説明

車両用外装品並びに車両の吸音構造

【課題】両面側において互いに異なる周波数領域の吸音特性がそれぞれ高度に発揮され得る車両用外装品を提供する。
【解決手段】剛性のパネルに貫通孔20が設けられてなる外装品本体12の一方の面に、該一方の面側に位置する音源から発せられる音の周波数に共振する膜状又は板状の振動体28を振動可能に固着すると共に、該外装品本体12と該振動体28とにて囲まれた空気室32を形成し、更に、該空気室32を、前記貫通孔20を通じて外部に連通させて、構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用外装品と車両の吸音構造とに係り、特に、車室外の音源から発せられる音を吸収可能な構造を備えた車両用外装品の改良と、車室外の音源から発せられる音を吸収して、かかる音の車室内への伝達を防止する車両の吸音構造の改良とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両においては、車室内の静粛性を高めるために、様々な吸音乃至は防音構造が付与されている。例えば、排気管等に消音器を取り付けたり、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネル等のパネル状本体を有する外装品に吸音材を固着したりすること等によって、エンジン音や吸・排気音等の車室内への伝達が防止されるようになっている。
【0003】
ところで、車両用外装品の中には、互いに異なる別個の音源に挟まれて、配置されるものがある。例えば、車体のホイールハウス内に取り付けられるフェンダーライナーは、それの下側に位置するタイヤと、それの上側に位置するエンジンルーム内のエンジンとの間に挟まれて、配置される。このようなフェンダーライナーにあっては、タイヤの路面との転がり接触によって発生するパターンノイズやロードノイズと、エンジンルーム内から伝わるエンジン音の両方に対して、十分な吸音性能を発揮することが要求される。
【0004】
かかる状況下、例えば、特開2003−112661号公報(特許文献1)等には、不織布を用いた車両用外装品が提案されている。このような外装品にあっては、不織布が有する網目状構造により、外装品の厚さ方向両側から伝わる音に対して、それぞれ吸音効果が得られるようになっている。
【0005】
ところが、不織布からなる外装品では、その一方の面側と他方の面側とにおいて、互いに異なる周波数領域の吸音特性が発揮されるように構成することが不可能であった。それ故、そのような不織布からなる従来の外装品にあっては、それを間に挟んで両側に位置する別個の音源からの周波数の異なる音に対して、それぞれ十分な吸音効果を得ることができなかった。しかも、不織布からなる外装品は、剛性が低く、そのため、自動車に装着されたときに、風圧等の外力によって、比較的に容易に変形してしまう恐れがある。従って、そのような外装品は、風圧等の外力の影響が大きな、例えば、前輪側のフェンダーライナー等への適用が難しく、そのために、適用範囲が制限されてしまうといった問題をも有していたのである。
【0006】
なお、十分な剛性を有する樹脂製や金属製の本体の両面に、互いに異なる周波数領域の吸音特性を発揮する別個の吸音材をそれぞれ固着して、外装品を構成すれば、上記の不織布からなる従来の外装品において生ずる問題が、悉く解消され得る。しかしながら、そうした場合には、外装品の部品点数が多くなって、製作工程の煩雑化やコストアップの問題が生ずる。また、外装品をフェンダーライナーとして用いる場合には、タイヤ側に固着される吸音材に対して、タイヤによって跳ね上げられた小石等の衝突や泥水及び氷雪の浸透等によって受けるダメージに耐え得るような表面加工を施す必要があり、その分だけ、製作性が低下し、コスト高となる。しかも、そのような表面加工によって、吸音性能が低下する可能性もあるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−112661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、一方の面と他方の面とにおいて互いに異なる周波数領域の吸音特性がそれぞれ高度に発揮され、しかも、そのような吸音特性を発揮する構造が、外装品としての適用範囲の制限無しに、簡略な製作工程で、しかも低コストに実現され得る車両用外装品を提供することにある。また、本発明にあっては、車両用外装品に対して、その両側から伝わる、互いに異なる周波数領域の音が、より有利に吸収され得る車両の吸音構造を提供することをも、その解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明にあっては、上記した車両用外装品に係る課題の解決のために、(a)剛性のパネルに貫通孔が設けられてなる外装品本体と、(b)該外装品本体の一方の面に対して振動可能に固着されて、該外装品本体の一方の面側に位置する音源から発せられる音の周波数に共振する膜状又は板状の振動体と、(c)前記外装品本体の一方の面側に、該外装品本体と前記振動体とに囲まれて形成されて、該外装品本体に設けられた前記貫通孔を通じて外部に連通する空気室とを有することを特徴とする車両用外装品を、その要旨とするものである。
【0010】
なお、本発明に従う車両用外装品の好ましい態様の一つによれば、前記貫通孔が、前記外装品本体に複数設けられる一方、前記空気室が、互いに独立して複数形成される。
【0011】
また、本発明に従う車両用外装品の有利な態様の一つによれば、前記振動体に凹部が設けられると共に、該凹部が、前記外装品本体の一方の面にて閉塞されて、前記貫通孔を通じて外部に連通するように、該振動体が、該外装品本体の一方の面に固着されることにより、前記空気室が、該凹部と該凹部を閉塞する該外装品本体部分にて形成される。
【0012】
さらに、本発明に従う車両用外装品の望ましい態様の一つによれば、上記の如き特徴を有する車両用外装品が、フェンダーライナーに適用される。
【0013】
そして、本発明にあっては、前記した車両の吸音構造に係る課題の解決のために、パネル状の本体を備えた車両用外装品に車室外から伝わる音を吸収する車両の吸音構造であって、前記外装品本体として、貫通孔が設けられた剛性のパネルを用いると共に、かかる外装品本体の一方の面に対して、該外装品本体の一方の面側に位置する音源から発せられる音の周波数に共振する膜状又は板状の振動体を振動可能に固着し、更に、該外装品本体の一方の面側に、該外装品本体と該振動体とにて囲まれて、前記貫通孔を通じて外部に連通する空気室を設けたことを特徴とする車両の吸音構造をも、また、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
すなわち、本発明に従う車両用外装品にあっては、パネルからなる外装品本体の一方の面側から伝わる音を膜状又は板状の振動体の振動によって吸収する振動型吸音器と、その他方の面側から伝わる音を空気室内で共鳴させることによって吸収するヘルムホルツ型共鳴器(吸音器)とが形成されている。そして、振動型吸音器は、例えば、振動体の厚さや大きさ、材質等を適宜に変更することで、振動体の共振周波数を容易に変更できる。また、ヘルムホルツ型共鳴器は、例えば、外装品本体の貫通孔の大きさや軸方向長さ等を適宜に変更することで、空気室内の空気の共鳴周波数(共振周波数)を容易に変更できる。このため、振動型吸音器とヘルムホルツ型共鳴器のそれぞれの共振乃至は共鳴周波数を、それぞれ任意の値に、独立してチューニングすることができる。
【0015】
それ故、本発明に係る車両用外装品では、互いに異なる別個の音源に挟まれて配置される場合に、それら別個の音源から伝わる周波数領域の異なる音を、振動型吸音器とヘルムホルツ型共鳴器とによって、それぞれ十分に且つ確実に吸収することができる。
【0016】
また、本発明に従う車両用外装品は、外装品本体が剛性のパネルからなっているところから、例えば、不織布を用いて形成された従来の車両用外装品とは異なって、車両への設置状態下で、風圧等の外力によって変形することが効果的に防止され得る。このため、車両用外装品としての適用範囲(使用範囲)が、例えば、風圧等の外力の影響が小さいところに設置されるもの等に、何等制限されることがない。
【0017】
さらに、本発明に係る車両用外装品は、剛性の外装品本体と、かかる外装品本体の一方の面に固着された振動体の二部品からなっている。それ故、剛性の外装品本体の両面に、不織布等からなる吸音材をそれぞれ固着された、少なくとも三部品からなる外装品に比して、部品点数が有利に削減され、それによって、製造工程の簡略化と低コスト化とが、共に有利に図られ得る。その上、例えば、フェンダーライナーに適用する場合にあっても、振動体を外装品本体のタイヤ側とは反対側の面に固着すれば、剛性の外装品本体のタイヤ側の面は勿論、振動体に対しても、タイヤによって跳ね上げられた小石等の衝突や泥水及び氷雪の浸透等によって受けるダメージに耐え得るような加工を、何等施す必要がない。
【0018】
従って、かくの如き本発明に従う車両用外装品にあっては、一方の面と他方の面とにおいて、互いに異なる周波数領域の吸音特性が、それぞれ高度に発揮され得るのであり、しかも、そのような優れた吸音特性を発揮する構造が、外装品としての適用範囲に制限が加えられることもなしに、簡略な製作工程で、しかも低コストに実現され得るのである。
【0019】
そして、本発明に従う車両の吸音構造によれば、本発明に係る車両用外装品において奏される上記した優れた作用・効果と実質的に同一の作用・効果が、極めて有効に享受され得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に従う車両用外装品の一実施形態を示す平面説明図である。
【図2】図1におけるII矢視説明図である。
【図3】図2のIII−III断面における端面拡大説明図である。
【図4】図2のIV矢視における部分拡大説明図である。
【図5】本発明に従う構造を有する車両用外装品であって、外装品本体に設けられる貫通孔の大きさやピッチは同じであるものの、振動膜部の大きさが互いに異なる3種類のものの吸音特性をそれぞれ示すグラフである。
【図6】本発明に従う構造を有する車両用外装品であって、振動膜部の大きさは同じであるものの、外装品本体に設けられる貫通孔の大きさやピッチが互いに異なる4種類のものの吸音特性をそれぞれ示すグラフである。
【図7】本発明に従う車両用外装品の別の実施形態を示す図3に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の構成について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0022】
先ず、図1及び図2には、本発明に従う構造を有する車両用外装品の一実施形態としての自動車のフェンダーライナーが、その平面形態と側面形態とにおいて、それぞれ示されている。それら図1及び図2から明らかなように、本実施形態のフェンダーライナー10は、フェンダーライナー本体12と薄膜状のシート部材14とを有している。
【0023】
より詳細には、フェンダーライナー本体12は、略円弧状を呈するホイールアーチ部16と、このホイールアーチ部16の長さ方向両端部に、それぞれ一体形成されたフランジ部18,18とを有する樹脂製パネルにて、構成されている。ここでは、かかるフェンダーライナー本体12が、高密度ポリエチレン等の剛性の大きな樹脂材料を用いて形成されている。これにより、フェンダーライナー本体12に対して、フェンダーライナー10が装着された自動車の走行時に生ずる風圧等によって変形しない十分な剛性と、タイヤが跳ね上げる小石等の衝突により損傷しない十分な強度とが、付与されている。なお、このようなフェンダーライナー本体12は、例えば、高密度ポリエチレン材料を用いて押出成形された樹脂パネル(樹脂シート)に対して真空成形や圧空成形を行うことによって、或いはそのような樹脂パネルを加熱して、圧縮成形すること等によって、容易に成形されるものである。
【0024】
また、図3及び図4に示されるように、フェンダーライナー本体12のホイールアーチ部16には、それを厚さ方向に貫通する多数の貫通孔20が、形成されている。それら多数の貫通孔20は、ホイールアーチ部16の長さ方向と幅方向とに略一定の間隔を隔てて、縦横に並んで位置するように配置されている。そして、本実施形態では、各貫通孔20が、全て、同一径の円筒状内周面を有している。また、ホイールアーチ部16が一定の厚さとされていることによって、各貫通孔20の軸方向長さが全て同一長さとされている。
【0025】
そして、そのような多数の貫通孔20を有するホイールアーチ部16が、図示しない自動車の車体の一部を構成する前輪又は後輪のホイールハウス内に、タイヤを上側から覆うように配置された状態で、フランジ部18,18が、ホイールハウスの前後に位置する車体部分に固定されることによって、フェンダーライナー本体12が車体に装着されるようになっている。かくして、タイヤが跳ね上げる小石や泥水、氷雪等の車体内部への侵入が、フェンダーライナー本体12にて防止されて、車体が保護されるようになっているのである。なお、図1及び図2中、22は、フランジ部18,18を車体に固定するためのボルトの挿通孔である。
【0026】
一方、シート部材14は、図1及び図2に示されるように、フェンダーライナー本体12におけるホイールアーチ部16の上面(タイヤ側とは反対側の面)の大部分を覆い得る大きさと、ホイールアーチ部16よりも薄い肉厚とを有する樹脂シートからなっている。本実施形態では、かかるシート部材14の形成材料として、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン等の樹脂材料が用いられている。そのような樹脂材料からなるシート部材14が十分に薄肉とされていることによって、シート部材14全体に対して、十分な可撓性乃至は弾性、若しくは柔軟性が付与されている。なお、シート部材14の形成材料には、発泡ポリプロピレンや発泡ポリエチレン等の樹脂発泡体や、ゴム材料やエラストマ材料等、或いはそれらの発泡体等も使用可能である。シート部材14が発泡体にて形成される場合には、シート部材14に対して、それをホイールアーチ部16よりも薄肉とすることなしに、十分な可撓性乃至は弾性、若しくは柔軟性が付与されることとなる。
【0027】
また、図3及び図4に示されるように、シート部材14は、その一方の面において開口する多数の凹部24と、それら多数の凹部24を相互に連結する平板状の連結部26とにて、構成されている。そして、それら多数の凹部24が、互いに同じ大きさの矩形形状を呈している。即ち、各凹部24は、矩形の底部と長手矩形の四つの側壁部とを有しており、その底部が薄肉の振動膜部28とされている一方、四つの側壁部が、それぞれ、振動膜部28を支持する支持部30とされている。そして、そのような凹部24の多数のものが、互いに一定の間隔を隔てて縦横に並んで配置され、また、それら縦横に隣り合う凹部24の互いに対向する支持部30の開口側端部同士が、連結部26により一体的に連結されているのである。
【0028】
なお、本実施形態では、多数の凹部24のそれぞれの振動膜部28が、互いに同じ厚さ及び大きさとされており、各支持部30も、互いに同じ厚さ及び大きさとされている。また、振動膜部28と支持部30とが、互いに同一の厚さとされている。このようなシート部材14は、例えば、上記に例示の樹脂材料を用いた射出成形を行うことによって容易に成形される。また、そのような樹脂材料製のシートに対して真空成形や圧空成形を行うことによって、或いはかかる樹脂シートを加熱して、圧縮成形すること等によっても、容易に成形される。
【0029】
そして、図2乃至図4に示されるように、シート部材14の連結部26が、各凹部24の開口側の面において、フェンダーライナー本体12のホイールアーチ部16の上面に重ね合わされている。また、多数の凹部24のそれぞれが、フェンダーライナー本体12のホイールアーチ部16に設けられた多数の貫通孔20の一個一個に対応配置されて、それら各凹部24の開口部が、ホイールアーチ部16の上面にて閉鎖されている。そして、そのような状態下で、連結部26が、ホイールアーチ部16の上面に対して、溶着乃至は接着等により全部もしくは部分的に接合されており、以て、シート部材14が、ホイールアーチ部16の上面に固着されている。
【0030】
これによって、フェンダーライナー本体12におけるホイールアーチ部16の上面側に、空気室32が、シート部材14の各凹部24における振動膜部28及び四つの支持部30,30,30,30と、各凹部24の開口部を閉塞するホイールアーチ部16部分とにて囲まれて、多数形成されている。また、それら多数の空気室32は、同一の容積と互いに独立した形態を有している。そして、そのような多数の空気室32が、多数の貫通孔20の一個一個に対応して配置されており、以て、各空気室32が、それに対応する貫通孔20を通じて外部に連通している。なお、多数の空気室32のそれぞれの容積は、必ずしも同一とされている必要はない。
【0031】
かくして、本実施形態のフェンダーライナー10には、空気室32を共鳴室とし、且つ貫通孔20を共鳴室の開口部としたヘルムホルツ型共鳴器34が、多数の凹部24の一個一個に対応して、多数形成されている。そして、図1乃至図4に示されるように、そのような多数のヘルムホルツ型共鳴器34が、各貫通孔20からなる開口部のそれぞれを、フェンダーライナー本体12のホイールアーチ部16の下面において開口させた状態、つまり、フェンダーライナー10の自動車への装着状態下でのタイヤ側に開口させた状態で、ホイールアーチ部16の略全体に分散して配置されている。また、ここでは、各貫通孔20の径や、一個の空気室32を外部に連通させる貫通孔20の数(ここでは一個)を決定する各貫通孔20のピッチ等が、所定の大きさに設定されて、各ヘルムホルツ型共鳴器34の共鳴周波数(共振周波数)が、例えば、タイヤと路面との接触によって生ずるパターンノイズの周波数と一致するようにチューニングされている。これによって、タイヤから発せられるパターンノイズ等の騒音が、車体に装着されたフェンダーライナー10の多数のヘルムホルツ型共鳴器34の空気室32内の空気の共鳴により、運動エネルギー、更には熱エネルギーに変換されて、吸収され得るようになっているのである。なお、シート部材14の連結部26をホイールアーチ部16の上面に固着した状態下において、それら連結部26とホイールアーチ部16との間に多少の隙間が生じている場合(連結部26がホイールアーチ部16の上面に対して部分的に固着されている場合)には、各空気室32が、各貫通孔20だけでなく、連結部26とホイールアーチ部16との間の隙間を通じても、外部に連通することとなるが、そのような多少の隙間が存在していても、各ヘルムホルツ型共鳴器34による吸音作用は、有効に発揮される。
【0032】
また、図3に示されるように、シート部材14がフェンダーライナー本体12のホイールアーチ部16上面に固着された状態下では、各凹部24の可撓性乃至は弾性、柔軟性を有する振動膜部28が、ホイールアーチ部16の上面から各支持部30の高さ分だけ離間した位置において、各支持部30にて支持されている。これによって、各振動膜部28が、ホイールアーチ部16の上面に対して、各支持部30(及び連結部26)を介して、振動可能に固着されている。また、ここでは、各振動膜部28を支持する支持部30も、可撓性乃至は弾性、柔軟性を有し、且つ他部材と非接触とされていることで、振動可能とされている。
【0033】
かくして、本実施形態では、振動体の共振によって吸音作用を発揮する振動型吸音器36が、シート部材14の多数の振動膜部28とそれらをそれぞれ支持する多数の支持部30とにて、多数の凹部24の一個一個に対応して、多数形成されている。そして、図1及び図2に示されるように、そのような多数の振動型吸音器36が、それぞれの振動膜部28と支持部30とを、フェンダーライナー本体12のホイールアーチ部16上面側に振動可能に位置させた状態、つまり、フェンダーライナー10の自動車への装着状態下でのエンジンルーム側に振動可能に位置させた状態で、ホイールアーチ部16の略全体に分散して配置されている。また、ここでは、各振動膜部28の厚さや大きさ、或いは各支持部30の厚さや高さ等が、所定の大きさに設定されて、各振動型吸音器36の共振周波数が、例えば、エンジンルーム内から伝わるエンジン音の周波数と一致するようにチューニングされている。これによって、自動車への装着状態下でエンジンルーム内のエンジンから発せられるエンジン音等が、多数の振動型吸音器36の振動膜部28の共振により、或いはそれに加えて、各支持部30の共振により、運動エネルギー、更には熱エネルギーに変換されて、吸収され得るようになっているのである。このことから明らかなように、本実施形態では、シート部材14にて、膜状又は板状の振動体が構成されている。
【0034】
このように、本実施形態のフェンダーライナー10では、フェンダーライナー本体12のホイールアーチ部16を間に挟んで上側に位置するエンジンルーム内から伝わる所定の周波数領域のエンジン音が、多数の振動型吸音器36によって吸収される一方、ホイールアーチ部16の下側に位置するタイヤから伝わる、エンジン音とは異なる周波数領域のパターンノイズ等が、多数のヘルムホルツ型共鳴器34によって吸収され得る。
【0035】
しかも、振動型吸音器36は、例えば、振動膜部28の厚さや大きさ(面積)、或いは振動膜部28を構成するシート部材14の材質等を適宜に変更することによって、振動膜部28の共振周波数(固有振動数)が容易に且つ任意に変更可能となっている。また、ヘルムホルツ型共鳴器34も、例えば、貫通孔20の大きさや長さ、或いは一個の空気室32を外部に連通させる貫通孔20の数等を適宜に変更することによって、共鳴周波数が容易に且つ任意に変更できる。それ故、それら振動型吸音器36とヘルムホルツ型共鳴器34のそれぞれにおいて、様々な周波数領域の吸音特性を互いに独立して、容易に発揮させることができる。
【0036】
また、本実施形態のフェンダーライナー10においては、フェンダーライナー本体12が、風圧等の外力によって変形することのない剛性と、小石等の衝突によって損傷することのない強度とを有している。それ故、自動車への装置箇所が、風圧等の外力の影響が小さな後輪側のホイールハウス内等に限定されることがない。
【0037】
さらに、本実施形態のフェンダーライナー10では、フェンダーライナー本体12の下面側に、特別な部材が何等設けられておらず、十分な剛性や強度を有するフェンダーライナー本体12の下面が外部に露呈された状態となっている。このため、例えば、不織布等からなる吸音材を、フェンダーライナー本体12の下面と上面の両方に固着する構造を採用する場合に比して、部品点数が少なく、また、かかる構造を採用する場合とは異なって、フェンダーライナー本体12の下面に固着される吸音材に対する特別な表面加工を行う必要がない。
【0038】
従って、かくの如き本実施形態に係るフェンダーライナー10にあっては、その上面と下面とにおいて、互いに異なる周波数領域の吸音特性が、それぞれ高度に発揮され得るのであり、また、上面側と下面側のそれぞれの吸音特性が、容易にチューニング可能となっている。しかも、そのような優れた吸音特性を発揮する構造が、自動車への装着個所に制限が加えられることもなしに、簡略な製作工程で、しかも低コストに実現され得るのである。
【0039】
また、かかるフェンダーライナー10では、シート部材14に多数の凹部24が設けられて、それら多数の凹部24によって、互いに独立した多数の空気室32及び多数の振動型吸音器36が形成されていると共に、フェンダーライナー本体12に多数の貫通孔20が設けられて、それら多数の貫通孔20と互いに独立した多数の空気室32とにて、多数のヘルムホルツ型共鳴器34が形成されている。これによって、エンジン音やパターンノイズ等が、より確実に吸収され得る。
【0040】
しかも、本実施形態のフェンダーライナー10においては、単に、多数の凹部24を有する一枚の樹脂シートからなるシート部材14をフェンダーライナー本体12の上面に固着するだけで、フェンダーライナー本体12に対して、多数の振動型吸音器36と多数のヘルムホルツ型共鳴器34の空気室32とが一挙に形成されるようになっている。これによっても、良好な製作性と優れた経済性とが確保され得る。
【0041】
さらに、本実施形態のフェンダーライナー10においては、シート部材14が、フェンダーライナー本体12のホイールアーチ部16の上面に固着されているため、シート部材14に対して、泥水や氷雪、小石等が接触乃至は衝突する等して、シート部材14が損傷したり破損したりすることが未然に防止され得る。これによって、シート部材14の優れた吸音特性が、長期に亘って安定的に確保され得る。また、フェンダーライナー本体12のホイールアーチ部16の下面が凹凸のない平滑面とされており、以て、フェンダーライナー本体12に対するシート部材14の固着によって空力抵抗が増大するようなことが、有利に回避され得る。
【0042】
ここにおいて、本発明に従う構造を有する車両用外装品が、前記した優れた特徴を有するものであることを確認するために、本発明者等によって実施された試験について、詳述する。
【0043】
すなわち、先ず、高密度ポリエチレンを用いた押出し成形を行って、長手矩形状の樹脂プレートを7個成形した後、それら7個の樹脂プレートに対する真空成形をそれぞれ実施した。これにより、図1及び図2に示される如く、ホイールアーチ部とフランジ部とを一体的に有するフェンダーライナー本体を7個製造した。それら7個のフェンダーライナー本体の厚さは、何れも1.5mmであった。
【0044】
次に、7個のフェンダーライナー本体のうちの3個のもののホイールアーチ部に対して、直径が3.0mmの円形の貫通孔を15mmのピッチで多数形成した。また、それとは別に、1個のフェンダーライナー本体のホイールアーチ部に対して、直径が3.0mmの円形の貫通孔を10mmのピッチで多数形成した。更に、別の1個のフェンダーライナー本体のホイールアーチ部に対して、直径が3.0mmの円形の貫通孔を20mmのピッチで多数形成した。また、更に他の1個のフェンダーライナー本体のホイールアーチ部に対して、直径が2.0mmの円形の貫通孔を15mmのピッチで多数形成した。更に、残りの1個のフェンダーライナー本体のホイールアーチ部に対して、直径が4.0mmの円形の貫通孔を15mmのピッチで多数形成した。
【0045】
一方、発泡性のポリプロピレンを用いた押出し成形を行って、厚さが4.0mmの薄肉の樹脂発泡シートを7枚成形した。その後、7枚の樹脂発泡シートのうちの5枚に対して真空成形を行って、図1及び図2に示されるように、矩形の凹部を多数有するシート部材を5枚得た。それら5枚のシート部材においては、各凹部の底部からなる振動膜部の幅を40mm、長さを40mmとした。また、各凹部の側壁部からなる支持部の高さを15mmとした。
【0046】
また、それとは別に、残りの2枚の樹脂発泡シートに対しても真空成形を行って、多数の凹部のそれぞれの大きさが、互いに異なり、また、上記5枚のシート部材の各凹部の大きさとも異なる2枚のシート部材を得た。それら2枚のシート部材うちの1枚のものの振動部の幅を20mm、その長さを20mmとし、支持部の高さを7.5mmとした。残りの1枚のシート部材の振動部の幅を90mm、その長さを90mmとし、支持部の高さを25mmとした。
【0047】
そして、上記のようにして得られた7個のフェンダーライナー本体と7枚のシート部材とを用いて、各フェンダーライナー本体のホイールアーチ部の上面に、シート部材をそれぞれ1枚ずつ接着した。これにより、図1乃至図4に示される如き構造を有し、且つ振動膜部の幅及び長さと支持部の高さと貫通孔の径及びピッチが下記表1に示される寸法とされた7個のフェンダーライナー(供試品1〜7)を得た。
【0048】
【表1】

【0049】
次に、供試品1〜3のフェンダーライナーと、音響箱(日本自動車部品総合研究所製)とを用いて、公知の手法により、各フェンダーライナーの上側から伝わる音に対する吸音特性(音の周波数と吸音量との関係)を調べた。その結果を図5に併せて示した。
【0050】
また、それとは別に、共振品4〜7のフェンダーライナーと、音響箱(日本自動車部品総合研究所製)とを用いて、公知の手法により、各フェンダーライナーの下側から伝わる音に対する吸音特性(音の周波数と吸音量との関係)を調べた。その結果を図6に併せて示した。
【0051】
図5から明らかなように、貫通孔の大きさやピッチを一定にした上で、シート部材の凹部の振動膜部の幅及び長さや支持部の高さを適宜に変更することによって、上側から伝わる音に対する吸音量がピークとなる音の周波数領域を変化させることができる。また、図6から明らかなように、シート部材の凹部の振動膜部の幅及び長さと支持部の高さとを一定にした上で、貫通孔の大きさやピッチを適宜に変更することによって、下側から伝わる音に対する吸音量がピークとなる音の周波数領域を変化させることができる。これは、本発明に従う構造を有する車両用外装品が、一方の面と他方の面とにおいて、互いに異なる周波数領域の吸音特性をそれぞれ高度に発揮し得ることを如実に示している。
【0052】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0053】
例えば、前記実施形態では、フェンダーライナー本体12のホイールアーチ部16に対して、振動型吸音器36とヘルムホルツ型共鳴器34とが、それぞれ多数形成されていたが、それら振動型吸音器36とヘルムホルツ型共鳴器34の個数は、特に限定されるものではなく、例えば、振動型吸音器36とヘルムホルツ型共鳴器34の1個1個の大きさやホイールアーチ部16の大きさ等に応じて、適宜に決定され得るところである。従って、フェンダーライナー本体12に形成される振動型吸音器36とヘルムホルツ型共鳴器34は、それぞれ1個であっても、複数個であっても良いのである。また、振動型吸音器36とヘルムホルツ型共鳴器34とが、必ずしも同数である必要もない。
【0054】
フェンダーライナー本体12のホイールアーチ部16に対して、振動型吸音器36とヘルムホルツ型共鳴器34とを複数個ずつ設ける場合にあっても、例えば、凹部24を1個ずつ又は複数個ずつ有する幾つかのシート部材14を用い、それらを、フェンダーライナー本体12のホイールアーチ部16に固着して、振動型吸音器36とヘルムホルツ型共鳴器34とを、それそれ複数個ずつ形成するようにしても、何等差し支えない。
【0055】
フェンダーライナー本体12に設けられて、空気室32を外部に連通する貫通孔20は、1個の空気室32に対して複数個設けられていても良い。また、それら複数の貫通孔20のフェンダーライナー本体12への配置形態は、適宜に変更され得る。更に、複数の貫通孔20の全てのものにおいて、或いはそれらのうちの一部のものにおいて、大きさや形状、軸方向長さ等が互いに異なっていても、何等差し支えない。
【0056】
振動膜部28の形状も、例示された矩形状に何等限定されるものではなく、円形や楕円形、矩形以外の多角形形状、無定形状であっても良い。また、振動型吸音器36が複数設けられる場合には、それら複数の振動型吸音器36の全ての振動膜部28、或いは一部の振動膜部28において、形状や大きさ、厚さ等が、互いに異なっていても何等差し支えない。なお、前記実施形態では、振動体としての振動膜部28が、薄膜部材にて構成されていたが、外装品本体たるフェンダーライナー本体12の一方の面側に位置する音源から発せられる音の周波数に共振するものであれば、振動体が、膜部材よりも厚肉の板状体にて構成されていても良い。
【0057】
振動型吸音器36とヘルムホルツ型共鳴器34のそれぞれの具体的構造も、前記実施形態に示されるものに、特に限定されるものではない。例えば、図7に示されるように、フェンダーライナー本体12のホイールアーチ部16に上方に向かって開口する複数の凹部24を設けると共に、それら各凹部24の底部に貫通孔20を形成する。そして、薄肉平板状のシート部材14を、各凹部24の上方への開口部を閉塞するように、ホイールアーチ部16の上面に重ね合わせて、固着する。これによって、各凹部24と、それらを閉塞するシート部材14部分のそれぞれとにて、貫通孔20を通じて下方に開口して、外部に連通する空気室32を形成する。また、それと共に、各凹部24を閉塞するシート部材14部分を、各凹部24の側壁部からなる支持部30にて振動可能に支持させて、振動膜部28として、構成する。
【0058】
かくして、ヘルムホルツ型共鳴器34を、ホイールアーチ部16の凹部24と、振動体としてのシート部材14とにて囲まれてなる空気室32と、ホイールアーチ部16の凹部24の底部に設けられた貫通孔20とにて形成し、また、振動型吸音器36を、ホイールアーチ部16の凹部24の側壁部からなる支持部30と、かかる凹部24の開口部を閉塞するシート部材14部分からなる振動膜部28とにて形成することもできるのである。
【0059】
加えて、前記実施形態では、本発明を、自動車のフェンダーライナーと自動車の吸音構造にそれぞれ適用した具体例が示されていたが、本発明は、自動車用或いは自動車を除く車両用のフェンダーライナー以外の外装品の何れに対しても、また自動車以外の車両の吸音構造の何れに対しても、有利に適用され得ることは、勿論である。
【0060】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【符号の説明】
【0061】
10 フェンダーライナー 12 フェンダーライナー本体
14 シート部材 20 貫通孔
24 凹部 28 振動膜部
30 支持部 32 空気室
34 ヘルムホルツ型共鳴器 36 振動型吸音器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性のパネルに貫通孔が設けられてなる外装品本体と、
該外装品本体の一方の面に対して振動可能に固着されて、該外装品本体の一方の面側に位置する音源から発せられる音の周波数に共振する膜状又は板状の振動体と、
前記外装品本体の一方の面側に、該外装品本体と前記振動体とに囲まれて形成されて、該外装品本体に設けられた前記貫通孔を通じて外部に連通する空気室と、
を有することを特徴とする車両用外装品。
【請求項2】
前記貫通孔が、前記外装品本体に複数設けられる一方、前記空気室が、互いに独立して複数形成されている請求項1に記載の車両用外装品。
【請求項3】
前記振動体に凹部が設けられると共に、該凹部が、前記外装品本体の一方の面にて閉塞されて、前記貫通孔を通じて外部に連通するように、該振動体が、該外装品本体の一方の面に固着されていることにより、前記空気室が、該凹部と該凹部を閉塞する該外装品本体部分にて形成されている請求項1又は請求項2に記載の車両用外装品。
【請求項4】
パネル状の本体を備えた車両用外装品に車室外から伝わる音を吸収する車両の吸音構造であって、
前記外装品本体として、貫通孔が設けられた剛性のパネルを用いると共に、かかる外装品本体の一方の面に対して、該外装品本体の一方の面側に位置する音源から発せられる音の周波数に共振する膜状又は板状の振動体を振動可能に固着し、更に、該外装品本体の一方の面側に、該外装品本体と該振動体とにて囲まれて、前記貫通孔を通じて外部に連通する空気室を設けたことを特徴とする車両の吸音構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−8458(P2012−8458A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146207(P2010−146207)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【Fターム(参考)】