説明

透明導電積層体とその製造方法及び透明導電積層体を用いたデバイス

平滑な基板1と、平滑な基板1上に塗布法により形成された透明導電層2と、透明導電層2上にパターン状に形成された補助電極層3と、透明導電層2及び補助電極層3に接着剤層4で接合された透明基材5とを備えた透明導電積層体であって、その平滑な基板1を剥離除去した後の透明導電層2の平滑な剥離面上に各種素子を形成して、色素増感型太陽電池や有機エレクトロルミネッセンス素子等のデバイスとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、色素増感型太陽電池や有機エレクトロルミネッセンス素子等のデバイスの透明電極部分に使用できる透明導電積層体と、その製造方法、及びその透明導電積層体を使用したデバイスに関するものである。
【背景技術】
近年、色素増感型太陽電池がグレッツェルらによって提案された(特表平5−504023号公報参照)。この色素増感型太陽電池は簡単なプロセスで製造できることや、構成材料が安価なことから、従来のシリコン系太陽電池に比べ低コスト化できる可能性が高く、実用化に向けて盛んに研究が行われている。
上記色素増感型太陽電池は、透明基材上に形成された透明電極、透明電極上に形成された酸化物半導体電極、酸化物半導体電極に吸着した色素、電解質、対電極によって構成され、色素を吸着した酸化物半導体電極と、それに対向して配置された対電極との間に電解質が充填されている。色素を吸着した酸化物半導体電極に太陽光等の可視光線があたると、酸化物半導体電極と対電極の間に電位差が生じ、両極間に電流を流すことが可能となる。
色素増感型太陽電池の透明電極としては、一般に、スパッタリング法等で形成されたインジウム錫酸化物(ITO)や、化学気相反応法(CVD法)で形成されたフッ素錫酸化物(FTO)が用いられている。また、酸化物半導体電極は微細な酸化チタン微粒子で構成され、色素にはルテニウム(Ru)ビピリジル錯体等のRu系色素が使用されている。対電極には白金(Pt)、カーボン等が用いられている。電解質としては、ヨウ素(I)及びヨウ化リチウム(LiI)等をアセトニトリル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ポリエチレングリコール(PEG)等の有機溶媒に溶解したヨウ素系電解質が用いられている。
ところで、上記した従来の透明電極は、スパッタリング法やCVD法等の物理的成膜方法によって形成され、その膜抵抗値は10Ω/□程度である。この程度の膜抵抗値の透明電極は、数ミリ角程度のサイズの色素増感型太陽電池においては十分適用することが可能であるが、サイズが10cm角又はそれ以上の色素増感型太陽電池になると、透明電極部分において電流がジュール熱として消費されるため、著しく発電効率が低下する。
従って、色素増感型太陽電池を実用的なサイズまで大型化するためには、透明電極の膜抵抗値を大幅に低下させること、少なくとも1Ω/□程度以下とすることが必要である。そのためには、例えば、単に透明電極の膜厚を厚くして膜抵抗値を低下させることも可能であるが、その場合には厚い膜厚によって光の透過率が大幅に低下し、発電効率も低下するため実用的でない。
そこで、第1図に示すように、透明基材5上に形成された透明電極層2の上に、例えば金属成分からなる補助電極層3をパターン状に形成することにより、膜抵抗値を低下させる方法が知られている。その補助電極層3の材料としては比抵抗値の小さい銀や銅が適しているが、色素増感型太陽電池の場合は電解質として用いるヨウ素系電解質が極めて腐食性が高いため、銀や銅はもとより、金ですら適用することができない。また、この補助電極層の腐蝕を防ぐため、透明導電層上の補助電極層を、酸化錫、酸化チタン等の保護薄膜で被覆する方法(特開2003−203683号公報参照)も提案されている。
しかし、このような補助電極層は、その機能を果たすためには数〜数十μmの膜厚が必要であるため、透明導電層上の素子(デバイス)が形成される側に数〜数十μmの凸部が生じることになり、素子の形成に著しい制約となる(例えば、パターン状の補助電極層が形成されてない部分にのみ素子を形成する等)。また、補助電極層の厚みの上限が素子の構造によって決まり、所定の値以下に制限される(例えば、色素増感型太陽電池では20μm以下)ため、透明電極の膜抵抗値の低下にも限界があった。更に、保護薄膜で補助電極層を被覆する場合、保護薄膜の抵抗値を所定以下に抑えて保護薄膜を通して補助電極層に電流が流れるようにするためには、保護薄膜の厚さを50nm程度以下に抑える必要があるため、素子の特性を悪化させずに十分な保護効果を達成することは難しかった。
このような色素増感型太陽電池の他にも、低抵抗の透明電極が求められるデバイスとして、ディスプレイや照明等に有望視されている有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と云う)がある。有機EL素子は、ITO等の透明電極上に、ホール注入層、ポリマー発光層、カソード電極層等を積層した自発光素子であって、液晶素子等の電圧駆動型素子ではなく、電流駆動型素子のため、素子の大型化のためには、その透明電極の膜抵抗値を大幅に低下させることが必須である。
そこで、上述の色素増感型太陽電池と同様に、透明電極層上に補助電極層をパターン状に形成して、膜抵抗値を低下させる方法が考えられる。しかし、この場合も色素増感型太陽電池の場合と同様に、補助電極層の形成に起因する凹凸によって、素子製造に関して著しい制約が生じるという問題があった。
更に、色素増感型太陽電池や有機EL素子に適用されている従来の透明導電層は、スパッタリング法やCVD法等の大型且つ高価な装置を必要とする成膜方法によって形成されているため、極めてコスト高になるうえ、プラスチックフィルム等の耐熱性の乏しい透明基材上に透明導電層を形成することが困難であるという問題もあった。
尚、上記スパッタリング法やCVD法等の透明導電層形成方法にかえて、ITO微粒子を分散させた透明導電層形成用塗布液をプラスチックフィルム上に塗布して透明導電層を形成する方法(塗布法)も提案されているが、得られる透明導電層の抵抗値が高く、色素増感型太陽電池等のデバイスに対して適用するには実用的と言えなかった。更に、この塗布法で得られる透明導電層の導電特性を向上させる方法として、透明導電層形成用塗布液をフィルム上に塗布・乾燥後にスチールロール等で圧延処理する方法(特開平4−237909号公報参照)も提案されているが、得られる透明導電層の抵抗値は数百Ω/□程度で依然として不十分であった。
【発明の開示】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、低温成膜可能な塗布法により形成することができ、透明電極層と補助電極層を備え、その透明導電層の表面が平滑で且つ極めて低抵抗な透明導電積層体、及びその透明導電積層体の製造方法、並びにその透明導電積層体が適用された低コストのデバイスを提供することを目的とするものである。
上記目的を達成するため、本発明が提供する透明導電積層体は、平滑な基板と、該平滑な基板上に塗布法により形成された透明導電層と、該透明導電層上にパターン状に形成された補助電極層と、該透明導電層及び補助電極層に接着剤層により接合された透明基材とを備え、前記平滑な基板が透明導電層から剥離可能であることを特徴とする。
また、本発明が提供する透明導電積層体の製造方法は、平滑な基板上に、溶媒中に導電性酸化物微粒子を分散させた透明導電層形成用塗布液を塗布・乾燥させて透明導電層を形成すると共に、該平滑な基板として透明導電層から剥離可能な基板を用い、該透明導電層上にパターン状に補助電極層を形成し、得られた補助電極層及び該補助電極層間に露出した透明導電層に、接着剤を用いて透明基材を接合することを特徴とする。
更に、本発明が提供するデバイスは、上記透明導電積層体から平滑な基板を剥離した後の、接着剤層により接合された透明導電層と補助電極層とを備える透明基材が組み込まれていることを特徴とするものである。
そして、本発明の透明導電積層体によれば、転写法の応用により、平滑な基板上に塗布法により形成された透明導電層及び補助電極層が透明基材に接着層を介して接合されていて、その平滑な基板が剥離除去可能であるため、平滑な基板を剥離した透明導電層の剥離面が十分に平滑となると共に、その透明導電層は補助電極層を有するため極めて優れた導電性を示す。従って、透明導電層の平滑な表面(剥離面)の上に、何ら制約なしに素子(デバイス)を形成できる。しかも、透明導電層及び補助電極層は塗布法等の低温成膜可能な手法により形成されるため、プラスチックフィルム等の耐熱性の乏しい透明基材も使用することができる。
また、本発明の透明導電積層体を適用したデバイス、例えば色素増感型太陽電池及び有機EL素子においては、透明導電層と補助電極層の組合せによって極めて低抵抗値が得られると共に、補助電極層が透明電極層と透明基材の間にあって、透明導電層の素子(デバイス)形成側の表面が極めて平滑で凹凸や突起が存在しないため、素子電極間で電気的短絡を生ずることがない。従って、極めて低抵抗の透明電極層を備え、低コストで、大面積化が可能な色素増感型太陽電池や有機EL素子等のデバイスを提供することができる。特に色素増感型太陽電池に適用する場合、補助電極が透明導電層を挟んで電解質と反対側にあるため、補助電極の腐蝕を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、従来の補助電極層と透明導電層を備える透明基材を示す概略の断面図である。
第2図は、本発明に係わる透明導電積層体の基本的構造を示す概略の断面図である。
第3図は、第2図の本発明に係わる透明導電積層体から平滑な基板を剥離した状態を示す概略の断面図である。
第4図は、本発明に係わる別な構造の透明導電積層体を示す概略の断面図である。
第5図は、本発明に係わる補助電極層のパターン形状の一例を示す概略の平面図である。
第6図は、本発明に係わる更に別な構造の透明導電積層体を示す概略の断面図である。
第7図は、第6図の本発明に係わる透明導電積層体の変形例を示す概略の断面図である。
第8図は、本発明に係わる色素増感型太陽電池を示す概略の断面図である。
第9図は、本発明に係わる有機EL素子を示す概略の断面図である。
第10図は、本発明に係わる更に別な構造の透明導電積層体を示す概略の断面図である。
第11図は、本発明に係わる更に別な構造の透明導電積層体を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を図面を参照して詳細に説明する。
本発明の透明導電積層体は、第2図に示すように、まず、デバイスの構成に用いない平滑な基板1上に、透明導電層形成用塗布液を塗布・乾燥して透明導電層2を形成し、更にその透明導電層2上に補助電極層3をパターン状に形成する。得られた透明導電層2及びパターン状の補助電極層3の上(平滑な基板1の反対側)に、デバイスの構成に用いる透明基材5を接着剤層4で貼り合わせた後、接着剤層4を硬化させて接合することにより製造する。
このようにして得られる透明導電積層体の基本的構造は、第2図に示すように、透明導電層2を成膜するための仮の基板として用いた平滑な基板1と、平滑な基板1上に塗布法により形成された透明導電層2と、その透明導電層2上に形成されたパターン状の補助電極層3と、透明導電層2及び補助電極層3に接着剤層4で接合された透明基材5とを備えている。
そして、本発明の透明導電積層体においては、平滑な基板1は透明導電層2との界面から剥離することが可能である。平滑な基板1を剥離した後の透明導電層2の剥離面は、第3図に示すように、平滑な基板1を反映した極めて平滑な面となる。しかも、透明導電層2の下(剥離面の反対側)には膜抵抗低下のためにパターン状の補助電極層3が形成されているため、優れた導電性と平滑な表面(剥離面)とを両立することができる。
従って、この透明導電積層体から平滑な基板1を剥離除去した後、透明導電層2の平滑な剥離面上に各種機能性薄膜を何ら制限なく容易に形成又は積層することができ、色素増感型太陽電池や有機EL素子等の各種デバイスを作製することができる。また、膜抵抗値を一層低下させるために、パターン形状を維持しながら補助電極層3を厚くしていった場合でも、補助電極層3は接着剤層4中で厚みを増すだけであり、透明導電層2の平滑性及び透明導電積層体の透過率や各種デバイスの特性等に影響を与えることがない。
また、本発明の透明導電積層体では、第4図に示すように、パターン状の補助電極層3及びそのパターン状の補助電極層3の間に露出した透明導電層2と、接着剤層4との間に、塗布法により形成された透明コート層6を備えることができる。即ち、透明導電積層体の製造に際して、平滑な基板1上に透明導電層2及び補助電極層3を形成した後、この透明導電層2と補助電極層3の上に透明コート層形成用塗布液を塗布・硬化して、透明コート層6を形成する。その後、この透明コート層6(平滑な基板1の反対側の面)に、接着剤層4を介して透明基材5を接合すればよい。
以上のように、透明導電層2及びパターン状の補助電極層3の上に、接着剤あるいは透明コート層形成用塗布液をオーバーコートすると、接着剤成分あるいは透明コート層形成用塗布液中のバインダー成分が透明導電層2の導電性酸化物微粒子間の空隙に染み込み、最終的に硬化して空隙部分を埋めるため、透明導電層2の強度並びに耐候性を大幅に高めることができる。また、接着剤あるいは透明コート層形成用塗布液の塗布・硬化により、接着剤成分あるいはバインダー成分が導電性酸化物微粒子同士を強く結合させるため、透明導電層2の膜抵抗値を大幅に低下させる効果も有する。例えば、導電性酸化物(ITO)微粒子のみからなる膜抵抗値4500Ω/□の透明導電層に対し、アクリル系紫外線硬化性接着剤を塗布・紫外線硬化させると、膜抵抗値が800Ω/□まで低下する。
補助電極層3のパターン形状については、適度の開口率を有すると共に、補助電極として膜抵抗値を低下させる機能を有すものであれば特に制限はない。例えば、第5図に示すような格子状の他、網目状、ハニカム状、平行ライン状、又は櫛歯状など、従来から知られているものを含め種々の形状とすることができる。
補助電極層のパターン形成は、導電性微粒子を含む補助電極層形成用ペーストをスクリーン印刷等の方法でパターン印刷しても良いし、透明導電層の全面に電解メッキ、無電解メッキで金属層を形成した後、フォトリソグラフィー等の方法を用いてパターン化を行ってもよい。もちろん、パターン印刷とメッキ法を組み合わせても良い。ただし、工程の簡便さを考えると、補助電極層形成用ペーストのパターン印刷が好ましい。
補助電極層形成用ペーストとしては、溶媒又はバインダーを含む溶媒中に、導電性微粒子である金属微粒子、カーボン微粒子、酸化ルテニウム微粒子から選ばれた少なくとも1種を分散させたものを用いる。この補助電極層形成用ペーストの印刷・硬化によって、導電性微粒子としての金属微粒子、カーボン微粒子、酸化ルテニウム微粒子から選ばれた少なくとも1種からなるか、又は金属微粒子、カーボン微粒子、酸化ルテニウム微粒子から選ばれた少なくとも1種とバインダー成分とからなる補助電極が得られる。
上記金属微粒子の材質としては、導電性の観点からは銀、銅、金等が好ましく、価格の面からは銀、銅、ニッケル、鉄、コバルト等が好ましい。また、耐食性や耐薬品性の面からは、白金、ロジウム、ルテニウム、パラジウム等が好ましい。カーボン微粒子は、導電性の面では金属微粒子に比べて劣っているが、低価格であって、耐食性及び耐薬品性に優れている。また、酸化ルテニウム(RuO)微粒子は、カーボン微粒子に比べて高価ではあるが、カーボン微粒子と同様に優れた耐食性を有する導電性物質であるため、補助電極として適用することができる。
また、パターン状の補助電極層は、異なる導電性微粒子からなる2以上の電極層を積層したものでも良い。例えば、第6図に示すように、透明導電層2上にカーボン微粒子、ルテニウム微粒子、酸化ルテニウム微粒子から選ばれた少なくとも1種とバインダー成分とからなる第1補助電極層3aを、更にその上に銀等の金属微粒子とバインダー成分とからなる第2補助電極層3bを積層した場合には、耐食性に劣る銀等の金属微粒子で構成される第2補助電極層3bが、透明導電層2及び耐食性・耐薬品性に優れるカーボン微粒子、ルテニウム微粒子、酸化ルテニウム微粒子から選ばれた少なくとも1種とバインダー成分で構成される第1補助電極層3aで保護されるため、得られる透明導電積層体の耐候性を大幅に高めることができる。
ただし、第6図に示すように、同じパターン形状を有する第1補助電極層3aと第2補助電極層3bのライン幅を等しくした場合、例えば成膜に用いるスクリーン印刷等の積層工程の精度によっては、後から形成する第補助電極層3bが先に形成した第1補助電極層3aからはみ出す可能性があり、その場合には膜の耐候性が損なわれる恐れが生じる。
そこで、第7図に示すように、例えば、カーボン微粒子、ルテニウム微粒子、酸化ルテニウム微粒子から選ばれた少なくとも1種とバインダー成分とで構成される第1補助電極層3aのライン幅を、銀等の金属微粒子とバインダー成分とで構成される第2補助電極層3bのライン幅よりも広く設定することによって、耐食性に劣る銀等の金属微粒子とバインダー成分とで構成された第2補助電極層がカーボン微粒子、ルテニウム微粒子、酸化ルテニウム微粒子から選ばれた少なくとも1種とバインダー成分とで構成された第1補助電極層3aからはみ出さないように形成することができる。このような構造をとることによって、前記積層工程の精度による補助電極層の積層部分における位置ずれの問題を解決できるだけでなく、カーボン微粒子、ルテニウム微粒子、酸化ルテニウム微粒子から選ばれた少なくとも1種とバインダー成分とで構成される第1補助電極層3aが銀等の金属微粒子とバインダー成分とで構成される第2補助電極層3bを覆って保護する効果を増すために、耐食性や耐薬品性がより一層向上する。
尚、透明導電層は通常1〜数μmの膜厚を有し、上述のように導電性酸化物微粒子同士の間の空隙を接着剤成分あるいは透明コート層のバインダー成分が完全に埋めた構造であるため、補助電極層を覆うように形成された前記透明導電層単独でも補助電極層を保護する効果を有している。
前記透明導電層、及び透明コート層は、塗布法により形成することができる。即ち、透明導電層形成用塗布液あるいは透明コート層形成用塗布液を、スピンコート、スプレーコート、ドクターブレードコート、ロールコート、グラビア印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷等の手法により塗布し、必要に応じて乾燥した後、含まれるバインダー等に応じて必要な硬化処理、例えば50〜200℃程度の温度での加熱処理や紫外線照射等の硬化処理を施すことにより、前記各層を形成することができる。
透明導電層については、透明導電層形成用塗布液の塗布・乾燥後に、圧延処理を行っても良い。圧延処理を行うと透明導電層中の導電性酸化物微粒子の充填密度が上昇するため、導電性を一層高めることができる。圧延処理としては、例えば、透明導電層が形成された平滑な基板をスチールロールにより圧延する方法があり、この場合のスチールロールの圧延圧力は線圧:29.4〜490N/mm(30〜500Kgf/cm)が良く、98〜294N/mm(100〜300Kgf/cm)がより好ましい。線圧:29.4N/mm(30Kgf/cm)未満では、圧延処理による透明導電層の抵抗値改善の効果が不十分で、線圧:490N/mm(500Kgf/cm)を超えると、圧延設備が大型化すると同時に、基材のプラスチックフィルムが歪んでしまう場合があるからである。
本発明で用いる透明導電層形成用塗布液は、溶媒と、その溶媒中に分散された導電性酸化物微粒子とを主成分とする。導電性酸化物微粒子としては、透明性と導電性を併せ持つ、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)微粒子、インジウム亜鉛酸化物(IZO)微粒子、インジウム−タングステン酸化物(IWO)微粒子、インジウム−チタン酸化物(ITiO)微粒子、インジウムジルコニウム酸化物微粒子、錫アンチモン酸化物(ATO)微粒子、フッ素錫酸化物(FTO)微粒子、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)微粒子、ガリウム亜鉛酸化物(GZO)微粒子等を用いることができる。尚、膜抵抗値の面からはITO微粒子が優れた導電性を有するため好適であり、耐候性の面からはFTO微粒子が好適である。
前記導電性酸化物微粒子の平均粒径は、1〜100nmが好ましく、10〜50nmが更に好ましい。平均粒径が1nm未満では透明導電層形成用塗布液の製造が困難となり、100nmを超えると透明導電層において高透過率と低抵抗値を同時に達成することが困難になるからである。尚、前記導電性酸化物微粒子の平均粒径は、透過電子顕微鏡(TEM)で観察された値を示している。
透明導電層形成用塗布液には、少量のバインダーを添加してもよい。バインダーを添加した透明導電層形成用塗布液を用いると、単層での膜強度を高めることができる。バインダーとしては、有機及び/又は無機バインダーを用いることが可能であり、透明導電層形成用塗布液を適用する平滑な基板、透明導電層の膜形成条件等を考慮して、適宜選定することができる。
前記有機バインダーとしては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等から選定することができる。例えば、熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、PET樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、PVP樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などがあり、熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂など、常温硬化性樹脂としては2液性のエポキシ樹脂やウレタン樹脂など、紫外線硬化性樹脂としては各種オリゴマー、モノマー、光開始剤を含有する樹脂など、電子線硬化性樹脂としては各種オリゴマー、モノマーを含有する樹脂などを挙げることができるが、これら樹脂に限定されるものではない。
また、無機バインダーとしては、シリカゾルを主成分とするバインダーを挙げることができる。無機バインダーは、弗化マグネシウム微粒子、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル等や、一部有機官能基で修飾されたシリカゾルを含んでいてもよい。前記シリカゾルとしては、オルトアルキルシリケートに水や酸触媒を加えて加水分解し、脱水縮重合を進ませた重合物、あるいは既に4〜5量体まで重合を進ませた市販のアルキルシリケート溶液を、更に加水分解と脱水縮重合を進行させた重合物等を利用することができる。
尚、脱水縮重合が進行し過ぎると、溶液粘度が上昇して最終的に固化してしまうので、脱水縮重合の度合いについては、透明基板上に塗布可能な上限粘度以下に調整する。ただし、脱水縮重合の度合いは前記上限粘度以下のレベルであれば特に限定されないが、膜強度、耐候性等を考慮すると、重量平均分子量で500〜50000程度が好ましい。そして、このアルキルシリケート加水分解重合物(シリカゾル)は、透明導電層形成用塗布液の塗布・乾燥後の加熱時において脱水縮重合反応がほぼ完結し、硬いシリケート膜(酸化ケイ素を主成分とする膜)になる。
また、透明コート層形成用塗布液は、溶媒とバインダーとで構成される。バインダーとしては、前述の透明導電層形成用塗布液に添加するバインダーと同様のものであってよく、有機及び/又は無機バインダーを用いることができる。その中でも、平滑な基板との密着力がそれ程高くなく、耐候性や耐薬品性等に優れる紫外線硬化性樹脂やシリカゾルを主成分とするバインダーが好ましい。
本発明で用いる平滑な基板は、透明導電層との界面で剥離可能であれば、特に限定されるものではない。具体的には、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ボリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)等のプラスチック、ステンレス等の金属を用いることができる。その中でも、安価で且つ表面の平坦度が高く、フレキシブルで剥離しやすい等の観点から、PETフィルムが好ましい。
平滑な基板と透明導電層との間での剥離性は、平滑な基板の材質、透明導電層形成用塗布液の成分等により、更には接着剤の種類や透明コート層形成用塗布液の成分(接着剤や透明コート層形成用塗布液は、透明導電層内に染み込んだ場合には、平滑な基板の表面に達する場合があるため)により影響を受ける。しかし、平滑な基板がガラス、プラスチック、又は金属であり、且つその表面が通常の平滑面であれば、塗布法で形成される透明導電層との界面で、容易に剥離可能な状態とすることができる。
一方、透明基材は、適用するデバイスに応じて適宜選択すればよく、例えば可視光線を透過するアクリル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)等のプラスチックのフィルム又は板、あるいはガラス板等を用いることができるが、これらに限定されない。
尚、有機EL素子等のような水分による素子の劣化が生じるデバイスにおいて、透明基材としてプラスチックを適用する場合には、プラスチックに予め防湿コーティングを施しておくことが好ましい。また、透明基材には、接着剤との密着力を高める易接着処理、具体的には、プライマー処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、短波長紫外線照射処理、シリコンカップリング処理等を予め施すことが好ましい。
透明基材の接合に用いる接着剤としては、少なくとも平滑な基板を剥離する際に、透明導電層とパターン状の補助電極層又は透明コート層を透明基材に接着しておくことができ、しかも平滑な基板の剥離性に悪影響を及ぼさないものであれば、何ら制限はない。例えば、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系等の常温硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂などを用いることができる。
接着剤は、上記樹脂以外に、さらに紫外線吸収剤、脱水剤、脱酸素剤から選択された少なくとも1種類の添加剤を含有することができる。これら紫外線吸収剤、脱水剤、脱酸素剤等の接着剤への配合は、接着剤溶液へ溶解させあるいは微粒子として分散させるという形で行うことができる。紫外線吸収剤、脱水剤、脱酸素剤等の添加により、有機EL素子においてはポリマー発光層、カソード電極層の劣化を抑制することができるし、色素増感型太陽電池においても有機色素の劣化を抑制することができる。例えば、紫外線吸収剤には、サリシレート系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の有機化合物、あるいは酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の無機化合物等が挙げられ、脱水剤には、シリカゲル、ゼオライト、五酸化りん、硫酸ナトリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム等が挙げられ、脱酸素剤には、酸素と結合しやすい鉄、マグネシウム、カルシウム等の各種金属、又は有機系の脱酸素剤が挙げられる。そして、その機能さえ有していれば、微粒子の形態でも分子状に溶解していても良く、これらに限定されない。また、必要に応じて、選択波長吸収材料等の前記以外の機能性材料、機能性微粒子を接着剤に配合しても良い。
接着剤による透明基材の貼り合わせは平滑な基板上に形成された透明導電層及びパターン状の補助電極層の上、又は透明導電層と補助電極層を覆う透明コート層の上、あるいは透明基材の上、若しくはその両方に接着剤を塗布し、必要に応じて乾燥した後、一般的にはスチールロール又はゴムロール等を用いて0.1〜2.94N/mm(0.1〜3Kgf/cm)程度の線圧力を掛けながら行う。尚、接着剤の塗布は、スピンコート、スプレーコート、ドクターブレードコート、ロールコート、グラビア印刷、スクリーン印刷等の汎用の方法が適用できる。
上記貼り合せを行った後、接着剤を硬化させて、透明基材の接合が完了する。接着剤の硬化は、熱硬化性樹脂を用いた場合は加熱により行い、紫外線硬化樹脂を用いた場合には平滑な基板側又は透明基材側からの紫外線照射により行う。従って、紫外線照射による場合には、平滑な基板又は透明基材のいずれか一方は、紫外線を透過する材質のものでなければならない。
次に、本発明で用いる透明導電層形成用塗布液の製造方法を説明する。まず、導電性酸化物微粒子を分散剤、溶剤と混合した後、分散処理を行う。分散剤としては、シリコンカップリング剤等の各種カップリング剤、各種高分子分散剤、アニオン系・ノニオン系・カチオン系等の各種界面活性剤が挙げられる。これら分散剤は、用いる導電性酸化物微粒子の種類や分散処理方法に応じて適宜選定することができる。また、分散剤を全く用いなくても、適用する導電性酸化物微粒子と溶剤の組合せ、及び分散方法の如何によっては、良好な分散状態を得ることができる場合がある。分散剤の使用は膜の抵抗値や耐候性を悪化させる可能性があるので、分散剤を用いない透明導電層形成用塗布液が最も好ましい。分散処理としては、超音波処理、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等の汎用の方法を適用することができる。
得られた導電性酸化物微粒子分散(濃縮)液に溶剤等を添加し、導電性酸化物微粒子濃度、溶剤濃度等の成分調整を行うことにより、導電性酸化物微粒子を含有する透明導電層形成用塗布液が得られる。ここで、透明導電層形成用塗布液中の導電性酸化物微粒子が1〜70重量%、溶剤その他添加物が残部となるように成分調整することが好ましい。導電性酸化物微粒子が1重量%未満では、透明導電層に十分な導電性能が得られず、70重量%を超えると導電性酸化物微粒子分散(濃縮)液の製造が困難となるからである。具体的な導電性酸化物微粒子量は、用いる塗布方法に応じて、前記範囲内で適宜設定すればよい。
透明導電層形成用塗布液に用いる溶媒としては、特に制限はなく、塗布方法や製膜条件により適宜に選定することができる。例えば、水、メタノール(MA)、エタノール(EA)、1−プロパノール(NPA)、イソプロパノール(IPA)、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール(DAA)等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル(MCS)、エチレングリコールモノエチルエーテル(ECS)、エチレングリコールイソプロピルエーテル(IPC)、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM)、プロピレングリコールエチルエーテル(PE)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGM−AC)、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート(PE−AC)等のグリコール誘導体、ホルムアミド(FA)、N−メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、メシチレン、ドデシルベンゼン等のベンゼン誘導体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
次に、本発明の透明導電積層体を適用したデバイスについて説明する。上述のごとく、本発明の透明導電積層体においては、平滑な基板を剥離除去した透明導電層の剥離面は平滑な基板を反映した極めて平滑な面となるため、透明導電層の剥離面上には各種機能性薄膜を何ら制限なく容易に形成又は積層して、色素増感型太陽電池や有機EL素子等の各種デバイスを製造することができる。
例えば、本発明が提供するデバイスの一つである色素増感型太陽電池は、第8図に示すように、平滑な基板を剥離した後の透明導電層2の剥離面上に、色素吸着酸化物半導体電極層7を形成し、これに対向して対電極9を配置した後、その色素吸着酸化物半導体電極層7と対電極9の間に電解質8を充填することにより得られる。よって、色素増感型太陽電池の基本構造は、透明基材5、接着剤層4、パターン状の補助電極層3、塗布法で形成された透明導電層2、色素吸着酸化物半導体電極層7、電解質8、及び対電極9で構成されている。
この本発明の色素増感型太陽電池では、パターン状の補助電極層3を有するため膜抵抗値が極めて低く、大面積の素子の作製が可能となる。また、パターン状の補助電極層3が透明導電層2の下に形成されているため、反対側の透明導電層2の剥離面は平滑で凹凸や突起がなく、色素吸着酸化物半導体電極層7を均一に且つ容易に形成することが可能である。更に、透明導電層2がパターン状の補助電極層3を保護する構造のため、電解質8は多孔質である色素吸着酸化物半導体電極層7を経由して透明導電層2と接触しているが、補助電極層3には触れることがなく、補助電極層3の腐食劣化を効果的に抑制することができる。
色素増感型太陽電池の色素吸着酸化物半導体電極層は、微細な粒子で構成された多孔質膜であることが好ましい。また、色素吸着酸化物半導体電極層の膜厚は0.1〜20μmの範囲が好ましい。その酸化物半導体としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、チタン酸バリウム等の公知の半導体材料を用いることができるが、安定性及び安全性の面から酸化チタンが好ましい。尚、この酸化物半導体電極層は、スパッタリング法、CVD法等の物理的成膜法や、ゾルゲル法等の塗布法により形成することができる。
酸化物半導体電極層に吸着される色素は、可視光領域及び/又は赤外光領域に吸収を持つ分光増感色素であり、種々の金属錯体や有機色素を用いることができるが、中でも分光増感の効果や耐久性に優れている点で金属錯体が好ましい。かかる金属錯体としては、金属フタロシアニンや、ルテニウム(Ru)ビピリジル錯体等のルテニウム系錯体を用いることができる。また、色素を酸化物半導体電極層に吸着させるためには、色素を有機溶剤に溶解させた溶液中に、常温又は加熱下に、酸化物半導体電極層を浸漬すればよい。有機溶剤としては、用いる色素を溶解するものであればよく、具体的には、水、アルコール等を用いることができるが、これらに限定されない。
また、対電極としては、導電性と電解質に対する耐久性を有するものであればよく、例えば、白金、表面に白金コーティングした導電材料、ロジウム、ルテニウム、酸化ルテニウム、カーボン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
色素増感型太陽電池に用いる電解質としては、例えばI/I系や、Br/Br系、キノン/ハイドロキノン系等が挙げられる。例えばI/I系の電解質は、ヨウ素(I)及びヨウ化リチウム(LiI)等をアセトニトリル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ポリエチレングリコール(PEG)等の有機溶媒に溶解して得ることができる。
本発明が提供するデバイスの他の一つである有機EL素子は、第9図に示すように、透明導電積層体から平滑な基板1を剥離除去した後、その透明導電層2の平滑な剥離面上に、ホール注入層10、ポリマー発光層11、カソード電極層12を、順次積層形成して得ることができる。よって、有機EL素子の基本的構造は、透明基材5、接着剤層4、パターン状の補助電極層3、塗布法で形成された透明導電層2、ホール注入層10、ポリマー発光層11、及びカソード電極層12で構成されている。
この本発明の有機EL素子では、パターン状の補助電極層3を有するため膜抵抗値が極めて低く、大面積の素子の作製が可能となる。また、透明導電層2に導電性酸化物微粒子の凝集による粗大粒子、塗布ムラ、異物等の塗布欠陥に起因した凹凸や突起が発生した場合であっても、それらは接着剤層4の側に存在し、反対側の面(剥離面)は極めて平滑であるから、ホール注入層10との界面には全く影響を及ぼさない。従って、カソード電極層12との間での電気的短絡(ショート)の発生、及びポリマー発光層11の絶縁破壊の発生等を、効果的に抑制することができる。
尚、有機EL素子の構造については、例えば、第9図においてホール注入層10を形成しない場合があるほか、第9図におけるホール注入層10とポリマー発光層11の間にホール輸送層を設けたり、又はホール注入層10としてホール輸送層を兼ねたホール注入輸送層を用いたりする場合もある。また、カソード電極層12とポリマー発光層11の間に、電子輸送層を設けても良い。これらホール輸送層や電子輸送層を設けると、ポリマー発光層11に注入されたキャリアである正孔(ホール)と電子とが効率よく再結合できるため、より発光効率を高めることができる。
ホール注入層10を構成するホール注入性物質としては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、これらの誘導体、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸の混合物(PEDOT/PSS)(バイエル社製、商品名バイトロン)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、ポリマー発光層11を構成するポリマー発光材料としては、例えば、低分子発光材料であるトリス(8−キノリノール)アルミニウム等の金属キレート化オキシノイド系化合物、スチリルベンゼン系化合物、高分子発光材料であるポリ−p−フェニレンビニレン(PPV)系、ポリフェニレン系、ポリフルオレン系、ポリビニルカルバゾール系等の高分子、これらに低分子蛍光色素(例えば、クマリン、ペリレン、ローダミン、又はそれらの誘導体)を加えたもの等があるが、これらに限定されるものではない。
上記ホール注入層10及びポリマー発光層11は、例えばホール注入層形成用塗布液あるいはポリマー発光層形成用塗布液を用いる塗布法により、若しくは蒸着法等の公知の方法により形成することができる。尚、ポリマー発光層形成用塗布液が前記高分子発光材料を用いる場合は、ポリマー発光層形成用塗布液を塗布・乾燥するだけで、簡単にポリマー発光層を形成することができる。
カソード電極層12としては、ポリマー発光層11への電子注入性の観点から、仕事関数の低い金属、例えば、リチウム(Li)、K(カリウム)、Na(ナトリウム)等のアルカリ金属、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属、アルミニウム(Al)等が好ましい。また、カソード電極層の安定性を考慮して、前記金属と、インジウム(In)、銀(Ag)等の安定性の良い金属とを、併用し又は積層して用いることが好ましい。
上記カソード電極層12の形成は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の公知の方法を用いて行うことができる。また、カソード電極層12とポリマー発光層11との間に、フッ化リチウム(LiF)やフッ化マグネシウム(MgF)等からなる厚さ数nm程度の薄膜を挟みこんだ構造も、電子注入性を高めることができるので好ましい。
ところで、上記接着剤層4に上述した紫外線吸収剤、脱水剤、脱酸素剤から選択される少なくとも1種類の添加剤13が配合される場合、この添加剤13が透光性であれば、第10図に示す様に接着剤に均一に混合すればよく、仮に添加剤13が不透明の場合でも、第11図に示す様に接着剤層4のパターン状補助電極層3に面した部分にのみ配置されるようにすれば、透明導電積層体自体の可視光線透過率を損なわないようにできる。
以上説明したように、本発明の透明導電積層体においては、平滑な基板上に塗布法により形成された透明導電層、及びその透明導電層上に形成されたパターン状の補助電極層が、接着剤層を介して透明基材に接合されており、且つ透明導電積層体から平滑な基板を剥離除去することが可能である。しかも、透明導電層及び補助電極層は塗布法等の低温成膜可能な手法により形成されるため、プラスチックフィルム等の耐熱性の乏しい透明基材も使用することができる。
従って、透明導電積層体は、パターン状の補助電極層による優れた導電性を示すと同時に、平滑な基板を剥離除去した後の剥離面は極めて平滑であるから、その剥離面上に機能性薄膜を更に形成することにより、大面積の色素増感型太陽電池や有機EL素子等のデバイスの部材として適用することができる。また、透明導電積層体は、そのままの形で保管することが可能であり、デバイスを製造するに当たって、各種機能性薄膜を形成する直前に平滑な基板を剥離除去すれば良いため、各種機能性薄膜の形成に用いる剥離面への異物やホコリ等の付着を効果的に防止できる利点もある。
更に、本発明のデバイスである色素増感型太陽電池及び有機EL素子は、簡便な塗布法により形成された透明導電層とパターン状の補助電極層との組合せによる低抵抗値を有するにもかかわらず、前記透明導電層の下にパターン状の補助電極層が形成された構造を有し、その透明導電層のデバイス形成側の表面(剥離面)が極めて平滑で凹凸や突起部が存在しないため、デバイス形成工程において電極間の電気的短絡を生じることがない。従って、大面積化が可能な色素増感型太陽電池や有機EL素子等のデバイスを、簡便に製造でき且つ低コストで提供することができる。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の記述において「%」は、透過率、ヘイズ値の%を除いて、「重量%」を示している。
【実施例1】
平均粒径0.03μmのITO微粒子[住友金属鉱山(株)製、商品名:SUFP−HX、]60gを、溶剤としてのイソホロン40gと混合した後、分散処理を行い、平均分散粒径110nmのITO微粒子が分散した透明導電層形成用塗布液を得た。一方、平滑な基板として、PETフィルム[東レ(株)製、商品名:ルミラー、厚さ:100μm]を使用した。
この平滑な基板に、前記透明導電層形成用塗布液をワイヤーバーコーティング(線径:0.3mm)し、40℃で15分間及びその後120℃で30分間の加熱処理行い、平滑な基板上にITO微粒子で構成される透明導電層(膜厚:3μm)を形成した。この透明導電層の膜特性は、可視光透過率:80.3%、ヘイズ値:3.2%、表面抵抗値:4500Ω/□であった。
得られた透明導電層上に、銀微粒子がポリエステル系樹脂バインダーと共に溶剤中に分散された補助電極層形成用ペースト[藤倉化成(株)製、商品名:FA−401CA]を、格子状(線幅:0.3mm、線間隔:2.7mm)にスクリーン印刷(版:250mesh/目開き0.061mm)し、120℃で40分間加熱処理して、パターン形状の補助電極層(膜厚:15μm)を得た。
この透明導電層及びパターン状の補助電極層上に、アクリル系紫外線硬化性接着剤(固形分:100%)をバーコーティング(ワイヤー径:0.3mm)で塗布し、透明基材としてのプライマー処理したPETフィルム[帝人デュポンフィルム(株)製、テトロン−HLEW、厚さ100μm]に貼り合わせた後、高圧水銀ランプを用いて接着剤を硬化(大気中、140mW/cm×4秒間)させて、透明導電積層体を得た。
かくして得られた実施例1に係る透明導電積層体は、平滑な基板/透明導電層/パターン状の補助電極層/接着剤層/透明基材から構成されている。この透明導電積層体において、平滑な基板としてのPETフィルムは、透明導電層との界面で簡単に剥離することができた。
また、実施例1に係る透明導電積層体から平滑な基板(PETフィルム)を剥離して、平滑な透明導電層とパターン状の補助電極層を具備した透明基材を得た。このパターン状の補助電極層を有する透明導電層の膜特性は、可視光透過率:65.0%、ヘイズ値:2.0%、表面抵抗値:0.32Ω/□であった。また、前記平滑な透明導電層(平滑な基板が剥離された剥離面)の平坦度は、Ra:1.8nmであった。
前記透明導電積層体の表面抵抗値は、透明導電層とパターン状の補助電極層で構成された複合導電膜の膜抵抗値であり、透明導電層部分の膜抵抗値が前記一連の転写工程でどう変化しているかは不明である。そこで、前記透明導電積層体における透明導電層部分の膜抵抗値を求めるため、前記一連の転写工程において、パターン状の補助電極層を形成しなかった以外は同様に行い、平滑な基板/透明導電層/接着剤層/透明基材からなる透明導電積層体を得た。平滑な基板を剥離して求めた透明導電層の表面抵抗値は800Ω/□であった。
尚、表面抵抗は、三菱化学(株)製の表面抵抗計ロレスタAP(MCP−T400)を用い測定した。ヘイズ値と可視光透過率は、村上色彩技術研究所製のヘイズメーター(HR−200)を用いて測定した。また、透明導電層の透過率及びヘイズ値は、透明導電層だけの値であり、それぞれ下記計算式1及び2により求められる。
[計算式1]
透明導電層の透過率(%)=[(透明導電層が形成された平滑な基板ごと測定した透過率)/平滑な基板の透過率]×100
[計算式2]
透明導電層のヘイズ値(%)=(透明導電層が形成された平滑な基板ごと測定したヘイズ値)−(平滑な基板のヘイズ値)
また、パターン状の補助電極層を有する透明導電層の透過率及びヘイズ値は、パターン状の補助電極層を有する透明導電層だけの値であり、それぞれ下記計算式3及び4により求められる。
[計算式3]
パターン状の補助電極層を有する透明導電層の透過率(%)=[(パターン状の補助電極層及び透明導電層を具備する透明基材ごと測定した透過率)/透明基材の透過率]×100
[計算式4]
パターン状の補助電極層を有する透明導電層のヘイズ値(%)=(パターン状の補助電極層及び透明導電層を具備する透明基材ごと測定したヘイズ値)−(透明基材のヘイズ値)
次に、前記実施例1に係わる透明導電積層体を用いて、有機EL素子の作製を以下の通りに行った。まず、前記透明導電積層体を40℃に予熱した後、透明導電積層体から平滑な基板(PETフィルム)を剥離し、得られた剥離面の上にホール注入層形成用塗布液をスピンコーティング(150rpm、100秒間)し、120℃で10分間加熱処理して、ホール注入層を形成した。前記ホール注入層形成用塗布液は、ポリスチレンスルホン酸がドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSS)分散液(バイエル社製、バイトロンP−VP−CH8000)を、有機溶媒に希釈して調整した。尚、このホール注入層形成用塗布液の組成は、バイトロンP−VP−CH8000:20.0%、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン:1.0%、N−メチル−2−ピロリドン:1.5%、プロピレングリコールメチルエーテル(PGM):5.0%、イソプロピルアルコール(IPA):72.5%であった。
更に、前記ホール注入層が形成された透明導電層と補助電極層を有する透明基材を40℃に予熱した後、そのホール注入層上に、ポリマー発光層形成用塗布液をスピンコーティング(150rpm、60秒間)し、80℃で60分間真空加熱処理してポリマー発光層を形成した。尚、使用した前記ポリマー発光層形成用塗布液の組成は、ポリ[2−メトキシ−5−(3’、7’−ジメチルオクチロキシ)−1、4−フェニレンビニレン]:0.25%、トルエン:99.75%であった。
このポリマー発光層上に、カルシウム(Ca)、銀(Ag)の順に真空蒸着を行い、CaとAgからなる2層のカソード電極層(サイズ:2cm×2cm)を形成して、実施例1に係る有機EL素子を得た。得られた有機EL素子の透明導電層(アノード電極層)とカソード電極層の間に15Vの直流電圧を印加(アノード:+、カソード:−)したところ、オレンジ色の均一な発光を確認することができた。
【実施例2】
平滑な基板に実施例1と同一の透明導電層形成用塗布液をワイヤーバーコーティング(線径:0.15mm)し、40℃で15分間、及び120℃で10分間乾燥した後、直径150mmのハードクロムめっきしたスチールロールによる圧延処理(線圧:147N/mm=150Kgf/cm、ニップ幅:1mm)を行い、平滑な基板上に緻密に充填されたITO微粒子で構成される透明導電層(膜厚:1.8μm)を形成した。この透明導電層の膜特性は、可視光透過率:90.9%、ヘイズ値:2.1%、表面抵抗値:200Ω/□であった。
そして、前記透明導電層が形成された平滑な基板を用いた以外は、実施例1と同様に行い、透明導電積層体を得た。
かくして得られた実施例2に係る透明導電積層体は、平滑な基板/透明導電層/パターン状の補助電極層/接着剤層/透明基材から構成されている。この透明導電積層体において、平滑な基板としてのPETフィルムは、透明導電層との界面で簡単に剥離することができた。
また、実施例2に係る透明導電積層体から平滑な基板(PETフィルム)を剥離して、平滑な透明導電層とパターン状の補助電極層を具備した透明基材を得た。このパターン状の補助電極層を有する透明導電層の膜特性は、可視光透過率:73.7%、ヘイズ値:1.1%、表面抵抗値:0.32Ω/□であった。また、前記平滑な透明導電層(平滑な基板が剥離された剥離面)の平坦度はRa:1.8nmであった。
そして、実施例1と同様に、前記透明導電積層体における透明導電層部分の膜抵抗値を求めるため、前記一連の転写工程において、パターン状の補助電極層を形成しなかった以外は同様に行い、平滑な基板/透明導電層/接着剤層/透明基材からなる透明導電積層体を得た。平滑な基板を剥離して求めた透明導電層の表面抵抗値は150Ω/□であった。
更に、前記実施例2に係わる透明導電積層体から、平滑な基板(PETフィルム)を剥離し、得られた透明導電層の剥離面の上に、実施例1と同様にホール注入層、ポリマー発光層、及びカソード電極層を形成して実施例2に係る有機EL素子を得た。得られた有機EL素子の透明導電アノード電極層とカソード電極層の間に15Vの直流電圧を印加(アノード:+、カソード:−)したところ、オレンジ色の均一な発光を確認することができた。
【実施例3】
実施例1と同様に、平滑な基板としてのPETフィルム上に、ITO微粒子から構成される透明導電層を形成した。この透明導電層上に、まず、カーボン微粒子がフェノール系樹脂バインダーと共に溶剤中に分散された補助電極層形成用ペースト[藤倉化成(株)製、XC−223]を格子状(線幅:0.3mm、線間隔:2.7mm)にスクリーン印刷(版:250mesh)し、90℃で5分間加熱処理して、カーボン微粒子からなるパターン状の第1補助電極層(膜厚:15μm)を形成した。
その後、銀微粒子がポリエステル系樹脂バインダーと共に溶剤中に分散された補助電極層形成用ペースト[藤倉化成(株)製、FA−401CA]を、前記カーボンからなるパターン状の第1補助電極層上に、格子状(線幅:0.3mm、線間隔:2.7mm)にスクリーン印刷(版:250mesh)し、120℃で40分間加熱処理して、銀微粒子からなるパターン状の第2補助電極層(膜厚:15μm)を形成した。
得られた透明導電層と、パターン状の第1及び第2補助電極層の上に、アクリル系紫外線硬化性接着剤(固形分:100%)をバーコーティング(ワイヤー径:0.3mm)で塗布し、透明基材としてのプライマー処理したPETフィルム[帝人デュポンフィルム(株)製、テトロン−HLEW、厚さ100μm]に貼り合わせた後、高圧水銀ランプを用いて接着剤を硬化(大気中、140mW/cm×4秒間)させて、透明導電積層体を得た。
かくして得られた実施例3に係る透明導電積層体は、平滑な基板/透明導電層/パターン状の補助電極層(第1及び第2補助電極層の積層)/接着剤層/透明基材から構成されている。この透明導電積層体において、平滑な基板としてのPETフィルムは、透明導電層との界面で簡単に剥離することができた。
また、実施例3に係る透明導電積層体から平滑な基板(PETフィルム)を剥離して、平滑な透明導電層とパターン状の補助電極層を具備した透明基材を得た。このパターン状の補助電極層を有する透明導電層の膜特性は、可視光透過率:64.8%、ヘイズ値:2.0%、表面抵抗値:0.33Ω/□であった。また、前記平滑な透明導電層(平滑な基板が剥離された剥離面)の平坦度は、Ra:1.8nmであった。
更に、前記実施例3に係わる透明導電積層体から、平滑な基板(PETフィルム)を剥離し、得られた透明導電層の剥離面の上に色素増感型太陽電池のヨウ素系電解質液(LiI:0.5M、I:0.05M、残部:ポリエチレングリコール)を滴下し、室温で2時間放置した後、電解質耐性(外観、膜抵抗値)を調査したところ、電解液滴下前と変化は認められなかった。
【実施例4】
銀微粒子からなるパターン状の第2補助電極層を2倍の膜厚(30μm)にした以外は実施例3と同様にして、透明導電積層体を得た。即ち、実施例1と同様に、平滑な基板としてのPETフィルム上にITO微粒子から構成される透明導電層を形成し、この透明導電層上にカーボン微粒子からなる格子状(線幅:0.3mm、線間隔:2.7mm)の第1補助電極層(膜厚:15μm)を形成した。
その後、銀微粒子がポリエステル系樹脂バインダーと共に溶剤中に分散された補助電極層形成用ペースト[藤倉化成(株)製、FA−401CA]を、前記カーボン微粒子からなる第1補助電極層上に、格子状(線幅:0.3mm、線間隔:2.7mm)にスクリーン印刷(版:250mesh)を2度繰り返して行い、120℃で40分間加熱処理して、銀微粒子からなるパターン状の第2補助電極層(膜厚:30μm)を形成した。
得られた透明導電層と、パターン状の第1及び第2補助電極層の上に、アクリル系紫外線硬化性接着剤(固形分:100%)をエタノールで固形分が50%となるように希釈した透明コート層形成用塗布液を、バーコーティング(ワイヤー径:0.3mm)で塗布し、70℃で5分間乾燥した後、高圧水銀ランプを用いて紫外線硬化性樹脂を硬化(大気中、140mW/cm×4秒間)させて、透明コート層を形成した。
更に、この透明コート層上に、エポキシ系熱硬化性接着剤(固形分:100%)をバーコーティング(ワイヤー径:0.3mm)で塗布し、透明基材としてのガラス基板(ソーダライムガラス、厚さ:1mm)に貼り合わせた後、その接着剤を熱硬化(70℃で30分間の後、120℃で20分間)させて、透明導電積層体を得た。
かくして得られた実施例4に係る透明導電積層体は、平滑な基板/透明導電層/パターン状の補助電極層(第1及び第2補助電極層の積層)/透明コート層/接着剤層/透明基材から構成されている。この透明導電積層体において、平滑な基板としてのPETフィルムは、透明導電層との界面で簡単に剥離することができた。
また、実施例4に係る透明導電積層体から平滑な基板(PETフィルム)を剥離して、平滑な透明導電層とパターン状の補助電極層を具備した透明基材とした。このパターン状の補助電極層を有する透明導電層の膜特性は、可視光透過率:64.5%、ヘイズ値:2.0%、表面抵抗値:0.16Ω/□であった。また、前記平滑な透明導電層(平滑な基板が剥離された剥離面)の平坦度は、Ra:1.8nmであった。
更に、前記実施例4に係わる透明導電積層体から、平滑な基板(PETフィルム)を剥離し、得られた透明導電層の剥離面の上に色素増感型太陽電池のヨウ素系電解質液(LiI:0.5M、I:0.05M、残部:ポリエチレングリコール)を滴下し、室温で2時間放置した後、電解質耐性(外観、膜抵抗値)を調査したところ、電解液滴下前と変化は認められなかった。
【実施例5】
実施例1において、接着剤に脱水剤としてシリカゲル微粒子を添加した以外は、実施例1と同様に行い、透明導電積層体を得た。
かくして得られた実施例5に係る透明導電積層体は、平滑な基板/透明導電層/パターン状の補助電極層/シリカゲル含有接着剤層/透明基材から構成されている。この透明導電積層体において、平滑な基板としてのPETフィルムは、透明導電層との界面で簡単に剥離することができた。
更に、前記実施例5に係わる透明導電積層体から、平滑な基板(PETフィルム)を剥離し、得られた透明導電層の剥離面の上に、実施例1と同様にホール注入層、ポリマー発光層、及びカソード電極層を形成して実施例5に係る有機EL素子を得た。得られた有機EL素子の透明導電アノード電極層とカソード電極層の間に15Vの直流電圧を印加(アノード:+、カソード:−)したところ、オレンジ色の均一な発光を確認することができた。
[比較例1]
透明基材としてのプライマー処理したPETフィルム[帝人デュポンフィルム(株)製、テトロン−HLEW、厚さ100μm]に、実施例1の透明導電層形成用塗布液をワイヤーバーコーティング(線径:0.3mm)し、40℃で15分間、続いて120℃で30分間加熱処理して、透明基材にITO微粒子で構成される透明導電層を形成した。この透明導電層の膜特性は、可視光透過率:80.2%、ヘイズ値:3.5%、表面抵抗値:4700Ω/□であった。
この透明導電層上に、まず、カーボン微粒子がフェノール系樹脂バインダーと共に溶剤中に分散された補助電極層形成用ペースト[藤倉化成(株)製、XC−223]を、格子状(線幅:0.3mm、線間隔:2.7mm)にスクリーン印刷(版:250mesh)し、90℃で5分間加熱処理してカーボン微粒子からなるパターン状の第1補助電極層(膜厚:15μm)を形成した。
その後、銀微粒子がポリエステル系バインダーと共に溶剤中に分散された補助電極層形成用ペースト[藤倉化成(株)製、FA−401CA]を、格子状(線幅:0.3mm、線間隔:2.7mm)にスクリーン印刷(版:250mesh)し、120℃で40分間加熱処理して、銀微粒子からなるパターン状の第2補助電極層(膜厚:15μm)を形成した。
以上の様にして、パターン状の補助電極層/透明導電層/透明基材からなる比較例1に係る透明導電積層体を得た。この比較例1に係わる透明導電積層体において、パターン状の補助電極層を有する透明導電層の膜特性は、可視光透過率:64.7%、ヘイズ値:3.5%、表面抵抗値:0.33Ω/□であった。また、透明導電層膜表面は、パターン状の補助電極層が幅:0.3mmで高さ:30μmの凸部を形成しているうえ、この補助電極層が形成されていない部分の透明導電層の平坦度はRa:12nmであった。
この比較例1に係わる透明導電積層体の補助電極層が形成された透明導電層の上に、色素増感型太陽電池のヨウ素系電解質液(LiI:0.5M、I:0.05M、残部:ポリエチレングリコール)を滴下し、室温で2時間放置した後、電解質耐性(外観、膜抵抗値)を調査したところ、補助電極層の主成分である銀が電解液で腐食し、膜抵抗値:220Ω/□となり導電性が大幅に悪化した。
また、実施例1と同様の方法で、比較例1に係わる透明導電積層体のパターン状の補助電極層が形成された透明導電層の上に、ホール注入層、ポリマー発光層、カソード電極層を形成し、比較例1に係る有機EL素子を作製した。この有機EL素子の透明導電層(アノード電極層)とカソード電極層の間に15Vの直流電圧を印加(アノード:+、カソード:−)したところ、補助電極層とカソード電極層の間で電気的短絡(ショート)が起こり、発光は起らなかった。
この比較例1の結果から、塗布法により形成された透明導電層及びその上に形成されたパターン状の補助電極層を備える従来タイプの透明電極の構造では、色素増感型太陽電池に適用した場合は電解質により補助電極が劣化して膜抵抗値が大幅に悪化し、また有機EL素子に適用した場合は補助電極層とカソード電極層との間で電気的短絡(ショート)が発生し、安定した発光を得ることが非常に困難なことが判る。
一方、前記本発明の実施例1〜5に係わる透明導電積層体を適用した場合は、色素増感型太陽電池における電解質の透明電極の腐食問題が発生せず、また有機EL素子においては、電気的短絡(ショート)発生せず、直流電圧の印加により安定した発光を確認することができる。更に、本発明の透明導電積層体では、パターン状の補助電極層を有する透明導電層の抵抗値が0.16〜0.33Ω/□程度と極めて低抵抗のため、大面積の色素増感型太陽電池や有機EL素子等のデバイス作製が可能となることが分る。
産業の利用可能性
以上のように、本発明の透明導電積層体を適用した場合、透明導電層と補助電極層の組合せによって極めて低抵抗値が得られると共に、補助電極層が透明電極層と透明基材の間にあって、透明導電層の素子(デバイス)形成側の表面が極めて平滑で凹凸や突起が存在しないため、素子電極間で電気的短絡を生ずることがない。従って、極めて低抵抗の透明電極層を備え、低コストで、大面積化が可能な色素増感型太陽電池や有機EL素子等のデバイスに用いるのに適している。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑な基板と、該平滑な基板上に塗布法により形成された透明導電層と、該透明導電層上にパターン状に形成された補助電極層と、該透明導電層及び補助電極層に接着剤層により接合された透明基材とを備え、前記平滑な基板が透明導電層から剥離可能であることを特徴とする透明導電積層体。
【請求項2】
前記補助電極層が、格子状、網目状、ハニカム状、平行ライン状、又は櫛歯状のパターンを有することを特徴とする、請求の範囲第1項に記載の透明導電積層体。
【請求項3】
前記補助電極層が、金属微粒子、カーボン微粒子、酸化ルテニウム微粒子から選ばれた少なくとも1種、あるいは金属微粒子、カーボン微粒子、酸化ルテニウム微粒子から選ばれた少なくとも1種とバインダー成分とで構成されていることを特徴とする、請求の範囲第1項又は第2項に記載の透明導電積層体。
【請求項4】
前記補助電極層が、透明導電層上に形成された第1補助電極と、該第1補助電極上に形成された第2補助電極とからなり、該第1補助電極がカーボン微粒子、ルテニウム微粒子、酸化ルテニウム微粒子から選ばれた少なくとも1種とバインダー成分とからなり、該第2補助電極が金属微粒子とバインダー成分とからなることを特徴とする、請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の透明導電積層体。
【請求項5】
前記補助電極層及び該補助電極層間に露出した透明導電層と前記接着剤層との間に、塗布法により形成された透明コート層を備えることを特徴とする、請求の範囲第1項〜第4項のいずれかに記載の透明導電積層体。
【請求項6】
前記透明導電層が、平均粒径1〜100nmの導電性酸化物微粒子とバインダー成分で構成されていることを特徴とする、請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の透明導電積層体。
【請求項7】
前記透明導電層が、圧延処理により導電性酸化物微粒子の緻密化がはかられていることを特徴とする、請求の範囲第1項〜第6項のいずれかに記載の透明導電積層体。
【請求項8】
前記接着剤層に、紫外線吸収剤、脱水剤、脱酸素剤から選択された少なくとも1種類の添加剤が配合されていることを特徴とする、請求の範囲第1項〜第7項のいずれかに記載の透明導電積層体。
【請求項9】
平滑な基板上に、溶媒中に導電性酸化物微粒子を分散させた透明導電層形成用塗布液を塗布・乾燥し、必要により硬化させて透明導電層を形成すると共に、該平滑な基板として透明導電層から剥離可能な基板を用い、該透明導電層上にパターン状に補助電極層を形成し、得られた補助電極層及び該補助電極層間に露出した透明導電層に、接着剤を用いて透明基材を接合することを特徴とする透明導電積層体の製造方法。
【請求項10】
前記透明導電層形成用塗布液を塗布・乾燥した後、圧延処理を施すことを特徴とする、請求の範囲第9項に記載の透明導電積層体の製造方法。
【請求項11】
前記補助電極層は、溶媒又はバインダーを含む溶媒中に金属微粒子、カーボン微粒子、酸化ルテニウム微粒子から選ばれた少なくとも1種を分散させた補助電極層形成用ペーストを、印刷・硬化させて形成されることを特徴とする、請求の範囲第9項又は第10項に記載の透明導電積層体の製造方法。
【請求項12】
前記補助電極層及び該補助電極層間に露出した透明導電層上に、バインダーを含有する透明コート層形成用塗布液を塗布・硬化させて透明コート層を形成した後、該透明コート層に接着剤を用いて透明基材を接合することを特徴とする、請求の範囲第9項〜第11項のいずれかに記載の透明導電積層体の製造方法。
【請求項13】
前記透明導電層形成用塗布液の導電性酸化物微粒子が、平均粒径1〜100nmの粒径を有していることを特徴とする、請求の範囲第9項〜第12項のいずれかに記載の透明導電積層体の製造方法。
【請求項14】
前記透明導電層形成用塗布液がバインダーを含むことを特徴とする、請求の範囲第9項〜第13項のいずれかに記載の透明導電積層体の製造方法。
【請求項15】
前記接着剤に、紫外線吸収剤、脱水剤、脱酸素剤から選択された少なくとも1種類の添加剤が配合されていることを特徴とする、請求の範囲第9項〜第14項のいずれかに記載の透明導電積層体の製造方法。
【請求項16】
請求の範囲第1項〜第8項のいずれかの透明導電積層体から平滑な基板を剥離した後の、接着剤層により接合された透明導電層と補助電極層とを備える透明基材が組み込まれていることを特徴とするデバイス。
【請求項17】
色素増感型太陽電池、あるいは有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする、請求の範囲第16項に記載のデバイス。

【国際公開番号】WO2005/041217
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515037(P2005−515037)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016054
【国際出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】