説明

透明ガスバリアフィルム、透明ガスバリアフィルムの製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、太陽電池および薄膜電池

【課題】積層数が少なくても高いガスバリア性を有する透明ガスバリアフィルムを提供する。また、高いガスバリア性を有する透明ガスバリアフィルムを同一真空槽内において同一形成プロセスで効率よく製造することができる透明ガスバリアフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 樹脂基板上にガスバリア性を有する透明ガスバリア層が形成されたガスバリアフィルムであって、前記透明ガスバリア層が、無機層と炭素含有層とを積層した積層透明ガスバリア層であり、
前記無機層が、アーク放電プラズマを用いた蒸着法により形成され、かつ、金属および半金属の少なくとも一方と、酸素および窒素の少なくとも一方とを含む層であり、
前記炭素含有層が、アーク放電プラズマを用いた蒸着法により形成され、かつ、金属および半金属の少なくとも一方と炭素とを含む層であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明ガスバリアフィルム、透明ガスバリアフィルムの製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、太陽電池および薄膜電池に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、電子ペーパー、太陽電池、薄膜リチウムイオン電池等の各種エレクトロニクスデバイスは、近年、軽量化・薄型化が進んでいる。これらデバイスの多くは大気中の水蒸気によって変質して劣化することがわかっている。
【0003】
従来、これらデバイスにはその支持基板としてガラス基板が用いられてきたが、軽量性、耐衝撃性、屈曲性等の各種特性に優れるという理由により、ガラス基板に代えて樹脂基板の使用が検討されている。樹脂基板は、一般には、ガラス等の無機材料から形成された基板と比較して、水蒸気等のガス透過性が著しく大きいという性質をもつ。したがって、上記用途においては、樹脂基板のガスバリア性を、その光透過性を維持しつつ向上させることが要求される。
【0004】
ところで、エレクトロニクスデバイスのガスバリア性は、食品包装でのそれに比べ、桁違いに高いレベルが要求されている。ガスバリア性は、例えば水蒸気透過速度(Water Vapor Transmission Rate 以下WVTR)で表される。従来の食品パッケージ用途でのWVTRの値は1〜10g・m−2・day−1程度であるのに対し、例えば薄膜シリコン太陽電池や化合物薄膜系太陽電池用途の基板に必要なWVTRは0.01g・m−2・day−1以下、さらには有機EL用途の基板に必要なそれは1×10−5g・m−2・day−1以下と考えられている。このような非常に高いガスバリア性の要求に対し、樹脂基板上にガスバリア層を形成させる方法が、種々提案されている。
【0005】
例えば、無機層とポリマー層とを交互に複数層積層させてハイブリッド化することによりガスバリア性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。しかしながら、異なる材料の層を異なるプロセスにより形成するため、生産効率やコストの観点からは好ましいものとはいえない。また、十分なガスバリア性を得るためには積層の数を増やしたり、各層を厚く形成する必要があり、そのために製造効率が低下するという問題があった。また、無機層とポリマー層との密着性が低く、経時劣化や屈曲による劣化が起こりやすいという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2996516号公報
【特許文献2】特開2007−230115号公報
【特許文献3】特開2009−23284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、積層数が少なくても高いガスバリア性を有する透明ガスバリアフィルムを提供する。また本発明は、高いガスバリア性を有する透明ガスバリアフィルムを同一真空槽内において同一形成プロセスで効率よく製造することができる製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の透明ガスバリアフィルムは、樹脂基板上にガスバリア性を有する透明ガスバリア層が形成された透明ガスバリアフィルムであって、
前記透明ガスバリア層が、無機層と炭素含有層とを積層した積層透明ガスバリア層であり、
前記無機層が、アーク放電プラズマを用いた蒸着法により形成され、かつ、金属および半金属の少なくとも一方と、酸素および窒素の少なくとも一方とを含む層であり、
前記炭素含有層が、アーク放電プラズマを用いた蒸着法により形成され、かつ、金属および半金属の少なくとも一方と炭素とを含む層であることを特徴とする。
【0009】
また本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法は、樹脂基板上にガスバリア性を有する透明ガスバリア層を形成する透明ガスバリアフィルムの製造方法であって、
アーク放電プラズマを発生させ、酸素ガス、窒素ガスおよび酸素窒素混合ガスの少なくとも一種を含む反応ガスの存在下で、金属、半金属、金属若しくは半金属の酸化物、または金属若しくは半金属の窒化物の少なくとも一種を基板に蒸着させて無機層を形成する無機層形成工程と、
アーク放電プラズマを発生させ、炭化水素ガスおよび酸素炭化水素混合ガスの少なくとも一種を含む反応ガスの存在下で、金属、半金属、金属若しくは半金属の酸化物、または金属若しくは半金属の窒化物の少なくとも一種を基板に蒸着させて炭素含有層を形成する炭素含有層形成工程と、
を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の他の態様の透明ガスバリアフィルムは、前記本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板上に、陽極層、有機発光層および陰極層が、この順序で設けられた積層体を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記基板が、前記本発明の透明ガスバリアフィルムであることを特徴とする。
【0012】
本発明の太陽電池は、太陽電池セルを含む太陽電池であって、前記太陽電池セルが、前記本発明の透明ガスバリアフィルムで被覆されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の薄膜電池は、集電層、陽極層、固体電解質層、陰極層および集電層が、この順序で設けられた積層体を有する薄膜電池であって、前記積層体が、前記本発明の透明ガスバリアフィルムで被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の透明ガスバリアフィルムは、積層数が少なくても高いガスバリア性を有する。また本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法によると、高いガスバリア性を有する透明ガスバリアフィルムを、同一真空槽内において同一形成プロセスで効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の透明ガスバリアフィルムをバッチ生産方式で製造する装置の構成の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の透明ガスバリアフィルムを連続生産方式で製造する装置の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明透明ガスバリアフィルムにおいて、前記炭素含有層が、さらに酸素を含むことが好ましい。
【0017】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記積層体の少なくとも一部が、さらに前記本発明の透明ガスバリアフィルムで被覆されていることが好ましい。
【0018】
つぎに、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の記載により制限されない。
【0019】
本発明の透明ガスバリアフィルムにおける積層透明ガスバリア層は、アーク放電プラズマを利用した蒸着法を用いて形成される。蒸着法は、成膜速度が非常に速いプロセスであり、生産性の高いプロセスである。またアーク放電プラズマは、通常使用されるグロー放電プラズマとは異なり、非常に高い電子密度であることがわかっている。蒸着法にアーク放電プラズマを用いることで、反応性を高くすることができ、非常に緻密な透明ガスバリア層が形成できる。
【0020】
アーク放電プラズマは、例えば、圧力勾配型プラズマガン、直流放電プラズマ発生装置、高周波放電プラズマ発生装置などで形成可能であるが、中でも蒸着中でも安定して高密度なプラズマを発生することが可能な圧力勾配型プラズマガンを用いることが好ましい。
【0021】
本発明における積層透明ガスバリア層は、前記蒸着法にて形成された無機層と炭素含有層との積層体である。前記無機層は、金属および半金属の少なくとも一方と、酸素および窒素の少なくとも一方とを含む層である。酸素および窒素は、化合物の形で含まれていてもよいし、原子の状態で含まれていてもよい。化合物の場合、例えば、金属酸化物、半金属酸化物、金属窒化物、半金属窒化物、金属酸化窒化物および半金属酸化窒化物の少なくとも一種とすることができる。酸素を含むことで、前記無機層の透明性を向上させることができる。
【0022】
また、前記炭素含有層は、金属および半金属の少なくとも一方と炭素とを含んでいる。前記炭素含有層は、さらに酸素を含んでいてもよい。酸素を含むことで、前記炭素含有層の透明性を向上させることができる。炭素および酸素は、化合物の形で含まれていてもよいし、原子の状態で含まれていてもよい。化合物の場合、例えば、金属炭化物、半金属炭化物、金属酸化炭化物および半金属酸化炭化物の少なくとも一種とすることができる。前記炭素含有層は、炭素成分を含有することで、従来技術で用いられてきたポリマー層と同様に、平滑性および応力緩和性を有している。しかし、前記ポリマー層とは異なり、この炭素含有層自体もガスバリア性を有しているため、少ない積層数でも高いガスバリア性を示すことができる。さらにこの炭素含有層は無機層と形成プロセスを同一とすることができるため、同一真空雰囲気にて積層体が形成可能である。
【0023】
前記無機層としては、SiO、Al、TiO、Nb、Ta、In、ITOのような酸化物、Si、AlN、GaN、TiNのような窒化物、SiON、AlONのような酸化窒化物を用いることができる。また、前記炭素含有層としては、SiC、AlC、TiCのような炭化物、SiOC、AlOC、TiOCのような酸化炭化物を用いることができる。
【0024】
前記積層透明ガスバリア層の構成は無機層と炭素含有層との相互積層であればよい。前記炭素含有層は、前記無機層との界面において、下地平坦層と応力緩和層の役割を有することができるため、ピンホールの無いバリア性の高い無機層を形成することができる。樹脂基板上に第一層として形成される層としては、無機層あるいは炭素含有層のどちらであってもよいが、前記第一層としては無機層を形成することが好ましい。発明者らの検討の結果、前記第一層として無機層を形成すると高いバリア性を得ることができるという知見が得られた。これは炭素含有層に比べ、無機層のバリア性が高いことによるものと考えられるが、本発明はこの推測によって限定されるものではない。また基板/(無機層/炭素含有層)(n≧1)のように(無機層/炭素含有層)が1ペアになって積層する場合や、基板/(無機層/炭素含有層)/無機層(n≧1)のように1ペアの積層と一層のような場合でもかまわない。
【0025】
本発明における積層透明ガスバリア層を構成する無機層および炭素含有層は、反応ガスが異なる同一形成プロセスで製造することができる。蒸着源(蒸着材料)としては、金属、半金属、金属酸化物、金属窒化物、半金属酸化物および半金属窒化物の少なくとも一種を用いる。金属としては、例えば、アルミニウム、チタン、インジウム、マグネシウムなどであり、半金属としては、例えば、ケイ素、ビスマスなど、金属または半金属の酸化物としては、例えば、SiO、SiO、TiO、Inなど、金属または半金属の窒化物としては、例えば、Si、AlNなどを用いることができる。これらのうち、ケイ素(Si)を含むものを使用することが好ましい。炭素含有層を形成する際の反応ガスの一つである炭化水素ガスとしては、例えば、メタン(CH)、エタン(C)、エチレン(C)、アセチレン(C)などが用いられる。なお、無機層と炭素含有層とで蒸着源(蒸着材料)が異なっていてもかまわないが、無機層と炭素含有層との密着性を高くするために同一の蒸着材料を用いることが好ましい。
【0026】
無機層および炭素含有層の厚みは各層で30〜300nmであることが好ましい。ガスバリア性、蒸着時間、層の内部応力を考慮して、各層の厚みは50〜200nmであることがより好ましい。また透明ガスバリア層全体の厚みは、層の内部応力を考慮して、800nm以下であることが好ましく、より好ましくは200〜500nmの範囲である。
【0027】
また樹脂基板の材質は、透明であれば制限はなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニルサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデンなどがあげられる。また、前記樹脂基板の厚みは、20〜200μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは50〜150μmの範囲である。
【0028】
前記蒸着材料を蒸発させる手段としては、抵抗加熱、電子ビーム、アーク放電プラズマのいずれかを蒸着材料(蒸着源)に導入する方法を用いることができる。中でも、高速蒸着が可能である電子ビームあるいはアーク放電プラズマによる方法であることが好ましい。これらの方法は、併用してもよい。
【0029】
前記透明ガスバリアフィルムは、バッチ方式でも連続生産方式(Roll−to−roll方式)でも製造することができる。
【0030】
図1に、本発明における透明ガスバリアフィルムをバッチ生産方式で製造する装置の構成の一例を示す。図示のとおり、この製造装置100は、真空槽1、圧力勾配型プラズマガン2、反射電極5、収束電極6、蒸着源7、放電ガス供給手段11、反応ガス供給手段12、真空ポンプ20を主要な構成部材として有する。真空槽1内には、基板加熱ヒータ13が配置され、前記基板加熱ヒータ13に樹脂基板(例えば、透明樹脂フィルム)3が設置されている。蒸着源7は、基板加熱ヒータ13と対向するように、真空槽1の底部に設置されている。蒸着源7の上面には、蒸着材料8が装着されている。前記真空ポンプ20は、前記真空槽1の側壁(同図においては、右側側壁)に配置されており、これにより、前記真空槽1内を減圧することが可能となっている。前記放電ガス供給手段11および前記反応ガス供給手段12は、前記真空槽1の側壁(同図においては、右側側壁)に配置されている。前記放電ガス供給手段11は、放電ガス用ガスボンベ21に接続されており、これにより、適度な圧力の放電ガス(例えば、アルゴンガス)を、前記真空槽1内に供給することが可能となっている。前記反応ガス供給手段12は、反応ガス用ガスボンベ22に接続されており、これにより、適度な圧力の反応ガス(例えば、酸素ガス、窒素ガス、メタンガス)を、前記真空槽1内に供給することが可能となっている。基板加熱ヒータ13には、温度制御手段(図示せず)が接続されている。これにより、基板加熱ヒータ13の表面温度を調整することで、樹脂基板13の温度を、所定の範囲とすることが可能となっている。前記温度制御手段としては、例えば、シリコーンオイル等を循環する熱媒循環装置等があげられる。
【0031】
図1に示す製造装置を使用した場合の製造プロセスの一例は、次のとおりである。真空槽1内を10−3Pa以下に排気した後、アーク放電プラズマ発生源である圧力勾配型プラズマガン2に、放電ガス供給手段11から放電ガスとしてアルゴンを導入し、一定電圧を印加して、樹脂基板3が曝されるようにプラズマビーム4を反射電極5に向かって照射する。プラズマビーム4は収束電極6によって一定の形状になるよう制御される。アーク放電プラズマの出力は、例えば、1〜10kWである。一方、反応ガス供給手段12から反応ガスを導入する。また、蒸着源7に設置した蒸着材料8に電子ビーム9を照射し基板3に向かって材料を蒸発させる。反応ガスが存在する状態で、蒸着を行い、基板3上に所定の透明ガスバリア層を形成させる。透明ガスバリア層の形成速度(蒸着速度)は基板3付近に設置した水晶モニター10によって計測、制御される。この工程を繰り返し、所定の積層体を形成させる。蒸発開始から蒸着速度が安定化するまでの間は、基板3を覆うシャッター(図示せず)を閉じておき、蒸着速度が安定してから前記シャッターを開けて、透明ガスバリア層の形成を行うことが好ましい。このとき系内圧力は、例えば、0.01Pa〜0.1Paの範囲内であり、0.02Pa〜0.05Paの範囲内であることが好ましい。また、基板温度は、例えば、20℃〜200℃の範囲内であり、80℃〜150℃の範囲内であることが好ましい。なお、前記アーク放電プラズマの発生と反応ガスの導入は同時または前後してもよく、反応ガス導入と前記プラズマ発生を同時に行ってもよいし、反応ガス導入後に前記プラズマを発生させてもよく、前記プラズマ発生後に反応ガスを導入してもよい。反応ガスは、透明ガスバリア層形成時に系内に存在すればよい。
【0032】
図2に、本発明の透明ガスバリア層を連続生産方式で製造する装置の構成の一例を示す。連続生産方式は、前記透明ガスバリア層形成時に真空槽内において、前記透明樹脂フィルムをロールにより連続的に搬送しながら、前記透明樹脂フィルムの上に前記透明ガスバリア層を形成する方式である。図2において、図1と同一部分には、同一符号を付している。図示のとおり、基板加熱ヒータ13に代えて、真空槽31内に、巻出ロール33a、キャンロール35、巻取ロール33b、および二つの補助ロール34a、34bが配置されている。巻出ロール33aから、巻取ロール33bにわたり、キャンロール35および二つの補助ロール34a、34bを介して、透明樹脂フィルム32が掛け渡されている。これら以外は、図1と同様の構成である。キャンロール35には、温度制御手段(図示せず)が接続されている。前記温度制御手段としては、基板加熱ヒータ13の場合と同様のものがあげられる。
【0033】
本装置による連続生産は、フィルムを連続して装置内に導入し、フィルムを移動させながら反応ガスの存在下でアーク放電プラズマビームに曝して蒸着を行い、連続して透明ガスバリア層を形成すること以外は、バッチ生産方式で製造する装置と同様に実施できる。
【0034】
本発明の有機EL素子は、基板上に、陽極層、有機発光層および陰極層が、この順序で設けられた積層体を有するものであって、前記基板が本発明の透明ガスバリアフィルムであることを特徴とする。前記陽極層としては、例えば、透明電極層として使用できる、ITO(Indium Tin Oxide)やIZO(登録商標、Indium Zinc Oxide)の層が形成される。前記有機発光層は、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層からなる。陰極層としては、反射層を兼ねてアルミニウム層、マグネシウム/アルミニウム層、マグネシウム/銀層等が形成される。この積層体を大気に曝さないようにこの上から金属、ガラス、樹脂等により封止を行う。
【0035】
本発明の有機EL素子は、前記積層体の少なくとも一部が、さらに本発明の透明ガスバリアフィルムで被覆されていてもよい。すなわち、本発明の透明ガスバリアフィルムは有機EL素子の背面封止部材としても適用可能である。この場合、本透明ガスバリアフィルムを前記積層体上に接着剤を用いて、または、ヒートシールなどにより設置することで十分に封止性を保つことが可能である。
【0036】
有機EL素子の基板として、本発明の透明ガスバリアフィルムを用いると、有機EL素子の軽量化、薄型化および柔軟化が可能となる。したがって、ディスプレイとしての有機EL素子はフレキシブルなものとなり、これを丸めるなどして、電子ペーパーのように使用することも可能となる。また、本発明の透明ガスバリアフィルムを背面封止部材として用いると、被覆が容易であり、また、有機EL素子の薄型化も可能となる。
【0037】
本発明の太陽電池は、太陽電池セルを含み、前記太陽電池セルが、前記本発明の透明ガスバリアフィルムで被覆されている。前記本発明の透明ガスバリアフィルムは、太陽電池の受光側フロントシートおよび保護用バックシートとしても好適に使用できる。太陽電池の構造の一例としては、薄膜シリコンやCIGS(Copper Indium Gallium DiSelenide)薄膜により形成した太陽電池セルを、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の樹脂により封止し、さらに本発明の透明ガスバリアフィルムにより挟み込むことで構成されるものがあげられる。前記樹脂による封止をせずに、本発明の透明ガスバリアフィルムで直接挟み込んでもよい。
【0038】
本発明の薄膜電池は、集電層、陽極層、固体電解質層、陰極層および集電層が、この順序で設けられた積層体を有する薄膜電池であって、前記積層体が、前記本発明の透明ガスバリアフィルムで被覆されている。薄膜電池としては、薄膜リチウムイオン電池などがあげられる。前記薄膜電池としては、基板上に金属を用いた集電層、金属無機層を用いた陽極層、固体電解質層、陰極層、金属を用いた集電層を順次積層させた構成が代表的である。前記本発明の透明ガスバリアフィルムは薄膜電池の基板としても使用することができる。
【実施例】
【0039】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例によってなんら限定ないし制限されない。また、各実施例および各比較例における各種特性および物性の測定および評価は、下記の方法により実施した。
【0040】
(水蒸気透過速度)
水蒸気透過速度(WVTR)は、JIS K7126に規定される水蒸気透過速度測定装置(MOCON社製、商品名PERMATRAN)にて、温度40℃、湿度90%RHの環境下で測定した。なお、前記水蒸気透過率測定装置の測定範囲は0.01g・m−2・day−1以上である。
【0041】
(光線透過率)
光線(可視光)透過率は、株式会社日立製作所製のUV−可視光分光光度計(商品名:U4000)を使用して測定し、550nmの透過率で表した。
【0042】
(透明ガスバリア層の厚み)
透明ガスバリア層の厚みは、透明ガスバリアフィルムの断面を、株式会社日立製作所製の透過型電子顕微鏡(TEM、商品名:HF−2000)にて観察し、基板(フィルム)表面から透明ガスバリア層表面までの長さを測長し、算出した。
【0043】
[実施例1]
〔透明樹脂フィルムの準備〕
透明樹脂フィルム(樹脂基板)として、帝人デュポンフィルム社製のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み100μm)を準備した。
【0044】
〔透明ガスバリア層形成工程〕
(第1層)炭素含有層
つぎに、前記ポリエチレンテレフタレートフィルムを、図1に示す製造装置に装着した。圧力勾配型プラズマガン内にアルゴンガス20sccm(20×1.69×10−3Pa・m/秒)を導入し、前記プラズマガン内の陰極に10kWの放電出力を印加しアーク放電プラズマを発生させた。反応ガスとしてメタンガス(純度99.9%)を18sccm(18×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で真空槽内に導入し、この状態で、蒸着材料である一酸化ケイ素(純度99%)を電子ビーム(加速電圧 6kV、印加電流 50mA)により蒸着速度100nm/minとなるように蒸発させて、基板上に酸化炭化ケイ素(以下SiOC)層を厚み100nmとなるように蒸着した。このとき系内圧力が2.0×10−2Paで、基板加熱ヒータ温度は100℃とした。
【0045】
(第2層)無機層
圧力勾配型プラズマガン内にアルゴンガス20sccm(20×1.69×10−3Pa・m/秒)を導入し、前記プラズマガン内の陰極に10kWの放電出力を印加しアーク放電プラズマを発生させた。反応ガスとして窒素ガス(純度99.9%)を20sccm(20×1.69×10−3Pa・m/秒)の流量で真空槽内に導入し、この状態で、蒸着材料である一酸化ケイ素(純度99%)を電子ビーム(加速電圧 6kV、印加電流 50mA)により蒸着速度100nm/minとなるように蒸発させて、前記第1層形成後の基板上に、さらに酸化窒化ケイ素(以下SiON)層を厚み100nmとなるように蒸着した。このとき系内圧力が2.0×10−2Paで、基板加熱ヒータ温度は100℃とした。
【0046】
[実施例2]
基板上に形成される透明ガスバリア層が、第1層をSiON層、第2層をSiOC層とした他は、実施例1と同様にして、本実施例の透明ガスバリアフィルムを得た。
【0047】
[実施例3]
基板上に形成される透明ガスバリア層が、第1層をSiON層、第2層をSiOC層、第3層をSiON層とした他は、実施例1と同様にして、本実施例の透明ガスバリアフィルムを得た。
【0048】
[実施例4]
基板上に形成される透明ガスバリア層が、第1層をSiOC層、第2層をSiON層、第3層をSiOC層とした他は、実施例1と同様にして、本実施例の透明ガスバリアフィルムを得た。
【0049】
[比較例1]
基板上に形成される透明ガスバリア層が、SiON層の一層のみとした他は、実施例1と同様にして、本比較例の透明ガスバリアフィルムを得た。
【0050】
[比較例2]
基板上に形成される透明ガスバリア層が、第1層および第2層をSiON層とした他は、実施例1と同様にして、本比較例の透明ガスバリアフィルムを得た。
【0051】
[比較例3]
基板上に形成される透明ガスバリア層が、第1層から第3層を全てSiON層とした他は、実施例1と同様にして、本比較例の透明ガスバリアフィルムを得た。
【0052】
[比較例4]
基板上に形成される透明ガスバリア層が、SiOC層の一層のみとした他は、実施例1と同様にして、本比較例の透明ガスバリアフィルムを得た。
【0053】
[比較例5]
基板上に形成される透明ガスバリア層が、第1層および第2層をSiOC層とした他は、実施例1と同様にして、本比較例の透明ガスバリアフィルムを得た。
【0054】
[比較例6]
基板上に形成される透明ガスバリア層が、第1層から第3層を全てSiOC層とした他は、実施例1と同様にして、本比較例の透明ガスバリアフィルムを得た。
【0055】
実施例1〜4および比較例1〜6で得られた透明ガスバリアフィルムについて、水蒸気透過速度(WVTR)および550nmの波長における光線透過率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
前記表1に示すとおり、実施例で得られた透明ガスバリアフィルムは、比較例の透明ガスバリアフィルムに比べて良好なガスバリア性を有している。特に、実施例3および4においては、水蒸気透過速度の検出限界以下の、良好なガスバリア性を有している。また、無機層が第一層として形成されている実施例2は、炭素含有層が第一層として形成されている実施例1と比べて、水蒸気透過率が小さく、良好なガスバリア性を有している。また、実施例の透明ガスバリアフィルムは、積層数(層の厚み)が少なくても、良好なガスバリア性を有していることがわかる。例えば、積層数が2である実施例1および2の透明ガスバリアフィルムは、積層数が3である比較例3および6の透明ガスバリアフィルムよりも、水蒸気透過速度が小さい値となっている。SiOC層(炭素含有層)のみ、または、SiON層(無機層)のみを積層した透明ガスバリアフィルムにおいても、積層の数を増やすことで、バリア性(水蒸気透過速度)は向上しているが(比較例4〜6、比較例1〜3)、実施例1〜4のようにSiOC層およびSiON層を積層した積層透明ガスバリア層を用いることで、ガスバリア性が著しく高く、透明性にも優れた透明ガスバリアフィルムが得られていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の透明ガスバリアフィルムは、積層数が少なくても高いガスバリア性を有している。また、本発明の透明ガスバリアフィルムの製造方法によれば、高いガスバリア性を有する透明ガスバリアフィルムを同一真空槽内において同一形成プロセスで効率よく製造することができる。本発明の透明ガスバリアフィルムは、例えば有機EL表示装置、フィールドエミッション表示装置ないし液晶表示装置等の各種の表示装置(ディスプレイ)、太陽電池、薄膜電池、電気二重層コンデンサ等の各種の電気素子・電気素子の基板ないし封止材料等として使用することができ、その用途は限定されず、前述の用途に加えあらゆる分野で使用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1、31 真空槽
2 圧力勾配型プラズマガン(アーク放電プラズマ発生源)
3 樹脂基板
4 プラズマビーム
5 反射電極
6 収束電極
7 蒸着源
8 蒸着材料
9 電子ビーム
10 水晶モニター
11 放電ガス供給手段
12 反応ガス供給手段
13 基板加熱ヒータ
20 真空ポンプ
21 放電ガス用ガスボンベ
22 反応ガス用ガスボンベ
32 透明樹脂フィルム
33a 巻出ロール
33b 巻取ロール
34a、34b 補助ロール
35 キャンロール
100、200 製造装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板上にガスバリア性を有する透明ガスバリア層が形成された透明ガスバリアフィルムであって、
前記透明ガスバリア層が、無機層と炭素含有層とを積層した積層透明ガスバリア層であり、
前記無機層が、アーク放電プラズマを用いた蒸着法により形成され、かつ、金属および半金属の少なくとも一方と、酸素および窒素の少なくとも一方とを含む層であり、
前記炭素含有層が、アーク放電プラズマを用いた蒸着法により形成され、かつ、金属および半金属の少なくとも一方と炭素とを含む層であることを特徴とする透明ガスバリアフィルム。
【請求項2】
前記炭素含有層が、さらに酸素を含むことを特徴とする請求項1記載の透明ガスバリアフィルム。
【請求項3】
樹脂基板上にガスバリア性を有する透明ガスバリア層を形成する透明ガスバリアフィルムの製造方法であって、
アーク放電プラズマを発生させ、酸素ガス、窒素ガスおよび酸素窒素混合ガスの少なくとも一種を含む反応ガスの存在下で、金属、半金属、金属若しくは半金属の酸化物、または金属若しくは半金属の窒化物の少なくとも一種を基板に蒸着させて無機層を形成する無機層形成工程と、
アーク放電プラズマを発生させ、炭化水素ガスおよび酸素炭化水素混合ガスの少なくとも一種を含む反応ガスの存在下で、金属、半金属、金属若しくは半金属の酸化物、または金属若しくは半金属の窒化物の少なくとも一種を基板に蒸着させて炭素含有層を形成する炭素含有層形成工程と、
を有することを特徴とする透明ガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の透明ガスバリアフィルムの製造方法によって製造されたことを特徴とする透明ガスバリアフィルム。
【請求項5】
基板上に、陽極層、有機発光層および陰極層が、この順序で設けられた積層体を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記基板が、請求項1、2または4記載の透明ガスバリアフィルムであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記積層体の少なくとも一部が、さらに請求項1、2または4記載の透明ガスバリアフィルムで被覆されていることを特徴とする、請求項5記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
太陽電池セルを含む太陽電池であって、前記太陽電池セルが、請求項1、2または4記載の透明ガスバリアフィルムで被覆されていることを特徴とする太陽電池。
【請求項8】
集電層、陽極層、固体電解質層、陰極層および集電層が、この順序で設けられた積層体を有する薄膜電池であって、前記積層体が、請求項1、2または4記載の透明ガスバリアフィルムで被覆されていることを特徴とする薄膜電池。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−179763(P2012−179763A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43285(P2011−43285)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】