転がり軸受の欠陥検出装置および転がり軸受の欠陥検出方法
【課題】 転がり軸受から発生する振動を検出し測定時間内における振動信号の一部にのみ、きず等の欠陥に基づくパルスが出ている場合でも、きず等の欠陥を検出することを可能にすること。
【解決手段】 転がり軸受にスラスト荷重を負荷して外輪および内輪を所定の回転数で相対回転させ、振動を振動センサ101で検出し、A/D変換器104でディジタル信号に変換して包絡線処理部105により包絡線信号に変換する。包絡線信号に表れるピークが包絡線信号の実効値にdB倍率を乗じて得られる設定値を超える数をピークカウンタ111で積算し、欠陥判定部112により積算値が所定のしきい値を超えるか否かで転がり軸受におけるきず等の欠陥の有無を判定する。
【解決手段】 転がり軸受にスラスト荷重を負荷して外輪および内輪を所定の回転数で相対回転させ、振動を振動センサ101で検出し、A/D変換器104でディジタル信号に変換して包絡線処理部105により包絡線信号に変換する。包絡線信号に表れるピークが包絡線信号の実効値にdB倍率を乗じて得られる設定値を超える数をピークカウンタ111で積算し、欠陥判定部112により積算値が所定のしきい値を超えるか否かで転がり軸受におけるきず等の欠陥の有無を判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラスト荷重を負荷した状態で回転する転がり軸受から発生する振動を検出し、検出した振動に基づいて転がり軸受におけるきず等の欠陥を検出する転がり軸受の欠陥検出装置および転がり軸受の欠陥検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受のきず等の欠陥を検出するために、図10に示す構成の欠陥検出装置が提案されている。この装置では、転がり軸受のラジアル方向またはアキシャル方向から発生する振動を速度センサまたは加速度センサからなるピックアップ301で検出して増幅器302で信号増幅し、増幅した振動信号から所定の周波数帯域のみを帯域制限フィルタ303で抽出して、A/D変換器304によりディジタル信号に変換する。次いで、このディジタル信号を包絡線処理部305で包絡線処理し、周波数分析部306でFFT(Fast Fourier Transformation:高速フーリエ変換)演算により周波数分析して周波数スペクトルデータに変換する。判定部307では、周波数スペクトルデータの振幅と、内輪きず等の欠陥周波数および外輪きず等の欠陥周波数とを比較評価することにより、転がり軸受におけるきず等の欠陥の有無を判定する。このように、検出した振動のディジタル信号を包絡線処理し、FFT演算により周波数分析してきず等の欠陥の有無を判定する方法を、包絡線FFT方式と称している。
【0003】
この包絡線FFT方式による欠陥検出装置は、例えば、外輪にきず等の欠陥がある転がり軸受から発生する振動を検出した際、図11(a)に示すように、測定時間内のすべてにきず等の欠陥に基づくパルスが出ている場合は、周波数分析部306で周波数分析することにより、図11(b)に示すように、周波数スペクトルにきず等の欠陥があることを示す極大振幅が明瞭に表れる。従って、外輪にきず等の欠陥があることを容易に判定できる。
【0004】
しかしながら、例えば、内輪にきず等の欠陥がある転がり軸受から発生する振動を検出した際に、図12(a)に示すように、測定時間内の一部にのみきず等の欠陥に基づくパルスが出ることがある。このような場合は、FFT演算により周波数分析しても、図12(b)に示すように明瞭な極大振幅が表れず、たとえ転がり軸受にきず等の欠陥があったとしても、それを検出できない虞がある。
【特許文献1】特開2003−232674号公報(第3−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、転がり軸受から発生する振動を検出してきず等の欠陥の有無を判定する際に、測定時間内における振動信号の一部にのみ、きず等の欠陥に基づくパルス波形が出ている場合であっても、きず等の欠陥を検出することのできる転がり軸受の欠陥検出装置および転がり軸受の欠陥検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するため、本発明に係る転がり軸受の欠陥検出装置は、下記(1)〜(4)を特徴としている。
(1) 転がり軸受に所定のスラスト荷重を負荷し、外輪および内輪を所定の回転数で相対回転させて前記転がり軸受から発生する振動を検出し、該検出した振動に基づいて前記転がり軸受における欠陥を検出する転がり軸受の欠陥検出装置であって、
前記転がり軸受から発生する振動を検出して振動信号を生成する振動検出手段と、
該振動信号から所定周波数帯域の振動信号を抽出する周波数フィルタ手段と、
該抽出した所定周波数帯域の振動信号を所定のサンプリング周波数でディジタル信号に変換するアナログ・ディジタル変換手段と、
該ディジタル信号に変換した振動信号を包絡線処理して包絡線信号を生成する包絡線信号処理手段と、
該包絡線信号におけるしきい値以上の極大となるピークの数が所定の設定値を超えた場合に、前記転がり軸受を構成する部材のいずれかに欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受から発生する異物音があると暫定的に判定する第1の欠陥判定手段と、
前記第1の欠陥判定手段によって前記転がり軸受を構成する部材のいずれかに欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受から発生する異物音があると判定された場合の前記包絡線信号について自己相関関数を演算する自己相関関数演算手段と、
該自己相関関数の演算結果で相関が強いことを示すピーク強度が現れる時間遅れ要素(lag)の位置と、前記転がり軸受を構成する部材に欠陥がある場合に、前記転がり軸受の軸受諸元から計算される前記部材毎に特有の欠陥周波数および前記所定のサンプリング周波数に基づいて前記自己相関関数演算を行なうことにより予測される前記部材毎の時間遅れ要素の位置と、を照合することにより、前記転がり軸受の欠陥がある前記部材を特定する第2の欠陥判定手段と、
を備えること。
(2) 上記(1)の構成の転がり軸受の欠陥検出装置において、前記第2の欠陥判定手段が、欠陥がある部材を特定できない場合、前記振動検出手段により検出した振動は、前記転がり軸受から発生する異物音であると判定すること。
(3) 上記(1)または(2)の構成の転がり軸受の欠陥検出装置において、前記しきい値が、前記包絡線信号の実効値に所定のdB倍率を乗じた値であること。
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかの構成の転がり軸受の欠陥検出装置において、前記アナログ・ディジタル変換手段と、前記包絡線信号処理手段と、前記第1の欠陥判定手段と、前記自己相関関数演算手段と、前記第2の欠陥判定手段の少なくともいずれかにおける処理をマイクロコンピュータユニットのプログラムにより実行すること。
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係る転がり軸受の欠陥検出方法は、下記(5)および(6)を特徴としている。
(5) 転がり軸受に所定のスラスト荷重を負荷し、外輪および内輪を所定の回転数で相対回転させて、前記転がり軸受から発生する振動を検出し、該検出した振動に基づいて前記転がり軸受における欠陥を検出する転がり軸受の欠陥検出方法であって、
前記転がり軸受から発生する振動を検出して振動信号を生成し、
該振動信号から所定周波数帯域の振動信号を抽出し、
該周波数帯域を制限した振動信号を所定のサンプリング周波数でディジタル信号に変換し、
該ディジタル信号に変換した振動信号を包絡線処理して包絡線信号を生成し、
該包絡線信号におけるしきい値以上の極大となるピークの数が所定の設定値を超えた場合に、前記転がり軸受を構成する部材のいずれかに欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受から発生する異物音があると暫定的に判定すると共に、
前記転がり軸受を構成する部材のいずれかに欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受から発生する異物音があると判定された場合の前記包絡線信号について自己相関関数を演算し、
該自己相関関数の演算結果で相関が強いことを示すピーク強度が現れる時間遅れ要素(lag)の位置と、前記転がり軸受を構成する部材に欠陥がある場合に、前記転がり軸受の軸受諸元から計算される前記部材毎に特有の欠陥周波数および前記所定のサンプリング周波数に基づいて前記自己相関関数演算を行なうことにより予測される前記部材毎の時間遅れ要素の位置と、を照合することにより、前記転がり軸受の欠陥がある前記部材を特定すること。
(6) 前記時間遅れ要素の位置の照合によって、欠陥がある部材を特定できない場合、前記検出した振動は、前記転がり軸受から発生する異物音であると判定すること。
【0008】
上記(1)の構成の転がり軸受の欠陥検出装置によれば、転がり軸受から発生する振動に基づいてきず等の欠陥の有無を判定できると共に、特に、ミスアライメントを起こす機構を備えた軸受振動測定装置を用いて転がり軸受のきず等の欠陥を検出する際に多発する、測定時間内における振動信号波形の一部にのみきず等の欠陥に基づくパルス波形が出ている場合であっても、きず等の欠陥を効果的に検出することができる。
上記(2)の構成の転がり軸受の欠陥検出装置によれば、転がり軸受のきず等の欠陥と転がり軸受から発生する異物音を分別して検出することができるので、転がり軸受におけるきず等の欠陥の有無を的確に検出することが可能となる。
上記(3)の構成の転がり軸受の欠陥検出装置によれば、転がり軸受におけるきず等の欠陥の有無判定を振動信号の実効値を基にして決定するので、微小きず等の欠陥を効果的に検出することができる。
上記(4)の構成の転がり軸受の欠陥検出装置によれば、ハードウェアの構成を簡単化することができ、装置の小型化および低コスト化が可能となる。
【0009】
また、上記(5)のステップを有する転がり軸受の欠陥検出方法によれば、転がり軸受から発生する振動に基づいてきず等の欠陥の有無を判定できると共に、特に、ミスアライメントを起こす機構を備えた軸受振動測定装置を用いて転がり軸受のきず等の欠陥を検出する際に多発する、測定時間内における振動信号波形の一部にのみきず等の欠陥に基づくパルス波形が出ている場合であっても、きず等の欠陥を効果的に検出することができる。
また、上記(6)のステップを有する転がり軸受の欠陥検出方法によれば、転がり軸受のきず等の欠陥と転がり軸受から発生する異物音を分別して検出することができるので、転がり軸受におけるきず等の欠陥の有無を的確に検出することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、転がり軸受から発生する振動を検出してきず等の欠陥の有無を判定する際に、測定時間内における振動信号の一部にのみ、きず等の欠陥に基づくパルス波形が出ている場合であっても、きず等の欠陥を検出することができる。
【0011】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る一実施形態である転がり軸受の欠陥検出装置は、軸受振動測定装置に装着されて所定のスラスト荷重を負荷され、所定の回転数で回転する転がり軸受から発生する振動により転がり軸受のきず等の欠陥を検出するものである。以下、本発明の転がり軸受の欠陥検出装置の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、転がり軸受の欠陥検出装置の機能的な概略構成を示す図である。
【0013】
図1において、転がり軸受の欠陥検出装置100は、振動検出手段として機能する振動センサ101と、信号増幅回路102と、周波数フィルタ手段として機能するローパスフィルタ(LPF)103と、アナログ・ディジタル変換手段として機能するA/D変換器104と、包絡線信号処理手段として機能する包絡線処理部105と、自己相関関数演算手段として機能する自己相関関数演算器106と、実効値演算器107と、dB倍率設定部108と、乗算器109と、コンパレータ110と、ピークカウンタ111と、第1および第2の欠陥判定手段として機能する欠陥判定部112を有する構成である。
【0014】
なお、図1に示した転がり軸受の欠陥検出装置100は、全体をハードウェアで構成することも可能であるが、図中破線で囲まれたディジタル信号処理を行なう範囲をCPU(中央演算処理装置)およびメモリを備えるマイクロコンピュータユニットで構成して、プログラムで処理することもできる。
【0015】
振動センサ101は、圧電素子や加速度センサ等の振動測定用素子からなり、後述する軸受振動測定装置200の軸受予圧付加機構220に装着される。転がり軸受の欠陥検出装置100は、例えば、転がり軸受10の内輪を1800rpmで回転させた際に発生するアキシャル振動を振動センサ101で所定の測定時間、例えば、0.8秒の間検出して電気信号に変換する。
【0016】
信号増幅回路102は、OPアンプ等から構成される前置増幅器であって、振動センサ101で検出した振動信号を所定レベルの電圧信号に増幅して低インピーダンスで出力する。
【0017】
ローパスフィルタ103は、振動信号に含まれるノイズ等の不要な高周波成分を除去すると共に、周波数帯域をA/D変換器104のサンプリング周波数の1/2以下に制限するもので、OPアンプが組み込まれたアクティブフィルタ等から構成される。
【0018】
A/D変換器104は、ローパスフィルタ103から出力されるアナログ振動信号を、所定のサンプリング周波数、例えば24kHzで、測定時間である0.8秒の間ディジタル信号に変換する。これにより、19200個のデータを得る。
【0019】
包絡線処理部105は、転がり軸受にきず等の欠陥がある場合に発生する周期的な減衰信号を解析するために必要となる包絡線(エンベロープ)処理を行なうもので、A/D変換器104から出力されるディジタル信号についてヒルベルト変換を利用した振幅変調を行なうことにより、プラス側のみの包絡線信号を得る。
【0020】
自己相関関数演算部106は、包絡線処理部105で得られた包絡線信号の時間的な特徴を表す自己相関関数(ACF:Autocorrelation Function)を演算するもので、包絡線信号をデータ数Nの時間関数x(n)としたとき、遅れ時間mの関数、Rxx(m)として次により定義される計算式により演算を行なう。
【0021】
【数1】
但し、Nはデータ数である。
【0022】
自己相関関数を演算した結果は、lagと呼ぶ遅れ時間m毎に元の信号との一致の度合いを表しており、相関が強いlagの位置で強度が上昇する。以後、強度が上昇するlag位置をピッチ周期と呼ぶことにする。
【0023】
以下、包絡線信号について自己相関関数を演算することにより、転がり軸受を構成する部材のいずれにきず等の欠陥があるかを判定できる理由について説明する。
【0024】
測定しようとする転がり軸受の各部材にそれぞれ例えばきず(即ち、欠陥)がある場合、包絡線信号においてピークを示すと予想されるきず周波数(即ち、欠陥周波数)は、軸受諸元から次式によって計算することができる。
【0025】
【数2】
【数3】
【数4】
fr:内輪回転速度(Hz)
Z :転動体の数
α :接触角(度)
Da:転動体直径(mm)
dm:ピッチ円直径(mm)
【0026】
上記の計算式により、きずのある部材毎に包絡線信号の自己相関関数を演算して、それぞれ予測されるピッチ周期を求め、自己相関関数演算部106の出力結果と照合することにより、一致した転がり軸受を構成する部材にきずがあると判定することができる。なお、自己相関関数演算部106の出力結果において、複数のピッチ周期に強度がある場合は、異なる複数の部材にきずがあると判定することができる。
【0027】
但し、サンプリング周波数が有限であり、かつ内輪回転数には揺らぎがあり、また軸受諸元には公差があるので、ピッチ周期の確認にはある程度の幅を許容する必要がある。
【0028】
次に、上記の自己相関関数を用いることによって転がり軸受を構成する部材にきずがあることを判定した実施例について、図面を用いて説明する。図4〜図8は、軸受内輪を回転数1800rpmで回転させて測定した際の、それぞれ、転がり軸受にきずがない場合、外輪にきずがある場合、内輪にきずがある場合、ボール(即ち、転動体)にきずがある場合、転がり軸受から異物音が発生している場合における振動信号の波形、および自己相関関数演算を行なった結果の波形を示すものである。
【0029】
図4(a)は、きずがなく良品と思われる転がり軸受から発生する振動信号の波形であり、部材にきずがある場合に特有のパルス状ピークが現れていない。図4(b)に示す自己相関関数演算を行なった結果の波形では、特徴的なピッチ周期が現れておらず、自己相関性が低いことを示している。なお、自己相関関数演算を行なった結果の波形は、lagが0の位置を中心に正負両側に計算されているが、きず判定に用いるピッチ周期は正負いずれか一方の側でよい。
【0030】
図5(a)は、外輪にきずがある場合の振動信号波形であり、測定時間0.8秒の初期にきずがある場合に特有のピークが現れている。図5(a)に示す振動信号を基にした包絡線信号の波形について自己相関関数演算を行なった結果、図5(b)に示すように、ピッチ周期250付近で強度が上昇している波形が得られた。
【0031】
一方、式(2)によって求められる外輪のきず周波数94.6Hzと、A/D変換器104のサンプリング周波数24kHzを基にして自己相関関数演算を行なった場合のピッチ周期は254であり、図5(b)における波形のピッチ周期250付近のピークと良い一致が見られた。
【0032】
図6(a)に示す内輪にきずがある場合の振動信号波形では、測定時間0.8秒の終期にきずを示すピーク波形が出ており、包絡線信号について自己相関関数演算を行なった結果、図6(b)に示す波形が得られた。ピッチ周期160付近で強度が上昇しており、これは、式(3)によって求められる内輪のきず周波数146.9Hzを基にして演算した自己相関関数のピッチ周期163と良い一致を示している。
【0033】
同様に、ボールにきずがある場合の図7(a)に示す振動信号波形を基にした包絡線信号について自己相関関数演算を行なった結果、図7(b)に示す波形が得られ、190付近のピッチ周期に強度が上昇している。これは、式(4)で計算したボールのきず周波数123.2Hzから予測される自己相関関数のピッチ周期195に近似した値である。
【0034】
また、図8(a)、(b)は、転がり軸受から異物音が発生している場合のそれぞれ振動信号および自己相関関数演算を行なった結果の各波形を示すものであり、振動信号の波形には測定時間の全域にわたって小さいピークがあるものの、自己相関関数演算の出力結果には良品と同様に強度を示すピークが見られない。このような場合は、後述するように、包絡線信号のピーク数カウントの結果と合わせて、転がり軸受から発生した異物音である判定する。
【0035】
このように、測定時間における振動信号の一部にきずがあることを示すパルス状のピーク波形が現れる場合に、包絡線信号について自己相関関数演算を行なった波形で強度が上昇するピッチ周期と、転がり軸受を構成する部材毎のきず周波数から計算によって予測されるピッチ周期とを照合してその一致を調べることにより、きずのある部材を特定することができる。
【0036】
図1に戻り、転がり軸受の欠陥検出装置の構成について、説明を続ける。
【0037】
図1において、実効値演算器107は、によって求められた包絡線信号の実効値に乗ずる倍率をdB値で設定するものである。
【0038】
実効値演算器107は、包絡線処理部105によって得られた包絡線信号について、次に示す式(5)により実効値を計算するものである。
【0039】
【数5】
【0040】
dB倍率設定部108は、実効値演算器107によって求められた包絡線信号の実効値に乗ずる倍率をdB値で設定するものである。
【0041】
乗算器109は、実効値演算器107で求められた包絡線信号の実効値にdB倍率設定部108によって設定されたdB倍率を乗算する。乗算された値はコンパレータ110におけるピーク抽出のためのしきい値となる。
【0042】
コンパレータ110は、包絡線処理部105によって得られた包絡線信号と、包絡線信号の実効値にdB倍率をかけることにより得られるしきい値を比較し、しきい値より大きい包絡線信号波形におけるピーク(極大を示す振幅)を抽出する。
【0043】
図9は、包絡線処理部105によって得られた包絡線信号と、実効値演算器107によって求められた実効値および乗算器109の出力結果であるピーク抽出のためのしきい値をそれぞれ例示する図である。
【0044】
ピークカウンタ111は、コンパレータ110によって抽出されたピークを計数するもので、図9に示すピークカウントレベル以上のピークをカウントする。これは、ピークカウント方式と呼ばれ、微小きず等の欠陥の判定に好適に用いられる。
【0045】
欠陥判定部112は、ピークカウンタ111によって計数したピークの数が予め定めたNG限界値を越していれば、対象の転がり軸受にきず等の欠陥があると判定する。そして、きず等の欠陥があると判定した場合は、前述したように、自己相関関数演算器106による演算結果から転がり軸受を構成する部材のいずれにきず等の欠陥があるかを判定する。更に、ピークカウンタ111による計数結果で、きず等の欠陥があると判定したにもかかわらず、自己相関関数演算器106による演算結果の波形にピークが表れない場合、欠陥判定部112は、転がり軸受のきず等の欠陥以外の、転がり軸受の内部で発生している異物音と判定する。
【0046】
判定結果は、図示しない液晶ディスプレイ等の表示装置に送出されて作業者の視認に供されたり、或いはパソコン等に伝送されて生産管理システムにおけるデータとして活用される。
【0047】
次に、以上説明した本実施形態に係る転がり軸受の欠陥検出装置によって、転がり軸受のきず等の欠陥を検出する際に、検出対象の転がり軸受を装着して所定のスラスト荷重を負荷し、所定の回転数で回転させる軸受振動測定装置について説明する。図2は、転がり軸受にミスアライメントを起こさせるスラスト荷重を負荷するための軸受振動測定装置の概略構成を示す図である。
【0048】
図2において、軸受振動測定装置200は、スピンドルアーバ210と、軸受予圧付加機構220と、駆動機構230と、ピエゾ制御回路240を有し、振動センサ101が軸受予圧付加機構220の円板部220bの中央部に固定される構成である。なお、一点鎖線Aは、転がり軸受10に正スラスト荷重が負荷された状態で、軸受10、スピンドルアーバ210、軸受予圧機構220および駆動機構230の軸心を通る中心線を示している。
【0049】
きず等の欠陥の検出対象物である転がり軸受10は、例えばラジアル深溝玉軸受であって、内輪11、外輪12、および内外輪11、12の間で周方向に転動自在に配設された複数のボール(即ち、転動体)13を備えている。
【0050】
振動センサ101は、軸受予圧付加機構220の円板部220bの中央部に固定され、駆動機構230を介して、転がり軸受10の内輪11、外輪12、およびボール13に生じる振動を検出する。振動センサ101により検出された振動信号は、ケーブル250を介して転がり軸受の欠陥検出装置100の信号増幅回路102に入力される。
【0051】
スピンドルアーバ210は、内輪11の一端面11aに当接する第1軸部210aと、第1軸部210aの中央部から同心に突出形成され、内輪11に内嵌される第2軸部210bを有し、インバータで駆動される図示しないモータの回転軸に連結されて、所定の回転数で回転する。
【0052】
駆動機構230は、一端が軸受予圧付加機構220の円板部220b上に固定され、他端が転がり軸受10の外輪12の一端面12bにそれぞれ120°の間隔を置いて当接するように配置された3個の円柱状ピエゾ素子からなり、ピエゾ制御回路240から供給されるピエゾ駆動信号により軸方向に伸縮する。
【0053】
軸受予圧付加機構220は、スピンドルアーバ210に対向して配置され、軸部220aと同心に形成された円板部220bにより、駆動機構230の円柱状ピエゾ素子を介して軸受10の外輪12の他端面102bに所定の予圧荷重を負荷する。
【0054】
ピエゾ制御回路240は、不図示のCPU(中央演算装置)を備え、処理プログラムに従って120°の位相差を有する3相ピエゾ駆動信号を生成し、3個のピエゾ素子に送出する。これにより、3個のピエゾ素子はそれぞれ120°の位相差で伸縮可能となり、転がり軸受10に対してミスアライメントを起こすスラスト荷重を負荷する。
【0055】
なお、ピエゾ制御回路240によって所定レベルの直流電圧、または同相の交番電圧を3個のピエゾ素子に加えれば、転がり軸受10に対してそれぞれ静的な正スラスト荷重、および交番スラスト荷重を与えることができる。また、ピエゾ素子に代えて、棒状の剛体若しくは弾性体を使用することによっても、転がり軸受10に対して静的な正スラスト荷重を加えることができる(この場合、ピエゾ素子の駆動に必要なピエゾ制御回路240等は不要となることは言うまでもない。)。尚、転がり軸受10に対して静的な正スラスト荷重を加えるための機構の公知例としては、特開2002−350289号公報の図4に示されるものが挙げられる。
【0056】
このように、軸受振動測定装置を使用することにより、転がり軸受のきず等の欠陥を検出する際の測定条件に応じてスラスト荷重の種類を適宜選択することが可能である。
【0057】
次に、以上のように構成された転がり軸受の欠陥検出装置100の動作について説明する。図3は、本実施形態の転がり軸受の欠陥検出装置における処理手順を説明するためのフローチャートである。尚、検出される欠陥として、きずを例に挙げて説明する。
【0058】
まず、軸受振動測定装置200の軸受予圧付加機構220によりミスアライメントを起こすようにスラスト荷重を負荷され、所定の回転数で回転する転がり軸受10から発生する振動を振動センサ101で検出し、振動信号を生成する(ステップS101)。
【0059】
振動信号は、ケーブル250を介して信号増幅器102に送られ、A/D変換器104のダイナミックレンジを考慮したレベルまで増幅される(ステップS102)。
【0060】
増幅された振動信号は、ローパスフィルタ103を通過させることによって周波数帯域がA/D変換器104のサンプリング周波数の1/2以下に制限される(ステップS103)。
【0061】
ステップS104では、ローパスフィルタ103によって帯域制限されたアナログ振動信号を、例えば、測定時間である0.8秒間ディジタル信号に変換する。
【0062】
ディジタル信号に変換された振動信号は、包絡線処理部105で包絡線処理を行なって包絡線信号に変換し(ステップS105)、実効値演算器107により包絡線信号の実効値を算出する(ステップS106)。
【0063】
続いて、算出した包絡線信号の実効値に、dB倍率設定部108で予め定めたdB倍率を乗算器109で掛けて包絡線信号のピークを抽出するためのしきい値を生成する(ステップS107)。
【0064】
コンパレータ110では、このしきい値を包絡線信号と比較して、図9に示すように、しきい値レベルを超えた包絡線信号のピークを抽出する(ステップS108)。
【0065】
抽出したピークは、ピークカウンタ111で積算し(ステップS109)、欠陥判定部112において、積算値が予め定めた設定値以上であるか否かを判定する(ステップS110)。
【0066】
その結果、積算値数が設定値に満たない場合は、欠陥判定部112において、対象の転がり軸受はきずがない良品であると判定され(ステップS111)、軸受振動測定装置200の動作が停止されて処理が終了する。
【0067】
一方、ステップS110で積算値が設定値以上であると判定された場合は、自己相関関数演算部106において、包絡線処理された振動信号に対して自己相関関数演算を行なう(ステップS112)。
【0068】
次いで、欠陥判定部112において、自己相関関数の演算結果におけるピッチ周期が外輪きず周波数から予測した外輪予測ピッチ周期と一致するか否かが判定される(ステップS113)。その結果、一致すると判定された場合は転がり軸受10の外輪12にきずがあると判定する(ステップS114)。
【0069】
ステップS113で自己相関関数の演算結果におけるピッチ周期の値が外輪にきずがある場合のピッチ周期予測値と一致しない場合は、ステップS115において、自己相関関数の演算結果におけるピッチ周期が内輪きず周波数から予測した内輪予測ピッチ周期と一致するか否かが判定される。
【0070】
その結果、自己相関関数の演算結果におけるピッチ周期の値が内輪にきずがある場合のピッチ周期予測値に一致すると判定された場合は、内輪11にきずがあると判定する(ステップS116)。
【0071】
ステップS115において自己相関関数の演算結果におけるピッチ周期の値が内輪にきずがある場合のピッチ周期予測値と一致しない場合は、自己相関関数の演算結果におけるピッチ周期がボールきず周波数から予測したボール予測ピッチ周期に一致するか否かが判定される(ステップS117)。その結果、自己相関関数の演算結果におけるピッチ周期の値がボールにきずがある場合のピッチ周期予測値に一致すると判定された場合は、ボール13にきずがあると判定する(ステップS118)。
【0072】
一方、ステップS117において、自己相関関数の演算結果におけるピッチ周期の値がボールにきずがある場合のピッチ周期予測値と一致しない場合は、振動センサ101が転がり軸受10から発生している異物音を拾っていると判定され(ステップS119)、軸受振動測定装置200が停止されて処理が終了する。
このように、ステップS110、ステップS111、ステップS113、ステップS114、ステップS115、ステップS116、ステップS117、ステップS118、ステップS119は、欠陥判定部112により実行される。特に、ステップS110およびステップS111は、欠陥判定部112が第1の欠陥判定手段として機能した際に実行され、そしてステップS113、ステップS114、ステップS115、ステップS116、ステップS117、ステップS118、およびステップS119は、欠陥判定部112が第2の欠陥判定手段として機能した際に実行される。
【0073】
以上、説明したように、本発明に係る転がり軸受の欠陥検出装置の実施形態によれば、軸受振動測定装置200に装着した転がり軸受10に所定のスラスト荷重を負荷して内輪を所定の回転数で回転させて、転がり軸受10から発生する振動を検出し、検出した振動信号をディジタル信号に変換して包絡線処理する。そして、得られた包絡線信号から所定レベル以上のピークを抽出してピーク数をカウントし、ピーク数が所定のしきい値を超えるか否かで転がり軸受10におけるきず等の欠陥および当該欠陥以外で転がり軸受10から発生する異物音の有無を暫定的に判定する。
【0074】
転がり軸受10にきず等の欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受10から発生する異物音があると暫定的に判定された場合は、包絡線信号を自己相関関数演算し、演算結果において強度が上昇したピッチ周期が、転がり軸受10の諸元から計算した外輪、内輪、ボールの各欠陥周波数に基づいて予測されるそれぞれのピッチ周期のいずれに一致するかを判定することにより、転がり軸受10のきず等の欠陥がある部材を特定する。このようにしても、転がり軸受10におけるきず等の欠陥がある部材を特定できない場合には、振動センサ101により検出された振動が、転がり軸受10から発生する異物音であると判定される。
【0075】
これにより、測定時間内における振動信号の一部にのみ、きず等の欠陥に基づくパルスが出ている場合であっても、きず等の欠陥を効果的に検出することができる。
【0076】
本発明は、測定時間内における振動信号の一部にのみ、きず等の欠陥に基づくパルスが出ている場合であっても、きず等の欠陥を検出することが可能な転がり軸受の欠陥検出装置を提供できる効果を有し、転がり軸受から発生する振動を検出することにより、きず等の欠陥を検出する転がり軸受の欠陥検出装置および検出方法等に有用である。
【0077】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、前述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係る実施形態である転がり軸受の欠陥検出装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施形態において使用する軸受振動測定装置の概略構成を示す図である。
【図3】本発明に係る実施形態である転がり軸受の欠陥検出装置における処理手順を説明するためのフローチャートである。
【図4】(a)は、きずがない転がり軸受から検出した振動信号の波形を示す図、そして(b)は、きずがない転がり軸受の包絡線信号について自己相関関数演算を行なった場合の波形を示す図である。
【図5】(a)は、外輪にきずがある転がり軸受から検出した振動信号の波形を示す図、そして(b)は、外輪にきずがある転がり軸受の包絡線信号について自己相関関数演算を行なった場合の波形を示す図である。
【図6】(a)は、内輪にきずがある転がり軸受から検出した振動信号の波形を示す図、そして(b)は、内輪にきずがある転がり軸受の包絡線信号について自己相関関数演算を行なった場合の波形を示す図である。
【図7】(a)は、ボールにきずがある転がり軸受から検出した振動信号の波形を示す図、そして(b)は、ボールにきずがある転がり軸受の包絡線信号について自己相関関数演算を行なった場合の波形を示す図である。
【図8】(a)は、転がり軸受から発生している異物音を検出した場合の振動信号の波形を示す図、そして(b)は、異物音の包絡線信号について自己相関関数演算を行なった場合の波形を示す図である。
【図9】ピークカウント方式を説明するための図である。
【図10】従来の転がり軸受の欠陥検出装置の概略構成を示す図である。
【図11】(a)は、測定時間内の全てにわたり転がり軸受にきずがあることを示すピークが出ている振動信号の波形を示す図、そして(b)は、測定時間内の全てにわたり転がり軸受にきずがあることを示すピークが出ている振動信号を包絡線FFT処理した波形を示す図である。
【図12】(a)は、測定時間内の一部に転がり軸受にきずがあることを示すパルスが出ている振動信号の波形を示す図、そして(b)は、測定時間内の一部に転がり軸受にきずがあることを示すピークが出ている振動信号を包絡線FFT処理した波形を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
10 転がり軸受
11 内輪
12 外輪
13 ボール
100 転がり軸受の欠陥検出装置
101 振動センサ(振動検出手段)
102 信号増幅回路
103 ローパスフィルタ(周波数フィルタ手段)
104 A/D変換器(アナログ・ディジタル変換手段)
105 包絡線処理部(包絡線信号処理手段)
106 自己相関関数演算器(自己相関関数演算手段)
107 実効値演算器
108 dB倍率設定部
109 乗算器
110 コンパレータ
111 ピークカウンタ
112 欠陥判定部(第1の欠陥判定手段、第2の欠陥判定手段)
200 軸受振動測定装置
210 スピンドルアーバ
220 軸受予圧付加機構
230 駆動機構(ピエゾ素子)
240 ピエゾ制御回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラスト荷重を負荷した状態で回転する転がり軸受から発生する振動を検出し、検出した振動に基づいて転がり軸受におけるきず等の欠陥を検出する転がり軸受の欠陥検出装置および転がり軸受の欠陥検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転がり軸受のきず等の欠陥を検出するために、図10に示す構成の欠陥検出装置が提案されている。この装置では、転がり軸受のラジアル方向またはアキシャル方向から発生する振動を速度センサまたは加速度センサからなるピックアップ301で検出して増幅器302で信号増幅し、増幅した振動信号から所定の周波数帯域のみを帯域制限フィルタ303で抽出して、A/D変換器304によりディジタル信号に変換する。次いで、このディジタル信号を包絡線処理部305で包絡線処理し、周波数分析部306でFFT(Fast Fourier Transformation:高速フーリエ変換)演算により周波数分析して周波数スペクトルデータに変換する。判定部307では、周波数スペクトルデータの振幅と、内輪きず等の欠陥周波数および外輪きず等の欠陥周波数とを比較評価することにより、転がり軸受におけるきず等の欠陥の有無を判定する。このように、検出した振動のディジタル信号を包絡線処理し、FFT演算により周波数分析してきず等の欠陥の有無を判定する方法を、包絡線FFT方式と称している。
【0003】
この包絡線FFT方式による欠陥検出装置は、例えば、外輪にきず等の欠陥がある転がり軸受から発生する振動を検出した際、図11(a)に示すように、測定時間内のすべてにきず等の欠陥に基づくパルスが出ている場合は、周波数分析部306で周波数分析することにより、図11(b)に示すように、周波数スペクトルにきず等の欠陥があることを示す極大振幅が明瞭に表れる。従って、外輪にきず等の欠陥があることを容易に判定できる。
【0004】
しかしながら、例えば、内輪にきず等の欠陥がある転がり軸受から発生する振動を検出した際に、図12(a)に示すように、測定時間内の一部にのみきず等の欠陥に基づくパルスが出ることがある。このような場合は、FFT演算により周波数分析しても、図12(b)に示すように明瞭な極大振幅が表れず、たとえ転がり軸受にきず等の欠陥があったとしても、それを検出できない虞がある。
【特許文献1】特開2003−232674号公報(第3−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、転がり軸受から発生する振動を検出してきず等の欠陥の有無を判定する際に、測定時間内における振動信号の一部にのみ、きず等の欠陥に基づくパルス波形が出ている場合であっても、きず等の欠陥を検出することのできる転がり軸受の欠陥検出装置および転がり軸受の欠陥検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するため、本発明に係る転がり軸受の欠陥検出装置は、下記(1)〜(4)を特徴としている。
(1) 転がり軸受に所定のスラスト荷重を負荷し、外輪および内輪を所定の回転数で相対回転させて前記転がり軸受から発生する振動を検出し、該検出した振動に基づいて前記転がり軸受における欠陥を検出する転がり軸受の欠陥検出装置であって、
前記転がり軸受から発生する振動を検出して振動信号を生成する振動検出手段と、
該振動信号から所定周波数帯域の振動信号を抽出する周波数フィルタ手段と、
該抽出した所定周波数帯域の振動信号を所定のサンプリング周波数でディジタル信号に変換するアナログ・ディジタル変換手段と、
該ディジタル信号に変換した振動信号を包絡線処理して包絡線信号を生成する包絡線信号処理手段と、
該包絡線信号におけるしきい値以上の極大となるピークの数が所定の設定値を超えた場合に、前記転がり軸受を構成する部材のいずれかに欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受から発生する異物音があると暫定的に判定する第1の欠陥判定手段と、
前記第1の欠陥判定手段によって前記転がり軸受を構成する部材のいずれかに欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受から発生する異物音があると判定された場合の前記包絡線信号について自己相関関数を演算する自己相関関数演算手段と、
該自己相関関数の演算結果で相関が強いことを示すピーク強度が現れる時間遅れ要素(lag)の位置と、前記転がり軸受を構成する部材に欠陥がある場合に、前記転がり軸受の軸受諸元から計算される前記部材毎に特有の欠陥周波数および前記所定のサンプリング周波数に基づいて前記自己相関関数演算を行なうことにより予測される前記部材毎の時間遅れ要素の位置と、を照合することにより、前記転がり軸受の欠陥がある前記部材を特定する第2の欠陥判定手段と、
を備えること。
(2) 上記(1)の構成の転がり軸受の欠陥検出装置において、前記第2の欠陥判定手段が、欠陥がある部材を特定できない場合、前記振動検出手段により検出した振動は、前記転がり軸受から発生する異物音であると判定すること。
(3) 上記(1)または(2)の構成の転がり軸受の欠陥検出装置において、前記しきい値が、前記包絡線信号の実効値に所定のdB倍率を乗じた値であること。
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかの構成の転がり軸受の欠陥検出装置において、前記アナログ・ディジタル変換手段と、前記包絡線信号処理手段と、前記第1の欠陥判定手段と、前記自己相関関数演算手段と、前記第2の欠陥判定手段の少なくともいずれかにおける処理をマイクロコンピュータユニットのプログラムにより実行すること。
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係る転がり軸受の欠陥検出方法は、下記(5)および(6)を特徴としている。
(5) 転がり軸受に所定のスラスト荷重を負荷し、外輪および内輪を所定の回転数で相対回転させて、前記転がり軸受から発生する振動を検出し、該検出した振動に基づいて前記転がり軸受における欠陥を検出する転がり軸受の欠陥検出方法であって、
前記転がり軸受から発生する振動を検出して振動信号を生成し、
該振動信号から所定周波数帯域の振動信号を抽出し、
該周波数帯域を制限した振動信号を所定のサンプリング周波数でディジタル信号に変換し、
該ディジタル信号に変換した振動信号を包絡線処理して包絡線信号を生成し、
該包絡線信号におけるしきい値以上の極大となるピークの数が所定の設定値を超えた場合に、前記転がり軸受を構成する部材のいずれかに欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受から発生する異物音があると暫定的に判定すると共に、
前記転がり軸受を構成する部材のいずれかに欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受から発生する異物音があると判定された場合の前記包絡線信号について自己相関関数を演算し、
該自己相関関数の演算結果で相関が強いことを示すピーク強度が現れる時間遅れ要素(lag)の位置と、前記転がり軸受を構成する部材に欠陥がある場合に、前記転がり軸受の軸受諸元から計算される前記部材毎に特有の欠陥周波数および前記所定のサンプリング周波数に基づいて前記自己相関関数演算を行なうことにより予測される前記部材毎の時間遅れ要素の位置と、を照合することにより、前記転がり軸受の欠陥がある前記部材を特定すること。
(6) 前記時間遅れ要素の位置の照合によって、欠陥がある部材を特定できない場合、前記検出した振動は、前記転がり軸受から発生する異物音であると判定すること。
【0008】
上記(1)の構成の転がり軸受の欠陥検出装置によれば、転がり軸受から発生する振動に基づいてきず等の欠陥の有無を判定できると共に、特に、ミスアライメントを起こす機構を備えた軸受振動測定装置を用いて転がり軸受のきず等の欠陥を検出する際に多発する、測定時間内における振動信号波形の一部にのみきず等の欠陥に基づくパルス波形が出ている場合であっても、きず等の欠陥を効果的に検出することができる。
上記(2)の構成の転がり軸受の欠陥検出装置によれば、転がり軸受のきず等の欠陥と転がり軸受から発生する異物音を分別して検出することができるので、転がり軸受におけるきず等の欠陥の有無を的確に検出することが可能となる。
上記(3)の構成の転がり軸受の欠陥検出装置によれば、転がり軸受におけるきず等の欠陥の有無判定を振動信号の実効値を基にして決定するので、微小きず等の欠陥を効果的に検出することができる。
上記(4)の構成の転がり軸受の欠陥検出装置によれば、ハードウェアの構成を簡単化することができ、装置の小型化および低コスト化が可能となる。
【0009】
また、上記(5)のステップを有する転がり軸受の欠陥検出方法によれば、転がり軸受から発生する振動に基づいてきず等の欠陥の有無を判定できると共に、特に、ミスアライメントを起こす機構を備えた軸受振動測定装置を用いて転がり軸受のきず等の欠陥を検出する際に多発する、測定時間内における振動信号波形の一部にのみきず等の欠陥に基づくパルス波形が出ている場合であっても、きず等の欠陥を効果的に検出することができる。
また、上記(6)のステップを有する転がり軸受の欠陥検出方法によれば、転がり軸受のきず等の欠陥と転がり軸受から発生する異物音を分別して検出することができるので、転がり軸受におけるきず等の欠陥の有無を的確に検出することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、転がり軸受から発生する振動を検出してきず等の欠陥の有無を判定する際に、測定時間内における振動信号の一部にのみ、きず等の欠陥に基づくパルス波形が出ている場合であっても、きず等の欠陥を検出することができる。
【0011】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る一実施形態である転がり軸受の欠陥検出装置は、軸受振動測定装置に装着されて所定のスラスト荷重を負荷され、所定の回転数で回転する転がり軸受から発生する振動により転がり軸受のきず等の欠陥を検出するものである。以下、本発明の転がり軸受の欠陥検出装置の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、転がり軸受の欠陥検出装置の機能的な概略構成を示す図である。
【0013】
図1において、転がり軸受の欠陥検出装置100は、振動検出手段として機能する振動センサ101と、信号増幅回路102と、周波数フィルタ手段として機能するローパスフィルタ(LPF)103と、アナログ・ディジタル変換手段として機能するA/D変換器104と、包絡線信号処理手段として機能する包絡線処理部105と、自己相関関数演算手段として機能する自己相関関数演算器106と、実効値演算器107と、dB倍率設定部108と、乗算器109と、コンパレータ110と、ピークカウンタ111と、第1および第2の欠陥判定手段として機能する欠陥判定部112を有する構成である。
【0014】
なお、図1に示した転がり軸受の欠陥検出装置100は、全体をハードウェアで構成することも可能であるが、図中破線で囲まれたディジタル信号処理を行なう範囲をCPU(中央演算処理装置)およびメモリを備えるマイクロコンピュータユニットで構成して、プログラムで処理することもできる。
【0015】
振動センサ101は、圧電素子や加速度センサ等の振動測定用素子からなり、後述する軸受振動測定装置200の軸受予圧付加機構220に装着される。転がり軸受の欠陥検出装置100は、例えば、転がり軸受10の内輪を1800rpmで回転させた際に発生するアキシャル振動を振動センサ101で所定の測定時間、例えば、0.8秒の間検出して電気信号に変換する。
【0016】
信号増幅回路102は、OPアンプ等から構成される前置増幅器であって、振動センサ101で検出した振動信号を所定レベルの電圧信号に増幅して低インピーダンスで出力する。
【0017】
ローパスフィルタ103は、振動信号に含まれるノイズ等の不要な高周波成分を除去すると共に、周波数帯域をA/D変換器104のサンプリング周波数の1/2以下に制限するもので、OPアンプが組み込まれたアクティブフィルタ等から構成される。
【0018】
A/D変換器104は、ローパスフィルタ103から出力されるアナログ振動信号を、所定のサンプリング周波数、例えば24kHzで、測定時間である0.8秒の間ディジタル信号に変換する。これにより、19200個のデータを得る。
【0019】
包絡線処理部105は、転がり軸受にきず等の欠陥がある場合に発生する周期的な減衰信号を解析するために必要となる包絡線(エンベロープ)処理を行なうもので、A/D変換器104から出力されるディジタル信号についてヒルベルト変換を利用した振幅変調を行なうことにより、プラス側のみの包絡線信号を得る。
【0020】
自己相関関数演算部106は、包絡線処理部105で得られた包絡線信号の時間的な特徴を表す自己相関関数(ACF:Autocorrelation Function)を演算するもので、包絡線信号をデータ数Nの時間関数x(n)としたとき、遅れ時間mの関数、Rxx(m)として次により定義される計算式により演算を行なう。
【0021】
【数1】
但し、Nはデータ数である。
【0022】
自己相関関数を演算した結果は、lagと呼ぶ遅れ時間m毎に元の信号との一致の度合いを表しており、相関が強いlagの位置で強度が上昇する。以後、強度が上昇するlag位置をピッチ周期と呼ぶことにする。
【0023】
以下、包絡線信号について自己相関関数を演算することにより、転がり軸受を構成する部材のいずれにきず等の欠陥があるかを判定できる理由について説明する。
【0024】
測定しようとする転がり軸受の各部材にそれぞれ例えばきず(即ち、欠陥)がある場合、包絡線信号においてピークを示すと予想されるきず周波数(即ち、欠陥周波数)は、軸受諸元から次式によって計算することができる。
【0025】
【数2】
【数3】
【数4】
fr:内輪回転速度(Hz)
Z :転動体の数
α :接触角(度)
Da:転動体直径(mm)
dm:ピッチ円直径(mm)
【0026】
上記の計算式により、きずのある部材毎に包絡線信号の自己相関関数を演算して、それぞれ予測されるピッチ周期を求め、自己相関関数演算部106の出力結果と照合することにより、一致した転がり軸受を構成する部材にきずがあると判定することができる。なお、自己相関関数演算部106の出力結果において、複数のピッチ周期に強度がある場合は、異なる複数の部材にきずがあると判定することができる。
【0027】
但し、サンプリング周波数が有限であり、かつ内輪回転数には揺らぎがあり、また軸受諸元には公差があるので、ピッチ周期の確認にはある程度の幅を許容する必要がある。
【0028】
次に、上記の自己相関関数を用いることによって転がり軸受を構成する部材にきずがあることを判定した実施例について、図面を用いて説明する。図4〜図8は、軸受内輪を回転数1800rpmで回転させて測定した際の、それぞれ、転がり軸受にきずがない場合、外輪にきずがある場合、内輪にきずがある場合、ボール(即ち、転動体)にきずがある場合、転がり軸受から異物音が発生している場合における振動信号の波形、および自己相関関数演算を行なった結果の波形を示すものである。
【0029】
図4(a)は、きずがなく良品と思われる転がり軸受から発生する振動信号の波形であり、部材にきずがある場合に特有のパルス状ピークが現れていない。図4(b)に示す自己相関関数演算を行なった結果の波形では、特徴的なピッチ周期が現れておらず、自己相関性が低いことを示している。なお、自己相関関数演算を行なった結果の波形は、lagが0の位置を中心に正負両側に計算されているが、きず判定に用いるピッチ周期は正負いずれか一方の側でよい。
【0030】
図5(a)は、外輪にきずがある場合の振動信号波形であり、測定時間0.8秒の初期にきずがある場合に特有のピークが現れている。図5(a)に示す振動信号を基にした包絡線信号の波形について自己相関関数演算を行なった結果、図5(b)に示すように、ピッチ周期250付近で強度が上昇している波形が得られた。
【0031】
一方、式(2)によって求められる外輪のきず周波数94.6Hzと、A/D変換器104のサンプリング周波数24kHzを基にして自己相関関数演算を行なった場合のピッチ周期は254であり、図5(b)における波形のピッチ周期250付近のピークと良い一致が見られた。
【0032】
図6(a)に示す内輪にきずがある場合の振動信号波形では、測定時間0.8秒の終期にきずを示すピーク波形が出ており、包絡線信号について自己相関関数演算を行なった結果、図6(b)に示す波形が得られた。ピッチ周期160付近で強度が上昇しており、これは、式(3)によって求められる内輪のきず周波数146.9Hzを基にして演算した自己相関関数のピッチ周期163と良い一致を示している。
【0033】
同様に、ボールにきずがある場合の図7(a)に示す振動信号波形を基にした包絡線信号について自己相関関数演算を行なった結果、図7(b)に示す波形が得られ、190付近のピッチ周期に強度が上昇している。これは、式(4)で計算したボールのきず周波数123.2Hzから予測される自己相関関数のピッチ周期195に近似した値である。
【0034】
また、図8(a)、(b)は、転がり軸受から異物音が発生している場合のそれぞれ振動信号および自己相関関数演算を行なった結果の各波形を示すものであり、振動信号の波形には測定時間の全域にわたって小さいピークがあるものの、自己相関関数演算の出力結果には良品と同様に強度を示すピークが見られない。このような場合は、後述するように、包絡線信号のピーク数カウントの結果と合わせて、転がり軸受から発生した異物音である判定する。
【0035】
このように、測定時間における振動信号の一部にきずがあることを示すパルス状のピーク波形が現れる場合に、包絡線信号について自己相関関数演算を行なった波形で強度が上昇するピッチ周期と、転がり軸受を構成する部材毎のきず周波数から計算によって予測されるピッチ周期とを照合してその一致を調べることにより、きずのある部材を特定することができる。
【0036】
図1に戻り、転がり軸受の欠陥検出装置の構成について、説明を続ける。
【0037】
図1において、実効値演算器107は、によって求められた包絡線信号の実効値に乗ずる倍率をdB値で設定するものである。
【0038】
実効値演算器107は、包絡線処理部105によって得られた包絡線信号について、次に示す式(5)により実効値を計算するものである。
【0039】
【数5】
【0040】
dB倍率設定部108は、実効値演算器107によって求められた包絡線信号の実効値に乗ずる倍率をdB値で設定するものである。
【0041】
乗算器109は、実効値演算器107で求められた包絡線信号の実効値にdB倍率設定部108によって設定されたdB倍率を乗算する。乗算された値はコンパレータ110におけるピーク抽出のためのしきい値となる。
【0042】
コンパレータ110は、包絡線処理部105によって得られた包絡線信号と、包絡線信号の実効値にdB倍率をかけることにより得られるしきい値を比較し、しきい値より大きい包絡線信号波形におけるピーク(極大を示す振幅)を抽出する。
【0043】
図9は、包絡線処理部105によって得られた包絡線信号と、実効値演算器107によって求められた実効値および乗算器109の出力結果であるピーク抽出のためのしきい値をそれぞれ例示する図である。
【0044】
ピークカウンタ111は、コンパレータ110によって抽出されたピークを計数するもので、図9に示すピークカウントレベル以上のピークをカウントする。これは、ピークカウント方式と呼ばれ、微小きず等の欠陥の判定に好適に用いられる。
【0045】
欠陥判定部112は、ピークカウンタ111によって計数したピークの数が予め定めたNG限界値を越していれば、対象の転がり軸受にきず等の欠陥があると判定する。そして、きず等の欠陥があると判定した場合は、前述したように、自己相関関数演算器106による演算結果から転がり軸受を構成する部材のいずれにきず等の欠陥があるかを判定する。更に、ピークカウンタ111による計数結果で、きず等の欠陥があると判定したにもかかわらず、自己相関関数演算器106による演算結果の波形にピークが表れない場合、欠陥判定部112は、転がり軸受のきず等の欠陥以外の、転がり軸受の内部で発生している異物音と判定する。
【0046】
判定結果は、図示しない液晶ディスプレイ等の表示装置に送出されて作業者の視認に供されたり、或いはパソコン等に伝送されて生産管理システムにおけるデータとして活用される。
【0047】
次に、以上説明した本実施形態に係る転がり軸受の欠陥検出装置によって、転がり軸受のきず等の欠陥を検出する際に、検出対象の転がり軸受を装着して所定のスラスト荷重を負荷し、所定の回転数で回転させる軸受振動測定装置について説明する。図2は、転がり軸受にミスアライメントを起こさせるスラスト荷重を負荷するための軸受振動測定装置の概略構成を示す図である。
【0048】
図2において、軸受振動測定装置200は、スピンドルアーバ210と、軸受予圧付加機構220と、駆動機構230と、ピエゾ制御回路240を有し、振動センサ101が軸受予圧付加機構220の円板部220bの中央部に固定される構成である。なお、一点鎖線Aは、転がり軸受10に正スラスト荷重が負荷された状態で、軸受10、スピンドルアーバ210、軸受予圧機構220および駆動機構230の軸心を通る中心線を示している。
【0049】
きず等の欠陥の検出対象物である転がり軸受10は、例えばラジアル深溝玉軸受であって、内輪11、外輪12、および内外輪11、12の間で周方向に転動自在に配設された複数のボール(即ち、転動体)13を備えている。
【0050】
振動センサ101は、軸受予圧付加機構220の円板部220bの中央部に固定され、駆動機構230を介して、転がり軸受10の内輪11、外輪12、およびボール13に生じる振動を検出する。振動センサ101により検出された振動信号は、ケーブル250を介して転がり軸受の欠陥検出装置100の信号増幅回路102に入力される。
【0051】
スピンドルアーバ210は、内輪11の一端面11aに当接する第1軸部210aと、第1軸部210aの中央部から同心に突出形成され、内輪11に内嵌される第2軸部210bを有し、インバータで駆動される図示しないモータの回転軸に連結されて、所定の回転数で回転する。
【0052】
駆動機構230は、一端が軸受予圧付加機構220の円板部220b上に固定され、他端が転がり軸受10の外輪12の一端面12bにそれぞれ120°の間隔を置いて当接するように配置された3個の円柱状ピエゾ素子からなり、ピエゾ制御回路240から供給されるピエゾ駆動信号により軸方向に伸縮する。
【0053】
軸受予圧付加機構220は、スピンドルアーバ210に対向して配置され、軸部220aと同心に形成された円板部220bにより、駆動機構230の円柱状ピエゾ素子を介して軸受10の外輪12の他端面102bに所定の予圧荷重を負荷する。
【0054】
ピエゾ制御回路240は、不図示のCPU(中央演算装置)を備え、処理プログラムに従って120°の位相差を有する3相ピエゾ駆動信号を生成し、3個のピエゾ素子に送出する。これにより、3個のピエゾ素子はそれぞれ120°の位相差で伸縮可能となり、転がり軸受10に対してミスアライメントを起こすスラスト荷重を負荷する。
【0055】
なお、ピエゾ制御回路240によって所定レベルの直流電圧、または同相の交番電圧を3個のピエゾ素子に加えれば、転がり軸受10に対してそれぞれ静的な正スラスト荷重、および交番スラスト荷重を与えることができる。また、ピエゾ素子に代えて、棒状の剛体若しくは弾性体を使用することによっても、転がり軸受10に対して静的な正スラスト荷重を加えることができる(この場合、ピエゾ素子の駆動に必要なピエゾ制御回路240等は不要となることは言うまでもない。)。尚、転がり軸受10に対して静的な正スラスト荷重を加えるための機構の公知例としては、特開2002−350289号公報の図4に示されるものが挙げられる。
【0056】
このように、軸受振動測定装置を使用することにより、転がり軸受のきず等の欠陥を検出する際の測定条件に応じてスラスト荷重の種類を適宜選択することが可能である。
【0057】
次に、以上のように構成された転がり軸受の欠陥検出装置100の動作について説明する。図3は、本実施形態の転がり軸受の欠陥検出装置における処理手順を説明するためのフローチャートである。尚、検出される欠陥として、きずを例に挙げて説明する。
【0058】
まず、軸受振動測定装置200の軸受予圧付加機構220によりミスアライメントを起こすようにスラスト荷重を負荷され、所定の回転数で回転する転がり軸受10から発生する振動を振動センサ101で検出し、振動信号を生成する(ステップS101)。
【0059】
振動信号は、ケーブル250を介して信号増幅器102に送られ、A/D変換器104のダイナミックレンジを考慮したレベルまで増幅される(ステップS102)。
【0060】
増幅された振動信号は、ローパスフィルタ103を通過させることによって周波数帯域がA/D変換器104のサンプリング周波数の1/2以下に制限される(ステップS103)。
【0061】
ステップS104では、ローパスフィルタ103によって帯域制限されたアナログ振動信号を、例えば、測定時間である0.8秒間ディジタル信号に変換する。
【0062】
ディジタル信号に変換された振動信号は、包絡線処理部105で包絡線処理を行なって包絡線信号に変換し(ステップS105)、実効値演算器107により包絡線信号の実効値を算出する(ステップS106)。
【0063】
続いて、算出した包絡線信号の実効値に、dB倍率設定部108で予め定めたdB倍率を乗算器109で掛けて包絡線信号のピークを抽出するためのしきい値を生成する(ステップS107)。
【0064】
コンパレータ110では、このしきい値を包絡線信号と比較して、図9に示すように、しきい値レベルを超えた包絡線信号のピークを抽出する(ステップS108)。
【0065】
抽出したピークは、ピークカウンタ111で積算し(ステップS109)、欠陥判定部112において、積算値が予め定めた設定値以上であるか否かを判定する(ステップS110)。
【0066】
その結果、積算値数が設定値に満たない場合は、欠陥判定部112において、対象の転がり軸受はきずがない良品であると判定され(ステップS111)、軸受振動測定装置200の動作が停止されて処理が終了する。
【0067】
一方、ステップS110で積算値が設定値以上であると判定された場合は、自己相関関数演算部106において、包絡線処理された振動信号に対して自己相関関数演算を行なう(ステップS112)。
【0068】
次いで、欠陥判定部112において、自己相関関数の演算結果におけるピッチ周期が外輪きず周波数から予測した外輪予測ピッチ周期と一致するか否かが判定される(ステップS113)。その結果、一致すると判定された場合は転がり軸受10の外輪12にきずがあると判定する(ステップS114)。
【0069】
ステップS113で自己相関関数の演算結果におけるピッチ周期の値が外輪にきずがある場合のピッチ周期予測値と一致しない場合は、ステップS115において、自己相関関数の演算結果におけるピッチ周期が内輪きず周波数から予測した内輪予測ピッチ周期と一致するか否かが判定される。
【0070】
その結果、自己相関関数の演算結果におけるピッチ周期の値が内輪にきずがある場合のピッチ周期予測値に一致すると判定された場合は、内輪11にきずがあると判定する(ステップS116)。
【0071】
ステップS115において自己相関関数の演算結果におけるピッチ周期の値が内輪にきずがある場合のピッチ周期予測値と一致しない場合は、自己相関関数の演算結果におけるピッチ周期がボールきず周波数から予測したボール予測ピッチ周期に一致するか否かが判定される(ステップS117)。その結果、自己相関関数の演算結果におけるピッチ周期の値がボールにきずがある場合のピッチ周期予測値に一致すると判定された場合は、ボール13にきずがあると判定する(ステップS118)。
【0072】
一方、ステップS117において、自己相関関数の演算結果におけるピッチ周期の値がボールにきずがある場合のピッチ周期予測値と一致しない場合は、振動センサ101が転がり軸受10から発生している異物音を拾っていると判定され(ステップS119)、軸受振動測定装置200が停止されて処理が終了する。
このように、ステップS110、ステップS111、ステップS113、ステップS114、ステップS115、ステップS116、ステップS117、ステップS118、ステップS119は、欠陥判定部112により実行される。特に、ステップS110およびステップS111は、欠陥判定部112が第1の欠陥判定手段として機能した際に実行され、そしてステップS113、ステップS114、ステップS115、ステップS116、ステップS117、ステップS118、およびステップS119は、欠陥判定部112が第2の欠陥判定手段として機能した際に実行される。
【0073】
以上、説明したように、本発明に係る転がり軸受の欠陥検出装置の実施形態によれば、軸受振動測定装置200に装着した転がり軸受10に所定のスラスト荷重を負荷して内輪を所定の回転数で回転させて、転がり軸受10から発生する振動を検出し、検出した振動信号をディジタル信号に変換して包絡線処理する。そして、得られた包絡線信号から所定レベル以上のピークを抽出してピーク数をカウントし、ピーク数が所定のしきい値を超えるか否かで転がり軸受10におけるきず等の欠陥および当該欠陥以外で転がり軸受10から発生する異物音の有無を暫定的に判定する。
【0074】
転がり軸受10にきず等の欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受10から発生する異物音があると暫定的に判定された場合は、包絡線信号を自己相関関数演算し、演算結果において強度が上昇したピッチ周期が、転がり軸受10の諸元から計算した外輪、内輪、ボールの各欠陥周波数に基づいて予測されるそれぞれのピッチ周期のいずれに一致するかを判定することにより、転がり軸受10のきず等の欠陥がある部材を特定する。このようにしても、転がり軸受10におけるきず等の欠陥がある部材を特定できない場合には、振動センサ101により検出された振動が、転がり軸受10から発生する異物音であると判定される。
【0075】
これにより、測定時間内における振動信号の一部にのみ、きず等の欠陥に基づくパルスが出ている場合であっても、きず等の欠陥を効果的に検出することができる。
【0076】
本発明は、測定時間内における振動信号の一部にのみ、きず等の欠陥に基づくパルスが出ている場合であっても、きず等の欠陥を検出することが可能な転がり軸受の欠陥検出装置を提供できる効果を有し、転がり軸受から発生する振動を検出することにより、きず等の欠陥を検出する転がり軸受の欠陥検出装置および検出方法等に有用である。
【0077】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、前述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係る実施形態である転がり軸受の欠陥検出装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施形態において使用する軸受振動測定装置の概略構成を示す図である。
【図3】本発明に係る実施形態である転がり軸受の欠陥検出装置における処理手順を説明するためのフローチャートである。
【図4】(a)は、きずがない転がり軸受から検出した振動信号の波形を示す図、そして(b)は、きずがない転がり軸受の包絡線信号について自己相関関数演算を行なった場合の波形を示す図である。
【図5】(a)は、外輪にきずがある転がり軸受から検出した振動信号の波形を示す図、そして(b)は、外輪にきずがある転がり軸受の包絡線信号について自己相関関数演算を行なった場合の波形を示す図である。
【図6】(a)は、内輪にきずがある転がり軸受から検出した振動信号の波形を示す図、そして(b)は、内輪にきずがある転がり軸受の包絡線信号について自己相関関数演算を行なった場合の波形を示す図である。
【図7】(a)は、ボールにきずがある転がり軸受から検出した振動信号の波形を示す図、そして(b)は、ボールにきずがある転がり軸受の包絡線信号について自己相関関数演算を行なった場合の波形を示す図である。
【図8】(a)は、転がり軸受から発生している異物音を検出した場合の振動信号の波形を示す図、そして(b)は、異物音の包絡線信号について自己相関関数演算を行なった場合の波形を示す図である。
【図9】ピークカウント方式を説明するための図である。
【図10】従来の転がり軸受の欠陥検出装置の概略構成を示す図である。
【図11】(a)は、測定時間内の全てにわたり転がり軸受にきずがあることを示すピークが出ている振動信号の波形を示す図、そして(b)は、測定時間内の全てにわたり転がり軸受にきずがあることを示すピークが出ている振動信号を包絡線FFT処理した波形を示す図である。
【図12】(a)は、測定時間内の一部に転がり軸受にきずがあることを示すパルスが出ている振動信号の波形を示す図、そして(b)は、測定時間内の一部に転がり軸受にきずがあることを示すピークが出ている振動信号を包絡線FFT処理した波形を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
10 転がり軸受
11 内輪
12 外輪
13 ボール
100 転がり軸受の欠陥検出装置
101 振動センサ(振動検出手段)
102 信号増幅回路
103 ローパスフィルタ(周波数フィルタ手段)
104 A/D変換器(アナログ・ディジタル変換手段)
105 包絡線処理部(包絡線信号処理手段)
106 自己相関関数演算器(自己相関関数演算手段)
107 実効値演算器
108 dB倍率設定部
109 乗算器
110 コンパレータ
111 ピークカウンタ
112 欠陥判定部(第1の欠陥判定手段、第2の欠陥判定手段)
200 軸受振動測定装置
210 スピンドルアーバ
220 軸受予圧付加機構
230 駆動機構(ピエゾ素子)
240 ピエゾ制御回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受に所定のスラスト荷重を負荷し、外輪および内輪を所定の回転数で相対回転させて前記転がり軸受から発生する振動を検出し、該検出した振動に基づいて前記転がり軸受における欠陥を検出する転がり軸受の欠陥検出装置であって、
前記転がり軸受から発生する振動を検出して振動信号を生成する振動検出手段と、
該振動信号から所定周波数帯域の振動信号を抽出する周波数フィルタ手段と、
該抽出した所定周波数帯域の振動信号を所定のサンプリング周波数でディジタル信号に変換するアナログ・ディジタル変換手段と、
該ディジタル信号に変換した振動信号を包絡線処理して包絡線信号を生成する包絡線信号処理手段と、
該包絡線信号におけるしきい値以上の極大となるピークの数が所定の設定値を超えた場合に、前記転がり軸受を構成する部材のいずれかに欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受から発生する異物音があると暫定的に判定する第1の欠陥判定手段と、
前記第1の欠陥判定手段によって前記転がり軸受を構成する部材のいずれかに欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受から発生する異物音があると判定された場合の前記包絡線信号について自己相関関数を演算する自己相関関数演算手段と、
該自己相関関数の演算結果で相関が強いことを示すピーク強度が現れる時間遅れ要素(lag)の位置と、前記転がり軸受を構成する部材に欠陥がある場合に、前記転がり軸受の軸受諸元から計算される前記部材毎に特有の欠陥周波数および前記所定のサンプリング周波数に基づいて前記自己相関関数演算を行なうことにより予測される前記部材毎の時間遅れ要素の位置と、を照合することにより、前記転がり軸受の欠陥がある前記部材を特定する第2の欠陥判定手段と、
を備えることを特徴とする転がり軸受の欠陥検出装置。
【請求項2】
前記第2の欠陥判定手段が、欠陥がある部材を特定できない場合、前記振動検出手段により検出した振動は、前記転がり軸受から発生する異物音であると判定することを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受の欠陥検出装置。
【請求項3】
前記しきい値が、前記包絡線信号の実効値に所定のdB倍率を乗じた値であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の転がり軸受の欠陥検出装置。
【請求項4】
前記アナログ・ディジタル変換手段と、前記包絡線信号処理手段と、前記第1の欠陥判定手段と、前記自己相関関数演算手段と、前記第2の欠陥判定手段の少なくともいずれかにおける処理をマイクロコンピュータユニットのプログラムにより実行することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一つに記載の転がり軸受の欠陥検出装置。
【請求項5】
転がり軸受に所定のスラスト荷重を負荷し、外輪および内輪を所定の回転数で相対回転させて、前記転がり軸受から発生する振動を検出し、該検出した振動に基づいて前記転がり軸受における欠陥を検出する転がり軸受の欠陥検出方法であって、
前記転がり軸受から発生する振動を検出して振動信号を生成し、
該振動信号から所定周波数帯域の振動信号を抽出し、
該周波数帯域を制限した振動信号を所定のサンプリング周波数でディジタル信号に変換し、
該ディジタル信号に変換した振動信号を包絡線処理して包絡線信号を生成し、
該包絡線信号におけるしきい値以上の極大となるピークの数が所定の設定値を超えた場合に、前記転がり軸受を構成する部材のいずれかに欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受から発生する異物音があると暫定的に判定すると共に、
前記転がり軸受を構成する部材のいずれかに欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受から発生する異物音があると判定された場合の前記包絡線信号について自己相関関数を演算し、
該自己相関関数の演算結果で相関が強いことを示すピーク強度が現れる時間遅れ要素(lag)の位置と、前記転がり軸受を構成する部材に欠陥がある場合に、前記転がり軸受の軸受諸元から計算される前記部材毎に特有の欠陥周波数および前記所定のサンプリング周波数に基づいて前記自己相関関数演算を行なうことにより予測される前記部材毎の時間遅れ要素の位置と、を照合することにより、前記転がり軸受の欠陥がある前記部材を特定する、
ことを特徴とする転がり軸受の欠陥検出方法。
【請求項6】
前記時間遅れ要素の位置の照合によって、欠陥がある部材を特定できない場合、前記検出した振動は、前記転がり軸受から発生する異物音であると判定することを特徴とする請求項5に記載の転がり軸受の欠陥検出方法。
【請求項1】
転がり軸受に所定のスラスト荷重を負荷し、外輪および内輪を所定の回転数で相対回転させて前記転がり軸受から発生する振動を検出し、該検出した振動に基づいて前記転がり軸受における欠陥を検出する転がり軸受の欠陥検出装置であって、
前記転がり軸受から発生する振動を検出して振動信号を生成する振動検出手段と、
該振動信号から所定周波数帯域の振動信号を抽出する周波数フィルタ手段と、
該抽出した所定周波数帯域の振動信号を所定のサンプリング周波数でディジタル信号に変換するアナログ・ディジタル変換手段と、
該ディジタル信号に変換した振動信号を包絡線処理して包絡線信号を生成する包絡線信号処理手段と、
該包絡線信号におけるしきい値以上の極大となるピークの数が所定の設定値を超えた場合に、前記転がり軸受を構成する部材のいずれかに欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受から発生する異物音があると暫定的に判定する第1の欠陥判定手段と、
前記第1の欠陥判定手段によって前記転がり軸受を構成する部材のいずれかに欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受から発生する異物音があると判定された場合の前記包絡線信号について自己相関関数を演算する自己相関関数演算手段と、
該自己相関関数の演算結果で相関が強いことを示すピーク強度が現れる時間遅れ要素(lag)の位置と、前記転がり軸受を構成する部材に欠陥がある場合に、前記転がり軸受の軸受諸元から計算される前記部材毎に特有の欠陥周波数および前記所定のサンプリング周波数に基づいて前記自己相関関数演算を行なうことにより予測される前記部材毎の時間遅れ要素の位置と、を照合することにより、前記転がり軸受の欠陥がある前記部材を特定する第2の欠陥判定手段と、
を備えることを特徴とする転がり軸受の欠陥検出装置。
【請求項2】
前記第2の欠陥判定手段が、欠陥がある部材を特定できない場合、前記振動検出手段により検出した振動は、前記転がり軸受から発生する異物音であると判定することを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受の欠陥検出装置。
【請求項3】
前記しきい値が、前記包絡線信号の実効値に所定のdB倍率を乗じた値であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の転がり軸受の欠陥検出装置。
【請求項4】
前記アナログ・ディジタル変換手段と、前記包絡線信号処理手段と、前記第1の欠陥判定手段と、前記自己相関関数演算手段と、前記第2の欠陥判定手段の少なくともいずれかにおける処理をマイクロコンピュータユニットのプログラムにより実行することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一つに記載の転がり軸受の欠陥検出装置。
【請求項5】
転がり軸受に所定のスラスト荷重を負荷し、外輪および内輪を所定の回転数で相対回転させて、前記転がり軸受から発生する振動を検出し、該検出した振動に基づいて前記転がり軸受における欠陥を検出する転がり軸受の欠陥検出方法であって、
前記転がり軸受から発生する振動を検出して振動信号を生成し、
該振動信号から所定周波数帯域の振動信号を抽出し、
該周波数帯域を制限した振動信号を所定のサンプリング周波数でディジタル信号に変換し、
該ディジタル信号に変換した振動信号を包絡線処理して包絡線信号を生成し、
該包絡線信号におけるしきい値以上の極大となるピークの数が所定の設定値を超えた場合に、前記転がり軸受を構成する部材のいずれかに欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受から発生する異物音があると暫定的に判定すると共に、
前記転がり軸受を構成する部材のいずれかに欠陥があり且つ当該欠陥以外で転がり軸受から発生する異物音があると判定された場合の前記包絡線信号について自己相関関数を演算し、
該自己相関関数の演算結果で相関が強いことを示すピーク強度が現れる時間遅れ要素(lag)の位置と、前記転がり軸受を構成する部材に欠陥がある場合に、前記転がり軸受の軸受諸元から計算される前記部材毎に特有の欠陥周波数および前記所定のサンプリング周波数に基づいて前記自己相関関数演算を行なうことにより予測される前記部材毎の時間遅れ要素の位置と、を照合することにより、前記転がり軸受の欠陥がある前記部材を特定する、
ことを特徴とする転がり軸受の欠陥検出方法。
【請求項6】
前記時間遅れ要素の位置の照合によって、欠陥がある部材を特定できない場合、前記検出した振動は、前記転がり軸受から発生する異物音であると判定することを特徴とする請求項5に記載の転がり軸受の欠陥検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−118869(P2006−118869A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304042(P2004−304042)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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