説明

車両用サスペンションシステム

【課題】車高調整を行う際に車体と車輪との相対移動範囲が適切になるように変更する車両用サスペンションシステムを得る。
【解決手段】サスペンションシステムに車高調整装置40,バウンドストッパ装置90,作動液供給装置150,電子制御装置200を設ける。電子制御装置200は、車高調整装置40によって車高を上下させる際に、バウンドストッパ装置90のラバースプリング94の保持位置を上下させるように制御する。そのため、車高調整によって、車体と車輪との相対移動範囲のうちのバウンド方向の範囲が拡大または縮小しても、バウンドストッパ装置90によって、そのバウンド方向の範囲を逆に縮小または拡大することができ、相対移動範囲が適切に保たれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体と車輪とが相対移動可能な範囲を可変とする装置を備えた車両用サスペンションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な車両のサスペンションシステムにおいて、車体と車輪との相対移動可能な範囲(以後、「相対移動範囲」と称する)は、いわゆるバウンドストッパ,リバウンドストッパと呼ばれる機構によって制限されている。それらバウンドストッパ等は、バンプラバー等の弾性体を有しており、その弾性体によって車体と車輪との接近・離間速度を減少させる、つまり、それらの相対移動を制動する。例えば、バウンドストッパは、車輪が車体に接近してそれらの距離が所定量以下になった状態において、その接近方向の相対移動を制動することにより、サスペンションスプリングの過大な変形やサスペンションシステムに加わる衝撃を緩和するものである。また、リバウンドストッパは、車体と車輪との距離が所定量以上になった状態において、離間方向の相対移動を制動するものである。また、バウンドストッパは、例えば、その弾性体が弾性変形させられることによって、一部の範囲において、サスペンションスプリングとともに車体と車輪とを離間させる向きの弾性力を発生させる役割を担う場合もある。さらに、バウンドストッパ等によって、サスペンションシステムの保護の他に、例えば、弾性体の弾性力を活用することによって、あるいは相対移動範囲を制限することによって、車体の姿勢変化(例えば、ロール等)を抑制することができる。近年、それらバウンドストッパ等をより効果的に活用するために、その位置を変化させて、相対移動範囲を変更する装置が検討されている。下記特許文献1〜3には、相対移動範囲を変更する装置が記載されている。
【特許文献1】特開平10−95217号公報
【特許文献2】特開2000−145874号公報
【特許文献3】特開2001−191776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1には、バウンドストッパ等の位置を変化させてサスペンションシステムが発生する弾性力を増加させることにより、車両のロール剛性を変化させる技術が記載されている。しかしながら、近年、サスペンションシステムには、車高調整装置をはじめ、様々な装置を設けることが検討されており、それらの装置との相互作用を無視できない場合もある。すなわち、従来から検討されてきた相対移動範囲を変更する装置には、サスペンションシステムに設けられる他の装置との相互作用を考慮して作動させる等、種々の観点からの改良の余地があり、改良を施すことによって車両の操縦安定性や乗り心地等を向上させる等、実用性を向上させることが可能である。本発明は、そういった実情を鑑みてなされたものであり、より実用的なステアリングシステムを得ることを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の車両用サスペンションシステムは、車体と車輪とが相対移動可能な範囲である相対移動範囲を制限するとともに自身が作動させられることによってその相対移動範囲を変更する可変ストッパ装置を含んで構成され、その可変ストッパ装置が、車高調整装置によって車高の調整が行われる際に作動させられて前記相対移動範囲を変更するように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の車両用ステアリングシステムは、例えば、車高の調整に伴い、可変ストッパ装置によって相対移動範囲を変更することにより、車高の調整に伴う悪影響の発生を抑制すること等ができ、より実用的なサスペンションシステムとなる。なお、本発明の車両用サスペンションシステムの各種態様およびそれらの作用および効果については、以下の、〔発明の態様〕の項において詳しく説明する。
【発明の態様】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(4)項が請求項4に、(5)項が請求項5に、それぞれ相当する。
【0007】
(1)自身が作動させられることによって車体と車輪との距離を変化させて車高を調整する車高調整装置と、
車体と車輪とが相対移動可能な範囲である相対移動範囲を制限するとともに、自身が作動させられることによってその相対移動範囲を変更する可変ストッパ装置と、
を含んで構成され、
その可変ストッパ装置が、前記車高調整装置によって車高の調整が行われる際に作動させられて前記相対移動範囲を変更するように構成された車両用サスペンションシステム。
【0008】
本項に記載のサスペンションシステムは、車輪を車体に対して上下に相対移動可能に連結する。本項に記載の可変ストッパ装置は、その車輪の車体に対する上昇と下降との少なくとも一方を制限することができる。具体的には、本項に記載の可変ストッパ装置は、例えば、車体と車輪とが所定の距離まで接近した場合に(車輪が上昇した場合に)、それらの接近を制限する装置、すなわち、相対移動範囲のうちのバウンド方向の範囲を制限する装置とすることができる。その場合には、その可変ストッパ装置によって、バウンド方向の範囲を拡大・縮小することができる。また、本項の可変ストッパ装置は、例えば、車体と車輪とが所定の距離まで離間した場合に(車輪が下降した場合に)、それらの離間を制限する装置、すなわち、相対移動範囲のうちのリバウンド方向の範囲を制限する装置とすることができる。さらに、例えば、バウンド方向およびリバウンド方向の範囲を制限する装置とすることもできる。
【0009】
本項に記載の可変ストッパ装置が弾性体(例えば、バンプラバー等)を備えている場合には、その弾性体を変形させつつ車輪と車体との接近・離間速度を減少させることにより、つまり、車輪と車体との相対移動を制動することにより、サスペンションシステムに加わる衝撃を緩和することができる。また、弾性体によってバウンド方向の範囲を制限する場合には、その弾性体の弾性力は、例えば、サスペンションスプリングと同様に車体と車輪とを離間させる向きに作用し、サスペンションシステムにおける車体と車輪との間に作用する弾性力を増加させることができる。そのため、例えば、バウンド方向の範囲を縮小することにより、車輪の上昇量が比較的少ない段階で弾性体の弾性力を発生させ、車体のロールを抑制することができる。一方、バウンド方向の範囲を拡大すれば、例えば、車輪が上昇しやすくなり路面の隆起を乗り越える場合等に車体の姿勢変化を抑制することができる。
【0010】
本項に記載の車高調整装置の態様は、特に限定されない。例えば、サスペンションシステムがエアスプリング装置を備えている場合には、そのエアスプリング装置が車高調整装置として機能し、エアを供給することによって車高を上げることができる。また、例えば、後の実施例で説明するように、車高調整装置を流体圧ジャッキ機構を備えたものとすることもできる。さらにまた、例えば、シリンダ機構を有するショックアブソーバを備えている場合には、ショックアブソーバ内の作動液を増減させることにより車高を調整することができる。
【0011】
本項に記載の車両用サスペンションシステムは、車高調整装置によって車高の調整を行うことができる。しかしながら、車高を変化させると、例えば、旋回時等に車体がロールしやすくなる場合や、相対移動範囲が不適切な範囲になる場合(例えば、バウンド方向,あるいはリバウンド方向の範囲が過小になってしまう等)等の悪影響が生じる場合がある。その場合には、例えば、車高の調整に伴い、可変ストッパ装置によって相対移動範囲を変更することにより、リバウンド方向の範囲の縮小,バウンド方向の範囲の縮小等によってロールを減少させることや、バウンド方向,あるいはリバウンド方向の範囲を拡大・縮小して適切な範囲にすること等によって、車高の調整に伴う悪影響の発生を抑制することができる。以上の例のように、本項に記載の車両用サスペンションシステムによれば、車高の調整に伴い、可変ストッパ装置によって相対移動範囲を変更することにより、例えば、車高の調整に伴う悪影響の発生を抑制すること等ができ、より実用的なサスペンションシステムとされているのである。また、本項に記載の車両用サスペンションシステムによれば、例えば、可変ストッパ装置による相対移動範囲の制限が車高調整時の車高の変化を妨げないように相対移動範囲を変更することができ、相対移動範囲を変更できないサスペンションシステムと比較して広い範囲で車高調整を行うことができる。
【0012】
(2)前記可変ストッパ装置が、車体と車輪との相対移動に伴って互いに相対移動する2つの部材の一方に設けられ、それら2つの部材の他方と当接する当接部を有し、その当接部の当接によって前記相対移動範囲を制限するとともに、作動することで前記当接部を変位させてその当接部と前記2つの部材の他方の当接する部分との離間距離を変化させることによって前記相対移動範囲を変更する構造とされた(1)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0013】
本項に記載の2つの部材の組合せは、例えば、ショックアブソーバのシリンダおよびピストンロッド(詳しくは、その先端部分等)の組合せであってもよく、あるいはロアアーム(あるいはアッパアーム)および車体のサイドメンバの組合せであってもよい。本項に記載の当接部は、例えば、弾性部材によって構成することができる。また、例えば、当接部を金属等の部材によって構成し、2つの部材の他方に弾性体を配設することもできる。本項に記載の可変ストッパ装置は、例えば、流体圧,電磁力等によって当接部を変位させる当接部変位機構を含んで構成することができる。その当接部変位機構は、例えば、流体圧によってピストンを作動させるシリンダ機構や、電磁モータの回転駆動力を直線的な変位に変換する機構等を含んで構成されたものとすることができる。
【0014】
(3)当該サスペンションシステムが、前記可変ストッパ装置によって、前記車高調整装置による車高の調整に起因する前記相対移動範囲の変化と逆の変化を生じさせるように前記相対移動範囲を変更するように構成された(1)項または(2)項に記載の車両用サスペンションシステム。
【0015】
本項に記載の態様は、例えば、車高の調整によってバウンド方向の範囲が拡大または縮小する場合に、可変ストッパ装置によってバウンド方向の範囲が縮小または拡大するように相対移動範囲を変更する態様である。また、リバウンド方向の範囲についても同様である。本項に記載の態様によって、車高を調整しても相対移動範囲を適切に保つことができる。なお、本項に記載のサスペンションシステムは、例えば、可変ストッパ装置によって、車高調整装置による車高の調整に起因する相対移動範囲の拡大・縮小を打ち消すように相対移動範囲を変更するように構成することもできる。その態様において、バウンド方向の範囲とリバウンド方向の範囲との少なくとも一方の範囲の拡大・縮小を打ち消すようにすることができる。また、車高の調整に起因する相対移動範囲の拡大・縮小を完全に打ち消すことは不可欠な事項ではなく、その拡大・縮小の度合いを低減(例えば、2分の1以下、4分の1以下等)することもできる。
【0016】
(4)前記可変ストッパ装置が、前記相対移動範囲のうち、バウンド方向の範囲を制限するものとされ、
当該サスペンションシステムが、前記車高調整装置によって車高が低減させられる際に、前記可変ストッパ装置によってバウンド方向の範囲を拡大するように構成された(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0017】
車高が低減させられると、その車高調整に起因してバウンド方向の範囲が縮小する。そのため、可変ストッパ装置によってバウンド方向の範囲を拡大することにより、適切な相対移動範囲を保つことができる。
【0018】
(5)前記車高調整装置と前記可変ストッパ装置との各々が、それら各々への作動流体の流入・流出によって作動する構造とされ、当該サスペンションシステムが、それら各々の共用の作動流体供給源となる作動流体供給装置によって作動させられるように構成された(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【0019】
本項に記載の車高調整装置と可変ストッパ装置との各々は、例えば、ピストンを有するシリンダ機構を備えたものとすることができる。そのシリンダ機構は、比較的小さなサイズで比較的大きな駆動力を発生させることができる。また、本項の態様によれば、作動流体供給装置を共用とすることができ、例えば、車両が車高調整装置と作動流体供給装置とをすでに備えている場合には、比較的容易に可変ストッパ装置を導入することができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、決して下記の実施例に限定されるものではなく、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0021】
1. 車両用サスペンションシステムの概要.
図1に、請求可能発明の一実施例である車両用サスペンションシステム10(以後、単に「サスペンションシステム」と略記する場合がある)の右側前輪部分を代表的に示す。本実施例において、サスペンションシステム10は、ダブルウィッシュボーン式のシステムとされている。そのサスペンションシステム10は、各車輪毎に、車輪20を回転可能に保持する車輪保持体としてのステアリングナックル22,そのステアリングナックル22の上部と図示を省略する車体とを上下方向に相対移動可能に連結するアッパアーム24,およびステアリングナックル22の下部と図示を省略する車体とを上下方向に相対移動可能に連結するロアアーム26を備えている。また、サスペンションシステム10は、各車輪毎に、下端部がロアアーム26に連結されたショックアブソーバ30,そのショックアブソーバ30に設けられた圧縮コイルスプリング32,およびショックアブソーバ30の上端部に配設された車高調整装置40を備えている。
【0022】
図2に、ショックアブソーバ30,圧縮コイルスプリング32,車高調整装置40等を模式的に示す。ショックアブソーバ30は、シリンダ44と、そのシリンダ44内のピストンに連結されたピストンロッド46と、ロアアーム26に連結される連結部48とを備えている。また、シリンダ44には、圧縮コイルスプリング32の下部を保持する下部リテーナ50が固定されている。その下部リテーナ50の上に圧縮コイルスプリング32が配置され、その圧縮コイルスプリング32の上側にその上部を保持する上部リテーナ52が設けられている。その上部リテーナ52は、自身を貫通するピストンロッド46と軸方向に相対移動可能にされている。圧縮コイルスプリング32は、下部リテーナ50と上部リテーナ52との間隔が変化することによって伸縮させられ、その圧縮変形量に応じた弾性力を発生させる。
【0023】
2. 車高調整装置.
上部リテーナ52の上側には、ベアリング56が配設され、そのベアリング56の上側に車高調整装置40が配設されている。その車高調整装置40は、円筒状のシリンダ60と、概して円柱形状をなしてその中心を貫く挿通穴を有する中空状ピストン62とを備えている。シリンダ60は、両端部が開口した円筒部材64と、その円筒部材64の上側開口部を閉塞する上部閉塞部材66とが接合されて構成されている。中空状ピストン62の挿通穴には、ピストンロッド46が設定されたクリアランスを保って挿通されており、中空状ピストン62とピストンロッド46とは軸方向に相対移動可能にされている。また、中空状ピストン62は、円筒部材64の下側開口部から図において下方に延び出す中空ロッド部70と、上部のピストン部72とを有している。その中空状ピストン62は、シリンダ60内に軸方向に移動可能に嵌合させられている。また、ピストン部72の外周部には、シリンダ60の内周面と摺接するOリング74が配設され、内周部には、ピストンロッド46の外周面と摺接するOリング76が配設されている。すなわち、シリンダ60内部、詳しくは、ピストン部72の上方の空間は液密に保たれており、上部閉塞部材66に設けられた作動液供給部78から作動液がシリンダ60内部に供給されると中空状ピストン62が下方に押し出されるようにされているのである。なお、この図において、シリンダ60内部に作動流体たる作動液が充填され、シリンダ60が中空状ピストン62に対して上昇した状態が示されている。本実施例において、シリンダ60および中空状ピストン62を含んで、流体圧によって車体を上昇させる流体圧ジャッキ機構が構成されている。
【0024】
なお、シリンダ60の外側面下端部には下降端センサ80が設けられている。その下降端センサ80によって、シリンダ60が中空状ピストン62に対して最大限下降したことが検出される。下降端センサ80は、下方に延び出すロッド82を有するマイクロスイッチを含んで構成されている。そのロッド82は、シリンダ60が中空状ピストン62に対して最大限下降した際に、上部リテーナ52に当接して下降端センサ80の中に設定量押し込まれるようにされている。そして、ロッド82が押し込まれることによって下降端センサ80内の接点が閉じられて、シリンダ60が最大限下降したことが検出されるのである。
【0025】
上部閉塞部材66は、その上部が、下方に開口する有底円筒状の形状とされるとともに、その下部が下方に向かって傘状に広がる形状とされている。その上部閉塞部材66の上部の外周には、マウントラバー84が接着されている。そのマウントラバー84の外周には、車体に固定されて車体を下方から支持する環状の車体支持部材86が接着されている。すなわち、上部閉塞部材66と車体支持部材86とがマウントラバー84によって連結され、車輪16からの振動が車体に伝わりにくくされているのである。
【0026】
3. バウンドストッパ装置.
ロアアーム26には、車体に対する車輪20の上昇を制限するバウンドストッパ装置90が設けられている。図3に、ロアアーム26およびバウンドストッパ装置90を車両前方から眺めた図を示す。ロアアーム26は、車体に連結される車体側連結部92を有し、その車体側連結部92を中心にして回転可能にされている。バウンドストッパ装置90は、弾性体たるゴム材を含んで構成されたラバースプリング94を備えており、通常時には、そのラバースプリング94を移動不能に保持している(図4参照)。バウンドストッパ装置90の上方には、車体のサイドメンバ96が位置している。車輪20が車体に対して上昇すると、ロアアーム26が図において右側端部を中心に時計回りに回動するため、バウンドストッパ装置90とサイドメンバ96とが接近する。車輪20がさらに上昇すると、バウンドストッパ装置90のラバースプリング94が、サイドメンバ96に当接し、そのサイドメンバ96とロアアーム26とに挟まれて圧縮変形させられて、その圧縮変形量に応じて、サイドメンバ96とロアアーム26とを離間させる向きの弾性力を発生する。すなわち、バウンドストッパ装置90は、車体と車輪20との距離が設定距離以下になった場合に、ラバースプリング94の変形量に応じた弾性力を発生することによって、車体と車輪20との接近速度を減少させて、それらの相対移動可能な範囲を制限している。そのバウンドストッパ装置90によって、例えば、サスペンションシステムに加わる衝撃が緩和される。
【0027】
本実施例においてバウンドストッパ装置90は、ラバースプリング94の保持位置を上下方向に変更することができる構造とされている。図4にバウンドストッパ装置90の断面を示す。バウンドストッパ装置90は、シリンダ100と、そのシリンダ100に上下方向に移動可能に嵌合させられたピストン102とを備えている。ピストン102の外周部には、周方向に全周にわたって溝が設けられており、その溝にOリング104が嵌められている。すなわち、ピストン102は、Oリング104によってシリンダ100の内周面と液密に摺接したまま移動することができるようにされているのである。そして、シリンダ100内に、詳しくは、ピストン102の下側の空間に作動液が流入し、あるいはその空間から作動液が流出させられるのに伴いピストン102が上下させられる。そのピストン102の上部にはラバースプリング94が固定されている。すなわち、バウンドストッパ装置90は、ピストン102を上下に変位させることによって、ラバースプリング94の保持位置を上下方向に変更するようにされている。
【0028】
また、バウンドストッパ装置90は、シリンダ100の開口部に付設されてその開口部から外向きに広がる鍔部106を形成する環状の環状部材108を備えている。その環状部材108はシリンダ100の内周に嵌合する筒部110を有しており、その筒部110によってピストン102の上昇が制限される。また、バウンドストッパ装置90は、ピストン102を押し戻すための圧縮コイルスプリング112を備えている。すなわち、環状部材108は筒部110よりも内周側に延び出しており、環状部材108の内周部とピストン102の上面との間に、弾性体たる圧縮コイルスプリング112が圧縮変形させられた状態で配設されているのである。シリンダ100の底面には、ピストン102の下降を制限する下降制限部材114が設けられている。シリンダ100には、作動液供給管120が接続されており、その内部の作動液の流入・流出が可能にされている。なお、図4においては、シリンダ100内に作動液が充填され、ピストン102が上昇した状態が示されている。
【0029】
4. 作動液供給装置.
図5に、サスペンションシステム10が備える作動液供給装置150、車高調整装置40、およびバウンドストッパ装置90の系統図を示す。作動液供給装置150は、作動液を一定の方向に吐出するポンプ152,そのポンプ152を駆動するモータ154,設定された圧力を超えた作動液を蓄えるアキュムレータ156,回収した作動液を蓄えるリザーバ158,作動液を供給する通路を開閉する常閉型の供給側電磁弁160,および作動液を回収する通路を開閉する常閉型の回収側電磁弁162を含んで構成されている。作動液供給装置150と車高調整装置40とは、作動液通路170,171によって接続されている。その作動液通路170は、車高調整装置40の手前で分岐し、その分岐した作動液通路172によってバウンドストッパ装置90と作動液供給装置150とが接続されている。作動液通路170の分岐から車高調整装置40側の作動液通路171と、バウンドストッパ装置90側の作動液通路172との各々には常閉型の電磁弁174,176が配設されている。また、電磁弁174と車高調整装置40との間には絞り178が設けられている。
【0030】
ポンプ152から作動液が吐出される作動液通路180には、圧力センサ182が設けられている。その圧力センサ182は後述する電子制御装置に接続されている。その電子制御装置の制御により、圧力センサ182によって検出される液圧が設定値以上になるようにポンプ152を駆動するモータ154が作動させられる。つまり、圧力センサ182によって検出される液圧が設定値未満になるとモータ154が作動させられ、一方、設定値以上になるとモータ154が停止させられる。なお、供給側電磁弁160が閉状態の場合には、ポンプ152から吐出された作動液はアキュムレータ156に蓄えられる。
【0031】
供給側電磁弁160が開状態にされると作動液通路170の圧力が上昇し、さらに電磁弁174が開状態にされると、車高調整装置40に作動液が供給されて車高が上昇し、電磁弁176が開状態にされるとバウンドストッパ装置90に作動液が供給されラバースプリング94の保持位置が上昇させられる。逆に、供給側電磁弁160が閉状態にされ、回収側電磁弁162が開状態にされると作動液通路170の圧力が下降し、さらに電磁弁174が開状態にされると、車高調整装置40から作動液が流出して車高が下降し、電磁弁176が開状態にされるとバウンドストッパ装置90から作動液が流出してラバースプリング94の保持位置が下降させられるのである。なお、車高調整装置40側の作動液通路171には絞り178が設けられており、車高が急激に変化しないようにされている。なお、作動液供給装置150は、4つの作動液通路170によって、各車輪20ごとの車高調整装置40,バウンドストッパ装置90,電磁弁174,176等が接続されているが、この図には1つの車輪20についての車高調整装置40,バウンドストッパ装置90等を代表的に示した。
【0032】
5. 電子制御装置.
本サスペンションシステム10は、自身が備える電子制御装置200によって制御される。電子制御装置200は、コンピュータを主体として、各種モータ,各種電磁弁等を駆動する駆動回路等を含んで構成されている。その電子制御装置200には、下降端センサ80,圧力センサ182,204等の各種センサが接続されている。また、電子制御装置200には、イグニッションスイッチ206が接続され、そのイグニッションスイッチ206から車両の動力の起動・停止等の信号が入力される。電子制御装置200の駆動回路には、モータ154,電磁弁160等が接続されている。
【0033】
また、電子制御装置200には、車高を選択する車高選択スイッチ210が接続されている。車高選択スイッチ210は、車高が高い状態(Hiモード),車高が低い状態(Loモード),自動切り換え状態(Autoモード)の3つの状態のうちのいずれか1つを運転者が選択できるようにされている。HiモードおよびLoモードは、運転者が走行状態や路面状況から判断して適切な車高を選択するモードである。また、Autoモードは、電子制御装置200によって、設定された条件が満たされた場合に自動的に車高を高く、あるいは低くするモードである。具体的には、例えば、Autoモードでは、運転状態(例えば、動力起動後)において車高が高くされ、停車状態(例えば、動力停止後)において車高が低くされる。また、例えば、車速度が比較的大きい場合(例えば、時速60km以上)には車高が低くされ、車速度が比較的小さい場合には車高が高くされるようにすることもできる。
【0034】
電子制御装置200は、車高調整およびラバースプリング94の保持位置であるストッパ位置を変更する車高・ストッパ位置制御部220を備えている。その車高・ストッパ位置制御部220による車高およびストッパ位置を変更する制御について説明する。車高選択スイッチ210が、Hiモードが選択された場合、あるいはAutoモードが選択された状態で車高を高くする条件が満たされた場合(例えば、車両の動力が起動されたことが検出された場合等)には、車体上昇制御が行われる。
【0035】
車体上昇制御のフローチャートを図6に示す。ステップ11(以後、ステップ11を「S11」と略記し、他の符号についても同様とする)において、車体が下降した状態であるか否かが確認される。具体的には、下降端センサ80がON状態であれば車体が下降した状態であると判定される。そうでない場合は、車体が上昇させられている状態であると判定され、S12以降の処理がスキップされる。車体が下降した状態であれば、車高調整装置40に作動液が供給される(S12)。具体的には、供給側電磁弁160および車高調整用の電磁弁174に励磁用の駆動電力が供給され、それらが開状態にされる。そして、S13の判定により、車体の上昇に充分な時間に設定された設定時間T1が経過するまで、作動液供給装置150から車高調整装置40に作動液が圧送される。設定時間T1経過後に、駆動電力の供給の停止によって電磁弁174,160が消磁されて閉状態にされ(S14)、車体が上昇した状態に保たれる。
【0036】
本実施例では、車体上昇制御において、車体が上昇した後、引き続きストッパ位置を上昇させる処理が行われる。S15において、バウンドストッパ装置90に作動液が供給される。具体的には、供給側電磁弁160およびストッパ位置変更用の電磁弁176が励磁されて開状態にされる。そして、S16の判定により、ラバースプリング94の保持位置の上昇に充分な時間に設定された設定時間T2が経過するまで、作動液供給装置150からバウンドストッパ装置90に作動液が圧送される。設定時間T2経過後に、電磁弁176,160が消磁されて閉状態にされ(S17)、ラバースプリング94の保持位置が上昇した状態に保たれる。以上で車体上昇制御の説明を終了する。
【0037】
車高・ストッパ位置制御部220により、車高選択スイッチ210が、Loモードが選択された場合、あるいはAutoモードが選択された状態で車高を低くする条件が満たされた場合(例えば、車両の動力が停止されたことが検出された場合等)には、車体下降制御が行われる。図7に、車体下降制御のフローチャートを示す。S21において、S11と同様な処理によって、車体が下降した状態であるか否かが確認される。車体が下降した状態である場合は、S22以下の処理がスキップされる。そうでない場合は、S22の処理が行われ、車高調整装置40およびバウンドストッパ装置90から作動液が回収される。具体的には、回収側電磁弁162,車高調整用の電磁弁174,およびストッパ位置変更用の電磁弁176が励磁されて開状態にされる。そして、S23の判定により、下降端センサ80によって車体の下降が検出されるまで、リザーバ158に作動液が回収される。下降端センサ80によって車体の下降が検出された後、電磁弁174,176等が消磁されて閉状態にされ(S24)、車体およびラバースプリング94が下降した状態に保たれる。以上で車体下降制御の説明を終了する。
【0038】
本実施例において、バウンドストッパ装置90を含んで、相対移動範囲を制限および変更する「可変ストッパ装置」が構成されている。また、ラバースプリング94のサイドメンバ96と当接する部分を含んで、車体と車輪との相対移動に伴って相対移動する2つの部材(本実施例において、サイドメンバ96とロアアーム26)の一方に設けられてそれら2つの部材の他方と当接する「当接部」が構成されている。なお、バウンドストッパ装置90のシリンダ100とピストン102とを含んで構成されるシリンダ機構が、当接部を変位させる「当接部変位機構」として機能している。
【0039】
本実施例において、車高・ストッパ位置制御部220は、車体を上昇させる際にはストッパ位置を上昇させ、車体を下降させる際にはストッパ位置を下降させる。それは、車高調整に伴う車体と車輪20との相対移動範囲の変化を抑制するためである。以下に具体的に説明する。車体を上昇させるとサイドメンバ96とロアアーム26との距離が増加し、車体と車輪20との相対移動範囲のうちのバウンド側の範囲が広くなる。そのため、車高調整に起因するバウンド側の範囲の変化と逆の変化を生じさせるように、ラバースプリング94の保持位置を上昇させ、バウンド側の範囲を縮小するのである。すなわち、本実施例において、車高調整に伴いストッパ位置を変更することにより、車高調整に起因するバウンド側の範囲の変化を減少させることができるのである。逆に、車体を下降させる場合は、バウンド側の範囲が狭くなるため、ラバースプリング94の保持位置を下降させてバウンド側の範囲を拡大することにより、車高調整に起因するバウンド側の範囲の変化を減少させることができる。そうすることによって、車高調整を行ってもバウンド側の範囲を適切に保つことができるのである。
【0040】
本実施例において、車高調整装置40,バウンドストッパ装置90に、ストロークセンサ(例えば、抵抗式のセンサ)を取り付けて、車高あるいはストッパ位置を検出することもできる。そして、ストロークセンサによって検出された車高あるいはストッパ位置に基づいて、例えば、無段階、多段階の制御を行うことができる。また、圧力センサ204の検出値が設定値を超えたことで車体あるいはラバースプリング94が上昇した状態であると判定することもできる。本実施例においては、車高調整の際に、バウンドストッパ装置90によってバウンド方向の範囲が変更されているが、サスペンションシステムに、リバウンド方向の範囲を変更するリバウンドストッパ装置を設けることによって、車高調整の際に、リバウンド方向の範囲を変更することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】請求可能発明の実施例である車両用サスペンションシステムの一部を示す図である。
【図2】上記車両用サスペンションシステムの車高調整装置を側方から見た断面を模式的に示す図である。
【図3】上記車両用サスペンションシステムのロアアームおよびバウンドストッパ装置を車両前方から眺めた図である。
【図4】上記車両用サスペンションシステムのバウンドストッパ装置の断面を示す図である。
【図5】上記車両用サスペンションシステムの作動液供給装置と、作動液の供給回路を示す図である。
【図6】上記車両用サスペンションシステムの電子制御装置によって行われる車体上昇制御のフローチャートを示す図である。
【図7】上記車両用サスペンションシステムの電子制御装置によって行われる車体下降制御のフローチャートを示す図である。
【符号の説明】
【0042】
10:車両用サスペンションシステム 20:車輪 26:ロアアーム 30:ショックアブソーバ 32:サスペンションスプリング 40:車高調整装置 60:シリンダ 62:中空状ピストン 90:バウンドストッパ装置(可変ストッパ装置) 94:ラバースプリング(弾性体) 96:サイドメンバ 100:シリンダ 102:ピストン 150:作動液供給装置 200:電子制御装置 210:車高選択スイッチ 220:車高・ストッパ位置制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自身が作動させられることによって車体と車輪との距離を変化させて車高を調整する車高調整装置と、
車体と車輪とが相対移動可能な範囲である相対移動範囲を制限するとともに、自身が作動させられることによってその相対移動範囲を変更する可変ストッパ装置と、
を含んで構成され、
その可変ストッパ装置が、前記車高調整装置によって車高の調整が行われる際に作動させられて前記相対移動範囲を変更するように構成された車両用サスペンションシステム。
【請求項2】
前記可変ストッパ装置が、車体と車輪との相対移動に伴って互いに相対移動する2つの部材の一方に設けられ、それら2つの部材の他方と当接する当接部を有し、その当接部の当接によって前記相対移動範囲を制限するとともに、作動することで前記当接部を変位させてその当接部と前記2つの部材の他方の当接する部分との離間距離を変化させることによって前記相対移動範囲を変更する構造とされた請求項1に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項3】
当該サスペンションシステムが、前記可変ストッパ装置によって、前記車高調整装置による車高の調整に起因する前記相対移動範囲の変化と逆の変化を生じさせるように前記相対移動範囲を変更するように構成された請求項1または2に記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項4】
前記可変ストッパ装置が、前記相対移動範囲のうち、バウンド方向の範囲を制限するものとされ、
当該サスペンションシステムが、前記車高調整装置によって車高が低減させられる際に、前記可変ストッパ装置によってバウンド方向の範囲を拡大するように構成された請求項1ないし3のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
【請求項5】
前記車高調整装置と前記可変ストッパ装置との各々が、それら各々への作動流体の流入・流出によって作動する構造とされ、当該サスペンションシステムが、それら各々の共用の作動流体供給源となる作動流体供給装置によって作動させられるように構成された請求項1ないし4のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−224859(P2006−224859A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42588(P2005−42588)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】