説明

車輪支持用転がり軸受ユニット

【課題】高速、高荷重下での軸受潤滑面での摩擦摩耗を防止し、長期耐久性に優れた車輪支持用転がり軸受ユニットを提供する。
【解決手段】使用状態で懸架装置に支持固定される静止側軌道輪20と、使用状態で車輪を支持固定する回転側軌道輪23と、上記静止側軌道輪20と上記回転側軌道輪23との互いに対向する周面に存在する静止側転走面10a、10bと回転側転走面21、22との間に設けられた複数個の転動体14とを備え、上記各転走面10a、10b、21、22と上記各転動体との転がり接触部をグリースにより潤滑する車輪支持用転がり軸受ユニットにおいて、上記グリースは基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含み、上記添加剤は、少なくとも芳香族スルホン酸リチウムを上記グリース全体に対して 0.1〜15 重量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の懸架装置に対して車輪を回転自在に支持するための車輪支持用転がり軸受ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットについては、内輪を静止側軌道輪とし、ハブを回転側軌道輪とする構成の第1例および外輪を静止側軌道輪とし、ハブを回転側軌道輪とする構成の第2例が知られている(特許文献1参照)。
まず、車輪支持用転がり軸受ユニットの従来構造の第1例について図2により説明する。図2は、車輪支持用転がり軸受ユニットの従来構造の第1例を示す断面図である。車輪を構成するホイール1は、図2に示すような車輪支持用転がり軸受ユニット2により、懸架装置を構成する車軸3の端部に回転自在に支持している。即ち、この車軸3の端部に固定したアクスル4に、上記車輪支持用転がり軸受ユニット2を構成する、静止側軌道輪である内輪5、5を外嵌し、ナット6により固定している。一方、上記車輪支持用転がり軸受ユニット2を構成する回転側軌道輪であるハブ7に上記ホイール1を、複数本のスタッド8、8とナット9、9とにより結合固定している。
【0003】
上記ハブ7の内周面には、それぞれが回転側転走面である複列の外輪転走面10a、10bを、外周面には取付フランジ11を、それぞれ形成している。上記ホイール1は、制動装置を構成するためのドラム12と共に、上記取付フランジ11の片側面(図示の例では外側面)に、上記各スタッド8、8とナット9、9とにより、結合固定している。
本明細書においては、軸方向に関して「外」とは、車両への組み付け状態で幅方向外側をいい、「内」とは、幅方向中央側をいう。
【0004】
上記各外輪転走面10a、10bと、上記各内輪5、5の外周面に形成したそれぞれが静止側転走面である各内輪転走面13a、13bとの間には、それぞれが転動体である玉14、14を複数個ずつ、それぞれ保持器15、15により保持した状態で転動自在に設けている。構成各部材をこの様に組み合わせることにより、背面組み合わせである複列アンギュラ型の玉軸受を構成し、上記各内輪5、5の周囲に上記ハブ7を、回転自在に、かつ、ラジアル荷重およびスラスト荷重を支承自在に支持している。なお、上記ハブ7の両端部内周面と、上記各内輪5、5の端部外周面との間には、それぞれシールリング16a、16bを設けて、上記各玉14、14を設けた空間と内部空間17とを遮断している。さらに、上記ハブ7の外端開口部は、キャップ18により塞がれている。
【0005】
上述の様な車輪支持用転がり軸受ユニット2の使用時には、図2に示す様に、内輪5、5を外嵌固定したアクスル4を車軸3に固定すると共に、ハブ7の取付フランジ11に、図示しないタイヤを組み合わせたホイール1およびドラム12を固定する。また、このうちのドラム12と、上記車軸3の端部に固定のバッキングプレート19に支持した、図示しないホイルシリンダおよびシューとを組み合わせて、制動用のドラムブレーキを構成する。制動時には、上記ドラム12の内径側に設けた一対のシューをこのドラム12の内周面に押し付ける。なお、上記内部空間17内にはグリースを封入して、上記外輪転走面10a、10bと、内輪転走面13a、13bと、上記各玉14、14の転道面との間の転がり接触部の潤滑を行なうようにしている。
【0006】
次に、車輪支持用転がり軸受ユニットの従来構造の第2例について図3により説明する。図3は、車輪支持用転がり軸受ユニットの従来構造の第2例を示す断面図である。
図3に示した車輪支持用転がり軸受ユニット2aの場合には、静止側軌道輪である外輪20の内径側に、回転側軌道輪であるハブ7aを、それぞれが転動体である複数の玉14、14により、回転自在に支持している。このために、上記外輪20の内周面にそれぞれが静止側転走面である複列の外輪転走面10a、10bを、上記ハブ7aの外周面にそれぞれが回転側転走面である第一、第二の内輪転走面21、22を、それぞれ設けている。このハブ7aは、ハブ本体23と内輪24とを組み合わせてなる。このうちハブ本体23の外周面の外端部に車輪を支持するための取付けフランジ11aを、同じく中間部に上記第一の内輪転走面21を、同じく中間部内端寄り部分にこの第一の内輪転走面21を形成した部分よりも小径である小径段部25を、それぞれ設けている。そして、この小径段部25に、外周面に断面円弧状である上記第二の内輪転走面22を設けた上記内輪24を外嵌している。さらに、上記ハブ本体23の内端部を径方向外方に塑性変形させてなるかしめ部26により上記内輪24の内端面を抑え付けて、この内輪24を上記ハブ本体23に対し固定している。
【0007】
また、上記外輪20の両端部内周面と、上記ハブ本体23の中間部外周面および上記内輪24の内端部外周面との間には、それぞれシールリング16c、16dを設けて、上記外輪20の内周面と上記ハブ7aの外周面との間で、上記各玉14、14を設けた内部空間17aと、外部空間とを遮断している。この内部空間17a内にはグリースを封入して、上記外輪転走面10a、10bと、内輪転走面21、22と、上記各玉14、14の転道面との間の転がり接触部の潤滑を行なうようにしている。
【0008】
グリース封入転がり軸受を車輪支持用軸受ユニットとして使用する場合には、高速、高荷重という過酷な使用条件のため、潤滑グリースの潤滑油膜が破断しやすくなる。潤滑油膜が破断すると金属接触が起こり、発熱、摩擦摩耗が増大する不具合が発生する。
そのため、高速、高荷重下での潤滑性および耐荷重性を向上させ、潤滑油膜破断による金属接触を防止する必要がある。この転がり軸受け部の潤滑においては、極圧剤(EP剤)含有グリースを使用して、その潤滑油膜の破断を軽減している。例えば、有機ビスマス化合物を含んでなる転がり軸受用の、極圧グリース潤滑剤組成物が知られている(特許文献2参照)。また、摩耗低減を目的としたモリブデンジチオカーバメートおよびポリサルファイドを含有してなるグリース組成物が知られている(特許文献3参照)。
しかしながら、転がり軸受ユニットの使用条件がdN値 10 万以上という高速条件下での潤滑など過酷になるにつれて、従来のグリースでは転がり軸受の使用が困難になるなどの問題がある。
また、軸受ユニットを構成する軸受材質に着目すると、外輪にフランジが設けられるタイプなどでは、鍛造性が良く安価なS53Cなどの機械構造用炭素鋼が用いられている。機械構造用炭素鋼は軌道部に高周波熱処理を施すことで、軸受部の転がり疲労強度を確保しているが、合金成分が少ないため表面強度が弱く、軸受鋼に比べ耐久性が劣るなどの問題がある。
【特許文献1】特開2001−221243号公報
【特許文献2】特開平8−41478号公報
【特許文献3】特開平10−324885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、高速、高荷重下での軸受潤滑面での摩擦摩耗を防止し、長期耐久性に優れた車輪支持用転がり軸受ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットは、使用状態で懸架装置に支持固定される静止側軌道輪と、使用状態で車輪を支持固定する回転側軌道輪と、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との互いに対向する周面に存在する静止側転走面と回転側転走面との間に設けられた複数個の転動体とを備え、上記各転走面と上記各転動体との転がり接触部をグリースにより潤滑する車輪支持用転がり軸受ユニットにおいて、上記グリースは基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含み、上記添加剤は、少なくとも芳香族スルホン酸リチウムを含有することを特徴とする。
また、上記芳香族スルホン酸リチウムは、上記グリース全体に対して 0.1〜15 重量%含有することを特徴とする。
【0011】
上記添加剤に硫黄系極圧剤が含まれ、該硫黄系極圧剤は、上記グリース全体に対して 0.1〜15 重量%含有することを特徴とする。
また、上記基油は、ポリ-α-オレフィン(以下、PAOと記す)油、鉱油、エステル油およびエーテル油からから選ばれた少なくとも一つであり、40 ℃における上記基油の動粘度が 30〜200 mm2/s であることを特徴とする。
また、上記増ちょう剤は、ウレア系増ちょう剤であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットは、添加剤として芳香族スルホン酸リチウムを含有するグリースを封入しているので、芳香族スルホン酸リチウムが転がり滑り接触部に補給されることによって、極圧性効果を長期間持続することができる。そのため、上記軸受ユニットは、耐摩耗性とともに、長期間耐久性に優れる。また、硫黄系極圧剤を併用することで、より極圧性効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットは、静止側軌道輪と、回転側軌道輪と、複数個の転動体とを備える。このうちの静止側軌道輪は、使用状態で懸架装置に支持固定される。また、上記回転側軌道輪は、使用状態で車輪を支持固定する。また、上記各転動体は、上記静止側軌道輪と回転側軌道輪との互いに対向する周面に存在する静止側転走面と回転側転走面との間に設けられている。そして、これら各転走面と上記転動体との転がり接触部を、グリースにより潤滑する。
このような従来構造の車輪支持用転がり軸受ユニットの耐久性について検討した結果、転動体を設置した空間内に、グリース全体に対し、添加剤として芳香族スルホン酸リチウムを 0.1〜15 重量%配合したグリースを封入した転がり軸受ユニットは、これ以外の添加剤を含有するグリースを封入した転がり軸受ユニットに比べて、静止側、固定側各転走面と各転動体の転動面との転がり接触部の潤滑性能が向上することを見出した。また、前述の従来構造の車輪支持用転がり軸受ユニットに構造面で改良を加え、上記グリースを適用すると、ハブの回転トルクが低減することを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0014】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットとして好適な構造の一実施例を、図1に示す。この実施例は駆動輪(FRおよびRR車の後輪、FF車の前輪、4WD車の全輪)を支持するための構造を有する。このために、図1に示すように静止側軌道輪である外輪20の内径側に回転自在に支持した、回転側軌道輪であるハブ7eを構成するハブ本体23cの中心部にスプライン孔29を形成している。車両への組み付け状態でこのスプライン孔29には、等速ジョイントに付属のスプライン軸(図示省略)を挿入する。
また、本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットを、駆動輪に適用する場合、回転側軌道輪であるハブを有するハブ本体の中心部にスプライン孔を形成しているので、このスプライン孔に等速ジョイントに付属のスプライン軸を接続することにより、等速ジョイントの回転トルクをハブに確実に伝えることができる。
ハブ本体23cの内端部に設けた小径段部25に外嵌してこのハブ本体23cとともにハブ7eを構成する内輪24の内端面を、このハブ本体23c内端面よりも内方に突出させている。車両への組み付け状態で上記内輪24の内端面には、図示しない等速ジョイントの外端面が突き当り、この内輪24が上記小径段部25から抜け落ちることを防止する。これらの点以外の主要な構成は、図3に示した従来構造の第2例と同様である。
【0015】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットである上記構造の実施例に対して好適に適用できるグリースを構成する芳香族スルホン酸リチウム、基油、増ちょう剤および添加剤について以下に述べる。
なお、芳香族スルホン酸リチウムを使用したグリースを封入することのできる車輪支持用転がり軸受ユニットは、本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットである上記構造の実施例に限定されるものではなく、上述の従来構造の2例についても、芳香族スルホン酸リチウムを使用したグリースを適用することができる。
【0016】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットに封入するグリースには、芳香族スルホン酸リチウムを添加することを必須とする。この芳香族スルホン酸リチウム(リチウムスルホネート)としては、例えば、重量平均分子量 100〜1500、好ましくは 200〜700 のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のリチウム塩が好ましく挙げられる。
また、芳香族スルホン酸リチウムとしては、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態の市販品を使用することもできる。また、これらの芳香族スルホン酸リチウムは、1種類または、2種類を混合してグリースに添加してもよい。
【0017】
アルキル芳香族スルホン酸としては、例えば、石油スルホン酸または合成スルホン酸等が挙げられる。
上記石油スルホン酸としては、一般に、鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものや、ホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。
また、上記合成スルホン酸としては、例えば、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンを原料とし、これをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したもの等が挙げられる。
また、これらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に限定されず、通常、発煙硫酸または無水硫酸等が用いられる。
【0018】
芳香族スルホン酸リチウムの添加量は、グリース全体に対し 0.1〜15 重量%が好ましい。より好ましくは 1〜10 重量%、さらに好ましくは 1〜5 重量%である。添加量が 0.1 重量%未満では、耐摩耗性の向上効果が発揮されない。また、15 重量%をこえると、回転時のトルクが大きくなり、発熱が増大して回転障害を生じるためである。
【0019】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットに封入するグリースに使用できる基油としては、例えば、鉱油、PAO油、エステル油、フェニルエーテル油、フッ素油、さらに、フィッシャートロプシュ反応で合成される合成炭化水素油(GTL基油)などが挙げられる。この中でも、PAO油、鉱油、エステル油およびエーテル油から選ばれた少なくとも一つを使用することが好ましい。
上記のPAO油としては、通常、α-オレフィンまたは異性化されたα-オレフィンのオリゴマーまたはポリマーの混合物である。α-オレフィンの具体例としては、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、1-ドコセン、1-テトラコセン等を挙げることができ、通常はこれらの混合物が使用される。
また、鉱油としては、例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油等の通常潤滑油やグリースの分野で使用されているものをいずれも使用することができる。
【0020】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットに封入するグリースに使用できる基油は、好ましくは、 40 ℃における動粘度が 30〜200 mm2/s である。 30 mm2/s 未満の場合は、蒸発量が増加し、耐熱性が低下するので好ましくなく、また、 200 mm2/s をこえると回転トルクの増加による軸受の温度上昇が大きくなるので好ましくない。
【0021】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットに封入するグリースに使用できる増ちょう剤としては、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、複合リチウム、複合カルシウム、複合アルミニウムなどの金属石けん系増ちょう剤、および、下記式(1)のジウレア化合物、ポリウレア化合物などのウレア系増ちょう剤が挙げられる。好ましくは、ジウレア化合物である。これらの増ちょう剤は、単独で、または 2 種類以上組み合わせて用いてもよい。
【化1】

(式(1)中のR2 は、炭素数 6〜15 の芳香族炭化水素基を、R1 およびR3 は、炭素数 6〜12 の芳香族炭化水素基または炭素数 6〜20 の脂環族炭化水素基または炭素数 6〜20 の脂肪族炭化水素基をそれぞれ示し、R1 およびR3 は、同一であっても異なっていてもよい。)
【0022】
ジウレア化合物、ポリウレア化合物などのウレア系化合物は、イソシアネート化合物とアミン化合物を反応させることにより得られる。反応性のある遊離基を残さないため、イソシアネート化合物のイソシアネート基とアミン化合物のアミノ基とは略当量となるように配合することが好ましい。
式(1)で表されるジウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、3,3-ジメチル-4,4-ビフェニレンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜等が挙げられる。
モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、p-トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0023】
基油に、ウレア系化合物などの増ちょう剤を配合して各種添加剤を配合するためのベースグリースが得られる。ウレア系化合物を増ちょう剤とする場合、ベースグリースは、基油中でイソシアネート化合物とアミン化合物とを反応させて作製する。
【0024】
基油の配合割合は、ベースグリース全体に対して、50〜95 重量%であることが好ましい。基油の配合割合が、50 重量%未満では、潤滑油が少なく潤滑不良となりやすい。また 95 重量%をこえるとグリースが軟化しやすくなるので、漏れやすくなる。
【0025】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットに封入するグリースは、その混和ちょう度が 200〜400 の範囲であることが好ましい。200 未満では低温時の潤滑性能が悪くなり、400 をこえると封入されたグリースが漏れやすくなって好ましくない。
【0026】
また、本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットに封入するグリースは、必要に応じてその他の公知の添加剤を含有させることができる。この添加剤として、例えば、有機亜鉛化合物、アミン系、フェノール系、イオウ系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレン等の粘度指数向上剤、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤等が挙げられる。これらを単独で、または、2 種類以上組み合せて添加することができる。
【0027】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットに使用できるグリースは、車輪支持用転がり軸受ユニット以外の高負荷がかかる軸受にも使用することができる。
【0028】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットに使用できる材質は、軸受鋼、浸炭鋼、または機械構造用炭素鋼を挙げることができる。これらの中で鍛造性が良く安価なS53Cなどの機械構造用炭素鋼を用いることが好ましい。該炭素鋼は一般に高周波熱処理を施すことで、軸受部の転がり疲労強度を確保した上で用いられる。
機械構造用炭素鋼は高周波熱処理を施しても、合金成分が少ないため表面強度が弱く、軸受鋼に比べ摺接部位での表面起点型剥離などへの耐性が劣る。本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットでは、上述した芳香族スルホン酸リチウムを含有するグリースを用いて摺接部位における潤滑性能を向上させることによって、上記問題を防止することができる。
【実施例】
【0029】
実施例1〜実施例3
鉱油( 100℃での動粘度が 13.5 mm2/s )2000 g 中で、ジフェニルメタン-4、4'-ジイソシアネー卜 60.6 g と、 オクチルアミン 31.3 g と、ステアリルアミン 66.2 g とを反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散させてベースグリース1を得た。このベースグリース1に、表1に示す配合で添加剤を配合し、得られる化合物を三段ロールミルでJISちょう度No.1グレード(ちょう度:310〜340 )に調整して本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットに封入するグリースを得た。得られたグリースにつき、以下に記す極圧性評価試験およびころ軸受試験を行なった。結果を表1に併記した。
【0030】
実施例4および実施例5
鉱油( 100℃での動粘度が 13.5 mm2/s )2000 g 中で、ジフェニルメタン-4、4'-ジイソシアネー卜 60.3 g と、ステアリルアミン 65.5 g と、シクロヘキシルアミン 24.1 g とを反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散させてベースグリース2を得た。このベースグリース2に、表1に示す配合で添加剤を配合し、得られる化合物を三段ロールミルでJISちょう度No.1グレード(ちょう度:310〜340 )に調整して本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットに封入するグリースを得た。得られたグリースにつき、以下に記す極圧性評価試験およびころ軸受試験を行なった。結果を表1に併記した。
【0031】
比較例1および比較例2
鉱油( 100℃での動粘度が 13.5 mm2/s )2000 g 中で、ジフェニルメタン-4、4'-ジイソシアネー卜 60.6 g と、 オクチルアミン 31.3 g と、ステアリルアミン 66.2 g とを反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散させてベースグリース1を得た。このベースグリース1に、表1に示す配合で添加剤を配合し、得られる化合物を三段ロールミルでJISちょう度No.1グレード(ちょう度:310〜340 )に調整して本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットに封入するグリースを得た。得られたグリースにつき、以下に記す極圧性評価試験およびころ軸受試験を行なった。結果を表1に併記した。
【0032】
比較例3および比較例4
鉱油( 100℃での動粘度が 13.5 mm2/s )2000 g 中で、ジフェニルメタン−4、4'−ジイソシアネー卜 60.3 g と、ステアリルアミン 65.5 g と、シクロヘキシルアミン 24.1 g とを反応させ、生成したウレア化合物を均一に分散させてベースグリース2を得た。このベースグリース2に、表1に示す配合で添加剤を配合し、得られる化合物を三段ロールミルでJISちょう度No.1グレード(ちょう度:310〜340 )に調整して本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットに封入するグリースを得た。得られたグリースにつき、以下に記す極圧性評価試験およびころ軸受試験を行なった。結果を表1に併記した。
【0033】
<極圧性評価試験>
極圧性評価試験装置を図4に示す。評価試験装置は、回転軸30に固定されたφ40×10 のリング状試験片31と、この試験片31と端面32にて端面同士が擦り合わされるリング状試験片33とで構成される。グリースを端面32部分に塗布し、回転軸30を回転数 2000 rpm、図4中右方向Aのアキシアル荷重 490 N 、ラジアル荷重 392 N を負荷して、極圧性を評価した。極圧性は両試験片のすべり部の摩擦摩耗増大により生じる回転軸30の振動を振動センサにて測定し、その振動値が初期値の 2 倍になるまで試験を行ない、その時間を測定した。
回転軸30の振動値が初期値の 2 倍になるまでの時間が長いほど極圧性効果が大となり、優れた耐フレーキング性を示す。したがってグリースのフレーキング性の評価は、測定された上記時間の長さにて各実施例と各比較例とを対比させて行なった。
【0034】
<ころ軸受試験>
30206円すいころ軸受にグリースを 3.6 g 封入し、アキシアル荷重 980 N 、回転数 2600 rpm 、室温にて運転し、回転中のつば部表面温度を測定した。運転開始後、4〜8 時間までのつば部表面温度の平均値を算出した。
つば部と「ころ」との間に発生するすべり摩擦が大きくなると回転中のつば部表面温度は上昇する。そのためグリースの耐熱耐久性の評価は、測定された上記温度の高さにて各実施例と各比較例とを対比させて行なった。上記温度の高さが 65℃以下であることが、グリースの耐久性に優れていると評価する基準とした。
【0035】
【表1】

【0036】
表1において、各実施例と各比較例とを対比すると、芳香族スルホン酸リチウム(リチウムスルホネート)が、極圧性評価試験およびころ軸受試験において優れた耐熱耐久性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットは、耐熱耐久性に優れた芳香族スルホン酸リチウムを含有するグリースを封入しているので、極圧性効果を長期間持続できる。そのため、耐摩耗性とともに、長期間耐久性の要求される車輪支持用転がり軸受ユニットとして好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットの構造の一実施例を示す断面図である。
【図2】車輪支持用転がり軸受ユニットの従来構造の第1例を示す断面図である。
【図3】車輪支持用転がり軸受ユニットの従来構造の第2例を示す断面図である。
【図4】極圧性評価試験装置を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 ホイール
2 車輪支持用転がり軸受ユニット
3 車軸
4 アクスル
5 内輪
6 ナット
7 ハブ
8 スタッド
9 ナット
10a、10b 外輪転走面(静止側転走面)
11 取付フランジ
12 ドラム
13 内輪転走面
14 玉(転動体)
15 保持器
16 シールリング
17 内部空間
18 キャップ
19 バッキングプレート
20 外輪(静止側軌道輪)
21、22 内輪転走面(回転側転走面)
23 ハブ(回転側軌道輪)
24 内輪
25 小径段部
26 かしめ部
29 スプライン孔
30 回転軸
31 リング状試験片
32 端面
33 リング状試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用状態で懸架装置に支持固定される静止側軌道輪と、使用状態で車輪を支持固定する回転側軌道輪と、前記静止側軌道輪と前記回転側軌道輪との互いに対向する周面に存在する静止側転走面と回転側転走面との間に設けられた複数個の転動体とを備え、前記各転走面と前記各転動体との転がり接触部をグリースにより潤滑する車輪支持用転がり軸受ユニットにおいて、
前記グリースは基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含み、前記添加剤は、少なくとも芳香族スルホン酸リチウムを含有することを特徴とする車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項2】
前記芳香族スルホン酸リチウムは、前記グリース全体に対して 0.1〜15 重量%含有することを特徴とする請求項1記載の車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項3】
前記添加剤に硫黄系極圧剤が含まれ、該硫黄系極圧剤は、前記グリース全体に対して 0.1〜15 重量%含有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項4】
前記基油は、ポリ-α-オレフィン油、鉱油、エステル油およびエーテル油からから選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項5】
前記基油は、40 ℃における動粘度が 30〜200 mm2/s であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載の車輪支持用転がり軸受ユニット。
【請求項6】
前記増ちょう剤は、ウレア系増ちょう剤であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項記載の車輪支持用転がり軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−19704(P2009−19704A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183268(P2007−183268)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】