説明

車両

【課題】放熱性の異なる複数のガスタンクに対して過充填又は充填量不足を抑制することができ、車両全体として充填率を上げることが可能な車両を提供することを課題とする。
【解決手段】ガスタンク30a、30bを備える車両3は、外部のガスステーション2からガスタンク30a、30bに供給されるガスの充填路34として、共有流路34cと、共有流路34cからガスタンク30a、30bのそれぞれへと分岐している分岐流路34a,34bとを有する。ガスタンク30aはガスタンク30bよりも放熱性が良いもので構成されており、ガスタンク30aに対応する分岐流路34aにのみ、ガスタンク30aへのガスの供給量を制限可能な遮断弁40又は流調弁46を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱性の異なる複数のガスタンクを備えた車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の車両として、例えば、水素ステーションから水素ガスを充填される燃料電池車両が知られている(参照:特許文献1)。特許文献1では、充填に伴う水素タンク内の温度上昇量が複数の水素タンク間で異なることに鑑み、充填の際、先ず、放熱性の高い水素タンクに対してのみ一定量の水素ガスを充填している。その後、この充填を一旦停止して、放熱性の低い水素タンクに対して充填を開始し、この充填が終わったところで、再び、放熱性の高い水素タンクへの充填を行うことで、放熱性の高い水素タンクを満充填している。この一連の充填の制御は、充填路の分岐点に設けた切替えバルブを切り替えることで行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−155869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の充填方法によれば、放熱性の異なる複数の水素タンクをいずれも満充填することが可能である。しかしながら、一時的な充填を繰り返す必要があるため、効率的な充填が行えているとは言えず、改善の余地があった。
【0005】
ここで、改善するべく、切替えバルブを省略することが考えられる。こうすると、複数の水素タンクに水素ガスが同時に充填されていくが、放熱性の高い水素タンクほど先に水素タンク内のSoC(Soak of Charge:充填率)が100%(満充填)に達する。このため、放熱性の高い水素タンクのSoCにあわせた充填制御を行ったのでは、放熱性の低い水素タンクは満充填に達しなくなる。一方で、放熱性の低い水素タンクのSoCにあわせた充填制御を行うと、放熱性の高い水素タンクは過充填となるおそれがある。
【0006】
本発明は、放熱性の異なる複数のガスタンクに対して過充填又は充填量不足を抑制することができ、車両全体として充填率を上げることが可能な車両を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両は、第1の放熱性を有する第1のガスタンクと、第1の放熱性よりも低い第2の放熱性を有する第2のガスタンクと、を少なくとも備えると共に、外部のガスステーションから第1及び第2のガスタンクに供給されるガスの充填路として、共有流路と、共有流路から第1及び第2のガスタンクのそれぞれへと分岐している第1及び第2の分岐流路とを有し、供給路のうち第1の分岐流路に、第1のガスタンクへのガスの供給量を制限可能な流量制限機構を設けたものである。
【0008】
本発明によれば、ガスステーションからガスが供給されると、共有流路から第1及び第2の分岐流路へと分岐して第1及び第2のガスタンクに供給されるが、流量制限機構によって、第1のガスタンクへのガスの供給量を制限することができる。これにより、所定のSoCに早く達し易い第1のガスタンクの過充填を抑制することができる。また、第1のガスタンクへの供給量を制限しているときに第2のガスタンクへのガスの供給を行えば、第2のガスタンクの充填量不足を抑制することができ、車両全体として充填率を上げることができる。さらに、流量制限機構については、第2の分岐流路には設けなくて済むため、部品点数及びコストの削減ともなる。
【0009】
ここで、流量制限機構は、第1の分岐流路を構成する配管に設けたオリフィスで構成することもできるが、遮断弁又は流調弁で構成することが好ましい。
【0010】
流量制限機構を遮断弁で構成すれば、例えば、放熱性の高い第1のガスタンクのSoCが所定値(例えば100%)に達した時点で、第1のガスタンクへのガスの供給を停止することができる。これにより、第1のガスタンクの過充填を防止することができる。また、その後、第2のガスタンクへの供給を継続すれば、その充填量不足を抑制することができる。
【0011】
この場合、より好ましくは、車両は、遮断弁の開閉を制御する制御装置を更に備えており、制御装置は、ガスステーションからガスを供給される際、遮断弁を開いておいて第1及び第2のガスタンクに対してガスの供給を許容すると共に、第1のガスタンクに対する所定の供給が完了した後は、遮断弁を閉じて、第1及び第2のガスタンクのうち第2のガスタンクに対してのみガスの供給を許容するとよい。こうすることで、遮断弁の簡易な制御により、第1のガスタンクの過充填と第2のガスタンクの充填量不足とを抑制することができる。
【0012】
より好ましくは、車両は、第1のガスタンク内の状態量を検出する第1の検出器を更に備え、第1の検出器が検出した情報は、所定の供給が完了したか否かの判断の指標に用いられるとよい。このように、第1のガスタンク内の状態量に関する実際の検出情報を用いることで、第1のガスタンクのSoCが所定値に達したか否かを適切に判断できるようになる。
【0013】
より好ましくは、車両は、第1の検出器が検出した情報を通信によりガスステーション側の受信機に伝える送信機を更に備えるとよい。こうすることで、ガスステーション側で第1のガスタンク内の状態量を把握することができる。これにより、ガスステーション側が、第1のガスタンクへのガスの供給を継続するか否かなどを判断することも可能となる。
【0014】
より好ましくは、車両は、第2のガスタンク内の状態量を検出する第2の検出器を更に備え、送信機は、第2の検出器が検出した情報も通信によりガスステーション側の受信機に伝えるとよい。こうすることで、第2のガスタンクのSoCが所定値に達したか否かを適切に判断できるようになると共に、ガスステーション側で第2のガスタンク内の状態量を把握することができる。
【0015】
より好ましくは、遮断弁は、その駆動及び停止を実行されるタイミングがタイマーにより制御されるとよい。こうすることで、ガスステーションからのガスの供給の際に、遮断弁の駆動を適切に制御することができる。
【0016】
本発明の別の好ましい一態様として、流量制限機構を流調弁で構成した場合には、例えば供給開始時等から、第1のガスタンクへの供給量を絞るように制限することができる。これにより、供給中の第1及び第2のガスタンクのSoCをともに同程度にすることができ、両ガスタンクの過充填及び充填量不足を抑制することができる。
【0017】
この場合、より好ましくは、車両は、流調弁の開度を制御する制御装置を更に備えており、制御装置は、ガスステーションからガスを供給される際の第1及び第2のガスタンクのSoCが同程度の値で進むように、流調弁の開度を制御するとよい。こうすることで、流調弁に対する電気的な制御により、両ガスタンクの過充填及び充填量不足を抑制することができる。
【0018】
より好ましくは、流調弁は、その駆動及び停止を実行されるタイミングがタイマーにより制御されるとよい。
【0019】
また、別の好ましい一態様によれば、流調弁は、ガスステーションからガスを供給される際の第1及び第2のガスタンク内のSoCが同程度の値で進むように、弁開度が制御される機械式の弁とすることもできる。この構成によれば、流調弁を電気的に制御しなくて済み、ガスステーションからのガスの供給中における車両の電力消費を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係る車両をガスステーションとともに示す構成図である。
【図2】第1実施形態に係る車両に対する充填フローを示すフローチャートである。
【図3】比較例に係る充填制御を行った場合の充填時間に対するタンク圧力、タンク温度及びタンクのSoCとの関係を示す図であり、放熱性の良いガスタンクを基準として充填を制御した場合を示すものである。
【図4】比較例に係る充填制御を行った場合の充填時間に対するタンク圧力、タンク温度及びタンクのSoCとの関係を示す図であり、放熱性の悪いガスタンクを基準として充填を制御した場合を示すものである。
【図5】第1実施形態に係る充填制御を行った場合の充填時間に対するタンク圧力、タンク温度及びタンクのSoCとの関係を示す図である。
【図6】第2実施形態に係る車両をガスステーションとともに示す構成図である。
【図7】第2実施形態に係る充填制御を行った場合の充填時間に対するタンク圧力、タンク温度及びタンクのSoCとの関係を示す図である。
【図8】第1及び第2実施形態に適用可能な第3実施形態に係る燃料電池車両について電力系統を中心に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係る車両について説明する。ここでは、燃料電池システムを搭載した燃料電池車両を例に説明する。なお、燃料電池システムは、公知のとおり、燃料ガス(例えば水素ガス)と酸化ガス(例えば空気)の電気化学反応によって発電する燃料電池などを備えるものである。また、水素ガスの充填とは、水素ガスをガスステーションから車両のガスタンクに供給する態様の一つである。
【0022】
<第1実施形態>
図1に示すように、ガス充填システムは、例えばガスステーションとしての水素ステーション2と、水素ガスを用いて走行する車両3と、を備える。
【0023】
水素ステーション2は、水素ガスを送り出すディスペンサ21を備え、ディスペンサ21には、充填ホース22が接続される。充填ホース22の端部には、充填カップリングとも称される充填ノズル23が取り付けられており、充填ノズル23は、水素ガスの充填の際に車両3に接続される。充填ノズル23の先端部には、車両3に対して各種情報を送受信する通信機25が設けられる。通信機25で受信した情報は、制御装置26に送られる。制御装置26は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。制御装置26は、通信機25から受け取った車両3側の情報をもとに、水素ステーション2にある各機器を制御することで、車両3への水素ガスの充填流量や充填量を制御する。また、制御装置26は、水素ステーション2にて把握可能な情報を通信機25を用いて、車両3側に送信する。
【0024】
車両3は、二つのガスタンク30a,30b、レセプタクル32、供給路34、通信機36及び制御装置38を備える。ガスタンク30a,30b内の水素ガスは、図示省略した供給配管を介して燃料電池に供給される。ガスタンク30a,30bは、供給路34を介してレセプタクル32に並列に接続されており、ガスタンク30a,30bへの水素ガスの供給は、水素ステーション2からレセプタクル32及び供給路34を介して行われる。
【0025】
レセプタクル32は、水素充填の際に充填ノズル23が接続される部分であり、例えば車両3のリッドボックスに設けられる。レセプタクル32の近傍に通信機36が設けられており、レセプタクル32と充填ノズル23とが接続した状態で、通信機25−通信機36間の通信が可能な状態が確立される。通信機36は、車両3が水素ステーション2との間で通信するためのものであり、例えば、赤外線通信等の無線通信を行う通信インターフェースを有する。なお、レセプタクル32には、外部への水素ガスの逆流を防止するための逆止弁などが内蔵される。
【0026】
供給路34は、レセプタクル32からガスタンク30a,30bに向けて水素ガスを流すための流路を構成するものであり、その経路の途中で分岐する。供給路34は、ガスタンク30a用の分岐流路34aと、ガスタンク30b用の分岐流路34bと、分岐流路34a,34bの上流側にある共有流路34cと、を有する。共有流路34cは、レセプタクル32からガスタンク30a、30bへの水素ガスの流路として、供給路34の一部を共有しているものである。分岐流路34a,34bは、共有流路34cの下流端34d(すなわち、分岐点。)からそれぞれ対応のガスタンク30a、30bへと延在する流路である。このような分岐流路34a、34bは、ガスタンク30a,30b外にあるガス配管と、このガス配管に連通するようにガスタンク30a,30bの口部に取り付けられたバルブアッセンブリ(図示省略)にある流路部分と、で構成することができる。
【0027】
供給路34のうち、分岐流路34aにのみ、制御装置38により開閉を制御される遮断弁40が設けられる。遮断弁40は、駆動方式が例えば電磁式からなるが、これに限らず、各種のタイプのものを用いることができる。
【0028】
ガスタンク30a,30bは、燃料電池への水素ガス供給源であり、例えば35MPa又は70MPaの水素ガスを貯留可能な高圧タンクである。この種のガスタンク30a、30bは、胴部の両端部に肩部を有し、さらにその肩部の少なくとも一方にバルブアッセンブリを取り付ける口部を有する。ガスタンク30a、30bは、例えば、内側にライナー層を、外側にFRP層などの補強層を有する積層構造を備える。
【0029】
ここで、ガスタンクの放熱性は、一般に、ガスタンクそれ自身を構成する材料や、ガスタンクの体格(長さ、径、容量、表面積等)など、ガスタンクの仕様によって異なる。例えば、ガスタンクのライナー層としてアルミニウムを用いた場合には、樹脂(ポリエチレンなど)を用いた場合よりも、放熱性は優れたものとなる。また、ライナー層における樹脂の特性や配合割合によっても放熱性は異なる。さらに、ガスタンクの体格、例えば径に対する長さの比や、表面積に対する容量の比によっても、放熱性は異なる。そして、ガスタンクの放熱性が優れている場合、それが優れていない場合に比べて、充填に伴うガスタンク内の温度上昇率(温度上昇量)及び圧力上昇率(圧力上昇量)が低く抑えられる。
【0030】
本実施形態のガスタンク30a,30bは、互いに放熱性が異なるものであり、ガスタンク30aの方が放熱性が優れている。例えば、ガスタンク30aのライナー層はアルミニウムからなり、ガスタンク30bのライナー層は樹脂からなる。ここでは、ガスタンク30bは、ガスタンク30aよりも太径で構成されていると共に、太径タンクとしての強度を確保するためにFRP層を厚く構成されていて、ガスタンク30aよりも放熱性が悪いものとなっている。以下、簡便な説明のため、ガスタンク30a、30bの放熱性について、良い又は悪いという相対的な表現を用いる。
【0031】
温度センサ42a,42bは、それぞれ、ガスタンク30a,30b内に配置され、ガスタンク30a,30b内の水素ガスの温度(以下、それぞれ「タンク温度Ta,Tb」という。)を反映する温度を検出する。温度センサ42a,42bは、例えば、上記したバルブアッセンブリ内の流路部分に設けられる。
圧力センサ44a,44bは、それぞれ、ガスタンク30a,30b内の水素ガスの圧力(以下、それぞれ「タンク圧力Pa,Pb」という。)を反映する圧力を検出する。圧力センサ44a,44bは、それぞれ、ガスタンク30a,30b内に配置することもできるし、ガスタンク30a,30bの直前にある上記のガス配管に配置することもできる。
【0032】
なお、念のため後述の特許請求の範囲に記載の文言との関係に言及すると、本実施形態においては、温度センサ42a及び圧力センサ44aの少なくとも一方が、特許請求の範囲に記載の「第1の検出器」を構成する。また同様に、温度センサ42b及び圧力センサ44bの少なくとも一方が、特許請求の範囲に記載の「第2の検出器」を構成する。
【0033】
制御装置38は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成され、車両3を制御する。CPUは、制御プログラムに従って所望の演算を実行するものであり、遮断弁40の開閉など、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶し、RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。制御装置38は、通信機36、温度センサ42a,42b及び圧力センサ44a,44bなどと接続されており、車両3にて把握可能な情報を通信機36を用いて、水素ステーション2に送信する。例えば、ガスタンク30a内の状態量を示すタンク温度Ta及びタンク圧力Paに関する検出情報や、ガスタンク30b内の状態量を示すタンク温度Tb及びタンク圧力Pbに関する検出情報が、水素ステーション2に送信される。
【0034】
次に、図2を参照して、ガス充填システムにおける車両3への充填フローを説明する。
【0035】
ステップS1の充填開始は、充填ノズル23がレセプタクル32に接続された状態において、ディスペンサ21を作動させることで行われる。この充填開始時では、遮断弁40は開いており、充填ノズル23から放出される水素ガスは、ガスタンク30a,30bの両方に供給される。
【0036】
充填中は、放熱性の良いガスタンク30aのSoCがモニタリングされる(ステップS2)。
ここで、SoCとは、ガスタンク内の水素ガスの充填率をいい、ガス密度に基づいて計算される。具体的には、ガスタンク内の水素ガスの温度及び圧力(すなわちタンク温度及びタンク圧力)をパラメータに有するガス密度の関数を用いることで、ガスタンクのSoCが算出される。
【0037】
したがって、ステップS2の充填中は、適宜(例えば数秒毎に)、ガスタンク30aのタンク温度Ta及びタンク圧力Paが読み込まれ、これらの情報が、制御装置38の例えばRAMに一時的に記憶された後、通信機36から通信機25に送信される。これにより、水素ステーション2側の制御装置26が、適宜、充填中のタンク温度Ta及びタンク圧力Paを把握して、ガスタンク30aのSoCを算出する。これにより、ガスタンク30aのSoCがモニタリングされる。なお、充填中は、タンク温度Ta及びタンク圧力Paが充填流量マップにも参照されて、所定の充填流量となるように制御される。
【0038】
モニタリングしているガスタンク30aのSoCが100%(すなわち満充填)に達するまで、ガスタンク30a,30bの両方への水素ガスの充填が行われる(ステップS3;No,ステップS4)。一方で、ガスタンク30aのSoCが100%に達したところで(ステップS3;Yes)、制御装置38からの指令により遮断弁40が閉じられる(ステップS5)。これにより、ガスタンク30aへの水素ガスの供給が遮断されると共に、ガスタンク30bへの水素ガスの供給が継続されることになる。
【0039】
次いで、SoCのモニタリング対象をガスタンク30aからガスタンク30bに変更し、ガスタンク30bのSoCが100%に達したか否かを判断する(ステップS6)。この判断は、随時、タンク温度Tb及びタンク圧力Pbをもとにガスタンク30bのSoCを算出することで行われる。このSoCの算出は、ガスタンク30aの場合と同様に、タンク温度Tb及びタンク圧力Pbを読み込んだ後、それらの情報を通信を利用して制御装置26に伝えることで行うことができる。
【0040】
そして、モニタリングしているガスタンク30bのSoCが100%に達するまで、ガスタンク30bへの水素ガスの充填を継続する(ステップS6;No,ステップS7)。一方で、ガスタンク30bのSoCが100%に達したところで(ステップS6;Yes)、水素ステーション2から車両3への水素ガスの供給を停止し、一連の充填を終了する(ステップS8)。
【0041】
以上説明した本実施形態の作用効果について、本実施形態とは異なる方法で充填した図3及び4に示す場合と比較して説明する。図3及び図4は、いずれも、図1に示す遮断弁40を具備しない車両3に対して充填した場合に関するものであり、図3は放熱性の良いガスタンク30aを基準として充填を制御した場合に関し、図4は放熱性の悪いガスタンク30bを基準として充填を制御した場合に関するものである。
【0042】
図3(b)に示すように、放熱性の良いガスタンク30aは、放熱性の悪いガスタンク30bに比べて、充填中の温度上昇が小さい。このため、図3(c)に示すように、充填開始からある時間が経過した段階では、放熱性の良いガスタンク30aの方がSoCが高くなる。それゆえ、放熱性の良いガスタンク30aを基準として充填を制御すると、ガスタンク30aのSoCは100%に達するが、ガスタンク30bのSoCは100%まで達せず、充填量不足となる(参照:図3(c))。一方で、放熱性の悪いガスタンク30bを基準として充填を制御すると、ガスタンク30bのSoCは100%に達するが、ガスタンク30aのSoCは100%を超えて、過充填となる(参照:図4(c))。なお、図3の時間t1は図4の時間t2よりも小さい。
【0043】
これに対し、本実施形態によれば、図5に示すようになる。具体的には、先ず、放熱性の良いガスタンク30aを基準として充填を制御し、そのSoCが100%に達した時間t1で、ガスタンク30aへの充填を停止する(参照:図2のステップS1〜5)。その後、放熱性の悪いガスタンク30bを基準として充填を制御し、そのSoCが100%に達した時間t2で、ガスタンク30bへの充填を停止する(参照:図2のステップS6〜8)。したがって、本実施形態によれば、ガスタンク30a,30bのいずれに対しても満充填することができ、過充填及び充填量不足を防止することができる。
【0044】
特に、本実施形態によれば、遮断弁40を備えているため、ガスタンク30aが満充填となった場合に、もう一方のガスタンク30bへの充填を継続することができる。このため、車両3全体として、水素ガスの充填率及び充填量を上げることができる。また、遮断弁40をガスタンク30a側にのみ設けているので、ガスタンク個別に設ける場合に比べて、部品点数及びコストを削減することができる。さらに、ガスタンク30aへの水素ガスの供給量を制限するための流量制御機構として遮断弁40を用いているので、流量制限機構を分岐流路34aの配管で構成する(例えば、流路を絞るようにチューニングする。)場合に比べて、流量制限機構を簡素化することができる。
【0045】
また、ガスタンク30a,30bのSoCが100%に達したか否か、すなわち所定の供給が完了したか否かの判断(例:ステップS3,S6)の指標として、ガスタンク30aについては充填中のタンク温度Ta及びタンク圧力Paを用い、ガスタンク30bについては充填中のタンク温度Ta及びタンク圧力Paを用いている。このため、充填中のSoCに差が生じるガスタンク30a,30bのそれぞれについて、正確にSoCを算出することができ、所望の充填量を適切に充填することができる。
【0046】
<変形例>
次に、第1実施形態のいくつかの変形例を説明する。それぞれの変形例は、相互に適用することができる。
【0047】
<第1の変形例>
図2のフローに従って充填するガスタンク30a、30bのSoCは、100%ではなくてもよく、100%を下回る所定値であってもよい。例えば、充填に際してユーザーにより充填量又は充填金額が指定された場合には、その充填量に対応するSoCがガスタンク30a、30bのそれぞれについて計算し、計算されたSoCに対応するようにガスタンク30a、30bへの充填を行う。また、図2のフローに従って充填するガスタンク30a、30bのSoCは、互いに同じでなくてもよい。例えば、図2のステップS3ではSoCが90%を超えるか否かで判断し、続くステップS6ではSoCが80%を超えるか否かで判断してもよい。
【0048】
<第2の変形例>
ガスタンクの数は、上記の2つに限られるものではなく、3つ以上であってもよい。例えば、互いに放熱性が異なる3つのガスタンクをレセプタクル32に並列に接続した場合には、放熱性が1番目及び2番目に高いガスタンクに対応する分岐流路に遮断弁を設け、放熱性が高いガスタンクの順にSoCが100%となるように、遮断弁を順に閉じていけばよい。また別の例として、2つのガスタンクを同じ放熱性を有するものとして構成し、他のガスタンクを別の放熱性を有するものとして構成してもよい。この場合にも、放熱性が高いガスタンクに対応する分岐流路に遮断弁を設けて、上記同様の制御を行えばよい。
【0049】
<第3の変形例>
図2に示すモニタリング等について、水素ステーション2側の制御装置26ではなく、車両3側の制御装置38で行ってもよい。例えば、図2のステップS2におけるモニタリングは、制御装置38が、一時的に記憶したタンク温度Ta及びタンク圧力Paをもとにガスタンク30aのSoCを適宜算出することで行ってもよい。また、ガスタンク30a、30bのSoCが100%に達したか否かの判断(図2のステップS3、S5)についても、制御装置38で行ってもよい。
【0050】
<第2実施形態>
次に、図6を参照して、第2実施形態に係る車両3´について説明する。第1実施形態との相違点は、ガスタンク30aへの水素ガスの供給量を制限するための流量制御機構として、遮断弁40ではなく、流調弁46を用いた点である。その他の点は、第1実施形態と同様であるので、第1実施形態と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0051】
流調弁46は、その弁開度を制御装置38により制御されるものであり、ガスタンク30aへの水素ガスの流量を絞るように制御する。流調弁46は、駆動方式が例えば電磁式からなるが、これに限らず、各種のタイプのものを用いることができる。例えば、流調弁46は、弁座に対する弁体の位置がステップモータにより制御されることで、弁開度を調整される。
【0052】
本実施形態では、図7(c)に示すように、水素ステーション2から車両3への水素ガスの供給中において、ガスタンク30a,30bのSoCが互いに同程度の値で進むように、流調弁46の弁開度が制御装置38により制御される。具体的には、充填開始時から流調弁46の弁開度を制御し、ガスタンク30a,30bのSoCが同等となるように両者に水素ガスを充填していく。この充填においては、図7(a)に示すように、ガスタンク30aの圧力上昇は、ガスタンク30bよりも抑えられると共に、図5に示す場合よりも抑えられる。
【0053】
したがって、本実施形態によれば、充填開始から充填終了までガスタンク30a,30bのSoCを同程度に保持することができる。そして、そのSoCが所望の値(例えば100%)に達したところで充填を終了すれば、ガスタンク30a,30bのSoCを同程度にすることができ、過充填及び充填量不足を抑制することができる。また、流調弁46をガスタンク30a側にのみ設けているので、部品点数及びコストを削減することができる。
【0054】
なお、第2実施形態において、ガスタンク30a,30bのSoCを同程度に保持するには、両者のタンク温度Ta,Tb及びタンク圧力Pa,Pbをもとに両者のSoCを監視しておくことが好ましい。この場合、制御装置26,38のいずれかで監視すればよい。
【0055】
本実施形態の他の実施態様によれば、上記した第2の変形例を本実施形態に適用することも可能である。例えば、互いに放熱性が異なる3つのガスタンクをレセプタクル32に並列に接続した場合には、放熱性が1番目及び2番目に高いガスタンクに対応する分岐流路に流調弁を設け、全てのガスタンクのSoCが同等となるように流調弁の開度を制御する。
【0056】
また、本実施形態の別の実施態様によれば、流調弁46を電気制御式のものではなく、機械式のもので構成してもよい。例えば、流調弁46の圧力室に、流調弁46の下流側の二次圧を導入し、この導入した二次圧によってダイヤフラムを可動させることで、ダイヤフラムに接続した弁体を弁座に対して移動させる。これにより、流調弁46の弁開度を制御して、充填中のガスタンク30a,30bのSoCが同程度の値で進むようにしてもよい。このような機械式の流調弁46によれば、流調弁46を駆動するための電力が不要となるため、充填中の車両3の電力消費を抑えることができる。
【0057】
<第3実施形態>
次に、図8を参照して、第1及び第2実施形態に適用することができる第3実施形態に係る燃料電池車両の電力系統について説明する。
【0058】
図8に示すように、ガスタンク30a,30bは、上記の供給路34とは別系統として、燃料電池50に水素ガスを供給する供給配管52を具備する。燃料電池50には、燃料電池50の出力電圧を制御する高圧DC/DCコンバータ54が接続される。燃料電池50と高圧DC/DCコンバータ54との間には、燃料電池50の運転に供せられる各種の高圧補機56が電気的に接続される。高圧補機56は、高電圧(例えば12Vよりも高い電圧)用の補機であり、例えば、燃料電池50に酸化ガスを圧送するエアコンプレッサや、水素オフガスを燃料電池50に循環供給する水素ポンプである。蓄電装置58は、高電圧の蓄電装置として機能する充放電可能な二次電池である。蓄電装置58は、例えば、車両3のトラクションモータに対して、高圧DC/DCコンバータ54を介して燃料電池50に並列接続される。
【0059】
低圧DC/DCコンバータ60は、高圧DC/DCコンバータ54と蓄電装置58との間に電気的に接続され、高圧回路側の直流電力の一部を降圧して低圧回路側へと供給する。降圧された直流電力は、一部が低圧バッテリ62に充電され、一部は低圧補機64を駆動するための電力として用いられる。低圧バッテリ62は、低電圧(例えば12V)の蓄電装置として機能するものであり、例えばニッケル水素電池やリチウムイオン電池に代表される二次電池である。低圧補機64は、低電圧で駆動する各種機器であり、高圧補機56とは異なるものである。低圧補機64としては、例えば、上記の温度センサ42a,42b、圧力センサ44a、44b及び通信機36のほか、図1の遮断弁40や図5の電気式の流調弁46などが該当する。低圧補機64や制御装置38は、電力供給源としての低圧バッテリ62から電力を供給されることによっても駆動する。例えば、車両3がイグニッションオフ(以下、IG OFFという。)の状態では、燃料電池50が発電していないため、低圧補機64及び制御装置38に対する電力供給は低圧バッテリ62から行われる。制御装置38は、高圧DC/DCコンバータ54及び低圧DC/DCコンバータ60等と電気的に接続される。制御装置38には、各種時間を計測するためのタイマー70が設けられるが、タイマー70を制御装置38とは別体に設けてもよい。
【0060】
ここで、上記した第1及び第2実施形態に係る車両3にて水素ガスを充填する場合、車両3はIG OFFの状態となる。このため、充填中は、上記した遮断弁40又は流調弁46の制御が行われるべく、低圧バッテリ62によって、低圧補機64(遮断弁40又は流調弁46を含む。)及び制御装置38に電力が供給される。これにより、例えば、図2に示すステップS1の際には遮断弁40を開けておくことができると共に、ステップS5の際に遮断弁40を閉じることができる。そして、充填終了後に、低圧補機64等への低圧バッテリ62からの電力供給が終了する。
【0061】
本実施形態によれば、車両3への充填中においても、遮断弁40や流調弁46等を電気的に操作することができ、上記の充填制御を適切に行うことができる。
なお、充填中の遮断弁40及び流調弁46の駆動及びその駆動の停止を実行されるタイミングは、タイマー70により制御されるとよい。例えば、充填ノズル23とレセプタクル32の接続作業がなされてから、あるいは、車両3のリッドボックスのフューエルカバーが開けられてから所定時間(例:30分)は遮断弁40及び流調弁46に電力供給が継続されるように、遮断弁40及び流調弁46への電力供給の開始(これらの弁の駆動)と終了(これらの弁の駆動の停止)をタイマー70で制御するとよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の車両は、水素ガスのみならず、天然ガスなど他の燃料ガスを供給されるガスタンクを有するものに適用することができる。また、車両に限らず、航空機、船舶、ロボットなど、外部からのガスの充填先としてガスタンクを搭載した移動体に適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
2:ガスステーション、3:車両、25:通信機(受信機)、30a,30b:ガスタンク、34:供給路、34a,34b:分岐流路、34c:共有流路、36:通信機(送信機)、38:制御装置、40:遮断弁(流量制限機構)、42a,42b:温度センサ、44a,44b:圧力センサ、46:流調弁(流量制限機構)、70:タイマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の放熱性を有する第1のガスタンクと、前記第1の放熱性よりも低い第2の放熱性を有する第2のガスタンクと、を少なくとも備えると共に、
外部のガスステーションから前記第1及び第2のガスタンクに供給されるガスの供給路として、共有流路と、当該共有流路から前記第1及び第2のガスタンクのそれぞれへと分岐している第1及び第2の分岐流路と、を有する車両において、
前記供給路のうち、前記第1の分岐流路には、前記第1のガスタンクへのガスの供給量を制限可能な流量制限機構が設けられている、車両。
【請求項2】
前記流量制限機構は、遮断弁である、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記遮断弁の開閉を制御する制御装置を更に備えており、
前記制御装置は、前記ガスステーションからガスを供給される際、前記遮断弁を開いておいて前記第1及び第2のガスタンクに対してガスの供給を許容すると共に、当該第1のガスタンクに対する所定の供給が完了した後は、前記遮断弁を閉じて、前記第1及び第2のガスタンクのうち第2のガスタンクに対してのみガスの供給を許容する、請求項2に記載の車両。
【請求項4】
前記第1のガスタンク内の状態量を検出する第1の検出器を更に備え、
前記第1の検出器が検出した情報は、前記所定の供給が完了したか否かの判断の指標に用いられる、請求項3に記載の車両。
【請求項5】
前記第1の検出器が検出した情報を通信により前記ガスステーション側の受信機に伝える送信機を更に備えた、請求項4に記載の車両。
【請求項6】
前記第2のガスタンク内の状態量を検出する第2の検出器を更に備え、
前記送信機は、前記第2の検出器が検出した情報も通信により前記受信機に伝える、請求項5に記載の車両。
【請求項7】
前記遮断弁は、その駆動及び停止を実行されるタイミングがタイマーにより制御される、請求項2ないし6のいずれか一項に記載の車両。
【請求項8】
前記流量制限機構は、流調弁である、請求項1に記載の車両。
【請求項9】
前記流調弁の開度を制御する制御装置を更に備えており、
前記制御装置は、前記ガスステーションからガスを供給される際の前記第1及び第2のガスタンク内のSoCが同程度の値で進むように、前記流調弁の開度を制御する、請求項8に記載の車両。
【請求項10】
前記流調弁は、その駆動及び停止を実行されるタイミングがタイマーにより制御される、請求項9に記載の車両。
【請求項11】
前記流調弁は、前記ガスステーションからガスを供給される際の前記第1及び第2のガスタンク内のSoCが同程度の値で進むように、弁開度が制御される機械式の弁である、請求項8に記載の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−163534(P2011−163534A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30104(P2010−30104)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】