説明

転写加飾シート、加飾成形品の製造方法及び加飾成形品

【課題】射出成形品にしわを与えない転写加飾シートを提供すること。
【解決手段】基材フィルムの片面に少なくとも剥離層を有する転写加飾シートであって、基材フィルムの剥離層側の面に離型処理がなされており、かつ他方の金型に接する面の平均表面粗さRaが0.08μm以上であることを特徴とする転写加飾シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転写加飾シート、該転写加飾シートを用いる加飾成形品の製造方法、及び該方法により得られる加飾成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元曲面等の複雑な表面形状を有する樹脂成形体の加飾方法として、射出成形同時加飾法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。射出成形同時加飾法とは、射出成形の際に金型内に挿入された加飾シートを、キャビティ内に射出注入された溶融樹脂と一体化させ、樹脂成形体表面に加飾を施す方法である。
このような射出成形同時加飾法は、ラミネート加飾法と転写加飾法とに大別することができる。ラミネート加飾法は、基材フィルム及びその上に設けられた装飾層を有する加飾シートの全層が、樹脂成形体の表面に積層一体化されるものであり、一方、転写加飾法は、樹脂成形体の表面に積層一体化された加飾シートのうち、基材フィルムが剥離除去され、装飾層等の転写層のみが樹脂成形体に残留して積層されるものである。
【0003】
ラミネート加飾法は加飾シートの基材フィルムが樹脂成形体表面に残るために、転写層を保護する機能を果たす点で優れるが、余剰部分をトリミングする必要性がある。一方、転写加飾法は転写の後に基材フィルムを剥離するために、トリミングが不要であるというメリットがあり、これらの方法は用途等に応じて使い分けられる。
ラミネート加飾法では、加飾シートとして表面保護加飾シート(ラミネートシート)が用いられ、基材フィルムは樹脂成形体の最表面に残存するために透明性が要求され、また、成形性も要求されることから、通常アクリル樹脂フィルムが好適に用いられる。
一方、転写加飾法では、加飾シートとして転写加飾シートが用いられ、基材フィルムには、成形性に加えて、剥離性が要求される。
【0004】
ところで、射出成形同時加飾法では、通常雄型に複数本のゲートが設けられ、これらのゲートを介してキャビティ内に流動状態の樹脂(溶融樹脂)が射出される。そして、キャビティ内では、ゲートの本数に対応した複数の溶融樹脂の流れが生じ、この流れが合流する部位にウェルドラインと呼ばれる毛髪状の線(ムラ)が形成される。このウェルドライン上では加飾シートにしわが発生しやすく、特に、転写加飾シートを用いる場合には、これが顕著であった。
射出成形同時加飾法においては、ウェルドライン自体を無くすことは不可能であり、ウェルドライン上にしわができないように、射出成形同時加飾装置の改良及び射出成形に際しての精密なコントロールがなされていた(特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特公昭50−19132号公報
【特許文献2】特公昭61−17255号公報
【特許文献3】特開2002−103387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で、射出成形同時加飾装置に特に改良を加えることなく、また、特に熟練を要することなく、射出成形品にしわを与えない転写加飾シート、該転写加飾シートを用いた加飾成形品の製造方法及び加飾成形品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、転写加飾シートの金型と接する基材フィルム表面の粗さを一定の値以上に制御することによって、前記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)基材フィルムの片面に少なくとも剥離層を有する転写加飾シートであって、基材フィルムの剥離層側の面に離型処理がなされており、かつ他方の金型に接する面の平均表面粗さRaが0.08μm以上であることを特徴とする転写加飾シート、
(2)前記平均表面粗さが0.08〜1μmである上記(1)に記載の転写加飾シート、
(3)前記金型に接する面がマット剤を含有する樹脂組成物によりコーティングされている上記(1)又は(2)に記載の転写加飾シート、
(4)前記離型処理が基材フィルムに離型層を設けることによりなされる上記(1)〜(3)のいずれかに記載の転写加飾シート、
(5)前記剥離層の上に、さらに絵柄層及び接着層を有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の転写加飾シート、
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の転写加飾シートを用いる射出成形同時加飾方法であって、(A)射出成形金型内に転写加飾シートを配する工程、(B)キャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却・固化して、樹脂成形と転写加飾シートの接着を同時に行う工程、及び(C)基材フィルムを剥離する工程を有する加飾成形品の製造方法、
(7)前記(A)工程と(B)工程の間に、さらに(D)真空成形により転写加飾シートを金型に密着させる工程を有する上記(6)に記載の加飾成形品の製造方法、
(8)上記(6)又は(7)に記載の方法により得られる加飾成形品、及び
(9)入射角60度における表面のグロス値が80以上である上記(8)に記載の加飾成形品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、射出成形品にしわを与えることなく加飾することができる転写加飾シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の転写加飾シートは、基材フィルムの片面に少なくとも剥離層を有し、該剥離層側の基材フィルムの表面には離型処理がなされており、かつ他方の金型に接する面の平均表面粗さRaが0.08μm以上であることを特徴とする。
本発明の転写加飾シートの典型的な構造を、図1を用いて説明する。図1は本発明の転写加飾シート10の断面を示す模式図である。図1に示す例では、基材フィルム1上に離型層2、剥離層3、絵柄層4、及び接着層5を有する。ここでは、基材フィルム1の離型処理として離型層2が設けられており、基材フィルムの他方の面(図1における上部の表面)は射出成形同時加飾に際して、金型に接する面である。
【0011】
基材フィルム1としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体等のビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル等のアクリル系樹脂;ポリスチレン等のスチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、三酢酸セルロース、セロファン、ポリカーボネート、ポリウレタン系等のエラストマー系樹脂等によるものが利用される。これらのうち、成形性及び剥離性が良好である点から、ポリエステル系樹脂、特にポリエチレンテレフタレート(以下「PET」という。)が好ましい。
【0012】
基材フィルム1の厚さとしては、形状追従性やしわが発生しにくいなどの成形性、取り扱いが容易であるとの観点から、25〜150μmの範囲が好ましく、さらに50〜100μmの範囲がより好ましい。
【0013】
本発明においては、基材フィルム1の金型と接する面の平均表面粗さRaが0.08μm以上であることが重要である。この平均表面粗さを0.08μm以上とすることによって、射出成形品にしわを与えることなく加飾することのできる転写加飾シートを得ることができる。
本発明における平均表面粗さ(Ra)は、JIS B0601−1976記載の方法に従って行ったものをいい、具体的には以下の方法によった。
[平均表面粗さ(Ra)の測定方法]
測定には、小坂研究所株式会社製、表面粗さ計「SE−3F」を用いた。測定はまず、触針径2μm、触針加重30mg、カットオフ値0.08mm、測定長2.5mmの条件で、中心線平均粗さを求めた。これを12か所の測定点で行い、このうち最大値と最小値をそれぞれカットし、10点の平均値を求めて平均表面粗さ(Ra)とした。
【0014】
平均表面粗さ(Ra)の上限値については、本発明の効果を奏する範囲であれば、特に制限はないが、1μm以下であることが好ましい。平均表面粗さ(Ra)が1μm以下であると、基材フィルムの金型に接する面の平均表面粗さ(Ra)が、剥離層3側に影響することがなく、加飾成形品の表面において、高い光沢度を与えることができる。より具体的には、入射角60度における表面のグロス値が80以上の加飾成形品を与えることができる。
以上のように、平均表面粗さ(Ra)は0.08〜1μmが好ましく、また同様の理由から、0.1〜0.5μmの範囲がさらに好ましい。
【0015】
上記平均表面粗さ(Ra)を得る方法としては、基材フィルム1の製造時に、基材フィルムを構成する樹脂原料中にマット剤等の粒子を練り込むことで基材フィルム表面を凹凸化する方法、基材フィルム1の表面に物理的又は化学的な処理を施して凹凸化する方法、基材フィルム1の表面にマット剤を含有する樹脂組成物をコーティングして凹凸化する方法などがある。
これらのうち、特殊な基材フィルムを必要とせず、しかも簡便な方法で、Raを制御することができる点から、マット剤を含有する樹脂組成物をコーティングする方法が好ましい。
【0016】
また、上記平均表面粗さ(Ra)を得るためのマット剤としては、通常、加飾シートや化粧シートの艶消し剤として用いられるものを使用することができる。具体的には、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、ガラスバルーン、ポリエチレン等の無機又は有機のフィラー乃至微粉末が挙げられ、これらのうち特にシリカが好ましい。また、マット剤の形状は任意であるが、球状又は略球状がコーティングのしやすさ、面のきれいさ等の点から好ましい。マット剤の粒径としては0.1〜10μm程度のものを用いることができる。
【0017】
マット剤を含有する樹脂組成物における、マトリックスとして用いる樹脂としては、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。これらのうち、加熱時の伸びや基材フィルムへの密着性の点からアクリル系樹脂が好ましい。
また、コーティングの方法としては特に限定されず、グラビアコート法、ロールコート法、スプレーコート法等を挙げることができる。
【0018】
上記の物理的又は化学的な処理を施して凹凸化する方法としては、サンドブラスト法、溶剤処理法などの他に、コロナ放電処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線処理法等の酸化法などが挙げられる。
【0019】
本発明の転写加飾シートにおける基材フィルム1は、剥離層3側の表面に離型処理がなされている。離型処理の方法としては種々あるが、基材フィルム1の表面に離型層2を形成する方法が特殊な基材フィルムを用いることなく、簡便に行えることから好ましい。
上記離型層2は、離型剤を塗布、乾燥させることによって形成することができ、離型剤の塗布方法としては、特に限定されず、グラビアコート法、ロールコート法、スプレーコート法等を挙げることができる。
また、離型剤としては、メラミン樹脂系離型剤、シリコーン樹脂系離型剤、フッ素樹脂系離型剤、セルロース樹脂系離型剤、尿素樹脂系離型剤、ポリオレフィン樹脂系離型剤、パラフィン系離型剤、アクリル樹脂系離型剤及びこれらの複合型離型剤等を用いることができる。これらのうち、アクリル樹脂系離型剤及びポリオレフィン樹脂系離型剤が好ましく、アクリル−ポリエチレン系などのこれらを複合したものが特に好ましい。
【0020】
本発明の転写加飾シートにおける剥離層3は、射出成形同時加飾後に、基材フィルム1及び離型層2を剥離した際に、転写物の最外層となり、光や薬品、摩耗から成形品や絵柄層を保覆するための層である。従って、耐擦傷性、耐薬品性、耐汚染性等の表面物性に優れるものが好ましい。具体的にはアクリル系樹脂やウレタン系樹脂が好適に用いられる。また、その他の樹脂としては、熱硬化性樹脂組成物や電離放射線硬化性樹脂組成物を用いることもできる。
【0021】
熱硬化性樹脂組成物としては、フェノール樹脂、フェノール−ホルマリン樹脂、尿素樹脂、尿素−ホルマリン樹脂、メラミン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、汎用の2液硬化型アクリル樹脂(アクリルポリオール硬化物)などを例示することができる。
また、電離放射線硬化性樹脂組成物とは、電磁波または荷電粒子線の中で分子を架橋、重合させ得るエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線または電子線などを照射することにより、架橋、硬化する樹脂組成物を指す。具体的には、従来電離放射線硬化性樹脂組成物として慣用されている重合性モノマー及び重合性オリゴマーないしはプレポリマーの中から適宜選択して用いることができる。
なお、電離放射線硬化性樹脂組成物として紫外線硬化性樹脂組成物を用いる場合には、光重合用開始剤を樹脂組成物100質量部に対して、0.1〜5質量部程度添加することが望ましい。
【0022】
さらに、剥離層3を構成する樹脂組成物には、紫外線吸収剤を含有していることが好ましい。紫外線吸収剤を含有することにより、加飾成形品に耐候性を付与することができる。具体的には、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、トリアジン系等が挙げられる。紫外線吸収剤の含有量としては、剥離層3を構成する樹脂組成物中に0.1〜30質量%程度である。
また、剥離層3を構成する樹脂組成物には、表面の傷つき防止性を付与するために、ポリエチレンワックスを含有させてもよい。ポリエチレンワックスの含有量としては、剥離層3を構成する樹脂組成物中に0.1〜20質量%程度である。
【0023】
剥離層3を形成する方法については特に制限はなく、グラビアコート法、ロールコート法、スプレーコート法等を挙げることができる。このような方法により塗工した後に、風乾もしくは100℃以下の温度で10秒以下程度乾燥させ、溶剤を蒸発させる。この条件であれば、基材フィルムが収縮することがなく好ましい。
また、剥離層3の厚さは0.5〜30μmとすることが好ましい。0.5μm以上であると十分な耐摩耗性、耐薬品性などの表面物性が得られ、30μm以下であれば、形状追従性などの成形性が得られるとともに、経済性の点からも有利である。以上の観点から、剥離層3の厚さは1〜10μmの範囲がより好ましい。
【0024】
上記電離放射線としては、紫外線、電子線、γ線等を挙げることができる。
紫外線の場合のエネルギー源としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、無電極放電ランプ、キセノンランプ、エキシマランプ等の紫外線ランプ類を挙げることができる。照射線量としては、50〜10000mJ/cm2が好ましい。
また、電子線の場合は、電子線源として、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。その加速電圧については、用いる樹脂や層の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70〜300kV程度、照射線量は、樹脂層の架橋密度が飽和する量が好ましく、通常5〜300kGy(0.5〜30Mrad)、好ましくは10〜50kGy(1〜5Mrad)の範囲で選定される。
【0025】
次に、絵柄層4は、加飾成形品に意匠性を付与するための層である。該絵柄層4は、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、セルロース系樹脂、アルキド系樹脂等の樹脂をバインダーとして、適切な色の顔料又は染料を着色剤として含有する着色インキ等による印刷によって形成することができる。
印刷の方法としては特に限定されず、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等を挙げることができる。
【0026】
接着層5は成形品の表面と本発明の転写加飾シート10を接着するためのものである。接着層5には、成形品の素材に適した感熱性又は感圧性の樹脂を適宜使用する。例えば、成形品の材質がアクリル系樹脂の場合は、アクリル系樹脂を用いることが好ましい。また、成形品の材質がポリフェニレンオキサイド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂等を使用することが好ましい。さらに、成形品の材質がポリプロピレン樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂を使用することが好ましい。
接着層5の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法等のコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等の印刷法がある。なお、剥離層3や絵柄層4が成形品に充分な接着性を有する場合には、接着層5を設けなくてもよい。
【0027】
本発明の加飾成形品の製造方法は、本発明の転写加飾シートを用いて、射出成形同時加飾方法によるものであり、(A)射出成形金型内に転写加飾シートを配する工程、(B)キャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却・固化して、樹脂成形と転写加飾シートの接着を同時に行う工程、及び(C)基材フィルムを剥離する工程を有する。
【0028】
(A)工程は、本発明の転写加飾シート10を成形金型内に配し、挟み込む工程である。具体的には、本発明の転写加飾シート10を、可動型と固定型とからなる成形用金型内に転写層6を内側にして、つまり、基材フィルム1が固定型に接するように転写加飾シート10を送り込む。この際、枚葉の転写加飾シートを1枚ずつ送り込んでもよいし、長尺の転写加飾シートの必要部分を間欠的に送り込んでもよい。
【0029】
次に、(B)工程はキャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却・固化して、樹脂成形と転写加飾シートの接着を同時に行う工程である。溶融樹脂は、通常、可動型に設けたゲートより射出され、成形品が形成されるのと同時にその面に転写加飾シートが接着される。
ここで用いることのできる樹脂材料としては、射出成形可能な熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を用いることができる。例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂(耐熱ABS樹脂を含む)、AS樹脂、AN樹脂、ポリフェニレンオキサイド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等を使用することができる。
【0030】
また、上記(A)工程と(B)工程の間に、さらに(D)真空成形により転写加飾シートを金型に密着させる工程を有することが好ましい。この工程は一般に予備成形と呼ばれるもので、転写加飾シートを所定の位置に配置した後、通常80〜150℃程度に加熱して軟化させ、真空吸引することにより、該シートを成形金型表面に密着させるものである。
【0031】
次いで、冷却した後、成形用金型を開いて、転写加飾シートが接着された加飾成形品を金型から取り出し、基材フィルムを剥離する((C)工程)。基材フィルム1は、離型層2を有するなどの離型処理がなされているため、離型層2と剥離層3との境界面で容易に剥離することができる。このようにして、本発明の転写加飾シートにより、しわのない優れた外観を有し、かつ耐候性、耐摩耗性及び耐薬品性を有する加飾成形品を容易に製造することができる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
(評価方法)
実施例及び比較例で得られた転写加飾シートについて、以下の方法で評価した。
(1)平均表面粗さ
明細書本文中に記載の方法で測定した。
(2)射出成型同時加飾による加飾成形品の製造
各実施例及び比較例で製造した転写加飾シートを金型に配し、予備成形を行った。次いで、金型を閉じ、耐熱性ABS樹脂(日本エーアンドエル社製「MTH」)を射出した。金型温度を60℃、射出樹脂の温度を230℃とし、樹脂は2ヶ所のゲートから射出した。その後、冷却・固化し、得られた加飾成形品について、しわの発生状況について目視にて確認した。
(3)艶の評価
グロスメーター(村上色彩技術研究所製「GMX−203」)を用い、入射角60度の条件で、加飾成形品の表面のグロス値を測定した。数字が高いほど高光沢(高艶)であることを示し、数字が低いほど低光沢(低艶)であることを示す。
【0033】
実施例1
基材フィルムである厚さ75μmの成型性PETフィルム(加熱により伸張するPETフィルム)の片側に、アクリル−ポリエチレン系樹脂で構成される離型層を形成した。離型層を形成したのと反対側の面に、アクリル樹脂に対して平均粒子径1.5μmのシリカ粒子(マット剤)を6質量%添加したアクリル樹脂組成物をグラビア印刷により、膜厚が2μmとなるように塗布した。その後、前記離型層上にアクリル系樹脂からなる剥離層、絵柄層、及び接着層を塗布し、転写加飾シートを得た。それぞれの層の厚さは、3μm、2μm、及び3μmとした。この転写加飾シートについて、上記方法にて評価した。結果を第1表に示す。
【0034】
実施例2
実施例1において、シリカ粒子(マット剤)の含有量を35質量%としたこと以外は実施例1と同様にして転写加飾シートを得た。実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
【0035】
比較例1
実施例1において、基材フィルムの金型に接する面に処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして転写加飾シートを得た。実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
【0036】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の転写加飾シートを用いれば、しわのない外観の良好な加飾成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の転写加飾シートの一例を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0039】
1.基材フィルム
2.離型層
3.剥離層
4.絵柄層
5.接着層
6.転写層
10.転写加飾シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの片面に少なくとも剥離層を有する転写加飾シートであって、基材フィルムの剥離層側の面に離型処理がなされており、かつ他方の金型に接する面の平均表面粗さRaが0.08μm以上であることを特徴とする転写加飾シート。
【請求項2】
前記平均表面粗さが0.08〜1μmである請求項1に記載の転写加飾シート。
【請求項3】
前記金型に接する面がマット剤を含有する樹脂組成物によりコーティングされている請求項1又は2に記載の転写加飾シート。
【請求項4】
前記離型処理が基材フィルムに離型層を設けることによりなされる請求項1〜3のいずれかに記載の転写加飾シート。
【請求項5】
前記剥離層の上に、さらに絵柄層及び接着層を有する請求項1〜4のいずれかに記載の転写加飾シート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の転写加飾シートを用いる射出成形同時加飾方法であって、(A)射出成形金型内に転写加飾シートを配する工程、(B)キャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却・固化して、樹脂成形と転写加飾シートの接着を同時に行う工程、及び(C)基材フィルムを剥離する工程を有する加飾成形品の製造方法。
【請求項7】
前記(A)工程と(B)工程の間に、さらに(D)真空成形により転写加飾シートを金型に密着させる工程を有する請求項6に記載の加飾成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の方法により得られる加飾成形品。
【請求項9】
入射角60度における表面のグロス値が80以上である請求項8に記載の加飾成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−247011(P2008−247011A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95117(P2007−95117)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】