説明

通信機及び携帯電話

【課題】無線通信により得られる情報を、事故等の緊急事態発生後の事後処理に利用することができる通信機を提供する。
【解決手段】車載通信機3は、他の通信機の移動状態を示す挙動情報を取得する電波変動検出部32aと、前記挙動情報を中央装置4に蓄積させる蓄積処理を実行する蓄積処理部32eと、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、高度道路交通システム等に用いることができる通信機及び携帯電話に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通の安全性向上の促進や、交通事故の防止を目的として、道路に設置されたインフラ装置からの情報を受信し、この情報を活用することで車両の安全性を向上させる高度道路交通システムが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
この交通システムは、主に、インフラ側の無線通信装置である複数の路側通信機と、各車両に搭載される無線通信装置である車載通信機(移動通信機)とによって構成される。
【0003】
この場合、各通信主体間で行う通信の組み合わせには、路側通信機同士が行う路路間通信と、路側通信機と車載通信機とが行う路車(又は車路)間通信と、車載通信機同士が行う車車間通信とが含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2806801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、上記高度道路交通システムでは、路車間、又は車車間通信が随時行われ、各車両それぞれの現時の位置や速度等の情報を取得し、これら情報を用いることで互いの衝突等を回避する等、未然に事故が発生するのを防止することで交通安全性が高められる。
上記無線通信から得られる情報は、事故を未然に防止することに用いられる一方、実際に事故やその他の緊急事態が生じた後の事後処理に利用する試みはなされていなかった。
【0006】
実際に事故等の緊急事態が生じたときには、事後の処理としては、緊急事態が発生したことを速やかに警察署や消防署等に通報し把握させる必要がある。またさらに、その緊急事態が複数の車両間が関与した事故である場合には、その事故が生じた原因を特定する必要がある。
【0007】
従来は、緊急事態の発生をその当事者や周囲の目撃者が警察署や消防署等に通報することにより把握させていたが、この場合、周囲に誰もいなかったり、当事者自身が警察署等に連絡することができない場合、その緊急事態の把握が遅れてしまうおそれがある。
また、緊急事態の発生原因の特定については、事後状態を検証することで、緊急事態直前の当事者の状態を推定し、その発生原因を特定していたが、あくまで事後状態の検証なので、正確な発生原因の特定が困難であるという問題を有している。
【0008】
ここで、上記無線通信を行っていた車載通信機が搭載されている車両等に緊急事態が発生した場合、緊急事態の発生前後において無線通信から得られる情報は、上記のような緊急事態の事後処理に利用できる可能性を含んでいる。そこで、上記無線通信から得られる情報を、事故の未然防止のみならず、緊急事態の事後処理に対しても利用するための方策が嘱望されていた。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、無線通信により得られる情報を、事故等の緊急事態発生後の事後処理に利用することができる通信機(携帯電話を含む)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明は、他の通信機との間で無線通信を行う通信機であって、前記他の通信機の移動状態を示す挙動情報を取得する挙動情報取得手段と、前記挙動情報を自己、又は外部の記録装置に蓄積させる蓄積処理を実行する蓄積処理手段と、を備えていることを特徴としている。
【0011】
上記構成の通信機によれば、他の通信機の移動状態を示す挙動情報を取得し、その挙動情報について自己、又は外部の記録装置に蓄積させる蓄積処理を実行するので、蓄積された挙動情報によって他の通信機の移動状態を監視、把握することができる。従って、他の通信機に緊急事態が発生したときに、その緊急事態が発生したことを速やかに把握できるとともに、当該他の通信機の移動状態を、その緊急事態が発生する前に遡って把握することができる。この結果、無線通信により得られる情報を事故等の緊急事態発生後の事後処理に利用することができる。
【0012】
(2)上記通信機において、前記挙動情報取得手段が取得する挙動情報に基づいて、前記蓄積処理手段に前記蓄積処理を実行させるか否かを判定し、前記蓄積処理手段に前記蓄積処理を実行させると判定すると、前記蓄積処理手段に前記蓄積処理を実行させる判定手段をさらに備えていることが好ましい。
この場合、他の通信機の移動状態の変化に応じて、蓄積処理手段に蓄積処理を実行させることができるので、例えば、挙動情報取得手段が取得した挙動情報が緊急事態と判断できるような挙動変動を示す場合に、前記蓄積処理を実行させると、判定手段により判定するようにすることで、緊急事態が生じたことをより速やかに把握できるとともに、緊急事態が生じたときの挙動情報について確実に蓄積処理を実行することができる。
【0013】
(3)また、上記通信機において、前記挙動情報取得手段が取得する挙動情報を一時的に保存するバッファリング手段をさらに備え、前記蓄積処理手段は、前記判定手段が当該蓄積処理手段に前記蓄積処理を実行させると判定すると、前記バッファリング手段に一時的に保存された前記挙動情報について前記蓄積処理を行うものであってもよい。
この場合、蓄積処理手段は、判定手段の判定に応じて、バッファリング手段に一時的に保存された他の通信機の挙動情報について前記蓄積処理を行うので、必要な挙動情報のみを蓄積することができる。また、バッファリング手段には、過去の挙動情報を継続的にバッファリングすることができるので、蓄積処理手段は、蓄積処理を実行させると判定したときから過去に遡った挙動情報について前記蓄積処理を行うことができる。
【0014】
(4)上記通信機において、前記バッファリング手段によるバッファリングの停止、実行を制御する制御手段をさらに備えていてもよい。
この場合、他の通信機の挙動情報を蓄積する必要がない状態にあると判断できる場合、バッファリングを停止させることができ、常時バッファリングを行う場合と比較して、当該通信機の消費電力を抑えることができる。
【0015】
(5)前記蓄積処理手段は、蓄積すべき前記挙動情報を前記外部の記録装置に送信するための送信手段を備えていてもよい。
外部の記録装置とは有線又は無線により接続される。蓄積処理手段は、送信手段によって、他の通信機の挙動情報を外部の記録装置に送信することができるので、当該外部の記録装置に挙動情報を蓄積させることができる。
【0016】
(6)また、本発明の他の態様によれば、他の通信機との間で無線通信可能な携帯電話であって、前記他の通信機の移動状態を示す挙動情報を取得する挙動情報取得手段と、前記挙動情報を自己、又は外部の記録装置に蓄積させる蓄積処理を実行する蓄積処理手段と、を備えていることを特徴とする携帯電話を提供する。
【0017】
上記構成の携帯電話によれば、他の通信機の移動状態を示す挙動情報を取得し、その挙動情報について自己、又は外部の記録装置に蓄積させる蓄積処理を実行するので、蓄積された挙動情報によって他の通信機の移動状態を監視、把握することができる。従って、他の通信機に緊急事態が発生したときに、その緊急事態が発生したことを速やかに把握できるとともに、当該他の通信機の移動状態を、その緊急事態が発生する前に遡って把握することができる。この結果、無線通信により得られる情報を事故等の緊急事態発生後の事後処理に利用することができる。
【0018】
(7)前記他の通信機が車載通信機であることが好ましい。
この場合、携帯電話を持っている歩行者等と、車載通信機を搭載した車両との間で緊急事態が生じた場合、当該携帯電話は、その緊急事態が発生したことを速やかに把握できるとともに、その車載通信機(が搭載された車両)の移動状態を、その緊急事態が発生する前に遡って把握することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明の通信機及び携帯電話によれば、無線通信により得られる情報を、事故等の緊急事態発生後の事後処理に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】高度道路交通システムの全体構成を示す概略斜視図である。
【図2】高度道路交通システムの一部を示す平面図である。
【図3】高度道路交通システムと、携帯無線通信システムとの関係を示した図である。
【図4】路側通信機、車載通信機、及び中央装置の内部構成を示すブロック図である。
【図5】車両同士が接触したときの各通信機の動作を説明するための図である。
【図6】携帯通信機、及び基地局の内部構成を示すブロック図である。
【図7】車両同士が接触したときの携帯通信機の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔システムの全体構成〕
図1は、高度道路交通システム(ITS)の全体構成を示す概略斜視図であり、図2は、上記高度道路交通システムの監視エリアの一部を示す平面図である。
図1及び図2に示すように、高度道路交通システムは、交通信号機1、路側通信機2、車載通信機3、中央装置4、及び、車載通信機(移動通信機)3を搭載した車両(移動体)5等を含む。
また、図中、歩行者Hが携帯する、いわゆる携帯電話である携帯通信機10は、車載通信機3の送信信号が受信可能であり、この携帯通信機10も、前記高度道路交通システムに含まれる。
【0022】
各交通信号機1は、複数の交差点Ci(図例では、i=1〜12)のそれぞれに設置されており、電話回線等の通信回線7を介してルータ8に接続されている。このルータ8は交通管制センター内の中央装置4に接続されている。
中央装置4は、自身が管轄する制御エリアに含まれる各交差点Ciの交通信号機1及び路側通信機2とLAN(Local Area Network)を構成している。従って、中央装置4は、各交通信号機1及び各路側通信機2との間で双方向通信が可能である。なお、中央装置4は、交通管制センターではなく道路上に設置してもよい。
なお、図1及び図2では、図示を簡略化するために、各交差点Ciに信号灯器が1つだけ描写されているが、実際の各交差点Ciには、互いに交差する道路の上り下り用として少なくとも4つの信号灯器が設置されている。また、図2では、互いに交差する2つの道路の各々が上りと下りで片側1車線のものとして例示されているが、道路構造はこれに限られるものではない。
【0023】
〔無線通信の方式等〕
図2において、本実施形態の交通システムは、車載通信機3との間で無線通信が可能な複数の路側通信機2と、キャリアセンス方式(CSMA/CA)で他の通信機2,3と無線通信を行う移動無線送受信機の一種である車載通信機3とを備えている。
【0024】
複数の路側通信機2は、それぞれ路側の交差点ごとに設置されていて、図1及び図2の例では交通信号機1の支柱に取り付けられている。一方、車載通信機3は、道路を走行する各車両5にそれぞれ搭載されている。
各路側通信機2は、その周囲に広がる所定範囲の通信エリアAをそれぞれ有し、この通信エリアAを走行する各車両5の車載通信機3と通信可能である。通信エリアAは、路側通信機2が電波を送信している領域であり、車載通信機3が当該電波を受信可能な領域である。
なお、路側通信機2が設置されていない郊外などでは、路側通信機2の通信エリアは存在しないことになる。
【0025】
本実施形態の交通システム(通信システム)では、路側通信機2と車載通信機3との間(「路」から「車」への路車間通信と「車」から「路」への車路間通信との双方を含む。)、及び、車載通信機3同士(車車間通信)において無線通信が用いられている。これらの通信には、同一の通信帯域が使用される。
【0026】
携帯通信機10は、基地局9との間で、無線信号の送受信を行うことで、他の携帯通信機10の間で通信可能であり、基地局9及び複数の携帯通信機10は、前記高度道路交通システムとは独立した携帯無線通信システムを構成している。
図3は、高度道路交通システムと、携帯無線通信システムとの関係を示した図である。
高度道路交通システムは、上述のように、中央装置4と、この中央装置4との間で双方向通信可能な路側通信機2と、他の通信機(2,3)と通信可能な車載通信機3とを含んで構成されている。
一方、携帯無線通信システムは、基地局9と、この基地局9との間で通信を行うことで、互いに通信可能な複数の携帯通信機10とによって構成されている。携帯通信機10は、路側通信機2及び車載通信機3が用いる通信帯域の無線信号の受信を行うことができる。このため、携帯通信機10は、高度道路交通システムとは異なる携帯無線通信システムに属しているが、高度道路交通システムの構成要素としての機能も有している。
【0027】
〔第一の実施形態〕
〔路側通信機について〕
図4は、路側通信機2、車載通信機3、及び中央装置4の内部構成を示すブロック図である。
路側通信機2は、無線通信のためのアンテナ20に接続された無線送受信部(無線通信部)21と、中央装置4と双方向通信する有線送受信部(有線通信部)22と、これらの通信制御を行うプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)等よりなる制御部23と、制御部23に接続されたROMやRAM等の記憶装置よりなる記憶部24とを備えている。
無線通信部21は、無線通信のために通常用いられる構成とすることができ、発振器、変調器、復調器、アンプ等を備えている。
記憶部24は、制御部23が実行する通信制御のためのコンピュータプログラムや、各通信機2,3の通信機ID等を記憶している。
【0028】
路側通信機2の制御部23は、電波変動検出部23a、判定部23b、及び蓄積処理部23cを機能的に有している。
電波変動検出部23aは、当該路側通信機2以外の他の通信機2,3からの送信信号を受信したときの電波変動を、当該他の通信機2,3が有する通信機IDと対応付けつつ検出する。より具体的には、電波変動検出部23aは、送信信号の電波変動として、その送信頻度、受信電力、及びドップラ周波数それぞれの変動を送信元の通信機の通信機IDと対応付けて経時的に検出する。電波変動検出部23aは、他の通信機2,3が送信する既知周波数の信号に基づいてドップラ周波数を検知する。
これら受信電力、送信頻度、及びドップラ周波数それぞれの変動は、送信信号の送信元である自己以外の他の通信機の移動状態としての移動速度の変動を推定する情報として用いることができる。なお、この点については、後に詳述する。
【0029】
電波変動検出部23aは、自己以外の他の通信機との間の無線通信によって電波変動を検出し、その検出結果を自己以外の他の通信機の移動状態を示す挙動情報として取得し、判定部23b及び記憶部24へ出力する。
記憶部24は、電波変動検出部23aが出力する他の通信機の挙動情報をリングバッファ形式で一時的に記憶保存(バッファリング)する。記憶部24は、所定時間分の他の通信機の挙動情報を記憶できるようにリングバッファのための記憶領域を確保しており、常に現状から、所定時間過去に遡った時点までの他の通信機の挙動情報を一時的に記憶保存する。バッファリングされた他の通信機の挙動情報はその所定時間が経過すると上書き(消去)され、その記憶領域に残らない。記憶部24に記憶された他の通信機の挙動情報は、後述するように、必要に応じて、蓄積処理部23cによって読み出され、中央装置4に向けて送信される。
【0030】
蓄積処理部23cは、判定部23bが出力する、バッファリングされている挙動情報を蓄積する旨の蓄積命令を受け付けると、記憶部24にバッファリングされている他の通信機の挙動情報を読み出し、有線送受信部22を介して、外部の記録装置としての中央装置4に送信する。中央装置4は、路側通信機2から与えられる「他の通信機の挙動情報」を自己の記憶部に恒久的に記憶蓄積する。このように、蓄積処理部23cは、他の通信機の挙動情報を中央装置4に蓄積させる蓄積処理を実行するように構成されており、さらに蓄積処理部23cは、蓄積命令を受け付けると、記憶部24にバッファリングされた他の通信機の挙動情報について前記蓄積処理を行うように構成されている。なお、上でいう「恒久的に記憶蓄積」とは、バッファリングする所定時間が経過しても、緊急事態の事後処理等に用いるのに必要十分な時間だけ他の挙動情報を蓄積することであり、永久に蓄積する必要はない。
【0031】
判定部23bは、電波変動検出部23aから与えられる他の通信機の挙動情報に基づいて、判定を行い、その判定結果に応じて上記蓄積命令を蓄積処理部23cに出力する。判定部23bは、他の通信機の挙動情報が所定の条件を満たすか否かを判定する。判定部23bは、他の通信機の挙動情報が所定の条件を満たすと判定すると、上記蓄積命令を蓄積処理部23cに出力する。つまり、判定部23bは、他の通信機の挙動情報に基づいて、蓄積処理部23cに前記蓄積処理を実行させるか否かを判定し、前記蓄積処理を実行させると判定すると、前記蓄積命令を蓄積処理部23cに出力することで、当該蓄積処理部23cに蓄積処理を実行させる。
ここで、上記所定の条件は、他の通信機の挙動情報として用いることができる、受信電力、送信頻度、及びドップラ周波数の各数値が急激に変動したと認められる条件に設定される。また、他の通信機の挙動情報としての各数値は、上述したように他の通信機の移動速度の推定に用いることができ、これらの値が急激に変動した場合、他の通信機の移動速度も急激に変動したと判断できる。
上記所定の条件は、他の通信機の挙動情報が、事故等の緊急事態の発生によって他の通信機の移動速度が急激に変動した場合に認められる変動であるか否かを判定しうる条件に設定されている。
【0032】
これによって、判定部23bは、電波変動検出部23aから与えられる他の通信機の挙動情報に基づいて当該他の通信機に緊急事態が生じたか否かを判定することができ、緊急事態が発生したと認められると、前記蓄積命令を蓄積処理部23cに出力する。これによって、蓄積処理部23cは、記憶部24にバッファリングされている他の通信機の挙動情報を読み出し、中央装置4に送信することで蓄積処理を行う。
【0033】
〔車載通信機について〕
車載通信機3は、無線通信のためのアンテナ30に接続された送受信部(無線通信部)31と、この送受信部31に対する通信制御を行うプロセッサ等よりなる制御部32と、この制御部32に接続されたROMやRAM等の記憶装置よりなる記憶部33とを備えている。
送受信部31は、無線通信のために通常用いられる構成とすることができ、無線信号の送信機(送信部)及び受信機(受信部)としての機能を発揮するため、発振器、変調器、復調器、アンプ等を備えている。
記憶部33は、制御部32が実行する通信制御のためのコンピュータプログラムや、各通信装置2,3の通信機ID等を記憶している。
【0034】
車載通信機3の制御部32は、車車間通信のためにキャリアセンス方式(CSMA/CA方式)による無線通信を送受信部31に行わせる。制御部32は、所定の搬送波周波数の無線信号が、無線信号伝搬路中に存在するかを検出し、当該無線信号が存在しない状態が所定時間維持された後に送信機会を獲得し、送信が行われるように制御する。
なお、所定の搬送波周波数の無線信号が、無線信号伝搬路中に存在するか否かの判定に際しては、送受信部31によって受信される受信レベルが、所定の閾値(キャリアセンスレベル)以上であれば、所定の搬送波周波数の無線信号が存在すると判定し、前記閾値(キャリアセンスレベル)未満になれば、所定の搬送波周波数の無線信号が存在しないと判定する。
【0035】
車載通信機3の制御部32は、車両5の現時の位置情報や速度情報等を送受信部31から外部に無線送信する。このため、上記位置情報や速度情報等を受信した他の車両5や路側通信機2において、例えば、右折時の直進車との衝突や出合い頭衝突等を回避するための安全運転支援制御を行うことができる。
【0036】
車載通信機3の制御部32は、ここでは、記憶部33に記憶させた上記コンピュータプログラムが実行する機能部として、電波変動検出部32a、第一判定部32b、挙動検出部32c、第二判定部32d、蓄積処理部32e、調整部32f、及びバッファリング制御部32gを備えている。
【0037】
電波変動検出部32aは、当該車載通信機3以外の他の通信機2,3からの送信信号を受信したときの電波変動(送信頻度、受信電力、及びドップラ周波数それぞれの変動)を、当該他の通信機2,3が有する通信機IDと対応付けつつ検出し取得する。
電波変動検出部32aは、上記検出結果を自己以外の他の通信機の挙動情報として、第一判定部32b及び記憶部33へ出力する。
第一判定部32bは、電波変動検出部32aから与えられる他の通信機の挙動情報に基づいて、判定を行い、その判定結果に応じて第一蓄積命令を蓄積処理部32eに出力する。第一判定部32bは、他の通信機の挙動情報が所定の条件を満たすか否かを判定する。第一判定部32bは、他の通信機の挙動情報が所定の条件を満たすと判定すると、上記第一蓄積命令を蓄積処理部32eに出力する。なお、前記所定の条件は、上述の路側通信機2の判定部23bにおける「所定の条件」と同様である。
記憶部33は、電波変動検出部32aが出力する他の通信機の挙動情報をリングバッファ形式でバッファリングする。記憶部33は、所定時間分の他の通信機の挙動情報を記憶できるようにリングバッファのための記憶領域を確保しており、常に現状から、所定時間過去に遡った時点までの他の通信機の挙動情報を一時的に記憶保存する。
また、記憶部33は、挙動検出部32cが出力する自己の挙動情報(後に詳述する)についても、前記挙動情報と同様にリングバッファ形式でバッファリングする。
【0038】
蓄積処理部32eは、判定部32bが出力する第一蓄積命令を受け付けると、記憶部33にバッファリングされている他の通信機の挙動情報を読み出し、送受信部31から路側通信機2に送信する。路側通信機2は、受信した車載通信機3からの「他の通信機の挙動情報」を中央装置4に送信する。中央装置4は、路側通信機2を介して車載通信機3から送信される「他の通信機の挙動情報」を自己の記憶部に恒久的に記憶蓄積する。このように、蓄積処理部32eは、蓄積処理部23cと同様に、「他の通信機の挙動情報」を中央装置4に蓄積させる蓄積処理を実行するように構成されている。
以上のように、上記電波変動検出部32a、第一判定部32b、蓄積処理部32e、及び記憶部33は、それぞれ、路側通信機2における、電波変動検出部23a、判定部23b、蓄積処理部23c、及び記憶部24が有する機能とほぼ同様の機能を有している。
【0039】
挙動検出部32cは、自己が搭載されている車両5の挙動としての移動状態を検出し、その結果である自己の挙動情報を第二判定部32d、調整部32f及び記憶部33に出力する。挙動検出部32cは、自己の挙動情報として、当該車両5の移動速度の変動や位置を検出する。これら現状の移動状態は、車両5の車速センサ41や、車両5に搭載されたGPS42といった各種センサを用いることによって検出することができる。
【0040】
第二判定部32dは、挙動検出部32cから与えられる自己の挙動情報に基づいて、判定を行い、その判定結果に応じて第二蓄積命令を蓄積処理部32eに出力する。第二判定部32dは、自己の挙動情報が所定の条件を満たすか否かを判定し、自己の挙動情報が所定の条件を満たすと判定すると、上記第二蓄積命令を蓄積処理部32eに出力する。なお、前記所定の条件は、自己が搭載されている車両5の移動速度の変動が、事故等の緊急事態の発生によって急激に変動した場合に認められる変動であるか否かを判定しうる条件に設定されている。
【0041】
蓄積処理部32eは、判定部32dが出力する第二蓄積命令を受け付けると、記憶部33にバッファリングされている自己の挙動情報を読み出し、送受信部31から路側通信機2に送信する。路側通信機2は、受信した車載通信機3からの「自己の挙動情報」を中央装置4に送信する。中央装置4は、路側通信機2を介して車載通信機3から送信される車載通信機3の「自己の挙動情報」を、自己の記憶部に記憶蓄積する。
【0042】
調整部32fは、挙動検出部32cが出力する自己の挙動情報に応じて送信条件を調整する。本実施形態において、調整部32fは、送信条件として、CSMA方式における送信間隔、及び送信電力を調整する。
【0043】
送信条件において、一般に送信電力は、車載通信機3の送信可能範囲に影響を与える。すなわち、送信電力を小さくすると、電波が遠くまで届き難くなるため、他の車載通信機によって受信され難くなる。一方、送信電力を比較的大きくすると、比較的小さい送信電力に調整した場合と比較して、車車間通信における送信可能範囲が拡大する。
【0044】
また、送信間隔とは、車載通信機が無線信号を送出してから、次に無線信号を送出するまでの時間をいう。前記送信間隔は、移動体の速度や周囲の交通状況に応じて、車載通信機によって制御されるものであり、当該車載通信機が送信を決定してから実際に送信するまでのキャリアセンシングの時間や、その他の所定の待ち時間も含む。
【0045】
下記表1は、調整部32fによる、車両5の現状の挙動情報に基づいた送信条件の調整の態様の一例を示している。表1では、現状の車両5の挙動情報としての現状の速度に対する送信電力の調整例を示している。
【0046】
【表1】

【0047】
上記表1で示されるテーブルは、記憶部33に格納されており、調整部32fは、記憶部33に格納された上記表1に示すテーブルを参照し、現状の速度に応じて無線信号の送信電力を調整する。
表1に示すように、調整部32fは、現状の速度が高くなるにつれて、送信電力を高めるように調整する。速度が高ければ高いほど、他の車両との間で接触等が生じる可能性が高まるため、自己の情報をより広範囲に亘って送信する必要があるからである。
【0048】
なお、上記表1で示す例では、現状の速度と送信電力との関係のみを示したが、調整部32fは、送信間隔についても、送信電力と同様に現状の速度に応じて調整を行う。この場合、送信間隔についても、現状の速度が高くなるにつれて、小さい値に設定され、通信における優先度が高められる。現状の速度が高くなれば、他の車両との間で接触等が生じる可能性が高まるため、自己の情報を送信する必要性が高まるからである。
【0049】
バッファリング制御部32gは、電波変動検出部32aが検出取得する当該車載通信機3以外の他の通信機2,3からの受信信号の挙動情報である送信頻度、受信電力、及びドップラ周波数といった電波変動が、所定の閾値以下である場合、記憶部33によるバッファリングを停止させ、前記電波変動が前記閾値よりも高い場合、バッファリングを開始させるように構成されている。つまり、バッファリング制御部32gは、記憶部33によるバッファリングの停止、実行を制御する。
【0050】
他の通信機2,3からの受信信号の電波変動が、一定時間大きく現れなければ、当該車載通信機3を搭載している車両5が駐車状態又は周囲に車両が存在していないと判断できるからであり、このような場合においては、他の通信機の挙動情報を蓄積する必要がない状態にあるといえるので、記憶部33のバッファリングを停止させることができる。この結果、常時バッファリングを行う場合と比較して、当該車載通信機3の消費電力を抑えることができる。
【0051】
また、バッファリング制御部32gは、車載通信機3の外部からの操作によって所定の停止命令を受け付けることによって、記憶部33によるバッファリングを停止させるものであってもよい。この場合、車両5の運転者が任意にバッファリングを停止させるか否かを選択でき、外部の環境に応じてより好適にバッファリングを停止させ、消費電力を抑制することができる。
【0052】
〔中央装置について〕
中央装置4は、路側通信機2との間で通信を行うための有線送受信部4aと、各種情報を記憶するための記憶部4bと、各通信機の管理機能を実現するとともに、有線送受信部4a及び記憶部4bを制御する制御部4cとを備えている。
中央装置4の制御部4cは、各路側通信機2及び車載通信機3からの「他の通信機の挙動情報」を受け取ると、これらを記憶部4bに記憶蓄積する。
また、制御部4cは、車載通信機3からの「自己の挙動情報」を受け取ると、これらを記憶部4bに記憶蓄積する。
【0053】
〔各通信機の動作について〕
図5は、車両同士が接触したときの各通信機の動作を説明するための図である。図5では、停止中の車両5Aに、走行してきた車両5Bが接触した状態を示している。なお、図に示している範囲はすべて路側通信機2の通信エリア内であるものとする。
【0054】
図中破線で示すように、例えば、車両5Bが移動速度40km/hで走行してきたとする。その後、車両5Bは、停止している車両5Aとの接触を回避すべく車両5Aの直前で急ブレーキを行うことによって急減速するとともに、車両5Aに接触することで停止したものとする。
【0055】
まず、路側通信機2の動作について説明する。車両5Bに搭載されている車載通信機3Bは、移動速度40km/hで走行中には、表1にて示したように、送信電力15dBmで送信信号S11を送信する。路側通信機2は、車両5Bの車載通信機3Bからの送信信号を受信する。
このとき、路側通信機2は、他の通信機の挙動情報として、車載通信機3Bからの送信信号を受信したときの電波変動(送信頻度、受信電力、及びドップラ周波数それぞれの変動)を車載通信機3Bの通信機IDと対応付けて経時的に検出し、判定部23bによって判定を行う。車両5Bが一定の移動速度で走行している場合、車載通信機3Bの電波変動に係る各数値の変動は小さいので判定部23bは、上述の蓄積命令を蓄積処理部23cに出力しない。従って、路側通信機2は、検出した車載通信機3Bの挙動情報を記憶部24に継続的にバッファリングする。
【0056】
その後、車両5Bが急ブレーキを行い急減速すると、車載通信機3Bの調整部32fは、送信電力を車両5Bの移動速度に応じて小さくなるように調整し、車両5Aに接触して停止した段階で、表1に示すように送信電力5dBmに調整する。
このため、路側通信機2で検出される、車載通信機3Bからの送信信号を受信したときの受信電力も、車両5Bの移動速度の減少に応じて小さくなる。従って、路側通信機2は、車両5Bの移動速度が変動したことを、車載通信機3Bからの送信信号を受信したときの受信電力の変動によって検知することができる。
【0057】
また、路側通信機2が検出するドップラ周波数の変動の場合も同様であり、車載通信機3Bからの送信信号に基づいて得られるドップラ周波数は、車両5Bの移動速度の減少に応じて小さくなる。従って、路側通信機2は、車両5Bの移動速度が変動したことを、車載通信機3Bからの送信信号から検知されるドップラ周波数の変動によって検知することができる。
また、送信頻度も、調整部32fによって、車両5Bの移動速度の減少に応じて大きくなるように設定されるので、路側通信機2は、車両5Bの移動速度が変動したことを、車載通信機3Bからの送信信号から検知される送信頻度の変動によって検知することができる。
【0058】
車載通信機3Bからの送信信号を受信信号として受信したときの挙動情報の変動が、急ブレーキではなく通常レベルの減速による変動である場合、判定部23bは、蓄積命令を出力しない。一方、事故等の緊急事態の発生によって移動速度が急激に変動したと認められる変動である場合、判定部23bは、蓄積命令を蓄積処理部23cに出力する。
【0059】
図5の場合、接触を回避すべく移動速度40km/hから急ブレーキによって急減速し最終的に車両5Aに接触して停止(移動速度0km/h)している。
つまり、車両5Bは、短時間で移動速度が40km/h低下しており、判定部23bは、このような場合に検知される挙動情報の変動を、緊急事態の発生によって移動速度が急激に変動したと認められる変動と判定する。この結果、判定部23bは、蓄積命令を蓄積処理部23cに出力する。
なお、判定部23bは、挙動情報の判定において、送信頻度、受信電力、及びドップラ周波数の全ての変動を考慮して判定することもできるし、その内の一部の値の変動に基づいて判定することもできる。
【0060】
蓄積命令を受けた蓄積処理部23cは、記憶部24にバッファリングされている車載通信機3Bの挙動情報を読み出し、有線送受信部22を介して中央装置4に送信することで蓄積処理を行う。
なお、路側通信機2は、検出した車載通信機3Bの挙動情報を記憶部24に継続的にバッファリングしているので、記憶部24には、蓄積処理部23cが蓄積命令を受けた時点から所定時間過去に遡った時点までの車載通信機3Bの挙動情報がバッファリングされており、蓄積処理部23cは、蓄積命令を受けた時点から所定時間過去に遡った時点までの車載通信機3Bの挙動情報を中央装置4に送信し、中央装置4にこの挙動情報を記憶蓄積させる。
【0061】
路側通信機2は、電波変動検出部23aが検知し取得する挙動情報を記憶部24にバッファリングし、蓄積処理部23cは、蓄積命令を受け付けることで、記憶部24にバッファリングされた挙動情報を読み出し、中央装置4に送信して挙動情報を蓄積させる蓄積処理を行うので、必要な挙動情報のみを中央装置4に送信し蓄積することができる。また、記憶部24には、蓄積命令を受け付けたときから過去に遡った挙動情報がバッファリングされているので、蓄積処理部23cは、蓄積命令を受け付けたときから過去に遡った挙動情報について蓄積処理を行うことができる。
【0062】
車両5Aに搭載されている車載通信機3Aについても、路側通信機2の電波変動検出部23a、判定部23b、蓄積処理部23c、及び記憶部24と同様の機能を有する電波変動検出部32a、第一判定部32b、蓄積処理部32e、及び記憶部33を有している。
従って、車載通信機3Aは、他の通信機としての車載通信機3Bの挙動情報を検知してバッファリングするとともに、車両5Bが急ブレーキを行うことで急減速し車両5Aに接触停止することで、第一判定部32bが蓄積処理部32eに対して第一蓄積命令を出力する。これにより蓄積処理部32eは、バッファリングされた車載通信機3Bの挙動情報を中央装置4に蓄積させる蓄積処理を行う。すなわち、蓄積処理部32eは、バッファリングされた車載通信機3Bの挙動情報を路側通信機2に送信する。路側通信機2は、車載通信機3Aから送信された車載通信機3Bの挙動情報を中央装置4に送信し、当該挙動情報を中央装置4に蓄積させる。
【0063】
中央装置4は、路側通信機2及び車載通信機3Aそれぞれが送信する車載通信機3Bの挙動情報を自己の記憶部4bに記憶蓄積する。
路側通信機2及び車載通信機3Aから中央装置4に与えられる車載通信機3Bの挙動情報は、事故等の緊急事態の発生によって車載通信機3Bの移動速度が急激に変動したと、路側通信機2及び車載通信機3Aが判定した場合に送信される。従って、中央装置4は、挙動情報の受信によって、緊急事態が発生したことを把握することができる。
【0064】
上記のように構成された路側通信機2及び車載通信機3Aによれば、車載通信機3Bの移動状態を示す挙動情報を取得し、その挙動情報を中央装置4に蓄積させる蓄積処理を実行するので、蓄積された挙動情報によって車載通信機3Bの移動状態を監視、把握することができる。従って、車載通信機3Bに緊急事態が発生したときに、その緊急事態が発生したことを速やかに把握できるとともに、当該車載通信機3Bの移動状態を、その緊急事態が発生する前に遡って把握することができる。
緊急事態が発生したことを速やかに把握できるので、警察等の当局への通報も速やかに行うことができる。さらに、車載通信機3B(が搭載された車両5B)が、接触等の緊急事態の直前にどの程度の移動速度でどのように減速して停止したかを、中央装置4に蓄積された挙動情報を用いることで、緊急事態発生後に検証することができ、緊急事態の発生原因を特定することができる。
さらに、少なくとも中央装置に送信される挙動情報には車載通信機3Bの通信IDといった識別情報を含めることができる。このため、緊急事態が発生した車載通信機3B(又は車両5B)をその識別情報によって中央装置側で特定することができる。中央装置に送信される挙動情報には、路側通信機2及び車載通信機3Aの通信ID等の識別情報を含めることもできる。これによって、接触等された車載通信機3A(が搭載された車両5A)をその識別情報によって中央装置側で特定することができ、また付近の路側通信機2を特定することもできる。
このように、本実施形態によれば、車載通信機3Bとの間の無線通信により得られる挙動情報を事故等の緊急事態発生後の事後処理に利用することができる。
【0065】
また、本実施形態では、路側通信機2及び車載通信機3Aは、車載通信機3Bの移動状態を示す挙動情報の変動が、緊急事態が生じたと認められる条件を満たすか否かを判定し、その条件を満たすと判定すると、前記蓄積処理を実行させる必要があると判断し、判定蓄積命令を蓄積手段に出力する判定部23b、32bを備えているので、車載通信機3Bの移動状態の変化に応じて、車載通信機3Bの挙動情報を中央装置4に送信することができる。
これにより、路側通信機2及び車載通信機3Aは、車載通信機3Bに緊急事態に発生しているおそれがあることをより速やかに把握できる。
さらに、中央装置4においても、車載通信機3Bの挙動情報を受信することで、車載通信機3Bに緊急事態が発生しているおそれがあることを速やかに把握することができるとともに、緊急事態が生じたときの挙動情報を確実に蓄積することができる。
【0066】
また、上記実施形態では、車両5Bに接触された車両5Aの車載通信機3Aが、車両5Bの車載通信機3Bについての挙動情報を中央装置4に蓄積する場合を示したが、例えば、車道の外に駐車中の車両5Cに搭載された車載通信機3Cも、車載通信機3Bの送信信号を受信してその挙動情報を検出し、中央装置4に蓄積することができる。
車両5Aも車両5Bの接触事故の当事者であり緊急事態が生じていると言えるが、図中車両5Cは、車両5A、5Bの接触とは全く関与していない。このような、緊急事態に全く関与しない通信機によっても、緊急事態が生じた通信機についての挙動情報を検知し、蓄積することができる。
【0067】
また、上記実施形態において、通信機2、3Aは、それぞれ判定部23b、32bの判定結果に応じて車載通信機3Bの挙動情報を中央装置4に送信するように構成したが、例えば、車載通信機3Aは、当該車載通信機3Aに設けられたスイッチ32hを車両5Aの運転者が押下すると、車両5Aの近隣に位置する車両(図5では車両5B)の挙動情報を中央装置4に送信する旨の命令を路側通信機2に送信するように構成され、路側通信機2は、当該命令を受信すると、自己の蓄積処理部23cに車両5Aの近隣に位置する車両の挙動情報を中央装置4に送信するように構成されていてもよい。
この場合、車両5Bと車両5Aとは接触しているにも関わらず、車載通信機3Bの挙動情報が判定部23b、32bによって、緊急事態が生じていると判定されなかったとしても、車両5Aの運転者の判断によって、路側通信機2に緊急事態が生じていることを認識させることができ、より確実に緊急事態が生じた通信機についての挙動情報を検知し、蓄積することができる。
【0068】
また上記実施形態において、車載通信機3A、3Bは、挙動検出部32cによって自己が搭載されている車両5の挙動情報を検出取得し、第二判定部32dが行う自己の移動状態についての判定結果が緊急事態と認められ得る移動状態である場合には、蓄積処理部32eに自己の挙動情報を中央装置4に送信し、当該自己の挙動情報を路側通信機2を介して中央装置4に記憶蓄積させる。
このため、車両5Aに接触した車両5Bに搭載された車載通信機3Bは、路側通信機2及び車載通信機3Aによってその挙動情報が中央装置4に送信され蓄積されるが、当該車載通信機3Bもまた、自己の挙動情報を中央装置4に送信し蓄積させる。
従って、緊急事態が発生した車両5B(に搭載された車載通信機3B)の挙動情報について、自己を含んだ異なる複数の通信機からの挙動情報が蓄積されるので、より多面的な情報が得られ、事後処理を行う上でより効果的な利用を図ることができる。
【0069】
〔第二の実施形態〕
図6は、携帯通信機10、及び基地局9の内部構成を示すブロック図である。本実施形態と上記第一の実施形態の路側通信機2及び車載通信機3との相違点は、この携帯通信機10が上述の携帯無線通信システムを構成する通信機であり、基地局9との間で無線通信を行うことができるとともに、路側通信機2及び車載通信機3が送信する無線信号を受信することができる点である。
【0070】
携帯通信機10は、無線通信のためのアンテナ100に接続された送受信部(無線通信部)101と、この送受信部101に対する通信制御を行うプロセッサ等よりなる制御部102と、制御部102に接続されたROMやRAM等の記憶装置よりなる記憶部103とを備えている。
送受信部101は、無線通信のために通常用いられる構成とすることができ、無線信号の送信機(送信部)及び受信機(受信部)としての機能を発揮するため、発振器、変調器、復調器、アンプ等を備えている。なお、この送受信部101は、基地局9との間で無線信号の送受信を行うとともに、路側通信機2や車載通信機3等の無線信号の受信を行うことができる。つまり、この携帯通信機10は、基地局9から送信される無線信号を待ち受けている状態で、路側通信機2や車載通信機3等の無線信号の受信を行うことができる。
記憶部103は、制御部102が実行する通信制御のためのコンピュータプログラムや、各通信装置2,3の通信機ID等を記憶している。
【0071】
制御部102は、記憶部103に記憶させた上記コンピュータプログラムが実行する機能部として、電波変動検出部102a、第一判定部102b、挙動検出部102c、第二判定部102d、蓄積処理部102e、調整部102f、バッファリング制御部102g、及び携帯通信処理部102hを備えている。
携帯通信処理部102hは、基地局9との間で通信を行うための機能部であり、基地局9を介して携帯通信機10同士で通信を行うための処理を行う。
【0072】
電波変動検出部102a、第一判定部102b、挙動検出部102c、第二判定部102d、蓄積処理部102e、調整部102f、及びバッファリング制御部102gは、それぞれ、車載通信機3における、電波変動検出部32a、第一判定部32b、挙動検出部32c、第二判定部32d、蓄積処理部32e、調整部32f、及びバッファリング制御部32gが有する機能とほぼ同様の機能を有している。
従って、詳細な説明は省略するが、携帯通信機10は、受信した通信機2,3が送信する送信信号の電波変動(送信頻度、受信電力、及びドップラ周波数それぞれの変動)を、当該他の通信機2,3が有する通信機IDと対応付けつつ検出取得し、その検出結果を自己以外の他の通信機の挙動情報として記憶部103にバッファリングする。
さらに、蓄積処理部102eは、第一判定部102bが行う他の通信機の挙動情報についての判定結果が緊急事態と認められ得る移動状態で有る場合には、バッファリングされている他の通信機の挙動情報を読み出して外部の装置に蓄積する蓄積処理を行うが、当該携帯通信機10は、路側通信機2に対して通信信号を送信できない。このため、蓄積処理部102eは、読み出した他の通信機の挙動情報を外部の記録装置としての基地局9へ送信する。基地局9は、携帯通信機10から送信される「他の通信機の挙動情報」を自己の記憶部に恒久的に記憶蓄積する。
【0073】
また、携帯通信機10は、挙動検出部102cによって自己の挙動情報(移動速度、位置)を検出、取得、バッファリングし、第二判定部102dが行う自己の挙動情報についての判定結果が緊急事態と認められ得る移動状態である場合には、蓄積処理部102eに自己の挙動情報を基地局9に送信し、当該自己の挙動情報を基地局9に記憶蓄積させる蓄積処理を行う。
挙動検出部102cによる自己の挙動情報は、当該携帯通信機10に内蔵されているGPS104といった各種センサを用いることによって検出することができる。
【0074】
基地局9は、携帯通信機10との間で通信を行うための送受信部9aと、各種情報を記憶するための記憶部9bと、携帯通信機10との間で無線通信を行うための機能を実現するとともに、送受信部9a及び記憶部9bを制御する制御部9cとを備えている。
制御部9cは、携帯通信機10からの「他の通信機の挙動情報」及び「自己の挙動情報」を受け取ると、これらを記憶部9bに記憶蓄積する。
【0075】
次に、携帯通信機10の動作について説明する。
図7は、車両同士が接触したときの携帯通信機の動作を説明するための図である。この図7では、図5と同様に、停止中の車両5Aに、走行してきた車両5Bが接触した状態を示している。車両5Bは移動速度40km/hで走行し、その後、停止している車両5Aとの接触を回避すべく車両5Aの直前で急ブレーキを行うことによって急減速するとともに、車両5Aに接触することで停止した点についても同様であるとする。なお、図に示している範囲はすべて路側通信機2の通信エリア内であるものとする。
【0076】
この場合において、携帯通信機10は、上記第一の実施形態で示した路側通信機2及び車載通信機3と同様の動作を行う。すなわち、携帯通信機10は、車載通信機3Bからの送信信号を受信することで、車載通信機3Bの移動状態を示す挙動情報を取得、バッファリングし、その挙動情報を基地局9に蓄積させる蓄積処理を行うので、車載通信機3Bの移動状態を監視、把握することができる。従って、車載通信機3Bに緊急事態が発生したときに、その緊急事態が発生したことを速やかに把握できるとともに、当該車載通信機3Bの移動状態を、その緊急事態が発生する前に遡って把握することができ、当該挙動情報を事故等の緊急事態発生後の事後処理に利用することができる。
【0077】
また、携帯通信機10を持っている歩行者Hと、車載通信機3を搭載した車両5との間で緊急事態が生じた場合、当該携帯通信機10は、その緊急事態が発生したことを速やかに把握できるとともに、その車載通信機3(が搭載された車両5)の移動状態を、その緊急事態が発生する前に遡って把握することができる。
【0078】
また、本実施形態では、携帯通信機10は、自己の挙動情報を取得、バッファリングし、自己の挙動情報が緊急事態と認められ得る移動状態である場合には、蓄積処理部102eに自己の挙動情報を基地局9に送信し、当該自己の挙動情報を基地局9に記憶蓄積させるので、例えば、携帯通信機10を持っている歩行者Hが車両にはねられたりといったような緊急事態が生じた場合、その緊急事態が発生したことを速やかに把握できる。このとき、基地局9では携帯電話機10の電話番号等の識別情報によって、歩行者Hを特定することができ、それによって適宜の対応を迅速に図ることも可能となる。
さらに、この場合、記憶部103にバッファリングされている自己の近隣に位置する車両の挙動情報を基地局9に送信し、蓄積させるようにしてもよく、これによって、携帯通信機10を持っている歩行者Hをはねた車両の車載通信機3Bの移動状態を、その緊急事態が発生する前に遡って把握することができる。
【0079】
本実施形態において、バッファリング制御部102gは、車載通信機3のバッファリング制御部32gと同様、電波変動検出部102aが検出取得する当該車載通信機3以外の他の通信機2,3からの受信信号の挙動情報に応じて、記憶部103によるバッファリングの停止、実行を制御する。
さらに、バッファリング制御部102gは、挙動検出部102cによって検出される携帯通信機10の位置に応じて、バッファリングを停止させる機能を有している。すなわち、携帯通信機10を持っている歩行者Hが、車両等と接触する可能性がない位置にいれば、周囲の車両の挙動情報を取得し蓄積する必要性が少ないからである。
逆に、図7に示すように、携帯通信機10を持っている歩行者Hが、車道を横断している場合や、車道に沿う歩道等を歩いている場合には、車両と接触する可能性が高いので、バッファリング制御部102gは、記憶部103によるバッファリングを停止させることなく、他の通信機の挙動情報を取得し蓄積可能な状態を維持する。
このように、本実施形態の携帯通信機10によれば、携帯通信機10の位置に応じて、バッファリングを停止させるので、常時バッファリングを行う場合と比較して、当該車載通信機3の消費電力を抑えることができる。
【0080】
また、上記実施形態において、基地局9と、中央装置4とが、互いに通信可能とされることで、互いの記憶部9b,4bに記憶蓄積されている各通信装置の挙動情報について共有することができるように構成されていてもよい。この場合、携帯通信機10によって蓄積される通信機の挙動情報と、路側通信機2及び車載通信機3によって蓄積される挙動情報を一元的に管理することができ、より効果的にこれらの情報を活用することができる。
【0081】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記各実施形態の通信機では、記憶部にバッファリングされた挙動情報を蓄積処理部が読み出して、中央装置4等の外部の記録装置へ送信し、前記挙動情報を当該外部の記録装置に蓄積させる蓄積処理を行うように構成されているが、例えば、通信機自体の記憶部に挙動情報を記憶させるための記憶領域を確保し、その領域にバッファリングされた挙動情報を蓄積することで蓄積処理を行うように構成することもできる。
【0082】
本発明に関して、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0083】
2 路側通信機
23a 電波変動検出部(挙動情報取得手段)
23b 判定部(判定手段)
23c 蓄積処理部(蓄積処理手段)
24 記憶部(バッファリング手段)
3 車載通信機
32a 電波変動検出部(挙動情報取得手段)
32b 判定部(判定手段)
32e 蓄積処理部(蓄積処理手段)
32g バッファリング制御部
33 記憶部(バッファリング手段)
10 携帯通信機
102a 電波変動検出部(挙動情報取得手段)
102b 判定部(判定手段)
102e 蓄積処理部(蓄積処理手段)
102g バッファリング制御部
103 記憶部(バッファリング手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の通信機との間で無線通信を行う通信機であって、
前記他の通信機の移動状態を示す挙動情報を取得する挙動情報取得手段と、
前記挙動情報を自己、又は外部の記録装置に蓄積させる蓄積処理を実行する蓄積処理手段と、を備えていることを特徴とする通信機。
【請求項2】
前記挙動情報取得手段が取得する挙動情報に基づいて、前記蓄積処理手段に前記蓄積処理を実行させるか否かを判定し、前記蓄積処理手段に前記蓄積処理を実行させると判定すると、前記蓄積処理手段に前記蓄積処理を実行させる判定手段をさらに備えている請求項1に記載の通信機。
【請求項3】
前記挙動情報取得手段が取得する挙動情報を一時的に保存するバッファリング手段をさらに備え、
前記蓄積処理手段は、前記判定手段が当該蓄積処理手段に前記蓄積処理を実行させると判定すると、前記バッファリング手段に一時的に保存された前記挙動情報について前記蓄積処理を行う請求項2に記載の通信機。
【請求項4】
前記バッファリング手段によるバッファリングの停止、実行を制御する制御手段をさらに備えている請求項3に記載の通信機。
【請求項5】
前記蓄積処理手段は、蓄積すべき前記挙動情報を前記外部の記録装置に送信するための送信手段を備えている請求項1〜4のいずれか一項に記載の通信機。
【請求項6】
他の通信機との間で無線通信可能な携帯電話であって、
前記他の通信機の移動状態を示す挙動情報を取得する挙動情報取得手段と、
前記挙動情報を自己、又は外部の記録装置に蓄積させる蓄積処理を実行する蓄積処理手段と、を備えていることを特徴とする携帯電話。
【請求項7】
前記他の通信機が車載通信機である請求項6に記載の携帯電話。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−250667(P2010−250667A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100775(P2009−100775)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】