部分含浸トウプリプレグ及びその製造装置
【課題】成形時に脱気経路を確実に確保することができ、迅速且つ容易に脱気できる部分含浸トウプリプレグを提供する。
【解決手段】部分含浸トウプリプレグ1は、トウ2の幅方向に、マトリックス樹脂を含浸させた含浸部4と、マトリックス樹脂を含浸させていない未含浸部3とが並ぶ配置構成を有する。この部分含浸トウプリプレグ1を用いて織物5を形成し、織物5を複数枚積層して積層体6を形成した場合に、未含浸部3が重なり合って積層方向に連通する空気の通り道を形成することができる。従って、積層体6の積層方向に脱気経路を確実に確保することができ、迅速且つ容易に脱気することができる。
【解決手段】部分含浸トウプリプレグ1は、トウ2の幅方向に、マトリックス樹脂を含浸させた含浸部4と、マトリックス樹脂を含浸させていない未含浸部3とが並ぶ配置構成を有する。この部分含浸トウプリプレグ1を用いて織物5を形成し、織物5を複数枚積層して積層体6を形成した場合に、未含浸部3が重なり合って積層方向に連通する空気の通り道を形成することができる。従って、積層体6の積層方向に脱気経路を確実に確保することができ、迅速且つ容易に脱気することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維束であるトウに部分的にマトリックス樹脂を含浸させた部分含浸トウプリプレグ及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料は、炭素繊維やガラス繊維等からなる強化繊維基材に熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂を一体化したものであり、軽量でかつ強度特性に優れていることから多くの分野で使用されている。
【0003】
繊維強化複合材料を成形する方法の一つに、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させた中間体であるプリプレグを用いる方法がある。プリプレグの形態としては、シート状の強化繊維基材にマトリックス樹脂を含浸させたシートプリプレグや、強化繊維束であるトウにマトリックス樹脂を含浸させたトウプリプレグ等がある。このようなプリプレグを積層して繊維強化複合材料を成形する場合、オートクレーブ等を用いて予め十分に減圧した後に加熱加圧して成形するオートクレーブ法が行われていた。
【0004】
そして、特許文献1には、マトリックス樹脂層101(図11及び図12を参照)に通気孔110を設けて成形時の脱気経路を確保する部分含浸プリプレグの技術が示されている。強化繊維にマトリックス樹脂が完全に含浸されているプリプレグの場合、複数枚が積層されたプリプレグの層間に閉じ込められた空気や、プリプレグの内部に閉じ込められた空気を、外部に押し出して完全に脱気することはできず、成形品のボイド率を低減することは困難であった。
【0005】
該公報によれば、プリプレグ100の断面模式図である図11、及び、マトリックス樹脂層101の平面図である図12に示すように、フィルム状のマトリックス樹脂層101に通気孔110を設けてシート状強化繊維層102を部分的に被覆し、かかる通気孔110を厚み方向の通気パスとして、プリプレグ100の内部の空気を脱気する旨が記載されている。
【0006】
【特許文献1】2002−249605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示される構造を有するプリプレグ100は、単体であれば通気孔110によって通気パスを確保できるが、一般的には、複数枚のプリプレグ100をランダムに重ねて積層するので、通気孔110が他のプリプレグ100によって完全に閉塞されてしまい、積層方向に連通する通気パスを確保できない可能性がある。
【0008】
また、成形時には強化繊維102の未含浸部分にマトリックス樹脂を含浸させる必要があり、通気パスの大きさや数、配置位置が制限されることから、十分な大きさの脱気経路を確保することが難しく、成形品のボイド率を低減することが困難であった。
【0009】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、成形時に脱気経路を確実に確保することができ、迅速且つ容易に脱気可能な部分含浸トウプリプレグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の部分含浸トウプリプレグは、強化繊維束からなるトウに部分的にマトリックス樹脂が含浸された部分含浸トウプリプレグであって、マトリックス樹脂が含浸された含浸部と、マトリックス樹脂が含浸されていない未含浸部とがトウの幅方向に並ぶ配置構成を有することを特徴としている。
【0011】
本発明の部分含浸トウプリプレグを用いて織物を形成し、織物を複数枚積層して積層体を形成した場合に、部分含浸トウプリプレグの未含浸部が重なり合って積層方向に連通する空気の通り道を形成することができ、積層体の積層方向に確実に脱気経路を確保することができる。
【0012】
そして、各部分含浸トウプリプレグの未含浸部によって、織物が延在する面方向にも空気の通り道を形成することができ、積層体の面方向に確実に脱気経路を確保することができる。従って、真空成形時に積層体の積層方向と面方向の両方から脱気することができ、迅速且つ容易に脱気でき、成形された成形品のボイド率を低減することができる。
【0013】
そして、具体的な構成の一例として、トウは、その幅方向一方側を含浸部とし、トウの幅方向他方側を未含浸部とする構成としてもよい。
【0014】
また、本発明の部分含浸トウプリプレグを製造する製造装置は、強化繊維束からなるトウに部分的にマトリックス樹脂が含浸された部分含浸トウプリプレグを製造する製造装置において、トウの面に対してトウの幅方向に部分的に当接して、当接部分にマトリックス樹脂を含浸させる樹脂含浸手段と、樹脂含浸手段によりトウに部分的に含浸されたマトリックス樹脂を加熱して乾燥させる樹脂乾燥手段を有することを特徴としている。
【0015】
樹脂含浸手段は、トウに対してトウの幅方向に部分的に当接するプーリ面を有するプーリと、プーリ面に液状のマトリックス樹脂を塗布する樹脂供給手段を有する構成としてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、部分含浸トウプリプレグを用いて織物を形成し、織物を複数枚積層して積層体を形成した場合に、部分含浸トウプリプレグの未含浸部が重なり合って積層方向に連通する空気の通り道を形成することができ、積層体の積層方向に確実に脱気経路を確保することができる。そして、各部分含浸トウプリプレグの未含浸部によって、織物が延在する面方向にも空気の通り道を形成することができ、積層体の面方向に確実に脱気経路を確保することができる。従って、真空成形時に積層体の積層方向と面方向の両方から脱気することができ、迅速且つ容易に脱気でき、成形された成形品のボイド率を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について図を用いて説明する。
図1は、本実施の形態における部分含浸トウプリプレグ1の構成を模式的に示す斜視図、図2は、部分含浸トウプリプレグ1の断面を模式的に示す図である。
【0018】
本実施の形態における部分含浸トウプリプレグ1は、図1及び図2に示すように、強化繊維束からなるトウ2を備えており、マトリックス樹脂が含浸された含浸部4と、マトリックス樹脂が含浸されていない未含浸部3とがトウ2の幅方向に並ぶ配置構成を有している。そして、より具体的には、トウ2を幅方向に二分するように、トウ2の幅方向一方側を含浸部4とされ、トウ2の幅方向他方側を未含浸部3とされている。
【0019】
トウ2は、例えば12000本、あるいは24000本等、複数本の強化繊維のフィラメントFを束ねることによって構成されており、厚さよりも横幅の方が大きい扁平形状を有している。そして、ほぼ一定幅及び一定厚さで延在するテープ形状を有している。
【0020】
トウ2を構成する強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、金属繊維等を用いることが可能であるが、中でも、成形後の機械的特性が良好であり且つ軽量である、炭素繊維が好適に用いられる。
【0021】
また、マトリックス樹脂の種類は、特に限定されず、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、シアン酸エステルとビスマレイミド樹脂を組み合わせたBT樹脂などの熱硬化性樹脂や、アクリル樹脂やポリエーテルケトンなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。特に、熱硬化性樹脂は、得られるFRPの強度向上につながるので好ましく、中でも、エポキシ樹脂は、強化繊維との接着性に優れ、得られるFRPの機械物性が向上するので、特に好適な例として挙げられる。
【0022】
エポキシ樹脂としては、例えば2官能樹脂であるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、あるいはこれらを用いた変性樹脂、3官能以上の多官能性エポキシ樹脂であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾール型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、テトラグリシジルアミンのような、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタンやトリス(グリシジルオキシメタン)のようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、あるいはこれらを用いた変性樹脂、及びこれら樹脂を少なくとも1種類以上組み合わせた樹脂組成物を適用してもよい。
【0023】
また、これらエポキシ樹脂組成物に、ジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、脂肪族アミン、イミダゾール誘導体、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリフェノール化合物、ポリメルカプタン、三フッ化硼素エチルアミン錯体等の硬化剤、あるいはエポキシ樹脂と前記硬化剤の一部を呼び反応させたものを、樹脂組成物に配合することもできる。
【0024】
さらに、本発明における熱硬化性樹脂は、最低粘度が1000ポイズ以下であることが好ましい。最低粘度が1000ポイズを超えるような粘度の高い樹脂組成物を用いると、樹脂組成物の流動性が悪化するので好ましくない。
【0025】
本発明の部分含浸トウプリプレグ1は、真空成形時に脱気経路としての役割を果たした未含浸部3に、含浸部4から滲み出した樹脂組成物が含浸されて充填されていくが、樹脂組成物の流動性が悪いと充填が完了する前に、成形が終了してしまい、残された未含浸部3がボイドとなるおそれがあり、樹脂目付を増加させなければならず、コストがかかるため好ましくない。従って、最低粘度は小さい方が良く、特に500ポイズ以下であることが好ましい。
【0026】
マトリックス樹脂の含浸量は、繊維体積に対して30パーセント以上であり、また、40パーセントを超えると、繊維堆積含有率(Vf)が増加し、加熱硬化した繊維強化樹脂の特性が下がることから、本実施の形態では、35パーセントから40パーセントの間に設定されている。
【0027】
上記した部分含浸トウプリプレグ1は、例えば以下の製造装置10を用いて製造される。
【0028】
図3は、本実施の形態における部分含浸トウプリプレグ1の製造装置10の構成図、図4は、図3のA−A線矢視図、図5は、図4のB部拡大図、図6は、図4のC部拡大図である。
【0029】
製造装置10は、図3に示すように、トウを巻き出す巻き出し手段11、樹脂含浸手段21、樹脂乾燥手段31、部分含浸トウプリプレグを巻き取る巻き取り手段41を有する。
【0030】
巻き出し手段11は、クリールスタンド12を備えている。クリールスタンド12には、ボビン13が装着されており、ボビン13には、マトリックス樹脂が含浸されていない未含浸の強化繊維束からなる扁平なトウ2が巻回されている。クリールスタンド12は、各ボビン13にバックテンションをかけてトウ2に張力を与えた状態で巻き出し可能な構成を有している。
【0031】
クリールスタンド12は、複数のボビン13を装着可能であり、本実施の形態では7個のボビン13を装着して、各ボビン13からトウ2を巻き出すことができるようになっている。
【0032】
樹脂含浸手段21は、巻き出し手段11から供給されたトウ2に対して、トウ2の幅方向に部分的に当接して、その当接部分にマトリックス樹脂となる液状樹脂を含浸させる構成を有する。樹脂含浸手段21は、溝プーリ(プーリ)22と、樹脂供給装置24と、ドクターナイフ25を備えている。溝プーリ22は、図3に示すように、巻き出し手段11から供給されたトウ2を下部に通して、樹脂乾燥手段31に供給できるように、回転可能に支持されている。
【0033】
溝プーリ22は、図4及び図6に示すように、トウ2の横幅よりも若干大きめの溝幅を有する凹溝23を有しており、凹溝23内には、段差を介して大径面(プーリ面)23aと小径面23bが形成されている。そして、トウ2の幅方向一方側の部分を大径面23aに当接させた状態で、トウ2を通すことができるようになっている。
【0034】
樹脂供給手段24は、液状樹脂を溝プーリ22に滴下可能なノズル24aを備えている。ノズル24aは、図5に示すように、溝プーリ22の上方位置で且つ大径面23aに対向する位置に配設されており、所定量の液状樹脂を所定速度で滴下して大径面23aに塗布する構成を有する。本実施の形態では、ノズル24aから滴下する液状樹脂として、主剤にビスフェノール系の液状樹脂、硬化剤にアミン系の硬化剤を使用した熱硬化系の液状樹脂が用いられている。
【0035】
ドクターナイフ25は、大径面23aに滴下された液状樹脂を一定の厚さに平滑化し、トウ2に含浸させる樹脂量を調整するものであり、溝プーリ22の大径面23aに接近又は離反する方向に往復移動させて、そのクリアランスに応じて液状樹脂の厚さを調整することができる。
【0036】
従って、溝プーリ22の下部で凹溝23に通されるトウ2に対して、溝プーリ22の大径面23a上の液状樹脂を含浸させることができ、その含浸部4(図1及び図2を参照)に含浸される液状樹脂の量を均一且つ適切な量とすることができる。
【0037】
なお、本実施の形態では、溝プーリ22は、7本の凹溝23を有しており、各凹溝23に対して樹脂供給手段24のノズル24aとドクターナイフ25がそれぞれ配置された構成を有している。
【0038】
トウ2は、樹脂含浸手段21によって液状樹脂が部分含浸されると、樹脂乾燥手段31に供給される。樹脂乾燥手段31では、トウ2に部分的に含浸された液状樹脂を加熱して乾燥させる処理が行われ、マトリックス樹脂のBステージ化(プリプレグ化)が行われる。
【0039】
樹脂乾燥手段31は、遠赤外線による加熱ヒータ32を備えている。加熱ヒータ32は、液状樹脂が部分含浸されたトウ2に対向して、トウ2の移動方向に沿って所定距離に亘って配置されている。
【0040】
そして、トウ2に含浸されている液状樹脂を、例えば100℃で10分間等の予め設定された条件で加熱してその粘度を増加させ、プリプレグ化する。これにより、トウ2の幅方向一方側が含浸部4とされ、幅方向他方側が未含浸部3とされた部分含浸トウプリプレグ1が製造される。部分含浸トウプリプレグ1は、樹脂乾燥手段31で液状樹脂の粘度増加により乾燥化されることによって、べたつかず、高い取り扱い性を有する。
【0041】
巻き取り手段41は、クリールスタンド42を備えている。クリールスタンド42にはボビン43が装着されており、樹脂乾燥手段31から供給される部分含浸トウプリプレグ1をボビン43に巻き取る。クリールスタンド42は、複数のボビン43を装着可能であり、本実施の形態では、7個のボビン43を装着して、各ボビン43に部分含浸トウプリプレグ1を巻き取ることができるようになっている。
【0042】
次に、上記した部分含浸トウプリプレグを用いた織物5とその積層体6について説明する。織物5は、部分含浸トウプリプレグ1の面同士が互いに重なり合う部分を有するように、複数本の部分含浸トウプリプレグ1を用いて形成される。織物5の形態としては、平織、綾織、朱子織、多軸織物、簾織等が挙げられる。そしてさらに、経糸と緯糸で強化繊維が異なる部分含浸トウプリプレグ1を用いてもよい。
【0043】
織物5には、繊維目付が1500kg/m2以下のものが好適に用いられる。繊維目付が1500kg/m2を超えると、強化繊維の密度が高すぎて機械特性に優れたものを得るのが難しくなり、好ましくない。さらに好ましくは、1000kg/m2以下であることが好ましい。繊維目付の下限については、特に限定されないが、100g/m2以上であることが好ましい。100g/m2未満であると、積層枚数を増加させる必要があるので、コスト増加につながるおそれがあり、好ましくない。
【0044】
図7は、部分含浸トウプリプレグ1を用いた織物5の一例である2軸ステッチ基材5の模式平面図、図8は、図7の2軸ステッチ基材5を複数枚積層した積層体6の模式断面図である。
【0045】
2軸ステッチ基材5は、図7に示すように、複数本(図では2本のみを示す)の部分含浸トウプリプレグ1を幅方向に並べたシートを、上下の部分含浸トウプリプレグ1が直交するように2枚積層して、ステッチ糸(図示せず)にて一体化することによって形成されている。本実施の形態では、2軸ステッチ基材5の長手方向に対して、上下の部分含浸トウプリプレグ1の配向が左右に45度の角度だけ傾斜した、+45度と−45度の2軸ステッチ基材5が用いられている。
【0046】
2軸ステッチ基材5は、図7に太矢印で示すように、部分含浸トウプリプレグ1の未含浸部3を面方向の空気の通り道にするとともに、部分含浸トウプリプレグ1の未含浸部3が重なり合った箇所K(図7で二点鎖線にて囲まれた箇所)を、積層方向に連通する空気の通り道とすることができる。
【0047】
積層体6は、2軸ステッチ基材5を所望の形状に切断して複数枚を積層することによって構成されている。本実施の形態では、図8に示すように、4枚の2軸ステッチ基材5が積層されて構成されている。
【0048】
複数枚の2軸ステッチ基材5を積層した場合、部分含浸トウプリプレグ1の未含浸部3同士が重なり合って、2軸ステッチ基材5の積層方向に連通する空気の通り道が形成される。この積層方向に連通する空気の通り道は、2軸ステッチ基材5をランダムに重ねても閉塞されることはない。従って、積層体6の積層方向に連通する脱気経路を確実に確保することができる。
【0049】
そして、部分含浸トウプリプレグ1の未含浸部3によって、2軸ステッチ基材5が延在する面方向にも空気の通り道が形成される。従って、積層体6の面方向にも脱気経路を確保することができる。従って、図8に太矢印で示すように、多くの脱気経路を常に確保することができ、真空成形時に積層体6の内部を、迅速且つ容易に、効率よく脱気することができる。
【0050】
真空成形では、積層体6を例えばバキュームバッグで密閉してバキュームバッグ内を十分に減圧し、積層体6の内部を脱気する。そして、所定の条件で加熱及び加圧を行い、所望の形状に成形する。そして、加熱により液状化して含浸部から滲み出したマトリックス樹脂を未含浸部に含浸させて充填させ、充填が完了した後に硬化させる。
【0051】
積層体6は、部分含浸トウプリプレグ1の未含浸部3によって、積層方向と面方向の両方に脱気経路が確保されているので、真空成形時に迅速且つ容易に脱気することができ、ボイドの少ない成型品を得ることができる。
【0052】
また、部分含浸トウプリプレグ1は、トウ2の未含浸部3と含浸部4とが並んで形成されているので、仮に含浸部4の内部に空気が包含されていた場合でも、成形時に含浸部4から未含浸部3に簡単に排出することができ、成形品のボイド率を低減することができる。
【0053】
図9は、強度特性の比較例を示すグラフである。図9に示す従来品は、マトリックス樹脂によって完全に含浸された従来のトウプリプレグを用いて構成された積層体を真空成形法により成形した繊維強化樹脂部材であり、本発明品は、上記した本発明の部分含浸トウプリプレグ1を用いて構成された積層体6を真空成形法により成形した繊維強化樹脂部材である。
【0054】
図9に示すように、本発明品は、引張り強度が1350MPaであるのに対して、従来品は、900MPaしかなく、本発明品の方が引張り強度が大きいことがわかる。そして、ボイド率は、本発明品が2パーセント以下であるのに対して、従来品は3〜5パーセントであり、本発明品の方が従来品よりも低減されている。
【0055】
なお、上述の実施の形態では、扁平なトウ2を幅方向に未含浸部3と含浸部4に二分した構成の場合を例に説明したが、未含浸部3と含浸部4とがトウ2の幅方向に並ぶ配置構成を有するものであればよい。
【0056】
図10は、本発明の部分含浸トウプリプレグ1の変形例を示す図である。図10(a)は、扁平なテープ状のトウ2を幅方向に四分割するように未含浸部3と含浸部4が交互に並ぶ配置構成としたものであり、図10(b)は、扁平なテープ状のトウ2を幅方向に七分割するように未含浸部3と含浸部4が交互に並ぶ配置構成としたものである。
【0057】
そして、図10(c)は、幅方向中央を未含浸部3とし、扁平なトウ2の幅方向両側を含浸部4として並ぶ配置構成としたものであり、図10(d)は、扁平なテープ状のトウ2の幅方向両側を未含浸部3とし、幅方向中央を含浸部4として並ぶ配置構成としたものである。
【0058】
このように、本発明の部分含浸トウプリプレグ1は、未含浸部3と含浸部4の少なくとも一方を複数としてトウ2の幅方向に並べた配置構成としてもよい。かかる構成とした場合でも、積層した状態で未含浸部3を積層方向に重ねることができ、脱気経路を積層方向に確実に確保することができる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態について図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施の形態における部分含浸トウプリプレグの構成を模式的に示す斜視図。
【図2】部分含浸トウプリプレグの断面の模式図である。
【図3】部分含浸トウプリプレグの製造装置の構成図。
【図4】図3のA−A線矢視図。
【図5】図4のB部拡大図。
【図6】図4のC部拡大図。
【図7】部分含浸トウプリプレグを用いた織物の脱気経路を模式的に示す平面図。
【図8】部分含浸トウプリプレグを用いた織物の脱気経路を模式的に示す断面図。
【図9】強度特性の比較例を示すグラフ。
【図10】本発明の部分含浸トウプリプレグの変形例を示す断面の模式図。
【図11】従来技術を説明する図。
【図12】従来技術を説明する図。
【符号の説明】
【0061】
1 部分含浸トウプリプレグ
2 トウ
3 未含浸部
4 含浸部
5 織物
6 積層体
10 製造装置
11 巻き出し手段
21 樹脂含浸手段
22 溝プーリ(プーリ)
23 凹溝
23 大径面(プーリ面)
24 樹脂供給手段
25 ドクターナイフ
31 樹脂乾燥手段
41 巻き取り手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維束であるトウに部分的にマトリックス樹脂を含浸させた部分含浸トウプリプレグ及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料は、炭素繊維やガラス繊維等からなる強化繊維基材に熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂を一体化したものであり、軽量でかつ強度特性に優れていることから多くの分野で使用されている。
【0003】
繊維強化複合材料を成形する方法の一つに、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させた中間体であるプリプレグを用いる方法がある。プリプレグの形態としては、シート状の強化繊維基材にマトリックス樹脂を含浸させたシートプリプレグや、強化繊維束であるトウにマトリックス樹脂を含浸させたトウプリプレグ等がある。このようなプリプレグを積層して繊維強化複合材料を成形する場合、オートクレーブ等を用いて予め十分に減圧した後に加熱加圧して成形するオートクレーブ法が行われていた。
【0004】
そして、特許文献1には、マトリックス樹脂層101(図11及び図12を参照)に通気孔110を設けて成形時の脱気経路を確保する部分含浸プリプレグの技術が示されている。強化繊維にマトリックス樹脂が完全に含浸されているプリプレグの場合、複数枚が積層されたプリプレグの層間に閉じ込められた空気や、プリプレグの内部に閉じ込められた空気を、外部に押し出して完全に脱気することはできず、成形品のボイド率を低減することは困難であった。
【0005】
該公報によれば、プリプレグ100の断面模式図である図11、及び、マトリックス樹脂層101の平面図である図12に示すように、フィルム状のマトリックス樹脂層101に通気孔110を設けてシート状強化繊維層102を部分的に被覆し、かかる通気孔110を厚み方向の通気パスとして、プリプレグ100の内部の空気を脱気する旨が記載されている。
【0006】
【特許文献1】2002−249605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示される構造を有するプリプレグ100は、単体であれば通気孔110によって通気パスを確保できるが、一般的には、複数枚のプリプレグ100をランダムに重ねて積層するので、通気孔110が他のプリプレグ100によって完全に閉塞されてしまい、積層方向に連通する通気パスを確保できない可能性がある。
【0008】
また、成形時には強化繊維102の未含浸部分にマトリックス樹脂を含浸させる必要があり、通気パスの大きさや数、配置位置が制限されることから、十分な大きさの脱気経路を確保することが難しく、成形品のボイド率を低減することが困難であった。
【0009】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、成形時に脱気経路を確実に確保することができ、迅速且つ容易に脱気可能な部分含浸トウプリプレグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の部分含浸トウプリプレグは、強化繊維束からなるトウに部分的にマトリックス樹脂が含浸された部分含浸トウプリプレグであって、マトリックス樹脂が含浸された含浸部と、マトリックス樹脂が含浸されていない未含浸部とがトウの幅方向に並ぶ配置構成を有することを特徴としている。
【0011】
本発明の部分含浸トウプリプレグを用いて織物を形成し、織物を複数枚積層して積層体を形成した場合に、部分含浸トウプリプレグの未含浸部が重なり合って積層方向に連通する空気の通り道を形成することができ、積層体の積層方向に確実に脱気経路を確保することができる。
【0012】
そして、各部分含浸トウプリプレグの未含浸部によって、織物が延在する面方向にも空気の通り道を形成することができ、積層体の面方向に確実に脱気経路を確保することができる。従って、真空成形時に積層体の積層方向と面方向の両方から脱気することができ、迅速且つ容易に脱気でき、成形された成形品のボイド率を低減することができる。
【0013】
そして、具体的な構成の一例として、トウは、その幅方向一方側を含浸部とし、トウの幅方向他方側を未含浸部とする構成としてもよい。
【0014】
また、本発明の部分含浸トウプリプレグを製造する製造装置は、強化繊維束からなるトウに部分的にマトリックス樹脂が含浸された部分含浸トウプリプレグを製造する製造装置において、トウの面に対してトウの幅方向に部分的に当接して、当接部分にマトリックス樹脂を含浸させる樹脂含浸手段と、樹脂含浸手段によりトウに部分的に含浸されたマトリックス樹脂を加熱して乾燥させる樹脂乾燥手段を有することを特徴としている。
【0015】
樹脂含浸手段は、トウに対してトウの幅方向に部分的に当接するプーリ面を有するプーリと、プーリ面に液状のマトリックス樹脂を塗布する樹脂供給手段を有する構成としてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、部分含浸トウプリプレグを用いて織物を形成し、織物を複数枚積層して積層体を形成した場合に、部分含浸トウプリプレグの未含浸部が重なり合って積層方向に連通する空気の通り道を形成することができ、積層体の積層方向に確実に脱気経路を確保することができる。そして、各部分含浸トウプリプレグの未含浸部によって、織物が延在する面方向にも空気の通り道を形成することができ、積層体の面方向に確実に脱気経路を確保することができる。従って、真空成形時に積層体の積層方向と面方向の両方から脱気することができ、迅速且つ容易に脱気でき、成形された成形品のボイド率を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について図を用いて説明する。
図1は、本実施の形態における部分含浸トウプリプレグ1の構成を模式的に示す斜視図、図2は、部分含浸トウプリプレグ1の断面を模式的に示す図である。
【0018】
本実施の形態における部分含浸トウプリプレグ1は、図1及び図2に示すように、強化繊維束からなるトウ2を備えており、マトリックス樹脂が含浸された含浸部4と、マトリックス樹脂が含浸されていない未含浸部3とがトウ2の幅方向に並ぶ配置構成を有している。そして、より具体的には、トウ2を幅方向に二分するように、トウ2の幅方向一方側を含浸部4とされ、トウ2の幅方向他方側を未含浸部3とされている。
【0019】
トウ2は、例えば12000本、あるいは24000本等、複数本の強化繊維のフィラメントFを束ねることによって構成されており、厚さよりも横幅の方が大きい扁平形状を有している。そして、ほぼ一定幅及び一定厚さで延在するテープ形状を有している。
【0020】
トウ2を構成する強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、金属繊維等を用いることが可能であるが、中でも、成形後の機械的特性が良好であり且つ軽量である、炭素繊維が好適に用いられる。
【0021】
また、マトリックス樹脂の種類は、特に限定されず、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、シアン酸エステルとビスマレイミド樹脂を組み合わせたBT樹脂などの熱硬化性樹脂や、アクリル樹脂やポリエーテルケトンなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。特に、熱硬化性樹脂は、得られるFRPの強度向上につながるので好ましく、中でも、エポキシ樹脂は、強化繊維との接着性に優れ、得られるFRPの機械物性が向上するので、特に好適な例として挙げられる。
【0022】
エポキシ樹脂としては、例えば2官能樹脂であるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、あるいはこれらを用いた変性樹脂、3官能以上の多官能性エポキシ樹脂であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾール型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、テトラグリシジルアミンのような、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタンやトリス(グリシジルオキシメタン)のようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、あるいはこれらを用いた変性樹脂、及びこれら樹脂を少なくとも1種類以上組み合わせた樹脂組成物を適用してもよい。
【0023】
また、これらエポキシ樹脂組成物に、ジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、脂肪族アミン、イミダゾール誘導体、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリフェノール化合物、ポリメルカプタン、三フッ化硼素エチルアミン錯体等の硬化剤、あるいはエポキシ樹脂と前記硬化剤の一部を呼び反応させたものを、樹脂組成物に配合することもできる。
【0024】
さらに、本発明における熱硬化性樹脂は、最低粘度が1000ポイズ以下であることが好ましい。最低粘度が1000ポイズを超えるような粘度の高い樹脂組成物を用いると、樹脂組成物の流動性が悪化するので好ましくない。
【0025】
本発明の部分含浸トウプリプレグ1は、真空成形時に脱気経路としての役割を果たした未含浸部3に、含浸部4から滲み出した樹脂組成物が含浸されて充填されていくが、樹脂組成物の流動性が悪いと充填が完了する前に、成形が終了してしまい、残された未含浸部3がボイドとなるおそれがあり、樹脂目付を増加させなければならず、コストがかかるため好ましくない。従って、最低粘度は小さい方が良く、特に500ポイズ以下であることが好ましい。
【0026】
マトリックス樹脂の含浸量は、繊維体積に対して30パーセント以上であり、また、40パーセントを超えると、繊維堆積含有率(Vf)が増加し、加熱硬化した繊維強化樹脂の特性が下がることから、本実施の形態では、35パーセントから40パーセントの間に設定されている。
【0027】
上記した部分含浸トウプリプレグ1は、例えば以下の製造装置10を用いて製造される。
【0028】
図3は、本実施の形態における部分含浸トウプリプレグ1の製造装置10の構成図、図4は、図3のA−A線矢視図、図5は、図4のB部拡大図、図6は、図4のC部拡大図である。
【0029】
製造装置10は、図3に示すように、トウを巻き出す巻き出し手段11、樹脂含浸手段21、樹脂乾燥手段31、部分含浸トウプリプレグを巻き取る巻き取り手段41を有する。
【0030】
巻き出し手段11は、クリールスタンド12を備えている。クリールスタンド12には、ボビン13が装着されており、ボビン13には、マトリックス樹脂が含浸されていない未含浸の強化繊維束からなる扁平なトウ2が巻回されている。クリールスタンド12は、各ボビン13にバックテンションをかけてトウ2に張力を与えた状態で巻き出し可能な構成を有している。
【0031】
クリールスタンド12は、複数のボビン13を装着可能であり、本実施の形態では7個のボビン13を装着して、各ボビン13からトウ2を巻き出すことができるようになっている。
【0032】
樹脂含浸手段21は、巻き出し手段11から供給されたトウ2に対して、トウ2の幅方向に部分的に当接して、その当接部分にマトリックス樹脂となる液状樹脂を含浸させる構成を有する。樹脂含浸手段21は、溝プーリ(プーリ)22と、樹脂供給装置24と、ドクターナイフ25を備えている。溝プーリ22は、図3に示すように、巻き出し手段11から供給されたトウ2を下部に通して、樹脂乾燥手段31に供給できるように、回転可能に支持されている。
【0033】
溝プーリ22は、図4及び図6に示すように、トウ2の横幅よりも若干大きめの溝幅を有する凹溝23を有しており、凹溝23内には、段差を介して大径面(プーリ面)23aと小径面23bが形成されている。そして、トウ2の幅方向一方側の部分を大径面23aに当接させた状態で、トウ2を通すことができるようになっている。
【0034】
樹脂供給手段24は、液状樹脂を溝プーリ22に滴下可能なノズル24aを備えている。ノズル24aは、図5に示すように、溝プーリ22の上方位置で且つ大径面23aに対向する位置に配設されており、所定量の液状樹脂を所定速度で滴下して大径面23aに塗布する構成を有する。本実施の形態では、ノズル24aから滴下する液状樹脂として、主剤にビスフェノール系の液状樹脂、硬化剤にアミン系の硬化剤を使用した熱硬化系の液状樹脂が用いられている。
【0035】
ドクターナイフ25は、大径面23aに滴下された液状樹脂を一定の厚さに平滑化し、トウ2に含浸させる樹脂量を調整するものであり、溝プーリ22の大径面23aに接近又は離反する方向に往復移動させて、そのクリアランスに応じて液状樹脂の厚さを調整することができる。
【0036】
従って、溝プーリ22の下部で凹溝23に通されるトウ2に対して、溝プーリ22の大径面23a上の液状樹脂を含浸させることができ、その含浸部4(図1及び図2を参照)に含浸される液状樹脂の量を均一且つ適切な量とすることができる。
【0037】
なお、本実施の形態では、溝プーリ22は、7本の凹溝23を有しており、各凹溝23に対して樹脂供給手段24のノズル24aとドクターナイフ25がそれぞれ配置された構成を有している。
【0038】
トウ2は、樹脂含浸手段21によって液状樹脂が部分含浸されると、樹脂乾燥手段31に供給される。樹脂乾燥手段31では、トウ2に部分的に含浸された液状樹脂を加熱して乾燥させる処理が行われ、マトリックス樹脂のBステージ化(プリプレグ化)が行われる。
【0039】
樹脂乾燥手段31は、遠赤外線による加熱ヒータ32を備えている。加熱ヒータ32は、液状樹脂が部分含浸されたトウ2に対向して、トウ2の移動方向に沿って所定距離に亘って配置されている。
【0040】
そして、トウ2に含浸されている液状樹脂を、例えば100℃で10分間等の予め設定された条件で加熱してその粘度を増加させ、プリプレグ化する。これにより、トウ2の幅方向一方側が含浸部4とされ、幅方向他方側が未含浸部3とされた部分含浸トウプリプレグ1が製造される。部分含浸トウプリプレグ1は、樹脂乾燥手段31で液状樹脂の粘度増加により乾燥化されることによって、べたつかず、高い取り扱い性を有する。
【0041】
巻き取り手段41は、クリールスタンド42を備えている。クリールスタンド42にはボビン43が装着されており、樹脂乾燥手段31から供給される部分含浸トウプリプレグ1をボビン43に巻き取る。クリールスタンド42は、複数のボビン43を装着可能であり、本実施の形態では、7個のボビン43を装着して、各ボビン43に部分含浸トウプリプレグ1を巻き取ることができるようになっている。
【0042】
次に、上記した部分含浸トウプリプレグを用いた織物5とその積層体6について説明する。織物5は、部分含浸トウプリプレグ1の面同士が互いに重なり合う部分を有するように、複数本の部分含浸トウプリプレグ1を用いて形成される。織物5の形態としては、平織、綾織、朱子織、多軸織物、簾織等が挙げられる。そしてさらに、経糸と緯糸で強化繊維が異なる部分含浸トウプリプレグ1を用いてもよい。
【0043】
織物5には、繊維目付が1500kg/m2以下のものが好適に用いられる。繊維目付が1500kg/m2を超えると、強化繊維の密度が高すぎて機械特性に優れたものを得るのが難しくなり、好ましくない。さらに好ましくは、1000kg/m2以下であることが好ましい。繊維目付の下限については、特に限定されないが、100g/m2以上であることが好ましい。100g/m2未満であると、積層枚数を増加させる必要があるので、コスト増加につながるおそれがあり、好ましくない。
【0044】
図7は、部分含浸トウプリプレグ1を用いた織物5の一例である2軸ステッチ基材5の模式平面図、図8は、図7の2軸ステッチ基材5を複数枚積層した積層体6の模式断面図である。
【0045】
2軸ステッチ基材5は、図7に示すように、複数本(図では2本のみを示す)の部分含浸トウプリプレグ1を幅方向に並べたシートを、上下の部分含浸トウプリプレグ1が直交するように2枚積層して、ステッチ糸(図示せず)にて一体化することによって形成されている。本実施の形態では、2軸ステッチ基材5の長手方向に対して、上下の部分含浸トウプリプレグ1の配向が左右に45度の角度だけ傾斜した、+45度と−45度の2軸ステッチ基材5が用いられている。
【0046】
2軸ステッチ基材5は、図7に太矢印で示すように、部分含浸トウプリプレグ1の未含浸部3を面方向の空気の通り道にするとともに、部分含浸トウプリプレグ1の未含浸部3が重なり合った箇所K(図7で二点鎖線にて囲まれた箇所)を、積層方向に連通する空気の通り道とすることができる。
【0047】
積層体6は、2軸ステッチ基材5を所望の形状に切断して複数枚を積層することによって構成されている。本実施の形態では、図8に示すように、4枚の2軸ステッチ基材5が積層されて構成されている。
【0048】
複数枚の2軸ステッチ基材5を積層した場合、部分含浸トウプリプレグ1の未含浸部3同士が重なり合って、2軸ステッチ基材5の積層方向に連通する空気の通り道が形成される。この積層方向に連通する空気の通り道は、2軸ステッチ基材5をランダムに重ねても閉塞されることはない。従って、積層体6の積層方向に連通する脱気経路を確実に確保することができる。
【0049】
そして、部分含浸トウプリプレグ1の未含浸部3によって、2軸ステッチ基材5が延在する面方向にも空気の通り道が形成される。従って、積層体6の面方向にも脱気経路を確保することができる。従って、図8に太矢印で示すように、多くの脱気経路を常に確保することができ、真空成形時に積層体6の内部を、迅速且つ容易に、効率よく脱気することができる。
【0050】
真空成形では、積層体6を例えばバキュームバッグで密閉してバキュームバッグ内を十分に減圧し、積層体6の内部を脱気する。そして、所定の条件で加熱及び加圧を行い、所望の形状に成形する。そして、加熱により液状化して含浸部から滲み出したマトリックス樹脂を未含浸部に含浸させて充填させ、充填が完了した後に硬化させる。
【0051】
積層体6は、部分含浸トウプリプレグ1の未含浸部3によって、積層方向と面方向の両方に脱気経路が確保されているので、真空成形時に迅速且つ容易に脱気することができ、ボイドの少ない成型品を得ることができる。
【0052】
また、部分含浸トウプリプレグ1は、トウ2の未含浸部3と含浸部4とが並んで形成されているので、仮に含浸部4の内部に空気が包含されていた場合でも、成形時に含浸部4から未含浸部3に簡単に排出することができ、成形品のボイド率を低減することができる。
【0053】
図9は、強度特性の比較例を示すグラフである。図9に示す従来品は、マトリックス樹脂によって完全に含浸された従来のトウプリプレグを用いて構成された積層体を真空成形法により成形した繊維強化樹脂部材であり、本発明品は、上記した本発明の部分含浸トウプリプレグ1を用いて構成された積層体6を真空成形法により成形した繊維強化樹脂部材である。
【0054】
図9に示すように、本発明品は、引張り強度が1350MPaであるのに対して、従来品は、900MPaしかなく、本発明品の方が引張り強度が大きいことがわかる。そして、ボイド率は、本発明品が2パーセント以下であるのに対して、従来品は3〜5パーセントであり、本発明品の方が従来品よりも低減されている。
【0055】
なお、上述の実施の形態では、扁平なトウ2を幅方向に未含浸部3と含浸部4に二分した構成の場合を例に説明したが、未含浸部3と含浸部4とがトウ2の幅方向に並ぶ配置構成を有するものであればよい。
【0056】
図10は、本発明の部分含浸トウプリプレグ1の変形例を示す図である。図10(a)は、扁平なテープ状のトウ2を幅方向に四分割するように未含浸部3と含浸部4が交互に並ぶ配置構成としたものであり、図10(b)は、扁平なテープ状のトウ2を幅方向に七分割するように未含浸部3と含浸部4が交互に並ぶ配置構成としたものである。
【0057】
そして、図10(c)は、幅方向中央を未含浸部3とし、扁平なトウ2の幅方向両側を含浸部4として並ぶ配置構成としたものであり、図10(d)は、扁平なテープ状のトウ2の幅方向両側を未含浸部3とし、幅方向中央を含浸部4として並ぶ配置構成としたものである。
【0058】
このように、本発明の部分含浸トウプリプレグ1は、未含浸部3と含浸部4の少なくとも一方を複数としてトウ2の幅方向に並べた配置構成としてもよい。かかる構成とした場合でも、積層した状態で未含浸部3を積層方向に重ねることができ、脱気経路を積層方向に確実に確保することができる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態について図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本実施の形態における部分含浸トウプリプレグの構成を模式的に示す斜視図。
【図2】部分含浸トウプリプレグの断面の模式図である。
【図3】部分含浸トウプリプレグの製造装置の構成図。
【図4】図3のA−A線矢視図。
【図5】図4のB部拡大図。
【図6】図4のC部拡大図。
【図7】部分含浸トウプリプレグを用いた織物の脱気経路を模式的に示す平面図。
【図8】部分含浸トウプリプレグを用いた織物の脱気経路を模式的に示す断面図。
【図9】強度特性の比較例を示すグラフ。
【図10】本発明の部分含浸トウプリプレグの変形例を示す断面の模式図。
【図11】従来技術を説明する図。
【図12】従来技術を説明する図。
【符号の説明】
【0061】
1 部分含浸トウプリプレグ
2 トウ
3 未含浸部
4 含浸部
5 織物
6 積層体
10 製造装置
11 巻き出し手段
21 樹脂含浸手段
22 溝プーリ(プーリ)
23 凹溝
23 大径面(プーリ面)
24 樹脂供給手段
25 ドクターナイフ
31 樹脂乾燥手段
41 巻き取り手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維束からなるトウに部分的にマトリックス樹脂が含浸された部分含浸トウプリプレグであって、
前記マトリックス樹脂が含浸された含浸部と、前記マトリックス樹脂が含浸されていない未含浸部とが前記トウの幅方向に並ぶ配置構成を有することを特徴とする部分含浸トウプリプレグ。
【請求項2】
前記トウの幅方向一方側が前記含浸部とされ、前記トウの幅方向他方側が前記未含浸部とされたことを特徴とする請求項1に記載の部分含浸トウプリプレグ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の前記部分含浸トウプリプレグを用いて形成されたことを特徴とする積層体。
【請求項4】
前記積層体は、前記部分含浸トウプリプレグを用いて織物を形成し、該織物を複数枚積層して形成されたことを特徴とする請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
強化繊維束からなるトウに部分的にマトリックス樹脂が含浸された部分含浸トウプリプレグを製造する製造装置において、
前記トウの面に対して前記トウの幅方向に部分的に当接して、該当接部分にマトリックス樹脂を含浸させる樹脂含浸手段と、
該樹脂含浸手段により前記トウに部分的に含浸された前記マトリックス樹脂を加熱して乾燥させる樹脂乾燥手段と、
を有することを特徴とする部分含浸トウプリプレグの製造装置。
【請求項6】
前記樹脂含浸手段は、前記トウに対して、該トウの幅方向に部分的に当接するプーリ面を有するプーリと、該プーリ面に液状のマトリックス樹脂を塗布する樹脂供給手段を有することを特徴とする請求項5に記載の部分含浸トウプリプレグの製造装置。
【請求項1】
強化繊維束からなるトウに部分的にマトリックス樹脂が含浸された部分含浸トウプリプレグであって、
前記マトリックス樹脂が含浸された含浸部と、前記マトリックス樹脂が含浸されていない未含浸部とが前記トウの幅方向に並ぶ配置構成を有することを特徴とする部分含浸トウプリプレグ。
【請求項2】
前記トウの幅方向一方側が前記含浸部とされ、前記トウの幅方向他方側が前記未含浸部とされたことを特徴とする請求項1に記載の部分含浸トウプリプレグ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の前記部分含浸トウプリプレグを用いて形成されたことを特徴とする積層体。
【請求項4】
前記積層体は、前記部分含浸トウプリプレグを用いて織物を形成し、該織物を複数枚積層して形成されたことを特徴とする請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
強化繊維束からなるトウに部分的にマトリックス樹脂が含浸された部分含浸トウプリプレグを製造する製造装置において、
前記トウの面に対して前記トウの幅方向に部分的に当接して、該当接部分にマトリックス樹脂を含浸させる樹脂含浸手段と、
該樹脂含浸手段により前記トウに部分的に含浸された前記マトリックス樹脂を加熱して乾燥させる樹脂乾燥手段と、
を有することを特徴とする部分含浸トウプリプレグの製造装置。
【請求項6】
前記樹脂含浸手段は、前記トウに対して、該トウの幅方向に部分的に当接するプーリ面を有するプーリと、該プーリ面に液状のマトリックス樹脂を塗布する樹脂供給手段を有することを特徴とする請求項5に記載の部分含浸トウプリプレグの製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−31088(P2010−31088A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192412(P2008−192412)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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