説明

遠心式電動送風機

【課題】遠心式羽根車を用いた電動送風機の流量を流速計は用いずに精度よく検出できる遠心式電動送風機を提供する。
【解決手段】電動機1の回転軸により遠心式羽根車2へ伝達される負荷トルクの大きさを検出し、トルクフィードバック値Tfを出力するトルク検出器4と、電動機1の回転速度を検出し、回転速度フィードバック値ωrfを出力する回転速度検出器5と、ケーシング3の給気口3a又は排気口3bより給気又は排気される作動流体の密度に関係する物性値を測定する作動流体状態検出器6と、作動流体状態検出器6により測定された物性値から作動流体密度を算出し、作動流体密度フィードバック値ρfを出力する作動流体密度演算器7と、これらフィードバック値Tf、ωrf、ρfを用いて流量を算出し、目標流量値と比較するための流量検出値Qfとして出力する流量演算器8とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心式羽根車を有する遠心式電動送風機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動送風機の流量を検出する装置としては、送風機の給気又は排気流路に流速計を設けて、流速と流路断面積の乗算により求めるものと、電動送風機そのものの特性値と流量との関係を予め把握しておき、運転中の特性値を計測して、一般流体における相似則に基づいた比例関係により流量を求めるものがある(例えば、特許文献1参照)。
これらの装置で検出した流量は、目標流量と一致するように電動機の出力を調整して、例えば、居室の換気量を配管圧損によらず一定に保ったり、あるいは燃焼用送風機として、燃焼の最適化を図ったりするのに用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−165477号公報(要約書、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般流体における相似則に基づいたものは、流速計を用いる方法に比べ、流路に流速計を設ける必要がないために、流速計への埃の付着に対する保守が不要で、小型化に適しているが、いろいろな圧損条件での2つの比例定数を試験により求めて、その比例定数の関係を便宜上近似関数に置き換えて、近似関数計算を行うことで流量を求めるといったものである。この技術では、羽根車の細部形状が加味されておらず、また、作動流体の密度の変化も加味されていないために、精度の高いものではなかった。
【0005】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたもので、遠心式羽根車を用いた電動送風機の流量を流速計は用いずに精度よく検出できる遠心式電動送風機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る遠心式電動送風機は、電動機と、電動機の回転軸に装着された遠心式羽根車と、給気口及び排気口を有し、遠心式羽根車の周囲を覆うケーシングと、電動機の回転軸により遠心式羽根車へ伝達される負荷トルクの大きさを検出し、トルクフィードバック値を出力するトルク検出器と、電動機の回転速度を検出し、回転速度フィードバック値を出力する回転速度検出器と、ケーシングの給気口又は排気口より給気又は排気される作動流体から当該作動流体の密度に関係する物性値を測定する作動流体状態検出器と、作動流体状態検出器により測定された物性値から作動流体密度を演算し、作動流体密度フィードバック値を出力する作動流体密度演算器と、前記トルクフィードバック値、前記回転速度フィードバック値及び前記作動流体密度フィードバック値を用いて流量を算出し、目標流量値と比較するための流量検出値として出力する流量演算器とを備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、トルクフィードバック値及び回転速度フィードバック値の他に、作動流体密度フィードバック値を用いて流量を算出するようにしているので、流速計を用いることなく、精度の良い流量検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施の形態に係る遠心式電動送風機の流量検出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態に係る遠心式電動送風機の遠心式羽根車の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係る遠心式電動送風機の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
図1は実施の形態に係る遠心式電動送風機の流量検出装置の構成を示すブロック図である。
図において、遠心式電動送風機は、電動機1と、電動機の回転軸に装着された遠心式羽根車2と、給気口3a及び排気口3bを有し、遠心式羽根車2の周囲を覆うケーシング3とを備えている。
【0011】
電動機1は、電源9から電力の供給を受けると回転力を発生し、電動機1の回転軸に装着された遠心式羽根車2を回転させる。この時、遠心式羽根車2の回転による遠心力により、遠心式羽根車2の側面に形成された排出口2b(出口幅b)から作動流体が放出され、遠心式羽根車2の排出口2bから放出された作動流体は、ケーシング3の排気口3bから排出される。その結果、遠心式羽根車2の吸引口2a近傍は負圧となり、ケーシング3の給気口3aを経由して遠心式羽根車2の吸引口2aから作動流体が吸引される。
【0012】
また、遠心式電動送風機には、トルク検出器4と、回転速度検出器5と、作動流体状態検出器6と、作動流体密度演算器7と、流量演算器8とで構成される流量検出装置を備ええている。
【0013】
トルク検出器4は、電動機1から遠心式羽根車2へ回転軸を通じて伝えられる負荷トルクの大きさを検出し、トルクフィードバック値Tfとして流量演算器8へ出力する。回転速度検出器5は、電動機1の回転速度を検出し、回転速度フィードバック値ωrfとして、流量演算器8へ出力する。作動流体状態検出器6は、ケーシング3の給気口3a又は排気口3bより給気又は排気される作動流体から作動流体の密度に関係する物性値、例えば温度や気圧、湿度などの物性値を測定する。作動流体密度演算器7は、作動流体状態検出器6により測定された物性値から作動流体密度を算出し、作動流体密度フィードバック値ρfとして、流量演算器8へ出力する。
【0014】
次に、流量演算器8の動作について説明する。
まず、図2を用いて遠心式電動送風機の流量と負荷トルクとの関係について説明する。図2は実施の形態に係る遠心式電動送風機の遠心式羽根車の断面を示す図である。
図において、遠心式羽根車2に作用する負荷トルクTは、作動流体の密度ρと、体積流量Qと、遠心式羽根車2の直径Dと、絶対流速cの旋回速度成分cθとを用いて、以下の式(1)のように表すことができる。
【0015】
T=ρ×Q×D×cθ/2 …(1)
【0016】
ここで、まず、羽根の枚数が無限で、羽根車を通る流れが流動損失がなく、軸方向および周方向に変化がない理想的な場合を考えると、羽根車出口(排出口2b)の周速度uと、周速度uの方向と接線方向速度wの方向とでなす相対流出角βと、回転速度ωrと、羽根車出口での径方向速度crと、羽根車の出口幅b(排出口2b)とを用いることにより、幾何学的に、絶対流速の旋回速度成分cθを式(2)で、羽根車出口の周速度uを式(3)で、羽根車出口での径方向速度crを式(4)で、それぞれ表すことができる。これにより、式(1)に示す負荷トルクTを式(5)のように表すことができる。
【0017】
cθ=u−cr/tanβ …(2)
u=π×D×ωr …(3)
cr=Q/(π×D×b) …(4)
T=ρ×(π×D2 ×Q×ωr−Q2 /(π×b))/(2×tanβ)…(5)
式(5)は流量Qの2次方程式なので、流量Qについて解くと、式(6)のようになる。なお、下記の式において(A)1/2 は、Aの平方根を示すものとする。
Q=π2 ×D2 ×b×tanβ×ωr+((π2 ×D2 ×b×tanβ×ωr)2 −(
2×π×b×tanβ)×T/ρ)1/2 …(6)
即ち、流量Qと、負荷トルクTと、回転速度ωrと、作動流体密度ρとの間には式(6)の関係が成り立っていることになる。
【0018】
前記式(6)は、理想的な場合について展開しているので現実へ補正するために、羽根車の直径D、相対流出角β、出口幅bについてはそれぞれ補正係数kd、kβ、kbを乗じたものを改めて羽根車の直径の相当値D、相対流出角の相当値β、出口幅の相当値bと置き換える。さらに、流動損失の影響を式全体に係数ηとして乗じて、実際の状態へ補正する。補正係数kd、kβ、kbおよび流動損失の係数ηは、実機で圧損および回転速度を変化させて流量を測定した結果から求める。そして、式(6)の負荷トルクT、回転速度ωr、作動流体密度ρに、それぞれトルクフィードバック値Tf、回転速度フィードバック値ωrf、作動流体密度フィードバック値ρfを代入することにより得られる式(7)に基づいて、流量Qをその検出値Qfとして流量演算器8にて演算を行い、出力する。
【0019】
Qf=η(π2 ×D2 ×b×tanβ×ωrf+((π2 ×D2 ×b×tanβ×ωr
f)2 −(2×π×b×tanβ)×Tf/ρf))1/2 …(7)
【0020】
以上説明したように、本実施の形態では、トルク検出器4により負荷トルクの大きさを検出し、トルクフィードバック値Tfとして流量演算器8へ出力し、回転速度検出器5により電動機1の回転速度を検出し、回転速度フィードバック値ωrfとして流量演算器8へ出力する。また、作動流体状態検出器6によりケーシング3の給気口3a又は排気口3bより給気又は排気される作動流体から作動流体の密度に関係する物性値を測定し、作動流体密度演算器7により、作動流体状態検出器6から得た物性値を基に作動流体の密度を算出して、作動流体密度フィードバック値ρfとして流量演算器8へ出力する。そして、流量演算器8により羽根車の形状にて決まる所定式(7)に、これらフィードバック値Tf、ωrf、ρfを変数として代入して演算により流量を算出し、目標流量値と比較するための流量検出値Qfとして出力することとした。これにより、遠心式羽根車2の形状に則し、また、作動流体の密度変化も加味して演算を行うので、流速計を用いることなく、精度のよい流量検出を行うことができる。
【0021】
なお、トルク検出器4としては、電動機1と遠心式羽根車2とを連結する回転軸に軸のねじれ応力を計測する装置を用いる以外に、永久磁石を界磁とするブラシ付きDCモーターやブラシレスDCモーターのような電動機の場合には、電機子電流が発生トルクに比例するため、軸ロスを無視して負荷トルクと発生トルクを等しいとみなして電機子電流から負荷トルクを検出する構成としてもよい。
【0022】
また、誘導電動機をベクトル制御している場合には、例えば特公平5−46794号公報に記載の式12(Te=p×M/Lr×iqes×λder)により求められる発生トルクを用いて、永久磁石界磁電動機と同じように、負荷トルクは発生トルクと一致するとみなした負荷トルク検出器でもよい。
【0023】
また、負荷トルクには遠心式羽根車2の送風のために必要なトルク以外に、回転速度が変動する場合の加減速トルクも含まれるため、回転速度の変化から加減速トルクを算出して、検出トルク(トルクフィードバック値Tf)から差し引くか、加減速が無いか、又は、小さいときの検出トルクを用いる必要がある。
【0024】
また、回転速度検出器5は、一般的には電動機1の回転軸に連結したロータリーエンコーダーやタコジェネレーターがあるが、ブラシレスDCモーターの位相制御のために使われる磁極位置検出器から得られる回転速度情報を用いてもよく、また、誘導電動機の場合には速度センサレス制御にて得られる速度情報を用いてもよく、電動機の回転速度に関する情報が得られれば、その検出手段を問わない。
【0025】
また、本実施の形態では、作動流体の密度変動による検出流量の精度への影響が少ない場合や無視できる場合には、式(7)の演算において作動流体密度フィードバック値ρfに固定値を用いてもよく、その場合には作動流体状態検出器6及び作動流体密度演算器7を省略することができる。
【0026】
上記で説明した遠心式電動送風機の流量検出装置は、流量検出精度のよい流量検出器として有用である。
【符号の説明】
【0027】
1 電動機、2 遠心式羽根車、2a 遠心式羽根車2の吸引口、2b 遠心式羽根車2の排出口、3 ケーシング、3a ケーシング3の給気口、3b ケーシング3の排気口、4 トルク検出器、5 回転速度検出器、6 作動流体状態検出器、7 作動流体密度演算器、8 流量演算器、9 電源、T 負荷トルク、Tf トルクフィードバック値、ωr 回転速度、ωrf 回転速度フィードバック値、ρ 作動流体密度、ρf 作動流体密度フィードバック値、Q 流量、Qf 流量検出値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、
前記電動機の回転軸に装着された遠心式羽根車と、
給気口及び排気口を有し、前記遠心式羽根車の周囲を覆うケーシングと、
前記電動機の回転軸により前記遠心式羽根車へ伝達される負荷トルクの大きさを検出し、トルクフィードバック値を出力するトルク検出器と、
前記電動機の回転速度を検出し、回転速度フィードバック値を出力する回転速度検出器と、
前記ケーシングの給気口又は排気口より給気又は排気される作動流体から当該作動流体の密度に関係する物性値を測定する作動流体状態検出器と、
前記作動流体状態検出器により測定された物性値から作動流体密度を算出し、作動流体密度フィードバック値を出力する作動流体密度演算器と、
前記トルクフィードバック値、前記回転速度フィードバック値及び前記作動流体密度フィードバック値を用いて流量を算出し、目標流量値と比較するための流量検出値として出力する流量演算器と
を備えたことを特徴とする遠心式電動送風機。
【請求項2】
電動機と、
前記電動機の回転軸に装着された遠心式羽根車と、
給気口及び排気口を有し、前記遠心式羽根車の周囲を覆うケーシングと、
前記電動機の回転軸により前記遠心式羽根車へ伝達される負荷トルクの大きさを検出し、トルクフィードバック値を出力するトルク検出器と、
前記電動機の回転速度を検出し、回転速度フィードバック値を出力する回転速度検出器と、
前記ケーシングの給気口又は排気口より給気又は排気される作動流体の物性値から得られた作動流体密度値をデータとして有し、前記トルクフィードバック値、前記回転速度フィードバック値及び前記作動流体密度値を用いて流量を算出し、目標流量値と比較するための流量検出値として出力する流量演算器と
を備えたことを特徴とする遠心式電動送風機。
【請求項3】
前記流量演算器は、流量を算出する際に、前記遠心式羽根車の形状に則して補正された前記遠心式羽根車の直径の相当値、前記遠心式羽根車に形成された軸心方向の出口幅の相当値及び前記遠心式羽根車の周速度の方向と接線方向速度の方向とでなす相対流出角の相当値を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の遠心式電動送風機。
【請求項4】
前記流量演算器は、流量を算出する際に、流体の流動損失の影響を補正する係数を用いることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の遠心式電動送風機。
【請求項5】
前記流量演算器は、回転速度フィードバック値が変化すると、その回転速度フィードバック値の変化から加減速トルクを算出し、かつ算出した加減速トルクと前記トルクフィードバック値との差を求め、その差を負荷トルクとして流量の算出に用いることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の遠心式電動送風機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−96284(P2013−96284A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238890(P2011−238890)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】