説明

車体傾動制御装置、車体傾動制御方法

【課題】車体を傾斜させる際の輪荷重変動を補償し、旋回走行時の安定性を一層向上させる。
【解決手段】左右輪荷重変動算出部43により、車両の旋回走行状態及び目標傾斜角に応じて、左右輪荷重変動を推定し、限界値補正量算出部44により、車両の旋回走行状態に応じて、左右輪荷重変動時の物理的限界輪荷重に対する限界値補正量を算出する。そして、傾斜角制限部45により、物理的限界輪荷重から限界値補正量を減じて制御用限界輪荷重を算出し、左右輪荷重変動が制御用限界輪荷重を超えないように、目標傾斜角に対して制限処理を行う。左右輪荷重変動推定部43では、車両ダイナミクスモデル及びアクチュエータダイナミクスモデルに従い、左右輪荷重変動を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体傾動制御装置、車体傾動制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、旋回走行時のような場面において、車両の安定性の向上や車両のダイナミクスモデルを活かした運転への適用という観点から、傾斜可能な車両構造を導入する提案があった。例えば特許文献1の従来技術では、旋回走行時の横加速度に応じて、車体を傾斜させることで、運転者への横加速度の影響を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−231415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車体を傾斜させる際、過渡的に輪荷重が変動するので、例えば片側のタイヤ接地性が低下し、旋回走行時の車両安定性に影響を与える可能性がある。
本発明の課題は、車体を傾斜させる際の輪荷重変動を補償し、旋回走行時の安定性を一層向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、車体をロール方向に傾斜させるアクチュエータを備え、車両の旋回走行状態に応じて車体を旋回内側となるロール方向に傾斜させるための目標傾斜角を算出する。そして、車両の旋回走行状態及び目標傾斜角に応じて、左右輪荷重変動を推定し、車両の旋回走行状態に応じて、左右輪荷重変動時の物理的限界輪荷重に対する限界値補正量を算出する。そして、物理的限界輪荷重から限界値補正量を減じて制御用限界輪荷重を算出し、左右輪荷重変動が制御用限界輪荷重を超えないように、目標傾斜角に対して制限処理を行い、制限処理した目標傾斜角に応じて、アクチュエータを駆動制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る装置によれば、左右輪荷重変動を推定しつつ、限界値補正量から制御用限界輪荷重を設定し、この制御用限界輪荷重を超えないように、左右輪荷重変動が予測した目標傾斜角を制限処理しているので、パラメータ変動やモデル化誤差があっても、輪荷重変動を補償することができる。これにより、タイヤ接地性の低下を抑制し、旋回走行時の安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】車体傾動の模式図である。
【図2】サスペンション構造の概略図である。
【図3】システム構成図である。
【図4】車体傾動制御処理を示す機能ブロック図である。
【図5】左右輪荷重変動推定処理を示すフローチャートである。
【図6】限界値補正量算出処理を示すフローチャートである。
【図7】傾斜角制限処理を示すフローチャートである。
【図8】制御用限界輪荷重の概念図である。
【図9】作用効果を示すタイムチャートである。
【図10】第二実施形態を示すシステム構成図である。
【図11】第三実施形態の限界値補正量算出処理を示すフローチャートである。
【図12】第三実施形態の限界値補正量算出処理を示す概念図である。
【図13】第四実施形態の限界値補正量算出処理を示すフローチャートである。
【図14】第四実施形態の限界値補正量算出処理を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明実施形態を図面に基づいて説明する。
《第一実施形態》
《構成》
図1は、車体傾動の模式図である。
車輪1に対して車体2を、サスペンションを介して懸架しており、このサスペンションは、駆動モータ3の駆動によって車体2を傾斜させることができる。例えば、旋回走行時に車体2を旋回内側に傾斜させる。
【0009】
図2は、サスペンション構造の概略図である。
左右輪のサスペンション構造は、左右対称の同一構造なので、ここでは左輪側について説明する。このサスペンションは、ダブルウィッシュボーン式のサスペンションであり、車輪1を支持するナックル(アップライト)11は、上側のアッパリンク12及び下側のロアリンク13を介して揺動可能な状態で車体フレーム14に連結してある。
【0010】
アッパリンク12はAアームで構成し、車輪側取付け点及び車体側取付け点の夫々が、ゴムブッシュを介してナックル11及び車体フレーム14に連結してある。また、ロアリンク13もAアームで構成し、車輪側取付け点及び車体側取付け点の夫々が、ゴムブッシュを介してナックル11及び車体フレーム14に連結してある。
車体フレーム14における車幅方向の中心位置には、車体前後方向の回動軸を有し、左右両側に向けて均等に突出したリーンアーム15を軸支してある。このリーンアーム15の先端と、ロアリンク13との間に、ショックアブソーバ16及びコイルスプリング17を介装する。また、リーンアーム15の回動軸に、図示しない減速機を介して駆動モータ3を連結する。
【0011】
したがって駆動モータ3を回転させると、車体フレーム14に対してリーンアーム15が回動し、リーンアーム15の左端及び右端が上下方向に変位するので、ショックアブソーバ16及びコイルスプリング17を介してロアリンク13が揺動する。リーンアーム15は、左端が下がれば右端が上がり、左端が上がれば右端が下がるので、左右輪で逆方向のサスペンションストロークが生まれる。
【0012】
すなわち、車両正面視で駆動モータ3を時計回りに回転させると、リーンアーム15の回動(左側を下げる傾動)によって、左輪側がリバウンドストロークとなり、右輪側ではバウンドストロークとなる。このとき、左輪側でロアリンク13を押し下げるリバウンド方向の力が作用し、左輪から受ける反力によって、車体2の左側が持ち上がり、結果として車体2が右側へ傾斜する。
【0013】
逆に、車両正面視で駆動モータ3を反時計回りに回転させると、リーンアーム15の回動(右側を下げる傾動)によって、左輪側がバウンドストロークとなり、右輪側ではリバウンドストロークとなる。このとき、右輪側でロアリンク13を押し下げるリバウンド方向の力が作用し、右輪から受ける反力によって、車体2の右側が持ち上がり、結果として車体2が左側へ傾斜する。
【0014】
上記のサスペンション構造を、前輪及び後輪に設け、夫々、個別の駆動モータ3によって駆動制御する。
なお、リーンアーム15を回動させるためのアクチュエータとして駆動モータ3を用いているが、他にも油圧や空気圧を用いたアクチュエータを使用してもよい。また、伸縮方向に推力を発生可能な例えば電磁式ショックアブソーバ等で、左右のサスペンションを夫々逆方向にストロークさせることで、車体を傾斜させてもよい。
【0015】
図3は、システム構成図である。
車両20は、前述し駆動モータ3の他に、操舵角センサ21、ヨーレートセンサ22、横加速度センサ23、車輪速センサ24、スリップ角センサ25、及び車両制御コントローラ26と、を備える。
操舵角センサ21は、車両20のステアリングの操舵角を検出し、検出値を車両制御コントローラ26に入力する。ヨーレートセンサ22は、車両20に発生するヨーレートを検出し、検出値を車両制御コントローラ26に入力する。横加速度センサ23は、車両20に発生する横加速度を検出し、検出値を車両制御コントローラ26に入力する。車輪速センサ24は、車両20の各車輪の回転速度(車輪速度)を検出し、検出値を車両制御コントローラ26に入力する。スリップ角センサ25は、車両20のすべり角を検出し、検出値を車両制御コントローラ26に入力する。
【0016】
車両制御コントローラ26は、車体傾動制御処理を実行し、電流指令値により駆動モータ3を駆動することで、車体2の傾斜動作を実現する。
車両制御コントローラ26は、マイクロコンピュータで構成し、操舵角センサ21、ヨーレートセンサ22、横加速度センサ23、車輪速センサ24、及びスリップ角センサ25から入力した情報に基づき、駆動モータ3の動作を制御すると同時に、制御動作の解除も行う。
【0017】
次に、車両制御コントローラ26で実行する車体傾動制御処理について説明する。
図4は、車体傾動制御処理を示す機能ブロック図である。
車両制御コントローラ26は、旋回走行状態検出部41と、目標傾斜角算出部42と、左右輪荷重変動推定部43と、限界値補正量算出部44と、傾斜角制限部45と、アクチュエータ駆動制御部46と、を備える。
旋回走行状態検出部41は、操舵角センサ21、ヨーレートセンサ22、横加速度センサ23、車輪速センサ24、及びスリップ角センサ25からの各種データを入力する。
【0018】
目標傾斜角算出部42は、旋回走行状態検出部41からの入力情報を利用して、車体2を傾斜させる目標傾斜角θ*を算出する。例えば、特開2005−112300号公報に記載の算出方法がある。具体的には、操舵角センサ21で検出した操舵角が大きいほど、車体2の目標傾斜角を操舵方向へ大きくする。また、ヨーレートセンサ22で検出したヨーレートが大きいほど、車体2の目標傾斜角を旋回内側へ大きくする。また、横加速度センサ23で検出した横加速度が大きいほど、車体2の目標傾斜角を旋回内側へ大きくする。また、スリップ角センサ25で検出したスリップ角が大きいほど、車体2の目標傾斜角を旋回内側へ大きくする。さらに、車輪速センサ24で検出した車輪速から車速を算出し、算出した車速が高いほど、操舵角、ヨーレート、横加速度、及びスリップ角の少なくとも一つに応じた目標傾斜角を、より旋回内側に大きくする。
【0019】
左右輪荷重変動推定部43は、旋回走行状態検出部41からの入力情報を利用して、一般の車両ダイナミクスモデルとアクチュエータダイナミクスモデルの両方を用いて、想定される将来時間までにおける輪荷重変動を予測する。具体的に、車両ダイナミクスモデルと駆動モータ3を状態方程式で表現できるので、車両制御コントローラ26のサンプリング時間で離散化した状態方程式を用いて、プレビュー制御と似た方法で、想定される将来時間までの輪荷重変動を予測する。予測時間については、予め決められ、例えば駆動モータ3が動作する時定数を設定すればよい。
【0020】
左右輪荷重変動推定部43は、旋回走行状態検出部41からの入力情報を利用して、一般の車両ダイナミクスモデルとアクチュエータダイナミクスモデルの両方を用いて、想定される将来時間分までにおける左右輪の輪荷重変動(偏差)を推定する。具体的には、後述する図5の輪荷重変動推定処理を実行し、輪荷重変動を推定する。
限界値補正量算出部44は、旋回走行状態検出部41からの入力情報を利用して、物理的(実際の)限界輪荷重に対する補正量となる限界値補正量の算出を行う。本実施形態では、最も単純な方法としてオフラインで算出する方法を示す。具体的には、後述する図6の限界値補正量算出処理を実行し、限界値補正量を算出する。
【0021】
傾斜角制限部45は、目標傾斜角算出部42、及び左右輪荷重変動推定部43からの入力情報と、限界値補正量算出部44からの入力情報を利用して、目標傾斜角に対する制限処理を行う。具体的には、後述する図7の傾斜角制限処理を実行し、目標傾斜角を制御用許容傾斜角で制限する。
アクチュエータ駆動制御部46は、傾斜角制限部45による制限処理後の目標傾斜角を達成するように、駆動モータ3の駆動制御を行う。例えば、PID制御によるサーボ制御を用いてもよい。
【0022】
次に、左右輪荷重変動推定部43で実行する左右輪荷重変動推定処理について説明する。
図5は、左右輪荷重変動推定処理を示すフローチャートである。
先ずステップS11の処理では、輪荷重変動の予測における想定される将来予測時間を決定する。この予測時間は、例えば駆動モータ3が動作する時定数で設定すればよい。これにより、駆動モータ3が素早く輪荷重変動に影響を与える限界時間がわかる。
続くステップS12では、将来予測時間を用いて、予測時間に必要なサンプル数を算出する。具体的に、予測するサンプル数は以下で求める。
サンプル数=予測時間/サンプリング時間
但し、サンプリング時間は例えば車両制御コントローラ26が動作するサンプリング時間を用いればよい。
【0023】
続くステップS13の処理では、ステップS12によって算出したサンプル数を用いて、上記のサンプリング時間で離散化した車両ダイナミクスモデル(周波数特性)において、傾斜角を入力Uとし、車両ダイナミクスモデルの動作による輪荷重変動を出力ΔW1とする差分方程式を以下で表現できる。
t+1、1=A1t、1+B1t
ΔW1=H1t、1
上記の差分方程式を用いて、将来予測時間分までの各サンプリング時間における輪荷重変動ΔW1を算出する。具体的に、サンプル数をN、サンプリング時間をΔTとしたときに、以下を計算する。
【0024】
【数1】

【0025】
これにより、予測時間分までの車両ダイナミクスモデルによる輪荷重変動の動きが予測できる。
続くステップS14の処理では、ステップS12によって算出したサンプル数を用いて、上記のサンプリング時間で離散化したアクチュエータ・ダイナミクスモデル(周波数特性)において、傾斜角を入力Uとし、車両ダイナミクスモデルの動作による輪荷重変動を出力ΔW2とする差分方程式を以下で表現できる。
t+1、2=A2t、2+B2t
ΔW2=H2t、2
上記の差分方程式を用いて、将来予測時間分までの各サンプリング時間における輪荷重変動ΔW2を算出する。具体的に、上記と同様に以下を計算する。
【0026】
【数2】

【0027】
これにより、予測時間分までのアクチュエータダイナミクスモデルによる輪荷重変動の動きが予測できる。
続くステップS15の処理では、ステップS13とステップS14によって算出した各サンプル数における輪荷重変動を用いて、以下の計算を行うことで左右輪荷重変動を予測する。但し、iは1〜Nである。
ΔW(t+iΔT)=ΔW1(t+iΔT)+ΔW2(t+iΔT)
【0028】
次に、限界値補正量算出部44で実行する限界値補正量算出処理について説明する。
図6は、限界値補正量算出処理を示すフローチャートである。
先ずステップS21の処理では、車両傾斜ダイナミクスモデルが持っているロール共振周波数を算出する。これにより、車両の傾斜により輪荷重変動が最も動く周波数帯域が見つかる。
続くステップS22の処理では、目標傾斜角算出部42で用いるノミナルモデルにおけるロール共振周波数のゲインを算出する。以下の算出を行うために、これをΔFnとする。
【0029】
続くステップS23の処理では、想定されるモデル化誤差が存在する場合のモデルにおけるロール共振周波数のゲインを算出する。以下の算出を行うために、これをΔFeとする。ここで、想定されるモデル化誤差は単数又は複数でもよい。
続くステップS24の処理では、ステップS22とステップS23の処理結果を利用してノミナルモデルに対するモデル化誤差あるモデルにおけるゲイン比率を算出する。具体的に、モデル化誤差が単数の場合、例えばゲイン比率は以下の式で算出する。
ゲイン比率=(ΔFe−ΔFn)/ΔFn
【0030】
モデル化誤差が複数の場合、例えばゲイン比率は以下の式で算出する。
ゲイン比率=MAX((ΔFe−ΔFn)/ΔFn)
続くステップS25の処理では、ステップS24の処理で得たゲイン比率を利用して、車両の総重量に対する限界値補正量を算出する。具体的に、例えば限界値補正量を以下の式で算出する。
限界値補正量=ゲイン比率×車両総重量
【0031】
なお、想定される車両重量のばらつきに応じて、限界値補正量を調整してもよく、例えば、想定される車両重量のばらつきが大きいほど、限界値補正量を大きくする。
また、想定される車両重心高のばらつきに応じて、限界値補正量を調整してもよく、例えば、想定される車両重心高のばらつきが大きいほど、限界値補正量を大きくする。
【0032】
次に、傾斜角制限部45で実行する傾斜角制限処理について説明する。
図7は、傾斜角制限処理を示すフローチャートである。
先ず、ステップS31の処理では、物理的(実際の)限界輪荷重とは異なる制御用限界輪荷重を以下のように算出する。
制御用限界輪荷重=車両総重量−限界値補正量
続くステップS32の処理では、左右輪荷重変動推定部43で推定した左右輪荷重変動ΔWが、ステップS31で得た制御用限界輪荷重を超えないように、制御用許容傾斜角を算出する。
【0033】
続くステップS33の処理では、ステップS32で得た制御用許容傾斜角と、目標傾斜角算出部42で得た目標傾斜角とを比較し、目標傾斜角が制御用許容傾斜角よりも大きければ、下記に示すように、最終的な目標傾斜角を制御用許容傾斜角に制限する。
目標傾斜角 ← 制御用許容傾斜角
一方、目標傾斜角が制御用許容傾斜角よりも小さければ、下記に示すように、目標傾斜角算出部42で得た目標傾斜角を維持し、そのまま最終的な目標傾斜角とする(補正なし)。
目標傾斜角 ← 目標傾斜角
【0034】
《作用》
旋回走行時に、目標傾斜角算出部42により、車体を旋回内側となるロール方向に傾斜させるための目標傾斜角を算出し、アクチュエータ駆動制御部46により、この目標傾斜角に従って駆動モータ3を駆動制御し、車体2を傾動させると、過渡的に輪荷重が変動することになる。
このとき、片側のタイヤ接地性が低下すると、旋回走行時の車両安定性に影響を与えることになる。車両のダイナミクスモデルを考慮して車体の傾斜角を決定することも考えられるが、車両のパラメータ変動やモデル化誤差などの入力があると、輪荷重変動を補償しきれない可能性もある。
【0035】
そこで、左右輪荷重変動算出部43により、車両の旋回走行状態及び目標傾斜角に応じて、左右輪荷重変動を推定し(ステップS11〜ステップS15)、限界値補正量算出部44により、車両の旋回走行状態に応じて、左右輪荷重変動時の物理的限界輪荷重に対する限界値補正量を算出する(ステップS21〜ステップS25)。そして、傾斜角制限部45により、物理的限界輪荷重から限界値補正量を減じて制御用限界輪荷重を算出し(ステップS31)、左右輪荷重変動が制御用限界輪荷重を超えないように、目標傾斜角に対して制限処理を行う(ステップS32、ステップS33)。
【0036】
図8は、制御用限界輪荷重の概念図である。
ここで、破線で描かれた中心線は、左右輪荷重に偏差がなく均等である位置であり、左右輪荷重変動が生じ、左右輪荷重の偏差が大きくなるほど、その中心線から離れ、物理的限界輪荷重に近づくことを意味している。前述した制御用限界輪荷重は、物理的限界輪荷重よりも、限界値補正量分だけ中心線側にオフセットした値である。
【0037】
このように、左右輪荷重変動を推定しつつ、限界値補正量から制御用限界輪荷重を設定し、この制御用限界輪荷重を超えないように、左右輪荷重変動が予測された目標傾斜角を制限処理しているので、パラメータ変動やモデル化誤差があっても、輪荷重変動を補償することができる。これにより、タイヤ接地性の低下を抑制し、旋回走行時の安定性を向上させることができる。
【0038】
図9は、作用効果を示すタイムチャートである。
図中(a)は、本実施形態を適用しておらず、パラメータ変動やモデル化誤差が存在しない場合の輪荷重変動を示すタイムチャートである。ここでは、左右輪荷重が物理的限界輪荷重を超えることはない。
図中(b)は、本実施形態を適用しておらず、パラメータ変動やモデル化誤差が存在した場合の輪荷重変動を示すタイムチャートである。ここでは、パラメータ変動やモデル化誤差の影響を受けて、左右輪荷重が物理的限界輪荷重を越えてしまうことがある。
【0039】
図中(c)は、本実施形態を適用しており、パラメータ変動やモデル化誤差が存在した場合の輪荷重変動を示すタイムチャートである。ここでは、パラメータ変動やモデル化誤差があると、制御用限界輪荷重を越えることはあっても、物理的限界輪荷重を越えることはない。
また、左右輪荷重変動推定部43では、車両ダイナミクスモデル及びアクチュエータダイナミクスモデルに従い、左右輪荷重変動を予測する。具体的には、車両ダイナミクスモデルに従い、車両のヨーレートや横加速度に応じて、左右輪荷重変動を予測する。
【0040】
このように、一般の市販車両に使用している安価なヨーレートセンサ22や、高速応答する横加速度センサ23を用いることで、左右輪荷重変動を精度よく予測することができる。
また、左右輪荷重変動推定部43では、アクチュエータダイナミクスモデルに従い、目標傾斜角に応じて、左右輪荷重変動を予測する。
このように、車体を傾斜させるときの左右輪荷重変動を、より精度よく予測することができる。
【0041】
また、限界値補正量算出部44では、想定される車両重量や車両重心高のばらつきに応じて、限界値補正量を算出する。すなわち、想定される車両重量のばらつきが大きいほど、且つ想定される車両重心高のばらつきが大きいほど、限界値補正量を大きくする。
このように、車両重量のばらつきや、車両重心高のばらつきに応じて、限界補正量を調整することで、左右輪荷重変動が物理的限界輪荷重の範囲内に収まるように、車体を傾斜させることができる。
【0042】
以上より、駆動モータ3が「アクチュエータ」に対応し、操舵角センサ21、ヨーレートセンサ22、横加速度センサ23、車輪速センサ24、スリップ角センサ25、並びに旋回走行状態検出部41が「旋回走行状態検出手段」に対応する。また、目標傾斜角算出部42が「目標傾斜角算出手段」に対応し、左右輪荷重変動推定部43が「左右輪荷重変動推定手段」に対応し、限界値補正量算出部44が「限界値補正量算出手段」に対応する。また、ステップS31の処理が「制御用限界輪荷重算出手段」に対応し、ステップS33の処理が「傾斜角制限手段」に対応し、アクチュエータ駆動制御部46が「駆動制御手段」に対応する。
【0043】
《効果》
(1)車体傾動制御装置は、車体をロール方向に傾斜させる駆動モータ3と、車両の旋回走行状態を検出する旋回走行状態検出部41と、旋回走行状態検出部41で検出した旋回走行状態に応じて、車体を旋回内側となるロール方向に傾斜させるための目標傾斜角を算出する目標傾斜角算出部42と、を備える。また、旋回走行状態検出部41で検出した旋回走行状態、及び目標傾斜角算出部42で算出した目標傾斜角に応じて、左右輪荷重変動を推定する左右輪荷重変動推定部43と、旋回走行状態検出部41で検出した旋回走行状態に応じて、左右輪荷重変動時の物理的限界輪荷重に対する限界値補正量を算出する限界値補正量算出部44と、を備える。さらに、物理的限界輪荷重から限界値補正量算出部44で算出した限界値補正量を減じて制御用限界輪荷重を算出するステップS31の処理と、左右輪荷重変動推定部43で推定した左右輪荷重変動がステップS31の処理で算出した制御用限界輪荷重を超えないように、目標傾斜角算出部42で算出した目標傾斜角に対して制限処理を行うステップS33の処理と、ステップS33の処理で制限処理した目標傾斜角に応じて、アクチュエータを駆動制御するアクチュエータ駆動制御部46と、備える。
【0044】
このように、左右輪荷重変動を推定しつつ、限界値補正量から制御用限界輪荷重を設定し、この制御用限界輪荷重を超えないように、左右輪荷重変動が予測された目標傾斜角を制限処理しているので、パラメータ変動やモデル化誤差があっても、輪荷重変動を補償することができる。これにより、タイヤ接地性の低下を抑制し、旋回走行時の安定性を向上させることができる。
【0045】
(2)車体傾動制御装置は、左右輪荷重変動推定部43により、車両ダイナミクスモデル及びアクチュエータダイナミクスモデルに従い、左右輪荷重変動を予測する。
このように、車両ダイナミクスモデル及びアクチュエータダイナミクスモデルに従い、左右輪荷重変動を予測することで、精度よく左右輪荷重変動を推定することができる。
【0046】
(3)車体傾動制御装置は、旋回走行状態検出部41(ヨーレートセンサ22)により、車両のヨーレートを検出し、左右輪荷重変動推定部43により、車両ダイナミクスモデルに従い、旋回走行状態検出部41(ヨーレートセンサ22)で検出したヨーレートに応じて、左右輪荷重変動を予測する。
このように、一般の市販車両に使用している安価なヨーレートセンサ22を用いることで、左右輪荷重変動を予測することができる。
【0047】
(4)車体傾動制御装置は、旋回走行状態検出部41(横加速度センサ23)により、車両の横加速度を検出し、左右輪荷重変動推定部43は、車両ダイナミクスモデルに従い、旋回走行状態検出部41(横加速度センサ23)で検出した横加速度に応じて、左右輪荷重変動を予測する。
このように、高速応答する横加速度センサ23を用いることで、左右輪荷重変動をより高精度に推定することができる。
【0048】
(5)車体傾動制御装置は、左右輪荷重変動推定部43により、アクチュエータダイナミクスモデルに従い、目標傾斜角算出部42で算出した目標傾斜角に応じて、左右輪荷重変動を予測する。
このように、目標傾斜角算出部42で算出した目標傾斜角に応じて、左右輪荷重変動を予測することで、傾斜運動によって発生する左右輪荷重変動を精度よく推定することができる。
【0049】
(6)車体傾動制御装置は、限界値補正量算出部44により、想定される車両重量のばらつきに応じて、限界値補正量を算出する。
このように、想定される車両重量のばらつきに応じて限界値補正量を算出することで、想定範囲内の車両重量のばらつきであれば、左右輪荷重変動が物理的限界輪荷重の範囲内に収まるように、車体を傾斜させることができる。
【0050】
(7)車体傾動制御装置は、限界値補正量算出部44により、想定される車両重量のばらつきが大きいほど、限界値補正量を大きくする。
このように、想定される車両重量のばらつきが大きいほど、限界値補正量を大きくすることで、想定範囲内の車両重量のばらつきであれば、左右輪荷重変動が物理的限界輪荷重の範囲内に収まるように、車体を傾斜させることができる。
【0051】
(8)車体傾動制御装置は、限界値補正量算出部44により、想定される車両重心高のばらつきに応じて、限界値補正量を算出する。
このように、想定される車両重心高のばらつきに応じて限界値補正量を算出することで、想定範囲内の車両重心高のばらつきであれば、左右輪荷重変動が物理的限界輪荷重の範囲内に収まるように、車体を傾斜させることができる。
【0052】
(9)車体傾動制御装置は、限界値補正量算出部44により、想定される車両重心高のばらつきが大きいほど、限界値補正量を大きくする。
このように、想定される車両重心高のばらつきが大きいほど、限界値補正量を大きくすることで、想定範囲内の車両重心高のばらつきであれば、左右輪荷重変動が物理的限界輪荷重の範囲内に収まるように、車体を傾斜させることができる。
【0053】
(10)車体傾動制御方法は、旋回走行状態検出部41により、車両の旋回走行状態を検出し、目標傾斜角算出部42により、旋回走行状態に応じて車体を旋回内側となるロール方向に傾斜させるための目標傾斜角を算出する。また、左右輪荷重変動推定部43により、旋回走行状態及び目標傾斜角に応じて左右輪荷重変動を推定し、限界値補正量算出部44により、旋回走行状態に応じて左右輪荷重変動時の物理的限界輪荷重に対する限界値補正量を算出する。そして、ステップS31の処理により、物理的限界輪荷重から限界値補正量を減じて制御用限界輪荷重を算出し、ステップS33の処理により、左右輪荷重変動が制御用限界輪荷重を超えないように目標傾斜角に対して制限処理を行い、アクチュエータ駆動制御部46により、制限処理した目標傾斜角に応じてアクチュエータを駆動制御する。
【0054】
このように、左右輪荷重変動を推定しつつ、限界値補正量から制御用限界輪荷重を設定し、この制御用限界輪荷重を超えないように、左右輪荷重変動が予測された目標傾斜角を制限処理しているので、パラメータ変動やモデル化誤差があっても、輪荷重変動を補償することができる。これにより、タイヤ接地性の低下を抑制し、旋回走行時の安定性を向上させることができる。
【0055】
《第二実施形態》
《構成》
図10は、第二実施形態を示すシステム構成図である。
第一実施形態との違いは、スリップ角センサ25を用いないところにある。すなわち、左右輪荷重変動を予測する際、スリップ角が必要な場合には、操舵角センサ21、ヨーレートセンサ22、横加速度センサ23、車輪速センサ24から得られる情報を用いて、例えばカルマン・フィルタを用いてスリップ角を推定してもよい。
また、操舵角センサ21、ヨーレートセンサ22、横加速度センサ23、車輪速センサ24から得た情報を用いて、状態オブザーバーを用いてもよい。
また、操舵角センサ21、ヨーレートセンサ22、横加速度センサ23、車輪速センサ24から得た情報を用いて、外乱オブザーバーを用いてもよい。
【0056】
《作用》
上記のように、全ての車両運動状態の検出はできなくても、推定器のようなものを用いれば、パラメータ変動やモデル化誤差を持つ車両の輪荷重変動でも、車両の走行状態に応じて左右輪荷重変動を推定することができる。したがって、左右輪荷重変動が制御用限界輪荷重を超えないように、目標傾斜角に対して制限処理を行うことができ、パラメータ変動やモデル化誤差があっても、輪荷重変動を補償することができる。これにより、タイヤ接地性の低下を抑制し、旋回走行時の安定性を向上させることができる。
《効果》
(1)車体傾動制御装置は、旋回走行状態検出部41により、推定器を介してスリップ角を推定する。
このように、推定器を介してスリップ角を推定することで、スリップ角センサを省略することができる。
【0057】
《第三実施形態》
《構成》
第三実施形態は、運転者の操舵パターンを考慮しつつ限界値補正量を算出するものである。
図11は、第三実施形態の限界値補正量算出処理を示すフローチャートである。
なお、本実施形態の算出もオフラインで算出でき、以下のステップ処理をオフラインで算出する。
先ずステップS41の処理では、想定される運転者の操舵周波数特性を算出する。この操舵周波数は、例えば運転者の操舵を複数の正弦波信号の組み合わせで表現する場合、それに応じる操舵周波数特性を求める。また、運転者の操舵として、操舵方向を大きく連続的に切り替える所謂フィッシュフックターンを想定する場合、それに応じる操舵周波数特性を求めてもよい。
【0058】
続くステップS42の処理では、目標傾斜角算出部42で用いるノミナルモデルにおけるロール共振周波数のゲインを算出する。以下の算出を行うために、これをΔFnとする。
続くステップS43の処理では、想定されるモデル化誤差が存在する場合のモデルにおけるロール共振周波数のゲインを算出する。以下の算出を行うために、これをΔFeとする。ここで、想定されるモデル化誤差は単数又は複数でもよい。
【0059】
続くステップS44の処理では、ステップS42とステップS43の処理結果を利用してノミナルモデルに対するモデル化誤差あるモデルにおけるゲイン比率を算出する。具体的に、モデル化誤差が単数の場合、例えばゲイン比率は以下の式で算出する。
ゲイン比率=(ΔFe−ΔFn)/ΔFn
モデル化誤差が複数の場合、例えばゲイン比率は以下の式で算出する。
ゲイン比率=MAX((ΔFe−ΔFn)/ΔFn)
【0060】
ステップS45の処理では、ステップS41で得た操舵周波数特性の情報を利用して、例えばFFT(フーリエ変換)を用いて、操舵周波数におけるパワーを算出する。FFT以外に、例えばWavelet変換を用いてパワーを算出してもよい。
続くステップS46の処理では、ステップS44とステップS45で得たゲイン比率とパワーを用いて、パワーによって正規化したゲイン比率の算出を行う。具体的に、例えば操舵周波数帯域全体におけるゲインとパワーの掛け算を足し合わせたものとして表現でき、以下の式で記述する。
【0061】
【数3】

【0062】
但し、P(ω)はパワーで、G(ω)はゲイン比率、ωmaxは最大想定される周波数を表している。
続くステップS47の処理では、ステップS46で得たゲイン比率を利用して、車両の総重量に対する限界値補正量を算出する。具体的に、例えば限界値補正量を以下の式で算出する。
限界値補正量=ゲイン比率×車両総重量
【0063】
《作用》
図12は、第三実施形態の限界値補正量算出処理を示す概念図である。
本実施形態では、想定される運転者の操舵周波数特性を算出し(ステップS41)、その操舵周波数特性におけるパワーを算出し(ステップS45)、パワーで正規化したゲイン比率を算出し(ステップS46)、このゲイン比率を利用して限界値補正量を算出する(ステップS47)。
このように、運転者の操舵パターンを考慮して限界値補正量を算出することで、パラメータ変動やモデル化誤差があっても、より効果的に輪荷重変動を補償することができる。これにより、タイヤ接地性の低下を抑制し、旋回走行時の安定性を向上させることができる。
【0064】
《効果》
(1)車体傾動制御装置は、限界値補正量算出部44により、操舵周波数に応じて、限界値補正量を算出する。
このように、操舵周波数を考慮に入れて限界値補正量を算出することで、パラメータ変動やモデル化誤差があっても、輪荷重変動を補償することができる。これにより、タイヤ接地性の低下を抑制し、旋回走行時の安定性を向上させることができる。
【0065】
(2)車体傾動制御装置は、限界値補正量算出部44により、想定される操舵周波数に対する変動が大きいほど、限界値補正量を大きくする。
このように、想定される操舵周波数に対する変動が大きいほど、限界値補正量を大きくすることで、操舵操作の速さの変動が発生しても、輪荷重変動を補償することができる。これにより、タイヤ接地性の低下を抑制し、旋回走行時の安定性を向上させることができる。
【0066】
《第四実施形態》
《構成》
第四実施形態は、運転者の操舵パターンをリアルタイムで考慮しつつ限界値補正量を算出するものである。
図13は、第四実施形態の限界値補正量算出処理を示すフローチャートである。
なお、本実施形態での算出は、以下のステップ処理をオンラインで算出する。
先ずステップS51の処理では、想定される運転者の操舵周波数特性を算出する。この操舵周波数は、例えば運転者の操舵を複数の正弦波信号の組み合わせで表現する場合、それに応じる操舵周波数特性を求める。また、運転者の操舵として、操舵方向を大きく連続的に切り替える所謂フィッシュフックターンを想定する場合、それに応じる操舵周波数特性を求めてもよい。
【0067】
続くステップS52の処理では、目標傾斜角算出部42で用いるノミナルモデルにおけるロール共振周波数のゲインを算出する。以下の算出を行うために、これをΔFnとする。
続くステップS53の処理では、想定されるモデル化誤差が存在する場合のモデルにおけるロール共振周波数のゲインを算出する。以下の算出を行うために、これをΔFeとする。ここで、想定されるモデル化誤差は単数又は複数でもよい。
【0068】
続くステップS54の処理では、ステップS52とステップS53の処理結果を利用してノミナルモデルに対するモデル化誤差あるモデルにおけるゲイン比率を算出する。具体的に、モデル化誤差は単数の場合、例えばゲイン比率は以下の式で算出する。
ゲイン比率=(ΔFe−ΔFn)/ΔFn
モデル化誤差は複数の場合、例えばゲイン比率は以下の式で算出する。
ゲイン比率=MAX((ΔFe−ΔFn)/ΔFn)
【0069】
続くステップS55の処理では、車両20に搭載している操舵角センサ21からの情報を利用して、過去T秒間オンラインでの運転者の操舵するパターンを抽出する。これにより、運転者の操舵パターンの特徴をリアルタイムで検出できる。
続くステップS56の処理では、ステップS55で得た運転者の操舵周波数特性の情報を利用して、例えばFFT(フーリエ変換)を用いて、操舵周波数におけるパワーを算出する。FFT以外に、例えばWavelet変換を用いてパワーを算出してもよい。
続くステップS57の処理では、ステップS54とステップS56で得たゲイン比率とパワーを用いて、パワーによって正規化したゲイン比率の算出を行う。具体的に、例えば操舵周波数帯域全体におけるゲインとパワーの掛け算を足し合わせたものとして表現でき、以下の式で記述する。
【0070】
【数4】

【0071】
但し、P(ω)はパワーで、G(ω)はゲイン比率、ωmaxは最大想定される周波数を表している。
続くステップS58の処理では、ステップS57で得たゲイン比率を利用して、車両の総重量に対する限界値補正量を算出する。具体的に、例えば限界値補正量を以下の式で算出する。
限界値補正量=ゲイン比率×車両総重量
【0072】
《作用》
図14は、第四実施形態の限界値補正量算出処理を示す概念図である。
本実施形態では、過去T秒間オンラインでの運転者の操舵するパターンを抽出し(ステップS55)、抽出した操舵パターンのパターを算出し(ステップS56)、パワーで正規化したゲイン比率を算出し(ステップS57)、このゲイン比率を利用して限界値補正量を算出する(ステップS58)。
このように、運転者の操舵パターンをリアルタイムで考慮して限界値補正量を算出することで、時々刻々と変化する運転者のステアリング操作に合わせて、パラメータ変動やモデル化誤差があっても、より効果的に輪荷重変動を補償することができる。これにより、タイヤ接地性の低下を抑制し、旋回走行時の安定性を向上させることができる。
【0073】
《効果》
(1)車体傾動制御装置は、限界値補正量算出部44により、想定される操舵周波数に対する変動が大きいほど、限界値補正量を大きくする。
このように、想定される操舵周波数に対する変動が大きいほど、限界値補正量を大きくすることで、操舵操作の速さの変動が発生しても、より効果的に輪荷重変動を補償することができる。これにより、タイヤ接地性の低下を抑制し、旋回走行時の安定性を向上させることができる。
【0074】
(2)車体傾動制御装置は、限界値補正量算出部44により、操舵周波数に対する変動が大きいほど、限界値補正量を大きくする。
このように、操舵周波数に対する変動が大きいほど、限界値補正量を大きくすることで、運転者操舵操作の速さに応じて限界値補正量を変更することで、より効果的に輪荷重変動を補償することができる。これにより、タイヤ接地性の低下を抑制し、旋回走行時の安定性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 車輪
2 車体
3 駆動モータ
11 ナックル
12 アッパリンク
13 ロアリンク
14 車体フレーム
15 リーンアーム
16 ショックアブソーバ
17 コイルスプリング
20 車両
21 操舵角センサ
22 ヨーレートセンサ
23 横加速度センサ
24 車輪速センサ
25 スリップ角センサ
26 車両制御コントローラ
41 旋回走行状態検出部
42 目標傾斜角算出部
43 左右輪荷重変動推定部
44 限界値補正量算出部
45 傾斜角制限部
46 アクチュエータ駆動制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体をロール方向に傾斜させるアクチュエータと、
車両の旋回走行状態を検出する旋回走行状態検出手段と、
前記旋回走行状態検出手段で検出した旋回走行状態に応じて、車体を旋回内側となるロール方向に傾斜させるための目標傾斜角を算出する目標傾斜角算出手段と、
前記旋回走行状態検出手段で検出した旋回走行状態、及び前記目標傾斜角算出手段で算出した目標傾斜角に応じて、左右輪荷重変動を推定する左右輪荷重変動推定手段と、
前記旋回走行状態検出手段で検出した旋回走行状態に応じて、左右輪荷重変動時の物理的限界輪荷重に対する限界値補正量を算出する限界値補正量算出手段と、
前記物理的限界輪荷重から前記限界値補正量算出手段で算出した限界値補正量を減じて制御用限界輪荷重を算出する制御用限界輪荷重算出手段と、
前記左右輪荷重変動推定手段で推定した左右輪荷重変動が前記制御用限界輪荷重算出手段で算出した前記制御用限界輪荷重を超えないように、前記目標傾斜角算出手段で算出した目標傾斜角に対して制限処理を行う傾斜角制限手段と、
前記傾斜角制限手段で制限処理した目標傾斜角に応じて、前記アクチュエータを駆動制御する駆動制御手段と、備えることを特徴とする車体傾動制御装置。
【請求項2】
前記左右輪荷重変動推定手段は、車両ダイナミクスモデル及びアクチュエータダイナミクスモデルに従い、左右輪荷重変動を予測することを特徴とする請求項1に記載の車体傾動制御装置。
【請求項3】
前記旋回走行状態検出手段は、車両のヨーレートを検出し、
前記左右輪荷重変動推定手段は、車両ダイナミクスモデルに従い、前記旋回走行状態検出手段で検出したヨーレートに応じて、左右輪荷重変動を予測することを特徴とする請求項2に記載の車体傾動制御装置。
【請求項4】
前記旋回走行状態検出手段は、車両の横加速度を検出し、
前記左右輪荷重変動推定手段は、車両ダイナミクスモデルに従い、前記旋回走行状態検出手段で検出した横加速度に応じて、左右輪荷重変動を予測することを特徴とする請求項2又は3に記載の車体傾動制御装置。
【請求項5】
前記左右輪荷重変動推定手段は、アクチュエータダイナミクスモデルに従い、前記目標傾斜角算出手段で算出した目標傾斜角に応じて、左右輪荷重変動を予測することを特徴とする請求項2〜4の何れか一項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項6】
前記限界値補正量算出手段は、想定される車両重量のばらつきに応じて、限界値補正量を算出することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項7】
前記限界値補正量算出手段は、想定される車両重量のばらつきが大きいほど、限界値補正量を大きくすることを特徴とする請求項6に記載の車体傾動制御装置。
【請求項8】
前記限界値補正量算出手段は、想定される車両重心高のばらつきに応じて、限界値補正量を算出することを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項9】
前記限界値補正量算出手段は、想定される車両重心高のばらつきが大きいほど、限界値補正量を大きくすることを特徴とする請求項8に記載の車体傾動制御装置。
【請求項10】
前記限界値補正量算出手段は、操舵周波数に応じて、限界値補正量を算出することを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の車体傾動制御装置。
【請求項11】
前記限界値補正量算出手段は、想定される操舵周波数に対する変動が大きいほど、限界値補正量を大きくすることを特徴とする請求項10に記載の車体傾動制御装置。
【請求項12】
前記限界値補正量算出手段は、入力される操舵周波数に対する変動が大きいほど、限界値補正量を大きくすることを特徴とする請求項10又は11に記載の車体傾動制御装置。
【請求項13】
車体をロール方向に傾斜させるアクチュエータを設け、車両の旋回走行状態を検出し、前記旋回走行状態に応じて車体を旋回内側となるロール方向に傾斜させるための目標傾斜角を算出し、前記旋回走行状態及び前記目標傾斜角に応じて左右輪荷重変動を推定し、前記旋回走行状態に応じて左右輪荷重変動時の物理的限界輪荷重に対する限界値補正量を算出し、前記物理的限界輪荷重から前記限界値補正量を減じて制御用限界輪荷重を算出し、前記左右輪荷重変動が前記制御用限界輪荷重を超えないように前記目標傾斜角に対して制限処理を行い、制限処理した目標傾斜角に応じて前記アクチュエータを駆動制御することを特徴とする車体傾動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−214100(P2012−214100A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80102(P2011−80102)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】