説明

車両用操舵装置

【課題】伝達比を可変制御するためのモータを停止してこのモータを保護する制御を無闇に行うと、伝達比制御を行えない状態が多くなってしまう。
【解決手段】車両用操舵装置1は、入力軸18および出力軸19間の伝達比θ2/θ1を変更可能な伝達比可変機構13と、伝達比θ2/θ1を変更するための伝達比制御モータ14と、伝達比θ2/θ1を固定するためのロック機構25と、操舵制御部38とを含む。操舵制御部38は、車両100が走行する路面200と転舵輪11との間の摩擦係数を推定するμ推定・判定部49と、モータ負荷判定部50と、モード設定部51とを含む。推定摩擦係数μが基準摩擦係数μ1を超えており、かつ、伝達比制御モータ14の負荷Lが基準モータ負荷L1を超えていると判定されたとき、モード設定部51は、伝達比制御モータ14を保護するための保護モードを設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
操舵部材に連結される入力軸と、転舵機構に連結される出力軸との間に、入力軸と出力軸との間の回転伝達比を変更可能な伝達比可変機構を備える車両用操舵装置が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。伝達比可変機構は、遊星歯車機構等により構成されている。電動モータが、遊星歯車機構のキャリア等の所定の歯車を回転させることにより、回転伝達比を変更できるようになっている。また、上記所定の歯車の回転をロックさせるロック機構が備えられている。ロック機構によって所定の歯車の回転がロックされると、遊星歯車機構における伝達比が機械的に固定される。これにより、電動モータを停止した状態でも、操舵部材のトルクを、遊星歯車機構を介して転舵機構に伝達可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平2006−521957号公報
【特許文献2】特開2008−24058号公報
【特許文献3】特開2002−145102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、ロック機構を用いて伝達比を機械的に固定した状態で電動モータを停止することで、操舵部材による操舵が可能な状態を維持しつつ、電動モータを休めて保護することができる。しかしながら、電動モータを休めている間、伝達比は機械的に固定されることになるので、電動モータを用いた伝達比可変制御を行うことができず、伝達比可変制御による操舵フィーリングの向上効果を発揮できない。このため、無闇に電動モータ保護の制御を行うことは好ましくなく、真に保護する必要のあるときにのみ、電動モータ保護の制御を行うようにすることが好ましい。
【0005】
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、電動モータを適切な条件下で保護することのできる車両用操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、車両(100)の転舵輪(11)を転舵するための車両用操舵装置(1)において、操舵部材(2)の操舵に応じて回転する入力軸(18)と転舵機構(9)の動作に連動して回転する出力軸(19)との間に介在し、前記入力軸および前記出力軸間の伝達比(θ2/θ1)を変更可能な伝達比可変機構(13)と、前記伝達比を変更するための伝達比制御モータ(14)と、前記伝達比を固定するためのロック機構(25)と、前記車両が走行する路面(200)と前記転舵輪との間の摩擦係数を推定する推定手段(49)と、前記伝達比制御モータの負荷(L)を判定する判定手段(50)と、推定された摩擦係数(μ)が所定の基準摩擦係数(μ1)を超えており、かつ、前記伝達比制御モータの負荷が所定の基準モータ負荷(L1)を超えていると判定されたときに、前記伝達比制御モータを保護するための保護モードを設定可能な制御部(37)と、を備えていることを特徴とする(請求項1)。
【0007】
なお、「摩擦係数を推定」は、摩擦係数を路面状態等から間接的に推定することと、摩擦係数を路面と転舵輪との間の接触状態から直接的に推定(測定)することの双方を含む。
車両用操舵装置では、路面の摩擦係数が高いときには、伝達比制御モータがスムーズに回転し難く、この状態で伝達比制御モータの負荷が高いと、伝達比制御モータが焼損(モータ焼け)し易い。本発明によれば、真に伝達比制御モータを保護する必要のあるこのようなときに、制御部が保護モードを設定する。これにより、伝達比制御モータを適切に保護できる。一方、伝達比制御モータの負荷が低いか、路面の摩擦係数が低いときには、伝達比制御モータに無理な負荷がかからず、伝達比制御モータが焼損する事態にはならない。したがって、このとき、制御部は、モータ保護モードを設定しない。これにより、伝達比制御モータを保護する必要のあるときには伝達比制御モータを確実に保護でき、且つ伝達比制御モータを保護しなくてもよいときには、伝達比制御モータを用いた伝達比可変制御を確実に行うことができる。よって、伝達比制御モータの故障を抑制しつつ、伝達比可変制御が行われない状態をより少なくできる。これにより、伝達比制御モータを適切な条件下で保護できる。
【0008】
例えば、路面と転舵輪との間の摩擦係数を考慮せずに、単に伝達比制御モータの負荷が高いことだけをもって、保護モードを設定する場合を考える。この場合、伝達比制御モータの負荷が大きい一方、上記摩擦係数が低いときでも、保護モードが設定される。しかしながら、この場合、上記摩擦係数が低いので、伝達比制御モータはスムーズに回転できるので、焼損(モータ焼け)のおそれは少なく、保護モードを設定しなくてもよい。このように、伝達比制御モータを保護しなくてもよい場合でも、保護モードが設定されてしまう。これに対し、本発明では、伝達比制御モータの負荷が大きいけれども、路面の摩擦係数は低い場合、保護モードは設定されない。したがって、伝達比制御モータの負荷に加えて、上記摩擦係数を考慮することで、より適切な条件下で伝達比制御モータを保護できる。
【0009】
また、本発明において、前記制御部は、前記保護モードのときに、前記伝達比制御モータへの電流の供給を停止させるともに、前記ロック機構によって前記伝達比を固定させる場合がある(請求項2)。
この場合、ロック機構によって、伝達比を機械的に固定できる。このとき、伝達比制御モータには電流が流れないので、伝達比制御モータの負荷を実質的にゼロにできる。これにより、伝達比制御モータを自然冷却する等して、伝達比制御モータを確実に保護できる。
【0010】
また、本発明において、前記伝達比制御モータに流れる電流(A)を検出する電流検出部(35)をさらに備え、前記判定手段は、前記電流が所定の基準電流(A1)を超えている状態が所定の基準時間(T1)を超えて継続しているときに、前記伝達比制御モータの負荷が前記基準モータ負荷を超えていると判定する場合がある(請求項3)。この場合、伝達比制御モータに実際に流れている電流に基づいて、伝達比制御モータの負荷を正確に検出できる。
【0011】
また、本発明において、前記基準電流と前記基準時間との関係は、前記推定された摩擦係数の値に基づいて変化するように構成されている場合がある(請求項4)。
路面と転舵輪との間の摩擦係数が大きいほど、路面から転舵輪等を介して伝達比制御モータに伝わる路面抵抗が大きいので、伝達比制御モータは、スムーズに回転し難い。したがって、伝達比制御モータの負荷が同じ場合でも、路面の摩擦係数が大きいほど、伝達比制御モータにかかる負担は大きい。このため、上記摩擦係数が大きく、伝達比制御モータにかかる負担が大きいときほど、基準時間を短くして、早期に保護モードを設定できる。その結果、伝達比制御モータによる伝達比可変制御が規制された状態を最小限にしつつ、伝達比制御モータを適切に保護できる。
【0012】
また、本発明において、前記制御部は、一定時間ごとに、前記推定された摩擦係数を判定可能である場合がある(請求項5)。この場合、車両の走行等に伴う摩擦係数の変化に応じて、摩擦係数をリアルタイムに判定できる。これにより、より適切な態様で、モータ保護モードを設定できる。
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用操舵装置を備える車両の概略構成を示す模式図である。
【図2】伝達比可変機構の概略構成を示す一部断面図である。
【図3】(A)は、ロック機構の主要部の断面図であり、ロック部材が第2位置にある状態を示しており、(B)は、ロック部材が第1位置にある状態を示している。
【図4】モータ保護モード設定に関する制御の流れを説明するためのフローチャートである。
【図5】基準時間と基準電流との関係を示すマップをグラフとして示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る車両用操舵装置を備える車両の概略構成を示す模式図である。
図1を参照して、車両100は、例えば四輪乗用車である。車両100は、車両用操舵装置1を備えている。車両用操舵装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結しているステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結された中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されたピニオン軸7と、ピニオン軸7の端部近傍に設けられたピニオン7aに噛み合うラック8aを有し、自動車等の車両の左右方向に延びる転舵軸としてのラック軸8とを有している。ピニオン軸7およびラック軸8によりラックアンドピニオン機構からなる転舵機構9が構成されている。
【0015】
ラック軸8は、車体に固定されるハウジング(図示せず)内に、複数の軸受(図示せず)を介して、軸方向X1に沿って直線往復動可能に支持されている。ラック軸8の各端部には、それぞれタイロッド10が結合されている。各タイロッド10は対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する転舵輪11に連結されている。
操舵部材2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、この回転がピニオン7aおよびラック8aによって、ラック軸8の軸方向X1の直線運動に変換される。これにより、転舵輪11の転舵が達成される。
【0016】
また、車両用操舵装置1は、転舵機構9に操舵補助力を付与するための操舵補助機構12と、操舵部材2の操舵角に対する転舵輪11の転舵角の比(伝達比に相当)を変更することのできる伝達比可変機構13と、を備えている。伝達比可変機構13には、伝達比を変更することのできるブラシレスモータからなる所定のモータとしての伝達比制御モータ14が設けられている。また、伝達比可変機構13には、操舵部材2に操舵反力を付与することのできるブラシレスモータからなる反力補償モータ15が設けられている。
【0017】
ステアリングシャフト3は、操舵部材2と伝達比可変機構13との間に配置され操舵部材2の操舵に応じて回転する入力軸18と、伝達比可変機構13と中間軸5との間に配置され転舵機構9の動作に連動して回転する出力軸19とを含む。
入力軸18は、操舵部材2に一体回転可能に連結される第1軸18aと、第1軸18aにトーションバー20を介して連結される第2軸18bとを含む。トーションバー20を介した第1軸18aと第2軸18bの相対回転量は小さく、実質的に第1軸18aと第2軸18bとは一体回転していると考えることができる。
【0018】
操舵補助機構12は、ブラシレスモータからなる操舵補助モータ21と、操舵補助モータ21の出力回転を減速する減速機構22と、を含む。減速機構22は、例えば、ウォーム減速機構であり、操舵補助モータ21のロータ21aに一体回転可能に連結されるウォーム軸23と、出力軸19に一体回転可能に連結されウォーム軸23に噛み合うウォームホイール24とを含む。
【0019】
操舵補助モータ21は、減速機構22、出力軸19および中間軸5を介して転舵機構9に動力伝達可能に連結されている。操舵補助モータ21の出力は、減速機構22を介して出力軸19に伝達され、運転者の操舵を補助するようになっている。
車両用操舵装置1は、伝達比制御モータ14の回転をロックすることで伝達比を機械的に固定可能なロック機構25を備えている。
【0020】
また、車両用操舵装置1は、複数のセンサとして、トルクセンサ30、第1センサとしての第1レゾルバ31、第2センサとしての第2レゾルバ32、第3センサとしての第3レゾルバ33、モータ電流センサ35、および走行状態センサ36を備えている。
トルクセンサ30は、トーションバー20に隣接して配置されており、トーションバー20のねじれに伴う第1軸18aと第2軸18bとの相対回転量を検出することで、操舵部材2に負荷される操舵トルクを検出する。
【0021】
第1レゾルバ31は、伝達比制御モータ14の後述するロータ14aの回転位置を検出するレゾルバであり、伝達比制御モータ14に隣接して配置されている。伝達比制御モータ14は、第1レゾルバ31の検出値を用いるフィードバック制御により駆動制御される。
第2レゾルバ32は、反力補償モータ15の後述するロータ15aの回転位置を検出するレゾルバであり、反力補償モータ15に隣接して配置されている。反力補償モータ15は、第2レゾルバ32の検出値を用いるフィードバック制御により駆動制御される。反力補償モータ15は、伝達比可変機構13の動作による操舵部材2の操舵反力(操舵反力の変化)を補償するためのモータである。
【0022】
第3レゾルバ33は、操舵補助モータ21のロータ21aの回転位置を検出するレゾルバであり、操舵補助モータ21に設けられている。操舵補助モータ21は、第3レゾルバ33の検出値を用いるフィードバック制御により駆動制御される。
モータ電流センサ35は、伝達比制御モータ14に流れる電流としてのモータ電流Aを検出する電流検出部として設けられている。
【0023】
走行状態センサ36は、車両の走行状態(車速、転舵角、車両のヨーレート等の、車両用操舵装置1の制御に関連する車両走行状態)を検出するセンサであり、複数のセンサによって構成されている。
また、走行状態センサ36は、転舵輪11と路面200との間の摩擦係数を推定するのに必要な情報を得るためにも設けられている。この走行状態センサ36として、転舵輪11を含む複数の車輪の回転速度を個別に検出する車速センサや、路面200に対する上記車輪のスリップ率を検出するセンサや、路面200を撮影するカメラを例示することができる。なお、走行状態センサ36は、転舵輪11と路面200との間の摩擦係数の推定(検出)に用いる情報を得るためのものであれば、上記例示の構成に限定されない。
【0024】
車両用操舵装置1は、制御部37を備えている。制御部37は、伝達比制御モータ14、反力補償モータ15、およびロック機構25の動作を制御することにより操舵を制御する操舵制御部38と、操舵補助モータ21の動作を制御する操舵補助制御部39とを含んでいる。
操舵制御部38および操舵補助制御部39は、それぞれ電子制御ユニット(ECU:Electronic ControlUnit)により構成され、例えば車載ネットワーク40を介して互いに信号伝達可能に接続されている。
【0025】
操舵制御部38には、トルクセンサ30、第1レゾルバ31、第2レゾルバ32、第3レゾルバ33、モータ電流センサ35および走行状態センサ36がそれぞれ接続されている。各センサ30〜33,35,36からの検出信号は、操舵制御部38に入力されるようになっている。
操舵制御部38は、ドライバ41を介して伝達比制御モータ14に接続されており、ドライバ42を介して反力補償モータ15に接続されている。また、操舵制御部38は、ロック機構25に接続されている。
【0026】
操舵制御部38は、所定のプログラムを実行することによってソフトウェア的に実現される機能処理部として、伝達比制御部46と、反力制御部47と、ロック制御部48と、推定手段としてのμ推定・判定部49と、判定手段としてのモータ負荷判定部50と、モード設定部51と、時間を計測するためのタイマ52と、を含んでいる。さらに、操舵制御部38は、ROM(Read Only Memory)45を含んでいる。
【0027】
伝達比制御部46は、伝達比を制御するべく、伝達比制御モータ14の駆動を制御するようになっている。
反力制御部47は、操舵部材2に負荷される反力を制御するべく、反力補償モータ15の駆動を制御するようになっている。
ロック制御部48は、ロック機構25の駆動を制御するようになっている。
【0028】
μ推定・判定部49は、走行状態センサ36で得られた検出信号等を用いて、転舵輪11と路面200との間の摩擦係数を推定し、且つ推定した摩擦係数である推定摩擦係数μの値を判定するようになっている。
モータ負荷判定部50は、モータ電流センサ35で検出されたモータ電流A1の値を用いて、伝達比制御モータ14の負荷を判定するようになっている。
【0029】
モード設定部51は、主モードと、モータ保護モードと、フェールモードとを択一的に設定するようになっている。
主モードは、車両用操舵装置1が通常の状態、すなわち、モータ保護モードおよびフェールモードの何れも設定されていないときにないときに設定される。
主モードであって、車両100が比較的低速で走行しているとき、操舵制御部38は、伝達比制御モータ14の駆動を制御することで、伝達比を1より大きくする制御を行う。これにより、操舵部材2の回転操作量(入力軸18の操舵角θ1)が少なくても、転舵輪11の角度(出力軸19の転舵角θ2)を大きくできる。その結果、車両100を駐車場に入れるとき等に、運転者が操舵部材2を回す量を少なくできる。また、主モードであって、車両100が比較的高速で走行しているとき、操舵制御部38は、伝達比制御モータ14の駆動を制御することで、伝達比θ2/θ1を1以下にする制御を行う。これにより、操舵部材2の回転操作量(操舵角θ1)が大きくても、転舵輪11の角度(転舵角θ2)を小さくできる。その結果、車両100が高速道路を車線変更するとき等に、滑らかな操舵感を得ることができる。
【0030】
モータ保護モードは、伝達比制御モータ14が焼損等の故障はしていないけれども、焼損が生じるおそれのあるときに設定される。モータ保護モードは、推定摩擦係数μが所定の基準摩擦係数μ1を超えており、且つ、モータ負荷判定部50で判定される伝達比制御モータ14の負荷であるモータ負荷Lが所定の基準モータ負荷L1を超えているときに、設定されるようになっている。
【0031】
モータ保護モードのとき、操舵制御部38は、伝達比制御モータ14への電流をゼロにして、伝達比制御モータ14を停止し、且つロック機構25を動作させて伝達比θ2/θ1を機械的に固定する。モータ保護モード設定の制御についての詳細は、後述する。
フェールモードは、伝達比制御モータ14等が故障したときに設定されるようになっている。例えば、伝達比制御モータ14を駆動する信号が操舵制御部38から伝達比制御モータ14へ出力されたにも拘わらず、伝達比制御モータ14が回転せず、第1レゾルバ31の出力信号が一定時間以上変化しない場合に、伝達比制御モータ14が故障したと判定され、フェールモードが設定される。フェールモードのとき、操舵制御部38は、伝達比制御モータ14の電流をゼロにし、且つロック機構25を動作させて伝達比θ2/θ1を機械的に固定する。
【0032】
ROM45には、モータ保護モードの設定に関連するデータが予め記憶されている。
操舵補助制御部39は、ドライバ43を介して操舵補助モータ21に接続されており、操舵補助モータ21の駆動を制御するようになっている。
図2は伝達比可変機構13の概略構成を示す一部断面図である。図2に示すように、入力軸18の第2軸18bおよび出力軸19は、互いの先端を相対向させて同軸上に配置されている。
【0033】
伝達比可変機構13は、入力軸18の第2軸18bと出力軸19との間の伝達比を変更可能とされている。伝達比可変機構13は、全体として筒状をなすハウジング53に収容されている。
伝達比可変機構13は、入力軸18の第2軸18bと同軸に並んで一体回転可能な入力サンギヤ54と、入力サンギヤ54と同軸に配置され、出力軸19と一体回転可能な出力サンギヤ55と、各サンギヤ54,55の双方に噛み合う遊星ギヤ56と、遊星ギヤ56を遊星ギヤ56の中心軸線L2回りに自転可能且つ各サンギヤ54,55の中心軸線L1回りに公転可能に支持するキャリア57と、を含んでいる。
【0034】
遊星ギヤ56は、入力サンギヤ54および出力サンギヤ55を互いに関連付けるために設けられている。遊星ギヤ56は一体成形品であり、中心軸線L1回りに複数(本実施の形態において、2つ)配置されている。入力サンギヤ54、出力サンギヤ55および遊星ギヤ56は、キャリア57の回転がロックされているときに、入力サンギヤ54と出力サンギヤ55の回転伝達比(伝達比θ2/θ1)が例えば1になるように設計されている。
【0035】
キャリア57は、筒状に形成されており、出力軸19が挿通されている。キャリア57は、各サンギヤ54,55の中心軸線L1の回りを回転可能である。キャリア57は、第1部分57aと、第2部分57bと、第3部分57cとを含んでいる。
第1部分57aは、第1軸受58を介してハウジング53に支持され、且つ各遊星ギヤ56の支軸56aの一端を支持している。第2部分57bは、支軸56aの他端を支持している。第3部分57cは、第2部分57bから減速機構22に向けて延び第2軸受59を介してハウジング53に支持されている。
【0036】
キャリア57の第2部分57bを取り囲むようにして、伝達比制御モータ14が配置されている。伝達比制御モータ14は、第2部分57bの外周に一体回転可能に連結されたロータ14aと、ロータ14aを取り囲みハウジング53に固定されたステータ14bとを含んでいる。伝達比制御モータ14の駆動によって、キャリア57が中心軸線L1回りを回転するようになっている。
【0037】
伝達比制御モータ14に関連して、第1レゾルバ31が配置されている。第1レゾルバ31は、キャリア57の第3部分57cの外周に一体回転可能に連結されたロータ31aと、ロータ31aを取り囲みハウジング53に固定されたステータ31bとを含んでいる。キャリア57には、伝達比制御モータ14のロータ14aおよび第1レゾルバ31のロータ31aの双方が連結されている。これにより、第1レゾルバ31は、キャリア57の回転位置(回転角)および伝達比制御モータ14のロータ14aの回転位置を検出することが可能である。
【0038】
伝達比制御モータ14に対して入力軸18側(図2の右側)には、反力補償モータ15が配置されている。反力補償モータ15は、入力軸18の第2軸18bの外周に連結されたロータ15aと、ロータ15aを取り囲みハウジング53に固定されたステータ15bとを含んでいる。
反力補償モータ15に隣接して、第2レゾルバ32が配置されている。第2レゾルバ32は、第2軸18bの外周に連結されたロータ32aと、ロータ32aを取り囲みハウジング53に固定されたステータ32bとを含んでいる。第2軸18bには、反力補償モータ15のロータ15aおよび第2レゾルバ32のロータ32aの双方が連結されている。これにより、第2レゾルバ32は、入力軸18の回転位置(転舵角)および反力補償モータ15のロータ15aの回転位置を検出することが可能である。
【0039】
ロック機構25は、モータ保護モードまたはフェールモードが設定されているときに、キャリア57の回転をロックする。これにより、入力軸18と出力軸19との間の伝達比θ2/θ1が所定値(本実施形態において、1)に固定される。
図3(A)は、ロック機構25の主要部の断面図であり、ロック部材62が第2位置P2にある状態を示している。図2および図3(A)を参照して、ロック機構25は、キャリア57の第3部分57cに一体回転可能に連結されたリング部材60と、このリング部材60に係合可能な軸状のロック部材62と、ロック部材62が一端に固定されたロッド61aを有するソレノイド61とを含んでいる。本実施形態において、ロック部材62は、ロッド61aとは単一の材料を用いて一体に形成されている。
【0040】
リング部材60の外周には、複数の溝60aが周方向に等間隔に複数配置されている。ソレノイド61は、ハウジング53に取り付けられている。ソレノイド61は、ロック部材62を第1位置P1と第2位置P2とに変位可能に支持する支持装置である。このソレノイド61は、ロッド61aと、電磁石(図示せず)と、ロッド61aをリング部材60に向けて付勢するばね61bとを含んでおり、操舵制御部38(図1参照)によって駆動制御される。
【0041】
図2および図3(B)を参照して、車両100の電源オフ時には、ソレノイド61への通電がオフにされている。このとき、ロッド61aに固定されたロック部材62は、ばね61bの付勢力によって、リング部材60の溝60aに嵌まるようになっている。モータ保護モードまたはフェールモードのときも同様に、ソレノイド61への通電がオフにされる。これにより、ロッド61aに固定されたロック部材62は、リング部材60の溝60aに嵌まるようになっている。ロック部材62がリング部材60の溝60aに嵌まっているとき、ロック部材62は、リング部材60を介してキャリア57に係合している。このときのロック部材62の位置が、第1位置P1として定義される。
【0042】
一方、主モードが設定されているときには、図3(A)に示すように、ソレノイド61への通電がオンにされた状態となっている。このときのソレノイド61の磁力によって、ロック部材62は、リング部材60に係合しない第2位置P2に維持される。これにより、ロック部材62がキャリア57の回転を規制しないようになっている。このように、リング部材60およびキャリア57に係合していないときのロック部材62の位置が、第2位置P2として定義される。
【0043】
図1および図2を参照して、上記の構成を有する車両用操舵装置1において、車両100の通常走行時(異常が生じていない状態での走行時。主モード時。)、操舵部材2が操舵されると、この操舵部材2に連結された入力軸18が回転することで、伝達比可変機構13の入力サンギヤ54が回転する。
このとき、操舵制御部38の伝達比制御部46は、操舵制御部38に接続された各センサ30〜33,35,36からの入力信号等に基づいて、伝達比制御モータ14および反力補償モータ15の目標駆動量を設定する。そして、操舵制御部38の伝達比制御部46および反力制御部47は、伝達比制御モータ14および反力補償モータ15のロータ14a,15aの回転位置と目標回転位置との偏差がゼロになるように、伝達比制御モータ14および反力補償モータ15を制御する。
【0044】
伝達比制御部46の制御により、伝達比制御モータ14のロータ14aが回転されない場合、入力サンギヤ54の回転により、各遊星ギヤ56、出力サンギヤ55および出力軸19が回転する。
このとき、入力軸18から出力軸19への伝達比θ2/θ1は、前述の所定の伝達比(例えば、1)である。この結果、転舵輪11は、操舵部材2の操作方向に、この操舵部材2の操舵角に前記回転比を乗じた角度相当分だけ転舵されることになり、操舵部材2から操舵用の転舵輪11への伝達比は一定値となる。
【0045】
一方、伝達比制御部46の制御により、伝達比制御モータ14を駆動することでキャリア57を回転させると、伝達比θ2/θ1が変化する。これにより、伝達比θ2/θ1、すなわち操舵部材2から転舵輪11への伝達比を無段階に変更できる。これらの制御により、前述した、車両100の低速走行時および高速走行時における、運転者の操舵が補助される。
【0046】
このとき、伝達比制御モータ14の駆動に伴う操舵部材2への反力を補償するために、反力制御部47は、反力補償モータ15を駆動する。これにより、伝達比制御モータ14の駆動に伴う操舵部材2のトルク変動を打ち消すように、反力トルクが入力軸18に伝達される。これにより、運転者の違和感が軽減される。
図2を参照して、制御部37が主モードを設定しているときには、ロック部材62が第2位置P2に位置している。この状態で、上記のように、伝達比制御モータ14によって伝達比が制御され、且つ、反力補償モータ15によって操舵部材2に作用する操舵反力が制御される。
【0047】
次に、モータ保護モード設定に関する制御の流れを説明する。この制御は、主モードが設定されているときに、一定時間ごと(例えば、数十msごと)に行われる。
この制御の流れを説明するためのフローチャートである図4を参照して、操舵制御部38のμ推定・判定部49は、転舵輪11と路面200との間の摩擦係数の推定値としての推定摩擦係数μを設定する(ステップS1)。例えば、走行状態センサ36が路面200を撮影するカメラを含んでいる場合、このカメラのデータに基づいて、μ推定・判定部49が推定摩擦係数μを設定する。より具体的には、μ推定・判定部49は、上記カメラから得られたデータから、路面200が粗いと判断したときには、推定摩擦係数μを低く設定し、路面200が滑らかな平坦面であると判断したときには、推定摩擦係数μを高く設定する。
【0048】
また、例えば、走行状態センサ36が、車両100の各車輪の回転速度を個別に検出するセンサを含んでいる場合、μ推定・判定部49は、各車輪の回転速度差等に基づいて、推定摩擦係数μを設定する。
推定摩擦係数μが設定されると、μ推定・判定部49は、この推定摩擦係数μが所定の基準摩擦係数μ1を超えているか否かを判定する(ステップS2)。基準摩擦係数μ1は、ROM45に格納されている値である。
【0049】
推定摩擦係数μが基準摩擦係数μ1以下の場合(ステップS2でNO)、モード設定部51は、主モードを維持し(ステップS3)、ステップS2に戻る。この場合、路面200と転舵輪11との間の摩擦係数が低いので、路面200から転舵輪11、転舵機構9、出力軸19、出力サンギヤ55、遊星ギヤ56およびキャリア57を介して伝達比制御モータ14に作用する摩擦抵抗は小さい。したがって、伝達比制御モータ14は、スムーズに回転することができ、焼損等の故障を生じるおそれはない。
【0050】
一方、推定摩擦係数μが基準摩擦係数μ1を超えている場合(ステップS2でYES)、モータ負荷判定部50は、伝達比制御モータ14の負荷Lが所定の基準負荷L1を超えているか否かを判定する(ステップS4)。
具体的には、モータ負荷判定部50は、モータ電流センサ35で検出されたモータ電流Aが所定の基準モータ電流A1を超えている状態が所定の基準時間T1を超えて継続しているか否かを判定する。基準時間T1と基準モータ電流A1との関係は、ROM45に予め格納されているマップ(図4参照)に基づいて定められる。
【0051】
図5では、マップをグラフf(T1,A1)として表示している。このグラフf(T1,A1)では、基準時間T1と基準モータ電流A1との関係が、推定摩擦係数μに基づいて複数(本実施形態において、3つ)設定されている。すなわち、基準時間T1と基準電流A1との関係は、推定摩擦係数μの値に基づいて変化している。各グラフf(T1,A1)は、推定摩擦係数μが高いほど、同じモータ電流Aでも、短時間で基準モータ負荷L1を超えていると判定するような設定となっている。
【0052】
モータ負荷判定部50は、3つのグラフf(T1,A1)のうち、推定摩擦係数μに最も近いグラフを参照する。そして、モータ負荷判定部50は、検出されたモータ電流Aと、このモータ電流Aが継続して流れている時間Tとから決まる座標が、参照しているグラフf(T1,A1)で区切られた領域の右上側、左下側、および参照しているグラフf(T1,A1)上の何れに位置しているかによって、モータ負荷Lが基準モータ負荷L1を超えているか否かを判定する。
【0053】
上記座標が、参照したグラフf(T1,A1)の右上側の領域にあれば、モータ電流Aが基準モータ電流A1を超えている状態が基準時間T1を超えて継続している。よって、モータ負荷判定部50は、モータ負荷Lが基準モータ負荷L1を超えていると判定する。一方、上記座標が、参照しているグラフf(T1,A1)上、または参照しているグラフf(T1,A1)の左下側の領域にあれば、電流Aが基準モータ電流A1よりも高い状態が基準時間T1を超えて継続している状態ではない。よって、モータ負荷判定部50は、モータ負荷Lが基準モータ負荷L1以下であると判定する。
【0054】
図4を参照して、以上の判定方法により、モータ負荷判定部50が、モータ負荷Lは基準モータ負荷L1以下であると判定した場合(ステップS4でNO)、モード設定部51は、主モードを維持する(ステップS3)。モータ負荷Lが基準モータ負荷L1以下である場合、伝達比制御モータ14の負荷は小さく、焼損が生じるおそれは少ないため、伝達比制御モータ14を保護する制御は行われない。
【0055】
一方、モータ負荷判定部50が、モータ負荷Lは基準モータ負荷L1を超えていると判定した場合(ステップS4でYES)、モード設定部51は、モータ保護モードを設定する(ステップS5)。具体的には、ロック制御部48が、キャリア57の回転をロックさせることで伝達比θ2/θ1を機械的に固定し、且つ、伝達比制御部46が、伝達比制御モータ14の電流をゼロにする(ステップS6)。
【0056】
より具体的には、ステップS6では、ロック制御部48が、ロック機構25へ制御信号を出力し、ソレノイド61への電力供給を遮断する。これにより、ソレノイド61のロッド61aがキャリア57に向かって変位し、ロック部材62が第2位置P2から第1位置P1に変位される。その結果、ロック部材62は、リング部材60の溝60aに嵌まり、リング部材60を介してキャリア57の回転を規制する。
【0057】
このとき、ロック部材62は、リング部材60、キャリア57および伝達比制御モータ14のロータ14aの回転を規制する。これにより、遊星ギヤ56の公転が規制される。その結果、入力サンギヤ54と出力サンギヤ55との間伝達比θ2/θ1が固定される。また、モータ電流Aがゼロにされることで、伝達比制御モータ14が保護される。
なお、モータ保護モードから主モードへの復帰は、例えば、モータ保護モード設定から所定時間経過し、伝達比制御モータ14が自然冷却により充分に冷えたとき等に行われる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態によれば、路面200の摩擦係数(推定摩擦係数μ)が高いときには、伝達比制御モータ14がスムーズに回転し難く、この状態で伝達比制御モータ14の負荷Lが高いと、伝達比制御モータ14が焼損(モータ焼け)し易い。このような、真に伝達比制御モータ14を保護する必要のあるときに、操舵制御部38のモード設定部51が保護モードを設定する。これにより、伝達比制御モータ14を適切に保護できる。
【0059】
一方、伝達比制御モータ14の負荷Lが低いか、路面200の摩擦係数(推定摩擦係数μ)が低いときには、伝達比制御モータ14に無理な負荷がかからず、伝達比制御モータ14が焼損する事態にはならない。したがって、このとき、操舵制御部38は、モータ保護モードを設定しない。
これにより、伝達比制御モータ14を保護する必要のあるときには伝達比制御モータ14を確実に保護でき、且つ、伝達比制御モータ14を保護しなくてもよいときには、伝達比制御モータ14を用いた伝達比可変制御を確実に行うことができる。よって、伝達比制御モータ14の故障を抑制しつつ、伝達比可変制御が行われない状態をより少なくできる。これにより、伝達比制御モータ14を適切な条件下で保護できる。
【0060】
例えば、路面と転舵輪との間の摩擦係数を考慮せずに、単に伝達比制御モータの負荷が高いことだけをもって、保護モードを設定する場合を比較例として考える。この場合、伝達比制御モータの負荷が大きい一方、上記摩擦係数が低いときでも、保護モードが設定される。しかしながら、この場合、上記摩擦係数が低いので、伝達比制御モータはスムーズに回転できるので、焼損(モータ焼け)のおそれは少なく、保護モードを設定しなくてもよい。しかしながら、このように、伝達比制御モータを保護しなくてもよい場合でも、保護モードが設定されてしまう。
【0061】
これに対し、本実施形態では、伝達比制御モータ14の負荷Lが大きいけれども、路面200の摩擦係数(推定摩擦係数μ)は低い場合、保護モードは設定されない。したがって、伝達比制御モータ14の負荷Lに加えて、推定摩擦係数μを考慮することで、より適切な条件下で伝達比制御モータ14を保護できる。
また、保護モードのときには、ロック機構25によって伝達比θ2/θ1を機械的に固定できる。このとき、伝達比制御モータ14には電流が流れないので、伝達比制御モータ14の負荷Lを実質的にゼロにできる。これにより、伝達比制御モータ14を自然冷却する等して、伝達比制御モータ14を確実に保護できる。
【0062】
さらに、モータ負荷判定部50は、伝達比制御モータ14に流れる電流Aが基準電流Aを超えている状態が基準時間T1を超えて継続しているときに、伝達比制御モータ14の負荷Lが基準モータ負荷Lを超えていると判定するようになっている。これにより、伝達比制御モータ14に実際に流れている電流Aに基づいて、伝達比制御モータ14の負荷Lを正確に検出できる。
【0063】
また、基準電流Aと基準時間T1との関係を示すグラフf(A1,T1)は、推定摩擦係数μ1の値に基づいて変化するようになっている。
路面200と転舵輪11との間の摩擦係数が大きいほど、路面200から転舵輪11等を介して伝達比制御モータ14に伝わる路面抵抗が大きいので、伝達比制御モータ14は、スムーズに回転し難い。したがって、伝達比制御モータ14の負荷が同じ場合でも、路面200の摩擦係数が大きいほど、伝達比制御モータ14にかかる負担は大きい。このため、推定摩擦係数μが大きく、伝達比制御モータ14にかかる負担が大きいときほど、基準時間T1を短くして、早期に保護モードを設定できる。その結果、伝達比制御モータ14による伝達比可変制御が規制された状態を最小限にしつつ、伝達比制御モータ14を適切に保護できる。
【0064】
また、操舵制御部38は、主モードのとき、一定時間ごとに、推定摩擦係数μが高いか低いかを判定するようになっている。これにより、車両100の走行等に伴う路面200と転舵輪11との間の摩擦係数の変化に応じて、推定摩擦係数μをリアルタイムで判定できる。これにより、より適切な態様で、モータ保護モードを設定できる。
例えば、操舵補助モータを保護する構成を有する電動パワーステアリング装置では、操舵補助用モータを保護するために、操舵補助モータに流す電流を徐々に低下させる制御を行う場合がある。これにより、操舵補助力は低下するものの、操舵補助機能を維持しつつ、操舵補助モータを保護できる。
【0065】
そこで、伝達比制御モータ14においても、モータ電流Aを徐々に低下させる制御を行うことが考えられる。しかしながら、モータ電流Aを徐々に低下させると、伝達比制御モータ14のロータ14aの位置を目標位置にまで回転できず、その結果、目標とする伝達比θ2/θ1を実現できない。このため、伝達比制御モータ14へ供給する電流を徐々に低下させる制御を行うことは、現実的ではない。
【0066】
一方で、本実施形態では、モータ保護モードのときに、ロック機構25によって伝達比θ2/θ1を機械的に固定しつつ、モータ電流Aをゼロにすることで、伝達比制御を規制しつつ、伝達比制御モータ14を保護する。これにより、操舵の違和感を生じさせることなく、伝達比制御モータ14を保護することができ、現実的な構成となっている。
本発明は、以上の実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【0067】
例えば、上記実施形態では、基準時間T1および基準電流A1を、マップを用いて設定する構成としたけれども、これに限定されない。例えば、基準電流A1および基準時間T1をそれぞれ単一の値に設定してもよい。また、モータ電流Aおよび基準時間T1以外の車両情報を含む車両情報に基づいてモータ負荷Lを求めてもよい。
また、ロック部材62を支持する支持装置としてソレノイド61を例示したけれども、これに限定されない。支持装置は、ロック部材62を第1位置P1と第2位置P2とに変位可能に支持できるものであればよく、例えば、クラッチ機構等の他の一般の装置を用いて支持装置を構成してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…車両用操舵装置、2…操舵部材、9…転舵機構、11…転舵輪、13…伝達比可変機構、14…伝達比制御モータ、18…入力軸、19…出力軸、25…ロック機構、35…モータ電流センサ(電流検出部)、37…制御部、49…μ推定・判定部(推定手段)、50…モータ負荷判定部(判定手段)、100…車両、200…路面、A…モータ電流(伝達比制御モータに流れる電流)、A1…基準電流、L…モータ負荷、L1…基準モータ負荷、T1…基準時間、θ2/θ1…伝達比、μ…推定摩擦係数、μ1…基準摩擦係数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵輪を転舵するための車両用操舵装置において、
操舵部材の操舵に応じて回転する入力軸と転舵機構の動作に連動して回転する出力軸との間に介在し、前記入力軸および前記出力軸間の伝達比を変更可能な伝達比可変機構と、
前記伝達比を変更するための伝達比制御モータと、
前記伝達比を固定するためのロック機構と、
前記車両が走行する路面と前記転舵輪との間の摩擦係数を推定する推定手段と、
前記伝達比制御モータの負荷を判定する判定手段と、
推定された摩擦係数が所定の基準摩擦係数を超えており、かつ、前記伝達比制御モータの負荷が所定の基準モータ負荷を超えていると判定されたときに、前記伝達比制御モータを保護するための保護モードを設定可能な制御部と、を備えていることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1において、前記制御部は、前記保護モードのときに、前記伝達比制御モータへの電流の供給を停止させるともに、前記ロック機構によって前記伝達比を固定させることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記伝達比制御モータに流れる電流を検出する電流検出部をさらに備え、
前記判定手段は、前記電流が所定の基準電流を超えている状態が所定の基準時間を超えて継続しているときに、前記伝達比制御モータの負荷が前記基準モータ負荷を超えていると判定することを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項4】
請求項3において、前記基準電流と前記基準時間との関係は、前記推定された摩擦係数の値に基づいて変化するように構成されていることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項において、前記制御部は、一定時間ごとに、前記推定された摩擦係数を判定可能であることを特徴とする車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−30660(P2012−30660A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170955(P2010−170955)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】