説明

転動ローラ、その製造方法及びその転動ローラを備える直動案内装置

【課題】直動案内装置の作動性及び耐久性の低下を抑制することが可能な転動ローラ、その製造方法及びその転動ローラを備える直動案内装置を提供する。
【解決手段】案内レールが有するレール側転動体転動溝とスライダが有するスライダ側転動体転動溝との間に、潤滑剤とともに転動ローラ2を配置し、案内レールとスライダとの相対移動に伴い、レール側転動体転動溝及びスライダ側転動体転動溝と接触した状態で転動する転動ローラ2の外周面に、転動ローラ2の軸方向に対して傾斜する複数の傾斜溝28を形成し、各傾斜溝28の深さをDtとしたときに、0.1μm<Dt<1.0μmの条件式を成立させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械や射出成形機等に用いる直動案内装置、その直動案内装置が備える転動ローラ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械用や射出成形機等に用いられている直動案内装置としては、例えば、特許文献1に記載されているような直動案内装置がある。
図10中に示すように、この直動案内装置1は、軸方向に相対移動する二本の平行な案内レール6a,6bと、両案内レール6a,6b間に転動自在に配置した複数の転動体を備えている。また、案内レール6a,6bと転動体との間には、グリース等の潤滑剤(図示せず)を配置しており、この潤滑剤で、案内レール6a,6bと転動体との間に潤滑膜を形成している。そして、この直動案内装置1は、転動体として、転動ローラ2を用いている。なお、図10は、従来例の直動案内装置1を示す図である。また、図10中に符号14を付して示す部材は、転動ローラ2の保持器である。
【0003】
転動ローラ2は、その外周面における円周方向の面粗さを、前記外周面における軸方向の面粗さと略同一とするか、または、軸方向の面粗さよりも僅かに大きくして形成している。具体的には、転動ローラ2の外周面における円周方向の面粗さを、中心線平均粗さにおいて、0.05μm以上0.10μm以下の範囲内としている。
転動ローラ2の外周面を上記の状態とする際には、例えば、特許文献2に記載されているような転動ローラの製造方法を用いる。
この製造方法は、転動ローラ2の素材となる円柱形状の部材に対し、まず、外周面に超仕上げ加工を行う。そして、超仕上げ加工を行った外周面にタンブリングを行うことにより、転動ローラ2の外周面における円周方向の面粗さと軸方向の面粗さとを、上記の関係とする。
【0004】
このような構成の直動案内装置1であれば、往復運動の往時と復時における、転動ローラ2と両案内レール6a,6bとの相対移動量に発生する差異を、減少させることが可能となる。このため、両案内レール6a,6bと保持器14の相対位置にずれが生じ、最終的には保持器14が両案内レール6a,6bから外れてしまう現象(ミクロスリップ現象)の発生を、抑制することが可能となる。
【特許文献1】特開平3−234911号公報
【特許文献2】特開平3−292416号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載されている直動案内装置のように、転動体として転動ローラを用いる直動案内装置は、転動体としてボールを用いる直動案内装置と比較して、高い負荷に対応することが可能である。すなわち、転動体に高負荷が加わる直動案内装置では、転動体として転動ローラを用いる場合が多い。
しかしながら、転動ローラに高負荷が加わる直動案内装置では、その作動時において、転動ローラの回転速度に対する潤滑剤の移動速度が低くなる場合が多い。このため、転動ローラと案内レール(以下、「直動部材」と記載する)との間において潤滑膜の形成が困難となり、潤滑膜が減少するおそれがある。
【0006】
また、転動ローラに高負荷が加わる、すなわち、転動ローラに高い荷重が作用すると、転動ローラと直動部材との接触部に存在していた潤滑剤が排除されやすくなる。このため、転動ローラと直動部材との間において潤滑膜の形成が困難となり、潤滑膜が減少するおそれがある。
転動ローラと直動部材との間において潤滑膜が減少すると、直動案内装置の作動時に転動ローラと直動部材との間で発生する摩擦力が増加するため、直動案内装置の作動性が低下するという問題が生じる。
【0007】
また、転動ローラと直動部材との間で発生する摩擦力が増加すると、直動案内装置の作動時に生じる転動ローラの磨耗が促進されるため、転動ローラの耐久性が低下して、直動案内装置の耐久性が低下するという問題が生じる。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、転動ローラと直動部材との間に潤滑剤で形成する潤滑膜の減少を抑制することが可能な、転動ローラ、その製造方法及びその転動ローラを備える直動案内装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、軸方向に相対移動する第一直動部材と第二直動部材との間に潤滑剤とともに配置して、前記第一直動部材と前記第二直動部材との相対移動に伴い、前記第一直動部材及び前記第二直動部材と外周面とが接触した状態で転動する転動ローラであって、
前記転動ローラの外周面に、前記転動ローラの軸方向に対して傾斜する傾斜溝を形成し、
前記傾斜溝の深さをDtとしたときに、0.1μm<Dt<1.0μmの条件式を成立させることを特徴とするものである。
【0009】
本発明によると、軸方向に相対移動する第一直動部材と第二直動部材との間に潤滑剤とともに配置する転動ローラの外周面に、転動ローラの軸方向に対して傾斜する傾斜溝を形成する。
このため、第一直動部材と第二直動部材との相対移動に伴い、第一直動部材及び第二直動部材と転動ローラの外周面とが接触した状態で転動する際に、この転動に伴い、傾斜溝内の潤滑剤を移動させて転動ローラの軸方向へ移動させることが可能となる。
【0010】
また、本発明では、傾斜溝の深さをDtとしたときに、0.1μm<Dt<1.0μmの条件式を成立させる。
このため、第一直動部材及び第二直動部材と転動ローラの外周面との間において、転動ローラの軸方向に沿った潤滑剤の移動経路を確保することが可能となるとともに、潤滑剤で形成する潤滑膜の寸断を抑制することが可能となる。
【0011】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明であって、前記傾斜溝を、前記転動ローラの外周面に沿った螺旋状に形成することを特徴とするものである。
本発明によると、傾斜溝を、転動ローラの外周面に沿った螺旋状に形成するため、傾斜溝内に存在する潤滑剤の、転動ローラの軸方向に沿った移動経路を、転動ローラの周方向に沿って連続させることが可能となる。
このため、転動ローラの外周面に対し、転動ローラの周方向に沿って、転動ローラの軸方向に沿った潤滑剤の移動経路を確保することが可能となるとともに、潤滑剤で形成する潤滑膜の寸断を抑制することが可能となる。
【0012】
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載した発明であって、前記転動ローラの外周面に、前記転動ローラの軸方向に対して直交または略直交し、且つ前記傾斜溝と連続する潤滑剤保持溝を形成し、
前記潤滑剤保持溝の深さをDhとしたときに、Dt<Dhの条件式を成立させることを特徴とするものである。
【0013】
本発明によると、転動ローラの外周面に、転動ローラの軸方向に対して直交または略直交し、且つ傾斜溝と連続する潤滑剤保持溝を形成する。また、潤滑剤保持溝の深さをDhとし、傾斜溝の深さをDtとしたときに、Dt<Dhの条件式を成立させる。
このため、傾斜溝よりも深さの深い潤滑剤保持溝内に保持した潤滑剤を、転動ローラの軸方向に沿って傾斜溝内を移動させることが可能となる。また、傾斜溝内を転動ローラの軸方向に沿って移動する潤滑剤を、潤滑剤保持溝内に保持することが可能となる。
【0014】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項1から3のうちいずれか1項に記載した転動ローラを製造する転動ローラの製造方法であって、
前記転動ローラの外周面に対し溝形成手段による切削加工を施して前記傾斜溝を形成する傾斜溝形成工程を有し、
前記溝形成手段は、前記転動ローラの外周面と接触して当該外周面を切削加工する切削部を有し、
前記傾斜溝形成工程において、前記転動ローラの外周面と前記切削部とを前記傾斜溝の傾斜方向へ相対移動させることを特徴とするものである。
【0015】
本発明によると、転動ローラの製造方法が、転動ローラの外周面に対し溝形成手段による切削加工を施して傾斜溝を形成する傾斜溝形成工程を有する。また、溝形成手段が、転動ローラの外周面と接触して切削加工する切削部を有する。また、傾斜溝形成工程において、転動ローラの外周面と切削部とを、傾斜溝の傾斜方向へ相対移動させる。
このため、転動ローラの外周面に形成する傾斜溝を、簡易な構成・手順により形成することが可能となり、転動ローラの外周面に傾斜溝を形成する作業効率を向上させることが可能となるため、転動ローラの製造効率を向上させることが可能となる。
【0016】
次に、請求項5に記載した発明は、請求項1から3のうちいずれか1項に記載した転動ローラを備えたことを特徴とする直動案内装置である。
本発明によると、直動案内装置が備える転動ローラ、すなわち、軸方向に相対移動する第一直動部材と第二直動部材との間に、潤滑剤とともに配置する転動ローラとして、請求項1から3のうちいずれか1項に記載した転動ローラを備える。
このため、第一直動部材及び第二直動部材と転動ローラとの間に潤滑剤で形成する、潤滑膜の減少を抑制することが可能となり、直動案内装置の作動時に第一直動部材及び第二直動部材と転動ローラとの間で発生する摩擦力を、減少させることが可能となる。また、直動案内装置の作動時に生じる転動体の磨耗を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、直動部材と転動ローラとの間に形成する潤滑膜の減少を抑制することが可能となるため、直動案内装置の作動性及び耐久性の低下を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(第一実施形態)
(構成)
まず、図1から図5を参照して、本実施形態の構成を説明する。なお、図10に示したものと同様の構成については、同一符号を付して説明する。
【0019】
図1は、本実施形態の直動案内装置1の構成を示す側面図であり、図2は、図1のII線矢視図、図3は、図1のIII線矢視図である。なお、図1及び図2中では、説明のために、直動案内装置1の一部を破断した状態を示している。
図1から図3中に示すように、本実施形態の直動案内装置1は、第一直動部材の上方に配置する第二直動部材と、第一直動部材と第二直動部材との間に配置する複数の転動ローラ2とを備えている。また、図示しないが、第一直動部材と第二直動部材との間には、複数の転動ローラ2とともに、グリース等の潤滑剤を配置する。なお、図2及び図3中では、説明のために、第一直動部材の図示を省略している。
【0020】
本実施形態では、第一直動部材を、第二直動部材と対向する面、すなわち、上面に、直線状の溝(以下、「レール側転動体転動溝4」と記載する)を有する案内レール6とする。
また、本実施形態では、第二直動部材を、第一直動部材の上方に配置するスライダ8とする。
スライダ8は、スライダ本体10と、二つのエンドキャップ12と、二つの保持器14とを備えている。
【0021】
スライダ本体10は、レール側転動体転動溝4に対向する、すなわち、直線状のスライダ側転動体転動溝16を有する。これにより、レール側転動体転動溝4とスライダ側転動体転動溝16との間には、直線状の負荷転動路18を形成する。また、スライダ本体10は、スライダ側転動体転動溝16と平行をなす直線状のローラー戻り路20を有する。
二つのエンドキャップ12は、それぞれ、スライダ本体10の軸方向両端面にそれぞれ接合している。また、二つのエンドキャップ12は、それぞれ、負荷転動路18とローラー戻り路20とを連通させる円弧状の方向転換路22を有する。これにより、ローラー戻り路20と、負荷転動路18及び方向転換路22とから、転動体転動路24を形成する。
【0022】
二つの保持器14は、それぞれ、ローラー戻り路20及び負荷転動路18内に配置してある。なお、図中及び以降の説明では、ローラー戻り路20内に配置する保持器14を、「保持器14a」と記載し、負荷転動路18内に配置する保持器14を、「保持器14b」と記載する。
保持器14aは、ローラー戻り路20に沿って延在する線状に形成してあり、その両端部を、それぞれ、二つのエンドキャップ12に取り付けてある。保持器14bは、負荷転動路18に沿って延在する線状に形成してあり、保持器14aと同様、その両端部を、それぞれ、二つのエンドキャップ12に取り付けてある。
【0023】
各転動ローラ2は、材料として軸受鋼等を用い、円筒形状に形成してある。
また、各転動ローラ2は、転動体転動路24内へ転動自在に装填してある。
また、各転動ローラ2は、転動体転動路24内で転動体列を形成している。本実施形態では、各転動ローラ2が、転動体転動路24内で二列の転動体列を形成している場合について説明する。
【0024】
転動ローラ2の端面には、転動ローラ2の軸方向に突出する鍔部26を設けている。この鍔部26は、転動ローラ2と同様、円筒形状に形成してある。また、鍔部26は、負荷転動路18内において、保持器14bよりもスライダ側転動体転動溝16側に配置する。
鍔部26の半径は、転動ローラ2の軸方向から見て、鍔部26の半径と保持器14の厚さとの和よりも転動ローラ2の半径が大きくなる値としてある。すなわち、負荷転動路18内の転動ローラ2は、その外周面が、保持器14bよりもレール側転動体転動溝4側へ突出する。これにより、案内レール6とスライダ8との相対移動に伴い、転動ローラ2の外周面を、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と接触した状態で転動させることとなる。
【0025】
ここで、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と転動ローラ2の外周面との間、すなわち、案内レール6及びスライダ8と転動ローラ2との間には、上記の潤滑剤で形成する潤滑膜(図示せず)を形成している。
以上により、本実施形態の直動案内装置1は、案内レール6とスライダ8が、転動ローラ2の転動を介して軸方向に相対移動する、リニアローラベアリングを形成することとなる。
【0026】
以下、図1から図3を参照しつつ、図4及び図5を用いて、転動ローラ2の外周面に関する詳細な構成を説明する。
図4は、図1のIV線矢視図であり、転動ローラ2の外周面を説明する図である。なお、図4中では、説明のために、転動ローラ2以外の図示を省略している。また、図4中では、説明のために、鍔部の図示を省略している。
【0027】
図4中に示すように、転動ローラ2の外周面には、転動ローラ2の軸方向に対して角度θで傾斜する複数の傾斜溝28を形成してある。なお、図4中では、転動ローラ2の軸方向を示す線として、転動ローラ2の中心軸線CLrを記載してある。
傾斜溝28の傾斜角度θは、0°<θ<90°または90°<θ<180°の範囲内に設定する。すなわち、傾斜溝28の転動ローラ2の軸方向に対する傾斜角度θには、転動ローラ2の軸方向に対して直交及び平行となる角度を含まない。
【0028】
図5は、図4中に円Vで囲んだ範囲の拡大図である。
図5中に示すように、傾斜溝28は、傾斜溝28の深さをDtとしたときに、以下の条件式(1)を成立させるように形成してある。
0.1μm<Dt<1.0μm … (1)
以下、傾斜溝28の深さDtを、上記の条件式(1)を成立させるように形成する理由について説明する。
【0029】
傾斜溝28の深さDtを、0.1μm以下とすると、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と傾斜溝28との間に形成する隙間が、傾斜溝28内に存在する潤滑剤の移動を抑制する狭い空間となる。
このため、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と転動ローラ2の外周面との間において、潤滑剤の移動経路を確保することが困難となり、潤滑膜が減少しやすくなる。
【0030】
また、傾斜溝28の深さDtを、1.0μm以上とすると、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と傾斜溝28との間に形成する隙間が、傾斜溝28内に存在する潤滑剤に空気が混在しやすい広い空間となる。
このため、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と転動ローラ2の外周面との間において、潤滑剤の移動が寸断されやすくなり、潤滑膜の寸断が発生しやすくなるため、潤滑膜が減少しやすくなる。
以上の理由により、本実施形態では、傾斜溝28の深さDtを、上記の条件式(1)を成立させるように形成する。
【0031】
(製造方法)
次に、図4及び図5を参照しつつ、図6を用いて、上記の構成を備えた転動ローラ2を製造する製造方法(以下、「転動ローラ2の製造方法」と記載する)について説明する。
転動ローラ2の製造方法は、転動ローラ2の外周面に対し溝形成手段による切削加工を施して傾斜溝28を形成する、傾斜溝形成工程を有する。
図6は、傾斜溝形成工程を示す図である。
図6中に示すように、溝形成手段30は、切削部32と、相対移動手段34とを有する。
【0032】
切削部32は、棒状に形成してあり、その先端部に、砥石36を固定してある。
砥石36は、例えば、多段超仕上げ加工の最終工程で使用する超仕上げ砥石を用いて形成してある。超仕上げ砥石としては、例えば、炭化珪素砥粒等からなる第一砥粒と、第一砥粒の0.5〜2倍程度の平均砥粒径を持つダイヤモンド砥粒等からなる第二砥粒とを混合し、砥石用結合剤により結合したものを用いる。
【0033】
切削部32の基端部は、後述する切削深さ制御部38に取付けてある。
相対移動手段34は、加工対象物保持部40と、加工対象物回転部42と、切削部移動部44と、切削深さ制御部38と、相対移動制御部46とを備えている。
加工対象物保持部40は、転動ローラ2を、その両端面側から押圧することにより把持して、転動ローラ2を保持する。
【0034】
加工対象物回転部42は、例えば、モータ等の回転可能なアクチュエータを有しており、相対移動制御部46が出力する回転信号S1に応じて、加工対象物保持部40を回転させる。これにより、転動ローラ2を周方向に回転させる。加工対象物保持部40を回転させる回転速度、すなわち、転動ローラ2を周方向に回転させる回転速度の情報は、回転信号S1に含む。
【0035】
切削部移動部44は、例えば、モータ等の回転可能なアクチュエータと、アクチュエータの回転を水平移動に変換する変換機構とを有しており、相対移動制御部46が出力する移動信号S2に応じて、切削部32を転動ローラ2の軸方向に沿って移動させる。切削部32を転動ローラ2の軸方向に沿って移動させる移動速度の情報は、移動信号S2に含む。
切削深さ制御部38は、切削部移動部44に取付けてあり、予め記憶した傾斜溝28の深さDtに応じて、傾斜溝28の深さDtが上記の条件式(1)を成立するように、転動ローラ2の外周面に対する砥石36の接触状態を制御する。これに加え、切削深さ制御部38は、転動ローラ2の軸方向に対する切削部32の傾斜角度、具体的には、転動ローラ2の軸方向に対する砥石36の傾斜角度を制御して、転動ローラ2の外周面に対する砥石36の接触状態を制御する。
【0036】
相対移動制御部46は、傾斜溝28の転動ローラ2の軸方向に対する傾斜角度θに応じて、転動ローラ2を周方向に回転させる回転速度と、切削部32を転動ローラ2の軸方向に沿って移動させる移動速度とを算出する。そして、転動ローラ2を周方向に回転させる回転速度を含む情報信号を、回転信号S1として加工対象物回転部42へ出力する。また、切削部32を転動ローラ2の軸方向に沿って移動させる移動速度を含む情報信号を、移動信号S2として切削部移動部44へ出力する。
【0037】
以下、傾斜溝形成工程における、転動ローラ2の外周面に対する傾斜溝28の形成手順について説明する。
まず、外形を所望の形状に形成した転動ローラ2を、加工対象物保持部40により保持する。
次に、転動ローラ2の外周面のうち、一方の端面側に切削部32を接触させる。このとき、切削深さ制御部38は、予め記憶した傾斜溝28の深さDtに応じて、傾斜溝28の深さDtが上記の条件式(1)を成立するように、切削部32の転動ローラ2の外周面に対する接触状態を制御する。
【0038】
そして、相対移動制御部46が、転動ローラ2を周方向に回転させる回転速度と、切削部32を転動ローラ2の軸方向に沿って移動させる移動速度とを算出する。回転速度と移動速度とを算出した、相対移動制御部46は、回転信号S1を加工対象物回転部42へ出力するとともに、移動信号S2を切削部移動部44へ出力する。
回転信号S1の入力を受けた加工対象物回転部42は、回転信号S1が含む転動ローラ2を周方向に回転させる回転速度の情報に応じて、加工対象物保持部40を回転させ、転動ローラ2を周方向に回転させる。
【0039】
同時に、移動信号S2の入力を受けた切削部移動部44は、移動信号S2が含む切削部32を転動ローラ2の軸方向に沿って移動させる移動速度の情報に応じて、切削部32を転動ローラ2の軸方向に沿って移動させる。
転動ローラ2を周方向に回転させるとともに、切削部32を転動ローラ2の軸方向に沿って移動させると、転動ローラ2の外周面と切削部32とを、傾斜溝28の傾斜方向へ相対移動させることとなる。
【0040】
以上により、転動ローラ2の外周面に、傾斜角度が傾斜溝28の転動ローラ2の軸方向に対する傾斜角度θであり、且つ深さDtが上記の条件式(1)を成立する、傾斜溝28を形成する。
一本の傾斜溝28を形成した後、転動ローラ2の外周面のうち、一方の端面側に切削部32を接触させる位置を、形成した傾斜溝28の位置から任意の間隔で移動させ、次の傾斜溝28を形成する。これを繰り返し、転動ローラ2の外周面に、所望の本数の傾斜溝28を形成して、傾斜溝形成工程を終了する。
【0041】
(動作)
次に、図1から図5を参照しつつ、上記の構成を備えた直動案内装置1の動作について説明する。
直動案内装置1の作動時において、スライダ8が案内レール6に対して相対移動すると、この相対移動に伴い、負荷転動路18内の転動ローラ2は、その外周面が、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と接触した状態で、転動する。
このとき、転動ローラ2の外周面には、転動ローラ2の軸方向に対して角度θで傾斜する複数の傾斜溝28を形成している。
【0042】
このため、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と転動ローラ2の外周面との間に配置した潤滑剤のうち、傾斜溝28内に存在する潤滑剤は、転動ローラ2の転動に伴い、転動ローラ2の軸方向へ移動する。
また、転動ローラ2の外周面に形成した傾斜溝28を、傾斜溝28の深さをDtとしたときに、上記の条件式(1)を成立させるように形成している。
【0043】
このため、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と傾斜溝28との間に形成する隙間が、傾斜溝28内に存在する潤滑剤の移動経路を確保することが容易となる空間となり、潤滑膜の減少を抑制することが可能となる。
これに加え、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と傾斜溝28との間に形成する隙間が、傾斜溝28内に存在する潤滑剤に空気が混在しにくい空間となる。これにより、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と転動ローラ2の外周面との間において、潤滑膜の寸断を抑制することが可能となり、潤滑膜の減少を抑制することが可能となる。
【0044】
(第一実施形態の効果)
したがって、本実施形態の直動案内装置1では、転動ローラ2の外周面に、転動ローラ2の軸方向に対して角度θで傾斜する複数の傾斜溝28を形成している。また、各傾斜溝28を、傾斜溝28の深さをDtとしたときに、上記の条件式(1)を成立させるように形成している。すなわち、傾斜溝28の深さを、0.1μmを超える深さとするとともに、1.0μm未満の深さとしている。
【0045】
このため、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と転動ローラ2の外周面とが接触した状態で転動すると、転動ローラ2の転動に伴い、傾斜溝28内に存在する潤滑剤が転動ローラ2の軸方向へ移動する。
さらに、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と傾斜溝28との間に形成する隙間を、傾斜溝28内に存在する潤滑剤の移動経路を確保することが容易となる空間とすることが可能となる。これに加え、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と傾斜溝28との間に形成する隙間を、傾斜溝28内に存在する潤滑剤に空気が混在しにくい空間とすることが可能となる。
【0046】
その結果、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と転動ローラ2の外周面との間において、潤滑膜の寸断を抑制することが可能となり、潤滑膜の減少を抑制することが可能となる。これにより、直動案内装置1の作動時に生じる、摩擦力の増加及び転動ローラ2の磨耗を抑制することが可能となるため、直動案内装置1の作動性及び耐久性の低下を抑制することが可能となる。
【0047】
また、本実施形態の直動案内装置1では、転動ローラ2の製造方法が、転動ローラ2の外周面に対し、溝形成手段30による切削加工を施して傾斜溝28を形成する傾斜溝形成工程を有する。
また、溝形成手段30が、転動ローラ2の外周面と接触して切削加工する切削部32を有する。さらに、傾斜溝形成工程において、転動ローラ2の外周面と切削部32とを、傾斜溝28の傾斜方向へ相対移動させる。
【0048】
このため、傾斜溝28を、簡易な構成・手順により形成することが可能となり、転動ローラ2の外周面に傾斜溝28を形成する作業効率を向上させることが可能となる
その結果、転動ローラ2の製造効率を向上させることが可能となり、直動案内装置1の製造効率を向上させることが可能となる。
さらに、本実施形態の直動案内装置1が備える転動ローラ2は、その外周面に、複数の傾斜溝28を形成している。また、各傾斜溝28を、傾斜溝28の深さをDtとしたときに、上記の条件式(1)を成立させるように形成している。
【0049】
このため、直動案内装置1の作動時に、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と転動ローラ2の外周面との間において、潤滑膜の寸断を抑制することが可能となり、潤滑膜の減少を抑制することが可能となる。
その結果、直動案内装置1の作動時に生じる、転動ローラ2の磨耗を抑制することが可能となるため、転動ローラ2の損傷を抑制することが可能となり、転動ローラ2の耐久性を向上させることが可能となる。
【0050】
(応用例)
なお、本実施形態の直動案内装置1では、転動ローラ2を円筒形状(円筒ころ)に形成したが、転動ローラ2の形状は、これに限定するものではなく、例えば、円錐形状(円錐ころ)、樽形状(樽状ころ)、棒形状(針状ころ)としてもよい。要は、転動ローラ2の形状は、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と対向する面に傾斜溝28を形成可能な形状であればよい。
【0051】
また、本実施形態の直動案内装置1では、直動案内装置1を、ローラベアリングとしたが、これに限定するものではなく、直動案内装置1を、ローラパックやリニアガイド等としてもよい。また、直動案内装置1を、クロスローラガイド等、転動ローラ2の循環路を有していないものとしてもよい。要は、直動案内装置1は、軸方向に相対移動する二つの部材(第一直動部材及び第二直動部材)間に、潤滑剤とともに転動ローラ2を配置する構成であればよい。
【0052】
さらに、本実施形態の直動案内装置1では、転動ローラ2の製造方法において、切削部32の先端部に、転動ローラ2の外周面と接触してその外周面を切削加工する砥石36を固定したが、切削部32の構成は、これに限定するものではない。すなわち、切削部32の構成を、転動ローラ2の外周面と接触してその外周面を切削加工可能な、レーザー光線の発生源を備える構成としてもよい。この場合、例えば、相対移動手段34は、レーザー光線の照射方向を固定した状態で、転動ローラ2を回転させながら、転動ローラ2の軸方向に沿って移動させることにより、転動ローラ2の外周面とレーザー光線とを、傾斜溝28の傾斜方向へ相対移動させる。
【0053】
また、本実施形態の直動案内装置1では、転動ローラ2の外周面に、複数の傾斜溝28を形成したが、これに限定するものではなく、転動ローラ2の外周面に、一つの傾斜溝28のみを形成してもよい。もっとも、本実施形態の直動案内装置1のように、転動ローラ2の外周面に複数の傾斜溝28を形成することが、転動ローラ2の外周面全体に対して、潤滑膜を平均的に形成することが可能となるため、好適である。
【0054】
(第二実施形態)
(構成)
まず、図7を用いて、本実施形態の構成を説明する。なお、本実施形態の直動案内装置は、転動ローラ2以外の構成は、上述した第一実施形態と同様であるため、転動ローラ2以外の構成については、その説明を省略する。
図7は、本実施形態の直動案内装置が備える転動ローラ2の外周面を説明する図である。なお、図7中では、上記の図4と同様、説明のために、鍔部の図示を省略している。
図7中に示すように、転動ローラ2の外周面には、転動ローラ2の軸方向に対して傾斜する傾斜溝28を、一つのみ形成してある。
この傾斜溝28は、転動ローラ2の外周面に沿った螺旋状に形成する。
また、傾斜溝28は、傾斜溝28の深さをDtとしたときに、上述した条件式(1)を成立させるように形成してある。
その他の構成は、上述した第一実施形態と同様である。
【0055】
(動作)
次に、図1から図3及び図7を参照しつつ、上記の構成を備えた直動案内装置1の動作について説明する。
直動案内装置1の作動時において、スライダ8が案内レール6に対して相対移動すると、この相対移動に伴い、負荷転動路18内の転動ローラ2は、その外周面が、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と接触した状態で転動する。
【0056】
このとき、転動ローラ2の外周面には、転動ローラ2の軸方向に対して傾斜するとともに、転動ローラ2の外周面に沿った螺旋状の傾斜溝28を形成している。また、傾斜溝28を、傾斜溝28の深さをDtとしたときに、上記の条件式(1)を成立させるように形成している。
このため、傾斜溝28内に存在する潤滑剤は、転動ローラ2の転動に伴い、転動ローラ2の周方向に沿って連続しながら、転動ローラ2の軸方向へ移動する。
これにより、転動ローラ2の外周面に対し、転動ローラ2の周方向に沿って、転動ローラ2の軸方向に沿った潤滑剤の移動経路を確保することが可能となり、潤滑膜の寸断を抑制することが可能となるため、潤滑膜の減少を抑制することが可能となる。
【0057】
(第二実施形態の効果)
したがって、本実施形態の直動案内装置1では、転動ローラ2の外周面に形成する傾斜溝28を、転動ローラ2の外周面に沿った螺旋状に形成している。
このため、傾斜溝28内に存在する潤滑剤の、転動ローラ2の軸方向に沿った移動経路を、転動ローラ2の周方向に沿って連続させることが可能となり、転動ローラ2の周方向に沿って連続する、潤滑剤の移動経路を確保することが可能となる。
その結果、潤滑膜の減少を抑制することが可能となり、直動案内装置1の作動時に生じる、摩擦力の増加及び転動ローラ2の磨耗を抑制することが可能となるため、直動案内装置1の作動性及び耐久性の低下を抑制することが可能となる。
【0058】
(応用例)
なお、本実施形態の直動案内装置1では、転動ローラ2の外周面に、転動ローラ2の外周面に沿った螺旋状の傾斜溝28を、一つのみ形成したが、傾斜溝28の構成は、これに限定するものではない。すなわち、例えば、転動ローラ2の外周面に複数の傾斜溝28を形成し、これらの傾斜溝28うち少なくとも一つを、転動ローラ2の外周面に沿った螺旋状に形成してもよい。また、転動ローラ2の外周面に沿った螺旋状の傾斜溝28を複数形成し、各傾斜溝28が、転動ローラ2の外周面で連続していない構成であってもよい。
【0059】
(第三実施形態)
(構成)
まず、図8を用いて、本実施形態の構成を説明する。なお、本実施形態の直動案内装置は、転動ローラ2以外の構成は、上述した第一実施形態と同様であるため、転動ローラ2以外の構成については、その説明を省略する。
図8は、本実施形態の直動案内装置が備える転動ローラ2の外周面を説明する図である。なお、図8中では、上記の図4と同様、説明のために、鍔部の図示を省略している。
図8中に示すように、転動ローラ2の外周面には、転動ローラ2の軸方向に対して傾斜する複数の傾斜溝28と、一つの潤滑剤保持溝48とを形成してある。
【0060】
各傾斜溝28は、傾斜溝28の深さをDtとしたときに、上述した条件式(1)を成立させるように形成してある。
潤滑剤保持溝48は、転動ローラ2の軸方向に対して直交または略直交しており、傾斜溝28と連続する凹状溝である。潤滑剤保持溝48を形成する位置は、転動ローラ2の両端部間の中心位置とする。すなわち、潤滑剤保持溝48の幅方向中心は、転動ローラ2の径方向から見て、転動ローラ2の軸方向中心と重なる。
また、潤滑剤保持溝48は、潤滑剤保持溝48の深さをDhとし、傾斜溝28の深さをDtとしたときに、以下の条件式(2)を成立させるように形成してある。
Dt<Dh … (2)
【0061】
以下、潤滑剤保持溝48の深さDhを、上記の条件式(2)を成立させるように形成する理由について説明する。
潤滑剤保持溝48の深さDhを、傾斜溝28の深さDt以下とすると、潤滑剤保持溝48と連続する傾斜溝28内に存在する潤滑剤の大部分が、潤滑剤保持溝48内を通過して移動する。すなわち、潤滑剤保持溝48が、傾斜溝28と同様、潤滑剤の大部分が移動する移動経路を形成することとなる。
【0062】
一方、潤滑剤保持溝48の深さDhを、傾斜溝28の深さDtを超える深さとすると、潤滑剤保持溝48と連続する傾斜溝28内に存在する潤滑剤の大部分が、潤滑剤保持溝48内で一時的に滞留した後、潤滑剤保持溝48内から傾斜溝28内へ移動する。すなわち、潤滑剤保持溝48が、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と転動ローラ2の外周面との間に配置した潤滑剤を一時的に保持する、潤滑剤溜まり部を形成することとなる。
以上の理由により、本実施形態では、潤滑剤保持溝48の深さDhを、上記の条件式(2)を成立させるように形成する。
その他の構成は、上述した第一実施形態と同様である。
【0063】
(動作)
次に、図1から図3及び図8を参照しつつ、上記の構成を備えた直動案内装置1の動作について説明する。
直動案内装置1の作動時において、スライダ8が案内レール6に対して相対移動すると、この相対移動に伴い、負荷転動路18内の転動ローラ2は、その外周面が、レール側転動体転動溝4及びスライダ側転動体転動溝16と接触した状態で転動する。
【0064】
このとき、転動ローラ2の外周面には、複数の傾斜溝28と、傾斜溝28と連続する潤滑剤保持溝48とを形成している。また、潤滑剤保持溝48を、潤滑剤保持溝48の深さをDhとしたときに、上記の条件式(2)を成立させるように形成している。
このため、傾斜溝28内に存在する潤滑剤は、転動ローラ2の転動に伴い、転動ローラ2の周方向に沿って連続しながら転動ローラ2の軸方向へ移動して、潤滑剤保持溝48内で一時的に滞留する。
【0065】
そして、潤滑剤保持溝48内に滞留している潤滑剤は、その大部分が、転動ローラ2の転動に伴い、潤滑剤保持溝48内から傾斜溝28内へ移動する。
これにより、転動ローラ2の外周面に、潤滑剤の移動経路に加え、潤滑剤溜り部を確保することが可能となり、潤滑膜の寸断を抑制することが可能となるため、潤滑膜の減少を抑制することが可能となる。
【0066】
(第三実施形態の効果)
したがって、本実施形態の直動案内装置1では、転動ローラ2の外周面に、転動ローラ2の軸方向に対して直交または略直交するとともに、傾斜溝28と連続する潤滑剤保持溝48を形成する。また、潤滑剤保持溝48の深さをDhとし、傾斜溝28の深さをDtとしたときに、Dt<Dhの条件式を成立させる。
このため、傾斜溝28内を転動ローラ2の軸方向に沿って移動する潤滑剤を、潤滑剤保持溝48内に保持することが可能となる。また、傾斜溝28よりも深さの深い潤滑剤保持溝48内に保持した潤滑剤を、転動ローラ2の軸方向に沿って傾斜溝28内を移動させることが可能となる。
【0067】
その結果、潤滑膜の減少を抑制することが可能となり、直動案内装置1の作動時に生じる、摩擦力の増加及び転動ローラ2の磨耗を抑制することが可能となるため、直動案内装置1の作動性及び耐久性の低下を抑制することが可能となる。
また、潤滑剤保持溝48内に潤滑剤を保持することが可能となるため、案内レール6及びスライダ8と転動ローラ2との間への、潤滑剤の供給頻度を減少させることが可能となり、直動案内装置1のメンテナンス効率を向上させることが可能となる。
【0068】
(応用例)
なお、本実施形態の直動案内装置1では、潤滑剤保持溝48を形成する位置を、転動ローラ2の両端部間の中心位置としたが、潤滑剤保持溝48を形成する位置は、これに限定するものではない。すなわち、潤滑剤保持溝48を形成する位置を、例えば、転動ローラ2の両端部間の中心位置よりも転動ローラ2の端面側としてもよい。
また、本実施形態の直動案内装置1では、転動ローラ2の外周面に、潤滑剤保持溝48を一つのみ形成したが、これに限定するものではなく、転動ローラ2の外周面に、複数の潤滑剤保持溝48を形成してもよい。
【0069】
(第一から第三実施形態に対応する応用例)
上述した第一から第三実施形態の直動案内装置1では、傾斜溝28の転動ローラ2の軸方向に対する傾斜角度を、全て同一の角度としているが、傾斜溝28の転動ローラ2の軸方向に対する傾斜角度は、これに限定するものではない。すなわち、複数の傾斜溝28のうち、少なくとも二つの傾斜溝28同士を、転動ローラ2の軸方向に対する傾斜角度θを互いに異ならせて形成してもよい。
【0070】
以下、図9を参照して、複数の傾斜溝28のうち、少なくとも二つの傾斜溝28同士を、転動ローラ2の軸方向に対する傾斜角度θを互いに異ならせて形成する場合について説明する。
図9は、第一から第三実施形態に対応する変形例の転動ローラ2の外周面を説明する図である。なお、図9中では、上記の図4と同様、説明のために、鍔部の図示を省略している。また、図9中では、上記の図4と同様、転動ローラ2の軸方向を示す線として、転動ローラ2の中心軸線CLrを記載してある。
【0071】
図9中に示すように、転動ローラ2の外周面に形成する複数の傾斜溝28は、潤滑剤保持溝48を間に挟んで、転動ローラ2の軸方向に対する傾斜角度θを互いに異ならせてある。なお、図9中及び以降の説明では、複数の傾斜溝28のうち、図9中で潤滑剤保持溝48よりも左側に配置した傾斜溝28を、「傾斜溝28a」と記載し、図9中で潤滑剤保持溝48よりも右側に配置した傾斜溝28を、「傾斜溝28b」と記載する。
【0072】
傾斜溝28aは、転動ローラ2の軸方向に対して、角度θ1で傾斜させてあり、傾斜溝28bは、転動ローラ2の軸方向に対して、角度θ2で傾斜させてある。なお、角度θ1と角度θ2とのなす角度は、例えば、直角または略直角とする。すなわち、互いに傾斜角度が異なる傾斜溝28aと傾斜溝28b同士のなす角度は、直角または略直角とする。これにより、傾斜溝28aと傾斜溝28bとは、潤滑剤保持溝48を境に対向することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第一実施形態における直動案内装置の構成を示す側面図である。
【図2】図1のII線矢視図である。
【図3】図1のIII線矢視図である。
【図4】図1のIV線矢視図である。
【図5】図5中に円Vで囲んだ範囲の拡大図である。
【図6】転動ローラの製造方法が有する傾斜溝形成工程を説明する図である。
【図7】本発明の第二実施形態における直動案内装置が備える転動ローラの外周面を説明する図である。
【図8】本発明の第三実施形態における直動案内装置が備える転動ローラの外周面を説明する図である。
【図9】本発明の第一から第三実施形態に対する変形例を示す図である。
【図10】従来例の直動案内装置を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 直動案内装置
2 転動ローラ
4 レール側転動体転動溝
6 案内レール
8 スライダ
10 スライダ本体
12 エンドキャップ
14 保持器
16 スライダ側転動体転動溝
18 負荷転動路
20 ローラー戻り路
22 方向転換路
24 転動体転動路
26 鍔部
28 傾斜溝
30 溝形成手段
32 切削部
34 相対移動手段
36 砥石
38 切削深さ制御部
40 加工対象物保持部
42 加工対象物回転部
44 切削部移動部
46 相対移動制御部
48 潤滑剤保持溝
θ 転動ローラの軸方向に対する傾斜溝の傾斜角度
CLr 転動ローラの中心軸線
Dt 傾斜溝の深さ
S1 回転信号
S2 移動信号
Dh 潤滑剤保持溝の深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に相対移動する第一直動部材と第二直動部材との間に潤滑剤とともに配置して、前記第一直動部材と前記第二直動部材との相対移動に伴い、前記第一直動部材及び前記第二直動部材と外周面とが接触した状態で転動する転動ローラであって、
前記転動ローラの外周面に、前記転動ローラの軸方向に対して傾斜する傾斜溝を形成し、
前記傾斜溝の深さをDtとしたときに、0.1μm<Dt<1.0μmの条件式を成立させることを特徴とする転動ローラ。
【請求項2】
前記傾斜溝を、前記転動ローラの外周面に沿った螺旋状に形成することを特徴とする請求項1に記載した転動ローラ。
【請求項3】
前記転動ローラの外周面に、前記転動ローラの軸方向に対して直交または略直交し、且つ前記傾斜溝と連続する潤滑剤保持溝を形成し、
前記潤滑剤保持溝の深さをDhとしたときに、Dt<Dhの条件式を成立させることを特徴とする請求項1または2に記載した転動ローラ。
【請求項4】
請求項1から3のうちいずれか1項に記載した転動ローラを製造する転動ローラの製造方法であって、
前記転動ローラの外周面に対し溝形成手段による切削加工を施して前記傾斜溝を形成する傾斜溝形成工程を有し、
前記溝形成手段は、前記転動ローラの外周面と接触して当該外周面を切削加工する切削部を有し、
前記傾斜溝形成工程において、前記転動ローラの外周面と前記切削部とを前記傾斜溝の傾斜方向へ相対移動させることを特徴とする転動ローラの製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のうちいずれか1項に記載した転動ローラを備えたことを特徴とする直動案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−197871(P2009−197871A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39195(P2008−39195)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】