説明

車体前部構造

【課題】 ダッシュボードを前方にずらして車室の居住空間を増大させ、車体前方からフロントサイドフレームに作用した衝突エネルギーをフロントピラーに効率良く分散させ、フロントダンパハウジングを補強する。
【解決手段】 車体10の前部は、ダンパハウジング50の後部57に隣接させたダッシュボード70の上端部を、車体後方へ膨出させ、その上部膨出部74にて後部補強部材90の上部を一定の間隔を有して覆い、上部膨出部74をアッパメンバ40及びダンパハウジングに接合し、後部補強部材及び上部膨出部の組合せ構造が、サイドフレーム30からフロントピラー20に向かって、アッパメンバまで延びる閉断面体95を構成するようにした構成である。後部補強部材は、ダッシュボードより前下方の下部接合部54から、ダッシュボードより後上方の上部膨出部の内部を通って、アッパメンバまで延び、しかも車体の正面視、平面視、側面視の全てにおいて略直線状である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前方から作用した衝突エネルギーを車体前部で分散するようにした、車体前部構造の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車体は、車体前部の左右両側に、車体前後に延ばした左右のフロントサイドフレームを備える。近年、このような車体前部構造において、車体前方からフロントサイドフレームに作用した衝突エネルギーを、フロントピラーに分散させることにより、フロントサイドフレームの後端部が受ける負担を軽減するようにした技術が開発されてきた(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−182633公報(図1−2)
【0003】
特許文献1に示す従来の車体前部構造の概要を、次の図8に基づいて説明する。図8(a),(b)は従来の車体前部構造の概要図であり、(a)は車体前部の右半分を車幅中央側から見た構成を示し、(b)は車体前部の右半分を上から見た構成を示す。
【0004】
従来の車体100は、車体前部の左右両側で左右のフロントサイドフレーム101(右側だけを示す。以下同じ。)を車体前後に延ばし、フロントサイドフレーム101の車幅方向外側で且つ上側で左右のフロントアッパメンバ102を車体前後に延ばし、フロントアッパメンバ102の後端部に左右のフロントピラー103を接合し、一方、左右のフロントサイドフレーム101と左右のフロントアッパメンバ102との間に左右のフロントダンパハウジング104を掛け渡し、フロントサイドフレーム101とフロントダンパハウジング104との接合部105から後上方へ、フロントダンパハウジング104に沿わせて左右のガセット106を延ばし、その後端部107を左右のフロントアッパメンバ102の後端部108に接合したというものである。
【0005】
左右のガセット106は、左右のフロントダンパハウジング104にスパイラル状に巻き付けることで、フロントダンパハウジング104を補強することができる。
車体前方からフロントサイドフレーム101に作用した衝突エネルギーE20は、フロントサイドフレーム101の後端部109に伝わる衝突エネルギーE21と、ガセット106及びフロントアッパメンバ102を介してフロントピラー103に伝わる衝突エネルギーE22とに分散する。この結果、フロントサイドフレーム101の後端部109に伝わる衝突エネルギーE21を低減させることができる。
【0006】
このような従来の車体100によれば、フロントダンパハウジング104を補強するとともに、衝突エネルギーE20をフロントピラー103に分散させることはできる。しかしながら、ガセット106は、フロントダンパハウジング104にスパイラル状に巻き付けられた、湾曲した構成である。車体前方からの衝突エネルギーE20を、湾曲したガセット106によって分散させるのであるから、フロントピラー103側へ効率良く分散させるには改良の余地がある。
【0007】
また、一般に車体100は、車体前部を図示せぬダッシュボードにて前部のエンジンルーム111と後部の車室112とに仕切られている。近年は乗員の居住快適性が求められるので、車室112の居住空間を増す傾向にある。居住空間を増すためには、ダッシュボードをできるだけ前方へ設けることになる。この結果、ダッシュボードとフロントダンパハウジング104との間のスペースは、極めて小さくならざるを得ない。このスペースが無い場合や小さい場合には、ガセット106を設けることができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、(1)前部のエンジンルームと後部の車室とを仕切るダッシュボードを前方にずらすことで、車室の居住空間を増大させることができ、(2)車体前方からフロントサイドフレームに作用した衝突エネルギーを、フロントピラーに効率良く分散させることができるとともに、フロントダンパハウジングを補強することができる技術を、提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、車体の前部の左右両側で車体前後に延びた左右のフロントサイドフレームと、これらのフロントサイドフレームの車幅方向外側で且つ上側で車体前後に延びた左右のフロントアッパメンバと、これらのフロントアッパメンバの後端部に接合した左右のフロントピラーと、左右のフロントサイドフレームと左右のフロントアッパメンバとの間に掛け渡した左右のフロントダンパハウジングと、これらのフロントダンパハウジングの後方で車体前部を前部のエンジンルームと後部の車室とに仕切ったダッシュボードと、を備えた車体前部構造において、
車体が、左右のフロントサイドフレームに左右のフロントダンパハウジングを接合する各接合部と、左右のフロントアッパメンバと、の間に掛け渡した左右の補強部材を備え、
これらの補強部材が、左右のフロントダンパハウジングの後部に沿うとともに接合し、
ダッシュボードが、左右のフロントダンパハウジングの後部に隣接し、
ダッシュボードの上端部が車体後方へ膨出し、その膨出部にて左右の補強部材の上部を一定の間隔を有して覆い、
膨出部が、左右のフロントアッパメンバ及び左右のフロントダンパハウジングに接合し、
左右の補強部材及び左右の膨出部の組合せ構造が、左右の接合部から左右のフロントピラーに向かって、左右のフロントアッパメンバまで延びる、左右の閉断面体を構成し、
これらの閉断面体が、車体の正面視、平面視及び側面視の全てにおいて略直線状の部材であることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、左右の補強部材が、左右のフロントダンパハウジングの内部に設けた左右の第1補強部と、これらの第1補強部に左右のフロントダンパハウジングの側板を介して対向してフロントダンパハウジングの外部に設けた左右の第2補強部とからなり、これらの第2補強部が、左右の接合部の位置で、左右のフロントサイドフレームの上部と、左右のフロントダンパハウジングの車幅中央側の側部とを、繋ぐガセットであることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、左右の第1補強部が、左右のフロントサイドフレーム側の板材製の補強下半部と、左右のフロントアッパメンバ側の板材製の補強上半部とからなり、この補強上半部の板厚が、補強下半部の板厚及び板材からなる第2補強部の板厚よりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、フロントサイドフレームにフロントダンパハウジングを接合する接合部とフロントアッパメンバとの間に、補強部材を掛け渡し、この補強部材をフロントダンパハウジングの後部に沿わせるとともに接合したので、フロントダンパハウジングを十分に補強することができる。
【0013】
さらに請求項1に係る発明では、フロントダンパハウジングの後部に隣接させたダッシュボードの上端部を車体後方へ膨出させ、その膨出部にて補強部材の上部を一定の間隔を有して覆い、膨出部をフロントアッパメンバ及びフロントダンパハウジングに接合することで、補強部材及び膨出部の組合せ構造が、接合部からフロントピラーに向かって、フロントアッパメンバまで延びる閉断面体を構成するようにしたものである。
このようにすることで、ダッシュボードの一部である膨出部は、補強部材と組み合わせることによって、補強メンバである閉断面体を構成することができる。この結果、膨出部は閉断面体の一部を兼ねることができる。
【0014】
すなわち、フロントサイドフレームにフロントダンパハウジングを接合した接合部は、ダッシュボードよりも前方にある。一方、膨出部はダッシュボードの上端部から後方へ膨出した部分である。ダッシュボードより前下方の接合部に下端部を接合した補強部材を、ダッシュボードより後上方の膨出部の内部まで延ばすようにしたので、ダッシュボードを、フロントダンパハウジングの後部に隣接させたにもかかわらず、フロントダンパハウジングの後部で、フロントサイドフレームとフロントアッパメンバとの間に補強部材を掛け渡すことができる。
【0015】
従って、(1)車体前方からフロントサイドフレームに作用した衝突エネルギーを、補強部材及びフロントアッパメンバを介して、フロントピラーに分散させることができるとともに、(2)フロントダンパハウジングを補強部材にて補強することができる。しかも、(3)前部のエンジンルームと後部の車室とを仕切るためのダッシュボードを、フロントダンパハウジングの後部に隣接させたので、ダッシュボードを前方にずらすことができる。この結果、車室の居住空間を増大させることができる。
【0016】
さらに請求項1に係る発明では、閉断面体を、車体の正面視、平面視及び側面視の全てにおいて略直線状の部材としたので、車体前方からフロントサイドフレームに衝突エネルギーが作用したとき、この衝突エネルギーを、フロントサイドフレームから略直線状の閉断面体を介して、フロントピラーに効率良く伝えることができる。従って、衝突エネルギーをフロントピラーに効率良く分散させることができる。
【0017】
請求項2に係る発明では、補強部材を、フロントダンパハウジングの内部に設けた第1補強部と、第1補強部にフロントダンパハウジングの側板を介して対向してフロントダンパハウジングの外部に設けた第2補強部との、2つの部材で構成し、さらに第2補強部を、前記接合部の位置で、フロントサイドフレームの上部とフロントダンパハウジングの車幅中央側の側部とを繋ぐガセットにて構成したものである。
補強部材は、ダッシュボードより前下方の接合部から、ダッシュボードより後上方の膨出部の内部を通って、フロントアッパメンバまで延び、しかも車体の正面視、平面視及び側面視の全てにおいて略直線状、すなわち三次元的に略直線状である。請求項2に係る発明によれば、このような補強部材を、第1補強部と第2補強部との組合せ構造によって、簡単な構成にすることができる。
【0018】
請求項3に係る発明では、第1補強部を、フロントアッパメンバ側の補強上半部とフロントサイドフレーム側の補強下半部とで構成し、補強上半部の板厚を、補強下半部の板厚及び第2補強部の板厚よりも小さくしたので、補強上半部の強度を補強下半部及び第2補強部の強度よりも小さくすることができる。従って、車体前方からフロントサイドフレームに作用した衝突エネルギーのうち、フロントサイドフレームからフロントピラーに分散させる衝突エネルギーの割合が最適になるように、補強部材の強度を適宜設定することができる。このため、車体設計の自由度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」は運転者から見た方向に従い、Frは前側、Rrは後側、Lは左側、Rは右側、CLは車幅中心(車体中心)を示す。
【0020】
図1は本発明に係る車体前部の左側面図であり、車体前部の要部を示す。図2は本発明に係る車体前部の平面図であり、車体前部の左半分の要部を示す。図3は本発明に係る車体前部の左半分を左上方から見た斜視図であり、フロントアッパメンバ及びフロントピラーを省略して示す。図4は本発明に係る車体前部の左半分を車体中心側の前上方から見た斜視図である。
【0021】
なお、図面では車体前部の左半分だけを示し、車体前部の右半分については、車体前部の左半分と同じ構成なので説明を省略する。以下に示す各部材同士の接合については、例えばスポット溶接等の溶接による。
【0022】
図1及び図2に示すように、自動車等の車両における車体10(すなわち、車体フレーム10)は、左右両側で車体前後に延びた左右のサイドシル11(左のみを示す。以下同じ。)と、これらのサイドシル11の前端部から上方へ延びた左右のフロントピラー20と、車体前部の左右両側で車体前後に延びた左右のフロントサイドフレーム30と、これらのフロントサイドフレーム30の車幅方向外側で且つ上側で車体前後に延びた左右のフロントアッパメンバ40と、左右のフロントサイドフレーム30と左右のフロントアッパメンバ40との間に掛け渡した左右のフロントダンパハウジング50と、これらのフロントダンパハウジング50に連なる左右のホイールハウス60と、これらのフロントダンパハウジング50並びにホイールハウス60の後方に配置したダッシュボード70と、を備えたモノコックボディである。
【0023】
以下、フロントサイドフレーム30のことを「サイドフレーム30」、フロントアッパメンバ40のことを「アッパメンバ40」、フロントダンパハウジング50のことを「ダンパハウジング50」と、それぞれ言うことにする。
【0024】
図1に示すように左のフロントピラー20は、サイドシル11側の下半部のピラーロア21(「サイドパネル21」とも言う。)と、ルーフ側の上半部のピラーアッパ22とからなる。このようなフロントピラー20は、ピラーロア21及びピラーアッパ22の各分割品を一体に接合した組合せ品、又はピラーロア21及びピラーアッパ22を一体に成形した一体成形品からなる。
【0025】
左のサイドフレーム30は、後端部31が後下方へ傾斜し、その更に後端が図示せぬフロアフレームに接合した、略矩形状断面を呈する閉断面体である。フロアフレームは、車体前後に延びてフロアパネルを支える部材である。
【0026】
左のアッパメンバ40は、後端部41をピラーロア21の上端部21a及びピラーアッパ22の下端部22aに接合した、略矩形状断面を呈する閉断面体であって、上・下端部21a,22aからホイールハウス60の上を超えて前下方へ傾きつつ延びた部材である。なお、アッパメンバ40は略水平な部材であってもよい。
【0027】
左のダンパハウジング50は、図示せぬフロントサスペンションにおけるコイルばねを支持する部材であって、図2及び図3に示すように、前面51aと車幅方向内側の側面51bの2面を囲う平面視略L字状の側板51と、側板51の上に被せた上板52とからなる、板材のプレス成形品である。
【0028】
さらに図3及び図4に示すように、ダンパハウジング50は、側板51の下端を、サイドフレーム30の上部に且つ車幅方向内側に接合するとともに、車幅方向外側の側部フランジ53,53(図3及び図4参照)を、アッパメンバ40における車幅方向の内側面42(車幅中央側の側部)及びダッシュボード70に接合した構成である。以下、サイドフレーム30にダンパハウジング50を接合した接合部54のことを「下部接合部54」と言い、アッパメンバ40にダンパハウジング50を接合した接合部55のことを「上部接合部55」と言う。
さらに図3に示すように、ダンパハウジング50は、側板51の前面51aから車体前方へ、ホイールハウス60の輪郭の沿った形状の延長部56を延ばし、この延長部56にホイールハウス60の前半部分61の後端を重ねて接合したものである。
【0029】
図1及び図3に示すように、ダッシュボード70は、ダンパハウジング50並びにホイールハウス60の後方で、車体10の前部を、前部のエンジンルーム12と後部の車室13とに仕切る仕切り板である。このようなダッシュボード70は、板材のプレス成形品である。より詳しく説明すると、ダッシュボード70は、サイドシル11の前部から前上方へ傾斜しつつ延びた後に略鉛直に起立した縦板であって、少なくとも上端部が左右のダンパハウジング50の後部に隣接したものである。
【0030】
このようなダッシュボード70は、図3に示すように、左右両端に側部フランジ71を備えるとともに、上端に上部フランジ72を備え、さらに左右両端の下端部を車体後方へ膨出させることで、左右の膨出部73(以下、「下部膨出部73」と言う。)を備えるとともに、左右両端の上端部を車体後方へ膨出させることで、左右の膨出部74(以下、「上部膨出部74」と言う。)を備える。
【0031】
ところで、下部膨出部73及び上部膨出部74は、板材を車体後方へ凸となるように成形することによって、車体後方へ膨出させた部分である。当然のことながら、下部膨出部73裏側、すなわち車体前側には空間部Sp1を有し、また、上部膨出部74の裏側、すなわち車体前側には空間部Sp2を有することになる。
【0032】
下部膨出部73は、下側を開放するとともに車幅方向外側を開放した湾曲状を呈することで、ホイールハウス60の後半部分を兼ねる。
上部膨出部74は、下側を開放するとともに車幅方向外側を開放した湾曲状を呈し、下部膨出部73に連なって開放するとともに、上部フランジ72にも連なる。このような上部膨出部74は、図2に示すように上から見たときに、車幅方向外側から車幅中心側へ先細り状となる形状を呈する。
【0033】
以上の構成からなる車体10は、図2に示すように、左右のダンパハウジング50における側板51の前面51aに沿うように設けた前側左右の補強部材80(以下、「前部補強部材80」と言う。)と、左右のダンパハウジング50の後部57に沿うように設けた後側左右の補強部材90(以下、「後部補強部材90」と言う。)とを備えたことを特徴とする。
これら左右の前部・後部補強部材80,90は、左右のサイドフレーム30と左右のアッパメンバ40との間に掛け渡した部材である。以下、前部・後部補強部材80,90を詳細に説明する。
【0034】
左の前部補強部材80の全体構成は、図3及び図4に示すように車幅方向から(側方から)見たとき、略上下逆L字状断面体であり、ダンパハウジング50の前面51aから前方へ延びる横板部81と、横板部81の前端からホイールハウス60へ向かって延びる縦板部82とからなる。
前部補強部材80はダンパハウジング50の前面51a及び延長部56の上面に沿わせ、且つ、これらの面に側部フランジ83,83を接合することにより、ダンパハウジング50及びホイールハウス60と組み合わせて、側面視略四角形断面の閉断面体87を構成するものである。
【0035】
図5は図1の5−5線断面図であり、左の前部補強部材80の断面構造を示す。
このような前部補強部材80は、図4及び図5に示すように、サイドフレーム30側の補強下半部84と、アッパメンバ40側の補強上半部85とからなる、上下二分割体である。補強下半部84及び補強上半部85は、板材のプレス成形品である。
サイドフレーム30の上部に補強下半部84の下端部を接合し、補強下半部84の上端部に補強上半部85の下端部を重ねて接合し、補強上半部85の上端部の上部フランジ86をアッパメンバ40の上部(内側面42)に接合することで、サイドフレーム30とアッパメンバ40とに掛け渡すことができる。
【0036】
次に、左の後部補強部材90の詳細な構成を説明する。図6は図1の6−6線断面図であり、後部補強部材90の断面構造を示す。
図1、図2及び図6に示すように、左の後部補強部材90は、下部接合部54とアッパメンバ40との間に掛け渡した部材であり、ダンパハウジング50の内部に設けた第1補強部91と、ダンパハウジング50の外部に設けた第2補強部99とからなる。
【0037】
詳しく述べると、後部補強部材90は、ダッシュボード70よりも前部で下部接合部54に接合するとともに、この部分から車幅方向外側へ且つ後上方へ延び、その上端部を上部膨出部74の内部まで延ばし、その先端をアッパメンバ40における車幅方向の内側面42(図4及び図6参照)に接合したものである。このような後部補強部材90は、ダンパハウジング50の後部57に沿わせるとともに接合したものである。
【0038】
図3に示すように、第1補強部91の全体構成は、車幅方向から見たときに略L字状断面体であり、下部膨出部73と上部膨出部74との境界付近で前後に延びる横板部92と、横板部92の前端からダンパハウジング50の後部57に沿って延びる縦板部93とからなる。横板部92は、下部膨出部73の側方において、開放された円弧状の縁75の延長上に配置されることになる。
【0039】
第1補強部91はダンパハウジング50の後部57(後面)及び下部膨出部73の内面に沿わせ、且つ、側板51の内面及び下部膨出部73の内面に側部フランジ94,94を接合することにより、ダンパハウジング50、ダッシュボード70及び上部膨出部74と組み合わせて、側面視略四角形断面の閉断面体95を構成するものである(図1、図2も参照)。縦板部93は、ダンパハウジング50の後部57における側板を兼ねる。
【0040】
このような第1補強部91は、図3及び図6に示すように、サイドフレーム30側の補強下半部96と、アッパメンバ40側の補強上半部97とからなる、上下二分割体である。
下部接合部54に補強下半部96の下端部を接合し、補強下半部96の上端部に補強上半部97の下端部を重ねて接合し、補強上半部97の上端部のフランジ98をアッパメンバ40の下部に接合することで、サイドフレーム30とアッパメンバ40とに掛け渡すことができる。より詳しくは、サイドフレーム30の上端のフランジに、内側からダンパハウジング50の側板51の下端部及び補強下半部96の下端部を重ねて接合した。また、アッパメンバ40の下端のフランジに、内側から補強上半部97の上端部の上部フランジ98を重ねて接合した。
【0041】
図6に示すように、第2補強部99は、第1補強部91に対しダンパハウジング50の側板51を介して対向する位置に設けた部材であって、下部接合部54の位置で、サイドフレーム30の上部と、側板51における車幅方向内側の側面51bとを、繋ぐガセットである(図1、図2、図4も参照)。
【0042】
図6に示すように補強下半部96、補強上半部97及び第2補強部99は板材製、すなわち板材のプレス成形品である。補強上半部97の板厚t1は、補強下半部96の板厚t2及び第2補強部99の板厚t3よりも小さい(t1<t2,t1<t3)。例えば、t1=1.2mm、t2=1.6mm、t3=1.6mmである。
【0043】
ところで、図1及び図3に示すように、ダッシュボード70において、側部フランジ71をアッパメンバ40に接合するとともに、上部フランジ72をダンパハウジング50に接合することで、上部膨出部74はアッパメンバ40及びダンパハウジング50に接合されることになる。
上部膨出部74は、後部補強部材90の上部を一定の間隔を有して、すなわち、一定の大きさの空間Sp2を有して覆った構成である。
【0044】
上部膨出部74及び後部補強部材90の組合せ構造は、下部接合部54からフロントピラー20に向かって、アッパメンバ40まで延びる、側面視略四角形断面の閉断面体95となる。このように、後部補強部材90及び閉断面体95は、下部接合部54からアッパメンバ40まで、車体10の正面視(図6参照)、平面視(図2参照)及び側面視(図1参照)の全てにおいて略直線状、すなわち三次元的に略直線状の部材である。
【0045】
言い換えると、下部接合部54からフロントピラー20に向かって、アッパメンバ40まで延びる補強ラインをLsとしたときに、この補強ラインLsは図1に示す側面視、図2に示す平面視、及び図6に示す正面視の全てにおいて、直線である。後部補強部材90及び閉断面体95は、直線からなる補強ラインLsに沿って、すなわち補強ラインLs上を通って、下部接合部54からアッパメンバ40まで延びる。
【0046】
なお、アッパメンバ40の断面形状は、図4に示す車体前部側の断面形状から、図6に示す後部補強部材90を接合する部分の断面形状に、長手途中で変わっている。
【0047】
次に、上記構成の車体前部構造の作用を説明する。
図7(a),(b)は本発明に係る車体前部の作用図であり、(a)は車体前部を左側方から見て上記図1に対応させて表し、(b)は車体前部を上から見て上記図2に対応させて表した。
図7に示すように、車体前方からサイドフレーム30に作用した衝突エネルギーE10は、サイドフレーム30の後端部31に伝わる衝突エネルギーE11と、略直線状の閉断面体95及びアッパメンバ40を介してフロントピラー20に伝わる衝突エネルギーE12とに分散する。この結果、サイドフレーム30の後端部31に伝わる衝突エネルギーE11を低減させることができる。
【0048】
図1に示すように、サイドフレーム30にダンパハウジング50を接合する下部接合部54とアッパメンバ40との間に、後部補強部材90を掛け渡し、この後部補強部材90をダンパハウジング50の後部に沿わせるとともに接合したので、ダンパハウジング50を十分に補強することができる。
さらには、ダンパハウジング50の前後を、前部補強部材80及び後部補強部材90で挟み込むようにして補強したので、ダンパハウジング50の剛性を、より一層高めることができる。
【0049】
さらには、ダンパハウジング50の後部に隣接させたダッシュボード70の上端部を、車体後方へ膨出させ、その上部膨出部74にて後部補強部材90の上部を一定の間隔を有して覆い、上部膨出部74をアッパメンバ40及びダンパハウジング50に接合し、後部補強部材90及び上部膨出部74の組合せ構造が、下部接合部54からフロントピラー20に向かって、アッパメンバ40まで延びる閉断面体95を構成するようにしたものである。
このようにすることで、ダッシュボード70の一部である上部膨出部74は、後部補強部材90と組み合わせることによって、補強メンバである閉断面体95を構成する。上部膨出部74は閉断面体95の一部を兼ねる。
【0050】
すなわち、図1及び図2に示すように、サイドフレーム30にダンパハウジング50を接合した下部接合部54は、ダッシュボード70よりも前方にある。一方、上部膨出部74はダッシュボード70の上端部から後方へ膨出した部分である。ダッシュボード70より前下方の下部接合部54に下端部を接合した後部補強部材90を、ダッシュボード70より後上方の上部膨出部74の内部まで延ばすようにしたので、ダッシュボード70を、左右のダンパハウジング50の後部に隣接させたにもかかわらず、ダンパハウジング50の後部で、サイドフレーム30とアッパメンバ40との間に後部補強部材90を掛け渡すことができる。
【0051】
従って、(1)車体10前方からフロントサイドフレームに作用した衝突エネルギーE10(図7参照)を、後部補強部材90及びアッパメンバ40を介して、フロントピラー20に分散させることができるとともに、(2)ダンパハウジング50を後部補強部材90にて補強することができる。しかも、(3)前部のエンジンルーム12と後部の車室13とを仕切るためのダッシュボード70を、左右のダンパハウジング50の後部57に隣接させたので、ダッシュボード70を前方にずらすことができる。この結果、車室13の居住空間を増大させることができる。
【0052】
さらには、図6及び図7に示すように閉断面体95を、下部接合部54からアッパメンバ40まで、車体10の正面視、平面視及び側面視の全てにおいて略直線状の部材としたので、車体10の前方からサイドフレーム30に衝突エネルギーE10が作用したとき、この衝突エネルギーE10を、サイドフレーム30から略直線状の閉断面体95及びアッパメンバ40を介して、フロントピラー20に効率良く伝えることができる。従って、衝突エネルギーE10をフロントピラー20に効率良く分散させることができる。
【0053】
このように、衝突エネルギーE10を、サイドフレーム30とフロントピラー20とに十分に分散させることができるので、衝突エネルギーE10を車体10前部で、より効率良く吸収できる。この結果、車室13側に作用する衝突エネルギーE10を、より一層緩和することができる。
【0054】
さらには、図6に示すように後部補強部材90を、ダンパハウジング50の内部に設けた第1補強部91と、第1補強部91にダンパハウジング50の側板51を介して対向してダンパハウジング50の外部に設けた第2補強部99との、2つの部材91,99で構成し、さらに第2補強部99を、下部接合部54の位置で、サイドフレーム30の上部とダンパハウジング50の車幅中央側の側部(側板51)とを繋ぐガセットにて構成したものである。
図1及び図2に示すように、後部補強部材90は、ダッシュボード70より前下方の下部接合部54から、ダッシュボード70より後上方の上部膨出部74の内部を通って、アッパメンバ40まで延び、しかも車体10の正面視、平面視及び側面視の全てにおいて略直線状、すなわち三次元的に略直線状である。
このような後部補強部材90を、第1補強部91と第2補強部99との組合せ構造によって、簡単な構成にすることができる。
【0055】
さらには、図6に示すように第1補強部91を、アッパメンバ40側の補強上半部97とサイドフレーム30側の補強下半部96とで構成し、補強上半部97の板厚t1を、補強下半部96の板厚t2及び第2補強部99の板厚t3よりも小さくしたので、補強上半部97の強度を補強下半部96及び第2補強部99の強度よりも小さくすることができる。従って、図7に示すように、車体10の前方からサイドフレーム30に作用した衝突エネルギーE10のうち、サイドフレーム30からフロントピラー20に分散させる衝突エネルギーE12の割合が最適になるように、後部補強部材90の強度を適宜設定することができる。このため、車体10の設計の自由度を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の車体前部構造は、車体10の前部の左右両側で車体前後に延びた左右のフロントサイドフレーム30と、これらのフロントサイドフレーム30の車幅方向外側で且つ上側で車体前後に延びた左右のフロントアッパメンバ40と、これらのフロントアッパメンバ40の後端部41に接合した左右のフロントピラー20と、左右のフロントサイドフレーム30と左右のフロントアッパメンバ40との間に掛け渡した左右のフロントダンパハウジング50と、これらのフロントダンパハウジング50の後方で車体前部を前部のエンジンルーム12と後部の車室13とに仕切ったダッシュボード70と、を備えた乗用車等の車両に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る車体前部の左側面図である。
【図2】本発明に係る車体前部の平面図である。
【図3】本発明に係る車体前部を左上方から見た斜視図である。
【図4】本発明に係る車体前部を車体中心側の上方から見た斜視図である。
【図5】図1の5−5線断面図である。
【図6】図1の6−6線断面図である。
【図7】本発明に係る車体前部の作用図である。
【図8】従来の車体前部構造の概要図である。
【符号の説明】
【0058】
10…車体、12…エンジンルーム、13…車室、20…フロントピラー、30…フロントサイドフレーム、40…フロントアッパメンバ、41…フロントアッパメンバの後端部、50…フロントダンパハウジング、51…フロントダンパハウジングの側板、54…フロントサイドフレームにフロントダンパハウジングを接合する接合部(下部接合部)、57…フロントダンパハウジングの後部、70…ダッシュボード、74…膨出部(上部膨出部)、90…補強部材(後部補強部材)、91…第1補強部、95…閉断面体、96…補強下半部、97…補強上半部、99…第2補強部(ガセット)、E10,E11,E12…衝突エネルギー、Ls…補強ライン、t1…補強上半部の板厚、t2…補強下半部の板厚、t3…第2補強部の板厚。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前部の左右両側で車体前後に延びた左右のフロントサイドフレームと、これらのフロントサイドフレームの車幅方向外側で且つ上側で車体前後に延びた左右のフロントアッパメンバと、これらのフロントアッパメンバの後端部に接合した左右のフロントピラーと、前記左右のフロントサイドフレームと前記左右のフロントアッパメンバとの間に掛け渡した左右のフロントダンパハウジングと、これらのフロントダンパハウジングの後方で車体前部を前部のエンジンルームと後部の車室とに仕切ったダッシュボードと、を備えた車体前部構造において、
前記車体は、前記左右のフロントサイドフレームに前記左右のフロントダンパハウジングを接合する各接合部と、前記左右のフロントアッパメンバと、の間に掛け渡した左右の補強部材を備え、
これらの補強部材は、前記左右のフロントダンパハウジングの後部に沿うとともに接合し、
前記ダッシュボードは、前記左右のフロントダンパハウジングの後部に隣接し、
前記ダッシュボードの上端部は車体後方へ膨出し、その膨出部にて前記左右の補強部材の上部を一定の間隔を有して覆い、
前記膨出部は、前記左右のフロントアッパメンバ及び前記左右のフロントダンパハウジングに接合し、
前記左右の補強部材及び前記左右の膨出部の組合せ構造は、前記左右の接合部から前記左右のフロントピラーに向かって、前記左右のフロントアッパメンバまで延びる、左右の閉断面体を構成し、
これらの閉断面体は、車体の正面視、平面視及び側面視の全てにおいて略直線状の部材であることを特徴とした車体前部構造。
【請求項2】
前記左右の補強部材は、前記左右のフロントダンパハウジングの内部に設けた左右の第1補強部と、これらの第1補強部に前記左右のフロントダンパハウジングの側板を介して対向してフロントダンパハウジングの外部に設けた左右の第2補強部とからなり、
これらの第2補強部は、前記左右の接合部の位置で、前記左右のフロントサイドフレームの上部と、前記左右のフロントダンパハウジングの車幅中央側の側部とを、繋ぐガセットであることを特徴とした請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記左右の第1補強部は、前記左右のフロントサイドフレーム側の板材製の補強下半部と、前記左右のフロントアッパメンバ側の板材製の補強上半部とからなり、この補強上半部の板厚は、前記補強下半部の板厚及び板材からなる前記第2補強部の板厚よりも小さいことを特徴とした請求項2記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−21590(P2006−21590A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200180(P2004−200180)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】