説明

軸受装置、該軸受装置を用いたプーリ、該プーリを有するベルト張力調節装置、及び、該ベルト張力調節装置を有するコンバイン

【課題】例えばプーリやローラのような回転部材を円滑に回転させるための軸受装置において、泥水等の異物の侵入を効果的に防止する。
【解決手段】軸受装置120は、テンションプーリ102の回転中心部に固着されたボス筒体121と、ボス筒体121に同心状に挿通された支軸体122と、ボス筒体121と支軸体122との間を転動する軸受体123と、軸受体123を挟んで軸線A方向両側の空間Sをシールする一対の環状シール体124とを備える。ボス筒体121と各環状シール体124との相対向する縁部121a,124a間には、軸線Aに沿って軸受体123から離れるに連れて軸線Aとの直交距離Dが長くなるように傾斜した逃がし隙間140を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、例えばプーリやローラのような回転部材を円滑に回転させるための軸受装置、該軸受装置を用いたプーリ、該プーリを有するベルト張力調節装置、及び、該ベルト張力調節装置を有するコンバインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばプーリやローラのような回転部材を円滑に回転させるための軸受装置は、回転部材の回転中心に取り付けられるボス筒体と、ボス筒体に同心状に挿通された支軸体と、ボス筒体と支軸体との間を転動する軸受体とを備えている。
【0003】
この種の軸受装置の一例が特許文献1に開示されている。特許文献1の軸受装置は、コンバインにおいて、ミッションケースから刈取前処理装置に向けて動力伝達するための無端ベルトに対するテンションプーリに適用されている。
【0004】
特許文献1では、無端ベルトが巻き掛けられるプーリ本体にボス筒体が一体形成されている。ボス筒体には、ミッションケースから外向きに突出した支軸体としての出力軸が、軸受体を介して同心状に挿通されている。ボス筒体における一対の開口部のうちミッションケースと反対側の開口部には、シール体が嵌め込まれている。ミッションケース寄りの開口部は、ミッションケースにおける出力軸の外周支持部とボス筒体との間に形成された僅かな隙間を通じて、外部に連通している。
【特許文献1】特開平7−236340号公報(図2〜図4参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コンバインは、泥土上を走行しながら刈取・脱穀等の作業を実行するための機械であるから、軸受装置やテンションプーリは、泥水や藁屑等の異物が舞い散る厳しい環境下で作動しなければならない。
【0006】
しかし、前記特許文献1の軸受装置では、ボス筒体におけるミッションケース寄りの開口部が僅かな隙間を通じて外部に連通しているため、泥水等の異物が前記僅かな隙間からボス筒体内に侵入し易い。また、ボス筒体と嵌め込み式のシール体との間にも若干の隙間があるため、当該隙間から異物が侵入することもある。その結果、ボス筒体内の軸受体が損傷し易いのであった。
【0007】
そこで、本願発明は上記の問題を解消することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この技術的課題を解決するため、請求項1の発明は、支軸体の外周に、軸受体を介して回転部材が装着され、前記回転部材におけるボス筒体と前記支軸体との間に前記軸受体を挟んで軸線方向両側の空間をシールする一対のシール体とを備えている軸受装置であって、前記ボス筒体と前記各シール体との相対向する縁部間には、前記軸線に沿って前記軸受体から離れるに連れて前記軸線との半径方向の距離が長くなるように傾斜した逃がし隙間が形成されているというものである。
【0009】
請求項2の発明は回転部材としてのプーリに係るものであり、当該プーリが請求項1に記載した軸受装置にて回転可能に構成されているというものである。
【0010】
請求項3の発明は、動力伝達用の無端ベルトに接触するテンションプーリと、前記無端ベルトが緊張・弛緩する方向に前記テンションプーリを移動させるためのアーム体と、前記テンションプーリを前記無端ベルトに向けて押圧付勢するためのばね体とを備えているベルト張力調節装置であって、前記テンションプーリとして、請求項2に記載したプーリが用いられているというものである。
【0011】
請求項4の発明は、走行機体に搭載されたエンジンからの動力を変速するミッションケースと、前記ミッションケースと作業部との間で動力伝達を中継するカウンタケースとを備えているコンバインであって、前記ミッションケースと前記カウンタケースとは無端ベルトを介して動力伝達可能に構成されており、請求項3に記載したベルト張力調節装置が前記ミッションケースと前記カウンタケースとの間で前記無端ベルトに関連して設けられているというものである。
【発明の効果】
【0012】
本願発明の構成によると、回転部材の回転中心部に取り付けられるボス筒体と、軸受体を挟んで軸線方向両側の空間をシールする一対のシール体との相対向する縁部間に、前記軸線に沿って前記軸受体から離れるに連れて前記軸線との半径方向の距離が長くなるように傾斜した逃がし隙間が形成されているから、前記逃がし隙間内に泥水等の異物が入り込んだとしても、前記回転部材と共に前記軸受装置が回転することによって、前記異物には、前記軸受装置の回転に伴う遠心力が半径方向外向きに作用するから、前記異物は半径方向外向きに押し出され、回転する前記逃がし隙間から外部へ排出されることになる。このため、前記異物が前記逃がし隙間を通過して、前記軸受体を挟んで軸線方向両側の空間にまで到達するのは難しい。
【0013】
また万一、前記空間内に異物が侵入した場合であっても、前記異物には前記軸受装置の回転に伴う遠心力が作用するから、前記空間内の異物は前記空間から見て半径方向外側に位置する前記逃がし隙間に押し出され、結局この場合も、回転する前記逃がし隙間から外部へ排出されることになる。換言すると、前記空間内から前記異物が抜け出し易い。
【0014】
従って、前記軸受装置の回転に伴う遠心力の作用にて、前記異物が前記空間内に侵入するのを抑制でき、前記異物が前記空間内に入り込んで前記軸受体を壊すおそれを格段に低減できるという効果を奏する。
【0015】
しかも、前記両シール体が軸線方向両側から前記軸受体を挟み付ける位置関係に設定されているから、前記両シール体は、異物のシール機能を果たすだけでなく、前記支軸体に対する前記軸受体の取り付け位置(軸線方向の位置)を決めるスペーサとしての役割も果たすという効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を図面(図1〜図8)に基づいて説明する。図1はコンバインの側面図、図2はコンバインの平面図、図3は走行機体前部の概略正面図、図4は脱穀装置の概略側面断面図、図5は動力伝達系のスケルトン図、図6は走行機体前部の概略側面図、図7はミッションケースの概略側面図、図8のうち(a)は図7のVIIIa−VIIIa視正面断面図、(b)は(a)の要部拡大正面断面図である。
【0017】
(1).コンバインの概略構造
まず、図1〜図4を参照しながら、コンバインの概略構造について説明する。
【0018】
実施形態における6条刈り用のコンバインは、左右一対の走行クローラ2,2にて支持された走行機体1を備えている。走行機体1の前部には、圃場の植立穀稈(未刈穀稈)を刈り取りながら取り込む刈取前処理装置3が単動式の油圧シリンダ4にて昇降調節可能に装着されている。
【0019】
走行機体1には、フィードチェン6付きの脱穀装置5と、脱穀後の穀粒を貯留するためのグレンタンク7とが横並び状に搭載されている。実施形態では、脱穀装置5が走行機体1の進行方向左側に配置され、グレンタンク7が走行機体1の進行方向右側に配置されている。走行機体1の後部には、グレンタンク7内の穀粒を機外へ排出するための排出オーガ8が旋回可能に設けられている。グレンタンク7内の穀粒は、排出オーガ8の先端籾投げ口から、例えばトラックの荷台やコンテナ等に搬出される。
【0020】
刈取前処理装置3とグレンタンク7との間には操縦キャビン9が設けられている。操縦キャビン9内には、走行機体1の進行(旋回)方向及び旋回速度を変更操作する操向ハンドル10や、オペレータが着座する操縦座席11等が配置されている。
【0021】
操縦座席11の一側方に配置されたサイドコラム12には、走行機体1の変速操作を行うための主変速レバー及び副変速レバーと、刈取前処理装置3や脱穀装置5への動力継断操作用のクラッチレバーとが設けられている。
【0022】
操縦キャビン9の下方には、動力源としてのエンジン17が配置されている。エンジン17の前方には、当該エンジン17からの動力を適宜変速して左右両走行クローラ2に伝達するためのミッションケース18が配置されている。実施形態のエンジン17にはディーゼルエンジンが採用されている。
【0023】
刈取前処理装置3は、バリカン式の刈刃装置19、6条分の穀稈引起装置20、穀稈搬送装置21及び分草体22を備えている。刈刃装置19は、刈取前処理装置3の骨組を構成する刈取フレーム3aの下方に配置されている。穀稈引起装置20は刈取フレーム3aの上方に配置されている。穀稈搬送装置21は穀稈引起装置20とフィードチェン6の送り始端部との間に配置されている。分草体22は穀稈引起装置20の下部前方に突設されている。走行機体1は、エンジン17にて左右両走行クローラ2を駆動させて圃場内を移動しながら、刈取前処理装置3の駆動にて圃場の未刈穀稈を連続的に刈り取る。
【0024】
脱穀装置5は、刈取穀稈を脱穀処理するための扱胴23と、扱胴23の下方に配置された揺動選別機構24及び風選別機構25と、扱胴23の後部から取り出される脱穀物を再処理する送塵口処理胴26とを備えている。扱胴23は脱穀装置5の扱室内に配置されている。揺動選別機構24は扱胴23にて脱穀された脱穀物を揺動選別するためのものであり、風選別機構25は前記脱穀物を風選別するためのものである。
【0025】
刈取前処理装置3から送られてきた刈取穀稈の株元側はフィードチェン6に受け継がれる。そして、当該刈取穀稈の穂先側が脱穀装置5内に搬入され、扱胴23にて脱穀処理される。なお、扱胴23の回転軸46(図4及び図5参照)は、フィードチェン6による刈取穀稈の送り方向(走行機体1の進行方向)に沿って延びている。
【0026】
脱穀装置5の下部には、両選別機構24,25にて選別された穀粒のうち精粒等の一番物が集まる一番受け樋27と、枝梗付き穀粒や穂切れ粒等の二番物が集まる二番受け樋28とが設けられている。実施形態の両受け樋27,28は、走行機体1の進行方向前側から一番受け樋27、二番受け樋28の順で、側面視において走行クローラ2の後部上方に横設されている。
【0027】
揺動選別機構24は、扱胴23の下方に張設されたクリンプ網29、クリンプ網29の下方に配置されたフィードパン30及びチャフシーブ31、チャフシーブ31の下方に配置された網状のグレンシーブ32、チャフシーブ31の下流側(後方側)に配置されたストローラック33とを備えている。
【0028】
風選別機構25は、フィードパン30の下方に配置された唐箕ファン34、及び、一番受け樋27と二番受け樋28との間に配置された選別ファン35とを備えている。唐箕ファン34は、チャフシーブ31を下から上向きに抜け、脱穀装置5の後部に配置された排塵ファン36に向かう選別風を吹き出すように構成されている。
【0029】
選別ファン35は、グレンシーブ32を通り抜けできない脱穀物(二番物)に対して補助的に選別風を吹き付けるためのものである。選別ファン35からの選別風が二番物中の藁屑を後方へ吹き飛ばすことによって、二番物の風選別効率を向上させている。
【0030】
扱胴23にて脱穀されクリンプ網29から漏れ落ちた脱穀物は、前後揺動するフィードパン30上に落下して揺動選別を受けながら、後方のチャフシーブ31に送られる。このとき、フィードパン30やチャフシーブ31上の脱穀物は唐箕ファン34から後ろ向きに流れる選別風を受ける。かかる揺動選別と風選別との相互作用によって、脱穀物は穀粒と藁屑とに分離される。
【0031】
精粒等の一番物は、チャフシーブ31からグレンシーブ32を通り抜けて、流穀板等に案内されながら一番受け樋27内に集められ、ここから一番受け樋27内の一番コンベヤ37及び揚穀筒39内の揚穀コンベヤ40を介してグレンタンク7に送られる。
【0032】
枝梗付き穀粒等の二番物は、グレンシーブ32を通り抜けできずに、一番受け樋27より後方の二番受け樋28に集められ、ここから二番受け樋28内の二番コンベヤ38及び還元筒41内の還元コンベヤ42を介して二番処理胴43に送られる。二番物は、二番処理胴43にて再脱穀されたのち、脱穀装置5内に戻されて再選別される。藁屑は、排塵ファン36に吸い込まれたのち、脱穀装置5の後部に設けられた排出口(図示せず)から機外へ排出される。
【0033】
フィードチェン6の後方側(送り終端側)には排稈チェン44が配置されている。フィードチェン6の後端から排稈チェン44に受け継がれた排稈(脱粒した稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後方にある排稈カッタ45にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方に排出される。
【0034】
(2).コンバインの動力伝達系統
次に、図5を参照しながら、コンバインの動力伝達系について説明する。
【0035】
エンジン17は前後外向きに突出した出力軸50を備えており、エンジン17からの動力の一方は、出力軸50の前側から自在継手軸51及びミッション入力軸52を経由して、ミッションケース18に伝達される。
【0036】
ミッションケース18内には、油圧ポンプ油圧モータ式(HST式)の直進用油圧無段変速機53と、同じくHST式の旋回用油圧無段変速機54とを備えている。エンジン17の出力軸50からミッションケース18に向かう分岐動力は、直進用油圧無段変速機53の直進用入力軸53aと、旋回用油圧無段変速機54の旋回用入力軸54aとにそれぞれ伝達される。
【0037】
そして、操縦キャビン9に配置された操向ハンドル10や主変速レバーの操作量に応じて、各油圧ポンプにおける回転斜板の傾斜角度を調節することにより、油圧ポンプ油圧モータ間の圧油の吐出方向及び吐出量が変更され、直進用出力軸53bや旋回用出力軸(図示せず)の回転方向及び回転数、ひいては左右の走行クローラ2の駆動速度及び駆動方向が任意に調節される。
【0038】
直進用出力軸53bの回転動力は、後述するプーリ・ベルト式の伝動手段90を介して、エンジン17の一側方に配置されたカウンタケース61から機体中央側に突出した同調入力軸65にも分岐して伝達される。
【0039】
なお、直進用及び旋回用入力軸53a,54aとミッション入力軸52との間において動力を中継するファン軸56には、ラジエータ用の冷却ファン57が設けられている。実施形態では、ファン軸56から伝達ギヤ機構を介して、直進用及び旋回用入力軸53a,54aの両方に動力伝達するように構成されている。
【0040】
また、旋回用入力軸54a上には、各油圧ポンプ及び油圧モータに作動油を供給するためのチャージポンプ58が設けられている。チャージポンプ58は、旋回用入力軸54aと連動可能で且つエンジン17の回転動力にて駆動するように構成されている。
【0041】
他方、エンジン17からの他の動力は、出力軸50の後ろ側から、エンジン17の一側方に配置されたカウンタケース61と排出オーガ8との2方向に分岐して伝達される。
【0042】
エンジン17の出力軸50からカウンタケース61に向かう分岐動力は、動力継断用の脱穀クラッチ62を介してカウンタケース61の脱穀入力軸63に伝達され、この脱穀入力軸63から更に2つの方向に分岐して伝達される。
【0043】
脱穀入力軸63に伝達された動力の一部は、プーリ・ベルト伝動系を介して、扱胴23の回転軸23aや送塵口処理胴26(図6では図示省略)の回転軸等に伝達され、扱胴23や送塵口処理胴26を回転駆動させる。脱穀入力軸63からの他の動力は、その中途部に設けられたべベルギヤ機構を介してカウンタケース61の定速回転軸64に伝達される。
【0044】
カウンタケース61は、前述した脱穀入力軸63及び定速回転軸64と、それぞれ定速回転軸64と平行状に延びる同調入力軸65、車速同調軸66、刈取伝動軸67及びFC入力軸68と、同調入力軸65及び車速同調軸66に関連させた刈取変速機構69と、定速回転軸64及び車速同調軸66に関連させた刈取定速機構70と、車速同調軸66及びFC入力軸68に関連させたFC変速機構71とを備えている。
【0045】
定速回転軸64に伝達された動力の一部は、プーリ・ベルト伝動系を介して、揺動選別機構24、風選別機構25及び排稈チェン44(図6では図示省略)等に伝達される。定速回転軸64からの他の動力は、刈取前処理装置3が車速(走行速度)と同調して駆動しない場合に、刈取定速機構70を介して車速同調軸66に伝達され、車速同調軸66から刈取伝動軸67を介して刈取前処理装置3の各装置19〜21に動力伝達される。
【0046】
前述したように、同調入力軸65には、直進用出力軸53bの回転動力の一部が刈取クラッチ55を介して伝達される。同調入力軸65に伝わった回転動力は、刈取前処理装置3が車速と同調して駆動する場合に、ワンウェイクラッチ72及び刈取変速機構69を介して車速同調軸66に伝達され、車速同調軸66から刈取伝動軸67を介して刈取前処理装置3の各装置19〜21に動力伝達される。なお、ワンウェイクラッチ72は、直進用出力軸53bが正回転時のみ動力伝達するように構成されている。
【0047】
車速同調軸66に伝わった動力は、FC変速機構71及びFCクラッチ73を介してFC入力軸68に伝達され、FC入力軸68からの動力伝達にてフィードチェン6が回行駆動するように構成されている。
【0048】
エンジン17の出力軸50から排出オーガ8に向かう分岐動力は、動力継断用のオーガクラッチ75を介して、グレンタンク7の内底部に配置された底コンベヤ76及び排出オーガ8における縦オーガ筒81内の縦コンベヤ77に動力伝達され、次いで、受継スクリュー78等を介して、排出オーガ8における横オーガ筒82内の排出コンベヤ79に動力伝達される。
【0049】
(3).ミッションケース及びカウンタケース周辺の構造
次に、図3、図6及び図7を参照しながら、ミッションケース18及びカウンタケース61周辺の構造について説明する。
【0050】
図3、図6及び図7に示すように、ミッションケース18は、走行機体1を構成する機体フレーム81の前部で且つ左右走行クローラ2の間に設けられている。機体フレーム81の上面のうちエンジン17の前方箇所には、操縦キャビン9を下方から支持する枠状のキャビンフレーム82が設けられている。また、機体フレーム81の上面のうち脱穀装置5の前方箇所には、刈取フレーム3aを介して刈取前処理装置3を支持する正面視略門型の刈取架台83が設けられている。機体フレーム81の上面のうち刈取架台83の後方箇所に、カウンタケース61が設けられている。キャビンフレーム82と刈取架台83とは水平連結フレーム84を介して連結されている。なお、キャビンフレーム82の後方に位置するエンジン17の周囲は、エンジンルームカバー85にて覆われている。
【0051】
ミッションケース18には、左右両外側に向けて突出した筒状の車軸ケース86が装着されている。車軸ケース86には、これと同心姿勢で延びる車軸(図示せず)が内蔵されている。車軸の両端部には、走行クローラ2を周回駆動させるための起動輪87が取り付けられている。
【0052】
(4).伝動手段の構造
次に、図3及び図5〜図8を参照しながら、ミッションケース18とカウンタケース61との間に位置するプーリ・ベルト式の伝動手段90の構造について説明する。
【0053】
実施形態の伝動手段90は、ミッションケース18側の直進用出力軸53aからカウンタケース61側の同調入力軸65に動力伝達するためのものであり、直進用出力軸53aに固着された刈取駆動プーリ91、刈取架台83の前方に配置された左右二連のアイドラプーリ92,93(図7では左アイドラプーリ93のみ示す)、同調入力軸65に固着された同調入力プーリ94、刈取駆動プーリ91と右アイドラプーリ92とに巻き掛けられた第1無端ベルト96、及び、左アイドラプーリ93と同調入力プーリ94とに巻き掛けられた第2無端ベルト97を備えている。
【0054】
両アイドラプーリ92,93における横向きの回転支軸98は、刈取架台83の前面にボルト締結された側面視略三角形状の取付け座99の上部に回転可能に軸支されている。実施形態の両アイドラプーリ92,93は、取付け座99を挟んで左右両側に分かれて配置されている。
【0055】
両アイドラプーリ92,93の周囲には、第1及び第2無端ベルト96,97にそれぞれ関連させた第1及び第2ベルト張力調節装置100,101が配置されている。これら各ベルト張力調節装置100(101)は、無端ベルト96(97)に下方から接触するテンションプーリ102(103)と、無端ベルト96(97)が緊張・弛緩する上下方向にテンションプーリ102(103)を移動させるためのアーム体104(105)と、テンションプーリ102(103)を無端ベルト96(97)に向けて押圧付勢するためのばね体106(107)とを備えている。
【0056】
実施形態では、両アーム体104,105も、取付け座99を挟んで左右両側に分かれて配置されており、それぞれの基端部が、両アイドラプーリ92,93の回転支軸98と平行に延びるアーム軸108にて、互いに独立して回動し得るようにして取り付け座99の下部に枢着されている。無端ベルト96,97の位置関係上、第1ベルト張力調節装置100のアーム体104は前向きに延びており、第2ベルト張力調節装置101のアーム体105は後ろ向きに延びている。
【0057】
各テンションプーリ102(103)はアーム体104(105)の先端部に回転可能に枢支されていて、アーム体104(105)のアーム軸108回りの回動にて、対応する無端ベルト96(97)を緊張・弛緩させるように構成されている。
【0058】
第1ベルト張力調節装置100におけるばね体106の一端部(下端部)は、テンションプーリ102から横方向外向きに突出した支軸体122の突端部に引っ掛けられている。ばね体106の他端部(上端部)は、テンション調節ボルト109を介して、取り付け座99の上端に一体形成されたブラケット板110に連結されている。
【0059】
一方、第2ベルト張力調節装置101におけるばね体107の一端部(下端部)は、アーム体105の中途部に横向き突設された係止ピン111に引っ掛けられている。ばね体107の他端部(上端部)は、テンション調節ボルト112を介して、刈取架台83の左側面に固着されたばね受け板113に連結されている。
【0060】
(5).軸受装置の構造
次に、図8(a)(b)を参照しながら、本願発明に係る軸受装置120の構造について説明する。
【0061】
実施形態の軸受装置120は、第1ベルト張力調節装置100における回転部材としてのテンションプーリ102に適用されており、テンションプーリ102の回転中心部に圧入にて固着されたボス筒体121と、ボス筒体121に同心状に挿通された支軸体122と、ボス筒体121と支軸体122との間を転動する軸受体123と、軸受体123を挟んで軸線A方向両側の空間Sをシールする一対の環状シール体124とを備えている。
【0062】
ボス筒体121の内周面のうちアーム体104寄りの部位には、半径内向きに突出した環状リブ126が形成されている。この環状リブ126とスナップリング形の止め輪127とにより、軸受体123が支軸体122の軸線A方向にずれ不能で且つ着脱可能に係止されている。
【0063】
支軸体122は、アーム体104の先端部から横向きに突出したナット軸128と、ナット軸128にねじ込まれる大径頭部129a付きの固定ボルト129とにより構成されている。ナット軸128は先細の段付き状に形成されており、アーム体104寄りの基端大径部128aがアーム体104の先端部に溶接にて固定されている。
【0064】
この場合、ナット軸128の小径軸部128bを両環状シール体124の貫通穴135と軸受体123の軸穴134とに挿通させ、ナット軸128における先端側のナット穴128cに、カラー130が嵌め込まれた固定ボルト127をねじ込むことによって、軸受体123と両環状シール体124とがナット軸128の基端大径部128aとカラー130とにより挟み付け固定されている。
【0065】
従って、仮に、各環状シール体124と支軸体122との接触面間に僅かな隙間があっても、ナット軸128の基端大径部128aやカラー130が前記僅かな隙間と外部との連通を遮断するから、各環状シール体124と支軸体122との間を通って、軸受体123を挟んで軸線A方向両側の空間Sに泥水等の異物が侵入することはまずない。
【0066】
なお、軸受体123は従来からよく知られている転がり軸受であり、略円筒状のインナーケース131、インナーケース131の外周側を覆うアウターケース132、及びインナーケース131の外周面とアウターケース132の内周面との間に介挿された複数個のボール133とにより構成されている。前述の軸穴134はインナーケース131の内周側に形成されている。
【0067】
ボス筒体121と各環状シール体124との相対向する縁部121a,124a間には、軸線Aに沿って軸受体123から離れるに連れて軸線Aとの直交距離D(半径方向の距離)が長くなるように傾斜した逃がし隙間140が形成されている。
【0068】
この場合、ボス筒体121における軸線A方向両側の開口縁部121aは、軸線A方向外側(軸線Aに沿って軸受体123から離れる方向)に行くに従って内径が大きくなるテーパ状に形成されている。逆に、各環状シール体124の外周縁部124aは、軸線A方向外側に行くに従って外径が大きくなるテーパ状に形成されている。そして、ボス筒体121におけるテーパ状の開口縁部121aと各環状シール体124におけるテーパ状の外周縁部124aとを相対向させることによって、前述の逃がし隙間140が形成されている。従って、軸受体123を挟んで軸線A方向両側の空間Sは、逃がし隙間140を介して外部に連通している。
【0069】
以上のように構成すると、通常、テンションプーリ102は、第1無端ベルト96の駆動に伴って支軸体122回りに回転しているので、例えば逃がし隙間140内に泥水等の異物が入り込んだとしても、この異物には、テンションプーリ102及び軸受装置120の回転に伴う遠心力が半径方向外向きに作用するから、異物は半径方向外向きに押し出され、回転する逃がし隙間140から外部へ排出されることになる。このため、異物が逃がし隙間140を通過して、軸受体123を挟んで軸線A方向両側の空間Sにまで到達するのは難しい。
【0070】
また万一、軸受体123を挟んで軸線A方向両側の空間S内に異物が侵入した場合であっても、異物にはテンションプーリ102及び軸受装置120の回転に伴う遠心力が作用するから、空間S内の異物は空間Sから見て半径方向外側に位置する逃がし隙間140に押し出され、結局この場合も、回転する逃がし隙間140から外部へ排出されることになる。換言すると、空間S内から異物が抜け出し易い。
【0071】
従って、テンションプーリ102及び軸受装置120の回転に伴う遠心力の作用にて、異物が空間S内に侵入するのを抑制でき、異物が空間S内に入り込んで軸受体123を壊すおそれを格段に低減できる。また、テンションプーリ102が高速回転するほど、逃がし隙間140や空間S内の異物に作用する遠心力は大きくなるから、異物を軸受装置120の外部へ追い出し易く、シール効果が高まることになる。
【0072】
特に、実施形態の第1ベルト張力調節装置100は、ミッションケース18とカウンタケース61との間で且つ圃場面近くに位置しているため、テンションプーリ102や軸受装置120は、泥水や藁屑等の異物が舞い散る厳しい環境下で作動することになる。この点、前述の構成を採用したことにより、テンションプーリ102及び軸受装置120の回転に伴う遠心力の作用にて、泥水等の異物が軸受装置120における軸受体123を挟んで軸線A方向両側の空間S内に侵入するのを効果的に抑制できるのである。
【0073】
更に、両環状シール体124による軸受体123の挟み付け、及び、ナット軸128と固定ボルト129との締結によって、軸受体123を支軸体122に軸線A方向へずれ不能な状態できっちりと位置決めできる。換言すると、両環状シール体124は、異物のシール機能を果たすだけでなく、支軸体122に対する軸受体123の取り付け位置(軸線A方向の位置)を決めるスペーサとしての役割も果たすのである。
【0074】
(6).その他
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば回転部材としてはプーリに限らず、ローラやギヤ等であってもよい。その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】コンバインの側面図である。
【図2】コンバインの平面図である。
【図3】走行機体前部の概略正面図である。
【図4】脱穀装置の概略側面断面図である。
【図5】動力伝達系のスケルトン図である。
【図6】走行機体前部の概略側面図である。
【図7】ミッションケースの概略側面図である。
【図8】(a)は図7のVIIIa−VIIIa視正面断面図、(b)は(a)の要部拡大正面断面図である。
【符号の説明】
【0076】
A 支軸体の軸線
D 軸線との直交距離
S 軸受体を挟んで軸線方向両側の空間
1 走行機体
18 ミッションケース
61 カウンタケース
90 プーリ・ベルト式の伝動手段
100 第1ベルト張力調節装置
101 第2ベルト張力調節装置
102,103 テンションプーリ
104,105 アーム体
106,107 ばね体
120 軸受装置
121 ボス筒体
121a 開口縁部
122 支軸体
123 軸受体
124 環状シール体
124a 外周縁部
140 逃がし隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支軸体の外周に、軸受体を介して回転部材が装着され、前記回転部材におけるボス筒体と前記支軸体との間に前記軸受体を挟んで軸線方向両側の空間をシールする一対のシール体とを備えている軸受装置であって、
前記ボス筒体と前記各シール体との相対向する縁部間には、前記軸線に沿って前記軸受体から離れるに連れて前記軸線との半径方向の距離が長くなるように傾斜した逃がし隙間が形成されている、
軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載した軸受装置にて回転可能に構成されている、
回転部材としてのプーリ。
【請求項3】
動力伝達用の無端ベルトに接触するテンションプーリと、前記無端ベルトが緊張・弛緩する方向に前記テンションプーリを移動させるためのアーム体と、前記テンションプーリを前記無端ベルトに向けて押圧付勢するためのばね体とを備えているベルト張力調節装置であって、
前記テンションプーリとして、請求項2に記載したプーリが用いられている、
ベルト張力調節装置。
【請求項4】
走行機体に搭載されたエンジンからの動力を変速するミッションケースと、前記ミッションケースと作業部との間で動力伝達を中継するカウンタケースとを備えているコンバインであって、
前記ミッションケースと前記カウンタケースとは無端ベルトを介して動力伝達可能に構成されており、請求項3に記載したベルト張力調節装置が前記ミッションケースと前記カウンタケースとの間で前記無端ベルトに関連して設けられている、
コンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−215587(P2008−215587A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57733(P2007−57733)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】