説明

車両用制動装置

【課題】セルフサーボ効果の有無を考慮して電動アクチュエータの作動を制御する車両用制動装置を提供する。
【解決手段】電子制御ユニット21のCPU21aは、車両の減速に伴って、車速センサ24から入力した車速Vが所定の小さな車速V0以下となるとき、セルフサーボ効果が無効化したと判定する。次に、CPU21aは、現在、電動アクチュエータ13に供給しているモータ電流値Iに対応して前記効果が発生している場合の荷重と前記効果が無効化した場合の荷重との荷重差ΔFを決定し、この荷重差ΔFを荷重センサ22から入力した検出荷重Fに加算して補正する。そして、CPU21aは、補正した検出荷重Fと車両を減速させるために決定した目標荷重Fdとの差分を計算し、この差分に基づいてアクチュエータ13の駆動を制御する。これにより、前記効果の有無によってアクチュエータ13に供給する電流値Iの急増を防止し、連続性を保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される車両用制動装置に係り、特に、電動アクチュエータを駆動源として制動力を付与する制動力付与手段を備えた車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、下記特許文献1に示された電動式ブレーキ装置は知られている。この従来の電動式ブレーキ装置は、ブレーキモータを動力源として制動力を発生するブレーキ機構が各車輪に設けられており、通常時には、ペダルストロークに応じたモータ駆動電流を各車輪のブレーキモータに供給するようになっている。一方、車両が停車しており、かつ、車両を停車状態に維持するために過剰なブレーキ操作が行われている場合には、モータ電流を、強制的に、車両を停車させるために必要な最小限のモータ電流に変更するようになっている。これにより、不必要な電力の消費を抑制することができる。
【0003】
また、従来から、例えば、下記特許文献2に示された電動式ブレーキ装置も知られている。この従来の電動式ブレーキ装置は、ブレーキ操作値の時間的変化に起因しない時間的変化が制動トルク、車体減速度および車速に生じないように、ブレーキ操作値とモータ駆動力との関係を規定する制御ゲインを、一連のブレーキ操作中における車速の低下と、一連のブレーキ操作中におけるブレーキ作動の連続時間の経過とに関連して減少させるようになっている。これにより、モータの駆動力をブレーキ操作部材の操作値との関係において適正化するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−327587号公報
【特許文献2】特開2000−264183号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、一般的に、リーディングトレーリング方式を採用したドラムブレーキユニットにおいては、車両減速時においてリーディング側のブレーキシューによって発生する制動力が増加する、所謂、セルフサーボ効果が発生する。そして、このセルフサーボ効果は、車両が停車することによって、その効果が無効化する。このため、電動モータなどの電動アクチュエータを駆動源として制動力を付与する車両用制動装置(電動式ブレーキ装置)においては、このようなセルフサーボ効果の有無によって電動アクチュエータに供給する電力(電流や電圧)が大きく変化する。その結果、電動アクチュエータの駆動に対する負荷が増大する可能性があり、また、運転者によるブレーキ操作に対する制動力の発生に違和感を覚える可能性がある。したがって、電動アクチュエータを適切に作動させるためには、セルフサーボ効果の有無を考慮する必要がある。
【0006】
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、セルフサーボ効果の有無を考慮して電動アクチュエータの作動を制御する車両用制動装置を提供することにある。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、電動アクチュエータを駆動源として車輪に制動力を付与する制動力付与手段と、前記電動アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備えた車両用制動装置において、前記制御手段を、運転者によるブレーキペダルの操作量に応じて前記制動力付与手段が発生する目標制動力を決定する目標制動力決定手段と、前記制動力付与手段が発生する制動力を検出する制動力検出手段と、前記目標制動力決定手段によって決定された目標制動力と、前記制動力検出手段によって検出された制動力との差分に応じて、前記電動アクチュエータを駆動させる駆動制御手段と、前記制動力付与手段に発生したセルフサーボ効果が無効化しているか否かを判定する判定手段と、前記判定手段によって前記セルフサーボ効果が無効化していると判定されたとき、前記制動力検出手段によって検出された制動力を増加させる補正手段とを含んで構成したことにある。
【0008】
この場合、前記駆動制御手段は、前記目標制動力と前記検出された制動力との差分に応じた駆動電力を前記電動アクチュエータに供給して、前記電動アクチュエータを駆動させるものであり、前記補正手段は、前記駆動制御手段によって前記電動アクチュエータに供給される駆動電力が同一であるときの、前記セルフサーボ効果の生じた前記制動力付与手段が発生する制動力と前記セルフサーボ効果の無効化した前記制動力付与手段が発生する制動力との差分を用いて補正量を決定し、この決定した補正量を前記制動力検出手段によって検出された制動力に加算して補正するとよい。そして、この場合、前記セルフサーボ効果の生じた前記制動力付与手段が発生する制動力は、例えば、前記駆動制御手段によって前記電動アクチュエータに供給される駆動電力が保持されているときに、前記制動力検出手段によって検出された制動力を用いて決定されるとよい。
【0009】
また、前記車両用制動装置は、車両の車速を検出する車速検出手段を備え、前記判定手段は、前記車速検出手段によって検出された車速が予め設定された所定の車速以下である場合、および、前記制動力検出手段によって検出された制動力が短時間に減少した場合のうちの少なくとも一方であるとき、前記制動力付与手段に発生した前記セルフサーボ効果が無効化したと判定するとよい。
【0010】
さらに、前記制動力付与手段は、前記電動アクチュエータを駆動源としてブレーキシューをブレーキドラムに圧着させて制動力を発生するものであり、前記目標制動力決定手段は、前記目標制動力に対応し、前記電動アクチュエータが前記ブレーキシューに対して付与する目標荷重を決定するものであり、前記制動力検出手段は、検出される制動力に対応し、前記電動アクチュエータが前記ブレーキシューに対して付与する荷重を検出するものであるとよい。
【0011】
これらによれば、車両を減速させるために制動力付与手段が制動力を発生させているときに、減速に伴ってセルフサーボ効果が無効化したか否かを判定することができる。そして、セルフサーボ効果が無効化した場合には、無効化に伴って減少した分に相当する補正量、すなわち、制動力の差分(荷重の差分)を適切に決定し、この決定した補正量を検出制動力(検出荷重)に加算して適切に増加させて補正することができる。これにより、セルフサーボ効果が無効化して検出された制動力が急減し、目標制動力との差分が大幅に増加する状況であっても、検出された制動力を補正量によって適切に増加させることができるため、電動アクチュエータに供給する駆動電力の急増を防止できるとともに連続性を保つことができる。
【0012】
また、補正量を決定する際には、電動アクチュエータに供給される駆動電力が同一であるときに、セルフサーボ効果の生じた制動力付与手段が発生する制動力とセルフサーボ効果の無効化した制動力付与手段が発生する制動力との差分を用いて補正量を決定することができ、セルフサーボ効果の生じた制動力付与手段が発生する制動力は、電動アクチュエータに供給される駆動電力が保持されているときに、検出された制動力を用いて決定することができる。このように、駆動電力が保持されて電動アクチュエータが作動制御されている状態では、制御の応答遅れ等が発生しないため、駆動電力および制動力の時間変化はほとんどなく極めて安定する。これにより、セルフサーボ効果の生じた制動力付与手段が発生する制動力を用いて決定される補正量は極めて精度がよく、電動アクチュエータに供給する駆動電力の急増を確実に防止できるとともに連続性を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用制動装置の構成を概略的に示す概略構成図である。
【図2】図1の制動部の作動を説明するための概略図である。
【図3】車両停止時における荷重の時間変化およびモータ電流値の時間変化を説明するための図である。
【図4】セルフサーボ発生時におけるモータ電流値と実現可能な荷重との関係を表すマップと、セルフサーボ無効化時におけるモータ電流値と実現可能な荷重との関係を表すマップとを説明するための図である。
【図5】車両減速時における荷重の時間変化、電動アクチュエータの制御モードおよびモータ電流値の時間変化を説明するための図である。
【図6】セルフサーボ効果の有無による制御荷重の変化およびモータ電流値の変化を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る車両用制動装置について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る車両用制動装置Sのシステム構成を概略的に示している。この車両用制動装置Sは、車輪Wに対して制動力を付与する制動部10と、この制動部10の作動を制御する電気制御部20とを備えている。なお、図1においては、1輪に車両用制動装置Sを設けた場合を図示するが、例えば、車両の左右前輪側に車両用制動装置Sを設けたり、車両の左右後輪側や全輪に車両用制動装置Sを設けて実施可能であることはいうまでもない。また、本実施形態においては、制動部10のみが車輪Wの回転に制動力を付与するように実施するが、別途、例えば、油圧式の制動装置(具体的には、ディスクブレーキ装置など)を設けて、制動部10と油圧式の制動装置とが協働して車輪Wの回転に制動力を付与するように実施することもできる。
【0015】
制動力付与手段としての制動部10は、ブレーキドラム11とブレーキシュー12とを備えたドラムブレーキユニットである。ブレーキドラム11は、図示しないサスペンション装置を構成するナックルNに組み付けられたハブベアリングBに回転可能に支持されたハブHに対してナットにより固定されていて、車輪Wと一体的に回転するものである。2個一対のブレーキシュー12は、図1および図2に示すように、ブレーキドラム11内に収容されており、車体側に回転不能に固定されるバックプレートBPに対して組み付けられている。そして、ブレーキシュー12は、後述する電気制御部20によって駆動制御される電動アクチュエータ13の駆動力により、摩擦部材としてのライニング12aがブレーキドラム11の内周面に対して摩擦係合するようになっている。
【0016】
なお、電動アクチュエータ13としては、例えば、電動モータやソレノイドなど電磁的に駆動制御されて駆動力を発生できるものを主要構成部品として構成すればいかなるものを採用してもよいため、以下の説明においては電動モータを採用するものとして説明する。また、ブレーキシュー12が電動アクチュエータ13の駆動力によって作動すること以外の構造および作動については、油圧によって作動する周知のドラムブレーキユニットと同様であるため、その説明を省略する。
【0017】
このように構成された制動部10においては、運転者によって図示しないブレーキペダルが操作されると、電気制御部20による後述の駆動制御に従って電動アクチュエータ13が駆動する。すなわち、運転者がブレーキペダルを踏み込み操作すると、電動アクチュエータ13は、図2に示すように、駆動力によって2個一対のブレーキシュー12の一端側を広げ、ライニング12aをブレーキドラム11の内周面に対して圧着させる方向に変位させる。これにより、車輪Wと一体的に回転するブレーキドラム11に対してライニング12aを摩擦係合させて摩擦力を発生させ、この摩擦力が車輪Wの回転を制動する制動力として付与される。一方、運転者がブレーキペダルを戻し操作すると、電動アクチュエータ13は、駆動力によってブレーキシュー12の一端側を縮め、ライニング12aをブレーキドラム11の内周面から離間させる方向に変位させる。これにより、ライニング12とブレーキドラム11の内周面との摩擦係合を解除し、回転する車輪Wに制動力を付与しない。
【0018】
電気制御部20は、図1に示すように、電子制御ユニット21を備えている。電子制御ユニット21は、互いにバスで接続されたCPU21a、ROM21b、不揮発性RAM21c、Buck up RAM21dおよび入出力回路(インターフェース21e)を主要構成部品とするマイクロコンピュータである。また、電気制御部20は、荷重センサ22、ストロークセンサ23および車速センサ24を備えており、これら各センサ22〜24がそれぞれ電子制御ユニット21に接続されている。
【0019】
荷重センサ22は、図2に示すように、2個一対のブレーキシュー12の他端側に設けられており、電動アクチュエータ13の駆動力によってブレーキシュー12(ライニング12a)がブレーキドラム11と摩擦係合するときにブレーキシュー12に作用する荷重を検出し、この検出荷重Fを表す信号を出力する。ストロークセンサ23は、図示しないブレーキペダルに設けられており、運転者によるブレーキペダルの操作量すなわちペダルストローク量を検出し、この検出ペダルストローク量Sを表す信号を出力する。車速センサ24は、車両の車速を検出し、この検出車速Vを表す信号を出力する。
【0020】
さらに、電気制御部20は、電動アクチュエータ13の駆動を制御するための駆動回路25を備えている。駆動回路25は、電源としてのバッテリ26から供給された電力を電子制御ユニット21(より詳しくは、CPU21a)の制御に応じて電動アクチュエータ13に出力するものである。そして、駆動回路25内には、電動アクチュエータ13(電動モータ)に流れる駆動電流を検出するための電流検出器25aが設けられている。電流検出器25aは、電動アクチュエータ13(電動モータ)に流れる駆動電流(以下、モータ電流値Iという)を検出し、このモータ電流値Iを表す信号を電子制御ユニット21に出力する。これにより、電子制御ユニット21(より詳しくは、CPU21a)は、電流検出器25aによって出力されたモータ電流値Iに基づき、電動アクチュエータ13をフィードバック制御する。
【0021】
次に、上記のように構成した車両用制動装置Sの作動について説明する。まず、工場にて車両用制動装置Sが車両に組み付けられると、電子制御ユニット21(より詳しくは、CPU21a)は、車両停止時すなわち車輪Wが回転していない場合におけるモータ電流値Iと荷重Fとの関係を学習する。具体的に説明すると、電子制御ユニット21のCPU21aは、図3に示すように、例えば、ROM21b内に予め記憶されているモータ電流値Iの時間変化勾配に従い、駆動回路25を介して電動アクチュエータ13を駆動させるとともに、インターフェース21eを介して荷重センサ22によって検出された荷重Fを入力する。
【0022】
これにより、車両が停止している状態において、電動アクチュエータ13は供給されるモータ電流値Iの増加に伴ってブレーキシュー12をブレーキドラム11の内周面に対して圧着させる駆動力を増加させ、その結果、荷重センサ22によって検出される荷重Fが直線状に増加する。一方、車両が停止している状態において、電動アクチュエータ13は供給されるモータ電流値Iの減少に伴ってブレーキシュー12をブレーキドラム11の内周面に対して圧着させる駆動力を減少させ、その結果、荷重センサ22によって検出される荷重Fが直線状に減少する。
【0023】
そして、電子制御ユニット21のCPU21aは、車両停止時におけるモータ電流値Iと荷重Fとの関係として、直線状に増加する関係にある複数のモータ電流値Iと荷重Fを記憶するとともに、直線状に減少する関係にある複数のモータ電流値Iに対する荷重Fを記憶する。具体的に例を挙げて説明すると、図3にて黒丸で示すように、モータ電流値Iの増加時(すなわち荷重Fの増加時)においては、電子制御ユニット21のCPU21aは、荷重センサ22および電流検出器25aからの検出値を用いて、直線状に増加する荷重線図の始点に対応する荷重F1とこの荷重F1となるときのモータ電流値I1を含め、この荷重線図上に存在する荷重F2となるときのモータ電流値I2および荷重F3となるときのモータ電流値I3を特定する。そして、電子制御ユニット21のCPU21aは、特定したモータ電流値I1,I2,I3と対応する荷重F1、F2,F3を不揮発性RAM21cの所定記憶位置に記憶(学習)する。
【0024】
同様に、モータ電流値Iの減少時(すなわち荷重Fの減少加時)においては、電子制御ユニット21のCPU21aは、図3にて白抜き丸で示すように、荷重センサ22および電流検出器25aからの検出値を用いて、直線状に減少する荷重線図の始点に対応する荷重Fとこの荷重Fとなるときのモータ電流値Iを含め、この荷重線図上に存在する荷重Fになるときのモータ電流値Iを複数特定する。そして、電子制御ユニット21のCPU21aは、同様に、特定したモータ電流値Iと対応する荷重Fを不揮発性RAM21cの所定記憶位置に記憶(学習)する。
【0025】
続いて、電子制御ユニット21のCPU21aは、不揮発性RAM21cの所定記憶位置に記憶(学習)した複数の前記モータ電流値Iと対応する荷重Fを用いて、図4に示すように、車両停止時におけるモータ電流値Iと実現可能な荷重Fとの関係を表すマップを作成する。そして、電子制御ユニット21のCPU21aは、作成した車両停止時におけるモータ電流値Iと実現可能な荷重Fとの関係を表すマップを不揮発性RAM21cの所定記憶位置に記憶する。このように、車両停止時におけるマップを作成して記憶することにより、電子制御ユニット21のCPU21aは、車両を停止状態に維持するために車輪Wに付与する制動力として、この制動力に対応する目標荷重Fdを発生させるための目標モータ電流値Idを決定することができる。
【0026】
次に、電子制御ユニット21のCPU21aは、車両減速時すなわち車輪Wが回転している場合におけるモータ電流値Iと荷重Fとの関係を学習する。ここで、車両減速時における電子制御ユニット21による電動アクチュエータ13の制御について簡単に説明しておく。
【0027】
運転者がブレーキペダルを踏み込み操作した場合、電子制御ユニット21は、ストロークセンサ23から踏み込み操作に応じたブレーキペダルのペダルストローク量Sを入力するとともに、車速センサ24から車速Vを入力する。そして、電子制御ユニット21のCPU21aは、ROM21b内に予め記憶されていて、ペダルストローク量Sおよび車速Vと、車両を減速させるために必要な制動力、言い換えれば、必要な制動力に対応してブレーキシュー12に作用させる荷重Fとの関係に基づき、前記入力したペダルストローク量Sおよび車速Vを用いて目標荷重Fd(目標制動力に相当)を決定する。
【0028】
このように、目標荷重Fdを決定すると、電子制御ユニット21のCPU21aは、ROM21b内に予め記憶された荷重Fとモータ電流値Iとの関係に基づき、前記決定した目標荷重Fdに対応する目標モータ電流値Idを決定する。そして、CPU21aは、この決定した目標モータ電流値Idをフィードフォワード項として、駆動回路25を介して電動アクチュエータ13を駆動させる。このとき、CPU21aは、荷重センサ22から検出制動力に相当する検出荷重F(以下、制御荷重Frともいう)を入力し、目標荷重Fdと制御荷重Frとの差分に対して予め設定されたゲインを乗じた値をフィードバック項とし、前記フィードフォワード項にフィードバック項を加えて電動アクチュエータ13を駆動させる。なお、CPU21aは、フィードバック項を加えるにあたり、目標荷重Fdと制御荷重Frとの差分の大きさに応じた制御モードとして、制御荷重Frを大きくするためにモータ電流値Iを大きくする増大モード、制御荷重Frの大きさを保持するためにモータ電流値Iを保持する保持モードおよび制御荷重Frを小さくするためにモータ電流値Iを減少させる減少モードにより印加する電流値を変更制御する。
【0029】
これにより、電動アクチュエータ13は目標モータ電流値Idに対応した駆動力を発生し、ブレーキシュー12に目標荷重Fdとなる荷重Fを発生させる。これにより、ブレーキシュー12のライニング12aがブレーキドラム11の内周面と摩擦係合し、その結果、車両を減速させるために必要な制動力を発生させる。
【0030】
ところで、図2に示したドラムブレーキユニットにおいては、所謂、リーディングトレーリング方式を採用しているため、ブレーキドラム11の回転方向に対して、2個一対のブレーキシュー12のうち、一方がリーディング側となり他方がトレーリング側となる。そして、リーディング側となるブレーキシュー12においては、回転しているブレーキドラム11によって引き込まれる力が作用するため、ブレーキドラム11との間に発生する摩擦力が大きくなって制動力が大きくなる、所謂、セルフサーボ効果が発生する。したがって、車両減速時にセルフサーボ効果が発生すると、モータ電流値Iが同一であっても車両停止時に比して制動力すなわち荷重Fが大きくなる。このため、電子制御ユニット21のCPU21aは、車両減速時のセルフサーボ効果が発生する場合におけるモータ電流値Iと荷重Fとの関係を学習する。このことを図5を用いて具体的に説明する。
【0031】
今、図5(a)に示すように、車両減速時において、実線により示す目標荷重Fdに対して破線により示す制御荷重Frが変化している場合を想定する。この場合、電子制御ユニット21のCPU21aは、図5(b)に示すように、目標荷重Fdの変化に合わせて、増大モード、保持モードおよび減少モードを切り替えて制御荷重Frが目標荷重Fdに略一致するようにする。ここで、図5(c)に示すように、モータ電流値Iは、制御荷重Frが目標荷重Fdに略一致する、言い換えれば、制御モードが保持モードに切り替えられた場合にも「0」になることはない。そして、図5(c)からも明らかなように、制御荷重Frが目標荷重Fdに略一致する状態では、制御の応答遅れ等が発生しないため、モータ電流値Iの時間変化はほとんどなく極めて安定している。
【0032】
このため、電子制御ユニット21のCPU21aは、増大モードから保持モードに切り替えた時点(図5(c)において黒三角で示す点)における荷重F4とモータ電流値I4とを特定する。そして、電子制御ユニット21のCPU21aは、特定した荷重F4とモータ電流値I4とを、車両減速時における、言い換えれば、セルフサーボ効果が発生している場合のモータ電流値Iと荷重Fとの関係として不揮発性RAM21cの所定記憶位置に記憶(学習)する。一方、電子制御ユニット21のCPU21aは、減少モードから保持モードに切り替えた時点(図5(c)において白抜き三角で示す点)における荷重F5とモータ電流値I5とを車両減速時における、言い換えれば、セルフサーボ効果が発生している場合のモータ電流値Iと荷重Fとの関係として記憶(学習)する。
【0033】
続いて、電子制御ユニット21のCPU21aは、不揮発性RAM21cの所定記憶位置に記憶(学習)したモータ電流値I4と対応する荷重F4およびモータ電流値I5と対応する荷重F5を用いて、図4に示すように、車両減速時におけるモータ電流値Iと実現可能な荷重Fとの関係を表すマップを作成する。そして、電子制御ユニット21のCPU21aは、作成した車両減速時におけるモータ電流値Iと実現可能な荷重Fとの関係を表すマップを不揮発性RAM21cの所定記憶位置に記憶する。このように、車両減速時におけるマップを作成して記憶することにより、電子制御ユニット21のCPU21aは、車両を減速させるために車輪Wに付与する制動力として、この制動力に対応する目標荷重Fdを発生させるための目標モータ電流値Idを決定することができる。
【0034】
そして、車両停止時と車両減速時におけるマップをそれぞれ作成して記憶することにより、例えば、車速センサ24によって検出される車速Vに応じてマップを切り替えることができる。これにより、車両の状態に応じて電動アクチュエータ13を適切に駆動させることができて適切な制動力を車輪Wに付与することができる。なお、上述した記憶(学習)については、例えば、車両が停車した状態であるときや、車両が減速していて増大モード(または減少モード)から保持モードに切り替えたときに繰り返し行うことによって、作成されるマップの精度を向上させることができる。その結果、より適切に電動アクチュエータ13を駆動させて、適切な制動力を車輪Wに付与することができる。
【0035】
ところで、上述したセルフサーボ効果は、車輪Wすなわちブレーキドラム11が回転しているときに発生するものである。このため、車速Vの減少に伴ってセルフサーボ効果は減少し、車両が停止したときにはセルフサーボ効果は無効化する。したがって、図6(a),(c)に示すように、車両が減速を開始して検出車速Vがある程度大きい場合にはセルフサーボ効果の発生によって制御荷重Fr(検出荷重F)は大きいものの、検出車速Vが実験的に予め設定された所定の車速V0以下となってほぼ「0」となる場合にはセルフサーボ効果の無効化によって制御荷重Fr(検出荷重F)は急激に低下する。このとき、図6(a)にて実線により示す制御荷重Fr(検出荷重F)を一点鎖線により示す目標荷重Fdに追従させようとすると、図6(b)に実線により示すように、電動アクチュエータ13に供給するモータ電流値I(目標モータ電流値Id)を車両が停止する前よりも大きく急増させる必要がある。
【0036】
ここで、セルフサーボ効果の有無により変化する制御荷重Fr(検出荷重F)の差分すなわち荷重差ΔFは、図4に示すように、車両停止時のマップと車両減速時のマップとにおいてモータ電流値Iを同一としたときの差分に等しくなる。このため、この荷重差ΔF分を荷重センサ22によって検出される検出荷重Fに加算して、すなわち、検出荷重Fを荷重差ΔF分だけ増加させて(嵩上げして)補正して制御荷重Frとみなさせば、図6(a)に破線により示すように、目標荷重Fdと制御荷重Frとの差が、セルフサーボ効果が無効化する前後において急変しない。したがって、制御荷重Frを目標荷重Fdに追従させる場合であっても、図6(b)に破線により示すように、セルフサーボ効果が無効化する前後において電動アクチュエータ13に供給するモータ電流値I(目標モータ電流値Id)の連続性を保つことができる。
【0037】
このため、電子制御ユニット21のCPU21aは、減速に伴って、車速センサ24から入力した車速Vが所定の小さな車速V0以下となるとき、すなわち、セルフサーボ効果が無効化するときに合わせて、現在、電動アクチュエータ13に対して供給しているモータ電流値Iを駆動回路25の電流検出器25aから入力する。そして、図4に示した車両停止時のマップと車両減速時のマップとを用いて、入力したモータ電流値Iのときの荷重差ΔFを計算する。
【0038】
次に、CPU21aは、荷重センサ22によって検出された荷重Fに対して前記計算した荷重差ΔFを加算して補正し、制御荷重Fr(=F+ΔF)を決定する。そして、上述した制御モードによって電動アクチュエータ13の駆動を制御するときには、CPU21aは、補正した制御荷重Frと目標荷重Fdとの差分を計算することにより、電動アクチュエータ13に供給するモータ電流値I(目標モータ電流値Id)の急増を防止するとともに連続性を保つことができる。
【0039】
以上の説明からも理解できるように、本実施形態によれば、車両を減速させるために制動部10が制動力を発生させているときに、車速Vの減少に伴ってセルフサーボ効果が無効化したか否かを判定することができる。そして、セルフサーボ効果が無効化した場合には、無効化に伴って減少した分(差分)に相当する荷重差ΔFを適切に決定することができる。そして、決定した荷重差ΔFを検出荷重Fに加算することによって適切に増加させて補正することができる。これにより、セルフサーボ効果が無効化して検出荷重Fが急減し、制御荷重Frと目標制動力Fdとの差分が大幅に増加する状況であっても、電動アクチュエータ13に供給するモータ電流値I(目標モータ電流値Id)の急増を防止できるとともに連続性を保つことができる。
【0040】
また、車両減速時、すなわち、セルフサーボ効果が発生したときにおけるモータ電流値Iと実現可能な荷重Fとの関係を表すマップは、制御モードが保持モードに切り替えられて、制御荷重Frが目標荷重Fdに略一致するときのモータ電流値Iを用いて作成される。このように、保持モードにより電動アクチュエータ13が作動制御されている状態では、制御の応答遅れ等が発生しないため、モータ電流値Iおよび制御荷重Fr(検出荷重F)の時間変化はほとんどなく極めて安定する。これにより、セルフサーボ効果が発生したときにおけるマップを精度よく作成することができるため、このマップを用いて決定される荷重差ΔFを極めて精度よく決定することができる。したがって、電動アクチュエータ13に供給するモータ電流値I(目標モータ電流値Id)の急増を確実に防止できるとともに連続性を保つことができる。
【0041】
さらに、セルフサーボ効果の有無に応じて作成されるモータ電流値Iと実現可能な荷重Fとの関係を表すマップは、それぞれ、学習によって適切に更新されて記憶することができる。このように、適宜更新されるマップを用いて電動アクチュエータ13の作動を制御することによって、例えば、制動部10の経年変化などによって生じる誤差や使用環境温度の違いなどの影響を最小限に抑え、これらの影響に対するロバスト性を良好に確保した制御が可能となる。
【0042】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0043】
例えば、上記実施形態においては、電子制御ユニット21(より詳しくは、CPU21a)が車速センサ24によって検出された車速Vが所定の車速V0以下となったときに、セルフサーボ効果が無効化していると判定するように実施した。この場合、車速センサ24によって検出された車速Vを用いることに代えて、または、加えて、荷重センサ22によって検出された検出荷重F(制御荷重F)が、図6(a)に示したように、短時間に減少した場合に、セルフサーボ効果が無効化したと判定するように実施することも可能である。この場合であっても、ドラムブレーキユニットに発生したセルフサーボ効果が無効化したか否かを正確に判定することができるため、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0044】
また、上記実施形態においては、制動力付与手段として、電動アクチュエータ13が発生する駆動力によって作動するブレーキシュー12がブレーキドラム11に圧着されることによって制動力を発生するドラムブレーキユニットを採用して実施した。この場合、セルフサーボ効果が若干小さくなるものの、制動力付与手段として、所謂、ディスクブレーキユニットを採用して実施することも可能である。この場合には、電動アクチュエータがブレーキキャリパ内に設けられてブレーキパッドをブレーキディスクに圧着させることにより制動力を発生させることができる。そして、この場合においても、発生するセルフサーボ効果の無効化を考慮して電動アクチュエータを作動制御することにより、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【符号の説明】
【0045】
10…制動部、11…ブレーキドラム、12…ブレーキシュー、12a…ライニング、13…電動アクチュエータ、20…電気制御部、21…電子制御ユニット、21a…CPU、21b…ROM、21c…RAM、22…荷重センサ、23…ストロークセンサ、24…車速センサ、25…駆動回路、26…バッテリ、S…車両用制動装置、W…車輪、H…ハブ、B…ハブナット、N…ナックル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動アクチュエータを駆動源として車輪に制動力を付与する制動力付与手段と、前記電動アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備えた車両用制動装置において、
前記制御手段を、
運転者によるブレーキペダルの操作量に応じて前記制動力付与手段が発生する目標制動力を決定する目標制動力決定手段と、
前記制動力付与手段が発生する制動力を検出する制動力検出手段と、
前記目標制動力決定手段によって決定された目標制動力と、前記制動力検出手段によって検出された制動力との差分に応じて、前記電動アクチュエータを駆動させる駆動制御手段と、
前記制動力付与手段に発生したセルフサーボ効果が無効化しているか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記セルフサーボ効果が無効化していると判定されたとき、前記制動力検出手段によって検出された制動力を増加させる補正手段とを含んで構成したことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両用制動装置において、
前記駆動制御手段は、
前記目標制動力と前記検出された制動力との差分に応じた駆動電力を前記電動アクチュエータに供給して、前記電動アクチュエータを駆動させるものであり、
前記補正手段は、
前記駆動制御手段によって前記電動アクチュエータに供給される駆動電力が同一であるときの、前記セルフサーボ効果の生じた前記制動力付与手段が発生する制動力と前記セルフサーボ効果の無効化した前記制動力付与手段が発生する制動力との差分を用いて補正量を決定し、この決定した補正量を前記制動力検出手段によって検出された制動力に加算して補正することを特徴とする車両用制動装置。
【請求項3】
請求項2に記載した車両用制動装置において、
前記セルフサーボ効果の生じた前記制動力付与手段が発生する制動力は、
前記駆動制御手段によって前記電動アクチュエータに供給される駆動電力が保持されているときに、前記制動力検出手段によって検出された制動力を用いて決定されることを特徴とする車両用制動装置。
【請求項4】
請求項1に記載した車両用制動装置において、さらに、
車両の車速を検出する車速検出手段を備え、
前記判定手段は、
前記車速検出手段によって検出された車速が予め設定された所定の車速以下である場合、および、前記制動力検出手段によって検出された制動力が短時間に減少した場合のうちの少なくとも一方であるとき、前記制動力付与手段に発生した前記セルフサーボ効果が無効化したと判定することを特徴とする車両用制動装置。
【請求項5】
請求項1に記載した車両用制動装置において、
前記制動力付与手段は、前記電動アクチュエータを駆動源としてブレーキシューをブレーキドラムに圧着させて制動力を発生するものであり、
前記目標制動力決定手段は、
前記目標制動力に対応し、前記電動アクチュエータが前記ブレーキシューに対して付与する目標荷重を決定するものであり、
前記制動力検出手段は、
検出される制動力に対応し、前記電動アクチュエータが前記ブレーキシューに対して付与する荷重を検出するものであることを特徴とする車両用制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−156959(P2011−156959A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19958(P2010−19958)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】