説明

軸流ポンプ又は斜流ポンプ

【課題】使用するポンプの耐失速特性を向上させ、より失速しにくい特性をもたせたて、軸動力一定と回転速度とを組み合わせて、低揚程大流量から高揚程小流量まで更に広い運転範囲において安定した運転が可能とする。
【解決手段】羽根の失速を原因として発生する不安定領域での運転を避けるためのポンプである。不安定領域を高揚程で小流量側に移動させて、ポンプの軸動力が予め設定された一定の設定値に出力を制御するために、前置案内羽根6付のポンプ1の実揚程を検知し、この実揚程の検知に基づき、羽根車2の回転速度を制御する。不安定領域の移動のために、前置案内羽根6は、羽根車2の回転方向とは逆向きで、羽根車2の半径方向の外周より中心部がより大きな旋回流を与えて、耐失速特性を向上させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐失速特性を向上させた軸動力一定のポンプに関する。更に詳しくは、軸流ポンプや斜流ポンプにおいて、ポンプ本体の失速による不安定領域を前置案内羽根の配置、ハブ比の変更、揚力係数の変更により、不安定な運転領域を高揚程で小流量側に移動させ、かつ軸動力を一定にするために回転速度制御を行って、失速による不安定な運転状態になりにくく、かつ広い可変速範囲で安定した運転が可能となる軸流ポンプ又は斜流ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプの特性を横軸に吐出し量、縦軸に全揚程を取って描画した曲線を揚程曲線、横軸に吐出し量、縦軸に軸動力を取って描画した曲線を軸動力曲線と呼ばれている。比較的低揚程で使用される軸流ポンプの揚程曲線は、最高効率点流量付近では傾斜のきつい右下がり曲線となるが、最高効率点流量の60〜70%の流量で羽根の失速を原因とする右上がりの不安定領域が発生するため、運転可能範囲を最高効率点流量の60〜70%以上に限定する場合が多い。
斜流ポンプの揚程曲線は全流量範囲にわたり、緩やかな右下がり曲線となることが多いが、高比速度で設計された斜流ポンプの中には最高効率点流量の50〜70%付近で軸流ポンプと同様な右上がりの不安定領域が現れることが知られている。軸動力曲線については両者とも右下がり曲線を示し、高揚程小流量側で軸動力は増大し、逆に低揚程大流量側では軸動力は減少する。
【0003】
ポンプを運転する場合の吐出し量、揚程を特定するためには揚程曲線だけでなく、管路系の損失を示す抵抗曲線を考慮する必要がある。ポンプの管路系は吸込み管、直管、曲り管、バルブなどで構成されており、吐出速度の2乗に比例した損失が生じる。実揚程と各吐出量において前記損失により発生する管路抵抗の合計を描画したものが抵抗曲線であり、ポンプの運転点はこの抵抗曲線と揚程曲線の交点となる。管路抵抗が不変の場合、抵抗曲線は実揚程の変化により上下に平行移動し、ポンプの運転点もこれにともない変化する。
一般的な軸流ポンプを一定の回転速度で運転した場合の揚程曲線と、実揚程が変化した場合の抵抗曲線を図22に示す。抵抗曲線1〜3は揚程曲線との交点はただ一つに定まり、ポンプはこの交点で示される吐出し量、全揚程で安定して運転される。しかし、抵抗曲線4は揚程曲線との交点が明確に定まらず、吐出し量、揚程はa〜cの範囲で周期的に変動し、振動や騒音を伴う不安定な運転となる。一般的な軸流ポンプではこのような不安定領域での運転を避けるため、運転可能流量範囲を最高効率点流量の70%以上に限定する場合が多い。
【0004】
図23は、回転数(速度)をパラメータとした軸流ポンプの特性を示す図である。出力に応じた全揚程Hの揚程曲線である。回転数の減少と共に、100%回転数のときの曲線に類似した各カーブが示されている。各曲線は、流量Q、全揚程Hと共に回転数が減少すれば小さくなるカーブである。回転速度制御を行った場合にも失速を原因とする不安点領域は、各回転数の最高効率点近傍の流量の60〜70%流量の点で発生し、それをつないだ線が失速を原因とする不安点状態による運転限界を示す曲線A−Dとなる。この図23で見るように、運転限界A−Dは回転数が減少するに従い、より低い揚程で発生するようになる。したがって、回転速度制御を行った場合、運転可能領域は各回転数の最高効率点流量の70%程度以上の流量範囲に限定される。
【0005】
その他、ポンプの運転限界を決定する要素として、軸動力による限界、最小管路抵抗による限界があり、これらはそれぞれ曲線A−B−C、曲線C−Dとなる。このため回転速度制御を行う場合にも、一般的な軸流ポンプとの組合せでは可変速による運転範囲が領域A−B−C−Dに限定され、制御が期待するところの効果が十分に発揮されない。
【0006】
また、広い流量範囲で使えるようにするために、羽根車翼を羽根車ボスの周面に翼軸を介して取り付け、羽根角度θを可変できる構造とする方法が用いられている。この場合には、負荷が最大と最小の間の運転領域には不安定領域は現れず、常に安定な運転が可能であるが、羽根角度を可変とするについては構造が複雑となり製造コストを押し上げるだけでなく、可動部への異物の噛み込み、発錆等のトラブルが生じやすい(特許文献1)。
更に、回転数制御において、振動量から不安定領域かどうかの判定を行い、不安定領域であれば回転速度を増速あるいは減速して、不安定領域での連続運転を回避する制御が提案されている(特許文献2)。これは不安定領域での運転を回避しているに過ぎない。一般に不安定領域での運転を避けるため回転速度を減速した場合、全揚程は回転速度比の二乗に比例して減少するため、揚程が高い場合には排水不能となる。また、連続流量制御が出来ないため、連続流量を確保するためにはポンプ台数を増やし対応する必要がある。
【0007】
本出願人は、回転駆動される羽根車に流入する揚液に逆方向の回転を与える前置案内羽根を配置して比速度を大きくした高速ゲートポンプを提案した(特許文献3)。しかしながら、この高速ゲートポンプは、不安定な運転領域、耐失速性を考慮したものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−4597号公報
【特許文献2】特開平11−311195号公報
【特許文献3】特開2001−304190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的に軸流ポンプにおいては、小流量側で翼の失速を原因とする不安定運転領域での運転を避けるため、最高効率点流量に対し60〜70%以上の流量範囲でしか安定した運転が出来ないとされている。軸流形ポンプは他のターボ形ポンプと同様に回転数調整により吐出し量、揚程、軸動力を変更することができるが、軸流ポンプはもともと運転可能範囲が狭いため、回転数制御を行おうとしても可変速範囲を広く取ることが出来ず、軸動力一定制御、吐出し量制御、吐出し圧制御などの制御を行おうとしてもその効果が十分に発揮できないという問題があった。
本発明は上述のような技術背景のもとになされたものであり、下記目的を達成する。
【0010】
本発明の目的は、使用するポンプの耐失速特性を向上させ、より失速しにくい特性をもたせた軸流ポンプ又は斜流ポンプを提供することにある。
本発明の更に他の目的は、軸動力一定と回転速度制御とを組み合わせて、低揚程大流量から高揚程小流量まで更に広い運転範囲において安定した運転が可能となる軸流ポンプ又は斜流ポンプを提供することにある。
本発明の更に他の目的は、ポンプの動力を供給する受電設備の容量を小さくできる軸流ポンプ又は斜流ポンプを提供することにある。
本発明の更に他の目的は、羽根の失速を原因とする不安定領域を、高揚程で小流量側に移動させることができる軸流ポンプ又は斜流ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するために次の手段を採る。
本発明1の軸流ポンプ又は斜流ポンプは、 回転駆動される羽根車の失速を原因として発生する不安定領域での運転を避けるための軸流ポンプ又は斜流ポンプであって、前記不安定領域を移動させるために、翼幅に対して翼弦長さを増大させて翼表面上で単位長さあたりに行われるエネルギーの供与を小さくしたことで、前記ポンプの揚力係数Cは、前記ポンプのチップ側で0.2〜0.3未満、ハブ側で0.6〜0.8未満としたものであることを特徴とする。
【0012】
本発明2の軸流ポンプ又は斜流ポンプは、本発明1の軸流ポンプ又は斜流ポンプにおいて、 羽根の失速を原因として発生する不安定領域での運転を避けるための軸流ポンプ又は斜流ポンプであって、前記不安定領域を高揚程で小流量側に移動させて、前記ポンプは、回転駆動される羽根車と、前記羽根車に流入する揚液の流れの前に配置された前置案内羽根とを有するものであり、前記不安定領域の移動のために、前記羽根車の回転方向とは逆向きで、前記羽根車の半径方向の外周より中心部側がより大きな旋回流を与えて、耐失速特性を向上させたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の軸流ポンプ又は斜流ポンプは、使用するポンプの耐失速特性を向上させ、より失速しにくい特性をもたせたポンプを用いて、軸動力一定と回転速度制御とを組み合わせて、実揚程に応じて低揚程大流量から高揚程小流量まで更に広い運転範囲において安定した運転が可能となった。
また、軸動力を一定でポンプを制御するために、ポンプ設備のための受電設備に余力が必要なく、結果として、小さい受電設備で対応できるので、設備コストの削減、及び電気料金を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明を前置案内羽根付き軸流ポンプに適用したときの実施の形態1を示す図である。図1(a)は、前置案内羽根付き軸流ポンプの羽根車の正面図、図1(b)は前置案内羽根付き軸流ポンプの側面図である。
【図2】図2は、羽根車チップ側における速度ベクトルを示す説明図である。
【図3】図3は、羽根車ハブ側における速度ベクトルを示す説明図である。
【図4】図4は、羽根車チップ側における羽根の断面を示す断面図である。
【図5】図5は、羽根車ハブ側における羽根の断面を示す断面図である。
【図6】図6は、本実施の形態1の前置案内羽根付き軸流ポンプと従来の軸流ポンプとの回転速度制御と組み合わせた場合の運転範囲を示す図である。
【図7】図7は、実施の形態1の前置案内羽根付き軸流ポンプを排水設備に適用したときの制御ブロック図である。
【図8】図8は、運転制御装置10の軸動力一定の場合の制御動作の概要を示すフロー図である。
【図9】図9(a)は、本発明の羽根車外径とハブ径を拡大させた羽根車の正面図、図9(b)は、軸流ポンプの側面図である。
【図10】図10は、本発明の羽根車外径とハブ径を拡大させた軸流ポンプの羽根車のチップ側における速度ベクトルを示す説明図である。
【図11】図11は、図9の羽根車のハブ側における速度ベクトル図である。
【図12】図12は、図9の羽根車のチップ側における翼形状を示す断面図である。
【図13】図13は、図9の羽根車のハブ側における翼形状を示す断面図である。
【図14】図14(a)は、本発明の羽根車の翼弦長を延長させた場合の軸流ポンプの羽根車の正面図、図14(b)は、軸流ポンプの側面図である。
【図15】図15は、図14の軸流ポンプの羽根車のチップ側の速度ベクトルを示す説明図である。
【図16】図16は、図14の軸流ポンプの羽根車のハブ側の速度ベクトルを示す説明図である。
【図17】図17は、図14の軸流ポンプの羽根車のチップ側の翼形状を示す断面図である。
【図18】図18は、図14の軸流ポンプの羽根車のハブ側の翼形状を示す断側面図である。
【図19】図19は、従来の揚力係数Cを採用したときの軸流ポンプの羽根車のハブ側の翼形状を示す断面図である。
【図20】図20は、本実施の形態3の揚力係数Cを採用したときの軸流ポンプの羽根車のハブ側の翼形状を示す断面図である。
【図21】図21は、前置案内羽根付き軸流ポンプに対し軸動力一定制御を行った場合の排水設備の特性を示す図である。
【図22】図22は、従来の軸流ポンプの特性を示す特性図である。
【図23】図23は、従来の軸流ポンプを可変速運転をした場合のポンプの特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態1]
次に、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明を前置案内羽根付き軸流ポンプに適用したときの実施の形態1を示す図である。図1(a)は、前置案内羽根付き軸流ポンプの羽根車の正面図、図1(b)は前置案内羽根付き軸流ポンプの側面図である。図2は、羽根車チップ側における速度ベクトルを示す説明図である。図3は、羽根車ハブ側における速度ベクトルを示す説明図である。図4は、羽根車チップ側における羽根の断面を示す断面図である。図5は、羽根車ハブ側における羽根の断面を示す断面図である。
【0016】
前置案内羽根付き軸流ポンプ1は、回転駆動される羽根車2及び前置案内羽根6を備えている。回転駆動される羽根車2は、ハブ3の外周面上の等角度間隔に4枚の翼4が配置されている。羽根車2の前方に前置案内羽根6が適当な等角度間隔で配置されている。前置案内羽根6は、固定ハブ5と軸流ポンプ1の本体である胴7との間に固定配置されている。前置案内羽根6は、羽根車2に流入する前の揚水(揚液)に予め旋回を与えるための固定羽根である。本実施の形態1では、羽根車2の回転方向とは逆向きの予旋回を与えるものである(入口絶対速度c1参照)。
即ち、羽根車2への揚液の相対的な流入速度を増加させるためのものである。この予旋回は前置案内羽根6の設計により羽根車2の各半径位置で任意にその大きさを変えることができるが、羽根車2の回転による揚液との相対速度の小さいハブ3側において、より大きな予旋回を与えることで、予旋回の周速と羽根車2の回転速度の合計で表される翼4と揚液との周方向相対速度をチップ(外周)側、ハブ3側で均一化又は略均一化にすることができる。
【0017】
このためにハブ3側において、揚液が要求するエネルギーを与えるために必要な翼4のそりは従来と比べて大幅に減少し、翼4の取付角が回転軸に直交する面とのなす角も小さくなる。羽根車2の後に固定した後置案内羽根を配置したものと比較すると、最高効率点流量において同一の性能であるが、本実施の形態1は翼のそり、取付角が異なる(図1(a)参照)。軸方向速度は吐出し量、すなわち流入量の増減に比例して増減する。
羽根車入口側に設けられた前置案内羽根6が発生する予旋回の周方向成分は吐出量、即ち、流入量の増減に比例して増減するため、予旋回の周成分と羽根車2の回転速度の合計で表される揚液と翼4との周方向の相対速度も略比例的に増減する。その結果、吐出量が増減した場合の羽根車の相対流入ベクトルの方向変化は従来のポンプと比べ半分程度まで小さくなる。
【0018】
以上により、前置案内羽根付きポンプ1では同一のエネルギーを揚液に予旋回として与えるために必要となる羽根のそりが従来のポンプと比べ小さく、かつ流量が増減した場合の相対流入ベクトルの角度変化も小さいため、失速を起しにくく、失速を原因として発生するポンプの不安定領域も従来のポンプでの限界である最高効率点流量の60〜70%と比べ、更に小流量側まで発生しない高い耐失速性を持ったポンプが実現される。
更に、これらの前置案内羽根付き軸流ポンプ1と回転速度(回転数/単位時間)制御を組み合わせることで、従来の軸流ポンプと回転速度を組み合わせた場合と比較して、低揚程大流量側から高揚程小流量側まで、更に広い範囲で安定した運転が可能となる。図6は、本実施の形態1の前置案内羽根付き軸流ポンプ1と従来の軸流ポンプとの回転速度制御と組み合わせた場合の運転範囲を示している。
【0019】
前置案内羽根付き軸流ポンプ1の運転可能領域は、一般的な軸流ポンプの領域A−B−C−Dと比べ、より小流量側、及び高揚程側に広がった領域A’−B’−C’−Dとなっていることが伺える。言い換えると、通常型軸流ポンプの失速限界線である2乗曲線D−Aがより小流量側、及び高揚程側を通る2乗曲線D−A’に移動する。この移動は、結果として、相対的ではあるが羽根の失速を原因として発生する不安定領域を高揚程で小流量側に移動させたことになる。
このように、本実施の形態1の前置案内羽根付き軸流ポンプ1は、図6に示す揚程曲線の例では、各回転数での運転における最高効率点流量の約50%、最高効率点揚程の約180%付近まで不安定領域が発生しないため、より低い回転数まで安定した運転が可能であり、その運転可能な最低吐出し量は一般的な軸流ポンプを回転速度制御した場合に比べ大幅に減少させることができる。
【0020】
図7は、実施の形態1の前置案内羽根付き軸流ポンプを排水設備に適用したときの制御ブロック図である。内水からこれより上部にある外水に軸流ポンプ1で排水するための設備である。内水側には吸込み側水位センサ11、外水側には吐出し側水位センサ12がそれぞれ配置されている。吸込み側水位センサ11、及び吐出し側水位センサ12の各水位データは検知されて運転制御装置10に入力される。運転制御装置10は、インバータ(図示せず)を備えており、インバータにより軸流ポンプ1の回転速度を制御する。運転制御装置10は、吸込み側水位センサ11、及び吐出し側水位センサ12の情報から実揚程Hを検知できる。
【0021】
図8は、運転制御装置10の軸動力一定の場合の制御動作の概要を示すフロー図である。運転制御装置10は、吸込み側水位センサ11、及び吐出し側水位センサ12の情報から水位情報をそれぞれ検知する(S1)。この水位情報から内水の水面と外水の水面との落差、即ち実揚程を計算する(S2)。次に、内水位が予め決められた排水水位以上か、外水位は排水ができる水位であるか等の条件を満たしているか否かを判断する(S3)。
運転条件を満たしていなければ、ポンプを運転する必要がないので、ポンプは運転中であれば運転を休止し、休止中であればそれを継続する(S4)。ポンプ運転の休止が一定時間経過すると(S6)、再び水位情報をそれぞれ検知する(S1)。ポンプ運転条件を満たしていれば(S3)、前回の水位計測から予め決めておいた設定水位以上の変動があるか否かを判断する(S5)。流入水の増加又は減少、外水位の上昇又は下降等により、実揚程Hが変動したものであるから、運転条件を変える必要があると判断する。
【0022】
設定値以上の変動があるときは、ポンプ回転速度を実験式等から演算、又は予め運転制御装置10に記憶されているデータ(実測)であるマップから引き出した回転数を設定する(S7)。前述した実揚程Hが定まると、軸動力一定制御であるから前置案内羽根付き軸流ポンプ1の特性、図6に示した管抵抗(抵抗曲線)と、測定され演算された実揚程H、一定の軸動力から、回転数(回転速度)が運転可能な範囲で一義的に決定される。
この回転数が決まれば、インバータへポンプの回転速度を指示して、所定の回転速度になるように周波数を制御する指令をする(S8)。この後、ポンプは設定された回転速度で運転が行われる(S9)。このように、本実施の形態1の運転制御装置10は、軸動力一定で運転し、かつ失速範囲を移動させて、運転可能な範囲を広くしたので、受電設備への負荷の変動が少なく、無駄な設備が必要がない効果がある。なお、上記説明は、1台の前置案内羽根付き軸流ポンプで説明したが複数台を運転するものであっても同様の運転で行う。
【0023】
この回転速度制御は、実揚程を検知して回転速度を制御するものであったが、この実揚程の検知は必ずしも必要ではない。運転制御装置10がインバータからポンプの駆動モータに出力される軸動力を検知し、この軸動力が設定値以上を越えたとき、ポンプ回転速度を実験式等から演算、又は予め運転制御装置10に記憶されているデータ(実測)であるマップから引き出した回転数を設定する方法であっても良い。
【0024】
[実施の形態2]
前述した実施の形態1は、羽根の失速を原因として発生する不安定領域での運転を避けるために前置案内羽根を配置するものであった。実施の形態2の軸流ポンプは、耐失速性を向上させるためにハブ比(ハブ直径/羽根車外径)を従来の数値範囲から変更したものである。図9(a)は、本発明の羽根車外径とハブ径を拡大させた場合の軸流ポンプの羽根車の正面図、図9(b)は、軸流ポンプの側面図である。
図10は、本発明の羽根車外径とハブ径を拡大させたとき、軸流ポンプの羽根車チップ側における速度ベクトルを示す説明図である。図11は、本発明の羽根車外径とハブ径を拡大させたとき、羽根車のハブ側における速度ベクトルを示す説明図である。図12は、図9の羽根車のチップ側における翼形状を示す断面図である。図13は、図9の羽根車のハブ側における翼形状を示す断面図である。図12及び図13から明らかなように、チップ側の翼弦長が長く、ハブ側の翼弦長が短くなっている。
【0025】
この軸流ポンプ15は、後述するハブ比以外は基本的な配置構造は従来のものと同一であり、前述した前置案内羽根付の軸流ポンプ1とは前置案内羽根6を備えていない点で異なる。即ち、この軸流ポンプ15は、後置案内羽根20を備えている点で異なる。羽根車16、ハブ17、翼18、固定ハブ19等は、実施の形態1と配置は同一である。
羽根車16への軸流方向の流速は、ポンプ効率、流速増加による管損失、重量等の観点から3.0〜4.0m/secが選択される。本実施の形態2は、前述した不安定領域の移動のために、本実施の形態2の軸流ポンプのハブ比β’は次の式(1)で表される範囲にある。
【数1】

ただし、
D’=前記軸流ポンプの口径(前記羽根車の外径の近似値)、
d’=前記軸流ポンプのハブ径、
α=1.1〜1.8、
β=0.3〜0.7、
である。
このαは、D’/Dで算出される数値である。αが大きいほど耐失速性は向上するが、効率や経済性が犠牲となるので上記数値範囲が適当である。βは、d/Dで算出される数値である。このDは、3.0〜4.0m/secによって選択される一般的な軸流ポンプ口径(前記羽根車の外径の近似値)であり、dは、3.0〜4.0m/secによって選択される従来のハブ径である。
【0026】
前述したαが大きいほど、即ち前記軸流ポンプの口径D’が大きいほど耐失速性は向上するが、効率や経済性が犠牲になるので、αは1.1〜1.8の範囲が好ましい。軸流ポンプは、一般にハブ比β(ハブ3の直径/軸流ポンプの口径(羽根車外径と近似値))が0.3〜0.7であり、羽根枚数は2〜5枚の範囲とされている。
これらの数値範囲を採用することは、羽根外径、及びハブ17の直径を増加させることを意味する。羽根外径、及びハブ径を増加させることにより、羽根車16への流入ベクトルを半径方向のどの位置でも均一化又は略均一化する設計が容易となる。羽根部分での軸線方向の流速は、従来と同様の流速(3.0〜4.0m/sec)となる。即ち、羽根外径とハブ径を共に増加させることにより、羽根車16の翼18と揚液との周方向相対速度をチップ(羽根先端部)側、ハブ側で均一化又は略均一化することができるため、ハブ17側において揚液が要求するエネルギーを与えるために必要な翼のそりは従来と比べ大幅に減少し、翼の取付角が回転軸線と直交する面とのなす角も小さくなる。
【0027】
以上により、羽根外径ハブ径を共に増加させたポンプでは同一のエネルギーを揚液に与えるために必要となる羽根のそりが従来のポンプと仕べ小さいため、失速を起しにくく、失速を原因として発生するポンプの不安定領域も従来のポンプでの限界である最高効率点流量の60〜70%と比べ、更に小流量側まで発生しない高い耐失速性を持ったポンプが実現できた。このポンプと回転速度制御を組み合わせることで、従来のポンプと回転速度制御を組み合わせた場合と比較して、低揚程大流量側から高揚程小流量側まで、更に広い範囲で安定した運転が可能となる。軸流ポンプの速度制御は、実施の形態1で説明した方法と同様の方法で行う。
【0028】
[実施の形態3]
本実施の形態3は、耐失速性を向上させるために羽根車の揚力係数Cを通常採用される数値範囲からシフトさせたものである。即ち、羽根車の翼弦長を増加させた軸流ポンプの翼形状である。図14(a)は、本発明の羽根車の翼弦長を延長させた場合の軸流ポンプの羽根車の正面図、図14(b)は、軸流ポンプの側面図である。図15は、図14の軸流ポンプの羽根車のチップ側の速度ベクトルを示す説明図である。図16は、図14の軸流ポンプの羽根車のハブ側の速度ベクトルを示す説明図である。
図17は、図14の軸流ポンプの羽根車のチップ側の翼形状を示す断面図である。図18は、図14の軸流ポンプの羽根車のハブ側の翼形状を示す断側面図である。この軸流ポンプ21は、実施の形態2の軸流ポンプ15と実質的に配置は同一である。即ち、この軸流ポンプ21は、後置案内羽根26、羽根車22、ハブ23、翼24、固定ハブ25等は、実施の形態2と配置は同一である。
【0029】
揚力係数Cは、単独翼の性能を示すものとして用いられている。揚力係数C=L/{(1/2)ρωcb}で示される。ただし、この揚力係数Cは、JISB0131の用語の定義の番号8163の用語「揚力係数C」の形式で定義すると、「C=L/{(1/2)ρVA}」と周知の式であり、Lは揚力(N)、ρは揚液の密度(kg/m)、V(前述のωに相当)は流入速度(m/s)、Aは翼面積(「翼弦長c×翼幅b」に相当)(m)によって定まる。一般の軸流ポンプの揚力係数Cは、チップ側で0.3〜0.7であり、ハブ側で0.8〜1.2と言われている。本実施の形態3では、チップ側で0.2〜0.5、ハブ側で0.6〜1.0としたものである。より具体的には、翼弦長cが増加されるので、翼表面上で単位長さあたりに行われるエネルギーの供与を小さくする設計が有効であり、チップ側とハブ側ともに揚液が要求するエネルギーを可能な限り均等に与える。ただし、これに必要な翼のそりは従来のものと実質的には同様である。
羽根の長さが長くなっているために単位長さ当たりに行われるエネルギーの供与は小さくなり、翼表面からの流れている揚液の剥離がおきにくくなるため、翼の失速を原因として発生する不安定領域もより小流量側まで発生しにくくなる。
図17と図18に示した翼断面を備えた羽根車2は、一般の軸流ポンプの揚力係数Cを採用した軸流ポンプと最高効率点流量において同一の性能を発揮するものであるが、前述したように翼の弦長は大きく異なる。図19は、従来の揚力係数Cを採用したときの軸流ポンプの羽根車のハブ側の翼形状を示す断面図である。図20は、本実施の形態3の揚力係数Cを採用したときの軸流ポンプの羽根車のハブ側の翼形状を示す断面図である。
【0030】
図20に示すように、翼弦長を増加させた軸流ポンプでは同一のエネルギーを揚液に与えるために必要となる羽根の長さが従来のポンプと比べ長く、単位面積当たりに行われるエネルギーの供与が小さいため、失速を起しにくく、失速を原因として発生するポンプの不安定領域も従来のポンプでの限界である最高効率点流量の60〜70%と比べ、更に小流量側まで発生しない高い耐失速性を持ったポンプを実現した。このポンプと回転速度制御を組み合わせることで、従来のポンプと回転速度を組み合わせた場合と比較して、低揚程大流量側から高揚程小流量側まで、更に広い範囲で安定した運転が可能となった。軸流ポンプの速度制御は、実施の形態1で説明した方法と同様の方法で行う。
【実施例1】
【0031】
前述した実施の形態1の前置案内羽根付き軸流ポンプの実施例を詳記する。前置案内羽根付き軸流ポンプに対し軸動力一定制御を行った場合の排水設備の特性を図21に示す。このポンプ設備の最高効率点流量は45m/min、最高効率点揚程は2.17m、運転可能最大実揚程は3.26mであり、軸動力は常に22kW一定で制御される。吐出し量、揚程共に一般的な軸流ポンプを軸動力一定制御した場合と比べ改善する。
このポンプ設備と同様の最高効率点流量および最高効率点揚程を満たし、かつ同様の最高実揚程まで運転可能な設備を、固定速の一般的な軸流ポンプで実現しようとした場合、電動機および受電設備は前置案内羽根付き軸流ポンプに対し軸動力一定制御を行った場合と比べて20〜30%増の30kWが必要となる(図21参照)。ポンプが二台設置されていた場合、30kW×2台では受電設備は受電契約で言うところの高圧受電範囲が必要となるが、22kW×2台では低圧受電でまかなうことができるため、設備のイニシャルコスト、ランニングコスト共に、大幅に縮減することが可能となった。
【符号の説明】
【0032】
1…前置案内羽根付き軸流ポンプ
2…羽根車
3…ハブ
5…固定ハブ
6…前置案内羽根
10…運転制御装置
11…吸込み側水位センサ
12…吐出し側水位センサ
15…軸流ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動される羽根車の失速を原因として発生する不安定領域での運転を避けるための軸流ポンプ又は斜流ポンプであって、
前記不安定領域を移動させるために、翼幅に対して翼弦長さを増大させて翼表面上で単位長さあたりに行われるエネルギーの供与を小さくしたことで、前記ポンプの揚力係数Cは、
前記ポンプのチップ側で0.2〜0.3未満、ハブ側で0.6〜0.8未満としたものである
ことを特徴とする軸流ポンプ又は斜流ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の軸流ポンプ又は斜流ポンプにおいて、
羽根の失速を原因として発生する不安定領域での運転を避けるための軸流ポンプ又は斜流ポンプであって、前記不安定領域を高揚程で小流量側に移動させて、前記ポンプは、回転駆動される羽根車と、前記羽根車に流入する揚液の流れの前に配置された前置案内羽根とを有するものであり、
前記不安定領域の移動のために、前記羽根車の回転方向とは逆向きで、前記羽根車の半径方向の外周より中心部側がより大きな旋回流を与えて、耐失速特性を向上させたものである
ことを特徴とする軸流ポンプ又は斜流ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−149649(P2012−149649A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−97530(P2012−97530)
【出願日】平成24年4月23日(2012.4.23)
【分割の表示】特願2004−217934(P2004−217934)の分割
【原出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000168193)株式会社ミゾタ (12)
【出願人】(000150844)株式会社鶴見製作所 (56)
【Fターム(参考)】