説明

車体長手部材の補強構造

【課題】重量増加を抑制しつつ必要な補強強度が得られる補強構造を提供すること。
【解決手段】本発明の車体長手部材の補強構造は、細長い中空部が内部に形成された閉断面構造の車体長手部材と、中空部内に配置された細長い補強部材と、を備え、補強部材が、合成樹脂材料で構成された第1部分と、少なくとも金属材料を含む第2部分と、を備え、補強部材は、車両の所定衝突状態において応力が集中する部位に第2部分が位置するように、発泡性接着剤で閉断面構造体に固定されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体長手部材の補強構造に関し、詳細には、細長い中空部が内部に形成された閉断面構造の車体長手部材の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のフレームは、フロントピラー、Bピラー、ルールサイドレール、サイトシル等の内部に細長い中空部が形成された閉断面構造の細長い部材(長手部材)を組み合わせることによって形成されている。
【0003】
これらの長手部材には、衝突等によって外部から応力が加わった際には、応力を吸収、あるいは分散等させて客室の変形を最小限に抑え、乗員の安全を図ることが求められている。このため長手部材は、用いられる場所によっては、内部の中空部に補強部材が取付けられた補強構造を有する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような補強構造としては、所謂「ハット」形状の断面を有する複数枚の金属製補強部材(レインフォースメント)を、長手部材を構成するアウタパネルとインナパネルの間に配置する構造が知られている。
【0005】
代表的な長手部材であるBピラーの横断面を図1に示す。この補強構造1では、アウタパネル2とインナパネル4の間に、アウタレインフォースメント6、ヒンジレインフォースメント8、インナレインフォースメント10が配置されている。この結果、この補強構造には、合計3枚の金属製補強部材(レインフォースメント)がアウタパネル2とインナパネル4の間に配置されるので、部品点数ならびに重量が大幅に増加してしまうという問題がある。
【0006】
さらに、組み立てに際しては、図2に示されているように、アウタパネル2にアウタレインフォースメント6およびヒンジレインフォースメント8が取付けられたアウタサブアセンブリ12と、インナパネル4にインナレインフォースメント10が取り付けられたインナサブアッセンブリ14とが、矢印方向Aに接合されて溶接される。このとき、アウタサブアセンブリ12とインナサブアッセンブリ14は、図1にxで示されるようにフランジのみで溶接されるため、断面剛性が低くなるという問題もある。
【0007】
本発明は、文献公知発明に係る先行技術ではない上記従来技術に基づいてなされたものである。
【0008】
本発明は、このような従来技術の問題を解決するためになされたものであり、重量増加を抑制しつつ必要な補強強度が得られる補強構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、
車体長手部材の補強構造であって、
細長い中空部が内部に形成された閉断面構造の車体長手部材と、
該中空部内に配置された細長い補強部材と、を備え、
該補強部材が、合成樹脂材料で構成された第1部分と、少なくとも金属材料を含む第2部分と、を備え、
前記補強部材は、車両の所定衝突状態において応力が集中する部位に前記第2部分が位置するように、発泡性接着剤で前記閉断面構造体に固定されている、
ことを特徴とする補強構造が提供される。
【0010】
このような構成によれば、補強部材の第1部分は合成樹脂材料で構成されているので軽量であり、また補強部材の第2部分は金属材料を含んでいるので、応力に対する強度、特に引っ張り強度が、第1部分より高くなる。そして、閉断面構造体の応力が集中する部位に、この第2部分が配置されるので、この部分において高い強度が得られる。一方、第2部分が合成樹脂で構成されていることにより、軽量化も達成される。この結果、重量増加を抑制しつつ必要な補強強度が得られる。
【0011】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記第2部分の両端に前記第1部分が配置されている。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記第2部分が、鋼材料と合成樹脂材料とを含む。
【0012】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記第2部分が、鋼材料のみで構成されている。
このような構成によれば、鋼材料は延性を有するため、引張りに対して破断することなく荷重を大きくすることができる。
【0013】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記第1部分が、断面略M字状の合成樹脂部材から構成され、
前記第2部分が、断面略M字状の合成樹脂部材と断面略M字状の鋼部材から構成されている。
【0014】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記第2部分を構成する断面略M字状の合成樹脂部材は、長手方向中央の車体内方側が切り欠かれることによって、長手方向中央の厚さが長手方向両端の厚さより小さく設定されている。
衝突時に引張応力が作用する車体内方側では、鋼部材によって必要十分な強度が確保されているので、引張応力に対して比較的弱い合成樹脂材料は、実質的には補強部材として作用しない。したがって、合成樹脂部材の長手方向中央の車体内方側部分を切り欠くことによって、衝突時の耐力を低下させることなく、さらなる軽量化を実現している。
【0015】
本発明の他の好ましい態様によれば、前記金属材料または鋼材料で形成された部分が、発泡性接着剤によって合成樹脂材料で構成された部分に連結固定されている。
本発明の他の好ましい態様によれば、前記閉断面構造体が、車両のBピラーであり、前記応力が集中する部位が、前記Bピラー上部の横断面積が減少する領域である。
【発明の効果】
【0016】
以上のような構成を有する本発明によれば、重量増加を抑制しつつ必要な補強強度が得られる補強構造が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。
図3は、本発明の第1実施態様の補強構造で使用される補強部材20の斜視図であり、図4は補強部材20の分解斜視図であり、図5は、補強部材20の取付位置を示す図面である。
【0018】
図5に示されているように、本実施形態の細長い補強部材20は、細長い中空部が内部に形成された閉断面構造体である自動車の車体のBピラーP内の中空部に取付けられ、側方からの衝突による衝撃を吸収する等の機能を有する。
【0019】
図3および図4に示されているように、補強部材20は細長い形状を有している。補強部材20は、横断面が略M字形状を有し合成樹脂材料で形成された補強部材本体22と、補強部材本体22と略等しい横断面形状を有し金属材料で形成されたリテーナ24とを備えている。
本実施形態の補強部材本体22を構成する合成樹脂材料としては、例えば、ガラス繊維あるいは炭素繊維で強化されたナイロン等が用いられ、リテーナ24を構成する金属材料としてはスチール(鋼)が用いられているが、これらに限定されるものではない。
【0020】
補強部材20は、補強部材本体22とリテーナ24の略M字形状の上方部分が、車両幅方向外方を向くように、車両のBピラー内に取付けられる。
【0021】
補強部材本体22のM字の両側部を構成する両脚部22aは、補強部材本体22の長手方向中央部付近が、下端側から円弧状に切り欠かれ、厚さが長手方向両端の厚さより小さくされている。
さらに、補強部材本体22のM字の中央部を構成する略UないしV字状22bも、補強部材本体22の長手方向中央部付近には存在していない。
補強部材本体22は、長手方向中央部付近が、平行に延びる2本のレール部分22cによって構成されている。換言すれば、補強部材本体22は、両端の断面略M字状部22dが、長手方向中央のレール部分22cによって連結されている構成を備えている。
【0022】
リテーナ24は、補強部材本体22のレール部分22cより若干長い長手方向寸法を有し、図3のVI−VI断面である図6に示されているように、レール部分22cに被せられることにより、補強部材本体22に組み付けられている。
本実施形態では、補強部材本体22の両端の断面略M字状部22dによって、補強部材20の第1部分が構成され、補強部材本体22のレール部分22cとリテーナ24によって、補強部材20の第2部分が構成されている。
【0023】
補強部材本体22とリテーナ24とは、接着剤によって、接合されている。接着剤は、補強部材本体22とリテーナ24の接触面の全面にわたって塗布されている。
また、補強部材本体22を成形する際、リテーナ24を成形型内の所定位置に配置し、この状態で補強部材本体22を成形することによって、リテーナ24を補強部材本体22と一体化させる構成でもよい。
【0024】
次に、補強部材20の取付位置について説明する。BピラーPの車幅方向の縦断面である図7に矢印Fで示されているような、衝突等によってBピラーPに車幅方向外方から車幅方向内方に向う力が加わると、BピラーPは内方に変形する。この際、図7にSで示さる断面形状が変化している部分は、応力が集中する高応力部位Hとなり、その周囲が低応力部位Lとなる。また、力は、車幅方向内方に向かう力であるから、BピラーPの車幅方向外方部位には圧縮応力が、車幅方向内方部位には引張応力が作用することになる。
本実施形態の補強部材20は、レール部分22cとリテーナ24によって構成される第2部分が高応力部位Hに位置するように、BピラーL内に配置されている。
【0025】
次に、補強部材20のBピラーPへの取付方法について説明する。図8は、BピラーPの中空部内に取付けられた補強部材20の長手方向中央部すなわちリテーナが取付けられている部分の模式的な横断面図であり、図9は長手方向両端部すなわちリテーナが取付けられていない部分の模式的な横断面図である。
【0026】
本実施形態では、BピラーPのBピラーアウタ26の内側に、Bピラーレインフォースメント28が配置され、Bピラーレインフォースメント28とBピラーインナ30との間に補強部材20が配置されている。
Bピラーレインフォースメント28は、左右のフランジが、Bピラーアウタ26の左右のフランジとBピラーインナ30の左右のフランジとの間に挟持されることによって、BピラーPに取付けられている。
【0027】
図8から明らかなように、補強部材20の長手方向中央部では、補強部材本体22のレール部に被せられたリテーナ24の上面とBピラーレインフォースメント28の下面との間、およびリテーナ24の中央の略UないしV字状部の底部下面とBピラーインナ30の上面との間のそれぞれを発泡性接着剤32で接着することによって、補強部材20がBピラーPの中空部材内に固定されている。
【0028】
さらに、図9から明らかなように、補強部材20の両端部では、補強部材本体22の上面および左右両側面とBピラーレインフォースメント28の下面との間、および補強部材本体22の中央の略UないしV字状部の底部下面とBピラーインナ30の上面との間のそれぞれを発泡性接着剤32で接着することによって、補強部材20がBピラーPの中空部材内に固定されている。
【0029】
発泡性接着剤32は、ホワイトボディへの焼き付け塗装時の熱によって発泡して接着作用を生じる公知の接着剤である。したがって、焼き付け塗装時まで、補強部材20をBピラーPの中空部内の所定位置に保持しておくため、フック等の仮固定手段が用いられる。
【0030】
次に、本発明の第2実施形態の補強部材40について説明する。
図10は、第2実施形態の補強部材40の斜視図である。第2実施形態の補強部材40は、合成樹脂で形成された補強部材本体42が2分割され、2分割された補強部材42(第1部分)が長手方向中央に配置されたリテーナ44(第2部分)の両端に、それぞれ接続された構成を有している。
【0031】
リテーナ44は、略M字形状の断面形状を有し、第1実施形態のリテーナ24と略同一の形状を備えているが、略M字と構成する両脚部の長手方向端部が、長手方向外方に向かって傾斜する傾斜部とされている点でリテーナ24と異なっている。
【0032】
また、リテーナ44の両端と、2つの補強部材42とは、発泡性接着剤で接合され、さらに、補強部材40は、第1実施形態の補強部材20と同様の位置および同様の方法で、BピラーP内の中空部内に固定されている。
【0033】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で種々の変更が可能である。
上記実施形態は、本発明の補強構造をBピラーに適用した例であったが、本発明は、Bピラーに限定されるものではなく、他の閉断面構造の長手部材、例えば、ルーフサイドレール、フロントピラー、サイドシル等にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】従来技術の補強構造を有するBピラーの横断図である。
【図2】図1のBピラーの組み立てを説明する図面である。
【図3】本発明の第1実施態様の補強構造で使用される補強部材の斜視図である。
【図4】図3の補強部材の分解斜視図である。
【図5】図3の補強部材の取付位置を示す図面である。
【図6】図3のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】Bピラーの車幅方向の縦断面である。
【図8】BピラーPの中空部内に取付けられた補強部材20の長手方向中央部の模式的な横断面図である。
【図9】BピラーPの中空部内に取付けられた補強部材20の長手方向両端部の模式的な横断面図である。
【図10】第2実施形態の補強構造で使用される補強部材の斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
20:補強部材
22:補強部材本体
24:リテーナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体長手部材の補強構造であって、
細長い中空部が内部に形成された閉断面構造の車体長手部材と、
該中空部内に配置された細長い補強部材と、を備え、
該補強部材が、合成樹脂材料で構成された第1部分と、少なくとも金属材料を含む第2部分と、を備え、
前記補強部材は、車両の所定衝突状態において応力が集中する部位に前記第2部分が位置するように、発泡性接着剤で前記閉断面構造体に固定されている、
ことを特徴とする補強構造。
【請求項2】
前記第2部分の両端に前記第1部分が配置されている、
請求項1に記載の補強構造。
【請求項3】
前記第2部分が、鋼材料と合成樹脂材料とを含む、
請求項1または2に記載の補強構造。
【請求項4】
前記第2部分が、鋼材料のみで構成されている、
請求項1または2に記載の補強構造。
【請求項5】
前記第1部分が、断面略M字状の合成樹脂部材から構成され、
前記第2部分が、断面略M字状の合成樹脂部材と断面略M字状の鋼部材から構成されている、
請求項1ないし3の何れか1項に記載の補強構造。
【請求項6】
前記第2部分を構成する断面略M字状の合成樹脂部材は、長手方向中央の車体内方側が切り欠かれることによって、長手方向中央の厚さが長手方向両端の厚さより小さく設定されている、
請求項5に記載の補強構造。
【請求項7】
前記金属材料または鋼材料で形成された部分が、発泡性接着剤によって合成樹脂材料で構成された部分に連結固定されている、
請求項1ないし6の何れか1項に記載の補強構造。
【請求項8】
前記閉断面構造体が、車両のBピラーであり、
前記応力が集中する部位が、前記Bピラー上部の横断面積が減少する領域である、
請求項1乃至7の何れか1項に記載の補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−64504(P2010−64504A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229810(P2008−229810)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(508036075)ゼフィロス インコーポレイテッド (19)
【Fターム(参考)】