説明

車両用クラッチ装置

【課題】簡易な構成で遠心力の影響を受けずに迅速にクラッチの係合・脱離操作が行なえる車両用クラッチ装置を提供する。
【解決手段】入力軸と、出力軸26と、ケースと、複数のセパレートプレートと、セパレートプレートと交互に配置された複数の摩擦プレートと、シリンダ部材48と、シリンダ部材48のシリンダ部49に嵌合され、セパレートプレート及び摩擦プレートを押圧する押圧部44aを備えたピストン部材44と、ピストン部材44を付勢しセパレートプレートと摩擦プレートとを圧接させる弾性部材45と、ピストン部材44とシリンダ部材48との間に区画形成される油圧室46と、ピストン部材44の受圧面44cよりも回転軸線から離れて配置される油圧室46内の圧力が所定の値よりも高いとき閉弁し低いとき開弁して油圧室46の作動油を排出する弁52と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源としてエンジン等を備え、エンジン等による駆動力を車軸に伝達する車両用クラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用駆動装置には駆動源に連結される入力軸と、車軸へ連結される出力軸との断続を行なうためのクラッチ装置が設けられている。例えば、特許文献1に記載されている自動変速機用のクラッチ装置においては、1速段を形成するための1速クラッチC、及び1速段形成後、1速段をホールドするために併設される1速ホールドクラッチCLHが示されている。ここでは代表として1速ホールドクラッチCLHについて説明する。特許文献1の図3に示すように、1速ホールドクラッチCLHが係合作動する時には第2クラッチ油室55に油圧が付与され出力軸に回転連結される第2クラッチピストン44が図3において左方に移動される。そして、第2クラッチピストン44によって1速ホールドクラッチCLHの摩擦部材が押されクラッチプレートが係合され1速段がホールドされる。このとき、第2クラッチピストン44には、第2クラッチ油室55から油を排出するための貫通孔が設けられている。貫通孔にはボールによって構成されるチェックバルブ57が設けられており、第2クラッチ油室55に付与された油圧によってチェックバルブ57が貫通孔に向けて付勢され貫通孔を閉塞することによって第2クラッチピストン44に油圧を付与している。
【0003】
クラッチ切断作動時には第2クラッチ油室55の作動油が給排口から排出され第2クラッチピストン44に付与された油圧が解除される。また同時に入出力軸を回転中心とした遠心力によって、チェックバルブ57が力を付与され、貫通孔閉塞位置から別の安定位置に移動し貫通孔を開放する。そして第2クラッチ油室55に残った油は開放された各貫通孔を介して第2クラッチ油室55から排出され、第2クラッチピストン44から油圧の影響が除去される。これにより、第2クラッチピストン44は、クラッチ切断方向に付勢するスプリング58によって図3において右方に移動され、1速ホールドクラッチCLHの摩擦部材への押付けが解除されてクラッチ装置のクラッチプレートの係合が離間し1速段のホールドが解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−82593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、チェックバルブ57が第2クラッチピストン44に設けられている。これにより、クラッチを切断するために第2クラッチ油室55から作動油が遠心力を受けながら給排口、及びチェックバルブ57の貫通孔を介して排出される際、チェックバルブ57よりも回転軸に対して大径側に存在する作動油は油室55内から排出されるのが困難であり、溜まりやすい。このようにして油室55に残留した作動油が遠心力の影響を受けると油圧が発生し、該油圧によって第2クラッチピストン44をクラッチ係合方向へ付勢し続ける虞がある。このためクラッチ切断が良好にできない虞がある。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で遠心力の影響を受けずに迅速にクラッチの係合・脱離操作が行なえる車両用クラッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に係る車両用クラッチ装置の発明の特徴は、駆動源に回転可能に連結される入力軸と、該入力軸と同一回転軸線上に配置された出力軸と、 前記入力軸及び前記出力軸を前記回転軸線上で軸受を介して回転可能に軸承するケースと、前記入力軸、及び前記出力軸の一方に前記回転軸線方向に移動可能に係合された複数のセパレートプレートと、前記複数のセパレートプレートと交互に接離可能に配置され前記入力軸及び前記出力軸の他方に前記回転軸線方向に移動可能に係合された複数の摩擦プレートと、前記出力軸、又は前記入力軸に一体的に形成されたシリンダ部材と、該シリンダ部材のシリンダ部に前記回転軸線方向に摺動可能に嵌合されたピストン部材と、前記ピストン部材と前記シリンダ部材との間に配置され、前記ピストン部材を前記セパレートプレート及び摩擦プレートに向かって付勢し前記ピストン部材に設けられた押圧部によって前記セパレートプレートと摩擦プレートとを圧接させる弾性部材と、前記ピストン部材と、前記シリンダ部材と、の間に区画形成される油圧室であって、前記油圧室内に供給される作動油の圧力が前記ピストン部材の受圧面に作用することによって前記ピストン部材は前記弾性部材の付勢力に抗して前記セパレートプレート及び摩擦プレートから離間する方向に移動することと、前記ピストン部材の前記受圧面よりも前記回転軸線から離れた位置に配置されて前記油圧室と連通し、前記油圧室内の作動油の圧力が所定の値より高いとき閉弁し、前記所定の値より低いとき開弁して前記油圧室の作動油を排出する弁と、を有することである。
【0008】
上記課題を解決するため、請求項2に係る車両用クラッチ装置の発明の特徴は、請求項1において、前記弁はチェックボール式であり、前記押圧部に設けられることである。
【0009】
上記課題を解決するため、請求項3に係る車両用クラッチ装置の発明の特徴は、請求項1または2において、前記駆動源はエンジンであり、前記出力軸には同一回転軸線上に電動モータのロータが一体的に連結されて配置され、前記電動モータのステータが前記ケースの外周壁部に固定されていることである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、油圧室に供給された油を排出するために、ピストン部材の受圧面より回転軸線から離れた位置に所定圧によって開閉する弁を設けた。これによりクラッチ装置の係合を得るために、油圧室内の作動油を油圧室への給排油口、及び弁から抜くとき、油圧室に残留した作動油は、まず遠心力によってピストン部材の受圧面より回転軸線から離れた位置にある弁を構成する空間に速やかに回収される。そして、作動油はその後、油圧室内が所定の値以下の圧力になったことにより開弁された弁を通って外部に排出される。このように、油圧室内のピストン部材の受圧面からは速やかに作動油が除去されるので、遠心力によって油圧がピストン部材に作用しクラッチ装置の係合を妨げることはない。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、弁はチェックボールによって構成されるとともにピストン部材の押圧部に設けられる。これにより弁は簡易な構成で安価に製作できるとともに、車両用駆動装置を小型でコンパクトな構成とすることができる。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、車両は、駆動源としてのエンジンと、出力軸に連結される電動モータを有するハイブリッド車両である。ハイブリッド車両は、エンジンと電動モータとを頻繁にクラッチ装置によって切替えながら走行する。本発明においてはクラッチ装置の断接動作が迅速に行えるため、常に適切な走行状態とすることができエネルギー効率の向上が期待できる。またクラッチ装置の係合が小さな力で効率的に行えるので、クラッチ装置を係合させるための弾性部材の必要付勢力を小さくできる。そして弾性部材の付勢力を小さくできるのでクラッチ装置解除時に供給する油圧を小さくでき、小型のオイルポンプによって対応が可能となりコストが低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態におけるハイブリッド車両用駆動系を示す概略図である。
【図2】本発明に係る第1の実施形態のハイブリッド車両用クラッチ装置の断面図である。
【図3】図2に示す車両用クラッチ装置の部分拡大図である。
【図4】弁部の拡大図である。
【図5】本発明に係る第2の実施形態の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る第1の実施形態を、ハイブリッド車両に具体化し図面を参照して以下に説明する。図1は、本発明に係る車両用駆動装置1を適用したハイブリッド車両用駆動系の概略を示している。図1において、実線による矢印は、各装置間をつなぐ油圧配管を示しており、破線による矢印は、制御用の信号線を示している。また、図1において電磁切替弁50、電動オイルポンプ60、及びリザーバ72は電動モータ20と別体に記載されている。しかし実際には電磁切替弁50、及び電動オイルポンプ60はクラッチ装置40とともに電動モータ20に一体化され、リザーバ72はケース3、及びフロントケース6内に形成されている。また本実施形態においては、車両用駆動装置1のエンジン側を前側とし、変速機側を後側とする。
【0015】
図1に示したように、車両の駆動源としてのエンジン(EG)10と電動モータ20とは、湿式多板クラッチであるクラッチ装置40を介して直列に接続されている。クラッチ装置40は、エンジン10と電動モータ20との間の接続を接離しトルク伝達を断続している。また、電動モータ20には、車両の自動変速装置5が直列に接続されており、自動変速装置5には、図示しない車両の駆動輪が図示しないディファレンシャル装置を介して接続されている。自動変速装置(T/M)5は、変速機(図示しない)、及びトルクコンバータ2からなり、トルクコンバータ2の出力が、変速機の入力軸に入力されている。
【0016】
図2に示すように電動モータ20とトルクコンバータ2とは出力軸26、及びトルクコンバータ2の入力軸であるセンタピース16を介して回転連結されている。トルクコンバータ2の入力軸であるセンタピース16は入力軸41と同一回転軸上に並んで配置され、トルクコンバータ2のフロントカバー14に連結されてフロントカバー14と一体回転される。そしてセンタピース16とともにフロントカバー14が回転されることにより、フロントカバー14と連結されるトルクコンバータ2内のポンプインペラ(図示せず)が回転される。これによりポンプインペラによって油流が発生し、発生した油流によって変速機の入力軸に連結されたタービンランナ(図示せず)が回転して変速機の入力軸に回転力が伝達される。出力軸26、センタピース16、及びフロントカバー14の回転軸は、変速機の入力軸と同一回転軸に配置されている。
【0017】
エンジン10は、炭化水素系の燃料により出力を発生させる通常の内燃機関である。ただしこれに限定されるものではなく、回転軸を駆動させる駆動源であればどのようなものでもよい。また電動モータ20は、車輪駆動用の同期モータであるがこれに限定されるものではない。自動変速装置5は、通常の遊星歯車式自動変速機であり、これに限定されるものではない。クラッチ装置40は、普段はエンジン10と電動モータ20との間を接続しているノーマルクローズタイプのクラッチ装置である。
【0018】
図1に示すように電磁切替弁50は3ポートを有する2ポジションの電磁弁であり、1つのポートは後述する管路65a、65b、65c、65dによってクラッチ装置40の後述する油圧室46に接続されている。また他の1つのポートは電動オイルポンプ60の吐出口に接続され、残る1つのポートはリザーバ72に接続されている。電動オイルポンプ60の吸込口は常にリザーバ72と接続されている。
【0019】
電磁切替弁50が、図1に示した作動位置P1にある場合、電動オイルポンプ60の吐出口が油圧室46に接続されており、リザーバ72がオリフィス71を介して動オイルポンプ60の吐出口、及び油圧室46に接続されている。このとき電動オイルポンプ60がリザーバ72内の作動油を吸引し電磁切替弁50を介して油圧室46へと吐出しクラッチ装置40の接続を解除状態とする。この状態において電動オイルポンプ60から油圧室46に吐出される作動油の圧力は、リザーバ72への通路がオリフィス71によって制限されるため大きく低下することなく十分な圧力として供給される。
【0020】
また、電磁切替弁50が、図1に示した作動位置P2にある場合、電動オイルポンプ60の吐出口と、油圧室46とがリザーバ72と連通され油圧室46内の作動油(油圧)がリザーバ72へと戻されてクラッチ装置40が接続される。なおこのとき電動オイルポンプ60は停止されている。
【0021】
電磁切替弁50、及び電動オイルポンプ60には、コントローラ(ECU)70が電気的に接続されている。コントローラ70は電動オイルポンプ60および電磁切替弁50を作動させて、クラッチ装置40に適正な油圧を供給し、クラッチ装置40を目標とする接続状態に制御している。
【0022】
コントローラ70は、エンジン10または電動モータ20の回転を制御し、車両を走行させている。さらに、コントローラ70は、自動変速装置5のシフトバルブを作動させる電磁ソレノイド(図示せず)と接続されており、エンジン10の回転速度、車両速度、シフト位置等に基づき、自動変速装置5の作動を制御している。
【0023】
次に、クラッチ装置40について図2、図3に基づいて詳細に説明する。クラッチ装置40は、エンジン10に回転可能に連結される入力軸41と、電動モータ20のロータ21の回転軸と同一軸線上に回転軸が配置される、ロータ21と一体的に連結された出力軸26と、を有している。
【0024】
また、クラッチ装置40は、入力軸41、及び出力軸26のうち一方の軸である出力軸26の係合部に係合された複数のセパレートプレート43と、他方の軸である入力軸41の係合部41dに係合された複数の摩擦プレート42と、を有している。
【0025】
また、クラッチ装置40は、電動モータ20、セパレートプレート43、及び摩擦プレート42等を囲繞するケースを構成するケース3、及びフロントケース6と、出力軸26に一体的に形成され、出力軸26に装架された固定部材54を含んで形成されたシリンダ部材48と、該シリンダ部材48に設けられたシリンダ部49に回転軸線方向に摺動可能に嵌合され、複数のセパレートプレート43、及び摩擦プレート42を押圧する押圧部44aを備えたピストン部材44と、を有している。
【0026】
さらにクラッチ装置40は、ピストン部材44の自動変速装置5側の面とシリンダ部材48との間に縮設され、ピストン部材44を複数のセパレートプレート43、及び摩擦プレート42側に向かって付勢するコイルバネ45と、ピストン部材44とシリンダ部材48(固定部材54を含む)との間に区画形成される油圧室46と、ピストン部材44の受圧面44cよりも回転軸線から大径側方向に離れた位置に配置される弁52を備えた作動油排出部51と、を有している。
【0027】
入力軸41は、図示しないフライホイール、及び回転振動を吸収するためのダンパを介してエンジン10の出力軸11に回転連結されている(図1参照)。図2に示すように入力軸41はダンパとの固定部41aと、フロントケース6の前側側壁部3bの貫通孔6aに回転支持される連結部41bと、大径の係合部である支持部41cと、を有している。以後、入力軸41が支持される前側側壁部3bの側を入力軸側と称す。支持部41cの外周側は回転軸方向に拡幅され、前述した複数の円環上の摩擦プレート42が外周面の係合部41dに係合されている。
【0028】
出力軸26は、トルクコンバータ2の入力軸であるセンタピース16に回転連結されている。センタピース16はケース3の後側側壁部3aに形成された貫通孔3dに回転可能に軸承されている。以後、出力軸26と連結されるセンタピース16が軸承される後側側壁部3aの側を出力軸側と称す。
【0029】
出力軸26は、図2に示す回転軸方向の断面が逆S字状を呈し、大径側にエンジン10側に開口された外周開口部27が形成され、小径側に自動変速装置5側に開口された内周開口部32が形成されている。外周開口部27は小径側壁部27dと、大径側壁部27cと、段付きの各底壁部27e、27fとによって包囲され形成されている。なお外周開口部27はシリンダ部材48と一部を兼用している。具体的にはシリンダ部材48は外周開口部27と、固定部材54とによって構成されている。大径側壁部27cの入力軸側の先端部内周面の係合部には前述した複数の円環状のセパレートプレート43が係合されている。
【0030】
そして複数のセパレートプレート43と、入力軸41の大径の係合部である支持部41cの外周面に支持された複数の摩擦プレート42とが交互に接離可能に配置されている。摩擦プレート42と、セパレートプレート43とが交互に配置された状態でセパレートプレート43が回転軸の入力軸側に押付けられるとセパレートプレート43が軸方向に移動(スライド)する。これによって摩擦プレート42とセパレートプレート43とが押付け合って当接し、入力軸41と出力軸26とが回転連結されて、エンジン10の出力軸11と自動変速装置5の入力軸とが一体回転する。
【0031】
出力軸26の小径側に形成される内周開口部32は、トルクコンバータ2の入力軸であるセンタピース16と一体回転可能にスプライン結合される固定部32bと、固定部32bの入力軸側の端部から径方向外方に向けて延在される連結部32aとを有している。内周開口部32と外周開口部27の小径側壁部27dとによって囲まれ自動変速装置5側に開口される空間には、ケース3の後側側壁部3aから円環状の突部63が突設されている。そして外周開口部27の小径側壁部27d内周面が突部63の外周面63bに摺動可能に嵌合され、突部63の内周面63aと内周開口部32の固定部32bとの間にはボールベアリング64が介在され、突部63と内周開口部32とがスムーズに相対回転可能となっている。
【0032】
ケース3は外形を形成する外周壁部3cと、電動モータ20及びクラッチ装置40とトルクコンバータ2との間に形成された前述の後側側壁部3aとを有している。また、ケース3では外周壁部3cが後側側壁部3aから自動変速装置5側に向って所定量延在され、トルクコンバータ2の一部を覆っている。そして延在された外周壁部3cはトルクコンバータ2の残りの部分を覆う図略のケースとボルトによって固定され、自動変速装置5のハウジング(図示せず)を形成している。
【0033】
後側側壁部3a及び突部63の内部には前述したように電磁切替弁50と油圧室46とを接続する連続して形成された管路65a、65b、65c、65dを有している。管路65aが電磁切替弁50側の接続管路であり、管路65dが油圧室46側の接続管路である。そして管路65dは突部63の外周面63b全周に刻設された油路66と接続している。回転軸方向における油路69の両側には溝が刻設され、該溝内には例えば樹脂製の環状リングが設けられ油路66からの作動油の漏洩を抑制している。油路66は、外周開口部27の小径側壁部27dに貫設される後述する流入ポート61を介して油圧室46に接続されている。
【0034】
ケース3のエンジン10側にはケース3の蓋部であり前側側壁部3bを形成するフロントケース6が配置され、ケース3とフロントケース6とは、ボルトによって固定されている。ケース3を構成するフロントケース6の前側側壁部3bの中心部には入力軸41が軸承されるよう貫通孔6aが設けられている。そして貫通孔6aと入力軸41との間にはボールベアリング34が介在され、入力軸41を回転可能に軸承している。
【0035】
ピストン部材44は、前述したシリンダ部材48内に収容されている。ピストン部材44は、略円板状に形成され中心部に貫通孔44bが形成され、シリンダ部材48と兼用される外周開口部27の小径側壁部27dの外周面に、ピストン部材44側に設けられた例えばゴム製のOリングを介して軸方向に移動可能に装架されている。ピストン部材44の背面側である出力軸側では、軸方向断面において内径部である貫通孔44b側の肉厚が厚く、該肉厚はピストン部材44の外径側に向かって漸減している。またピストン部材44の入力軸側においては、入力軸41の軸線と直交する平面である受圧面44cを有している。なお、ここでいう受圧面44cとは油圧が作用したときにピストン部材44を軸方向に付勢する効果を有する面のことをいう。
【0036】
ピストン部材44は受圧面44cの大径側位置(回転軸線から離れた側の位置)に軸方向入力軸側に向かって突設される押圧部44aを有している。押圧部44aは受圧面44cの外周部に円環状に設けられ、押圧部44aの円環内周面には、ピストン部材44が軸方向に摺動可能なように後に詳述する固定部材54の外周面54aと嵌合するための摺動面44dが形成されている。またピストン部材44の最外周面は外周開口部27(シリンダ部材48)の大径側壁部27cの内周面と軸方向に移動可能に係合している。
【0037】
固定部材54はシリンダ部材48の一部を構成し、シリンダ部材48の一部を兼用する外周開口部27の小径側壁部27d外周面に装架され小径側壁部27dと一体的に固定されている。このように構成された固定部材54の外周面54aと、外周開口部27の小径側壁部27dの外周面と、によってシリンダ部材48のシリンダ部49が形成されている。
【0038】
固定部材54は略円環状に形成され、外周面54aと、内周面54bと、入力軸側平面54cと、出力軸側平面54dと、を有している。そして小径側壁部27dの外周面の固定部材54の入力軸側には例えばCリング等の固定リング47が嵌入しており、これによって固定部材54の入力軸側方向への移動を規制している。
【0039】
固定部材54の内周面54bには例えばゴム製のOリングが配設され油圧室46を液密に封止している。固定部材54の外周面54aは、ピストン部材44の押圧部44aの内周面である摺動面44dに嵌合している。固定部材54の外周面54aにも例えばゴム製のOリングが配設され、油圧室46を液密に封止している。
【0040】
油圧室46はピストン部材44と、シリンダ部材48と、の間に区画形成されている。具体的には油圧室46はシリンダ部材48を構成する固定部材54の出力軸側平面54dと、ピストン部材44の受圧面44cと、押圧部44aの摺動面44dと、外周開口部27の小径側壁部27d外周面とによって囲繞され形成されている。
【0041】
油圧室46は、前述したように電磁切替弁50、管路65a、65b、65c、65d、及び油路66を介して電動オイルポンプ60とリザーバ72とに連通する流入ポート(流入口)61を有し、流入ポート61は外周開口部27の小径側壁部27dに貫設されている。流入ポート61は小径側壁部27dの円周上に例えば3カ所等配に設けられている。ただし、流入ポート61の個数は3カ所に限らず、油圧室46に供給する油圧の大きさや、油圧室46から油を排出するときの排出能力を考慮して決定すべきであり、適宜実施者によって決定すればよい。油圧を供給する側である電磁切替弁50のP1側と、油圧を抜くためのP2側とは電磁切替弁50を操作することによって切替えられ、P2側に切替えられることによって油圧室46は流入ポート61を介して大気と連通される。
【0042】
円環状に設けられたピストン部材44の押圧部44a内には所定の圧力によって弁を開閉する例えば6カ所の作動油排出部51が形成されている。作動油排出部51は押圧部44aの同一円周上に設けられ(図示せず)油圧室46とそれぞれのポート44eを介して連通している(図2乃至図4参照)。
【0043】
作動油排出部51は、ピストン部材44の押圧部44aの入力軸側から所定深さの深孔55が穿設され、深孔55と油圧室46とがポート44eによって連通された状態で、チェックボール式の弁52が深孔55に嵌入され構成されている。弁52は、ボール52aと、ケース52bとを有している。ボール52aは真球度が精度よく確保された一般的にチェックバルブに利用される例えばステンレス等の金属製のボールであり、ケース52b内の空間52c内に収容されている。
【0044】
ケース52bは略円筒状に形成され、円筒外周面が深孔55の内周面に油密に嵌入されている。図4に示すようにケース52b内の空間52cの入力軸側の開口部には所定の圧力以上の油圧によってボール52aが入力軸側に付勢されたときボール52aの所定の位置と線接触して油圧を封止するシール部57が形成されている。なお、ここで所定の圧力の値は実施者によって決定されるものであり、適宜決定すればよい。
【0045】
シール部57からは出力軸側に向かってテーパ面58が形成されている。そしてテーパ面58の終点からは、ボール52aが回転軸方向に移動可能なように回転軸線と平行に内周面が形成されている。ケース52bの出力軸側の開口部はボール52aが挿入された後に、カシメによって爪部62が例えば円周上の3箇所に等配に形成され空間52c内からのボール52aの脱落を防止している。
【0046】
ケース52bと深孔55の底面との間には油圧室46内の作動油を貯留する貯留部59が形成されている。クラッチ装置40の係合脱離時には、油圧室46内には油圧が供給され貯留部59にも作動油が充満する。これによってボール52aに油圧が付与されボール52aがケース52bのシール部57に押圧されて油圧室46内の油圧を封止している。
【0047】
またクラッチ装置40の係合時に油圧室46内の作動油(油圧)が流入ポート61を介して排出されるとき、流入ポート61を介して抜けきれずに油圧室46内に残った作動油は遠心力によって大径側位置にある貯留部59内に速やかに流入し、これによって油圧室46内には作動油が残留しない。そして貯留部59内に流入した作動油の多くは所定圧以下となった油圧によって開弁された弁52を介して排出され、弁52を介しても排出できない弁52のシール部57よりも回転軸線に対して大径側に存在する一部の作動油のみが、貯留部59内に残留する。
【0048】
なお、作動油が弁52から排出される仕組みについては、まず所定圧以下となった油圧によってシール方向に小さな力で押圧されるボール52aがボール52a自身が受ける遠心力によって出力軸26の外径方向へ付勢されテーパ面58上を転がり出力軸26の外径方向に移動する。これによってボール52aはシール部57から離間してシール部57を開放し貯留部59に貯留された作動油をケース3内に排出するものである。
【0049】
弾性部材であるコイルばね45は、図2、図3に示すように、ピストン部材44の背面である出力軸26軸側の面と、外周開口部27(シリンダ部材48)の底壁部27fとの間に縮設されている。コイルばね45は本実施形態においてはピストン部材44の回転軸における同一半径上に10個、均等な間隔で配置されピストン部材44の押圧部44aを入力軸側に付勢し、摩擦プレート42と、セパレートプレート43とを所定の荷重で押圧し圧接する。コイルばね45が配置されるピストン部材44の出力軸側の面には、10個の各コイルばね45が配置されるようにコイルばね45のコイル外径より若干大きな径の円筒穴が穿設され、各コイルばね45が該円筒穴に係入されている。なお、本実施形態においてはコイルばね45を10個配置した。しかしこれに限らず摩擦プレート42及びセパレートプレート43を押圧して係合させることが可能な付勢力を付与でき、且つ押圧部44aが摩擦プレート42及びセパレートプレート43を当接部全周に亘って均等に押圧できればコイルばねはいくつ配置してもよい。
【0050】
次に電動モータ20について図2に基づいて説明する。3相交流モータ等からなる電動モータ20は、出力軸26の外周開口部27の外周側に配置されている。電動モータ20は、円筒状のロータ21と、ロータ21の外周に配置され、珪素鋼板(図示せず)を積層してなるステータ22と、ステータ22の突出部に巻回されるコイル23とを備えている。
【0051】
ステータ22は、外周側がケース3の外周壁部3cの内周面に固定されている。またロータ21は、出力軸側端面から板部材24が径方向内方に延在されて出力軸26の底壁部27eの出力軸側側面にボルトによって固定されている。これにより電動モータ20はロータ21のみが出力軸26と一体回転される。またコイル23はコントローラ70と電気的に接続されており、コントローラ70は、各種状態を検出するいずれも図示しない各センサ(車速センサ、スロットル開度センサ、シフト位置センサ等)からの信号に基づいてコイル23への通電量、或いはコイル23の非通電を制御している。
【0052】
次に、上述した車両用駆動装置1の作動について説明する。いま、車両が停止状態にある場合に、図略のイグニッションスイッチをONにして運転者がアクセルペダルを踏む(低スロットル開度時)と、エンジン10が始動される。つまり、発進するためにアクセルペダルが踏まれてスロットルが一定開度以上開かれると、燃料噴射装置が作動されるとともに、点火プラグが点火され、ケース3に固定されるスタータモータ(図示せず)の出力軸が駆動される。そしてスタータモータの出力軸と噛合するフライホイール(図示せず)外周のリングギア(図示せず)が、フライホイール、及び出力軸11とともに回転されエンジン10が始動される。
【0053】
また同時にバッテリ(図示せず)から電動モータ20へ電流が流れ、電動モータ20は駆動モータとして機能する。このときクラッチ装置40は係合されており、これによりエンジン10と電動モータ20の両方の駆動力が加算され出力軸26を介してトルクコンバータ2に伝達される。そしてトルクコンバータ2にて所定のトルク比にて増大された上で自動変速装置5の入力軸に伝達されて車両が走行される。
【0054】
車両が定常の高速走行状態にある場合には、電動モータ20が無負荷運転(モータに生じる逆起電力により生じるトルクを相殺させるようにモータ出力を制御する)され、電動モータ20を空転させる。これにより、クラッチ装置40は係合されたままで、車両は、専らエンジン10のみの駆動力によって走行する。
【0055】
また、車両減速時にあっては、クラッチ装置40の係合が切断されてエンジン10が切り離され、エンジン10のエンジンブレーキによる減速の影響を排除した状態で電動モータ20によって効率的に回生電力を回収している。
【0056】
次に、上述した車両用駆動装置1の各運転状態でのクラッチ装置40の作動について説明する。まず、クラッチ装置40の係合を切断する車両減速時の走行について説明する。
【0057】
車両減速時においては、電動モータ20による回生電力の回収を効率的に行なうため、クラッチ装置40の係合を切断し、エンジン10を電動モータ20から切り離す必要がある。そこで、通常の走行状態では係合しているノーマルクローズのクラッチ装置40の複数の各摩擦プレート42、及びセパレートプレート43の係合を脱離させる。
【0058】
そのため、まず電磁切替弁50を駆動して油圧室46に接続する電磁切替弁50のP2側回路をP1側回路に切替える。そして、電動オイルポンプ60を駆動させ、コントローラ70によって所定圧の油圧を電磁切替弁50、及び流入ポート61を介して油圧室46内に供給する。油圧室46に供給された油圧は、ピストン部材44の受圧面44cに作用しピストン部材44を付勢して出力軸側に向って移動させ始める。油圧室46の圧力がさらに上昇するとピストン部材44はコイルばね45のばね力に抗して出力軸側に向って移動し、やがてクラッチ装置40の摩擦プレート42、及びセパレートプレート43からピストン部材44の押圧部44aが離間して摩擦プレート42とセパレートプレート43との間の係合が脱離される。このように車両減速時においては、クラッチ装置40の係合が解除されることによって入力軸41と、出力軸26とが切離され電動モータ20によって回生電力が効率的に回収される。
【0059】
次に上記のようにクラッチ装置40の係合が解除され電動モータ20のみによって走行する状態から、車両発進時、及び通常走行時のようにエンジン10の駆動力と電動モータ20の駆動力とを合算して走行する状態へと移行する場合について説明する。このときはクラッチ装置40を係合し入力軸41と出力軸26とを再び連結する必要がある。そのため電磁切替弁50を駆動し油圧室46に接続するP1側をリザーバ72に直接接続されるP2側に切替える。これによって油圧室46内の圧力は大気圧まで低下する。そしてピストン部材44は入力軸方向に付勢しているコイルバネ45の付勢によって押動され、油圧室46の多くの作動油は流入ポート61を介してリザーバ72に強制的に排出される。しかし、このとき油圧室46は、出力軸26の回転軸を中心として一体的に回転しているため油圧室46内の作動油の一部は遠心力の影響等により油圧室46内に残留する虞がある。そして油圧室46内に残留した作動油がピストン部材44の受圧面44cの近傍に存在し受圧面44cに接触していると、遠心力によって油圧が発生したときにピストン部材44の受圧面44cが油圧の作用を受けてピストン部材44が出力軸側に付勢され、クラッチ装置40が係合状態に至らない虞がある。
【0060】
しかし本発明においては作動油排出部51が、油圧室46内において油圧の作用を受けるピストン部材44の受圧面44cよりも径大位置側である押圧部44a内に設けられている。これにより油圧室46内に残留した作動油は、遠心力によって外径方向に付勢され作動油排出部51の貯留部59に迅速に移動し貯留される。その後、または同時に作動油排出部51の弁52のボール52aが遠心力の影響によってシール部57から脱離し、作動油は貯留部59内に残留する一部を除いてシール部57を介してケース3内に排出される。これによりピストン部材44の受圧面44cが油圧の影響を受ける虞はなく、ピストン部材44が油圧によってクラッチ装置40の係合が脱離する方向に付勢され移動されることはない。そしてコイルばね45が、ピストン部材44を入力軸側に押動し、ピストン部材44の押圧部44aによって摩擦プレート42及びセパレートプレート43を押圧してクラッチ装置40を係合状態とする。これによって入力軸41と、出力軸26とが迅速に連結されエンジン10並びに電動モータ20の両方の駆動力が加算され大きな駆動力にて車両が走行される。
【0061】
上述の説明から明らかなように、第1の実施形態においては、油圧室46に供給された作動油を排出するために、ピストン部材44の受圧面44cより回転軸線から離れた大径側の位置に所定の値の圧力によって開閉する弁52を備えた作動油排出部51を設けた。これによりクラッチ装置40の係合を得るために、油圧室46内の作動油を油圧室46への給排油口である流入ポート(流入口)61を介して抜くとき、油圧室46に残留した作動油はまず遠心力によってピストン部材44の受圧面44cより大径側位置にある作動油排出部51を構成する空間である貯留部59に速やかに回収される。その後作動油は油圧室内が所定の値以下の圧力になることにより開弁される作動油排出部51の弁52を通って外部(ケース3内)に排出されればよい。このように、油圧室46内のピストン部材44の受圧面44cからは速やかに作動油が除去されるので、遠心力によって油圧がピストン部材44の受圧面44cに作用しクラッチ装置40の係合を妨げることはない。
【0062】
また、第1の実施形態においては、ボール52aによって構成される弁52を有した作動油排出部51がピストン部材44の押圧部44aに設けられている。これにより弁52は簡易な構成で安価に製作できるとともに、車両用駆動装置を小型でコンパクトな構成とすることができる。
【0063】
さらに、第1の実施形態においては、車両は、駆動源としてのエンジン10と、出力軸26に連結される電動モータ20を有するハイブリッド車両である。ハイブリッド車両は、エンジン10と電動モータ20とを頻繁にクラッチ装置40によって切替えながら走行する。本発明においてはクラッチ装置40の断接動作が迅速に行えるため、常に適切な走行状態とすることができエネルギー効率の向上が期待できるとともに、運転者に断接動作の遅れによる違和感を与えることがない。またクラッチ装置40の係合が小さな力で効率的に行えるので、クラッチ装置40を係合させるための弾性部材であるコイルばね45の必要付勢力を小さくできる。そしてコイルばね45の付勢力を小さくできるのでクラッチ装置40解除時に供給する油圧を小さくでき、小型のオイルポンプによって対応が可能となりコストが低減できる。
【0064】
次に、第2の実施形態について図5に示す部分拡大図に基いて説明する。図5は第1の実施形態の図3に相当する図である。第2の実施形態は第1の実施形態に対し、固定部材94側に作動油排出部91が設けられる点のみが異なり、それ以外については同様である。よって第1の実施形態と同様部分については説明を省略し、変更点のみ説明する。また第1の実施形態と同様の部品については同じ符号を付して説明する。
【0065】
図5に示す第2の実施形態のクラッチ装置80の部分拡大図によれば、ピストン部材84は、出力軸26が有する外周開口部27と一部が兼用されるシリンダ部材88内に収容されている。ピストン部材84は、受圧面84aを有するピストン部84bと、複数である例えば10カ所の押圧部84cとを有している。押圧部84cはピストン部材84の外径近傍に配置され入力軸側にそれぞれ突設されている。そしてピストン部84bの出力軸側端面と各押圧部84cとが連結壁84eによって連結されている。受圧面84aはピストン部84bの入力軸側における入力軸41と直交する平面である。
【0066】
ピストン部材84の中心部には内径孔84dが回転軸方向に貫通され、内径孔84dの内周面が外周開口部27の小径側壁部27dの外周面に、ピストン部材84側に設けられた例えばゴム製等のOリングを介して軸方向に移動可能に装架されている。
【0067】
固定部材94は略円環状に形成され、シリンダ部材88の一部を構成し、シリンダ部材88と一部を兼用される外周開口部27の小径側壁部27dの外周面に例えばゴム製等のOリングを介して装架され一体的に固定されている。
【0068】
固定部材94の出力軸側の平面94bからは円環状の突部94aが出力軸方向に突設されている。突部94aの内周面はピストン部材84のピストン部84bの外周面と例えばゴム製等のOリングを介して液密に、かつピストン部材84が軸方向に摺動可能に嵌合されている。突部94aの出力軸側の端面とピストン部材84の連結壁84eとの間には、ピストン部材84が軸方向に所定量だけ移動しても突部94aの端面に当接しないだけの隙間が予め設けられている。そして外周開口部27の小径側壁部27dの外周面と、突部94aの内周面と、によってシリンダ部材88のシリンダ部89が形成されている。
【0069】
ピストン部材84の最外周面は外周開口部27(シリンダ部材88)の大径側壁部27cの内周面と軸方向に移動可能に係合している。小径側壁部27dの外周面の固定部材94の入力軸側には例えばCリング等の固定リング87が嵌入しており、これによって固定部材94の入力軸側方向への移動を規制している。
【0070】
油圧室86はピストン部材84と、シリンダ部材88と、の間に区画形成されている。具体的には油圧室86はシリンダ部材88を構成する固定部材94の出力軸側平面94bと、固定部材94の突部94aの内周面と、ピストン部材84の受圧面84aと、外周開口部27の小径側壁部27dの外周面とに囲繞され形成されている。油圧室86は、P1側とP2側とを有する電磁切替弁50を介して連通する流入ポート(流入口)101を有し、流入ポート101は外周開口部27の小径側壁部27dに貫設されている。流入ポート101は小径側壁部27dの円周上に例えば3カ所等配に設けられている。
【0071】
円環状に設けられた固定部材94の突部94a内には第1の実施形態の作動油排出部51と同様の構成、及び作用を有する例えば6カ所の弁92を備えた作動油排出部91が形成されている。作動油排出部91は突部94aの同一円周上に設けられそれぞれ油圧室86と連通している。このように作動油排出部91はピストン部材84のピストン部84bの受圧面84aよりも回転軸線から離れた大径側に設けられている。これによって第1の実施形態と同様に、クラッチ装置80の係合を得るために、油圧室86内の作動油を油圧室86への給排油口である流入ポート(流入口)101を介して抜くとき、油圧室86に残留した作動油は遠心力によってピストン部材84の受圧面84aより回転軸線から離れた大径側位置にある作動油排出部91を構成する空間である貯留部99に速やかに回収される。そして、作動油はその後、外部(ケース3内)に排出される。このように、油圧室86内のピストン部材84の受圧面84aからは速やかに作動油が除去されるので、遠心力によって油圧がピストン部材84の受圧面84aに作用しクラッチ装置80の係合を妨げることはない。
【0072】
そして弾性部材であるコイルばね85は、図5に示すように、ピストン部材84の背面と、シリンダ部材88でもある外周開口部27の底壁部27fとの間に縮設されている。コイルばね85は本実施形態においてはピストン部材84の回転軸における同一半径上に10個、均等な間隔で配置されピストン部材84の押圧部84cを入力軸側に付勢し、摩擦プレート42と、セパレートプレート43とを所定の荷重で押圧し圧接する。このような構成によって第2の実施形態においても第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0073】
なお、本発明はハイブリッド車用に限らず、1つの駆動源のみを備え、駆動源の駆動力を本発明に係るクラッチ装置40、80によって接離するだけの構成としてもよい。
【0074】
また、本実施形態における入力軸41と出力軸26とを反転させる構成としてもよい。つまり本実施形態における出力軸26にエンジンを連結して新入力軸とし、入力軸41を電動モータのロータと一体的に回転する構成とし新出力軸としてもよい。これによっても同様の効果が得られる。
【0075】
また、本発明における変速機は、一般的に変速機として用いられる遊星歯車変速機以外にも、無段変速機や、一般的に手動変速機で採用される同期噛合式歯車変速機であってもよい。
【0076】
また、本実施形態において弾性部材としてコイルばね45を適用したが、これに限らず板バネ等によって構成してもよい。さらに、ゴムや気体を弾性部材として利用してもよい。
【0077】
また、本実施形態においては油圧室のみに作動油を供給した。しかし、この構成に限らずピストン部材44、84の背面とシリンダ部材48、88との間に作動油を供給して油圧室の付勢をキャンセルするキャンセラ室を設け、クラッチ係合時にキャンセラ室の遠心力による油圧を利用してより迅速に係合動作を行なうタイプのクラッチ装置にも適用可能である。
【0078】
さらに、本ハイブリッド車用駆動装置は、上述した使用態様に限らず、車両発進時にクラッチ装置40、80の係合を解除し電動モータ20のみによって駆動する等、他の使用態様にて使用してもよいことは勿論であり、車両発進後の運転状況に応じてクラッチ装置40、80の係脱を適宜実施すればよい。
【符号の説明】
【0079】
1・・・車両用駆動装置、2・・・トルクコンバータ、3・・・ケース、5・・・自動変速装置、6・・・フロントケース、10・・・エンジン、11・・・出力軸、16・・・センタピース、20・・・電動モータ、21・・・ロータ、22・・・ステータ、23・・・コイル、26・・・出力軸、40、80・・・クラッチ装置、41・・・入力軸、42・・・摩擦プレート、43・・・セパレートプレート、44、84・・・ピストン部材、44a、84c・・・押圧部、44c、84a・・・受圧面、45、85・・・弾性部材(コイルばね)、46、86・・・油圧室、48、88・・・シリンダ部材、51、91・・・作動油排出部、52・・・弁、54、94・・・固定部材、59、99・・・貯留部、60・・・電動オイルポンプ、61、101・・・流入ポート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源に回転可能に連結される入力軸と、
該入力軸と同一回転軸線上に配置された出力軸と、
前記入力軸及び前記出力軸を前記回転軸線上で軸受を介して回転可能に軸承するケースと、
前記入力軸、及び前記出力軸の一方に前記回転軸線方向に移動可能に係合された複数のセパレートプレートと、
前記複数のセパレートプレートと交互に接離可能に配置され前記入力軸及び前記出力軸の他方に前記回転軸線方向に移動可能に係合された複数の摩擦プレートと、
前記出力軸、又は前記入力軸に一体的に形成されたシリンダ部材と、
該シリンダ部材のシリンダ部に前記回転軸線方向に摺動可能に嵌合されたピストン部材と、
前記ピストン部材と前記シリンダ部材との間に配置され、前記ピストン部材を前記セパレートプレート及び摩擦プレートに向かって付勢し前記ピストン部材に設けられた押圧部によって前記セパレートプレートと摩擦プレートとを圧接させる弾性部材と、
前記ピストン部材と前記シリンダ部材との間に区画形成される油圧室であって、前記油圧室内に供給される作動油の圧力が前記ピストン部材の受圧面に作用することによって前記ピストン部材は前記弾性部材の付勢力に抗して前記セパレートプレート及び摩擦プレートから離間する方向に移動することと、
前記ピストン部材の前記受圧面よりも前記回転軸線から離れた位置に配置されて前記油圧室と連通し、前記油圧室内の作動油の圧力が所定の値より高いとき閉弁し、前記所定の値より低いとき開弁して前記油圧室の作動油を排出する弁と、
を有することを特徴とする車両用クラッチ装置。
【請求項2】
請求項1において、前記弁はチェックボール式であり、前記押圧部に設けられることを特徴とする車両用クラッチ装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記駆動源はエンジンであり、前記出力軸には同一回転軸線上に電動モータのロータが一体的に連結されて配置され、前記電動モータのステータが前記ケースの外周壁部に固定されていることを特徴とする車両用クラッチ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−62911(P2012−62911A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205175(P2010−205175)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】