説明

車両用ヘッドアップディスプレイ

【課題】 フロントウィンドシールドに少なくとも2つの画像を同時に表示でき、かつ、表示サイズおよび表示位置をそれぞれ異なるようにする。
【解決手段】 画像投影器100は、第1、第2画像の画像光をそれぞれ射出する表示器20と、表示器20から射出される第1、第2画像の画像光をフロントウィンドシールドWSの表示部200にそれぞれ導く複数の鏡30〜70と、を有している。そして、表示器20から射出された第1、第2画像の各画像光は複数の鏡30〜70を介して異なる光路を経て第1、第2スクリーン210、220にそれぞれ導かれると共に、表示器20から射出された各画像の各画像光が各スクリーン210、220にそれぞれ導かれるまでの光路長が各画像光で異なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロントウィンドシールドに複数の画像を、画像サイズを異ならせて表示できる画像投影器を備えた車両用ヘッドアップディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ドライバに対して車速やナビゲーション情報などの車両に関する情報を認識させる装置として、車両用ヘッドアップディスプレイが知られている。一般に、車両用ヘッドアップディスプレイは、画像の画像光を投影する画像投影器と、画像投影器から射出された画像を画像表示する表示部と、を備えて構成されている。このような車両用ヘッドアップディスプレイにおいて、画像投影器から2つの異なる画像の画像光を射出し、表示部としての2つのスクリーンにそれぞれ表示するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記のような車両用ヘッドアップディスプレイの画像投影器は、表示器と、2つの三角プリズムと、を備えて構成されている。表示器は、1フレーム内に2つの異なる画像を表示するものであり、透過型液晶パネル(以下、液晶パネルという)と、液晶パネルのバックライトとして機能する光源と、を備えて構成される。この表示器においては、液晶パネルに表示される2つの異なる画像の画像光が干渉してしまうことを防止するために、各画像の境界線上に各画像の画像光をそれぞれ遮断する仕切り板が配置されている。三角プリズムは、液晶パネルにそれぞれ表示される画像の画像光をそれぞれ異なる光学系に導くものである。この三角プリズムは、仕切り板で仕切られた各画像に対向するようにそれぞれ仕切り板に接着されている。
【0004】
また、表示部としての2つの光学系は、三角プリズムから射出された画像光を結像して画像表示するスクリーンを備えている。スクリーンは、画像が表示される画像表示領域である。このようなスクリーンにメータおよびフロントウィンドシールドが採用され、これらの表示場所に異なる画像が同時に表示されるようになっている。
【0005】
このような車両用ヘッドアップディスプレイにおいて、液晶パネルに表示される2つの画像は、以下のようにしてそれぞれ異なるスクリーンに表示される。まず、液晶パネルにて1フレーム内に2つの画像が表示される。そして、それぞれの画像の画像光が各三角プリズムに射出されると共に、各三角プリズムから各光学系に導かれる。この後、各光学系に入射された各画像光は、メータおよびフロントウィンドシールドに結像されて画像表示がなされる。このようにして、ドライバはメータおよびフロントウィンドシールドに同時に表示される異なる画像をそれぞれ視認できるようになっている。
【特許文献1】特開2004−133181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、車両情報やナビゲーション情報、ナイトビジョン映像等、ドライバに画像表示して提供するコンテンツが増えつつある。したがって、車両用ヘッドアップディスプレイにおいて、フロントウィンドシールドに上記車両情報を同時に複数表示することは、ドライバに多くの情報をもたらすばかりでなく、視線を車両前方から離さずに画像を視認させることができるため、安全運転にも寄与できると考えられる。
【0007】
しかしながら、上記従来の技術では、異なるスクリーンに画像を導いて表示するのであり、2つの画像を同時に同じスクリーン、すなわちフロントウィンドシールドに表示することはできない。このような、1つの表示器から2つの異なる画像の画像光をそれぞれ射出し、フロントウィンドシールドに2つの画像を同時に表示できる画像投影器を備えた車両用ヘッドアップディスプレイは、これまでに提案されていない。
【0008】
一方、フロントウィンドシールドに表示される上記コンテンツにおいては、表示されるべき最適な画像サイズがそれぞれ異なると共に、表示される位置もそれぞれ異なる。したがって、フロントウィンドシールドに画像表示する際、それぞれの画像サイズおよび表示位置をそれぞれ異なるようにする必要が生じる。
【0009】
本発明は、上記点に鑑み、車両のフロントウィンドシールドに少なくとも2つの画像を同時に表示でき、かつ、表示サイズおよび表示位置をそれぞれ異なるようにすることができる画像表示器を備えた車両用ヘッドアップディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、複数の画像を表示する表示器から射出される各画像光は、複数の鏡を介してそれぞれ異なる光路を経てフロントウィンドシールドの表示部に導かれると共に、表示器と表示部との間の光路長が各画像光でそれぞれ異なっていることを特徴としている。
【0011】
このように、表示器から射出される複数の画像の画像光を複数の鏡を介してそれぞれ異なる光路で表示部に導く。これにより、表示器から射出される各画像光をフロントウィンドシールドのそれぞれ異なる場所に導くことができる。したがって、フロントウィンドシールドに複数の画像を同時に表示することができる。さらに、各画像光において表示器と表示部との間の光路長をそれぞれ異なるようにする。これにより、ドライバの虚像に対する焦点距離を各虚像でそれぞれ異なるようにすることができるため、それぞれ視認される各画像の画像サイズをそれぞれ異なるようにすることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明では、画像投影器は、複数の画像の画像光をそれぞれ射出する表示器(20)と、各画像光をフロントウィンドシールドに導く複数の鏡(30〜70)と、を有し、表示部は、複数の画像をそれぞれ表示する複数のスクリーン(210、220)を有しており、各画像光は複数の鏡を介して異なる光路を経て各スクリーンに導かれると共に、表示器から射出された各画像光が各スクリーンにそれぞれ導かれるまでの光路長が各画像光でそれぞれ異なっていることを特徴としている。
【0013】
このように、画像投影器の表示部において、複数の画像を作成すると共に、各画像の画像光をそれぞれ異なる経路でフロントウィンドシールドの各スクリーンに導く。これにより、各画像を分離して各スクリーンに同時に表示することができる。さらに、各画像の画像光が各スクリーンに導かれるまでの光路長がそれぞれ異なっている。したがって、ドライバの虚像に対する焦点距離を各画像でそれぞれ異なるようにすることができるため、各スクリーンに表示される各画像の画像サイズをそれぞれ異なるようにすることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明では、画像投影器は、第1画像(21a)および第2画像(21b)の各画像光を射出する表示器(20)と、第1画像および第2画像の各画像光をそれぞれ異なる方向に射出する鏡(30〜70)と、を備え、表示部は、第1画像および第2画像をそれぞれ画像表示する第1スクリーン(210)および第2スクリーン(220)を有しており、第1画像および第2画像の各画像光が表示器からそれぞれ射出されると共に第1スクリーンおよび第2スクリーンにそれぞれ導かれるまでの光路長が第1画像および第2画像においてそれぞれ異なっていることを特徴としている。
【0015】
このように、表示器から射出される第1画像および第2画像の各画像光をそれぞれ異なる光路を経て、フロントウィンドシールドの各スクリーンに導く。これにより、第1画像を第1スクリーンに、第2画像を第2スクリーンにそれぞれ同時に表示することができる。さらに、第1画像および第2画像の各画像光の光路長がそれぞれ異なっている。このため、ドライバの虚像に対する焦点距離を各画像でそれぞれ異なるようにすることができ、第1スクリーンに表示される第1画像と、第2スクリーンに表示される第2画像と画像サイズをそれぞれ異なるようにすることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明では、反射鏡は、第1反射鏡および第2反射鏡と接続部とはそれぞれ鈍角に接続されたV字構造になっていることを特徴としている。
【0017】
このように、表示器に対向する位置に配置される反射鏡において、第1反射鏡、接続部、第2反射鏡をV字構造とする。これにより、表示器から射出される第1画像および第2画像の各画像光をそれぞれことなる方向に導くことができる。したがって、反射鏡にてそれぞれ異なる方向に導いた各画像光の光路長を、それぞれ異なるように設定することができるようになる。
【0018】
請求項5に記載の発明では、第4の鏡は、第2の鏡よりも高い拡大率を有していることを特徴としている。
【0019】
このように、第2画像の画像光を反射してフロントウィンドシールドに導く第4の鏡の拡大率を、第1画像の画像光を反射してフロントウィンドシールドに導く第2の鏡の拡大率よりも大きくする。これにより、第2画像の画像サイズを第1画像の画像サイズよりも大きくすることができる。こうして、第1画像および第2画像の画像サイズに差をつけることができる。
【0020】
請求項6に記載の発明では、第1画像の画像光が第1の鏡から第2の鏡に導かれるまでの第1光路長をlとし、第2画像の画像光が第3の鏡から第4の鏡に導かれるまでの第2光路長をlとすると、第1光路長lおよび第2光路長lはl<lの関係を満たしていることを特徴としている。
【0021】
このように、第1光路長lと第2光路長lとがl<lの関係を満たすようにする。これにより、第1画像の画像光と第2画像の画像光との光路長に差をつけることができる。この光路長の差によって、第1スクリーンおよび第2スクリーンに表示される第1画像および第2画像の各画像サイズに差を生じさせることができる。
【0022】
請求項7に記載の発明では、運転席から第1スクリーンにて視認される第1画像の虚像までの距離LをL=KWS(a+K)とし、運転席から第2スクリーンにて視認される第2画像の虚像までの距離L’をL’=KWS(b+K)としたとき、距離Lおよび距離L’は、L<L’の関係を満たしていることを特徴としている。
【0023】
このように、各光路長や各鏡の拡大率に基づき、運転席から第1画像の虚像までの距離Lおよび運転席から第2画像の虚像までの距離L’がL<L’の関係を満たすようにする。これにより、ドライバの虚像に対する焦点距離を各画像でそれぞれ異なるようにすることで、フロントウィンドシールドに表示される第1画像および第2画像の画像サイズに差を生じさせることができる。
【0024】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る車両用ヘッドアップディスプレイの構成斜視図である。図1に示されるように、車両用ヘッドアップディスプレイは、画像の画像光を投影する画像投影器100と、画像投影器100から射出された画像光を画像表示する表示部200と、を備え構成されている。
【0026】
画像投影器100は、フロントウィンドシールドWSの表示部200に画像表示するための画像光を射出するものであり、ハウジング10と、表示器20と、反射鏡30と、第1平面鏡40と、第2平面鏡50と、第3平面鏡60と、凹面鏡70と、を備えて構成されている。
【0027】
ハウジング10は、画像投影器100の外形をなすものである。このハウジング10は、後述する表示器20、反射鏡30、第1〜第3平面鏡40〜60、凹面鏡70を収納すると共に、車両のインストルメントパネルの裏面側に配置される。
【0028】
表示器20は、フロントウィンドシールドWSの表示部200に表示されるコンテンツに応じた画像光を射出するものである。このような表示器20は、光源と、画像を表示する液晶パネルと、ケースと、を有し構成されている(図示しない)。
【0029】
光源は、光を発する周知のものであり液晶パネルのバックライトとして機能するものである。このような光源には、例えばLED(発光ダイオード)が採用される。
【0030】
液晶パネルは、2枚のガラス板の間に液晶が注入されて素子パターン、すなわち配線にて区間されたドット(画素)が形成され、この各画素が薄膜トランジスタ(TFT)で制御されて画像表示がなされる周知の画像表示装置である。この液晶パネルは、外部のECU等に電気的に接続された状態とされており、外部のECU等から画像信号が入力されると、その画像信号に応じた画像を表示するようになっている。
【0031】
また、本実施形態では、この液晶パネルには異なる2つの画像が表示される。その様子を図2に示す。図2は、表示器20に備えられる液晶パネルの画像表示面を示した図である。図2に示されるように、液晶パネル21においては1フレームに第1画像21aと第2画像21bとが同時に表示されており、第1画像21aと第2画像21bとの間には分割領域21cが設けられている。この分割領域21cは、各画像21a、21bを区分する領域であり、この領域には例えば黒が表示される。
【0032】
ケースは、箱形の表示器20の外形をなすものであり、光源、液晶パネル21等を収納する収納部材である。このケースの一側面には、液晶パネル21に表示された画像の画像光を射出するための開口部が設けられている。
【0033】
上記のような構成を有する表示器20においては、外部のECU等から液晶パネル21に画像信号が入力されると、液晶パネル21にそれぞれ内容が異なる第1画像21aおよび第2画像21bがそれぞれ表示される。そして、光源から光が発せられると共に、各画像21a、21bの各画像光がケースの開口部からそれぞれ射出されるようになっている。
【0034】
反射鏡30は、表示器20から射出される画像光を第1、第3平面鏡40、60にそれぞれ導く鏡である。このような反射鏡30は、図1に示されるように、第1反射鏡31と、第2反射鏡32と、接続部33と、を備えた構成となっている。そして、第1反射鏡31の一辺が接続部33に接続されており、接続部33において第1反射鏡31の一辺が接続された辺に対向する辺に第2反射鏡32の一辺が接続された状態になっている。また、第1、第2反射鏡31、32と接続部33とはそれぞれ鈍角に接続されている。したがって、図1に示されるように、第1反射鏡31、接続部33、第2反射鏡32を車両の天井側から見た接続形態はV字型になる。
【0035】
上記のような反射鏡30は、表示器20の画像光射出面に対向する位置に配置される。この際、表示器20の液晶パネル21における分割領域21cに反射鏡30の接続部33が対向するように、表示器20、反射鏡30がハウジング10に固定される。したがって、液晶パネル21に表示される第1画像21aの画像光は反射鏡30の第1反射鏡31に射出され、液晶パネル21の表示される第2画像21bの画像光は反射鏡30の第2反射鏡32に射出される。
【0036】
そして、第1反射鏡31にて反射した第1画像21aの画像光は、後述する第1平面鏡40に導かれる。一方、第2反射鏡32にて反射した第2画像21bの画像光は、後述する第3平面鏡60に導かれる。
【0037】
以上のように、本実施形態では、液晶パネル21に分割領域21cを設けていること、およびV字型の反射鏡30を採用して各画像21a、21bの各画像光をそれぞれ異なる方向に射出することによって、各画像21a、21bの各画像光が互いに干渉することを防止している。
【0038】
第1〜第3平面鏡40〜60は、入射される画像の画像光をそれぞれ反射する鏡である。第1平面鏡40は、上記反射鏡30のうち第1反射鏡31から入射される第1画像21aの画像光を第2平面鏡50に導くものである。この第1平面鏡40は、表示器20の隣、すなわち表示器20において第1画像21aの画像光射出側に配置されている。そして、第1平面鏡40は、反射した第1画像21aの画像光を第2平面鏡50に射出する。なお、第1平面鏡40は、本発明の第1の鏡に相当する。
【0039】
また、第2平面鏡50は、第1平面鏡40に対して車両前方側に配置される鏡である。このような第2平面鏡50は、第1平面鏡40から入射される第1画像21aの画像光をハウジング10およびインストルメントパネル上部に設けられた開口部(図示しない)からフロントウィンドシールドWSに導くものである。また、第2平面鏡50は、例えば2倍の拡大率を有する。なお、第2平面鏡50は、本発明の第2の鏡に相当する。
【0040】
第3平面鏡60は、上記反射鏡30のうち第2反射鏡32から入射される第2画像21bの画像光を凹面鏡70に導くものである。この第3平面鏡60は、表示器20の隣、すなわち表示器20において第2画像21bの画像光射出側に配置されている。そして、第3平面鏡60は、反射した第2画像21bの画像光を凹面鏡70に射出する。なお、第3平面鏡60は、本発明の第3の鏡に相当する。
【0041】
凹面鏡70は、第3平面鏡60に対して車両前方側に配置される拡大鏡である。この凹面鏡70は、第3平面鏡60から入射される第2画像21bを拡大し、拡大した第2画像21bの画像光をハウジング10およびインストルメントパネル上部に設けられた開口部からフロントウィンドシールドWSに導くものである。このような凹面鏡70の拡大率は、例えば5倍である。なお、凹面鏡70は、本発明の第4の鏡に相当する。以上が、画像投影器100の構成である。
【0042】
表示部200は、画像投影器100から射出される画像光を結像させて画像として表示するものであり、フロントウィンドシールドWSのガラスの内表面に設けられる画像表示領域(いわゆるコンバイナ)である。この表示部200は、図1に示されるように、第1スクリーン210と、第2スクリーン220と、を備えて構成されている。
【0043】
第1スクリーン210は、第1画像21aが表示される領域である。したがって、第2平面鏡50から入射される第1画像21aの画像光が第1スクリーン210に結像される。この第1スクリーン210には、例えば矢印や経路案内等のナビゲーション情報や、車速等の車両情報が表示される。
【0044】
一方、第2スクリーン220は、第2画像21bが表示される領域であり、第1スクリーン210よりも画像表示領域が広い。つまり、第2スクリーン220に表示される第2画像21bの画像サイズが、第1スクリーン210に表示される第1画像21aの画像サイズよりも大きい。そして、凹面鏡70から入射される第2画像21bの画像光がこの第1スクリーン210に結像される。この第2スクリーン210には、例えばナイトビュー映像や夜間における人物強調映像等が表示される。
【0045】
なお、フロントウィンドシールドWSは湾曲した形状になっているため、フロントウィンドシールドWSはフロントウィンドシールドWSの外側に形成される虚像を拡大表示する機能を持っている。このフロントウィンドシールドWSの拡大率は、例えば1.3〜1.5倍である。
【0046】
図3は、運転席から車両前方側を見たときのフロントウィンドシールドWSの模式図である。図3に示されるように、本実施形態では、フロントウィンドシールドWSの下側(地面側)に第1、第2スクリーン210、220が設けられており、各スクリーン210、220にそれぞれ異なる内容の画像が表示されることとなる。以上が、車両用ヘッドアップディスプレイの構成である。
【0047】
次に、運転席(ドライバの眼)から虚像、すなわち第1画像21aおよび第2画像21bの各表示像までの距離について説明する。
【0048】
まず、図1に示されるように、表示器20の画像光射出面から第2平面鏡50までの光路長をL(=80mm)、第2平面鏡50の拡大率をK(=2)、第2平面鏡50からフロントウィンドシールドWSの内表面までの光路長をa(=200mm)、フロントウィンドシールドWSの拡大率をKWS(=1.5)、とする。これにより、運転席から第1スクリーン210にて視認される第1画像21aの虚像までの距離Lは、以下の数式1にて求められる。
【0049】
(数式1)
L=KWS(a+K)=1.5×(200+2×80)=660mm
一方、表示器20の画像光射出面から凹面鏡70までの光路長をL(=150mm)、凹面鏡70の拡大率をK(=5)、凹面鏡70からフロントウィンドシールドWSの内表面までの光路長をb(=250mm)、とする。これにより、運転席から第2スクリーン220にて視認される第2画像21bの虚像までの距離L’は、以下の数式2にて求められる。
【0050】
(数式2)
L’=KWS(b+K)=1.5×(250+5×150)=1500mm
以上のように、本実施形態では、画像表示器100の内部に配置される反射鏡30、第1〜第3平面鏡40〜60、凹面鏡70の各配置、そして第2平面鏡50の拡大率および凹面鏡70の拡大率に基づき、運転席から第1画像21a、第2画像21bの各虚像までの距離は、660mm、1500mmとなる。つまり、運転席から各画像21a、21bの各虚像までの距離L、L’には、約2.3倍の差が生じていることとなる。運転席から各虚像までのこの距離の差は、各スクリーン210、220に表示される第1画像21aおよび第2画像21bの各画像のサイズに2.5倍の差を与える効果をもたらすこととなる。
【0051】
本実施形態では、画像投影器100において、表示器20から第2平面鏡50または凹面鏡70までの光路長に差を設けると共に、凹面鏡70および第2平面鏡50の各拡大率に差を設けている。こうして、上記数式1および数式2にてそれぞれ得られる運転席から各画像21a、21bの各虚像までの距離L、L’に大きな差を生じさせている。これにより、ドライバの虚像に対する焦点距離を各画像21a、21bでそれぞれ異なるようにすることができる。
【0052】
したがって、本実施形態では、運転席から各画像21a、21bの各虚像までの距離がL<L’の関係を満たすことにより、フロントウィンドシールドWSの第1、第2スクリーン210、220に表示される第1画像21a、21bの各画像サイズを上述のように異なる大きさにしている。以上のようにして、運転席から各虚像までの各距離L、L’の差によって、第1、第2スクリーン210、220に表示される各画像21a、21bのサイズに差をつけることができるのである。
【0053】
このような各画像サイズの差は、画像投影器100内の各鏡40〜70の配置位置によっても生じさせている。すなわち、上述のように、光路長L1、L2がそれぞれ異なっている。この光路長L1、L2の差は、第1画像21aの画像光が第1平面鏡30から第2平面鏡40に導かれるまでの第1光路長をlとし、第2画像21bの画像光が第3平面鏡60から凹面鏡70に導かれるまでの第2光路長をlとすると、各光路長l、lがl<lの関係を満たしていることに基づいている。
【0054】
このようにして、画像投影器100内部において、第1画像21aの画像光と第2画像21bの画像光との各光路長l、lに差をつけることで、上記各光路長L1、L2を異なる長さにすると共に、各画像21a、21bの画像サイズに差を生じさせている。
【0055】
上記のような車両用ヘッドアップディスプレイにおいて、各画像21a、21bは以下のように第1、第2スクリーン210、220に表示される。まず、表示器20において、外部のECU等から液晶パネル21に画像信号が入力される。これにより、液晶パネル21にそれぞれ内容が異なる第1画像21aおよび第2画像21bがそれぞれ表示される。そして、表示器20内で光源から光が発せられるとその光が液晶パネル21に照射され、液晶パネル21に表示された各画像21a、21bの各画像光が表示器20からそれぞれ投射される。
【0056】
表示器20から投射された画像光、すなわち第1画像21aの画像光および第2画像21bの画像光は、反射鏡30の第1反射鏡31および第2反射鏡32にそれぞれ反射される。
【0057】
反射鏡30の第1反射鏡31にて反射した第1画像21aの画像光は、第1平面鏡40に導かれると共に、この第1平面鏡40にて反射されて第2平面鏡50に射出される。そして、第2平面鏡50にて反射された第1画像21aの画像光は、ハウジング10およびインストルメントパネル上部に設けられた開口部から射出され、フロントウィンドシールドWSの内表面上に結像される。
【0058】
具体的には、第2平面鏡50は液晶パネル21の第1画像21aを第1スクリーン210に虚像として形成し、この虚像をフロントウィンドシールドWSの内表面上に結像させている(図3参照)。これにより、ドライバはフロントウィンドシールドWSの第1スクリーン210に表示される第1画像21aを視認できるようになっている。
【0059】
一方、反射鏡30の第2反射鏡32にて反射した第2画像21bの画像光は、第3平面鏡60に導かれると共に、この第3平面鏡60にて反射されて凹面鏡70に射出される。そして、第1画像21bは凹面鏡70にて拡大反射されると共に、第2画像21bの画像光はハウジング10およびインストルメントパネル上部に設けられた開口部から射出され、フロントウィンドシールドWSの第2スクリーン220に結像される(図3参照)。これにより、ドライバはフロントウィンドシールドWSの第2スクリーン220に表示される第2画像21bを視認できる。
【0060】
以上のようにして、フロントウィンドシールドWSの第1、第2スクリーン210、220にそれぞれサイズの異なる画像を同時に表示している。
【0061】
以上、説明したように、本実施形態では、画像投影器100の表示部20において、第1画像21aおよび第2画像21bを作成すると共に、各画像21a、21bの各画像光をそれぞれ異なる経路でフロントウィンドシールドWSの第1スクリーン210および第2スクリーン220に導いている。これにより、各画像21a、21bを分離して各スクリーン210、220に同時に表示することができる。
【0062】
さらに、各画像21a、21bの各画像光が第1スクリーン210および第2スクリーン220に導かれるまでの光路長がそれぞれ異なる。これにより、ドライバの虚像に対する焦点距離を各画像21a、21bでそれぞれ異なるようにすることができるため、各スクリーン210、220に表示される各画像21a、21bの各画像サイズをそれぞれ異なるようにすることができる。
【0063】
また、表示器20に対向する位置に配置される反射鏡30において、第1反射鏡31、接続部33、第2反射鏡32をV字構造としている。これにより、表示器20から射出される第1画像21aおよび第2画像21bの各画像光をそれぞれ異なる方向に導くことができる。したがって、反射鏡30にてそれぞれ異なる方向に導いた各画像光の光路長を、それぞれ異なるように設定することができるようになる。また、各画像21a、21bの各画像光が干渉することも防止できる。
【0064】
そして、本実施形態では、各画像21a、21bの各画像光の各光路長や凹面鏡70および第2平面鏡50の各拡大率に基づき、運転席から第1画像21aの虚像までの距離Lおよび運転席から第2画像21bの虚像までの距離L’がL<L’の関係を満たすようにしている。これにより、上述のように、ドライバの虚像に対する焦点距離を各画像21a、21bで変えることができるので、フロントウィンドシールドWSに表示される第1画像21aおよび第2画像21bの各画像サイズに差を生じさせることができる。
【0065】
(他の実施形態)
上記第1実施形態で示される各構成要素やそれらの配置位置は、一例を示すものであって、これに限るものではない。同様に、第1実施形態で用いられる数値は一例を示すものであって、これに限るものではない。
【0066】
上記第1実施形態では、表示器20において、2つの異なる画像21a、21bを区分するため、各画像21a、21bの間に分割領域21cを設けているが、この分割領域21cを設けなくても構わない。このような場合、表示器20において画像光を射出する開口部に第1画像21aを射出する窓および第2画像21bを射出する窓をそれぞれ設ける。これにより、液晶パネル21の1フレーム内に2つの異なる画像21a、21bを表示しても、各画像21a、21bの画像光が表示器20から射出された後に干渉することを防止できる。なお、このように表示器20に2つの窓が設けられる場合、反射鏡30は、その接続部33が窓と窓との境界部位に対向するようにハウジング10内に設置される。
【0067】
第1実施形態では、反射鏡30において、第1反射鏡31と第2反射鏡32とを接続33を介して一体にしているが、この接続部33を用いずに、第1反射鏡31の一辺と第2反射鏡32の一辺とを直接接合しても構わない。
【0068】
上記第1実施形態では、表示器20から射出される第1画像21aは第2平面鏡50を介して第1スクリーン210に導かれるようになっているが、第2平面鏡50に替えて凹面鏡を採用しても構わない。これにより、第1スクリーン210に表示される第1画像21aの画像サイズを第1実施形態の場合よりも大きくすることができる。
【0069】
第1実施形態では、第1、第2スクリーン210、220はフロントウィンドシールドWSの下側に配置されているが、表示部200をフロントウィンドシールドWSの上側(天井側)に配置しても構わない。図4は、第1、第2スクリーン210、220をフロントウィンドシールドWSの上側(天井側)に配置した例を示した図である。この図に示されるように、第1、第2スクリーン210、220がドライバの視界を妨げないようにそれぞれフロントウィンドシールドWSの上側に配置されている。これは、画像表示器100において、第2平面鏡50および凹面鏡70の画像光反射角度を変更することにより実現できる。この画像光反射角度は、手動または自動のいずれかの方法で行うようにしても良い。
【0070】
また、フロントウィンドシールドWSの天井側に第1スクリーン210を設け、フロントウィンドシールドWSの地面側に第2スクリーン220を設けるようにしても良い。逆に、フロントウィンドとシールドWSの地面側に第1スクリーン210を設け、フロントウィンドシールドWSの天井側に第2スクリーン220を設けるようにしても良い。これは、第2平面鏡50および凹面鏡70の各画像光反射角度をそれぞれ所望の角度に調整することにより実施可能である。
【0071】
第1実施形態では、第1、第2スクリーン210、220にそれぞれ異なる画像を同時に表示しているが、第1、第2画像21a、21bにおいていずれか一方のみを表示させることもできる。このような場合、液晶パネル21において表示させない画像を黒表示させる。これは、例えばドライバが操作パネルを操作することにより一方の画像を表示させない指示を液晶パネル21に出力する。こうして、表示させたい一方の画像のみをフロントウィンドシールドWSに表示させることができる。
【0072】
さらに、第1実施形態では、液晶パネル21に第1、第2画像21a、21bをそれぞれ表示していた。すなわち、第1、第2画像21a、21bはそれぞれ1枚の画像であった。例えば、液晶パネル21において第1画像21aの画像表示領域内に複数の画像を表示することで、第1スクリーン210内に複数の画像を表示することが可能である。同様に、第2スクリーン220に複数の画像を表示することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用ヘッドアップディスプレイの構成斜視図である。
【図2】表示器に備えられる液晶パネルの画像表示面を示した図である。
【図3】運転席から車両前方側を見たときのフロントウィンドシールドの模式図である。
【図4】第1スクリーンおよび第2スクリーンをフロントウィンドシールドの天井側に設けた模式図である。
【符号の説明】
【0074】
100…画像投影器、10…ハウジング、20…表示器、21…液晶パネル、
21a…第1画像、21b…第2画像、30…反射鏡、
31、32…第1、第2反射鏡、33…接続部、40〜60…第1〜第3平面鏡、
70…凹面鏡、200…表示部、210…第1スクリーン、
220…第2スクリーン、WS…フロントウィンドシールド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画像の画像光を射出する表示器(20)と、前記表示器から射出される前記複数の画像の画像光の光路を形成する複数の鏡(30〜70)と、を備え、前記複数の鏡を介して射出される複数の画像光が車両のフロントウィンドシールド(WS)に設けられる表示部(200)に画像表示されてなる車両用ヘッドアップディスプレイにおいて、
前記表示器から射出される前記複数の画像の画像光は、前記複数の鏡を介してそれぞれ異なる光路を経て前記フロントウィンドシールドの前記表示部に導かれると共に、前記表示器と前記表示部との間の光路長が各画像光でそれぞれ異なっていることを特徴とする車両用ヘッドアップディスプレイ。
【請求項2】
画像の画像光を射出する画像投影器(100)と、車両のフロントウィンドシールド(WS)に設けられると共に、前記画像投影器から射出された画像の画像光を画像表示する表示部(200)と、を備えた車両用ヘッドアップディスプレイであって、
前記画像投影器は、
複数の画像を1フレーム内に作成すると共に、それら複数の画像の画像光をそれぞれ射出する表示器(20)と、
前記表示器から射出される前記複数の画像の画像光を前記フロントウィンドシールドの前記表示部にそれぞれ導く複数の鏡(30〜70)と、を有し、
前記表示部は、前記画像投影器から射出される前記複数の画像をそれぞれ表示する複数のスクリーン(210、220)を有しており、
前記表示器から射出された前記複数の画像の画像光は前記複数の鏡を介して異なる光路を経て前記複数のスクリーンにそれぞれ導かれると共に、前記表示器から射出された前記複数の画像の画像光が前記複数のスクリーンにそれぞれ導かれるまでの光路長が各画像光でそれぞれ異なっていることを特徴とする車両用ヘッドアップディスプレイ。
【請求項3】
インストルメントパネルの裏面側に配置されると共に、画像の画像光を投影する画像投影器(100)と、車両のフロントウィンドシールド(WS)に設けられると共に前記画像を画像表示する表示部(200)と、を備えた車両用ヘッドアップディスプレイであって、
前記画像投影器は、
第1画像(21a)および第2画像(21b)を1フレーム内に作成すると共に、それら2つの画像の画像光をそれぞれ射出する表示器(20)と、
前記表示器の画像光射出面に対向する位置に配置されると共に、前記第1画像の画像光が入射される第1反射鏡(31)および前記第2画像の画像光が入射される第2反射鏡(32)を備え、前記第1画像および前記第2画像の各画像光をそれぞれ異なる方向に射出する反射鏡(30)と、
前記第1反射鏡から導かれる前記第1画像の画像光を反射する第1の鏡(40)および前記第1の鏡から導かれる前記第1画像の画像光を前記フロントウィンドシールドに導く第2の鏡(50)と、
前記第2反射鏡から導かれる前記第2画像の画像光を反射する第3の鏡(60)および前記第3の鏡から導かれる前記第2画像の画像光を前記フロントウィンドシールドに導く第4の鏡(70)と、を備え、
前記表示部は、前記画像投影器から射出される前記第1画像および前記第2画像をそれぞれ画像表示する第1スクリーン(210)および第2スクリーン(220)を有しており、
前記第1画像および前記第2画像の各画像光が前記表示器からそれぞれ射出されると共に前記第1スクリーンおよび第2スクリーンにそれぞれ導かれるまでの光路長が前記第1画像および前記第2画像においてそれぞれ異なっていることを特徴とする車両用ヘッドアップディスプレイ。
【請求項4】
前記反射鏡は、接続部(33)を有しており、前記第1反射鏡の一辺が前記接続部の一辺に接続されており、前記接続部において前記第1反射鏡の一辺が接続された辺に対向する辺に前記第2反射鏡の一辺が接続された状態とされると共に、前記第1反射鏡および前記第2反射鏡と前記接続部とはそれぞれ鈍角に接続されたV字構造になっていることを特徴とする請求項3に記載の車両用ヘッドアップディスプレイ。
【請求項5】
前記第4の鏡は、前記第2の鏡よりも高い拡大率を有していることを特徴とする請求項3または4に記載の車両用ヘッドアップディスプレイ。
【請求項6】
前記第1画像の画像光が前記第1の鏡から前記第2の鏡に導かれるまでの第1光路長をlとし、前記第2画像の画像光が前記第3の鏡から前記第4の鏡に導かれるまでの第2光路長をlとすると、前記第1光路長lおよび前記第2光路長lはl<lの関係を満たしていることを特徴とする請求項3ないし5のいずれか1つに記載の車両用ヘッドアップディスプレイ。
【請求項7】
前記フロントウィンドシールドWSの拡大率をKWSとし、
前記表示器の画像光射出面から前記第2の鏡までの光路長をL、前記第2の鏡の拡大率をK、前記第2の鏡から前記フロントウィンドシールドの内表面までの光路長をaとすると共に、運転席から前記第1スクリーンにて視認される前記第1画像の虚像までの距離LをL=KWS(a+K)とし、
前記表示器の画像光射出面から前記第4の鏡までの光路長をL、前記第4の鏡の拡大率をK、前記第4の鏡から前記フロントウィンドシールドの内表面までの光路長をb、とすると共に、前記運転席から前記第2スクリーンにて視認される前記第2画像の虚像までの距離L’をL’=KWS(b+K)としたとき、
前記距離Lおよび前記距離L’は、L<L’の関係を満たしていることを特徴とする請求項3ないし6のいずれか1つに記載の車両用ヘッドアップディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−106254(P2006−106254A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−291269(P2004−291269)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】