説明

過給機

【課題】冷却効果を与える構造にするとともに異物を含まない潤滑油を適切量供給することにより転がり軸受の焼き付きを防ぐことができる過給機を提供する。
【解決手段】ハウジング40と、このハウジング40内の中心孔43で転がり軸受10a,10bを介して支持されているタービン軸41とを備えている。ハウジング40内の冷却水ジャケット26は、ハウジング40の本体部40a内に設けられている。転がり軸受10a,10bには、ハウジング40内に形成され潤滑油を溜めるタンク部35と、このタンク部35と中心孔43との間に設けられた紐部材36とにより潤滑油が供給されている。紐部材36は、繊維部37aと隙間37bとから構成される芯部37を有し、当該隙間37bによる毛細管現象によって潤滑油を供給しており、気孔率が45.5%以上80%未満に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車において、ターボチャージャーはエンジン性能をさらに引き出すことができることから広く使用されている。ターボチャージャーは、ハウジングと、このハウジング内の中心孔で軸受を介して支持されたタービン軸とを備えている。従来、このようなターボチャージャーにおいて、前記軸受はエンジンオイルの供給を受け潤滑されている。このため、特許文献1、特許文献2に示しているように、ターボチャージャーの小さなハウジング内には、エンジンオイル用の流路として多くの孔が形成されている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−141259号公報
【特許文献2】特開平10−19045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、特許文献2に記載されているターボチャージャーは、前記のように、ハウジングの本体部に前記孔が多く形成されている。このため、ターボチャージャーを冷却するためのクーラント流路を小さなハウジングの本体部に形成するのがスペース的に困難となるとともに、冷却水ジャケットが前記本体部のごく一部にしか設けることができない。したがって、クーラントによる冷却効果は低く、軸受が高温となって、焼き付きが生じ易いという問題点を有している。また、前記孔では、軸受に供給されるオイルの量を調節できないという問題もある。
【0005】
さらに、特許文献1、特許文献2に記載されているターボチャージャーでは、エンジン側で生じたカーボンスラッジなどの異物で汚れたエンジンオイルが、軸受に供給されてしまう。このため、特に軸受が転がり軸受とされた場合、当該転がり軸受に前記異物が混入することにより焼き付きが発生するおそれがある。そこで、ターボチャージャー内のエンジンオイルの流路の途中にフィルタなどを設ける等の異物を除去する工夫が施されているが、この場合であっても、異物の除去は完全ではない。
【0006】
そこで、この発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、冷却効果を与える構造にするとともに異物を含まない潤滑油を適切量供給することにより転がり軸受の焼き付きを防ぐことができる過給機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するためのこの発明の過給機は、冷却水ジャケットを内部に有しているハウジングと、このハウジングの中心部にある中心孔で転がり軸受を介して支持され前記ハウジングの軸方向外方にあるタービンが一端部に設けられているタービン軸と、を備えた過給機において、前記冷却水ジャケットは、前記ハウジングの本体部内に設けられており、前記転がり軸受には、前記ハウジング内に形成され潤滑油を溜めるタンク部と、このタンク部と前記中心孔との間に設けられた紐部材とにより前記潤滑油が供給されており、前記紐部材は、多数本のプラスチック製繊維からなる繊維部と当該繊維間に存在する隙間とから構成される芯部を有し、当該隙間による毛細管現象によって前記潤滑油を前記タンク部から前記中心孔に供給しており、前記芯部における前記隙間の割合を示す気孔率が45.5%以上80%未満に設定されていることを特徴としている。
【0008】
この構成によれば、潤滑油をハウジング内に形成されたタンク部から供給するので、外部から前記潤滑油の供給を受けるための流路が不要となるため、冷却水ジャケットをハウジングの本体部内に設けることができる。これにより、冷却水ジャケットによる冷却作用を与えることができ、ハウジング内の転がり軸受を冷却することで転がり軸受の焼き付きが抑えられる。また、転がり軸受用の潤滑油をハウジング内のタンク部から供給することで、従来のようなエンジンで生じるカーボンスラッジなど、過給機外部における原因によって前記潤滑油が汚れることがない。このため、潤滑油中の異物が転がり軸受に混入することにより発生する焼き付きを防止することができる。さらに、紐部材の気孔率を45.5%以上80%未満に設定することにより、焼き付きが発生させない必要最少量の潤滑油を毛細管現象により確実に供給して焼き付きを防止することができる。ここで、気孔率が80%以上では、隙間が多すぎて紐部材としての形状が保つことができない。また気孔率が45.5%未満になると、潤滑油の供給量が少なくなるため軸受に焼き付きが発生するおそれがある。
【0009】
また、上記過給機において、前記気孔率が65%以上80%未満であることが好ましい。気孔率をこの範囲にすることにより、焼き付きを発生させない必要最少量の潤滑油をより安定的に供給することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、過給機の転がり軸受を冷却するとともに異物を含まない潤滑油を適切量供給することにより転がり軸受の焼き付きを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1はこの発明の過給機の実施の一形態を示す断面図である。この過給機は、ハウジング40と、このハウジング40内で転がり軸受10a,10bを介して当該ハウジング40に支持されているタービン軸41とを備えている。タービン軸41の一端部に、ハウジング40の軸方向外方にあるタービン42が設けられており、反対の他端部に、コンプレッサ(図示せず)が取り付けられており、この過給機は自動車エンジンのためのターボチャージャーとされている。転がり軸受10a,10bは軸線C方向に離れて二列設けられている。
【0012】
ハウジング40は、外周が円柱形状とされた本体部40aと、この本体部40aの他端部50の外周部から径方向外方へ延びるフランジ部40bとを有している。本体部40aは、径方向中央部(中心部)に中心孔43を有しており、中心孔43は軸線Cを中心とした円形孔として形成されている。そして、この中心孔43に一対の転がり軸受10a,10bが設けられている。これら転がり軸受10a,10bによって、タービン軸41は軸線C回りに回転可能に支持されている。
【0013】
ハウジング40の本体部40aは、その内部に冷却水ジャケット26を有している。冷却水ジャケット26は、本体部40a内において軸方向一端部49から他端部50にわたって設けられている。具体的に説明すると、冷却水ジャケット26は、軸方向について、本体部40aの一端部49側の側壁17の内面から他端部50側の側壁18の内面に至る範囲に構成されており、その軸方向寸法は中心孔43よりも大きくされている。これにより、冷却水ジャケット26は、一対の転がり軸受10a,10bのそれぞれの径方向外方の位置に跨って存在している。
【0014】
冷却水ジャケット26は、本体部40aの周方向について、タービン42側にある一方の転がり軸受10aの径方向外方の位置及びタービン42側の位置に、周方向で連続して環状とされた部分を有している。なお、他方の転がり軸受10bの径方向外方の位置の一部、つまり本体部40aの他端部50側の下部における内部には、転がり軸受10a,10bに供給する潤滑油を溜めているタンク部35が形成されている。
このように、前記タンク部35の存在によって一部が残されているが、冷却水ジャケット26は、中心孔43を軸方向及び周方向に包囲する形状とされている。
【0015】
また、冷却水ジャケット26は、本体部40aの一端部49側の環状の側壁17と、他端部50側の環状の側壁18の一部と、中心孔43を形成している内側周壁19と、本体部40aの外周にある外側周壁20とによって囲まれた空間部分として形成されている。そして、この空間部分に冷却用のクーラントが存在しており、転がり軸受10a,10bを冷却することができる。そして、前記内側周壁19には径方向外方へ突起しているフィン24が複数形成されており、転がり軸受10a,10bに対する冷却作用を高めている。なお、前記内側周壁19は、中心孔43の外周面を形成している大径筒部19aと、この大径筒部19aから軸方向一端部49側に段付き部を介して連続し当該大径筒部19aよりも直径が小さくされた小径筒部19bとを有している。
【0016】
さらに、この冷却水ジャケット26は、本体部40a内において、タービン42と転がり軸受10aとの間の位置に存在している部分を有している。具体的に説明すると、本体部40aの一端部49側において、冷却水ジャケット26は、中心孔43の内周面43aよりも径方向内方へ突出している部分を有しており、この部分は環状の部分33とされている。また、この環状の部分33は、前記小径筒部19bを内周壁とし、前記側壁17の内周寄り部を側壁として形成されている。これによれば、タービン42と転がり軸受10aとの軸方向の間に環状の部分33が介在していることから、この環状の部分33のクーラントによってタービン42側からの熱が効率よく奪われ、特にタービン42に近い転がり軸受10aの温度上昇を抑えることができる。
【0017】
さらに、このターボチャージャーは、タービン42とハウジング40との間に介在している熱遮蔽部材27をさらに備えている。熱遮蔽部材27は、セラミック製や金属製とされており、前記側壁17とタービン42との間に介在している円環部27aと、この円環部27aからハウジング40側へ延びる円筒部27bとを有している。円環部27aの中央の孔にタービン42の基端部(タービン軸41)が挿通した状態にあり、この孔とタービン42の基端部との間に僅かな隙間が形成されている。円筒部27bの端部はハウジング40の本体部40aの外周部と接触している。これにより、熱遮蔽部材27の円環部27a及び円筒部27bと、ハウジング40の側壁17との間に環状の空気室28が形成されている。これによれば、タービン42側からの輻射熱、空気伝導熱が熱遮蔽部材27によって遮蔽され、この熱によるハウジング40及び転がり軸受10a,10bの温度上昇を抑えることができる。また、熱遮蔽部材27とハウジング40との間の空気室28によって、タービン42側からの熱がさらにハウジング40へ伝わりにくくなり、ハウジング40及び転がり軸受10a,10bの温度上昇を抑えることができる。
【0018】
次に、このターボチャージャーが備えている転がり軸受10a,10bについて説明する。一対の転がり軸受10a,10b(以下転がり軸受10と言う)は同じものである。
図2において、この転がり軸受10は、タービン軸41に外嵌した単一の内輪1と、ハウジング40の中心孔43の内周面に固定された単一の外輪3と、内輪1と外輪3との間に介在した単一の中間輪2とを備えている。内輪1と中間輪2と外輪3とがこの順番で軸線C方向に沿って位置ずれして配置されている。そして、内輪1と中間輪2との間の環状空間に転動自在に設けられた一列の第一転動体4と、中間輪2と外輪3との間の環状空間に転動自在に設けられた一列の第二転動体5とをさらに備えている。
【0019】
第一転動体4及び第二転動体5はそれぞれ複数の玉からなり、第一転動体4の複数の玉4aは保持器8によって軸線Cを中心とする一つの円上に沿って保持され、第二転動体5の複数の玉5aは保持器9によって軸線Cを中心とする他の円上に沿って保持されている。また、玉4a,5aとは同径とされている。
【0020】
内輪1は環状部材とされており、その内周面がタービン軸41との嵌合面とされ、その外周面に第一転動体4の玉4aと接触する第一の軌道11が形成されている。
外輪3は環状部材とされており、その外周面がハウジング40の中心孔43との嵌合面とされ、その内周面に第二転動体5の玉5aと接触する第二の軌道31が形成されている。内輪1と外輪3との軸方向寸法は略同一とされている。
【0021】
中間輪2は環状部材とされており、軸方向寸法が内輪1と外輪3よりも長くされている。中間輪2の内周面の一部に第一転動体4の玉4aと接触する第三の軌道21が形成されており、中間輪2の外周面の一部に第二転動体5の玉5aと接触する第四の軌道22が形成されている。そして、内輪1と中間輪2と外輪3とは軸線Cを中心として軸線C方向に位置ずれはしているが、同心円状に配置されている。
【0022】
中間輪2は、環状の大径輪部7と、この大径輪部7から傾斜輪部15を介して設けられた環状の小径輪部6とを有している。小径輪部6は大径輪部7よりも外周面の直径について小さくされている。傾斜輪部15は軸線Cに対して傾斜する方向に直線的に延びている。そして、内輪1の径方向外方に第一転動体4が介在して大径輪部7が設けられている。この大径輪部7の軸線C方向に傾斜輪部15を介して連続している小径輪部6の径方向外方に、第二転動体5が介在して外輪3が設けられている。これにより、外輪3を小径にすることができ、転がり軸受10は、径方向に大きく突出する径方向配置となることを避けた構造となる。
【0023】
そして、環状の前記第三の軌道21は大径輪部7の内周面と傾斜輪部15の内周面との境界部に形成されており、環状の第四の軌道22は小径輪部6の外周面と傾斜輪部15の外周面との境界部に形成されている。また、中間輪2は縦断面において折れ曲がり形状とされている。
【0024】
そして、中間輪2において、第四の軌道22に接触している第二転動体5のピッチ径D3は、第三の軌道21に接触している第一転動体4のピッチ径D4よりも大きくされている。これにより、第一、第二転動体4,5を中間輪2の傾斜輪部15を挟んで軸線C方向に接近させた配置とすることができ、転がり軸受10の軸線C方向の寸法を小さくすることができる。なお、ピッチ径とは転動体の玉の中心を通る円の直径としている。
【0025】
さらに、第一転動体4の玉4aは、一対の対向している第一の軌道11及び第三の軌道21に対して斜接(アンギュラコンタクト)しており、第二転動体5の玉5aは、一対の対向している第四の軌道22及び第二の軌道31に対して斜接(アンギュラコンタクト)している。その接触角θ1,θ2は同じとされており、図2において例えば15°とされている。これにより、この転がり軸受10は軸線C方向からの荷重(軸方向荷重)を受けることができる。さらに、この転がり軸受10は軸線C方向に延びた軸線方向配置とされていることから、軸方向のダンパー性能を有した構造とされる。
【0026】
さらに、中間輪2は、転動体4,5を斜接させるために適した構造となる。すなわち、中間輪2の外周において、第四の軌道22は小径輪部6と傾斜輪部15との境界部に形成されていることから、この第四の軌道22の両側の肩部において、傾斜輪部15の肩径は小径輪部6の肩径よりも大きくなる。このため、第四の軌道22において、傾斜輪部15の傾斜を利用して斜接軌道を形成することができる。また、第三の軌道21は大径輪部7と傾斜輪部15との境界部に形成されていることから、この第三の軌道21の両側の肩部において、傾斜輪部15の肩径は大径輪部7の肩径よりも小さくなる。このため、第三の軌道21において、傾斜輪部15の傾斜を利用して斜接軌道を形成することができる。
このように、内輪1及び外輪3では、転動体4,5を斜接させるために一方の肩部側を厚肉とする必要があるが、中間輪2では、転動体4,5を斜接させるために一方の肩部側(傾斜輪部15)の厚さを大きくする必要がない。これにより、中間輪2の構造がシンプルとなり、中間輪2を、厚さが一定とされた円筒を塑性変形させて簡単に製造することもできる。
【0027】
また、この中間輪2において、前記のとおり小径輪部6が大径輪部7よりも小径とされているが、さらに、小径輪部6側の第四の軌道22の軌道径D2が、大径輪部7の第三の軌道21の軌道径D1よりも小さくされている(D2<D1)。なお、第四の軌道22の軌道径D2は、軌道22の最小径部の直径とし、第三の軌道21の軌道径D1は、軌道21の最大径部の直径としている。
【0028】
以上の構成により、内輪1と中間輪2との間において一対の対向している第一の軌道11と第三の軌道21との間に第一転動体4の玉4aが転動自在として介在しており、中間輪2と外輪3との間において一対の対向している第四の軌道22と第二の軌道31との間に第二転動体5の玉5aが転動自在として介在している。この転がり軸受10は、タービン軸41に外嵌した内輪1とハウジング部40に固定された外輪3との間に、複数(二段)の転動体4,5を備えている構造となる。すなわち、この転がり軸受10は、内輪1と第一転動体4と中間輪2とによって、この中間輪2が外輪と見立てられた第一軸受部Aが構成され、中間輪2と第二転動体5と外輪3とによって、この中間輪2が内輪と見立てられた第二軸受部Bが構成されたものとなる。
【0029】
以上のように構成された転がり軸受10によれば、タービン軸41が所定回転数で回転することにより、転がり軸受10において内輪1が外輪3に対して前記所定回転数で回転している状態となる。この回転が生じた状態では、前記所定回転数は、二段とされた第一と第二の軸受部A,Bによって分配される。すなわち、内輪1はタービン軸41と共に一体回転するが、中間輪2ではこの内輪2に遅れて(減速されて)供回りする。これにより、一段ごとの軸受部における回転数が前記所定回転数よりも小さくなる。具体的に説明すると、タービン軸41が例えば20万rpmで回転していると、このタービン軸41側(内側)の第一軸受部Aは16万rpmで回転し、ハウジング40側(外側)の第二軸受部Bは第一軸受部Aよりも低回転である4万rpmで回転することとなる。そして、多段とされた軸受部A,Bのそれぞれに分配された回転速度は、タービン軸41(内輪1)の回転速度の変化に応じて自動的に変速される。この際、外輪3側の第二軸受部Bが内輪1側の第一軸受部Aよりも低速回転とされ、軸受部A,Bそれぞれの回転速度は所定の比率で分配される。
【0030】
そして、この転がり軸受10の中間輪2において、大径輪部7よりも径が小さい小径輪部6と傾斜輪部15との境界部の外周面に第四の軌道22が形成された構造とされている。これにより、この小径輪部6と傾斜輪部15との境界部の第四の軌道22に接触する第二転動体5が径方向内側寄りの位置に設けられるため、転がり軸受10の径方向寸法を小さくすることができる。つまり、外輪3の外周面の直径を小さくすることができる。これにより、図1において、この転がり軸受10a,10bを収容して固定しているハウジング40の中心孔43の内径を小さくすることができる。この結果、ハウジング40内に設けられる冷却水ジャケット26の容積を大きくすることができる。
【0031】
また、このターボチャージャーにおいて、転がり軸受10a,10b用の潤滑油は、ハウジング40内に形成され潤滑油を溜めるタンク部35と中心孔43との間に設けられた紐部材36により毛細管現象によってタンク部35から中心孔43に供給されている。つまり、このターボチャージャーは、転がり軸受10a,10b用の潤滑油がハウジング40内においてのみ存在する潤滑構造を有しており、ハウジング40内のタンク部35から潤滑油が供給されるので、従来のようなエンジンで生じるカーボンスラッジなど、過給機外部における原因によって潤滑油が汚れることがない。これにより、エンジンオイル中の異物(汚染物)が転がり軸受10a,10bに供給されることがなくなることで、ターボチャージャー故障の主因を取り除くことができるため、メンテナンスフリーのターボチャージャーを提供することができる。
【0032】
タンク部35は、本体部40a内部の下部の一部に形成された空間部で構成されている。そして、タンク部35の潤滑油は紐部材36によって中心孔43へ供給され、この中心孔43にある転がり軸受10a,10bの潤滑に用いられる。ここで、タンク部に溜められた潤滑油として、転がり軸受10a,10bの潤滑に通常使用されるものであって紐部材36に浸透することが可能な粘度のものを使用することができる。その中でもエンジンオイルよりも耐焼き付き性に優れた、例えば、ポリオールエステル油、ジエステル油、芳香族エステル油、合成炭化水素油、エーテル油、シリコン油、フッ素油等の化学合成油が好ましく用いられる。
【0033】
紐部材36は、タンク部35と中心孔43との間に設けられており、毛細管現象によって潤滑油をタンク部35から中心孔43に供給するものであり、その一端部がタンク部35の潤滑油中に浸されており、他端部が中心孔43内の転がり軸受10部に配置されている。紐部材36は、図3にその断面を模式的に示しているが、芯部37と、この芯部37の周りを被覆した被覆部38とから構成されており、その直径(線径)dは2.1〜2.3mmφである。芯部37は、多数本のプラスチック製繊維37a1からなる繊維部37aと、繊維37a1間に存在する隙間37bとを有している。
【0034】
繊維部37aは、繊維径d1が3〜20D(デニール)(0.014〜0.090mmφ)の繊維37a1を繊維密度が90〜1270本/mmとなるように含ませることができる。繊維37a1の原料となるプラスチックとして、例えば、ナイロン、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を挙げることができる。ここでは、繊維径d1が5D(デニール)(0.023mmφ)のポリエチレンテレフタレート(PET)製の繊維を使用して、線径dを2.1mmφ、繊維密度を550本/mmとしている。
芯部37に存在する隙間37bが潤滑油を吸い上げる(毛細管現象)役目を果たしており、芯部37における隙間37bの割合(気孔率)を調節することで潤滑油の供給量を変えることが可能である。焼き付きを発生させない必要最少量の潤滑油を供給するためには、気孔率を45.5%以上80%未満、好ましくは65%以上80%未満に設定する必要があり、ここでは65.0%に設定している。
被覆部38は、ウレタン等のバインダーで形成されており、芯部37の周りに配置したバインダーを熱で溶かすことにより被覆させたものである。
【0035】
上記のような紐部材36を用いることにより、焼き付きを発生させない必要最少量の潤滑油を毛細管現象により漏らすことなく確実に中心孔43内へと供給することができる。これにより、潤滑油の使用量を少なくすることができるので、ランニングコストを低減することができる。また、潤滑油の使用量が少なくなることでもたらされる低トルクは、エンジンの燃費を向上させ、さらにターボチャージャー自身のレスポンスを向上させるため、ターボラグを解消することができる。さらに、この紐部材36によれば、毛細管現象を使用して潤滑油を供給するので動力を使用しないため、タービン軸41の回転が停止している状態であっても、中心孔43にある転がり軸受10に潤滑油を供給することができる。
【0036】
以上のように構成されたターボチャージャーによれば、潤滑油をハウジング40内に形成されたタンク部35から供給するので、外部から前記潤滑油の供給を受けるための流路が不要となるため、冷却水ジャケット26をハウジング40の本体部46a内に設けることができる。これにより、冷却水ジャケット26による冷却作用を与えることができ、ハウジング40内の転がり軸受10a,10bを冷却することで転がり軸受10a,10bの焼き付きが抑えられる。また、転がり軸受10a,10b用の潤滑油をハウジング40内のタンク部35から供給することで、従来のようなエンジンで生じるカーボンスラッジなど、過給機外部における原因によって前記潤滑油が汚れることがない。このため、潤滑油中の異物が転がり軸受10a,10bに混入することにより発生する焼き付きを防止することができる。さらに、紐部材36の気孔率を65%に設定することにより、潤滑油供給過多による軸受トルクの増大を起こすことなく、焼き付きを発生させない必要最少量の潤滑油を毛細管現象により安定的に供給して焼き付きを防止することができる。
【0037】
なお、本発明の過給機は、図示する形態に限らずこの発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。例えば、紐部材36の繊維37a1の原料としては、PET以外にもターボチャージャーの使用温度に合わせて適切なプラスチック材料を選定することができる。また、気孔率、繊維径及び繊維密度も適宜変更することが可能である。被覆部38として、上記実施形態ではバインダーを用いているが、必ずしもバインダーを使用する必要はなく、例えば繊維部37aの外周を熱で溶かして固めて被覆部38を形成してもかまわない。また、転がり軸受10は、図示する形態に限らず他の形態のものであっても良く、中間輪を2個以上としてもよい。この場合、各軸受部における回転数がさらに低減され、より高速化に対応できる転がり軸受を得ることができる。
【実施例】
【0038】
1.軸受の焼き付き試験
軸受の焼き付きを回避する潤滑油の供給量を決定するため、芳香族エステル油と、現在使用されているエンジンオイル(エクソンモービル社製、Mobil special 10W−30(商品名))との用いて軸受の焼き付き試験を行い、両者の耐焼き付き性を比較した。芳香族エステル油として、佐藤特殊製油(株)製、品番T−45(以下、潤滑油1という)及び佐藤特殊製油(株)製、品番T08−NB(以下、潤滑油2という)の2種類を使用した。ここで、それぞれの潤滑油の物性値は、表1の通りである。焼き付き試験は、軸受型番608、170℃×100,000rpm、0.01cc塗布の条件で行った(n=2)。その結果を図4に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
図4より、芳香族エステル油は、耐焼き付き性が現行エンジンオイルに比べて約2〜4倍優れていることがわかった。また、芳香族エステル油では、0.01cc当たりの軸受寿命が約2分間であることから、0.005cc/分程度の潤滑油供給量で軸受の焼き付きを回避することができることがわかった。
【0041】
2.紐部材の吸い上げ試験
線径、繊維径、繊維密度及び気孔率の値が下記表2の通りである実施例1〜5及び比較例1の紐部材を、上記潤滑油2中にほぼ垂直に立て、1,2,5及び10分後の吸い上げ量を測定した。その結果を図5に示す。図5においては、上記焼き付き試験で求めた0.005cc/分を基準線として記載している。なお、実施例1〜5及び比較例1の紐部材は、いずれもPET製の繊維をバインダー(ウレタン)で被覆したものである。
【0042】
【表2】

【0043】
図5から、実施例1〜5の紐部材(気孔率45.5〜68.0%)は、試験時間5分間で基準値(0.005cc/分)を上回る量の潤滑油を吸い上げることがわかった。特に実施例1〜3の紐部材(気孔率65.0〜68.0%)は、試験時間10分間でも基準値(0.005cc/分)を上回る量の潤滑油を吸い上げることができ、より安定的に潤滑油を供給できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の過給機の実施の一形態を示す断面図である。
【図2】図1の過給機が備えている転がり軸受を示す断面図である。
【図3】図1の過給機が備えている紐部材の断面を示す模式図である。
【図4】軸受の焼き付き試験の結果を示す図である。
【図5】紐部材の吸い上げ試験の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
10a,10b 転がり軸受
26 冷却水ジャケット
35 タンク部
36 紐部材
37 芯部
37a 繊維部
37b 隙間
38 被覆部
40 ハウジング
40a 本体部
41 タービン軸
42 タービン
43 中心孔
49 一端部
50 他端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水ジャケットを内部に有しているハウジングと、このハウジングの中心部にある中心孔で転がり軸受を介して支持され前記ハウジングの軸方向外方にあるタービンが一端部に設けられているタービン軸と、を備えた過給機において、
前記冷却水ジャケットは、前記ハウジングの本体部内に設けられており、
前記転がり軸受には、前記ハウジング内に形成され潤滑油を溜めるタンク部と、このタンク部と前記中心孔との間に設けられた紐部材とにより前記潤滑油が供給されており、前記紐部材は、多数本のプラスチック製繊維からなる繊維部と当該繊維間に存在する隙間とから構成される芯部を有し、当該隙間による毛細管現象によって前記潤滑油を前記タンク部から前記中心孔に供給しており、前記芯部における前記隙間の割合を示す気孔率が45.5%以上80%未満に設定されていることを特徴とする過給機。
【請求項2】
前記気孔率が65%以上80%未満である請求項1に記載の過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−82298(P2008−82298A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265723(P2006−265723)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】