軟質材加工用切削工具
【課題】使用初期からパッド除去レートが安定しており、切削条件を調整する必要なくパッド表面を加工・調整できる軟質材加工用切削工具を提供する。
【解決手段】円盤状をなす基材10の表面11Aに、切刃稜線17を有する切刃凸部15が上方に突出して形成され、切刃凸部15の上部には平面状に形成された上面部16が形成され、上面部16には気相合成ダイヤモンド膜18が設けられており、上面部16に設けられた気相合成ダイヤモンド膜18表面の算術平均粗さRaが、0.2μmから2.0μmであることを特徴とする。
【解決手段】円盤状をなす基材10の表面11Aに、切刃稜線17を有する切刃凸部15が上方に突出して形成され、切刃凸部15の上部には平面状に形成された上面部16が形成され、上面部16には気相合成ダイヤモンド膜18が設けられており、上面部16に設けられた気相合成ダイヤモンド膜18表面の算術平均粗さRaが、0.2μmから2.0μmであることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性の樹脂・ゴム・ポリウレタンラバー等からなるパッド、例えば、半導体ウエハ等の研磨用パッドの表面を加工・調整するための切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業の進展とともに、金属、半導体、セラミックスなどの表面を高精度に仕上げる加工方法の必要性が高まっている。特に、半導体ウエハは、その集積度の向上とともにナノメーター(1/1000ミクロン)オーダーの表面仕上げが要求されてきており、このため、多孔性のパッド(研磨布)を用いたCMP研磨(ケミカルメカニカルポリッシュ)が一般的に行われている。CMP研磨とは、砥粒等を用いる機械的な研磨と、アルカリ液、酸性液等でエッチングする化学的研磨を組み合わせたものである。
【0003】
半導体ウエハ等の研磨に用いられるパッドは、研磨時間が経過していくにつれ、目詰まりや圧縮変形を生じ、その表面状態が次第に変化していく。すると、研磨速度の低下や不均一研磨等の好ましくない現象が生じるので、パッドの表面を定期的に加工・調整することにより、パッドの表面状態を一定に保って、良好な研磨状態を維持する工夫が行われている。
【0004】
このパッドを加工・調整するために用いられる軟質材加工用切削工具の一例として、特許文献1及び2に開示されているように、基材の表面に、上方に突出する複数の切刃凸部が形成され、切刃凸部の上面部と側面部との交差稜線部に切刃が設けられるとともに、切刃凸部を含む基材の表面には、気相合成されたダイヤモンド膜が設けられたものが提供されている。
このような軟質材加工用切削工具は、その基材の表面を、軸線回りに回転させられているパッドの表面に対して一定の荷重で押し当てることにより、この基材がパッドの回転運動にともなって回転運動を行い、パッドの表面に圧入されている切刃凸部によってパッドの表面を切削して加工・調整していくものである。
【特許文献1】特開平7−328937号公報
【特許文献2】特開平10−44023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば特許文献1及び特許文献2に示された軟質材加工用切削工具のように基材に気相合成ダイヤモンド膜を成長させる場合には、合成条件により表面平滑な気相合成ダイヤモンド膜を合成することが技術的には可能であるが、そのような条件ではダイヤモンド膜の合成速度が著しく遅くなる。そのため、このようなダイヤモンド膜は生産性の観点から工業的には使用できず、一般的に工具向けのダイヤモンド膜としては特定の成長方位に限定されず、かつ膜表面にダイヤモンド粒子の結晶面で形成される大きな凹凸を有した多結晶膜を用いることが多い。
【0006】
この軟質材加工用切削工具を使用した場合には、使用初期においては、気相合成ダイヤモンド膜の表面が非常に粗く、多くの方位を向いた複数の結晶表面がむき出しとされているので、各結晶表面が切刃として作用してしまい、この結晶表面によってパッドが切削されてしまう。
上記の軟質材加工用切削工具の使用の初期段階においては、切刃凸部に設けられた切刃と気相合成ダイヤモンド膜の表面に剥き出された結晶表面とでパッドを切削することになり、単位時間当たりのパッドの切削量を示す値であるパッド除去レートが異常に高い値を示し、その後、使用時間が長くなるにしたがって気相合成ダイヤモンド膜の表面状態が変化し、パット除去レートが著しく低下してしまうといった問題があった。
【0007】
また、上記の軟質材加工用切削工具では、パット除去レートが著しく低下してしまうので、軟質材加工用切削工具の使用状況、つまりダイヤモンド膜の表面状態に応じて切削条件を変更するなどの調整が必要となるため、非常に使いづらいものであった。
また、使用初期のパッド除去レートが顕著に高くなっているので、使用初期の段階では、パッドを必要以上に多く削りすぎてしまうトラブルが発生し、パッドの寿命が短くなってしまうといった問題があった。
【0008】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、使用初期からパッド除去レートが安定しており、切削条件を調整する必要なくパッド表面を加工・調整できる軟質材加工用切削工具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明は、円盤状をなす基材の表面に、切刃稜線を有する切刃凸部が上方に突出して形成され、該切刃凸部の上部には平面状に形成された上面部が形成され、該上面部には気相合成ダイヤモンド膜が設けられており、前記上面部に設けられた前記気相合成ダイヤモンド膜表面の算術平均粗さRaが、0.2μmから2.0μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記の構成の軟質材加工用切削工具では、パッドと接触する切刃凸部の上面部に設けられた気相合成ダイヤモンド膜表面の算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)が、0.2μmから2.0μmに規定されているので、使用状況によってダイヤモンド膜の表面状態が大きく変動せず、使用初期から安定したパッド除去レートを得ることができる。したがって、軟質材加工用切削工具の使用状況に応じて切削条件を変更するなどの調整が不要となる。
また、使用初期のパッド除去レートが適正な速度に調整されているので、パッドの消耗量を抑制し、パッドの寿命を長くすることができる。
【0011】
ここで、ダイヤモンド膜表面の算術平均粗さRaが2.0μmを超える場合には、使用初期のパッド除去レートが比較的高い値を示し、使用状況によってダイヤモンド膜の表面状態が変化してしまうので、使用初期から安定したパッド除去レートを得ることができない。また、ダイヤモンド膜表面の算術平均粗さRaを0.2μmより小さくしても、パッド除去レートをさらに安定化する効果は期待できない。
したがって、本発明においては、パッドと接触する切刃凸部の上面部に設けられた気相合成ダイヤモンド膜表面の算術平均粗さRaを、0.2μmから2.0μmに規定している。
【0012】
また、前記基材の表面に、全面に亘って気相合成ダイヤモンド膜を設けることにより、腐食性の強い酸性、アルカリ性または錯体等の添加剤を含んだ薬液によって溶出の虞がある材料によって基材を構成したとしても、この基材の溶出による汚染を防止することができ、さらに、切刃凸部の強度を向上させることができる。
【0013】
また、前記上面部に設けられた前記気相合成ダイヤモンド膜表面の算術平均粗さRaを0.2μmから0.5μmとすることにより、使用初期からパッド除去レートが安定し、一層安定したコンディショニングが可能となる。
【0014】
また、前記上面部が、該上面部に対向する方向から見て多角形あるいは円形をなしており、前記上面部がなす多角形面の外接円の半径あるいは円形面の半径を、0.03mmから1.0mmの範囲内に設定することにより、加工するために有効なパッド変形を生じさせ、パッド加工性能が確保できるとともに、大きな加工痕がパッドに形成されることを防止してパッド表面の平坦性を確保することができる。なお、このような作用効果を確実に奏功せしめるためには、前記外接円の半径または円形面の半径を、0.05mmから0.5mmの範囲内に設定することが好ましい。
【0015】
また、前記基材は前記表面と対向配置される底面を有し、前記切刃凸部を、前記底面と平行とされた基準面の上に形成し、前記上面部のうち前記底面から最も突出した部分の前記基準面からの高さを、0.02mmから0.5mmの範囲に設定することにより、切刃稜線のパッドへの圧入深さを確保して加工性能を確保できるとともに、加工中の加工速度のばらつきを抑えてパッドを安定して加工することができる。このような作用効果を確実に奏功せしめるためには、前記高さを0.05mmから0.15mmの範囲内に設定することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態について説明する。図1、図2に本実施形態である軟質材加工用切削工具を示す。
軟質材加工用切削工具の基材10は、SiC(炭化珪素)で構成され、軸線Oを中心として、軸線O回りにT方向に回転される略円盤状をなすものであり、この軸線Oと直交する平面と平行に配置された底面11Bと、この底面11Bに対向配置された表面11Aを有する。表面11Aにおける中央領域を除いた径方向外周側の周縁領域には、上方に向けて突出する少なくともひとつの台座12が形成されており、本実施形態では、上方に向けて突出する複数の台座12が周方向で略等間隔に配置されるとともに放射状に配置されるように形成されている。
これらの複数の台座12は、それぞれ同一形状の略正四角柱状を呈しており、略正方形面状をなす上面13の全面が、基材10の表面11Aと略平行な平坦面とされている。そして、この台座12の基材10の表面11Aからの高さH1はウエハの研磨屑やスラリー固形分等の排出の点から、0.05mm≦H1≦2.0mmの範囲内に設定することが好ましく、本実施形態ではH1=0.25mmとされている。
【0017】
また、複数の台座12のそれぞれの上面13(平坦面)において、その周縁領域(台座12における上面13と周面(側面)とが交差してできる略正方形状の交差稜線14を含むような周縁領域)のうち少なくとも回転方向T前方側(略円板状をなす基材10の軸線Oから径方向外周側へ向かって延びる直線よりも前方側)及び後方側(略円板状をなす基材10の軸線Oから径方向外周側へ向かって延びる直線よりも後方側)の領域を除いた領域に、上方に突出する少なくともひとつの切刃凸部15が形成されている。つまり、本実施形態においては、台座12の上面13が、基材10の底面11Bと平行(軸線Oと直交する平面と平行)な基準面とされている。
【0018】
本実施形態では、複数の台座12のそれぞれの上面13において、その周縁領域のうちの回転方向T前方側及び後方側だけでなく、周縁領域のうちの(基材10の)径方向内周側及び外周側の領域を含む周縁領域すべてを除いた中央領域に、上方に突出するひとつの切刃凸部15が形成されている。
なお、これら複数の切刃凸部15も、台座12と同様にそれぞれ同一形状の略正四角柱状を呈しているため、略正方形断面状をなす台座12の上面13は、実際には、その周縁領域のみから構成された略正四角リング面状をなしている。
【0019】
このように、ひとつの台座12のそれぞれに対して、その上面13の中央領域にひとつの切刃凸部15が上方に突出して形成されているため、これら台座12及び切刃凸部15は、外径の大きな略正四角柱状をなす台座12と外径の小さな略正四角柱状をなす切刃凸部15とが同軸に接続されたような2段突起状をなしており、基材10の表面11Aには、複数の台座12と同じ数だけ、複数の切刃凸部15が存在することになる。
【0020】
また、切刃凸部15の略正方形断面状をなす上面部16の全面が、基材10の表面11Aと略平行な平坦面とされている。この切刃凸部15の基準面(台座12の上面13)からの高さH2は、0.02mm≦H2≦0.5mmの範囲内に、より好ましくは0.05mm≦H2≦0.15mmの範囲内に設定されており、本実施形態ではH2=0.05mmとされている。つまり、切刃凸部15の基材10の表面11Aからの高さH(H=H1+H2)は、0.3mmとされているのである。
切刃凸部15における上面部16(平坦面)と周面(側面)とが交差してできる略正方形状の交差稜線が、この切刃凸部15の有する切刃稜線17となっている。
【0021】
また、基材10の表面11Aと一体に形成された切刃凸部15における少なくとも上面部16には、気相合成ダイヤモンド膜18がコーティングされており、本実施形態においては、複数の切刃凸部15を含む基材10の表面11Aの全面が、気相合成ダイヤモンド膜18でコーティングされており、その膜厚tは0.5μmから50μmとされている。
このような気相合成ダイヤモンド膜18は、上記のような複数の台座12と複数の切刃凸部15とを有する基材10に対して、例えば、マイクロ波プラズマを利用する方法や熱フィラメントを利用する方法等の既存の方法を用いることにより、複数の台座12及び複数の切刃凸部15とを含む基材10の表面11Aの全面に亘って形成される。
【0022】
そして、上記の方法で基材10の表面11Aに形成された気相合成ダイヤモンド膜18の表面は、図3に示すように、多くの方位を向く複数の結晶表面が剥き出しとなり非常に粗くなっているので、その表面粗さを調整する必要がある。
気相合成ダイヤモンド膜18の表面粗さを調整するための調整方法としては、900℃程度に加熱保持した鉄板にダイヤモンド膜が形成された基材10を一定圧力で押し付け、鉄板と基材10とを摺動させる方法や、チタンアルミ金属間化合物の板にダイヤモンド膜が形成された基材10を一定圧力で押し付け、チタンアルミ金属間化合物の板と基材10とを摺動させる方法などが挙げられる。また、ラッピングマシン等を使用した遊離砥粒スラリーでの研磨によっても気相合成ダイヤモンド膜18の表面粗さを調整することができる。この場合、さらに研磨効率を高める目的で前記スラリーに酸化作用を有する添加剤を適宜加えても良い。
【0023】
上記の方法により表面粗さが調整された気相合成ダイヤモンド膜18の表面は、図4に示すように、結晶表面が認められない平滑な面とされ、その算術平均粗さRaが0.2μmから0.5μmとされている。つまり、この軟質材加工用切削工具に形成された切刃凸部15の上面部16には、平滑面を有する気相合成ダイヤモンド膜18が被覆されているのである。
【0024】
上記の構成の軟質材加工用切削工具は、基材10の裏面にステンレスや樹脂等からなる板材が貼り付けられたり、基材10がステンレス等の板材に形成された凹みに焼き嵌めされたりして組み付けられてから、実際の加工に用いられることになる。
そして、組み付けられた状態の軟質材加工用切削工具は、その基材10の表面11Aを、軸線O回りに回転させられている多孔性の樹脂・ゴム・(独立気泡を有する)ポリウレタンラバー等からなるパッドの表面に対して一定の荷重で押し当てることにより、基材10がパッドの回転運動にともなって軸線O回りの回転運動(回転方向T)を行い、パッド表面に接地して圧入している複数の切刃凸部15に形成された切刃稜線17で、被切削材としてのパッド表面を切削する。実際には、切刃稜線17をコーティングしている気相合成ダイヤモンド膜18が、パッドの表面を切削することになる。パッドが切削された生成した切屑は、切刃凸部15同士の間に位置する隙間や台座12同士の間に位置する隙間等から排出される。
【0025】
上記の構成の軟質材加工用切削工具では、切刃凸部15の上面部16形成された気相合成ダイヤモンド膜18の表面の算術平均粗さRaが0.2μmから0.5μmとされており、気相合成ダイヤモンド膜18の結晶表面の凹凸が切刃として作用することが少なく、主に切刃凸部15によってパッドが切削されるので、パッド除去レートが使用初期から一定の範囲内で安定しており、切削条件等を調整することなく、長時間使用することができる。
また、初期のパッド除去レートが適正な速度に調整されているので、パッドの消耗量を抑制し、パッドの寿命を長くすることができる。
【0026】
以下に、本発明の一例を用いて比較試験を行うことにより、本発明の有効性を検証した。
試験工具として、SiCで構成された直径100mmの基材10の表面11Aに台座12が放射状に120個設けられ、各台座12の上面13には切刃凸部15がひとつ形成されたものを供した。ここで、台座12は、一辺が0.8mm、高さが0.25mmの正四角柱状とし、切刃凸部15は、一辺が0.15mm、高さが0.05mmの正四角柱状とした。
【0027】
基材10の表面11Aには全面に亘って気相合成ダイヤモンド膜18にてコーティングした。気相合成ダイヤモンド膜18の生成はマイクロ波プラズマCVD法で行われ、投入電力を3000W、圧力を2600Pa、メタンガス/水素比を10/500、成膜時間を10時間として行った。これにより、基材10の表面には、膜厚がおよそ15μmの気相合成ダイヤモンド膜が形成された。
こうして得られた気相合成ダイヤモンド膜18の表面粗さを、レーザー顕微鏡(キーエンス社製VK−8500)を用いて測定した結果、図5に示すようにその粗さ曲線は大きな凹凸を示し、その算術平均粗さRaは4.5μmであった。この気相合成ダイヤモンド膜18の表面粗さを調整していないものを比較例1として試験に供した。
【0028】
また、気相合成ダイヤモンド膜18の表面粗さを調整するために、900℃から1000℃に加熱保持された鉄板に、気相合成ダイヤモンド膜18が形成された基材10の表面11Aを、圧力20kPaで押し付け、基材10と鉄板とを5mm/secの速度で、約10分間摺動させた。こうして得られた気相合成ダイヤモンド膜18の表面粗さを、レーザー顕微鏡(キーエンス社製VK−8500)を用いて測定した結果、図6に示すようにその粗さ曲線はほとんど変動しておらず、その算術平均粗さRaは0.3μmであった。この気相合成ダイヤモンド膜18の表面粗さを調整したものを本発明例1として試験に供した。さらに、本発明例2として、気相合成ダイヤモンド膜18の表面粗さをRa=1.3μmに調整したものを試験に供した。
【0029】
なお、直径100mmの工具の表面調整を、ラッピングマシン等を使用した遊離砥粒による研磨によって行う場合には、定盤回転数を40〜100rpm,工具回転数を45〜105rpm、圧力を1.25〜12.5kPaの範囲に設定し、固形分5%以上の研磨スラリーを25〜200ml/min供給すると良い。ここで、定盤回転数50rpm、工具回転数55rpm、圧力5kPa、固形分20%の研磨スラリー100ml/min、処理時間1時間として研磨を行った結果、上記方法と同様に、表面の算術平均粗さRa0.3μmの気相合成ダイヤモンド膜18を得ることができた。
【0030】
試験機として研磨装置(ムサシノ電子製MA−300)を用い、被切削材として発泡ウレタン質パッド(Rodel社製IC1400)を用い、研磨スラリーとしてSiO2スラリー(Cabot社製SS−25)を用いた。
試験条件は、プラテン回転数(ウレタンパッドの回転数)を90rpm、切削工具の回転数を80rpm、荷重を39.2N、スラリー流量を25ml/minとして、パッドの研削を行った。
【0031】
評価項目であるパッド除去レートは、まず、事前に発泡ウレタン質パッドの高さを測定しておき、この発泡ウレタン質パッドを研削試験に供し、研削後の発泡ウレタン質パッドの高さを測定し、研削前後の発泡ウレタン質パッドの高さの変化を研削時間で除して計算した。ここで、発泡ウレタン質パッドの高さは、マイクロゲージを用いて、パッドの直径(300mm)上を10mm間隔で合計30点測定し、その平均値とした。
【0032】
図7にパッド除去レートと加工時間との関係を示す。比較例では、使用から3時間経過した時点でのパッド除去レートが80μm/hであったのが、使用から7時間経過した時点で50μm/hと約6割程度まで急激に変化している。
一方、本発明例1では、使用から3時間の時点で48μm/hであり、使用から30時間経過した時点でも43μm/hであった。また、本発明例2では、使用から3時間の時点で55μm/hであり、使用から30時間経過した時点でも44μm/hであった。
したがって、本試験により、本発明例では、パッド除去レートが使用初期段階からほとんど変化がなく安定していることが確認された。
【0033】
なお、本実施の形態においては、基材10を構成する材料として、SiC(炭化珪素)を用いて説明したが、基材10を構成する材料に関しては、気相合成ダイヤモンド膜18の生成のしやすさと、台座12、切刃凸部14等の形成のしやすさと、実用に耐えるための機械的特性との観点から、例えば、以下に示すようなものが適しており、これらの材料で構成されていれば良い。
(1)
4a族、5a族、6a族のうちのいずれかの金属もしくはシリコンとの炭化物、窒化物もしくは炭窒化物、
4a族、5a族、6a族のうちのいずれかの金属とシリコンとの炭化物、窒化物もしくは炭窒化物、
シリコン、のうちのいずれか1種、または、これらの複合体。
(2)
4a族、5a族、6a族のうちのいずれかの金属もしくはシリコンとの炭化物、窒化物もしくは炭窒化物のうちの少なくとも1種と、
鉄、ニッケルもしくはコバルトのうちの少なくとも1種との複合体からなる超硬合金。
(3)
シリコンもしくはアルミニウムの窒化物もしくは酸化物のうちいずれか1種、またはこれらの複合体。
【0034】
また、本実施の形態では、基材10の表面11Aには、台座12と切刃凸部15との2段凸部が形成されたもので説明したが、切刃凸部15のみの1段凸部が形成されたものであっても良い。この場合には、基材10の底面11Bと平行な表面11Aが基準面とされる。なお、表面11Aが基準面とされる場合は、切刃凸部15の高さは、0.02mmから0.5mmの範囲内に設定することが好ましく、さらにウェハの研磨屑やスラリー固形分等の排出の点から0.05mmから0.5mmの範囲内に設定することが好ましい。
また、ひとつの台座12にひとつの切刃凸部15が設けられたもので説明したが、ひとつの台座12に複数の切刃凸部15が設けられていても良い。
また、台座12や切刃凸部15の形状を略正四角柱状としたが、円柱状や三角柱状等の他の形状であっても良い。
また、台座12や切刃凸部15の個数や配置、基材10の直径等は、切削条件などを考慮して適宜設定することが好ましい。
【実施例1】
【0035】
以下に、本発明の一例を用いて比較試験を行うことにより、本発明の有効性を検証した結果を示す。
試験工具として、炭化けい素(SiC)で構成された直径100mm、厚さ6mmの基板の表面外周部に台座が円周上等間隔で放射状に60個設けられ、各台座の上面に切刃凸部が1つ形成されたものを供した。ここで、台座は、一辺が1.0mm、高さが0.3mmの正四角柱状とし、切刃凸部は、切刃凸部の最も高い部分(切刃稜線部)の台座の上面からの高さH2を0.05mmとした。これら台座と切刃凸部の表面には、膜厚がおよそ20μmの気相合成ダイヤモンド膜をコーティングした。
【0036】
試験機として研磨装置(ムサシノ電子製MA−300)を用い、被切削材として発泡ウレタン質パッド(Rodel社製IC1400)を用い、メタル研磨用スラリー(3%H2O2)を用いた。
試験条件は、プラテン回転数(ウレタンパッドの回転数)を45rpm、切削工具の回転数を43rpm、荷重を39.2N、スラリー流量を100ml/minとして、パッドの研削を行った。
【0037】
比較例2として、切刃凸部の上面を正三角形とし、この正三角形の外接円の半径D=0.2mm、ダイヤモンド膜表面粗さRa=3.0μmのものを試験に供した。
本発明例3として、切刃凸部の上面を正三角形とし、この正三角形の外接円の半径D=0.015mm、ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例4として、切刃凸部の上面を正三角形とし、この正三角形の外接円の半径D=0.2mm、ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例5として、切刃凸部の上面を正三角形とし、この正三角形の外接円の半径D=1.5mm、ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
【0038】
比較例3として、切刃凸部の上面を正方形とし、この正方形の外接円の半径D=0.2mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=3.0μmのものを試験に供した。
本発明例6として、切刃凸部の上面を正方形とし、この正方形の外接円の半径D=0.015mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例7として、切刃凸部の上面を正方形とし、この正方形の外接円の半径D=0.2mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例8として、切刃凸部の上面を正方形とし、この正方形の外接円の半径D=1.5mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
【0039】
比較例4として、切刃凸部の上面を正八角形とし、この正八角形の外接円の半径D=0.2mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=3.0μmのものを試験に供した。
本発明例9として、切刃凸部の上面を正八角形とし、この正八角形の外接円の半径D=0.015mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例10として、切刃凸部の上面を正八角形とし、この正八角形の外接円の半径D=0.2mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例11として、切刃凸部の上面を正八角形とし、この正八角形の外接円の半径D=1.5mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
【0040】
図8、図9、図10にパッド除去レートと加工時間との関係を示す。比較例2、3、4では、試験初期の除去レートが大きく時間の経過とともに除去レートが大きく低下することが確認された。
本発明例3、6、9では、パッド除去レートは低い値で安定している。これは、切刃凸部がなす正三角形、正方形、正八角形の外接円の半径Dが小さく、パッドを十分に変形させて切刃凸部を深く入り込ませることができないためである。
一方、本発明例4、5、7、8、10、11では、パッド除去レートが高い値で安定していることが確認された。
【0041】
また、本発明例7、8とで加工したパッドの表面粗さを測定した結果、本発明例7ではパッド表面の算術平均粗さRa=4.66μmであり、本発明例8ではパッド表面の算術平均粗さRa=8.74μmであった。これは、切刃凸部がなす正方形の外接円の半径D=1.5mmとした本発明例8では、パッド表面に大きな加工痕が形成されてしまうためである。
【0042】
以上の比較実験の結果から、本発明例においてはパッド除去レートが安定するとともに、切刃凸部の上面は正三角形、正方形、正八角形でも良いことが確認された。
また、これら切刃凸部がなす多角形の外接円の半径Dが小さすぎるとパッド除去レートが低くなり、前記半径Dが大きすぎるとパッドに加工痕が残ってしまうことが確認された。このため、前記半径Dは、0.03〜1.0mmの範囲内とすることが好ましい。
【実施例2】
【0043】
次に、切刃凸部の基準面からの高さの影響について評価するために、切刃凸部の高さを変更して比較実験を行った。なお、切刃凸部以外の形状やサイズ、研削条件等は、実施例1と同様とした。
【0044】
比較例5として、切刃凸部の上面を正方形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.1mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=3.0μmのものを試験に供した。
本発明例12として、切刃凸部の上面を正方形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.015mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例13として、切刃凸部の上面を正方形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.1mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例14として、切刃凸部の上面を正方形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.8mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
【0045】
比較例6として、切刃凸部の上面を正五角形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.1mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=3.0μmのものを試験に供した。
本発明例15として、切刃凸部の上面を正五角形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.015mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例16として、切刃凸部の上面を正五角形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.1mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例17として、切刃凸部の上面を正五角形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.8mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
【0046】
比較例7として、切刃凸部の上面を正六角形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.1mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=3.0μmのものを試験に供した。
本発明例18として、切刃凸部の上面を正六角形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.015mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例19として、切刃凸部の上面を正六角形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.1mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例20として、切刃凸部の上面を正六角形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.8mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
【0047】
図11、図12、図13にパッド除去レートと加工時間との関係を示す。比較例5、6、7では、試験初期の除去レートが大きく時間の経過とともに除去レートが大きく低下することが確認された。
本発明例12、15、18では、パッド除去レートは低い値で安定している。これは、切刃凸部の高さH2が小さくパッドへの圧入深さが不足しているためである。
一方、本発明例13、16、19では、パッド除去レートが高い値で安定していることが確認された。
また、本発明例14、17、20では、それぞれ本発明例13、16、19と比較してパッド除去レートのばらつきが大きくなっている。
このため、切刃凸部の基準面からの高さは、0.02〜0.5mmの範囲内とすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施の形態である軟質材加工用切削工具の基板の上面図である。
【図2】図1におけるA−A断面図である。
【図3】気相合成ダイヤモンド膜が生成された状態の切刃凸部の上面図である。
【図4】気相合成ダイヤモンド膜の表面粗さを調整した状態での切刃凸部の上面図である。
【図5】従来例である気相合成ダイヤモンド膜の表面粗さ曲線である。
【図6】本発明例である気相合成ダイヤモンド膜の表面粗さ曲線である。
【図7】切削工具の使用時間とパッド除去レートの関係を示した図である。
【図8】切刃凸部の上面を正三角形状に形成し、この正三角形の外接円の半径を変更した比較実験の結果を示す図である。
【図9】切刃凸部の上面を正方形状に形成し、この正方形の外接円の半径を変更した比較実験の結果を示す図である。
【図10】切刃凸部の上面を正八角形状に形成し、この正八角形の外接円の半径を変更した比較実験の結果を示す図である。
【図11】切刃凸部の上面を正方形状に形成し、この切刃凸部の基準面からの高さを変更した比較実験の結果を示す図である。
【図12】切刃凸部の上面を正五角形状に形成し、この切刃凸部の基準面からの高さを変更した比較実験の結果を示す図である。
【図13】切刃凸部の上面を正六角形状に形成し、この切刃凸部の基準面からの高さを変更した比較実験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10 基材
11A 表面
11B 底面
12 台座
13 上面(基準面)
15 切刃凸部
16 上面部
17 切刃稜線
18 気相合成ダイヤモンド膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性の樹脂・ゴム・ポリウレタンラバー等からなるパッド、例えば、半導体ウエハ等の研磨用パッドの表面を加工・調整するための切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業の進展とともに、金属、半導体、セラミックスなどの表面を高精度に仕上げる加工方法の必要性が高まっている。特に、半導体ウエハは、その集積度の向上とともにナノメーター(1/1000ミクロン)オーダーの表面仕上げが要求されてきており、このため、多孔性のパッド(研磨布)を用いたCMP研磨(ケミカルメカニカルポリッシュ)が一般的に行われている。CMP研磨とは、砥粒等を用いる機械的な研磨と、アルカリ液、酸性液等でエッチングする化学的研磨を組み合わせたものである。
【0003】
半導体ウエハ等の研磨に用いられるパッドは、研磨時間が経過していくにつれ、目詰まりや圧縮変形を生じ、その表面状態が次第に変化していく。すると、研磨速度の低下や不均一研磨等の好ましくない現象が生じるので、パッドの表面を定期的に加工・調整することにより、パッドの表面状態を一定に保って、良好な研磨状態を維持する工夫が行われている。
【0004】
このパッドを加工・調整するために用いられる軟質材加工用切削工具の一例として、特許文献1及び2に開示されているように、基材の表面に、上方に突出する複数の切刃凸部が形成され、切刃凸部の上面部と側面部との交差稜線部に切刃が設けられるとともに、切刃凸部を含む基材の表面には、気相合成されたダイヤモンド膜が設けられたものが提供されている。
このような軟質材加工用切削工具は、その基材の表面を、軸線回りに回転させられているパッドの表面に対して一定の荷重で押し当てることにより、この基材がパッドの回転運動にともなって回転運動を行い、パッドの表面に圧入されている切刃凸部によってパッドの表面を切削して加工・調整していくものである。
【特許文献1】特開平7−328937号公報
【特許文献2】特開平10−44023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば特許文献1及び特許文献2に示された軟質材加工用切削工具のように基材に気相合成ダイヤモンド膜を成長させる場合には、合成条件により表面平滑な気相合成ダイヤモンド膜を合成することが技術的には可能であるが、そのような条件ではダイヤモンド膜の合成速度が著しく遅くなる。そのため、このようなダイヤモンド膜は生産性の観点から工業的には使用できず、一般的に工具向けのダイヤモンド膜としては特定の成長方位に限定されず、かつ膜表面にダイヤモンド粒子の結晶面で形成される大きな凹凸を有した多結晶膜を用いることが多い。
【0006】
この軟質材加工用切削工具を使用した場合には、使用初期においては、気相合成ダイヤモンド膜の表面が非常に粗く、多くの方位を向いた複数の結晶表面がむき出しとされているので、各結晶表面が切刃として作用してしまい、この結晶表面によってパッドが切削されてしまう。
上記の軟質材加工用切削工具の使用の初期段階においては、切刃凸部に設けられた切刃と気相合成ダイヤモンド膜の表面に剥き出された結晶表面とでパッドを切削することになり、単位時間当たりのパッドの切削量を示す値であるパッド除去レートが異常に高い値を示し、その後、使用時間が長くなるにしたがって気相合成ダイヤモンド膜の表面状態が変化し、パット除去レートが著しく低下してしまうといった問題があった。
【0007】
また、上記の軟質材加工用切削工具では、パット除去レートが著しく低下してしまうので、軟質材加工用切削工具の使用状況、つまりダイヤモンド膜の表面状態に応じて切削条件を変更するなどの調整が必要となるため、非常に使いづらいものであった。
また、使用初期のパッド除去レートが顕著に高くなっているので、使用初期の段階では、パッドを必要以上に多く削りすぎてしまうトラブルが発生し、パッドの寿命が短くなってしまうといった問題があった。
【0008】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、使用初期からパッド除去レートが安定しており、切削条件を調整する必要なくパッド表面を加工・調整できる軟質材加工用切削工具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明は、円盤状をなす基材の表面に、切刃稜線を有する切刃凸部が上方に突出して形成され、該切刃凸部の上部には平面状に形成された上面部が形成され、該上面部には気相合成ダイヤモンド膜が設けられており、前記上面部に設けられた前記気相合成ダイヤモンド膜表面の算術平均粗さRaが、0.2μmから2.0μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記の構成の軟質材加工用切削工具では、パッドと接触する切刃凸部の上面部に設けられた気相合成ダイヤモンド膜表面の算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)が、0.2μmから2.0μmに規定されているので、使用状況によってダイヤモンド膜の表面状態が大きく変動せず、使用初期から安定したパッド除去レートを得ることができる。したがって、軟質材加工用切削工具の使用状況に応じて切削条件を変更するなどの調整が不要となる。
また、使用初期のパッド除去レートが適正な速度に調整されているので、パッドの消耗量を抑制し、パッドの寿命を長くすることができる。
【0011】
ここで、ダイヤモンド膜表面の算術平均粗さRaが2.0μmを超える場合には、使用初期のパッド除去レートが比較的高い値を示し、使用状況によってダイヤモンド膜の表面状態が変化してしまうので、使用初期から安定したパッド除去レートを得ることができない。また、ダイヤモンド膜表面の算術平均粗さRaを0.2μmより小さくしても、パッド除去レートをさらに安定化する効果は期待できない。
したがって、本発明においては、パッドと接触する切刃凸部の上面部に設けられた気相合成ダイヤモンド膜表面の算術平均粗さRaを、0.2μmから2.0μmに規定している。
【0012】
また、前記基材の表面に、全面に亘って気相合成ダイヤモンド膜を設けることにより、腐食性の強い酸性、アルカリ性または錯体等の添加剤を含んだ薬液によって溶出の虞がある材料によって基材を構成したとしても、この基材の溶出による汚染を防止することができ、さらに、切刃凸部の強度を向上させることができる。
【0013】
また、前記上面部に設けられた前記気相合成ダイヤモンド膜表面の算術平均粗さRaを0.2μmから0.5μmとすることにより、使用初期からパッド除去レートが安定し、一層安定したコンディショニングが可能となる。
【0014】
また、前記上面部が、該上面部に対向する方向から見て多角形あるいは円形をなしており、前記上面部がなす多角形面の外接円の半径あるいは円形面の半径を、0.03mmから1.0mmの範囲内に設定することにより、加工するために有効なパッド変形を生じさせ、パッド加工性能が確保できるとともに、大きな加工痕がパッドに形成されることを防止してパッド表面の平坦性を確保することができる。なお、このような作用効果を確実に奏功せしめるためには、前記外接円の半径または円形面の半径を、0.05mmから0.5mmの範囲内に設定することが好ましい。
【0015】
また、前記基材は前記表面と対向配置される底面を有し、前記切刃凸部を、前記底面と平行とされた基準面の上に形成し、前記上面部のうち前記底面から最も突出した部分の前記基準面からの高さを、0.02mmから0.5mmの範囲に設定することにより、切刃稜線のパッドへの圧入深さを確保して加工性能を確保できるとともに、加工中の加工速度のばらつきを抑えてパッドを安定して加工することができる。このような作用効果を確実に奏功せしめるためには、前記高さを0.05mmから0.15mmの範囲内に設定することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態について説明する。図1、図2に本実施形態である軟質材加工用切削工具を示す。
軟質材加工用切削工具の基材10は、SiC(炭化珪素)で構成され、軸線Oを中心として、軸線O回りにT方向に回転される略円盤状をなすものであり、この軸線Oと直交する平面と平行に配置された底面11Bと、この底面11Bに対向配置された表面11Aを有する。表面11Aにおける中央領域を除いた径方向外周側の周縁領域には、上方に向けて突出する少なくともひとつの台座12が形成されており、本実施形態では、上方に向けて突出する複数の台座12が周方向で略等間隔に配置されるとともに放射状に配置されるように形成されている。
これらの複数の台座12は、それぞれ同一形状の略正四角柱状を呈しており、略正方形面状をなす上面13の全面が、基材10の表面11Aと略平行な平坦面とされている。そして、この台座12の基材10の表面11Aからの高さH1はウエハの研磨屑やスラリー固形分等の排出の点から、0.05mm≦H1≦2.0mmの範囲内に設定することが好ましく、本実施形態ではH1=0.25mmとされている。
【0017】
また、複数の台座12のそれぞれの上面13(平坦面)において、その周縁領域(台座12における上面13と周面(側面)とが交差してできる略正方形状の交差稜線14を含むような周縁領域)のうち少なくとも回転方向T前方側(略円板状をなす基材10の軸線Oから径方向外周側へ向かって延びる直線よりも前方側)及び後方側(略円板状をなす基材10の軸線Oから径方向外周側へ向かって延びる直線よりも後方側)の領域を除いた領域に、上方に突出する少なくともひとつの切刃凸部15が形成されている。つまり、本実施形態においては、台座12の上面13が、基材10の底面11Bと平行(軸線Oと直交する平面と平行)な基準面とされている。
【0018】
本実施形態では、複数の台座12のそれぞれの上面13において、その周縁領域のうちの回転方向T前方側及び後方側だけでなく、周縁領域のうちの(基材10の)径方向内周側及び外周側の領域を含む周縁領域すべてを除いた中央領域に、上方に突出するひとつの切刃凸部15が形成されている。
なお、これら複数の切刃凸部15も、台座12と同様にそれぞれ同一形状の略正四角柱状を呈しているため、略正方形断面状をなす台座12の上面13は、実際には、その周縁領域のみから構成された略正四角リング面状をなしている。
【0019】
このように、ひとつの台座12のそれぞれに対して、その上面13の中央領域にひとつの切刃凸部15が上方に突出して形成されているため、これら台座12及び切刃凸部15は、外径の大きな略正四角柱状をなす台座12と外径の小さな略正四角柱状をなす切刃凸部15とが同軸に接続されたような2段突起状をなしており、基材10の表面11Aには、複数の台座12と同じ数だけ、複数の切刃凸部15が存在することになる。
【0020】
また、切刃凸部15の略正方形断面状をなす上面部16の全面が、基材10の表面11Aと略平行な平坦面とされている。この切刃凸部15の基準面(台座12の上面13)からの高さH2は、0.02mm≦H2≦0.5mmの範囲内に、より好ましくは0.05mm≦H2≦0.15mmの範囲内に設定されており、本実施形態ではH2=0.05mmとされている。つまり、切刃凸部15の基材10の表面11Aからの高さH(H=H1+H2)は、0.3mmとされているのである。
切刃凸部15における上面部16(平坦面)と周面(側面)とが交差してできる略正方形状の交差稜線が、この切刃凸部15の有する切刃稜線17となっている。
【0021】
また、基材10の表面11Aと一体に形成された切刃凸部15における少なくとも上面部16には、気相合成ダイヤモンド膜18がコーティングされており、本実施形態においては、複数の切刃凸部15を含む基材10の表面11Aの全面が、気相合成ダイヤモンド膜18でコーティングされており、その膜厚tは0.5μmから50μmとされている。
このような気相合成ダイヤモンド膜18は、上記のような複数の台座12と複数の切刃凸部15とを有する基材10に対して、例えば、マイクロ波プラズマを利用する方法や熱フィラメントを利用する方法等の既存の方法を用いることにより、複数の台座12及び複数の切刃凸部15とを含む基材10の表面11Aの全面に亘って形成される。
【0022】
そして、上記の方法で基材10の表面11Aに形成された気相合成ダイヤモンド膜18の表面は、図3に示すように、多くの方位を向く複数の結晶表面が剥き出しとなり非常に粗くなっているので、その表面粗さを調整する必要がある。
気相合成ダイヤモンド膜18の表面粗さを調整するための調整方法としては、900℃程度に加熱保持した鉄板にダイヤモンド膜が形成された基材10を一定圧力で押し付け、鉄板と基材10とを摺動させる方法や、チタンアルミ金属間化合物の板にダイヤモンド膜が形成された基材10を一定圧力で押し付け、チタンアルミ金属間化合物の板と基材10とを摺動させる方法などが挙げられる。また、ラッピングマシン等を使用した遊離砥粒スラリーでの研磨によっても気相合成ダイヤモンド膜18の表面粗さを調整することができる。この場合、さらに研磨効率を高める目的で前記スラリーに酸化作用を有する添加剤を適宜加えても良い。
【0023】
上記の方法により表面粗さが調整された気相合成ダイヤモンド膜18の表面は、図4に示すように、結晶表面が認められない平滑な面とされ、その算術平均粗さRaが0.2μmから0.5μmとされている。つまり、この軟質材加工用切削工具に形成された切刃凸部15の上面部16には、平滑面を有する気相合成ダイヤモンド膜18が被覆されているのである。
【0024】
上記の構成の軟質材加工用切削工具は、基材10の裏面にステンレスや樹脂等からなる板材が貼り付けられたり、基材10がステンレス等の板材に形成された凹みに焼き嵌めされたりして組み付けられてから、実際の加工に用いられることになる。
そして、組み付けられた状態の軟質材加工用切削工具は、その基材10の表面11Aを、軸線O回りに回転させられている多孔性の樹脂・ゴム・(独立気泡を有する)ポリウレタンラバー等からなるパッドの表面に対して一定の荷重で押し当てることにより、基材10がパッドの回転運動にともなって軸線O回りの回転運動(回転方向T)を行い、パッド表面に接地して圧入している複数の切刃凸部15に形成された切刃稜線17で、被切削材としてのパッド表面を切削する。実際には、切刃稜線17をコーティングしている気相合成ダイヤモンド膜18が、パッドの表面を切削することになる。パッドが切削された生成した切屑は、切刃凸部15同士の間に位置する隙間や台座12同士の間に位置する隙間等から排出される。
【0025】
上記の構成の軟質材加工用切削工具では、切刃凸部15の上面部16形成された気相合成ダイヤモンド膜18の表面の算術平均粗さRaが0.2μmから0.5μmとされており、気相合成ダイヤモンド膜18の結晶表面の凹凸が切刃として作用することが少なく、主に切刃凸部15によってパッドが切削されるので、パッド除去レートが使用初期から一定の範囲内で安定しており、切削条件等を調整することなく、長時間使用することができる。
また、初期のパッド除去レートが適正な速度に調整されているので、パッドの消耗量を抑制し、パッドの寿命を長くすることができる。
【0026】
以下に、本発明の一例を用いて比較試験を行うことにより、本発明の有効性を検証した。
試験工具として、SiCで構成された直径100mmの基材10の表面11Aに台座12が放射状に120個設けられ、各台座12の上面13には切刃凸部15がひとつ形成されたものを供した。ここで、台座12は、一辺が0.8mm、高さが0.25mmの正四角柱状とし、切刃凸部15は、一辺が0.15mm、高さが0.05mmの正四角柱状とした。
【0027】
基材10の表面11Aには全面に亘って気相合成ダイヤモンド膜18にてコーティングした。気相合成ダイヤモンド膜18の生成はマイクロ波プラズマCVD法で行われ、投入電力を3000W、圧力を2600Pa、メタンガス/水素比を10/500、成膜時間を10時間として行った。これにより、基材10の表面には、膜厚がおよそ15μmの気相合成ダイヤモンド膜が形成された。
こうして得られた気相合成ダイヤモンド膜18の表面粗さを、レーザー顕微鏡(キーエンス社製VK−8500)を用いて測定した結果、図5に示すようにその粗さ曲線は大きな凹凸を示し、その算術平均粗さRaは4.5μmであった。この気相合成ダイヤモンド膜18の表面粗さを調整していないものを比較例1として試験に供した。
【0028】
また、気相合成ダイヤモンド膜18の表面粗さを調整するために、900℃から1000℃に加熱保持された鉄板に、気相合成ダイヤモンド膜18が形成された基材10の表面11Aを、圧力20kPaで押し付け、基材10と鉄板とを5mm/secの速度で、約10分間摺動させた。こうして得られた気相合成ダイヤモンド膜18の表面粗さを、レーザー顕微鏡(キーエンス社製VK−8500)を用いて測定した結果、図6に示すようにその粗さ曲線はほとんど変動しておらず、その算術平均粗さRaは0.3μmであった。この気相合成ダイヤモンド膜18の表面粗さを調整したものを本発明例1として試験に供した。さらに、本発明例2として、気相合成ダイヤモンド膜18の表面粗さをRa=1.3μmに調整したものを試験に供した。
【0029】
なお、直径100mmの工具の表面調整を、ラッピングマシン等を使用した遊離砥粒による研磨によって行う場合には、定盤回転数を40〜100rpm,工具回転数を45〜105rpm、圧力を1.25〜12.5kPaの範囲に設定し、固形分5%以上の研磨スラリーを25〜200ml/min供給すると良い。ここで、定盤回転数50rpm、工具回転数55rpm、圧力5kPa、固形分20%の研磨スラリー100ml/min、処理時間1時間として研磨を行った結果、上記方法と同様に、表面の算術平均粗さRa0.3μmの気相合成ダイヤモンド膜18を得ることができた。
【0030】
試験機として研磨装置(ムサシノ電子製MA−300)を用い、被切削材として発泡ウレタン質パッド(Rodel社製IC1400)を用い、研磨スラリーとしてSiO2スラリー(Cabot社製SS−25)を用いた。
試験条件は、プラテン回転数(ウレタンパッドの回転数)を90rpm、切削工具の回転数を80rpm、荷重を39.2N、スラリー流量を25ml/minとして、パッドの研削を行った。
【0031】
評価項目であるパッド除去レートは、まず、事前に発泡ウレタン質パッドの高さを測定しておき、この発泡ウレタン質パッドを研削試験に供し、研削後の発泡ウレタン質パッドの高さを測定し、研削前後の発泡ウレタン質パッドの高さの変化を研削時間で除して計算した。ここで、発泡ウレタン質パッドの高さは、マイクロゲージを用いて、パッドの直径(300mm)上を10mm間隔で合計30点測定し、その平均値とした。
【0032】
図7にパッド除去レートと加工時間との関係を示す。比較例では、使用から3時間経過した時点でのパッド除去レートが80μm/hであったのが、使用から7時間経過した時点で50μm/hと約6割程度まで急激に変化している。
一方、本発明例1では、使用から3時間の時点で48μm/hであり、使用から30時間経過した時点でも43μm/hであった。また、本発明例2では、使用から3時間の時点で55μm/hであり、使用から30時間経過した時点でも44μm/hであった。
したがって、本試験により、本発明例では、パッド除去レートが使用初期段階からほとんど変化がなく安定していることが確認された。
【0033】
なお、本実施の形態においては、基材10を構成する材料として、SiC(炭化珪素)を用いて説明したが、基材10を構成する材料に関しては、気相合成ダイヤモンド膜18の生成のしやすさと、台座12、切刃凸部14等の形成のしやすさと、実用に耐えるための機械的特性との観点から、例えば、以下に示すようなものが適しており、これらの材料で構成されていれば良い。
(1)
4a族、5a族、6a族のうちのいずれかの金属もしくはシリコンとの炭化物、窒化物もしくは炭窒化物、
4a族、5a族、6a族のうちのいずれかの金属とシリコンとの炭化物、窒化物もしくは炭窒化物、
シリコン、のうちのいずれか1種、または、これらの複合体。
(2)
4a族、5a族、6a族のうちのいずれかの金属もしくはシリコンとの炭化物、窒化物もしくは炭窒化物のうちの少なくとも1種と、
鉄、ニッケルもしくはコバルトのうちの少なくとも1種との複合体からなる超硬合金。
(3)
シリコンもしくはアルミニウムの窒化物もしくは酸化物のうちいずれか1種、またはこれらの複合体。
【0034】
また、本実施の形態では、基材10の表面11Aには、台座12と切刃凸部15との2段凸部が形成されたもので説明したが、切刃凸部15のみの1段凸部が形成されたものであっても良い。この場合には、基材10の底面11Bと平行な表面11Aが基準面とされる。なお、表面11Aが基準面とされる場合は、切刃凸部15の高さは、0.02mmから0.5mmの範囲内に設定することが好ましく、さらにウェハの研磨屑やスラリー固形分等の排出の点から0.05mmから0.5mmの範囲内に設定することが好ましい。
また、ひとつの台座12にひとつの切刃凸部15が設けられたもので説明したが、ひとつの台座12に複数の切刃凸部15が設けられていても良い。
また、台座12や切刃凸部15の形状を略正四角柱状としたが、円柱状や三角柱状等の他の形状であっても良い。
また、台座12や切刃凸部15の個数や配置、基材10の直径等は、切削条件などを考慮して適宜設定することが好ましい。
【実施例1】
【0035】
以下に、本発明の一例を用いて比較試験を行うことにより、本発明の有効性を検証した結果を示す。
試験工具として、炭化けい素(SiC)で構成された直径100mm、厚さ6mmの基板の表面外周部に台座が円周上等間隔で放射状に60個設けられ、各台座の上面に切刃凸部が1つ形成されたものを供した。ここで、台座は、一辺が1.0mm、高さが0.3mmの正四角柱状とし、切刃凸部は、切刃凸部の最も高い部分(切刃稜線部)の台座の上面からの高さH2を0.05mmとした。これら台座と切刃凸部の表面には、膜厚がおよそ20μmの気相合成ダイヤモンド膜をコーティングした。
【0036】
試験機として研磨装置(ムサシノ電子製MA−300)を用い、被切削材として発泡ウレタン質パッド(Rodel社製IC1400)を用い、メタル研磨用スラリー(3%H2O2)を用いた。
試験条件は、プラテン回転数(ウレタンパッドの回転数)を45rpm、切削工具の回転数を43rpm、荷重を39.2N、スラリー流量を100ml/minとして、パッドの研削を行った。
【0037】
比較例2として、切刃凸部の上面を正三角形とし、この正三角形の外接円の半径D=0.2mm、ダイヤモンド膜表面粗さRa=3.0μmのものを試験に供した。
本発明例3として、切刃凸部の上面を正三角形とし、この正三角形の外接円の半径D=0.015mm、ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例4として、切刃凸部の上面を正三角形とし、この正三角形の外接円の半径D=0.2mm、ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例5として、切刃凸部の上面を正三角形とし、この正三角形の外接円の半径D=1.5mm、ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
【0038】
比較例3として、切刃凸部の上面を正方形とし、この正方形の外接円の半径D=0.2mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=3.0μmのものを試験に供した。
本発明例6として、切刃凸部の上面を正方形とし、この正方形の外接円の半径D=0.015mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例7として、切刃凸部の上面を正方形とし、この正方形の外接円の半径D=0.2mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例8として、切刃凸部の上面を正方形とし、この正方形の外接円の半径D=1.5mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
【0039】
比較例4として、切刃凸部の上面を正八角形とし、この正八角形の外接円の半径D=0.2mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=3.0μmのものを試験に供した。
本発明例9として、切刃凸部の上面を正八角形とし、この正八角形の外接円の半径D=0.015mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例10として、切刃凸部の上面を正八角形とし、この正八角形の外接円の半径D=0.2mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例11として、切刃凸部の上面を正八角形とし、この正八角形の外接円の半径D=1.5mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
【0040】
図8、図9、図10にパッド除去レートと加工時間との関係を示す。比較例2、3、4では、試験初期の除去レートが大きく時間の経過とともに除去レートが大きく低下することが確認された。
本発明例3、6、9では、パッド除去レートは低い値で安定している。これは、切刃凸部がなす正三角形、正方形、正八角形の外接円の半径Dが小さく、パッドを十分に変形させて切刃凸部を深く入り込ませることができないためである。
一方、本発明例4、5、7、8、10、11では、パッド除去レートが高い値で安定していることが確認された。
【0041】
また、本発明例7、8とで加工したパッドの表面粗さを測定した結果、本発明例7ではパッド表面の算術平均粗さRa=4.66μmであり、本発明例8ではパッド表面の算術平均粗さRa=8.74μmであった。これは、切刃凸部がなす正方形の外接円の半径D=1.5mmとした本発明例8では、パッド表面に大きな加工痕が形成されてしまうためである。
【0042】
以上の比較実験の結果から、本発明例においてはパッド除去レートが安定するとともに、切刃凸部の上面は正三角形、正方形、正八角形でも良いことが確認された。
また、これら切刃凸部がなす多角形の外接円の半径Dが小さすぎるとパッド除去レートが低くなり、前記半径Dが大きすぎるとパッドに加工痕が残ってしまうことが確認された。このため、前記半径Dは、0.03〜1.0mmの範囲内とすることが好ましい。
【実施例2】
【0043】
次に、切刃凸部の基準面からの高さの影響について評価するために、切刃凸部の高さを変更して比較実験を行った。なお、切刃凸部以外の形状やサイズ、研削条件等は、実施例1と同様とした。
【0044】
比較例5として、切刃凸部の上面を正方形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.1mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=3.0μmのものを試験に供した。
本発明例12として、切刃凸部の上面を正方形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.015mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例13として、切刃凸部の上面を正方形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.1mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例14として、切刃凸部の上面を正方形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.8mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
【0045】
比較例6として、切刃凸部の上面を正五角形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.1mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=3.0μmのものを試験に供した。
本発明例15として、切刃凸部の上面を正五角形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.015mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例16として、切刃凸部の上面を正五角形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.1mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例17として、切刃凸部の上面を正五角形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.8mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
【0046】
比較例7として、切刃凸部の上面を正六角形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.1mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=3.0μmのものを試験に供した。
本発明例18として、切刃凸部の上面を正六角形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.015mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例19として、切刃凸部の上面を正六角形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.1mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
本発明例20として、切刃凸部の上面を正六角形とし、基準面(台座の上面)からの高さH2=0.8mm,ダイヤモンド膜表面粗さRa=0.5μmのものを試験に供した。
【0047】
図11、図12、図13にパッド除去レートと加工時間との関係を示す。比較例5、6、7では、試験初期の除去レートが大きく時間の経過とともに除去レートが大きく低下することが確認された。
本発明例12、15、18では、パッド除去レートは低い値で安定している。これは、切刃凸部の高さH2が小さくパッドへの圧入深さが不足しているためである。
一方、本発明例13、16、19では、パッド除去レートが高い値で安定していることが確認された。
また、本発明例14、17、20では、それぞれ本発明例13、16、19と比較してパッド除去レートのばらつきが大きくなっている。
このため、切刃凸部の基準面からの高さは、0.02〜0.5mmの範囲内とすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施の形態である軟質材加工用切削工具の基板の上面図である。
【図2】図1におけるA−A断面図である。
【図3】気相合成ダイヤモンド膜が生成された状態の切刃凸部の上面図である。
【図4】気相合成ダイヤモンド膜の表面粗さを調整した状態での切刃凸部の上面図である。
【図5】従来例である気相合成ダイヤモンド膜の表面粗さ曲線である。
【図6】本発明例である気相合成ダイヤモンド膜の表面粗さ曲線である。
【図7】切削工具の使用時間とパッド除去レートの関係を示した図である。
【図8】切刃凸部の上面を正三角形状に形成し、この正三角形の外接円の半径を変更した比較実験の結果を示す図である。
【図9】切刃凸部の上面を正方形状に形成し、この正方形の外接円の半径を変更した比較実験の結果を示す図である。
【図10】切刃凸部の上面を正八角形状に形成し、この正八角形の外接円の半径を変更した比較実験の結果を示す図である。
【図11】切刃凸部の上面を正方形状に形成し、この切刃凸部の基準面からの高さを変更した比較実験の結果を示す図である。
【図12】切刃凸部の上面を正五角形状に形成し、この切刃凸部の基準面からの高さを変更した比較実験の結果を示す図である。
【図13】切刃凸部の上面を正六角形状に形成し、この切刃凸部の基準面からの高さを変更した比較実験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10 基材
11A 表面
11B 底面
12 台座
13 上面(基準面)
15 切刃凸部
16 上面部
17 切刃稜線
18 気相合成ダイヤモンド膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状をなす基材の表面に、切刃稜線を有する切刃凸部が上方に突出して形成され、該切刃凸部の上部には平面状に形成された上面部が形成され、該上面部には気相合成ダイヤモンド膜が設けられており、
前記上面部に設けられた前記気相合成ダイヤモンド膜表面の算術平均粗さRaが、0.2μmから2.0μmであることを特徴とする軟質材加工用切削工具。
【請求項2】
請求項1記載の軟質材加工用切削工具において、
前記基材の表面には、全面に亘って気相合成ダイヤモンド膜が設けられていることを特徴とする軟質材加工用切削工具。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の軟質材加工用切削工具において、
前記上面部に設けられた前記気相合成ダイヤモンド膜表面の算術平均粗さRaが、0.2μmから0.5μmとされたことを特徴とする軟質材加工用切削工具。
【請求項4】
前記上面部は、該上面部に対向する方向から見て多角形あるいは円形をなしており、前記上面部がなす多角形面の外接円の半径あるいは円形面の半径が、0.03mmから1.0mmの範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の軟質材加工用切削工具。
【請求項5】
前記基材は、前記表面と対向配置される底面を有し、前記切刃凸部は、前記底面と平行とされた基準面の上に形成されており、
前記上面部のうち前記底面から最も突出した部分の前記基準面からの高さが、0.02mmから0.5mmの範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の軟質材加工用切削工具。
【請求項1】
円盤状をなす基材の表面に、切刃稜線を有する切刃凸部が上方に突出して形成され、該切刃凸部の上部には平面状に形成された上面部が形成され、該上面部には気相合成ダイヤモンド膜が設けられており、
前記上面部に設けられた前記気相合成ダイヤモンド膜表面の算術平均粗さRaが、0.2μmから2.0μmであることを特徴とする軟質材加工用切削工具。
【請求項2】
請求項1記載の軟質材加工用切削工具において、
前記基材の表面には、全面に亘って気相合成ダイヤモンド膜が設けられていることを特徴とする軟質材加工用切削工具。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の軟質材加工用切削工具において、
前記上面部に設けられた前記気相合成ダイヤモンド膜表面の算術平均粗さRaが、0.2μmから0.5μmとされたことを特徴とする軟質材加工用切削工具。
【請求項4】
前記上面部は、該上面部に対向する方向から見て多角形あるいは円形をなしており、前記上面部がなす多角形面の外接円の半径あるいは円形面の半径が、0.03mmから1.0mmの範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の軟質材加工用切削工具。
【請求項5】
前記基材は、前記表面と対向配置される底面を有し、前記切刃凸部は、前記底面と平行とされた基準面の上に形成されており、
前記上面部のうち前記底面から最も突出した部分の前記基準面からの高さが、0.02mmから0.5mmの範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の軟質材加工用切削工具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−272543(P2006−272543A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58158(P2006−58158)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
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