説明

通電アプセッタ方法と装置

【課題】パーキングロッドの外周にパーキングロックカム用のストッパ部を形成するに際し,一本の軟鋼丸棒から簡単に成型することで材料の歩留まりをよくし製作工数,部品点数,設備費等が削減でき,大幅なコスト削減を可能とする。
【解決手段】一本の金属棒状素材を所定のクランプ間隔をもってクランプする第一電極とこれに対応する第二電極とを有し,いずれか一方の電極にはストッパ部と略同等の体積を持ちストッパ部の外周面と略同形の断面凹型の据え込み溝が形成され,棒状素材のストッパ部成型領域を前記所定のクランプ間隔をもって第一電極とこれに対応する第二電極とでクランプした状態で第一電極と第二電極を介して電流を流し棒状素材のストッパ部成型領域を所定温度まで加熱させ加圧機構で棒状素材の軸方向にアプセット力をかけ,棒状素材の軟化したストッパ部成型部分を据え込み溝内で塑性変形させて素材外周にストッパ部を成型する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパーキングロッドにパーキングロックカムを取り付ける際のストッパ部をパーキングロッド外周に成型するための通電アプセッタ方法と装置の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,車両用オートマチックトランスミッションにはパーキングポールを揺動させてパーキングポールの爪をドライブ軸に設けられたパーキングギヤに係合させることによって車両をパーキングロックする装置が内蔵されている。このパーキングロック装置はシフトレバーがパーキングレンジに操作されたときに車両が移動しないように駆動輪を機械的にロックするものである(特許文献1参照)。
【0003】
このパーキングロック装置の一部品を構成するパーキングロッドにはパーキングロックカムを位置決めするためのストッパ部品が取り付けられている。
図6のA,Bは従来方法によりストッパ部品をパーキングロッドに挿入し所定位置のロッド外周面に取り付ける際の一例を示したものである。
【0004】
このパーキングロッド51はたとえば一例として材質が軟鋼の丸棒素材である。長さが約260〜280mm,外径が約7〜8mm程度のものである。
このストッパ部品52は外径が10mm程度でありパーキングロッドの外径寸法より大きい部品である。長さが約7〜8mm程度あり部品全体の形状は外周面が円すい形となっている。当該ストッッパ部品52には軸方向に直径8〜9mm程度の貫通孔53が明けられていて,この貫通孔53にパーキングロッド51が挿入され所定位置で固定される。
【0005】
図6Aに示すように後部に当接面が形成された大径部54から先端小径部に向けて次第に肉厚を薄くして円すい状に傾斜させたテーパ面55が形成されている。この円すい形のストッパ部品52は小径部の先端がパーキングロッド外周にアーク溶接により接合されている。
【0006】
図7はパーキングロッド,ストッパ部品,パーキングロックカム,圧縮コイルばねから構成された従来品の構造例を部分的に示す部品図である。
ストッパ部品52は文字通りパーキングロッド51の外周を揺動するパーキングロックカム56を所定位置で停止させるものである。
【0007】
この場合,当該ロックカム56と係止部(図省略)の間に圧縮コイルバネ57が挿入されパーキングロックカム56の円筒先端部58は圧縮コイルバネ57の弾力を受けて常時ストッパ部52の大径当接部54のフラット面に押圧されている。
【0008】
パーキングロッド51とストッパ部品52は従来から単体部品としてそれぞれ別工程で構成され,その単体部品の組付けには前述したとおりアーク溶接が一般的に使用されてきた。
【特許文献1】特開平7-137555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
パーキングロッドとストッパ部を組み付ける場合,アーク溶接装置によって行われてきたが,この場合の問題は,アーク熱による影響が大きく溶接部の表面に凹凸や段差が発生しその後処理に研磨加工などの余分な作業工数がかかるほか部品点数が多いため安価に製作することが難しかったという点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1の通電アプセッタ方法はパーキングロッドの外周にパーキングロックカム用のストッパ部を形成する方法であって,一本の金属棒状素材を所定のクランプ間隔をもってクランプする第一電極とこれに対応する第二電極とを有し,
前記いずれか一方の電極には前記ストッパ部と略同等の体積を持ち,かつ前記ストッパ部の外周面と略同形の断面凹型の据え込み溝が形成され,
そして前記棒状素材のストッパ部成型領域を前記所定のクランプ間隔をもって前記第一電極とこれに対応する第二電極とでクランプし,そのクランプした状態で前記第一電極と第二電極を介して電流を流し前記棒状素材のストッパ部成型領域を所定温度まで加熱させ,
次いで加圧機構で前記棒状素材の軸方向にアプセット力をかけ,
それによって前記棒状素材の軟化したストッパ部成型部分を前記据え込み溝内で塑性変形させて前記素材外周にストッパ部を成型する。
【0011】
次に本発明の請求項2の通電アプセッタ方法は,据え込み溝はその内周面形状が前記ストッパ部の外周面形状と略同等の円すい形又は円柱形である。
【0012】
さらに本発明の請求項3の通電アプセッタ方法は,前記アプセット時の第一電極と第二電極との間に形成される最終的な隙間を所定量に設定して前記ストッパ部のストッパ当接面がフラットにプレス加工されるよう前記いずれか一方の電極面で押さえ込むようにした。
【0013】
さらに本発明の請求項5の通電アプセッタ方法は,
前記アプセット時の電極間の隙間が0mm以上2.0mm未満とする。
【0014】
さらに本発明の請求項5の通電アプセッタ装置は,以下のものを有する。
棒状素材のストッパ部を形成する領域の近傍に所定のクランプ間隔をもって前記領域の一方をクランプする第一電極と,
当該電極と対応して前記領域のもう片方をクランプする第二電極と,
少なくとも前記いずれか一方の電極を相対移動させて前記棒状素材の軸方向に必要なアプセット力を発生させる加圧機構とを有し,
前記第一電極は少なくとも二つに分割された部分を有し,
しかもこの二つの対面する分割面には前記棒状素材の外周面と軸方向に接触する断面凹曲面のクランプ兼電極面が形成されており,
そしてその片側の分割電極はもう片方の分割電極に対し前記棒状素材の軸線に対し直角に交わる方向に動くようになし,これによって前記棒状素材のクランプとアンクランプに必要な開閉動作が行われ,
そして前記第一電極に対応する第二電極には前記ストッパ部を形成するための据え込み溝が一体に形成され,この据え込み溝は断面が前記ストッパ部の外周面の形状と略同形状をなしかつ前記ストッパ部と略同等の体積を有するものであり,
しかも前記据え込み溝には前記棒状素材を軸方向に開いた連通孔が設けられ,
その連通孔は少なくとも二つに分割されており,その分割方向が前記棒状素材の軸方向であり,
かつこの分割された二つの対面する分割面には前記棒状素材の外周面の形状と適合し前記軸方向に接触する略凹曲面のクランプ兼電極面が形成され,
そして前記第一電極と第二電極においてその少なくとも一方の分割電極は前記棒状素材の軸線に対し略直角に交わる方向に駆動され,もう片方の分割電極との間に前記棒状素材のクランプとアンクランプに必要な開閉動作が行われるように構成されている。
【0015】
本発明の請求項6の通電アプセッタ装置は,
前記第一電極と第二電極は前記棒状素材を両側からクランプした時の分割電極相互間に形成される隙間の上下限値の範囲が0.1mm以上0.6mm未満とする。
【0016】
本発明の請求項7の通電アプセッタ装置は,
前記据え込み溝内で塑性変形させて前記素材外周に張り出すストッパ部を成型した後に,前記棒状素材をその軸方向に機械的な高圧力を発生させ,これによって当該ストッパ部を含む素材を前記電極から離脱させるエジェクト手段が設置されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明は従来のパーキングロッドとパーキングロックカムとの単体部品をアーク溶接によって一体に組み立てる方法及び装置と比較し,一本の金属製の棒状素材から予めストッパ部を形成するに必要な長さの棒状素材を用意するだけで抵抗発熱によって短時間でパーキングロッド外周上にストッパ部を塑性加工することができるから,パーキングロックカムの単独部品と加工工数が削減できる。
つまり一本の軟鋼丸棒から抵抗発熱を利用して簡単に成型することができるため材料の歩留まりもよく製作工数及び部品点数,設備費等が削減でき,大幅なコスト削減が可能になる。
また一方の電極にロックカム用ストッパ部の外形と略同等の体積を有する据え込み溝を一体に設けることにより従来の溶接部位に生じる凹凸や段差を減少することができ品質及び機械強度を増し耐久性も向上する。
またアプセット時の前記第一電極と第二電極間に形成される最終的な前記軸方向の隙間の設定量を1.5mm程度まで狭くしたことによって前記据え込み溝の領域内で素材外周面にふくらむストッパ部の肉厚が前記軸方向からフラットに圧縮できるためストッパ部の大径部54にバリもなく滑らかで品質上自然な仕上がりのストッパ部が作れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明はパーキングロッドにパーキングロックカムを取り付ける際のストッパ部をパーキングロッド外周に成型するための通電アプセッタ装置により実現したものである。
【実施例1】
【0019】
本発明は図6と図7に示すパーキングロッド51の外周にパーキングロックカム用のストッパ部51aを成型するための通電アプセッタ方法及び装置である。
図1は本発明の方法を実施するための装置である。
図2は図1のX−Xの矢視図で第二電極の断面図である。
図3は本発明の方法を実施するための装置の断面と動作説明のための概略図である。
図4は本発明方法と装置により通電アプセッタ成型後のワーク図で,A図は円すい形のストッパ部を示し,またB図は円柱形のストッパ部を示す。
図5は本発明の動作フローチャートを示す。
【0020】
この場合,パーキングロッドは一本の軟鋼材からなる丸棒の棒状素材50で示す。この一本の素材からパーキングロッドとストッパ部とが一体形成される。とくにストッパ部は抵抗発熱により軟化させ一定した容積内で圧縮によって成型される。
【0021】
本発明のアプセッタ装置10は図1〜図4に示すように第一電極1ともう一方の第二電極2が配置され,これら一対の電極間には抵抗溶接機と同様に電源部として通電用トランスが接続され該トランスと主電源との間には前記通電用トランスの電流値及び通電時間を制御するタイマー部及びコンタクタ部を有する電源制御部とからなる制御装置が接続されている。
【0022】
この制御装置にはCPUおよびアプセット加工に必要な電流値,通電時間,アプセット力その他の制御要素を設定する設定部が内蔵されていてアプセッタ加工に必要なシーケンスプログラムはCPUにより記録された機械的又は電気的な諸動作により実行される。
【0023】
また加圧機構は一般にシリンダが利用され少なくともいずれか一方の電極に配置され,シーケンスプログラムにより電磁バルブを開閉動作しもう片方の電極間距離を移動させてアプセッタに必要な加圧力を発生させるものである。
【0024】
この場合,一般的にシリンダ(流体圧系)が利用されるがほかに電動モータなどのアクチュエータでもよい。
【0025】
前記第二電極2には断面凹型の据え込み溝3が一体的かつ立体的に形成されていて,この据え込み溝3は前記ストッパ部50aの円すい形の外周面形状と略適合した内周面が形成され,これによって前記ストッパ部50aの大きさと略同等の体積を収容することができる。
【0026】
前記棒状素材は所定のクランプ間隔Eを隔て前記第一電極1ともう一方の第二電極2との間でクランプ保持される。前記電極1,2の所定クランプ間隔Eはアプセット代(寸法)として前記ストッパ部50aを形成する領域のストッパ部容積に応じた圧縮移動距離が設定される。
【0027】
前記ストッパ部50aは前記電極間に電流が流されその抵抗発熱によりアプセット代が加熱され軟化すると,クランプ保持した前記棒状素材50を前記加圧機構により軸方向Aに高加圧力が付勢され,それによって徐々に前記棒状素材50が移動しながら圧縮される。
【0028】
この過程中においてアプセット代が前記据え込み溝3内でふくらみ前記素材外周に張り出すストッパ部50aが塑性成型される。
この場合,前記電極1,2間の間隔eが0mm未満ではフラット部が成型されない。また前記間隔eが2.0mmを超えるとストッパ部のふくらみが大きくはみ出しストッパ部の外周面の外径寸法精度が維持できない。
【0029】
次に本発明のアップセッタ装置の電極構造に関して具体的に説明すると,
アプセッタ装置10は前記棒状素材50のストッパ部50aを形成する領域外の片側近傍に所定のクランプ間隔Eをもってクランプする第一電極1と,
当該電極と対応しもう片側の領域外の近傍をクランプする第二電極2と,
少なくともこれらのいずれか一方の電極側に前記棒状素材の軸方向にアプセット成型に必要な加圧力を発生させる加圧機構4とを有する。
【0030】
この実施例では前記第一電極1は少なくとも二つに分割され,しかも二つに分割された分割電極1a,1bには前記棒状素材50の外周面の曲面形状と略一致する断面凹曲面のクランプ兼電極面1c,1dが形成されている。
前記電極の凹曲面は前記棒状素材の軸方向外周面と曲面接触する。
【0031】
なお,第一電極1のクランプ兼電極面1c,1dの曲面形状は図2の断面に示す第二電極のクランプ兼電極面2c,2dの曲面形状と同様につき図示省略する。
片側の分割電極1aは電極支持台9を前記棒状素材50の軸線y−yに対し直角に交わる方向つまり矢印a−b方向に移動し,もう片側の分割電極1bに対し前記棒状素材50のクランプとアンクランプに必要な開閉動作はシリンダ又は電動モータ等の駆動源(図省略)に連結して行われる。
【0032】
一方,前記第二電極2には前記ストッパ部50aを形成するための据え込み溝3が当該電極と一体に形成されている。
この据え込み溝3は断面が前記ストッパ部50aと略同形でありかつ前記ストッパ部50aと略同等の体積を収容する立体的な断面凹型のものである。
前記据え込み溝3には前記棒状素材50を軸線y−y方向に連通する連通孔5が形成されている。
【0033】
この連通溝5と前記軸方向のクランプ溝6はそのまま連通し前記ストッパ部50aを形成する領域外の素材一部を軸方向にクランプする。このクランプ溝6は前記第一電極1と同様に少なくとも前記棒状素材50の軸線y−y方向(縦方向)に二分割されている。
【0034】
この分割された二つの対面する電極面には図2に示すように前記棒状素材50の外周面と適合して前記軸方向に接触する断面凹曲面のクランプ兼電極面2c,2dがそれぞれ形成されている。
【0035】
その片側の分割電極2aは前記棒状素材の軸線y−yに対し直角に交わる方向(図の矢印c−d)に向けて開閉動作し,もう一方の片側電極2bに対し前記棒状素材50のクランプとアンクランプに必要な動作が行われる。
【0036】
なお,前記第二電極2の分割電極2aの構造は前記第一電極1にも応用することができる。この場合,前記棒状素材50を軸線y−y方向に連通する連通孔5を前記第一電極1と一体的に形成しその連通孔の一部(前部又は後部)を前記第二電極2の片側の分割電極2aと同様に途中から分離してその分割電極を前記棒状素材の軸線y−yに対し直角に交わる方向(図の矢印a−b)に向けて開閉動作するように駆動用シリンダを利用して前記ストッパ部50aを形成する領域外の素材一部をしっかりクランプ保持することができる。
【0037】
また当該通電アプセッタ装置10は図2に示すように前記第一電極1と第二電極2により前記棒状素材50をクランプ保持した時の寄り方向の分割電極間の隙間h寸法が0.2mm以下に制御することによって前記素材50の外周に張り出すストッパフラット面に拡大発生する突起が付着するのを前記電極間の隙間hの設定量によって減少させることができる。
【0038】
この場合,前記分割電極間の隙間hが0.1mm未満ではクランプ力が不足しコンタクト面が滑り加工精度に影響を及ぼす。また前記分割電極間の隙間h寸法が0.6mm以上になるとフラット部に突起状のふくらみが生じ品質を低下させる。
【0039】
本発明の通電アプセッタ方法及び装置について下記の条件値に基づき作用効果を確認した。
【0040】
(1)アプセット条件
電極加圧力:8.0kN,通電時間:60サイクル(アップスロープ10サイクルを含む),通電電流:6.7kA,クランプ間隔:6.3mm,アプセッタ最終間隔:1.5mm,第一電極と第二電極の材質:クロム銅(CrCu)
【0041】
(2)パーキングロッドとストッパ部の材質と形状
棒状素材材質:S35C,外径:7.08mm,長さ:280mm,円すい形ストッパ部:長さ9.5mm ,大径部外径:10.2mm,小径部外径:9mm
【0042】
以上の実験値を例に実験した結果,通電アプセッタによる抵抗発熱を利用して精度上及び機能上何ら問題ないストッパ部を一本の棒状素材からパーキングロッド外周に直接成型することできることが確認された。
【0043】
上記実験値による本発明装置の動作を図5に示す動作フローチャートに基づいて説明すると,予め一本の軟鋼丸棒からパーキングロッドとストッパ部とが形成される規定寸法の棒状素材50が用意される。
【0044】
前記第一電極1と第二電極2との相対するクランプ間隔Eはストッパ部50aを形成するアプッセト代と対応した距離に設定されている。
そして前記第一電極1と他方の第二電極2は戻り位置において,各電極1,2とも図1〜図3に示す左側の分割電極1a,2aがそれぞれ左方(図の矢印a,c)に下がって電極を開放位置で待機している。
【0045】
ステップ1
棒状素材50をアプセッタ装置にセットする際,手動またはロボットハンドリング(図省略)により第二電極2の据え込み溝3内に縦方向(図の軸線y−y方向と同様)に挿入される。
【0046】
この場合,棒状素材50は第二電極2と一体の据え込み溝3を通し,この真下に通じる連通孔5及びクランプ溝6の中に挿入される。この場合分割電極2aが左方向に移動して開放している。
【0047】
そして第二電極2の据え込み溝3内に挿入された棒状素材50は二つの分割電極のクランプ兼電極面2cとクランプ兼電極面2dの断面凹曲面が素材外周面形状に適合しクランプ保持される。
【0048】
ステップ2
次に開放状態の加圧機構4を動作させてエアシリンダの戻し側エア室に注入された圧縮エアを排出すると,シリンダロッドが第一電極1,電極支持台9,可動ラム等の自重で下降し棒状素材の上端にシリンダロッド先端の電極支持台のストッパ面が当接して棒状素材が軸方向に低加圧力で押圧される。
【0049】
前記シリンダの自重による低加圧力を受けると,前記棒状素材50の下端が電極台7のストッパ面に当接して棒状素材50のロッド上端とロッド下端とで位置決めされ所定のクランプ間隔Eが設定される。
【0050】
次いで第一電極1の分割電極1aを閉じる右方(図の矢印b)に動作して棒状素材のストッパ部領域をしっかりクランプし前記棒状素材の位置決めが完了する。
【0051】
かくして位置決めされた棒状素材50は第一電極1及び第二電極2の可動側の分割電極1a,2aが各駆動用シリンダで右方(図の矢印b,d)に駆動されると,分割電極1a,2aと固定側の各分割電極1b,2bによって前記ストッパ部領域において前記円すい形ストッパ部の体積に対応したアプセット代つまりクランプ間隔Eが設定され,これによってストッパ部50aのアプセッタ加工に入る前の正確なアプセット代が確実にクランプ保持されセッテイングが完了する。
【0052】
ステップ3
かくして起動スイッチをオンすると,制御装置に起動信号が送信され制御装置から発信される信号で加圧機構4の電磁バルブのポートが切りかわりエアシリンダに高加圧力動作が開始される。
【0053】
ステップ4
次いで電源制御部からコンタクタ部のサイリスタなどの電子スイッチに点弧信号が入り通電トランスの一次回路に大電流が供給され当該通電トランスで電圧変換された所定のアプセット電流が前記通電トランスの二次回路に供給され前記第一電極1と第二電極2を経て前記棒状素材50の前記ストッパ部領域に電流が所定時間供給される。
【0054】
ステップ5
その間,抵抗発熱によってストッパ部成型領域が所定温度たとえば鉄の軟化温度800度まで加熱される。
【0055】
ステップ6
次第にストッパ部成型領域が加熱されると,前記棒状素材50の軸方向Aへ高圧力がかかり当該素材をアプセット代まで移動させながら前記据え込み溝3内で圧縮しその塑性変形を利用し前記素材外周に拡張した円すい形のストッパ部50aが据え込み成型される。
【0056】
この場合,第一電極1と第二電極2とのアプセット時の最終的な電極先端の隙間が予め設定させたストロークがたとえば1.5mm程度の設定範囲に達したとき,この電極移動時の変位量をエアシリンダの場合,位置センサで確認するか,又は熱容量に対応する通電時間で確認するか,して加圧機構の加圧移動を停止させる。
【0057】
また加圧機構がサーボモータとボールねじ,ナットの機械式システムの場合はエンコーダなどサーボモータの駆動をデジタル制御手段による位置センサで速度制御と位置決めを行う。
【0058】
ステップ7
そしてアプセット最終位置に達したとき前記電力制御部に通電停止信号が送られアプセット電流を遮断する。これらの動作はCPU上のシーケンスプログラムにより制御される。
【0059】
このようにアプセット時の前記第一電極1と第二電極2間に形成される最終的な前記軸方向の隙間eを狭くしたことで前記据え込み溝3の領域内でふくらむストッパ部50aの当接面50bがフラットに圧縮成型されストッパ部50aとしての機能が十分に得られる。
【0060】
ステップ8
かくして棒状素材のストッパ部のアプセット加工が終了すると,前記電力制御部から第二電極2の分割電極2aを駆動するエアシリンダの電磁バルブに開放信号が送られポイントがアンクランプ(開放ポート)に切り換わり開放動作を開始する。
【0061】
次いで加圧機構4のエアシリンダが開放を開始し,第一電極1の分割電極1aがアンクランプを開始することで,アプセット加工後の棒状素材の取り出しが可能となる。
【0062】
ステップ9
以上でアプセッタ成型の1サイクルを完了し,以降同様の動作を繰り返すことになる。
【0063】
なお,エジェクト装置8を利用して取り出し動作する場合は前記据え込み溝3内で塑性変形させて前記素材外周に張り出すストッパ部50aを成型した後に前記棒状素材50の先端を電極台7の真下から棒状素材50の軸線y−y方向にロッドを自動的に突き出し,これにとって加工後の素材を前記据え込み溝3から抜き取ることができる。
【0064】
この実施例では当該アプセッタ装置10は前記加圧機構4で前記棒状素材50の軸方向Aにアプセットする方向が地上に対し引力方向と同一方向であるが,当該装置全体を180度横向きにすれば前記棒状素材の軸方向のアプセット力を第一電極と第二電極の両側から水平方向に掛けることができ,アプセッタ装置の構造を小型化することができる。またワークの供給と搬出の自動化が容易になる。
【0065】
また本実施例では電極台7には前記棒状素材50の軸線y−y方向の先端を受ける位置にエジェクト装置8が配置されているため通電後にストッパ部50aが据え込み溝3に食い込んでも軸線y−y方向に簡単に抜くことができる。
【0066】
このエジェクト装置8は前記据え込み溝3内で塑性変形させて前記素材外周に張り出すストッパ部50aを成型した後に前記棒状素材50の先端を電極台7の真下から棒状素材50の軸線y−y方向にロッドを自動的に突き出し,これによって加工後の素材を前記据え込み溝3から抜き取ることができる。
【0067】
このエジェクタ装置8は機械的な昇降機構であって,その駆動源にシリンダ又は電動モータ等のアクチュエータが用いられる。
また前記電極の開閉駆動および通電終了後の前記エジェクトする手段を自動工程とすれば生産性が倍加する。
【0068】
本発明は従来のパーキングロッドとパーキングロックカムとの単体部品をアーク溶接によって一体に組み立てる方法及び装置と比較し,一本の金属製の棒状素材から予めストッパ部を形成するに必要な長さの棒状素材を用意するだけで抵抗発熱によって短時間でパーキングロッド外周上にストッパ部を塑性加工することができるから,パーキングロックカムの単独部品と加工工数が削減できる。
【0069】
つまり一本の軟鋼丸棒から抵抗発熱を利用して簡単に成型することができるため材料の歩留まりもよく製作工数及び部品点数,設備費等が削減でき,大幅なコスト削減が可能になる。
【0070】
また一方の電極にロックカム用ストッパ部の外形と略同等の体積を有する据え込み溝を一体に設けることにより従来の溶接部位に生じる凹凸や段差を減少することができ品質及び機械強度を増し耐久性も向上する。
【0071】
またアプセット時の前記第一電極と第二電極間に形成される最終的な前記軸方向の隙間を1.5mm程度まで狭くしたことによって前記据え込み溝の領域内で素材外周面にふくらむストッパ部の肉厚が前記軸方向からフラットに圧縮できるためストッパ部の大径部54にバリもなく滑らかで品質上自然な仕上がりのストッパ部が作れる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の実施例ではパーキングロック装置の円すい形ストッパ部品のアプセッタ加工について言及したが,この分野に限らず一本の金属棒状素材から異なる目的用途の部品加工にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の方法を実施するための装置である。
【図2】図1のX−Xの矢視図で第二電極の断面図である。
【図3】本発明の方法を実施するための装置の断面と動作説明のための概略図である。
【図4】本発明方法と装置により通電アプセッタ成型後のワーク図で,A図は円すい形のストッパ部を示し,またB図は円柱形のストッパ部を示す。
【図5】本発明の動作フローチャートを示す。
【図6】従来の方法を示す説明図である。
【図7】パーキングロッド,ストッパ部品,パーキングロックカム,圧縮コイルばねから構成された従来方法による構造例を示す部分図である。
【符号の説明】
【0074】
1 第一電極 1a,1b 分割電極
2 第二電極 2a,2b 分割電極
3 据え込み溝
4 加圧機構
5 連通孔
6 クランプ溝
7 電極台
8 エジェクト装置
10 通電アプセッタ装置
50 棒状素材
50a ストッパ部
50b 当接部
51 パーキングロッド
52 ストッパ部品
53 貫通孔
54 大径部
55 テーパ面
56 パーキングロックカム
57 圧縮コイルばね
58 円筒先端部
A 棒状素材軸方向
E クランプ間隔(アプセット代)
e 電極アプセッタ最終間隔
h 分割電極間の隙間
y 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電アプセッタ方法はパーキングロッドの外周にパーキングロックカム用のストッパ部を形成する方法であって,一本の金属棒状素材を所定のクランプ間隔をもってクランプする第一電極とこれに対応する第二電極とを有し,
前記いずれか一方の電極には前記ストッパ部と略同等の体積を持ち,かつ前記ストッパ部の外周面と略同形の凹型の据え込み溝が形成され,
そして前記棒状素材のストッパ部成型領域を前記所定のクランプ間隔をもって前記第一電極とこれに対応する第二電極とでクランプし,そのクランプした状態で前記第一電極と第二電極を介して電流を流し前記棒状素材のストッパ部成型領域を所定温度まで加熱させ,
次いで加圧機構で前記棒状素材の軸方向にアプセット力をかけ,
それによって前記棒状素材の軟化したストッパ部成型部分を前記据え込み溝内で塑性変形させて前記素材外周にストッパ部を成型する。
【請求項2】
請求項1の通電アプセッタ方法において,
据え込み溝はその内周面形状が前記ストッパ部の外周面形状と略同等の円すい形又は円柱形である。
【請求項3】
請求項1又は2の通電アプセッタ方法において,
前記アプセット時の第一電極と第二電極との間に形成される最終的な隙間を所定量に設定して前記ストッパ部のストッパ当接面がフラットにプレス加工されるよう前記いずれか一方の電極面で押さえ込むようにした。
【請求項4】
請求項3の通電アプセッタ方法において,
前記アプセット時の最終電極間の隙間が0mm以上2.0mm未満とする。
【請求項5】
通電アプセッタ装置は,
前記棒状素材のストッパ部を形成する領域の近傍に所定のクランプ間隔をもって前記領域の一方をクランプする第一電極と,
当該電極と対応して前記領域のもう片方をクランプする第二電極と,
少なくとも前記いずれか一方の電極を相対移動させて前記棒状素材の軸方向に必要なアプセット力を発生させる加圧機構とを有し,
前記第一電極は少なくとも二つに分割された部分を有し,
しかもこの二つの対面する分割面には前記棒状素材の外周面と軸方向に接触する断面凹曲面のクランプ兼電極面が形成されており,
そしてその片側の分割電極はもう片方の分割電極に対し前記棒状素材の軸線に対し直角に交わる方向に動くようになし,これによって前記棒状素材のクランプとアンクランプに必要な開閉動作が行われ,
そして前記第一電極に対応する第二電極には前記ストッパ部を形成するための据え込み溝が一体に形成され,この据え込み溝は断面が前記ストッパ部の外周面の形状と略同形状をなしかつ前記ストッパ部と略同等の体積を有するものであり,
しかも前記据え込み溝には前記棒状素材を軸方向に開いた連通孔が設けられ,
その連通孔は少なくとも二つに分割されており,その分割方向が前記棒状素材の軸方向であり,
かつこの分割された二つの対面する分割面には前記棒状素材の外周面の形状と適合し前記軸方向に接触する断面凹曲面のクランプ兼電極面が形成され,
そして前記第一電極と第二電極においてその少なくとも一方の分割電極は前記棒状素材の軸線に対し略直角に交わる方向に駆動され,もう片方の分割電極との間に前記棒状素材のクランプとアンクランプに必要な開閉動作が行われるように構成されている。
【請求項6】
請求項5の通電アプセッタ装置において,
前記第一電極と第二電極は前記棒状素材を両側からクランプした時の分割電極相互間に形成される隙間の上下限値の範囲が0.1mm以上0.6mm未満とする。
【請求項7】
請求項5又は6の通電アプセッタ装置において,前記据え込み溝内で塑性変形させて前記素材外周に張り出すストッパ部を成型した後に,前記棒状素材をその軸方向に機械的な高圧力を発生させ,
これによって当該ストッパ部を含む素材を前記電極から離脱させるエジェクト手段が設置されている。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−246509(P2008−246509A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88859(P2007−88859)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000151070)株式会社電元社製作所 (23)
【Fターム(参考)】