説明

軸受の密封装置

【課題】排気駆動式過給機の軸受ハウジングを、導入された潤滑材に対し軸方向に密封する、停止中潤滑されるロータ軸の軸受における密封装置の密封性を改善する。
【解決手段】ロータ軸(1)に隙間、ラビリンス又はピストンリング等の第1シール(11)と、狭い隙間(33)やラビリンス等の第2シール(12)を設け、第1、第2シール(11、12)間に、ロータ軸(1)の周りに延びる油排出路(13、14)を封じ込み形成し、ハウジング側油排出溝(13)と、同軸位置に配置した軸側油排出溝(14)で該排出路(13、14)を形成し、該油排出路(13、14)内のロータ軸(1)の半径方向自由端に、環状油排出路(13、14)内に突出する環状シール舌片(15)を設け、該舌片(15)を油排出路に侵入する潤滑材に対し軸方向に作用するバリアとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導入された潤滑材に対し軸受ハウジングを軸方向に密封する、特に停止中潤滑されるロータ軸の軸受の密封装置に関する。この装置は、特にロータ軸がタービンハウジング内においてハウジング孔を経て案内される片側端でタービンランナを支持し、圧縮機ハウジング内のハウジング孔を経て案内される反対側端で圧縮機インペラを支持する排気駆動式過給機において、ローラ軸のタービンハウジング側軸受装置および/又は圧縮機ハウジング側軸受装置の内部で利用され、タービンハウジングと圧縮機ハウジングの間の中央軸受ハウジングから出て、タービンハウジング側軸受装置および/又は圧縮機ハウジング側軸受装置に導かれる潤滑材に対し、タービンハウジングおよび/又は圧縮機ハウジングを密封する。
【背景技術】
【0002】
この形式の密封装置、即ち軸封装置は既に古くから知られている。例えば、殊にタービンハウジングからの排気ガスが、不可避の漏れ個所から軸受隙間、即ち軸受ハウジングや軸受体と軸との間の狭い隙間を経て軸受ハウジング内に流入しおよび/又は高速回転時および吸い込まれた空気の高い給気圧時、或いはガソリンエンジンにおいて、圧縮機ハウジングからの燃科ガス・空気混合気が、圧縮機側密封装置を経て軸受ハウジング内に流入するのを防止せねばならない。また、公知のように、低い給気圧での高速回転時に、各軸受ハウジングからの油含有空気・排気ガス混合気が、タービンハウジングおよび/又は圧縮機ハウジングの方向に流れ、内燃機関に流入することも防止せねばならない。
【0003】
該密封装置はラビリンスパッキン又は密封用のピストンリングである。即ち、例えば特許文献1に、排気駆動式過給機の軸封装置ハウジングにおける軸封装置が記載され、該ハウジングは、高圧用タービンハウジング部分と低圧用タービンハウジング部分との間に配置され、作動媒体漏れ流(流体)が軸方向に貫流する。
【0004】
軸封装置は、流体の流れ方向に連続して配置され、流体を繰り返して転向させる絞りを備えたラビリンスを形成している。ラビリンスは、公知の如く軸受ハウジングや軸受体に設けられ、例えばロータ軸の溝にはめ込まれたピストンリングによっても実現できる。
【0005】
従来のこの種密封装置は、追加潤滑過程中や予備潤滑過程中に、タービン流れ室および圧縮機流れ室における吸込み(負圧)と関連して、潤滑油を中央軸受ハウジングから吸い出す欠点がある。これは、排気駆動式過給機の全損に至る迄の重大な損傷を生じさせる。
【特許文献1】独国特許第2513582号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、特に上述の如きロータ軸付き排気駆動式過給機に利用される冒頭に述べた形式の密封装置の密封性を、特にロータ軸の停止状態において改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に基づき、この課題は、密封装置を形成すべくロータ軸に、隙間、ラビリンス又はピストンリングの形態の第1シールと、狭い隙間やラビリンスの形態の第2シールが設けられ、この第1、第2シール間に、ロータ軸の周りを延びる油排出路が封じ込まれ、該油排出路が、ハウジング側油排出溝と、同軸位置に配置された軸側油排出溝とで構成され、この排出路内に、ロータ軸の半径方向に自由端が環状油排出路内に突出する環状シール舌片が設けられ、該シール舌片が油排出路に侵入する潤滑材に対し軸方向に作用するバリアを形成することで解決される。
【発明の効果】
【0008】
この結果、追加又は予備潤滑過程中に、特に吸込み(負圧)に関連し、潤滑油が軸受ハウジングから第2シール、そして流れ油排出路を経て第1シールに達するのを防ぐ。この結果、停止状態での油密性を高め、予測される運転条件下での漏れを防止できる。
【0009】
ロータ軸の軸側油排出溝内にシール舌片を形成し、該舌片の半径方向外側自由端迄の高さが最大で特にタービンハウジングおよび/又は圧縮機ハウジングのハウジング孔の内周面と一致し、或いはそれより短いと好ましい。しかし、ハウジング側油排出溝内にシール舌片を形成し、その半径方向内側端迄の高さを、最大でハウジング孔の内周面と一致し、又はそれより短くなるよう形成してもよい。
【0010】
また第2シールを、軸側油排出溝を境界づけ、半径方向外側に向けられハウジング孔の内周面に対して短くされた壁と、それと同軸位置に存在してハウジング側油排出溝を境界づけ半径方向内側に向けられハウジング孔の内周面に対して長くされた壁とで形成し、もつてその両壁で隙間を覆うとよい。即ち、ハウジング孔が、第2シールの軸方向位置で、成形されたシール舌片を有するロータ軸に達する直径より小さな直径を持つとよい。
【0011】
なお、シール舌片と壁が、別個の部品であるか否か、或いはハウジング又はロータ軸に旋盤加工部分或いはフライス加工部分として形成されたか否かは重要ではない。
【0012】
排気駆動式過給機に利用する場合、潤滑材、即ち油が環状の油排出溝の円周を還流し、下部開口を介して流出するのを保証すべく、第2シールを軸方向において中央軸受ハウジングとタービンハウジング側軸受装置の第1シールとの間および/又は中央軸受ハウジングと圧縮機側軸受装置の第1シールとの間に配置するとよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下図を参照し、排気駆動式過給機の用途での本発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
図1に示す如く、排気駆動式過給機は普通の如くタービンハウジング2と、該ハウジング2に結合された圧縮機ハウジング5を有し、両ハウジング2、3内にロータ軸1を備えている。内燃機関からの排気ガスをタービンランナ4に導入すべく、タービンハウジング2は略環状の排気ガス供給路28を備える。かくして、ロータ軸1の他端に置かれた圧縮機インペラ7がロータ軸1を介して駆動される。この圧縮機インペラ7はそれを取り囲む供給路29を介して空気を吸い込み、その空気を圧縮して吹き出す。
【0015】
ロータ軸1はタービンハウジング2内にハウジング孔3を通して案内され、そこでロー
タ軸端に、タービンランナ4が固定されている。通常、タービンハウジング2と圧縮機ハウジング5との間の中央軸受ハウジング10内に、ロータ軸1の軸受19、20が存在する。該軸受19、20の潤滑材は、垂直の油供給ノズル26およびそこから出ている油供給孔27を介して加圧状態で供給される。
【0016】
潤滑材が中央軸受ハウジング10から、例えば軸受体19と軸受ブッシュ20とロータ軸1との間の軸受隙間を経てタービンハウジング2に到達するのを防止すべく、以下図2を参照して説明する密封装置を設けている。
【0017】
好適には、タービンハウジング側軸受装置の内部の密封装置は、第1シール11と第2シール12を持つ(圧縮機ハウジング側軸受装置の密封装置も同様に形成されている)。これら第1、第2両シール11、12は、タービンハウジング2のハウジング壁と、ロータ軸1のラジアル軸受19、20の間に配置されている。該軸受は、公知の如く中央軸受ハウジング10の軸受体19を有し、該軸受体19は軸受ブッシュ20によってロータ軸1に結合している。軸受体19とタービンハウジング2との間に、ロータ軸1の軸方向に延びる内部空間21が存在し、該空間21に、タービンハウジング2に向いて第2シール12、次いでハウジンク側油排出溝13が続いている。これは軸側油排出溝14と共にロータ軸1の周りを延びる環状油排出路を形成している。この油排出路内にシール舌片15が配置され、該舌片15の自由端はロータ軸1の半径方向に環状油排出路13、14の中に突出している。このシール舌片15に、軸方向に間隔を隔てて、タービンハウジング孔1の内周壁に接するピストンリングの形態の第1シール11が続いている。
【0018】
ピストンリング11は、場合により侵入する流体を漏れ止めすべく、ロータ軸1又はこれに結合された回転部品の溝18にはめ込まれている。シール舌片15はロータ軸1の軸側油排出溝14内に形成され、舌片15の半怪方向外側端迄の高さは、最大でタービンハウジング2のハウシング孔3の内周面と−致するか、図示の如く幾分短くされている。
【0019】
しかし、シール舌片15をハウジング側油排出溝13内に配置し、その半径方向内側端迄の高さを、最大でタービンハウジング2のハウジング孔3の内周面と一致するか、或いはそれより幾分短く形成してもよい。この関係で、ハウジング側油排出溝と軸側油排出溝に、各々半径方向において重なり相互作用するシール舌片を設けてもよい。
【0020】
第2シール12を形成すべく、軸側油排出溝14が、タービンランナ4とは反対側に位置し、半径方向外側に向いて延びかつタービンハウジング孔3の内周面より短くされた壁31で形成され、更にハウジング側油排出溝13が、タービンランナ4とは反対側に位置し、半径方向内側に向いて延び、かつタービンハウジング孔3の内周面より長い壁32で形成されている。両壁31、32は隙間33を封じ込め、潤滑材が隙間33を通り、油排出路13、14を越えて第1シール11迄継続して流出するのを防止すべくシール舌片15の自由端は半径方向において前記隙間33と重なり合っている。
【0021】
第2シール12の隙間33を通り、例えばシール舌片15に付着した潤滑材の液滴が、吸込みによって更に第1シール11のピストンリング迄達するのを防止すべく、シール舌片15の自由端を対応したハウジング孔3或いはハウジング孔6の内周面に対し、例えば45゜の角度を成して形成している。
【0022】
上述した実施例は所定の組立様式に適合される。即ち、ロータ軸1をまずタービンハウジング2を通して差込み、次いで中央軸受ハウジング10に差込み、圧縮機ハウジング5内で圧縮機インペラ7をロータ軸先端部上にはめ込むようにできる。
【0023】
これが可能な理由は、図示の実施例において、シール舌片15の高さ(矢印a)がハウジング孔の内周面(矢印b)から突出する必要がなく、短い壁31(矢印c)と長い壁32(矢印d)が隙間33を境界づけ、タービンハウジング2内でのロータ軸1の直径が、第2シール12の範囲でのロータ軸1の直径より大きく、かつ第2シール12の範囲でのロータ軸1の直径が、この実施例における中央軸受ハウジング10のロータ軸の直径より大きくなっていることにある。即ちシール舌片15は、隙間33を軸方向に覆って油排出路13、14に潤滑油が侵入しないようにすべく、ロータ軸1の半径方向にできるだけ大きな高さで形成せねばならないが、タービン側ハウジング孔3の内周面を越える必要はなく、従ってロータ軸1は組立可能である
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】排気駆動式過給機の主要部の軸断面図。
【図2】タービンハウジング側軸受装置の内部におけるロータ軸の本発明に基づく密封装置の図1におけるX部の拡大詳細図。
【符号の説明】
【0025】
1 ロータ軸、2 タービンハウジング、3 ハウジング孔、4 タービンランナ、5 圧縮機ハウジング、7 圧縮機インペラ、11、12 シール、13 ハウジング側油排出溝、14 軸側油排出溝、15 シール舌片、31、32 壁、33 隙間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入された潤滑材に対し軸受ハウジンクを軸方向に密封する軸受の密封装置において、
ロータ軸(1)に、隙間、ラビリンス又はピストンリングの形態の第1シール(11)と、狭い隙間(33)やラビリンスの形をした第2シール(12)が設けられ、該第1、第2シール(11、12)間に、ロータ軸(1)の周りに延びる油排出路(13、14)が封じ込められ、該油排出路(13、14)が、ハウジング側油排出溝(13)と同軸位置に配置された軸側油排出溝(14)として構成され、前記油排出路(13、14)内に、ロータ軸(T)の半径方向にその自由端が環状油排出路(13、14)の中に突出する環状シール舌片(15)が設けられ、このシール舌片(15)が油排出路に侵入する潤滑材に対して軸方向に作用するバリアを形成することを特徴とする密封装置。
【請求項2】
ロータ軸(l)がタービンハウジング(2)内でハウジング孔(3)を経て案内される片側端にタービンランナ(4)を支持し、圧縮機ハウジング(5)内でハウジング孔を経て案内される反対側端に圧縮機インペラ(7)を支持する排気駆動式過給機に利用され、タービンハウジング(2)および/又は圧縮機ハウジング(5)を、タービンハウジング(2)と圧縮機ハウジング(5)の間の中央軸受ハウジング(10)から出て、タービンハウジング側軸受装置および/又は圧縮機ハウジング側軸受装置に導かれる潤滑材に対し密封すべく、ロータ軸(1)のタービンハウジング側軸受装置および/又は圧縮機ハウジング側軸受装置内に密封装置が設けられたことを特徴とする請求項1記載の密封装置。
【請求項3】
ロータ軸(1)の軸側油排出溝(14)内にシール舌片(15)が形成され、該舌片の半径方向外側自由端迄の高さが、最大で特にタービンハウジング(2)および/又は圧縮機ハウジング(5)のハウジング孔(3、6)の内周面と一致し、或いはそれより短く形
成されたことを特徴とする請求項1又は2記載の密封装置。
【請求項4】
ハウジング側油排出溝(13)内にシール舌片(15)が形成され、該シール舌片の半径方向内側端迄の高さが、最大で特にタービンハウジング(2)および/又は圧縮機ハウジング(5)のハウジング孔(3、6)の内周面と一致し、或いはそれより短く形成されたことを特徴とする請求項1又は2記載の密封装置。
【請求項5】
第2シール(12)が、軸側油排出溝(14)を境界づけ、半径方向外側に向き、ハウジング孔(3および/又は6)の内周面に対し短い壁(31)と、それと同軸位置に存在してハウジング側油排出溝(13)を境界づけ半径方向内側に向き、ハウジング孔(3および/又は6)の内周面に対し長い壁(32)とで形成され、該両壁(31、32)が隙間(33)を封じ込め、シール舌片(15)の自由端が隙間(33)と半径方向において重畳していることを特徴とする請求項1から4の1つに記載の密封装置。
【請求項6】
第1シール(11)がラビリンスパッキンとして形成されたことを特徴とする請求項1から5の1つに記載の密封装置。
【請求項7】
第1シール(11)がハウジング孔(3および/又は)内周面に接するピストンリングの形に形成されたことを特徴とする請求項1から5の1つに記載の密封装置。
【請求項8】
ピストンリング(11)が、ロータ軸(1)或いはこのロータ軸(1)に結合された回転部品の溝(18)にはめ込まれたことを特徴とする請求項7記載の密封装置。
【請求項9】
シール舌片(15)の自由端が、対応するハウジング孔(3、6)の内周面に対し傾斜していることを特徴とする請求項1から8の1つに記載の密封装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−145034(P2006−145034A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329970(P2005−329970)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(390041520)エムアーエヌ、ベーウントヴエー、デイーゼル、アクチエンゲゼルシヤフト (59)
【氏名又は名称原語表記】MAN B&W DIESEL AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】