説明

転動装置部品の検査方法及び転動装置部品用検査装置

【課題】軌道輪などの転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さをコストの上昇を招くことなく短時間で測定することのできる検査方法を提供する。
【解決手段】軌道輪などの転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さを測定する手段として、転動装置部品の被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイル4aと、この交流磁場形成用コイル4aにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイル4bとを具備してなる電磁誘導センサ4を用い、電磁誘導センサ4の検出用コイル4bに発生した誘導起電力の変化から被膜の厚さを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受、ボールねじ、直動案内軸受装置などの転動装置の転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さや転動装置部品の導電率などを測定検査する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
玉軸受などの転がり軸受を例えば工作機械の主軸支持用軸受として使用する場合、軌道輪や転動体の耐焼付性、耐摩耗性の向上を図るために、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などからなる被膜を軌道輪の軌道面や転動体の表面に形成したりする場合がある(例えば、特許文献1参照)。この場合、軌道輪の軌道面や転動体の表面に形成された被膜の厚さが厚すぎたり薄すぎたりすると、被膜に剥れが生じたりすることがあるため、被膜の厚さを測定し、その厚さが適正な厚さであるか否かを検査する必要がある。
【0003】
軌道輪や転動体などの転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さを測定し、その厚さが適正な厚さであるか否かを検査する方法としては、超音波探傷法を利用して被膜の厚さを測定し、その厚さが適正な厚さであるか否かを検査する方法などがある。
また、玉軸受などの転がり軸受を例えば電動モータのモータ軸支持用軸受として使用する場合、モータ軸を支持する部分にモータ電流が流れると、電食と称される腐食が転がり軸受に発生し、転がり軸受の寿命を短寿命化する原因となる。そのため、転がり軸受を各種電気機器の回転軸支持用軸受や鉄道車両の車軸支持用軸受として用いる場合には、外側軌道輪や内側軌道輪の表面にセラミックスや合成樹脂などからなる絶縁被膜を形成することによって転がり軸受に電流が流れないようにしている場合が多い(例えば、特許文献2参照)。この場合、外側軌道輪や内側軌道輪の表面に形成された絶縁被膜の厚さが薄すぎると、電食を防止することが困難となるため、転がり軸受の導電率を測定し、その導電率が適正な導電率であるか否かを検査する必要がある。
【0004】
転がり軸受の導電率を測定し、その導電率が適正な導電率であるか否かを検査する方法としては、軸と軸受ハウジングとの間の電気抵抗値を測定し、その測定結果から導電率が適正な導電率であるか否かを検査する方法(例えば、特許文献3参照)、あるいは転がり軸受に高電圧を与えて転がり軸受の電気抵抗値を測定する方法などがある。
【特許文献1】特開2003−254341号公報
【特許文献2】特開2002−48145号公報
【特許文献3】特開2003−259598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、超音波探傷法を利用して被膜の厚さを測定し、その厚さが適正な厚さであるか否かを検査する方法は、検査時間が長くなったりするという問題があった。また、超音波媒体を使用するため、洗浄などの工程などを必要とし、コスト高になるという問題もあった。
また、特許文献2に記載された方法では、導電率を測定する装置が大掛かりになり、手間や時間がかかるという問題があった。
【0006】
本発明は上述した問題点に着目してなされたものであり、その目的は、転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さをコストの上昇を招くことなく短時間で測定することのできる転動装置部品の検査方法及び転動装置部品用検査装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、表面に絶縁被膜を有する転動装置部品の導電率を多くの手間や時間を要することなく測定することのできる転動装置部品の検査方法及び転動装置部品用検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さを測定する方法であって、前記被膜の厚さを測定する手段として、前記転動装置部品の被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイルと、この交流磁場形成用コイルにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイルとを具備してなる電磁誘導センサを用い、この電磁誘導センサの前記検出用コイルに発生した誘導起電力の変化から前記被膜の厚さを測定することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、表面に絶縁被膜を有する転動装置部品の導電率を測定する方法であって、前記導電率を測定する導電率測定手段として、前記転動装置部品の絶縁被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイルと、この交流磁場形成用コイルにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイルとを具備してなる電磁誘導センサを用い、この電磁誘導センサの前記検出用コイルに発生した誘導起電力の変化から前記転動装置部品の導電率を測定することを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、請求項2記載の転動装置部品の検査方法において、前記絶縁被膜が電食防止用転がり軸受の転がり軸受部品表面に形成された絶縁層であることを特徴とする。
請求項4記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、請求項2または3記載の転動装置部品の検査方法において、前記絶縁被膜がセラミックからなることを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、請求項1〜4のいずれか一項記載の転動装置部品の検査方法において、電磁誘導で発生する起電力の変化は振幅あるいは位相の変化量が所定の値となった場合を閾値として、前記被膜の厚さまたは前記導電率が適正な値であるか否かを検査することを特徴とする。
請求項6記載の発明に係る転動装置部品用検査装置は、転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さを測定する装置であって、前記転動装置部品の被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイルと、この交流磁場形成用コイルにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイルと、この検出用コイルのインダクタンス変化を検出するインダクタンス変化検出手段とを具備してなることを特徴とする。
【0011】
請求項7記載の発明に係る転動装置部品用検査装置は、表面に絶縁被膜を有する転動装置部品の導電率を測定する装置であって、前記転動装置部品の絶縁被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイルと、この交流磁場形成用コイルにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイルと、この検出用コイルのインダクタンス変化を検出するインダクタンス変化検出手段とを具備してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1、5及び6記載の発明によれば、転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さを測定する際に超音波探傷法を利用しないで済むので、転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さをコストの上昇を招くことなく短時間で測定することができる。
請求項2〜5及び7記載の発明によれば、転動装置部品の導電率を測定する際に軸とハウジングとの間の電気抵抗値を測定する必要がないので、表面に絶縁被膜を有する転動装置部品の導電率を多くの手間や時間を要することなく測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
軌道輪などの転動装置部品の表面に形成された被膜(例えばダイヤモンドライクカーボン被膜)の厚さを測定するときに用いられる被膜厚さ測定装置の一例を図1に示す。同図において符号11は転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さを測定する被膜厚さ測定装置であって、この被膜厚さ測定装置11は、電磁誘導センサ4を備えている。
【0014】
電磁誘導センサ4は転動装置部品の被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイル4aと、交流磁場形成用コイル4aにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイル4bとからなり、交流磁場形成用コイル4aには、励磁電流としての交流電流が交流電源5から供給されるようになっている。
また、図1に示される被膜厚さ測定装置11は、電磁誘導センサ4の検出用コイル4bのインダクタンス変化を検出するインダクタンス変化検出回路6と、このインダクタンス変化検出回路6で検出された検出用コイル4bのインダクタンス変化と予め設定した較正値とから被膜の厚さ(または導電率)を演算する膜厚演算回路(または導電率演算回路)7とを備えており、膜厚演算回路7の演算結果はCRT等の表示装置9に出力されるとともに、プリンタ等の記録装置10に出力されるようになっている。
【0015】
なお、検出用コイル4bは交流磁場形成用コイル4aに一部を接触させて交流磁場形成用コイル4aと同軸に巻回されている。また、交流磁場形成用コイル4aと検出用コイル4bは一つの筐体内に収容されている。
図1に示した被測定物の一例として外側軌道輪及び内側軌道輪の軌道面に被膜を形成した玉軸受の断面を図2に示す。同図に示されるように、外側軌道輪13及び内側軌道輪14の軌道面には、被膜15が外側軌道輪13及び内側軌道輪14を表面処理して形成されている。表面処理の種類としては、電気メッキ、無電解メッキ、化成処理、真空メッキ、溶融メッキ、溶射、表面硬化、セラミックやダイヤモンドライクカーボン等のコーティング等が挙げられる。また、被膜材の種類としては、リン系化合物、ニッケル系化合物、いおう化合物、ハロゲン化合物、窒化系化合物、炭化系化合物等が挙げられる。
【0016】
図1に示した被膜厚さ測定装置11を用いて軌道輪の表面に形成された被膜15の厚さを測定する場合は、図2に示した玉軸受の被膜15が形成された軌道輪13(または14)の表面に電磁誘導センサ4を近づけ、この状態で交流電源5から電磁誘導センサ4の交流磁場形成用コイル4aに交流電流を供給する。そうすると、交流電源5から供給された交流電流によって交流磁場形成用コイル4aが励磁され、軌道輪13(または14)の被膜形成面を含む空間部に交流磁場が交流磁場形成用コイル4aの励磁によって形成される。
【0017】
このようにして軌道輪13(または14)の被膜形成面を含む空間部に交流磁場が形成されると、電磁誘導センサ4の検出用コイル4bに誘導起電力が発生する。このとき、検出用コイル4bに発生した誘導起電力の振幅や位相は軌道輪13(または14)の表面に形成された被膜15の厚さに応じて変化する。したがって、検出用コイル4bのインダクタンス変化をインダクタンス変化検出回路6で検出し、インダクタンス変化検出回路6で検出された検出用コイル4bのインダクタンス変化を膜厚演算回路7に供給することによって被膜15の厚さを測定することができる。
【0018】
上述したように、被膜15の厚さを測定する手段として、転動装置部品の被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイル4aと、この交流磁場形成用コイル4aにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイル4bとを具備してなる電磁誘導センサ4を用いることにより、軌道輪などの転動装置部品の表面に形成された被膜15の厚さを測定する際に超音波探傷法を利用しないで済むので、転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さをコストの上昇を招くことなく短時間で測定することができる。
【0019】
次に、表面に絶縁被膜を有する転動装置部品の導電率を測定する場合に用いられる導電率測定装置の一例を図3に示す。同図において符号1は転動装置部品としての軌道輪、2は軌道輪1の表面にセラミックスを溶射して形成された絶縁被膜、3は転がり軸受などの転動装置部品の導電率を測定する導電率測定装置であって、この導電率測定装置3は、電磁誘導センサ4を備えている。
【0020】
電磁誘導センサ4は転動装置部品の絶縁被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイル4aと、この交流磁場形成用コイル4aにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイル4bとからなり、交流磁場形成用コイル4aには、励磁電流としての交流電流が交流電源5から供給されるようになっている。
また、図3に示される導電率測定装置3は、電磁誘導センサ4の検出用コイル4bのインダクタンス変化を検出するインダクタンス変化検出回路6と、このインダクタンス変化検出回路6から出力された信号(検出用コイル4bのインダクタンス変化量)と予め設定された較正値とから転動装置部品の導電率(または膜厚)を演算する導電率演算回路(膜厚演算回路)7と、この導電率演算回路7で演算された転動装置部品の導電率が適正な導電率であるか否かを判定する判定回路8とを備えており、判定回路8の判定結果はCRT等の表示装置9に出力されるとともに、プリンタ等の記録装置10に出力されるようになっている。
【0021】
なお、検出用コイル4bは交流磁場形成用コイル4aに一部を接触させて交流磁場形成用コイル4aと同軸に巻回されている。さらに、交流磁場形成用コイル4aと検出用コイル4bは一つの筐体内に収容されている。
このような導電率測定装置3を用いて軌道輪などの転動装置部品の導電率を測定する場合は、絶縁被膜2が形成された軌道輪1の表面に電磁誘導センサ4を近づけ、この状態で交流電源5から電磁誘導センサ4の交流磁場形成用コイル4aに交流電流を供給する。そうすると、交流電源5から供給された交流電流によって交流磁場形成用コイル4aが励磁され、軌道輪1の絶縁被膜形成面を含む空間部に交流磁場が交流磁場形成用コイル4aの励磁によって形成される。
【0022】
このようにして軌道輪1の絶縁被膜形成面を含む空間部に交流磁場が形成されると、電磁誘導センサ4の検出用コイル4bに誘導起電力が発生する。このとき、検出用コイル4bに発生した誘導起電力の振幅や位相は軌道輪1の表面に形成された絶縁被膜2の厚さに応じて変化する。したがって、検出用コイル4bのインダクタンス変化をインダクタンス変化検出回路6で検出し、インダクタンス変化検出回路6で検出された検出用コイル4bのインダクタンス変化を導電率演算回路7に供給することによって転動装置部品の導電率を求めることができる。また、導電率演算回路7の演算結果を判定回路8に供給することにより転動装置部品の導電率が適正な厚さであるか否かを検査することができる。
【0023】
上述したように、転動装置部品の導電率を測定する導電率測定手段として、軌道輪1の絶縁被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイル4aと、この交流磁場形成用コイル4aにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイル4bとを具備してなる電磁誘導センサ4を用いることにより、表面に絶縁被膜を有する転動装置部品の導電率を測定する際に軸とハウジングとの間の電気抵抗値を測定する必要がないので、転動装置部品の導電率を多くの手間や時間を要することなく測定することができる。
【0024】
なお、上述した本発明の一実施形態では軸受軌道輪の導電率を測定する場合を説明したが、これに限定されるものではなく、たとえばボールねじのねじ軸や直動案内軸受装置の案内レールなどの導電率を測定する場合にも本発明を適用することができる。
次に、転がり軸受の外側軌道輪の内周面に二硫化モリブデンをショットピーニングして形成された固体潤滑膜の厚さを測定する場合に用いられる被膜厚さ測定装置の一例を図4に示す。同図に示される被膜厚さ測定装置は、ターンテーブル16と、このターンテーブル16の上方に配置された電磁誘導センサ4と、この電磁誘導センサ4を図中Z軸回り(図中矢印θz方向)に揺動駆動するセンサ揺動機構17と、このセンサ揺動機構17を介して電磁誘導センサ4を図中Z軸方向に昇降駆動するセンサ昇降機構18と、電磁誘導センサ4を図中X軸方向及びY軸方向に動かしてセンサを位置決めするセンサ位置決め機構19と、ターンテーブル16を図中X軸方向に動かして被検査物を位置決めする転動装置部品位置決め機構20とを備えており、ターンテーブル16の上面部には、外側軌道輪13などの転動装置部品が載置されるようになっている。
【0025】
電磁誘導センサ4は、転動装置部品の被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイル4a(図5参照)と、交流磁場形成用コイル4aにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイル4bとからなり、交流磁場形成用コイル4aには、励磁電流としての交流電流が交流電源から供給されるようになっている。なお、検出用コイル4bは交流磁場形成用コイル4aに一部を接触させて交流磁場形成用コイル4aと同軸に巻回されている。また、交流磁場形成用コイル4aと検出用コイル4bは一つの筐体内に収容されており、交流磁場形成用コイル4aと検出用コイル4bとを一つの筐体内に収容することにより、一体のユニットとして小型化できると共に作業性が良くなり、転がり軸受内部の狭い空間に設置して欠陥を検出することができる。
【0026】
図4に示した被膜厚さ測定装置を用いて外側軌道輪13の内周面に形成された固体潤滑膜の厚さを測定する場合は、先ず、外側軌道輪13をターンテーブル16の上面に載置する。次に、ターンテーブル16、センサ揺動機構17、センサ昇降機構18、センサ位置決め機構19及び転動装置部品位置決め機構20を駆動して電磁誘導センサ4を外側軌道輪13の内周面に近づけ、この状態で図示しない交流電源から電磁誘導センサ4の交流磁場形成用コイル4aに交流電流を供給する。そうすると、交流電源から供給された交流電流によって交流磁場形成用コイル4aが励磁され、外側軌道輪13の潤滑膜形成面を含む空間部に交流磁場21(図6参照)が交流磁場形成用コイル4aの励磁によって形成される。
【0027】
このようにして外側軌道輪13の潤滑膜形成面を含む空間部に交流磁場21が形成されると、固体潤滑膜の厚さに応じた誘導起電力が電磁誘導センサ4の検出用コイル4bに発生するので、電磁誘導センサ4の検出用コイル4bに発生した誘導起電力から外側軌道輪13の内周面に形成された固体潤滑膜の厚さを測定することができる。
上述したように、固体潤滑膜などの被膜の厚さを測定する手段として、転動装置部品の被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイル4aと、交流磁場形成用コイル4aにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイル4bとを具備してなる電磁誘導センサ4を用いることにより、転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さを測定する際に超音波探傷法を利用しないで済むので、転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さをコストの上昇を招くことなく短時間で測定することができる。
【0028】
次に、もみ抜き保持器の表面に形成されたダイヤモンドライクカーボン膜の厚さを測定する場合に用いられる被膜厚さ測定装置の一例を図7に示す。同図に示される被膜厚さ測定装置は、ターンテーブル16と、このターンテーブル16の上方に配置された電磁誘導センサ4と、この電磁誘導センサ4を鉛直な軸回りに揺動駆動するセンサ揺動機構17と、このセンサ揺動機構17を介して電磁誘導センサ4を昇降駆動するセンサ昇降機構18とを備えており、ターンテーブル16の上面部には、もみ抜き保持器22などの転動装置部品が載置されるようになっている。
【0029】
電磁誘導センサ4は、転動装置部品の被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイル4a(図5参照)と、交流磁場形成用コイル4aにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイル4bとからなり、交流磁場形成用コイル4aには、励磁電流としての交流電流が交流電源から供給されるようになっている。なお、検出用コイル4bは交流磁場形成用コイル4aに一部を接触させて交流磁場形成用コイル4aと同軸に巻回されている。また、交流磁場形成用コイル4aと検出用コイル4bは一つの筐体内に収容されている。
【0030】
図7に示した被膜厚さ測定装置を用いてもみ抜き保持器22の表面に形成されたダイヤモンドライクカーボン膜の厚さを測定する場合は、先ず、もみ抜き保持器22をターンテーブル16の上面に載置する。次に、ターンテーブル16、センサ揺動機構17、センサ昇降機構18を駆動して電磁誘導センサ4をもみ抜き保持器22の内周面に近づけ、この状態で図示しない交流電源から電磁誘導センサ4の交流磁場形成用コイル4aに交流電流を供給する。そうすると、交流電源から供給された交流電流によって交流磁場形成用コイル4aが励磁され、もみ抜き保持器22のDLC膜形成面を含む空間部に交流磁場が交流磁場形成用コイル4aの励磁によって形成される。
【0031】
このようにしてもみ抜き保持器22のDLC膜形成面を含む空間部に交流磁場が形成されると、ダイヤモンドライクカーボン膜の厚さに応じた誘導起電力が電磁誘導センサ4の検出用コイル4bに発生するので、電磁誘導センサ4の検出用コイル4bに発生した誘導起電力からもみ抜き保持器22の表面に形成されたダイヤモンドライクカーボン膜の厚さを測定することができる。
【0032】
上述したように、ダイヤモンドライクカーボン膜などの被膜の厚さを測定する手段として、転動装置部品の被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイル4aと、交流磁場形成用コイル4aにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイル4bとを具備してなる電磁誘導センサ4を用いることにより、転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さを測定する際に超音波探傷法を利用しないで済むので、転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さをコストの上昇を招くことなく短時間で測定することができる。
【0033】
次に、外側軌道輪の外周面に絶縁被膜がセラミック溶射によって形成された場合の外側軌道輪の導電率を測定する場合に用いられる導電率測定装置の一例を図8に示す。同図に示される導電率測定装置は、ターンテーブル16と、このターンテーブル16の上方に配置された電磁誘導センサ4と、この電磁誘導センサ4を鉛直な軸回りに揺動駆動するセンサ揺動機構17と、このセンサ揺動機構17を介して電磁誘導センサ4を昇降駆動するセンサ昇降機構18とを備えており、ターンテーブル16の上面部には、被測定物としての外側軌道輪13が載置されるようになっている。
【0034】
電磁誘導センサ4は、転動装置部品の被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイル4a(図5参照)と、交流磁場形成用コイル4aにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイル4bとからなり、交流磁場形成用コイル4aには、励磁電流としての交流電流が交流電源から供給されるようになっている。なお、検出用コイル4bは交流磁場形成用コイル4aに一部を接触させて交流磁場形成用コイル4aと同軸に巻回されている。また、交流磁場形成用コイル4aと検出用コイル4bは一つの筐体内に収容されている。
【0035】
図8に示した導電率測定装置を用いて外側軌道輪13の導電率を測定する場合は、先ず、外側軌道輪13をターンテーブル16の上面に載置する。次に、ターンテーブル16、センサ揺動機構17、センサ昇降機構18を駆動して電磁誘導センサ4を外側軌道輪13の外周面に近づけ、この状態で図示しない交流電源から電磁誘導センサ4の交流磁場形成用コイル4aに交流電流を供給する。そうすると、交流電源から供給された交流電流によって交流磁場形成用コイル4aが励磁され、外側軌道輪13の絶縁被膜形成面を含む空間部に交流磁場が交流磁場形成用コイル4aの励磁によって形成される。
【0036】
このようにして外側軌道輪13の絶縁被膜形成面を含む空間部に交流磁場が形成されると、外側軌道輪13の外周面に形成された絶縁被膜の厚さに応じた誘導起電力が電磁誘導センサ4の検出用コイル4bに発生する。したがって、電磁誘導センサ4の検出用コイル4bに発生した誘導起電力を外側軌道輪13の導電率情報として取り出すことにより、外周面に絶縁被膜を有する外側軌道輪13の導電率を測定することができる。
【0037】
次に、外側軌道輪の端面にセラミック製の絶縁被膜が形成された場合の外側軌道輪の導電率を測定する場合に用いられる導電率測定装置の一例を図9に示す。同図に示される導電率測定装置は、ターンテーブル16と、このターンテーブル16の上方に配置された電磁誘導センサ4と、この電磁誘導センサ4を図中X軸回り(図中矢印θx方向)に揺動駆動するセンサ揺動機構17と、このセンサ揺動機構17を介して電磁誘導センサ4を図中Z軸方向に昇降駆動するセンサ昇降機構18と、電磁誘導センサ4を図中X軸方向及びY軸方向に動かしてセンサを位置決めするセンサ位置決め機構19と、ターンテーブル16を図中X軸方向に動かして被検査物を位置決めする転動装置部品位置決め機構20とを備えており、ターンテーブル16の上面部には、被測定物である外側軌道輪13が載置されるようになっている。
【0038】
電磁誘導センサ4は、転動装置部品の被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイル4a(図5参照)と、交流磁場形成用コイル4aにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイル4bとからなり、交流磁場形成用コイル4aには、励磁電流としての交流電流が交流電源から供給されるようになっている。なお、検出用コイル4bは交流磁場形成用コイル4aに一部を接触させて交流磁場形成用コイル4aと同軸に巻回されている。また、交流磁場形成用コイル4aと検出用コイル4bは一つの筐体内に収容されており、交流磁場形成用コイル4aと検出用コイル4bとを一つの筐体内に収容することにより、一体のユニットとして小型化できると共に作業性が良くなり、転がり軸受内部の狭い空間に設置して欠陥を検出することができる。
【0039】
図9に示した導電率測定装置を用いて外側軌道輪13の導電率を測定する場合は、先ず、外側軌道輪13をターンテーブル16の上面に載置する。次に、ターンテーブル16、センサ揺動機構17、センサ昇降機構18、センサ位置決め機構19及び転動装置部品位置決め機構20を駆動して電磁誘導センサ4を外側軌道輪13の端面に近づけ、この状態で図示しない交流電源から電磁誘導センサ4の交流磁場形成用コイル4aに交流電流を供給する。そうすると、交流電源から供給された交流電流によって交流磁場形成用コイル4aが励磁され、外側軌道輪13の絶縁被膜形成面を含む空間部に交流磁場が交流磁場形成用コイル4aの励磁によって形成される。
【0040】
このようにして外側軌道輪13の絶縁被膜形成面を含む空間部に交流磁場が形成されると、外側軌道輪13の端面に形成された絶縁被膜の厚さに応じた誘導起電力が電磁誘導センサ4の検出用コイル4bに発生する。したがって、電磁誘導センサ4の検出用コイル4bに発生した誘導起電力を外側軌道輪13の導電率情報として取り出すことにより、端面に絶縁被膜を有する外側軌道輪13の導電率を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さを測定する場合に用いられる被膜厚さ測定装置の一例を示す図である。
【図2】図1に示した被測定物の一例を示す図である・
【図3】表面に絶縁被膜を有する転動装置部品の導電率を測定する場合に用いられる導電率検査装置の一例を示す図である。
【図4】転がり軸受の外側軌道輪の内周面に形成された固体潤滑膜の厚さを測定する場合に用いられる被膜厚さ測定装置の一例を示す図である。
【図5】電磁誘導センサの概略構成を示す図である。
【図6】電磁誘導センサの交流磁場形成用コイルによって形成される交流磁場を示す図である。
【図7】もみ抜き保持器の表面に形成されたダイヤモンドライクカーボン膜の厚さを測定する場合に用いられる被膜厚さ測定装置の一例を示す図である。
【図8】外周面に絶縁被膜を有する外側軌道輪の導電率を測定する場合に用いられる導電率測定装置の一例を示す図である。
【図9】端面に絶縁被膜を有する外側軌道輪の導電率を測定する場合に用いられる導電率測定装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 軌道輪
2 絶縁被膜
4 電磁誘導センサ
4a 交流磁場形成用コイル
4b 検出用コイル
5 交流電源
6 インダクタンス変化検出回路
7 膜厚演算回路(導電率演算回路)
8 判定回路
9 表示装置
10 記録装置
13 外側軌道輪
14 内側軌道輪
15 被膜
16 ターンテーブル
17 センサ揺動機構
18 センサ昇降機構
19 センサ位置決め機構
20 転動部品位置決め機構
21 交流磁場
22 もみ抜き保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さを測定する方法であって、前記被膜の厚さを測定する手段として、前記転動装置部品の被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイルと、この交流磁場形成用コイルにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイルとを具備してなる電磁誘導センサを用い、この電磁誘導センサの前記検出用コイルに発生した誘導起電力の変化から前記被膜の厚さを測定することを特徴とする転動装置部品の検査方法。
【請求項2】
表面に絶縁被膜を有する転動装置部品の導電率を測定する方法であって、前記導電率を測定する導電率測定手段として、前記転動装置部品の絶縁被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイルと、この交流磁場形成用コイルにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイルとを具備してなる電磁誘導センサを用い、この電磁誘導センサの前記検出用コイルに発生した誘導起電力の変化から前記転動装置部品の導電率を測定することを特徴とする転動装置部品の検査方法。
【請求項3】
請求項2記載の転動装置部品の検査方法において、前記絶縁被膜が電食防止用転がり軸受の転がり軸受部品表面に形成された絶縁層であることを特徴とする転動装置部品の検査方法。
【請求項4】
請求項2または3記載の転動装置部品の検査方法において、前記絶縁被膜がセラミックからなることを特徴とする転動装置部品の検査方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の転動装置部品の検査方法において、電磁誘導で発生する起電力の変化は振幅あるいは位相の変化量が所定の値となった場合を閾値として、前記被膜の厚さまたは前記導電率が適正な値であるか否かを検査することを特徴とする転動装置部品の検査方法。
【請求項6】
転動装置部品の表面に形成された被膜の厚さを測定する装置であって、前記転動装置部品の被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイルと、この交流磁場形成用コイルにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイルと、この検出用コイルのインダクタンス変化を検出するインダクタンス変化検出手段とを具備してなることを特徴とする転動装置部品用検査装置。
【請求項7】
表面に絶縁被膜を有する転動装置部品の導電率を測定する装置であって、前記転動装置部品の絶縁被膜形成面を含む空間部に交流磁場を形成する交流磁場形成用コイルと、この交流磁場形成用コイルにより形成された交流磁場の変化を電磁誘導現象により検出する検出用コイルと、この検出用コイルのインダクタンス変化を検出するインダクタンス変化検出手段とを具備してなることを特徴とする転動装置部品用検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−32673(P2008−32673A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268918(P2006−268918)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】