説明

運転予測により始動後機関出力制御されるハイブリッド車

【課題】ハイブリッド車の運転開始時に於ける内燃機関の冷温状態からの暖機促進制御に対する運転環境や運転者の運転個性の影響に鑑み、暖機促進のための出力上乗せ制御を個々の自動車の運転環境や運転者の運転個性に合わせてより適切に行う。
【解決手段】車輌運転開始後の所定期間内に車輌駆動負荷が所定値以上となる状態が生ずる可能性を予測し、該可能性が予測されるときには、機関冷温始動後の暖機促進のための内燃機関出力増大の自動制御を行わないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車に係り、特にその内燃機関冷温始動後の暖機促進制御に係る。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車に於ける内燃機関の冷温始動に関しては、内燃機関の冷温始動後に、内燃機関の負荷条件が排気ガス特性の観点から最適となるよう、電動発電機の負荷を定めることが下記の特許文献1に、また内燃機関の温度が低いときには機関始動に当ってインバータから交流電動機へ供給される電流の値を下げ、主回路の電気装置の温度上昇を抑制することが、下記の特許文献2記載されている。
【特許文献1】実開平6-4343
【特許文献1】特開2004-248458
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ハイブリッド車に於いては、車輌の運転が開始され、内燃機関が冷温状態から始動されたとき、周囲温度が低く、内燃機関が冷えているときには、その暖機促進を図るべく、一般に、暫時、通常運転より出力を高くした出力上乗せ運転が行われている。尚、自動車は、駐車状態から運転が開始されるとき、多くの場合、運転開始後しばらくは比較的低速にて運転され、車輌の駆動負荷は低いが、ハイブリッド車は、車輌発進時には専ら電動駆動されるので、このとき内燃機関は発電機を駆動しており、暖機促進のために内燃機関の出力が増大されても、車輌の走行には差し支えない。
【0004】
しかし、車輌の低速走行中に内燃機関の出力が増大されると、車内騒音が増大する。また内燃機関の出力増大は、発電量の増大によって一応有効に吸収されるが、車輌の電動走行中に発電された電力は、一旦バッテリに充電された後、バッテリより放電されて使用されるので、それには必然的に充放電損失が伴い、その分車輌の燃費は低下する。
【0005】
ところで、自動車が駐車状態から運転開始されるとき、確かに一般的には、運転開始後しばらくは比較的低速にて運転され、車輌の駆動負荷も低いが、個々の自動車の運転環境によって、また個々の運転者の運転個性によっては、駐車状態からの運転開始であっても、駐車場を出たところで道路が直ちに上り坂にさしかかったり、運転経路は常時間もなく高速道路に入る場合もある。ハイブリッド車が上り坂にさしかかったり高速道路に入れば、内燃機関も車輌駆動に加えられるので、この場合には特に上記の出力上乗せ制御が行われなくても、内燃機関の暖機は順調に促進される。
【0006】
本発明は、ハイブリッド車の運転開始時に於ける内燃機関の冷温状態からの暖機促進制御に於ける上記の事情に鑑み、暖機促進のための出力上乗せ制御を個々の自動車の運転環境や運転者の運転個性に合わせてより適切に行うよう、この点に関しハイブリッド車を更に改良することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するものとして、本発明は、駆動源として内燃機関と電動手段とを備えたハイブリッド車にして、車輌運転開始後の所定期間内に車輌駆動負荷が所定値以上となる状態が生ずる可能性を予測し、該可能性が予測されるときには機関冷温始動後の暖機促進のための内燃機関出力増大の自動制御を行わないようにすることを特徴とするハイブリット車を提案するものである。
【0008】
前記車輌駆動負荷が所定値以上となる状態は、前記内燃機関により車輌が直接駆動されるようになる状態とされてよい。
【0009】
前記予測は、車輌のナビゲーション装置により行われてよく、或いは運転者の過去の運転態様の学習に基づいて行われてよく、またこれら両者を組み合わせて行われてもよい。
【0010】
また、前記予測に基づいて内燃機関冷温始動後の内燃機関出力増大の自動制御を行わなかったとき、所定時間の経過後内燃機関の温度が所定値以下であるときには、内燃機関の暖機促進のための内燃機関出力増大の自動制御を行うようになっていてよい。
【発明の効果】
【0011】
上記の如く、駆動源として内燃機関と電動手段とを備えたハイブリッド車に於いて、車輌運転開始後の所定期間内に車輌駆動負荷が所定値以上となる状態が生ずる可能性を予測し、該可能性が予測されるときには機関冷温始動後の暖機促進のための内燃機関出力増大の自動制御を行わないようにすれば、予測通り車輌運転開始後の所定期間内に車輌駆動負荷が所定値以上となる状態が生ずるとき、内燃機関の暖機促進のための負荷増大を行わず、その間車室内騒音の増大や充放電損失による燃費低下をきたすことなく、内燃機関の速やかな暖機を達成することができる。
【0012】
この場合、特に前記車輌駆動負荷が所定値以上となる状態が、前記内燃機関により車輌が直接駆動されるようになる状態とされれば、内燃機関の暖機促進のための出力増大を行わずに内燃機関の速やかな暖機を達成することができる状態を的確に把握することができる。
【0013】
前記予測が車輌のナビゲーション装置または運転者の過去の運転態様の学習に基づいて行われれば、車輌運転開始後の所定期間内に車輌駆動負荷が所定値以上となる状態、特に内燃機関により車輌が直接駆動されるようになる状態が生ずる可能性を、かなりの精度にて予測することができると考えられる。
【0014】
また、上記の通り前記予測に基づいて内燃機関冷温始動後の内燃機関出力増大の自動制御を行わなかったとき、所定時間の経過後内燃機関の温度が所定値以下であるときには、内燃機関の暖機促進のための内燃機関出力増大の自動制御が行われることにより、予測がずれた場合にもそれを修正する作動が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明によるハイブリット車をその駆動構造について解図的に示す概略図である。但し、本発明の要旨はその作動に関するソフトウエア的事項であり、以下に説明される電気式制御装置内に制御プログラムとして組み込まれているので、図1に表れている構造自体は公知の構造である。
【0016】
図に於いて、10は内燃機関であり、図では4気筒内燃機関として示されている。各気筒からの排気は、排気マニホールド12により集められ、排気導管14を経て三元触媒コンバータ16へ導入され、ここで三元触媒によりHC、CO、NOxを相互反応させて浄化した後、大気へ放出されるようになっている。吸気はエアクリーナ18を経て取り入れられ、途中に吸気絞り弁20を含む吸気管22より吸気マニホールド24を経て各気筒へ供給されるようになっている。
【0017】
内燃機関10の出力軸26は差動連結手段として作動する遊星歯車装置28のキャリア30に連結されている。遊星歯車装置28のサンギヤ32には第一の電動発電機(モータ/ジェネレータ)34のロータ36が接続されている。遊星歯車装置28のリングギヤ38には第二の電動発電機40のロータ42が接続されている。第一の電動発電機34のステータ44と第二の電動発電機40のステータ46とはインバータ48を経てバッテリ50と電気的に接続されている。
【0018】
遊星歯車装置28のリングギヤ38には出力ギヤ52が同心に連結されており、出力ギヤ52には出力ピニオン54が噛み合わされている。出力ピニオン54には車輪駆動軸56が連結されており、車輪駆動軸56は差動歯車装置58および一対の車軸60を経て一対の車輪62を駆動するようになっている。
【0019】
64はマイクロコンピュータを備えた電気式制御装置である。電気式制御装置64は、内燃機関冷却水温センサ66より内燃機関の冷却水温度を示す信号、排気温センサ68より排気の温度を示す信号、エンジン回転数センサ70よりエンジン回転数を示す信号、車速センサ72より車速を示す信号、バッテリ50よりその充電状態を示す信号、図には示されていないアクセルペダルよりその開度を示す信号、その他の車輌運転制御に必要な情報を含む信号を供給され、そのマイクロコンピュータに組み込まれた制御プログラムに従って所定の制御演算を行い、その演算結果に基づいて吸気絞り弁20の開度を制御すると共にエンジンの各気筒への燃料の供給および点火時期を制御し、更にインバータ48を介して第一の電動発電機34および第二の電動発電機40図の作動を制御するようになっている。
【0020】
図2は、電気式制御装置64により行われる車輌運転制御のうち、特に本発明に係る制御が行われる態様を一つの実施の形態について示すフローチャートである。このフローチャートに示す制御は、車輌の運転スイッチが閉じられ、車輌の運転が開始されると、数10〜数100ミリセカンドの周期にて繰り返し実行されてよい。
【0021】
制御が開始されると、ステップ10に於いて、内燃機関の温度Teが出力増大による暖機促進制御を要する低温の限界温度Teo以上であるか否かが判断される。答がイエス(Y)であれば、或は制御開始の当初は答がノー(N)であっても、運転により内燃機関が暖機されて途中から答がイエスになれば、制御は後述のステップ90へ進むが、先ず車輌運転開始時に内燃機関が冷えていて答がノーであれば、制御はステップ20へ進む。
【0022】
ステップ20に於いては、フラグF1が1であるか否かが判断される。この種のフラグは制御の開始時に0にリセットされているので、制御が最初にステップ20に至ったときには、答はノーであり、制御はステップ30へ進む。
【0023】
ステップ30に於いては、カーナビゲーション装置による進路予測により、所定期間内に車輌駆動負荷が所定値以上となる状態、特に内燃機関により車輌が直接駆動されるようになる状態が生ずると予測されるか否かが判断される。答がノーであれば、制御はステップ40へ進み、これまでの運転者の運転結果の学習に基づき、所定期間内に車輌駆動負荷が所定値以上となる状態、特に内燃機関により車輌が直接駆動されるようになる状態が生ずると予測されるか否かが判断される。
【0024】
ステップ40の答もノーであれば、制御はステップ50へ進み、フラグF2が1にセットされる。フラグF2も制御開始時に0にリセットされている。次いで制御はステップ60へ進み、上記のフラグF1が1にセットされ、制御はステップ10の前に戻る。ステップ30または40の何れか一方でもその答がイエスであれば、制御はステップ50をバイパスしてステップ60へ進む。従ってこの場合には、フラグF2は0にリセットされたままに留まる。
【0025】
制御が一度ステップ60を経てステップ10の前に戻ったときには、ステップ10の答が未だノーのままで、制御がステップ20へ進んだときにも、ステップ20の答はイエスとなるので、これより制御はステップ70へ進む。
【0026】
ステップ70に於いては、フラグF2が1であるか否かが判断される。そして答がイエスの時には、制御はステップ80へ進み、内燃機関の暖機促進のために内燃機関を出力上乗にて運転することが行われる。尚、内燃機関の出力上乗せの度合は、車速または内燃機関の温度、或いはこれら両方に基づいて適当に設定されてよい。
【0027】
ステップ70の答がノーであるときには、制御はステップ90へ進み、カウント値Nが所定の限界値Nc以上であるか否かが判断される。このカウント値Nは、電気式制御装置64を構成するマイクロコンピュータの機能の一部であってよく、制御開始時に0にリセットされ、後述のステップ130に於いて1ずつ増大され、制御がこのフローを通って繰り返される周期と掛け合わされることにより制御開始からの時間の経過を計測するものである。限界値Ncは、ステップ30または40のいずれかの答がイエスとなった場合に、その予測が当っていれば、機関暖機促進のため機関出力を増大させる出力上乗せ運転が行われなくても、内燃機関が所定の暖機状態(下記のステップ110に於けるTe1)に達すると予想される車輌運転開始からの経過時間に相当するものである。
【0028】
ステップ90の答がノーである間、制御はステップ100へ進み、内燃機関は出力上乗せのない通常運転とされる。そして、車輌運転開始時から所定時間が経過し、ステップ90の答がイエスになると、制御はステップ110へ進む。
【0029】
ステップ110に於いては、内燃機関の温度Teが上記の所定暖機度に達したことを示す温度値Te1以上であるか否かが判断される。ステップ110の答がイエスであれば、制御はステップ100へ進み、それ迄通り通常運転が続けられる。一方、ステップ110の答がノーであれば、それはステップ30または40に於ける予測に反して車輌駆動負荷の増大が行われなかったことを示唆する。そこでこの場合には、制御はステップを80へ進み、少し出遅れてはいるが、この時点から始まって出力上乗せ運転が行われる。
【0030】
いずれにしても、ステップ80またはステップ100に続いて、ステップ120にてカウント値Nがある所定の最終上限値Nfを越えたか否かが判断される。この上限値Nfは、車輌の運転開始後これに相当する時間が経過したときには、以上の暖機促進に関する制御を終了すべき時がきたことを示す値である。答がノーである間、制御はステップ130へ進み、カウント値Nが1だけ増分され、制御は次回のフローへ向けて戻る。答がイエスであれば、車輌運転開始時にのみ対処する本制御はこれにて終了する。
【0031】
以上に於いては本発明を一つの実施の形態について詳細に説明したが、かかる実施の形態について本発明の範囲内にて種々の変更が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明によるハイブリット車をその駆動構造について解図的に示す概略図。
【図2】図1に示す如きハイブリッド車に於いて本発明に係る制御が行われる態様を一つの実施の形態について示すフローチャート。
【符号の説明】
【0033】
10…内燃機関、12…排気マニホールド、14…排気導管、16…三元触媒コンバータ、18…エアクリーナ、20…吸気絞り弁、22…吸気管、24…吸気マニホールド、26…出力軸、28…遊星歯車装置、30…キャリア、32…サンギヤ、34…第一の電動発電機、36…ロータ、38…リングギヤ、40…第二の電動発電機、42…ロータ、44…ステータ、46…ステータ、48…インバータ、50…バッテリ、52…出力ギヤ、54…出力ピニオン、56…車輪駆動軸、58…差動歯車装置、60…車軸、62…車輪、64…電気式制御装置、66…内燃機関冷却水温センサ、68…排気温センサ、70…エンジン回転数センサ、72…車速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源として内燃機関と電動手段とを備えたハイブリッド車にして、車輌運転開始後の所定期間内に車輌駆動負荷が所定値以上となる状態が生ずる可能性を予測し、該可能性が予測されるときには機関冷温始動後の暖機促進のための内燃機関出力増大の自動制御を行わないようにすることを特徴とするハイブリット車。
【請求項2】
前記車輌駆動負荷が所定値以上となる状態は、前記内燃機関により車輌が直接駆動されるようになる状態であることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車。
【請求項3】
前記予測は車輌のナビゲーション装置により行われることを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車。
【請求項4】
前記予測は運転者の過去の運転態様の学習に基づいて行われることを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車。
【請求項5】
前記予測に基づいて内燃機関冷温始動後の内燃機関出力増大の自動制御を行わなかったとき、所定時間の経過後内燃機関の温度が所定値以下であるときには、内燃機関の暖機促進のための内燃機関出力増大の自動制御を行うようになっていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のハイブリッド車。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−291729(P2006−291729A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109407(P2005−109407)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】