説明

遮熱コーティング用材料、遮熱コーティング、タービン部材及びガスタービン

【課題】YSZよりも高温結晶安定性に優れ、高靭性且つ高い熱遮蔽効果を有する遮熱コーティング用材料を提供することを目的とする。また、該遮熱コーティング用材料を用いて形成されたセラミックス層を有する熱サイクル耐久性に優れた遮熱コーティング、並びに、該遮熱コーティングを備えるタービン用部材及びガスタービンを提供することを目的とする。
【解決手段】安定化剤としてYb及びSmを含有するZrOを主とし、前記安定化剤の含有量が2mol%以上7mol%以下であり、前記Smの含有量が、0.1mol%以上2.5mol%以下であることを特徴とする遮熱コーティング用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性に優れた遮熱コーティング用材料に係り、特に遮熱コーティングのトップコートとして用いられるセラミックス層に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー対策の一つとして、火力発電の熱効率を高めることが検討されている。発電用ガスタービンの発電効率を向上させるためには、ガス入口温度を上昇させることが有効であり、その温度は1500℃程度とされる場合もある。そして、このように発電装置の高温化を実現するためには、ガスタービンを構成する静翼や動翼、あるいは燃焼器の壁材などを耐熱部材で構成する必要がある。しかし、タービン翼の材料は耐熱金属であるが、それでもこのような高温には耐えられないために、この耐熱金属の基材上に金属結合層を介して溶射等の成膜方法によって酸化物セラミックスからなるセラミックス層を積層した遮熱コーティング(Thermal Barrier Coating,TBC)を形成して、耐熱金属基材を高温から保護することが行われている。セラミックス層としてはZrO系の材料、特にYで部分安定化した又は完全安定化したZrOであるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)が、セラミックス材料の中では比較的低い熱伝導率と比較的高い熱膨張率を有しているためによく用いられる。
【0003】
しかしながら、ガスタービンの種類によっては、タービンの入口温度が1500℃を超える温度に上昇することが考えられている。また、近年環境対策の関係から、より熱効率の高いガスタービンの開発が進められており、タービンの入口温度が1700℃にも達すると考えられ、タービン翼の表面温度は1300℃もの高温になることが予想される。
【0004】
上記YSZからなるセラミックス層を備えた遮熱コーティング材料によりガスタービンの動翼や静翼などを被覆した場合、1500℃を超える過酷な運転条件の下ではガスタービンの運転中に上記セラミックス層の一部が剥離し、耐熱性が損なわれるおそれがあった。また、YSZは1200℃を超える温度で脱安定化現象を生じ、耐久性が大幅に低減してしまう。
【0005】
高温環境下での結晶安定性に優れ、高い熱耐久性を有する遮熱コーティングとして、例えば、Yb添加ZrO(特許文献1)、Dy添加ZrO(特許文献2)、Er添加ZrO(特許文献3)、SmYbZr(特許文献4)が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−160852号公報(請求項1、段落[0006]、[0027]〜[0030])
【特許文献2】特開2001−348655号公報(請求項4及び5、段落[0010]、[0011]、[0015])
【特許文献3】特開2003−129210号公報(請求項1、段落[0013]、[0015])
【特許文献4】特開2007−270245号公報(請求項2、段落[0028]、[0029])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
タービン翼の遮熱コーティングには、更に高い熱サイクル耐久性、高温結晶安定性及び高遮熱性が要求される。しかし、これらを両立させるのは非常に困難であった。
【0008】
本発明は、YSZよりも高温結晶安定性に優れ、高靭性且つ高い熱遮蔽効果を有する遮熱コーティング用材料を提供することを目的とする。また、該遮熱コーティング用材料を用いて形成されたセラミックス層を有する熱サイクル耐久性に優れた遮熱コーティング、並びに、該遮熱コーティングを備えるタービン用部材及びガスタービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、安定化剤としてYb及びSmを含有するZrOを主とし、前記安定化剤の含有量が2mol%以上7mol%以下であり、前記Smの含有量が、0.1mol%以上2.5mol%以下であることを特徴とする遮熱コーティング用材料を提供する。
前記Smの含有量は、1.0mol%以上2.0mol%以下がより好ましい。
【0010】
Yb(イッテルビウム)は、Y(イットリウム)よりもイオン半径が小さいため、高温で優れた結晶安定性を備える。Ybを安定化剤として含有するZrOは、YSZに比して温度変化に伴う相変態が起こりにくく、相変態に起因する応力の発生も抑制することができる。
また、Zr(ジルコニウム)が、原子量の異なるYb及びSm(サマリウム)を含有することにより、格子ミスマッチを導入され結晶構造を複雑にする。これにより熱散乱が生じやすくなり、熱伝導率を低減する効果を有する。
遮熱コーティング用材料中の安定化剤の含有量(Yb及びSmの合計)が、2mol%未満になると単斜晶への相変態が容易に発生するので、2mol%以上が好ましい。一方、7mol%より多いと準安定正方晶が減少する傾向にある。そのため、破壊靭性が低下するので、安定化剤の含有量は7mol%以下が好ましい。
更に、Smの含有量が、0.1mol%より少ないと所望の熱伝導率が得られないため、0.1mol%以上が好ましい。一方、2.5mol%より多いと熱伝導率は低減されるが、高い破壊靭性値が得られなくなる。このため、Smの含有量は、2.5mol%以下が好ましい。
本発明に係る遮熱コーティング用材料は、上記含有量でYb及びSmを安定化剤として含むために、高温での結晶安定性と共に、高靭性と低熱伝導性を両立できる。そのため、熱サイクル耐久性に優れる遮熱コーティングとすることができる。
【0011】
本発明の遮熱コーティングは、耐熱合金基材上に、金属結合層と、該金属結合層上に形成された上記の遮熱コーティング用材料からなるセラミックス層とを備えることが好ましい。
【0012】
上記遮熱コーティング用材料からなるセラミックス層は、高温結晶安定性に優れ、高い靭性を有する。そのため、熱サイクル耐久性に優れる遮熱コーティングとなる。
【0013】
また、本発明は、上記遮熱コーティングを備えるタービン部材、及び、該タービン部材を備えたガスタービンを提供する。
係る構成のタービン部材によれば、優れた高温結晶安定性及び熱サイクル耐久性を備えたタービン部材とすることができる。これにより、より信頼性に優れたガスタービンを構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
上記組成の遮熱コーティング用材料は、高温での結晶安定性に優れ、高い破壊靭性及び低い熱伝導率を有する。これにより、熱サイクル耐久性に優れ、高遮熱効果を備える遮熱コーティングとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の遮熱コーティング用材料を適用したタービン部材の断面の模式図である。
【図2】実施例における焼結体中のSm含有量と破壊靭性値との関係を示すグラフである。
【図3】実施例における焼結体中のSm含有量と熱伝導率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る実施形態を説明する。
図1は、本実施形態に係る遮熱コーティング用材料を適用したタービン部材の断面の模式図である。タービン動翼などの耐熱合金基材11上に、遮熱コーティングとして金属結合層12及びセラミックス層13が順に形成される。
【0017】
金属結合層12は、MCrAIY合金(Mは、Ni、Co、Fe等の金属元素またはこれらのうち2種類以上の組み合わせを示す)などとされる。
【0018】
本実施形態に係るセラミックス層13を構成する遮熱コーティング用材料は、安定化剤としてYb及びSmを含有するZrOを含む。安定化剤の含有量は、2mol%以上7mol%以下とされ、且つ、Smの含有量は、0.1mol%以上2.5mol%以下とされる。
前記Smの含有量は、1.0mol%以上2.0mol%以下がより好ましい。
【0019】
本実施形態の遮熱コーティング用材料は、安定化剤としてYよりもイオン半径が小さく、高温での安定性が高いYbを含むYbを含有する。これにより、高い破壊靭性値が得られ、熱サイクル耐久性に優れる遮熱コーティングとなる。
【0020】
本実施形態の遮熱コーティング用材料は、Zrよりも原子量の大きなYb及びSmを含有することにより、格子ミスマッチが導入され、結晶構造が複雑になる。このため、熱散乱が生じやすくなり、熱伝導率が低減するという効果を奏する。この結果、熱伝導率の低いセラミックス層となる。
【0021】
上記セラミックス層13は、熱遮蔽性を高めると共に、ヤング率を低下させて遮熱コーティングの熱サイクル耐久性を向上させることを目的として、通常10%程度の気孔が導入される。
【0022】
上記セラミックス層13は、大気圧プラズマ溶射、電子ビーム物理蒸着などによって成膜される。大気圧プラズマ溶射を適用する場合、本実施形態の遮熱コーティング用材料は、スプレードライ法などにより溶射粉末される。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本実施形態の遮熱コーティング用材料及び遮熱コーティングを詳細に説明する。
(実施例1)
表1に示す各組成の焼結体を、常圧焼結法にて焼結温度1600℃、焼結時間5時間の条件で作製した。原料粉末にはYb、Sm、ZrOを用いた。
各組成の焼結体の破壊靭性値を、JIS R 1607に基づいて測定した。熱伝導率を、JIS R 1611で規定されるレーザーフラッシュ法に基づいて測定した。1300℃、1000時間の加熱処理前後の焼結体の構成相を、粉末X線回析により同定した。
【0024】
(比較例1)
:8mol%を添加したZrOを用い、実施例1と同じ条件で焼結体を作製した。
実施例1と同様にして、焼結体の破壊靭性、及び、熱伝導率を測定した。また、加熱処理前後の構成相を実施例1と同様に同定した。
【0025】
表1に、実施例1及び比較例1の組成と、それぞれの焼結体の特性を示す。
成膜後の構成相は、いずれも準安定正方晶であった。試料番号1〜4(Yb:4.45〜2.3mol%、Sm:0.05〜2.2mol%)の焼結体は、加熱処理後の構成相に変化はみられなかった。一方、比較例と試料番号5及び6(Yb:0.1及び0.05mol%、Sm:4.4及び4.45mol%)の焼結体は、加熱処理により相変態が生じ、構成相は立方晶+単斜晶であった。
【表1】

【0026】
図2に、焼結体中のSm含有量と破壊靭性値との関係を示す。同図において、横軸はSm含有量、縦軸は破壊靭性値である。
試料番号1〜4の焼結体は、比較例1(破壊靭性値:4MPa・m0.5)よりも高い破壊靭性値が得られた。一方、試料番号5及び6では、比較例1よりも破壊靭性が低い値を示した。
試料番号1では、Yよりもイオン半径が小さく、高温での結晶安定性が高いYbを含むYbを多く添加したため、比較例1よりも高い破壊靭性値が得られた。一方、Smの添加量増加に依存して破壊靭性値が低下した。これは、YよりもSmのイオン半径が大きいためだと考えられる。
【0027】
この結果から、Ybの含有量が2.3mol%以上、且つ、Smの含有量が、0.05mol%〜2.2mol%の範囲で、比較例1よりも高い破壊靭性値が得られ、Yを4.45mol%、且つ、Smを0.05mol%の割合で添加したときに最も高い破壊靭性値を示すことが明らかとなった。
【0028】
図3に、焼結体中のSm含有量と熱伝導率との関係を示す。同図において、横軸はSm含有量、縦軸は熱伝導率である。
試料番号1〜6の焼結体の熱伝導率は、比較例1の焼結体の熱伝導率より低く、Smの含有量に依存して減少した。Yb及びSmを含有することで、比較例の熱伝導率より低い熱伝導率となることが示された。
【0029】
(実施例2)
スプレードライ法を用いて、粒径10〜125μmの表1に示す各組成物の溶射粉末を製造した。上記溶射粉末を用いて、以下の方法により遮熱コーティングを形成した試験片を作製した。
【0030】
厚さ5mmの合金金属基材(メーカー:INCO社、商標名:IN−738LC、化学組成:Ni−16Cr−8.5Co−1.75Mo−2.6W−1.75Ta−0.9Nb−3.4Ti−3.4Al(質量%))上に、低圧プラズマ溶射法にて膜厚100μmの金属結合層を形成した。金属結合層の組成は、Ni:32質量%、Cr:21質量%、Al:8%質量%、Y:0.5質量%、Co:残部、とした。
【0031】
大気圧プラズマ溶射により上記溶射粉末を金属結合層上に溶射製膜し、膜厚0.5mmの溶射皮膜(セラミックス層13)を形成した。溶射には、スルザーメテコ社製溶射ガン(F4ガン)を使用した。溶射条件は、溶射電流:600(A)、溶射距離:150(mm)、粉末供給量:60(g/min)、Ar/HO:35/7.4(l/min)とした。溶射皮膜の気孔率は10%であった。なお、気孔率は、精密に研磨された遮熱コーティング断面を、光学顕微鏡(倍率100倍)を用いて任意の5視野(観察長さ約4mm)を撮影した顕微鏡写真から、画像処理法を用いて皮膜中に占める気孔の割合として算出した。
【0032】
上記工程にて作製した試験片について、実施例1と同様の方法により、溶射皮膜の熱伝導率を測定した。1300℃、1000時間の加熱処理前後の構成相を実施例1と同様の方法により同定し、溶射皮膜気孔率は上記方法にて測定した。
試験片の熱サイクル耐久性をレーザー熱サイクル試験により測定した。試験条件は、遮熱コーティングの最高表面加熱温度:1400℃、最高界面温度:950℃、加熱時間3分、冷却時間3分とし、セラミックス層剥離までの熱サイクル数を計測した。
【0033】
(比較例2)
また、実施例2と同様にして、表1の組成の遮熱コーティング用材料を溶射成膜し、試験片を作製した。
実施例1と同様にして、溶射皮膜の熱伝導率、加熱処理前後の気孔率及び構成相、試験片の熱サイクル耐久性を測定した。
【0034】
溶射皮膜の熱伝導率及び加熱処理前後の構成相は、実施例1及び比較例1の焼結体と同様の傾向を示した。
表2に溶射皮膜の特性を示す。
【表2】

【0035】
試料番号1〜4では、加熱処理前後での溶射皮膜の構成相は、いずれも準安定性正方晶のままであった。このため、試料番号1〜4の試験片では、300回以上の熱サイクルが可能であった。一方、比較例と試料番号5及び6は、加熱処理により、構成相が準安定性正方晶から立方晶と単斜晶との混合相に変化した。以上より、試料番号1〜4の焼結体の試験片において、比較例の試験片よりも高い熱リサイクル耐久性が得られた。
【0036】
試料番号2〜6では、加熱処理後の溶射皮膜の気孔率が、加熱前よりも0.2%低下した。一方、比較例及び試料番号1では、加熱処理後の溶射皮膜の気孔率が、1%及び3%低下した。
【符号の説明】
【0037】
11 耐熱合金基材
12 金属結合層
13 セラミックス層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化剤としてYb及びSmを含有するZrOを主とし、
前記安定化剤の含有量が2mol%以上7mol%以下であり、
前記Smの含有量が、0.1mol%以上2.5mol%以下であることを特徴とする遮熱コーティング用材料。
【請求項2】
耐熱合金基材上に、金属結合層と、該金属結合層上に形成された請求項1に記載の遮熱コーティング用材料からなるセラミックス層と、を備えることを特徴とする遮熱コーティング。
【請求項3】
請求項2に記載の遮熱コーティングを備えることを特徴とするタービン部材。
【請求項4】
請求項3に記載のタービン部材を備えることを特徴とするガスタービン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−235983(P2010−235983A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83362(P2009−83362)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】