車両用電源制御装置
【課題】本発明は、限りある供給可能電力を有効利用することができる、車両用電源制御装置の提供を目的とする。
【解決手段】車両に搭載される複数の電気負荷(電動パワステ1や電動スタビ2など)と、これらの電気負荷に対して電力を供給するバッテリ10やオルタネータ12とを備え、ドライバーの視線を検出する視線検出装置20や道路情報を有するナビゲーション装置21などによって取得可能なこれらの電気負荷の作動を予知させる予兆情報に基づいて、これらの電気負荷の作動に伴う電力需要を推定し、その推定結果に応じてこれらの電気負荷のそれぞれに対するバッテリ10等からの電力供給を調整することを特徴とする、車両用電源制御装置。
【解決手段】車両に搭載される複数の電気負荷(電動パワステ1や電動スタビ2など)と、これらの電気負荷に対して電力を供給するバッテリ10やオルタネータ12とを備え、ドライバーの視線を検出する視線検出装置20や道路情報を有するナビゲーション装置21などによって取得可能なこれらの電気負荷の作動を予知させる予兆情報に基づいて、これらの電気負荷の作動に伴う電力需要を推定し、その推定結果に応じてこれらの電気負荷のそれぞれに対するバッテリ10等からの電力供給を調整することを特徴とする、車両用電源制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される電気負荷に対する給電を制御する車両用電源制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力供給不足による機能低下を防止する車両用電力配分調整装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この車両用電力配分調整装置は、各電力需要機器の需要電力を検出してそれらの総和を算出し、その値が電力供給側の許容電力を超えた場合には優先順位の低い電力需要機器の消費電力を制限するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−77680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の従来技術では、各電気負荷の需要電力を検出した後に予め設定された優先順位に応じて各電気負荷に配分される電力を調整しているため、優先順位の高い電力需要機器の需要電力が電力供給側の許容電力を超えるほど大きくなると他の電力需要機器への電力供給が困難となる。
【0005】
そこで、本発明は、限りある供給可能電力を有効利用することができる、車両用電源制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両用電源制御装置は、
車両に搭載される複数の電気負荷と、
前記電気負荷に対して電力を供給する給電手段と、
前記電気負荷の作動を予知させる予兆情報に基づいて前記電気負荷の作動に伴う電力需要を推定する推定手段と、
前記推定手段の推定結果に応じて前記電気負荷のそれぞれに対する前記給電手段からの電力供給を調整することを特徴とする。
【0007】
これにより、電力需要自体を推定することによって、実際に電力需要が発生する前にそれらの電気負荷に対する給電を事前調整することができるので、供給可能電力の過不足が生じないよう有効利用することができる。
【0008】
ここで、前記推定手段は、前記電気負荷の電力消費のタイミングを推定し、前記タイミングが前記電気負荷のそれぞれで重ならないように制御すると、安定した電力供給を行うことができるので好適である。
【0009】
また、前記電気負荷は、電力消費が要求された後所定の猶予期間経過時に電力消費が発生するものであると好ましい。電力消費が発生するまでの猶予期間が各電気負荷に設けられることにより、作動要求後速やかに作動を開始させたい等の緊急性の高い電気負荷が他の電気負荷の作動開始の前に割り込みやすくすることができる。
【0010】
さらに、前記猶予期間の長さは、前記予兆情報に応じて変化させるとよい。猶予期間の長さを予兆情報の内容に合った適切な期間に設定することができる。また、例えば猶予期間を短くすることで割り込まれにくくなるので、所望の通り、各電気負荷に電力を供給することができる。
【0011】
また、前記電気負荷のそれぞれは、通信回線を介して受信した自身以外の他の電気負荷の猶予期間と比較して、自身の猶予期間が一番短い場合に電力消費を発生するものであると好適である。これにより、各電気負荷同士で電力消費が重なるのを確実に防止することができる。ここで、前記通信回線を介して送信される猶予期間は、送信元の電気負荷の有する猶予期間より短いと一層好適である。このようにすることによって、通信を介することによる遅延時間を考慮することができ、電力消費の重複を防止する確実性が増す。
【0012】
一方、前記推定手段は、前記電気負荷の消費電流を推定し、前記推定手段によって推定された前記電気負荷の消費電流の総和が前記給電手段の給電制限値を超えないように制御しても、安定した電力供給を行うことができるので好適である。
【0013】
ここで、前記給電手段の給電制限値を超えないように制御するため、前記給電手段から前記電気負荷に供給される電流を制限してもよいし、前記給電手段の給電能力を上昇させることによって前記給電制限値を高くしてもよい。
【0014】
また、前記電気負荷毎に制御装置を備え、前記制御装置のそれぞれが前記推定手段を有するようにしてもよい。例えば、前記電気負荷を制御する制御装置ごとに前記推定手段を備えて、前記制御装置毎に設置された前記推定手段のそれぞれは、自身が設置された前記制御装置によって制御される前記電気負荷のみに関する推定を行うことで、推定精度を向上させることができる。
【0015】
ところで、前記電気負荷には、車両の操舵状態に応じて電力を消費する第1の電気負荷が含まれ、前記推定手段による推定は、前記第1の電気負荷の作動の予兆となるドライバーの視線又は顔向き、あるいは道路形状に基づいて行われるのがよく、例えば、前記第1の電気負荷として、電動パワーステアリング装置用モータが挙げられる。
【0016】
また、前記電気負荷には、車両の横加速度に応じて電力を消費する第2の電気負荷が含まれ、前記推定手段による推定は、前記第2の電気負荷の作動の予兆となる道路形状に基づいて行われるのがよく、例えば、前記第2の電気負荷として、電動スタビリティコントロール装置用モータが挙げられる。
【0017】
また、前記電気負荷には、車両の制動状態に応じて電力を消費する第3の電気負荷が含まれ、前記推定手段による推定は、前記第3の電気負荷の作動の予兆となるドライバーの制動操作部への付与負荷に基づいて行われるのがよく、例えば、前記第3の電気負荷として、電動ブレーキ装置用モータが挙げられる。
【0018】
また、前記電気負荷には、車両のエンジンの回転数に応じて電力を消費する第4の電気負荷が含まれ、前記推定手段による推定は、前記第4の電気負荷の作動の予兆となるエンジン回転数に基づいて行われるのがよく、例えば、前記第4の電気負荷として、二次空気供給装置が挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、限りある供給可能電力を有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の車両用電源制御装置の第1の実施形態を示す構成図である。
【図2】電動パワステ1の操舵力調整用モータと電動スタビ2のロール角調整用モータの動作タイミングの関係を示した図である。
【図3】第1の実施形態の車両用電源装置における電源ライン13に接続されるシステムの動作フローを示す。
【図4】本発明の車両用電源制御装置の第2の実施形態を示す構成図である。
【図5】走行中の車両が道路を曲がろうとする状況を示した図である。
【図6】ナビゲーション装置21が有するカーブ情報を示した図である。
【図7】カーブを走行するときに発生する、電動パワステ1と電動スタビ2のモータの動作電流の推移を示した図である。
【図8】第2の実施形態の車両用電源制御装置の動作フローを示した図である。
【図9】本発明の車両用電源制御装置の第3の実施形態を示す構成図である。
【図10】電動パワステ1の動作電流の時間的推移を示す図である。
【図11】第3の実施形態の車両用電源制御装置の動作フローを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0022】
[第1の実施例]
図1は、本発明の車両用電源制御装置の第1の実施形態を示す構成図である。本第1の実施形態における車両は、例えば、電動パワーステアリング装置1、電動スタビリティコントロール装置2、電動ブレーキ装置3及びエアインジェクションシステム4など、複数の電気負荷を搭載している。
【0023】
電動パワーステアリング装置1(以下、「電動パワステ1」という)は、操舵状態に応じてモータにより操舵力を発生させてドライバーのステアリング操作を支援する。電動パワステ1は、操舵力調整用モータと操舵力調整用コンピュータ(電動パワステECU)とを備える。操舵力調整用モータは、例えば、ステアリング機構のラックのストロークを調整するモータである。電動パワステECUは、例えば、トルクセンサや操舵角センサなどからのセンサ信号に基づいて操舵力調整用モータの起動が必要と判断した場合、操舵力調整用モータの起動要求発生フラグを立てて、操舵力調整用モータを駆動する駆動信号を出力する。その駆動信号に従って操舵力調整用モータは動作する。操舵力調整用モータの動作によって、ドライバーのステアリング操作がアシストされ得る。
【0024】
電動スタビリティコントロール装置2(以下、「電動スタビ2」という)は、走破性や乗降性などの向上のため、車両のロールを抑えるスタビライザを電動で制御し、車両の横方向の加速度に応じて適切なロール角となるように車両の姿勢を制御する。電動スタビ2は、ロール角調整用モータとロール角調整用コンピュータ(電動スタビECU)とを備える。ロール角調整用モータは、例えば、トーションバーをねじるロータリアクチュエータである。電動スタビECUは、例えば、横加速度センサなどからのセンサ信号に基づいてロール角調整用モータの起動が必要と判断した場合、ロール角調整用モータの起動要求発生フラグを立てて、ロール角調整用モータを駆動する駆動信号を出力する。その駆動信号に従ってロール角調整用モータは動作する。ロール角調整用モータの動作によって、車両のロール角が調整され得る。
【0025】
電動スタビ2と同様に、走破性や乗降性などを向上させるシステムとして、車高制御装置(Active Height Control Suspension(AHC))がある。車高制御装置は、ユーザからの指令や車両の状態に応じて車両の高さを制御し、例えば、車高を一定に維持する制御を行ったり、車速に応じて適切な車高に制御を行ったりする。車高制御装置は、車高調整用モータ(AHCモータ)と車高調整用コンピュータ(AHC−ECU)とを備える。AHCモータは、車高を制御するための油圧を調整するポンプを駆動するモータである。AHC−ECUは、例えば、車高切替スイッチ等のユーザが操作可能な車両調整操作装置からの操作信号や他のコンピュータからの指令信号などの車高調整要求信号を受信した場合、AHCモータの起動要求発生フラグを立てて、AHCモータを駆動する駆動信号を出力する。また、AHC−ECUは、車速センサや車高センサなどからのセンサ信号に基づいてAHCモータの起動が必要と判断した場合、AHCモータの起動要求発生フラグを立てて、AHCモータを駆動する駆動信号を出力する。その駆動信号に従ってAHCモータは動作する。AHCモータの動作によって、車高が調整され得る。
【0026】
電動ブレーキ装置3(以下、「電動ブレーキ3」という)は、車両の挙動の安定性などの向上のため、横方向の加速度、ヨーレート、舵角などの車両の状態に応じて、車両の左右の制動力を自動的に調整する。電動ブレーキ3は、制動力調整用モータ(VSCモータ)と制動力調整用コンピュータ(VSC−ECU)とを備える。VSCモータは、制動力を調整するための油圧を調整するポンプを駆動するモータである。VSC−ECUは、例えば、車速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、舵角センサなどからのセンサ信号に基づいてVSCモータの起動が必要と判断した場合、VSCモータの起動要求発生フラグを立てて、VSCモータを駆動する駆動信号を出力する。その駆動信号に従ってVSCモータは動作する。VSCモータの動作によって、制動力が調整され得る結果、車両の挙動の安定化を可能にする。また、電動ブレーキ装置3として、エンジンの吸気による負圧ではなく電動油圧ポンプによってドライバーの制動操作力をアシストする倍力装置(ハイドロブースタ)が挙げられる。
【0027】
エアインジェクションシステム4(以下、「AI4」という)は、エアクリーナからの空気を排気ポートに送り込むことによって、排ガスの完全燃焼を促進させる二次空気供給装置である。AI4のコンピュータは、例えば、排気センサからのセンサ信号やエンジンの回転数情報に基づいてAI4の起動が必要と判断した場合、AI4の起動要求発生フラグを立てて、AI4を起動する。
【0028】
なお、電動パワステ1、電動スタビ2、電動ブレーキ3、AI4及び車高調整装置などに備えられるコンピュータ(ECU)は、制御プログラムや制御データを記憶するROM、制御プログラムの処理データを一時的に記憶するRAM、制御プログラムを処理するCPU、外部と情報をやり取りするための入出力インターフェースなどの複数の回路要素によって構成されたものである。
【0029】
また、電動パワステ1、電動スタビ2、電動ブレーキ3、AI4及び車高調整装置などの各ECUは、通信ライン30を介して、互いに通信可能なように接続されている。通信ライン30は、例えば、CAN(Controller Area Network)バスである。
【0030】
本第1の実施形態における車両には、上述の電動パワステ1などの電気負荷以外にも電気負荷A,Bが搭載される。電気負荷A,Bとして、例えば、エンジン制御装置、ブレーキ制御装置、エアコン、ヘッドライト、リヤデフォッガ、リヤワイパー、ミラーヒータ、シートヒータ、オーディオ、ランプ、シガーソケット、各種ECU、ソレノイドバルブなどが挙げられる。
【0031】
電動パワステ1等の電気負荷の電源として、バッテリ10やオルタネータ12が挙げられる。バッテリ10やオルタネータ12は、電源ライン(ハーネス)13を介して、各電気負荷に電力を供給する。バッテリ10の具体例として、鉛バッテリ、リチウムイオンバッテリ、ニッケル水素電池、電気二重層キャパシタなどの蓄電装置が挙げられる。
【0032】
また、バッテリ10には、電源ライン13を介して、運動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電を行うオルタネータ12が接続されていてもよい。オルタネータ12は、車両を走行させるためのエンジン11の出力によって発電を行う。オルタネータ12が発電した電力は、電動パワステ1等の電気負荷に供給されたりバッテリ10に充電されたりする。なお、オルタネータ12が停止している状態では、バッテリ10から各電気負荷に電力を供給し得る。例えば、エンジン11が停止してオルタネータ12の不作動状態である駐車状態で必要とされる電力は、バッテリ10から供給することができる。
【0033】
ところで、電源ライン13を介してバッテリ10やオルタネータ12から電力供給を受ける電気負荷の数や消費電流が増加するにつれて、特に劣化状態では、バッテリ10の電圧が降下しやすくなる。例えば、電動パワステ1の操舵力調整用モータと電動スタビ2のロール角調整用モータの起動要求がほぼ同時に発生した場合には、両者の動作電流(特に、定常時の動作電流より一時的に大きな電流である突入電流)はオーディオ等の電気負荷に比べて大きいため、操舵力調整用モータとロール角調整用モータが動作することにより大電力が消費され、バッテリ10やオルタネータ12の給電能力を一時的に超えることがある。その結果、バッテリ10の電圧低下が発生し、その電圧低下の誘因である電動パワステ1や電動スタビ2も含めバッテリ10に接続される電気負荷(特に、ナビゲーション装置などの最低作動電圧が他の電気負荷に比べ相対的に高い電気負荷)がその電圧低下によって機能不良(例えば、コンピュータのリセットや誤動作、モータ類の出力低下)を起こすおそれがある。また、例えば、バッテリ10に接続される電気負荷がランプであれば、明滅するおそれがある。したがって、このようなほぼ同時に電源を利用することによる電源電圧の降下を防ぐ対策が必要である。
【0034】
図2は、電動パワステ1の操舵力調整用モータと電動スタビ2のロール角調整用モータの動作タイミングの関係を示した図である。図2の期間t1は、操舵力調整用モータの起動後の動作電流により所定値以上の電圧降下がバッテリ10に発生する期間を示し、図2の期間t2は、ロール角調整用モータの起動後の動作電流により所定値以上の電圧降下がバッテリ10に発生する期間を示す。図2(a)に示されるように、操舵力調整用モータとロール角調整用モータの起動要求がほぼ同時刻に発生し、操舵力調整用モータとロール角調整用モータはそれぞれの起動要求に従って独立に動作を開始(起動)すると、期間t1と期間t2が同時期に重なることがある。その結果、バッテリ10やオルタネータ12の給電能力を一時的に超えて、バッテリ10の電圧降下が著しく大きくなり、バッテリ10から給電を受け得る電気負荷の動作に支障が出るおそれがある。
【0035】
そこで、本第1の実施形態の車両用電源制御装置は、遅延可能期間に応じて、電動パワステ1等の各電気負荷が同時に動作しないようにする制御を行う。遅延可能期間とは、電気負荷毎に設定され、電気負荷の起動要求から実際に起動するまで猶予可能な期間である。各電気負荷は、自身に設定された遅延可能期間内に起動すれば、その電気負荷の機能を正常に果たすことができるものとする。各電気負荷は、起動要求があった時に即起動するのではなく、自分が起動を遅らせることができる遅延可能時間を他の電気負荷に対して送信し、全電気負荷の中で一番残り時間の少ない電気負荷から起動する。このとき、遅延可能時間は、通信ライン30を介して相手に届くまでの最大の通信遅延時間を事前に差し引いて送信されることが好ましい。最大通信遅延時間を差し引いた上で送信しなければ、相手に信号が届いた際に既に遅延可能時間の限界値に迫っている可能性があるからである。なお、遅延可能期間が通信遅延時間よりも短い電気負荷については、遅延可能時間を他の電気負荷に対して送信せずに、起動要求の発生に伴い即起動する。
【0036】
図2(b)の期間t5は、電動パワステ1の操舵力調整用モータに設定された遅延可能期間を示し、図2(b)の期間t6は、電動スタビ2のロール角調整用モータに設定された遅延可能期間を示す。遅延可能期間に応じて各電気負荷が同時に動作しないようにするために、起動開始からの動作時間が短くて遅延可能時間の短い(時間的余裕の無い)電気負荷から順番に起動する。電動スタビ2のロール角調整用モータの遅延可能期間t6は、電動パワステ1の操舵力調整用モータの遅延可能期間t5より短い期間に設定されている。また、期間t3,t4は、通信等によりどの電気負荷が先に起動するのかを決定する調整期間である。したがって、電動パワステ1の操舵力調整用モータの起動要求と電動スタビ2のロール角調整用モータの起動要求がほぼ同時に発生したとしても、遅延可能期間が短いロール角調整用モータを実行した後に操舵力調整用モータを実行すれば、互いの突入電流は重なることもなく、電源電圧の降下も抑制することができる。
【0037】
図3は、第1の実施形態の車両用電源制御装置における電源ライン13に接続されるシステム(電気負荷)の動作フローを示す。電源ライン13に接続されるシステムの全部又はその一部のそれぞれが、図3に示す動作フローに従って動作する。各システムは、互いの情報を送受するために通信ライン30を介して接続され、自システムの実行状態を管理するためのバッファを有しているとともに、自身以外の他システムの実行状態を管理するためのバッファを有している。
【0038】
電源ライン13に接続される電気負荷の一つをシステムXとする。システムX(自システム)は、電源ライン13に接続されるシステムY(他システム)に関する起動要求管理バッファ[i]が1であるか否かを確認する(ステップ10)。起動要求管理バッファ[i]とは、各システムの起動要求通知信号の受信有無を管理するバッファ(すなわち、起動要求発生フラグ)であり、或るシステムの起動要求管理バッファ[i]の値が1である場合にはそのシステムの起動要求通知信号が受信済みであることを示す。起動要求通知信号とは、各システムが自身の起動を他のシステムに通知する信号であって、各システムから送信される信号である。各システムが送信する起動要求通知信号には、最大通信遅延時間を差し引かれた自身の遅延可能時間に関する情報が含まれる。
【0039】
システムXは、システムYに関する起動要求管理バッファ[i]が1ではない場合には(ステップ10;No)、システムYの起動要求通知信号の受信有無を監視する(ステップ12)。システムYの起動要求信号の受信があった場合には(ステップ12;Yes)、システムYに関する起動要求管理バッファ[i]を1にし(ステップ14)、システムYに関するデッドラインカウンタ[i]にデッドライン値を設定する(ステップ16)。デッドラインカウンタ[i]とは、各システムが動作を開始(起動)する時点を管理するカウンタである。デッドライン値は、各システムが動作を開始(起動)する時点を示す。各システムは、デッドラインカウンタ[i]のデッドライン値が零になった場合、そのデッドラインカウンタ[i]に係るシステムが動作を開始したとみなす。デッドライン値は、起動要求通知信号に含まれる遅延可能時間によって設定される値であるので、システム毎に異なる。
【0040】
一方、システムXは、システムYに関する起動要求管理バッファ[i]が1である場合には(ステップ10;Yes)、システムYに関する起動完了通知信号の受信有無を判断する(ステップ18)。起動完了通知信号とは、各システムが自身の起動の完了を他のシステムに通知する信号であって、各システムから送信される信号である。システムXは、システムYに関する起動完了通知信号の受信があった場合には(ステップ18;Yes)、システムYに関する起動要求管理バッファ[i]を零に設定する(ステップ20)。一方、システムXは、システムYに関する起動完了通知信号の受信がない場合には(ステップ18;No)、デッドラインカウンタ[i]を所定数だけデクリメントする(ステップ22)。システムXは、図3の点線で囲まれた部分のステップを、システムYだけでなく他のシステムについても同様に実行する。
【0041】
システムXは、全てのシステムについて図3の点線で囲まれた部分のステップの処理が終了した後に、自身の起動要求管理バッファである「自起動要求管理バッファ」が1であるか否かを確認する(ステップ30)。システムXは、自起動要求管理バッファが1ではない場合には(ステップ30;No)、自身に対して起動要求があるか否かを判断する(ステップ32)。自身に対して起動要求があった場合には(ステップ32;Yes)、自起動要求管理バッファを1に設定する(ステップ34)。一方、システムXは、自起動要求管理バッファが1である場合には(ステップ30;Yes)、自身のデッドラインカウンタを所定数だけデクリメントする(ステップ36)。
【0042】
システムXは、各システムのデッドラインまでの残り時間(すなわち、各システムに関するデッドラインカウンタのデッドライン値)によってソートを行い(ステップ38)、全システムのうち自身のデッドライン値が最小であるか否か(すなわち、自身の残り時間が最小であるか否か)を判断する(ステップ40)。
【0043】
システムXは、自身の残り時間が最小である場合には(ステップ40;Yes)、他のシステムに対して起動要求通知信号を送信する(ステップ42)。そして、システムXは、ステップ42にて起動要求通知信号を送信以後、通信遅延を考慮した所定時間を経過するまでの間に自身の起動のキャンセルを要請するキャンセル要求信号の受信があった場合には(ステップ44;No)、自身の起動をキャンセルする(ステップ46)。
【0044】
一方、システムXは、ステップ42にて起動要求通知信号を送信以後、通信遅延を考慮した所定時間を経過するまでの間に自身の起動のキャンセルを要請するキャンセル要求信号の受信がなかった場合には(ステップ44;Yes)、自身の動作開始時点を管理する自デッドラインカウンタに所定のデッドライン値を設定する(ステップ48)。そして、システムXは、自起動要求管理バッファを零に設定した上で(ステップ50)、システムの起動を開始するとともに起動完了通知信号を送信する(ステップ52)。システムX以外の各システムも、上述の図3のフローを、同様に実施する。したがって、各システムが、図3の動作フローをそれぞれ実施することで、各システムが同時に起動することを防ぐことができる。
【0045】
ところで、或るシステムの遅延可能期間が長いということは、多少待機してもよいということであり、つまり、そのシステムの優先度が低いことを示す。したがって、この点を利用し、例えばシステムの稼動状況やユーザからの要求に応じて遅延可能期間を変化させることによって各システムを効率よく制御することができる。例えば、或るシステムが動作する(言い換えれば、或るシステムの電力需要が発生する)可能性が低いと推定される場面においてはそのシステムの遅延可能時間を事前に長く変更しておくことによって、それ以外のシステムの応答性を相対的に向上させることができる。逆に、或るシステムが動作する(或るシステムの電力需要が発生する)可能性が高いと推定される場面においてはそのシステムの遅延可能時間を事前に短く変更しておくことによって、そのシステムの応答性を向上させることができる。
【0046】
そこで、各システムが互いの遅延可能時間(デッドライン値)を管理する第1の実施形態の車両用電源制御装置では、それぞれのシステムが自身の電力需要を予知させる予兆情報に基づいてその電力需要が発生することを推定し、推定結果に応じて自身の遅延可能時間を設定する。各システムが電力需要の発生を推定するにあたり、図1に示されるように、第1の実施形態の車両用電源制御装置は、例えば、視線検出装置20、ナビゲーション装置21、ブレーキ操作検出装置22及びエンジンECU23を備える。
【0047】
視線検出装置20は、車内にあるカメラによって撮影された乗員の撮影画像に基づいて乗員の視線や顔の向きを検出する装置である。ドライバーが車両を操舵する時には視線や顔の向きが操舵する方向に変化しているものである。そこで、ドライバーの視線や顔の向きが正面方向から非正面方向(斜め方向)に変化することを車両が操舵される兆候とみなせば、視線検出装置20によって当該変化が検出されることで車両が操舵されること(すなわち、電動パワステ1の操舵力調整用モータの電力需要が発生すること)を事前に推定することができる。したがって、視線検出装置20によって当該変化が検出された場合に電動パワステ1の操舵力調整用モータの遅延可能時間を短縮することによって、他のシステムと動作が重ならないようにしたまま、操舵用調整用モータの応答性を向上させることができる。
【0048】
ナビゲーション装置21は、GPS装置と地図DB(データベース)を有している。GPS装置は、GPS受信機によるGPS衛星からの受信情報に基づいて、自車の位置を2次元若しくは3次元の座標データによって特定する装置である。一方、地図DBは、高精度の地図情報を記憶している。高精度の地図情報には、直線路、カーブ、分岐路、路面傾斜及びカント等の道路形状や地形に関する情報や、交差点、踏切、駐車場、有料道路の料金所(ETCレーン)などの施設の存在地点の情報がその地点の座標データとともに含まれている。地図DB内の地図情報は、車車間通信や路車間通信や所定の管理センターなどの外部との通信を介して、あるいは、CDやDVDなどの媒体を介して、更新可能にしてもよい。したがって、ナビゲーション装置21は、GPS装置により検出された車両位置と地図DB内の地図情報に基づいて、自車が地図上のどのような地点に位置しているのかを把握することができる。
【0049】
そこで、車両がカーブを走行している時には、電動パワステ1の操舵力調整用モータや電動スタビ2のロール角調整用モータや車高制御装置のAHCモータの作動が想定されるため、車両がカーブの手前を走行していることをそれらのモータの電力需要が発生する兆候とみなせば、ナビゲーション装置21によってカーブの手前での走行が検出されることでそれらのモータの電力需要が発生することを事前に推定することができる。したがって、ナビゲーション装置21によってカーブの手前での走行が検出された場合に電動パワステ1の操舵力調整用モータや電動スタビ2のロール角調整用モータや車高制御装置のAHCモータの遅延可能時間を短縮することによって、他のシステムと動作が重ならないようにしたまま、それらのモータの応答性を向上させることができる。
【0050】
ブレーキ操作検出装置22は、ドライバーのブレーキ操作を検出するための装置であって、例えば、ドライバーの足とブレーキペダルとの接触を検知可能なタッチセンサやブレーキスイッチ、ドライバーによるブレーキペダルの踏み込み操作の初速を検知可能な速度センサである。そこで、ブレーキペダルをドライバーが踏み込んでいる時には、電動ブレーキ装置3のVSCモータやハイドロブースタの作動が想定されるため、ブレーキペダルの踏み始めをVSCモータやハイドロブースタの電力需要が発生する兆候とみなせば、ブレーキ操作検出装置22によってブレーキペダルの踏み始めが検出されることでVSCモータやハイドロブースタの電力需要が発生することを事前に推定することができる。したがって、ブレーキ操作検出装置22によってブレーキペダルの踏み始めが検出された場合に、VSCモータやハイドロブースタの遅延可能期間を短縮することによって、他のシステムと動作が重ならないようにしたまま、VSCモータやハイドロブースタの応答性を向上させることができる。
【0051】
エンジンECU23は、エンジン11を制御する制御コンピュータであって、エンジン11に関する情報を有する。したがって、エンジンECU23からエンジン回転数の情報を取得することが可能である。そこで、エンジンの回転数が所定値以上の時には、AI4の作動が想定されないため、エンジンの回転数が当該所定値以下に変化することをAI4の電力需要が発生する兆候とみなせば、エンジンECU23によってエンジン回転数が当該所定値以下に変化することが検出されることでAI4の電力需要が停止することを事前に推定することができる。したがって、エンジンECU23によってエンジン回転数が当該所定値以下に変化することが検出された場合に、AI4の遅延可能時間を延長することによって、他のシステムと動作が重ならないようにしたまま、電源ライン13に接続されるAI4以外のシステムの応答性を相対的に向上させることができる。
【0052】
[第2の実施例]
図4は、本発明の車両用電源制御装置の第2の実施形態を示す構成図である。第2の実施形態において、第1の実施形態と同様の機能や構成については、第1の実施形態と同一の符号を付して、説明を省略又は簡略する。本第2の実施形態における車両は、電動パワステ1、電動スタビ2などの複数の電気負荷を搭載するとともに、それらの電気負荷の電源供給を管理する電源マネジメントECU40を搭載する。
【0053】
車速センサ24は、車輪速を検出する。その検出値に応じて車速センサ24から出力される信号に基づいて、電源マネジメントECU40は車両の走行速度を演算する。
【0054】
操舵角センサ25は、ステアリングホイール部やそのステアリングホイールに連結するメインシャフト部に備えられている。操舵角センサ25は、ドライバーがステアリングホイールを操舵したときの操舵角の大きさと操舵方向を検出する。その検出値に応じて操舵角センサ25から出力される信号に基づいて、電源マネジメントECU40は操舵角を演算する。このとき、操舵方向は正負の符号によって表され、例えば、右操舵には+が付与され、左操舵には−が付与される。なお、電源マネジメントECU40は、演算された操舵角に基づいて操舵角の微分値、すなわち操舵角速度を演算することも可能である。
【0055】
電源マネジメントECU40は、電圧センサ14によってバッテリ10の電圧を監視し、所定値以下の電圧が検出されるか否かを監視し、バッテリ10の電圧が所定値以下で検出された場合にバッテリ10やオルタネータ12の電力供給能力が低下しているとみなす。なお、バッテリ10の「バッテリ残容量」が所定値以下で検出された場合にバッテリ10やオルタネータ12の電力供給能力が低下しているとみなしてもよい。
【0056】
図5は、走行中の車両が道路を曲がろうとする状況を示した図である。速度Vで走行中の車両が道路を曲がろうとする時に、ドライバーの操舵動作をアシストするために電動パワステ1の操舵力調整用モータが作動するとともに車両の沈み込みをカバーするように電動スタビ2のロール角調整用モータが作動する。したがって、電動パワステ1の操舵力調整用モータと電動スタビ2のロール角調整用モータがほぼ同時に作動することが起こり得るため、上述したように、それらの動作電流による電源電圧の低下を抑える対策が必要である。
【0057】
そこで、本第2の実施形態の車両用電源制御装置の電源マネジメントECU40は、ナビゲーション装置21の持つカーブ情報、車速センサ24による自車速情報、操舵角センサ25による操舵角速度情報などに基づいて、そのカーブを走行する際の電動パワステ1の操舵力調整用モータの動作電流と電動スタビ2のロール角調整用モータの動作電流を推定する。そして、これらの動作電流の推定結果に基づいて、電動パワステ1の操舵力調整用モータと電動スタビ2のロール角調整用モータが同時に動作しないようにする制御を行う。
【0058】
図6は、ナビゲーション装置21が有するカーブ情報を示した図である。K0は、そのカーブにおける曲率の最大値である。lは、曲率がK0になるまでの走行距離である。電動パワステ1の操舵力調整用モータの動作電流は、操舵角速度ωに応じて変化する。車両が一定速度Vで走行している場合、曲率の変化は、
K=V×K0/l
と表すことができる。また、操舵角θは、ホイールベース長をLとすると、
θ=L×K=L×(V×K0/l)
と表すことができる。したがって、操舵角速度ωは、
ω=dLK/dt=L×V×K0/l [rad/s]
と表すことができる。電源マネジメントECU40は、このように演算した操舵角速度ωに基づき、操舵角速度ωと電動パワステ1の操舵力調整用モータの動作電流との関係を定めたマップを用いて、電動パワステ1の操舵力調整用モータの動作電流を推定する。
【0059】
また、電源マネジメントECU40は、ナビゲーション装置21のカーブ情報に基づいて、そのカーブを走行する際の電動スタビ2のロール角調整用モータの動作電流を推定する。電動スタビ2のロール角調整用モータの動作電流は、車両に加わる横加速度に応じて変化する。車体に加わる横加速度をαとすると、
α=V2K
と表すことができる。したがって、電源マネジメントECU40は、このように演算した横加速度αに基づき、横加速度αと電動スタビ2のロール角調整用モータの動作電流との関係を定めたマップを用いて、電動スタビ2のロール角調整用モータの動作電流を推定する。
【0060】
電源マネジメントECU40は、電動パワステ1の操舵力調整用モータの動作電流と電動スタビ2のロール角調整用モータの動作電流を加算し、その加算値が現状のバッテリ10の電圧の低下につながるおそれがある場合には、電源ライン13に接続される現在動作中の電気負荷の消費電流が少なくなるように調整制御し、バッテリ10の電圧低下を防止する。また、電源マネジメントECU40は、その加算値が現状のバッテリ10の電圧の低下につながるおそれがある場合には、電動パワステ1及び電動スタビ2のモータの動作電流が少なくなるように制限することによってバッテリ10の電圧低下を防止することも可能である。なお、電圧降下を推定するためには、予め現状のバッテリの内部抵抗等の状態検知を行う。
【0061】
図8は、第2の実施形態の車両用電源制御装置の動作フローを示した図である。電源マネジメントECU40は、方向指示器によるウィンカ情報や操舵角センサによるステアリングの操舵角情報に基づいて、車両が道路を曲がることを予測する(ステップ62)。車両が道路を曲がることが予測されると(ステップ62;Yes)、ナビゲーション装置21によってどのカーブや分岐点等を曲がろうとしているのかが認識され、そのカーブ情報や分岐点情報が取得される(ステップ64)。電源マネジメントECU40は、カーブ情報等に基づいて横加速度と操舵角速度を演算し(ステップ66)、演算された操舵角速度に基づいて電動パワステ1の操舵角調整用モータの動作電流を推定するとともに、演算された横加速度に基づいて電動スタビ2のロール角調整用モータの動作電流を推定する(ステップ68)。両動作電流の和が電圧降下を判定する閾値を超えることにより電源電圧の降下があると推定された場合には(ステップ70;Yes)、電源ライン13に流れる電流値を所定値に制限する(ステップ72)。
【0062】
また、車速情報や操舵状態とカーブ情報等の道路情報に基づいて、車両の状態と電動パワステ1と電動スタビ2のモータの動作電流のピーク電流(最大値)が発生する走行位置を予測することも可能である。図7は、カーブを走行するときに発生する、電動パワステ1と電動スタビ2のモータの動作電流の推移を示した図である。両動作電流のピーク電流が発生する位置が重なると予測された場合には、ピーク電流が重ならないように両モータの作動開始時点をずらして動作させる。
【0063】
[第3の実施例]
図9は、本発明の車両用電源制御装置の第3の実施形態を示す構成図である。第3の実施形態において、第1及び第2の実施形態と同様の機能や構成については、第1及び第2の実施形態と同一の符号を付して、説明を省略又は簡略する。第2の実施形態では、電源マネジメントECU40が推定演算を行っていた。本第3の実施形態では、電動パワステ1に構成される演算装置(電動パワステECU1a)が操舵力調整用モータの動作電流(電動パワステ1全体の動作電流でもよい)を推定し、電動スタビ2に構成される演算装置(電動スタビECU2a)がロール角調整用モータの動作電流(電動スタビ2全体の動作電流でもよい)を推定する。
【0064】
各ECUが自身の制御するモータの動作電流の推定値を演算すると、電源マネジメントECU40が各ECUから情報を集めて各モータの動作電流の推定値を演算する場合に比べ、通信遅延も抑制でき、推定精度を向上させることができる。また、動作電流を推定すべきモータ等の対象負荷が増えるにつれて演算負荷が増加するため、一つのECUで全ての推定演算を行う場合よりも各ECUで分散して推定演算を行う場合のほうが、推定演算の対象負荷の増加に対する拡張性も高い。
【0065】
電動パワステECU1aは、図10に示されるように、操舵力調整用モータに対する現在の制御指示値、車速情報、操舵角センサ25による操舵角情報、操舵トルクセンサによる操舵トルク情報などに基づいて、所定時間(例えば、400ms)後に想定される操舵力調整用モータの動作電流の最大値を推定演算する。この所定時間は、オルタネータ12の応答時間より長く設定するのがよい。オルタネータ12に対して発電量の増減調整を指示しても、その所定時間内に増減調整を完了させることができるからである。電動パワステECU1aは、通信ライン31を介して、その動作電流の推定演算値を電源マネジメントECU40に送信する。電動スタビECU2aも、同様に、所定時間後に想定されるロール角調整用モータの動作電流の最大値を推定演算し、通信ライン31を介して、その推定演算値を電源マネジメントECU40に送信する。
【0066】
電源マネジメントECU40は、電動パワステECU1a等の大電流を消費する電気負荷を制御するECUから取得した推定演算値の総和を演算する。この際、単純に総和を演算すると必要以上に大きな値になるおそれがあるため、各電気負荷の関係性を定めたマップに基づいて、推定演算値の総和を演算する。各電気負荷の関係性を定めたマップとは、例えば、推定演算をする際の車両の動作条件毎に、総和を演算する際の各電気負荷の重み付けが定められたものである。
【0067】
図11は、第3の実施形態の車両用電源制御装置の動作フローを示した図である。電動スタビECU2a等は、自身が制御する電気負荷の所定時間後の動作電流の最大値を推定演算する(ステップ80)。電動スタビECU2a等は、その推定演算値を電源マネジメントECU40に送信する(ステップ82)。各ECUから推定演算値を取得した電源マネジメントECU40は、所定時間後に想定される推定演算値の総和の最悪値を演算し(ステップ84)、その最悪値と現在のバッテリ10の電圧とに基づいて所定時間後のバッテリ電圧の推定値を演算する(ステップ86)。電源マネジメントECU40は、そのバッテリ電圧の推定値が所定の閾値電圧(例えば、10V)を下回る場合には、エンジン回転数の上昇を指示したり、オルタネータ12に対して発電量を増加するように指示したり、電源ライン13に接続される他の電気負荷に対してその消費電流が減る方向に動作するように指示(例えば、動作停止の指示やエアコンの温度設定や風量を弱める指示)したりすることによって、その所定時間に到達する前にバッテリ10の電圧がその閾値電圧を少なくとも超えるようにする(ステップ88)。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0069】
1 電動パワステ装置
2 電動スタビ装置
3 電動ブレーキ装置
4 エアインジェクション装置
10 バッテリ
11 エンジン
12 オルタネータ
13 電源ライン
14 電圧センサ、電流センサ
20 視線検出装置
21 ナビゲーション装置
22 ブレーキ操作検出装置
23 エンジンECU
30,31 通信ライン
40 電源マネジメントECU
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される電気負荷に対する給電を制御する車両用電源制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力供給不足による機能低下を防止する車両用電力配分調整装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この車両用電力配分調整装置は、各電力需要機器の需要電力を検出してそれらの総和を算出し、その値が電力供給側の許容電力を超えた場合には優先順位の低い電力需要機器の消費電力を制限するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−77680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の従来技術では、各電気負荷の需要電力を検出した後に予め設定された優先順位に応じて各電気負荷に配分される電力を調整しているため、優先順位の高い電力需要機器の需要電力が電力供給側の許容電力を超えるほど大きくなると他の電力需要機器への電力供給が困難となる。
【0005】
そこで、本発明は、限りある供給可能電力を有効利用することができる、車両用電源制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両用電源制御装置は、
車両に搭載される複数の電気負荷と、
前記電気負荷に対して電力を供給する給電手段と、
前記電気負荷の作動を予知させる予兆情報に基づいて前記電気負荷の作動に伴う電力需要を推定する推定手段と、
前記推定手段の推定結果に応じて前記電気負荷のそれぞれに対する前記給電手段からの電力供給を調整することを特徴とする。
【0007】
これにより、電力需要自体を推定することによって、実際に電力需要が発生する前にそれらの電気負荷に対する給電を事前調整することができるので、供給可能電力の過不足が生じないよう有効利用することができる。
【0008】
ここで、前記推定手段は、前記電気負荷の電力消費のタイミングを推定し、前記タイミングが前記電気負荷のそれぞれで重ならないように制御すると、安定した電力供給を行うことができるので好適である。
【0009】
また、前記電気負荷は、電力消費が要求された後所定の猶予期間経過時に電力消費が発生するものであると好ましい。電力消費が発生するまでの猶予期間が各電気負荷に設けられることにより、作動要求後速やかに作動を開始させたい等の緊急性の高い電気負荷が他の電気負荷の作動開始の前に割り込みやすくすることができる。
【0010】
さらに、前記猶予期間の長さは、前記予兆情報に応じて変化させるとよい。猶予期間の長さを予兆情報の内容に合った適切な期間に設定することができる。また、例えば猶予期間を短くすることで割り込まれにくくなるので、所望の通り、各電気負荷に電力を供給することができる。
【0011】
また、前記電気負荷のそれぞれは、通信回線を介して受信した自身以外の他の電気負荷の猶予期間と比較して、自身の猶予期間が一番短い場合に電力消費を発生するものであると好適である。これにより、各電気負荷同士で電力消費が重なるのを確実に防止することができる。ここで、前記通信回線を介して送信される猶予期間は、送信元の電気負荷の有する猶予期間より短いと一層好適である。このようにすることによって、通信を介することによる遅延時間を考慮することができ、電力消費の重複を防止する確実性が増す。
【0012】
一方、前記推定手段は、前記電気負荷の消費電流を推定し、前記推定手段によって推定された前記電気負荷の消費電流の総和が前記給電手段の給電制限値を超えないように制御しても、安定した電力供給を行うことができるので好適である。
【0013】
ここで、前記給電手段の給電制限値を超えないように制御するため、前記給電手段から前記電気負荷に供給される電流を制限してもよいし、前記給電手段の給電能力を上昇させることによって前記給電制限値を高くしてもよい。
【0014】
また、前記電気負荷毎に制御装置を備え、前記制御装置のそれぞれが前記推定手段を有するようにしてもよい。例えば、前記電気負荷を制御する制御装置ごとに前記推定手段を備えて、前記制御装置毎に設置された前記推定手段のそれぞれは、自身が設置された前記制御装置によって制御される前記電気負荷のみに関する推定を行うことで、推定精度を向上させることができる。
【0015】
ところで、前記電気負荷には、車両の操舵状態に応じて電力を消費する第1の電気負荷が含まれ、前記推定手段による推定は、前記第1の電気負荷の作動の予兆となるドライバーの視線又は顔向き、あるいは道路形状に基づいて行われるのがよく、例えば、前記第1の電気負荷として、電動パワーステアリング装置用モータが挙げられる。
【0016】
また、前記電気負荷には、車両の横加速度に応じて電力を消費する第2の電気負荷が含まれ、前記推定手段による推定は、前記第2の電気負荷の作動の予兆となる道路形状に基づいて行われるのがよく、例えば、前記第2の電気負荷として、電動スタビリティコントロール装置用モータが挙げられる。
【0017】
また、前記電気負荷には、車両の制動状態に応じて電力を消費する第3の電気負荷が含まれ、前記推定手段による推定は、前記第3の電気負荷の作動の予兆となるドライバーの制動操作部への付与負荷に基づいて行われるのがよく、例えば、前記第3の電気負荷として、電動ブレーキ装置用モータが挙げられる。
【0018】
また、前記電気負荷には、車両のエンジンの回転数に応じて電力を消費する第4の電気負荷が含まれ、前記推定手段による推定は、前記第4の電気負荷の作動の予兆となるエンジン回転数に基づいて行われるのがよく、例えば、前記第4の電気負荷として、二次空気供給装置が挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、限りある供給可能電力を有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の車両用電源制御装置の第1の実施形態を示す構成図である。
【図2】電動パワステ1の操舵力調整用モータと電動スタビ2のロール角調整用モータの動作タイミングの関係を示した図である。
【図3】第1の実施形態の車両用電源装置における電源ライン13に接続されるシステムの動作フローを示す。
【図4】本発明の車両用電源制御装置の第2の実施形態を示す構成図である。
【図5】走行中の車両が道路を曲がろうとする状況を示した図である。
【図6】ナビゲーション装置21が有するカーブ情報を示した図である。
【図7】カーブを走行するときに発生する、電動パワステ1と電動スタビ2のモータの動作電流の推移を示した図である。
【図8】第2の実施形態の車両用電源制御装置の動作フローを示した図である。
【図9】本発明の車両用電源制御装置の第3の実施形態を示す構成図である。
【図10】電動パワステ1の動作電流の時間的推移を示す図である。
【図11】第3の実施形態の車両用電源制御装置の動作フローを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0022】
[第1の実施例]
図1は、本発明の車両用電源制御装置の第1の実施形態を示す構成図である。本第1の実施形態における車両は、例えば、電動パワーステアリング装置1、電動スタビリティコントロール装置2、電動ブレーキ装置3及びエアインジェクションシステム4など、複数の電気負荷を搭載している。
【0023】
電動パワーステアリング装置1(以下、「電動パワステ1」という)は、操舵状態に応じてモータにより操舵力を発生させてドライバーのステアリング操作を支援する。電動パワステ1は、操舵力調整用モータと操舵力調整用コンピュータ(電動パワステECU)とを備える。操舵力調整用モータは、例えば、ステアリング機構のラックのストロークを調整するモータである。電動パワステECUは、例えば、トルクセンサや操舵角センサなどからのセンサ信号に基づいて操舵力調整用モータの起動が必要と判断した場合、操舵力調整用モータの起動要求発生フラグを立てて、操舵力調整用モータを駆動する駆動信号を出力する。その駆動信号に従って操舵力調整用モータは動作する。操舵力調整用モータの動作によって、ドライバーのステアリング操作がアシストされ得る。
【0024】
電動スタビリティコントロール装置2(以下、「電動スタビ2」という)は、走破性や乗降性などの向上のため、車両のロールを抑えるスタビライザを電動で制御し、車両の横方向の加速度に応じて適切なロール角となるように車両の姿勢を制御する。電動スタビ2は、ロール角調整用モータとロール角調整用コンピュータ(電動スタビECU)とを備える。ロール角調整用モータは、例えば、トーションバーをねじるロータリアクチュエータである。電動スタビECUは、例えば、横加速度センサなどからのセンサ信号に基づいてロール角調整用モータの起動が必要と判断した場合、ロール角調整用モータの起動要求発生フラグを立てて、ロール角調整用モータを駆動する駆動信号を出力する。その駆動信号に従ってロール角調整用モータは動作する。ロール角調整用モータの動作によって、車両のロール角が調整され得る。
【0025】
電動スタビ2と同様に、走破性や乗降性などを向上させるシステムとして、車高制御装置(Active Height Control Suspension(AHC))がある。車高制御装置は、ユーザからの指令や車両の状態に応じて車両の高さを制御し、例えば、車高を一定に維持する制御を行ったり、車速に応じて適切な車高に制御を行ったりする。車高制御装置は、車高調整用モータ(AHCモータ)と車高調整用コンピュータ(AHC−ECU)とを備える。AHCモータは、車高を制御するための油圧を調整するポンプを駆動するモータである。AHC−ECUは、例えば、車高切替スイッチ等のユーザが操作可能な車両調整操作装置からの操作信号や他のコンピュータからの指令信号などの車高調整要求信号を受信した場合、AHCモータの起動要求発生フラグを立てて、AHCモータを駆動する駆動信号を出力する。また、AHC−ECUは、車速センサや車高センサなどからのセンサ信号に基づいてAHCモータの起動が必要と判断した場合、AHCモータの起動要求発生フラグを立てて、AHCモータを駆動する駆動信号を出力する。その駆動信号に従ってAHCモータは動作する。AHCモータの動作によって、車高が調整され得る。
【0026】
電動ブレーキ装置3(以下、「電動ブレーキ3」という)は、車両の挙動の安定性などの向上のため、横方向の加速度、ヨーレート、舵角などの車両の状態に応じて、車両の左右の制動力を自動的に調整する。電動ブレーキ3は、制動力調整用モータ(VSCモータ)と制動力調整用コンピュータ(VSC−ECU)とを備える。VSCモータは、制動力を調整するための油圧を調整するポンプを駆動するモータである。VSC−ECUは、例えば、車速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、舵角センサなどからのセンサ信号に基づいてVSCモータの起動が必要と判断した場合、VSCモータの起動要求発生フラグを立てて、VSCモータを駆動する駆動信号を出力する。その駆動信号に従ってVSCモータは動作する。VSCモータの動作によって、制動力が調整され得る結果、車両の挙動の安定化を可能にする。また、電動ブレーキ装置3として、エンジンの吸気による負圧ではなく電動油圧ポンプによってドライバーの制動操作力をアシストする倍力装置(ハイドロブースタ)が挙げられる。
【0027】
エアインジェクションシステム4(以下、「AI4」という)は、エアクリーナからの空気を排気ポートに送り込むことによって、排ガスの完全燃焼を促進させる二次空気供給装置である。AI4のコンピュータは、例えば、排気センサからのセンサ信号やエンジンの回転数情報に基づいてAI4の起動が必要と判断した場合、AI4の起動要求発生フラグを立てて、AI4を起動する。
【0028】
なお、電動パワステ1、電動スタビ2、電動ブレーキ3、AI4及び車高調整装置などに備えられるコンピュータ(ECU)は、制御プログラムや制御データを記憶するROM、制御プログラムの処理データを一時的に記憶するRAM、制御プログラムを処理するCPU、外部と情報をやり取りするための入出力インターフェースなどの複数の回路要素によって構成されたものである。
【0029】
また、電動パワステ1、電動スタビ2、電動ブレーキ3、AI4及び車高調整装置などの各ECUは、通信ライン30を介して、互いに通信可能なように接続されている。通信ライン30は、例えば、CAN(Controller Area Network)バスである。
【0030】
本第1の実施形態における車両には、上述の電動パワステ1などの電気負荷以外にも電気負荷A,Bが搭載される。電気負荷A,Bとして、例えば、エンジン制御装置、ブレーキ制御装置、エアコン、ヘッドライト、リヤデフォッガ、リヤワイパー、ミラーヒータ、シートヒータ、オーディオ、ランプ、シガーソケット、各種ECU、ソレノイドバルブなどが挙げられる。
【0031】
電動パワステ1等の電気負荷の電源として、バッテリ10やオルタネータ12が挙げられる。バッテリ10やオルタネータ12は、電源ライン(ハーネス)13を介して、各電気負荷に電力を供給する。バッテリ10の具体例として、鉛バッテリ、リチウムイオンバッテリ、ニッケル水素電池、電気二重層キャパシタなどの蓄電装置が挙げられる。
【0032】
また、バッテリ10には、電源ライン13を介して、運動エネルギーを電気エネルギーに変換することにより発電を行うオルタネータ12が接続されていてもよい。オルタネータ12は、車両を走行させるためのエンジン11の出力によって発電を行う。オルタネータ12が発電した電力は、電動パワステ1等の電気負荷に供給されたりバッテリ10に充電されたりする。なお、オルタネータ12が停止している状態では、バッテリ10から各電気負荷に電力を供給し得る。例えば、エンジン11が停止してオルタネータ12の不作動状態である駐車状態で必要とされる電力は、バッテリ10から供給することができる。
【0033】
ところで、電源ライン13を介してバッテリ10やオルタネータ12から電力供給を受ける電気負荷の数や消費電流が増加するにつれて、特に劣化状態では、バッテリ10の電圧が降下しやすくなる。例えば、電動パワステ1の操舵力調整用モータと電動スタビ2のロール角調整用モータの起動要求がほぼ同時に発生した場合には、両者の動作電流(特に、定常時の動作電流より一時的に大きな電流である突入電流)はオーディオ等の電気負荷に比べて大きいため、操舵力調整用モータとロール角調整用モータが動作することにより大電力が消費され、バッテリ10やオルタネータ12の給電能力を一時的に超えることがある。その結果、バッテリ10の電圧低下が発生し、その電圧低下の誘因である電動パワステ1や電動スタビ2も含めバッテリ10に接続される電気負荷(特に、ナビゲーション装置などの最低作動電圧が他の電気負荷に比べ相対的に高い電気負荷)がその電圧低下によって機能不良(例えば、コンピュータのリセットや誤動作、モータ類の出力低下)を起こすおそれがある。また、例えば、バッテリ10に接続される電気負荷がランプであれば、明滅するおそれがある。したがって、このようなほぼ同時に電源を利用することによる電源電圧の降下を防ぐ対策が必要である。
【0034】
図2は、電動パワステ1の操舵力調整用モータと電動スタビ2のロール角調整用モータの動作タイミングの関係を示した図である。図2の期間t1は、操舵力調整用モータの起動後の動作電流により所定値以上の電圧降下がバッテリ10に発生する期間を示し、図2の期間t2は、ロール角調整用モータの起動後の動作電流により所定値以上の電圧降下がバッテリ10に発生する期間を示す。図2(a)に示されるように、操舵力調整用モータとロール角調整用モータの起動要求がほぼ同時刻に発生し、操舵力調整用モータとロール角調整用モータはそれぞれの起動要求に従って独立に動作を開始(起動)すると、期間t1と期間t2が同時期に重なることがある。その結果、バッテリ10やオルタネータ12の給電能力を一時的に超えて、バッテリ10の電圧降下が著しく大きくなり、バッテリ10から給電を受け得る電気負荷の動作に支障が出るおそれがある。
【0035】
そこで、本第1の実施形態の車両用電源制御装置は、遅延可能期間に応じて、電動パワステ1等の各電気負荷が同時に動作しないようにする制御を行う。遅延可能期間とは、電気負荷毎に設定され、電気負荷の起動要求から実際に起動するまで猶予可能な期間である。各電気負荷は、自身に設定された遅延可能期間内に起動すれば、その電気負荷の機能を正常に果たすことができるものとする。各電気負荷は、起動要求があった時に即起動するのではなく、自分が起動を遅らせることができる遅延可能時間を他の電気負荷に対して送信し、全電気負荷の中で一番残り時間の少ない電気負荷から起動する。このとき、遅延可能時間は、通信ライン30を介して相手に届くまでの最大の通信遅延時間を事前に差し引いて送信されることが好ましい。最大通信遅延時間を差し引いた上で送信しなければ、相手に信号が届いた際に既に遅延可能時間の限界値に迫っている可能性があるからである。なお、遅延可能期間が通信遅延時間よりも短い電気負荷については、遅延可能時間を他の電気負荷に対して送信せずに、起動要求の発生に伴い即起動する。
【0036】
図2(b)の期間t5は、電動パワステ1の操舵力調整用モータに設定された遅延可能期間を示し、図2(b)の期間t6は、電動スタビ2のロール角調整用モータに設定された遅延可能期間を示す。遅延可能期間に応じて各電気負荷が同時に動作しないようにするために、起動開始からの動作時間が短くて遅延可能時間の短い(時間的余裕の無い)電気負荷から順番に起動する。電動スタビ2のロール角調整用モータの遅延可能期間t6は、電動パワステ1の操舵力調整用モータの遅延可能期間t5より短い期間に設定されている。また、期間t3,t4は、通信等によりどの電気負荷が先に起動するのかを決定する調整期間である。したがって、電動パワステ1の操舵力調整用モータの起動要求と電動スタビ2のロール角調整用モータの起動要求がほぼ同時に発生したとしても、遅延可能期間が短いロール角調整用モータを実行した後に操舵力調整用モータを実行すれば、互いの突入電流は重なることもなく、電源電圧の降下も抑制することができる。
【0037】
図3は、第1の実施形態の車両用電源制御装置における電源ライン13に接続されるシステム(電気負荷)の動作フローを示す。電源ライン13に接続されるシステムの全部又はその一部のそれぞれが、図3に示す動作フローに従って動作する。各システムは、互いの情報を送受するために通信ライン30を介して接続され、自システムの実行状態を管理するためのバッファを有しているとともに、自身以外の他システムの実行状態を管理するためのバッファを有している。
【0038】
電源ライン13に接続される電気負荷の一つをシステムXとする。システムX(自システム)は、電源ライン13に接続されるシステムY(他システム)に関する起動要求管理バッファ[i]が1であるか否かを確認する(ステップ10)。起動要求管理バッファ[i]とは、各システムの起動要求通知信号の受信有無を管理するバッファ(すなわち、起動要求発生フラグ)であり、或るシステムの起動要求管理バッファ[i]の値が1である場合にはそのシステムの起動要求通知信号が受信済みであることを示す。起動要求通知信号とは、各システムが自身の起動を他のシステムに通知する信号であって、各システムから送信される信号である。各システムが送信する起動要求通知信号には、最大通信遅延時間を差し引かれた自身の遅延可能時間に関する情報が含まれる。
【0039】
システムXは、システムYに関する起動要求管理バッファ[i]が1ではない場合には(ステップ10;No)、システムYの起動要求通知信号の受信有無を監視する(ステップ12)。システムYの起動要求信号の受信があった場合には(ステップ12;Yes)、システムYに関する起動要求管理バッファ[i]を1にし(ステップ14)、システムYに関するデッドラインカウンタ[i]にデッドライン値を設定する(ステップ16)。デッドラインカウンタ[i]とは、各システムが動作を開始(起動)する時点を管理するカウンタである。デッドライン値は、各システムが動作を開始(起動)する時点を示す。各システムは、デッドラインカウンタ[i]のデッドライン値が零になった場合、そのデッドラインカウンタ[i]に係るシステムが動作を開始したとみなす。デッドライン値は、起動要求通知信号に含まれる遅延可能時間によって設定される値であるので、システム毎に異なる。
【0040】
一方、システムXは、システムYに関する起動要求管理バッファ[i]が1である場合には(ステップ10;Yes)、システムYに関する起動完了通知信号の受信有無を判断する(ステップ18)。起動完了通知信号とは、各システムが自身の起動の完了を他のシステムに通知する信号であって、各システムから送信される信号である。システムXは、システムYに関する起動完了通知信号の受信があった場合には(ステップ18;Yes)、システムYに関する起動要求管理バッファ[i]を零に設定する(ステップ20)。一方、システムXは、システムYに関する起動完了通知信号の受信がない場合には(ステップ18;No)、デッドラインカウンタ[i]を所定数だけデクリメントする(ステップ22)。システムXは、図3の点線で囲まれた部分のステップを、システムYだけでなく他のシステムについても同様に実行する。
【0041】
システムXは、全てのシステムについて図3の点線で囲まれた部分のステップの処理が終了した後に、自身の起動要求管理バッファである「自起動要求管理バッファ」が1であるか否かを確認する(ステップ30)。システムXは、自起動要求管理バッファが1ではない場合には(ステップ30;No)、自身に対して起動要求があるか否かを判断する(ステップ32)。自身に対して起動要求があった場合には(ステップ32;Yes)、自起動要求管理バッファを1に設定する(ステップ34)。一方、システムXは、自起動要求管理バッファが1である場合には(ステップ30;Yes)、自身のデッドラインカウンタを所定数だけデクリメントする(ステップ36)。
【0042】
システムXは、各システムのデッドラインまでの残り時間(すなわち、各システムに関するデッドラインカウンタのデッドライン値)によってソートを行い(ステップ38)、全システムのうち自身のデッドライン値が最小であるか否か(すなわち、自身の残り時間が最小であるか否か)を判断する(ステップ40)。
【0043】
システムXは、自身の残り時間が最小である場合には(ステップ40;Yes)、他のシステムに対して起動要求通知信号を送信する(ステップ42)。そして、システムXは、ステップ42にて起動要求通知信号を送信以後、通信遅延を考慮した所定時間を経過するまでの間に自身の起動のキャンセルを要請するキャンセル要求信号の受信があった場合には(ステップ44;No)、自身の起動をキャンセルする(ステップ46)。
【0044】
一方、システムXは、ステップ42にて起動要求通知信号を送信以後、通信遅延を考慮した所定時間を経過するまでの間に自身の起動のキャンセルを要請するキャンセル要求信号の受信がなかった場合には(ステップ44;Yes)、自身の動作開始時点を管理する自デッドラインカウンタに所定のデッドライン値を設定する(ステップ48)。そして、システムXは、自起動要求管理バッファを零に設定した上で(ステップ50)、システムの起動を開始するとともに起動完了通知信号を送信する(ステップ52)。システムX以外の各システムも、上述の図3のフローを、同様に実施する。したがって、各システムが、図3の動作フローをそれぞれ実施することで、各システムが同時に起動することを防ぐことができる。
【0045】
ところで、或るシステムの遅延可能期間が長いということは、多少待機してもよいということであり、つまり、そのシステムの優先度が低いことを示す。したがって、この点を利用し、例えばシステムの稼動状況やユーザからの要求に応じて遅延可能期間を変化させることによって各システムを効率よく制御することができる。例えば、或るシステムが動作する(言い換えれば、或るシステムの電力需要が発生する)可能性が低いと推定される場面においてはそのシステムの遅延可能時間を事前に長く変更しておくことによって、それ以外のシステムの応答性を相対的に向上させることができる。逆に、或るシステムが動作する(或るシステムの電力需要が発生する)可能性が高いと推定される場面においてはそのシステムの遅延可能時間を事前に短く変更しておくことによって、そのシステムの応答性を向上させることができる。
【0046】
そこで、各システムが互いの遅延可能時間(デッドライン値)を管理する第1の実施形態の車両用電源制御装置では、それぞれのシステムが自身の電力需要を予知させる予兆情報に基づいてその電力需要が発生することを推定し、推定結果に応じて自身の遅延可能時間を設定する。各システムが電力需要の発生を推定するにあたり、図1に示されるように、第1の実施形態の車両用電源制御装置は、例えば、視線検出装置20、ナビゲーション装置21、ブレーキ操作検出装置22及びエンジンECU23を備える。
【0047】
視線検出装置20は、車内にあるカメラによって撮影された乗員の撮影画像に基づいて乗員の視線や顔の向きを検出する装置である。ドライバーが車両を操舵する時には視線や顔の向きが操舵する方向に変化しているものである。そこで、ドライバーの視線や顔の向きが正面方向から非正面方向(斜め方向)に変化することを車両が操舵される兆候とみなせば、視線検出装置20によって当該変化が検出されることで車両が操舵されること(すなわち、電動パワステ1の操舵力調整用モータの電力需要が発生すること)を事前に推定することができる。したがって、視線検出装置20によって当該変化が検出された場合に電動パワステ1の操舵力調整用モータの遅延可能時間を短縮することによって、他のシステムと動作が重ならないようにしたまま、操舵用調整用モータの応答性を向上させることができる。
【0048】
ナビゲーション装置21は、GPS装置と地図DB(データベース)を有している。GPS装置は、GPS受信機によるGPS衛星からの受信情報に基づいて、自車の位置を2次元若しくは3次元の座標データによって特定する装置である。一方、地図DBは、高精度の地図情報を記憶している。高精度の地図情報には、直線路、カーブ、分岐路、路面傾斜及びカント等の道路形状や地形に関する情報や、交差点、踏切、駐車場、有料道路の料金所(ETCレーン)などの施設の存在地点の情報がその地点の座標データとともに含まれている。地図DB内の地図情報は、車車間通信や路車間通信や所定の管理センターなどの外部との通信を介して、あるいは、CDやDVDなどの媒体を介して、更新可能にしてもよい。したがって、ナビゲーション装置21は、GPS装置により検出された車両位置と地図DB内の地図情報に基づいて、自車が地図上のどのような地点に位置しているのかを把握することができる。
【0049】
そこで、車両がカーブを走行している時には、電動パワステ1の操舵力調整用モータや電動スタビ2のロール角調整用モータや車高制御装置のAHCモータの作動が想定されるため、車両がカーブの手前を走行していることをそれらのモータの電力需要が発生する兆候とみなせば、ナビゲーション装置21によってカーブの手前での走行が検出されることでそれらのモータの電力需要が発生することを事前に推定することができる。したがって、ナビゲーション装置21によってカーブの手前での走行が検出された場合に電動パワステ1の操舵力調整用モータや電動スタビ2のロール角調整用モータや車高制御装置のAHCモータの遅延可能時間を短縮することによって、他のシステムと動作が重ならないようにしたまま、それらのモータの応答性を向上させることができる。
【0050】
ブレーキ操作検出装置22は、ドライバーのブレーキ操作を検出するための装置であって、例えば、ドライバーの足とブレーキペダルとの接触を検知可能なタッチセンサやブレーキスイッチ、ドライバーによるブレーキペダルの踏み込み操作の初速を検知可能な速度センサである。そこで、ブレーキペダルをドライバーが踏み込んでいる時には、電動ブレーキ装置3のVSCモータやハイドロブースタの作動が想定されるため、ブレーキペダルの踏み始めをVSCモータやハイドロブースタの電力需要が発生する兆候とみなせば、ブレーキ操作検出装置22によってブレーキペダルの踏み始めが検出されることでVSCモータやハイドロブースタの電力需要が発生することを事前に推定することができる。したがって、ブレーキ操作検出装置22によってブレーキペダルの踏み始めが検出された場合に、VSCモータやハイドロブースタの遅延可能期間を短縮することによって、他のシステムと動作が重ならないようにしたまま、VSCモータやハイドロブースタの応答性を向上させることができる。
【0051】
エンジンECU23は、エンジン11を制御する制御コンピュータであって、エンジン11に関する情報を有する。したがって、エンジンECU23からエンジン回転数の情報を取得することが可能である。そこで、エンジンの回転数が所定値以上の時には、AI4の作動が想定されないため、エンジンの回転数が当該所定値以下に変化することをAI4の電力需要が発生する兆候とみなせば、エンジンECU23によってエンジン回転数が当該所定値以下に変化することが検出されることでAI4の電力需要が停止することを事前に推定することができる。したがって、エンジンECU23によってエンジン回転数が当該所定値以下に変化することが検出された場合に、AI4の遅延可能時間を延長することによって、他のシステムと動作が重ならないようにしたまま、電源ライン13に接続されるAI4以外のシステムの応答性を相対的に向上させることができる。
【0052】
[第2の実施例]
図4は、本発明の車両用電源制御装置の第2の実施形態を示す構成図である。第2の実施形態において、第1の実施形態と同様の機能や構成については、第1の実施形態と同一の符号を付して、説明を省略又は簡略する。本第2の実施形態における車両は、電動パワステ1、電動スタビ2などの複数の電気負荷を搭載するとともに、それらの電気負荷の電源供給を管理する電源マネジメントECU40を搭載する。
【0053】
車速センサ24は、車輪速を検出する。その検出値に応じて車速センサ24から出力される信号に基づいて、電源マネジメントECU40は車両の走行速度を演算する。
【0054】
操舵角センサ25は、ステアリングホイール部やそのステアリングホイールに連結するメインシャフト部に備えられている。操舵角センサ25は、ドライバーがステアリングホイールを操舵したときの操舵角の大きさと操舵方向を検出する。その検出値に応じて操舵角センサ25から出力される信号に基づいて、電源マネジメントECU40は操舵角を演算する。このとき、操舵方向は正負の符号によって表され、例えば、右操舵には+が付与され、左操舵には−が付与される。なお、電源マネジメントECU40は、演算された操舵角に基づいて操舵角の微分値、すなわち操舵角速度を演算することも可能である。
【0055】
電源マネジメントECU40は、電圧センサ14によってバッテリ10の電圧を監視し、所定値以下の電圧が検出されるか否かを監視し、バッテリ10の電圧が所定値以下で検出された場合にバッテリ10やオルタネータ12の電力供給能力が低下しているとみなす。なお、バッテリ10の「バッテリ残容量」が所定値以下で検出された場合にバッテリ10やオルタネータ12の電力供給能力が低下しているとみなしてもよい。
【0056】
図5は、走行中の車両が道路を曲がろうとする状況を示した図である。速度Vで走行中の車両が道路を曲がろうとする時に、ドライバーの操舵動作をアシストするために電動パワステ1の操舵力調整用モータが作動するとともに車両の沈み込みをカバーするように電動スタビ2のロール角調整用モータが作動する。したがって、電動パワステ1の操舵力調整用モータと電動スタビ2のロール角調整用モータがほぼ同時に作動することが起こり得るため、上述したように、それらの動作電流による電源電圧の低下を抑える対策が必要である。
【0057】
そこで、本第2の実施形態の車両用電源制御装置の電源マネジメントECU40は、ナビゲーション装置21の持つカーブ情報、車速センサ24による自車速情報、操舵角センサ25による操舵角速度情報などに基づいて、そのカーブを走行する際の電動パワステ1の操舵力調整用モータの動作電流と電動スタビ2のロール角調整用モータの動作電流を推定する。そして、これらの動作電流の推定結果に基づいて、電動パワステ1の操舵力調整用モータと電動スタビ2のロール角調整用モータが同時に動作しないようにする制御を行う。
【0058】
図6は、ナビゲーション装置21が有するカーブ情報を示した図である。K0は、そのカーブにおける曲率の最大値である。lは、曲率がK0になるまでの走行距離である。電動パワステ1の操舵力調整用モータの動作電流は、操舵角速度ωに応じて変化する。車両が一定速度Vで走行している場合、曲率の変化は、
K=V×K0/l
と表すことができる。また、操舵角θは、ホイールベース長をLとすると、
θ=L×K=L×(V×K0/l)
と表すことができる。したがって、操舵角速度ωは、
ω=dLK/dt=L×V×K0/l [rad/s]
と表すことができる。電源マネジメントECU40は、このように演算した操舵角速度ωに基づき、操舵角速度ωと電動パワステ1の操舵力調整用モータの動作電流との関係を定めたマップを用いて、電動パワステ1の操舵力調整用モータの動作電流を推定する。
【0059】
また、電源マネジメントECU40は、ナビゲーション装置21のカーブ情報に基づいて、そのカーブを走行する際の電動スタビ2のロール角調整用モータの動作電流を推定する。電動スタビ2のロール角調整用モータの動作電流は、車両に加わる横加速度に応じて変化する。車体に加わる横加速度をαとすると、
α=V2K
と表すことができる。したがって、電源マネジメントECU40は、このように演算した横加速度αに基づき、横加速度αと電動スタビ2のロール角調整用モータの動作電流との関係を定めたマップを用いて、電動スタビ2のロール角調整用モータの動作電流を推定する。
【0060】
電源マネジメントECU40は、電動パワステ1の操舵力調整用モータの動作電流と電動スタビ2のロール角調整用モータの動作電流を加算し、その加算値が現状のバッテリ10の電圧の低下につながるおそれがある場合には、電源ライン13に接続される現在動作中の電気負荷の消費電流が少なくなるように調整制御し、バッテリ10の電圧低下を防止する。また、電源マネジメントECU40は、その加算値が現状のバッテリ10の電圧の低下につながるおそれがある場合には、電動パワステ1及び電動スタビ2のモータの動作電流が少なくなるように制限することによってバッテリ10の電圧低下を防止することも可能である。なお、電圧降下を推定するためには、予め現状のバッテリの内部抵抗等の状態検知を行う。
【0061】
図8は、第2の実施形態の車両用電源制御装置の動作フローを示した図である。電源マネジメントECU40は、方向指示器によるウィンカ情報や操舵角センサによるステアリングの操舵角情報に基づいて、車両が道路を曲がることを予測する(ステップ62)。車両が道路を曲がることが予測されると(ステップ62;Yes)、ナビゲーション装置21によってどのカーブや分岐点等を曲がろうとしているのかが認識され、そのカーブ情報や分岐点情報が取得される(ステップ64)。電源マネジメントECU40は、カーブ情報等に基づいて横加速度と操舵角速度を演算し(ステップ66)、演算された操舵角速度に基づいて電動パワステ1の操舵角調整用モータの動作電流を推定するとともに、演算された横加速度に基づいて電動スタビ2のロール角調整用モータの動作電流を推定する(ステップ68)。両動作電流の和が電圧降下を判定する閾値を超えることにより電源電圧の降下があると推定された場合には(ステップ70;Yes)、電源ライン13に流れる電流値を所定値に制限する(ステップ72)。
【0062】
また、車速情報や操舵状態とカーブ情報等の道路情報に基づいて、車両の状態と電動パワステ1と電動スタビ2のモータの動作電流のピーク電流(最大値)が発生する走行位置を予測することも可能である。図7は、カーブを走行するときに発生する、電動パワステ1と電動スタビ2のモータの動作電流の推移を示した図である。両動作電流のピーク電流が発生する位置が重なると予測された場合には、ピーク電流が重ならないように両モータの作動開始時点をずらして動作させる。
【0063】
[第3の実施例]
図9は、本発明の車両用電源制御装置の第3の実施形態を示す構成図である。第3の実施形態において、第1及び第2の実施形態と同様の機能や構成については、第1及び第2の実施形態と同一の符号を付して、説明を省略又は簡略する。第2の実施形態では、電源マネジメントECU40が推定演算を行っていた。本第3の実施形態では、電動パワステ1に構成される演算装置(電動パワステECU1a)が操舵力調整用モータの動作電流(電動パワステ1全体の動作電流でもよい)を推定し、電動スタビ2に構成される演算装置(電動スタビECU2a)がロール角調整用モータの動作電流(電動スタビ2全体の動作電流でもよい)を推定する。
【0064】
各ECUが自身の制御するモータの動作電流の推定値を演算すると、電源マネジメントECU40が各ECUから情報を集めて各モータの動作電流の推定値を演算する場合に比べ、通信遅延も抑制でき、推定精度を向上させることができる。また、動作電流を推定すべきモータ等の対象負荷が増えるにつれて演算負荷が増加するため、一つのECUで全ての推定演算を行う場合よりも各ECUで分散して推定演算を行う場合のほうが、推定演算の対象負荷の増加に対する拡張性も高い。
【0065】
電動パワステECU1aは、図10に示されるように、操舵力調整用モータに対する現在の制御指示値、車速情報、操舵角センサ25による操舵角情報、操舵トルクセンサによる操舵トルク情報などに基づいて、所定時間(例えば、400ms)後に想定される操舵力調整用モータの動作電流の最大値を推定演算する。この所定時間は、オルタネータ12の応答時間より長く設定するのがよい。オルタネータ12に対して発電量の増減調整を指示しても、その所定時間内に増減調整を完了させることができるからである。電動パワステECU1aは、通信ライン31を介して、その動作電流の推定演算値を電源マネジメントECU40に送信する。電動スタビECU2aも、同様に、所定時間後に想定されるロール角調整用モータの動作電流の最大値を推定演算し、通信ライン31を介して、その推定演算値を電源マネジメントECU40に送信する。
【0066】
電源マネジメントECU40は、電動パワステECU1a等の大電流を消費する電気負荷を制御するECUから取得した推定演算値の総和を演算する。この際、単純に総和を演算すると必要以上に大きな値になるおそれがあるため、各電気負荷の関係性を定めたマップに基づいて、推定演算値の総和を演算する。各電気負荷の関係性を定めたマップとは、例えば、推定演算をする際の車両の動作条件毎に、総和を演算する際の各電気負荷の重み付けが定められたものである。
【0067】
図11は、第3の実施形態の車両用電源制御装置の動作フローを示した図である。電動スタビECU2a等は、自身が制御する電気負荷の所定時間後の動作電流の最大値を推定演算する(ステップ80)。電動スタビECU2a等は、その推定演算値を電源マネジメントECU40に送信する(ステップ82)。各ECUから推定演算値を取得した電源マネジメントECU40は、所定時間後に想定される推定演算値の総和の最悪値を演算し(ステップ84)、その最悪値と現在のバッテリ10の電圧とに基づいて所定時間後のバッテリ電圧の推定値を演算する(ステップ86)。電源マネジメントECU40は、そのバッテリ電圧の推定値が所定の閾値電圧(例えば、10V)を下回る場合には、エンジン回転数の上昇を指示したり、オルタネータ12に対して発電量を増加するように指示したり、電源ライン13に接続される他の電気負荷に対してその消費電流が減る方向に動作するように指示(例えば、動作停止の指示やエアコンの温度設定や風量を弱める指示)したりすることによって、その所定時間に到達する前にバッテリ10の電圧がその閾値電圧を少なくとも超えるようにする(ステップ88)。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0069】
1 電動パワステ装置
2 電動スタビ装置
3 電動ブレーキ装置
4 エアインジェクション装置
10 バッテリ
11 エンジン
12 オルタネータ
13 電源ライン
14 電圧センサ、電流センサ
20 視線検出装置
21 ナビゲーション装置
22 ブレーキ操作検出装置
23 エンジンECU
30,31 通信ライン
40 電源マネジメントECU
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される複数の電気負荷と、
前記電気負荷に対して電力を供給する給電手段と、
前記電気負荷の作動を予知させる予兆情報に基づいて前記電気負荷の作動に伴う電力需要を推定する推定手段と、
前記推定手段の推定結果に応じて前記電気負荷のそれぞれに対する前記給電手段からの電力供給を調整することを特徴とする、車両用電源制御装置。
【請求項2】
前記推定手段は、前記電気負荷の電力消費のタイミングを推定し、
前記タイミングが前記電気負荷のそれぞれで重ならないように制御することを特徴とする、請求項1又は2に記載の車両用電源制御装置。
【請求項3】
前記電気負荷は、電力消費が要求された後所定の猶予期間経過時に電力消費が発生することを特徴とする、請求項2に記載の車両用電源制御装置。
【請求項4】
前記猶予期間の長さは、前記予兆情報に応じて変化することを特徴とする、請求項3に記載の車両用電源制御装置。
【請求項5】
前記電気負荷のそれぞれは、通信回線を介して受信した自身以外の他の電気負荷の猶予期間と比較して、自身の猶予期間が一番短い場合に電力消費を発生するものであることを特徴とする、請求項3又は4に記載の車両用電源制御装置。
【請求項6】
前記通信回線を介して送信される猶予期間は、送信元の電気負荷の有する猶予期間より短いことを特徴とする、請求項5に記載の車両用電源制御装置。
【請求項7】
前記推定手段は、前記電気負荷の消費電流を推定し、
前記推定手段によって推定された前記電気負荷の消費電流の総和が前記給電手段の給電制限値を超えないように制御することを特徴とする、請求項1又は2に記載の車両用電源制御装置。
【請求項8】
前記給電手段から前記電気負荷に供給される電流を制限することを特徴とする、請求項7記載の車両用電源制御装置。
【請求項9】
前記給電手段の給電能力を上昇させることによって前記給電制限値を高くすることを特徴とする、請求項7記載の車両用電源制御装置。
【請求項10】
前記電気負荷毎に制御装置を備え、
前記制御装置のそれぞれが前記推定手段を有することを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の車両用電源制御装置。
【請求項11】
前記電気負荷には、車両の操舵状態に応じて電力を消費する第1の電気負荷が含まれ、
前記推定手段による推定は、前記第1の電気負荷の作動の予兆となるドライバーの視線又は顔向きに基づいて行われることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の車両用電源制御装置。
【請求項12】
前記電気負荷には、車両の操舵状態に応じて電力を消費する第1の電気負荷が含まれ、
前記推定手段による推定は、前記第1の電気負荷の作動の予兆となる道路形状に基づいて行われることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の車両用電源制御装置。
【請求項13】
前記電気負荷には、車両の横加速度に応じて電力を消費する第2の電気負荷が含まれ、
前記推定手段による推定は、前記第2の電気負荷の作動の予兆となる道路形状に基づいて行われることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の車両用電源制御装置。
【請求項14】
前記電気負荷には、車両の制動状態に応じて電力を消費する第3の電気負荷が含まれ、
前記推定手段による推定は、前記第3の電気負荷の作動の予兆となるドライバーの制動操作部への付与負荷に基づいて行われることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の車両用電源制御装置。
【請求項15】
前記電気負荷には、車両のエンジンの回転数に応じて電力を消費する第4の電気負荷が含まれ、
前記推定手段による推定は、前記第4の電気負荷の作動の予兆となるエンジン回転数に基づいて行われることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の車両用電源制御装置。
【請求項16】
前記第1の電気負荷は、電動パワーステアリング装置用モータである、請求項11又は12に記載の車両用電源制御装置。
【請求項17】
前記第2の電気負荷は、電動スタビリティコントロール装置用モータである、請求項13に記載の車両用電源制御装置。
【請求項18】
前記第3の電気負荷は、電動ブレーキ装置用モータである、請求項14に記載の車両用電源制御装置。
【請求項19】
前記第4の電気負荷は、二次空気供給装置である、請求項15に記載の車両用電源制御装置。
【請求項1】
車両に搭載される複数の電気負荷と、
前記電気負荷に対して電力を供給する給電手段と、
前記電気負荷の作動を予知させる予兆情報に基づいて前記電気負荷の作動に伴う電力需要を推定する推定手段と、
前記推定手段の推定結果に応じて前記電気負荷のそれぞれに対する前記給電手段からの電力供給を調整することを特徴とする、車両用電源制御装置。
【請求項2】
前記推定手段は、前記電気負荷の電力消費のタイミングを推定し、
前記タイミングが前記電気負荷のそれぞれで重ならないように制御することを特徴とする、請求項1又は2に記載の車両用電源制御装置。
【請求項3】
前記電気負荷は、電力消費が要求された後所定の猶予期間経過時に電力消費が発生することを特徴とする、請求項2に記載の車両用電源制御装置。
【請求項4】
前記猶予期間の長さは、前記予兆情報に応じて変化することを特徴とする、請求項3に記載の車両用電源制御装置。
【請求項5】
前記電気負荷のそれぞれは、通信回線を介して受信した自身以外の他の電気負荷の猶予期間と比較して、自身の猶予期間が一番短い場合に電力消費を発生するものであることを特徴とする、請求項3又は4に記載の車両用電源制御装置。
【請求項6】
前記通信回線を介して送信される猶予期間は、送信元の電気負荷の有する猶予期間より短いことを特徴とする、請求項5に記載の車両用電源制御装置。
【請求項7】
前記推定手段は、前記電気負荷の消費電流を推定し、
前記推定手段によって推定された前記電気負荷の消費電流の総和が前記給電手段の給電制限値を超えないように制御することを特徴とする、請求項1又は2に記載の車両用電源制御装置。
【請求項8】
前記給電手段から前記電気負荷に供給される電流を制限することを特徴とする、請求項7記載の車両用電源制御装置。
【請求項9】
前記給電手段の給電能力を上昇させることによって前記給電制限値を高くすることを特徴とする、請求項7記載の車両用電源制御装置。
【請求項10】
前記電気負荷毎に制御装置を備え、
前記制御装置のそれぞれが前記推定手段を有することを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の車両用電源制御装置。
【請求項11】
前記電気負荷には、車両の操舵状態に応じて電力を消費する第1の電気負荷が含まれ、
前記推定手段による推定は、前記第1の電気負荷の作動の予兆となるドライバーの視線又は顔向きに基づいて行われることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の車両用電源制御装置。
【請求項12】
前記電気負荷には、車両の操舵状態に応じて電力を消費する第1の電気負荷が含まれ、
前記推定手段による推定は、前記第1の電気負荷の作動の予兆となる道路形状に基づいて行われることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の車両用電源制御装置。
【請求項13】
前記電気負荷には、車両の横加速度に応じて電力を消費する第2の電気負荷が含まれ、
前記推定手段による推定は、前記第2の電気負荷の作動の予兆となる道路形状に基づいて行われることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の車両用電源制御装置。
【請求項14】
前記電気負荷には、車両の制動状態に応じて電力を消費する第3の電気負荷が含まれ、
前記推定手段による推定は、前記第3の電気負荷の作動の予兆となるドライバーの制動操作部への付与負荷に基づいて行われることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の車両用電源制御装置。
【請求項15】
前記電気負荷には、車両のエンジンの回転数に応じて電力を消費する第4の電気負荷が含まれ、
前記推定手段による推定は、前記第4の電気負荷の作動の予兆となるエンジン回転数に基づいて行われることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の車両用電源制御装置。
【請求項16】
前記第1の電気負荷は、電動パワーステアリング装置用モータである、請求項11又は12に記載の車両用電源制御装置。
【請求項17】
前記第2の電気負荷は、電動スタビリティコントロール装置用モータである、請求項13に記載の車両用電源制御装置。
【請求項18】
前記第3の電気負荷は、電動ブレーキ装置用モータである、請求項14に記載の車両用電源制御装置。
【請求項19】
前記第4の電気負荷は、二次空気供給装置である、請求項15に記載の車両用電源制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−126535(P2011−126535A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29119(P2011−29119)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【分割の表示】特願2006−287762(P2006−287762)の分割
【原出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【分割の表示】特願2006−287762(P2006−287762)の分割
【原出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]