説明

車両用ランキンサイクル装置

【課題】 ランキンサイクル装置を備えた車両において、アクセル開度の急増時に蒸発器から膨張機に供給される気相作動媒体の圧力の過剰な増加を抑制する。
【解決手段】 アクセル開度APが急激に増加したときに、蒸発器への給水量を増加させて膨張機に供給される蒸気の温度や圧力を目標温度や目標圧力に制御しようとしても、蒸気の温度や圧力が目標温度や目標圧力をオーバーシュートする懸念があるが、ドライブ・バイ・ワイヤ装置がスロットル開度を制御して排気ガスの熱エネルギーの立ち上がりを抑制することで、蒸気の温度や圧力が目標温度や目標圧力をオーバーシュートするのを抑制し、膨張機の効率低下や耐久性の低下を防止することができる。スロットル開度の抑制によるエンジンの出力の不足分は、ランキンサイクル装置により駆動されるモータ・ジェネレータの出力により補償される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライブ・バイ・ワイヤ装置によりスロットル開度を制御されるエンジンの排気ガスで作動する車両用ランキンサイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アクセルペダルとスロットルバルブとをドライブ・バイ・ワイヤ装置により電気的に接続し、ドライバーが指示するアクセル開度の増加時にはスロットル開度をアクセル開度に比例する値よりも補正量だけ増加させることで、ランキンサイクル装置の応答遅れによる出力の不足感を補償するとともに、ドライバーが指示するアクセル開度の減少時にはスロットル開度をアクセル開度に比例する値よりも補正量だけ減少させることで、ランキンサイクル装置の応答遅れによる出力の過剰感を補償するものが、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特開2002−115574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図9に示すように、ランキンサイクル装置の蒸発器の効率および膨張機の効率は蒸気温度によって変化し、蒸気温度が増加すると蒸発器の効率が減少して膨張機の効率が増加し、逆に蒸気温度が減少すると蒸発器の効率が増加して膨張機の効率が減少することから、両者の効率を合わせた総合効率が最大になる最適蒸気温度が存在する。従って、蒸発器から膨張機に供給される蒸気の温度を前記最適蒸気温度(目標蒸気温度)に制御することが望ましい。
【0004】
図10に示すように、アイドリング状態からの急加速時や、コールド状態からの急発進時等にアクセルペダルを踏み込んでアクセル開度をステップ状に増加させると、エンジン回転数が増加して排気ガスのエネルギーもステップ状に増加する。排気ガスのエネルギーが増加すると蒸発器で発生する蒸気の温度が目標蒸気温度を超えて上昇するが(a部分参照)、蒸発器のヒートマスが存在するために蒸気温度の上昇はアクセル開度の増加に対して時間遅れを持つ。このようにして蒸気温度が上昇すると、蒸気温度の上昇を抑えるべく蒸発器に対する給水量が増加するようにフィードバック制御が行われる(b部分参照)。給水量の増加により蒸発器から膨張機への蒸気供給量が増加して蒸気圧力が増加するため、蒸気圧力を低下させるべく膨張機の回転数が増加するようにフィードバック制御が行われる。しかしながら蒸気圧力の増加が急激であると、膨張機の回転数が最大回転数に達してしまって蒸気圧力を充分に低下させることができず(c部分参照)、蒸気圧力が上限圧力を超えてオーバーシュートしてしまい(d部分参照)、膨張機の運転効率が低下したり耐久性に悪影響が及ぶ可能性がある。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、ランキンサイクル装置を備えた車両において、アクセル開度の急増時に蒸発器から膨張機に供給される気相作動媒体の圧力および/または温度の過剰な増加を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、エンジンの排気ガスの熱エネルギーで液相作動媒体を加熱して気相作動媒体を発生させる蒸発器と、蒸発器で発生した気相作動媒体の熱エネルギーを機械エネルギーに変換する容積型の膨張機と、蒸発器への液相作動媒体の供給量を変化させることで膨張機に供給される気相作動媒体の温度および/または圧力を目標温度および/または目標圧力に制御する気相作動媒体制御手段と、ドライバーが指示するアクセル開度を補正してエンジンのスロットル開度を制御するスロットル開度制御手段とを備え、前記スロットル開度制御手段は、スロットル開度を制御して排気ガスの熱エネルギーの立ち上がりを抑制することで、気相作動媒体の温度および/または圧力が目標温度および/または目標圧力に対してオーバーシュートするのを抑制することを特徴とする車両用ランキンサイクル装置が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記スロットル開度制御手段は、気相作動媒体の温度および/または圧力が目標温度および/または目標圧力に対してアンダーシュートするのを抑制することを特徴とする車両用ランキンサイクル装置が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、エンジンの出力を補助して駆動輪を駆動する補助駆動源を備え、ドライバーが指示したアクセル開度に対応する駆動力に対して、前記スロットル開度制御手段によりスロットル開度を制御されたエンジンの出力の不足分を、前記補助駆動源を駆動して補償することを特徴とする車両用ランキンサイクル装置が提案される。
【0009】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項3の構成に加えて、前記補助駆動源がランキンサイクル装置の膨張機であることを特徴とする車両用ランキンサイクル装置が提案される。
【0010】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項3の構成に加えて、ランキンサイクル装置の膨張機の出力で発電した電力で前記補助駆動源を駆動することを特徴とする車両用ランキンサイクル装置が提案される。
【0011】
尚、実施例の前輪Wfおよび後輪Wrは本発明の駆動輪に対応し、実施例の膨張機12および第2モータ・ジェネレータMG23は本発明の補助駆動源に対応し、実施例のドライブ・バイ・ワイヤ装置25は本発明のスロットル開度制御手段に対応する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、アイドリング状態からの急加速時や、コールド状態からの急発進時等にアクセル開度が急激に増加すると、気相作動媒体制御手段が蒸発器への液相作動媒体の供給量を増加させることで膨張機に供給される気相作動媒体の温度や圧力を目標温度や目標圧力に制御しようとしても、気相作動媒体の温度や圧力を目標温度や目標圧力に対してオーバーシュートする懸念があるが、スロットル開度制御手段がスロットル開度を制御して排気ガスの熱エネルギーの立ち上がりを抑制することで、気相作動媒体の温度や圧力が目標温度や目標圧力に対してオーバーシュートするのを抑制し、膨張機の効率低下や耐久性の低下を防止することができる。
【0013】
請求項2の構成によれば、スロットル開度制御手段が気相作動媒体の温度や圧力が目標温度や目標圧力に対してアンダーシュートするのを抑制するので、膨張機を最高効率で作動させる目標温度や目標圧力を保持して膨張機の効率低下を最小限に抑えることができる。
【0014】
請求項3の構成によれば、ドライバーが指示したアクセル開度に対応する駆動力に対してスロットル開度制御手段によりスロットル開度を制御されたエンジンの出力が不足しても、エンジンの出力を補助して駆動輪を駆動する補助駆動源が前記出力の不足分を補償するので、ドライバーが指示したアクセル開度に応じた出力で駆動輪を駆動してドライバーの違和感を解消することができる。
【0015】
請求項4の構成によれば、ランキンサイクル装置の膨張機を補助駆動源として利用するので、特別の補助駆動源が不要になる。
【0016】
請求項5の構成によれば、ランキンサイクル装置の膨張機の出力で発電した電力で補助駆動源を駆動するので、膨張機が作動する時期と無関係の任意の時期に補助駆動源を駆動することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0018】
図1〜図7は本発明の第1実施例を示すもので、図1はランキンサイクル装置の全体構成を示す図、図2はランキンサイクル装置の制御系のハードウエア構成(L/O)図、図3はランキンコントローラの制御ブロックを示す図、図4はドライブ・バイ・ワイヤ装置の作用を説明するグラフ、図5はドライブ・バイ・ワイヤ装置の作用を説明するフローチャート、図6はランキンサイクル装置の作用を説明するタイムチャート、図7は排気ガスエネルギーと排気ガス変化量制限値との関係を示すグラフである。
【0019】
図1には本発明が適用されるランキンサイクル装置Rの全体構成が示される。エンジンEの排気ガスの熱エネルギーを回収して機械エネルギーに変換するランキンサイクル装置Rは、エンジンEが排出する排気ガスで水を加熱して高温・高圧蒸気を発生させる蒸発器11と、蒸発器11で発生した高温・高圧蒸気により作動して機械エネルギーを発生する膨張機12と、膨張機12で仕事を終えた降温・降圧蒸気を冷却して水に戻す凝縮器13と、凝縮器13から排出された水を加圧して再度蒸発器11に供給する給水ポンプ14とを備える。
【0020】
図2に示すように、エンジンEにトランスミッション21を介して前輪Wfが接続され、膨張機12に第1モータ・ジェネレータ22が接続され、第2モータ・ジェネレータ23に後輪Wrが接続され、第1、第2モータ・ジェネレータ22,23にバッテリ24が接続される。ランキンサイクル装置Rを制御するランキンコントローラCrには、エンジンEを制御するエンジンコントローラCeからエンジン回転数、燃料噴射量、空燃比等が入力されるとともに、ドライバーにより操作されるアクセルペダル開度と、エンジンEの排気ガス温度と、蒸発器11から膨張機12に供給される高温・高圧蒸気の温度および圧力とが入力される。ランキンコントローラCrは、それらの信号に基づいてエンジンEのスロットル開度を制御するドライブ・バイ・ワイヤ装置25と、蒸発器11に給水する給水ポンプ14を駆動するポンプ駆動モータ26と、第1モータ・ジェネレータ22と、第2モータ・ジェネレータ23との作動を制御する。
【0021】
図3にはランキンコントローラCrの回路構成が示される。フィードフォワード給水量演算手段M1は、エンジン回転数NE、燃料噴射量Ti、空燃比A/Fおよび排気ガス温度に基づいて、蒸発器11に対するフィードフォワード給水量を演算する。蒸発器11から膨張機12に供給される高温・高圧蒸気の目標蒸気温度と実蒸気温度との偏差はフィードバック給水量演算手段M2に入力され、そこで前記偏差に所定のゲインを乗算することで蒸発器11に対するフィードバック給水量を演算する。フィードフォワード給水量演算手段M1で演算したフィードフォワード給水量と、フィードバック給水量演算手段M2で演算したフィードバック給水量との偏差はポンプ回転数演算手段M3に入力され、そこで蒸発器11から膨張機12に供給される高温・高圧蒸気の実蒸気圧力を用いて給水ポンプ14の回転数指令値が演算され、その回転数指令値が給水ポンプ14に出力される。
【0022】
フィードフォワード回転数演算手段M4は、フィードフォワード給水量およびフィードバック給水量の偏差と、蒸発器11から膨張機12に供給される高温・高圧蒸気の実蒸気温度とに基づいて、膨張機12のフィードフォワード回転数を演算する。蒸発器11から膨張機12に供給される高温・高圧蒸気の目標蒸気圧力と実蒸気圧力との偏差はフィードバック回転数演算手段M5に入力され、そこで前記偏差に所定のゲインを乗算することで膨張機12のフィードバック回転数を演算する。フィードフォワード回転数演算手段M4で演算したフィードフォワード回転数と、フィードバック回転数演算手段M5で演算したフィードバック回転数との偏差は、膨張機12の回転数指令値として出力される。
【0023】
前記フィードフォワード給水量演算手段M1、フィードバック給水量演算手段M2、ポンプ回転数演算手段M3、フィードフォワード回転数演算手段M4およびフィードバック回転数演算手段M5は、併せて気相作動媒体制御手段M0を構成する。
【0024】
変化量リミット演算手段M6は、ドライブ・バイ・ワイヤ装置25によるエンジンEのスロットル開度変化率を制御すべく、ドライブ・バイ・ワイヤ開度指令値を出力する。
【0025】
即ち、ドライバーがアクセルペダルを急激に踏み込んでアクセル開度がステップ状に増加したとき、図4(a)に実線で示すように、アクセル開度の増加にそのまま対応させてスロットル開度を増加させると、エンジンEの負荷の増加に応じて排気ガスのエネルギーも図4(b)に実線で示すようにステップ状に増加する。このとき、蒸発器11に対する給水量を増加させても、蒸発器11から出る高温・高圧蒸気の温度は図4(c)に実線で示すように上限値をオーバーシュートしてしまい、膨張機12の効率や耐久性が低下する可能性がある。
【0026】
逆に、ドライブ・バイ・ワイヤ装置25によりアクセル開度の増加率に対するスロットル開度の増加率を図4(a)に鎖線に示すように過剰に減少させると、排気ガスのエネルギーの増加率も図4(b)に鎖線で示すように過剰に減少する。その結果、蒸発器11から出る高温・高圧蒸気の温度は図4(c)に鎖線で示すように一度も目標温度(ランキンサイクル装置Rの効率が最大になる蒸気温度)を超えることがなくなり、膨張機12の運転効率が低下し、かつ目標温度に達するまでに時間がかかって最高効率運転への応答遅れが生じてしまい、膨張機12が充分な出力を発生できなくなる。また図4(C)に実線で示すように、オーバーシュートの後に、フィードバック制御による過剰な給水制御が行われることで、蒸気温度が下限値を下回ってアンダーシュートしてしまう可能性がある。
【0027】
それに対して、ドライブ・バイ・ワイヤ装置25によりアクセル開度の増加率に対するスロットル開度の増加率を図4(a)に破線に示すように適度に減少させると、排気ガスのエネルギーの増加率も図4(b)に破線で示すように適度に減少する。その結果、蒸発器11から出る高温・高圧蒸気の温度は図4(c)に破線で示すように一度目標温度を超えた後に上限値に達する前に減少に転じ、下限値を12を下回ることなく最速で目標温度に収束する。
【0028】
図4(a)に鎖線で示すドライブ・バイ・ワイヤ開度指令値は、変化量リミット演算手段M6において次のようにして演算される。
【0029】
図5のフローチャートのステップS1でアクセル開度APを検出し、ステップS2でエンジン回転数NEを検出し、ステップS3でアクセル開度APおよびエンジン回転数NEからマップ検索することにより排気ガスのエネルギーEgasを算出する。続くステップS4で排気ガスのエネルギーEgasの推定遅れを補正した後に、ステップS5で排気ガスのエネルギーの時間変化率dEgas/dtを排気ガス変化量制限値LGと比較し、
dEgas/dt>LG
が成立すれば、ステップS6でスロットル開度THを、サンプリング時間tを用いて、
TH+LTH*t
で更新する。ここで、LGは、図4(b)の破線の傾きであり、dEgas/dt>LGが成立するということは、排気ガスのエネルギーの時間変化率dEgas/dtが最適の変化率を超えていることに相当する。またLTHは、図4(a)の破線の傾きであり、スロットル開度THをTH+LTH*tで更新するということは、ドライブ・バイ・ワイヤ装置25によりスロットル開度を図4(a)の破線の傾きで増加させることに相当する。
【0030】
前記ステップS5の答えがNOのときに、ステップS7でアクセル開度APがスロットル開度の前回値TH0以下でなければ、つまりアクセル開度APが増加していれば、前記ステップS6でスロットル開度THを更新する。また前記ステップS7でアクセル開度APがスロットル開度の前回値TH0以下であれば、つまりアクセル開度が減少していれば、ステップS8でアクセル開度APをそのままスロットル開度THとする。
【0031】
そしてステップS9でスロットル開度THを前回値TH0に置き換えた後、ステップS10でスロットル開度THをドライブ・バイ・ワイヤ開度指令値とする。
【0032】
このように、エンジンEをアイドリング状態からの急加速したときや、コールド状態からの急発進したときにアクセル開度APが急激に増加すると、蒸発器11への給水量を増加させて膨張機12に供給される高温・高圧蒸気の温度や圧力を目標温度や目標圧力に制御しようとしても、高温・高圧蒸気の温度や圧力が目標温度や目標圧力をオーバーシュートする懸念がある。しかしながら本実施例では、アクセルペダルを踏み込んだときに、ドライブ・バイ・ワイヤ装置25でスロットル開度THが急増しないようにして排気ガスの熱エネルギーの立ち上がりを抑制することで、高温・高圧蒸気の温度や圧力が目標温度や目標圧力をオーバーシュートしないようにし、膨張機12の効率低下や耐久性の低下を防止することができる。しかもスロットル開度THを適切な増加率で増加させることにより、前記高温・高圧蒸気の温度や圧力が目標温度や目標圧力に対してオーバーシュートしないようにし、膨張機12の出力の低下を最小限に抑えることができる。
【0033】
図3に戻り、エンジン相当出力演算手段M7は、生のアクセル開度とエンジン回転数とからドライバーが要求しているエンジン出力を演算し、エンジン出力演算手段M8は、ドライブ・バイ・ワイヤ装置25で制御された実際のスロットル開度とエンジン回転数とから実際のエンジン出力を演算する。これら二つのエンジン出力の差分は、ドライブ・バイ・ワイヤ装置25でスロットル開度を抑制したことによるエンジン出力の不足分に相当するため、このエンジン出力の不足分を第2モータ・ジェネレータ23の出力指令値として出力する。その結果、第2モータ・ジェネレータ23が後輪Wrを駆動してエンジンEによる前輪Wfの駆動をアシストし、エンジンEおよび第2モータ・ジェネレータ23のトータルの出力をドライバーが要求している出力(つまりアクセル開度)に一致させてドライバーの違和感を解消することができる。
【0034】
第2モータ・ジェネレータ23を駆動するエネルギーは、ランキンサイクル装置Rの膨張機12により駆動される第1モータ・ジェネレータ22が発電した電力をバッテリ24に蓄えたものが用いられる。このように、膨張機12が出力する機械エネルギーを第1モータ・ジェネレータ22で電気エネルギーに変換してバッテリ24に蓄えることにより、第2モータ・ジェネレータ23を任意の時期に駆動することができる。
【0035】
尚、排気ガス変化量制限値LTHは一定値であっても良いが、排気ガスエネルギーEgasが大きいときほど蒸気圧力がオーバーシュートし易くなるため、図7に示すように、排気ガスエネルギーEgasが増加するにつれて排気ガス変化量制限値LTHを減少させても良い。
【0036】
上記作用を、図6のタイムチャートに基づいて纏めると、以下のようになる。
【0037】
アイドリング状態からの急加速時や、コールド状態からの急発進時等にドライバーがアクセルペダルを踏み込んでアクセル開度がステップ状に増加しても、ドライブ・バイ・ワイヤ開度指令値をゆっくりと増加させることで(e部分参照)、排気ガスのエネルギーはゆっくりと増加する(f部分参照)。この排気ガスのエネルギーの増加に伴って蒸発器11で発生する高温・高圧蒸気の温度が上昇するが、その温度上昇は従来のもの(図10参照)に比べて小さくなる(g部分参照)。蒸気温度が上昇すると蒸発器11に対する給水量が増加するようにフィードバック制御が行われるが、給水量の増加量が小さく抑えられるため(h部分参照)、蒸気圧力の増加も小さくなる(j部分参照)。その結果、蒸気圧力を低下させるための膨張機12の回転数の増加量も小さくて済み(i部分参照)、膨張機12の回転数が最大回転数に達することはない。しかして、蒸気圧力が上限圧力を超えてオーバーシュートするのが防止されることで、膨張機12の運転効率が低下したり耐久性に悪影響が及ぶのを未然に防止することができる。
【0038】
そしてドライブ・バイ・ワイヤ装置25でスロットル開度を抑制したことによるエンジン出力の不足分を補うべく第2モータ・ジェネレータ23を駆動し(k部分参照)、エンジンEおよび第2モータ・ジェネレータ23のトータルの出力をドライバーが要求している出力に一致させることで、ドライバーの違和感を解消することができる。
【0039】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0040】
例えば、第1実施例では第2モータ・ジェネレータ23で後輪Wrを駆動しているが、図8に示す第2実施例のように、第2モータ・ジェネレータ23をエンジンEおよびトランスミッション21の間に挟んで前輪Wfを駆動しても良い。
【0041】
また実施例ではドライブ・バイ・ワイヤ装置25でスロットル開度を抑制したことによるエンジン出力の不足分を、第2モータ・ジェネレータ23の出力で補助しているが、エンジン出力の不足分をランキンサイクル装置Rの膨張機12の機械的な出力で直接補助しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ランキンサイクル装置の全体構成を示す図
【図2】ランキンサイクル装置の制御系のハードウエア構成(L/O)図
【図3】ランキンコントローラの制御ブロックを示す図
【図4】ドライブ・バイ・ワイヤ装置の作用を説明するグラフ
【図5】ドライブ・バイ・ワイヤ装置の作用を説明するフローチャート
【図6】ランキンサイクル装置の作用を説明するタイムチャート
【図7】排気ガスエネルギーと排気ガス変化量制限値との関係を示すグラフ
【図8】第2モータ・ジェネレータの他の使用形態を示す図
【図9】最適蒸気温度と蒸発器および膨張機の最高総合効率との関係を示すグラフ
【図10】従来のランキンサイクル装置の作用を説明するタイムチャート
【符号の説明】
【0043】
AP アクセル開度
E エンジン
M0 気相作動媒体制御手段
R ランキンサイクル装置
TH スロットル開度
Wf 前輪(駆動輪)
Wr 後輪(駆動輪)
11 蒸発器
12 膨張機(補助駆動源)
23 第2モータ・ジェネレータ(補助駆動源)
25 ドライブ・バイ・ワイヤ装置(スロットル開度制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(E)の排気ガスの熱エネルギーで液相作動媒体を加熱して気相作動媒体を発生させる蒸発器(11)と、
蒸発器(11)で発生した気相作動媒体の熱エネルギーを機械エネルギーに変換する容積型の膨張機(12)と、
蒸発器(11)への液相作動媒体の供給量を変化させることで膨張機(12)に供給される気相作動媒体の温度および/または圧力を目標温度および/または目標圧力に制御する気相作動媒体制御手段(M0)と、
ドライバーが指示するアクセル開度(AP)を補正してエンジン(E)のスロットル開度(TH)を制御するスロットル開度制御手段(25)とを備え、
前記スロットル開度制御手段(25)は、スロットル開度(TH)を制御して排気ガスの熱エネルギーの立ち上がりを抑制することで、気相作動媒体の温度および/または圧力が目標温度および/または目標圧力に対してオーバーシュートするのを抑制することを特徴とする車両用ランキンサイクル装置。
【請求項2】
前記スロットル開度制御手段(25)は、気相作動媒体の温度および/または圧力が目標温度および/または目標圧力に対してアンダーシュートするのを抑制することを特徴とする、請求項1に記載の車両用ランキンサイクル装置。
【請求項3】
エンジン(E)の出力を補助して駆動輪(Wf,Wr)を駆動する補助駆動源(12,23)を備え、ドライバーが指示したアクセル開度(AP)に対応する駆動力に対して、前記スロットル開度制御手段(25)によりスロットル開度(TH)を制御されたエンジン(E)の出力の不足分を、前記補助駆動源(12,23)を駆動して補償することを特徴とする、請求項1に記載の車両用ランキンサイクル装置。
【請求項4】
前記補助駆動源がランキンサイクル装置(R)の膨張機(12)であることを特徴とする、請求項2に記載の車両用ランキンサイクル装置。
【請求項5】
ランキンサイクル装置(R)の膨張機(12)の出力で発電した電力で前記補助駆動源(23)を駆動することを特徴とする、請求項3に記載の車両用ランキンサイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−200492(P2006−200492A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14994(P2005−14994)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】