説明

車両用乗員保護装置

【課題】衝突条件に応じて、最適な乗員拘束による乗員保護を可能とした車両用乗員保護装置を提供する。
【解決手段】衝突形態判断手段55により衝突形態を判断し、車体潰れ量推定手段56により衝突形態に応じて複数の荷重−潰れ量特性の中から1つを選択して最終的な車体潰れ量を推定し、車体潰れ量演算手段59により衝突以降の自車両の車速の累積に基づき現時点の車体潰れ量を演算し、エネルギ演算手段により乗員の重量並びに該乗員の衝突時の移動速度に基づき衝突時に乗員が持つ運動エネルギを演算し、拘束力演算手段60により衝突時の乗員が持つ運動エネルギ、最終的な車体潰れ量、現時点の車体潰れ量並びに乗員と車室内インテリアとの距離に基づき乗員拘束力を演算し、制御手段62により拘束力演算手段60によって演算された乗員拘束力に応じて、各種乗員拘束手段の作動を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車等の車両に搭載されて衝突時に各種乗員拘束手段の作動を制御して乗員を保護する車両用乗員保護装置に係り、特に、衝突条件に応じて、最適な乗員拘束による乗員保護を可能とした車両用乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用乗員保護装置としては、特開2005−329878号公報に開示されているものがある。この車両用乗員保護装置は、車両の座席に作用する加速度を検知する加速度センサを備え、移動量算出手段により、車両の衝突時に、加速度センサが検知した加速度の値を二回積分することにより、座席に着座する乗員が移動する移動量を算出し、乗員距離導出手段により、通常時の乗員とエアバッグとの間の距離として予め設定された所定の初期距離と移動量算出手段によって算出された移動量とから、乗員とエアバッグとの間の移動後の乗員距離を導出し、エアバッグ展開制御手段により、乗員距離導出手段によって導出された乗員距離に基づきエアバッグの展開を制御して、車両の衝突時に車両の乗員を保護するものである。
【特許文献1】特開2005−329878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された技術においては、衝突時の車両移動量、即ち車体潰れ量を考慮せずに、乗員移動量を加速度センサの検出値を二回積分することにより算出しているため、衝突方向、衝突部位、オフセット率、衝突速度または乗員体格などの衝突条件によっては、乗員拘束手段(特許文献1ではエアバッグ)の作動制御の判断が遅れ、最適な乗員拘束による乗員保護ができていない可能性があった。
【0004】
本発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたものであって、衝突方向、衝突部位、オフセット率、衝突速度または乗員体格などの衝突条件に応じて、より適切な乗員拘束による乗員保護を可能とした車両用乗員保護装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を解決するため、本発明は、衝突時の衝突部位、衝突方向および衝突規模に応じて衝突形態を判断し、衝突形態に応じて予め設定された複数の荷重−潰れ量特性の中から1つを選択し、該衝突による最終的な車体潰れ量を推定し、衝突以降の自車両の車速の累積に基づき現時点の車体潰れ量を演算し、乗員の重量、並びに該乗員の衝突時の移動速度に基づき、衝突時に乗員が持つ運動エネルギを演算し、前記衝突時の乗員が持つ運動エネルギ、最終的な車体潰れ量、現時点の車体潰れ量、並びに、乗員と車室内インテリアとの距離に基づき乗員拘束力を演算し、乗員拘束力に応じて、各種乗員拘束手段の作動を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る車両用乗員保護装置では、衝突方向、衝突部位、オフセット率、衝突速度または乗員体格などの衝突条件に応じて、より適切な乗員拘束による乗員保護が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の車両用乗員保護装置の実施例について、〔実施例1〕、〔実施例2〕の順に図面を参照して詳細に説明する。
【0008】
〔実施例1〕
図1は本発明の実施例1に係る車両用乗員保護装置の構成図であり、また、図2は本実施例の車両用乗員保護装置の具体的な概略構成を例示する概略構成図である。
【0009】
図2に示すように、本実施例の車両用乗員保護装置では、各種乗員拘束手段として、シートベルト12、エアバッグ22、ニーボルスター(膝下エアバッグを含む)29およびアクティブシートクッション30を備えている。衝突時には、各種センサ群(第1センサ群35、第2センサ群36および第3センサ群37)からの各種検出信号に基づいて、コントロールユニット(ECU)40により、これら各種乗員拘束手段の作動を制御して乗員を保護する。
【0010】
また、図3には、より具体的な各種センサ群の構成と各種乗員拘束手段および該乗員拘束手段における制御機構の構成を例示している。
【0011】
各種センサ群として、衝突部位検出センサ41、衝突方向検出センサ42、衝突規模検出センサ43、車速センサ44、Gセンサ45、シートポジションセンサ46、ウエイトセンサ47、障害物検出センサ48、車両挙動検出センサ49および乗員位置検出センサ50を備えている。
【0012】
また、各種乗員拘束手段としては、シートベルトモジュール10、エアベルト18、エアバッグモジュール20、ニーボルスター・膝下エアバッグ29およびアクティブシートクッション30を備えている。
【0013】
シートベルトモジュール10は、乗員の胸部付近を斜め状態で拘束するショルダーベルトと、腹部付近を拘束するラップベルトとを各々タングに取り付けてシートベルト12は形成され、該シートベルト12の両端部の少なくとも何れか一方側が車体またはシートに取り付けられているシートベルト巻き取り装置13によって巻き取られるようになっており、タングを車体またはシートに設けられているバックルに係合してシートに乗員を拘束するようになっている。
【0014】
シートベルト巻き取り装置13には、シートベルト張力調整機構11が取り付けられ、またベルト特性検知手段として、シートベルトのエネルギ吸収量、即ちシートベルトの引き出し量を検出するベルト引き出し量検知装置と、ベルト張力を検出するベルト張力検知装置とが設けられている。
【0015】
ここで、ベルト引き出し量検知装置としては、公知のロータリエンコーダがシートベルト巻き取り装置13内のリールシャフトに組み込まれている。またリトラクタスプールの回転数をフォトインタラプタで検知し、カウンタを加減する装置を用いることもできる。また、ベルト張力検知装置としては、リトラクタ内のロードリミッタ機構として設けられているトーションバーの両端の角度差を検知する装置を用いることができる。
【0016】
また、ベルト張力調整機構11としては、流体を用いた機構で回転抵抗を変化させることでシートベルトの張力を調整するものや、リトラクタスプールに取り付けられた刃による回転切削抵抗を利用するものなど(例えばUS Patent No.6,655,743)がある。なお図3では、ロードリミッタ14、ショルダーベルトプリテンショナ15およびラップベルトプリテンショナ16を備えた構成を例示している。ここで、ロードリミッタ14は、車両前面衝突時などにシートベルトを装着した乗員が慣性力により前方移動しながらベルトを引っ張り、ベルト張力が上昇してある値に達したところで、例えばリトラクタのシャフトの回転を許容させてベルトを繰り出すことにより、ベルト張力がその値以上に上昇することを防ぐ装置である。また、プリテンショナ15,16は、車両前面衝突時などにシートベルトを装着した乗員が慣性力により前方移動を開始する前に、リトラクタのシャフトを回転させてベルトを巻き取ることにより、ベルトのたるみを除去する装置である。
【0017】
次に、エアバッグモジュール20では、ステアリングホイールのセンターパッド内にエアバッグ22が格納されており、車両の衝突時にこのエアバッグ22を膨張展開させて乗員を保護する。このエアバッグモジュール20には、エアバッグ特性検知手段としてエアバッグ22の内圧を検出する内圧検知装置が備えられており、またエアバッグ特性制御装置21として、インフレータ出力を可変とするインフレータ出力可変手段25と、エアバッグ22の排気量を調整する機構が設けられている。
【0018】
ここで、インフレータ出力可変手段25としては、出力口のバルブによりインフレータ出力を可変とする構造が知られているが、例えばUS Patent No.6,871,871またはUS Patent No.6,889,613にあるようなものが利用可能である。
【0019】
また、エアバッグ22の排気量を調整する機構としては、例えば特許第3566080号にあるように、エアバッグモジュール20内のリテーナに形成されたベントホールと、アクチュエータにより作動してベントホールを開閉する制御弁により排気量を調整する機構が利用可能であるが、図3では、エアバッグのベントホール径を調整するベントホール径可変手段23、エアバッグの容量を可変とするバッグ容量可変手段24とを備えた構成を例示している。なお、ベントホール径可変手段23としては、例えば、ベントホールに穴の開いたディスクを2枚重ね、該ディスクを相対的に回転させることで穴径を変更するものや、ベントホールに取り付けられた薄膜による破断を利用するものなどがある。
【0020】
次に、エアベルト18は、衝突時の衝撃力による胸部負荷等の低減を目的とするもので、シートベルトのショルダーベルトを膨張ベルトとし、該ショルダーベルトを膨張させるインフレータと、エアバッグモジュール20と同様に、インフレータ出力を可変とするインフレータ出力可変手段と、排気量を調整する機構が設けられている。
【0021】
次に、ニーボルスター・膝下エアバッグ29は、衝突時にニーボルスターを乗員側へ突出させると共に、膝下エアバッグを膨張展開させて乗員の膝部を支持し、前方への移動を抑制するものである。このニーボルスター・膝下エアバッグ29には、衝突時にニーボルスターを突出させるニーボルスターアクチュエータと、エアバッグモジュール20と同様に、インフレータ、インフレータ出力を可変とするインフレータ出力可変手段、並びに、排気量を調整する機構が設けられている。
【0022】
さらに、アクティブシートクッション30は、衝突時にサブマリン現象(前方からの強い衝撃に対して、乗員の体がシートの座面に押さえつけられるようにして沈みこんでしまう現象)を防ぐことを目的とするもので、衝突時にシートを後方に移動させると共に、シートクッション前部を持ち上げるものである。アクティブシートクッション30には、シートを後方に移動させるシート後退装置31と、シートクッション前部を持ち上げるシート前方座面上昇装置32が設けられている。
【0023】
次に、図1を参照して、コントロールユニット(ECU)40の具体的な構成と、該コントロールユニット(ECU)40と各種センサ群および各種乗員拘束手段との関わりについて説明する。
【0024】
まず各種センサ群について具体的に説明する。まず衝突部位検出手段(衝突部位検出センサ)41は衝突が発生した自車両の部位を検出する。例えば、車両の左右サイドメンバーの先端等に荷重センサを、車両の構造部材(エンジンコンパートメント部の骨格部材等)のそれぞれに圧力センサ等を設置して、これらの検出信号に基づき衝突の部位を検出する。また、衝突方向検出手段(衝突方向検出センサ)42は自車両の前後方向に対する衝突の方向を検出する。例えば、車両のフロントバンパ等に圧力センサ等を複数設置してそれらの検出信号に基づき衝突の方向を検出する手法や、光、電磁波または超音波等を用いた前方監視レーダ(障害物検出センサ48)により検出する手法が考えられる。
【0025】
また、衝突規模検出手段(衝突規模検出センサ)43は衝突の規模を検出する。ここでいう衝突規模は衝突エネルギの大きさに該当し、Gセンサ45による減速度の立ち上がりに基づき判断する手法や、前方監視レーダにより当該車両と衝突対象物との相対速度を検出し、該相対速度と当該車両および衝突対象物の大きさとから衝突エネルギを算出する手法などが考えられる。
【0026】
また、車速検出手段(車速センサ)44は自車両の車速を検出する。また、乗員重量検出手段(ウエイトセンサ)47はシートに設置され(図2の第3センサ群37)、乗員の重量を検出する。例えば、シートの着座部の圧力を直接検出する構成や、或いは、懸架装置部に荷重センサを設置して検出する構成が考えられる。また、乗員移動速度検出手段50は衝突時の乗員の移動速度を検出する。例えば、車室内に設置される(図2の第2センサ群36)CCDカメラ(乗員位置検出センサ50)により乗員の挙動を映した画像を処理することにより乗員の移動速度を検出する手法などが考えられる。なお、CCDカメラの他にも赤外線カメラや、超音波或いは電磁波を利用したセンサなどを用いることもできる。
【0027】
また、圧力センサ51は、例えば車両の各構造部材のそれぞれに設置されて衝突時の該構造部材間の接触を検知するもので、衝突時のロードパス(荷重の伝達経路)を判断することに用いられる。また、角加速度検出手段52(車両挙動検出センサ49)は自車両の車体角加速度を検出する。具体的に、角加速度検出手段52(車両挙動検出センサ49)としては、操舵角センサ、ピッチセンサまたはヨーレートセンサを想定しており、それぞれステアリングの操舵角、車両のピッチング角速度または車両のヨー角速度を検知して、自車両の車体角加速度を求める。
【0028】
次に、コントロールユニット(ECU)40の具体的な構成について説明する。コントロールユニット(ECU)40は、具体的にはCPU、MPU(マイクロプロセッサ)またはDSP(ディジタル信号処理プロセッサ)等のプロセッサおよびRAM,ROM等のメモリ(記憶手段57)によって実現される。
【0029】
コントロールユニット(ECU)40は、衝突時の衝突部位、衝突方向および衝突規模に応じて衝突形態を判断する衝突形態判断手段55と、衝突形態判断手段55により判断された衝突形態に応じて予め設定された複数の荷重−潰れ量特性の中から1つを選択し、該衝突による最終的な車体潰れ量を推定する車体潰れ量推定手段56と、衝突以降の自車両の車速の累積に基づき現時点の車体潰れ量を演算する車体潰れ量演算手段59と、乗員の重量、並びに該乗員の衝突時の移動速度に基づき、衝突時に乗員が持つ運動エネルギを演算するエネルギ演算手段61と、衝突時の乗員が持つ運動エネルギ、最終的な車体潰れ量、現時点の車体潰れ量、並びに、乗員と車室内インテリアとの距離に基づき乗員拘束力を演算する拘束力演算手段60と、拘束力演算手段60により演算された乗員拘束力に応じて、各種乗員拘束手段の作動を制御する制御手段62と、補正手段65とを備えるが、これら各手段はメモリ(記憶手段57)に記憶されてプロセッサ上で実行されるプログラムである。
【0030】
また、コントロールユニット(ECU)40は、シートベルト作動制御部71、エアベルト作動制御部72、エアバッグ作動制御部73、アクティブシートクッション作動制御部75およびニーボルスター・膝下エアバッグ作動制御部76を備え、制御手段62からの各種乗員拘束手段の作動制御指令に基づき、それぞれシートベルトモジュール10、エアベルト18、エアバッグモジュール20、ニーボルスター・膝下エアバッグ29およびアクティブシートクッション30に対して制御信号を出力して作動制御を行う。
【0031】
なお、上述した各種センサ群において、各種センサ群による検知信号を基に所望の物理量を求める処理、例えば、前方監視レーダ(障害物検出センサ48)により当該車両と衝突対象物との相対速度を検出し、該相対速度と当該車両および衝突対象物の大きさとから衝突エネルギを算出する処理や、CCDカメラ(乗員位置検出センサ50)により乗員の挙動を画像処理して乗員の移動速度を求める処理などは、特に構成手段として明示していないが、コントロールユニット(ECU)40内のプログラムにより実行されることになる。
【0032】
次に、本実施例の車両用乗員保護装置による乗員保護の処理手順を説明する。図4は本実施例の車両用乗員保護装置のコントロールユニット(ECU)40における衝突時の乗員保護の処理手順を説明するフローチャートである。
【0033】
まず、衝突以前の通常時に乗員重量検出手段(ウエイトセンサ)47により、乗員重量を取得しておく(ステップS101)。
【0034】
次に、衝突を検知すると(ステップS102)、衝突部位検出手段(衝突部位検出センサ)41からの検出信号に基づき衝突の部位を検出する(ステップS103)。なお、衝突の検知は、衝突部位検出手段(衝突部位検出センサ)41によっても良いし、或いは、衝突規模検出手段(衝突規模検出センサ)43を前方監視レーダ(障害物検出センサ48)とする場合には、前方監視レーダの検出結果から衝突を予測するようにしても良い。
【0035】
次に、衝突部位検出手段(衝突部位検出センサ)41、衝突方向検出手段(衝突方向検出センサ)42および衝突規模検出手段(衝突規模検出センサ)43の検出結果に基づき、衝突形態判断手段55により衝突形態を判断し、記憶手段57に予め記憶されている荷重−潰れ量特性の中から該衝突形態に応じた荷重−潰れ量特性を選択する(ステップS104)。
【0036】
ここで、荷重−潰れ量特性は、縦軸を荷重とし、横軸を車体潰れ量(ストローク)とした特性であり、図5には(a)1本の構造部材で衝突エネルギを吸収する場合と、(b)2本の構造部材で衝突エネルギを吸収する場合とを例示している。例えば、車両の左右サイドメンバーの先端の荷重センサで、衝突判断時に、左右サイドメンバーに荷重がかかっている場合にはフルラップ衝突と判断して図5(b)の荷重−潰れ量特性を、また、何れか一方のサイドメンバーに荷重がかかっている場合にはオフセット衝突と判断して図5(a)の荷重−潰れ量特性を、それぞれ選択する。
【0037】
すなわち、特性曲線の面積(図中の斜線部)は衝突エネルギであり、衝突形態に応じて荷重−潰れ量特性を選択することにより、その衝突による最終的な車体潰れ量(ストローク)Sendを予想することができる。なお、荷重−潰れ量特性は、車種毎に予め行われるシミュレーション実験等によって数値化されて、例えばテーブル形式で記憶手段57に記憶されている。
【0038】
また、衝突形態を判断する手法としては他にも幾つかの手法が考えられる。例えば、衝突規模検出手段(衝突規模検出センサ)43としてフロントサイトメンバー前端に取り付けられたGセンサ45を用いる場合には、該Gセンサ45が検出する減速度が閾値G1を超えたときに閾値G1を超えた側が衝突しているとみなし、また、両側のGセンサ45が検出する減速度が閾値G1を超えるときには、両側のGセンサ45で閾値G1を超えるタイミングの時間差が閾値T1以下である場合にフルラップ衝突と判断し、そうでない場合には片側のオフセット衝突と判断する。
【0039】
また、車両前部の構造部材(バンパーレインフォース)の前端に複数の圧電センサを並べて設置する場合には、各部の圧電センサのオン/オフにより衝突対象物がどこまで自車両とラップして衝突しているかを判断するようにし、例えば車両全幅に対するラップ率を求めて衝突形態を判断する。
【0040】
また、前方監視レーダ(障害物検出センサ48)を用いる場合には、自車両と衝突対象物との相対速度を検出し、該相対速度と自車両および衝突対象物の大きさとから衝突エネルギを算出して衝突形態を判断する。さらに、自車両の周辺を撮像して撮像画像を処理する撮像画像処理手段を用いる場合には、画像処理結果から衝突形態を判断する。なお、前方監視レーダおよびまたは撮像画像処理手段を用いる場合には、衝突直前に衝突部位、衝突角度および衝突規模(衝突エネルギ)を推定して衝突形態を予想することも可能である。
【0041】
次に、衝突形態判断手段55により選択された荷重−潰れ量特性に基づいて、車体潰れ量推定手段56により最終的な車体潰れ量(ストローク)Sendを推定する(ステップS105)。
【0042】
次に、車速検出手段(車速センサ)44から自車両の車速を取得し(ステップS106)、乗員移動速度検出手段50から衝突時の乗員の移動速度を取得し(ステップS107)、車体潰れ量演算手段59により衝突以降の自車両の車速の累積に基づき現時点の車体潰れ量を演算する(ステップS108)。ここで、現時点の車体潰れ量Sv(t)は、車速をV(t)とするとき、次式で算出される。
【0043】
(数1)
Sv(t)=∫V(t) (1)
次に、エネルギ演算手段61により、乗員の重量、並びに該乗員の衝突時の移動速度に基づき、衝突時に乗員が持つ運動エネルギを演算し、拘束力演算手段60により、衝突時の乗員が持つ運動エネルギ、最終的な車体潰れ量、現時点の車体潰れ量、並びに、乗員と車室内インテリアとの距離に基づき乗員拘束力を演算する(ステップS109)。
【0044】
ここで、衝突時に乗員が持つ運動エネルギEp(t)は、乗員の重量をm、乗員の衝突時の移動速度をVp(t)とするとき、次式で算出される。
【0045】
(数2)
Ep(t)=(1/2)×m×Vp(t) (2)
なお、乗員移動速度検出手段50によって検出する乗員の衝突時の移動速度Vp(t)の代わりとして、ベルト引き出し量検知装置によって検出されるシートベルトの引き出し量を用いることもできる。
【0046】
また、乗員拘束力F(t)は、最終的な車体潰れ量をSend、現時点の車体潰れ量をSv(t)、乗員と車室内インテリアとの距離をD(t)とするとき、次式で算出される。
【0047】
(数3)
F(t)=Ep(t)/{(Send−Sv(t))+D(t)} (3)
次に、拘束力演算手段60により演算された乗員拘束力F(t)に応じて、制御手段62により各種乗員拘束手段の作動を制御する(ステップS110)。
【0048】
シートベルト作動制御部71を介してシートベルトモジュール10を作動制御する場合には、乗員拘束力F(t)に応じてシートベルト張力調整機構11のリトラクタの巻き取り力を制御して、シートベルト引き出し時の張力を調整する。
【0049】
また、エアバッグ作動制御部73を介してエアバッグモジュール20を作動制御する場合には、乗員拘束力F(t)に応じて、インフレータ出力可変手段25によりインフレータ出力を変えてエアバッグ22の圧力を調整すると共に、ベントホール径可変手段23によりエアバッグ22のベントホール径を変えてエアバッグ22の圧力を調整する。
【0050】
また、エアベルト作動制御部72を介してエアベルト18を作動制御する場合には、乗員拘束力F(t)に応じて、インフレータ出力可変手段によりインフレータ出力を変えてエアベルト18の圧力を調整すると共に、ベントホール径可変手段によりエアベルト18のベントホール径を変えてエアベルト18の圧力を調整する。
【0051】
また、アクティブシートクッション作動制御部75を介してアクティブシートクッション30を作動制御する場合には、シート後退装置31を乗員拘束力F(t)が所定の閾値を超えたときに作動させ、また、シート前方座面上昇装置32を乗員拘束力F(t)が所定の閾値を超えたときに作動させる。
【0052】
さらに、ニーボルスター・膝下エアバッグ作動制御部76を介してニーボルスター・膝下エアバッグ29を作動制御する場合には、乗員拘束力F(t)に応じて、シートベルトモジュール10と同期してニーボルスターを作動させ、また、乗員拘束力F(t)に応じて、インフレータ出力可変手段によりインフレータ出力を変えて膝下エアバッグの圧力を調整すると共に、ベントホール径可変手段により膝下エアバッグのベントホール径を変えて膝下エアバッグの圧力を調整する。
【0053】
以上のステップS106からステップS110までの処理を、終了判断(ステップS111)で終了と判断される(例えば、車速がゼロとなる)まで繰り返し行う。
【0054】
以上の説明では、荷重−潰れ量特性として、図5(a)1本の構造部材で衝突エネルギを吸収する場合と、図5(b)2本の構造部材で衝突エネルギを吸収する場合とを例示し、衝突形態に応じて何れかを選択するとした。しかしながら、該荷重−潰れ量特性における荷重は一様ではなく、衝突における荷重の伝達経路(ロードパス)によって変化する。
【0055】
そこで、車両の各構造部材、例えばエンジンコンパートメント部の骨格部材、フロントサイトメンバー、ダッシュボックス等々に設置されている圧力センサ51からの検出信号に基づいて、補正手段65により、衝突における荷重の伝達経路を判断し、該荷重の伝達経路に基づき予め記憶手段57内に記憶された(、或いは、車体潰れ量推定手段56で選択した)荷重−潰れ量特性を補正することとすれば、車体潰れ量推定手段56による最終的な車体潰れ量(ストローク)Sendの推定精度をより向上させることができ、衝突形態に応じたより最適な乗員拘束による乗員保護が可能となる。なお、補正手段65による補正量は、例えば、車種毎に予め様々な荷重の伝達経路を想定したシミュレーション実験等によって荷重の伝達経路毎に求められたものを用いる。
【0056】
また、衝突時に衝突対象物に対して自車両の車体に角度がある場合には、衝突エネルギがそのまま自車両の車速V(t)、乗員の衝突時の移動速度Vp(t)および最終的な車体潰れ量Sendに反映されなくなり、乗員拘束力F(t)の精度を高めるためには、これら物理量について自車両の車体角加速度に基づいた補正が必要となる。
【0057】
そこで、各種センサとして、自車両の車体角加速度を検出する角加速度検出手段52(車両挙動検出センサ49)をさらに備え、補正手段65により、自車両の車体角加速度に基づき、自車両の車速、予め記憶手段57内に記憶された複数の荷重−潰れ量特性、およびまたは乗員の衝突時の移動速度を補正するようにしている。
【0058】
つまり、角加速度検出手段52(車両挙動検出センサ49)として操舵角センサを用いる場合には、ステアリングの操舵角を検知して自車両の車体角加速度を求め、補正手段65により、車速、荷重−潰れ量特性およびまたは乗員の衝突時の移動速度を補正する。またピッチセンサを用いる場合には、車両のピッチング角速度を検知して自車両の車体角加速度を求め、補正手段65によりこれらを補正する。また、ヨーレートセンサを用いる場合には、車両のヨー角速度を検知して自車両の車体角加速度を求め、補正手段65によりこれらを補正する。
【0059】
なお、補正手段65による補正は、車種毎に予め行われるシミュレーション実験等によって、車体角加速度と車速、荷重−潰れ量特性および乗員の衝突時の移動速度との関係テーブルを求めておき、該関係テーブルを参照して補正する。或いは、車体角加速度の大きさにほぼ比例してこれら物理量が減少するなど、一定の相関を持つ場合には、予め行われるシミュレーション実験等によって、車体角加速度と車速、荷重−潰れ量特性および乗員の衝突時の移動速度との相関係数を求めておき、該相関係数と車体角加速度を掛け合わせて補正するようにしても良い。
【0060】
以上説明したように、本実施例の車両用乗員保護装置では、各種センサとして、自車両の車速を検出する車速検出手段44と、衝突の部位を検出する衝突部位検出手段41と、衝突の方向を検出する衝突方向検出手段42と、衝突の規模を検出する衝突規模検出手段43と、乗員の重量を検出する乗員重量検出手段47と、衝突時の乗員の移動速度を検出する乗員移動速度検出手段50と、を備え、衝突形態判断手段55により衝突時の衝突部位、衝突方向および衝突規模に応じて衝突形態を判断し、車体潰れ量推定手段56により、衝突形態判断手段55によって判断された衝突形態に応じて、予め記憶手段57内に記憶された複数の荷重−潰れ量特性の中から1つを選択して衝突による最終的な車体潰れ量を推定し、車体潰れ量演算手段59により衝突以降の自車両の車速の累積に基づき現時点の車体潰れ量を演算し、エネルギ演算手段により、乗員の重量並びに該乗員の衝突時の移動速度に基づき、衝突時に乗員が持つ運動エネルギを演算し、拘束力演算手段60により、衝突時の乗員が持つ運動エネルギ、最終的な車体潰れ量、現時点の車体潰れ量、並びに、乗員と車室内インテリアとの距離に基づき乗員拘束力を演算し、制御手段62により、拘束力演算手段60によって演算された乗員拘束力に応じて、各種乗員拘束手段の作動を制御する。
【0061】
このように、衝突時の衝突部位、衝突方向および衝突規模に応じた衝突形態に基づいて的確に乗員拘束力を演算し、該乗員拘束力に基づき各種乗員拘束手段の作動を制御するので、従来のように、衝突方向、衝突部位、オフセット率、衝突速度または乗員体格などの衝突条件によっては乗員拘束手段の作動制御の判断が遅れるといったおそれも無く、最適な乗員拘束による乗員保護が可能である。また、最低限の乗員拘束手段による拘束力で効果的に乗員を保護することができる。
【0062】
また、本実施例の車両用乗員保護装置では、各種センサとして、衝突対象物の形状と大きさを認識する衝突対象物認識手段と、衝突対象物と自車両との相対速度を検出する相対速度検出手段と、を(例えば、前方監視レーダ(障害物検出センサ48)または撮像画像処理手段などを)さらに備え、衝突規模検出手段43により、衝突対象物の形状と大きさ並びに自車両との相対速度に基づき、衝突時に自車両が吸収するエネルギを予測して衝突規模を判断する。
【0063】
これにより、衝突直前からの的確な乗員拘束力の演算が可能となり、乗員拘束手段の作動制御の判断が遅れること無く、最適な乗員拘束による乗員保護が可能である。
【0064】
また、本実施例の車両用乗員保護装置では、各種センサとして、自車両の各構成部品に設置された圧力センサ51をさらに備え、補正手段65により、各圧力センサ51からの検出信号に基づき衝突における荷重の伝達経路を判断し、該荷重の伝達経路に基づき予め記憶手段57内に記憶された複数の荷重−潰れ量特性を補正する。
【0065】
これにより、車体潰れ量推定手段56による最終的な車体潰れ量の推定精度をより向上させることができ、衝突形態に応じたより最適な乗員拘束による乗員保護が可能となる。
【0066】
また、本実施例の車両用乗員保護装置では、各種センサとして、自車両の車体角加速度を検出する角加速度検出手段52(車両挙動検出センサ49)をさらに備え、補正手段65により、自車両の車体角加速度に基づき、自車両の車速、予め記憶手段57内に記憶された複数の荷重−潰れ量特性、または乗員の衝突時の移動速度を補正する。
【0067】
これにより、車体潰れ量推定手段56による最終的な車体潰れ量の推定精度をより向上させることができ、また、乗員拘束力F(t)の演算精度をより向上させることができ、衝突形態に応じたより最適な乗員拘束による乗員保護が可能となる。
【0068】
〔実施例2〕
次に、図6は本発明の実施例2に係る車両用乗員保護装置の構成図である。なお、実施例1と同様に、具体的な概略構成を図2に例示し、より具体的な各種センサ群の構成と各種乗員拘束手段および該乗員拘束手段における制御機構の構成を図3に例示しており、実施例1で説明した各種乗員拘束手段と各種センサ群については詳細な説明を省略する。
【0069】
図6を参照して、コントロールユニット(ECU)40の具体的な構成について説明する。コントロールユニット(ECU)40は、衝突時の衝突部位、衝突方向および衝突規模に応じて衝突形態を判断する衝突形態判断手段55と、衝突形態判断手段55により判断された衝突形態に応じて予め設定された複数の荷重−潰れ量特性の中から1つを選択し、該衝突による最終的な車体潰れ量を推定する車体潰れ量推定手段56と、衝突以降の自車両の車速の累積に基づき現時点の車体潰れ量を演算する車体潰れ量演算手段59と、乗員の重量、並びに該乗員の衝突時の移動速度に基づき、衝突時に乗員が持つ運動エネルギを演算するエネルギ演算手段61と、衝突時の乗員が持つ運動エネルギ、最終的な車体潰れ量、現時点の車体潰れ量、並びに、乗員と車室内インテリアとの距離に基づき乗員拘束力を演算する拘束力演算手段60と、自車両の車速および自車両の減速度に基づき、現時点の車体潰れ量と最終的な車体潰れ量の差である車体の残りストロークを演算する残りストローク演算手段63と、衝突時の乗員が持つ運動エネルギ、車体の残りストローク、並びに、乗員と車室内インテリアとの距離に基づき乗員拘束力を演算する第2の拘束力演算手段64と、衝突後自車両の減速度が所定値に達するまでは、拘束力演算手段60により演算された乗員拘束力に応じて各種乗員拘束手段の作動を制御し、衝突後自車両の減速度が該所定値に達した後は、第2の拘束力演算手段64により演算された乗員拘束力に応じて各種乗員拘束手段の作動を制御する制御手段62と、補正手段65とを備えるが、これら各手段はメモリ(記憶手段57)に記憶されてプロセッサ上で実行されるプログラムである。
【0070】
また、コントロールユニット(ECU)40は、シートベルト作動制御部71、エアベルト作動制御部72、エアバッグ作動制御部73、アクティブシートクッション作動制御部75およびニーボルスター・膝下エアバッグ作動制御部76を備え、制御手段62からの各種乗員拘束手段の作動制御指令に基づき、それぞれシートベルトモジュール10、エアベルト18、エアバッグモジュール20、ニーボルスター・膝下エアバッグ29およびアクティブシートクッション30に対して制御信号を出力して作動制御を行う。
【0071】
次に、本実施例の車両用乗員保護装置による乗員保護の処理手順を説明する。図7は本実施例の車両用乗員保護装置のコントロールユニット(ECU)40における衝突時の乗員保護の処理手順を説明するフローチャートである。
【0072】
まず、衝突以前の通常時に乗員重量検出手段(ウエイトセンサ)47により、乗員重量を取得しておく(ステップS201)。次に、衝突を検知すると(ステップS202)、衝突部位検出手段(衝突部位検出センサ)41からの検出信号に基づき衝突の部位を検出する(ステップS203)。なお、衝突の検知は、衝突部位検出手段(衝突部位検出センサ)41によっても良いし、或いは、衝突規模検出手段(衝突規模検出センサ)43を前方監視レーダ(障害物検出センサ48)とする場合には、前方監視レーダの検出結果から衝突を予測するようにしても良い。
【0073】
次に、衝突部位検出手段(衝突部位検出センサ)41、衝突方向検出手段(衝突方向検出センサ)42および衝突規模検出手段(衝突規模検出センサ)43の検出結果に基づき、衝突形態判断手段55により衝突形態を判断し、記憶手段57に予め記憶されている荷重−潰れ量特性の中から該衝突形態に応じた荷重−潰れ量特性を選択する(ステップS204)。次に、衝突形態判断手段55により選択された荷重−潰れ量特性に基づいて、車体潰れ量推定手段56により最終的な車体潰れ量(ストローク)Sendを推定する(ステップS205)。
【0074】
次に、車速検出手段(車速センサ)44から自車両の車速を取得し(ステップS206)、乗員移動速度検出手段50から衝突時の乗員の移動速度を取得し(ステップS207)、Gセンサ45から自車両の減速度G(t)を取得する(ステップS208)。
【0075】
次に、自車両の減速度G(t)の値に基づき、減速度G(t)が閾値未満であればステップS210に進み、減速度G(t)が閾値以上であればステップS212に進む(ステップS209)。つまり、衝突初期の自車両の減速度G(t)が閾値に立ち上がるまでは、実施例1と同様に拘束力演算手段60によって乗員拘束力F(t)を演算し、自車両の減速度G(t)が閾値まで立ち上がった後は、以下に述べる第2の拘束力演算手段64によって乗員拘束力F(t)を演算する。
【0076】
まず、減速度G(t)が閾値未満の場合、実施例1と同様に、車体潰れ量演算手段59により衝突以降の自車両の車速の累積に基づき現時点の車体潰れ量を演算する(ステップS210)。ここで、現時点の車体潰れ量Sv(t)は、車速をV(t)とするとき、実施例1と同様に(1)式で算出される。
【0077】
次に、エネルギ演算手段61により、乗員の重量、並びに該乗員の衝突時の移動速度に基づき、衝突時に乗員が持つ運動エネルギを演算し、拘束力演算手段60により、衝突時の乗員が持つ運動エネルギ、最終的な車体潰れ量、現時点の車体潰れ量、並びに、乗員と車室内インテリアとの距離に基づき乗員拘束力を演算する(ステップS211)。
【0078】
ここで、衝突時に乗員が持つ運動エネルギEp(t)は、乗員の重量をm、乗員の衝突時の移動速度をVp(t)とするとき、実施例1と同様に(2)式で算出される。なお、乗員移動速度検出手段50によって検出する乗員の衝突時の移動速度Vp(t)の代わりとして、ベルト引き出し量検知装置によって検出されるシートベルトの引き出し量を用いることもできる。また、乗員拘束力F(t)は、最終的な車体潰れ量をSend、現時点の車体潰れ量をSv(t)、乗員と車室内インテリアとの距離をD(t)とするとき、実施例1と同様に(3)式で算出される。
【0079】
また、減速度G(t)が閾値以上の場合には、残りストローク演算手段63により、自車両の車速および自車両の減速度に基づき、現時点の車体潰れ量Sv(t)と最終的な車体潰れ量Sendの差である車体の残りストロークSres(t)を演算する(ステップS212)。
【0080】
ここで、車体の残りストロークSres(t)は、車速V(t)および減速度G(t)により、次式で算出される。
【0081】
(数4)
Sres(t)=V(t)/2×G(t) (4)
なお、車両の重量をMとするとき、車両の持つ運動エネルギ「(1/2)×M×V(t)」が、荷重−潰れ量特性(図5参照)における特性曲線の面積「M×G(t)×Sres(t)」と等価であることから導かれる。
【0082】
次に、第2の拘束力演算手段64により、衝突時の乗員が持つ運動エネルギEp(t)、車体の残りストロークSres(t)、並びに、乗員と車室内インテリアとの距離D(t)に基づき乗員拘束力F(t)を演算する(ステップS213)。
【0083】
ここで、乗員拘束力F(t)は次式で算出される。
【0084】
(数5)
F(t)=Ep(t)/((Sres(t)+D(t)) (5)
次に、拘束力演算手段60または第2の拘束力演算手段64により演算された乗員拘束力F(t)に応じて、制御手段62により各種乗員拘束手段の作動を制御する(ステップS214)。各種作動制御部71を介した各種乗員拘束手段の作動制御については実施例1と同様である。
【0085】
以上のステップS206からステップS214までの処理を、終了判断(ステップS215)で終了と判断される(例えば、車速がゼロとなる)まで繰り返し行う。
【0086】
また本実施例においても、実施例1と同様に、圧力センサ51からの検出信号に基づいて、補正手段65により、衝突における荷重の伝達経路を判断し、該荷重の伝達経路に基づき予め記憶手段57内に記憶された(、或いは、車体潰れ量推定手段56で選択した)荷重−潰れ量特性を補正することとすれば、車体潰れ量推定手段56による最終的な車体潰れ量(ストローク)Sendの推定精度をより向上させることができる。
【0087】
また、角加速度検出手段52(車両挙動検出センサ49)で検出した自車両の車体角加速度に基づいて、補正手段65により、自車両の車速、予め記憶手段57内に記憶された複数の荷重−潰れ量特性、およびまたは乗員の衝突時の移動速度を補正することとすれば、車体潰れ量推定手段56による最終的な車体潰れ量の推定精度をより向上させることができ、また、乗員拘束力F(t)の演算精度をより向上させることができ、衝突形態に応じたより最適な乗員拘束による乗員保護が可能となる。
【0088】
さらに、本実施例では、角加速度検出手段52(車両挙動検出センサ49)で検出した自車両の車体角加速度に基づいて、補正手段65により、車体の残りストロークSres(t)を補正するようにしている。これにより、乗員拘束力F(t)の演算精度をより向上させることができ、衝突形態に応じたより最適な乗員拘束による乗員保護が可能となる。なお、補正手段65による補正は、車種毎に予め行われるシミュレーション実験等によって、車体角加速度と車体の残りストロークとの関係テーブルを求めておくか、或いは係数を求めておき、これにより補正する。
【0089】
以上説明したように、本実施例の車両用乗員保護装置では、各種センサとして、自車両の車速を検出する車速検出手段44と、衝突の部位を検出する衝突部位検出手段41と、衝突の方向を検出する衝突方向検出手段42と、衝突の規模を検出する衝突規模検出手段43と、乗員の重量を検出する乗員重量検出手段47と、衝突時の乗員の移動速度を検出する乗員移動速度検出手段50と、を備え、衝突形態判断手段55により衝突時の衝突部位、衝突方向および衝突規模に応じて衝突形態を判断し、車体潰れ量推定手段56により、衝突形態判断手段55によって判断された衝突形態に応じて、予め記憶手段57内に記憶複数の荷重−潰れ量特性の中から1つを選択して衝突による最終的な車体潰れ量を推定し、車体潰れ量演算手段59により衝突以降の自車両の車速の累積に基づき現時点の車体潰れ量を演算し、エネルギ演算手段により、乗員の重量、並びに該乗員の衝突時の移動速度に基づき、衝突時に乗員が持つ運動エネルギを演算し、拘束力演算手段60により、衝突時の乗員が持つ運動エネルギ、最終的な車体潰れ量、現時点の車体潰れ量、並びに、乗員と車室内インテリアとの距離に基づき乗員拘束力を演算し、残りストローク演算手段63により、車両の車速および自車両の減速度に基づき、現時点の車体潰れ量と最終的な車体潰れ量の差である車体の残りストロークを演算し、第2の拘束力演算手段64により、衝突時の乗員が持つ運動エネルギ、車体の残りストローク、並びに、乗員と車室内インテリアとの距離に基づき乗員拘束力を演算し、制御手段62により、衝突後自車両の減速度が所定値に達するまでは、拘束力演算手段60により演算された乗員拘束力に応じて各種乗員拘束手段の作動を制御し、衝突後自車両の減速度が該所定値に達した後は、第2の拘束力演算手段64により演算された乗員拘束力に応じて各種乗員拘束手段の作動を制御する。
【0090】
このように、衝突時の衝突部位、衝突方向および衝突規模に応じた衝突形態に基づいて的確に乗員拘束力を演算し、該乗員拘束力に基づき各種乗員拘束手段の作動を制御するので、従来のように、衝突方向、衝突部位、オフセット率、衝突速度または乗員体格などの衝突条件によっては乗員拘束手段の作動制御の判断が遅れるといったおそれも無く、最適な乗員拘束による乗員保護が可能である。また、最低限の乗員拘束手段による拘束力で効果的に乗員を保護することができる。
【0091】
以上説明した実施例1および実施例2では、車両の進行方向の前方にある車両等の衝突対象物との前面衝突を前提とした各種センサ群および各種乗員拘束手段の構成を例示したが、本発明はこれに限定されることなく、車両の側面方向にある衝突対象物との側面衝突や車両の後方にある衝突対象物との後面衝突(追突を含む)などにも適用可能である。
【0092】
例えば、側面衝突にも適用する場合には、各種センサとして側面方向に対応可能な衝突部位検出手段、衝突方向検出手段および衝突規模検出手段を追加し、乗員拘束手段として側面エアバッグ等をするなどすればよい。また、後面衝突にも適用する場合には、各種センサとして後面方向に対応可能な衝突部位検出手段、衝突方向検出手段および衝突規模検出手段を追加すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施例1に係る車両用乗員保護装置の構成図である。
【図2】実施例の車両用乗員保護装置の具体的な概略構成を例示する概略構成図である。
【図3】より具体的な各種センサ群の構成と各種乗員拘束手段および該乗員拘束手段における制御機構の構成図である。
【図4】実施例1の車両用乗員保護装置のコントロールユニットにおける衝突時の乗員保護の処理手順を説明するフローチャートである。
【図5】荷重−潰れ量特性として(a)1本の構造部材で衝突エネルギを吸収する場合と、(b)2本の構造部材で衝突エネルギを吸収する場合とを例示する説明図である。
【図6】本発明の実施例2に係る車両用乗員保護装置の構成図である。
【図7】実施例2の車両用乗員保護装置のコントロールユニットにおける衝突時の乗員保護の処理手順を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0094】
10 シートベルトモジュール
11 シートベルト張力調整機構
12 シートベルト
13 シートベルト巻き取り装置
14 ロードリミッタ
15 ショルダーベルトプリテンショナ
16 ラップベルトプリテンショナ
18 エアベルト
20 エアバッグモジュール
21 エアバッグ特性制御装置
22 エアバッグ
23 ベントホール径可変手段
24 バッグ容量可変手段
25 インフレータ出力可変手段
29 ニーボルスター・膝下エアバッグ
30 アクティブシートクッション
31 シート後退装置
32 シート前方座面上昇装置
35,36,37 センサ群
40 コントロールユニット(ECU)
41 衝突部位検出手段(衝突部位検出センサ)
42 衝突方向検出手段(衝突方向検出センサ)
43 衝突規模検出手段(衝突規模検出センサ)
44 車速検出手段(車速センサ)
45 Gセンサ
46 シートポジションセンサ
47 乗員重量検出手段(ウエイトセンサ)
48 障害物検出センサ
49 車両挙動検出センサ
50 乗員位置検出センサ
51 圧力センサ
52 角加速度検出手段
55 衝突形態判断手段
56 車体潰れ量推定手段
57 記憶手段(メモリ)
59 車体潰れ量演算手段
60 拘束力演算手段
61 エネルギ演算手段
62 制御手段
63 残りストローク演算手段
64 第2の拘束力演算手段
65 補正手段
71 シートベルト作動制御部
72 エアベルト作動制御部
73 エアバッグ作動制御部
75 アクティブシートクッション作動制御部
76 ニーボルスター・膝下エアバッグ作動制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の車速を検出する車速検出手段と、
衝突が発生した自車両の部位を検出する衝突部位検出手段と、
自車両の前後方向に対する衝突の方向を検出する衝突方向検出手段と、
衝突の規模を検出する衝突規模検出手段と、
乗員の重量を検出する乗員重量検出手段と、
衝突時の乗員の移動速度を検出する乗員移動速度検出手段と、
衝突時の衝突部位、衝突方向および衝突規模に応じて衝突形態を判断する衝突形態判断手段と、
前記衝突形態判断手段により判断された衝突形態に応じて予め設定された複数の荷重−潰れ量特性の中から1つを選択し、該衝突による最終的な車体潰れ量を推定する車体潰れ量推定手段と、
衝突以降の自車両の車速の累積に基づき現時点の車体潰れ量を演算する車体潰れ量演算手段と、
乗員の重量、並びに該乗員の衝突時の移動速度に基づき、衝突時に乗員が持つ運動エネルギを演算するエネルギ演算手段と、
前記衝突時の乗員が持つ運動エネルギ、最終的な車体潰れ量、現時点の車体潰れ量、並びに、乗員と車室内インテリアとの距離に基づき乗員拘束力を演算する拘束力演算手段と、
拘束力演算手段により演算された乗員拘束力に応じて、各種乗員拘束手段の作動を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする車両用乗員保護装置。
【請求項2】
自車両の減速度を検出するGセンサと、
前記自車両の車速および前記自車両の減速度に基づき、現時点の車体潰れ量と最終的な車体潰れ量の差である車体の残りストロークを演算する残りストローク演算手段と、
前記衝突時の乗員が持つ運動エネルギ、前記車体の残りストローク、並びに、乗員と車室内インテリアとの距離に基づき乗員拘束力を演算する第2の拘束力演算手段と、を有し、
前記制御手段は、衝突後自車両の減速度が所定値に達するまでは、前記拘束力演算手段により演算された乗員拘束力に応じて各種乗員拘束手段の作動を制御し、衝突後自車両の減速度が該所定値に達した後は、前記第2の拘束力演算手段により演算された乗員拘束力に応じて各種乗員拘束手段の作動を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用乗員保護装置。
【請求項3】
衝突対象物の形状と大きさを認識する衝突対象物認識手段と、
前記衝突対象物と自車両との相対速度を検出する相対速度検出手段と、を有し、
前記衝突規模検出手段は、衝突対象物の形状と大きさ並びに自車両との相対速度に基づき、衝突時に自車両が吸収するエネルギを予測して衝突規模を判断することを特徴とする請求項1または請求項2の何れか1項に記載の車両用乗員保護装置。
【請求項4】
自車両の少なくとも骨格部品を含む各構成部品に設置された圧力センサを有し、
各圧力センサからの検出信号に基づき荷重の伝達経路を判断し、該荷重の伝達経路に基づき予め設定された複数の荷重−潰れ量特性を補正することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用乗員保護装置。
【請求項5】
自車両の車体角加速度を検出する角加速度検出手段を有し、
前記自車両の車体角加速度に基づき、前記自車両の車速、予め設定された複数の荷重−潰れ量特性、または乗員の衝突時の移動速度を補正することを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の車両用乗員保護装置。
【請求項6】
前記各種乗員拘束手段は、シートベルト、エアバッグ、ニーボルスターまたはアクティブシートクッションの少なくとも1つを有することを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の車両用乗員保護装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−96394(P2009−96394A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271451(P2007−271451)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】