説明

車両用エアバッグ装置

【課題】エアバッグの膨張展開時に乗員を拘束するための十分な反力を確保すると共に、エアバッグの容量を低減する。
【解決手段】車両用エアバッグ装置10は、インストルメントパネル12に形成された一対のエアバッグドア20,22と、ガスの供給を受けて一対のエアバッグドア20,22を押圧して開放し、インストルメントパネル12の表側に膨張展開されるエアバッグ32と、車両上側のエアバッグドア20をインストルメントパネル12の上部14に対して開放可能に支持すると共に、ダイラタント特性を有するヒンジ部材34と、を備えている。この構成によれば、ヒンジ部材34によってエアバッグドア20の開度が規制されることにより、このエアバッグドア20でエアバッグ32からの反力Fを受けることができる。これにより、エアバッグ32の膨張展開時に乗員を拘束するための十分な反力を確保できると共に、エアバッグ32の容量を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用エアバッグ装置の分野では、次の技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。つまり、特許文献1には、インストルメントパネルに形成されたドア部と、ドア部の裏面に溶着された補強プレート部と、ドア部の周囲におけるインストルメントパネルの裏面に溶着された枠部と、補強プレート部と枠部とを連結するヒンジ部とを備えた車両用エアバッグドアが開示されている。この車両用エアバッグドアでは、エアバッグの膨張展開時にドア部がインストルメントパネルの表面に略重なるまで開放されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−268658号公報
【特許文献2】特開平7−2044号公報
【特許文献3】特開2001−88647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、特許文献1に記載のような車両用エアバッグドア及びエアバッグを備えた車両用エアバッグ装置では、エアバッグの膨張展開時に乗員を拘束するための十分な反力を確保する必要がある。また、この種の車両用エアバッグ装置では、エアバッグの容量を低減することが望まれる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、エアバッグの膨張展開時に乗員を拘束するための十分な反力を確保することができると共に、エアバッグの容量を低減することができる車両用エアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の車両用エアバッグ装置は、車室に設けられた車室内装部材に形成されたエアバッグドアと、前記エアバッグドアの裏側に折畳状態で設けられ、ガスの供給を受けて前記エアバッグドアを押圧して開放し、前記車室内装部材の表側に膨張展開されるエアバッグと、前記エアバッグドアを前記車室内装部材に対して開放可能に支持すると共に、ダイラタント特性を有するヒンジ部材と、を備えている。
【0007】
この車両用エアバッグ装置によれば、エアバッグがガスの供給を受けて車室内装部材の表側に向けて膨張展開し始めると、エアバッグドアがエアバッグに押圧されて開放される。ここで、エアバッグドアを車室内装部材に対して開放可能に支持するヒンジ部材は、ダイラタント特性を有している。従って、エアバッグドアがエアバッグに押圧されて開放されるときには、ヒンジ部材の屈曲部分がダイラタント特性により衝撃を吸収して硬化することでエアバッグドアの開度が規制される(エアバッグドアが開ききらずに開放方向の中間位置で保持される)。これにより、このようにして開度が規制されたエアバッグドアの裏面でエアバッグからの反力を受けることができる。
【0008】
また、このようにしてエアバッグドアの裏面でエアバッグからの反力を受ける際にも、ヒンジ部材の屈曲部分がダイラタント特性により衝撃を吸収し続けることでエアバッグドアの開度が規制された状態に維持される。この結果、エアバッグの膨張展開時に乗員を拘束するための十分な反力を確保することができる。
【0009】
しかも、このようにエアバッグにより近い位置に配置されたエアバッグドアでエアバッグからの反力を受けることができるので、エアバッグの容量を低減することができる。
【0010】
請求項2に記載の車両用エアバッグ装置は、請求項1に記載の車両用エアバッグ装置において、前記ヒンジ部材が、前記車室内装部材における前記エアバッグドアとの隣接部の裏面から前記エアバッグドアの裏面に亘って設けられた構成とされている。
【0011】
この車両用エアバッグ装置によれば、ヒンジ部材は、車室内装部材におけるエアバッグドアとの隣接部の裏面からエアバッグドアの裏面に亘って設けられている。従って、上述のように、エアバッグドアがエアバッグに押圧されて開放されるときには、この隣接部の裏面とエアバッグドアの裏面との間に位置されるヒンジ部材の屈曲部分により一層応力を集中させることができる。これにより、ヒンジ部材の屈曲部分をより効果的に硬化させることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上詳述したように、本発明によれば、エアバッグの膨張展開時に乗員を拘束するための十分な反力を確保することができると共に、エアバッグの容量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用エアバッグ装置の側方から見た断面図である。
【図2】図1に示される車両用エアバッグ装置においてエアバッグが膨張展開されている状態を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
【0015】
なお、各図において示される矢印UP、矢印FRは、車両上下方向上側、車両前後方向前側をそれぞれ示している。
【0016】
図1に示される本発明の一実施形態に係る車両用エアバッグ装置10は、例えば、乗用自動車等の車両における助手席用のエアバッグ装置とされており、車室の前部に設けられたインストルメントパネル12に一体に備えられている。
【0017】
なお、このインストルメントパネル12には、その上部14と下部16との間に、車両後側且つ車両上側に凸を成すように湾曲して形成された上下方向中間部18が形成されている。そして、車両用エアバッグ装置10は、より具体的には、この上下方向中間部18に設けられている。つまり、この車両用エアバッグ装置10は、所謂、ミッドマウント式の助手席用エアバッグ装置とされている。なお、インストルメントパネル12は、本発明における車室内装部材に相当する。
【0018】
この車両用エアバッグ装置10は、一対のエアバッグドア20,22と、リテーナ24と、ケース26と、インフレータ28と、ブラケット30と、エアバッグ32と、ヒンジ部材34とを備えている。
【0019】
一対のエアバッグドア20,22は、上下方向中間部18に車両上下方向に並んで形成されている。上部14と車両上側のエアバッグドア20との間には、車両幅方向に延びると共に、上部14及びエアバッグドア20よりも薄肉に形成された連結部36が形成されている。そして、エアバッグドア20は、この連結部36によって上部14に車両上側に開放可能に連結されている。なお、上部14は、本発明におけるエアバッグドアとの隣接部に相当する。
【0020】
同様に、下部16と車両下側のエアバッグドア22との間には、車両幅方向に延びると共に、下部16及びエアバッグドア22よりも薄肉に形成された連結部38が形成されている。そして、エアバッグドア22は、この連結部38によって下部16に車両下側に開放可能に連結されている。また、一対の連結部36,38の間には、この一対の連結部36,38と平行に延びると共に、一対のエアバッグドア20,22よりも薄肉とされた破断予定部40が形成されている。そして、一対のエアバッグドア20,22における互いの側の端部は、この破断予定部40によって連結されている。
【0021】
リテーナ24は、インストルメントパネル12の裏側に設けられており、フランジ部42と、枠部44と、補強部46と、ヒンジ部48とを有して構成されている。フランジ部42は、インストルメントパネル12における一対のエアバッグドア20,22の周囲部に沿って枠状に形成されており、インストルメントパネル12の裏面12Aに例えば溶着等により接合されている。
【0022】
枠部44は、フランジ部42の内側部に沿って枠状に形成されると共に、このフランジ部42からインストルメントパネル12の裏側に向けて突出されている。この枠部44のうち車両上下方向に対向する一対の側壁部44A,44Bには、その厚さ方向に貫通する係止孔50がそれぞれ形成されている。
【0023】
補強部46は、エアバッグドア22と略同じ大きさ及び形状で形成されており、このエアバッグドア22の裏面22Aに例えば溶着等により接合されている。また、この補強部46は、枠状に形成されたフランジ部42における車両下側の辺部42Aにヒンジ部48を介して連結されている。ヒンジ部48は、車両上下方向に沿って切断した断面形状がU字状を成すように形成されている。
【0024】
ケース26は、一対のエアバッグドア20,22の裏側に設けられており、ブラケット等を介してインストルメントパネルリインフォースメント(いずれも不図示)に固定されている。このケース26は、箱状に形成された本体部52を有している。この本体部52は、一対のエアバッグドア20,22側に開口52Aを有すると共に、この開口52Aと反対側に底部52Bを有している。また、この本体部52は、枠部44の内側に配置されており、この本体部52に形成された周壁部52Cにおける開口52A側の端部には、側壁部44A,44B側へ延びる係止部54がそれぞれ形成されている。係止部54は、係止孔50に係止されている。
【0025】
インフレータ28は、長手筒状のシリンダタイプとされており、車両幅方向を長手方向として配置されている。そして、このインフレータ28は、ブラケット30により底部52Bに固定されている。また、このインフレータ28は、図示しない制御装置から出力された信号が入力された場合には、エアバッグ32が膨張展開されるように、このエアバッグ32の内部にガスを供給する構成とされている。なお、上述の図示しない制御装置は、車両に実際に前面衝突が生じたことが検出されたとき、又は、車両において前面衝突が生じると予測されたときに、インフレータ28に信号を出力する構成とされている。
【0026】
エアバッグ32は、ケース26の内側に折畳状態で収容されており、その基端部32Aは、底部52Bに固定されている。また、このエアバッグ32は、インフレータ28からガスの供給を受けることにより、一対のエアバッグドア20,22を押圧して開放し、インストルメントパネル12の表側に膨張展開される構成とされている。
【0027】
ヒンジ部材34は、ダイラタント流体を成形することで形成されたものであり、衝撃が加えられたときにはこの衝撃を吸収して硬化するという、ダイラタント特性を有している。このヒンジ部材34は、枠状に形成されたフランジ部42における車両上側の辺部42Bと上部14との間に設けられると共に、枠部44における車両上側の側壁部44Aを跨いで上部14の裏面14Aからエアバッグドア20の裏面20Aに亘って設けられている。
【0028】
また、このヒンジ部材34は、フランジ部42における辺部42B、上部14の裏面14A、及び、エアバッグドア20の裏面20Aに例えば溶着等により接合されている。そして、これにより、ヒンジ部材34は、上部14に対してエアバッグドア20を開放可能に支持している。
【0029】
また、このヒンジ部材34は、後述するように、エアバッグドア20がエアバッグ32に押圧されて開放されるときに、その屈曲部分58(図2参照)がダイラタント特性により衝撃を吸収して硬化することでエアバッグドア20の開度を規制(エアバッグドア20を開放方向の中間位置で保持)することができるように、その厚さや、材質や、形状等が設定されている。そして、この車両用エアバッグ装置10では、図2に示されるように、エアバッグ32の展開膨張時に、ヒンジ部材34によって開度が規制されたエアバッグドア20の裏面20Aでエアバッグ32からの反力Fを受けるようになっている。
【0030】
なお、特に図示しないが、エアバッグ32の膨張展開時には、エアバッグドア20の裏面20Aの他に、ウィンドシールドガラス60の上部やインストルメントパネル12の下部16等においてもエアバッグ32からの反力を受けるようになっている。
【0031】
次に、本発明の一実施形態の作用及び効果について説明する。
【0032】
図1に示される車両用エアバッグ装置10によれば、エアバッグ32がインフレータ28からガスの供給を受けてインストルメントパネル12の表側に向けて膨張展開し始めると、一対のエアバッグドア20,22がエアバッグ32に押圧されて開放される。ここで、車両上側のエアバッグドア20をインストルメントパネル12の上部14に対して開放可能に支持するヒンジ部材34は、ダイラタント特性を有している。
【0033】
従って、図2に示されるように、エアバッグドア20がエアバッグ32に押圧されて開放されるときには、ヒンジ部材34の屈曲部分58がダイラタント特性により衝撃を吸収して硬化することでエアバッグドア20の開度が規制される(エアバッグドア20が開ききらずに開放方向の中間位置で保持される)。これにより、このようにして開度が規制されたエアバッグドア20の裏面20Aでエアバッグ32からの反力Fを受けることができる。
【0034】
また、このようにしてエアバッグドア20の裏面20Aでエアバッグ32からの反力Fを受ける際にも、ヒンジ部材34の屈曲部分58がダイラタント特性により衝撃を吸収し続けることでエアバッグドア20の開度が規制された状態に維持される。この結果、エアバッグ32の膨張展開時に乗員を拘束するための十分な反力を確保することができる。
【0035】
また、ウィンドシールドガラス60よりも近い位置に配置されたエアバッグドア20でエアバッグ32からの反力Fを受けることができる。従って、例えば、想像線Lで示されるようにエアバッグ32の容量が増大されて、このエアバッグドア20の代わりにウィンドシールドガラス60で反力Fを受ける場合に比して、エアバッグ32の容量を低減することができる。
【0036】
また、ヒンジ部材34は、インストルメントパネル12の上部14の裏面14Aからエアバッグドア20の裏面20Aに亘って設けられている。従って、上述のように、エアバッグドア20がエアバッグ32に押圧されて開放されるときには、この上部14の裏面14Aとエアバッグドア20の裏面20Aとの間に位置される屈曲部分58により一層応力を集中させることができる。これにより、ヒンジ部58をより効果的に硬化させることができる。
【0037】
次に、本発明の一実施形態の変形例について説明する。
【0038】
本発明の一実施形態において、車両用エアバッグ装置10は、図1に示されるように、インストルメントパネル12の上下方向中間部18に備えられたミッドマウント式の助手席用エアバッグ装置とされていたが、その他にも、例えば、インストルメントパネル12の上部14に備えられるトップマウント式の助手席用エアバッグ装置や、乗員の膝部を保護するためのニーエアバッグ装置や、車室の側部に備えられるサイドエアバッグ装置等とされていても良い。つまり、車両用エアバッグ装置10は、車室に設けられた車室内装部材に形成されたエアバッグドアを有するものであれば、どのようなエアバッグ装置でも良い。
【0039】
また、ヒンジ部材34は、車両上側のエアバッグドア20に対して設けられていたが、車両下側のエアバッグドア22に対して設けられていても良く、また、一対のエアバッグドア20,22の両方に対して設けられていても良い。
【0040】
また、車両用エアバッグ装置10は、一対の連結部36,38と平行に延びる破断予定部40によって区画された一対のエアバッグドア20,22を備えていたが、その他の形状(例えば、一対のY字状の下部同士を連結させた形状やH字状など)とされた破断予定部によって区画された複数のエアバッグドアを備えていても良い。そして、ヒンジ部材34は、これらのエアバッグドアに対して設けられていても良い。
【0041】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0042】
次に、特許請求の範囲に記載された発明以外に、上記実施形態から把握できる技術的思想について、以下にその効果と共に記載する。
【0043】
つまり、前記車室内装部材は、車室の前部に設けられたインストルメントパネルとされ、前記エアバッグドアは、前記インストルメントパネルにおける上部と下部との間に車両後側且つ車両上側に凸を成すように湾曲して形成された上下方向中間部に形成されている、請求項1又は請求項2に記載の車両用エアバッグ装置である。
【0044】
この場合の車両用エアバッグ装置は、所謂、ミッドマウント式の助手席用エアバッグ装置とされる。この車両用エアバッグ装置によれば、ウィンドシールドガラスよりも近い位置に配置されたエアバッグドアでエアバッグからの反力を受けることができるので、このエアバッグドアの代わりにウィンドシールドガラスで反力を受ける場合に比して、エアバッグの容量を低減することができる。
【符号の説明】
【0045】
10 車両用エアバッグ装置
12 インストルメントパネル(車室内装部材)
14 上部(隣接部)
20 エアバッグドア
20A 裏面
32 エアバッグ
34 ヒンジ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室に設けられた車室内装部材に形成されたエアバッグドアと、
前記エアバッグドアの裏側に折畳状態で設けられ、ガスの供給を受けて前記エアバッグドアを押圧して開放し、前記車室内装部材の表側に膨張展開されるエアバッグと、
前記エアバッグドアを前記車室内装部材に対して開放可能に支持すると共に、ダイラタント特性を有するヒンジ部材と、
を備えた車両用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記ヒンジ部材は、前記車室内装部材における前記エアバッグドアとの隣接部の裏面から前記エアバッグドアの裏面に亘って設けられている、
請求項1に記載の車両用エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−56369(P2012−56369A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199391(P2010−199391)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】