説明

配線回路基板の製造方法

【課題】端子部の変色を防止できながら、得られた配線回路基板の静電気の帯電を効率的に除去することのできる、配線回路基板の製造方法を提供すること。
【解決手段】金属支持基板2、ベース絶縁層3、導体パターン4およびカバー絶縁層5を備える回路付サスペンション基板1を用意し、次いで、端子部7の表面にめっき層8を形成した後、この回路付サスペンション基板1を、導体パターン4を形成する導体材料の標準電極電位よりも、低い酸化還元電位の導電性ポリマーの重合液に浸漬して、半導電性層10を、ベース絶縁層3の表面およびカバー絶縁層5の表面に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線回路基板の製造方法、詳しくは、回路付サスペンション基板などの配線回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ベース絶縁層と、配線および端子部を有する導体パターンと、カバー絶縁層とを順次積層した配線回路基板が知られている。このような配線回路基板は、各種の電気機器や電子機器の分野において、広く用いられている。
このような配線回路基板の製造方法として、実装される電子部品の静電破壊を防止するために、例えば、ベース層、導体回路およびカバー層からなる積層体(基板本体)を製造し、その後、該積層体の周囲に導電ポリマー層を形成する、フレキシブルプリント回路基板の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−158480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかるに、特許文献1に記載のフレキシブルプリント回路基板の製造方法では、導電ポリマー層の形成において、積層体を、モノマーとしてのピロールと、酸化重合剤としてのペルオキソ二硫酸カリウムとを含む酸化性の処理液中に浸漬するので、このような処理液によって、導体回路におけるカバー層から露出する端子部において、導体回路を形成する導体材料が溶解する場合がある。そのため、端子部が腐食されて、端子部が変色するというおそれがある。
【0004】
本発明の目的は、端子部の変色を防止できながら、得られた配線回路基板の静電気の帯電を効率的に除去することのできる、配線回路基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の配線回路基板の製造方法は、絶縁層と、前記絶縁層に被覆される配線および前記絶縁層から露出する端子部を有する導体パターンと、を備える配線回路基板を用意する工程と、前記配線回路基板を導電性ポリマーの重合液に浸漬して、半導電性層を前記絶縁層の表面に形成する工程とを備え、前記導電性ポリマーの前記重合液の酸化還元電位は、前記導体パターンを形成する導体材料の標準電極電位よりも低いことを特徴としている。
【0006】
この配線回路基板の製造方法によれば、導電性ポリマーの重合液の酸化力が、導体パターンを形成する導体材料の酸化力よりも低くなるので、そのため、配線回路基板を導電性ポリマーの重合液に浸漬したときには、導体パターンを形成する導体材料は、たとえ、端子部において露出していても、その重合液に溶解しにくくなる。
そのため、端子部における腐食を防止できながら、半導電性層を絶縁層の表面に形成することができる。
【0007】
その結果、端子部における変色を防止できながら、得られた配線回路基板の静電気の帯電を効率的に除去することができる。
また、本発明の配線回路基板の製造方法では、前記配線回路基板を用意する工程において、前記端子部の表面にめっき層を形成することが好適である。
一般に、配線回路基板の製造方法において、端子部を保護するために、その表面にめっき層を形成する場合があるところ、それでも、導電性ポリマーの重合液に浸漬した場合には、めっき層の周端部と絶縁層との界面に、導電性ポリマーの重合液が浸透して、これによって、端子部における導体材料が溶解して、端子部が腐食されるおそれがある。
【0008】
しかし、この配線回路基板の製造方法では、導電性ポリマーの重合液の酸化力が、導体パターンを形成する導体材料の酸化力よりも低くなるので、端子部における導体材料は溶解しにくくなる。そのため、端子部の表面にめっき層を形成して、めっき層の周端部と絶縁層との界面に導電性ポリマーの重合液が浸透しても、かかる腐食のおそれが少なく、その結果、端子部における変色を有効に防止することができる。
【0009】
また、本発明の配線回路基板の製造方法では、前記導体パターンの前記導体材料が、銅であり、前記重合液が、スルホン酸を含有することが好適である。
この方法では、導体パターンの導体材料が銅であるため、重合液がスルホン酸を含有すれば、重合液の酸化力を、導体パターンの酸化力よりも確実に低く調整することができる。そのため、端子部において、重合液に対する銅の溶解が確実に抑制される。
【0010】
そのため、端子部における腐食を確実に防止することができる。その結果、端子部における変色を確実に防止することができる。
また、本発明の配線回路基板の製造方法では、前記導電性ポリマーが、ポリアニリンであることが好適である。
この配線回路基板の製造方法では、導電性ポリマーがポリアニリンであるので、得られた配線回路基板は、静電気の帯電をより一層効率的に除去することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の配線回路基板の製造方法によれば、端子部における腐食を防止できながら、半導電性層を絶縁層の表面に形成することができる。その結果、端子部における変色を防止できながら、得られた配線回路基板の静電気の帯電を効率的に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の配線回路基板の製造方法により製造される配線回路基板の一実施形態である回路付サスペンション基板の平面図、図2は、図1に示す回路付サスペンション基板のA−A線に沿う断面図である。
図1において、この回路付サスペンション基板1は、ハードディスクドライブに搭載され、磁気ヘッド(図示せず)を実装して、その磁気ヘッドを、磁気ディスクとの間で相対的に走行させるときの空気流に抗して、磁気ディスクとの間に微小間隔を保持しながら支持するための金属支持基板2に、磁気ヘッドとリード・ライト基板(図示せず)とを接続するための導体パターン4が形成されている。
【0013】
なお、図1では、導体パターン4の配置を明確にするために、後述するめっき層8および半導電性層10を省略して示している。
導体パターン4は、磁気ヘッド側接続端子部7Aと、外部側接続端子部7Bと、これら磁気ヘッド側接続端子部7Aおよび外部側接続端子部7Bを接続するための配線6とを、一体的に連続して備えている。
【0014】
配線6は、回路付サスペンション基板1の長手方向(以下、単に長手方向という。)に沿って設けられ、幅方向(長手方向に直交する方向、以下同じ。)において互いに間隔を隔てて複数(4本)並列配置されている。
磁気ヘッド側接続端子部7Aは、金属支持基板2の先端部に配置され、幅方向に沿って互いに間隔を隔てて並列配置されており、長手方向に延びる平面視略矩形状の角ランドとして形成されている。また、磁気ヘッド側接続端子部7Aは、各配線6の先端部がそれぞれ接続されるように、複数(4つ)設けられている。この磁気ヘッド側接続端子部7Aには、磁気ヘッドの端子部(図示せず)が接続される。
【0015】
外部側接続端子部7Bは、金属支持基板2の後端部に配置され、幅方向に沿って互いに間隔を隔てて並列配置されており、長手方向に延びる平面視略矩形状の角ランドとして形成されている。また、外部側接続端子部7Bは、各配線6の後端部がそれぞれ接続されるように、複数(4つ)設けられている。この外部側接続端子部7Bには、リード・ライト基板の端子部(図示せず)が接続される。
【0016】
なお、以下、磁気ヘッド側接続端子部7Aおよび外部側接続端子部7Bは、特に区別が必要でない場合には、単に端子部7として説明する。
そして、この回路付サスペンション基板1は、図2に示すように、金属支持基板2と、金属支持基板2の上に形成されるベース絶縁層3と、ベース絶縁層3の上に形成される導体パターン4と、ベース絶縁層3の上に、導体パターン4を被覆するように形成されるカバー絶縁層5とを備えている。また、この回路付サスペンション基板1は、導体パターン4の端子部7の表面に形成されるめっき層8と、カバー絶縁層5の表面およびベース絶縁層3の表面に形成される半導電性層10とを備えている。
【0017】
金属支持基板2は、図1に示すように、長手方向に沿って延びる平面視略矩形シート状に形成されている。金属支持基板2は、ステンレス、42アロイ、アルミニウム、銅−ベリリウム、りん青銅などの金属材料から形成されている。金属支持基板2の厚みは、例えば、15〜30μm、好ましくは、20〜25μmである。
ベース絶縁層3は、図1および図2に示すように、金属支持基板2の上に、金属支持基板2より長手方向および幅方向がやや短くなる平面視略矩形シート状に形成されている。ベース絶縁層3は、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、アクリル、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂などの絶縁材料から形成されている。好ましくは、ポリイミドから形成されている。ベース絶縁層3の厚みは、例えば、1〜35μm、好ましくは、8〜15μmである。また、ベース絶縁層3の長さ(長手方向長さ、以下同じ。)および幅(幅方向長さ、以下同じ。)は、金属支持基板2に対応して、適宜設定される。
【0018】
導体パターン4は、ベース絶縁層3の上に、配線6および配線6に接続される端子部7から一体的に形成される配線回路パターンとして、形成されている。
配線6は、カバー絶縁層5に被覆されるように形成されている。
端子部7は、ベース絶縁層3の長手方向両端部において、カバー絶縁層5の両端部から露出するように形成されている。
【0019】
導体パターン4は、標準電極電位(25℃)が、例えば、0.1〜2.0V、好ましくは、0.1〜0.5Vの導体材料から形成され、より具体的には、例えば、銅(標準電極電位(25℃):0.337V)、金(標準電極電位(25℃):1.50V)、またはこれらの合金などの導体材料から形成されている。好ましくは、銅から形成されている。
導体パターン4の厚みは、例えば、3〜50μm、好ましくは、5〜20μmである。また、各配線6の幅は、例えば、10〜200μm、好ましくは、20〜100μmであり、各配線6間の間隔は、例えば、10〜1000μm、好ましくは、20〜100μmである。また、各端子部7の長さは、例えば、50〜2000μm、好ましくは、100〜1000μmであり、幅は、例えば、50〜2000μm、好ましくは、100〜1000μmである。
【0020】
カバー絶縁層5は、長手方向に沿って延びる平面視略矩形シート状に形成されている。より具体的には、カバー絶縁層5は、幅方向においては、その幅方向両端縁が、平面視においてベース絶縁層3の幅方向両端縁と同一位置に配置されている。また、カバー絶縁層5は、長手方向においては、その長手方向両端縁が、ベース絶縁層3の長手方向両端縁よりもやや短くなるように配置されている。これにより、カバー絶縁層5は、導体パターン4の配線6を被覆し、かつ、導体パターン4の端子部7を露出させている。カバー絶縁層5は、上記したベース絶縁層3と同様の絶縁材料から形成されている。
【0021】
カバー絶縁層5の厚みは、例えば、1〜40μm、好ましくは、1〜7μmである。また、カバー絶縁層5の長さは、ベース絶縁層3および端子部7の大きさに応じて、適宜設定される。
めっき層8は、端子部7の上面、長手方向両側面および幅方向両側面(図2において図示せず)に形成されている。めっき層8の材料としては、例えば、金などの金属材料が用いられる。めっき層8の厚みは、例えば、0.2〜3μm、好ましくは、0.5〜2μmである。
【0022】
半導電性層10は、カバー絶縁層5の上面、長手方向両側面および幅方向両側面(図2において図示せず)と、カバー絶縁層5および導体パターン4から露出するベース絶縁層3の上面、長手方向両側面および幅方向両側面(図2において図示せず)とに、形成されている。
半導電性層10は、後述する導電性ポリマーの重合液への浸漬により、導電性ポリマーから形成されている。
【0023】
導電性ポリマーとしては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、またはこれらの誘導体などが挙げられる。好ましくは、ポリアニリンが挙げられる。これら導電性ポリマーは、単独使用または2種以上併用することができる。
半導電性層10の厚みは、例えば、0.01〜0.1μm、好ましくは、0.02〜0.05μmである。
【0024】
次に、この回路付サスペンション基板1の製造方法について、図3および4を参照して、説明する。
まず、この方法では、図3(a)に示すように、金属支持基板2を用意する。
次いで、この方法では、図3(b)に示すように、金属支持基板2の上に、ベース絶縁層3を上記したパターンで形成する。
【0025】
ベース絶縁層3を、上記したパターンで形成するには、例えば、金属支持基板2の上面に、感光性の、上記した絶縁材料のワニスを塗布し、乾燥後、フォトマスクを介して露光し、現像後、必要により硬化させる。
次いで、この方法では、図3(c)に示すように、ベース絶縁層3の上に、導体パターン4を上記した配線回路パターンで形成する。
【0026】
導体パターン4は、例えば、アディティブ法、サブトラクティブ法などの公知のパターンニング法により形成する。好ましくは、アディティブ法により形成する。
アディティブ法では、まず、ベース絶縁層3の上面、長手方向両側面および幅方向両側面と、ベース絶縁層3から露出する金属支持基板2の上面とに、仮想線で示す金属薄膜18を形成する。金属薄膜18は、スパッタリング、好ましくは、クロムスパッタリングおよび銅スパッタリングにより、クロム薄膜と銅薄膜とを積層することにより、形成する。
【0027】
次いで、この金属薄膜18の上面に、上記したパターンと逆パターンで図示しないめっきレジストを形成した後、めっきレジストから露出する金属薄膜18の上面に、電解めっきにより、上記したパターンで、導体パターン4を形成する。その後、めっきレジストおよびそのめっきレジストが積層されていた部分の金属薄膜18を除去する。
これにより、導体パターン4をベース絶縁層3の上に、上記した配線回路パターンで形成することができる。
【0028】
次いで、この方法では、図3(d)に示すように、カバー絶縁層5を、ベース絶縁層3の上に、導体パターン4の配線6を被覆し、かつ、導体パターン4の端子部7を露出するパターンで形成する。
カバー絶縁層5を上記したパターンで形成するには、例えば、導体パターン4およびベース絶縁層3を含む金属支持基板2の上面に、感光性の、上記した絶縁材料のワニスを塗布し、乾燥後、フォトマスクを介して露光し、現像後、必要により硬化させる。
【0029】
次いで、この方法では、図4(e)に示すように、めっき層8を、端子部7の表面に形成する。
めっき層8を形成するには、例えば、金属支持基板2を被覆するように図示しないめっきレジストを形成した後、例えば、電解めっきまたは無電解めっき、好ましくは、電解金めっきまたは無電解金めっきする。その後、めっきレジストを除去する。
【0030】
これにより、ベース絶縁層3およびカバー絶縁層5と、導体パターン4とを備える、製造途中の回路付サスペンション基板1(半導電性層10が形成される前の回路付サスペンション基板1)を用意する。
この製造途中の回路付サスペンション基板1では、導体パターン4は、カバー絶縁層5に被覆される配線6と、カバー絶縁層5から露出し、その表面にめっき層8が形成される端子部7とを一体的に備えている。
【0031】
次いで、この方法では、図4(f)に示すように、半導電性層10を、カバー絶縁層5の表面およびベース絶縁層3の表面に形成する。
半導電性層10を形成するには、まず、図4(e)に示す製造途中の回路付サスペンション基板1を、導電性ポリマーの重合液に浸漬するとともに、その重合液に重合開始剤を配合する。
【0032】
導電性ポリマーの重合液は、導体パターン4を形成する導体材料の標準電極電位よりも低い酸化還元電位となるように調製される。このような導電性ポリマーの重合液は、例えば、導電性ポリマーを重合するためのモノマーおよび溶媒を含有しており、これらを配合することにより調製される。
モノマーとしては、例えば、アニリン、ピロール、チオフェンなどが用いられ、好ましくは、アニリンが用いられる。これらモノマーは、単独使用または2種以上併用することができる。
【0033】
溶媒としては、例えば、水、酸性水溶液などが用いられ、好ましくは、酸性水溶液が用いられる。
酸性水溶液を形成する酸性成分としては、例えば、スルホン酸などの有機酸などが用いられる。
スルホン酸としては、例えば、メタンスルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、スルホコハク酸などが用いられ、好ましくは、メタンスルホン酸が用いられる。
【0034】
重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩などのアゾ系開始剤、例えば、過硫酸カリウム(ペルオキソ二硫酸カリウム)、過硫酸アンモニウム(ペルオキソ二硫酸アンモニウム)などの過硫酸塩系開始剤、ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸カリウムなどのヨウ素酸塩系開始剤、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素などの過酸化物系開始剤、例えば、フェニル置換エタンなどの置換エタン系開始剤、例えば、芳香族カルボニル化合物などのカルボニル系開始剤、例えば、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組合せ、過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムとの組合せなどのレドックス系開始剤などが用いられる。好ましくは、過硫酸塩系開始剤が用いられる。これら重合開始剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0035】
また、重合開始剤をその重合液に配合するには、必要により、重合開始剤を溶媒に溶解させた重合開始剤溶液を調製し、この重合開始剤溶液を配合することもできる。なお、重合開始剤溶液の調製において用いられる溶媒は、重合液の調製に用いられる溶媒と同様のものが用いられる。
そして、重合開始剤(または重合開始剤溶液)が配合されたときにおける、導電性ポリマーの重合液の酸化還元電位(25℃)は、導体パターン4を形成する導体材料の標準電極電位(25℃)より、例えば、0.03〜0.5V低く、好ましくは、0.2〜0.5V低くなるように調製される。より具体的には、重合開始剤(または重合開始剤溶液)が配合されたときにおける、導電性ポリマーの重合液の酸化還元電位(25℃)は、例えば、0〜0.3V、好ましくは、0〜0.2Vとなるように調製される。
【0036】
なお、このような導電性ポリマーの重合液の酸化還元電位(25℃)は、ポテンショスタットにより測定することができる。
また、上記した導電性ポリマーの重合液の酸化還元電位(25℃)を、導体パターン4を形成する導体材料の標準電極電位(25℃)よりも低く調整するために、導電性ポリマーの重合液において、モノマーの濃度は、例えば、0.005〜0.5mol/L、好ましくは、0.01〜0.1mol/Lであり、溶媒が酸性水溶液である場合における酸性成分の濃度は、例えば、0.004〜0.2mol/L、好ましくは、0.01〜0.1mol/Lである。また、重合開始剤(または重合開始剤溶液)が配合されたときの、重合液における重合開始剤の濃度が、例えば、0.002〜0.2mol/L、好ましくは、0.005〜0.1mol/Lである。
【0037】
そして、上記した回路付サスペンション基板1を導電性ポリマーの重合液に浸漬して、重合開始剤を配合した後、例えば、5〜180分間、好ましくは、10〜100分間そのまま浸漬する。
上記した浸漬において、導電性ポリマーの重合液は、その浸漬温度が、例えば、1〜40℃、好ましくは、5〜25℃に設定される。
【0038】
これにより、導電性ポリマーからなる半導電性層10が、絶縁層の表面、すなわち、カバー絶縁層5の表面およびベース絶縁層3の表面において析出するように重合され形成される。
その後、半導電性層10が形成された製造途中の回路付サスペンション基板1を水洗する。
【0039】
次いで、この方法では、必要により、半導電性層10の導電性ポリマーをドーピングする。
半導電性層10の導電性ポリマーをドーピングするには、上記した半導電性層10が形成された回路付サスペンション基板1を、ドーピング剤を溶解した溶液(ドーピング剤溶液)に浸漬する。
【0040】
ドーピング剤は、導電性ポリマーに導電性を付与するものであって、例えば、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸ノボラック樹脂、p−フェノールスルホン酸ノボラック樹脂、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などが用いられる。これらドーピング剤は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0041】
ドーピング剤を溶解するための溶媒としては、例えば、水、メタノールなどが用いられる。
ドーピング剤溶液の調製においては、ドーピング剤の濃度が、例えば、5〜100重量%、好ましくは、10〜50重量%となるように、溶媒を配合する。
半導電性層10が形成された回路付サスペンション基板1のドーピング剤溶液への浸漬時間は、例えば、30秒〜30分、好ましくは、1〜10分に設定される。
【0042】
また、ドーピング剤溶液の浸漬(ドーピング)温度は、例えば、10〜70℃、好ましくは、20〜60℃に設定される。
上記した半導電性層10の導電性ポリマーのドーピングにより、導電性ポリマーに導電性が付与される。
また、導電性ポリマーがドーピングされた、半導電性層10の表面抵抗値は、例えば、1×10〜1×1012Ω/□、好ましくは、1×10〜1×1011Ω/□である。なお、半導電性層10の表面抵抗値は、例えば、MITSUBISHI PETROCHEMICAL社製のHiresta IP MCP−HT260(プローブ:HRS)を用いて測定することができる。
【0043】
その後、この方法では、導電性ポリマーがドーピングされた半導電性層10が形成された製造途中の回路付サスペンション基板1をさらに水洗する。
そして、この回路付サスペンション基板1の製造方法では、導体パターン4の導体材料の標準電極電位が導電性ポリマーの重合液の酸化還元電位よりも低いので、導電性ポリマーの重合液の酸化力が、導体パターン4を形成する導体材料の酸化力よりも低くなる。そのため、半導電性層10が形成される前の回路付サスペンション基板1を導電性ポリマーの重合液に浸漬したときに、導体パターン4の導体材料は、たとえ、端子部7において露出していても、その重合液に溶解しにくくなる。
【0044】
そのため、端子部7における腐食を防止できながら、半導電性層10をカバー絶縁層5の表面およびベース絶縁層3の表面に形成することができる。
その結果、端子部7における変色を防止できながら、得られた回路付サスペンション基板1の静電気の帯電を効率的に除去することができる。
また、この回路付サスペンション基板1の製造方法では、端子部7を保護するために、その表面にめっき層8を形成しているが、導電性ポリマーの重合液に浸漬すると、めっき層8の周端部とカバー絶縁層5およびベース絶縁層3との界面に、導電性ポリマーの重合液が浸透して、端子部7を腐食させるおそれがある。しかし、この方法では、導電性ポリマーの重合液の酸化力が、導体パターン4を形成する導体材料の酸化力よりも低くなるので、端子部7における導体材料は重合液に溶解しにくくなる。そのため、かかる腐食のおそれは少なく、その結果、端子部7における変色を有効に防止することができる。
【0045】
また、この方法において、半導電性層10が形成される前の回路付サスペンション基板1の導体パターン4の導体材料が銅であり、導電性ポリマーの重合液がスルホン酸を含有する場合には、重合液の酸化力を、導体パターン4の酸化力よりも確実に低く調整することができる。そのため、端子部7において、この重合液に対する銅の溶解が確実に抑制される。
【0046】
そのため、端子部7における腐食を確実に防止することができる。その結果、端子部7における変色を確実に防止することができる。
また、この回路付サスペンション基板1の製造方法では、導電性ポリマーがポリアニリンである場合には、得られた回路付サスペンション基板1は、静電気の帯電をより一層効率的に除去することができる。
【0047】
なお、上記した説明では、本発明の配線回路基板を、回路付サスペンション基板1を例示して説明したが、本発明の配線回路基板は、これに限定されず、片面フレキシブル配線回路基板、両面フレキシブル配線回路基板、または、多層フレキシブル配線回路基板、さらには、金属支持基板2が補強層として設けられた各種フレキシブル配線回路基板などの他の配線回路基板にも広く適用することができる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。
(回路付サスペンション基板の製造)
実施例1
厚み20μmのステンレスからなる金属支持基板を用意した(図3(a)参照)。
【0049】
次いで、その金属支持基板の上面に、感光性ポリアミック酸樹脂のワニスを、スピンコーターを用いて均一に塗布し、次いで、塗布されたワニスを、90℃で15分間加熱することにより、ベース皮膜を形成した。その後、そのベース皮膜を、フォトマスクを介して、700mJ/cmで露光させ、190℃で10分間加熱した後、アルカリ現像液を用いて現像した。その後、1.33Paに減圧した状態で、385℃で硬化させることにより、ポリイミドからなるベース絶縁層を、金属支持基板の上に、上記したパターンで形成した(図3(b)参照)。このベース絶縁層の厚みは10μmであった。
【0050】
次いで、アディティブ法により、銅(標準電極電位(25℃):0.337V)からなる厚み15μmの導体パターンを上記したパターンで形成した(図3(c)参照)。各配線間の間隔は30μm、各配線の幅は30μmであり、各端子部の長さは200μm、各端子部の幅は200μmであった。
次いで、上記した感光性ポリアミック酸樹脂のワニスを、導体パターンおよびベース絶縁層を含む金属支持基板の上面に、スピンコーターを用いて均一に塗布し、90℃で10分間加熱することにより、厚み15μmのカバー皮膜を形成した。その後、そのカバー皮膜を、フォトマスクを介して、700mJ/cmで露光させ、180℃で10分間加熱した後、アルカリ現像液を用いて現像することにより、カバー皮膜をパターンニングした。その後、1.33Paに減圧した状態で、385℃で硬化させた。これにより、ポリイミドからなるカバー絶縁層を、ベース絶縁層上に、配線を被覆しかつ端子部を露出するパターンとして形成した(図3(d)参照)。このカバー絶縁層の厚みは5μmであった。
【0051】
次いで、金属支持基板にめっきレジストを形成した後、無電解金めっきすることにより、金めっき層を端子部の表面に形成し、その後、めっきレジストを除去した(図4(e)参照)。この金めっき層の厚みは2.5μmであった。
次いで、半導電性層を、カバー絶縁層の表面およびベース絶縁層の表面に形成した(図4(f)参照)。
【0052】
半導電性層の形成では、まず、メタンスルホン酸3.9gに、純水約300gおよびアニリン2.5gを順次加え、攪拌しながら10℃になるまで冷却することにより、ポリアニリンの重合液を調製した。次いで、別途、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(過硫酸アンモニウム:APS)10.7gに、純水20gを加え、溶解するまで攪拌し、10℃になるまで冷却することにより、重合開始剤水溶液を調製した。
【0053】
その後、上記したポリアニリンの重合液に、上記した製造途中の回路付サスペンション基板を浸漬するとともに、その重合液に重合開始剤水溶液を添加して混合した。その後、さらに、10℃で12分間そのまま浸漬することにより、アニリンを重合させて、ベース絶縁層の表面およびカバー絶縁層の表面にポリアニリンを析出させた。
なお、重合開始剤が添加された重合液において、アニリンの濃度は0.05mol/L、メタンスルホン酸の濃度は0.08mol/L、ペルオキソ二硫酸アンモニウムの濃度は0.09mol/Lであった。また、重合液の酸化還元電位(25℃)は、0.3Vであった。
【0054】
その後、製造途中の回路付サスペンション基板を重合液から引き上げ、これを水洗後、濃度20重量%のp−フェノールスルホン酸ノボラック樹脂(PPSA)のドーピング剤水溶液に、60℃で10分間浸漬することにより、半導電性層のポリアニリンをドーピングした。その後、これを水洗した。なお、このドーピングされたポリアニリンからなる半導電性層の厚みは0.03μmであった。また、ドーピングされたポリアニリンからなる半導電性層の表面抵抗値は、1×10〜1×10Ω/□であった。
【0055】
実施例2
実施例1において、ペルオキソ二硫酸アンモニウム10.7gに代えて、ヨウ素酸ナトリウム9.3gを用いた以外は、実施例1と同様の方法により、回路付サスペンション基板を得た。
なお、重合開始剤が添加された重合液では、ヨウ素酸ナトリウムの濃度は0.09mol/Lであり、酸化還元電位(25℃)は、0.2Vであった。
【0056】
比較例1
実施例1において、メタンスルホン酸3.9gに代えて、98%濃硫酸2.0gを用いた以外は、実施例1と同様の方法により、回路付サスペンション基板を得た。
なお、重合開始剤が添加された重合液では、硫酸の濃度は0.04mol/Lであり、酸化還元電位(25℃)は、1.2Vであった。
【0057】
(評価)
実施例1および2と比較例1とにより得られた回路付サスペンション基板の端子部を目視により観察した。
実施例1および2の回路付サスペンション基板では、端子部に変色は見られなかった。
しかし、比較例1の回路付サスペンション基板では、端子部に変色が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の配線回路基板の製造方法により製造される配線回路基板の一実施形態である回路付サスペンション基板の平面図である。
【図2】図1に示す回路付サスペンション基板のA−A線に沿う断面図である。
【図3】図2に示す回路付サスペンション基板の製造工程を示す断面図であって、(a)は、金属支持基板を用意する工程、(b)は、ベース絶縁層を、金属支持基板の上に形成する工程、(c)は、導体パターンを、ベース絶縁層の上に形成する工程、(d)は、カバー絶縁層を、ベース絶縁層を上に形成する工程を示す。
【図4】図3に続いて、図2に示す回路付サスペンション基板の製造工程を示す断面図であって、(e)は、めっき層を、端子部の表面に形成する工程、(f)は、半導電性層を、カバー絶縁層の表面およびベース絶縁層の表面に形成する工程を示す。
【符号の説明】
【0059】
1 回路付サスペンション基板
3 ベース絶縁層
4 導体パターン
5 カバー絶縁層
6 配線
7 端子部
8 めっき層
10 半導電性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と、前記絶縁層に被覆される配線および前記絶縁層から露出する端子部を有する導体パターンと、を備える配線回路基板を用意する工程と、
前記配線回路基板を導電性ポリマーの重合液に浸漬して、半導電性層を前記絶縁層の表面に形成する工程とを備え、
前記導電性ポリマーの前記重合液の酸化還元電位は、前記導体パターンを形成する導体材料の標準電極電位よりも低いことを特徴とする、配線回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記配線回路基板を用意する工程において、
前記端子部の表面にめっき層を形成することを特徴とする、請求項1に記載の配線回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記導体パターンの前記導体材料が、銅であり、
前記重合液が、スルホン酸を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の配線回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記導電性ポリマーが、ポリアニリンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の配線回路基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−112851(P2008−112851A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294621(P2006−294621)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】