説明

車両用制動制御装置

【課題】従来よりも適切な車両の制動制御を可能とする車両用制動制御装置を提供する。
【解決手段】自車両と障害物との衝突の危険性に応じて自動的に車両を制動する車両用制動制御装置であって、自車両と障害物との衝突の危険性が高いか否かを判定する衝突判定手段と、衝突判定手段によって自車両と障害物との衝突の危険性が高いと判定された場合、自車両に自動的に制動力を発生させる自動制動手段と、自動制動手段が発生させる制動力の大きさを自車両のドライバーの操舵操作に応じて漸減する制動力漸減手段とを備え、制動力漸減手段は、制動力の漸減速度を自車両のドライバーのアクセル操作に応じて速くすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動制御装置に関し、より特定的には、ドライバーの操作に応じて自動制動の解除態様を変更可能な車両用制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自車両と障害物との衝突を回避するべく、自車両と障害物とが衝突する危険性が高まった際に、いわゆる自動制動を行う装置が開発されている。自動制動とは、ドライバーの操作に関わらず車両のブレーキ装置を制御して、自車両に自動的な制動力を発生させる制動制御のことを言う。
【0003】
上記のような自動制動を行う装置の一例が、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示される車両用制動力発生装置は、ドライバーによるアクセルペダル等の操作に応じてドライバーによる操縦意思の有無を判定する。そして、ドライバーに操縦意思が有ると判定された場合には、自動制動を停止する。このような処理によれば、不要なタイミングで自動制動が実行された場合に、ドライバーの操縦に応じて当該不要な自動制動を停止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−314848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、適切に自車両を制動できない場合があった。具体的には、上記特許文献1に係る車両用制動力発生装置では、ドライバーが操舵操作を行った場合、即時(いきなり)に制動力の発生を解除するため、車両挙動が不安定になるおそれがあった。
【0006】
一方、このような課題を考慮して操舵操作後に制動力の発生を継続した場合、自車両が減速しすぎてしまい、例えば、図4のような状況で自車両100の加速を妨げてしまうおそれがあると考えられる。図4は、従来の技術で自車両100を適切に制動できない状況の一例を示す図である。図4において、走行車線Aを走行していた自車両100のドライバーは、比較的遅い速度で走行している先行車200との衝突を回避するべく、隣接車線Bへ車線変更をする操舵操作を行った。ここで、隣接車線Bを自車両100の後方から後続車300が比較的速い速度で進行している場合、自車両100は後続車300の走行の妨げとならないよう速やかに加速する必要がある。
【0007】
しかしながら、上述の通り操舵操作後に制動力の発生が継続されていると、自車両100は、図5に示すように十分な加速を行うことができない場合がある。図5は、従来の制動制御装置を備えた自車両100が図4に示す状況下において適切に加速/制動制御されない様子を示すグラフである。図5の(a)は、従来の制動制御装置を備えた自車両100のアクセル開度の経時変化を示す。図5の(b)は、従来の制動制御装置を備えた自車両100に発生する自動制動による制動力の経時変化を示す。図5の(c)は、従来の制動制御装置を備えた自車両100の進行方向への加速度の経時変化を示す。なお、図5の(a)から(c)の横軸は何れも同一の時間軸を示す。図5の(b)に示すように、操舵操作実行後(時刻t2後)に自動制動による制動力の発生が継続されていると、図5の(a)に示すようにドライバーがアクセルを踏み込んでアクセル開度を大きくしたとしても、図5の(c)に示すように自車両100を速やかに加速させることができない。このように、従来の技術では上記図4、5に示したような状況において適切な車両の制動制御を行うことができていなかった。
【0008】
本発明は上記の課題を鑑みて成されたものであり、従来よりも適切な車両の制動制御を可能とする車両用制動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本願は以下の構成を採用した。すなわち第1の発明は、自車両と障害物との衝突の危険性に応じて自動的に車両を制動する車両用制動制御装置であって、自車両と障害物との衝突の危険性が高いか否かを判定する衝突判定手段と、衝突判定手段によって自車両と障害物との衝突の危険性が高いと判定された場合、自車両に自動的に制動力を発生させる自動制動手段と、自動制動手段が発生させる制動力の大きさを自車両のドライバーの操舵操作に応じて漸減する制動力漸減手段とを備え、制動力漸減手段は、制動力の漸減速度を自車両のドライバーのアクセル操作に応じて速くすることを特徴とする、車両用制動制御装置である。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、制動力漸減手段は、制動力の漸減を開始した後に自車両のドライバーによるアクセルペダルを踏み込む操作があった場合、制動力の漸減速度を、アクセルペダルを踏み込む操作がなかった場合に比べて速くすることを特徴とする。
【0011】
第3の発明は、第2の発明において、制動力漸減手段は、自車両のアクセル開度が予め定められた開度閾値以上となった場合、自車両のドライバーによるアクセルペダルを踏み込む操作があったと判定することを特徴とする。
【0012】
第4の発明は、第2の発明において、制動力漸減手段は、自車両のドライバーによりアクセルペダルを予め定められた時間以上踏み込む操作があった場合、自車両のドライバーによるアクセルペダルを踏み込む操作があったと判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、衝突回避の操舵操作があった場合には制動力を漸減させることで車両の走行を安定させ、且つ、その際にドライバーに自車両を加速させる意思がある場合には、制動力を早く減少させ、自車両を加速させ易くすることができる。したがって、従来の技術に比して適切な車両の制動制御が可能となる。このような処理によれば、例えば、先行車との衝突を回避すべく隣接車線へ車線変更した後に、後続車両から追突される危険を抑制することができる。
【0014】
第2の発明によれば、制動力の漸減を開始した後にアクセルペダルを踏み込む操作があった場合、すなわち、ドライバーに自車両を加速させる意思がある場合にのみ、制動力の漸減速度を速くする制御が行われる。換言すれば、制動力の漸減を開始した時点で既にアクセルペダルが踏み込まれていた場合、すなわちドライバーに自車両を加速させる意思があるか否かが明確でない場合には、制動力の漸減速度を速くする制御は行われない。したがって、ドライバーの加速の意思の有無を、より正確に検出し、より的確な制動制御を行うことができる。
【0015】
第3の発明によれば、アクセル開度および閾値を用いた簡単な処理でドライバーがアクセルを踏み込んだか否かを容易に判定することができる。
【0016】
第4の発明によれば、ドライバーがアクセルペダルを所定時間継続して踏み込む操作(いわゆる、ベタ踏み操作)を行った場合にのみ制動力を早く漸減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用制動制御装置1の構成を示すブロック図の一例
【図2】本発明の実施形態に係るECU20が実行する処理の詳細を示すフローチャートの一例
【図3】本発明の実施形態に係る車両用制動制御装置1を備えた自車両が図4に示す状況下において適切に加速/制動制御される様子を示すグラフ
【図4】従来の技術で自車両100を適切に制動できない状況の一例を示す図
【図5】従来の制動制御装置を備えた自車両100の図4に示す状況下において適切に加速/制動制御されない様子を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る車両用制動制御装置1について説明する。車両用制動制御装置1は、自車両と障害物との衝突の危険性、およびドライバーの車両操作に応じて自動制動の開始および解除を行う装置である。なお、自動制動とは、ドライバーの操作に関わらず車両のブレーキ装置を制御して、自車両に自動的な制動力を発生させる制動制御のことを言う。
【0019】
先ず、図1を参照して車両用制動制御装置1の構成について説明する。なお、図1は、車両用制動制御装置1の構成を示すブロック図の一例である。図1に示すように、車両用制動制御装置1は、レーダー装置11、アクセル装置12、ステアリングセンサ13、ECU20、およびブレーキアクチュエータ30を備える。
【0020】
レーダー装置11は、自車両の周囲に電磁波を送信し、障害物によって反射された当該電磁波を受信することによって障害物を検出する装置である。レーダー装置11は、典型的にはFM−CW方式のミリ波レーダー装置であり、例えば自車両前端に搭載される。レーダー装置11は、障害物を検出した場合、障害物情報を検出する。具体的には、レーダー装置11は、障害物情報として、自車両に対する相対速度Vr(km/h)、および当該障害物から自車両までの距離L(km)を検出する。そして、レーダー装置11は、相対速度Vrおよび距離Lを示すデータを衝突判定ECU20へ送信する。なお、レーダー装置11が相対速度Vrおよび距離Lを検出する方法は、従来周知の任意の手法を用いて良い。
【0021】
アクセル装置12は、自車両のドライバーからの入力操作を受け付け、自車両を加速させる装置である。ドライバーはアクセル装置12に備えられたアクセルペダルを踏み込むことによって上記入力操作を行う。アクセル装置12は、ドライバーによるアクセルペダルの踏み込み量に応じて増減するアクセル開度ωの値を、衝突判定ECU20へ送信する。なお、アクセル開度ωは、ドライバーがアクセルペダルを深く踏み込むほど大きな値となるものとする。
【0022】
ステアリングセンサ13は、自車両の舵角θを検出するセンサ装置である。舵角θは、自車両のドライバーによる操舵操作に応じて変化するパラメータである。ステアリングセンサ13は、検出した舵角θを示すデータを衝突判定ECU20へ送信する。なお、ステアリングセンサ13が舵角θを検出する方法は、従来周知の任意の手法を用いて良い。
【0023】
ECU20は、レーダー装置11、アクセル装置12、およびステアリングセンサ13から得た情報に基づいて自動制動の実行および停止の指示をブレーキアクチュエータ30へ行う制御装置である。ECU20は、典型的には、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)などの情報処理装置、メモリなどの記憶装置、およびインターフェース回路などを備える制御装置である。衝突判定ECU20が実行する処理の詳細については後述する。
【0024】
ブレーキアクチュエータ30は、自車両に搭載された制動装置による制動力を自動的に増加させる装置である。ブレーキアクチュエータ30は、典型的には、自車両に搭載された液圧ブレーキ装置のホイールシリンダ内のブレーキ液を加圧するアクチュエータポンプである。ブレーキアクチュエータ30は、ECU20からの指示に応じて(ドライバーの操作に関わらず)液圧ブレーキ装置のホイールシリンダ内の液圧を増加させることにより自車両の制動力を増加させる。なお、上記ブレーキアクチュエータ30の構成は一例であり、ECU20の指示に応じて自車両に自動的に制動力を発生可能な装置であれば任意の装置で代用して良い。
【0025】
次いで、ECU20が実行する処理について説明する。ECU20は、レーダー装置11等から得た情報に基づいて自動制動を開始する。そして、ECU20は、アクセル装置12およびステアリングセンサ13等から得た情報に基づいて自動制動を解除させる。以下、図2を参照して、ECU20が実行する処理について詳細に説明する。図2は、本発明の実施形態に係るECU20が実行する処理の詳細を示すフローチャートの一例である。ECU20は、例えば、自車両に備えられた入力デバイス(図示せず)によってユーザーが自動制動システムの動作をオン状態にした場合に、図2の処理を実行する。ECU20は、図2のフローチャートの処理を開始すると、先ず、ステップS1の処理を実行する。なお、ECU20は、以下に示すステップS1からステップS14の処理を1サイクルとして、自動制動システムがオン状態である間、繰り返し実行する。
【0026】
ステップS1において、ECU20は、障害物を検出したか否か判定する。具体的には、ECU20は、レーダー装置11から障害物情報を受信したか否か判定する。ECU20は、障害物情報を受信した場合、障害物を検出したと判定し、処理をステップS2へ進める。一方、ECU20は、障害物情報を受信していない場合、障害物を検出していないと判定し、処理をステップS14へ進める。
【0027】
ステップS2において、ECU20は、衝突の危険が高いか否か判定する。ECU20は、障害物と自車両とが衝突する危険性が高いか否か判定する。具体的には、先ず、ECU20は、障害物と自車両とが衝突するまでに要すると予想される時間(以下、衝突予測時間TTCと称する)を算出する。より詳細には、ECU20は、ステップS1においレーダー装置11から受信した相対速度Vrおよび距離Lを用い、式(1)に基づいて衝突予測時間TTCを算出する。
TTC=L/Vr …(1)
次いで、ECU20は、衝突予測時間TTCが予め定められた閾値TTCthより短いか否か判定する。そして、ECU20は、衝突予測時間TTCが予め定められた閾値TTCthより短い場合、障害物と自車両とが衝突する危険性が高いと判定し、処理をステップS3へ進めて自動制動を開始する。一方、ECU20は、衝突予測時間TTCが予め定められた閾値TTCthより長い場合、障害物と自車両とが衝突する危険性が低いと判定し、処理をステップS4へ進める。なお、上記ステップS2の処理は一例であり、ECU20は、障害物と自車両とが衝突する危険性が高いか否か判定して良い。
【0028】
ステップS3において、ECU20は、自動制動を開始する。具体的には、ECU20は、自動的な制動力Pを継続的に発生させるようブレーキアクチュエータ30を制御する。なお、ECU20は、制動力Pの値を任意に設定して良い。ECU20は、ステップS3の処理を完了すると、処理をステップS14へ進める。
【0029】
ステップS4において、ECU20は、自動制動を実行中か否か判定する。ECU20は、自動制動を実行中であると判定した場合、処理をステップS5へ進めドライバーの操作に応じた態様で自動制動を解除する。一方、ECU20は、自動制動を実行中でないと判定した場合、処理をステップS14へ進める。
【0030】
ステップS5において、ECU20は、アクセル装置12からアクセル開度ωを取得し、記憶装置に記憶する。ECU20は、ステップS5の処理を完了すると、処理をステップS6へ進める。
【0031】
ステップS6において、ECU20は、自車両のドライバーにより衝突回避のための操舵操作(以下、回避操舵操作と称する)があったか否か判定する。例えば、ECU20は、予めステアリングセンサ13から舵角θを常時取得して記憶し、舵角θの単位時間あたりの変化量を算出する。そして、自動制動が開始された時点から現時点までの間に当該舵角θの変化量が予め定められた閾値以上となっている場合、回避操舵操作があったと判定する。なお、上記の処理は一例であり、回避操舵操作の有無を判定可能であれば、従来周知の任意の手法を用いて良い。ECU20は、回避操舵操作があったと判定した場合、処理をステップS9へ進め、ドライバーによるアクセル操作があったか否か判定する。一方、ECU20は、回避操舵操作がないと判定した場合、処理をステップS7へ進める。
【0032】
ステップS7において、ECU20は、制動力漸減速度Fの値をαに設定する。制動力漸減速度Fは、自動制動を解除する際の制動力Pの単位時間当たりの減少量である。すなわち、制動力漸減速度Fの値が大きいほど、早く自動制動の制動力Pが小さくなる。なお、αはECU20の記憶装置に予め記憶された任意の定数である。ECU20は、ステップS7の処理を完了すると、処理をステップS8へ進め、設定した制動力漸減速度Fに応じた制動力の制御を行う。
【0033】
ステップS8において、ECU20は、制動力漸減制御を実行する。具体的には、ECU20は、現在の制動力Pの値から制動力漸減速度Fの値に応じた値を減じた値を新たな制動力Pとして更新算出し、当該更新後の制動力Pに応じた制動力を発生させる指示信号をブレーキアクチュエータ30へ送信する。ECU20は、ステップS8の処理を完了すると、処理をステップS14へ進める。
【0034】
ステップS9において、ECU20は、開度変化量Δωを算出する。開度変化量Δωは、単位時間当たりのアクセル開度ωの変化量である。ECU20は、例えば、今回の処理サイクルにおいて取得したアクセル開度ωから前回の処理サイクルにおいて記憶したアクセル開度ωを減算した値を開度変化量Δωとして算出する。開度変化量Δωの値は、ドライバーがアクセルペダルを踏み込む操作を行った場合に増加する。ECU20は、ステップS9の処理を完了すると、処理をステップS10へ進める。
【0035】
ステップS10において、ECU20は、開度変化量Δωが変化量閾値Δωth以上か否か判定する。変化量閾値Δωthは、ドライバーがアクセルペダルを踏み込む操作を行ったか否かを開度変化量Δωに基づいて判定するための閾値である。変化量閾値Δωthは、ECU20の記憶装置に予め記憶された任意の定数である。ECU20は、開度変化量Δωが変化量閾値Δωth以上であると判定した場合、処理をステップS11へ進める。一方、ECU20は、開度変化量Δωが変化量閾値Δωthより小さいと判定した場合、処理をステップS12へ進める。
【0036】
ステップS11において、ECU20は、今回の処理サイクルにおいて取得したアクセル開度ωが開度閾値ωth以上か否か判定する。開度閾値ωthは、ドライバーがアクセルペダルを踏み込む操作を行ったか否かをアクセル開度ωに基づいて判定するための閾値である。開度閾値ωthは、ECU20の記憶装置に予め記憶された任意の定数である。ECU20は、アクセル開度ωが開度閾値ωth以上である場合、アクセルペダルを踏み込む操作があったと判定し、処理をステップS13へ進める。一方、ECU20は、アクセル開度ωが開度閾値ωthより小さいと判定した場合、処理をステップS12へ進める。
【0037】
ステップS12において、ECU20は、制動力漸減速度Fの値をβに設定する。βは、αより小さな定数値であり、予めECU20の記憶装置に記憶される。ECU20は、ステップS12の処理を完了すると、処理をステップS8へ進め、設定した制動力漸減速度Fに応じた制動力の制御を行う。
【0038】
ステップS13において、ECU20は、制動力漸減速度Fの値をγに設定する。γは、βより大きな定数値であり、予めECU20の記憶装置に記憶される。ECU20は、ステップS13の処理を完了すると、処理をステップS8へ進め、設定した制動力漸減速度Fに応じた制動力の制御を行う。
【0039】
上記ステップS6からステップS13の処理によれば、ドライバーが回避操舵操作のみを行った場合(ステップS6でYes且つステップS10、11でNo)、ドライバーが回避操舵操作を行っていない場合(ステップS6でNo)に比べて制動力漸減速度Fの値が比較的小さな値に設定される。したがって、自動制動の制動力Pが緩やかに小さくなり、自車両の走行の安定性を確保することができる。一方、ドライバーが回避操舵操作を行った後にさらにアクセル操作を行った場合(ステップS6、10、11でYes)、ドライバーが回避操舵操作のみを行った場合(ステップS6でYes且つステップS10、11でNo)に比べて制動力漸減速度Fの値が比較的大きな値に設定される。したがって、ドライバーの車両操作に応じて制動力漸減速度Fの値を適宜変更して、自車両を加速させる必要がある状況下では速やかに自車両を加速させることができる。
【0040】
ステップS14において、ECU20は、自動制動システムがオフ状態に設定されたか否か判定する。ECU20は、自動制動システムがオフ状態に設定されたと判定した場合、図2の処理を終了する。一方、ECU20は、自動制動システムがオン状態に維持されていると判定した場合、処理をステップS1へ戻し、上述各ステップの処理を繰り返し実行する。
【0041】
上記に示した車両用制動制御装置1によって、自車両の制動が適切に制御される様子について図3を参照して説明する。図3は、本発明の実施形態に係る車両用制動制御装置1を備えた自車両が図4に示す状況下において適切に加速/制動制御される様子を示すグラフである。図3の(a)は、本発明に係る車両用制動制御装置1を備えた自車両100のアクセル開度ωの経時変化を示す。図3の(b)は、本発明に係る車両用制動制御装置1を備えた自車両100に発生する自動制動による制動力Pの経時変化を示す。図3の(c)は、本発明に係る車両用制動制御装置1を備えた自車両100の進行方向への加速度ACの経時変化を示す。なお、図3の(a)から(c)の横軸は何れも同一の時間軸を示す。
【0042】
先ず、時刻t1において制動制御が開始されることによって図3の(b)に示すように制動力Pの値が増加し、これに伴い図3の(c)に示すように自車両の加速度ACが低下する。その後、時刻t2において、ドライバーが回避操舵操作を実行した場合、図3の(b)に示すように制動力Pの値が制動力漸減速度Fの値がβに設定され、緩やかに制動力Pの値が低減する。その後、時刻t4において、上述ステップS9からステップS11の処理によってドライバーがアクセルを踏み込んでアクセル開度を大きくしたと判定された場合(図3の(a))、制動力漸減速度Fの値がγに変更されて制動力Pの値が急速に低減する。このように、ドライバーによる加速の意思が明確である場合、制動力Pが急速に低減されるため、図3の(c)に示すように自車両100を速やかに加速させることができる。
【0043】
以上に示した通り、車両用制動制御装置1によれば、ドライバーの車両操作に応じて自車両を適切に制動することができる。
【0044】
なお、上記ステップS11の処理において、ECU20は、アクセル開度ωが開度閾値ωth以上となった状態が予め定められた時間以上継続した場合に、処理をステップS12へ進めるものとしても良い。このような処理によれば、ドライバーがアクセルペダルを踏み込み続けた場合(いわゆる、ベタ踏み操作を行った場合)に、制動力Pを早期に低減させることができる。
【0045】
また、上記実施形態に係るECU20による制動力Pの制御方法は一例であり、例えば、ECU20は、衝突を回避するために必要な目標減速度を算出し、自車両の減速度が当該目標減速度と一致するよう制動力Pの大きさを制御しても良い。このような制御を行う場合、ECU20は、制動力漸減速度Fの大きさを変更する代わりに、ドライバーの操舵操作およびアクセル操作に応じて目標減速度の単位時間当たりの減少量(以下、減速度漸減速度と称する)を変更しても良い。より具体的には、ECU20は、自動制動を解除する際に操舵操作があったと判定した場合には、減速度漸減速度を相対的に大きな値に設定し、アクセルを踏み込む操作があったと判定した場合には、減速度漸減速度を相対的に小さな値に設定して良い。このような処理によれば、実質的に上述の実施形態と同様に、制動力の漸減速度をドライバーの操舵操作およびアクセル操作に応じて変更することができる。
【0046】
また、上記実施形態では、図2に示す処理を単一のECUが実行する例について説明したが、図2に示す各ステップの処理を複数のECUが個別に実行しても構わない。例えば、自車両100の衝突危険性を判定する処理と、ブレーキの自動制御を行う処理とを個別のECUで行っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る車両用制動制御装置は、従来よりも適切な車両の制動制御を可能とする車両用制動制御装置などとして有用である。
【符号の説明】
【0048】
1 車両用制動制御装置
11 レーダー装置
12 アクセル装置
13 ステアリングセンサ
20 ECU
30 ブレーキアクチュエータ
100 自車両
200 先行車
300 後続車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両と障害物との衝突の危険性に応じて自動的に車両を制動する車両用制動制御装置であって、
前記自車両と障害物との衝突の危険性が高いか否かを判定する衝突判定手段と、
前記衝突判定手段によって前記自車両と障害物との衝突の危険性が高いと判定された場合、前記自車両に自動的に制動力を発生させる自動制動手段と、
前記自動制動手段が発生させる制動力の大きさを前記自車両のドライバーの操舵操作に応じて漸減する制動力漸減手段とを備え、
前記制動力漸減手段は、前記制動力の漸減速度を前記自車両のドライバーのアクセル操作に応じて速くすることを特徴とする、車両用制動制御装置。
【請求項2】
前記制動力漸減手段は、前記制動力の漸減を開始した後に前記自車両のドライバーによりアクセルペダルを踏み込む操作があった場合、前記制動力の漸減速度を、前記アクセルペダルを踏み込む操作がなかった場合に比べて速くすることを特徴とする、請求項1に記載の車両用制動制御装置。
【請求項3】
前記制動力漸減手段は、前記自車両のアクセル開度が予め定められた開度閾値以上となった場合、前記自車両のドライバーによるアクセルペダルを踏み込む操作があったと判定することを特徴とする、請求項2に記載の車両用制動制御装置。
【請求項4】
前記制動力漸減手段は、前記自車両のドライバーにより前記アクセルペダルを予め定められた時間以上踏み込む操作があった場合、前記自車両のドライバーによるアクセルペダルを踏み込む操作があったと判定することを特徴とする、請求項2に記載の車両用制動制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−250612(P2012−250612A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124404(P2011−124404)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】