記膨張要素(3,3a,3b)は、膨張及び排気後に膨張前の状態に戻るように構成されていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項27】
請求項1から26のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、乗員にほぼ同一方向に力を作用させることができるように配置された少なくとも2つの膨張要素(3,3a,3b)を備えていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項28】
請求項27に記載の車両シート装置であって、前記膨張要素(3,3a,3b)は、膨張前の状態では、前記膨張要素(3,3a,3b)の一方が他方にほぼ完全に重なるように互いに当接して配置されていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項29】
請求項1から28のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記膨張要素(3,3a,3b)は、少なくとも2つの膨張チャンバを備えていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項30】
請求項1から29のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記膨張要素(3,3a,3b)は、ほぼ気密状に構成された少なくとも1つの膨張チャンバを備えていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項31】
請求項1から29のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記膨張要素(3,3a,3b)は、非気密状に構成された少なくとも1つの膨張チャンバを備えていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項32】
請求項1から31のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記膨張要素(3a,3b)が少なくとも2つ設けられ、膨張状態において、一方の当該膨張要素の少なくとも一部領域が、車両の前後方向に関して、他方の膨張要素の前方に位置するように互いにオフセット状に配置されていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項33】
請求項1から32のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記膨張要素(3a,3b)は、膨張時に、前記固定部(190)を中心に、前記乗員(2)に向かって回転動作を行うように、当該膨張要素の所定の部分(34a,34b)が前記車両シートの固定部(190)に固定されていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項34】
請求項1から33のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記膨張要素(3,3a,3b)は、少なくとも一部分が前記車両シートと反対側の面でカバーによって被覆されていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項35】
請求項34に記載の車両シート装置であって、前記カバーに復元力を作用させるための手段(85)を備え、それによって、前記カバーは、前記膨張要素(3a,3b)の膨張及び排気後、前記膨張要素(3a,3b)が膨張する前の状態に復帰するように構成されていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項36】
請求項34又は35に記載の車両シート装置であって、前記カバーは、前記膨張要素(3a,3b)の膨張時に伸張し、前記膨張要素の排気後、元の状態に復帰するよう弾性状に構成されていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項37】
請求項35及び36に記載の車両シート装置であって、前記車両シートは、シートカバー(5)によって少なくとも一部分が被覆されたシート緩衝体(4)を備え、前記シートカバー(5)は前記カバーを構成し、前記膨張要素(3,3a,3b)は、前記シート緩衝体(4)と前記カバーとの間に当該膨張要素の少なくとも一部分が配置されることを特徴とする車両シート装置。
【請求項38】
請求項1から37のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記膨張要素(3,3a,3b)は、前記車両シートの内部に膨張状態で延在するように、前記車両シートに組み込まれていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項39】
請求項1から37のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、
少なくとも部分的に前記膨張要素(3a,3b)を取り囲むケーシングと、
前記ケーシングの部分(551)が、前記膨張要素(3a,3b)が膨張時に開放されるようにするべく、当該膨張要素を膨張前に前記車両シートに開放可能に接続する手段(57)と、を備えていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項40】
特に請求項1から39のいずれか1項に記載の車両用車両シート装置であって、
車両シートと、
前記車両シートに配置され、前記車両シートに着座する前記乗員(2)を保護するために膨張可能な少なくとも一つの膨張要素(3,3a,3b)と、
車両と物体との衝突が差し迫っていることを知らせる制御信号に応じて前記膨張要素(3,3a,3b)を膨張させるための膨張手段とを備え、
前記膨張要素(3,3a,3b)が、膨張状態の前記膨張要素への乗員(2)の衝撃を減衰させる手段を備えていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項41】
請求項40に記載の車両シート装置であって、前記手段は、ガスを前記膨張要素(3,3a,3b)から排気可能とするための少なくとも一つの排気口を備えていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項42】
請求項1から41のいずれか1項に記載の車両シート装置であって、前記制御信号は、衝突予知システム又は電子安定制御(ESC)装置の信号によって構成されていることを特徴とする車両シート装置。
【請求項43】
請求項1から42のいずれか1項に記載の車両シート装置を有する車両。
【請求項44】
少なくとも一つの膨張要素(3,3a,3b)を有する車両シートを提供するステップと、
車両と物体との衝突が差し迫っていることを知らせる制御信号を発生するステップと、
前記制御信号に応じて前記膨張要素(3,3a,3b)を膨張させ、前記膨張要素(3,3a,3b)が、前記制御信号に応じて膨張しつつ、前記車両シートに着座している乗員(2)に、前記物体に衝突しそうな前記車両の衝突部分から当該乗員を離間させる力を作用させるステップと、を有することを特徴とする乗員を保護する方法。
【請求項45】
請求項44に記載の方法であって、前記膨張要素(3,3a,3b)は、前記制御信号によって一部分だけが膨張することを特徴とする方法。
【請求項46】
請求項44又は45に記載の方法であって、
第1制御信号が第1時点で発生され、第2制御信号が第2時点で発生され、
前記膨張要素(3,3a,3b)は、前記第1制御信号によって第1充填速度で充填され、前記第2制御信号によって、前記第1充填速度とは異なる第2充填速度で充填されることを特徴とする方法。
【請求項47】
請求項46に記載の方法であって、前記第2充填速度は、前記第1充填速度よりも高速であることを特徴とする方法。
【請求項48】
請求項46又は47に記載の方法であって、制御信号は、複数時点で発せられ、当該制御信号に応じて、前記膨張要素(3,3a,3b)を充填するために、2つ以上の異なる充填速度が用いられることを特徴とする方法。
【請求項49】
請求項44から48のいずれか1項に記載の方法であって、前記車両シートは、2つの対向する膨張要素(3,3a,3b)を備え、予測される衝突箇所に面する側の前記膨張要素(3,3a,3b)だけが膨張することを特徴とする方法。
【請求項50】
請求項44から49のいずれか1項に記載の方法であって、前記車両シートは、同一方向に作用する複数の膨張要素(3,3a,3b)を備え、当該膨張要素(3,3a,3b)の全てが前記制御信号によって膨張することを特徴とする方法。
【請求項51】
請求項50に記載の方法であって、前記膨張要素(3,3a,3b)のうち、一つ又は数個のみが、前記車両シートを前記シートに着座している乗員(2)に対応させるために膨張することを特徴とする方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−521351(P2010−521351A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553150(P2009−553150)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際出願番号】PCT/EP2008/053027
【国際公開番号】WO2008/110610
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(594101503)タカタ・ペトリ アーゲー (146)
【Fターム(参考)】