説明

配線回路基板

【課題】熱や経時による回路配線の軟化現象を抑え、耐久性を高めるとともに、脆性を改善し、クラックの発生を抑えた配線回路基板を提供する。
【解決手段】基板の絶縁層1上に、金属皮膜からなる回路配線2を備えた配線回路基板であって、上記回路配線2が、三層以上の銅系金属皮膜の積層体からなり、その最下層2aおよび最上層2cを構成する銅系金属皮膜の常温での抗張力が100〜400MPaであり、最下層2aと最上層2cとの間に介在する層(中間層2b)を構成する銅系金属皮膜内の常温での抗張力が700〜1500MPaである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線回路基板に関するものであり、詳しくは、フレキシブル回路基板等として有用な配線回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド等からなる絶縁性フィルム上に、電気配線となる薄膜の導体回路パターンを形成してなる配線回路基板は、フレキシブルであり、ハードディスクの読み書きヘッド用サスペンション基板、液晶表示用回路基板等に広く用いられている。近年、製品の軽薄短小化、記録情報の高密度化が進むにつれ、配線回路基板には、限られた範囲面積に、より多くの配線を形成する、即ち、配線のファイン化が求められる傾向にある。
【0003】
配線の形成方法としては、例えば、銅箔上に直接ポリイミドワニス等を塗工して絶縁層を形成し、銅箔面を部分的にエッチングするサブトラクティブ法や、絶縁層上に直接めっきにより配線を形成するアディティブ法などが採用されている。上記のようなファイン化の要求に対しては、配線幅、厚みを自由に設計できるアディティブ法が技術的に優位であり、今後、本手法を用いた配線回路基板が増加する可能性がある。
【0004】
アディティブ法による配線形成は、例えば、電解液中で、めっきのための種膜を形成した絶縁層をカソードとし、それに対向するアノードとの間に電流を印加することによって行われる。そして、電解液には、銅イオン、硫酸イオン、微量の塩素、および有機添加剤を含有する液が用いられる。また、有機添加剤には、主に、ポリエチレングリコールなどのポリマー、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(SPS)などのスルホン基を有する有機硫黄系化合物、ヤーヌスグリーンB(JGB)などの4級化アミン化合物が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ところで、配線回路基板には、その回路配線に使用する金属材の特性においても、従来よりも大きな改善が求められる。例えば、曲げ半径の減少に伴う屈曲性の向上、電子部品を実装するに耐えうる引張強度や伸びの向上等である(例えば、特許文献2および3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平5−502062号公報
【特許文献2】特開2008−285727公報
【特許文献3】特開2009−221592公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、先に述べたようなアディティブ法等により作製されためっき配線は、めっき直後には良好な耐久性を示すが、使用環境の熱や経時により、セルフアニールと呼ばれる軟化現象が起こる。この原因は、熱や経時により、金属めっき皮膜中にできる結晶粒が肥大化成長することによるものと考えられる。そして、このような軟化現象は、電子部品を実装する際の耐久性の低下などを生じるおそれがある。
【0008】
これを解決する方法として、例えば、上記特許文献2や特許文献3に開示されているように、金属めっき中に、硫黄、塩素等を含有させ、回路配線の硬度を高める方法がある。しかしながら、このように回路配線の硬度が高くなると、脆性が高くなり、曲げ等によりクラックが生じやすくなる懸念がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、熱や経時による回路配線の軟化現象を抑え、耐久性を高めるとともに、脆性を改善し、クラックの発生を抑えた配線回路基板の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の配線回路基板は、基板の絶縁層上に、金属皮膜からなる回路配線を備えた配線回路基板であって、上記回路配線が、三層以上の銅系金属皮膜の積層体からなり、その最下層および最上層を構成する銅系金属皮膜の常温での抗張力が100〜400MPaであり、最下層と最上層との間に介在する層を構成する銅系金属皮膜の常温での抗張力が700〜1500MPaであるという構成をとる。
【0011】
すなわち、本発明者は、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の結果、配線回路基板の回路配線を、三層以上の銅系金属皮膜の積層により構成し、その最下層および最上層を構成する銅系金属皮膜の常温での抗張力を100〜400MPa、最下層と最上層との間に介在する層を構成する銅系金属皮膜の常温での抗張力を700〜1500MPaとなるよう設定すると、最下層と最上層との間に介在する層の硬度等の高さにより、熱や経時による回路配線の軟化現象を抑えることができ耐久性が向上するとともに、この層を挟む上記最下層と最上層の硬度等の低さにより、曲げ等によるクラックの発生を抑えることかできることを見いだし、本発明に到達した。
【0012】
なお、上記金属皮膜の抗張力は、例えば、上記金属皮膜を電解めっきにより形成する際に、その金属皮膜の原料である銅等の金属中に所定量の微量元素〔例えば、ビスマス、塩素(Cl)、硫黄(S)、炭素(C)、窒素(N)等〕を取り込ませることによって向上させることができるが、これに伴い、金属皮膜中において、熱や経時による結晶粒の成長が抑制され、結晶粒の微細化がなされるようになる。したがって、上記のようにして抗張力の異なる金属皮膜を成膜して積層する場合、抗張力の高い金属皮膜内の結晶粒の平均粒径は、抗張力の低い金属皮膜内の結晶粒の平均粒径よりも小さくなる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の配線回路基板は、その絶縁層上に形成された回路配線が、三層以上の銅系金属皮膜の積層体からなり、その最下層および最上層を構成する銅系金属皮膜の常温での抗張力が100〜400MPa、最下層と最上層との間に介在する層を構成する銅系金属皮膜の常温での抗張力が700〜1500MPaとなるよう設定されている。そのため、熱や経時による回路配線の軟化現象を抑えることができ、耐久性に優れるようになり、しかも、脆性が改善され、曲げ等によるクラックの発生を抑えることができる。これにより、曲げ半径の減少に伴う屈曲性や、電子部品を実装する際の耐久性(引張強度や伸び)が向上するようになる。そして、本発明の配線回路基板は、ハードディスクの読み書きヘッド用サスペンション基板や液晶表示用回路基板等のように、使用環境が高温であり、軟化現象が懸念される状況においても、広く使用することができる。
【0014】
特に、上記回路配線を構成する銅系金属皮膜が、全て電解めっき皮膜であると、本発明における所望の物性を有利に得ることができるようになるとともに、アディティブ法による配線形成が可能となり、その配線幅、厚みを自由に設計できるため、配線回路基板のファイン化の要求に容易に応えることができる。
【0015】
また、上記最下層および最上層を構成する銅系金属皮膜内の結晶粒の平均粒径が、最下層と最上層との間に介在する層を構成する銅系金属皮膜内の結晶粒の平均粒径よりも大きくなるよう積層されていると、曲げ半径の減少に伴う屈曲性や、電子部品の実装に伴う耐久性に、より優れるようになる。
【0016】
さらに、上記回路配線の総厚みに対し、その最下層および最上層の厚みの和の割合が20〜60%であり、最下層と最上層との間に介在する層の厚みの和の割合が40〜80%であると、曲げ半径の減少に伴う屈曲性や、電子部品の実装に伴う耐久性に、より優れるようになる。
【0017】
また、上記最下層と最上層との間に介在する層が、銅を主体とする金属にビスマスを100〜3000ppm含有する金属皮膜からなると、熱や経時による回路配線の軟化現象がより抑えられ、長期にわたり高抗張力を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の配線回路基板の断面を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の配線回路基板は、先に述べたように、基板の絶縁層上に形成された回路配線が、三層以上の銅系金属皮膜の積層体からなり、その最下層および最上層を構成する銅系金属皮膜の常温での抗張力が100〜400MPa、最下層と最上層との間に介在する層を構成する銅系金属皮膜の常温での抗張力が700〜1500MPaとなるよう設定されている。これにより、熱や経時による回路配線の軟化現象を抑えることができ、耐久性に優れるようになり、しかも、脆性が改善され、曲げ等によるクラックの発生を抑えることができるようになる。また、この観点から、上記最下層および最上層を構成する銅系金属皮膜の常温での抗張力は、好ましくは250〜400MPaであり、最下層と最上層との間に介在する層を構成する銅系金属皮膜の常温での抗張力は、好ましくは700〜1000MPaである。なお、上記金属皮膜の抗張力は、例えば、その金属皮膜(金属箔)を所定サイズに加工したサンプルを、引張試験装置(Minebea社製、テクノグラフ)にかけることより、測定することができる。また、上記金属皮膜の抗張力は、成膜直後の金属皮膜に対して測定するものではなく、成膜から所定時間(通常、48時間以上)が経過し、金属皮膜の物性が安定した後に測定するものである。また、上記最下層を構成する銅系金属皮膜の抗張力と、最上層を構成する銅系金属皮膜の抗張力とは、同じであっても、異なっていてもよい。また、本発明でいう「常温」とは、JIS Z 8703に準じ、20℃±15℃をいう。
【0020】
また、上記「基板の絶縁層」とは、金属基板等の基板上に形成された絶縁層を示す以外にも、例えば、樹脂基板、フィルム基板等の基板そのものも含む趣旨である。また、上記「最下層と最上層との間に介在する層」は、単層であっても複数層であってもよい。図1は、基板そのものが絶縁層であり、上記「最下層と最上層との間に介在する層」が単層である場合の、配線回路基板の断面を模式的に示したものであり、図において、1は絶縁層、2は回路配線(銅系金属皮膜の積層体)、2aは回路配線の最下層、2bは回路配線の中間層、2cは回路配線の最上層を示す。
【0021】
特に、上記回路配線を構成する銅系金属皮膜が、全て電解めっき皮膜であると、本発明における所望の物性を有利に得ることができるようになるとともに、アディティブ法による配線形成が可能となり、その配線幅、厚みを自由に設計できるため、配線回路基板のファイン化の要求に容易に応えることができる。
【0022】
また、上記中間層2bが複数の層からなる場合、その中心層から、上記最下層2aおよび最上層2cに向かって、その層を構成する銅系金属皮膜の抗張力が低くなるよう積層されていることが、曲げ半径の減少に伴う屈曲性や、電子部品の実装に伴う耐久性に、より優れるようになる観点から、好ましい。
【0023】
また、上記最下層2aおよび最上層2cを構成する銅系金属皮膜内の結晶粒の平均粒径が、最下層2aと最上層2cとの間に介在する層(図1では、中間層2b)を構成する銅系金属皮膜内の結晶粒の平均粒径よりも大きくなるよう積層されていることが、曲げ半径の減少に伴う屈曲性や、電子部品の実装に伴う耐久性に、より優れるようになる観点から、好ましい。また、上記最下層2aである銅系金属皮膜内の結晶粒の平均粒径と、最上層2cである銅系金属皮膜内の結晶粒の平均粒径とは、同じであっても、異なっていてもよい。さらに、上記中間層2bが複数の層からなる場合、その中心層から、上記最下層2aおよび最上層2cに向かって、その層を構成する銅系金属皮膜内の結晶粒の平均粒径が大きくなるよう積層されていることが、上記と同様の観点から好ましい。なお、ここでいう「結晶粒の平均粒径」とは、成膜直後の金属皮膜に対して測定するものではなく、成膜から所定時間(通常、48時間以上)が経過し、金属皮膜の物性が安定したときに測定するものである。また、上記金属皮膜内の結晶粒の平均粒径は、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)や金属顕微鏡を用いて、皮膜サンプルを観察し、その被膜内に存在する結晶粒の粒径を平均した値であり、各結晶粒の粒径は、その長径と短径とを平均して測定される。
【0024】
ところで、回路配線2を構成する上記各層の銅系金属皮膜は、銅を主体とする金属からなる被膜であり、銅そのもの、あるいは銅を99.99重量%以上含む合金を示すものである。上記合金に用いられる微量金属としては、例えば、ニッケル、錫、亜鉛、鉄等があげられる。また、銅系金属皮膜内の結晶粒の微細化や、抗張力の増加は、例えば、上記金属皮膜を電解めっきにより形成する際に、ビスマス、塩素(Cl)、硫黄(S)、炭素(C)、窒素(N)といった微量元素を金属皮膜中に含有させることにより、達成することができる。すなわち、金属めっきの母相である銅等の金属中において、上記微量元素が固溶することにより、固溶強化が起こるため、熱や経時による、金属めっき皮膜中の結晶粒の肥大化成長が抑えられ、軟化現象が抑制されると推測される。
【0025】
特に、上記最下層2aと最上層2cとの間に介在する層(図1では、中間層2b)においては、ビスマスを100〜3000ppm含有する金属皮膜からなるものとすることにより、熱や経時による回路配線の軟化現象がより抑えられ、長期にわたり高抗張力を維持することができることから、この範囲に設定することが好ましい。なお、上記金属皮膜中のビスマス含量は、例えば、その金属皮膜をサンプルとし、サンプル片を濃硝酸を加えて密栓し、そこにマイクロ波を照射し、最高230℃で加圧酸分解を行った後、超純水を加えて、誘導結合プラズマ−質量分析装置(ICP−MS)で分析することにより、測定することができる。
【0026】
また、上記回路配線2の総厚みに対し、その最下層2aおよび最上層2cの厚みの和の割合が20〜60%であり、最下層2aと最上層2cとの間に介在する層の厚みの和の割合が40〜80%であることが、曲げ半径の減少に伴う屈曲性や、電子部品の実装に伴う耐久性に、より優れるようになる観点から、好ましい。
【0027】
上記回路配線2の総厚みは、フレキシブル性等の観点から、8〜25μmの範囲であることが好ましい。
【0028】
上記回路配線2の皮膜形成面に相当する絶縁層1は、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、アクリル、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂からなるものがあげられる。なかでも、フレキシブル性の観点から、ポリイミドからなるものが好ましく用いられる。なお、上記絶縁層1は、先に述べたように、金属基板等の基板上に形成された絶縁層を示す以外にも、例えば、樹脂基板、フィルム基板等の基板そのものも含む趣旨である。
【0029】
上記回路配線2は、図1では、絶縁層1の片面に形成されているが、絶縁層1の両面に形成されるものであってもよい。そして、上記回路配線2は、例えば、アディティブ法、サブトラクティブ法などのパターンニング法、好ましくは、アディティブ法によって形成される。すなわち、アディティブ法は、回路配線の幅、厚みを自由に設計できるため、配線回路基板のファイン化の要求に容易に応えることができるからである。
【0030】
アディティブ法では、まず、絶縁層1の全面に、銅、クロム、ニッケルおよびこれらの合金などから、スパッタリング法などの薄膜形成法により、種膜となる金属薄膜を形成する。次いで、上記金属薄膜の表面に、回路配線パターンの反転パターンとなるめっきレジストを形成する。めっきレジストは、ドライフィルムフォトレジストなどから、露光および現像するといった方法により形成する。その後、めっきレジストから露出する上記金属薄膜の表面に、特殊な電解液組成を示す電解液により、回路配線パターンの電解めっきを形成する(電解液組成を途中で変更することにより、最下層2a、中間層2b、最上層2cを積層形成)。その後、めっきレジストをエッチングまたは剥離により除去し、さらに、回路配線パターンから露出する金属薄膜を、エッチングにより除去することにより、絶縁層上に、目的とする回路配線を形成することができる。
【0031】
上記電解液の電解液組成は、銅を主体とする金属の金属塩を含むものであり、必要に応じ、ビスマス、塩素(Cl)、硫黄(S)、炭素(C)、窒素(N)といった微量元素の供給源〔硫酸ビスマスなどのビスマス塩、ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(SPS)などのスルホン基を有する有機硫黄系化合物、ヤーヌスグリーンBなどの4級化アミン化合物、硫酸、塩素等〕を添加することができる。なかでも、ビスマスと銅は析出電位が互いに近いため、析出電位を近づけるような操作、例えば錯化剤などの添加を必要とせず、従来の電解液組成をそのまま使用できることにメリットがある。なお、上記電解液における銅イオンの供給源となる金属塩としては、光沢とレベリング作用に優れることから、硫酸銅が好ましい。また、ビスマスイオンの供給源となるビスマス塩としては、電解液組成を大きく壊さないことから、硫酸ビスマスが好ましい。なお、上記電解液組成は、最下層2a、最上層2c形成時には、上記微量元素を不含にするか、もしくは、中間層2b形成時の電解液組成よりも上記微量元素を少なくする必要がある。
【0032】
また、上記回路配線は、先に述べたように、サブトラクティブ法でも形成することが可能である。サブトラクティブ法では、まず、絶縁層1の全面に、必要により接着剤層を介して、回路配線2の最下層2a,中間層2b,最上層2cに相当する金属皮膜の積層体を積層する。次いで、上記絶縁層1上に積層された金属皮膜(積層体)の表面に、回路配線パターンと同一のパターンで、エッチングレジストを形成する。エッチングレジストは、ドライフィルムフォトレジストなどを用いて形成する。その後、エッチングレジストから露出する金属箔をエッチングした後、エッチングレジストをエッチングまたは剥離により除去することにより、絶縁層1上に、目的とする回路配線2を形成することができる。
【0033】
なお、本発明の配線回路基板には、上記回路配線2上に、必要に応じ、表面保護層(カバー絶縁層)を設けても良い。上記表面保護層は、例えば、先に述べた絶縁層と同様の材料(ポリイミド等)からなるカバーレイフィルムや、エポキシ系,アクリル系,ウレタン系などのソルダーレジストにより形成される。
【0034】
このようにして得られる本発明の配線回路基板は、熱や経時による回路配線の軟化現象が殆どみられず、長期にわたり高抗張力の維持がなされることから、各種電子機器の基板として有用である。特に、ハードディスクの読み書きヘッド用サスペンション基板、液晶表示用回路基板として好適に用いることができる。
【0035】
つぎに、実施例について説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
〔電解液A〕
硫酸銅〔CuSO4・5H2O〕(日鉱金属社製)70g/lと、硫酸〔H2SO4〕(和光純薬社製)180g/lと、塩素(和光純薬社製)40mg/lと、有機添加剤(日本エレクトロプレーティングエンジニヤーズ社製、CC−1220)3ml/lとを配合し、電解液Aを調製した。
【0037】
〔電解液B〕
硫酸銅〔CuSO4・5H2O〕(日鉱金属社製)70g/lと、硫酸〔H2SO4〕(和光純薬社製)180g/lと、塩素(和光純薬社製)40mg/lと、有機添加剤(日本エレクトロプレーティングエンジニヤーズ社製、CC−1220)3ml/lと、硫酸ビスマス〔Bi2(SO43〕(和光純薬社製)2.0g/lとを配合し、電解液Bを調製した。
【0038】
〔電解液C〕
硫酸銅〔CuSO4・5H2O〕(日鉱金属社製)70g/lと、硫酸〔H2SO4〕(和光純薬社製)180g/lと、塩素(和光純薬社製)40mg/lと、有機添加剤(日本エレクトロプレーティングエンジニヤーズ社製、CC−1220)3ml/lと、硫酸ビスマス〔Bi2(SO43〕(和光純薬社製)1.0g/lとを配合し、電解液Cを調製した。
【0039】
〔電解液D〕
硫酸銅〔CuSO4・5H2O〕(日鉱金属社製)70g/lと、硫酸〔H2SO4〕(和光純薬社製)180g/lと、塩素(和光純薬社製)40mg/lと、有機添加剤(日本エレクトロプレーティングエンジニヤーズ社製、CC−1220)3ml/lと、硫酸ビスマス〔Bi2(SO43〕(和光純薬社製)3.0g/lとを配合し、電解液Dを調製した。
【0040】
〔実施例1〜7、比較例1〜5〕
上記調製の電解液のいずれかを用い、かつ、陰極にはステンレス板、陽極には銅板を使用し、電解液温度25℃、電流密度3A/dm2 の条件で、ステンレス板上に、後記の表1および表2に示す厚みになるように、めっきを行った(第一層の形成)。めっき中、電解液はバブリングにより撹拌した。なお、使用した電解液は、後記の表1および表2に示す通りであり、多層に形成されたもの(第一層の上に、第二層、第三層が順次形成されたもの)は、電解液を途中で変更し、後記の表1および表2に示す電解液を用いて、上記第一層の形成手順に準じ、各層を形成している。
【0041】
このようにして得られた実施例品および比較例品(いずれも、めっき後48時間以上経過後のもの)に関し、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、後記の表1および表2に併せて示した。なお、表における「熱処理」とは、200℃で50分間熱処理することである。
【0042】
〔抗張力〕
熱処理していない各層のめっき箔の常温での抗張力を、引張試験装置(Minebea社製、テクノグラフ)により、チャック間距離を2cm、引張速度を5mm/minにし、測定した。
【0043】
〔引張強度〕
熱処理前および熱処理後のサンプル(実施例品および比較例品のめっき層部分)に関し、その引張強度を、引張試験装置(Minebea社製、テクノグラフ)により、チャック間距離を2cm、引張速度を5mm/minにし、測定した。なお、本発明において、熱処理前および熱処理後のサンプルの引張強度は、400MPa以上が要求される。
【0044】
〔伸び〕
熱処理前および熱処理後のサンプル(実施例品および比較例品のめっき層部分)に関し、その伸びを、引張試験装置(Minebea社製、テクノグラフ)により、チャック間距離を2cm、引張速度を5mm/minにし、測定した。なお、本発明において、熱処理前および熱処理後のサンプルの伸びは、4.0%以上が要求される。
【0045】
〔電気抵抗〕
熱処理前および熱処理後のサンプルを短冊状(4mm×30mm)に切り、4端子法により、その電気抵抗を測定した。なお、本発明において、熱処理前および熱処理後のサンプルの電気抵抗は、70%IACS(International Annealed Copper Standard)以上が要求される。
【0046】
〔耐クラック性〕
熱処理前および熱処理後のサンプルを短冊状(4mm×30mm)に切り、R=0.38にて±135°で10回折り曲げ、観察した。この試験により、サンプルにクラックが生じなかったものを○、クラックが生じたものを×と評価した。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
上記結果から、実施例品は、導電性が高く、引張強度と伸びのバランスに優れ、また、熱処理後であっても、これらの特性に優れている。そのため、実施例のめっき箔と同様の金属皮膜積層構造を有する回路配線を備えた本発明の配線回路基板は、曲げ半径の減少に伴う屈曲性や、電子部品を実装する際の耐久性に優れるようになる。そして、実施例のめっき箔と同様の金属皮膜積層構造を有する回路配線を備えた本発明の配線回路基板は、ハードディスクの読み書きヘッド用サスペンション基板や液晶表示用回路基板等のように、使用環境が高温であり、軟化現象が懸念される状況であっても、広く使用することができる。
【0050】
これに対し、比較例1は、電解液Aによる単層構造のめっき箔であり、伸びは高いが、熱処理後、セルフアニールによる軟化現象が生じており、物性が不安定である。また、比較例1は、引張強度が低く、微細配線への耐久性が懸念される。さらに、比較例1は、導電性もやや劣る。比較例2は、熱処理後の引張強度が低い。比較例3は、引張強度と伸びのバランスは良好であったが、クラックを生じた。比較例4は、熱処理前の伸びが悪く、さらにクラックも生じた。比較例5は、電解液Bによる単層構造のめっき箔であり、熱処理前の伸びが悪く、導電性もやや悪く、しかも、脆性が高いことから、クラックを生じた。
【0051】
本発明の配線回路基板における多層構造の回路配線は、実施例で使用したような電解液を用いた電解めっきにより形成することができ、これにより、所望の物性を有する回路配線を容易に形成することができるとともに、アディティブ法による配線形成が可能であり、その配線幅、厚みを自由に設計できるため、配線回路基板のファイン化の要求に容易に応えることができることが、実験により確認されている。
【0052】
また、第一層および第三層の常温での抗張力が100〜400MPa(好ましくは250〜400MPa)であり、第二層の常温での抗張力が700〜1500MPa(好ましくは700〜1000MPa)であれば、実施例と同様、優れた結果が得られることが、実験により確認されている。また、実施例の各層のめっき箔内の結晶粒の平均粒径を、走査電子顕微鏡(SEM)用いて測定したところ、第一層および第三層内の結晶粒の平均粒径が、第二層内の結晶粒の平均粒径よりも大きいことが確認されている。
【符号の説明】
【0053】
1 絶縁層
2 回路配線
2a 最下層
2b 中間層
2c 最上層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の絶縁層上に、金属皮膜からなる回路配線を備えた配線回路基板であって、上記回路配線が、三層以上の銅系金属皮膜の積層体からなり、その最下層および最上層を構成する銅系金属皮膜の常温での抗張力が100〜400MPaであり、最下層と最上層との間に介在する層を構成する銅系金属皮膜の常温での抗張力が700〜1500MPaであることを特徴とする配線回路基板。
【請求項2】
上記回路配線を構成する銅系金属皮膜が、全て電解めっき皮膜である請求項1記載の配線回路基板。
【請求項3】
上記最下層と最上層との間に介在する層が複数の層からなり、その中心層から、上記最下層および最上層に向かって、その層を構成する銅系金属皮膜の抗張力が低くなるよう積層されている、請求項1または2記載の配線回路基板。
【請求項4】
上記最下層および最上層を構成する銅系金属皮膜内の結晶粒の平均粒径が、最下層と最上層との間に介在する層を構成する銅系金属皮膜内の結晶粒の平均粒径よりも大きくなるよう積層されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の配線回路基板。
【請求項5】
上記最下層と最上層との間に介在する層が複数の層からなり、その中心層から、上記最下層および最上層に向かって、その層を構成する銅系金属皮膜内の結晶粒の平均粒径が大きくなるよう積層されている、請求項4記載の配線回路基板。
【請求項6】
上記回路配線の総厚みに対し、その最下層および最上層の厚みの和の割合が20〜60%であり、最下層と最上層との間に介在する層の厚みの和の割合が40〜80%である請求項1〜5のいずれか一項に記載の配線回路基板。
【請求項7】
上記最下層と最上層との間に介在する層が、銅を主体とする金属にビスマスを100〜3000ppm含有する金属皮膜からなる請求項1〜6のいずれか一項に記載の配線回路基板。

【図1】
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【公開番号】特開2012−38823(P2012−38823A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175800(P2010−175800)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】