説明

転がり軸受装置

【課題】 軸受内に封入したグリースだけを使用して高速化と長寿命化、メンテナンスフリーを達成でき、また固定側軌道輪や間座に対してグリース溜まり形成部品を、グリース供給用の隙間のギャップ量が適正な状態で組立てることができ、かつその組立が容易である転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】 この転がり軸受装置は、内輪2、外輪3、および転動体3を有する。例えば、固定側軌道輪が外輪2とする。外輪2の内周面2cに嵌まり合いグリース溜まり14を形成する環状のグリース溜まり形成部品7を設ける。グリース溜まり形成部品7は、先端が外輪2の段差面2bに隙間16を介して対面してその隙間16からグリース溜まり14内のグリースまたはその基油を吐出する隙間形成部13を有する。グリース溜まり形成部品7を、外輪2に隣接する間座6の内周面6aに、互いに噛み合うねじ面6ab,12aaで結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械主軸等のグリース潤滑とされる潤滑機構付きの転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械主軸軸受の潤滑方法として、メンテナンスフリーで使用可能なグリース潤滑、搬送エアに潤滑オイルを混合してオイルをノズルより軸受内に噴射するエアオイル潤滑、軸受内に潤滑油を直接に噴射するジェット潤滑等の方法がある。最近の工作機械は、加工能率を上げるために、ますます高速化の傾向にあり、主軸軸受の潤滑も比較的安価で簡単に高速化が可能なエアオイル潤滑が多く用いられてきている。しかし、このエアオイル潤滑法は、付帯設備としてエアオイル供給装置が必要であることと、多量のエアを必要とすることから、コスト、騒音、省エネ、省資源の観点から問題がある。また、オイルの飛散によって環境を悪化させる問題もある。これらの問題を回避するために、最近ではグリース潤滑による高速化が注目され始め、要望も多くなってきている。
【0003】
グリース潤滑は、軸受組立時に封入されたグリースのみで潤滑するため、高速運転すると、軸受発熱によるグリースの劣化や、軌道面、特に内輪での油膜切れのため、早期焼き付きに至ってしまうことが考えられる。特に、dn値が100万(軸受内径mm×回転数rpm)を超えるような高速回転領域では、何万時間ものグリース寿命を保証するのは困難である。
【0004】
その対策としてのグリース寿命を延長させる手段が、特許文献1に紹介されている。特許文献1に記載の転がり軸受装置は、図5に示すように、先端が固定側軌道輪(例えば外輪)2の段差面2bに隙間16を介して対面し、固定側軌道輪2およびその位置決め間座6との間にグリース溜まり14が形成されたグリース溜まり形成部品7を設け、前記グリース溜まり14内のグリースGから分離した基油が、流路15を通り隙間16から軸受空間に吐出されて、隙間16に隣接する固定側軌道輪2の軌道面2aに供給されるものであり、前記隙間16のギャップ量δを適正に設定することで、固定側軌道輪2の軌道面2aに供給される基油の量を管理する。
【特許文献1】特開2006−182917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記転がり軸受装置において、固定側軌道輪2の軌道面2aに供給される基油の量を正しく管理するには、隙間16のギャップ量δの寸法精度を高く保つ必要がある。特許文献1によれば、上記ギャップ量δは、例えば0.05〜0.1mmとされている。従来、固定側軌道輪2および位置決め間座6に対するグリース溜まり形成部品7の組立てに、圧入により固定する方法や接着剤を用いて固定する方法が採用されていたが、ギャップ量δが上記範囲内に収まるように組立てるのは難しい。なぜなら、一度組立ててしまうと、グリース溜まり形成部品7を軸方向に移動させることができず、ギャップ量δの微調整ができないからである。正確に組立てるには、非常に精度の高い組立技術が必要とされる。また、上記従来の方法で組立てるには、各部品の加工精度や寸法管理に工数がかかるという問題もある。
【0006】
この発明は、これらの課題を解決することを目的としたものであり、軸受内に封入したグリースだけを使用して高速化と長寿命化、メンテナンスフリーを達成でき、また固定側軌道輪や間座に対してグリース溜まり形成部品を、グリース供給用の隙間のギャップ量が適正な状態で組立てることができ、かつその組立が容易である転がり軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明にかかる転がり軸受装置は、内輪、外輪、およびこれら内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体を有する転がり軸受装置において、軌道輪である内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に、軌道面に続く段差面を転動体から離れる方向に設け、前記固定側軌道輪の軌道面側の周面に嵌まり合いグリース溜まりを形成する環状のグリース溜まり形成部品を設け、このグリース溜まり形成部品は、先端が前記段差面に隙間を介して対面してその隙間から前記グリース溜まり内のグリースまたはその基油を吐出する隙間形成部を有し、前記グリース溜まり形成部品を、前記固定側軌道輪の前記周面、またはこの固定側軌道輪に隣接する間座の周面に、互いに噛み合うねじ面で結合したことを特徴とする。この転がり軸受装置では、前記固定側軌道輪または間座に対する前記グリース溜まり形成部品のねじ込み量を変えることで前記隙間のギャップ量を変更する。
【0008】
この構成の転がり軸受装置は、グリース溜まりにグリースを充填して使用される。転がり軸受装置の運転と停止に伴うグリース溜まりでのヒートサイクルによる圧力変動で、グリース溜まり内のグリースまたはその基油が隙間から軸受空間に吐出されて、固定側軌道輪の軌道面に供給される。これにより、軸受内に封入したグリースだけを使用して高速化と長寿命化、メンテナンスフリーを達成できる。
グリース溜まり形成部品は、固定側軌道輪の周面、またはこの固定側軌道輪に隣接する間座の周面に、互いに噛み合うねじ面で結合させてあり、固定側軌道輪または間座に対する軸方向位置を変更できるため、隙間のギャップ量を最適な値に容易に定められる。そのため、固定側軌道輪の軌道面に供給されるグリースまたはその基油の量を正しく管理でき、より一層高速化と長寿命化が図れる。また、固定側軌道輪または間座に対するグリース溜まり形成部品の軸方向位置を変更できるため、前記ギャップ量の寸法調整がし易く、組立が容易である。
【0009】
この発明において、前記固定側軌道輪または間座に対する前記グリース溜まり形成部品のねじ込み位置を固定する固定具を設けるとよい。
上記固定具を設けると、固定側軌道輪または間座に対するグリース溜まり形成部品のねじ込み位置を固定されるため、前記隙間のギャップ量が一定に維持される。
【0010】
前記グリース溜まり形成部品を、前記間座の周面に、互いに噛み合うねじ面で結合したものであり、前記固定側軌道輪と間座の接触部にシール部材を介在させた場合は、前記固定側軌道輪と間座の接触部にシール部材を介在させるのがよい。
固定側軌道輪と間座の接触部にシール部材を介在させると、グリース溜まりのグリースまたはその基油が、固定側軌道輪と間座間に形成された微細な隙間を通って漏出するのを防止できる。
【0011】
この発明において、前記固定側軌道輪が外輪であってもよい。
固定側軌道輪が外輪である場合、外輪に前記段差面が設けられるが、グリース封入状態で軸受を回転させたときに、封入グリースが遠心力で外輪内径部に飛散するため、前記隙間と軌道輪との間の基油の繋がりが確実となる。そのため、転動体接触部で潤滑油として消費される分の基油が、グリース溜まりから上記隙間を経て軌道面に補給される作用が高められ、より安定した潤滑油の補給が行われる。
【0012】
この発明において、転がり軸受はアンギュラ玉軸受であり、前記段差面は、軌道面における接触角が生じる方向と反対側の縁部に続いて形成されたものであってもよい。
アンギュラ玉軸受であると、段差面を接触角が生じる方向と反対側に設けることで、段差面をより転動体の直下に配置し易くなる。転動体の中心付近に段差面を近づけることができ、隙間から軌道面への潤滑油の補給がより効率良く行える。
【発明の効果】
【0013】
この発明の転がり軸受装置は、内輪、外輪、およびこれら内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体を有する転がり軸受装置において、軌道輪である内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に、軌道面に続く段差面を転動体から離れる方向に設け、前記固定側軌道輪の軌道面側の周面に嵌まり合いグリース溜まりを形成する環状のグリース溜まり形成部品を設け、このグリース溜まり形成部品は、先端が前記段差面に隙間を介して対面してその隙間から前記グリース溜まり内のグリースまたはその基油を吐出する隙間形成部を有し、前記グリース溜まり形成部品を、前記固定側軌道輪の前記周面、またはこの固定側軌道輪に隣接する間座の周面に、互いに噛み合うねじ面で結合したため、軸受内に封入したグリースだけを使用して高速化と長寿命化、メンテナンスフリーを達成でき、また固定側軌道輪や間座に対してグリース溜まり形成部品を、グリース供給用の隙間のギャップ量が適正な状態で組立てることができ、かつその組立が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の実施形態を図1と共に説明する。この転がり軸受装置は、内輪1、外輪2、およびこれら内外輪1,2の軌道面1a,2a間に介在する複数の転動体3を有し、外輪位置決め間座6と、グリース溜まり形成部品7とを備える。複数の転動体3は、保持器4に保持され、内外輪1,2間の軸受空間の一端は、シール5によって密封されている。この転がり軸受はアンギュラ玉軸受であり、外輪位置決め間座6およびグリース溜まり形成部品7は軸受正面側に設けられ、シール5は軸受背面側の端部に設けられる。軸受正面側ではグリース溜まり形成部品7がシールを兼ねており、軸受正面側からの潤滑油漏れが防止される。図において、交差したハッチングで示す部分は、グリースGの充填された部分を示す。内輪1は、図示しない主軸に嵌合して回転可能とされ、外輪2はスピンドルユニットにおける図示しないハウジングの内周に嵌合状態で固定支持される。
【0015】
固定側軌道輪となる外輪2には、その軌道面2aに続く段差面2bが、転動体3から離れる外輪正面側、つまり軌道面2aにおける接触角が生じる方向と反対側の縁部に続いて設けられている。この段差面2bは、軌道面2aから外径側に延びて外輪正面側に対面する面である。段差面2bから外輪正面側に続く内周面2cは、円筒状の面とされている。
【0016】
外輪位置決め間座6は、外輪2の正面側の端面に接して設けられる。外輪位置決め間座6の内周面6aは、軸受背面側の約半分が前記外輪内周面2cと同径の円筒面6aaとされ、軸受正面側の約半分が雌ねじの切られた雌ねじ面6abとされている。外径側から雌ねじ面6abに向けて貫通するねじ孔8が、円周方向の少なくとも1箇所に設けられている。
【0017】
外輪2および外輪位置決め間座6の接触部には、Oリング等のシール部材9が介在させてある。詳しくは、外輪2および外輪位置決め間座6の互いの接触面に断面半円形の環状溝10,11をそれぞれ設け、これら環状溝10,11で構成される断面円形の環状空間部にシール部材9を収容してある。
【0018】
グリース溜まり形成部品7は、外輪2の内周面2cおよび外輪位置決め間座6の内周面6aの内周側に嵌まり合う環状の部材であり、外輪位置決め間座6の内周面6aとの間にグリース溜まり14となる空間を形成する本体部12と、外輪内周面2cとの間に流路15を形成し、かつ先端面が外輪2の段差面2bと隙間16を介して対面した隙間形成部13とでなる。本体部12は、軸受正面側の側壁12aと軸受背面側の側壁12bとを有し、軸受背面側の側壁12bにおける外径端部から隙間形成部13が軸受背面側へ一体に延びている。外輪2および外輪位置決め間座6の接触部にシール部材9が介在させてあるため、上記接触部からのグリースGの漏出が防止される。
【0019】
前記流路15は、隙間形成部先端13aの外周面と外輪内周面2cとの間に形成される。隙間形成部13の基部13bは、先端13aに比べて小径とされる。この基部13bの外周面と外輪2の内周面2cとで囲まれる部分は、グリース溜まり14の一部となっている。また、前記隙間16は、隙間形成部先端13aと外輪2の段差面2bとの間に形成される。隙間16のギャップ量δは、例えば0.05〜0.1mmに設定されている。グリース溜まり14と隙間16とは、流路15を介して繋がっている。
【0020】
グリース溜まり形成部品7の本体部側壁12aの外周面は雄ねじが切られた雄ねじ面12aaとされており、この雄ねじ面12aaを前記外輪位置決め間座6の雌ねじ面6abに螺合させることで、グリース溜まり形成部品7と外輪位置決め間座6とが結合されている。グリース溜まり形成部品7の雄ねじ面12aaと外輪位置決め間座6の雌ねじ面6abとでなるねじ機構17は、そのねじ込み方向が軸方向と平行である。したがって、グリース溜まり形成部品7は、外輪2および外輪位置決め間座6に対して、軸方向に移動可能である。組立完成後、固定具によりグリース溜まり形成部品7の軸方向移動を拘束する。この例では固定具は固定ねじ18であり、この固定ねじ18は、前記ねじ孔8に、先端をグリース溜まり形成部品7の雄ねじ面12aaに当接させて締め込まれる。固定ねじ18には、緩み止め用の接着剤を塗布しておくのが望ましい。
【0021】
この転がり軸受装置は、外輪2の軸受正面側の端面に当接させて外輪位置決め間座6を配置し、その外輪位置決め間座6にグリース溜まり形成部品7を取り付けてから、グリース溜り14にグリースGを封入して使用する。その際、前記隙間16のギャップ量δが所定の設定値の範囲内となるように、グリース溜まり形成部品7の軸方向位置を決める。グリース溜まり形成部品7の位置決めは、例えば、一旦グリース溜まり形成部品7の先端が外輪2の段差面2bに当接するまで(δ=0)、グリース溜まり形成部品7を外輪位置決め間座6に対してねじ込んだ後、図2に示すように、外輪位置決め間座6の軸受正面側の端面の軸方向位置およびグリース溜まり形成部品7の本体部側壁12aの軸受正面側の面の軸方向位置をゲージ20,21で測定しながら、ねじ込みを緩めてグリース溜まり形成部品7を軸受正面側へ戻し、前記両ゲージ20,21の測定値から求められる戻し量がギャップ量δの目標値と一致した時点で戻し動作を停止する方法を採ることができる。この方法によると、隙間16のギャップ量δを所定の寸法に正確に設定できる。また、グリース溜まり形成部品7は外輪位置決め間座6に対してねじ機構17により結合されているため、グリース溜まり形成部品7の軸方向移動量の調整が容易であり、かつ軸受正面側および背面側のいずれにも移動可能であるため、軸方向位置の微調整がし易い。
【0022】
このように、グリース溜まり形成部品7が外輪位置決め間座6に対して位置決めされたならば、接着剤を塗布した固定ねじ18を前記ねじ孔8に挿入し、その先端がグリース溜まり形成部品7の雄ねじ面12aaに当接するまで締め込む。これにより、グリース溜まり形成部品7の軸方向移動が拘束されて、隙間16のギャップ量δが一定に維持される。
【0023】
この転がり軸受装置の作用を説明する。軸受内には、初期潤滑用としてグリースを封入しておく。軸受を運転すると、運転時の温度上昇により、グリース溜まり14内のグリースGが膨張率の異なる基油と増稠剤とに分離する。同時に、密閉状態のグリース溜まり部品14の内部圧力が上昇する。この内部圧力の上昇により、分離した基油が流路15を通り隙間16から吐出される。吐出された基油は、外輪2の軌道面2aに供給される。温度が上昇して定常状態になると、内部圧力の上昇要因が消滅するので、基油の吐出と並行して内部圧力が徐々に減じ、単位時間当たりの基油吐出量も減少していく。その後、運転が中止されると、グリース溜まり14の温度も下降し、グリース溜まり14の内部圧力がほぼ大気圧となる。このとき、圧力による基油の吐出は無く、隙間16には基油が満たされる。したがって、運転停止状態では、グリース溜まり14は密閉された状態にある。
その後、運転が再開されると、グリース溜り14の内部圧力が再度上昇する。このような温度上昇と下降のヒートサイクルによって、グリース溜まり14内での圧力変動が繰り返され、グリースGから分離した基油が確実に隙間16に移動して、外輪2の軌道面2aに繰り返し供給される。
【0024】
また、上記ヒートサイクルによる基油吐出作用とは別に、以下に示す毛細管現象による基油吐出作用も加わる。すなわち、軸受の停止時には、グリースG中の増稠剤および前記隙間16の毛細管現象により、グリースGの基油が流路15から隙間16に移動し、この毛細管現象と油の表面張力とが相まって隙間16に基油が油状で保持される。軸受を運転すると、隙間16に貯油されていた基油は、運転で生じる外輪2の温度上昇による体積膨張と、転動体3の公転・自転で生じる空気流とにより隙間16から流出して、外輪2の軌道面2aに付着しながら移動して転動体接触部に連続的に補給される。
【0025】
このように、この転がり軸受装置では、運転停止と運転再開の繰り返しに伴うグリース溜まり14でのヒートサイクルによる圧力変動で、グリースGから分離した基油が隙間16を経て外輪2の軌道面2aに供給されるので、潤滑油の供給が確実に行われる。加えて、隙間16での毛細管現象によっても基油が外輪2の軌道面2aに吐出されるので、潤滑が一層確実なものとなる。これにより、軸受内に封入したグリースだけを使用して高速化と長寿命化、メンテナンスフリー化、および安定した潤滑油供給が可能である。
【0026】
この実施形態では、固定側軌道輪が外輪2であり、この外輪2に前記段差面2bが設けられるが、グリース封入状態で軸受を回転させたときに、封入グリースが遠心力で外輪内径部に飛散するため、前記隙間16と軌道面2aとの間の基油の繋がりが確実となる。そのため、転動体接触部で潤滑油として消費される分の基油が、グリース溜まり14から隙間16を経て軌道面2aに補給される作用が高められ、より安定した潤滑油の補給が行われる。
【0027】
また、この実施形態では、転がり軸受がアンギュラ玉軸受であり、前記段差面2bが、軌道面2aにおける接触角が生じる方向とは反対側の縁部に続いて形成されているので、段差面2bをより転動体3の直下に配置し易くなる。これにより、転動体3の中心付近に段差面2bを近づけることができ、隙間16から軌道面2aへの潤滑油の補給がより効率良く行える。
【0028】
上記実施形態は、外輪位置決め間座6を備え、グリース溜まり形成部品7と、外輪2および外輪位置決め間座6との間の空間がグリース溜まり14とされているが、図3に示すように、外輪位置決め間座6を設けずに、その分だけ外輪2の軸受正面側へ延ばし、グリース溜まり形成部品7と外輪2との間の空間をグリース溜まり14としてもよい。その場合、外輪2の内周面2cは軸受正面側の円筒面2caと軸受背面側の雌ねじ面2cbとでなるものとし、外径側から雌ねじ面2cbに向けてねじ孔8を貫通して設ける。
【0029】
図4は、図1に示した実施形態の転がり軸受装置を用いた工作機械用スピンドル装置の例を示す。このスピンドル装置では、2個の上記転がり軸受装置30を背面組合せで用いている。2個の転がり軸受装置30A,30Bは、ハウジング32内で主軸31の両端を回転自在に支持する。各転がり軸受装置30A,30Bの内輪1は、内輪位置決め間座36および内輪間座37により位置決めされ、内輪固定ナット39により主軸31に締め付け固定されている。外輪2は、外輪位置決め間座6、外輪間座40および外輪押え蓋41,42によりハウジング32内に位置決め固定されている。ハウジング32は、ハウジング内筒32Aとハウジング外筒32Bとを嵌合させたものであり、その嵌合部に冷却のための通油溝43が設けられている。
【0030】
主軸31は、その前端の端部31aに工具またはワーク(図示せず)を着脱自在に取付けるチャック(図示せず)が設けられ、後ろ側の端部31bは、モータ等の駆動源が回転伝達機構(図示せず)を介して連結される。モータは、ハウジング32に内蔵してもよい。このスピンドル装置は、例えばマニシングモータ、旋盤、フライス盤、研削盤等の各種工作機械に適用できる。
【0031】
この構成のスピンドル装置によると、この実施形態の転がり軸受装置30A,30Bにおける高速化、長寿命化、メンテナンスフリー化の作用が効果的に発揮される。
なお、このスピンドル装置は、図1の実施形態に係る転がり軸受装置を適用した場合につき説明したが、図3の実施形態に係る転がり軸受装置を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(A)はこの発明の実施形態に係る転がり軸受装置の断面図、(B)はその部分拡大図である。
【図2】同転がり軸受装置の組立過程の一段階を示す説明図である。
【図3】異なる実施形態に係る転がり軸受装置の断面図である。
【図4】この発明の転がり軸受装置を備えたスピンドル装置の構成図である。
【図5】従来の潤滑機構付きの転がり軸受装置の断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1…内輪
1a…軌道面
2…外輪(固定側軌道輪)
2a…軌道面
2b…段差面
2c…内周面
2cb…雌ねじ面
3…転動体
6…外輪位置決め間座
6a…内周面
6ab…雌ねじ面
7…グリース溜まり形成部品
9…シール部材
12aa…雄ねじ面
13…隙間形成部
14…グリース溜まり
15…流路
16…隙間
17…ねじ機構
18…固定ねじ(固定具)
G…グリース
δ…ギャップ量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪、外輪、およびこれら内外輪の軌道面間に介在する複数の転動体を有する転がり軸受装置において、軌道輪である内輪および外輪のうち、回転しない固定側軌道輪に、軌道面に続く段差面を転動体から離れる方向に設け、前記固定側軌道輪の軌道面側の周面に嵌まり合いグリース溜まりを形成する環状のグリース溜まり形成部品を設け、このグリース溜まり形成部品は、先端が前記段差面に隙間を介して対面してその隙間から前記グリース溜まり内のグリースまたはその基油を吐出する隙間形成部を有し、前記グリース溜まり形成部品を、前記固定側軌道輪の前記周面、またはこの固定側軌道輪に隣接する間座の周面に、互いに噛み合うねじ面で結合したことを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、前記固定側軌道輪または間座に対する前記グリース溜まり形成部品のねじ込み量を変えることで前記隙間のギャップ量を可変とした転がり軸受装置。
【請求項3】
請求項2において、前記固定側軌道輪または間座に対する前記グリース溜まり形成部品のねじ込み位置を固定する固定具を設けた転がり軸受装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記グリース溜まり形成部品を、前記間座の周面に、互いに噛み合うねじ面で結合したものであり、前記固定側軌道輪と間座の接触部にシール部材を介在させた転がり軸受装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記固定側軌道輪が外輪である転がり軸受装置。
【請求項6】
請求項5において、アンギュラ玉軸受であり、前記段差面は、軌道面における接触角が生じる方向と反対側の縁部に続いて形成された転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−191975(P2009−191975A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33933(P2008−33933)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】