説明

車両用動力伝達装置

【課題】電動機をケース内備えた車両用動力伝達装置において、多大な加工を必要とせず電動機のステータコイルを効率よく冷却することができる車両用動力伝達装置を提供する。
【解決手段】軸方向において第2電動機MG2のステータコイル62の内径部と重複する位置まで延設されている軸受支持部98の外周面には、油をステータコイル62へ滴下させるための切欠溝100が形成されるため、軸受64等を潤滑した油が、軸受支持部98に形成される切欠溝100からステータコイル62に滴下するに従い、ステータコイル62が効率よく冷却される。すなわち、軸受64等を潤滑した後も冷却能力を有する油をステータコイル62の冷却にさらに使用し、しかも、そのステータコイル62へ到達される油量が切欠溝100によって増加するため、ステータコイル62を効率よく冷却することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機を備えた車両用動力伝達装置に係り、特に、その電動機の冷却効率を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両や電気自動車など、駆動源として機能する少なくとも1つの電動機を動力伝達装置のケース内に備え、その電動機から発生する駆動力を利用して走行する、或いは、減速時において駆動輪側からの被駆動トルクによって回生エネルギを発生させるなど、電動機を車両の走行状態に応じて制御する形式の車両が知られている。上記のような電動機を備えた車両用動力伝達装置においては、駆動中にステータコイルが発熱するため、そのステータコイルを冷却する必要が生じる。そこで、ステータコイルを冷却するため、従来では動力伝達装置の機械要素を潤滑するための潤滑油路とは独立した冷却油路を設け、その冷却油路から供給される油によってステータコイルを冷却する方法が取られていた。
【0003】
上記構成では、ステータコイルの冷却能力を上昇させるためには、油量を増加させる必要があり、結果としてオイルポンプのポンプ容量が大きくなり、燃費が悪化する問題があった。これに対して、例えば特許文献1のハイブリッド車両の駆動装置においては、ロータの軸方向両端に位置するエンドプレートにそれぞれ油溜まりを形成するための堰を設け、ロータ内周側から軸受などの機械要素を潤滑した後の油を上記油溜まりに滴下させる。そして、油溜まりの油を、ロータに形成した潤滑油路を経て遠心力によってステータコイル(電磁コイル)に到達させてステータコイルを冷却する技術が開示されている。これより、機械要素を潤滑した油をさらにステータコイルの冷却に利用することで、ステータコイルの冷却性が向上することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−169448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のハイブリッド車両の駆動装置において、ステータコイルに油を到達させるために、ロータに堰および潤滑油路を設けることから、加工工数が増加して生産コストが増加する問題があった。また、油の表面張力によって、ケースからロータに形成されている油溜まりへ滴下せずにケースを伝ってオイルパンに環流する油も多く、効果的にステータコイルに油を到達させることが困難であった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、電動機をケース内に備えた車両用動力伝達装置において、多大な加工を必要とせず電動機のステータコイルを効率よく冷却することができる車両用動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための、請求項1にかかる発明の要旨とするところは、(a)環状の端部が軸方向に突き出すステータコイルを有する電動機と、潤滑を必要とする機械要素と、その機械要素へ油を供給するための油路とを、ケース内に備え、その機械要素を潤滑した油をそのケースの内壁面を伝ってオイル溜まりに環流させる車両用動力伝達装置であって、(b)軸方向において前記電動機のステータコイルの端部の内径部と重複する位置まで前記ケースの内壁面から延設され、前記機械要素を潤滑した後の油を導く延設部が形成され、(c)その延設部の外周面であって、軸方向においてそのステータコイルと重複する位置には、その外周面を伝う油環流経路を遮断して、油を前記ステータコイルへ滴下させるための凹部または凸部が形成されていることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2にかかる発明の要旨とするところは、請求項1の車両用動力伝達装置において、前記延設部は、前記電動機のロータを回転可能に支持するための軸受が嵌め着けられている前記ケースの軸受支持部を軸方向に延長したものであることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3にかかる発明の要旨とするところは、請求項1または2の車両用動力伝達装置において、前記凹部は、前記延設部の外周面に同心円状に形成される切欠溝であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4にかかる発明の要旨とするところは、請求項1または2の車両用動力伝達装置において、前記凸部は、前記延設部の外周面に同心円状に設けられるリング部材であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項5にかかる発明の要旨とするところは、請求項4の車両用動力伝達装置において、前記リング部材は前記延設部の外周面に同心円状に形成される切欠溝に嵌め着けられたスナップリングであることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6にかかる発明の要旨とするところは、請求項1、3、または4のいずれか1つの車両用動力伝達装置において、前記凹部および凸部は、前記延設部の外周面のうち軸心より鉛直下方側に位置する部分に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記延設部の外周面には、その外周面を伝う油環流経路を遮断して、油をステータコイルへ滴下させるための凹部または凸部が形成されるため、機械要素を潤滑した油が、延設部の外周面に形成される凹部または凸部からステータコイルに滴下するに従い、ステータコイルが効率よく冷却される。すなわち、機械要素を潤滑した後も冷却能力を有する油をステータコイルの冷却にさらに使用し、しかも、そのステータコイルへ供給される油量が延設部の外周面に形成される凹部または凸部によって大幅に増加するため、ステータコイルを効率よく冷却することができる。したがって、電動機のステータコイルを冷却する独立した油路をなくしても、ステータコイルを冷却することも可能となる。また、ステータコイルへの油量が凹部または凸部によって増加するに従い、オイルポンプの容量増加すなわちオイルポンプの大型化も抑制することができる。
【0014】
また、請求項2にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記延設部は、前記電動機のロータを回転可能に支持するための軸受が嵌め着けられている前記ケースの軸受支持部を軸方向に延長したものであるため、既存の部品に対して小さな変更を加えることだけで容易に延設部を形成することができる。したがって、生産コスト増加が抑制される。
【0015】
また、請求項3にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記凹部は、前記延設部の外周面に同心円状に形成される切欠溝であるため、その切欠溝によって延設部の外周面を伝ってオイル溜まりに戻る油環流経路が遮断され、重力に従って油がステータコイルへ滴下される。したがって、ステータコイルへ供給される油量が増加してステータコイルの冷却効率が向上する。また、凹部は切欠溝を設けるだけですむため、簡易な加工で凹部を形成することができるに従い、それに伴う生産コストが抑制される。
【0016】
また、請求項4にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記凸部は、前記延設部の外周面に同心円状に設けられるリング部材であるため、そのリング部材によって延設部の外周面を伝ってオイル溜まりに戻る油環流経路が遮断され、重力に従って油がステータコイルへ滴下される。したがって、ステータコイルへ到達する油量が増加してステータコイルの冷却効率が向上する。
【0017】
また、請求項5にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記リング部材は延設部の外周面に同心円状に形成される切欠溝に嵌め着けられたスナップリングであるため、容易に凸部を延設部に形成することができ、実用的な車両用動力伝達装置となる。
【0018】
また、請求項6にかかる発明の車両用動力伝達装置によれば、前記凹部および凸部は、前記延設部の外周面のうち軸心より鉛直下方側に位置する部分に形成されるため、重力に従って延設部の外周面を伝う油が、確実に凹部および凸部を通ってステータコイルへ滴下される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明が好適に適用されたハイブリッド車両の動力伝達装置を説明する概略構成図である。
【図2】図1の上記動力伝達装置において、主に第2電動機および遊星歯車装置の構成を説明する要部断面図である。
【図3】図2の遊星歯車装置近傍をさらに拡大して示した拡大断面図である。
【図4】図3の切欠溝の一例を示す断面図である。
【図5】図3の切欠溝の一例を示す他の断面図である。
【図6】軸受支持部の外周面に凸部を形成した一例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ここで、好適には、前記動力伝達装置は、ハイブリッド車両や電気自動車において、好適に適用されるものである。
【0021】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明が適用されたハイブリッド車両用動力伝達装置10(以下、車両用動力伝達装置10と記載)を説明する概略構成図である。図1において、この車両用動力伝達装置10では、車両において、主駆動源である第1駆動源12のトルクが出力部材として機能する車輪側出力軸(以下、出力軸という)14に伝達され、その出力軸14から差動歯車装置16を介して左右一対の駆動輪18にトルクが伝達されるようになっている。また、この車両用動力伝達装置10には、走行のための駆動力を出力する力行制御およびエネルギを回収するための回生制御を選択的に実行可能な第2電動機MG2が遊星歯車装置20を介して動力伝達可能に出力軸14に連結されている。
【0023】
上記第1駆動源12は、主動力源としてのエンジン24と、第1電動機MG1と、これらエンジン24と第1電動機MG1との間でトルクを合成もしくは分配するための動力分配機構(差動機構)としての遊星歯車装置26とを主体として構成されている。上記エンジン24は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃料を燃焼させて動力を出力する公知の内燃機関で構成されている。
【0024】
上記第1電動機MG1(差動用電動機)は、例えば同期電動機であって、駆動トルクを発生させる電動機としての機能と発電機としての機能とを選択的に生じるように構成され、インバータ30を介してバッテリー、コンデンサなどの蓄電装置32に接続されている。そして、マイクロコンピュータを主体とするモータジェネレータ制御用の電子制御装置(MG−ECU)28によってそのインバータ30が制御されることにより、第1電動機MG1の出力トルクあるいは回生トルクが調節或いは設定されるようになっている。
【0025】
前記遊星歯車装置26は、サンギヤS1と、そのサンギヤS1に対して同心円上に配置されたリングギヤR1と、これらサンギヤS1およびリングギヤR1に噛み合うピニオンギヤP1を自転かつ公転自在に支持するキャリヤCA1とを3つの回転要素として備えて公知の差動作用を生じるシングルピニオン型の遊星歯車機構である。遊星歯車装置26はエンジン24と同心に設けられている。なお、遊星歯車装置26は中心線に対して対称的に構成されているため、図1ではそれらの下半分が省略されている。
【0026】
本実施例では、エンジン24のクランク軸36はダンパー38を介して遊星歯車装置26のキャリヤCA1に連結されている。これに対してサンギヤS1には第1電動機MG1が連結され、リングギヤR1には出力軸14が連結されている。このキャリヤCA1は入力要素として機能し、サンギヤS1は反力要素として機能し、リングギヤR1は出力要素として機能している。
【0027】
上記遊星歯車装置26において、キャリヤCA1に入力されるエンジン24の出力トルクに対して、第1電動機MG1による反力トルクがサンギヤS1に入力されると、出力要素となっているリングギヤR1には、直達トルクが現れるので、第1電動機MG1は発電機として機能する。また、リングギヤR1の回転速度すなわち出力軸14の回転速度(出力軸回転速度)Noutが一定であるとき、第1電動機MG1の回転速度Nmg1を上下に変化させることにより、エンジン24の回転速度(エンジン回転速度)Neを連続的に(無段階に)変化させることができる。すなわち、エンジン回転速度Neを例えば燃費が最もよい回転速度に設定する制御を、第1電動機MG1を制御することによって実行することができる。この種のハイブリッド形式は、機械分配式あるいはスプリットタイプと称される。上記より、遊星歯車装置26の差動状態が第1電動機MG1によって電気的に制御される。
【0028】
第2電動機MG2(本発明の電動機に対応)と出力軸14(駆動輪18)との間の動力伝達経路に介装されている遊星歯車装置20は、その変速比γsが「1」より大きくなるように構成されており、第2電動機MG2からトルク(駆動力)を出力する力行時にはそのトルクを増大させて出力軸14へ伝達することができるので、第2電動機MG2が一層低容量もしくは小型に構成される。
【0029】
前記遊星歯車装置20は、サンギヤS2と、そのサンギヤS2に対して同心円上に配置されたリングギヤR2と、これらサンギヤS2およびリングギヤR2に噛み合うピニオンギヤP2を自転かつ公転可能に支持するキャリヤCA2とを3つ回転要素として備えて公知の差動作用を生じるシングルピニオン型の遊星歯車機構である。なお、遊星歯車装置20は、中心線に対して対称的に構成されているため、図1ではそれらの下半分が省略されている。
【0030】
前記第2電動機MG2は、前記モータジェネレータ制御用の電子制御装置(MG−ECU)28によりインバータ40を介して制御されることにより、電動機または発電機として機能させられ、アシスト用出力トルクあるいは回生トルクが調節或いは設定される。サンギヤS2にはその第2電動機MG2が連結され、上記キャリヤCA2が出力軸14に連結され、リングギヤR2が非回転部材であるケース42に連結されることで常時回転停止させられている。
【0031】
以上のように構成された遊星歯車装置20は、サンギヤS2が入力要素として機能し、またキャリヤCA2が出力要素として機能し、サンギヤS2に入力される第2電動機MG2の回転が減速されて出力軸14へ出力される。
【0032】
ところで、第2電動機MG2を駆動させると、第2電動機MG2のステータコイルが発熱するため、そのステータコイルを冷却する構成が必要となる。そこで、例えば図示しないオイルポンプから汲み上げた油をステータコイルへ供給する冷却油路を設定し、その冷却油路からの油によってステータコイルを冷却する方法がある。上記方法では、ステータコイルの冷却性能を向上させるには、オイルポンプの容量を増加させることが必要となる。そこで、本実施例の動力伝達装置10では、軸受などの潤滑を必要とする機械要素に供給される油を、さらにステータコイルの冷却に利用する構造とした。以下、上記第2電動機MG2が潤滑後の油によって冷却される冷却機構について説明する。
【0033】
図2は、上記動力伝達装置10において、主に第2電動機MG2および遊星歯車装置20周辺の構成を説明する要部断面図である。図2に示すように、非回転部材であるケース42内において、第1駆動源12の動力が伝達される出力軸14が回転可能に配設され、その出力軸14と同軸心C上に第2電動機MG2および遊星歯車装置20が軸方向において並んで配設されている。また、第2電動機MG2の軸方向において遊星歯車装置20側と反対側には、第2電動機MG2の回転速度を検出するためのレゾルバ46が設けられている。
【0034】
ケース42は、第2電動機MG2を覆うように配設されてる第1ケース42と遊星歯車装置20を覆うように配設されている第2ケース42とから構成され、複数本のボルト48が締結されることで、一体的に構成されている(以下、第1ケース42aと第2ケース42bとを区別しない場合には、単にケース42と記載する)。また、第1ケース42aの第2ケース42bと隣接する側には、その外周面から内周側に向かって伸びるケース42の一部である隔壁50が形成されており、第2電動機MG2と遊星歯車装置20とは隔壁50によって隔たれた状態となっている。
【0035】
出力軸14は、上述した図1の第1駆動源12の動力が伝達される回転軸であり、差動歯車装置16を介して駆動輪18に動力伝達可能に連結されている。また、出力軸14は、その両端が図示しない軸受によって回転可能に支持されている。
【0036】
第2電動機MG2は、ケース42に回転不能に固定されているステータ54(固定子)と、そのステータ54の内周側に配置されるロータ56(回転子)と、そのロータ56の内周縁に接続されてロータ56と一体的に回転するロータ支持軸58とを含んで構成されている。ステータ54は、例えば図示しないボルト等によってケース42に回転不能に固定されている。また、そのステータ54の軸方向の両端には、ステータ54から軸方向に突き出すと共に、周方向(回転方向)に連続的に連なる環状のステータコイル60、62が形成されている。これらのステータコイル60、62は、ステータ54に巻き付けられたステータコイルのうち、ステータ54が露出している端部(コイルエンド)に対応している。
【0037】
ロータ支持軸58は、円筒状に形成されており、その内部を出力軸14が貫通するように配設されている。そして、例えばケース42の隔壁50の内周端に嵌め着けられている軸受64等を介して軸心Cまわりに回転可能に支持されている。また、ロータ支持軸58の外周にロータ56が接続されていることから、ロータ56も同様に軸心Cまわりに回転可能に支持されることとなる。
【0038】
次に遊星歯車装置20について説明する。図3は、図2に示す遊星歯車装置20をさらに拡大した拡大断面図である。図3に示すように、遊星歯車装置20は、軸方向の一端がロータ支持軸58にスプライン嵌合されることで、ロータ支持軸58およびロータ56と一体的に回転する円筒形状のサンギヤS2と、そのサンギヤS2の外周歯と噛み合うピニオンギヤP2の中空穴に嵌め入れられた状態でそのピニオンギヤP2を回転可能に支持するキャリヤピン66と、そのキャリヤピン66の両端を支持するキャリヤCA2と、ピニオンギヤP2と噛み合わされている有底円筒状のリングギヤR2とを含んで構成されている。
【0039】
サンギヤS2は、軸方向の一端がロータ支持軸58にスプライン嵌合されている円筒部65と、その円筒部65に連結されて外周部にサンギヤS2の外周歯が形成されているギヤ部67とから構成される円筒状の部材であり、軸心Cまわりに回転可能に配設されている。また、サンギヤS2のギヤ部67の両端にはスラスト軸受69およびスラスト軸受71が介装されている。スラスト軸受69は、ギヤ部67とリングギヤR2の内周部との間に介装されて、サンギヤS2およびリングギヤR2とを相対回転可能に支持している。また、スラスト軸受71は、ギヤ部67とキャリヤCA2との間に介装され、サンギヤS2とキャリヤCA2とを相対回転可能に支持している。
【0040】
キャリヤCA2は、ピニオンギヤP2を回転可能に支持するキャリヤピン66の両端を支持するピニオン支持部68と、内周面が出力軸14の外周面にスプライン嵌合されている円筒状の円筒部70とから構成され、第2ケース42bの内周端に嵌め着けられている軸受72によって回転可能に支持されている。また、キャリヤCA2のピニオン支持部68の外周縁には、パーキングロック用のパークギヤ77が設けられており、図示しないパークポールが上記パークギヤ76と噛み合わされることによりキャリヤCA2(すなわち出力軸14)が回転停止させられる。
【0041】
リングギヤR2は有底円筒状形状を有し、内周面にリングギヤR2の内周歯が形成されている円筒状の円筒部74と、その円筒部の一端に連結されて有底部を構成する円板状の円板部76とから構成されている。また、円筒部74の外周縁の一端には、径方向に突き出す凸部78が形成されており、その凸部78が隔壁50に形成されている凹溝80と係合されることによって、リングギヤR2が常時回転停止させられている。
【0042】
上記のように構成される遊星歯車装置20において、リングギヤR2が常時回転停止させられていることから、サンギヤS2に入力される第2電動機MG2の回転が減速されてキャリヤCA2に出力される。
【0043】
ところで、上記遊星歯車装置20や軸受、ブッシュ等の潤滑を必要とする機械要素には、図3および図2に示すオイル溜まりとして機能するオイルパン82に貯留されている油がオイルポンプ84によって汲み上げられ、出力軸14内に形成されている潤滑油路86を通って供給される。具体的には、潤滑油路86には、例えば出力軸14の外周面と連通する径方向孔88、90が形成されており、油がその径方向孔88、90を通って径方向に放出される。そして、径方向孔88、90から放出された油は、出力軸14とサンギヤS2との間に形成されている間隙、或いは、サンギヤS2に形成されている連通孔92、94を通過することにより、軸受64、スラスト軸受69、71、ブッシュ、遊星歯車装置20等を潤滑する。そして、各軸受や遊星歯車装置20等を潤滑した油は、重力にしたがってケース42の壁面を伝って或いは滴下されるなどして、再びオイルパン82へ環流させられる。
【0044】
隔壁50の内周端に嵌め着けられている軸受64の潤滑について説明すると、主として矢印で示すように、オイルポンプ84から汲み上げられた油は、潤滑油路86に供給され、さらに径方向孔90を通り、出力軸14とサンギヤS2(円筒部)との間の間隙や連通孔92を通って軸受64に供給される。そして、軸受64を潤滑し通過した油は、隔壁50の壁面を伝うなどしてオイルパン82に環流される。なお、上記軸受64やスラスト軸受69、71やブッシュ、遊星歯車装置20等が、本発明の潤滑を必要とする機械要素に対応している。また、潤滑油路86、径方向孔88、90、連通孔92、94などの油を各機械要素へ供給するための油道が、本発明の機械要素へ油を供給するための油路に対応している。また、軸受64を潤滑した後において、破線の矢印で示すようにケース42(隔壁50)の壁面を伝ってオイルパン82に環流される経路が、機械要素を潤滑した油をケースの壁面(内壁面)を伝ってオイル溜まりに環流させる油環流経路CPに対応している。
【0045】
ところで、軸受64を潤滑(通過)した油は充分な冷却能力を有しており、本実施例では、その油を利用してステータコイル62を冷却するように構成されている。以下、上記構成について説明する。
【0046】
図3に示すように、ケース42の隔壁50の内周端において、ロータ支持軸58(ロータ56)を回転可能に支持する軸受64が嵌め着けられている円筒状の軸受支持部98が形成されている。上記軸受支持部98は、ステータ54から軸方向に突き出した環状のステータコイル62の内周側の位置であって、軸方向において第2電動機MG2のステータコイル62と重複する位置まで延設されている。また、軸受支持部98のテーパ状の外周面において、軸方向においてステータコイル62と重複する位置には、軸受支持部98の開口から排出されてその外周面を伝ってオイルパン82に環流される油環流経路CPを遮断して、油をステータコイル62上へ滴下させるための切欠溝100が形成されている。上記切欠溝100は、軸受支持部98の外周面において、内径側に窪む本発明の凹部に対応しており、その切欠溝100が形成されると、軸受支持部98の開口からそのテーパ状の外周面を伝って下方のオイルパン82へ環流される油環流経路CPが遮断されるため、切欠溝100に到達した油がその自重によって鉛直下方に滴下されることとなる。そして、その油は鉛直下方に位置されるステータコイル62に滴下されることで、その油によってステータコイル62が冷却される。なお、上記軸受支持部98が本発明の延設部に対応しており、軸受64等を潤滑した後に軸受支持部98の開口から排出される油をその外周面を伝ってオイルパン82に導いている。
【0047】
図4および図5は、軸受支持部98をA−A断面で切断した断面図である。切欠溝100は、切削加工によって形成され、例えば図4に示すように、軸受支持部98の鉛直下部において、その外周面に同心円上に形成されている。上記切欠溝100の深さおよび幅寸法は、軸受支持部98を伝う油環流経路CPを遮断することができる値に設定され、予め実験などによって求められる。また、軸受支持部98の開口から排出される油は、重力に従ってその外周面を伝って下方に移動することから、切欠溝100は、軸受支持部98の外周面のうち、軸心Cよりも鉛直下方側に位置する部分に形成される。しかしながら、加工上の都合により、上記切欠溝100が、軸受支持部98の上方を含んで円環状に形成されても構わない。
【0048】
図5は、切欠溝100の形状を示す他の一例である。図5に示すように、軸受支持部98の下端と接する接線Lと平行な切欠溝100が形成されている。上記のように切欠溝100が形成された場合であっても軸受支持部98の開口から軸受支持部98の外周面を伝う油の経路が遮断されるため、油が重力によってステータコイル62へ滴下されてステータコイル62が冷却される。なお、ステータコイル62を冷却した油はその自重によってステータコイル62から滴下され、再びオイルパン82に環流される。
【0049】
上述のように、本実施例によれば、軸方向において第2電動機MG2のステータコイル62の内径部と重複する位置まで延設されている軸受支持部98の円筒状の外周面には、その外周面を伝う油環流経路CPを遮断して、油をステータコイル62へ滴下させるための切欠溝100が形成されるため、軸受64等を潤滑した油が、軸受支持部98の外周面に形成される切欠溝100からステータコイル62に滴下するに従い、ステータコイル62が効率よく冷却される。すなわち、軸受64等を潤滑した後も冷却能力を有する油をステータコイル62の冷却にさらに使用し、しかも、そのステータコイル62へ到達される油量が軸受支持部98の外周面に形成される切欠溝100によって大幅に増加するため、ステータコイル62を効率よく冷却することができる。したがって、第2電動機MG2のステータコイル62を冷却する独立した油路をなくしても、ステータコイル62を冷却することも可能となる。また、ステータコイル62への油量が切欠溝100によって増加するに従い、オイルポンプ84の容量増加すなわちオイルポンプ84の大型化も抑制することができる。
【0050】
また、本実施例によれば、第2電動機MG2のロータ56を回転可能に支持するための軸受64が嵌め着けられているケース42の軸受支持部98を軸方向に延長するだけで本発明の円設部が形成されるため、既存の部品に対して小さな変更を加えることだけで容易に本構成を形成することができる。したがって、生産コスト増加が抑制される。
【0051】
また、本実施例によれば、軸受支持部98の外周面に同心円状に切欠溝100が形成されるため、その切欠溝100によって軸受支持部98の外周面を伝ってオイルパン82に戻る油環流経路CPが遮断され、重力に従って油がステータコイル62へ滴下される。したがって、ステータコイル62へ到達する油量が増加してステータコイル62の冷却効率が向上する。また、切欠溝100を設けるだけですむため、簡易な加工で切欠溝100を形成することができるに従い、生産コストが抑制される。
【0052】
また、本実施例によれば、切欠溝100は、軸受支持部98の外周面のうち軸心Cより鉛直下方側に位置する部分に形成されるため、重力にしたがって軸受支持部98の外周面を伝う油が、確実に切欠溝100を通ってステータコイル62へ滴下される。
【0053】
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0054】
前述の実施例では、軸受支持部98において、切欠溝100を形成することによって軸受支持部98の外周面を伝う油をステータコイル62に滴下させているが、切欠溝100のように内径方向に窪む形状だけでなく、軸受支持部98の外周面から径方向に突き出す凸部102が形成されても同様の効果を得ることができる。
【0055】
図6は、軸受支持部98の外周面に凸部102を形成した一例である。凸部102を設ける場合であっても軸受支持部98は、その軸受支持部98が、ステータコイル62の内周側に位置された状態で、軸方向において第2電動機MG2のステータコイル62の内径部と重複する位置まで延設されている。そして、軸受支持部98の外周面であって、軸方向においてステータコイル62と重複する位置に、軸受支持部98の開口から排出されてその外周面を伝ってオイルパン82に環流される油環流経路CPを遮断して、油をステータコイル62へ滴下させるための凸部102が形成される。凸部102は、例えば軸受支持部98の外周面に形成されている円環状の切欠溝104にリング部材として機能するスナップリング106を嵌め着けることによって、その外周面に同心円上に形成される。上記のように構成される場合であっても、軸受支持部98の開口からその外周面を伝ってオイルパン82に油が環流される経路が遮断され、矢印に示すように、スナップリング106の先端からステータコイル62へ油が滴下されることとなる。これに従い、油がステータコイル62に供給されて、ステータコイル62が冷却される。
【0056】
上述のように、本実施例によれば、軸受支持部98に凸部102が形成されるため、軸受64等を潤滑した油が、軸受支持部98の外周面を伝って凸部102からステータコイル62に滴下するに従い、ステータコイル62が効率よく冷却される。すなわち、軸受64等を潤滑した後も冷却能力を有する油をステータコイル62の冷却にさらに使用し、しかも、そのステータコイル62へ到達される油量が凸部102によって増加するため、ステータコイル62を効率よく冷却することができる。
【0057】
また、本実施例によれば、凸部102は、軸受支持部98の外周面に同心円状に設けられるリング部材として機能するスナップリング106であるため、そのスナップリング106でケース42を伝ってオイルパン82に戻る油の経路が遮断され、重力によって油がステータコイル62へ滴下される。したがって、ステータコイル62へ到達する油量が増加してステータコイル62の冷却効率が向上する。また、スナップリング106によって容易に軸受支持部98に凸部102が構成されるので、実用的な車両用動力伝達装置10となる。
【0058】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0059】
例えば、前述の実施例では、動力伝達装置10はハイブリッド形式の動力伝達装置であったが、必ずしもハイブリッド車両に限定されず、電動機のみよって駆動される電気自動車など、電動機を備えた車両であれば、他の態様においても適用することができる。
【0060】
また、前述の実施例では、第2電動機MG2において本発明が適用されているが、第1電動機MG1においても同様の構造を設けて第1電動機MG1を冷却することができる。
【0061】
また、前述の実施例では、切削加工によって切欠溝100が形成されるが、軸受支持部98の外周面に内周側に窪む凹部が形成されれば本発明は成立するため、切削加工に限定されず、軸受支持部98を成形する鋳造時において凹部が形成されるものであっても構わない。
【0062】
また、前述の実施例では、凸部102は、スナップリング106を切欠溝104に嵌め着けることによって形成されていたが、必ずしもスナップリング106に限定されず、軸受支持部98の外周面にリング部材を溶接等によって接合することで形成されるものであっても構わない。また、リング部材は、軸受支持部98の外周面において、鉛直下方側の一部に形成されるものであっても構わない。
【0063】
また、前述の実施例では、軸受64を潤滑した油をステータコイル62の冷却に利用するものであったが、ステータコイル62の冷却に利用する油は軸受64に限定されず、遊星歯車装置やブッシュ等の他の機械用を潤滑したあとの油を利用するものであっても構わない。
【0064】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0065】
10:ハイブリッド車両用動力伝達装置(車両用動力伝達装置)
42:ケース
56:ロータ
62:ステータコイル
64:軸受(潤滑を必要とする機械要素)
82:オイルパン(オイル溜まり)
98:軸受支持部(延設部)
100:切欠溝(凹部)
102:凸部
104:切欠溝
106:スナップリング(リング部材)
CP:油環流経路
MG2:第2電動機(電動機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の端部が軸方向に突き出すステータコイルを有する電動機と、潤滑を必要とする機械要素と、該機械要素へ油を供給するための油路とを、ケース内に備え、該機械要素を潤滑した油を該ケースの内壁面を伝ってオイル溜まりに環流させる車両用動力伝達装置であって、
軸方向において前記電動機のステータコイルの端部の内径部と重複する位置まで前記ケースの内壁面から延設され、前記機械要素を潤滑した後の油を導く延設部が形成され、
該延設部の外周面であって、軸方向においてそのステータコイルと重複する位置には、該外周面を伝う油環流経路を遮断して、油を前記ステータコイルへ滴下させるための凹部または凸部が形成されていることを特徴とする車両用動力伝達装置。
【請求項2】
前記延設部は、前記電動機のロータを回転可能に支持するための軸受が嵌め着けられている前記ケースの軸受支持部を軸方向に延長したものであることを特徴とする請求項1の車両用動力伝達装置。
【請求項3】
前記凹部は、前記延設部の外周面に同心円状に形成される切欠溝であることを特徴とする請求項1または2の車両用動力伝達装置。
【請求項4】
前記凸部は、前記延設部の外周面に同心円状に設けられるリング部材であることを特徴とする請求項1または2の車両用動力伝達装置。
【請求項5】
前記リング部材は前記延設部の外周面に同心円状に形成される切欠溝に嵌め着けられたスナップリングであることを特徴とする請求項4の車両用動力伝達装置。
【請求項6】
前記凹部および凸部は、前記延設部の外周面のうち軸心より鉛直下方側に位置する部分に形成されることを特徴とする請求項1、3または4のいずれか1つの車両用動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−125096(P2011−125096A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278996(P2009−278996)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】