説明

車両運転評価システム

【課題】制御パラメータとして制御系に入力される検出信号の数を減らし、簡単な構成でエンジン負荷に基づいて適正な車両運転が可能となるとなる運転評価システムを提供する。
【解決手段】エンジン回転数を測定回転数として検知する回転数検知部5bと、アクセル開度を検知するアクセル開度検知部5aと、エンジン無負荷時のエンジン回転数である基準回転数からのエンジン回転数ドロップ量とトルク変化との間のアクセル開度別に作成された相関関係に基づいて測定回転数から算定される部分負荷度と最大負荷度とからエンジン負荷率を演算するエンジン負荷率演算手段と、演算されたエンジン負荷率に基づいて車両の適正運転情報を生成する運転情報生成手段60とが備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン駆動走行車両におけるエンジン負荷に基づいて適正な車両運転を行うために利用される車両運転評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクセルワーク( 加減速操作) や、変速操作に関するリアルアドバイス表示及び音声警告を必要な場合にのみ表示させ、省燃費運転評価の精度を高めることの出来る省燃費運転評価システムが特許文献1に記載されている。この省燃費運転評価システムは、車両のエンジン回転数を計測するエンジン回転センサと、アクセル開度を計測するアクセル開度センサと、車速を計測する車速センサと、タイマと、燃料流量を計測する燃料メータと、エンジントルクを計測するエンジン負荷センサとを備えている。計測されたエンジン回転数、アクセル開度、車速、経過時間、燃料流量、エンジン負荷は車両信号として記憶され、それらの車両信号から、車載コントロールユニットが燃料消費量、車両の加速度、減速度、走行距離を演算する。さらに、車載コントロールユニットは、エンジン回転数及びエンジン負荷が所定値以上で、登坂とは判定していなくて、アクセルペダルの踏み過ぎを警告する表示( 例えば、「アクセルを踏み過ぎです」) が非表示の場合で、且つ複数段変速機の最高段より一つ下の変速段以下の場合には、シフトアップを促す表示( 例えば、「シフトアップをしましょう」) を表示し及び/ 又は同様の音声警告を発し、その後エンジン回転数が所定値未満、又はエンジン負荷が所定値未満、又は登坂判定が出されている場合には、シフトアップを促す表示( 「シフトアップをしましょう」) を非表示にした後、通常画面に戻る様に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006‐76415号公報(段落番号〔0006−0022〕、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような運転評価システムは、種々の運転評価を運転者に対して報知することができるが、多くの制御パラメータを取得するために多くのセンサが必要となる。特に、燃料メータによる燃料流量検出やエンジン負荷センサによるエンジントルク検出をある程度正確に行うためにはコスト高になるだけでなく、コントロールユニットに入力される信号が多くなることによる、ハードウエアとソフトウエアの両方で負担が大きくなる。
【0005】
上記実情に鑑み、本発明の目的は、できるだけ、制御パラメータとして制御系に入力される検出信号の数を減らし、簡単な構成でエンジン負荷に基づいて適正な車両運転が可能となるとなる運転評価システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、エンジン駆動走行車両のための本発明による車両運転評価システムは、エンジン駆動走行車両のエンジン回転数を測定回転数として検知する回転数検知部と、アクセル開度を検知するアクセル開度検知部と、エンジン無負荷時のエンジン回転数である基準回転数からのエンジン回転数ドロップ量とトルク変化との間の前記アクセル開度別に作成された相関関係に基づいて前記測定回転数から算定される部分負荷度と、前記アクセル開度別の最大負荷度とからエンジン負荷率を演算するエンジン負荷率演算手段と、前記エンジン負荷率演算手段によって演算された前記エンジン負荷率に基づいて前記車両の適正運転情報を生成する運転情報生成手段とを備えている。
【0007】
本願発明は、無負荷(アイドリング運転)から最大負荷のトルク領域とエンジン回転数との関係をアクセル開度別に測定して得られた特性曲線に基づいて生成された、トルクとエンジン回転数との間の相関関係を利用することで、アクセル開度とエンジンの測定回転数とからトルクないしはトルクに相関する値としてのエンジン負荷度が推定できるという知見に基づくものである。
従って、予めエンジン無負荷時のエンジン回転数である基準回転数からのエンジン回転数ドロップ量とトルク(エンジン負荷度)とのアクセル開度別相関関係を構築し、エンジン負荷率演算手段に設定しておけば、前記アクセル開度検知部によって検知されたアクセル開度と前記回転数検知部によって検知された測定回転数とからその時点でのエンジンの負荷率である部分負荷率が算定される。さらに、この算定された部分負荷率と、検知されているアクセル開度における予め決定されている最大負荷度とから、最大負荷度に対する部分負荷度の割合としてのエンジン負荷率が演算される。従って、このエンジン負荷率を得るために必要な入力パラメータはアクセル開度と測定回転数だけであり、これによりエンジン負荷率演算手段はハードウエア的にもプログラム的にも簡単な構成で実現できる。エンジン負荷率が得られると、エンジン負荷率に基づいてこのエンジン駆動車両の適正運転情報が生成される。この適正運転情報は、車両運転機器に対する制御信号のために利用してもよいし、運転者に対する適正運転を促すための報知のために利用してもよい。例えば、簡単には、エンジン負荷率をそのまま数値の形態、あるいは図形化された形態でモニタに表示したり、音声で報知するとよい。さらに、予め設定されたルールに従って、最適変速段へのシフト変更指示などの運転をアシストするための運転評価を行ってもよい。
【0008】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記エンジン負荷率演算手段は、前記アクセル開度検知部によって検知されたアクセル開度によって前記最大負荷度を決定する最大負荷度決定部と、当該アクセル開度によって特定される前記相関関係に基づいて前記測定回転数から部分負荷度を算定する部分負荷度演算部と、前記最大負荷度と前記部分負荷度とから前記エンジン負荷率を演算する負荷率演算部とを含むように構成されている。この構成では、アクセル開度さえ検知されると、当該アクセル開度によって特定される相関関係を利用することができるので、部分負荷度演算部が測定回転数から部分負荷度を算定し、さらに最大負荷度決定部が当該アクセル開度によって最大負荷度を決定するとともに、このようにして得られた最大負荷度と部分負荷度とから負荷率演算部がエンジン負荷率を演算する。つまり、検知されたアクセル開度によって特定できるように予めアクセル開度毎の相関関係を作成しておき、運転者による操作によってアクセル開度が調整されると、そのアクセル開度に適合した相関関係が、通常コンピュータプログラムによって構築されるエンジン負荷率演算手段の内部で設定され、最大負荷度決定部によって最大負荷度も決定される。これにより、順次入力される測定回転数から部分負荷度が算定されると、その時点でのエンジン負荷率が演算される。従って、予めアクセル開度毎の相関関係さえ実験的に作成しておくだけで、アクセル開度や測定回転数の検出信号さえ入力されるようにすれば、トルクセンサなどのようなエンジン負荷に関するセンサからの信号を必要とせずに、エンジン負荷率を演算し、その演算されたエンジン負荷率に基づき種々の運転評価や運転者に対する報知が可能となる。
【0009】
本発明の好適な実施形態として、前記相関関係を、所定のアクセル開度毎に前もって生成され格納されている、前記測定回転数を変数入力として前記部分負荷度を出力とするアクセル開度別関数とすると好適である。このようなアクセル開度別関数は、所定のアクセル開度毎に前もって生成してコンピュータメモリに格納することができる。上述した相関関係がアクセル開度別関数として構成されていることから、必要な精度が満たされる間隔で割り当てられたアクセル開度毎に関数、いわゆる数式をプログラム等に組み込んでおけば、検知されたアクセル開度によって用いられる関数が決定され、その関数の入力変数に測定回転数を代入して関数演算するだけで、部分負荷度が得られる。その際、その関数が一次関数であれば、その演算が簡単となるので好都合である。関数の元になる相関関係が一本の直線で表した場合に生じる誤差が無視できない場合、曲線で表す。つまり二次以上の多次関数を用いることになるが、より演算を簡単にするためには、折れ線の直線、つまり複数の領域毎に定義された一次関数の組み合わせからアクセル開度別関数を表すとよい。
【0010】
上述したエンジン負荷率演算手段によって得られるエンジン負荷率は、エコ運転にとって重要な適正変速シフト位置の遵守に利用することができる。そのような目的のために、前記車両の変速シフト位置を検知するシフト位置検知部が備えられ、かつ前記運転情報生成手段には、前記エンジン負荷率と前記変速シフト位置とに基づき、シフトアップの可能性を判定するシフトアップ評価部と、前記シフトアップ評価部による評価に基づいてシフトアップ情報を生成するシフトアップ情報生成部とが含まれるようにすると好適である。エンジン負荷率に基づいてシフトアップが可能であるかを判断することで、エンジンストールを可能な限り回避しながらのエコ運転が実現する。
【0011】
運転情報生成手段によって生成される車両の適正運転情報における、最も簡単なものは、直接的なエンジン負荷率の表示やエコ運転レベルの表示、さらには前述したシフトアップ情報である。しかしながら、この車両運転評価システムが搭載されるエンジン駆動走行車両がエンジン動力によって駆動する作業機を搭載した作業車両である場合、より好ましい実施形態は、エンジン負荷率とともにそのような作業機の動作状況を適正運転評価ルールの判定条件として用いて行うことである。そのためには、前記エンジン駆動走行車両がエンジン動力によって駆動する作業機を搭載した作業車両である場合、前記運転情報生成手段には作業機運転支援情報を生成する作業機情報生成部が含まれているとよい。作業機がエンジンに与える負荷が大きいときは燃費が悪化するのは当然であるので、作業機による負荷が適正であるかどうか、作業機による負荷を考慮してエンジン負荷率が適正があるかどうか、結果的には運転が適正であるかどうかといった問いを解決する運転評価ルールを予め設定しておいて、このルールの結果として総合的な運転評価を下して、表示すると、作業車両の運転者にとって有益な情報となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による車両運転評価システムで採用されている燃料噴射量算定処理の原理を説明する模式図である。
【図2】本発明による車両運転評価システムを搭載したトラクタの斜視図である。
【図3】トラクタの運転部に備えられたステアリングハンドルを含む操縦パネル領域を示す俯瞰図である。
【図4】本発明による車両運転評価システムの概略機能ブロック図である。
【図5】本発明による車両運転評価システムで利用される車両制御ユニットの機能部の機能ブロック図である。
【図6】燃費評価モジュールにおける制御データの流れと各機能部との関係を示す説明図である。
【図7】シフトアップの可能性評価のためのひとつの手法を模式的に説明する説明図である。
【図8】表示パネルの液晶ディスプレイに表示される運転情報の一例を示す表示画面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
まず、図1を用いて、本発明による車両運転評価システムで採用されているエンジン負荷率演算処理の原理を説明する。図1の(a)は、この車両運転評価システムの対象となる特定エンジンのエンジン性能曲線が示されている。横軸はエンジン回転数で縦軸はトルクであり、最大負荷の線はエンジン出力軸にエンジンストールを引き起こさない限りでの制動力(ブレーキ)を最大限に与えた場合のエンジン回転数とトルクの関係を示しており、無負荷の線はエンジン出力軸に負荷を与えない場合、いわゆるアイドリング運転時のエンジン回転数とトルクの関係を示している。最大負荷の線と無負荷の線との間を結んでいる線は、0%から100%までの各スロットル開度:Aにおける無負荷時回転数(アイドリング回転数)を基準回転数:Nとしてこの状態から負荷をかけることにより低下するエンジン回転数(一般にエンジン回転数ドロップ量と呼ばれる)を示すアクセル開度別特性曲線である。
【0014】
上述した、図1の(a)に示されたエンジン性能曲線の各エンジン運転ポイントでのトルク値の代りに、エンジンに及ぼす負荷の大きさを表す数値としての負荷度を縦軸とした負荷度特性曲線が図1の(b)に示されている。負荷度特性曲線は、アクセル開度:A毎に、無負荷時のエンジン回転数を基準回転数として、エンジン出力軸に負荷をかけていくことにより生じるエンジン回転数ドロップ量とその際の負荷度とから、作成することができる。従って、この負荷度特性曲線のパラメータとしてのアクセル開度:Aが決まると、特定のアクセル開度によって規定されている1つの負荷度特性曲線が特定されることになり、その負荷度特性曲線を用いて、その時点の負荷度を導出することができる。なお、負荷度特性曲線を用いて導出される負荷度は、無負荷(アイドリング負荷)と最大負荷の間の値域とするので、以後、原則的には、この負荷度を部分負荷度と称する。
【0015】
負荷度特性曲線を用いて部分負荷度を導出することを、図1の(c)に拡大された図表を用いて例示的に説明する。ここでは、アクセルレバー等によって設定され、位置センサなどによって検出されるアクセル開度:Aが90%とする。アクセル開度:Aが90%ということが検知されると、ここでは、エンジン回転数と部分負荷度の相関関係をあらわす関数:F [90]が設定される。 []内の添え字はアクセル開度:Aを示しており、関数:F [90] はアクセル開度:Aが90%の負荷度特性曲線を少なくとも近似的に示す関係式である。実用的にはこの関係式:F [A] は、対応する負荷度特性曲線を少なくとも近似的に示している一次関数又は二次関数とすることが好都合であるが、本発明においてそれ以上の高次関数を排除しているわけでない。また、例えば、一次関数(直線式)を採用したとしても、定義域としてのエンジン回転数領域を複数に区分けして、それぞれの区分けされた領域毎に異なる関数(直線式)を割り当てる構成を採用してもよい。この複数の直線群、つまり折れ線によって実際の負荷度特性曲線により近似させることが可能となる。
【0016】
図1の(c)の説明に戻ると、関数F [90] で示されている負荷度特性曲線の下端位置は、無負荷運転時であり、その運転状態でのエンジン回転数を基準回転数:Nとし、リアルタイムで検出されたエンジン回転数をnとすると、基準回転数と測定エンジン回転数の差であるドロップ量の変化と部分負荷度の変化が、つまり基準回転数からどの程度エンジンドロップすれば部分負荷度がどの程度変化するかを負荷度特性曲線から把握することができる。つまり、測定エンジン回転数をn、部分負荷度をqとすると、この関数F [90] は次の関係式を導く。
q=F [90] (n)
これにより、測定エンジン回転数:nから部分負荷度:qを算定することができる。
【0017】
部分負荷度:qを算定できると、この算定の前提となったアクセル開度における最大負荷度:Q[A]、この例ではQ[90] に対する割合、例えばそれらの比を、エンジン負荷率:Pと定義することができる。つまり、エンジン負荷率は、
P=q/Q[A]=F [A] (n)/Q[A]
を用いて演算して、求めることができる。
【0018】
低速の変速段で、かつ低い部分負荷度での運転は、省エネ運転、いわゆるエコ運転の観点からは望ましくなく、エンジンストールが発生しない限りにおいてシフトアップを行った方が燃費は改善される。したがって、演算されたエンジン負荷率に基づいて車両の適正運転情報として、変速装置のシフトアップを促す報知を運転者に行うことが可能である。例えば、求められたエンジン負荷率:P、基準回転数:N、測定回転数:n、現状の変速段:Sを入力値とし、シフトアップ可能:1又はシフトアップ不可:0を出力値とするような運転評価式として、つぎのようなシフトアップ評価式:G、
G(P,N,n,S)−> G=1:シフトアップ可能、G=0:シフトアップ不可
を実験的に構築する。
この運転評価式を種々の出力値形態、例えば、PTOの適正変速段、適正なエンジン回転数など、で構築することで、種々の運転評価を行い、運転者をアシストすることができる。
【0019】
本発明による、上述したエンジン負荷率演算処理の原理を採用した車両運転評価システムの実施形態を用いて以下に説明する。図2はこの車両運転評価システムを搭載したトラクタの斜視図である。図3はこのトラクタの運転部に備えられたステアリングハンドルを含む操縦パネル領域を示す俯瞰図である。このトラクタはエンジン1の出力軸10からの動力をトランスミッション2を介して駆動車輪3に伝達するとともに、トラクタ車体に装備された、耕耘作業機などの外部作業機4にもエンジン動力を伝達するものである。このエンジン1は、燃料タンク20から供給される燃料を用いた燃料噴射量を制御することでエンジン回転数を調整する回転制御器11を備えたディーゼルエンジンであり、この回転制御器11はメカ式ガバナータイプである。さらに、この回転制御器11にはエンジン回転数をマニュアル設定するためのアクセルレバー12も接続されており、このアクセルレバー12の操作位置により、アクセル開度の変更、つまりエンジン回転数の変更が行われる。
【0020】
トランスミッション2に対する変速操作は、運転部に備えられた各種操作レバーを通じて行われる。ここでは、走行系の多段階の変速操作のために、主変速レバー13及び高速と低速2段切換の副変速レバー14が備えられて、作業機4に動力を伝達するPTO系の2段変速操作のために、PTO変速レバー15が備えられている。また、昇降機構を介して取り付けられる耕耘装置等の作業機4を昇降操作するために、作業機昇降制御レバー16も運転部に備えられている。
【0021】
車両運転評価システムは、実質的には、車両搭載電子制御ユニットの1つである車両制御ユニット5に構築されている。車両制御ユニット5には、本発明に特に関係するセンサとして、アクセル開度を検出するためにアクセルレバー12の操作位置を検出するアクセル位置センサ91と、エンジン出力軸10の回転数をエンジン1の測定回転数として検出する回転数検出センサ92と、主変速レバー13のシフト位置を検出する主変速レバー用シフト位置検出センサ93と、副変速レバー14のシフト位置を検出する副変速レバー用シフト位置検出センサ94と、PTO変速レバー15のシフト位置を検出するPTO変速レバー用シフト位置検出センサ95とが接続されている。車両運転評価システムで評価された運転に関する情報は運転情報として表示制御ユニット7に送られる。表示制御ユニット7は、受け取った運転情報から適当な報知形態での報知データを生成する。この報知データが視覚的な報知である視覚化データである場合、表示パネル70に送られ、そこでシフト操作情報やエンジン回転などの運転情報が表示される。また、車両制御ユニット5や表示制御ユニット7は、作業機4の制御を管理する作業機制御ユニット8も含め、車載LANを通じて相互にデータ伝送可能に接続されている。
【0022】
図5に示すように、車両制御ユニット5には、本発明に特に関する入力系機能部として、アクセル開度を検知するアクセル開度検知部5aと、エンジン回転数を測定回転数として検知する回転数検知部5bと、走行系のシフト状態を検知するシフト位置検知部5cと、PTO系のシフト状態を検知するシフト位置検知部5dが備えられている。また、データ処理系機能部として、エンジン無負荷時のエンジン回転数である基準回転数からのエンジン回転数ドロップ量とトルク変化との間の前記アクセル開度別に作成された相関関係に基づいて前記測定回転数から算定される部分負荷度と、前記アクセル開度別の最大負荷度とからエンジン負荷率を演算するエンジン負荷率演算手段50と、前記エンジン負荷率演算手段50によって演算されたエンジン負荷率に基づいてこの車両の適正運転情報を生成する運転情報生成手段60が備えられている。さらには、算定されたエンジン負荷率及び検知されたシフト位置とに基づき、シフトアップの可能性を判定するシフトアップ評価部90も備えられている。車両制御ユニット5に備えられたこれらの機能部は、ソフトウエア又はハードウエアあるいはその両方で構築されている。
【0023】
この実施の形態では、アクセル開度検知部5aはアクセル位置センサ91からの信号に基づいて燃料噴射量に影響を及ぼすアクセル開度を検知し、回転数検知部5bは回転数検出センサ92からの信号に基づいて測定回転数を検知する。シフト位置検知部5cは、主変速レバー用シフト位置検出センサ93からの信号に基づいて主変速レバー13のシフト位置及び副変速レバー用シフト位置検出センサ94からの信号に基づいて副変速レバー14のシフト位置を検知することができるとともに、走行系全体としての変速比を把握することができる。シフト位置検知部5cで検知されたシフト位置、現時点の走行系におけるシフト位置情報としてシフトアップが可能かどうかの評価のための基本情報としてシフトアップ評価部90に送られる。また、シフト位置検知部5dは、PTO変速レバー用シフト位置検出センサ95からの信号に基づいてPTO変速レバー15のシフト位置を検知することができる。
【0024】
エンジン負荷率演算手段50には、アクセル開度検知部5aから送られてきたアクセル開度に基づいて最大負荷度を決定する最大負荷度決定部53と、アクセル開度によって特定される、この実施形態では関数記憶部52に格納されている関数:F[A] である相関関係に基づいて測定回転数から部分負荷度を算定する部分負荷度演算部54と、最大負荷度と部分負荷度とからエンジン負荷率を演算する負荷率演算部55と、これらの各機能部へのデータの転送や各機能部における処理を管理する演算管理部51とが備えられている。関数記憶部52に格納されている関数:F[A] は、アクセル開度によって異なる関数であり、測定回転数を変数入力とし部分負荷度を出力とする関数である。さらに詳しく言えば、この実施形態で採用されているアクセル開度別関数は、複数の領域毎に定義された一次関数の組み合わせからなる複合関数であり、折れ線グラフのような形態を有する。なお、図1の(c)から明らかなように、この関数:F[A] がとるエンジン回転数の最大値が基準回転数:Nで、この関数:F[A] がとる負荷度の最大値が最大負荷度Q[A] となっている。
【0025】
シフトアップ評価部90は、エンジン負荷率を主要判定条件として、現状の変速シフト位置が、特にエコ運転に関して適正かどうか、シフトアップが可能であるかどうかを出力とするルールベースのような機能を有する。例えば、簡単化されたルールベースとして、図1の説明で述べたように、エンジン負荷率:P、基準回転数:N、測定回転数:n、現状のシフト位置(変速段):Sを入力値とし、シフトアップ可能:1又はシフトアップ不可:0を出力値とするようなシフトアップ評価式:Gを採用することができる。
【0026】
運転情報生成手段60は、車両制御に関する種々の情報を生成するためにその情報内容に応じて種々の情報生成部が備えられるが、本発明に関係するものとしては、例えば、シフトアップ評価部90からのシフトアップ評価結果に基づいて走行系のシフトアップを促す報知を行うための情報を生成するシフトアップ情報生成部61、シフトアップ評価部90からのシフトアップ評価結果に基づいてPTO変速系のシフトアップを促す報知を行うための情報を生成するPTO変速情報生成部62、エンジン回転数を報知するための情報を生成するエンジン回転数情報生成部63、作業機に関する操作アドバイスなどを報知するための情報を生成する作業機情報生成部64、エンジン負荷率演算手段50で求められたエンジン負荷率を報知するための情報を生成するエンジン負荷率情報生成部65などが挙げられる。
【0027】
次に図6を用いて、上述した車両運転評価システムにおける運転情報表示の仕組みを説明する。
この車両運転評価システムでは、図1を用いたエンジン負荷率演算処理の原理説明のところで述べたような、結果的に負荷度特性曲線に変換されるトルク特性曲線をベンチテストのような実験的な測定手法で求めておく。さらに、負荷度特性曲線を構成する、各アクセル開度別の無負荷状態から最大負荷状態まで延びたアクセル開度別負荷度特性曲線に近似する関数を求めて、関数記憶部52に記憶させておく(#10)。この特性曲線は直線であってもよく、また折れ線であってもよい。また、測定に用いられたアクセル開度の間隔より狭い間隔でのアクセル開度別負荷度特性曲線が必要な場合は、補間法を用いて近似的に負荷度特性曲線自体又は関数を生成するとよい。
【0028】
ここでは、エンジン負荷率を考慮した運転情報としてシフトアップ情報を取り上げる。エンジン負荷率を演算するプロセスでは、アクセルレバー12の操作位置からアクセル開度検知部5aがアクセル開度:Aを決定し、演算管理部51に転送する(#20)。このアクセル開度:Aを受け取った演算管理部51は、そのアクセル開度:Aの値に適合する関数、この例ではA=90%であるので、F(90) を関数記憶部52から読み出し、部分負荷度演算部54に設定する(#22)。同時に、A=90%における最大負荷度:Q(90) を最大負荷度決定部53から読み出し、負荷率演算部55に設定する(#24)。つまり、ここでは、最大負荷度決定部53はアクセル開度に応じた最大負荷度を送り出すテーブルとして機能している。
【0029】
さらに、エンジン出力軸10の回転数である測定回転数:nを回転数検知部5bが決定し、部分負荷度演算部54に転送する(#26)。部分負荷度演算部54は設定されている関数F(90) に対して測定回転数:nを与えて、式:q=F(90) (n)から部分負荷度:qを算定し、負荷率演算部55に転送する(#28)。負荷率演算部55は、部分負荷度:qと最大負荷度:Q(90) との比からエンジン負荷率:Pを演算して、シフトアップ評価部90に評価判定条件として転送する(#30)。その際、この実施形態では、エンジン負荷率:Pだけでなく、測定回転数:nや基準回転数:N(90) も添付される。例えば、測定回転数:nの経時的な変化はシフトアップ評価に関する重要な判定条件になりうるからである。
【0030】
当然ながら、シフトアップ評価のためには現状のシフト位置(変速段)が基準として必要であるので、シフトアップ評価部90には、主変速レバー13のシフト位置及び副変速レバー14のシフト位置がシフト位置検知部5cから入力される(#32)。同時に、PTO系のシフトアップ情報も報知する場合には、PTO変速レバー15のシフト位置がシフト位置検知部5dから入力される(#34)。さらにシフトアップ評価部90には、必要に応じて上記以外に車速や変速段や作業機動作状態がその他の判定用の条件として入力される場合もある。
【0031】
シフトアップ評価部90は、エンジン負荷率を主要判定条件として、現状の変速シフト位置が、特にエコ運転に関して適正かどうか、シフトアップが可能であるかどうかを出力とするルールベースのような機能を有することになるが、以下に述べるような推測演算の技法を採用することも可能である。
【0032】
シフトアップ評価部90において採用することができる上記推測演算の一例を図7のダイアグラムを用いて説明する。この例では、アクセル開度:Aは90(%)であり、部分負荷度演算部54には関数:F(90) が設定され、負荷率演算部55には、最大負荷度:Q(90) が設定されているとする。
まずシフトアップの評価開始にあたって、測定回転数:naが取得され(#01)、これを式:q=F(90) (n)に与えることで負荷度(測定演算された部分負荷度):qaを導出する(#02)。この測定演算部分負荷度:qaと最大負荷度:Q(90) とからエンジン負荷率:Paが演算される(#03)。演算されたエンジン負荷率:Paから判断して、シフトアップ可能かどうかを判定するため、シフトアップ後のエンジン回転数を推定して(#04)、この推定回転数:nbを式:q=F(90) (n)に与える(#05)。これによりシフトアップ後の負荷度(推定演算された部分負荷度):qbが導出される(#06)。さらに、この推定演算部分負荷度:qbと最大負荷度:Q(90) とからエンジン負荷率:Pbが演算される(#07)。演算されたシフトアップ後のエンジン負荷率:Pbから判断して、エンジンストール等の問題を引き起こす可能性をチェックし、シフトアップが可能どうかを判定する(#08)。シフトアップが可能と判定された場合、表示パネル70に、適正運転情報として「シフトアップ可能です」という適正(エコ)運転を促すメッセージが表示される(#09)。
【0033】
ここでは、運転評価部としてシフトアップの是非を評価するように構成されたシフトアップ評価部90による評価結果としてのシフトアップ情報は運転情報生成手段60に送られる(#36)。運転情報生成手段60は取得したシフトアップ情報に基づいて視覚的報知や聴覚的報知を行うための適正運転情報を生成する。例えば、視覚的報知としての表示用適正運転情報が表示制御ユニット7に送られると、表示制御ユニット7において表示用適正運転情報に合致する表示イメージが選び出され、表示データとして表示パネル70に送り出される(#40)。
【0034】
エンジン負荷率に基づく運転評価結果を参照して、運転情報生成手段60で生成され表示パネル70等を通じて報知される内容は、適正運転を促す種々なものを含む。その一例が図8に図で示されている。図8の(a)は、シフトアップを促すイラストイメージで、図ではわかりにくいが、現状のシフト位置が「1段」で、「2段」へのシフトアップを促すために「2」が点滅している。図8の(b)では、エンジン回転数を適正な回転数に変更することを促すために、「エンジン回転数2000rpmに」という文字イメージが表示されている。図8の(c)では、PTO系の変速段の変更を促すために、「PTO2段にしてください」という文字イメージが表示されている。このため、シフトアップ評価部90ではPTO変速レバー15のシフト位置情報や作業機4の作業状況情報も評価条件として用いられる。図8の(d)では、(a)と同様であるが、ここでは、イラストイメージではなく、文字イメージが採用されている。
【0035】
〔別実施の形態〕
本発明は、上記した実施の形態以外に以下のように構成を採用することができる。
(1)上述した実施の形態では、エンジン無負荷時のエンジン回転数である基準回転数からのエンジン回転数ドロップ量とその際に生じるトルクの変化を測定することで作成可能な相関関係として、エンジン出力軸10の測定回転数からトルク(負荷度)を導く測定回転数・負荷度関数をエンジン開度毎に作成し、このエンジン開度別の測定回転数・負荷度関数が関数記憶部52に前もって記憶されていた。このようなエンジン開度別の測定回転数・負荷度関数に代えて、測定回転数とエンジン開度から負荷度を読み出すことができるテーブルを上記相関関係として作成し、エンジン負荷率演算手段50に組み込んでもよい。つまり、この別実施形態では、関数記憶部52を、測定回転数とエンジン開度とを入力、負荷度を出力とするテーブルとして機能させるのである。
(2)上述した実施の形態では、アクセル開度検知部55はアクセル位置センサ91からの信号に基づいてアクセル位置を決定していたが、アクセル位置の検出は種々の位置に設置された別なセンサからの信号に基づいてアクセル位置を決定する構成や、他のECUにおいて決定されたアクセル開度をそのままスルーしてエンジン負荷率演算手段50に与えるような構成を採用することも可能である。同様に、上述した実施の形態では、回転数検知部5bはエンジン出力軸10の回転を検出する回転数検出センサ92からの信号に基づいて測定回転数を決定していたが、エンジン回転する検出は種々の位置に設置された別なセンサからの信号に基づいて測定回転数を決定する構成や、他のECUにおいて決定されたエンジン回転数をそのままスルーしてエンジン負荷率演算手段50に与えるような構成を採用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、アクセル開度の調整によって出力が制御されるエンジンを備えたエンジン駆動走行車両のエンジン負荷率を簡単に算出し、それに基づいて車両運転を評価する技術分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1:エンジン
10:エンジン出力軸
4:作業機
5:車両制御ユニット
5a:アクセル開度検知部
5b:回転数検知部
5c:シフト位置検知部
5d:シフト位置検知部
7:表示制御ユニット
70:表示パネル
50:エンジン負荷率演算手段
51:演算管理部
52:関数記憶部
53:最大負荷度決定部
54:部分負荷演算部
55:負荷率演算部
60:運転情報生成手段
90:シフトアップ評価部
91:アクセル位置センサ
92:回転数検出センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン回転数を測定回転数として検知する回転数検知部と、
アクセル開度を検知するアクセル開度検知部と、
エンジン無負荷時のエンジン回転数である基準回転数からのエンジン回転数ドロップ量とトルク変化との間の前記アクセル開度別に作成された相関関係に基づいて前記測定回転数から算定される部分負荷度と、前記アクセル開度別の最大負荷度とからエンジン負荷率を演算するエンジン負荷率演算手段と、
前記エンジン負荷率演算手段によって演算された前記エンジン負荷率に基づいて車両の適正運転情報を生成する運転情報生成手段とを備えた、エンジン駆動走行車両のための車両運転評価システム。
【請求項2】
前記エンジン負荷率演算手段は、前記アクセル開度検知部によって検知されたアクセル開度によって前記最大負荷度を決定する最大負荷度決定部と、当該アクセル開度によって特定される前記相関関係に基づいて前記測定回転数から部分負荷度を算定する部分負荷度演算部と、前記最大負荷度と前記部分負荷度とから前記エンジン負荷率を演算する負荷率演算部とを含む、請求項1に記載の車両運転評価システム。
【請求項3】
前記相関関係は、所定のアクセル開度毎に前もって生成され格納されている、前記測定回転数を変数入力として前記部分負荷度を出力とするアクセル開度別関数である請求項1又は2に記載の車両運転評価システム。
【請求項4】
前記アクセル開度別関数は、複数の領域毎に定義された一次関数の組み合わせからなる請求項3に記載の車両運転評価システム。
【請求項5】
前記車両の変速シフト位置を検知するシフト位置検知部が備えられ、かつ前記運転情報生成手段には、前記エンジン負荷率と前記変速シフト位置とに基づき、シフトアップの可能性を判定するシフトアップ評価部と、前記シフトアップ評価部による評価に基づいてシフトアップ情報を生成するシフトアップ情報生成部とが含まれている請求項1から4のいずれか一項に記載の車両運転評価システム。
【請求項6】
前記エンジン駆動走行車両はエンジン動力によって駆動する作業機を搭載した作業車両であり、前記運転情報生成手段には作業機運転支援情報を生成する作業機情報生成部が含まれている請求項1から5のいずれか一項に記載の車両運転評価システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−144735(P2011−144735A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5286(P2010−5286)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】