説明

転がり軸受

【課題】シール固定時の作業性の良い転がり軸受を提供する。
【解決手段】静止した内輪14と回転する外輪16と転動体18と、軸受内部を密封する密封機構とを備え、密封機構は内輪に固定され、円環部23bを含む第1のシール部材22と、外輪16に固定され芯金24aと弾性部材24bとで構成された円環部24cを含み、第1のシール部材と対向した第2のシール部材24とで構成されており、第2のシール部材は第1のシール部材の円環部に摺接するシールリップLpを備え、第2のシール部材は、外輪に形成された止め輪溝16bに嵌め合わされる円環状の止め輪26によって固定される構成を備えた転がり軸受であって、止め輪の軸受外部側の面が、止め輪の外周に向けてテーパー状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非回転状態に維持された静止輪と、静止輪に対向して回転する回転輪とを備えた転がり軸受において、特に軸受外部から軸受内部への異物の侵入を防止するために備えられる密封機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼材を製作するための圧延設備として、種々の多段式圧延機が知られている。その一例として図10(a),(b)に示された多段式圧延機は、ハウジング2内に複数種の圧延ロール群が設けられており、挿入口2aから挿入された鉄鋼材(図示しない)は、パスライン2Pに沿って搬送される間に、圧延ロール群によって均一な厚みに圧延された後、排出口2bから排出される。
ここで、圧延ロール群は、鉄鋼材を圧延する一対のワークロール4と、一対のワークロール4を回転自在に支持する複数の第1中間ロール6と、これら第1中間ロール6を回転自在に支持する複数の第2中間ロール8とを備えており、各第2中間ロール8は、複数のバッキングロール軸10に組み付けられた各転がり軸受12によって回転自在に支持されている。なお、各バッキングロール軸10は、常時静止した状態(非回転状態)に維持されている。
【0003】
転がり軸受12は、図11に示すように、バッキングロール軸10に嵌合(固定)された内輪(静止輪)14と、内輪(静止輪)14に対向して回転可能に配置された外輪(回転輪)16と、内外輪14,16間に複列で組み込まれた複数の転動体(円筒ころ)18と、各転動体18を1つずつ等間隔に保持する保持器20とを備えている。これにより、転がり軸受12は、外輪回転の軸受構造を成している。なお、図示例の外輪16は中つばを有する形態が採用され、内輪14に設けられている潤滑油供給孔54から、軸受内部に潤滑油または潤滑油と圧縮エアを用いて潤滑が行われる軸受形式である。
【0004】
このような多段式圧延機において、図10及び図11に示すように、転がり軸受12の外輪(回転輪)16は、複数の第2中間ロール8に圧接しており、当該第2中間ロール8と共に回転可能に位置決めされている。この場合、各外輪16からの圧力が第2中間ロール8から第1中間ロール6を介して一対のワークロール4に作用することで、当該ワークロール4の撓みが防止されている。これにより、パスライン2Pに沿って搬送される鉄鋼材は、一対のワークロール4によって均一な厚みに圧延される。
なお、内外輪14,16及び転動体18の材質としては、例えば合金鋼などの鋼材で形成することができる。
【0005】
転がり軸受12には、軸受外部から軸受内部への異物(例えば、塵埃、圧延油)の侵入防止を図るために、軸受内部を軸受外部から密封する密封機構が設けられている。
また、この場合、軸受内部に供給する潤滑油の流れをサポートするために、図示しない潤滑油供給源から潤滑油供給孔54に圧縮エアが送られており、当該圧縮エアは、潤滑油と共に、潤滑油経路及び潤滑油供給孔54を通って軸受内部に供給された後、複列の転動体18相互間を通って密封機構に達する。
【0006】
「先行技術1」
図11には、密封機構の一例が示されており、当該密封機構は、複列の転動体18の両側の内外輪14,16間にそれぞれ設けられている(非特許文献1)。
【0007】
図11に示された密封機構は、内径22eが内輪(静止輪)14に固定(圧入)され且つ外径22tが外輪(回転輪)16に対して非接触状態に位置決めされた環状のシールド22と、当該シールド22よりも軸受内部側に配置された環状のシール24とを備えている。
ここで、シール24は、外径24eが外輪(回転輪)16に固定され且つ内径24tが内輪(静止輪)14に向けて延出し、その内径24tから延出端(シールリップ)がシールド22方向に向けて傾斜するとともに、該シールド22に対して摺接した状態に位置決めされている。
【0008】
この場合、シール24は、芯金24aにゴム材24bを被覆して形成されており、その内径24tには、シールド22に向けて略V字状に突出したゴム製のリップLpが一体成形されており、当該リップLpがシールド22に常時摺接している。なお、シール24の外径24eは、環状の止め輪26によって外輪(回転輪)16に嵌め合わせて固定されている。
【0009】
しかし、図11に示す非特許文献1に開示の密封機構(先行技術1)の場合、次のような課題を抱えていた。
すなわち、非特許文献1では、外輪16にシール24を備え、そのシール24の外径24eは、該外径24eに環状の止め輪26がスラスト方向から環状の止め輪26が押し当られることによって固定されている。この場合、外輪(回転輪16)の内周面には、周方向に連続した環状の止め輪溝16bが形成されており、該止め輪溝16bに止め輪26が嵌め合わされて固定される。
【0010】
具体的には、シール24の外径24eは、本実施例では、外輪(回転輪16)の内周面に形成された段部16cに当て付けられて、軸受内部方向の位置決めがされるとともに、外輪(回転輪16)の内周面のシール24よりも軸受外部側に嵌め合わされる円環状の止め輪26により、軸受外部方向の位置決めがされている。
このとき、止め輪26はシール24との対向面が広い面積で接触(面接触)するので、止め輪26を止め溝16bに嵌め合わせる際や取り外す際に、スラスト方向に大きな力を加える必要があり、作業性を損なう虞がある。
【0011】
【非特許文献1】製品カタログ(株式会社ジェイテクト 製品カタログ 多段圧延機 バックアップロール用円筒ころ軸受 CAT.NO.246 P5 図例4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような問題を解決するためになされており、その目的は、シール固定時の作業性の良い転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的を達成するために、第1の発明は、非回転状態に維持された静止輪と、静止輪に対向して回転する回転輪と、静止輪と回転輪との間に転動自在に組み込まれた複数の転動体と、静止輪と回転輪との間に区画される軸受内部を軸受外部から密封するための密封機構とを備え、密封機構は、回転輪と静止輪の一方に固定して備えられ、円環状の芯金で構成された円環部を含む第1のシール部材と、回転輪と静止輪の他方に固定して備えられ、円環状の芯金と、該芯金を被覆する弾性部材とで構成された円環部を含み、該円環部を第1のシール部材の円環部と軸方向に対向させて配設した第2のシール部材とで構成されており、第2のシール部材は、円環部を構成する弾性部材の所定領域から、第1のシール部材の円環部に向けて傾斜状に一体に延設され、第1のシール部材の円環部に摺接して接触のシール領域を形成する環状のシールリップを備え、該第1のシール部材及び第2のシール部材のうち、いずれかのシール部材は、該シール部材が備えられる回転輪又は静止輪に形成された周溝に嵌め合わされる円環状の止め輪によって固定される構成を備えた転がり軸受であって、該止め輪の軸受内部側又は軸受外部側の一方若しくは双方の面が、止め輪の外周に向けてテーパー状に形成されていることを特徴とする転がり軸受としたことである。
第1の発明によれば、止め輪が外周に向けてテーパー状に形成されているので、止め輪を周溝に嵌め合わせる際に、止め輪のテーパー状に厚みが薄くなった外周側が周溝に嵌まり易く、スラスト方向に大きな力を加える必要がなくなり、作業性が向上する。
また、外輪の止め輪に入れ溝部の軸受外側部をテーパー形状としても同様に作業性が向上する。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、静止輪は、回転輪の内側に対向配置された内輪として構成されており、回転輪は、内輪の外側に対向配置された外輪として構成されていることを特徴とする転がり軸受としたことである。
第2の発明によれば、内輪が回転を行わず、外輪が回転する外輪回転転がり軸受を構成することができる。
【0015】
第3の発明は、第1の発明において、軸受内部に、潤滑油または潤滑油と圧縮エアを用いて潤滑が行われることを特徴とする転がり軸受としたことである。
第3の発明によれば、軸受内部が潤滑油供給状態となるが、特に内輪や密封機構に回収孔や排気孔を備えていないため、耐荷重性を低下することもなく、またシールリップの制約もない。
【0016】
第4の発明は、第1の発明において、鉄鋼材を圧延する多段式圧延機に用いられた転がり軸受であって、多段式圧延機は、鉄鋼材を圧延するための圧延ローラ群を備えており、転がり軸受は、圧延ローラ群のバッキングロール軸に組み付けられていることを特徴とする転がり軸受としたことである。
第4の発明によれば、バッキングロール軸の軸受構造に適した密封機構を提供することが簡易かつ安価にできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シール固定時の作業性の良い転がり軸受を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態に係る転がり軸受について添付図面を参照して説明する。
図1は実施例1、図2は実施例2、図3は実施例3、図7は実施例4、図8は実施例5、図9は実施例6をそれぞれ示す。
なお、それぞれの各実施例は、図10で示す多段式圧延機に用いた転がり軸受12(図10)の密封機構の改良であるため、以下では、改良部分の説明にとどめる。この場合、上述した図10に開示の転がり軸受12と同一の構成については、その構成に付された参照符号と同一の符号を本実施の形態に用いた図面上に付すことで、その説明を省略する。すなわち、例えば本実施例の場合、軸受内部に供給する潤滑油の流れをサポートするために、図示しない潤滑油供給源から潤滑油供給孔54に潤滑油とともに圧縮エアが送られており、当該圧縮エアは、潤滑油と共に、潤滑油経路及び潤滑油供給孔54を通って軸受内部に供給された後、複列の転動体18相互間を通って密封機構に達する潤滑構成を採用している。
なお、圧縮エアなしで潤滑油のみ供給する場合も勿論本発明の範囲内である。
また、本実施例の転がり軸受では、潤滑油の回収孔は内輪14に設けられておらず、また圧縮エアの排出孔も密封機構に設けていない形態としている。
さらに、本実施例では、本発明の転がり軸受の一適用例として上述の通り図9に示した多段式圧延機を用いて説明するが、本発明の転がり軸受は、この多段式圧延機に限定して適用されるものではなく、本発明の範囲内で設計変更可能である。また、本実施例では、内輪14を静止輪、外輪16を回転輪とし説明するが、内輪14を回転輪、外輪16を静止輪として適用する形態であっても本発明の範囲内である。
【実施例1】
【0019】
図1に示された密封機構は、静止輪としての内輪14に固定して備えられる第1のシール部材22と、回転輪としての外輪16に固定して備えられる第2のシール部材24とで構成されている。なお、図1(b)では、図1(a)中の向かって右側に配された密封機構を拡大して示すが、図1(a)中の向かって左側に配された密封機構も左右対称に構成される以外には同一の構成である。
【0020】
第1のシール部材22は、外輪(回転輪)16に対して非接触状態に位置決めされた環状の芯金23によるシールド22で構成され、該シールド22は、内径22eが内輪(静止輪)14に嵌め合わされている。具体的には、該シールド22は、固定(圧入)されている第一円筒部23aと、該第一円筒部23aから外輪16方向へと径方向に延設された円環部(円板部)23bと、該円板部23bの外輪16側から、該外輪16と非接触に延設された第二円筒部23cとで構成され、図1(b)中で略逆S字型を形成している。
【0021】
第2のシール部材24は、前記シールド22よりも軸受内部側に位置決めされた円環状の芯金24aに弾性部材(たとえばゴム材)24bを被覆して構成されており、外輪(回転輪)16に固定されている外径24eと、該外径24eから内輪(静止輪)14方向へと内径方向に延設された円環部24cと、該円環部24cの内径24tとで構成されている。なお、芯金24aの軸受外方側の面部24dを除いて、弾性部材24bで被覆されている。
【0022】
弾性部材(たとえばゴム材)24bの内径24t側は、芯金24aの内径よりも僅かに内輪14方向に突出して内輪14と非接触に備えられ、該内径24tからは、シールド22と摺接する延出端(リップ)Lpが延出している。
リップLpは、第1のシール部材(シールド)22における円環部23bの軸受内方側の面部23dに向けて外向きに傾斜した略V字状に突出するとともに、シール24の内径24tと一体成形されており、シールド22に常時摺接している摺接シールを構成している(シールの形状からV型シールやY型シールとも言う。)。これにより、リップLpが、内輪14に固定された第1のシール部材22に摺接して接触のシール領域を形成する。
リップLpの大きさ、配設位置、あるいは接触領域の大小は特に限定解釈されるものではなく、仕様に応じて本発明の範囲内で設計変更可能である。例えば、リップLpを大きく構成して剛性が弱くて長い構造とすることも可能である。
【0023】
外径24eは、外輪(回転輪16)の内周面に形成された段部16cに当て付けられて、軸受内部方向の位置決めがされるとともに、外輪(回転輪16)の内周面のシール24よりも軸受外部側に嵌め合わされる、断面矩形状で且つ、円環状の止め輪26によって、軸受外部方向の位置決めがされることにより固定されている。
【0024】
止め輪26は、図1(b)に示すように、その外径は、前記止め輪溝16bの内周よりも僅かに小径に形成される。また、その内径は、シール24の外径24eを被覆する軸受外部側24fの弾性部材24bの内径よりも僅かに大径に形成され、これにより、止め輪26の内径側が、軸受外部側24fの弾性部材24bと対向可能となる。
さらに、止め輪26の軸受外部方向の外周側には、外周に向けてテーパー状の傾斜面26aが形成されている。これにより、止め輪26の厚みは、内径側の厚みD1が、前記止め輪溝16bの軸受軸方向幅よりも僅かに小さな厚みに設定されるとともに、外径側の厚みD2が前記内径側の厚みD1よりも小さく設定されている。
なお、テーパー状の傾斜面26aの角度や大きさについては、転がり軸受の使用環境や作業の都合によって自由に設定可能であるので、ここでは特に限定しない。また、傾斜面26aの面形状については、本実施例では、面形状に形成するものとするが、これに限定されず、外径側の厚みD2が前記内径側の厚みD1よりも小さく設定されていれば、平面状に形成されていなくても良い。例えば、曲面状に形成されていても良い。
【0025】
本実施例のように構成されていることにより、密封機構は、特に、シール24を設置するために止め輪26を止め輪溝16bに嵌め合わせる際や取り外す際の作業性が向上する。すなわち、止め輪溝16bに止め輪26を嵌め合わせる際には、まず、止め輪26を撓ませて、止め輪26の外径側を止め輪溝16bに嵌め込む。このとき、止め輪26の軸受外部方向の外周側には、外周に向けてテーパー状の傾斜面26aが形成されているので、止め輪26の外周側の厚みD2が内周側に厚みD1に比べて小さく、止め輪26の外径が止め輪溝16に入り易く作業性が良い。さらに、止め輪26が撓んだ形状から本来の円環形状に復帰する際に、テーパー状の傾斜面26aと該止め輪溝16bの軸受外部側の内壁面16dが当接することによって、止め輪26には、軸受内部方向(スラスト方向)に押しまれる力が働くため、これにより、シール24の弾性部材24bをスラスト方向から押し付けることが容易となり、止め輪26が容易に止め輪溝16bに嵌め合わされる。
【0026】
また、止め輪26を止め輪溝16bから取り外す場合には、止め輪26を撓ませながら止め輪溝16bから引き出すことになるが、撓みが最もきつくなる、止め輪26の外径側を止め輪溝16bから抜くときに、止め輪26の軸受外部方向の外周側に、外周に向けて形成されたテーパー状の傾斜面26aによって、止め輪26の外周側の角が落とされている(外周側の厚みD2が小さい)ので、止め輪溝16bから止め輪26を抜き出し易く、作業性が向上する。
なお、本実施例では、テーパー状の傾斜面26aを止め輪26の片方の一方の面のみに設けたが、これに限定されず、テーパー状の傾斜面26aは、止め輪26の両面に設けられていても良い。この場合であっても、本実施例と同様の効果を得ることができる。
【0027】
また、このような密封機構とすることにより、本実施例のように、潤滑油又は潤滑油と圧縮エアを用いて潤滑が行われる形式において、軸受内圧がシールリップLpの剛性と軸受外圧の和よりも高くなれば、軸受内圧によりシールリップLpが開かれて潤滑油及びエアが排出される。従って、内輪14や密封機構に回収孔や排気孔を設けなくとも、軸受内に供給される潤滑油の流れを作ることが出来るため、軸受内部及びシールリップLp領域での潤滑不良が防止され、安定して潤滑システムが形成される。また、排気孔を設けないため、排気孔を介しての異物や圧延油などの侵入を防止し得ることができ、軸受の早期焼付きや早期損傷の防止に寄与し得る。
本実施例によれば、第2のシール部材24を一体に構成している弾性部材24bの所定領域にシールリップLpを一体に備えているため、密封機構の組み込み工程も簡易であるとともに、軸受内部における密封機構の配設領域の省スペース化が可能となる。
【0028】
また、本実施例によれば、軸受内部が潤滑油供給状態となるが、特に内輪14や密封機構に回収孔や排気孔を備えていないため、耐荷重性を低下することもなく、またシールリップLpの制約もない。すなわち、シールリップLpは、第1のシール部材22の芯金の円環部23bの軸受内方側の面部23dであればどこに接触(摺接)してもよく、シールのリップ開き圧力の調整が容易である。
【実施例2】
【0029】
図2に示す本実施例の密封機構は、テーパー状の傾斜面26aが止め輪26の軸受内部側に設けられている点が前記実施例1と相違する。その他の構成は前記実施例1と同様であるので、ここでは本実施例の特徴部分である止め輪26とその周辺の構成を重点に説明し、その他の説明を省略する。
本実施例では、図2(a)に示すように、その外径は、前記止め輪溝16bの内周よりも僅かに小径に形成される。また、その内径は、シール24の外径24eを被覆する軸受外部側24fの弾性部材24bの内径よりも僅かに大径に形成され、これにより、止め輪26の内径側が、軸受外部側24fの弾性部材24bと対向可能となる。
さらに、止め輪26の軸受内部方向の外周側には、外周に向けてテーパー状の傾斜面26aが形成されている。これにより、止め輪26の厚みは、前記止め輪溝16bの軸受軸方向幅よりも小さな厚みに設定されるとともに、外径側の厚みD2が前記内径側の厚みD1よりも小さく設定されている。
なお、テーパー状の傾斜面26aの角度や大きさについては、転がり軸受の使用環境や作業の都合によって自由に設定可能であるので、ここでは特に限定しない。また、傾斜面26aの面形状については、本実施例では、面形状に形成するものとするが、これに限定されず、外径側の厚みD2が前記内径側の厚みD1よりも小さく設定されていれば、平面状に形成されていなくても良い。例えば、曲面状に形成されていても良い。
【0030】
また、本実施例では、止め輪溝16bは、止め輪26の軸方向の厚さ寸法よりもよりも大きな幅寸法(軸方向寸法)を有し、シール24の弾性部材24bの軸受外部側24fは、弾性部材24bから、軸方向に所定の寸法で一体に延出されるとともに、周方向に連続した、断面凸形状の突出部24gが円環状に1円周に形成されている。
この場合、従って、止め輪溝16bに止め輪26を嵌め合わせた場合には、止め輪26とシール24との対向面間には所定の間隔(すきま)16eが生じる。
前記シール24の突出部24gは、前記すきま16eを無くす目的で設けられており、このため、該突出部24gが突出する前記所定の寸法として、前記すきま16eよりも大きな寸法が設定されている。なお、該突出部24gは、周方向に連続した円環状に形成されるとともに、突出端24hに向けて先細り形状に形成されている。
これにより、シール24が位置決め固定される場合には、前記止め輪溝16bに嵌め合わされた止め輪26が、突出部24gの突出端24hに対して、軸受外部側からシール24にスラスト方向から押し当られる。
【0031】
本実施例のように構成されていることにより、密封機構は、特に、シール22を設置するために止め輪26を止め輪溝16bに嵌め合わせる際や取り外す際の作業性が向上する。すなわち、止め輪溝16bに止め輪26を嵌め合わせる際には、まず、止め輪26を撓ませて、止め輪26の外径側を止め輪溝16bに嵌め込む。このとき、止め輪26の軸受内部方向の外周側には、外周に向けてテーパー状の傾斜面26aが形成されているので、止め輪26の外周側の厚みD2が内周側に厚みD1に比べて小さく、止め輪26の外径が止め輪溝16に入り易く作業性が良い。さらに、止め輪26が撓んだ形状から本来の円環形状に復帰する際に、テーパー状の傾斜面26aとシール24の突出部24gが当接することによって、止め輪26に、シール24を軸受内部方向(スラスト方向)に押し込む力が生じるため、これにより、シール24の弾性部材24bをスラスト方向から押し付けることが容易となり、止め輪26が容易に止め輪溝16bに嵌め合わされる。
さらに本実施例による密封機構では、シール24を安定して設置し得る。具体的には、止め輪26が、突出部24gの突出端24hに対して、軸受外部側からシール24の外径24eにスラスト方向から押し当られているので、シール24ががたつくことがなく、安定して位置決め固定される。これにより、シール24とシールド22との距離が変化することがないので、シールリップLpの緊迫力にばらつきが生じることもない。
さらに、止め輪26とシール24は突出部24gの突出端24hのみで接触しているため、止め輪26を止め溝16bに嵌め合わせる際や取り外す際に、突出部24gが撓みやすいので、スラスト方向に大きな力を加える必要がなくなり、作業性が向上する。
【0032】
また、止め輪26のテーパー状の傾斜面26aは、図2(b)に示すように、止め輪26の軸受内部方向の内周側の厚みD1から外周側の厚みD2にかけ、徐々に小さくなるように、全面にわたって形成されていても良い。
この場合には、斜面26aの傾斜角度が、上述した本実施例の傾斜面26aの傾斜角度と比べて緩やかになる。従って、止め輪26が撓んだ形状から本来の円環形状に復帰する際に、テーパー状の傾斜面26aとシール24の突出部24gが当接して発生する、シール24を軸受内部方向(スラスト方向)に押し込む力が、止め輪26の形状の復帰に従って、徐々に強くなるように生じるため、これにより、シール24の弾性部材24bをスラスト方向から押し付けることがさらに容易となり、止め輪26が容易に止め輪溝16bに嵌め合わされ、作業性が向上する。
【0033】
なお、本実施例では、前記シール24の円環状の突出部24gが、周方向に連続して円環状に1円周に形成されている場合を説明したが、これに限定されず、該突出部24gの内周側あるいは外周側にさらに円環状の突出部を形成して、2円周以上の突出部としても良い。この場合には、前記止め輪溝16bに嵌め合わされた止め輪26が、突出部24g及び追加形成された突出部の各突出端24hに対して、軸受外部側からシール24にスラスト方向から押し当られる。これにより、シール24の位置決め固定がより確実になる。また、突出部24gは、円環状に連続していなくても良い。例えば、円環状に断続的に備えられていても良いし、或いは、円錐状の突出部24gが備えられていても良い。
この場合であっても、止め輪26は、突出部24g追加形成された突出部の各突出端24hに当接しているので、各突出端24hが撓むことにより、スラスト方向に大きな力を加える必要がなく、作業性を損なうことがない。
【0034】
さらに、本実施例では、前記シール24の円環状の突出部24gが、シール24の外径24eの軸受外方側24fに形成された場合を説明したが、これに限定されず、突出部24gは、軸受外方側24fに形成された突出部24gに代えて、シール24の外径24であって、外輪(回転輪16)の内周面に形成された段部16cに当て付けられる面に形成されていても良い。或いは、突出部24gは、軸受外方側24fと、段部16cに当て付けられる面の両方に形成されていても良い。これら場合であっても、突出部24gが軸受外方側24fに形成された場合と同様の効果を得ることができる。
また、突出部24gは、前記シール24に形成された突出部24gに代えて、止め輪26に形成されていても良い。この場合には、突出部24gは、少なくとも止め輪26のシール24をスラスト方向から押し当てる部分に形成されていれば良い。
またさらに、本実施例では、止め輪26が円環状に形成されている場合を説明したが、これに限定されず、止め輪26は、止め輪溝16bに嵌め合わされて取り付け及び取り外しが可能であれば、必ずしも円環状でなくてもよい。
【0035】
なお、本実施例では、止め輪溝16bが、止め輪26の軸方向の厚さ寸法よりもよりも大きな幅寸法を有し、シール24には突出部24gが設けられている構成を説明したが、これに限定されず、前記実施例1と同様に、止め輪溝16bは、止め輪26に厚みにあわせて形成されていても良く、シール24には、突出部24gが設けられていない構成であっても、本実施例と同様の効果が得られる。
【0036】
また、上述した実施例1及び実施例2では、止め輪26にテーパー状の傾斜面26aを形成しているが、これに限られず、傾斜面26aが止め輪溝16bに形成されていても良い。
図4に示す例では、前記実施例1(図1)と同様のシール24とシールド22を備えるとともに、傾斜面の無い止め輪26を備えている。さらに、止め輪26が嵌め合わされる止め輪溝16bの軸受外部側の内壁面16dの内径側にテーパー状の傾斜面200が形成されている。
なお、図4(a)は、止め輪溝16bの内壁面16dが止め輪26の一部に接触している場合を示し、図4(b)は、止め輪溝16bの内壁面16dが止め輪26に接触していない場合を示す。
このように形成した場合であっても、前述した実施例1と同様の効果が得られる。
【0037】
また、図5に示す例では、前記実施例2(図2)と同様のシール24とシールド22を備えるとともに、傾斜面の無い止め輪26を備えている。さらに、止め輪26が嵌め合わされる止め輪溝16bの軸受外部側の内壁面16d全体にテーパー状の傾斜面200が形成されている。
なお、図5(a)は、止め輪溝16bの内壁面16dが止め輪26の一部に接触している場合を示し、図5(b)は、止め輪溝16bの内壁面16dが止め輪26に接触していない場合を示す。
このように形成した場合であっても、前述した実施例2と同様の効果が得られる。
【実施例3】
【0038】
図3に示す本実施例の密封機構は、回転輪としての外輪16に固定して備えられる第1のシール部材80と、静止輪としての内輪14に固定して備えられる第2のシール部材90とで構成されている。なお、図2では、図1(a)中の向かって右側に配された密封機構の他の例を拡大して示すが、図1(a)中の向かって左側に配された密封機構も左右対称に構成される以外には同一の構成である。
【0039】
第1のシール部材80は、内輪14と非接触に設けられている円環状の芯金82と、該芯金82の軸受内方側の面部82aの全領域とともに、連続して外径82bを被覆する弾性部材84とで構成された円環部87を含むシールドで、外輪16の内径面に外径82b側を嵌め合わせて圧入し、軸受の軸方向で内方に配設されている。
【0040】
該シールド(第1のシール部材)80の外径82bには、弾性部材(たとえばゴム材)84が、芯金82の内径よりも僅かに内輪14方向に突出して内輪14と非接触に備えられている。従って、芯金82の軸受外方側の面部82cは弾性部材84で被覆されておらず芯金82が露呈されている。さらに、弾性部材84の外径82b側の軸受外方側には、弾性部材84から、軸方向に所定の寸法で一体に延出された、断面凸形状の突出部84gを有している。
また、シールド80の外径82bは、本実施例では、外輪(回転輪16)の内周面に形成された段部16cに当て付けられて、軸受内部方向の位置決めがされるとともに、外輪(回転輪16)の内周面のシールド80よりも軸受外部側に嵌め合わされる、断面矩形状且つ、円環状の止め輪26により固定されている。
【0041】
突出部84gは、シールド80と止め輪26との間のすきま16eよりも大きな寸法で軸方向に延出して、突出端84hに向けて先細り形状に形成されるとともに、周方向に連続した円環状に形成されている。
これにより、シールド80が位置決め固定される場合には、前記止め輪溝16bに嵌め合わされた止め輪26が、突出部84gの突出端84hに対して、軸受外部側からシールド80にスラスト方向から押し当られる。
【0042】
第2のシール部材90は、内輪14の外径面に嵌め合わされている円筒部92aと、該円筒部92aから外輪16方向へと径方向に延設され、外輪16と非接触とした円板部92bとからなる断面視略L字形状の芯金92と、該芯金92の円筒部92aの外径面92cの全領域及び円板部92bの軸受内方側の面部92dの全領域とともに、連続して外径92eを被覆する弾性部材94とで構成された円環部96と、円板部92bの軸受内方側の面部92dを覆う弾性部材94の所定領域から一体に延設され、第1のシール部材80に摺接するシールリップ98で構成されている接触シールである(シールの形状からV型シールやY型シールとも言う。)。
そして、内輪14の外径面に円筒部92aの内径面を嵌め合わせて圧入し、第1のシール部材80の円環部87と対向させて軸受の軸方向で外方に配設されている。
【0043】
シールリップ98は、円環部96を構成する弾性部材94における円板部92bの軸受内方側の面部92dを覆う弾性部材94の所定領域から、第1のシール部材80における芯金82の軸受外方側の面部82cに向けて傾斜状(外向きに傾斜状)に一体に延設され、外輪16の回転に伴って回転する第1のシール部材80に摺接して接触のシール領域を形成する環状のシールリップである。
詳しくは、本実施例によれば、円板部92bの内径と外径の間の径方向略中央位置から、肉厚の円筒状の分岐部98aを介して、該分岐部98aよりも薄肉で、第1のシール部材80の固定側である外径82b方向に向けて傾斜している断面視略V字形状を有した全体円すい状(大径D3側を第1のシール部材80方向に対向させた形状)のシールリップとしている。
シールリップ98の大きさ、配設位置、あるいは接触領域の大小は特に限定解釈されるものではなく、仕様に応じて本発明の範囲内で設計変更可能である。例えば、シールリップ98を大きく構成して剛性が弱くて長い構造とすることも可能である。
【0044】
本実施例のように構成されていることにより、密封機構は、上述した実施例1と同様の効果を得ることができるとともに、軸受外部からの異物や圧延油などの侵入も防止し得る。
また、このような密封機構とすることにより、本実施例のように、潤滑油又は潤滑油と圧縮エアを用いて潤滑が行われる形式において、軸受内圧がシールリップ98の剛性と軸受外圧の和よりも高くなれば、軸受内圧によりシールリップ98が開かれて潤滑油及びエアが排出される。従って、内輪14や密封機構に回収孔や排気孔を設けなくとも、軸受内に供給される潤滑油の流れを作ることが出来るため、軸受内部及びシールリップ98領域での潤滑不良が防止される。また、排気孔を設けないため、排気孔を介しての異物や圧延油などの侵入を防止し得ることができ、軸受の早期損傷の防止に寄与し得る。
本実施例によれば、外輪16とともに回転する第1のシール部材80に摺接して接触のシール領域を形成するシールリップ98が、内輪14に配設された第2のシール部材90に備えられているため、従来のように接触のシール領域を形成しているシールリップが遠心力により開いてシール性能を低下させてしまうという不具合も生じなくなる。
また、第2のシール部材90を一体に構成している弾性部材94の所定領域にシールリップ98を一体に備えているため、密封機構の組み込み工程も簡易であるとともに、軸受内部における密封機構の配設領域の省スペース化が可能となる。
また、本実施例によれば、軸受内部が潤滑油供給状態となるが、特に内輪14や密封機構に回収孔や排気孔を備えていないため、耐荷重性を低下することもなく、またシールリップ98の制約もない。すなわち、シールリップ98は、第1のシール部材80の芯金82の軸受外方側の面部82cであればどこに接触(摺接)してもよく、シールのリップ開き圧力の調整が容易である。
【0045】
また、前記実施例3では、止め輪26にテーパー状の傾斜面26aを形成しているが、これに限られず、傾斜面26aが止め輪溝16bに形成されていても良い。
図6に示す例では、前記実施例3と同様のシール24とシールド22を備えるとともに、傾斜面の無い止め輪26を備えている。さらに、止め輪26が嵌め合わされる止め輪溝16bの軸受外部側の内壁面16dの内径側にテーパー状の傾斜面200が形成されている。
なお、図6(a)は、止め輪溝16bの内壁面16dが止め輪26の一部に接触している場合を示し、図6(b)は、止め輪溝16bの内壁面16dが止め輪26に接触していない場合を示す。
このように形成した場合であっても、実施例3と同様の効果が得られる。
【実施例4】
【0046】
図7は本発明の実施例3に係る転がり軸受を一部省略して示す概略断面図である。
本実施例は、複列の円筒ころ間に浮き輪100を備えた実施の一形態で、密封機構に本発明の密封機構を適用した形式である。
浮き輪100は、内輪つば14a,14aと外輪つば16aと連携してそれぞれの列の転動体(円筒ころ)18の軸方向の動きを制限するとともに、転動体(円筒ころ)18の斜行を防止する周知構成である。
その他の構成及び作用効果は実施例1と同様であるためその説明は省略する。
【実施例5】
【0047】
図8は本発明の実施例4に係る転がり軸受を一部省略して示す概略断面図である。
本実施例は、内輪14の外つば14aを別部品とした実施の一例に本発明の密封機構を適用した形式である。
図8(a)は潤滑油供給孔54を内輪に設けた形式、図8(b)は内輪14,14間に間座102を備えるとともに、転動体(円筒ころ)18,18間に浮き輪100を備えた実施の一形態である。
その他の構成及び作用効果は実施例1と同様であるためその説明は省略する。
【実施例6】
【0048】
図9は本発明の実施例5に係る転がり軸受を一部省略して示す概略断面図である。
本実施例は、転動体18として複列の円すいころを組み込んだ複列の円錐ころ軸受に本発明の密封機構を適用した実施の一形態である。
その他の構成及び作用効果は実施例1と同様であるためその説明は省略する。
「変形例1」
【0049】
上述した各実施例では、シールリップLp(98)を単一構成としているが、例えば第1のシール部材22における芯金の軸受内方側の面部23dに接触する複数のリップを備える形態であっても良く、或いは、例えば第1のシール部材80における芯金82の軸受外方側の面部82cに接触する複数のリップを備える形態であっても、上述した実施例1と同様の効果を得ることができ、本発明の範囲内である。また、その複数のリップは、本実施例のシールリップLp(98)から分岐されている形式であっても、本実施例のシールリップ98とは別に弾性部材94の所定領域から突出させる形式であってもよいが、トルクがあまりに高くならないように留意する必要がある。
「変形例2」
【0050】
上述した図1乃至図9に示す実施例1乃至3では、転動体18として、"円筒ころ"を例示し、図8に示す実施例5では、転動体18として、"円錐ころ"を示したが、"玉"などの他の転動体形態を適用しても同様の効果を得ることができる。更に、上述した各実施例では、転動体18を軸方向に2列に備えた軸受構造としたが、軸方向に1列、或いは、3列以上としても同様の効果を得ることができる。
「変形例3」
【0051】
軸受潤滑油中には金属の切粉や削り屑、バリ及び摩耗粉などの異物が混入されていることがあり、これら異物が軌道輪や転動体に損傷を与え、軸受寿命の大幅な低下を招くことがある。内外輪14,16及び転動体18の材質としては、例えば従来と同様に合金鋼などの鋼材で形成することができるが、内輪14は軸10とともに回転を伴わない形式であるため、外輪16に負荷するラジアル荷重に対して内輪14に負荷する荷重は常に同じ位相に負荷する。そのため、内輪14は外輪16や転動体18と比して早期に疲れ寿命となる。すなわち、異物による損傷を受けて寿命が低下し易いという問題もある。
従って、特に静止輪としての内輪は以下の構成とするのが好ましい。
すなわち、例えばその一例を説明すると、主として炭素(C);0.1〜1.2重量%、クロム(Cr);1〜3重量%を含有し、さらにモリブデン(Mo)を2.0重量%以下添加してなる合金鋼からなり、浸炭又は浸炭窒化処理して表面層(転がり表面層ともいう。)を形成し、その表面層の残留オーステナイト量(γR vol%)が20〜45vol%、微細炭化物又は炭窒化物の平均粒径が2.3μm以下とする。
また、微細炭化物又は炭窒化物の平均粒径は、例えば0.5〜1.5μmとするのが好ましい。
また、表面層の表面硬さ(Hv)は、前記残留オーステナイト量(γR vol%)に対し、−4.7×(γR vol%)+920≦Hv≦−4.7×(γR vol%)+1020の範囲にあるのが好ましい。
さらに、前記モリブデン(Mo)の含有量は、クロム(Cr)含有量の1/3以上とするのが好ましい。
このように内輪14を構成することにより、内輪14の寿命を長くし得るとの効果が得られる。
「変形例4」
【0052】
また、前記実施例1では、第1のシール部材22における芯金23の円環部(円板部)23bをフラット形状とし、前記実施例2では、第2のシール部材90における芯金92の円板部92bをフラット形状としているが、円周方向に連続する凹部と凸部(図示省略)が、軸中心を同一とする同心円に配されることにより側面視波形状に構成することも可能で、本発明の範囲内である。このように構成することにより、芯金の強度が向上し、内輪14に圧入して嵌め込む際の変形を防止し得る。従って、芯金の変形によりシールリップLp(98)が円板部23b(92b)に強く当たりすぎたり、あるいはシールリップLp(98)が円板部23b(92b)に当たらず接触のシール領域が形成されないという不具合を防止することができる。これにより、潤滑不良や異物混入による軸受の早期焼付け防止が図れ、軸受の寿命を向上することが可能となる。
また、この凹凸構造は、それぞれの凹部と凸部が円状に構成されておらず、蛇行している形態であってもよい。また、凹部と凸部はそれぞれ大きさ(深さ・高さ及び幅など)を異にする形態であってもよい。さらに、凹部と凸部は断続的に設けられているものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明転がり軸受の一実施形態である実施例1を示し、(a)は、転がり軸受の一部を省略するとともに拡大して示す断面図であり、(b)は、(a)の密封機構の構成部分を拡大して示す断面図である。
【図2】実施例2を示し、(a)は、止め輪の外径側の軸受内部方向にテーパー上の傾斜面を設けた密封機構の構成部分を拡大して示す断面図であり、(b)は、止め輪の軸受内部方向の全面にわたってテーパー上の傾斜面を設けた密封機構の構成部分を拡大して示す断面図である。
【図3】実施例3を示し、密封機構の他の例の構成部分を拡大して示す断面図である。
【図4】実施例1の変形例を示し、(a)は、止め輪溝の内壁面が止め輪の一部に接触している場合を示し、(b)は、止め輪溝の内壁面が止め輪に接触していない場合を示す要部拡大図である。
【図5】実施例2の変形例を示し、(a)は、止め輪溝の内壁面が止め輪の一部に接触している場合を示し、(b)は、止め輪溝の内壁面が止め輪に接触していない場合を示す要部拡大図である。
【図6】実施例3の変形例を示し、(a)は、止め輪溝の内壁面が止め輪の一部に接触している場合を示し、(b)は、止め輪溝の内壁面が止め輪に接触していない場合を示す要部拡大図である。
【図7】実施例4の一部を省略するとともに拡大して示す断面図で、ころ間に浮き輪を設置した一形態である。
【図8】実施例5の一部を省略するとともに拡大して示す断面図で、(a)は、内輪の外つばを別体のつば輪とし、つば輪に本発明を構成する密封機構を組み込んだ一形態、(b)は、外輪の中つばを無くし、ころ間に浮き輪を設置するとともに、内輪の外つばを別体のつば輪とし、つば輪に本発明を構成する密封機構を組み込んだ一形態である。
【図9】実施例6の一部を省略するとともに拡大して示す断面図で、複列の円すいころ軸受に本発明を適用した実施の一形態である。
【図10】本発明の転がり軸受の一適用事例で、(a)は、多段式圧延機の圧延ロール群の構成例を示す概略側面図、(b)は、バッキングロール軸まわりの構成例を示す概略正面である。
【図11】先行技術1に係る転がり軸受の断面図で、(a)は、バッキングロール軸に組み込まれている従来の転がり軸受の構成を一部省略するとともに拡大して示す断面図、(b)は、(a)の密封機構の構成部分を拡大して示す断面図である。
【符号の説明】
【0054】
14 内輪(静止輪)
16 外輪(回転輪)
16b 止め輪溝
18 転動体
22 第1のシール部材
23b 第1のシール部材の円環部
24 第2のシール部材
24a 第2のシール部材の芯金
24b 第2のシール部材の弾性部材
24c 第2のシール部材の円環部
24g 突出部
26 止め輪
26a テーパー状の傾斜面
Lp 第2のシール部材のシールリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非回転状態に維持された静止輪と、静止輪に対向して回転する回転輪と、静止輪と回転輪との間に転動自在に組み込まれた複数の転動体と、静止輪と回転輪との間に区画される軸受内部を軸受外部から密封するための密封機構とを備え、
密封機構は、
回転輪と静止輪の一方に固定して備えられ、円環状の芯金で構成された円環部を含む第1のシール部材と、
回転輪と静止輪の他方に固定して備えられ、円環状の芯金と、該芯金を被覆する弾性部材とで構成された円環部を含み、該円環部を第1のシール部材の円環部と軸方向に対向させて配設した第2のシール部材とで構成されており、
第2のシール部材は、円環部を構成する弾性部材の所定領域から、第1のシール部材の円環部に向けて傾斜状に一体に延設され、第1のシール部材の円環部に摺接して接触のシール領域を形成する環状のシールリップを備え、
該第1のシール部材及び第2のシール部材のうち、いずれかのシール部材は、該シール部材が備えられる回転輪又は静止輪に形成された周溝に嵌め合わされる円環状の止め輪によって固定される構成を備えた転がり軸受であって、
該止め輪の軸受内部側又は軸受外部側の一方若しくは双方の面が、止め輪の外周に向けてテーパー状に形成されていること又は止め軸を設置する外輪の溝部が内周に向けてテーパー状に形成されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
静止輪は、回転輪の内側に対向配置された内輪として構成されており、回転輪は、内輪の外側に対向配置された外輪として構成されていることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
軸受内部に、オイルまたはオイルと圧縮エアを用いて潤滑が行われることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項4】
鉄鋼材を圧延する多段式圧延機に用いられた転がり軸受であって、
多段式圧延機は、鉄鋼材を圧延するための圧延ローラ群を備えており、転がり軸受は、圧延ローラ群のバッキングロール軸に組み付けられていることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−63118(P2009−63118A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232743(P2007−232743)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】