説明

転がり軸受

【課題】異物の侵入防止を図ると同時に、軸受内部の圧力を軸受外部へ開放することが可能な回転性能や潤滑性能に優れた転がり軸受を提供する。
【解決手段】非回転状態に維持された内輪(静止輪)14と、静止輪に対向して回転する外輪(回転輪)16と、静止輪と回転輪との間に区画される軸受内部を軸受外部から密封するための密封機構とを具備し、密封機構は、基端48eが静止輪に固定され且つ先端48tが回転輪に対して非接触状態に位置決めされた外側シールド48と、基端50eが回転輪に固定され且つ先端50tが静止輪に対して非接触状態に位置決めされた他方の内側シールド50と、外側シールドの基端側に設けられ且つ内側シールド50に対して摺接状態に位置決めされたシール構造体56とを備え、回転輪に固定された内側シールドには、軸受内部から軸受外部へのみ流体を流す弁構造体58が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非回転状態に維持された静止輪と、静止輪に対向して回転する回転輪とを備えた転がり軸受において、軸受外部から軸受内部への異物の侵入を防止すると同時に、軸受内部の圧力を軸受外部へ開放するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼材を製作するための圧延設備として、種々の多段式圧延機が知られている。その一例として図2(a),(b)に示された多段式圧延機は、ハウジング2内に複数種の圧延ロール群が設けられており、挿入口2aから挿入された鉄鋼材(図示しない)は、パスライン2pに沿って搬送される間に、圧延ロール群によって均一な厚みに圧延された後、排出口2bから排出される。
【0003】
ここで、圧延ロール群は、鉄鋼材を圧延する一対のワークロール4と、一対のワークロール4を回転自在に支持する複数の第1中間ロール6と、これら第1中間ロール6を回転自在に支持する複数の第2中間ロール8とを備えており、各第2中間ロール8は、複数のバッキングロール軸10に組み付けられた各転がり軸受12によって回転自在に支持されている。なお、各バッキングロール軸10は、常時静止した状態(非回転状態)に維持されている。
【0004】
図3に示すように、転がり軸受12は、バッキングロール軸10に嵌合(固定)された内輪(静止輪)14と、内輪(静止輪)14に対向して回転可能に配置された外輪(回転輪)16と、内外輪14,16間に複列で組み込まれた複数の転動体18と、各転動体18を1つずつ等間隔に保持する保持器20とを備えている。これにより、転がり軸受12は、外輪回転の軸受構造を成している。
【0005】
なお、図面上において、転動体18として“円筒ころ”を例示したが、“円すいころ”が適用される場合もある。また、内外輪14,16及び転動体18の材質としては、例えば合金鋼などの鋼材で形成することができる。更に、図面では一例として、2つの内輪14と1つの外輪16とを対向配置させた軸受構造を示した。
【0006】
このような多段式圧延機において、図2(a)に示すように、転がり軸受12の外輪(回転輪)16は、複数の第2中間ロール8に圧接しており、当該第2中間ロール8と共に回転可能に位置決めされている。この場合、各外輪16からの圧力が第2中間ロール8から第1中間ロール6を介して一対のワークロール4に作用することで、当該ワークロール4の撓みが防止されている。これにより、パスライン2pに沿って搬送される鉄鋼材は、一対のワークロール4によって均一な厚みに圧延される。
【0007】
また、転がり軸受12には、軸受外部から軸受内部への異物(例えば、塵埃、圧延油)の侵入防止を図るために、軸受内部を軸受外部から密封する密封機構が設けられている。図3には、密封機構の一例が示されており、当該密封機構は、複列の転動体18の両側の内外輪14,16間にそれぞれ設けられている。
【0008】
図3に示された密封機構は、基端48eが内輪(静止輪)14に固定(圧入)され且つ先端48tが外輪(回転輪)16に向けて延出し、その延出端が外輪(回転輪)16に対して非接触状態に位置決めされた環状の外側シールド48と、当該外側シールド48よりも軸受内部側に配置された環状の内側シールド50とを備えている。この場合、内側シールド50は、基端50eが外輪(回転輪)16に固定され且つ先端50tが内輪(静止輪)14に向けて延出し、その延出端が内輪(静止輪)14に対して非接触状態に位置決めされている。なお、内側シールド50の基端50eは、環状の止め輪52によって外輪(回転輪)16に嵌め合わせて固定されている。なお、図面には、内側シールド50の基端50eと外輪(回転輪)16との間にOリング54を介在させているが、当該Oリング54以外のシール材でも良い。
【0009】
また、内輪(静止輪)14に固定された外側シールド48には、その基端48e側にシール構造体56が設けられており、当該シール構造体56は、内側シールド50に対して摺接した状態に位置決めされている。具体的には、シール構造体56には、内側シールド50に向けて略V字状に突出したリップLpが一体成形されており、当該リップLpが内側シールド50に常時摺接している。更に、内側シールド50には、後述する圧縮エアや潤滑剤を軸受外部へ放出するための小孔Hが周方向に沿って1個、又は所定間隔で複数個設けられている。
【0010】
また、多段式圧延機には、転がり軸受12の回転性能や潤滑性能を一定に維持するために、潤滑剤(油)を軸受内部に供給する潤滑油供給システムが構築されている。その一例として図2(b)に示された潤滑油供給システムにおいて、バッキングロール軸10には、これを軸方向に貫通して形成された潤滑油供給孔28と、バッキングロール軸10の外周を周方向に沿って一部窪ませて形成された複数の潤滑油供給溝30とが設けられている。
【0011】
この場合、各潤滑油供給溝30と潤滑油供給孔28とは、潤滑油供給孔28から径方向に沿って放射状に穿孔された複数の連通孔32を介して互いに連通されている。また、各潤滑油供給溝30は、各転がり軸受12の内輪14相互間に対向して配置されている。具体的には、図3に示すように、内輪14相互間には、その内周に沿って周方向に連続した潤滑油循環溝34が形成されており、当該潤滑油循環溝34と潤滑油供給溝30とは互いに対向して配置されている。これにより、双方の溝30,34で囲まれた領域には、周方向に沿って環状に延出した潤滑油経路(特に参照符号は付さない)が構築される。また、内輪14相互間には、溝30,34で囲まれた潤滑剤経路と軸受内部とを連通させる潤滑油供給孔36が形成されている。
【0012】
このような潤滑油供給システムによれば、図示しない潤滑油供給源から潤滑油供給孔28に供給された潤滑油は、連通孔32を通って潤滑油循環溝34と潤滑油供給溝30とで囲まれた潤滑油経路に導入された後、当該潤滑油経路から潤滑油供給孔36を通って軸受内部に供給される。この場合、軸受内部に供給する潤滑油の流れをサポートするために、図示しない潤滑油供給源から潤滑油供給孔28に圧縮エアが送られており、当該圧縮エアは、潤滑油と共に、連通孔32から上記潤滑油経路及び潤滑油供給孔36を通って軸受内部に供給された後、複列の転動体18相互間を通って密封機構に達する。
【0013】
このとき、密封機構に達した圧縮エアは、図4に示すように、内側シールド50に設けられた各小孔Hを通った後、外側シールド48の先端48tと外輪(回転輪)16との隙間Sから軸受外部へ排出される。このとき、軸受内部に供給された潤滑油が当該圧縮エアと共に軸受外部へ排出するという流れが形成される。これにより、軸受内部と軸受外部との間の気圧調整を行いながら潤滑油の供給を行うシステムが構築されている(特許文献1)。
【0014】
しかし、上述したような密封機構(図3、図4)では、外輪(回転輪)16と共に回転する内側シールド50に複数の小孔Hが設けられているため、例えば塵埃や圧延油などの異物が複数の小孔Hを通って軸受内部に侵入してしまう場合がある。この場合、浸入した異物によって潤滑油が汚染したり、異物が転動体18と内外輪14,16との間に入り込んだりすると、転がり軸受12の回転性能や潤滑性能が低下し、その結果、当該転がり軸受12が早期に劣化してしまう虞がある。そうなると、転がり軸受12を長期に亘って連続して且つ安定して使用することができなくなってしまう。
【特許文献1】特開2004−278660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、異物の侵入防止を図ると同時に、軸受内部の圧力を軸受外部へ開放することが可能な回転性能や潤滑性能に優れた転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような目的を達成するために、第1の発明は、非回転状態に維持された静止輪と、静止輪に対向して回転する回転輪と、静止輪と回転輪との間に転動自在に組み込まれた複数の転動体と、静止輪と回転輪との間に区画される軸受内部を軸受外部から密封するための密封機構とを備えた転がり軸受であって、密封機構は、基端が静止輪に固定され且つ先端が回転輪に向けて延出し、その延出端が回転輪に対して非接触状態に位置決めされた一方のシール部材(外側シールド)と、基端が回転輪に固定され且つ先端が静止輪に向けて延出し、その延出端が静止輪に対して非接触状態に位置決めされた他方のシール部材(内側シールド)と、一方のシール部材の基端側に設けられ且つ他方のシール部材に対して摺接した状態に位置決めされたシール構造体とを備えており、回転輪に固定された他方のシール部材には、軸受内部から軸受外部へのみ流体を流す弁構造体が設けられている。
第1の発明によれば、密封機構により異物の侵入防止を図ると同時に、弁構造体により軸受内部の圧力を軸受外部へ開放することができる。これにより、転がり軸受の回転性能や潤滑性能を一定に維持することができる。
【0017】
第2の発明において、静止輪は、回転輪の内側に対向配置された内輪として構成されており、回転輪は、内輪の外側に対向配置された外輪として構成されている。
第2の発明によれば、内輪が回転を行わず、外輪が回転する外輪回転転がり軸受を構成することができる。
【0018】
第3の発明は、軸受内部に潤滑油を供給して潤滑が行われる転がり軸受であって、弁構造体は、軸受内部に供給された潤滑油を軸受外部へ排出する構造を有している。
第3の発明によれば、供給された潤滑油を弁構造体で排出することで、転がり軸受の回転性能や潤滑性能を一定に維持することができる。
【0019】
第4の発明は、鉄鋼材を圧延する多段式圧延機に用いられた転がり軸受であって、多段式圧延機は、鉄鋼材を圧延するための圧延ローラ群を備えており、転がり軸受は、圧延ローラ群のバッキングロール軸に組み付けられている。
第4の発明によれば、回転性能や潤滑性能に優れた転がり軸受を多段式圧延機に用いたことで、当該多段式圧延機を安定して稼働させることが可能となり、これにより、鉄鋼材を均一な厚みに圧延することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、異物の侵入防止を図ると同時に、軸受内部の圧力を軸受外部へ開放することが可能な回転性能や潤滑性能に優れた転がり軸受を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態に係る転がり軸受について添付図面を参照して説明する。なお、本実施の形態は、多段式圧延機(図2(a),(b))に用いた転がり軸受12(図3、図4)の密封機構の改良であるため、以下では、改良部分の説明にとどめる。この場合、上述した転がり軸受12(図3、図4)と同一の構成については、その構成に付された参照符号と同一の符号を本実施の形態に用いた図面上に付すことで、その説明を省略する。
【0022】
図1(a),(b)に示すように、本実施の形態の転がり軸受12において、外側シールド48及び内側シールド50を備えた密封機構には、軸受内部と軸受外部との間の気圧調整を行う弁構造体58が設けられており、当該弁構造体58は、外輪(回転輪)16に固定されて当該外輪(回転輪)16と共に回転する内側シールド50に配置されている。ここで、弁構造体58は、既に技術的に知られている既存の例えばリリーフ弁や脱圧弁と同様の機能を有している。
【0023】
この場合、弁構造体58は、例えば軸受内部に供給する潤滑油の流れをサポートする際に、当該潤滑油と共に送られた圧縮エアにより軸受内部の圧力が軸受外部の圧力よりも高くなったとき、軸受内部から軸受外部へ空気(圧縮エア)を流して、軸受内部の圧力を軸受外部へ開放する。このとき、軸受内部の圧縮エアは、外輪(回転輪)16と共に回転する内側シールド50に配置された弁構造体58を通った後、外側シールド48の先端48tと外輪(回転輪)16との隙間Sから軸受外部へ排出される。これにより、軸受内部と軸受外部との間の気圧調整を行うことができるため、転がり軸受を長期に亘って連続して且つ安定して使用することができる。
【0024】
また、弁構造体58は、逆止弁としての機能も有している。この場合、軸受外部から軸受内部への異物の侵入防止を図ることができるため、異物によって潤滑油が汚染したり、異物が転動体18と内外輪14,16との間に入り込んだりするといった事態を回避することができる。これにより、軸受内部の潤滑油の性能を一定に維持することができるため、転がり軸受12の回転性能や潤滑性能が一定に維持され、その結果、転がり軸受を長期に亘って連続して且つ安定して使用することができる。
【0025】
このように、本実施の形態の転がり軸受12は、異物の侵入防止を図ると同時に、軸受内部の圧力を軸受外部へ開放することが可能な回転性能や潤滑性能に優れた効果を実現することができる。このため、かかる効果を実現する転がり軸受12を多段式圧延機(図2(a),(b))に用いることで、当該多段式圧延機を安定して稼働させることが可能となり、これにより、鉄鋼材を均一な厚みに圧延することができる。
【0026】
なお、弁構造体58の個数については、図1において、軸受両側の内側シールド50にそれぞれ1個ずつ設けた構成を例示したが、これに限定されることは無く、各内側シールド50にそれぞれ複数個設けても良い。その際、弁構造体58の個数は、例えば内側シールド50の形状や大きさ、或いは、軸受の使用目的や使用環境に応じて任意に設定されるため、ここでは特に数値限定はしない。
【0027】
また、弁構造体58の配置(位置)については、図1において、内側シールド50の略中央寄りに設定した構成を例示したが、これに限定されることは無く、内側シールド50の先端50t寄り或いは基端50e寄りに設定しても良い。
【0028】
また、上述した実施の形態では、図1において、転動体18として“円筒ころ”を例示したが、これ以外の“玉”や“円錐ころ”を適用しても同様の効果を得ることができる。更に、上述した実施の形態では、転動体18を軸方向に2列配置した軸受構造としたが、軸方向に1列、或いは、3列以上としても同様の効果を得ることができる。また、シール構造体56が外側シールド48と一体になっていても同様の効果が得られる。
【0029】
また、上述した実施の形態では、図1において、弁構造体58を外輪(回転輪)16に固定された内側シールド50に配置した構成を例示したが、これに限定されることは無く、外輪(回転輪)16に固定された内側シールド50以外の部材に弁構造体46を配置しても良いし、或いは、外輪(回転輪)16に直接配置しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a)は、本発明の一実施の形態に係る転がり軸受の構成を一部拡大して示す断面図、(b)は、同図(a)の密封機構の構成を拡大して示す断面図。
【図2】(a)は、多段式圧延機の圧延ロール群の構成例を示す平面図、(b)は、バッキングロール軸まわりの構成例を示す側面。
【図3】従来の転がり軸受の構成を一部拡大して示す断面図。
【図4】従来の転がり軸受において、軸受内部と軸受外部との間の気圧調整を説明するための密封機構の断面図。
【符号の説明】
【0031】
14 内輪(静止輪)
16 外輪(回転輪)
48 外側シールド
48e 外側シールドの基端
48t 外側シールドの先端
50 内側シールド
50e 内側シールドの基端
50t 内側シールドの先端
56 シール構造体
58 弁構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非回転状態に維持された静止輪と、静止輪に対向して回転する回転輪と、静止輪と回転輪との間に転動自在に組み込まれた複数の転動体と、静止輪と回転輪との間に区画される軸受内部を軸受外部から密封するための密封機構とを備えた転がり軸受であって、
密封機構は、基端が静止輪に固定され且つ先端が回転輪に向けて延出し、その延出端が回転輪に対して非接触状態に位置決めされた一方のシール部材と、基端が回転輪に固定され且つ先端が静止輪に向けて延出し、その延出端が静止輪に対して非接触状態に位置決めされた他方のシール部材と、一方のシール部材の基端側に設けられ且つ他方のシール部材に対して摺接した状態に位置決めされたシール構造体とを備えており、
回転輪に固定された他方のシール部材には、軸受内部から軸受外部へのみ流体を流す弁構造体が設けられていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
静止輪は、回転輪の内側に対向配置された内輪として構成されており、回転輪は、内輪の外側に対向配置された外輪として構成されていることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
軸受内部に潤滑油を供給して潤滑が行われる転がり軸受であって、
弁構造体は、軸受内部に供給された潤滑油を軸受外部へ排出する構造を有していることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項4】
鉄鋼材を圧延する多段式圧延機に用いられた転がり軸受であって、
多段式圧延機は、鉄鋼材を圧延するための圧延ローラ群を備えており、転がり軸受は、圧延ローラ群のバッキングロール軸に組み付けられていることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−223963(P2008−223963A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66266(P2007−66266)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】