説明

透明導電膜用エッチング液組成物

【課題】
本発明の課題は、液晶ディスプレイなどに使用されるITO膜などの透明導電膜のエッチング処理において、シュウ酸インジウムの結晶析出の少ない透明導電膜用エッチング液組成物を提供することにある。
【解決手段】
本発明は、シュウ酸と、アルカリ性化合物(ただし、トリエタノールアミンを除く)とを含む、透明導電膜用エッチング液組成物とすることにより、透明導電膜のエッチング工程においてエッチング液中のインジウムが高濃度であっても、シュウ酸インジウムの結晶析出を効果的に防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ(LCD)やエレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)表示素子などに使用される、透明導電膜用のエッチング液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやエレクトロルミネッセンスディスプレイ表示素子などに使用される透明導電膜としては、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛などがあり、なかでもITO膜およびIZO膜が広く用いられている。透明導電膜のパターニング方法としては、ガラスなどの基板上に透明導電膜をスパッタ法などにより成膜後、フォトリソグラフィー法によりレジストパターンを形成し、透明導電膜をエッチングすることで電極パターンを形成する方法が一般的である。
透明導電膜のエッチング液としては、従来、(1)塩化鉄水溶液、(2)ヨウ素酸水溶液、(3)リン酸水溶液、(4)塩酸−硝酸混合液(王水)、および(5)シュウ酸水溶液、などの酸化インジウムを溶解する成分を含むエッチング液が提案されている。
【0003】
ITO膜としては、従来は、比抵抗や透過率などの透明導電膜としての基本特性が良好な多結晶ITO膜が使用されてきたが、近年は、表示素子の大型化、高精細化、高性能化に伴い、加工精度の向上、プロセス温度の低温化、表面平坦性の向上などが求められており、これらの要求を満たす透明導電膜として、非晶質ITO膜やIZO膜が使用されるに至っている。
【0004】
非晶質ITO膜やIZO膜などの透明導電膜のエッチング液としては、安価で安定性に優れ、実用的なエッチング速度を有し且つAl配線へのダメージが小さいシュウ酸水溶液が広く用いられている。しかしながら、シュウ酸水溶液による透明導電膜のエッチングでは、シュウ酸インジウムの結晶が析出しやすいという問題がある。
【0005】
通常、エッチング液はエッチング装置内で循環させて繰り返し使用されるため、シュウ酸を含むエッチング液を用いて透明導電膜をエッチングすると、エッチング液中のインジウム濃度が上昇し、シュウ酸インジウムの結晶が析出し易い。一度析出すると、それを核として結晶成長が進行して粗大な結晶物が形成され、装置内に付着する。結果として、装置の動作不良やフィルターの目詰まり、基板へのダメージなどの問題が生じる。
シュウ酸インジウムは極めて難溶性の塩であるため、エッチング液中で再溶解しにくく、また水にも溶解しにくい。このため、装置内に析出した結晶物を取り除くには、装置内のエッチング液を抜いた後、手作業による除去や薬液による溶解除去など、何らかの方法で除去するしかなく、スループットの低下、コストアップに繋がる。また目詰まりしたフィルターは、何らかの方法で結晶物を除去するか、あるいはフィルターを更新するしかなく、これもまたスループットの低下、コストアップに繋がる。このように、シュウ酸を含有するエッチング液を用いた透明導電膜のエッチングでは、シュウ酸インジウムの結晶が析出し易いことが大きな問題となっている。
【0006】
この問題の対策として、前述のシュウ酸以外の酸化インジウムを溶解する成分の使用が挙げられるが、塩化鉄水溶液は、サイドエッチング量が大きく、半導体に悪影響を及ぼすFeを含有するという欠点を有する。またヨウ素酸水溶液は、ヨウ素を遊離しやすく安定性に欠ける上に、高価であるという欠点を有する。さらにリン酸水溶液は、Al配線にダメージを与え、エッチング残渣が生じやすいという欠点を有する。また塩酸−硝酸混合液(王水)は、経時変化が著しく、プロセスコントロールが困難で、デリバリーすることができないという欠点を有する。
【0007】
さらに、シュウ酸を主成分とするエッチング液による非晶質ITO膜やIZO膜などの透明導電膜のエッチングでは、エッチング残渣が生じやすいという問題がある。
この問題を解決する方法として、本発明者らは、シュウ酸と、ポリスルホン酸化合物およびポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーからなる群から選択される1種または2種以上の化合物とを含有する、ITO膜用エッチング液組成物を提案した(特許文献1)。また、シュウ酸とアミノカルボン酸またはトリエタノールアミンとを含有するITO膜用エッチング液組成物(特許文献2)、シュウ酸とカルボン酸を含有する非晶質ITO膜用エッチング剤(特許文献3)、パーフルオロアルキル基含有リン酸エステル塩、シュウ酸、および水を含有するITO膜およびIZO膜用エッチング液組成物(特許文献4)、シュウ酸とフッ素系界面活性剤とを含有するITO膜およびIZO膜用エッチング液組成物(特許文献5)などが提案されているが、これらのシュウ酸を含むエッチング液は、実用的なエッチング速度を有しエッチング残渣の防止には効果が認められるものの、前述のシュウ酸インジウムの結晶析出の問題は全く認識されておらず未解決のままである。
【0008】
さらに、シュウ酸を含まないエッチング液として、スルファミン酸と、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩またはポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルを含有する水溶液からなる非晶質ITO膜用エッチング剤組成物(特許文献6)などが提案されているが、これらのシュウ酸を含まないエッチング液は、シュウ酸インジウムの結晶が析出せずエッチング残渣の防止には効果が認められるものの、シュウ酸を含む水溶液に比べてエッチング速度が遅くスループットが低下するなどの問題がある。
【0009】
以上のように、シュウ酸以外の酸化インジウムを溶解する無機酸などを主成分とした既存のエッチング液では、エッチングの特性およびエッチング液の安定性などの点で使用上大きな問題があり、シュウ酸を主成分とするエッチング液に匹敵する優れた特性を有するエッチング液は存在しない。また、シュウ酸を主成分とするエッチング液では、その優れた特性を維持し、さらにシュウ酸インジウムの結晶析出を抑制可能なエッチング液は未だ存在しない。
したがって現在、シュウ酸を主成分とするエッチング液を、インジウムを含む透明導電膜のエッチング工程に使用する際の結晶析出の対策としては、使用後のエッチング液をナノ濾過膜で濾過して再生する方法、装置の定期的なメンテナンス、および結晶が析出しにくい装置構造にするなど、装置側でのみ対策がなされているのが現状である(特許文献7および非特許文献1)。
【0010】
【特許文献1】特開2002−164332号公報
【特許文献2】特開2002−033304号公報
【特許文献3】特開2003−306676号公報
【特許文献4】特開2005−116542号公報
【特許文献5】特開2005−244083号公報
【特許文献6】特開2002−367974号公報
【特許文献7】特開2006−013158号公報
【非特許文献1】2007年12月17日第1刷、株式会社情報機構発行「最新透明導電膜大全集」p556〜p557
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって本発明の課題は、液晶ディスプレイなどに使用される非晶質ITOおよびIZOなどの透明導電膜のエッチング工程において、シュウ酸インジウムの結晶析出を防止して、スループットの向上およびコスト低下に寄与できる、透明導電膜用エッチング液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねる中で、シュウ酸と、アルカリ性化合物とを含む透明導電膜用エッチング液組成物が、シュウ酸を主成分とするエッチング液の優れた特性を有し、かつシュウ酸インジウムの結晶析出を抑制できることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、シュウ酸と、アルカリ性化合物(ただし、トリエタノールアミンを除く)とを含む、透明導電膜用エッチング液組成物に関する。
また本発明は、アルカリ性化合物が、水酸化第四級アンモニウム類、アルカリ金属類の水酸化物、アルカノールアミン類(ただし、トリエタノールアミンを除く)およびヒドロキシルアミン類からなる群より選ばれる1種または2種以上である、前記透明導電膜用エッチング液組成物に関する。
さらに本発明は、pHが1.1〜5.0である、前記透明導電膜用エッチング液組成物に関する。
また本発明は、さらにポリスルホン酸化合物、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーおよびスルフォネート型アニオン界面活性剤からなる群より選ばれる1種または2種以上の化合物含む、前記透明導電膜用エッチング液組成物に関する。
さらに本発明は、さらに水溶性ポリマーを1種または2種以上含む、前記透明導電膜用エッチング液組成物に関する。
また本発明は、酸化インジウムを含む透明導電膜のエッチングに用いる、前記透明導電膜用エッチング液組成物に関する。
さらに本発明は、前記透明導電膜用エッチング液組成物を用いる、透明導電膜のエッチング方法に関する。
【0014】
シュウ酸インジウムの結晶が析出し易い原因は、シュウ酸水溶液中におけるインジウムの溶解度が低い点にあると考えられる。本発明者らの調査では、シュウ酸水溶液中におけるインジウムの溶解量は300ppm程度であり、それ以上の濃度ではシュウ酸インジウムの結晶が析出し易いことが判明している。つまりシュウ酸水溶液中におけるインジウムの溶解量を増加させることが、シュウ酸インジウムの結晶析出を抑制することに繋がると考えられる。
【0015】
本発明の透明導電膜用エッチング液組成物が、アルカリ性化合物を含むことにより、シュウ酸インジウムの結晶析出を抑制する理由は必ずしも明らかではないが、液中において、pHが高くなるに従い、インジウムに対してシュウ酸よりもOH基やアミン、第4級アンモニウムとの錯体が生成しやすい条件となり、シュウ酸インジウムの生成が抑制され、結果的にインジウムの溶解量が増加するためと考えられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の透明導電膜用エッチング液組成物により、透明導電膜のエッチング工程において、シュウ酸インジウムの結晶析出が抑制されるため、エッチング液の液ライフが延命し、また結晶の除去作業が軽減されるため、スループットの向上とコスト低減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明の透明導電膜とは、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)および酸化インジウムなどからなる透明導電膜であり、とくに非晶質ITO膜およびIZO膜からなる透明導電膜である。また本発明の透明導電膜用エッチング液組成物は、液晶ディスプレイおよびエレクトロルミネッセンスディスプレイなどの製造工程における、上記透明導電膜のエッチング工程において用いられるエッチング液組成物である。
【0018】
本発明のエッチング液組成物に用いるシュウ酸の濃度は、エッチング速度が実用上十分であること、シュウ酸の結晶が析出しないことなどを考慮して適宜決定するが、好ましくは0.1〜10重量%であり、より好ましくは0.3〜8重量%であり、とくに好ましくは0.5〜6重量%である。シュウ酸の濃度が低いとエッチング速度が低下し、シュウ酸の濃度が高いとシュウ酸の結晶が析出する傾向があるところ、シュウ酸の濃度が上記の範囲であれば、実用的なエッチング速度が得られ、またシュウ酸の結晶が析出して保存性やデリバリーにあたって支障を来すおそれがなく好ましい。
【0019】
本発明のエッチング液組成物に用いるアルカリ性化合物は、インジウム溶解量およびエッチング速度などを考慮して選択されるが、本発明のエッチング液組成物は、アルカリ成分を加えた際のエッチング速度の低下が小さいことが特徴であり、インジウム溶解量とエッチング速度のバランスがとくに重要である。本発明のエッチング液組成物に用いるアルカリ性化合物としては、典型的には、水酸化第四級アンモニウム類、アルカリ金属類の水酸化物、アルカノールアミン類(ただし、トリエタノールアミンを除く)およびヒドロキシルアミン類などが挙げられる。
具体的には、水酸化第四級アンモニウム類としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、コリンなどが挙げられる。
また、アルカリ金属類の水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0020】
さらに、アルカノールアミン類としては、モノアルカノールアミン類、ジアルカノールアミン類、トリエタノールアミンを除くトリアルカノールアミン類などが挙げられる。モノアルカノールアミン類としては、例えば、モノエタノールアミン、2−メチルアミノエタノール、2−エチルアミノエタノール、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、1−アミノ−2−プロパノール、モノプロパノールアミン、ジメチルアミノエタノール、およびこれらの塩などが挙げられる。またジアルカノールアミン類としては、例えば、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジブタノールアミン、およびこれらの塩などが挙げられる。上記アルカノールアミン類のうち、インジウム溶解量およびエッチング速度などの観点から、好ましくはモノアルカノールアミン類、ジアルカノールアミン類などが挙げられ、より好ましくはモノアルカノールアミン類などが挙げられ、とくに好ましくはモノエタノールアミンなどが挙げられる。
さらに、ヒドロキシルアミン類としては、例えば、ヒドロキシルアミン、N−メチルヒドロキシルアミン、N,N−ジメチルヒドロキシルアミン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン、塩酸ヒドロキシルアミンなどが挙げられ、好ましくはヒドロキシルアミンなどが挙げられる。
なお、これらのアルカリ性化合物は、用途に応じて1種または2種以上含んでも良い。
【0021】
本発明のエッチング液組成物に用いるアルカリ性化合物の濃度は、インジウム溶解量、シュウ酸インジウムの結晶析出、エッチング液組成物のpHおよびエッチング速度などを考慮して適宜決定するが、好ましくは0.1〜10重量%であり、より好ましくは0.3〜7重量%であり、とくに好ましく0.5〜5重量%である。アルカリ性化合物の濃度が低いとシュウ酸インジウムの結晶が析出しやすく、濃度が高いとエッチング速度が低下する傾向があるところ、アルカリ性化合物の濃度が上記の範囲であれば、十分なシュウ酸インジウムの結晶析出防止効果と実用的なエッチング速度が得られるため好ましい。
【0022】
本発明のエッチング液組成物のpHは、インジウム溶解量、シュウ酸インジウムの結晶析出およびエッチング速度などを考慮して適宜決定するが、好ましくは1.1〜5.0であり、より好ましくは1.2〜4.0であり、とくに好ましくは1.3〜3.0である。pHが低いとシュウ酸インジウムの結晶が析出しやすく、pHが高いとエッチング速度が低下する傾向があるところ、pHが上記の範囲であれば、十分なシュウ酸インジウムの結晶析出防止効果と実用的なエッチング速度が得られるため好ましい。
【0023】
本発明のエッチング液組成物において、シュウ酸とアルカリ性化合物とを含む本発明の組成物のpHと、アルカリ性化合物を含まないこと以外は同一組成の組成物のpHとを比較した場合の、アルカリ性化合物を加えることによるpHの変化量ΔpHは、インジウム溶解量、シュウ酸インジウムの結晶析出およびエッチング速度などを考慮して適宜決定し、加えるアルカリ性化合物の種類および濃度などにより適宜調整する。
ΔpHの範囲は、好ましくは0.1〜4.0であり、より好ましくは0.3〜3.0であり、とくに好ましくは0.5〜2.0である。ΔpHが小さいとシュウ酸インジウムの結晶が析出しやすく、ΔpHが大きいとエッチング速度が低下する傾向があるところ、ΔpHが上記の範囲であれば、十分なシュウ酸インジウムの結晶析出防止効果と実用的なエッチング速度が得られるため好ましい。
【0024】
本発明のエッチング液組成物のエッチング速度は、処理時間および均一なエッチングなどを考慮して、シュウ酸の濃度、加えるアルカリ性化合物の種類および濃度などにより適宜調整する。
【0025】
また本発明のエッチング液組成物は、前記の効果を妨げない範囲で、エッチング残渣を除去するための成分をさらに含有させることができる。このような目的で用いられる成分としては、ポリスルホン酸化合物、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、スルフォネート型アニオン界面活性剤などが望ましい。
ポリスルホン酸化合物としては、例えば、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびその塩、ポリスチレンスルホン酸およびその塩、リグニンスルホン酸およびその塩などが挙げられる。ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびその塩としては、具体的には、ルノックス1000C、1500A、イオネットD−2、三洋レベロンPHL(以上、東邦化学工業株式会社)、ローマPWA−40(サンノプコ株式会社)、デモールN(花王株式会社)、ポリティN−100K(ライオン株式会社)、ラベリンFH−P(第一工業製薬株式会社)などの商品名で市販されている。リグニンスルホン酸およびその塩としては、具体的には、ソルポール9047K(東邦化学工業株式会社)、サンエキス(日本製紙ケミカル株式会社)などの商品名で市販されている。これらポリスルホン酸化合物のうちナトリウムなどの金属を含有するものは、電子工業用として使用する場合は好ましくなく、イオン交換樹脂などで処理し、ナトリウムを除去する事により使用可能となる。
【0026】
ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーは、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンの割合および分子量により種々のタイプがあり、具体的には、例えば、ニューポールPEシリーズ(三洋化成工業株式会社)、エパンシリーズ(第一工業製薬株式会社)などの商品名で市販されている。
スルフォネート型アニオン界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸のようなアルキルベンゼンスルホン酸エステルおよびその塩、アルキル硫酸エステルおよびその塩、スルホコハク酸のジアルキルエステルおよびその塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸およびその塩、ポリオキシエチレンアリルエーテルスルホン酸およびその塩などが挙げられる。その中でもポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸およびその塩、ポリオキシエチレンアリルエーテルスルホン酸およびその塩は、比較的発泡が少なくとくに好ましいものであり、ニューコールシリーズ(日本乳化剤株式会社)などの商品名で市販されている。なお、これらの化合物は、用途に応じて1種または2種以上含有しても良い。
【0027】
本発明のエッチング液組成物に用いる、ポリスルホン酸化合物、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、および/またはスルフォネート型アニオン界面活性剤の濃度は、十分なエッチング残渣の除去効果を得る観点から、好ましくは0.0001〜10重量%であり、とくに好ましくは0.001〜10重量%である。
【0028】
さらに本発明のエッチング液組成物は、前記の効果を妨げない範囲で、シュウ酸インジウムの結晶析出をさらに抑制するための成分を含有させることができる。このような目的で用いられる成分としては、スケール防止効果を有する水溶性ポリマーが望ましい。
水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、アクリル酸−マレイン酸共重合体、アクリル酸−スルホン酸系共重合体、アクリル酸−スチレン共重合体およびそれらの塩などが挙げられる。具体的には、例えば、アクアリックシリーズ(株式会社日本触媒)、アロンシリーズ(東亞合成株式会社)、ポリティシリーズ(ライオン株式会社)などの商品名で市販されている。これらの水溶性ポリマーのうちナトリウムなどの金属を含有するものは、電子工業用として使用する場合は好ましくなく、イオン交換樹脂などで処理し、ナトリウムを除去する事により使用可能となる。なお、これらの水溶性ポリマーは、用途に応じて1種または2種以上含有しても良い。
【0029】
本発明のエッチング液組成物に用いる水溶性ポリマーの濃度は、十分な結晶析出抑制効果を得る観点から、好ましくは0.001〜10重量%であり、とくに好ましくは0.01〜10重量%である。またこれらの水溶性ポリマーの分子量は、好ましくは200〜100,000であり、とくに好ましくは500〜10,000である。
【0030】
本発明のエッチング液組成物は、室温または加熱して使用することができ、所望のエッチング速度およびエッチング時間が得られるように条件を適宜設定して使用する。
本発明のエッチング液組成物を用いた、透明導電膜のエッチング方法としては、スプレーノズルよりエッチング液を基板上に供給するスプレー処理、基板をエッチング液に直接浸漬し、基板自体を揺動あるいはエッチング液を撹拌するディップ処理などが挙げられる。
【0031】
以下に本発明の実施例と比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0032】
(エッチング液の組成)
本発明の実施例および比較例のエッチング液の組成を表1に示す。
【表1】

【0033】
(インジウムの溶解性評価)
表1に示した各エッチング液を50℃に加温しながら、酸化インジウム粉末(平均粒径1μm、純度99.99%)を所定のインジウム濃度となるように添加し、2〜3時間撹拌した。酸化インジウム粉末が十分に溶解したのを目視にて確認後、各エッチング液を0.2μmフィルターで濾過し、濾液を容器に密閉して37℃に設定した恒温槽内に静置し、所定時間毎に結晶析出の有無を目視にて確認した。また各エッチング液のpHを測定した。なおエッチング液中のインジウム溶解量は、添加したインジウムの重量、エッチング液の容量および濾過前後のフィルター重量変化量から算出した。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表2に示すように、比較例1〜5のようなアルカリ性化合物を含有しないエッチング液では、インジウム溶解量が小さく24時間以内に結晶析出が認められた。これに対して、本発明の実施例1〜13のアルカリ性化合物を含有するエッチング液では、インジウム溶解量が大きく、また168時間(7日)以上にわたり結晶析出が起こらず液安定性に極めて優れていた。これらの結果より、インジウム溶解量を増加させることがシュウ酸インジウムの結晶析出の抑制に有効であり、本発明のエッチング液組成物が、極めて優れたシュウ酸インジウムの結晶析出抑制の効果を有することがわかる。本発明のエッチング液組成物では、上記のインジウム溶解量および液安定性と、後述するエッチング速度のバランスがとくに重要である。
また、比較例2および3のようにシュウ酸濃度を低下させ、pHを1.3〜1.5とした組成でも結晶析出が認められることから、シュウ酸を含むエッチング液のpHを単純に上げるだけでは効果がなく、アルカリ性化合物を含有させることが、シュウ酸インジウムの結晶析出抑制に極めて有効であることがわかる。
【0036】
(エッチング速度の評価)
表1に示した各エッチング液を40℃に加温して、800Åの膜厚のアモルファスITO膜上にレジストパターンを形成した基板を、1分間各エッチング液に浸漬した後、水洗、乾燥した後にレジストを剥離して、触針式膜厚計によりエッチング量を測定してエッチング速度を計算した。結果を表3に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
表3に示すように、本発明の実施例1〜13のアルカリ性化合物を含有するエッチング液は、比較例1〜5のアルカリ性化合物を含有しないエッチング液と比較して、エッチング速度が若干小さいものの、非晶質ITO膜に対して実用上十分なエッチング速度を有していることが分かる。
【0039】
(残渣除去性評価)
ガラス基板上にITO膜を形成した基板を、エッチング速度から算出されるジャストエッチング時間の1.4倍の時間でエッチング処理したものについて、電子顕微鏡観察を行いエッチング後の残渣を評価した。また、ガラス基板上に窒化ケイ素(SiN)膜を形成し、さらにITO膜を形成した基板を、同様にエッチング速度から算出されるジャストエッチング時間の1.4倍の時間でエッチング処理したものについて、電子顕微鏡観察を行いエッチング後の残渣を評価した。結果を表4に示す。
【0040】
【表4】

【0041】
表4に示すように、比較例1のシュウ酸のみを含有するエッチング液では、ガラス基板上およびSiN膜上ともに全面に残渣が認められたのに対し、実施例12および13のシュウ酸、アルカリ性化合物およびポリスルホン酸化合物を含有するエッチング液では、比較例5のシュウ酸およびポリスルホン酸を含有するエッチング液と同等の残渣除去能力を有することがわかる。
【0042】
上記表1〜4の結果より、本発明のエッチング液組成物は、インジウム溶解量が大きく、またインジウムを溶解した後の液安定性が格段に高いことから、極めて優れたシュウ酸インジウムの結晶析出抑制の効果を有することがわかる。
また、アルカリ性化合物を含有しない従来のシュウ酸を主成分とするエッチング液と同等の、実用上十分なエッチング速度を有することがわかる。
さらに、アルカリ性化合物を含有しない従来のシュウ酸を主成分とするエッチング液と同様に、ポリスルホン酸化合物などを添加することにより、優れた残渣除去能力を付与することが可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、シュウ酸とアルカリ性化合物とを含むエッチング液組成物を用いて、ガラスなどの基板上に成膜されたITOおよびIZOなどの透明導電膜をエッチングすることにより、エッチング装置内へのシュウ酸インジウムの結晶析出を効果的に抑制することが可能となり、エッチング液の液ライフが大幅に延命して、装置内の結晶の除去作業およびフィルターの交換頻度などが軽減され、スループットの向上とコスト低減が可能となる。したがって、ITO膜やIZO膜などの透明導電膜が用いられる、液晶ディスプレイやエレクトロルミネッセンスディスプレイなどの製造技術分野においてとくに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュウ酸と、アルカリ性化合物(ただし、トリエタノールアミンを除く)とを含む、透明導電膜用エッチング液組成物。
【請求項2】
アルカリ性化合物が、水酸化第四級アンモニウム類、アルカリ金属類の水酸化物、アルカノールアミン類(ただし、トリエタノールアミンを除く)およびヒドロキシルアミン類からなる群より選ばれる1種または2種以上である、請求項1に記載の透明導電膜用エッチング液組成物。
【請求項3】
pHが、1.1〜5.0である、請求項1または2に記載の透明導電膜用エッチング液組成物。
【請求項4】
さらにポリスルホン酸化合物、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーおよびスルフォネート型アニオン界面活性剤からなる群より選ばれる1種または2種以上の化合物を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電膜用エッチング液組成物。
【請求項5】
さらに水溶性ポリマーを1種または2種以上含む、請求項1〜4のいずれかに記載の透明導電膜用エッチング液組成物。
【請求項6】
酸化インジウムを含む透明導電膜のエッチングに用いる、請求項1〜5のいずれかに記載の透明導電膜用エッチング液組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の透明導電膜用エッチング液組成物を用いる、透明導電膜のエッチング方法。

【公開番号】特開2010−45253(P2010−45253A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209103(P2008−209103)
【出願日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(591045677)関東化学株式会社 (99)
【Fターム(参考)】