説明

酸化インジウムスズターゲットおよびこの製造方法、酸化インジウムスズ透明導電膜およびこの製造方法

【課題】酸化インジウムスズターゲットおよびこの製造方法、酸化インジウムスズ透明導電膜およびこの製造方法を提供する。
【解決手段】酸化インジウムスズターゲットは、酸化サマリウムおよび酸化イッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を含み、酸化物の含量がターゲットの重量対比0.5〜10重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲット製造およびこれを用いた透明導電膜製造に関し、より詳細には、酸化インジウムスズターゲットおよびこの製造方法、これを用いて製造された酸化インジウムスズ透明導電膜および酸化インジウムスズ透明導電膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、LCD(Liquid Crystal Display)、PDP(Plasma Display Panel)、ELD(Electro Luminescence Display)などの平面ディスプレイ(FPD:Flat Panel Display)や太陽電池の電極材料として用いられる透明導電膜には、酸化インジウムにスズをドーピングした酸化インジウムスズ(ITO)膜が用いられている。特に、ITOは、透明電極を必要とする平面ディスプレイ市場の成長によってその需要が急激に増加している実情にあるが、平面ディスプレイで主に比抵抗が低い結晶化ITO膜が用いられている。比抵抗が低い結晶化ITO膜を得るためには、高温で成膜したり、成膜後に所定の熱処理を行なったりする必要があった。しかしながら、結晶化ITO膜は、王水(窒酸および塩酸の混合液)や塩酸などの強酸ではなければエッチング(パターニング)が不可能であり、この強酸によってITO膜のエッチング時に下部配線材料およびその他の部分が侵食し、断線または線幅が細くなるという問題が発生するようになる。
【0003】
これを改善するために、エッチング特性に優れた非晶質ITO膜を形成する方法が提案された。成膜時に低温雰囲気で投入ガスに水素や水を共に投入して非晶質ITOを成膜することで、この非晶質ITO膜を弱酸にエッチングしてパターニング特性を向上させ、下部配線の侵食を防ぐことが可能になった。しかしながら、このような方法は、スパッタリング時に投入された水素または水によって異常放電の原因となり、ITOターゲット上にノジュール(Nodule)と呼ばれる異常突起を発生させ、膜に局部的な高抵抗を引き起こす不純物凝集体の形成を誘発させるという問題点を有している。この他にも、基板との密着性低下および接触抵抗増加、エッチング後の残査問題などが報告されている。
【0004】
さらに、非晶質膜形成用ターゲット材料として酸化インジウム亜鉛(IZO)が考案されているが、この材料は非晶質膜の特性は優れているが、ITOと対比して比抵抗と透過率特性が良くない上に、高価の材料として知られている。さらに、酸化インジウム亜鉛は、アルミニウムのエッチング剤でも溶解するという性質があるため、透明電極上に反射電極を備える構成を採用する場合には使用が困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するために案出されたものであって、弱酸にエッチングが可能であり、下部材料およびその他の物質の侵食を発生させず、残査などの諸般の問題が発生しない透明導電膜を形成することができる酸化インジウムスズターゲットおよびこの製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、弱酸でもエッチング加工性が優れるだけでなく、比抵抗が低くて透過率が高く、優れた電気的および光学的特性を示す酸化インジウムスズ透明導電膜およびこの製造方法を提供することを他の目的とする。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、以上で言及した技術的課題に制限されるものではなく、言及されなかったさらに他の技術的課題は、下記の記載から当業者によって明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために、本発明の一特徴に係る酸化インジウムスズターゲットは、酸化サマリウム(Sm)および酸化イッテルビウム(Yb)からなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を含み、前記酸化物の含量はターゲットの重量対比0.5〜10重量%である。
【0009】
本発明の一特徴に係る酸化インジウムスズターゲットの製造方法は、酸化サマリウム粉末および酸化イッテルビウム粉末からなる群から選択された少なくとも1つの酸化物粉末を、酸化インジウム(In)粉末および酸化スズ(SnO)粉末と混合して混合粉末を準備するステップと、前記混合粉末、分散媒剤、および分散媒を混合および湿式粉砕してスラリーを準備するステップと、前記スラリーを乾燥して顆粒粉末を準備するステップと、前記顆粒粉末を成形して成形体を形成するステップと、前記成形体を焼結するステップとを含み、このとき、前記酸化物粉末の重量が前記混合粉末重量対比0.5〜10重量%である。
【0010】
本発明の一特徴に係る酸化インジウムスズ透明導電膜は、酸化サマリウムおよび酸化イッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を含む酸化インジウムスズターゲットを用いてDCスパッタリング法で基板上に蒸着され、前記酸化物を0.5〜10重量%で含む。
【0011】
本発明の一特徴に係る酸化インジウムスズ透明導電膜の製造方法は、酸化サマリウムおよび酸化イッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を含むが、前記酸化物の含量がターゲットの重量対比0.5〜10重量%である酸化インジウムスズターゲットを準備するステップと、前記ターゲットを用いたDCスパッタリング法で基板上に非晶質の透明薄膜を蒸着するステップとを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る酸化インジウムスズターゲットは、バルク抵抗が低く、安定的なDCスパッタリングが可能である。さらに、ターゲットの密度が高く、スパッタリング時に異常放電およびノジュールの発生を抑制することができる。
【0013】
また、本発明に係る酸化インジウムスズターゲットを用いて基板上に形成された非晶質透明導電膜は、弱酸でエッチングが可能であり、既存のターゲットで強酸エッチングによって起こらざるを得なかった下部配線の侵食発生およびエッチング後の残査発生を防ぐことができる。さらに、非晶質薄膜は、比抵抗が低く、光透過率が優れている。
【0014】
さらに、本発明に係る酸化インジウムスズ透明導電膜は、非晶質薄膜を熱処理によって結晶化することで、エッチング加工性に優れ、電気的および光学的特性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の酸化インジウムスズターゲットは、酸化サマリウムおよび酸化イッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を含むことで、酸化インジウムスズにサマリウムまたはイッテルビウム、またはこれらが同時にドーピングされている。ドーパントである酸化物の含量は、ターゲットの重量対比0.5〜10重量%、好ましくは3〜8重量%である。
【0016】
酸化物の含量が0.5重量%よりも小さい場合には、低温で成膜を実行しても結晶化が進み、純粋な酸化インジウムスズターゲットと類似した特性を示し、本発明で解決しようとする課題を解決することができなくなる。すなわち、弱酸でエッチングがなされずに強酸でエッチングをしなければならず、エッチング後にエッチング残査を引き起こす原因となる。ドーパントが添加されていない純粋な酸化インジウムスズターゲットの場合には、約140℃で結晶化が進められる。これにより、本発明は、常温〜170℃未満の温度でも水素または水の投入なく非晶質膜が成膜される酸化インジウムスズターゲットを提供する。
【0017】
酸化物の含量が10重量%を超える場合には、比抵抗が急激に上昇するようになり、透明導電膜(透明電極)としての特性が低下し、200℃の高温で加熱しても結晶化がなされない場合もある。
【0018】
本発明の酸化インジウムスズターゲットは、酸化サマリウムおよび酸化イッテルビウムを含むことができ、この場合には、[Sm]/([In]+[Sm])が0.005〜0.18、[Yb]/([In]+[Yb])が0.005〜0.18である。ただし、[Sm]はターゲットの単位質量あたりのサマリウムの原子数を、[Yb]はターゲットの単位質量あたりのイッテルビウムの原子数と、[In]はターゲットの単位質量あたりのインジウムの原子数を示す。酸化インジウムスズターゲット内において、[Sm]/([In]+[Sm])および[Yb]/([In]+[Yb])が0.005未満であれば、低温でも結晶化された膜が形成され、弱酸エッチングが可能でなくなる。さらに、[Sm]/([In]+[Sm])および[Yb]/([In]+[Yb])が0.18を超えれば、形成された膜の比抵抗が高くなり、導電膜としての電気的特性が適合しなくなる。
【0019】
本発明に係る酸化インジウムスズターゲットの相対密度は、理論密度対比95%以上を示す。スパッタリングターゲットの密度は、6.8g/cc以上、好ましくは7.0g/cc以上、より好ましくは7.1g/cc以上であることができ、7.18g/ccであることができる。スパッタリングターゲットの相対密度が95%よりも小さければ、電気的特性の低下によって異常放電(アーキング)およびノジュールが発生するようになる。異常放電が頻繁に起こるようになれば、工程の効率性が極めて低下し、成膜された透明導電膜の電気的特性も低下する恐れが高い。
【0020】
酸化インジウムスズターゲットのバルク抵抗は、250μΩ・cm以下である。バルク抵抗が大きければDCスパッタリングを安定的に実行できないという問題が生じるようになるが、本発明の酸化インジウムスズターゲットは、サマリウムまたはイッテルビウムをドーピングすることによってバルク抵抗値を低めることができる。
【0021】
一方、本発明の一特徴に係る酸化インジウムスズターゲットの製造方法は、酸化サマリウム粉末および酸化イッテルビウム粉末からなる群から選択された少なくとも1つの酸化物粉末を酸化インジウム粉末および酸化スズ粉末と混合して混合粉末を準備するステップと、混合粉末、分散剤、および分散媒を混合および湿式粉砕してスラリーを準備するステップと、スラリーを乾燥して顆粒粉末を準備するステップと、顆粒粉末を成形して成形体を形成するステップと、成形体を焼結するステップとを含む。このとき、酸化物粉末の重量は、混合粉末重量対比0.5〜10重量%である。以下、本発明の一特徴に係る酸化インジウムスズターゲットの製造方法について各ステップ別に説明する。
【0022】
まず、混合粉末の準備時に、平均粒径が数μm以下である酸化インジウム粉末と酸化スズ粉末とを所定の配合比、例えば8.5:1.5〜9.5:0.5で配合した後、ここに酸化物粉末を混合して混合粉末を準備することができる。このとき、混合粉末は、酸化サマリウムおよび酸化イッテルビウム粉末を含むことができるが、この場合には、[Sm]/([In]+[Sm])が0.005〜0.18、[Yb]/([In]+[Yb])が0.005〜0.18であることができる。(ただし、[Sm]はターゲットの単位質量あたりのサマリウムの原子数を、[Yb]はターゲットの単位質量あたりのイッテルビウムの原子数を、[In]はターゲットの単位質量あたりのインジウムの原子数を示す。)
【0023】
次に、混合粉末、分散剤、および分散媒を混合した後、湿式粉砕してスラリーを準備することができる。分散媒としては、特に限定されるものではないが、例えば蒸溜水を用いることができる。分散剤としては、特に限定されるものではないが、例えばポリカルボン酸塩の種類を用いることができ、より具体的には、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリアクリル酸アンモニウム塩、ポリアクリル酸アミン塩などを単独または2つ以上を組み合わせて用いることができる。湿式粉砕によって混合粉末の平均粒径は、例えば1μm以下、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.3μm以下に調節することができる。
【0024】
次に、スラリーにバインダーを添加することができ、これに続き、バインダーが添加されたスラリーを追加的に湿式粉砕することができる。バインダーは、スラリーを顆粒粉末に乾燥した後に成形する過程において、成形体の成形強度を保持するために添加されるものであって、その種類は特別に限定されるものではないが、例えばポリビニールアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)などを単独または2つ以上を組み合わせて用いることができる。バインダーは、混合スラリー固形粉対比0.01〜5wt%、好ましくは0.5〜3wt%で添加することができる。バインダー添加量が上述した範囲から外れれば、顆粒粉末を成形する過程において成形密度が低下し、酸化インジウムスズ焼結体の焼結密度が低下するようになる。焼結密度の低下は、ターゲット抵抗を高める結果を招来するようになり、DCスパッタリングが可能なスパッタリングターゲットを製造するのに困難が発生する場合がある。一方、バインダーを、上述とは異なるように、スラリーを準備する過程中に添加しても問題ない。
【0025】
次に、バインダーが添加された混合スラリーを噴霧乾燥して顆粒粉末を生成する。噴霧乾燥技術は、公知の技術を用いることができ、これによって本発明が限定されるものではない。
【0026】
次に、冷却プレス(Cold Press:CP)法、冷間等方圧(Cold Isostatic Press:CIP)法、またはこれらを組み合わせた方法を介して成形体を製造する。この他にも、成形体を製造することができる方法として、スリップキャスティング(Slip Casting)法、またはホットプレス(Hot press)法などを用いることができる。
【0027】
成形体を形成した後、成形体を焼結することによって酸化インジウムスズ焼結体を製造することができる。焼結によって、酸化インジウムスズ焼結体をなす構成成分が均一な状態で存在することができる。
【0028】
成形体の焼結は、1400〜1650℃の温度で実行することができる。成形体の焼結時、焼結雰囲気は、より低い温度で低いバルク抵抗を有する酸化インジウムスズ焼結体を製造することおいて必要な制御要素である。成形体の焼結は、空気雰囲気のチャンバ内で実行されたり、酸素含量を制御するために空気雰囲気および無酸素ガス雰囲気が交互に提供されるチャンバ内で実行されたりする。
【0029】
焼結ステップが完了すれば、酸化亜鉛係焼結体を銅バックキングプレートに接合し、本発明に係る酸化亜鉛係スパッタリングターゲットを製造することができる。
【0030】
一方、本発明の一特徴に係る酸化インジウムスズ透明導電膜は、酸化サマリウムおよび酸化イッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を含む酸化インジウムスズターゲットを用いてDCスパッタリング法で基板上に蒸着され、酸化物を0.5〜10重量%で含んでいる。すなわち、酸化インジウムスズ透明導電膜は、酸化インジウムスズターゲットを用いて製造されるため、酸化インジウムスズ透明導電膜の成分含量が酸化インジウムスズターゲットの成分の含量と同じであることができる。
【0031】
酸化インジウムスズ透明導電膜は、550nmの波長で光透過率が80%以上であることができる。また、酸化インジウムスズ透明導電膜は、非晶質または結晶質薄膜であることができる。さらに、酸化インジウムスズ透明導電膜の比抵抗は、150〜500μΩ・cmであることができる。
【0032】
一方、本発明の一特徴に係る酸化インジウムスズ透明導電膜の製造方法は、酸化サマリウムおよび酸化イッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を含むが、酸化物の含量がターゲットの重量対比0.5〜10重量%である酸化インジウムスズターゲットを準備するステップと、ターゲットをDCスパッタリングで蒸着して非晶質の透明薄膜を形成するステップと、透明薄膜を弱酸にエッチングするステップとを含む。このとき、蒸着温度は、常温〜170℃未満であることができる。
【0033】
本発明では、エッチングステップ後、エッチングされた透明薄膜を熱処理して結晶化するステップをさらに含むことができる。このとき、熱処理温度は、170〜250℃であることができる。
【0034】
以下、実施例を参照しながら、本発明に係る酸化インジウムスズターゲットおよびこの製造方法、酸化インジウムスズ透明導電膜およびこの製造方法についてより詳細に説明するが、後述する実施例は本発明をより一層具体的に説明するための例示的なものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例に限定されるものではない。
【0035】
[実施例1〜5]
平均粒径が1μm以下である酸化インジウム粉末と平均粒径が3μm以下である酸化スズ粉末を9:1の重量比で配合した。次に、全体粉末に対して、実施例1の場合は0.5重量%、実施例2の場合は1.0重量%、実施例3の場合は3.0重量%、実施例4の場合は5.0重量%、実施例5の場合は7.0重量%となるように平均粒径が10μm以下である酸化サマリウム粉末をスラリータンク(Slurry Tank)に混合して混合粉末を準備した。
【0036】
純粋な水と分散剤およびバインダー成分を混合粉末に添加し、硬質ジルコニアボールミルを用いて湿式粉砕を行った。ミーリングおよび混合時間は1時間とし、平均スラリー粒度が1μm以下となるように粉砕した。
【0037】
上述した方法で生成されたスラリーをスプレードライヤ(Spray Dryer)を用いて乾燥した顆粒粉末状に生成し、約300MPaの高い圧力で冷間静水圧プレスによって成形した。続いて、成形体をエア雰囲気下で摂氏約1600度の高温で1時間焼結し、サマリウムが含有された酸化インジウムスズ焼結体を製造した。
【0038】
焼結体のスパッタリング面を研摩機で研磨して粒径3インチ、厚さ5mmに加工し、インジウム合金を用いてバッキングプレートを接合させ、成膜評価が可能な焼結体ターゲットアセンブリを製造した。
【0039】
ターゲット内の酸化サマリウムの存在は、EPMA(電子線マイクロアナライザ:Electron Probe Micro Analyzer)で確認することができる。
【0040】
各実施例に係るターゲットのバルク抵抗を測定した結果を表1に示した。
【0041】
各実施例に係るターゲットをそれぞれマグネトロンスパッタリング装置に装着し、常温で酸素とアルゴンガスを投入して、ガラス基板上に厚さ150nmの透明導電膜を成膜した。
【0042】
透明導電膜が付着したガラス基板に対して波長550nmの光で光透過率を測定した結果は、下記の表1のとおりであり、86%以上の高い透過率を表す。また、常温で蒸着して形成された透明導電膜の比抵抗は、下記の表1のとおりである。下記の表1から、実施例1〜5で形成された非晶質透明導電膜に対する比抵抗が529〜1321μΩ・cmの範囲であることが分かる。
【0043】
次に、実施例1〜5に係る透明導電膜すべてを250℃で60分間熱処理して透明導電膜を結晶化させた後、比抵抗を測定した結果は、下記の表1のとおりである。下記の表1から、実施例1〜5において高温熱処理で結晶化がなされた各透明導電膜に対する比抵抗は、176〜333μΩ・cmの範囲であることが分かる。
【0044】
さらに、図1は、本発明の実施例3〜5に係る酸化インジウムスズターゲットを、常温、170℃、200℃、および250℃で蒸着して形成された透明薄膜に対するX線回折結果を示すグラフである。図1の(a)は、実施例3の場合に、(b)は実施例4の場合に、(c)は実施例5の場合に該当する。
【0045】
図1から、実施例3および実施例4の場合には200℃でピークが観察され、実施例5の場合には250℃でピークが表れて結晶化がなされたことが分かる。サマリウムが3重量%および5重量%含まれた酸化インジウムスズターゲット(図1の(a)および(b))は、170℃の高温で蒸着する場合にも、非晶質透明導電膜が形成されることが分かる。さらに、サマリウムが7重量%含まれた酸化インジウムスズターゲット(図1の(c))は、200℃の高温でも非晶質透明導電膜が形成されることが分かる。
【0046】
図2は、実施例1〜5に係る酸化インジウムスズターゲットを常温で蒸着した後、250℃で60分間熱処理して形成された透明薄膜に対するX線回折結果を示すグラフである。すべての実施例に係る薄膜において、インジウムから由来するピークだけが観察され、結晶化されていることを確認することができる。すなわち、常温〜170℃で蒸着された透明導電膜は非晶質状態であったが、250℃で高温熱処理した後に結晶化がなされたことを図1および図2から確認することができる。
【0047】
さらに、下記の表1から、サマリウムの含量が増加するほど膜結晶化温度が増加し、上述したように、サマリウムの含量が3重量%以上であるターゲットの場合には、200℃未満の温度で蒸着しても非晶質透明導電膜が形成される。サマリウムの含量が0.5重量%および1重量%であるターゲットである場合には、170℃未満の温度で蒸着するときに非晶質透明導電膜が形成される。
【0048】
[実施例6〜10]
平均粒径が1μm以下である酸化インジウム粉末と平均粒径が3μm以下である酸化スズ粉末を9:1の重量比で配合した。次に、全体粉末に対して、実施例6の場合は0.5重量%、実施例7の場合は1.0重量%、実施例8の場合3.0重量%、実施例9の場合は5.0重量%、実施例10の場合は7.0重量%となるように平均粒径が10μm以下である酸化イッテルビウム粉末をスラリータンクに混合して混合粉末を準備した。
【0049】
純粋な水と分散剤およびバインダー成分を混合粉末に添加し、硬質ジルコニアボールミルを用いて湿式粉砕を行った。ミーリングおよび混合時間は1時間とし、平均スラリー粒度が1μm以下となるように粉砕した。
【0050】
上述した方法で生成されたスラリーをスプレードライヤを用いて乾燥した顆粒粉末状に生成し、約300MPaの高い圧力で冷間静水圧プレスによって成形した。続いて、成形体をエア雰囲気下で摂氏約1600度の高温で1時間焼結し、イッテルビウムが含有した酸化インジウムスズ焼結体を製造した。
【0051】
焼結体のスパッタリング面を研摩機で研磨して粒径3インチ、厚さ5mmに加工し、インジウム系合金を用いてバッキングプレートを接合させ、成膜評価が可能な焼結体ターゲットアセンブリを製造した。
【0052】
ターゲット内の酸化イッテルビウムの存在は、EPMAで確認することができる。
【0053】
各実施例に係るターゲットのバルク抵抗を測定した結果を表1に示した。
【0054】
各実施例に係るターゲットをそれぞれマグネトロンスパッタリング装置に装着し、常温で酸素とアルゴンガスを投入して、ガラス基板上に厚さ150nmの透明導電膜を成膜した。
【0055】
透明導電膜が付着したガラス基板に対して波長550nmの光で光透過率を測定した結果は、下記の表1のとおりであり、86%以上の高い透過率を示す。さらに、常温で蒸着して形成された透明導電膜の比抵抗は、下記の表1のとおりである。下記の表1から、実施例6〜10で形成された非晶質透明導電膜に対する比抵抗は、579〜831μΩ・cmの範囲であることが分かる。
【0056】
次に、実施例6〜10に係る透明導電膜すべてを250℃で60分間熱処理して透明導電膜を結晶化させた後、比抵抗を測定した結果は、下記の表1のとおりである。下記の表1から、実施例6〜10において高温熱処理で結晶化がなされた各透明導電膜に対する比抵抗は、188〜474μΩ・cmの範囲であることが分かる。
【0057】
さらに、図3は、本発明の実施例6、実施例8、および実施例10に係る酸化インジウムスズターゲットを、常温、170℃、200℃、および250℃で蒸着して形成された透明薄膜に対するX線回折結果を示すグラフである。図3の(a)は実施例6の場合に、(b)は実施例8の場合に、(c)は実施例10の場合に該当する。
【0058】
図3から、実施例6の場合には170℃でピークが観察され、実施例8の場合には200℃でピークが表れ始め、実施例10の場合には200℃でピークが表れて結晶化がなされたことが分かる。イッテルビウムが0.5重量%および3.0重量%含まれた酸化インジウムスズターゲット(図3の(a)および(b))は、170℃未満の温度で蒸着する場合にも非晶質透明導電膜が形成される可能性があることが分かる。さらに、イッテルビウムが7.0重量%含まれた酸化インジウムスズターゲット(図3の(c))は、170℃の高温でも非晶質透明導電膜が形成されることが分かる。
【0059】
図4は、実施例6〜10に係る酸化インジウムスズターゲットを常温で蒸着した後、250℃で60分間熱処理して形成された透明薄膜に対するX線回折結果を示すグラフである。各実施例に係る薄膜すべてでインジウムから由来するピークだけが観察され、結晶化されていることを確認することができる。すなわち、常温〜170℃未満の温度で蒸着された透明導電膜は非晶質状態であったが、250℃で高温熱処理した後すべて結晶化がなされたことを図3および図4から確認することができる。
【0060】
[比較例1]
平均粒径が1μm以下である酸化インジウム粉末と平均粒径が3μm以下である酸化スズ粉末とを9:1の重量比で配合して混合粉末を準備した。純粋な水と分散剤およびバインダー成分を混合粉末に添加し、湿式粉砕、乾燥、成形、および焼結過程は実施例1〜10と同じ方法で実行し、サマリウムやイッテルビウムが添加されていない純粋な酸化インジウムスズ焼結体を準備した。実施例1〜10と同じ方法で焼結体を加工してターゲットを製造した後にターゲットのバルク抵抗および密度を測定し、この結果を下記の表1に記載した。
【0061】
比較例1に係るターゲットをマグネトロンスパッタリング装置に装着し、常温で酸素とアルゴンガスを投入して、ガラス基板上に厚さ150nmの透明導電膜を成膜した。
【0062】
透明導電膜が付着したガラス基板に対して波長550nmの光で光透過率を測定した結果は、下記の表1のとおりである。また、常温で蒸着して形成された透明導電膜の比抵抗は、下記の表1のとおりである。
【0063】
次に、比較例1に係る透明導電膜すべてを250℃で60分間熱処理した後に比抵抗を測定した結果は、下記の表1のとおりである。
【0064】
【表1】

【0065】
上述したように、本発明によれば、サマリウムやイッテルビウムを添加しない場合には、蒸着温度が低くても薄膜の結晶化がなされることに反し、サマリウムとイッテルビウムを添加した酸化インジウムスズターゲットの場合には、170℃未満の温度で、含量によっては200℃の温度でも非晶質透明導電膜が蒸着されて形成できることが分かる。このような非晶質透明導電膜は、弱酸エッチングが可能であり、既存のターゲットに比べてエッチング加工性が優れ、エッチングによる残査などが発生しない。さらに、170〜250℃の温度で熱処理する場合には、電気的特性がより一層優れた結晶質透明導電膜を製造できることが分かる。
【0066】
上述したように、本発明の好ましい実施形態を参照して説明したが、該当の技術分野において熟練した当業者にとっては、特許請求の範囲に記載された本発明の思想および領域から逸脱しない範囲内で、本発明を多様に修正および変更させることができることを理解することができるであろう。すなわち、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲に基づいて定められ、発明を実施するための最良の形態により制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施例に係る酸化インジウムスズターゲットを常温(RT)、170℃、200℃、および250℃で蒸着して形成された透明薄膜に対するX線回折結果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例に係る酸化インジウムスズターゲットを常温で蒸着した後、250℃で60分間熱処理して形成された透明薄膜に対するX線回折結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例に係る酸化インジウムスズターゲットを常温(RT)、170℃、200℃、および250℃で蒸着して形成された透明薄膜に対するX線回折結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例に係る酸化インジウムスズターゲットを常温で蒸着した後、250℃で60分間熱処理して形成された透明薄膜に対するX線回折結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化サマリウムおよび酸化イッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を含み、前記酸化物の含量がターゲットの重量対比0.5〜10重量%であることを特徴とする酸化インジウムスズターゲット。
【請求項2】
前記酸化インジウムスズターゲットは、酸化サマリウムおよび酸化イッテルビウムを含み、[Sm]/([In]+[Sm])が0.005〜0.18、[Yb]/([In]+[Yb])が0.005〜0.18であることを特徴とする請求項1に記載の酸化インジウムスズターゲット。
(ただし、前記[Sm]はターゲットの単位質量あたりのサマリウムの原子数、[Yb]はターゲットの単位質量あたりのイッテルビウムの原子数、[In]はターゲットの単位質量あたりのインジウムの原子数を示す。)
【請求項3】
前記酸化インジウムスズターゲットは、DCスパッタリングが可能であることを特徴とする請求項1に記載の酸化インジウムスズターゲット。
【請求項4】
前記酸化インジウムスズターゲットの密度は、7.10g/cc〜7.18g/ccであることを特徴とする請求項1に記載の酸化インジウムスズターゲット。
【請求項5】
前記酸化インジウムスズターゲットの相対密度は、95%以上であることを特徴とする請求項1に記載の酸化インジウムスズターゲット。
【請求項6】
前記酸化インジウムスズターゲットのバルク抵抗は、250μΩ・cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の酸化インジウムスズターゲット。
【請求項7】
酸化サマリウム粉末および酸化イッテルビウム粉末からなる群から選択された少なくとも1つの酸化物粉末を酸化インジウム粉末および酸化スズ粉末と混合して混合粉末を準備するステップと、
前記混合粉末、分散剤、および分散媒を混合および湿式粉砕してスラリーを準備するステップと、
前記スラリーを乾燥して顆粒粉末を準備するステップと、
前記顆粒粉末を成形して成形体を形成するステップと、
前記成形体を焼結するステップと、
を含み、
前記酸化物粉末の重量が前記混合粉末重量対比0.5〜10重量%であることを特徴とする酸化インジウムスズターゲットの製造方法。
【請求項8】
前記混合粉末は、前記酸化サマリウムおよび酸化イッテルビウム粉末を含み、[Sm]/([In]+[Sm])が0.005〜0.18、[Yb]/([In]+[Yb])が0.005〜0.18であることを特徴とする請求項7に記載の酸化インジウムスズターゲットの製造方法。
(ただし、前記[Sm]はターゲットの単位質量あたりのサマリウムの原子数、[Yb]はターゲットの単位質量あたりのイッテルビウムの原子数、[In]はターゲットの単位質量あたりのインジウムの原子数を示す。)
【請求項9】
前記成形体の焼結は、空気雰囲気のチャンバ内で1400〜1650℃の温度で実行されることを特徴とする請求項7に記載の酸化インジウムスズターゲットの製造方法。
【請求項10】
前記成形体の焼結は、空気雰囲気および無酸素雰囲気が交互に提供されるチャンバ内で1400〜1650℃の温度で実行されることを特徴とする請求項7に記載の酸化インジウムスズターゲットの製造方法。
【請求項11】
酸化サマリウムおよび酸化イッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を含む酸化インジウムスズターゲットを用いてDCスパッタリング法で基板上に蒸着され、前記酸化物を0.5〜10重量%で含むことを特徴とする酸化インジウムスズ透明導電膜。
【請求項12】
前記酸化インジウムスズ透明導電膜は、酸化サマリウムおよび酸化イッテルビウムを含み、[Sm]/([In]+[Sm])が0.005〜0.18、[Yb]/([In]+[Yb])が0.005〜0.18であることを特徴とする請求項11に記載の酸化インジウムスズ透明導電膜。
(ただし、前記[Sm]はターゲットの単位質量あたりのサマリウムの原子数、[Yb]はターゲットの単位質量あたりのイッテルビウムの原子数、[In]はターゲットの単位質量あたりのインジウムの原子数を示す。)
【請求項13】
前記酸化インジウムスズ透明導電膜は、550nmの波長で光透過率が80%以上であることを特徴とする請求項11に記載の酸化インジウムスズ透明導電膜。
【請求項14】
前記酸化インジウムスズ透明導電膜は、非晶質または結晶質薄膜であることを特徴とする請求項11に記載の酸化インジウムスズ透明導電膜。
【請求項15】
前記酸化インジウムスズ透明導電膜の比抵抗は、150〜500μΩ・cmであることを特徴とする請求項11に記載の酸化インジウムスズ透明導電膜。
【請求項16】
酸化サマリウムおよび酸化イッテルビウムからなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を含むが、前記酸化物の含量がターゲットの重量対比0.5〜10重量%である酸化インジウムスズターゲットを準備するステップと、
前記ターゲットを用いたDCスパッタリング法で基板上に非晶質の透明薄膜を蒸着するステップと、
前記透明薄膜を弱酸でエッチングするステップと、
を含むことを特徴とする酸化インジウムスズ透明導電膜の製造方法。
【請求項17】
前記エッチングされた透明薄膜を熱処理して結晶化するステップ、
をさらに含むことを特徴とする請求項16に記載の酸化インジウムスズ透明導電膜の製造方法。
【請求項18】
前記熱処理は、170〜250℃の温度下で実行されることを特徴とする請求項17に記載の酸化インジウムスズ透明導電膜の製造方法。
【請求項19】
前記蒸着は、常温〜170℃未満の温度下で実行されることを特徴とする請求項16に記載の酸化インジウムスズ透明導電膜の製造方法。
【請求項20】
前記非晶質の透明薄膜の比抵抗は、500〜1500μΩ・cmであることを特徴とする請求項16に記載の酸化インジウムスズ透明導電膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−144238(P2009−144238A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287622(P2008−287622)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(502411241)サムスンコーニング精密ガラス株式会社 (80)
【Fターム(参考)】