説明

車体前部構造

【課題】 車体前部にエンジンルームが形成された車体前部構造において、エンジンルーム内に密に各種部品を配置するレイアウトを採用可能としつつ、前突時における燃料系フィルタ装置の損傷を効果的に防止すること。
【解決手段】 車体前部に形成されたエンジンルーム1内の後方側部に配設された、ブレーキの真空倍力装置11と、真空倍力装置11の前方に配設された燃料系フィルタ装置(12)と、車体に固定され、燃料系フィルタ装置(12)が収納されるプロテクタ部材13と、を有する車体前部構造において、真空倍力装置11とプロテクタ部材13との間に、配管・配線スペースが形成されるように両者を離間して配設し、プロテクタ部材13を車体に固定するための固定用穴17d’、18bを車体前後方向に延びる長穴状に形成し、プロテクタ部材13に車体後方への衝撃が作用した場合に、プロテクタ部材13が固定用穴17d’、18bの長さの範囲で車体後方へ移動可能としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の車体前部構造に関し、特に、エンジンルーム内における燃料系フィルタ装置の配設技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンルームはより広い客室空間を確保すべく、よりコンパクトに構成することが必須となっており、エンジン並びにこれに関連する各種部品をエンジンルーム内に密に配置するレイアウトを採用する必要がある。その一方で車体前部にエンジンルームを形成した自動車においては、前突時におけるエンジンルーム内の各種部品の損傷を低減する必要があり、特に、燃料系フィルタ装置に代表される燃料系部品については燃料漏れを防止すべく、その損傷を最小限に抑える必要がある。衝突時における燃料系フィルタ装置の損傷防止技術としては、例えば、特許文献1の技術が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−287128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のものはセジメンタユニットの水抜きドレーンの損傷を防止するものであって、セジメンタユニット全体の損傷防止は従来から用いられているプロテクタ部材に依存しており、つまり、燃料系フィルタ装置全体の損傷防止については着目されていない。そして、プロテクタ部材による損傷防止も一定の効果が見込めるが必ずしも十分ではない。
【0005】
従って、本発明の目的は、車体前部にエンジンルームが形成された車体前部構造において、エンジンルーム内に密に各種部品を配置するレイアウトを採用可能としつつ、前突時における燃料系フィルタ装置の損傷を効果的に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、車体前部に形成されたエンジンルーム内の後方側部に配設された、ブレーキの真空倍力装置と、前記真空倍力装置の前方に配設された燃料系フィルタ装置と、車体に固定され、前記燃料系フィルタ装置が収納されるプロテクタ部材と、を有する車体前部構造において、前記真空倍力装置と前記プロテクタ部材との間に、配管・配線スペースが形成されるように両者を離間して配設し、前記プロテクタ部材を車体に固定するための固定用穴を車体前後方向に延びる長穴状に形成し、前記プロテクタ部材に車体後方への衝撃が作用した場合に、前記プロテクタ部材が前記固定用穴の長さの範囲で車体後方へ移動可能としたことを特徴とする車体前部構造が提供される。
【0007】
この構成によれば、前突時において前記プロテクタ部材と共に前記燃料系フィルタ装置が車体後方へ移動するので、前記燃料系フィルタ装置の損傷を効果的に防止できる。前記燃料系フィルタ装置は前記固定用穴の長さの範囲で移動するので、その後方に配設された前記真空倍力装置に衝突することはなく、前記燃料系フィルタ装置と前記真空倍力装置との双方を前突時の衝撃から保護できる。更に、前記燃料系フィルタ装置は前記真空倍力装置の前方に配設されるので、そのメンテナンス等の作業性も維持されると共に、前記燃料系フィルタ装置と前記真空倍力装置との空間は配管・配線スペースとなるのでエンジンルーム内に密に各種部品を配置するレイアウトの採用を妨げることもない。
【0008】
従って、本発明によれば、車体前部にエンジンルームが形成された車体前部構造において、エンジンルーム内に密に各種部品を配置するレイアウトを採用可能としつつ、前突時における燃料系フィルタ装置の損傷を効果的に防止することができる。
【0009】
本発明においては、前記燃料系フィルタ装置が、プライミングポンプを有するセジメンタユニットであってもよい。
【0010】
本発明は上記の通り、前記燃料系フィルタ装置の作業性が維持されるので、プライミングポンプによる燃料の供給作業や、水抜き作業が要求されるセジメンタユニットに特に好適である。
【0011】
また、本発明においては、前記セジメンタユニットの前方に、エアクリーナ又はバッテリの一方を配設し、前記エンジンルーム内の、エンジンを挟んだ前記セジメンタユニットの配設領域と反対側の領域に前記エアクリーナ又は前記バッテリの他方を配設した構成を採用することもできる。
【0012】
この構成によれば、エンジンルーム内での占有空間が比較的大きくなるエアクリーナ、バッテリの配置を考慮しつつ、衝突時における前記セジメンタユニットの保護が可能となる。
【0013】
また、本発明においては、前記エンジンが縦置きで搭載されるクロスフローエンジンであり、前記エンジンルーム内の、前記エンジンの吸気側の領域に、車体前方からバッテリ、前記セジメンタユニット、前記真空倍力装置を順次車体前後方向に配設し、前記エンジンルーム内の、前記エンジンの排気側の領域に、前記エンジンの排気側の側部に取付けられたターボ過給機と、エアクリーナと、を配設した構成を採用することもできる。
【0014】
この構成によれば、衝突時における前記セジメンタユニットの保護を実現しつつ、エンジンルーム内の補機類を合理的に配置できる。
【0015】
また、本発明においては、前記プロテクタ部材は、その車幅方向側方に設けられたブラケットを介して前記車体に固定され、前記セジメンタユニットは、その胴部が前記プロテクタ部材と空隙を有するように前記プロテクタ部材に取付けられる取付部を有し、該取付部は、前記セジメンタユニットの車幅方向の側部にのみ設けられた構成を採用することもできる。
【0016】
この構成によれば、前記プロテクタ部材は、その車幅方向側方に設けられたブラケットを介して前記車体に固定されるので、当該ブラケットが車体前後方向に設けられた場合に比べて、前記プロテクタ部材と前記セジメンタユニットとが前記固定用穴の長さの範囲で移動した後、前記ブラケットの撓みにより前記セジメンタユニットをより効果的に保護することができる。また、前記セジメンタユニットは、その胴部が前記プロテクタ部材と空隙を有するように前記プロテクタ部材に取付けられ、かつ、その取付部は、前記セジメンタユニットの車幅方向の側部にのみ設けられたるので、前記プロテクタ部材を介した前記セジメンタユニットへの衝撃が緩衝され、前記セジメンタユニットをより効果的に保護することができる。
【0017】
また、本発明においては、前記プロテクタ部材は、前記セジメンタユニットの車幅方向側方の下部と、車体後方の下部と、において前記車体に固定されている構成を採用することもできる。
【0018】
この構成によれば、前記セジメンタユニットの車体後方への倒れ込みを防止しつつ、車体後方への移動スペースを確保することができる。
【0019】
また、本発明においては、前記配管・配線スペースを通過する配管は、前記セジメンタユニットの後方の部分に金属管が設けられた可撓性管であることが望ましい。
【0020】
この構成によれば、前記プロテクタ部材及び前記セジメンタユニットの後方移動時における、前記配管との干渉部分が前記金属管であるので、当該配管の保護を図れると共に、当該配管を可撓性配管とすることにより、前記プロテクタ部材及び前記セジメンタユニットの後方移動を阻害しない。
【発明の効果】
【0021】
以上述べた通り、本発明によれば、車体前部にエンジンルームが形成された車体前部構造において、エンジンルーム内に密に各種部品を配置するレイアウトを採用可能としつつ、前突時における燃料系フィルタ装置の損傷を効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は本発明の一実施形態に係る車体前部構造Aを示す平面図である。車体前部構造Aはエンジンルーム1を画定するボディ2を備える。なお、同図の車体前部構造Aはフェンダー及びボンネットを取り外した態様を示している。エンジンルーム1の略中央にはクランク軸(不図示)が車体前後方向に向いた縦置きでエンジン3が搭載されている。本実施形態ではエンジン3としてディーゼル式のクロスフローエンジンを想定しており、エンジン3の排気側31が車体の左側に、吸気側32が車体の右側にそれぞれ位置している。従って、エンジンルーム1はエンジン3を境界として排気側31の領域21と吸気側32の領域22とに分けられる。
【0023】
エンジン3の排気側31には過給機4が設けられている。本実施形態では過給機4はタービン室4aとインペラ室4bとを備えるターボ過給機である。
【0024】
エンジン3の車幅方向の側方にはエアクリーナ5が配設されている。本実施形態の場合、エアクリーナ5はエンジンルーム1内の側部に形成された、ボディ2の2つのホイールハウス2a、2bのうち、エンジン3の排気側31の領域21のホイールハウス2a上に配設されている。エアクリーナ5はボディ2の左側部に設けられたエアインテーク6から吸入される空気をろ過する。ろ過された空気は過給機4のインペラ室4bに導入され、配管7a、インタークーラ7b並びに配管7cを通ってエンジン3の吸気側32のインテークマニホールド(不図示)に供給される。
【0025】
エアクリーナ5の車体後方側には、また、ホイールハウス2a上に支持されたバキュームタンク8が配設されている。バキュームタンク8はエンジン3の駆動力により駆動されるバキュームポンプ9に配管10を介して接続されており、バキュームポンプ9により発生した負圧を蓄積し、当該負圧はエンジン3の吸気側31に設けられた各種の制御弁、ブレーキの真空倍力装置11並びに過給機4等に供給され、これらの作動源とされる。
【0026】
真空倍力装置11はエンジンルーム1内の後方側部に配設されており、本実施形態の場合、エンジン3の吸気側32の領域22に配設されている。真空倍力装置11の前方には燃料系フィルタ装置であるセジメンタユニット12が配設されている。このセジメンタユニット12は燃料タンク(不図示)からの燃料をろ過してエンジン3へ供給するものであり、車体2に固定されたプロテクタ部材13に収納されている。真空倍力装置11とプロテクタ部材13とは、両者のに配管・配線スペースが形成されるように離間して配設されている。本実施形態ではこの配管・配線スペースがリザーバタンク14の配管141、142の通過スペースとなっている。リザーバタンク14はパワステの作動油を貯留するパワステ用のリザーバタンクであり、ホイールハウス2b上に支持されている。
【0027】
本実施形態では、配管141、142はいずれも樹脂管等からなる可撓性を有する管であるが、配管141にはセジメンタユニット12の後方部分に金属管141aが設けられている。後述するように本実施形態では、前突時においてプロテクタ部材13及びセジメンタユニット12が後方に移動する構成を採用しており、その後方移動時にはプロテクタ部材13と配管141が干渉する場合が有り得る。そこで、配管141に金属管141aを設けることで、プロテクタ部材13と配管141との干渉部分が金属管141aとなり、配管141の保護を図れる。また、配管141を可撓性を有する管とすることにより、プロテクタ部材13及びセジメンタユニット12の後方移動を阻害しない。
【0028】
なお、この金属管141aは、配管141を構成する可撓性管を被覆するように設けてもよいし、被覆せずに金属管141aの両端に可撓性管を接続するように構成してもよい。また、配管・配線スペースにおいて配管141よりも後方を通過する配管142にもこのような金属管141aを設けてもよい。
【0029】
次に、セジメンタユニット12の前方にはバッテリ15が配設されている。本実施形態の場合、過給機4を備えたエンジン3を想定しているため、エアクリーナ5が排気側31の領域21に配設されているが、エアクリーナ5を吸気側32の領域22においてセジメンタユニット12の前方に配設することもでき、この場合、バッテリ15はエンジン3を挟んだセジメンタユニット12の配設領域である領域22と反対側の領域である排気側31の領域21に配設することができる。このような構成により、エンジンルーム1内での占有空間が比較的大きくなるエアクリーナ5、バッテリ15の配置を考慮しつつ、後述するように衝突時におけるセジメンタユニット12の保護が可能となる。
【0030】
次に、本実施形態ではエンジンルーム1内の、エンジン3の吸気側32の領域22に、車体前方からバッテリ15、セジメンタユニット12、真空倍力装置11を順次車体前後方向に配設した構成としている。また、エンジンルーム1内の、エンジン3の排気側31の領域21に、エンジン3の排気側31の側部に取付けられたターボ過給機4と、エアクリーナ5と、を配設した構成としている。このように構成することで、エンジンルーム1内のこれらの補機類を合理的に配置できると共に、後述するように前突時におけるセジメンタユニット12の保護を実現できる。
【0031】
次に、セジメンタユニット12及びプロテクタ部材13とについて説明する。図2(a)はセジメンタユニット12及びプロテクタ部材13の一部破断正面図(車体前方から見た図)、図2(b)はセジメンタユニット12及びプロテクタ部材13の一部破断側面図(エンジン3側から見た図)、である。まず、セジメンタユニット12について説明する。
【0032】
セジメンタユニット12は胴部121と、胴部121の上部に設けられたプライミングポンプ122と、胴部121の下部に設けられた水抜き用のドレーン123と、を備える。胴部121には燃料をろ過するろ材等が収納されており、導入管124aから導入される燃料はろ過された後、排出管124bから排出される。プライミングポンプ122は燃料切れが生じた場合に手動でその上部のボタンを押すことによりエンジン3へ燃料を送り込むためのものである。
【0033】
ドレーン123は燃料から分離されて胴部121内に貯留された水分を排出するためのものである。本実施形態では、セジメンタユニット12が真空倍力装置11の前方に配設されており、不図示のボンネットを開けることで簡単に手の届く位置にある。従って、これらのプライミングポンプ122による燃料の供給作業や、水抜き作業の作業性が確保される。
【0034】
セジメンタユニット12は、胴部121の上方において、その車幅方向の側部に取付部125が設けられており、L字型のブラケット16を介してプロテクタ部材13に取付けられている。セジメンタユニット12は、その胴部121がこれを取り囲むプロテクタ部材13と空隙Sを有するようにプロテクタ部材13に取付けられており、本実施形態では、セジメンタユニット12はこの取付部12のみでプロテクタ部材13に取付けられ、支持されている。
【0035】
次に、プロテクタ部材13及びその車体への取付構造について上記の図2(a)及び(b)並びに図3を参照して説明する。図3はプロテクタ部材13及びその取付部品の分解斜視図である。プロテクタ部材13は全体として略円筒状をなしており、ブラケット17及び18を介して車体に固定され、本実施形態ではホイールハウス2b上に固定される。プロテクタ部材13の上部にはブラケット16及びブラケット17との取付部13aが形成されている。また、プロテクタ部材13の下部にはブラケット17との取付部13bが形成されている。
【0036】
ブラケット17は、その上部に取付軸17aを備えており、この取付軸17aにプロテクタ部材13の取付部13aの穴13a’及びブラケット16の穴16aが差し込まれ、取付軸17aの上端部から留め具17a’(図2(a)参照。)をはめ込むことで、ブラケット16及び17並びにプロテクタ部材13が相互に固定される。ブラケット17の下部には穴17b’を有する取付部17bが形成されており、この取付部17bはプロテクタ部材13の取付部13bと重ねられ、穴17b’、13b’にボルトを挿通して取付部13bと固定される。従って、プロテクタ部材13は取付部13aと取付部13bとにおいてブラケット17に支持される。
【0037】
ブラケット17の下部で車幅方向の側方(外方)には、また、穴17c’を有する固定部17cが形成されており、この固定部17cはブラケット18に取り付けられる。セジメンタユニット12及びプロテクタ部材13の車載時において、ブラケット18はプロテクタ部材13の車幅方向側方に位置することになる。ブラケット18はホイールハウス2b上にこれを固定するための穴18aと、プロテクタ部材13を車体に固定するための固定用穴18bと、を備え、穴18aと固定用穴18bとは相互に車幅方向に位置している。ブラケット18は図2(a)に示すように穴18aにボルトを挿通してホイールハウス2b上に固定される。
【0038】
固定用穴18bは車体前後方向に延びる長穴状に形成されており、ブラケット17の固定部17cの穴17c’とこの固定用穴18bとにボルトを挿通して締結することで、ブラケット17とブラケット18とが固定され、つまり、ブラケット17及び18を介してプロテクタ部材13がホイールハウス2b上に固定されることになる。なお、固定用穴18bは長穴状であるため、ボルトをその前端部から後端部の範囲で差込み、締結することができるが、その後端部にボルトが差し込まれ、締結する。
【0039】
ブラケット17の下部で車体後方には、また、プロテクタ部材13を車体に固定するための固定用穴17d’を有する固定部17dが形成されており、この固定部17dはホイールハウス2bに取り付けられる。
【0040】
固定用穴17d’も、固定用穴18bと同様に、車体前後方向に延びる長穴状に形成されており、固定用穴17b’にボルトを挿通して締結することで、ブラケット17を介してプロテクタ部材13がホイールハウス2b上に固定されることになる。なお、固定用穴17b’も長穴状であるため、ボルトをその前端部から後端部の範囲で差込み、締結することができるが、図2(b)に示すようにその後端部にボルトが差し込まれ、締結する。また、本実施形態の場合、固定用穴17b’と18bの車体前後方向の長さは略同じである。
【0041】
このように本実施形態では、プロテクタ部材13はブラケット17の固定部17c及び17dとにおいてホイールハウス2b上に固定されており、つまり、
セジメンタユニット12及びプロテクタ部材13の車載時において、セジメンタユニット12の車幅方向側方の下部と、車体後方の下部と、において車体に固定されている。
【0042】
次に、係る構成からなる車体前部構造Aの前突時における作用について説明する。本実施形態ではプロテクタ部材13を車体に固定するための固定用穴17d’及び18bが車体前後方向に延びる長穴状に形成されている。従って、前突時にプロテクタ部材13に何らかの部品等が衝突して車体後方への衝撃が作用した場合に、プロテクタ部材13及びセジメンタユニット12が搭載されたブラケット17が車体に対して相対的に車体後方へ移動し、つまり、ブラケット17と共に、プロテクタ部材13及びセジメンタユニット12が車体後方へ移動する。このため、セジメンタユニット12への衝撃を緩衝してその損傷を効果的に防止できる。セジメンタユニット12の胴部121とプロテクタ部材13との間には空隙Sが存在するので、プロテクタ部材13が緩衝材となって、より一層セジメンタユニット12の損傷を防止できる。
【0043】
ここで、固定用穴17d’及び18bは長穴状に形成されているので、ブラケット17の後方への移動は固定用穴17d’及び18bの長さの範囲に限られる。従って、セジメンタユニット12の後方に配設された真空倍力装置11に衝突することはなく、セジメンタユニット12と真空倍力装置11との双方を前突時の衝撃から保護できる。更に、セジメンタユニット12は真空倍力装置11の前方に配設されるので、そのメンテナンス等の作業性も維持される。
【0044】
プロテクタ部材13及びセジメンタユニット12の後方移動スペースを確保するため、本実施形態ではセジメンタユニット12と真空倍力装置11との間を離間しているが、上述した通り、セジメンタユニット12と真空倍力装置11との空間は配管・配線スペースとして活用できるのでエンジンルーム1内に密に各種部品を配置するレイアウトの採用を妨げることもない。
【0045】
また、本実施形態では上述した通り、プロテクタ部材13はセジメンタユニット12の車幅方向側方の下部(固定部17c)と、車体後方の下部(固定部17d)と、において車体に固定されている。車体後方の下部(固定部17d)においてプロテクタ部材13を車体に固定することで、セジメンタユニット12の車体後方への倒れ込みを防止することができると共に、固定部17c及び17dがプロテクタ部材13の真後ろに存在しないので、車体後方への移動スペースを確保することができる。
【0046】
また、車幅方向側方の下部(固定部17c)における固定では、プロテクタ部材13の車幅方向側方に設けられたブラケット18を介して車体に固定されているため、当該ブラケット(18)が車体前後方向に設けられた場合に比べて、プロテクタ部材13とセジメンタユニット12とが固定用穴17d’及び18bの長さの範囲で移動した後、ブラケット18の撓みによりセジメンタユニット12をより効果的に保護することができる。
【0047】
つまり、本実施形態ではセジメンタユニット12は固定用穴17d’及び18bの長さの範囲でのみ移動し、いずれ移動は停止するが、固定部17c(或いは固定部17d)がセジメンタユニット12の真後ろに存在すると停止時の衝撃が大きくなる可能性がある。本実施形態では、固定部17c及びブラケット18をセジメンタユニット17の後方移動線上に設けずに側方に設けることで、ブラケット18の撓みを利用して後方移動停止時の衝撃を緩衝できる。
【0048】
更に、セジメンタユニット17はその車幅方向の側部の取付部125でのみプロテクタ部材13に支持されているので、この取付部125が車体前後方向の側部に設けられた場合よりも、プロテクタ部材13を介してセジメンタユニット12へ入力される前突時の衝撃をセジメンタユニット12の中心からかわすことができ、セジメンタユニット12への衝撃を緩衝することができる。
【0049】
なお、本実施形態では長穴状の固定用穴17d’及び18bを、それぞれ、ブラケット(17)−ブラケット(18)間、ブラケット(17)−車体間、の固定に用いているが、例えば、ブラケット−プロテクタ部材間の固定に用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係る車体前部構造Aを示す平面図である。
【図2】(a)はセジメンタユニット12及びプロテクタ部材13の一部破断正面図(車体前方から見た図)、(b)はセジメンタユニット12及びプロテクタ部材13の一部破断側面図(エンジン3側から見た図)、である。
【図3】プロテクタ部材13及びその取付部品の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
A 車体前部構造
1 エンジンルーム
3 エンジン
4 過給機
5 エアクリーナ
11 真空倍力装置
12 セジメンタユニット
122 プライミングポンプ
13 プロテクタ部材
15 バッテリ
17d’、18b 固定用穴
141a 金属管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部に形成されたエンジンルーム内の後方側部に配設された、ブレーキの真空倍力装置と、前記真空倍力装置の前方に配設された燃料系フィルタ装置と、車体に固定され、前記燃料系フィルタ装置が収納されるプロテクタ部材と、を有する車体前部構造において、
前記真空倍力装置と前記プロテクタ部材との間に、配管・配線スペースが形成されるように両者を離間して配設し、
前記プロテクタ部材を車体に固定するための固定用穴を車体前後方向に延びる長穴状に形成し、前記プロテクタ部材に車体後方への衝撃が作用した場合に、前記プロテクタ部材が前記固定用穴の長さの範囲で車体後方へ移動可能としたことを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記燃料系フィルタ装置が、プライミングポンプを有するセジメンタユニットであることを特徴とする請求項1に記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記セジメンタユニットの前方に、エアクリーナ又はバッテリの一方を配設し、
前記エンジンルーム内の、エンジンを挟んだ前記セジメンタユニットの配設領域と反対側の領域に前記エアクリーナ又は前記バッテリの他方を配設したことを特徴とする請求項2に記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記エンジンが縦置きで搭載されるクロスフローエンジンであり、
前記エンジンルーム内の、前記エンジンの吸気側の領域に、車体前方からバッテリ、前記セジメンタユニット、前記真空倍力装置を順次車体前後方向に配設し、
前記エンジンルーム内の、前記エンジンの排気側の領域に、前記エンジンの排気側の側部に取付けられたターボ過給機と、エアクリーナと、を配設したことを特徴とする請求項2又は3に記載の車体前部構造。
【請求項5】
前記プロテクタ部材は、
その車幅方向側方に設けられたブラケットを介して前記車体に固定され、
前記セジメンタユニットは、
その胴部が前記プロテクタ部材と空隙を有するように前記プロテクタ部材に取付けられる取付部を有し、
該取付部は、前記セジメンタユニットの車幅方向の側部にのみ設けられたことを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の車体前部構造。
【請求項6】
前記プロテクタ部材は、
前記セジメンタユニットの車幅方向側方の下部と、車体後方の下部と、において前記車体に固定されていることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の車体前部構造。
【請求項7】
前記配管・配線スペースを通過する配管は、前記セジメンタユニットの後方の部分に金属管が設けられた可撓性管であることを特徴とする請求項2乃至6のいずれかに記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−199102(P2006−199102A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11729(P2005−11729)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】