説明

透明導電性基材

【課題】基材と透明導電膜の間の界面での可視光の反射率が低下し、透明性及び導電性に優れたより実用的な透明導電性基材を提供すること。
【解決手段】基材、反射防止膜及び透明導電膜が、この順で積層されてなる透明導電性基材であって、前記反射防止膜がアルミドープ酸化亜鉛からなり、かつ原子間力顕微鏡による前記反射防止膜の平均面粗さ(Ra)が1.0nm以下であることを特徴とする透明導電性基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材と反射防止膜と透明導電膜からなる層構造を含む透明導電性基材に関し、特に、透明性及び導電性に優れた、反射防止膜を有する透明導電性基材に関する。
【背景技術】
【0002】
スズをドープした酸化インジウム膜(ITOと称す)やフッ素をドープした酸化スズ膜(FTOと称す)、アンチモンをドープした酸化スズ膜(ATOと称す)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛膜、インジウムをドープした酸化亜鉛膜はその優れた透明性と導電性を利用して、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、面発熱体、タッチパネルの電極、太陽電池の電極等に広く使用されている。しかし、ITO、FTO、ATO、酸化亜鉛膜等の透明導電膜は、いずれも屈折率が基板ガラスの屈折率(ソーダライムガラスでは1.52)に比べて割合高い(1.7〜2.2)ため、透明導電膜と基板ガラスの間の界面での可視光の反射が大きくなり、可視光透過率が低下してしまう。透明導電膜の膜厚を均一に薄くすることにより、可視光の透過率をある程度上昇させることは可能であるが、薄くし過ぎると膜の抵抗値の安定性が悪くなるため、あまり実用的ではない。
【0003】
導電膜の膜厚を薄くしないで可視光の透過率を上昇させる方法として多層膜化が知られている。多層膜化には、例えば、導電膜とガラス基板の間に高屈折率の膜と低屈折率の膜を新たに設ける方法や、導電膜上に低屈折率の膜を設ける反射防止の理論の応用で達成されることが示されている(非特許文献1参照)。この理論を利用した考案として、特許文献1には、「硝子上に、透明導電膜を真空蒸着で被覆した被覆硝子において、先ず硝子上に導電膜の裏面反射防止膜を被覆し、その上に透明導電膜を被覆したことを特徴とする透過率のすぐれた透明導電膜被覆硝子」が記載されている。また、特許文献1には、酸化スズや酸化インジウムを用いた透明導電膜の屈折率が2.0〜2.1と高いため、屈折率1.50〜1.52の通常の硝子に被覆した場合、反射率が上がり、透過率が下がるという現象が起こること、及び硝子と透明導電膜の間に屈折率1.60〜1.80の透明膜を設けることによって反射を低下させて透明性を向上させることができることが記載されている。しかし、屈折率1.60〜1.80の透明膜の具体的な組成については何ら記載されていない。
【0004】
一方、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(以下、「アルミドープ酸化亜鉛」という)を透明導電膜として用い得ることは知られているが(特許文献2参照)、それを反射防止膜として用いることは知られていなかった。また、特許文献2の従来技術における「スズを数%ドープした酸化インジウムからなる厚さ50〜1000nmの薄膜」との記載から分かるように、ある金属化合物をドープした金属酸化物を透明導電膜として用いる場合、それにドープする金属化合物はドープされる金属酸化物に対してせいぜい1〜3質量%、多くとも5質量%程度であった。
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3020193号公報
【特許文献2】特開2003−323818号公報
【非特許文献1】金原、藤原著 「応用物理学選書3 薄膜」、裳華房、1979年6月出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術における問題点に鑑みてなされたもので、基材と透明導電膜の間の界面での可視光の反射率が低下し、透明性及び導電性に優れたより実用的な透明導電性基材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、基材と透明導電膜の間の反射防止膜として、アルミドープ酸化亜鉛からなる膜を用いることにより、基材と透明導電膜の間の界面での可視光の反射率が低下し、透明性及び導電性に優れた透明導電性基材が実際に得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、(1)基材、反射防止膜及び透明導電膜が、この順で積層されてなる透明導電性基材であって、前記反射防止膜がアルミドープ酸化亜鉛からなり、かつ原子間力顕微鏡による前記反射防止膜の平均面粗さ(Ra)が1.0nm以下であることを特徴とする透明導電性基材や、(2)反射防止膜中のアルミニウムの含有率が、反射防止膜中の亜鉛に対して140原子%以上であることを特徴とする上記(1)に記載の透明導電性基材や、(3)660nmの波長の光を用いて測定した反射防止膜の屈折率が、1.6〜1.9の範囲内であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の透明導電性基材や、(4)原子間力顕微鏡による反射防止膜の平均面粗さ(Ra)が0.6nm以下であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の透明導電性基材や、(5)基材が、550nmの波長の光の透過率が90%以上のガラスであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の透明導電性基材や、(6)透明導電膜が、スズドープ酸化インジウム膜であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の透明導電性基材に関する。
【0009】
また本発明は、(7)ガラス、反射防止膜、透明導電膜、空気層、透明導電膜が、この順で積層されてなるタッチパネルであって、前記反射防止膜がアルミドープ酸化亜鉛からなり、かつ原子間力顕微鏡による前記反射防止膜の平均面粗さ(Ra)が1.0nm以下であることを特徴とするタッチパネルに関する。
【0010】
さらに本発明は、(8)ガラス、反射防止膜、透明導電膜、配向膜、液晶、配向膜、透明導電膜、反射防止膜及びガラスが、この順で積層されてなる液晶パネルであって、前記反射防止膜がアルミドープ酸化亜鉛からなり、かつ原子間力顕微鏡による前記反射防止膜の平均面粗さ(Ra)が1.0nm以下であることを特徴とする液晶パネルに関する。
【0011】
またさらに本発明は、(9)アルミニウムと亜鉛とを含む反射防止膜形成用溶液であって、アルミニウム含有量が亜鉛に対して10〜70原子%であることを特徴とする反射防止膜形成液に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の透明導電性基材は、基材と透明導電膜の間に存在する界面での可視光の反射率が低下した結果、透明性及び導電性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0014】
本発明の透明導電性基材は、基材、反射防止膜及び透明導電膜が、この順で積層されてなる透明導電性基材であって、前記反射防止膜がアルミドープ酸化亜鉛からなり、かつ原子間力顕微鏡による前記反射防止膜の平均面粗さが1.0nm以下であることを特徴とする。このような反射防止膜を用いることにより、基材と透明導電膜との間の界面での可視光の反射率が低下し、透明性及び導電性に優れた透明導電性基材が得られる
【0015】
本発明の反射防止膜は、アルミドープ酸化亜鉛からなり、かつ原子間力顕微鏡(AFM)による平均面粗さ(Ra)が1.0nm以下であることを特徴とする。反射防止膜の平均面粗さが大きくなると、透明導電膜等との接触が悪化することにより、反射防止膜と透明導電膜等との間の導電性が低下する一方、透明導電膜表面での光の反射率も増加して透明性も低下する。本発明における反射防止膜は前述したように極めて優れた平滑性を有しているため、本発明の透明導電性基材においては優れた透明性及び導電性が得られる。平均面粗さとは、基準面(指定面の高さの平均値となるフラット面)から指定面までの偏差の絶対値を平均した値であり、次式で算出される。
【0016】
Ra=1/S0∬|F(X,Y)−Z0|dXdY
ここで、S0は基準面の面積、Z0は基準面の高さ、F(X,Y)は座標(X,Y)における指定面の高さを表す。Raを算出するために必要な測定値は、例えばNanopics(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)等の原子間力顕微鏡を用いて測定することができる。本発明における平均面粗さの数値は、対象となる膜表面の縦4μm×横4μmの任意の範囲における平均面粗さを意味する。
【0017】
本発明の反射防止膜の平均面粗さは1.0nm以下であればよいが、0.6nm以下であることが好ましい。これにより、透明性及び導電性により優れた透明導電性基材を得ることができる。
【0018】
また、本発明の反射防止膜は、アルミドープ酸化亜鉛からなり、かつ原子間力顕微鏡による前記反射防止膜の平均面粗さが1.0nm以下である限り、反射膜表面の最大高低差は特に制限されない。反射膜表面の最大高低差は、例えばNanopics(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)等の原子間力顕微鏡を用いて測定することができる。本発明における最大高低差(nm)とは、対象となる膜表面の縦4μm×横4μmの任意の範囲における最大高低差(nm)を意味する。
【0019】
反射防止膜の平均面粗さが1.0nm以下である限り、本発明の反射防止膜中の亜鉛に対するアルミニウムの含有量は特に制限されないが、反射防止膜中の亜鉛に対して140原子%以上であることが好ましく、150原子%以上であることがより好ましく、150〜300原子%の範囲内であることがさらに好ましい。反射防止膜中の亜鉛に対する反射防止膜中のアルミニウムの含有量がこのような範囲内の反射防止膜は、平均面粗さがより低いため、透明性及び導電性により優れた透明導電性基材を得ることができる。
【0020】
本発明の反射防止膜は、660nmの波長の光を用いて測定した屈折率が通常1.6〜1.9である。後述の実施例に記載された実験結果から分かるように、反射防止膜中の亜鉛に対するアルミニウムの含有量(原子%)が上昇すると、屈折率が低下する傾向があるため、アルミニウムの含有量を調節すること等で望ましい屈折率の反射防止膜を得ることができる。本発明における屈折率は、例えばSE800(SENTECH社製)等の分光エリプソメーターを用いて測定することができる。
【0021】
本発明における反射防止膜の膜厚は特に制限されず、透明導電膜の膜厚に合わせて適宜選択することができるが、例えば30〜500nm、好ましくは30〜300nmとすることができる。本発明における膜厚は、例えばSE800(SENTECH社製)等の分光エリプソメーターを用いて測定することができる。
【0022】
本発明の反射防止膜の製造方法は、アルミドープ酸化亜鉛からなり、かつ原子間力顕微鏡による前記反射防止膜の平均面粗さ(Ra)が1.0nm以下の膜を形成し得る方法である限り特に制限されない。例えば、アルミドープ酸化亜鉛膜が得られる限り、用いるアルミニウム化合物や亜鉛化合物の種類は特に制限されず、アルミニウム化合物又は亜鉛化合物のいずれかを2種以上用いてもよいし、アルミニウム化合物及び亜鉛化合物をそれぞれ2種以上用いてもよい。
【0023】
本発明の反射防止膜の製造方法として、具体的には、例えばスパッター法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、化学気相成膜法(CVD法)、パイロゾル法等の一般的な成膜方法を用いることができる。スパッター法によれば、例えば亜鉛とアルミニウムとの混合物を酸素ガス存在下で焼結させたもの等をターゲットとして用いることにより、アルミドープ酸化亜鉛からなる反射防止膜を成膜することができる。また、電子ビーム法やイオンプレーテイング法によれば、例えば亜鉛とアルミニウムとの混合物を酸素ガス存在下で焼結させたもの等を蒸発物質として用いることにより、アルミドープ酸化亜鉛からなる反射防止膜を成膜することができる。また、化学気相成膜法やパイロゾル法によれば、例えば亜鉛とアルミニウムを含有する有機溶媒溶液(反射防止膜形成液)等を蒸発物として用いることにより、アルミドープ酸化亜鉛からなる反射防止膜を成膜することができる。なお、用いる亜鉛に対するアルミニウムの量を増加させると、得られる反射防止膜の平均面粗さが低下する傾向がある。このような傾向を利用すれば、例示した上記方法を用いた場合はもちろんのこと他の成膜方法を用いた場合であっても、用いる亜鉛に対するアルミニウムの量や、成膜時の温度、膜厚等を適宜調節することにより、平均面粗さが1.0nm以下の本発明の反射防止膜が容易に得られる。例えばパイロゾル法の場合、例えば、亜鉛に対して10〜70原子%、好ましくは40〜70原子%のアルミニウムを含む有機溶媒溶液を蒸発物とし、成膜温度を300〜550℃の範囲内で適宜調節して成膜することにより、平均面粗さが1.0nm以下の好適な反射防止膜が得られる。
【0024】
化学気相成膜法(CVD法)、パイロゾル法等で用いる蒸発物中の有機溶媒溶液としては、アルミドープ酸化亜鉛が成膜を妨げない限り特に制限はないが、アセトン、アセチルアセトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、メチルセルソルブ、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類等を例示することができ、中でもβ−ジケトン類化合物を特に特に好ましく例示することができる。
【0025】
本発明の基材は、550nmの波長の光の透過率が70%以上であれば特に制限はなく、任意の材質、形状、付加的構成をとることができる。具体的な材質は特に制限されないが、アルカリガラス、石英ガラス等のガラス、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート等のポリエステル、ポリエーテルスルホン系樹脂、アモルファスポリオレフィン、ポリスチレン、アクリル樹脂等を例示することができ、中でもガラスを好ましく例示することができる。これらの材質は、最終的に用いる製品の用途に応じて最適なものを適宜選択することができる。また、形状についても、板状、フィルム状、シート状等、最終的に用いる製品の用途に応じて最適なものを適宜選択することができる。付加的構成として、例えば本発明の反射防止膜以外の反射防止膜を、本発明の反射防止膜と反対側の基材表面にさらに有していてもよいし、また、基材中から基材成分の移行を抑制する処理が施されていてもよい。
【0026】
本発明における透明導電膜として、具体的には、スズドープ酸化インジウム膜(ITO膜)、フッ素ドープ酸化スズ膜(FTO膜)、アンチモンドープ酸化亜鉛膜及びインジウムドープ酸化亜鉛膜等を好ましく例示することができる。これらの透明導電膜を成膜する方法として、例えば、上述したようなスパッター法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、化学気相成膜法(CVD法)、パイロゾル法等の一般的な成膜方法を用いることができる。
【0027】
本発明の透明導電性基材は、本発明の基材、反射防止膜及び透明導電膜のみをこの順で有していてもよいが、本発明の透明導電性基材の透明性及び導電性を損なわない限り、基材、反射防止膜及び透明導電膜以外に任意の構成を有していてもよい。そのような構成として、例えば、反射防止膜と反対側の透明導電膜表面にさらに1層又は2層以上のコーティング層を有していてもよいし、反射防止膜と透明導電膜の間にさらに1層又は2層以上の中間層を有していてもよいし、基材と反射防止膜の間にさらに1層又は2層以上の中間層を有していてもよいし、反射防止膜と反対側の基材表面にさらに1層又は2層以上のコーティング層を有していてもよい。これらのコーティング層、中間層は、その組成、厚さ、機能、用途には一切制限はない。コーティング層、中間層の具体例としては、反射防止膜、カラーフィルター、配向膜、液晶膜等が挙げられる。また、本発明の透明導電性基材はいずれかの部分に1層又は2層以上の空気層を有していてもよい。また、本発明の透明導電性基材は、本発明の基材、反射防止膜及び透明導電膜をこの順でそれぞれ1層ずつ有していればよいが、本発明の基材、反射防止膜及び透明導電膜のいずれか1つ又は2つ以上を2層以上有していてもよい。例えば、本発明の基材、反射防止膜及び透明導電膜を、基材、反射防止膜、透明導電膜、反射防止膜の順で有するものや、透明導電膜、反射防止膜、基材、反射防止膜、透明導電膜の順で有するものも、本発明の透明導電性基材に含まれる。
【0028】
本発明の基材、反射防止膜及び透明導電膜以外に任意の構成を有している本発明の透明導電性基材として、例えば、タッチパネル、液晶パネルが挙げられる。本発明のタッチパネルは、ガラス、反射防止膜、透明導電膜、空気層、透明導電膜が、この順で積層されてなるタッチパネルであって、前記反射防止膜がアルミドープ酸化亜鉛からなり、かつ原子間力顕微鏡による前記反射防止膜の平均面粗さ(Ra)が1.0nm以下である限り特に制限されない。本発明のタッチパネルは、透明性及び導電性に優れている。本発明のタッチパネルにおける反射防止膜及び透明導電膜については上述したものと同様である。
【0029】
本発明のタッチパネルにおけるガラスは、550nmの波長の光の透過率が70%以上であれば特に制限はなく、アルカリガラス、石英ガラス等のいずれの種類のガラスも含まれる。本発明のタッチパネルに用いるガラスにおける、550nmの波長の光の透過率は70%以上であれば特に制限はないが、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、98%以上であることが最も好ましい。
【0030】
本発明のタッチパネルは、上述のガラス、反射防止膜、透明導電膜、空気層、透明導電膜が、この順で積層されている限り、他に任意の構成を有していてもよい。例えば、ガラス、反射防止膜、透明導電膜、空気層、透明導電膜に加えて、それより上にフィルム層及び/又はハードコート膜等を有していてもよい。
【0031】
本発明の液晶パネルは、ガラス、反射防止膜、透明導電膜、配向膜、液晶、配向膜、透明導電膜、反射防止膜及びガラスが、この順で積層されてなる液晶パネルであって、前記反射防止膜がアルミドープ酸化亜鉛からなり、かつ原子間力顕微鏡による前記反射防止膜の平均面粗さ(Ra)が1.0nm以下である限り特に制限されない。本発明の液晶パネルにおける反射防止膜及び透明導電膜については上述したものと同様である。なお、ガラス、反射防止膜、透明導電膜、配向膜、液晶、配向膜、透明導電膜及びガラスが、この順で積層されてなる液晶パネルや、ガラス、透明導電膜、配向膜、液晶、配向膜、透明導電膜、反射防止膜及びガラスが、この順で積層されてなる液晶パネルも、本発明の液晶パネルに便宜上含まれる。
【0032】
本発明の液晶パネルにおけるガラスは、550nmの波長の光の透過率が70%以上であれば特に制限はなく、アルカリガラス、石英ガラス等のいずれの種類のガラスも含まれる。本発明の液晶パネルに用いるガラスにおける、550nmの波長の光の透過率は70%以上であれば特に制限はないが、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、98%以上であることが最も好ましい。
【0033】
本発明の液晶パネルの液晶における、550nmの波長の光の透過率は特に制限されない。本発明における液晶の種類は特に制限されないが、STN、TFT等を具体的に挙げることができる。
【0034】
本発明の液晶パネルは、例えば、カラーフィルタ等、他に任意の構成を有していてもよい。
【0035】
本発明の基材、反射防止膜及び透明導電膜における、550nmの波長の光の透過率はそれぞれ70%以上である限り、有色(有色透明)であってもよい。また、本発明の基材、反射防止膜及び透明導電膜は、550nmの波長の光の透過率が70%以上の部分を少なくとも一部にそれぞれ有している限り、該透過率が70%未満の部分を有していてもよい。
【0036】
本発明における反射防止膜は、従来から用いられてきたスズドープ酸化インジウム膜(ITO膜)、フッ素ドープ酸化スズ膜(FTO膜)、アンチモンドープ酸化亜鉛膜及びインジウムドープ酸化亜鉛膜等の透明導電膜より上及び/又は下に積層することにより、好適に用いることができる。得られた本発明の透明導電性基材は、透明性及び導電性に優れているため、光学素子やタッチパネル、液晶パネル等の、透明性及び導電性を必要とする用途に好適に用いることができる。
また、本発明の反射防止膜中の亜鉛に対するアルミニウムの含有量(原子%)を適宜調節することにより、上記のITO膜等以外の透明導電膜を用いる場合であっても、優れた透明性及び導電性を発揮する透明導電性基材を得ることができる。
【0037】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
(実施例1)基材−反射防止膜(アルミニウム50原子%、400℃で成膜)
0.2モル/Lのジンクアセチルアセトネートを含むアセチルアセトン溶液を用意した。該溶液中の亜鉛に対してアルミニウムが50原子%になるように、アルミニウムアセチルアセトネートを該溶液に加えて反射防止膜形成液を調製した。
次に、無アルカリガラス(OA−10)のガラス基板(300×300×0.5mm)を用意した。400℃に加熱したコンベアー炉の中にこのガラス基板をベルトコンベアーで投入し、該ガラス基板を400℃に加熱した。霧滴状にした前記反射防止膜形成液を、空気をキャリアガスとしてコンベアー炉の中に吹き込み、ガラス基板の表面に接触させて熱分解させることにより、膜厚46nmのアルミドープ酸化亜鉛膜(実施例1)を該ガラス基板上に形成させた。
【0039】
(実施例2)基材−反射防止膜(アルミニウム50原子%、450℃で成膜)
ガラス基板を加熱する温度を400℃ではなく450℃としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、アルミドープ酸化亜鉛膜(実施例2)を得た。
【0040】
(比較例1)基材−反射防止膜(アルミニウム50原子%、500℃で成膜)
ガラス基板を加熱する温度を400℃ではなく500℃としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、アルミドープ酸化亜鉛膜(比較例1)を得た。
【0041】
実施例1、実施例2及び比較例1のアルミドープ酸化亜鉛膜の平均面粗さRa及び最大高低差RP−Vを、原子間力顕微鏡(Nanopics:エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を用いてそれぞれ測定した。この結果を表1に示す。また、実施例1、実施例2及び比較例1のアルミドープ酸化亜鉛膜中の亜鉛に対するアルミニウム含有量〔原子(AT)%〕を、ESCA Q2000(アルバック・ファイ社製)を用いてそれぞれ測定した。この結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1の結果から、反射防止膜中のアルミニウムの含有量が増加するにつれて、平均面粗さRa及び最大高低差RP−Vの数値がそれぞれ減少する傾向が見られた。
【0044】
また、実施例1、実施例2及び比較例1のアルミドープ酸化亜鉛膜の屈折率及び膜厚を、分光エリプソメーター(SE800:SENTECH社製)を用いてそれぞれ測定した。その結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2の結果から、本発明の反射防止膜の屈折率は、1.6〜1.9の範囲内であった。
【0047】
(実施例3)基材−反射防止膜(400℃で成膜)−透明導電膜(ITO膜)
インジウムアセチルアセトナート(In(AcAc))をアセチルアセトンにモル濃度で0.2mol/Lになるように溶解して黄色透明溶液を得た。この溶液にSn/In=5質量%となるようにジ−n−ブチルスズジアセテートを加えてITO膜形成液を調製した。
このITO膜形成液を用いてパイロゾル法により、ITO膜形成液の霧化による化学的熱分解量を調整しながら、実施例1の反射防止膜上にITO膜を形成し、透明性導電性基材(実施例3)を得た。
【0048】
(実施例4)基材−反射防止膜(450℃で成膜)−透明導電膜(ITO膜)
実施例1の反射防止膜の代わりに、実施例2の反射防止膜を用いたこと以外は実施例3と同様の操作を行い、透明導電性基材(実施例4)を得た。
【0049】
(比較例2)基材−反射防止膜(500℃で成膜)−透明導電膜(ITO膜)
実施例1の反射防止膜の代わりに、比較例1の反射防止膜を用いたこと以外は実施例3と同様の操作を行い、透明導電性基材(比較例2)を得た。
【0050】
実施例3、実施例4及び比較例2の透明導電性基材のシート抵抗値(Ω/□)を測定した結果を表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
表3の結果から、本発明の反射防止膜(実施例3及び4)を用いた場合は、平均面粗さが1.0より大きい反射防止膜(比較例2)を用いた場合に比べて、シート抵抗値が低く、導電性に優れていることが分かる。また、平均面粗さがより小さい実施例3の透明導電性基材の方が、実施例4の透明導電性基材に比べてシート抵抗値が低いことから、反射防止膜を有する透明導電性基材においては、反射防止膜の平均面粗さが小さいほど、導電性により優れた透明導電性基材が得られることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、反射防止膜及び透明導電膜が、この順で積層されてなる透明導電性基材であって、前記反射防止膜がアルミドープ酸化亜鉛からなり、かつ原子間力顕微鏡による前記反射防止膜の平均面粗さ(Ra)が1.0nm以下であることを特徴とする透明導電性基材。
【請求項2】
反射防止膜中のアルミニウムの含有率が、反射防止膜中の亜鉛に対して140原子%以上であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電性基材。
【請求項3】
660nmの波長の光を用いて測定した反射防止膜の屈折率が、1.6〜1.9の範囲内であることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明導電性基材。
【請求項4】
原子間力顕微鏡による反射防止膜の平均面粗さ(Ra)が0.6nm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電性基材。
【請求項5】
基材が、550nmの波長の光の透過率が90%以上のガラスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の透明導電性基材。
【請求項6】
透明導電膜が、スズドープ酸化インジウム膜であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の透明導電性基材。
【請求項7】
ガラス、反射防止膜、透明導電膜、空気層、透明導電膜が、この順で積層されてなるタッチパネルであって、前記反射防止膜がアルミドープ酸化亜鉛からなり、かつ原子間力顕微鏡による前記反射防止膜の平均面粗さ(Ra)が1.0nm以下であることを特徴とするタッチパネル。
【請求項8】
ガラス、反射防止膜、透明導電膜、配向膜、液晶、配向膜、透明導電膜、反射防止膜及びガラスが、この順で積層されてなる液晶パネルであって、前記反射防止膜がアルミドープ酸化亜鉛からなり、かつ原子間力顕微鏡による前記反射防止膜の平均面粗さ(Ra)が1.0nm以下であることを特徴とする液晶パネル。
【請求項9】
アルミニウムと亜鉛とを含む反射防止膜形成用溶液であって、アルミニウム含有量が亜鉛に対して10〜70原子%であることを特徴とする反射防止膜形成液。

【公開番号】特開2007−109505(P2007−109505A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298763(P2005−298763)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】