説明

車両用成形内装材

【課題】車両用成形内装材において、成形時に大きな変形を伴うものでも、裂け目や極薄部分が出ないような構造及びその製造方法を提供する。
【解決手段】硬質ウレタン発泡体からなる基材層11と、基材層11の両側にそれぞれ接合された第1ガラス繊維補強層12及び第2ガラス繊維補強層14と、第1ガラス繊維補強層11の外側に接合された表皮層13と、第2ガラス繊維補強層14の外側に接合された裏面層15とからなる車両用成形内装材であって、第1ガラス繊維補強層11がガラス繊維フィラメントのガラスマットからなり、第2ガラス繊維補強層14がガラス繊維フィラメントのガラスペーパーからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用成形天井材、成形ドアトリム、リヤパッケージトレイ、トノボード、車両用フロア材等の車両用成形内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用成形内装材としては、例えば、成形天井材を構成するものとして硬質ウレタン等を基材とし、その両側にガラス繊維補強層を設け、両補強層の外側にそれぞれ表皮層、裏面層を設けたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この場合、ガラス繊維補強層としては、基材の補強と表皮/裏面との接着強度を得るためにウレタン系樹脂(例えば、イソシアネート系樹脂)からなる接着剤を塗布(含浸)させたガラスマット等を基材の両側にサンドイッチ状に設けている。表皮層としては、不織布、トリコット&スラブウレタンのラミネート表皮、織布、編物、プラスチックシート等が用いられている。
【0004】
ここで言うガラスマットとは、一般的に知られているように、ガラスフィラメントを多量に束ねて、数mmの繊維束(所謂ロービング)とし、これを所定の長さに切断してチョップドストランドを製造し、マット状にばら撒いて、バインダーを使ってマット形状に形成したものを言う。
【0005】
上記のようなウレタン基材天井の場合、一般的には、その剛性は基材とその両面に接着されたガラス繊維補強層としての役割を持つガラスマットによって確保されている。更にその剛性は、単に3者の剛性の和ではなく、ある厚みを持った基材の両表面に、外力によって伸び縮み出来ないガラスマットを接着し、基材表面に伸び縮みの出来ない薄皮を設けた様なサンドイッチ状構造体を作り、基材両面で耐変形性を確保することにより(所謂ジンバラセル)、全体剛性を保っている。
【0006】
これらのガラス繊維補強層を形成するものとして、例えば、ポリウレタン発泡体からなる芯材の両側に、ガラス繊維のチョップ(ロービングガラスをカットしたもの)、ガラス繊維マット、ガラス繊維クロスを設け、この外側に裏面層、表皮層を設けたものが知られている(特許文献2参照)。
【0007】
また、ガラス繊維マットの代わりに、ガラス繊維をガラスペーパーにしたものをホットメルトフイルム接着剤でポリウレタン発泡体層からなる基材の両側に設けたものが知られている(特許文献3参照)。
【0008】
また、少なくともポリウレタン発泡体からなる芯材の表面層側に、ガラスペーパーからなる繊維補強層を設けるようにしたものが知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−301539号公報
【特許文献2】特開2002−046545号公報
【特許文献3】実公平5−34278号公報
【特許文献4】WO2010−029861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
昨今の環境問題、とりわけ省エネ問題から、自動車各部品/部位に対して軽量化の要求は益々高まりつつあり、天井に対しても軽量化の要求は強いものがある。
【0011】
上述したような成形天井にあっては、ウレタン基材とガラス繊維補強層の占めるウエイトは非常に大きい。しかし、ウレタン基材は芯材としての要求から軽量化することは困難であり、この中で、ガラス繊維補強層に対する軽量化の期待が大きい。
【0012】
しかし、特許文献1に示すような成形天井では、繊維補強層としてガラス繊維補強層を開示しているだけであり、ガラス繊維補強層の軽量化に対しては開示されてない。
【0013】
特許文献2では、ガラス繊維を軽量化するために、接着剤であるイソシアネート系接着剤を予め基材に含浸し、ガラス繊維層にも接着剤であるイソシアネート系接着剤を予め含浸することを開示している。また、イソシアネート系接着剤がガラス繊維との親和性が良好で、反応性・接着性、作業性に優れることを開示している。
【0014】
特許文献2に示すようなガラス繊維層において、ガラス繊維補強層がチョップドストランドガラス(以下、ガラスマットと称す)からなるものでは、理論的には現状の約半分程度までの目付にしても強度上問題がない可能性が有ると予測される。しかし、このガラスマットでは、ガラスフィラメントを多量に束ねて、数mmの繊維束とし、これを所定の長さに切断してチョップドストランドを製造し、マット状にばら撒いて、バインダーを使ってマット形状に形成するので、マット全体に完全に均一の目付のものを作ることは困難である。例えば公称;100g/mの目付けのものであっては、部分的には50g/m程度の目付しかない粗な部分が数多く存在し、更にガラスマットの目付を下げれば下げるほど、この傾向が拡大されるようである。そのために、上記の成形天井では、この粗な部分での折曲げ強度は、正常な部分での折曲げ強度の半分程度に低減する結果となっている。
【0015】
この様に粗な部分が、例えばオーバーヘッドコンソール部やアシストグリップ等の成形天井面の変化が激しい箇所に当たった場合には、成形過程で引き伸ばされて更に租になり、成形天井に要求される曲げ強度下限を割り込むことになってしまう。従って、通常のガラスマットでは、その製造工程による目付のバラツキを考慮して、一般的に公称;100g/m以下のガラスマットは使うことが出来ないと言われている。
【0016】
このようにガラスマットでは、軽量化で限界がある。
【0017】
それに対して、特許文献3に示すようなガラス繊維のガラスペーパーとすれば、上記したガラスマットの不具合を解消でき、軽量化できる可能性を備えている。
【0018】
しかし、ガラスペーパーをガラス繊維補強層として使用する考え方は、特許文献3のように約20年前から考えられているが、このようなガラスペーパーを繊維補強層として使用した成形天井は、まだ実用化されてない。
【0019】
その理由としては、次のようなことが考えられる。即ち、特許文献3に示すような従来のガラスペーパーを補強層として、ウレタン基材の両側に配置し、さらに外側に表皮層および裏面層を設けた成形天井を成形する場合に、殆ど変位・変形の少ない所謂板状に近い成形天井であれば成形することは可能と思われる。
【0020】
しかし、最近の車両の成形天井では、サンルーフやオーバーヘッドコンソール等のために大きな凹凸形状を有する成形天井や、全体が大きく窪んだ成形天井等が見られ、成形時に大きな変形を伴うものが出てきている。
【0021】
そのために、ガラス繊維を成形天井等の補強材として使う場合、成形天井の形状から要求される成形時の部分的な変位・変形に追従するため、各資材(表皮ないし裏面紙まで)が伸びて追従することが要求されるが、ガラス繊維補強材はその役目(補強)から伸びて変形することが許されないため、お互いの繊維が成形時にズレル(成形後接着剤が固まるとズレは発生しない)ことにより追従している。このように、成形時の変形に対する追従性と折り曲げ強度を必要としている。
【0022】
しかし、最近の大きく変形する成形天井の形状に応じて成形すると、今までのガラスペーパーでは、その繊維長が13mmと短いために、成形時の変形に追従するためにお互いの繊維のズレが生じて、このズレがペーパー破れとなってしまい、使い物にならないものになった。例えばメラミン系処理剤等を多く使用して強固にすると、繊維間がズレないために、「成形時大きな範囲にわたり切れる(紙が裂ける)」と言う現象が発生した。また、特許文献3のように、ホットメルト接着剤のフィルムを介在させると、このフィルムがガラスペーパーのガラスフィラメントの相対ズレを邪魔したり、フィルムとガラスペーパーの接着強度、フィルムと基材との接合強度が不足する結果となっている。更にフィルムによって吸音性能が阻害され、ウレタン基材成形天井の長所が損なわれてしまう。またそれを避けるためにウエブホットメルト(クモの巣状のホットメルト)を使うと、非常にコスト高になると共に、扱いが難しく生産性が悪化する。
【0023】
そのために、特許文献4に示すように、本発明者は繊維長が30mm以上と長いガラスフィラメントを用いて抄紙機によりガラスペーパーを製造するものを開発した。この特許文献4に示すように表皮層側のガラス繊維補強層にガラスペーパーを、裏面層のガラス繊維補強層にガラスマットを用いたものでは、成形した際に良好な追従性を示すとともに、基材の発泡ウレタン層と表皮層や裏面紙層との接合性も良く、十分な曲げ強度を有するものが得られた。
【0024】
しかし、特許文献4のものでも、例えば成形時の成形深さが80mm以上で、成形角度が50°以上の成形部分のように成形角度が厳しくてかつ深い部分があると、ガラスペーパーのガラスフィラメントが切れてしまい、極端に薄い部分や破れが目立つこととなり、成形部材として使用できないものになってしまう結果となった。
【0025】
そのために、本発明者は、再度ガラスペーパーの使用について見直した。即ち、表皮層側にガラスペーパーを使用することができないために、表皮層側のガラス繊維補強層としてガラスマットを使用し、且つ裏面層側のガラス繊維補強層としてガラスペーパーを使用するという逆転の発想をしてみた。この場合でも、成形部材が大きな成形深さや成形角度を有する場合には、単に逆にしただけではうまく成形できず、破れることがあった。
【0026】
本発明は、車両用成形内装材において、成形時に大きな変形を伴うものでも、裂け目や極薄部分が出ないような構造及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
そのために、本発明では、まず、表皮層側の第1ガラス繊維補強層をガラスマットにし、裏面層の第2ガラス繊維補強層をガラスペーパーにして、成形時に表皮側に裂け目が出る或いは極薄部分が目立って出るようなことを防止するようにした。また成形時の成形角度が大きい且つ成形深さが深い場合には、その成形性を改良するために、基材層の密度を従来よりも低くして基材層を成形し易くし、それに伴って基材層に重ねられるガラスマットも基材層の変形に馴染んで同様に成形できるようにして、成形時の破れを防止した。さらに、成形し易さを追求すると成形時の形状保持性が低下が懸念されるが、この対応策としては、裏面側のガラス繊維補強層と裏面層との間にフィルム層を介在させて、成形時の成形形状の保持性を確保するようにすると良い。
【0028】
すなわち、請求項1の発明は、硬質ウレタン発泡体からなる基材層と、該基材層の両側にそれぞれ接合された第1ガラス繊維補強層及び第2ガラス繊維補強層と、該第1ガラス繊維補強層の外側に接合された表皮層と、該第2ガラス繊維補強層の外側に接合された裏面層とからなる車両用成形内装材において、該第1ガラス繊維補強層がガラス繊維フィラメントのガラスマットからなり、該ガラスマットがウレタン系接着剤で該基材層に接着され、該第2ガラス繊維補強層がガラス繊維フィラメントのガラスペーパーからなり、該ガラスペーパーがウレタン系接着剤で該基材層に接着されていることを特徴とする。
【0029】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両用成形内装材において、該基材層の密度が、0.020〜0.024g/mからなることを特徴とする。
【0030】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の車両用成形内装材において、該ガラスペーパーと裏面層との間に、ポリエチレン樹脂或いはポリプロピレン樹脂からなる樹脂フィルムが介在していることを特徴とする。
【0031】
請求項4の発明は、請求項3記載の車両用成形内装材において、該樹脂フィルムの厚さが20〜40μmであることを特徴とする。
【0032】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両用成形内装材において、該ガラスペーパーの該繊維フィラメントの繊維長さが、20〜100mmであり、該ガラスマットが、10〜15μmの直径からなるガラスフィラメントを50本以上束ねて、収束剤を使って0.8〜1.5mmの繊維束とし、これを30〜80mm程度の長さに切断してチョップドストランドを製造し、マット状にばら撒いて、バインダーを使ってマット形状に形成したものであることを特徴とする。
【0033】
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の車両用成形内装材において、該ガラスペーパーの目付け量が、30〜100g/mであり、該ガラスマットの目付け量が、50〜250g/mであることを特徴とする。
【0034】
請求項7の発明は、請求項1ないし6のいずれか1つに記載の車両用成形内装材において、該車両用成形内装材が成形天井であることを特徴とする。
【0035】
請求項8の発明は、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の車両用成形内装材の製造方法であって、一方の成形型の成形面に裏面材を設置し、その上にガラスペーパーからなる繊維補強材を重ねて成形面に沿わせて設置し、さらにその上に基材層になる芯材、ガラスマットからなる繊維補強材及び表皮材を設置し、他方の成形型を一方の成形型に合わせて加圧し、車両用成形内装材を成形することを特徴とする。
【0036】
請求項9の発明は、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の車両用成形内装材の製造方法であって、一方の成形型の成形面に裏面材を設置し、その上に樹脂フィルム、更にガラスペーパーからなる繊維補強材を重ねて成形面に沿わせて設置し、さらにその上に基材層になる芯材、ガラスマットからなる繊維補強材及び表皮材を設置し、他方の成形型を一方の成形型に合わせて加圧し、車両用成形内装材を成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
請求項1の発明では、ガラスペーパーは、ガラスマットに比較して、どの部位をとっても略均一な層となっており、接着剤も略均一に付着できるので、ガラスペーパーが基材と略均一に一体化されている。特に、オーバーヘッドコンソール部等のように成形した際に大きな変形を伴う部分でも、表皮側がガラスマットであり、成形時の変形に対して十分に追従して変形でき、裏面側がガラスペーパーであり、成形型による成形(型合わせ)前に成形型の成形面にガラスマットの繊維補強層を添わせるようにすることで成形時の大きな変形に対してガラスペーパーが薄くなったり破れることなく成形でき、折り曲げ強度が満足できる。且つ、表皮側をガラスマット及び裏面側をガラスペーパーにしたので、軽量化も実現できる。
【0038】
請求項2の発明では、基材層の密度を従来よりも低くして基材層を成形(変形)し易くしたので、成形時の変化が大きい場合でも、基材層及び基材層に重ねられるガラスマットの両方が成形型の成形面に沿って大きく成形でき、その結果、成形時の破れが防止できる。
【0039】
請求項3の発明では、樹脂フィルムを裏面側のガラス繊維補強層と裏面層との間に介在させて、成形時の成形形状の保持性を確保するようにしたので、成形し易さと形状保持性の両方を兼ね備えたものを得ることができる。また、基材層を軽量化でき、成形部材を軽量化できる。
【0040】
請求項4の発明では、樹脂フィルムが最適な厚さであり、成形性と形状維持性とを効果的に発揮できる。
【0041】
請求項5の発明では、ガラスペーパーのガラスフィラメントの直径を適正に選定することで、ガラスフィラメントが基材に強固に接合されたものが得られる。また、ガラスマットの繊維束を適正に得ることで、成形時の破れを効果的に防止できる。
【0042】
請求項6の発明では、ガラスマット及びガラスペーパーの目付量を適切に選定することで、成形性を確保しつつ軽量化できる。
【0043】
請求項7の発明では、サンルーフやオーバーヘッドコンソール部等のように成形した際に大きな変形を伴う部分を有する成形天井でも確実に安定した品質のものが得られる。
【0044】
請求項8の発明では、深い成形深さを有する車両用成形内装材でも安定して破れることなく成形でき、形状維持性も安定して確保でき、且つ軽量化できる。
【0045】
請求項9の発明では、深い成形深さを有する車両用成形内装材でも安定して破れることなく成形でき、特に優れた形状維持性を安定して確保でき、且つ軽量化できる。
【0046】
本発明において、ガラス繊維フィラメントのペーパーが湿式方式で形成されたと説明したが、本発明の湿式方式とは、所謂和紙等を作る際に行われる紙すきと同じ方式のことである。
【0047】
本発明のガラスペーパーのガラス繊維フィラメントの直径は、一般的に使われている5〜15μmとすることが好ましい。このガラス繊維フィラメントの繊維長さが長過ぎると、滑るのに抵抗となり過ぎて繊維が切れる(裂ける)恐れがあり、成形しにくくなる。一方、短か過ぎると、成形時に繊維間の滑りで間隙が空きペーパー破れを生じるので、20〜100mmとすることが好ましく、特に30〜75mmとすることが好ましい。なお、繊維の直径や繊維長は、基本的にばらついているものであり、全てが上記数値範囲内に入るというのではなく、主たるものが上記数値範囲に入ることを意味するものである。本発明のガラスペーパーの目付量は、少ないと補強層としての強度が不足し、目付け量が多過ぎても必要とする強度以上のものになるだけで軽量化の目的に反するので、30〜100g/m、特に35〜80g/mとすることが好ましい。
【0048】
ガラスペーパーを製造する際のシラン系処理剤としてはシランのみでも良く、或いはシランとウレタンエマルジョンとの混合剤としてよい。このウレタンエマルジョンとしては、接着剤として使用するウレタン系接着剤同じものを使用すると好ましい。シラン系処理剤の目付量は、ガラスフィラメントの直径や目付量により異なるが、フィラメントの適度の結束力を確保し、また天井成形時に塗布するイソシアネート接着剤との相性を確保するために、ガラスフィラメントの目付量に対し10〜20重量%程度が好ましい。
【0049】
本発明では、ガラスペーパーやガラスマットに塗布する接着剤としてのウレタン系樹脂(例えば、イソシアネート系樹脂)の目付量は、多いと染み出す恐れがあり、少ないと接着強度が不足するので、その目付け量は、10〜30g/m、特に13〜25g/mとすることが好ましい。表皮層としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド系の織布または不織布、トリコットとスラブウレタンのラミネート表皮、編物、プラスチックシート、ビニールレザーが挙げられる。成形内装材を成形天井材として使用する際には、基材層であるウレタンフォームはシート状であってよく、その厚さは3〜12mmのものが使用される。
【0050】
ガラスマットは、10〜15μmの直径からなるガラスフィラメントを30〜100本程度、好ましくは50〜80本程度を束ねて、収束剤を使って0.8〜1.5mmの繊維束とし、これを30〜80mm程度の長さに切断してチョップドストランドを製造し、マット状にばら撒いて、上記イソシアネート系樹脂等のバインダーを使ってマット形状に形成する。上記数値の特定は、少なすぎると補強層としての強度が不足し、大き過ぎると成形性が悪くなるので、上位特定の範囲とすることが好ましい。ガラスマットの目付量は、少ないと補強層としての強度が不足し、目付け量が多過ぎても必要とする強度以上のものになるだけで軽量化の目的に反するので、50〜250g/m、特に100〜200g/mとすることが好ましい。
【0051】
本発明の基材層は、一般的な基材に比較して低密度にすることが好ましい。特に、成形性を有利にして、深い変形成形の場合でも極薄い部分や破れが生じないように、成形時の形状に追従し易くするために密度を低くすることが好ましく、逆に低密度にし過ぎると成形時に成形形状を維持できなくなる。そのために、基材層の密度は、0.020〜0.024g/mとすることが好ましい。更に、基材層を低密度にすれば、内装材を軽量化できるメリットも有する。
【0052】
また、基材層を低密度にすることで成形時の変形に追従し易くなるメリットを有するが、低密度にし過ぎると、成形時の形状維持性を悪化する懸念がある。この懸念を改善する上では、ガラスペーパーの外側(裏面層側)に樹脂フィルムを介在させて成形性の保持性能を良くすることが有効な手段である。この場合、樹脂フィルムとしては、成形時の変形に追従できると共に、成形時の形状維持性を確保することができれば、樹脂の素材は特定されないが、ガラスペーパーとの接着性を考慮すると、ポリエチレン樹脂或いはポリプロピレン樹脂からなる樹脂フィルムとすることが好ましい。この樹脂フィルムの厚さは、上記機能を達成する上からは、20〜40μmとすることが好ましい。
【0053】
本発明の製造方法としては、ガラスマット及びガラスペーパーのガラス繊維補強材を製造・用意して、これらの補強材を基材となる芯材両側に配置し、表皮材、裏面材と重ねて成形する。具体的には、図2及び図3に示すように、金型の下型に裏面材、ガラスペーパーにウレタン系樹脂の接着剤を塗布した第2ガラス繊維補強材からなるシートを敷設する。この場合に、下型の成形面の表面形状にできるだけ沿うように深い絞り変形部分にも合わせるように裏面材、第2ガラス繊維補強材シートをそれぞれ敷設する。次に、ウレタンフォームの芯材を上から重ね、更に、ガラスマットにウレタン系樹脂の接着剤を塗布した第1ガラス繊維補強材シート、表皮材を積層する。しかる後、この積層体に上型を重ねて、下型との間で加圧して、所定形状に一体成形する。
【0054】
この製造方法では、ガラスペーパーである第2ガラス繊維補強材シートは予め成形面に沿うように敷設されているので、成形時に深い変形を伴う部分であっても急激な変形や伸びを伴わないで済むので、第2ガラス繊維補強材のガラスペーパーが極端に薄くなったり、破れたりすることが防止できる。
【0055】
さらに、基材を低密度にするようにすれば、基材も下型の成形面の形状に沿いやすくなるので、この上面に配設するガラスマットからなる第1ガラス繊維補強材シートも成形面に沿う方向になるので、上型を重ねて実際に成形する場合にも、ガラスマットも薄くなったり破れたりし難くなるというメリットを有する。
【0056】
なお、ウレタン系樹脂の接着剤は、第1ガラス繊維補強材シート側や第2ガラス繊維補強材シート側の代わりに基材(ウレタンフォーム)の側に、塗布(例えば、スプレー塗布)して重ねるようにしても良い。
【0057】
第2ガラス繊維補強材シートの外側(裏面層側)に樹脂フィルムを介在させる場合には、図4及び図5に示すように、裏面材を下型の成形面に沿わせて敷設した後に、この樹脂フィルムを敷設し、その上にガラスペーパーの第2ガラス繊維補強材シートを重ねるようにすればよい。この樹脂フィルムは、柔軟性に富むので、敷設したガラスペーパーの第2ガラス繊維補強材シートが成形面に沿うように変形して敷設されることに妨げになることはない。
【0058】
また、ガラスフィラメントからガラスペーパーを製作する際に、ポリエチレン樹脂等の化学繊維を混ぜ合わせると、成形性及び剛性を向上できる。即ち、成形天井等の成形時に、化学繊維が滑り剤の働きをして、ガラスフィラメント同士だけよりも滑りやすくなり、成形性が向上する。その結果、成形時のガラスペーパーの破れが効果的に防止される。ポリエチレン樹脂等の化学繊維が、ガラスペーパーに塗布して基材とガラスペーパーとを密着させのるに接着剤として使用するウレタン系接着剤(特にイソシアネート系接着剤)と相性に優れるので、より強固な密着性が得られ、剛性が向上する。この化学繊維の目付量は、少ないと効果が無く、多くても無駄であるので、ガラスマットの全体目付量に対して、5〜20重量%が好ましい。この化学繊維の直径や長さは適切に設定すれば良いが、ガラスフィラメントと同じ直径で同じ長さにする方がペーパーの作製処理が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は本発明の実施形態1に係り、自動車の成形天井の部分図である。
【図2】図2は、図1に使用する成形天井材の積層状態を説明する図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態1において、金型に各種のシート材を敷設する状態を説明するための断面図を示す。
【図4】図4は、本発明の実施形態2に係り、図2と同様な図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態2において、金型に各種のシート材を敷設する状態を説明するための断面図を示す。
【図6】図6は、本発明の実施例及び比較例の性能評価表である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0061】
(実施形態1)
この実施形態1は、本発明を車両の成形天井に適用したものであり、図1は、本発明の実施形態に係る成形天井の部分図であり、図2は、図1の実施形態に使用する成形天井材の積層状態を説明する図である。なお、図1中、左側が車両のフロント側であり、右側が車両のリヤ側である。
【0062】
成形天井1のフロント側の両側には、サンバイザー用の凹部2,2が形成され、その中間位置にオーバーヘッドコンソール用の凹部3が形成されている。この部分の断面は、図示を省略するが、通常の平面から大きく窪んで形成されている。一般的には、40〜60°の傾斜角度で、深さは40〜80mm程度であるが、深いものでは100mm程度のものも見られる。
【0063】
図2に示すように、発泡ウレタンからなる基材層11の裏面側には、ガラスペーパーからなる第2ガラス繊維補強層14と、その外側に裏面層15とが積層され、基材層11の表皮側には、ガラスマットからなる第1ガラス繊維補強層12と、更にその外側に表皮層13とが積層されている構造である。
【0064】
次に、実施形態1の成形天井材の製造方法について説明する。熱成形可能な硬質ウレタンフォームからなる芯材のシートを用意する。また、ガラスマット及びガラスペーパーを用意する。ガラスペーパーは、通常にペーパーを製造するように抄紙機を使って湿式で製造する。即ち、11μm前後の直径で、繊維長が25mm前後のガラスフィラメントを散在させて漉くって紙状に作り、シラン系処理剤で処理してガラスペーパーとして製造する。ガラスマットは、10〜15μmの直径からなるガラスフィラメントを50本以上束ねて、収束剤を使って0.8〜1.5mmの繊維束とし、これを30〜80mm程度の長さに切断してチョップドストランドを製造し、マット状にばら撒いて、バインダーを使ってマット形状に形成する。さらに、裏面材として裏面紙及び表皮層としての表皮材を用意する。
【0065】
次に、これらの素材を使って成形天井を製造する工程について説明する。
【0066】
図3に示すように、下型21の成形面21aに沿うように裏面材15を敷設し、さらにその上にイソシアネート系接着剤が塗布されたガラスペーパーからなる第2ガラス繊維補強用シート14を下型21の成形面21aに沿うように敷設する。そして、更に、芯材11、イソシアネート系接着剤が塗布されたガラスマットからなる第1ガラス繊維補強用シート12及び表皮材13を重ねて敷設して積層体を準備する。しかる後、上型22を重ねて積層体を加圧して、所定形状に一体成形する。
【0067】
(実施形態2)
図4及び図5に実施形態2を示す。なお、実施形態1と同じ部分は同じ符号とし、実施形態1と異なる部分のみ説明する。図4に示すように、発泡ウレタンからなる基材層11の裏面側には、ガラスペーパーからなる第2ガラス繊維補強層14と、その外側に裏面層15とが積層され、基材層11の表皮側には、ガラスマットからなる第1ガラス繊維補強層12と、更にその外側に表皮層13とが積層され、ガラスペーパーからなる第2ガラス繊維補強層14と裏面層15との間に樹脂フィルム16が介在している構造である。この実施形態2の成形天井を製造する工程を図5に示す。
【実施例】
【0068】
次に、本発明に係る成形内装材としての成形天井材を製造した場合の実施例について説明する。
【0069】
(実施例1)
実施例1では、芯材として密度が0.022g/mの連続気泡を有する熱成形可能な硬質ウレタンフォームシート(1200mm×1600mm×厚さ6.5mm)を用意する。表皮材は目付;70g/mの不織布、裏面材は不織布とPP(ポリプロピレン)フィルムとの通常のラミネート製裏面材(目付:30g/m)を用意する。第1ガラス繊維補強層のガラスマットは、12μmの直径からなるガラスフィラメントを70本程度で束ねて、収束剤を使って1.0mm前後の繊維束とし、これを50mm程度の長さに切断してチョップドストランドを製造し、マット状にばら撒いて、接着剤を使って、目付量;100g/mのマット形状に形成した第1ガラス繊維補強材シートを用意する。第2ガラス繊維補強層用のガラスペーパーとしてフィラメント径;11μ&長さ;25mmを使い、シラン系処理剤(シランにイソシアネートを8:2でエマルジョンした処理剤)を使用して目付量;35g/mで製作したガラス繊維補強材シートを用意する。どちらのガラス繊維補強材シートにもイソシアネート系接着剤を15g/mの目付けで塗布する。
【0070】
上記のように用意した各素材を、成形型の下型に、裏面材、第2ガラス繊維補強層用シート、発泡ウレタンフォームシート、第1ガラス繊維補強層用シート、表皮材の順で配置して積層する。そして上型を合わせて加圧成形するとともに互いを接着させる。成形接着後、成形品を成形型から取り出し、幅:1200mm×1600mm、そして天井を形成する全ての材料を含めた総厚が7.5mmとなった成形天井を製造した。
【0071】
なお、成形天井は、サンバイザー部分の成形角度は45°で、成形深さが30mmであり、コンソール部分の成形角度は50°で、成形深さが100mmのものであった。
【0072】
(実施例2)
実施例2では、実施例1と異なる点は、第2ガラス繊維補強材シートと裏面材との間に、厚さ25μmのPP樹脂のフィルムを介在させた。
【0073】
(実施例3)
実施例3では、実施例1に対してガラスペーパーとして、フィラメント長さ;35mmを使い、第2ガラス繊維補強層の目付量;45g/mで製作したガラスペーパーを用意する。実施例1と同様な方法で、成形天井を成形した。
【0074】
(実施例4)
実施例4では、実施例2と異なる点は、第1ガラス繊維補強層用シートの目付量:150g/mで製作したガラスマットを用意した点である。
【0075】
(比較例1)
比較例1は、実施例1との対比が判るように、第1ガラス繊維補強層及び第2ガラス繊維補強層に、どちらにも実施例1のガラスペーパーを使用した点である。実施例1と同様な成形天井を成形した。なお、基材の密度は、通常に使われている0.03g/mとした。
【0076】
(比較例2)
比較例2は、実施例1との対比が判るように、実施例1の第1ガラス繊維補強層と第2ガラス繊維補強層とを入れ替えて、第1ガラス繊維補強層としてガラスペーパーを用い、第2ガラス繊維補強層してガラスマットを使用した点である。なお、基材の密度は、通常に使われている0.03g/mとした。
【0077】
(比較例3)
比較例3は、第1ガラス繊維補強層と第2ガラス繊維補強層ともに、実施例1の第1ガラス繊維補強層のガラスマットを使用したものであり、その目付量:100g/mであり、基材の密度は、0.03g/mとした。
【0078】
(比較例4)
比較例4は、比較例3に対して、表皮側ガラスマットの目付量:100g/m、裏面側のガラスマットの目付量:230g/mとして、折曲強度を高めたものである。
【0079】
実施例1,2,3,4、比較例1,2,3,4とも、10サンプルの平均値を示す。実施例1,2,3,4と比較例1,2,3、4とのテスト結果を、図6に基づいて説明する。
【0080】
一般的に、成形天井としての要求値は、折曲強度;約10N/50mm、曲げ弾性勾配;約30N/50mm/cmであるが、実施例1〜4、比較例1〜4とも十分満足する値が得られている。
【0081】
更に、実施例及び比較例について、成形時にサンバイザー部分やコンソール部分で裂け目が出るかどうかを目視で測定した。その結果、実施例及び比較例のいずれでも、サンバイザー部分では裂け目は見られなかったが、コンソール部分では比較例1では10例中7例、比較例2では10例中4例ほど、裂け目が発生して、使用できるものではなかった。
【0082】
なお比較例3及び4は、実施例に比較して重量が重くて、軽量化の点で満足できるものにならなかった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の成形内装材は、自動車用成形内装材、例えば自動車用成形天井材、成形ドアトリム、リヤパッケージトレイ、フロア材等に使用できるので、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0084】
1 車両用成形内装材
11 基材層
12 第1ガラス繊維補強層
13 表皮層
14 第2ガラス繊維補強層
15 裏面層
16 樹脂フィルム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質ウレタン発泡体からなる基材層と、
該基材層の両側にそれぞれ接合された第1ガラス繊維補強層及び第2ガラス繊維補強層と、
該第1ガラス繊維補強層の外側に接合された表皮層と、
該第2ガラス繊維補強層の外側に接合された裏面層とからなる車両用成形内装材において、
該第1ガラス繊維補強層がガラス繊維フィラメントのガラスマットからなり、
該ガラスマットがウレタン系接着剤で該基材層に接着され、
該第2ガラス繊維補強層がガラス繊維フィラメントのガラスペーパーからなり、
該ガラスペーパーがウレタン系接着剤で該基材層に接着されていることを特徴とする車両用成形内装材。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用成形内装材において、
該基材層の密度が、0.020〜0.024g/mからなることを特徴とする車両用成形内装材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両用成形内装材において、
該ガラスペーパーと裏面層との間に、ポリエチレン樹脂或いはポリプロピレン樹脂からなる樹脂フィルムが介在していることを特徴とする車両用成形内装材。
【請求項4】
請求項3記載の車両用成形内装材において、
該樹脂フィルムの厚さが20〜40μmであることを特徴とする車両用成形内装材。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両用成形内装材において、
該ガラスペーパーの該繊維フィラメントの繊維長さが、20〜100mmであり、
該ガラスマットが、10〜15μmの直径からなるガラスフィラメントを50本以上束ねて、収束剤を使って0.8〜1.5mmの繊維束とし、これを30〜80mm程度の長さに切断してチョップドストランドを製造し、マット状にばら撒いて、バインダーを使ってマット形状に形成したものであることを特徴とする車両用成形内装材。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の車両用成形内装材において、
該ガラスペーパーの目付け量が、30〜100g/mであり、
該ガラスマットの目付け量が、50〜250g/mであることを特徴とする車両用成形内装材。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1つに記載の車両用成形内装材において、
該車両用成形内装材が成形天井であることを特徴とする車両用成形内装材。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の車両用成形内装材の製造方法であって、
一方の成形型の成形面に裏面材を設置し、
その上にガラスペーパーからなる繊維補強材を重ねて成形面に沿わせて設置し、
さらにその上に基材層になる芯材、ガラスマットからなる繊維補強材及び表皮材を設置し、
他方の成形型を一方の成形型に合わせて加圧し、車両用成形内装材を成形することを特徴とする車両用成形内装材の成形方法。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の車両用成形内装材の製造方法であって、
一方の成形型の成形面に裏面材を設置し、
その上に樹脂フィルム、更にガラスペーパーからなる繊維補強材を重ねて成形面に沿わせて設置し、
さらにその上に基材層になる芯材、ガラスマットからなる繊維補強材及び表皮材を設置し、
他方の成形型を一方の成形型に合わせて加圧し、車両用成形内装材を成形することを特徴とする車両用成形内装材の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−162138(P2012−162138A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22940(P2011−22940)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000177461)三和工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】