説明

遠隔監視システム及び遠隔監視方法

【課題】監視対象機器からの事前情報と事後情報を使用して、高精度の故障診断を含む遠隔監視処理を実行できる遠隔監視システムを提供することにある。
【解決手段】監視対象機器10の故障診断を含む遠隔監視処理を実行できる遠隔監視システムにおいて、ネットワークモデルを使用して遠隔監視処理を実行する中央監視診断システム14を有する。中央監視診断システム14は、端末11から監視対象機器10の故障発生などの事象が発生する前に得られる事前情報及び事象の発生後に得られる事後情報を取得して、ネットワークモデルに入力することで統合化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にネットワークモデルを使用して、遠隔地に設置されている各種機器の故障診断や機能喪失の予測診断などを行なう遠隔監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばエレベータ、空調機器、コピー機などの各種機器を、通信回線を介して遠隔監視を行なう遠隔監視システムが実用化されている。このような遠隔監視システムは、遠隔地(機器の利用場所)に設置された監視対象機器から、通信回線を介して得られる情報に基づいて、監視対象機器の故障診断などを実行して、保守支援を行なう。
【0003】
遠隔監視システムの具体例としては、監視診断対象機器に取り付けられたリモート診断装置と通信回線で接続された監視センター内に、故障診断などを実行する監視装置が設けられたシステムが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
また、遠隔監視システムに適用できる故障診断方法の具体例として、故障の因果関係を表したツリー(tree)構造の情報を利用して、機器の故障診断を行なう故障診断方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0005】
さらに、プラントの機器の検査事象から想定される故障を、ツリー(tree)展開する故障連関展開手段により、故障復旧予想コストを計算するプラント機器の保守管理方法が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【特許文献1】特開2003−85020号公報
【特許文献2】特許第3151093号公報
【特許文献3】特開2003−303014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のような遠隔監視システムでは、故障診断に用いる情報が、試験や点検、または保守実績から得られる故障確率などのように、故障などの事象が発生する前に得られる事前情報のみの場合がある。また、逆に、故障診断に用いる情報が、顧客からのクレームやリモート監視装置からのアラームなどのように、事象の発生後に得られる事後情報のみの場合が多い。しかしながら、監視対象機器の故障診断や予測診断を行なう場合に、事前情報と事後情報の一方だけでなく、両方を統合して使用することにより、監視対象機器の故障診断や予測診断の精度を向上させることが望ましい。
【0007】
本発明の目的は、監視対象機器からの事前情報と事後情報を使用して、高精度の故障診断を含む遠隔監視処理を実行できる遠隔監視システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の観点は、遠隔地に設置された監視対象機器から、故障などの事象が発生する前に得られる事前情報及び事象の発生後に得られる事後情報をネットワークモデルで統合化して使用することにより、監視対象機器の故障診断を含む遠隔監視処理を実行できる遠隔監視システムである。
【0009】
本発明の観点に従った遠隔監視システムは、監視対象機器に対する故障診断を含む遠隔監視処理に必要な情報を生成する端末手段と、前記端末手段から出力される前記情報を伝送する通信回線と、前記通信回線を介して前記端末手段から出力される前記情報を取得し、前記監視対象機器の故障や機能喪失の因果関係を示すネットワークモデルを使用して、前記情報に含まれる事前情報及び事後情報に基づいて前記遠隔監視処理を実行する監視処理手段と、前記監視手段から出力される監視処理結果を表示する表示手段とを備えた構成である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、例えばエレベータ、空調機器、コピー機などの遠隔地に設置された監視対象機器から、事前情報と事後情報を使用して、高精度の故障診断を含む遠隔監視処理を実行できる遠隔監視システムを提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0012】
(システムの構成)
図1は、本実施形態に関する遠隔監視システムの構成を示すブロック図である。
【0013】
遠隔監視システムは、遠隔地に設置されている遠隔監視診断対象機器(以下、監視対象機器と略す)10の動作状態の監視や故障診断などの監視処理を実行し、保守を支援するシステムである。監視対象機器10は、具体例としては、例えばエレベータ、空調機器、コピー機などである。
【0014】
遠隔監視システムは、図1に示すように、監視対象機器10の監視処理に必要な情報を生成する遠隔監視診断端末(以下、単に端末と略す)11と、表示装置12と、通信回線13と、中央監視診断システム14と、表示装置15とを有する。端末11及び中央監視診断システム14はコンピュータシステムにより構成されており、後述するように、専用のソフトウェアによる各種の機能を有する。
【0015】
端末11は、図2に示すように、故障確率計算部31、予兆現象検出部32、アラーム生成部33、機能喪失の有無通知部34、及び機器の健全性通知部35の各機能を有する。端末11は、これらの機能により、監視対象機器10からの各種のデータや信号に基づいて、故障確率情報310、予兆現象情報320、アラーム情報330、機能喪失の有無を示す情報340、及び機器の健全性を示す情報350を生成する。表示装置12は、端末11により生成された情報や、監視対象機器10から収集した各種のデータなどをディスプレイに表示する。
【0016】
中央監視診断システム14は、通信回線13を介して端末11に接続しており、端末11から送信される情報310,320,330,340,350を取得し、これらの情報を使用して後述する監視処理を実行する。
【0017】
中央監視診断システム14は、図2に示すように、ネットワークモデル処理部21、原因分析部22、予兆原因分析部23、喪失機能評価部24、及び故障予測部25の各機能を有する。表示装置12は、中央監視診断システム14から出力される原因分析結果150、機能評価結果151、及び予測診断結果152などの監視処理結果をディスプレイに表示する。
【0018】
(システムの動作)
以下、図2から図7を参照して、本実施形態の遠隔監視システムの動作を説明する。
【0019】
本実施形態の中央監視診断システム14は、図3に示すようなネットワークモデルを使用して、端末11から送信される情報310,320,330,340,350を処理する。ネットワークモデルは、監視対象機器10を構成する部品の故障や、動作不具合(予兆現象)、機器としての機能喪失(機能不全)などの因果関係をフォールトツリーなどの有向グラフで表現したものである。ネットワーク処理部21は、データベースを利用して、当該ネットワークモデルを構築するための処理を実行する。
【0020】
中央監視診断システム14は、ネットワーク処理部21により構築されたネットワークモデルを使用して、原因分析部22、予兆原因分析部23、喪失機能評価部24及び故障予測部25の各機能を実現する。
【0021】
本実施形態のネットワークモデルは、図3に示すように、監視対象機器10を構成する部品の故障や性能劣化を表す基本事象1〜5、機能喪失(機能不全)を表すトップ事象107、基本事象とトップ事象との間にある中間事象1〜5、基本事象まで展開せずに不具合などの事象を表す非展開事象1、及び各事象の因果関係を表すゲート(ORゲート100、ANDゲート101〜103、制止ゲート105、条件付き確率106)から構成されている。ここで、各事象は0から1の間の値をとる確率変数である。ゲートを介して接続された確率変数の関係は、入力側をx1、x2、…、出力側をyとした場合に、それぞれ以下の数式で表される。
【0022】
即ち、ORゲート100の入出力関係は、「y=1−(1−x1)×(1−x2)×…」となる。ANDゲート101〜104の入出力関係は、「y=x1×x2×…」となる。また、制止ゲート105の入出力関係は、「y=x1、但しx2>A」及び「y=0、但しx2≦A」となる。さらに、条件付き確率106の入出力関係は、「y=B1×x1」となる。但し、逆方向では異なるゲインをとる場合もあるので、「x1=B2×y」となる。
【0023】
このようなネットワークモデルを使用して、本実施形態の中央監視診断システム14は、端末11から送信される情報310,320,330,340,350を入力し、例えばエレベータ、空調機器、コピー機などの監視対象機器10を監視する監視処理を実行する。
【0024】
ここで、ネットワークモデルの各事象は、端末11から送信される情報310,320,330,340,350を入力し、あるいはその一部を0から1の確率変数に規格化して入力する。なお、ネットワークモデルの事象には、入力を持たない事象も存在する。
【0025】
端末11の故障確率計算部31は、監視対象機器10を構成する部品毎の故障確率あるいは故障確率予測値などの部品故障に関する故障確率情報310を統計的計算により算出する。予兆現象検出部32は、例えばセンサにより、監視対象機器10が機能喪失に至る予兆現象に関する予兆現象情報320を検出する。この予兆現象情報320には、具体例としては、監視対象機器10に使用されているモータの回転、ノイズ、振動などの検出情報が含まれる。
【0026】
アラーム生成部33は、監視対象機器10の動作不具合、具体例としてはスイッチの動作不良やコピー機のトナー不足などのアラーム情報330を生成する。機能喪失の有無通知部34は、監視対象機器10の使用者などにより通知される機能喪失の有無を示す情報340を出力する。機器の健全性通知部35は、監視対象機器10の点検作業により得られる部品あるいは機器の健全性を示す情報350を生成する。
【0027】
次に、ネットワークモデルの各事象に入力が与えられた時点で、各事象の因果関係を表す前述のような数式(制約式)を満たさないことが考えられる。そこで、各事象に対応した確率変数xi(i=1〜n)のそれぞれに、補正項zi(i=1〜n)を与えることにより制約式を満たすようにする。但し、補正の合理性を保つために補正項の調整を行う。補正項の調整方法は、ベイズ推定を用いた方法やニューラルネットワークを用いた方法を選択することができる。本実施形態では、ネットワークモデルの制約式に与える補正項ziの取り得る範囲に制約を加えた最適化問題の解を用いる方法を適用する場合について説明する。最適化問題は、以下の式(1)で表すように、目的関数Jの最小化問題として定式化できる。
【0028】
J=Σzi×wi×zi…(1)
制約式として、ネットワークモデルの制約式(各事象の確率変数をxi+ziとする)、「xi+zi」の範囲に関する制約式、ziの範囲に関する制約式が成立する。ここで、wiは各補正項に与える重みである。信頼性の高いxiについては、wiを相対的に大きくすることによりziを小さくすることができる。従って、ネットワークモデルで表された事象の因果関係を満たし、かつ入力の信頼度を考慮した事象の発生確率を精度良く得られる。
【0029】
以下、図4から図7のフローチャートを参照して、中央監視診断システム14において、原因分析部22、予兆原因分析部23、喪失機能評価部24及び故障予測部25の各機能を具体的に説明する。
【0030】
原因分析部22は、図4に示すように、端末11からアラーム情報330、及び機能喪失(機能不全)を示す情報340が送信されたときに、これらの事象が発生した原因となる事象、即ち監視対象機器10の機能喪失を発生させた原因を推定する(ステップS1)。
【0031】
原因分析部22は、ネットワークモデルの各事象に、端末11から送信される故障確率情報310、予兆現象情報320、アラーム情報330、機能喪失の有無を示す情報340及び機器の健全性を示す情報350を入力することにより、各事象の因果関係を表す数式(制約式)を演算する(ステップS2)。このとき、ネットワークモデルの制約式を満たすように、各情報310,320,330,340,350の補正値(補正項)を計算する(ステップS3)。
【0032】
この補正項計算の際に、各情報に対して以下のような重み(wi)を設定することにより合理的な分析が実現できる。ここで、補正項計算に与える重みとして、大、中、小、ゼロのレベルに分ける。大の重みを設定する情報として、アラーム情報330及び機能喪失(機能不全)を示す情報340がある。これらの情報は確度の高い情報であるため、対応する事象の発生確率の補正項に関する重みを大きく設定する。
【0033】
中の重みを設定する情報として、故障確率情報310、予兆現象情報320及び機器の健全性を示す情報350がある。故障確率情報310及び予兆現象情報320については、故障確率計算部31及び予兆現象検出部32の精度に応じた重みを与える。また、機器の健全性を示す情報350については、点検作業によって健全性が判断された時点からの変化率などを重みとして与える。さらに、小またはゼロの重みを設定する場合として、入力を持たない事象については確率変数を任意の値(例えば0)とするとともに、重み0を与える。
【0034】
原因分析部22は、前記の補正項計算により算出された補正値を考慮して、発生した原因として可能性の高い基本事象または中間事象を推定する(ステップS4)。中央監視診断システム14は、原因分析部22により推定された原因分析結果150を、表示装置15のディスプレイ上に表示する。
【0035】
予兆原因分析部23は、図5に示すように、端末11から予兆現象情報320が送信されたときに、これらの事象が発生した原因となる事象、即ち監視対象機器10の故障(機能喪失)に到る予兆を発生させた原因を推定する(ステップS11)。
【0036】
予兆原因分析部23は、ネットワークモデルの各事象に、端末11から送信される故障確率情報310、予兆現象情報320、アラーム情報330、機能喪失の有無を示す情報340及び機器の健全性を示す情報350を入力することにより、各事象の因果関係を表す数式(制約式)を演算する(ステップS12)。このとき、ネットワークモデルの制約式を満たすように、各情報310,320,330,340,350の補正値(補正項)を計算する(ステップS13)。
【0037】
この補正項計算の際に、以下のような情報に対して大、中、小、ゼロのレベルに分けた重み(wi)を設定することにより合理的な分析が実現できる。まず、大の重みを設定する情報として、予兆現象情報320がある。この情報320に与える重みは、基本的に予兆現象検出部32の検出精度に応じた値となるが、他の重みに対して相対的に大きな値となるように設定する。
【0038】
中の重みを設定する情報として、アラーム情報330及び機能喪失の有無を示す情報340がある。これらの情報については、予兆現象情報320に対して相対的に小さい重みを与える。
【0039】
小の重みを設定する情報としては、故障確率情報310及び機器の健全性を示す情報350がある。故障確率情報310の重みは、故障確率計算部31の精度に応じた値となる。また、機器の健全性を示す情報350の重みとしては、点検作業によって健全性が判断された時点からの変化率などを与える。いずれの情報に対する重みは、相対的に小さくなるようにスケーリングする。また、入力を持たない事象については確率変数を任意の値(例えば0)とするとともに、重み0を与える。
【0040】
予兆原因分析部23は、前記の補正項計算により算出された補正値を考慮して、予兆原因として可能性の高い基本事象または中間事象を推定する(ステップS14)。中央監視診断システム14は、予兆原因分析部23により推定された分析結果を、表示装置15のディスプレイ上に表示する。
【0041】
喪失機能評価部24は、図6に示すように、端末11から予兆現象情報320が送信されたときに、この予兆現象が監視対象機器10の他の事象に与える影響、具体的には機能喪失に与える影響を評価する(ステップS21)。
【0042】
喪失機能評価部24は、ネットワークモデルの各事象に、端末11から送信される故障確率情報310、予兆現象情報320、アラーム情報330、機能喪失の有無を示す情報340及び機器の健全性を示す情報350を入力することにより、各事象の因果関係を表す数式(制約式)を演算する(ステップS22)。このとき、ネットワークモデルの制約式を満たすように、各情報310,320,330,340,350の補正値(補正項)を計算する(ステップS23)。
【0043】
この補正項計算の際に、以下のような情報に対して大、中、小、ゼロのレベルに分けた重み(wi)を設定することにより合理的な分析が実現できる。まず、大の重みを設定する情報として、予兆現象情報320がある。この情報320に与える重みは、基本的に予兆現象検出部32の検出精度に応じた値となるが、他の重みに対して相対的に大きな値となるように設定する。
【0044】
中の重みを設定する情報としては、故障確率情報310及び機器の健全性を示す情報350がある。故障確率情報310の重みは、故障確率計算部31の精度に応じた値となる。また、機器の健全性を示す情報350の重みとしては、点検作業によって健全性が判断された時点からの変化率などを与える。いずれの情報に対する重みは、相対的に小さくなるようにスケーリングする。
【0045】
小の重みを設定する情報として、アラーム情報330及び機能喪失の有無を示す情報340がある。これらの情報については、相対的に小さい重みを与える。また、入力を持たない事象については確率変数を任意の値(例えば0)とするとともに、重み0を与える。
【0046】
喪失機能評価部24は、前記の補正項計算により算出された補正値を考慮して、可能性の高いトップ事象107または中間事象を影響の大きい事象として評価する(ステップS24)。中央監視診断システム14は、機能評価結果151を表示装置15のディスプレイ上に表示する。
【0047】
故障予測部25は、図7に示すように、端末11から故障確率情報310及び予兆現象情報320が送信されたときに、故障確率や予兆現象の予測値を用いて、将来起き得る監視対象機器10の機能喪失(故障)の時期や原因を予測する(ステップS31)。
【0048】
故障予測部25は、ネットワークモデルの各事象に、端末11から送信される故障確率情報310、予兆現象情報320、アラーム情報330、機能喪失の有無を示す情報340及び機器の健全性を示す情報350を入力することにより、各事象の因果関係を表す数式(制約式)を演算する(ステップS32)。このとき、ネットワークモデルの制約式を満たすように、各情報310,320,330,340,350の補正値(補正項)を計算する(ステップS33)。
【0049】
この補正項計算の際に、以下のような情報に対して大、中、小、ゼロのレベルに分けた重み(wi)を設定することにより合理的な分析が実現できる。まず、大の重みを設定する情報として、故障確率情報310及び予兆現象情報320がある。故障確率情報310に与える重みは、故障確率計算部31精度に応じた値となる。予兆現象情報320に与える重みは、予兆現象検出部32の検出精度に応じた値となる。これらの情報に対する重みは、他の重みに対して相対的に大きな値となるように設定する。
【0050】
中の重みを設定する情報としては、機器の健全性を示す情報350がある。この情報350の重みは、点検作業によって健全性が判断された時点からの変化率などを与えるが、故障確率情報310及び予兆現象情報320に対する重みより相対的に小さくなるようにスケーリングする。
【0051】
小の重みを設定する情報として、アラーム情報330及び機能喪失の有無を示す情報340がある。これらの情報については、相対的に小さい重みを与える。また、入力を持たない事象については確率変数を任意の値(例えば0)とするとともに、重み0を与える。
【0052】
故障予測部25は、前記の補正項計算により算出された補正値を考慮して、可能性の高いトップ事象107または中間事象を影響の大きい事象として予測する(ステップS34)。中央監視診断システム14は、予測診断結果152を表示装置15のディスプレイ上に表示する。
【0053】
以上のように、中央監視診断システム14は、原因分析部22、予兆原因分析部23、喪失機能評価部24及び故障予測部25により、遠隔地に設置されている監視対象機器10の故障検出や、アラームの発生、予兆現象の検出のようなイベント発生時、あるいは将来の故障を予測するようなタイミングにおいて、それぞれの目的に合わせた補正値を計算することで故障の原因分析や影響評価を行なうことができる。
【0054】
換言すれば、中央監視診断システム14は、事前情報としては故障確率情報310を、また、事後情報としては予兆現象情報320、アラーム情報330、機能喪失の有無を示す情報340及び機器の健全性を示す情報350のそれぞれをネットワークモデルに入力し、かつ各情報の重み付けによる補正値計算により、監視対象機器10の故障に対する診断、評価、予測を確実に行なうことができる。
【0055】
ここで、具体例としては、監視対象機器10が例えばエレベータの場合において、ドアの故障確率(故障確率情報310)や、実際にドアの開閉トラブルの検知(予兆現象情報320やアラーム情報330)をネットワークモデルに入力することで、例えば基本事象1,2からORゲートを介して、例えばドアの溝詰まりのような故障を示す中間事象1を推定することができる。このとき、事前情報として得られる故障確率情報310から、ドアの故障確率が30%の場合に、原因分析部22は、例えばアラーム情報330には大の重みを設定し、故障確率情報310には中の重みを設定するような補正項zを与えるような補正値計算を実行する。
【0056】
(変形例)
本実施形態の中央監視診断システム14は、ネットワークモデルの制約式を満たすような補正値(便宜的に第1の補正値とする)を算出する補正値計算を実行する機能を有する。第1の変形例に関する中央監視診断システム14は、これらの第1の補正値とは別に、ネットワークモデルの各事象に各情報310,320,330,340,350を入力する段階で、補正値(便宜的に第2の補正値とする)を加える機能を有する構成である。
【0057】
ネットワークモデルでは、同一の部品あるいは機器の健全性に関する事象に対して、部品故障に関する故障確率情報310や、健全性に関する情報350などの複数の入力を与える場合がある。この場合、監視対象機器10の点検作業の時点で確定的となる事後情報、例えば部品又は機器の健全性に関する情報350と、事前情報である部品故障に関する故障確率情報310の間にずれが生じることがある。
【0058】
そこで、前述の第1の補正値とは別に、ネットワークモデルの各事象に各情報を入力するときに、第2の補正値を加える処理を行なう。第2の補正値は、監視対象機器10の機器の点検作業などを行い部品あるいは機器の健全性に関する確定的な情報が得られた時に計算される。
【0059】
例えば、ある部品の点検結果では十分に健全であると判定されたにも関わらず、故障確率計算部31では、同じ部品について高い故障確率値が計算される場合を想定する。この時、ネットワークモデルは、点検結果である健全性に関する情報350と、アラーム情報330、機能喪失を示す情報340に関する重みを大きく設定する。また、故障確率情報310と予兆現象情報320に関する重みを小さく設定するか、あるいはゼロとして第2の補正値を計算する。これにより確定的な情報と、確率的な推定値との整合性を保つことができる。
【0060】
要するに、ネットワークモデルは第2の補正値を保持していて、原因分析部22、予兆原因分析部23、喪失機能評価部24及び故障予測部25のそれぞれが、ネットワークモデルの各事象に各情報310,320,330,340,350を入力するときに、第2の補正値を加える処理を実行する。これにより、原因分析部22、予兆原因分析部23、喪失機能評価部24及び故障予測部25のそれぞれにおいて、精度の高い原因分析や影響評価を行うことができる。
【0061】
さらに、第2の変形例に関する中央監視診断システム14は、ネットワークモデルにおいて、原因分析部22、予兆原因分析部23、喪失機能評価部24及び故障予測部25で実行する補正項計算結果を保持し、特定の事象に関する補正項が常に大きくなる場合は自身の正確性に関する警報を発するとともに、自身によって与えられる制約を満たすように制約式の係数補正値を計算する機能を有する構成である。
【0062】
ネットワークモデルが監視対象機器10の機能喪失に関する因果関係を正確に模擬しているときは精度の高い診断が可能であるが、予期せぬ機器の仕様変更などによりネットワークモデルの正確性が失われる場合がある。即ち、例えば、故障確率計算部31の正確性が低下している場合は、故障確率に関する補正値(主に第2の補正値)が常に大きくなる。また、アラーム生成部33のアラーム判定ロジック(閾値など)に問題があったり、センサが故障している場合には、アラーム情報330に関する補正値(主に第1の補正値)が常に大きくなる。そこで、ネットワークモデルが補正値を保持し、特定の事象に関する補正値が常に大きくならないよう監視する(大きくなった場合は警報を発する)ことにより前記の問題(監視診断システムそのものに関する問題)を回避することができる。なお、機器の仕様変更などによりある部品の故障(基本事象や中間事象)が機器全体の機能(トップ事象や中間事象)に与える影響が変わった場合、その部品に関する事象の補正項が大きくなる。ネットワークモデルは警報を発すると共に、制止ゲート(条件付き確率)105や条件付き確率(ゲイン)106の値を再計算する機能を有する構成でもよい。
【0063】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施形態に関する遠隔監視システムの構成を示すブロック図。
【図2】本実施形態に関する遠隔監視システムの機能を説明するためのブロック図。
【図3】本実施形態に関するネットワークモデルを説明するための図。
【図4】本実施形態に関する原因分析部の処理手順を説明するためのフローチャート。
【図5】本実施形態に関する予兆原因分析部の処理手順を説明するためのフローチャート。
【図6】本実施形態に関する喪失機能評価部の処理手順を説明するためのフローチャート。
【図7】本実施形態に関する故障予測部の処理手順を説明するためのフローチャート。
【符号の説明】
【0065】
10…遠隔監視診断対象機器(監視対象機器)、11…遠隔監視診断端末(端末)、
12…表示装置、13…通信回線、14…中央監視診断システム、15…表示装置、
21…ネットワークモデル処理部、22…原因分析部、23…予兆原因分析部、
24…喪失機能評価部、25…故障予測部、31…故障確率計算部、
32…予兆現象検出部、33…アラーム生成部、34…機能喪失の有無通知部、
35…機器の健全性通知部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象機器に対する故障診断を含む遠隔監視処理に必要な情報を生成する端末手段と、
前記端末手段から出力される前記情報を伝送する通信回線と、
前記通信回線を介して前記端末手段から出力される前記情報を取得し、前記監視対象機器の故障や機能喪失の因果関係を示すネットワークモデルを使用して、前記情報に含まれる事前情報及び事後情報に基づいて前記遠隔監視処理を実行する監視処理手段と、
前記監視手段から出力される監視処理結果を表示する表示手段と
を具備したことを特徴とする遠隔監視システム。
【請求項2】
前記端末手段は、
前記事前情報として、前記監視対象機器の故障確率情報及び予兆現象情報を生成する手段、及び前記事後情報として、前記監視対象機器の動作不具合などを示すアラーム情報、機能喪失の有無を示す情報及び機器の健全性を示す情報を生成する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の遠隔監視システム。
【請求項3】
前記監視処理手段は、
前記端末手段から出力される前記事後情報に基づいて、前記監視対象機器の機能喪失を発生させた原因を、前記ネットワークモデルを使用して推定する原因分析手段を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の遠隔監視システム。
【請求項4】
前記監視処理手段は、
前記端末手段から出力される前記事後情報に含まれる予兆現象情報に基づいて、前記監視対象機器の機能喪失に到る予兆を発生させた原因を、前記ネットワークモデルを使用して推定する予兆原因分析手段を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の遠隔監視システム。
【請求項5】
前記監視処理手段は、
前記端末手段から出力される前記事後情報に含まれる予兆現象情報に基づいて、当該予兆現象が前記監視対象機器の機能喪失に与える影響を、前記ネットワークモデルを使用して評価する喪失機能評価手段を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の遠隔監視システム。
【請求項6】
前記監視処理手段は、
前記端末手段から出力される前記事前情報に基づいて、将来起き得る可能性の高い前記監視対象機器の機能喪失の時期や原因を、前記ネットワークモデルを使用して予測する故障予測手段を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の遠隔監視システム。
【請求項7】
前記監視処理手段は、
前記事前情報として前記監視対象機器の故障確率情報又は故障確率予測値を、前記ネットワークモデルの入力として前記遠隔監視処理を実行することを特徴とする請求項1に記載の遠隔監視システム。
【請求項8】
前記監視処理手段は、
前記事前情報として前記監視対象機器の機能喪失に至る予兆現象を示す予兆現象情報を、前記ネットワークモデルの入力として前記遠隔監視処理を実行することを特徴とする請求項1に記載の遠隔監視システム。
【請求項9】
前記監視処理手段は、
前記事後情報として前記監視対象機器の動作不具合を示すアラーム情報を、前記ネットワークモデルの入力として前記遠隔監視処理を実行することを特徴とする請求項1に記載の遠隔監視システム。
【請求項10】
前記監視処理手段は、
前記事後情報として前記監視対象機器の機能喪失の有無を示す情報及びその健全性を示す情報を、前記ネットワークモデルの入力として前記遠隔監視処理を実行することを特徴とする請求項1に記載の遠隔監視システム。
【請求項11】
前記原因分析手段は、
前記ネットワークモデルによって与えられる制約式を満たすように、前記ネットワークモデルに入力される前記事前情報または事後情報に対して所定の重みを設定する補正値計算を実行し、当該補正値を含む推定処理を行なうように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の遠隔監視システム。
【請求項12】
前記予兆原因分析手段は、
前記ネットワークモデルによって与えられる制約式を満たすように、前記ネットワークモデルに入力される前記事前情報または事後情報に対して所定の重みを設定する補正値計算を実行し、当該補正値を含む推定処理を行なうように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の遠隔監視システム。
【請求項13】
前記喪失機能評価手段は、
前記ネットワークモデルによって与えられる制約式を満たすように、前記ネットワークモデルに入力される前記事前情報または事後情報に対して所定の重みを設定する補正値計算を実行し、当該補正値を含む評価処理を行なうように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の遠隔監視システム。
【請求項14】
前記故障予測手段は、
前記ネットワークモデルによって与えられる制約式を満たすように、前記ネットワークモデルに入力される前記事前情報または事後情報に対して所定の重みを設定する補正値計算を実行し、当該補正値を含む予測処理を行なうように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の遠隔監視システム。
【請求項15】
前記監視処理手段は、
前記事後情報を前記ネットワークモデルに入力するときに、前記ネットワークモデルによって与えられる制約式を満たすように前記ネットワークモデルに入力される前記事前情報を補正する補正計算を実行する手段を含むことを特徴とする請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の遠隔監視システム。
【請求項16】
前記監視処理手段は、
前記事後情報を前記ネットワークモデルに入力するときに、前記ネットワークモデルによって与えられる制約式を満たすように前記制約式の係数補正値を計算する手段を含むことを特徴とする請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の遠隔監視システム。
【請求項17】
監視対象機器に対する故障診断を含む遠隔監視処理を実行する遠隔監視システムに適用する方法であって、
前記遠隔監視処理に必要な情報を前記監視対象機器から収集して取得する処理と、
前記情報に含まれる事前情報及び事後情報を、前記監視対象機器の故障や機能喪失の因果関係を示すネットワークモデルに入力し、当該ネットワークモデルを使用する前記遠隔監視処理を実行する処理と、
前記遠隔監視処理により得られる監視処理結果を表示する処理と
を有する手順を実行することを特徴とする遠隔監視方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−64101(P2009−64101A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229324(P2007−229324)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】